• 虚動

【虚動】走れ、岩亀よりも早く

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/22 12:00
完成日
2014/12/30 13:56

みんなの思い出

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オープニング

 リアルブルー産の対歪虚用戦闘装甲機、通称「CAM」。それがマギア砦の南方に集められ、今まさに稼動実験を始まる。
 帝国が辺境に土地を借り、王国と同盟の協力を得て行われる一大プロジェクトだ。ある者はCAMの有効性を願い、ある者は眼前の利益のために動く。多くの人が関われば、思惑が交錯するのは当然だ。
 何もなかったこの地も、次第に人で賑わい始める。今ではちょっとした町に見えなくもない。同盟軍によって運ばれたCAMも勢揃いし、静かに実験の時を待った。

「北東から雑魔の群れが出現! その数100を越えます!」
 それを聞いた首脳陣の顔色が変わった。
「バタルトゥ殿、この数の襲撃は自然な数と言えますかな?」
「……群れを成して行動するのは見かけるが……、この数は……異様だ」
 予想された答えとはいえ、こうもハッキリ言われると辛い。
「CAMは……投入できないのか……?」
 敵の襲来で張り詰めた空気が、期待と不安の入り混じったものに変化した。
「今回の肝は改修したエンジンの稼動実験だ。実戦でのデータを取る予定はない」
「とはいえ、いずれは敵を相手にするのだ。道理を語っている場合ではないぞ」
 雑魔退治にCAM投入を希望するのは推進派の面々だが、彼らは慎重派を押し切るだけの決定的な材料を持っていた。
 実はCAMのデモンストレーション用として、これまでの作戦に投入された際の挙動を披露するべく、貴重な特殊燃料をサルヴァトーレ・ロッソから少量ながら預かっていた。短時間の運用であれば、雑魔退治に差し向けても問題ないというのが彼らの主張である。
「だが、できればCAMに負担を与えたくないし、雑魔も近づけたくはないというのも本音だ」
「ならば……ハンターの手を借りるしかない、だろうな……」
 結局、ハンターとCAMの共同作戦として、雑魔の群れを撃破することになった。


