ゲスト
(ka0000)
サドンデスラブコメ
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 2日
- 締切
- 2018/06/12 19:00
- 完成日
- 2018/06/17 16:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
──不意に、だった。
部屋のすみ、家具の影からかさりという音と共に何かが這い出してくる。
それでも咄嗟に反応できたのだから流石ハンターと言うべきだろう。
疾影士の男は出てきた影に立ちはだかるように前に出て、手にした小剣で、出てきたそれ──蔦のようだった。恐らくこの廃屋にびっしりと絡んでいる──の一撃を払い落とそうとする。咄嗟のことだったため、受けきれず怪しげな光を放つ攻撃を僅かに受けてしまう……。
「リッキィ!」
「……ほい?」
瞬間、疾影士が上げた声に後ろにいた姿が反応する。眼鏡と白衣姿、どうやら機導師であるらしい。察するに、疾影士が発した名の主なのだろう。
「オレは! お前に本当に感謝してるんだ……孤独になったオレを、お前は見捨てずに手を差しのべてくれた!」
「え? あ、うん」
「でもな!? 勘違いすんなよ! オレがお前の傍に居んのはもう、そんな感謝と依存だけじゃねえんだ! お前はあんまりそういうことに拘らねえんだろうけど、オレは、そんなお前が、本気で、世界一可愛いと思ってる!」
突如疾影士が叫び始めたその間。思わず話しかけられている機導師当人は勿論、周囲のハンターが呆然としてしまったのはある程度仕方がないとは思う。
依頼中、しかも襲撃を受けたらしい直後だと言えば確かに迂闊ではあるだろう。しかし、その襲撃をしてきた蔦はと言えば、疾影士が叫ぶ間追撃等はせず、ゆらゆらと揺れるばかりだった。どこか満足げにも見える様子で。
「頼むどこにも行かないでくれ……! オレはもう、お前が居なきゃ駄目なんだ! ……愛してる!」
そこまで言って。疾影士はピタリと動きを止めた。
数秒の沈黙。
「お……おおおああああぁぁあっ!?!?」
の、後。疾影士は真っ赤になって絶叫すると床に転げ回った。……では、収まりきらなかったようで、やがて立ち上がると探索中の廃屋から全力で飛び出して行った。
残されたハンター。というか、機導師。
「あー、とりあえずそれかな。えい」
蔦に向けて機杖を振るう。生まれた熱線が蔦を焼くと、それはあっけなく燃え尽きて床に垂れた。
「いや、あの。ここ誤解しないでほしいんだけど、彼、別に普段からいきなりあんなこと叫び出すような子じゃ無いんだ。うん。むしろこう、そういうの全然言ってくれないんだ、よ? 照れ屋さんで」
困った顔で、機導師は残るハンターに告げた。
「そういうわけだから、その、私は一旦彼のフォローに行ってあげたいんだけど、いいかな? その、うん、つまりそういうことだと思うんだ」
機導師の言葉に、一行もなんとなく分かっていた。疾影士のあの悶えっぷりはだからそういうことなんだろうと。
そして。
ここに今存在する脅威の形を。
そも、街道で感知された負のマテリアルの調査、というのが今回の依頼だった。
ここまでの調べで、その発生源は街道沿いにあった宿屋、その廃墟であると判明している。
実は、ここの宿屋は武装盗賊の襲撃を受けて経営者は皆殺し、財産はその家屋ごとその盗賊たちに乗っ取られたという悲劇に逢っている。
惨殺された女将の怨念が雑魔となって盗賊に復讐、それによって障気はますます濃いものとなった。のだが。
もとは町と町を結ぶ街道、その中継地として存在した宿屋である。人の行き交いはそこそこあり、暮らし向きはそこまで不便という訳ではなかったのだが──娯楽に乏しかった。
そんな女将の楽しみとはなんであったか。
たまに泊まりに来る幸せそうなカップルを眺める事であった。
幸せな二人の幸せな姿を妄想してお裾分けしていただくべく、そんな男女が泊まりにくる度、部屋のお香をそれっぽいものにしたり、ちょっとラッキースケベを狙ってベッドの手前の床だけ滑りを良くしたり、タイミング良く風呂場の暖簾を入れ換えて混浴ハプニングを演出したり……というのが、女将のたまにして唯一の楽しみであったという。
それが判明するのは後のことであるが。
今、ハンターたちが足を踏み入れたこの廃屋に住まう雑魔は、そんな女将の無念を元に生まれた存在であった。
怨めしい盗賊たちに復讐を果たしたそれが今望むことは何か。
『いいからお前らイチャイチャしろ』
もはやその存在、その能力のほとんどをこの雑魔はそのために費やしていた。
まあ。
そんな背景など、もはやどうでもいい。
今、ここにある脅威とはすなわち、こういうことだ。
一撃食らえば恥ずか死告白!
則ちサドン! デス! ラブ! コメ!
開幕!!!!
