ゲスト
(ka0000)
ある雨の日のブックカフェ
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/16 19:00
- 完成日
- 2018/06/27 21:56
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「雨の多い季節になってきたね……」
リアルブルーでも雨の季節というのは存在していたが、異なる世界でもそう言うものが存在しているとは。
数年をこのリゼリオで過ごしてきたリアルブルー人も、気が付けばクリムゾンウェストの気候の変化を肌で感じることがで切るようになっていた。
でも、やはり雨の日は外に出るのが何となく躊躇われる。
面倒くさくなってしまうと言うのはよくある理由だ。人間、なんだかんだでそういうことはどこに行ったとしても変わらないものらしい。
「それでも、ちょっと最近の雨は去年よりも降ってるみたいな気がするな……?」
街のだれかがそんなことを呟いた。
●
「雨が多いわねえ」
ブックカフェ・シエルの女主人エリスもそんなことを言って空を見上げる。
確かに例年より雨の多い印象があるが、店に通ってきてくれる人々はお目当ての本を読んで満足そうに帰るのが日課だった。
そしてエリスの日課は、店にやってくる客をもてなし、料理や飲み物を提供することだ。それは一年毎日、変わることがない。
しかし毎年この季節は、どうしても客足が減ってしまうのが悩みの種。しとしとと降る雨の影響で、今ひとつこの時期の客足は鈍ってしまうのだ。
「前にもハンターさんに相談したりもしたけれど……ねぇ」
ついつい出てしまうため息に、慌てて口を閉じる。
ため息と一緒に幸運まで逃げてしまうなんて、そんな諺もあるのを思いだしたからだ。
店の経営という意味ではそれなりに順調ではあるが、それでもなにかあれば盛り上げていきたいのが店主としての心。
「……雨の日だからこそのイベントがあってもいいのかもね」
エリスはふとそう呟くと、くすりと笑った。
「そうね。そうかも知れないわ」
そう言いながら彼女の頭の中では色々なアイデアが浮かんでいた。
●
――これはそんなある雨の日の、ブックカフェの様子を記すことになる。
その日は「雨の日限定、ラテアートサービス」となっている。普段よりも気軽にラテアートを楽しめるように。そして雨のせいで気鬱になりがちな心持ちを明るく出来るように。
――貴方ならどう過ごすだろう?
「雨の多い季節になってきたね……」
リアルブルーでも雨の季節というのは存在していたが、異なる世界でもそう言うものが存在しているとは。
数年をこのリゼリオで過ごしてきたリアルブルー人も、気が付けばクリムゾンウェストの気候の変化を肌で感じることがで切るようになっていた。
でも、やはり雨の日は外に出るのが何となく躊躇われる。
面倒くさくなってしまうと言うのはよくある理由だ。人間、なんだかんだでそういうことはどこに行ったとしても変わらないものらしい。
「それでも、ちょっと最近の雨は去年よりも降ってるみたいな気がするな……?」
街のだれかがそんなことを呟いた。
●
「雨が多いわねえ」
ブックカフェ・シエルの女主人エリスもそんなことを言って空を見上げる。
確かに例年より雨の多い印象があるが、店に通ってきてくれる人々はお目当ての本を読んで満足そうに帰るのが日課だった。
そしてエリスの日課は、店にやってくる客をもてなし、料理や飲み物を提供することだ。それは一年毎日、変わることがない。
しかし毎年この季節は、どうしても客足が減ってしまうのが悩みの種。しとしとと降る雨の影響で、今ひとつこの時期の客足は鈍ってしまうのだ。
「前にもハンターさんに相談したりもしたけれど……ねぇ」
ついつい出てしまうため息に、慌てて口を閉じる。
ため息と一緒に幸運まで逃げてしまうなんて、そんな諺もあるのを思いだしたからだ。
店の経営という意味ではそれなりに順調ではあるが、それでもなにかあれば盛り上げていきたいのが店主としての心。
「……雨の日だからこそのイベントがあってもいいのかもね」
エリスはふとそう呟くと、くすりと笑った。
「そうね。そうかも知れないわ」
そう言いながら彼女の頭の中では色々なアイデアが浮かんでいた。
●
――これはそんなある雨の日の、ブックカフェの様子を記すことになる。
その日は「雨の日限定、ラテアートサービス」となっている。普段よりも気軽にラテアートを楽しめるように。そして雨のせいで気鬱になりがちな心持ちを明るく出来るように。
――貴方ならどう過ごすだろう?