●【虚動】走れ、岩亀よりも早く

「雑魔の襲撃ですって?! こんな時に、こんな場所で!?」
 CAMの稼動実験に伴う様々な物資を搬送すべく、サルバトーレ・ロッソから送り出された輸送隊── その『最終便』に属するトラックの運転席で、地球統一連合宙軍少尉、リーナ・アンベールは悪態と共にその拳をハンドルへと叩きつけた。
 リゼリオから外に出る良い機会、と自らハンドルを握ったのが間違いだった。元々、宙軍の士官。オフロードの運転には慣れていない。辺境の荒野に入ったところでスタックし…… ほんの十分程度の遅れで実験場に到着しようとしたところで、雑魔の襲撃に遭遇してしまった。
「なんて運のない……」
 ハンドルを持つ手に頭をつけて嘆息と共に呟くリーナ。いや、とすぐに頭を振った。これは自分の判断ミスだ。……すっかり平時の気分でいた。ここは深遠より歪虚が這い迫るクリムゾンウェスト世界だというのに。
「戦闘が終るまで、安全な後方に引き返しますか?」
 助手席のダニー・メイソン軍曹が淡々とした質問の声に、リーナは首を横に振った。備えはあるが、実験場はあくまで実験場── 万が一、敵がCAMにまで到達されるようなことがあった場合、私たちと荷が必要になる。
「このまま実験場へと突っ込みます」
「はい」
 アクセルを踏み込み、襲撃に騒然とする実験場へと車を乗り入れるリーナ。軍曹が味方に連絡を入れ、自分たちが『荷』を届けるべきCAMのいる場所を確認し。得物を手に駆けて行くハンターたちの間を抜け走りながら、砂塵を巻き上げつつCAMへと走る。
 目的地に到着間際── 眼前の行く手に、横手から雑魔の群れが走り込んできたのはあまりに唐突なタイミングだった。こんな所にまで敵が!? とハンドルを切るリーナ。何かに乗り上げコントロールを失った所を岩にぶつかり、乗り上げる。
 白煙に煙る運転席で咳き込みながらシートベルトを解除して…… 瞬間、リーナはホルスターから拳銃を抜き出し、迫るゴブリンに向かって発砲した。パンッ、パンッ、と乾いた音が鳴り響き、槍を持った醜い亜人に着弾の飛沫が舞い…… にもかかわらず、突撃してくるゴブリン。恐怖に目を見開くリーナの横から「失礼」と身を乗り出しながら軍曹が耳を塞ぐように言い…… 窓から突き出した騎兵銃をフルオートで発砲。先頭の1体を穴だらけにし、残る小鬼をも追い払う。
「なんで、倒れない……? 当たっていたのに!?」
「恐らく雑魔化しとるんでしょう。雑魔化すると妙に丈夫になるらしいですし」
 弾倉を取り替えながら淡々とそう答えると、軍曹は窓からトラックの上へと上がり、周囲の様子を窺った。
 実験場には既に多数の雑魔が入り込んでしまったようで、そこかしこでハンターたちとの戦闘が起きていた。今しがたのゴブリンたちも、戻ってくるのは時間の問題だろう。
「……で、これからどうします?」
「……出来る限りのことはやったよねぇ」
 自らもトラックから這い出し、座り込みながらリーナは言った。武装を運ぶべきトラックはご覧のありさま。いつまたゴブリンたちが戻ってくるとも限らない。もう自分たちにできることは、包囲される前に味方の所まで無事に逃げおおせることだけだろう。後はハンターたちが上手く敵を追っ払ってくれるのを祈るのみだ……
「……いや、ちょっと待ってください」
 トラックの上の軍曹が、声の調子を変えて言った。シリアスなその口調にリーナもまた立ち上がる。
 目を凝らして見てみると、数人のハンターたちが何か巨大な岩みたいなものと戦っているようだった。その『岩』は、動いていた。この時のリーナには知らぬことだったが──その『岩』は『ロックイーター』、通称『岩亀』と訳される、巨大な岩を背に積んだ亀の様な大型獣だった。これもまた小鬼たちと同様に雑魔化しているようで、相手取っているハンターたちも、その岩肌の様な皮膚に攻撃が殆ど通らず、ほとほと手を焼いているようだった。
「あのデカブツ…… このまま進むと、自分たちが武装を届けるはずだったCAMの所に向かいますぜ」
 まずい…… とリーナは慌てて周囲へ視線を振った。
 今、件のCAMにはまともな武装が届いていない。もし、岩亀が到達してしまったら、CAMはほぼ徒手空拳であのデカブツと対しなければならなくなる。そんな事になったら勿論、機体は損傷するだろうし、何より貴重な特殊燃料を浪費することになる。
「何か…… 何か、CAMの兵装を運べる物は……」
 周囲を必死に見回し、探し…… 放置された物資の片隅にそれらを見つけた。
 それは、大きな荷物を運ぶ為の、大き目の荷車だった。いける、とリーナは思った。昔、戦闘機か何かの武装を複数の荷車を並べて運んでいるのを見たことがある。
「マジですか!? ゴブリンたちが来ますよ?!」
 すっとんきょうな軍曹の声には応えず、リーナが荷車の元へと走り、叫んだ。
「人手がいる…… 軍曹、近場のハンターたちを呼び集めて!」