部屋のすみ、家具の影からかさりという音と共に何かが這い出してくる。
それでも咄嗟に反応できたのだから流石ハンターと言うべきだろう。
疾影士の男は出てきた影に立ちはだかるように前に出て、手にした小剣で、出てきたそれ──蔦のようだった。恐らくこの廃屋にびっしりと絡んでいる──の一撃を払い落とそうとする。咄嗟のことだったため、受けきれず怪しげな光を放つ攻撃を僅かに受けてしまう……。
「リッキィ!」
「……ほい?」
瞬間、疾影士が上げた声に後ろにいた姿が反応する。眼鏡と白衣姿、どうやら機導師であるらしい。察するに、疾影士が発した名の主なのだろう。
「オレは! お前に本当に感謝してるんだ……孤独になったオレを、お前は見捨てずに手を差しのべてくれた!」
「え? あ、うん」
「でもな!? 勘違いすんなよ! オレがお前の傍に居んのはもう、そんな感謝と依存だけじゃねえんだ! お前はあんまりそういうことに拘らねえんだろうけど、オレは、そんなお前が、本気で、世界一可愛いと思ってる!」
突如疾影士が叫び始めたその間。思わず話しかけられている機導師当人は勿論、周囲のハンターが呆然としてしまったのはある程度仕方がないとは思う。
依頼中、しかも襲撃を受けたらしい直後だと言えば確かに迂闊ではあるだろう。しかし、その襲撃をしてきた蔦はと言えば、疾影士が叫ぶ間追撃等はせず、ゆらゆらと揺れるばかりだった。どこか満足げにも見える様子で。
「頼むどこにも行かないでくれ……! オレはもう、お前が居なきゃ駄目なんだ! ……愛してる!」
そこまで言って。疾影士はピタリと動きを止めた。
数秒の沈黙。
「お……おおおああああぁぁあっ!?!?」
の、後。疾影士は真っ赤になって絶叫すると床に転げ回った。……では、収まりきらなかったようで、やがて立ち上がると探索中の廃屋から全力で飛び出して行った。
残されたハンター。というか、機導師。
「あー、とりあえずそれかな。えい」
蔦に向けて機杖を振るう。生まれた熱線が蔦を焼くと、それはあっけなく燃え尽きて床に垂れた。
「いや、あの。ここ誤解しないでほしいんだけど、彼、別に普段からいきなりあんなこと叫び出すような子じゃ無いんだ。うん。むしろこう、そういうの全然言ってくれないんだ、よ? 照れ屋さんで」
困った顔で、機導師は残るハンターに告げた。
「そういうわけだから、その、私は一旦彼のフォローに行ってあげたいんだけど、いいかな? その、うん、つまりそういうことだと思うんだ」
機導師の言葉に、一行もなんとなく分かっていた。疾影士のあの悶えっぷりはだからそういうことなんだろうと。
そして。
ここに今存在する脅威の形を。
そも、街道で感知された負のマテリアルの調査、というのが今回の依頼だった。
ここまでの調べで、その発生源は街道沿いにあった宿屋、その廃墟であると判明している。
実は、ここの宿屋は武装盗賊の襲撃を受けて経営者は皆殺し、財産はその家屋ごとその盗賊たちに乗っ取られたという悲劇に逢っている。
惨殺された女将の怨念が雑魔となって盗賊に復讐、それによって障気はますます濃いものとなった。のだが。
もとは町と町を結ぶ街道、その中継地として存在した宿屋である。人の行き交いはそこそこあり、暮らし向きはそこまで不便という訳ではなかったのだが──娯楽に乏しかった。
そんな女将の楽しみとはなんであったか。
たまに泊まりに来る幸せそうなカップルを眺める事であった。
幸せな二人の幸せな姿を妄想してお裾分けしていただくべく、そんな男女が泊まりにくる度、部屋のお香をそれっぽいものにしたり、ちょっとラッキースケベを狙ってベッドの手前の床だけ滑りを良くしたり、タイミング良く風呂場の暖簾を入れ換えて混浴ハプニングを演出したり……というのが、女将のたまにして唯一の楽しみであったという。
それが判明するのは後のことであるが。
今、ハンターたちが足を踏み入れたこの廃屋に住まう雑魔は、そんな女将の無念を元に生まれた存在であった。
怨めしい盗賊たちに復讐を果たしたそれが今望むことは何か。
『いいからお前らイチャイチャしろ』
もはやその存在、その能力のほとんどをこの雑魔はそのために費やしていた。
まあ。
そんな背景など、もはやどうでもいい。
今、ここにある脅威とはすなわち、こういうことだ。
一撃食らえば恥ずか死告白!
則ちサドン! デス! ラブ! コメ!
開幕!!!!