リプレイ本文
――雨の日というのはどこか物憂い。
それでも、店は開店する。何故って、客が訪れてくれるのだから。
●
開店早々店にやってきたのは、鳳城 錬介(ka6053)だった。この記憶喪失の鬼の青年は真面目なしっかり者。初見では記憶喪失とは判らないかも知れない。
しかし、だからなのだろうか。趣味の読書が、戦いの合間にいわゆる『積ん読』状態になってしまっていて、読み切っていない本が随分溜ってしまった。
と言うことで、彼は本を持ち込んでの来店だった。
「へえ、どんな本を読んでいるんですか?」
店主のエリスは注文されたサンドウィッチとラテアート――今日は雨の日サービスで、ラテアートも少し割安だ――を持っていって尋ねてみると、錬介は笑顔で表紙を見せる。
「こんな本なんですが……読み応えがあるんです、面白いですよ」
エリスは詳しく知らなかったが、それはリアルブルーでもそれなりに名の知れた大長編SF戦記物の、第二巻だった。よくよく彼の置いた本を見れば、そのシリーズの本であることがすぐにわかる。
「自分の部屋で読むと、何となく別のことで気が散ってしまいそうで……こちらなら本のことをひたすら考えて読むことが出来る気がしたんです」
「まあ、ありがとうございます」
以前よりもリアルブルーの書籍は圧倒的に入手が容易になった。これもふたつの世界の行き来が容易になったことによるところが大きい。
錬介は口角を上げながら、楽しそうに本に夢中になっていた。
●
昼食時が近づいてきた。
雨が降っているとは言え、人通りが全くないわけではない。
毎日の生活のために歩いている人も当然ながらいる。無論それだけではないが、それでも普段よりは少し少ないのが現実だった。
と、カランとドアベルが鳴る。入口のほうを見てみると、天央 観智(ka0896)が店に入ってきて、本棚をきょろきょろと眺めていた。
「おや? エバーグリーン関連の書籍も……ありますね。どのようなことが書かれているんでしょうか?」
もともと学者肌の観智としては、エバーグリーンの情報と言うだけでわくわくとしてしまう。と言っても、エバーグリーンで出版された書籍ではなく、どちらかといえばクリムゾンウェストの人にもわかりやすく解説された入門書的なものや、リアルブルーで発行された雑誌のムック、眉唾な情報も掲載されたいわゆる【謎本】の類も多い。まだまだ情報は多いと言えないエバーグリーンだが、こういう玉石混交の資料も案外いいものだ。想像の翼を広げて楽しむことが出来るからだ。
(読書の出来る店とはいえ、本は汚さないようにしないと……)
そんなことを思いながら、リアルブルーで発行された科学雑誌の増刊号を手に取り席に着く。注文はサラダとパスタ、重くも軽くもない、ほどほどの昼食だ。それらを腹に収めてから、コーヒーを飲みつつ読書を本格的にはじめる。
もともとこの店の客層はさまざまであったが、最近はハンターも増えてきたことで、単純なフィクションだけでなく専門書も置くようになっている。そもそもこの店を立ち上げたきっかけはふたつの世界の読み物を気軽に手に取れる場所を、と言うことだったので、比較的ジャンルは雑多ではあったのだが。
読むものだけはジャンルも数も豊富にある。
コーヒーのおかわりを飲みながら、ゆったりと読書に没頭する観智であった。
●
『シエル』が混み合うのは、どちらかというと食事時よりティータイムである。ブックカフェという体裁のお陰だろうか、昼からコーヒーや紅茶を飲みながら本を読み耽るという形での楽しみ方をする客が多かったのである。
だからだろう、ハンターや、それ以外の常連客たちもふしぎとにたような時間帯に集まってくるのだった。
昼下がりに訪れたのはレイア・アローネ(ka4082)。所用で出かけたものの雨模様でついでに街をぶらつく、と言う気にもあまりなれず、たまたま見掛けたカフェに入ってみた、という感じだった。
どんな本があるのだろうと物色して手に取ったのは……恋愛小説。
普段のきりりとしたレイアを知る者なら、きっと驚く組み合わせだろう。