リプレイ本文

「まさか亀と鬼ごっこすることになるとはね……」
 リーナの案に応じて動き出したハンターたち── 月影 夕姫(ka0102)は台車を背に敷くと、荷車の下へと潜り込んで調査を始めた。
 荷車は所謂大八車と呼ばれるようなものだった。頑丈な作りであるが、単独でCAMの兵装を運べるものでもない。
(……3台、いえ、4台を連結して、車輪と車軸に掛かる重量を分散する必要があるわね。後車の轅を前車の車軸を支える補助柱として流用すれば……)
 方針を決めると、夕姫は即座に荷車の下から出て、トラックの工具箱から電動釘打ち機を引っ張り出した。うん、このトラックも随分とバラしがいがありそうだけど、まずは荷車の強化が先だ。
「CAMの武装を荷車で運ぶってマジか!? そりゃ、手段を選んでいられる状況じゃないが……!」
 元CAM乗りであるレイオス・アクアウォーカー(ka1990)は、急ぎトラックの荷台に走りながら呆れたような声を上げた。CAMを知る者として、CAMの兵装を荷車で運ぶなんてことは想像の埒外だった。ましてやこの襲撃の最中に──正気の沙汰とは思えない。
「少尉も運の悪いことだ…… だが、確かにあのデカブツ相手ならばCAMの火力で対処した方が間違いない」
「いくらCAMでも武器がなければまともに戦えませんからね。なんとかしないと、です!」
 一方、同じCAM乗りでも、榊 兵庫(ka0010)と水城もなか(ka3532)は既に頭を切り替えていた。何事もやってみないで食わず嫌いは良くないですよ? とエヘンと胸を張るもなかのこめかみをアイアンクローで掴みつつ…… レイオスは残るCAMパイロット、ガルシア・ペレイロ(ka0213)へと視線を振った。
 無言で視線を受け止め、頷くガルシア。それを見てレイオスもまた覚悟を決めた。……分の悪い勝負であるが、そういうのも嫌いじゃない。そして、一度心を決めてしまえば、ノリと勢いなら誰にも負けない。
 荷台に辿り着いたレイオスは、兵装がちゃんと使える状態かチェックをすべく、荷台に詰まれたケースを掴んだ。
 吊下引き出し式のレールを滑り、滑らかに出てくるコンテナケース。それを見たシレークス(ka0752)は驚きに目を丸くした。あのCAMにしてもそうだが、この巨大な重量物が引き出されるその動きの滑らかさを見ただけでも、彼ら青き世界の技術力が十分に見て取れる。
「ほぉ…… このあさるとらいふる…… 実に興味深い。こいつの機構は人用のそれと同じなのか?」
 ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)が好奇心にかられた様子でレイオスの作業を後ろから覗き込む。先の話し合いで元パイロットたちが数ある荷の中から選んだのはこのCAM用突撃銃だった。選択の理由は比較的軽い重量と取り回し良さだと言う。それでこの大きさと重量だというのだから、いったい他の武装はどうなってしまうのか、興味は尽きない。
「この武器…… その内、俺たちも使うような日が来るのかね」
 アルト・ハーニー(ka0113)がくーるにそんなことを呟いていると、シレークスが「サボってんじゃねーです、この埴輪男」とその耳を引っ張った。「理不尽っ!」と叫ぶアルト。シレークスだって今まで青世界の技術に首っ引きだったくせにー。
「牽引用ではないが、短い距離ならばそれなりに手助けになるはずだ。使ってくれ」
 作業は続く。兵庫は後方から己の乗用馬を引っ張ってくると、それを荷馬車代わりに、とリーナに提供した。同様にして集めた馬をルトガーがロープと頸木で繋ぎ止めた。本来、馬は臆病な動物だが、ルトガーは馬が戦闘の気配で怯えぬよう上手くなだめた。この辺りの戦闘が小康状態だったのも吉だった。
「少尉殿。敵が来ます。ゴブリンです。数は6」
 荷台の上の軍曹からの報告に、リーナは出発準備を皆に達した。荷車の下から飛び出す夕姫。車輪周りの改造とサイドアーマーの設置もしておきたいところだったが、時間切れだと諦める。
 レイオスもまたチェックを終えて急ぎケースの蓋を閉めた。昇降用のウインチが故障で動かなかったので、レールに備え付けの滑車を使って荷を下ろす。
「結局、最後は人の力……ってのは、こっちに来てから嫌と言うほど経験したからな」
 全身に筋肉を漲らせ、ゆるりとワイヤーを送り出すガルシア。ミシリと音を立てつつもしっかりと荷を受け止めた改造荷車に、手早くロープで荷を固定する。
「さあ、わたくし達の底力、見せ付けてやりますですよ。野郎ども、気合入れやがれー!」
 何気に一番筋力のあるシレークスが、清楚な聖職者の外面を度外視(普通に素が出ちゃってるとも言う)して全力で荷車に挑みかかった。背を逸らし、豊かな胸を張り出しながら大きく肺に息を吸い込み…… カッと目を見開くと同時にがっしと荷車を掴み、その力を漲らせる。
 馬の嘶き、びくともしない荷車── 軍曹が放つ牽制射の銃声の下、んんーっ! と一生懸命に押すもなか。槍を梃子代わりに後ろから押し上げる兵庫の横で、ガルシアがその筋肉をより一層バンッ! と盛り上げる……
 やがて、皆の力に押されてゆるりと車輪が回り始めると、荷車はそれまでの重さが嘘の様に滑らかに前へと進み始めた。
「さあ、急ごうぜ、と。初速さえついてしまえば、この程度の重さ、どうということはない! ……といいな」
「たかがでっけー武器の一つや二つ運ぶのに、でっけーとは言え亀に遅れはとれねーのですよ!」
 馬と共に荷を押しながら、アルトとシレークスが気合の叫びを上げた。