リプレイ本文
レイア・アローネ(ka4082)が腕利きのハンターであることに異論は無いだろう。もとより部族きっての剣士と言ってもいい腕前で、その集落を出たのも己を磨くことが目的だった。ハンターとして幾多の戦いを潜り抜け、その中で磨かれていった、勝つことよりも生き延びることに特化した技術は今や剣士と呼ぶより戦士と呼ぶ方がふさわしい。
そう、彼女は優れた戦士だった。とりわけ、仲間の安否には人一倍気遣う守りの戦士だ。
その彼女が。
今、動けずにいる。
雑魔の前であまりに無防備を晒す仲間の疾影士、それを前にして──
「……その……なんだ……? もう少し様子を見てもバチは当たらないかな……というか」
繰り出される熱烈な告白の前に、ちょっと興味津々で前のめりになっているのであった。
「そうだ、特殊な雑魔なのだとしたら特性を把握しなければ! うむ、正確な報告をする為に!」
──決してもう少しこのまま見ていたいからとかそういう理由ではないぞ、うん。
内心で付け足すレイアの目に、今だ次の動きを見せようとしない蔦がふと目に留まった。
果たして蔦に『顔』等というものがあるのだろうか。理屈で考えれば有り得無いのだと思うのだがレイアの前に僅かに角度を変えてみたそれに、何故か彼女は思った。こちらを見た、と。そのまま、蔦の頂点とは別の位置にある葉がかさかさと揺れる。そう、人間の手であれば掌を上下にパタパタと振るように。
会話があったわけでは無い。だが何かが通じた。あ、そうだよね、ここ見守るところだよね……と。
何故かゆっくりと腰を下ろす。携帯食料と飲料を取り出していた。蔦が何か指し示した気がして──ああホントだ此処にちゃぶ台あるのか有難う──彼女はそのまま、ぼりぼりと携帯食料をかじりながら成り行きを見届ける。
そうして。
疾影士は叫びを上げながら部屋を飛び出していき。機導師が詫びを告げながらその後を追って出ていく。
……ほう、と溜息をもらすレイア。
「変な歪虚だな?」
声を発したのは、やはり一部始終を顔色も変えずに見ていたメンカル(ka5338)だった。
「嫌いじゃないが、生前の比較的平和な欲望に正直な所とか」
淡々と呟く、そこに何かの期待も焦りも見せないそぶりで、彼は共に行動する黒の夢(ka0187)へと視線を向ける。黒の夢は何事か分かっているのか分かっていないのか伺えない様子で、ただふわりと蕩けるような笑みをメンカルへと向けていた。
「さっさと片付けるぞ、黒の夢」
そう言って、メンカルは再び黒の夢と視線を交わした。僅かに瞳に何かの色を宿して。黒の夢も、その視線に返すように艶のある目元の形を少しだけ変える。
交差する視線、それを目の当たりにしたとき、レイアの背筋に何か駆け抜けるものがあった。そんな彼女に気付くことなく、メンカルと黒の夢は事態を解消すべく寄り添って別の場所へと向かう。
一人残されるレイア。何気なく二人が行った先とは違う方へと振り向くと、蠢く蔦がいた。それは彼女に手出ししようとするのではなく、何かを訴えるように──あるいは同調を示すかのように──かさかさと揺れた。そして向きを変えて移動を始める。ついてこいと言わんばかりに。
「あー。これは。つまりあれだ。調査だ。罠かもしれない? だがしかし、罠であればそれこそ敵の本体がそこにいるかも知れないしな。敢えて誘導されてみるのも一つの手段だ。うん。そう、その方がメンカルたちも廃屋の調査に専念できるしな! この雑魔は私に任せて先に行けぇ! という奴だ!」
そう言って、彼女は導かれるように蔦についていくのであった。
──レイア・アローネが腕利きのハンターであることに異論は無いだろう。
だがそれと同時に、心の奥で密かに恋愛に憧れを抱く一人の少女なのだった。
●
まあ、それはそれとして。
その前に、解決しておかねばならないもう一つの事態があるようだ。
●
「確かに何か負のマテリアルが濃いんですよねぇ。終わったら浄化必須かもですぅ」
星野 ハナ(ka5852)はこの後待ち受ける悲劇も知らず、廃屋を進んでいた。別行動をとっていた彼女は、この廃屋に潜む危険をまだ知らない。隠れ潜む悪意はその気配を悟らせぬまま彼女にも狙いを定め──そして、悲劇は起きた。
「ぎゃあぁぁぁぁ!?」
悲鳴が響き渡る。
上げたのは彼女……ではなく、彼女と同行していた、同じくこの依頼を受けた格闘士の男だった。
「筋肉ッ、サイコ~~~~ッ!」
そうして。
蔦の魔力に操られたハナは歓声を上げる。
「脂肪率5%以下の持久力のない見せ筋肉など偽物ですぅ! 戦闘で使えるそこそこ筋肉細マッチョこそ至高の筋肉ッ! シックスパックになりかけサイコーーー! すりすりぺろぺろくんかくんかはぁはぁこの上腕二頭筋も大胸筋もお宝隠さず見せやがれですぅ~~~!」