(こんな姿、知り合いにはそうそう見せられんな……)
ほんのりと顔を赤らめながらその本を持って席に着く。耳慣れないラテアートとサンドウィッチを注文し、運ばれてきたラテアートの可愛らしい猫の絵にほんわかと相好を崩す。普段の彼女らしからぬと言われそうだが、プライベートな時間だからこその楽しみでもあるのだから、口出しは野暮というものだ。レイアのほうも見知った顔を認めたが、こちらから介入するのも同じように野暮というもので、ただ静かに読書を進めていく。
一見血湧き肉躍る活劇ものなどを好むと思われそうだが、彼女の心にあるのは、
(活劇など日常の依頼などで充分すぎるほど足りているじゃないか)
と言う、なんともごもっともな意見。知り合いが見たら驚くだろうと思うくらい、砂糖まみれの甘い恋愛ものを読み耽るのは、彼女の女らしさがちらりと垣間見えて、逆に微笑ましいものだ。
さてまたドアベルが鳴り、入ってきたのは鞍馬 真(ka5819)と大伴 鈴太郎(ka6016)のふたりだ。レイアは面識のある鞍馬から慌てて目立たないように顔を隠す。
真のほうは少し疲れ気味の顔をしていた。最近彼が見てきたものがどれもあまりはかばかしくなく、精神的にもかなり限界が近かったのだ。目の下の隈を見ても、眠れていないことは容易に想像が付く。それでも鈴太郎――名前だけでは少年のようだが、実のところ真にとっては妹のようにも思える、長い黒髪がトレードマークのれっきとした少女である――には心配をかけまいと、つとめて明るく振る舞うさまはほんの少し切ない。
「最近忙しかったから、少し疲れているだけだよ」
言いながら真はホットミルクを頼み、
「ッたく。だからシンは働き過ぎなンだってば! な、この店の雰囲気、いい感じだろ?」
そう言って嬉しそうにカフェラテを頼む。彼女のお気に入りのサポートロボット「くまごろー」は飲み物は飲めないから、つけていたカエルポンチョをはずしてやると愛嬌あるくまのぬいぐるみの姿で、興味深そうに店をぐるりと見渡している。
「ま、ちょっと珍しい店だろ。本もいろんな種類があるしな」
言いながら鈴太郎は本来の目的である勉強のため、ノートをいそいそと開く。もともと外で偶然であったという感じであったから、真のほうはとくに何も用意はしておらず、本棚から少し軽めの小説を一冊取り出して、それを眺める。
店の外に眼をやれば、細かい雨が降り注ぎ、店の中はその一方で温かな雰囲気を醸し出していて、本の匂い、雨の匂い、そしてコーヒーや牛乳と言った飲み物の香りがふわふわとただよっている。
「……鈴君、勉強頑張っているね」
「まぁな。こういう所って、案外落ち着いて作業ができるから、勉強も捗るし」
確かに、店内の客達も思い思いに飲食しながら本を読んでいて、流れる空気も穏やかなものだ。
「……おや、くまごろーさん……?」
ふとそんな声がしてその主を見てみれば、共通の友人でもある錬介がかるく目で挨拶をしてくる。くまごろーの存在はやはり目立つのだろう。鈴太郎も手を振ってそれに返した。
「雨の日のお散歩というのも、いつもと違うものを見ることが出来たりして楽しいもの……ブックカフェ……普段はあまり気付かなかったけれど……折角だし、休憩に寄ろうかな」
羊谷 めい(ka0669)はそんな風にひとりごちながら、ドアを軽く開けた。初めてはいるお店に少し胸を高鳴らせながら、周囲をきょろきょろと見渡して、空いている席に座る。
「お客さん、初めてですよね」
エリスがそっと声をかけると、めいも嬉しそうに頷き返す。せっかくなのでとラテアートつきの甘いハニーカフェラテ、
(子どもっぽい、かも知れないですけど……)
そう思いながらミルク多めに頼んでみると、可愛らしいうさぎのラテアートが施されたカップが運ばれてきた。ふわりと甘い香りが鼻腔を擽る。それまでに彼女が選んできた本は、クリムゾンウェストのおとぎばなしが詰まった短編集。どれもリアルブルーのものに似ているようで異なり、しかし『めでたしめでたし』で終わるやさしい物語達だ。