 進路方向に敵がいないことを確認すると、兵庫は『荷馬車』の前を行くガルシアに隊列の先鋒を任せ、自らは迫るゴブリンに備えるべく荷車後方へと下がった。
 ルトガーも行く手を気にしつつ、荷車後方に直掩した。なるべくなら整地を進路に選びたいところだったが、荷車の運動性は無きに等しい。襲撃に対してもまた同然。故に確実に敵を止める必要がある。
「なに、慌てなくてもいいぜ。多少タフでも所詮はゴブリン。ここまで入り込ませはしないさ」
 己の乗用馬に騎乗したレイオスが緊張気味のリーナに落ち着くよう声をかける。
 直後に爆発── 燃料と炸薬を利用して、軍曹が残された兵装を時限式で爆破処理したのだ。轟き、響き渡る爆音と爆炎の向こうから抜けて来る6体のゴブリン── 見つけたもなかが「来ましたぁ!」と警告の叫びを上げる。
 迎撃の銃火。怯まず突っ込んで来るゴブリンたち。距離を詰めた彼らがこちらに一斉に投槍を投擲する。
 弧を描いて飛翔してくる槍を円形盾で受け弾き…… ルトガーは抜剣・突撃してくる敵に対して、構えた盾の陰から牽制の銃撃を浴びせ掛けた。両手に構えたリボルバーを放ち、迎撃を始めるもなか。敵を射程に捉えた夕姫が銃撃を止め、迫る敵に対して迸るマテリアルエネルギーを──『機導砲』をぶっ放す。
 光条に頭部を吹き飛ばされたゴブリンが壊れた人形の如く転がる横を、別の1体がもなかへ迫る。立て続けに発砲── 舞い上がる黒血の粉飛沫。着弾の音が聞こえる距離でゴブリンの顔に『笑み』が浮かび…… その手斧がもなかに打ちかかる直前、後方から放たれたルトガーの銃弾がそのゴブリンの腿を貫いた。がくりと膝を鎮めるゴブリン。そこへレイオスが横合いから突っ込み、もなかとの間に入り込む。
 新手のレイオスに手斧を投げつけ、レイオスの足元へと突っ込むゴブリン。レイオスは投擲された手斧を避けると、馬を狙って突き入れられた小剣の一撃をカイトシールドで受け弾いた。同時に、馬上から渾身の力で敵の鎖骨と首の間に細身の剣を突き入れる。
「ルトガーさん、危ない所をありがとうございます!」
「オレは……?」
「勿論、レイオスさんも!」
 もなかの礼に片手を上げて応じながら、ルトガーは他のゴブリンたちの動きに警戒の視線を振った。
 夕姫の所に肉薄してきたゴブリンの方は、援護の要もなく夕姫が片をつけた。ゴブリンの横腹に向かってスクリューナックルを突き上げる夕姫── 横にくの字型に曲がってたたらを踏んだゴブリンに更に踏み込み、指先から生み出した『機導剣』の一閃で袈裟斬りに切って捨てる。
 兵庫の方は2体のゴブリンと渡り合いながら、危なげない戦いを繰り広げていた。
 中段に突き出した槍の穂先をかわされるや手の中で柄をクルリと回し。引き戻した片鎌の刃でもって後ろからゴブリンの足を薙ぐ。踵を払われたその1体が大きくすっ転ぶ間に斬りかかってきたもう1体の小剣を、兵庫は一歩後退しながら槍の石突で跳ね上げた。同時に、背でクルリと槍を回しながら踏み込み、逆撃を突き入れる。喉元を貫かれ、旗の如く槍先に揺れるゴブリン。兵庫はそのゴブリンごとぶぅんと槍を振り上げると、起き上がりかけていたもう1体に鎌の先刃を叩きつける……