叫びながら、ハナは格闘士の男に擦り寄りむしゃぶりついてシャツを引っぺがそうとする。
……ところで。
強度こそ恐ろしいこのBSであるが、強制であるがゆえに内容を実行し終えたら──この場合叫ぶだけ叫び終えたら──効果は自動的に終了する。
「……ぎゃ~~~~!?」
数分後、正気に返り叫び返すハナの姿があった。
「ちちち違うんですぅ、こんなこと全然思ってな、いや思ってたけど妄想として心の中に秘め、いや紙の上には垂れ流してたけどまだ社会人としてギリギリ節度を保って常識人のフリいや常識の範囲で収まる程度に痴女を隠し、いや痴女じゃないぃ~~」
かくして、先ほどの疾影士もかくやという勢いで赤面大泣きの大パニックになりながら、彼女は兎に角とこの場から逃げ出すのであった。
「も、もうお嫁に行けないぃ~~~!」
そうして、まあ実際お嫁に行きたい相手が出来たらそれは見せない方がいいんじゃないかと思うほど顔面を崩壊させて、宿屋の影で地面をダムダムと踏み鳴らす彼女の姿があったのであった。
30分ほど、そうしていただろうか。
気配を感じ、ハナはどうにか顔を拭いて、振り返る。
憐れみの表情を湛えるレイアと、『何かこれは思ってたのと違う』と言いたげに震える蔦がそこにあった。
ハナは……とりあえず反射的に死んだ目で、蔦に向けて符を掲げ五色光符陣を放とうとする。
「や、ちょっと待たないか」
それを制したのは何故かレイアだった。ハナはギギギ、と、錆付いたような動作で首を向ける。
「いや、この廃屋における怪異なのだがな。その……対処方法として、私に一つ考えがあるというか……その」
レイアはこれまで見て来たものをハナへと告げた。
「い、いや……雑魔を退治すればいい、というのは分かる。分かるのだが、それでいいのか、というか……その、私にも分からない胸騒ぎがあって……この気持ちは一体……?」
語るレイアの表情。瞳。そこには……ハナに、彼女だからこそ理解できる何かがあった。
「レイアさん……それは、『萌え』ですぅ」
「も……『萌え』……?」
「確認しますけどぉ。レイアさんは黒の夢さんと見つめ合うメンカルさんに何を思いましたかぁ? 黒の夢さんに嫉妬する、私も彼に、あるいは誰かにそういう風に愛されたいという感情でしたかぁ?」
「……いや。そう言われると違う気がするが……」
「レイアさんが感じたのはぁ。こうじゃないですかあ? 『叶うならば、あの二人を観葉植物か天井にでもなって邪魔せず見守り続けたい』!」
「……!?」
ハナの言葉に、レイアは雷にでも撃たれたようなショックを受けた。それは、まさに今の自分の気持ちを表すに正鵠を射すぎている言葉だったからだ。
「まあ、私ノマカプも全然ありですしぃ……ここに新たに目覚めようとしている同士が居るなら人肌脱ぐもやぶさかでないですぅ……。耽美の道もノマカプからですぅ」
そうしてハナは何か、全てを理解したかのように頷いた。
「いずれその尊みを抑えきれなくなったらいつでも相談してくださいねぇ? 薄い本の作り方は目的冊数に応じて詳しくお教えしますよぉ?」
「と、尊み……?」
相談する相手を若干間違えたような気もした。だが、何故か彼女の言葉はこの上なくしっくりくる部分もある。
そうするうちに、蔦が再び移動を始めた。導く先に発見したのは、『生前女将が使っていたらしい道具一式』であった。何故かそれらは、廃屋にあるとは思えないほど整備され手入れされたままで。
目下、湧き上がる使命に、レイアは一度抱いた懸念を忘れるのであった。
……あ、ちなみに名誉のために補足しておくと迷惑かけた格闘士には後でハナが誠心誠意謝りました。
「も、申し訳ごじゃいません~~~。このお詫びはいかようにも致しますぅ~~」
●
さて、密かに何かが進行しつつあることなど与り知らぬメンカルと黒の夢、であるが。
「メンカルちゃん、此処宿屋だったみたい」
「ん、そのようだな」
「いわく付きだから物好きぐらいしかあんまり人も来ないだろうから」
「ああ……まあ急がずとも、そう被害は生まれないのだろうが」
「ここなら好きなだけ、気にしないで子作り出来るのな!」
ここまで平静を保ち続けていたメンカルが、流石に若干足元を蹴躓かせた。
何というか、因縁も陰謀も戦略も知ったこっちゃなしに天然でぶっ飛ばしてくるのが黒の夢である。
「今、ここではその、違うと思うぞ」
「うな? 見られてする方が好みであれば、子作りする日を街中にお知らせするけど」
「もっと違う。……いやつまりその。雑魔退治だ」
「ん、やることやるにもすることしてからなのな?」
そんなやり取りもありつつ、一先ずは順調に、なんだかんだで一番真面目に雑魔退治を続けていた二人である。
気を付けてさえいれば蔦の攻撃はメンカルの身体に掠りもせず、黒の夢の歌声で生まれる業火は蔦を呆気なく、過剰なほどに焼き払っていく。