「……ふふっ」
めいがにっこり微笑むと、店主は僅かに首をかしげる。
「ああ、いえ。なんだかとても素敵で、ちょっと気に入っちゃいました、このお店。今度はお散歩がてらでなく、このカフェ目当てに来ちゃいそうです」
そういいながら、同時に彼女が思い描くのは『あの人』のこと。
(次は……あの人と一緒に来れたらいいな、なんて)
だって、素敵なものは、分かち合いたいから。
……ふと真が目を開けると、なにやら気配がする。つい護身用の武器に手を伸ばし――そしてそこで初めて、頭の上にくまごろーが乗せられていることに気付いた。
鈴太郎はクスクスと笑いながら、
「やっぱり、シン、大分疲れてるだろ。転た寝してた」
「……ご、ごめん。寝ぼけていたみたいで」
指摘をすれば流石に真も頷かざるを得ない。申し訳なさそうに謝ると、すぐに武器を置いて小さくため息をつく。
その頃には休憩がてら猫の写真集を眺めていた鈴太郎も、おやつに頼んだタルトが運ばれてくると、それを運んできたエリスに
「そう言えば以前この店の依頼を受けてきたことがあるんだけど、あの時の少年、いまは如何してる?」
鈴太郎が指摘したのは、転移してホームシックに陥ったという少年のことだ。彼の飲みたかった飲み物を探して四苦八苦したが、彼はいまも元気なのか――と。するとエリスはまあ、と眼を見開き、
「ああ、あのときの! ええ、翼くんならリゼリオの学校に通いながら、小さな依頼の手伝いをしたりしているみたいですよ。似たような立場の子どもも多い学校のようですから、ホームシックも落ち着いたらしいですしね」
と、教えてくれた。付け加えるならば、とくにリアルブルーとの交流も盛んになったいまなら、両親に再会するのもさほど難しいことでは無いはずだ。いまの生活も楽しめているのなら、申し分ないが。
「なら良かった。やっぱさ、気になるからさ」
鈴太郎はにこっと笑い、そして頷き返した。
玲瓏(ka7114)は空を見上げながら、
(こちらでもこんな風に雨の続く季節があるのですね……家にいてもやることがなくなってしまいますし、折角の休日ですし……)
そんなことを思いながら傘を差し、足の向くままに歩いて、たまたま見掛けたブックカフェ。不思議と吸い込まれるような魅力を感じ、扉を開く。
隅っこに腰掛けるとぐるっと店内を見渡す。人の出入りが多いというわけでなく、のんびりと時間が過ぎていく。
「いらっしゃいませ」
そう言って注文を聞きに来たエリスに、
「素敵なお店ですね。こちら、時間制限などはありますか?」
そう、思わず尋ねたくなるくらいには気に入ってしまったのだ。
「とくに、閉店時間までなら問題ありませんよ。もちろん、ご注文はお願いしますけど」
「それなら……カフェラテの砂糖抜きと、季節のフルーツタルトを」
そう言って、玲瓏は本棚を眺めにいく。オーナーの趣味が垣間見える、一見雑多ではあるが質の良いラインナップ。背表紙を眺めているだけでも満足できる気がする。でも選ぶなら、と、数冊の絵本をもって席に着いた。
子どもを対象にした本は、その土地で大切にしているものや、受け継いできた倫理や概念と言った社会構造をぼんやりと覗き見することができる、と彼女は思っている。
リアルブルーから転移して早数年、とはいえまだ知らないことも多い。こちらの患者と接することも多いが、そんな人々の社会的背景を知るのも、接する上で大事なことだと彼女は認識しているのだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。そう言えば……おすすめの絵本とか、ありますか?」
「そうですね……こちらなんていかがでしょう」
店主が手渡したのは、鮮やかな色使いの絵本だった。子どもたちには人気なんです、と添えて。どうやらハンターたちの役目などを描いているらしい、なるほど確かにハンターの立場などは参考になるかも知れないな、と玲瓏は緩く頷いたのだった。
