ゲスト
(ka0000)
【虚動】緊急協力要請
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/21 07:30
- 完成日
- 2014/12/29 07:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
リアルブルー産の対歪虚用戦闘装甲機、通称「CAM」。それがマギア砦の南方に集められ、今まさに稼動実験を始まる。
帝国が辺境に土地を借り、王国と同盟の協力を得て行われる一大プロジェクトだ。ある者はCAMの有効性を願い、ある者は眼前の利益のために動く。多くの人が関われば、思惑が交錯するのは当然だ。
何もなかったこの地も、次第に人で賑わい始める。今ではちょっとした町に見えなくもない。同盟軍によって運ばれたCAMも勢揃いし、静かに実験の時を待った。
そんな最中、見張り役の男が叫ぶ。
「北東から雑魔の群れが出現! その数100を越えます!」
それを聞いた首脳陣の顔色が変わった。
「バタルトゥ殿、この数の襲撃は自然な数と言えますかな?」
「……群れを成して行動するのは見かけるが……、この数は……異様だ」
予想された答えとはいえ、こうもハッキリ言われると辛い。
しかし、二の句は早かった。
「CAMは……投入できないのか……?」
敵の襲来で張り詰めた空気が、期待と不安の入り混じったものに変化した。
「今回の肝は改修したエンジンの稼動実験だ。実戦でデータを取る予定はない」
「とはいえ、いずれは敵を相手にするのだ。道理を語っている場合ではないぞ」
雑魔退治にCAM投入を希望するのは推進派の面々だが、彼らは慎重派を押し切るだけの決定的な材料を持っていた。
実はCAMのデモンストレーション用として、これまでの作戦に投入された際の挙動を披露するべく、貴重な特殊燃料をサルヴァトーレ・ロッソから少量ながら預かっていた。短時間の運用であれば、雑魔退治に差し向けても問題ないというのが彼らの主張である。
「だが、できればCAMに負担を与えたくないし、雑魔も近づけたくはないというのも本音だ」
「ならば……ハンターの手を借りるしかない、だろうな……」
結局、ハンターとCAMの共同作戦として、雑魔の群れを撃破することになった。
●
この少し前のこと。
「なるほど、良く出来ているわね……」
同盟軍報道官メリンダ・ドナーティ(kz0041)は、見慣れない光景に小さく感嘆の声を漏らす。
『中尉、乗り心地は如何ですか』
「思ったより揺れないんですね。驚きました」
通信の具合も上々だ。
メリンダが居るのは、CAMとしては旧式タイプのドミニオンMk.IVのコクピットだ。地上7m程の高さで移動する視点というのは、中々にエキサイティングである。
稼働実験に協力するのと引き換えに、同盟軍は機体についての取材を申し入れた。優れた兵器に対して、軍が興味を持つのは当然と言えるだろう。
表で裏で様々な交渉がなされ、軍はCAMについて取材する許可を得た。
その結果、現時点での同盟軍の所有する兵器については一通りの知識があり、尚かつ女性でも操縦できるかの確認も可能という理由で、担当を命じられたのがメリンダだったのだ。勿論、レポートは後に同盟軍内部での資料として使われる。
メリンダも士官学校時代に魔導トラック等の運転の訓練は受けており、機械が不得手という訳ではない。
だが、それとは全くシステムの違うCAMの挙動は、正に驚きの連続だった。この点はメリンダの乗った機体を眺めている軍の関係者にしても同様だろう。興味津々で双眼鏡を代わる代わる覗いている。
「そろそろ戻りますね。と、その前に……」
メリンダがモニターで確認すると、CAMが戻るべきハンガーの前には軍関係者を含め、かなりの人々がいた。
「申し訳ありませんが、念の為にハンガー周辺の人を退避させて……」
そこまで言いかけると、コクピット内にけたたましいアラームが鳴り響く。
「……なんですって!!」
なんとこの場に向かって、雑魔の集団が接近しつつあった。
コクピットには次々と情報が提示される。雑魔の集団がこの機体周辺に辿りつくまでに、それ程時間はかからないだろう。
(この機体に何かあったら大変だわ……それに私は操縦に熟練している訳ではないし)
メリンダは機体を戻すべきだと判断した。
「テスト中断、帰還します。至急ハンガー周辺を……きゃっ!?」
がくん。
視界が揺れる。
無理な体勢で方向転換したCAMはバランスを崩し、片腕を支えに膝をついた姿勢でようやく止まった。
『大丈夫ですか、中尉!』
「すみません、直ぐに……」
低くなった姿勢で確認すると、こちらに近づく雑魔の集団は思いの外近い。
メリンダは覚悟を決めた。モニターを操作し、搭載火器を確認。そして、外部マイクで呼びかける。
『CAMはなんとしても無事に戻します! 申し訳ありませんが、ご協力をお願い致します!!』
顔面蒼白になっていた軍の関係者が、慌ただしく動きだした。
リアルブルー産の対歪虚用戦闘装甲機、通称「CAM」。それがマギア砦の南方に集められ、今まさに稼動実験を始まる。
帝国が辺境に土地を借り、王国と同盟の協力を得て行われる一大プロジェクトだ。ある者はCAMの有効性を願い、ある者は眼前の利益のために動く。多くの人が関われば、思惑が交錯するのは当然だ。
何もなかったこの地も、次第に人で賑わい始める。今ではちょっとした町に見えなくもない。同盟軍によって運ばれたCAMも勢揃いし、静かに実験の時を待った。
そんな最中、見張り役の男が叫ぶ。