この調子ならばすぐに終わるだろう、と思っていたはずの、誤算は、とある一室で起きた。
これまで通り、蔦の攻撃を容易く回避するメンカルの足元が……何故かここだけ急に滑った。
「何っ!?」
反転する視界の先にベッドがあった。咄嗟のことになすすべもなくメンカルはそこに倒れ込んでいく──黒の夢を巻き込む形で。
押し倒される形になった黒の夢の衣服、その下半分が大きく捲れあがるのを、メンカルは戦闘中であるのも忘れて慌てて正す──本来、その下になくてはならない布地がなかったような気がするのは、必死で頭から追い払う。
そうして。黒の夢の上に倒れ込む形のメンカルの足首に……そっと、蔦が巻き付いた。
「あ……」
言葉が。望まずとも、彼の口から、あふれ出てくる。それがもはや止められないことを、どうしようもなく彼は悟った。
「……なぁ、黒の夢。俺は、死にたくない。だが、その存在で俺を癒してくれたお前のためなら、この命まで使う覚悟がある」
聞かせるつもりは無かった。彼女は恋人だが、その愛の広さはよく知っていて、納得と承知の上で付き合っているつもりだったから。
「俺はただの人間で…たかだか残り100年足らずだが、お前に全てやる。お前が望むなら、もっと短くなっても構わん。本望なんだ。……望まんとは思っているがな」
分かっていた。自らが『本命』では無い、と。だからこの『蔦』によって彼女が何かを叫ぶとすればそれは己ではないだろうし、だからこそ己の不用意な言葉など聞かせる必要など、と。
なのに。
「……黒の夢。俺は、お前を………」
俺は。俺は今、この言葉を紡ごうというのか。彼女に。
言えるはずがないと思った。
言うはずがないと思った。
だってこれは。この言葉は。
息が詰まる。あの時に意識が遡る。そんな筈がなかった。いや、そうだと分かっていた。導かれる刃。あの時見えていた表情。唇がその形に動く、あの言葉──
「………愛し、てる」
それでもこの想いを。伝える言葉は、この形なのか。
舌にのせたそれは、苦くて。喉がカラカラに乾いて、張り付いて、痛かった。
今まで一度も言えなかった言葉。好き、はいくらでも言ってきたけど。
……暫し、呆然とした。混乱が収まらない。
「……あぁ、いや、忘れてくれ……頼む、……」
黒の夢は一度目を丸くして、そして嬉しそうに微笑んだ。泣きそうに見える彼を、その胸に埋めさせるように抱きしめて、よしよしと頭を撫でる。
ふと、そこでメンカルは疑問を覚えた。
廃屋のベッドにしてはやけに整えられていないか?
気付けば香るこの甘くて妖しい香りは何なのだ?
疑念は……。
『あいしてるわ』
黒の夢が、応えるように紡いだ言葉に霧散していった。
彼女の頬を、蔦が一撫でしていったのが見える。
『だからわがはいと、こづくりするのな』
その言の葉が蔦に紡がされたものならば。これは彼女の本心のはずで。
『あかちゃんたくさんほしいね』
それでも、彼女にすらその言葉さえも本物か解らなくなっている──その愛を否定され続けた、人間嫌いの人間好き。
『……できるかわからないけど』
きっと誰も信じてはくれない、理解もされない。彼女の言う「愛してる」は本心そのままである事を──その先の意味さえも。
『うまれたらなまえかんがえてね』
ねえ。最初に出来た恋人は、子供が出来ないまま、喪ってしまったの。だから。
『しあわせなじかんをつくれるようにがんばるわ』
だから、ねえ。
『──だから、我輩より先に逝かないで』
きっとだれもしんじない、このこえが。
あなたには、どう、きこえるの。
そこまで聞いたメンカルはがばりとその身体を起こして、黒の夢を真っ直ぐに見つめた。
「…………今のは俺か!? 俺にか!?」
素で驚いた様子で、彼は彼女に問う。
自分じゃないと知っていた。とある歪虚にその心のほとんどを奪われていることも。それでも。だからこそ。
「あー、その、……何を言うのも野暮だなこれは……ただ、すごく嬉しい」
普段滅多に表情の変わらぬ彼がこの時、僅かにへらりと相好を崩した。見れば耳が僅かに赤い。
その反応に、黒の夢はまた目を見開いて驚いて。それからまた彼を抱きしめる。
……トラウマを吐き出した彼はまだどこか苦し気で。彼女は癒しのために惜しみなく愛を注ぎ、彼はその愛に沈む。
「……今後は今まで以上に言葉にするか」
言いながら。だが。今は言葉よりも。あまりにも柔らかく、吸い付くような彼女の肌に。その温度。
触れていたい。もっと。そうして──
廃屋となった宿。
あまりに綺麗なベッドで。
甘い香りの漂う中。
本音を誘う蔦が絡まっていく。
絡まれている、のか。
絡めている、のか。
分からない。判っていない。
ただ、あいし、あい、ましょう?