リーベ・ヴァチン(ka7144)が店に入ったのも、同じくらいの頃合いだった。買いもの帰り、雨宿りがてらの一杯と思ったのだ。
(……にしてもブックカフェか。はじめてはいるな……料理の本とかは、あるだろうか)
それもできれば帝国以外の料理。リーベの出身は帝国だから、それ以外の料理を知りたいと思ったのだ。
「ふふ、そういうことならいろいろありますよ」
話を聞いたエリスもせっかくなのでと本を持ってくる。その一冊に眼を通しながら、リーベは懐かしそうな顔をした。そして、サクランボのクラフティを紅茶とともに注文した。
「いや、この時期はサクランボのクラフティを故郷の母が作るんだが、たいてい弟たちが食べてしまって、私の口にはあまり入らないことが多くてな……食べ盛りの可愛い弟たちだからそれはいいんだが、とはいえ故郷も出たことだし、思い切りクラフティを食べてみたくなった、と言うわけだ。……母のものとは違うが、季節を実感できるからな」
「なるほど。いわゆるおふくろの味、ですね。お待ち下さい」
エリスはにこりと微笑むと、厨房のほうへ戻っていく。
リーベはそんな姿を見届けてから、
(やはり季節ならではというものはいいものだな。夏向きの料理で興味深いものがあるなら、作れないかためしてみるか……材料とかとも相談だが)
料理のことをついつい考えてしまう。クリムゾンウェストのみならずリアルブルーの料理本も混じっていたので、それらの中には無論初めて目にするものも多い。それらを興味深く眺めながら、つい苦笑を浮かべてしまう。
(……食べ物の話ばかりだな)
しかし雨の日なのだし、たまにはこんな事があってもいいだろう。腕を磨くのがたまたまリーベの場合は料理だった、と言うだけだから。……多分、きっと。
●
やがて食と読書を満喫した面々は、思い思いの時間に店を出て行く。その顔はどこか夢見心地で、それでいて楽しそうで。
――こういうカフェで、こんな時間を過ごすのもいいものだ。
だれもがそう思いながら、笑顔で店をあとにするのだった。
それでも、店は開店する。何故って、客が訪れてくれるのだから。
●
開店早々店にやってきたのは、鳳城 錬介(ka6053)だった。この記憶喪失の鬼の青年は真面目なしっかり者。初見では記憶喪失とは判らないかも知れない。
しかし、だからなのだろうか。趣味の読書が、戦いの合間にいわゆる『積ん読』状態になってしまっていて、読み切っていない本が随分溜ってしまった。
と言うことで、彼は本を持ち込んでの来店だった。
「へえ、どんな本を読んでいるんですか?」
店主のエリスは注文されたサンドウィッチとラテアート――今日は雨の日サービスで、ラテアートも少し割安だ――を持っていって尋ねてみると、錬介は笑顔で表紙を見せる。
「こんな本なんですが……読み応えがあるんです、面白いですよ」
エリスは詳しく知らなかったが、それはリアルブルーでもそれなりに名の知れた大長編SF戦記物の、第二巻だった。よくよく彼の置いた本を見れば、そのシリーズの本であることがすぐにわかる。
「自分の部屋で読むと、何となく別のことで気が散ってしまいそうで……こちらなら本のことをひたすら考えて読むことが出来る気がしたんです」
「まあ、ありがとうございます」
以前よりもリアルブルーの書籍は圧倒的に入手が容易になった。これもふたつの世界の行き来が容易になったことによるところが大きい。
錬介は口角を上げながら、楽しそうに本に夢中になっていた。
●
昼食時が近づいてきた。
雨が降っているとは言え、人通りが全くないわけではない。
毎日の生活のために歩いている人も当然ながらいる。無論それだけではないが、それでも普段よりは少し少ないのが現実だった。
と、カランとドアベルが鳴る。入口のほうを見てみると、天央 観智(ka0896)が店に入ってきて、本棚をきょろきょろと眺めていた。
「おや? エバーグリーン関連の書籍も……ありますね。どのようなことが書かれているんでしょうか?」