「護衛やら囮やらは仲間に任せて、荷車を押すことに全力を出しやがるですよ! 一秒遅れるごとにてめーの埴輪が1体、犠牲になると思いやがれです!」
「おまえは悪魔かっ?! クッ、割らせはせん! 割らせはせんぞ! 雑魔程度でこの俺の埴輪愛を押し留められると思うなー!」
 後衛がゴブリンとの戦闘に入った後も── シレークスとアルトは荷馬車を実験場の奥へと進めていた。その前方には岩斧を手に周囲へ警戒の視線を振るガルシアが先行し、淡々と荷馬車の邪魔になりそうな障害物を排除している。
「まぁ、アレです。無事に間に合ったらわたくしが酒を奢ってやるのです」
「ええっ!!!???」
 シレークスが提示した『飴』に心底驚愕して見せるアルト。思わずまじまじとシレークスを見返し、「何を企んでいる……?」と訊ねて思いっきり頭を叩かれる。
(仲の良い事だ……)
 そんな後ろの様子に微苦笑を浮かべながら歩を進めたガルシアは、遠目にCAMの姿を見出し笑みを浮かべ…… 直後、そのCAMの周辺に張られたフェンスの存在に目を見開く……

「岩亀と荷車との距離は!?」
「現在、約200m…… もう余裕があるとは言えない距離ね」
 夕姫の返答に、もなかは廃夾しながら臍を噛んだ。
 現状、まだ2体のゴブリンが残っていた。そして、岩亀は確実に距離を詰めてきている。
「オレは岩亀の足止めに向かう。残りのゴブリンは兵庫とルトガーに頼む」
「お供します!」
 ハンターたちは兵力を分け、レイオスともなかが足止めの為に岩亀へと向かった。気づき、顔を上げて反応して見せる岩亀。もなかは脚にマテリアルを集中すると、弾ける様に地を蹴り、亀の頭部へ銃撃を集中させた。
(他の部位より頭部の方が亀の注意を曳けるはず……! 目の前を飛び回る蚊の様な鬱陶しさが出せればいいんですけど……っ!?)
 岩亀が蹴りだした岩に気づき、もなかが宙を蹴るようにしてそれをかわす。その間に亀へと突進する騎乗のレイオス。全身岩の塊みたいな奴でも、風属性の剣なら貫けるか……!
「倒すのは無理でも、CAMが狙える傷の一つや二つはつけてやるぜ!」
 馬上から飛び降り、踏み込みからの渾身撃──! 突き出された細剣の切っ先が岩の肌に突き立ち、ピシリと大きくヒビが入り。いけるっ、と追撃をかけようとしたレイオスに頭上から岩が降りかかる。
 かわし、一旦、距離を取るレイオスの視線の端に、何か筒の様なものを小脇に抱えた人影が岩亀へと突っ込むのが見えた。
 ルトガーだった。残り1体となったゴブリンを兵庫に託して駆けつけたのだ。小脇に抱えているのは爆薬──ではなく、缶ビールだった。岩亀へと肉薄したルトガーはそれを亀の表皮へとぶち撒け、直後、その濡れた岩肌に向かって『エレクトリックショット』──風属性を叩き込む。
 電撃を喰らい、一瞬、痺れた様に動かなくなった岩亀は…… 直後、ルトガーの直近へ巨大な前脚を降り下ろした。破片に叩かれ、転がるルトガー。再び前進を始める岩亀に対して「デカブツめ……」と悪態をつく……