密着する肌と肌が、その面積を増やしていって──
あ、この辺で字数もあれなんで手短に報告しますと、雑魔はなんやかんやのうちにちゃんとどうにかなりました。
そう、彼女は優れた戦士だった。とりわけ、仲間の安否には人一倍気遣う守りの戦士だ。
その彼女が。
今、動けずにいる。
雑魔の前であまりに無防備を晒す仲間の疾影士、それを前にして──
「……その……なんだ……? もう少し様子を見てもバチは当たらないかな……というか」
繰り出される熱烈な告白の前に、ちょっと興味津々で前のめりになっているのであった。
「そうだ、特殊な雑魔なのだとしたら特性を把握しなければ! うむ、正確な報告をする為に!」
──決してもう少しこのまま見ていたいからとかそういう理由ではないぞ、うん。
内心で付け足すレイアの目に、今だ次の動きを見せようとしない蔦がふと目に留まった。
果たして蔦に『顔』等というものがあるのだろうか。理屈で考えれば有り得無いのだと思うのだがレイアの前に僅かに角度を変えてみたそれに、何故か彼女は思った。こちらを見た、と。そのまま、蔦の頂点とは別の位置にある葉がかさかさと揺れる。そう、人間の手であれば掌を上下にパタパタと振るように。
会話があったわけでは無い。だが何かが通じた。あ、そうだよね、ここ見守るところだよね……と。
何故かゆっくりと腰を下ろす。携帯食料と飲料を取り出していた。蔦が何か指し示した気がして──ああホントだ此処にちゃぶ台あるのか有難う──彼女はそのまま、ぼりぼりと携帯食料をかじりながら成り行きを見届ける。
そうして。
疾影士は叫びを上げながら部屋を飛び出していき。機導師が詫びを告げながらその後を追って出ていく。
……ほう、と溜息をもらすレイア。
「変な歪虚だな?」
声を発したのは、やはり一部始終を顔色も変えずに見ていたメンカル(ka5338)だった。
「嫌いじゃないが、生前の比較的平和な欲望に正直な所とか」
淡々と呟く、そこに何かの期待も焦りも見せないそぶりで、彼は共に行動する黒の夢(ka0187)へと視線を向ける。黒の夢は何事か分かっているのか分かっていないのか伺えない様子で、ただふわりと蕩けるような笑みをメンカルへと向けていた。
「さっさと片付けるぞ、黒の夢」
そう言って、メンカルは再び黒の夢と視線を交わした。僅かに瞳に何かの色を宿して。黒の夢も、その視線に返すように艶のある目元の形を少しだけ変える。
交差する視線、それを目の当たりにしたとき、レイアの背筋に何か駆け抜けるものがあった。そんな彼女に気付くことなく、メンカルと黒の夢は事態を解消すべく寄り添って別の場所へと向かう。
一人残されるレイア。何気なく二人が行った先とは違う方へと振り向くと、蠢く蔦がいた。それは彼女に手出ししようとするのではなく、何かを訴えるように──あるいは同調を示すかのように──かさかさと揺れた。そして向きを変えて移動を始める。ついてこいと言わんばかりに。
「あー。これは。つまりあれだ。調査だ。罠かもしれない? だがしかし、罠であればそれこそ敵の本体がそこにいるかも知れないしな。敢えて誘導されてみるのも一つの手段だ。うん。そう、その方がメンカルたちも廃屋の調査に専念できるしな! この雑魔は私に任せて先に行けぇ! という奴だ!」
そう言って、彼女は導かれるように蔦についていくのであった。
──レイア・アローネが腕利きのハンターであることに異論は無いだろう。
だがそれと同時に、心の奥で密かに恋愛に憧れを抱く一人の少女なのだった。
●
まあ、それはそれとして。
その前に、解決しておかねばならないもう一つの事態があるようだ。
●
「確かに何か負のマテリアルが濃いんですよねぇ。終わったら浄化必須かもですぅ」
星野 ハナ(ka5852)はこの後待ち受ける悲劇も知らず、廃屋を進んでいた。別行動をとっていた彼女は、この廃屋に潜む危険をまだ知らない。隠れ潜む悪意はその気配を悟らせぬまま彼女にも狙いを定め──そして、悲劇は起きた。
「ぎゃあぁぁぁぁ!?」
悲鳴が響き渡る。
上げたのは彼女……ではなく、彼女と同行していた、同じくこの依頼を受けた格闘士の男だった。
「筋肉ッ、サイコ~~~~ッ!」
そうして。
蔦の魔力に操られたハナは歓声を上げる。
「脂肪率5%以下の持久力のない見せ筋肉など偽物ですぅ! 戦闘で使えるそこそこ筋肉細マッチョこそ至高の筋肉ッ! シックスパックになりかけサイコーーー! すりすりぺろぺろくんかくんかはぁはぁこの上腕二頭筋も大胸筋もお宝隠さず見せやがれですぅ~~~!」
叫びながら、ハナは格闘士の男に擦り寄りむしゃぶりついてシャツを引っぺがそうとする。
……ところで。
強度こそ恐ろしいこのBSであるが、強制であるがゆえに内容を実行し終えたら──この場合叫ぶだけ叫び終えたら──効果は自動的に終了する。