もともと学者肌の観智としては、エバーグリーンの情報と言うだけでわくわくとしてしまう。と言っても、エバーグリーンで出版された書籍ではなく、どちらかといえばクリムゾンウェストの人にもわかりやすく解説された入門書的なものや、リアルブルーで発行された雑誌のムック、眉唾な情報も掲載されたいわゆる【謎本】の類も多い。まだまだ情報は多いと言えないエバーグリーンだが、こういう玉石混交の資料も案外いいものだ。想像の翼を広げて楽しむことが出来るからだ。
(読書の出来る店とはいえ、本は汚さないようにしないと……)
そんなことを思いながら、リアルブルーで発行された科学雑誌の増刊号を手に取り席に着く。注文はサラダとパスタ、重くも軽くもない、ほどほどの昼食だ。それらを腹に収めてから、コーヒーを飲みつつ読書を本格的にはじめる。
もともとこの店の客層はさまざまであったが、最近はハンターも増えてきたことで、単純なフィクションだけでなく専門書も置くようになっている。そもそもこの店を立ち上げたきっかけはふたつの世界の読み物を気軽に手に取れる場所を、と言うことだったので、比較的ジャンルは雑多ではあったのだが。
読むものだけはジャンルも数も豊富にある。
コーヒーのおかわりを飲みながら、ゆったりと読書に没頭する観智であった。
●
『シエル』が混み合うのは、どちらかというと食事時よりティータイムである。ブックカフェという体裁のお陰だろうか、昼からコーヒーや紅茶を飲みながら本を読み耽るという形での楽しみ方をする客が多かったのである。
だからだろう、ハンターや、それ以外の常連客たちもふしぎとにたような時間帯に集まってくるのだった。
昼下がりに訪れたのはレイア・アローネ(ka4082)。所用で出かけたものの雨模様でついでに街をぶらつく、と言う気にもあまりなれず、たまたま見掛けたカフェに入ってみた、という感じだった。
どんな本があるのだろうと物色して手に取ったのは……恋愛小説。
普段のきりりとしたレイアを知る者なら、きっと驚く組み合わせだろう。
(こんな姿、知り合いにはそうそう見せられんな……)
ほんのりと顔を赤らめながらその本を持って席に着く。耳慣れないラテアートとサンドウィッチを注文し、運ばれてきたラテアートの可愛らしい猫の絵にほんわかと相好を崩す。普段の彼女らしからぬと言われそうだが、プライベートな時間だからこその楽しみでもあるのだから、口出しは野暮というものだ。レイアのほうも見知った顔を認めたが、こちらから介入するのも同じように野暮というもので、ただ静かに読書を進めていく。
一見血湧き肉躍る活劇ものなどを好むと思われそうだが、彼女の心にあるのは、
(活劇など日常の依頼などで充分すぎるほど足りているじゃないか)
と言う、なんともごもっともな意見。知り合いが見たら驚くだろうと思うくらい、砂糖まみれの甘い恋愛ものを読み耽るのは、彼女の女らしさがちらりと垣間見えて、逆に微笑ましいものだ。
さてまたドアベルが鳴り、入ってきたのは鞍馬 真(ka5819)と大伴 鈴太郎(ka6016)のふたりだ。レイアは面識のある鞍馬から慌てて目立たないように顔を隠す。
真のほうは少し疲れ気味の顔をしていた。最近彼が見てきたものがどれもあまりはかばかしくなく、精神的にもかなり限界が近かったのだ。目の下の隈を見ても、眠れていないことは容易に想像が付く。それでも鈴太郎――名前だけでは少年のようだが、実のところ真にとっては妹のようにも思える、長い黒髪がトレードマークのれっきとした少女である――には心配をかけまいと、つとめて明るく振る舞うさまはほんの少し切ない。
「最近忙しかったから、少し疲れているだけだよ」
言いながら真はホットミルクを頼み、
「ッたく。だからシンは働き過ぎなンだってば! な、この店の雰囲気、いい感じだろ?」
そう言って嬉しそうにカフェラテを頼む。彼女のお気に入りのサポートロボット「くまごろー」は飲み物は飲めないから、つけていたカエルポンチョをはずしてやると愛嬌あるくまのぬいぐるみの姿で、興味深そうに店をぐるりと見渡している。
「ま、ちょっと珍しい店だろ。本もいろんな種類があるしな」