「連結した荷車じゃあゲートまで転回するのは無理だ! CAMにここまで取りにこさせるわけにはいかんのか……?!」
「それは最後の手段ね…… 実験を前に特殊燃料はなるべく浪費したくないはずだから……」
 リーナの返答に、ガルシアが考え込んだのは一瞬だった。決断するや否や岩斧を大きく振り被り…… 目の前のフェンスへ思いっきり叩きつける。
 何してんだ!? と驚き、駆けつけて来た整備兵たちに、顎をしゃくって状況を伝えてフェンスの破壊を手伝わせる。
 どうにか進路を開拓すると、シレークスとアルトの二人が「急げー!」「根性ー!」と叫びながら荷馬車を中へと乗り入れた。荒い息を吐くガルシアにリーナが「ありがとう」と頭を下げ…… 片膝立ちで降着姿勢を取ったR6M2bのコックピットへ駆け上がる。
「宙軍少尉── パイロットだったのか」
 ガルシアは目を瞬かせると、口の端に笑みを浮かべた。そうして、自身も岩亀の足を止めるべく、そちらへ向かって歩き始める。
「ここまでやって間に合わなかったじゃ格好がつかないからな」
 笑うガルシア。その背後で、機械仕掛けの破壊の天使がまさに覚醒を始めていた。


 降着姿勢でハッチを開けたままのデュミナスが、その上半身だけを動かしてコンテナからアサルトライフルを拾い上げた。
 すぐに射撃態勢に入れるのが手持ち式武器の利点だ。火器管制プログラムはないが、贅沢は言っていられない。
「直接照準で撃つしかないか……」
 リーナは膝射姿勢のまま砲口を迫る亀へと向けると、ハンターたちに退避の警報を発した。
 退避を待ち、発砲── 初弾は遠弾、誤差修正…… 再度の発砲は、こちらへ突進を始めた亀の岩肌に弾かれた。四弾目が岩肌を貫通し、加速する岩亀の巨体が揺らぐ。
 そのまま亀が転倒すると、後は一方的だった。続け様の砲撃に岩肌を砕かれ続け、岩亀が再び地面へ沈む──
「……やはり圧倒的な火力だな」
 退避先から戦場を振り返って、ポツリと呟く兵庫。一周回ってファンタジーな光景だよなぁ、とアルトもまた呟いた。そうファンタジー。ファンタジーなら埴輪型でもy(以下略)

「絶対に動かさないのでCAMに乗せてほしいです! 勘が鈍ってしまいそうで……!」
「流石に無理よ。私が言うのもなんだけど、ほら、これも命令だから」
 全てが終わった戦場で── CAMに乗せてくれるようリーナに頼んだもなかは、だが、『命令』の一語が出た瞬間、ピシリと固まった。そのまま様々な葛藤を抱えて身悶えた後、ガクリと肩を落として泣く泣く諦める。
「ぷっはぁーっ! 一仕事終えた後の酒はうめーのです。おめー達も飲むのですよ!」
 酒とつまみを配り、打ち上げを始めるシレークス。
 そんな光景を見やりながら、夕姫が呟いた。
「この襲撃、明らかに意図的よね。威力偵察なのか、それとも、なんらかの陽動なのか……」

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • エアロダンサー
    月影 夕姫(ka0102
    人間(蒼)|20才|女性|機導師
  • ヌリエのセンセ―
    アルト・ハーニー(ka0113
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 壮健なる偉丈夫
    ガルシア・ペレイロ(ka0213
    人間(蒼)|35才|男性|闘狩人
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • クラシカルライダー
    ルトガー・レイヴンルフト(ka1847
    人間(紅)|50才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/12/21 18:52:50
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/17 02:05:06

 
 
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