「……ぎゃ~~~~!?」
数分後、正気に返り叫び返すハナの姿があった。
「ちちち違うんですぅ、こんなこと全然思ってな、いや思ってたけど妄想として心の中に秘め、いや紙の上には垂れ流してたけどまだ社会人としてギリギリ節度を保って常識人のフリいや常識の範囲で収まる程度に痴女を隠し、いや痴女じゃないぃ~~」
かくして、先ほどの疾影士もかくやという勢いで赤面大泣きの大パニックになりながら、彼女は兎に角とこの場から逃げ出すのであった。
「も、もうお嫁に行けないぃ~~~!」
そうして、まあ実際お嫁に行きたい相手が出来たらそれは見せない方がいいんじゃないかと思うほど顔面を崩壊させて、宿屋の影で地面をダムダムと踏み鳴らす彼女の姿があったのであった。
30分ほど、そうしていただろうか。
気配を感じ、ハナはどうにか顔を拭いて、振り返る。
憐れみの表情を湛えるレイアと、『何かこれは思ってたのと違う』と言いたげに震える蔦がそこにあった。
ハナは……とりあえず反射的に死んだ目で、蔦に向けて符を掲げ五色光符陣を放とうとする。
「や、ちょっと待たないか」
それを制したのは何故かレイアだった。ハナはギギギ、と、錆付いたような動作で首を向ける。
「いや、この廃屋における怪異なのだがな。その……対処方法として、私に一つ考えがあるというか……その」
レイアはこれまで見て来たものをハナへと告げた。
「い、いや……雑魔を退治すればいい、というのは分かる。分かるのだが、それでいいのか、というか……その、私にも分からない胸騒ぎがあって……この気持ちは一体……?」
語るレイアの表情。瞳。そこには……ハナに、彼女だからこそ理解できる何かがあった。
「レイアさん……それは、『萌え』ですぅ」
「も……『萌え』……?」
「確認しますけどぉ。レイアさんは黒の夢さんと見つめ合うメンカルさんに何を思いましたかぁ? 黒の夢さんに嫉妬する、私も彼に、あるいは誰かにそういう風に愛されたいという感情でしたかぁ?」
「……いや。そう言われると違う気がするが……」
「レイアさんが感じたのはぁ。こうじゃないですかあ? 『叶うならば、あの二人を観葉植物か天井にでもなって邪魔せず見守り続けたい』!」
「……!?」
ハナの言葉に、レイアは雷にでも撃たれたようなショックを受けた。それは、まさに今の自分の気持ちを表すに正鵠を射すぎている言葉だったからだ。
「まあ、私ノマカプも全然ありですしぃ……ここに新たに目覚めようとしている同士が居るなら人肌脱ぐもやぶさかでないですぅ……。耽美の道もノマカプからですぅ」
そうしてハナは何か、全てを理解したかのように頷いた。
「いずれその尊みを抑えきれなくなったらいつでも相談してくださいねぇ? 薄い本の作り方は目的冊数に応じて詳しくお教えしますよぉ?」
「と、尊み……?」
相談する相手を若干間違えたような気もした。だが、何故か彼女の言葉はこの上なくしっくりくる部分もある。
そうするうちに、蔦が再び移動を始めた。導く先に発見したのは、『生前女将が使っていたらしい道具一式』であった。何故かそれらは、廃屋にあるとは思えないほど整備され手入れされたままで。
目下、湧き上がる使命に、レイアは一度抱いた懸念を忘れるのであった。
……あ、ちなみに名誉のために補足しておくと迷惑かけた格闘士には後でハナが誠心誠意謝りました。
「も、申し訳ごじゃいません~~~。このお詫びはいかようにも致しますぅ~~」
●
さて、密かに何かが進行しつつあることなど与り知らぬメンカルと黒の夢、であるが。
「メンカルちゃん、此処宿屋だったみたい」
「ん、そのようだな」
「いわく付きだから物好きぐらいしかあんまり人も来ないだろうから」
「ああ……まあ急がずとも、そう被害は生まれないのだろうが」
「ここなら好きなだけ、気にしないで子作り出来るのな!」
ここまで平静を保ち続けていたメンカルが、流石に若干足元を蹴躓かせた。
何というか、因縁も陰謀も戦略も知ったこっちゃなしに天然でぶっ飛ばしてくるのが黒の夢である。
「今、ここではその、違うと思うぞ」
「うな? 見られてする方が好みであれば、子作りする日を街中にお知らせするけど」
「もっと違う。……いやつまりその。雑魔退治だ」
「ん、やることやるにもすることしてからなのな?」
そんなやり取りもありつつ、一先ずは順調に、なんだかんだで一番真面目に雑魔退治を続けていた二人である。
気を付けてさえいれば蔦の攻撃はメンカルの身体に掠りもせず、黒の夢の歌声で生まれる業火は蔦を呆気なく、過剰なほどに焼き払っていく。
この調子ならばすぐに終わるだろう、と思っていたはずの、誤算は、とある一室で起きた。
これまで通り、蔦の攻撃を容易く回避するメンカルの足元が……何故かここだけ急に滑った。
「何っ!?」