言いながら鈴太郎は本来の目的である勉強のため、ノートをいそいそと開く。もともと外で偶然であったという感じであったから、真のほうはとくに何も用意はしておらず、本棚から少し軽めの小説を一冊取り出して、それを眺める。
店の外に眼をやれば、細かい雨が降り注ぎ、店の中はその一方で温かな雰囲気を醸し出していて、本の匂い、雨の匂い、そしてコーヒーや牛乳と言った飲み物の香りがふわふわとただよっている。
「……鈴君、勉強頑張っているね」
「まぁな。こういう所って、案外落ち着いて作業ができるから、勉強も捗るし」
確かに、店内の客達も思い思いに飲食しながら本を読んでいて、流れる空気も穏やかなものだ。
「……おや、くまごろーさん……?」
ふとそんな声がしてその主を見てみれば、共通の友人でもある錬介がかるく目で挨拶をしてくる。くまごろーの存在はやはり目立つのだろう。鈴太郎も手を振ってそれに返した。
「雨の日のお散歩というのも、いつもと違うものを見ることが出来たりして楽しいもの……ブックカフェ……普段はあまり気付かなかったけれど……折角だし、休憩に寄ろうかな」
羊谷 めい(ka0669)はそんな風にひとりごちながら、ドアを軽く開けた。初めてはいるお店に少し胸を高鳴らせながら、周囲をきょろきょろと見渡して、空いている席に座る。
「お客さん、初めてですよね」
エリスがそっと声をかけると、めいも嬉しそうに頷き返す。せっかくなのでとラテアートつきの甘いハニーカフェラテ、
(子どもっぽい、かも知れないですけど……)
そう思いながらミルク多めに頼んでみると、可愛らしいうさぎのラテアートが施されたカップが運ばれてきた。ふわりと甘い香りが鼻腔を擽る。それまでに彼女が選んできた本は、クリムゾンウェストのおとぎばなしが詰まった短編集。どれもリアルブルーのものに似ているようで異なり、しかし『めでたしめでたし』で終わるやさしい物語達だ。
「……ふふっ」
めいがにっこり微笑むと、店主は僅かに首をかしげる。
「ああ、いえ。なんだかとても素敵で、ちょっと気に入っちゃいました、このお店。今度はお散歩がてらでなく、このカフェ目当てに来ちゃいそうです」
そういいながら、同時に彼女が思い描くのは『あの人』のこと。
(次は……あの人と一緒に来れたらいいな、なんて)
だって、素敵なものは、分かち合いたいから。
……ふと真が目を開けると、なにやら気配がする。つい護身用の武器に手を伸ばし――そしてそこで初めて、頭の上にくまごろーが乗せられていることに気付いた。
鈴太郎はクスクスと笑いながら、
「やっぱり、シン、大分疲れてるだろ。転た寝してた」
「……ご、ごめん。寝ぼけていたみたいで」
指摘をすれば流石に真も頷かざるを得ない。申し訳なさそうに謝ると、すぐに武器を置いて小さくため息をつく。
その頃には休憩がてら猫の写真集を眺めていた鈴太郎も、おやつに頼んだタルトが運ばれてくると、それを運んできたエリスに
「そう言えば以前この店の依頼を受けてきたことがあるんだけど、あの時の少年、いまは如何してる?」
鈴太郎が指摘したのは、転移してホームシックに陥ったという少年のことだ。彼の飲みたかった飲み物を探して四苦八苦したが、彼はいまも元気なのか――と。するとエリスはまあ、と眼を見開き、
「ああ、あのときの! ええ、翼くんならリゼリオの学校に通いながら、小さな依頼の手伝いをしたりしているみたいですよ。似たような立場の子どもも多い学校のようですから、ホームシックも落ち着いたらしいですしね」
と、教えてくれた。付け加えるならば、とくにリアルブルーとの交流も盛んになったいまなら、両親に再会するのもさほど難しいことでは無いはずだ。いまの生活も楽しめているのなら、申し分ないが。
「なら良かった。やっぱさ、気になるからさ」
鈴太郎はにこっと笑い、そして頷き返した。
玲瓏(ka7114)は空を見上げながら、
(こちらでもこんな風に雨の続く季節があるのですね……家にいてもやることがなくなってしまいますし、折角の休日ですし……)