反転する視界の先にベッドがあった。咄嗟のことになすすべもなくメンカルはそこに倒れ込んでいく──黒の夢を巻き込む形で。
押し倒される形になった黒の夢の衣服、その下半分が大きく捲れあがるのを、メンカルは戦闘中であるのも忘れて慌てて正す──本来、その下になくてはならない布地がなかったような気がするのは、必死で頭から追い払う。
そうして。黒の夢の上に倒れ込む形のメンカルの足首に……そっと、蔦が巻き付いた。
「あ……」
言葉が。望まずとも、彼の口から、あふれ出てくる。それがもはや止められないことを、どうしようもなく彼は悟った。
「……なぁ、黒の夢。俺は、死にたくない。だが、その存在で俺を癒してくれたお前のためなら、この命まで使う覚悟がある」
聞かせるつもりは無かった。彼女は恋人だが、その愛の広さはよく知っていて、納得と承知の上で付き合っているつもりだったから。
「俺はただの人間で…たかだか残り100年足らずだが、お前に全てやる。お前が望むなら、もっと短くなっても構わん。本望なんだ。……望まんとは思っているがな」
分かっていた。自らが『本命』では無い、と。だからこの『蔦』によって彼女が何かを叫ぶとすればそれは己ではないだろうし、だからこそ己の不用意な言葉など聞かせる必要など、と。
なのに。
「……黒の夢。俺は、お前を………」
俺は。俺は今、この言葉を紡ごうというのか。彼女に。
言えるはずがないと思った。
言うはずがないと思った。
だってこれは。この言葉は。
息が詰まる。あの時に意識が遡る。そんな筈がなかった。いや、そうだと分かっていた。導かれる刃。あの時見えていた表情。唇がその形に動く、あの言葉──
「………愛し、てる」
それでもこの想いを。伝える言葉は、この形なのか。
舌にのせたそれは、苦くて。喉がカラカラに乾いて、張り付いて、痛かった。
今まで一度も言えなかった言葉。好き、はいくらでも言ってきたけど。
……暫し、呆然とした。混乱が収まらない。
「……あぁ、いや、忘れてくれ……頼む、……」
黒の夢は一度目を丸くして、そして嬉しそうに微笑んだ。泣きそうに見える彼を、その胸に埋めさせるように抱きしめて、よしよしと頭を撫でる。
ふと、そこでメンカルは疑問を覚えた。
廃屋のベッドにしてはやけに整えられていないか?
気付けば香るこの甘くて妖しい香りは何なのだ?
疑念は……。
『あいしてるわ』
黒の夢が、応えるように紡いだ言葉に霧散していった。
彼女の頬を、蔦が一撫でしていったのが見える。
『だからわがはいと、こづくりするのな』
その言の葉が蔦に紡がされたものならば。これは彼女の本心のはずで。
『あかちゃんたくさんほしいね』
それでも、彼女にすらその言葉さえも本物か解らなくなっている──その愛を否定され続けた、人間嫌いの人間好き。
『……できるかわからないけど』
きっと誰も信じてはくれない、理解もされない。彼女の言う「愛してる」は本心そのままである事を──その先の意味さえも。
『うまれたらなまえかんがえてね』
ねえ。最初に出来た恋人は、子供が出来ないまま、喪ってしまったの。だから。
『しあわせなじかんをつくれるようにがんばるわ』
だから、ねえ。
『──だから、我輩より先に逝かないで』
きっとだれもしんじない、このこえが。
あなたには、どう、きこえるの。
そこまで聞いたメンカルはがばりとその身体を起こして、黒の夢を真っ直ぐに見つめた。
「…………今のは俺か!? 俺にか!?」
素で驚いた様子で、彼は彼女に問う。
自分じゃないと知っていた。とある歪虚にその心のほとんどを奪われていることも。それでも。だからこそ。
「あー、その、……何を言うのも野暮だなこれは……ただ、すごく嬉しい」
普段滅多に表情の変わらぬ彼がこの時、僅かにへらりと相好を崩した。見れば耳が僅かに赤い。
その反応に、黒の夢はまた目を見開いて驚いて。それからまた彼を抱きしめる。
……トラウマを吐き出した彼はまだどこか苦し気で。彼女は癒しのために惜しみなく愛を注ぎ、彼はその愛に沈む。
「……今後は今まで以上に言葉にするか」
言いながら。だが。今は言葉よりも。あまりにも柔らかく、吸い付くような彼女の肌に。その温度。
触れていたい。もっと。そうして──
廃屋となった宿。
あまりに綺麗なベッドで。
甘い香りの漂う中。
本音を誘う蔦が絡まっていく。
絡まれている、のか。
絡めている、のか。
分からない。判っていない。
ただ、あいし、あい、ましょう?
密着する肌と肌が、その面積を増やしていって──
あ、この辺で字数もあれなんで手短に報告しますと、雑魔はなんやかんやのうちにちゃんとどうにかなりました。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/12 07:38:24 |