そんなことを思いながら傘を差し、足の向くままに歩いて、たまたま見掛けたブックカフェ。不思議と吸い込まれるような魅力を感じ、扉を開く。
隅っこに腰掛けるとぐるっと店内を見渡す。人の出入りが多いというわけでなく、のんびりと時間が過ぎていく。
「いらっしゃいませ」
そう言って注文を聞きに来たエリスに、
「素敵なお店ですね。こちら、時間制限などはありますか?」
そう、思わず尋ねたくなるくらいには気に入ってしまったのだ。
「とくに、閉店時間までなら問題ありませんよ。もちろん、ご注文はお願いしますけど」
「それなら……カフェラテの砂糖抜きと、季節のフルーツタルトを」
そう言って、玲瓏は本棚を眺めにいく。オーナーの趣味が垣間見える、一見雑多ではあるが質の良いラインナップ。背表紙を眺めているだけでも満足できる気がする。でも選ぶなら、と、数冊の絵本をもって席に着いた。
子どもを対象にした本は、その土地で大切にしているものや、受け継いできた倫理や概念と言った社会構造をぼんやりと覗き見することができる、と彼女は思っている。
リアルブルーから転移して早数年、とはいえまだ知らないことも多い。こちらの患者と接することも多いが、そんな人々の社会的背景を知るのも、接する上で大事なことだと彼女は認識しているのだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。そう言えば……おすすめの絵本とか、ありますか?」
「そうですね……こちらなんていかがでしょう」
店主が手渡したのは、鮮やかな色使いの絵本だった。子どもたちには人気なんです、と添えて。どうやらハンターたちの役目などを描いているらしい、なるほど確かにハンターの立場などは参考になるかも知れないな、と玲瓏は緩く頷いたのだった。
リーベ・ヴァチン(ka7144)が店に入ったのも、同じくらいの頃合いだった。買いもの帰り、雨宿りがてらの一杯と思ったのだ。
(……にしてもブックカフェか。はじめてはいるな……料理の本とかは、あるだろうか)
それもできれば帝国以外の料理。リーベの出身は帝国だから、それ以外の料理を知りたいと思ったのだ。
「ふふ、そういうことならいろいろありますよ」
話を聞いたエリスもせっかくなのでと本を持ってくる。その一冊に眼を通しながら、リーベは懐かしそうな顔をした。そして、サクランボのクラフティを紅茶とともに注文した。
「いや、この時期はサクランボのクラフティを故郷の母が作るんだが、たいてい弟たちが食べてしまって、私の口にはあまり入らないことが多くてな……食べ盛りの可愛い弟たちだからそれはいいんだが、とはいえ故郷も出たことだし、思い切りクラフティを食べてみたくなった、と言うわけだ。……母のものとは違うが、季節を実感できるからな」
「なるほど。いわゆるおふくろの味、ですね。お待ち下さい」
エリスはにこりと微笑むと、厨房のほうへ戻っていく。
リーベはそんな姿を見届けてから、
(やはり季節ならではというものはいいものだな。夏向きの料理で興味深いものがあるなら、作れないかためしてみるか……材料とかとも相談だが)
料理のことをついつい考えてしまう。クリムゾンウェストのみならずリアルブルーの料理本も混じっていたので、それらの中には無論初めて目にするものも多い。それらを興味深く眺めながら、つい苦笑を浮かべてしまう。
(……食べ物の話ばかりだな)
しかし雨の日なのだし、たまにはこんな事があってもいいだろう。腕を磨くのがたまたまリーベの場合は料理だった、と言うだけだから。……多分、きっと。
●
やがて食と読書を満喫した面々は、思い思いの時間に店を出て行く。その顔はどこか夢見心地で、それでいて楽しそうで。
――こういうカフェで、こんな時間を過ごすのもいいものだ。
だれもがそう思いながら、笑顔で店をあとにするのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/16 10:57:00 |