「北東から雑魔の群れが出現! その数100を越えます!」
それを聞いた首脳陣の顔色が変わった。
「バタルトゥ殿、この数の襲撃は自然な数と言えますかな?」
「……群れを成して行動するのは見かけるが……、この数は……異様だ」
予想された答えとはいえ、こうもハッキリ言われると辛い。
しかし、二の句は早かった。
「CAMは……投入できないのか……?」
敵の襲来で張り詰めた空気が、期待と不安の入り混じったものに変化した。
「今回の肝は改修したエンジンの稼動実験だ。実戦でデータを取る予定はない」
「とはいえ、いずれは敵を相手にするのだ。道理を語っている場合ではないぞ」
雑魔退治にCAM投入を希望するのは推進派の面々だが、彼らは慎重派を押し切るだけの決定的な材料を持っていた。
実はCAMのデモンストレーション用として、これまでの作戦に投入された際の挙動を披露するべく、貴重な特殊燃料をサルヴァトーレ・ロッソから少量ながら預かっていた。短時間の運用であれば、雑魔退治に差し向けても問題ないというのが彼らの主張である。
「だが、できればCAMに負担を与えたくないし、雑魔も近づけたくはないというのも本音だ」
「ならば……ハンターの手を借りるしかない、だろうな……」
結局、ハンターとCAMの共同作戦として、雑魔の群れを撃破することになった。
●
この少し前のこと。
「なるほど、良く出来ているわね……」
同盟軍報道官メリンダ・ドナーティ(kz0041)は、見慣れない光景に小さく感嘆の声を漏らす。
『中尉、乗り心地は如何ですか』
「思ったより揺れないんですね。驚きました」
通信の具合も上々だ。
メリンダが居るのは、CAMとしては旧式タイプのドミニオンMk.IVのコクピットだ。地上7m程の高さで移動する視点というのは、中々にエキサイティングである。
稼働実験に協力するのと引き換えに、同盟軍は機体についての取材を申し入れた。優れた兵器に対して、軍が興味を持つのは当然と言えるだろう。
表で裏で様々な交渉がなされ、軍はCAMについて取材する許可を得た。
その結果、現時点での同盟軍の所有する兵器については一通りの知識があり、尚かつ女性でも操縦できるかの確認も可能という理由で、担当を命じられたのがメリンダだったのだ。勿論、レポートは後に同盟軍内部での資料として使われる。
メリンダも士官学校時代に魔導トラック等の運転の訓練は受けており、機械が不得手という訳ではない。
だが、それとは全くシステムの違うCAMの挙動は、正に驚きの連続だった。この点はメリンダの乗った機体を眺めている軍の関係者にしても同様だろう。興味津々で双眼鏡を代わる代わる覗いている。
「そろそろ戻りますね。と、その前に……」
メリンダがモニターで確認すると、CAMが戻るべきハンガーの前には軍関係者を含め、かなりの人々がいた。
「申し訳ありませんが、念の為にハンガー周辺の人を退避させて……」
そこまで言いかけると、コクピット内にけたたましいアラームが鳴り響く。
「……なんですって!!」
なんとこの場に向かって、雑魔の集団が接近しつつあった。
コクピットには次々と情報が提示される。雑魔の集団がこの機体周辺に辿りつくまでに、それ程時間はかからないだろう。
(この機体に何かあったら大変だわ……それに私は操縦に熟練している訳ではないし)
メリンダは機体を戻すべきだと判断した。
「テスト中断、帰還します。至急ハンガー周辺を……きゃっ!?」
がくん。
視界が揺れる。
無理な体勢で方向転換したCAMはバランスを崩し、片腕を支えに膝をついた姿勢でようやく止まった。
『大丈夫ですか、中尉!』
「すみません、直ぐに……」
低くなった姿勢で確認すると、こちらに近づく雑魔の集団は思いの外近い。
メリンダは覚悟を決めた。モニターを操作し、搭載火器を確認。そして、外部マイクで呼びかける。
『CAMはなんとしても無事に戻します! 申し訳ありませんが、ご協力をお願い致します!!』
顔面蒼白になっていた軍の関係者が、慌ただしく動きだした。
リプレイ本文
●
突然の歪虚の出現に、場は大混乱に陥っている。
CAMからの呼び掛けに、群衆の中のハンター達はすぐに反応した。
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、ぷうっと頬を膨らませる。
「こういう時に限って湧いてくるんだからっ! 空気を読もうよっ」
歪虚に対し無駄な苦情を述べつつも、ソフィアの行動は早かった。手近の軍関係者を捕まえて問いただす。
「ねえ、通信施設は何処にあるのっ?」
教わった方角へ、猛然と走り出した。まずはCAMの操縦士と連絡を取らねばならないと思ったのだ。
その間にも右往左往する見学者の中を突っ切り、宮前 怜(ka3256)は軍関係者の一団の前に躍り出る。
「この人数の一般人を対処するには流石に人手が足りん。もしも犠牲者が出ればそっちも困るだろう?」
彼らも軍人である以上、既に事態を収拾すべく動き出している。ただその目はCAMを歪虚から守ることに向いていたのだ。
「あいつらはハンターが対処する。だから一般人の保護を頼みたい」
一団の中で最も階級が高いと思われる男が傍のひとりに何事か囁く。その男が頷くと怜の元へやって来て、説明した。
「今、援軍を要請しました。ひとまずはあのコンテナが空いていますので、そちらに誘導するつもりです」
見れば頑丈そうな輸送用のコンテナで、この場の一般人が全員入る余裕がありそうだ。
「よし分かった。お前さんも一緒に来てくれ」
アイシュリング(ka2787)の銀の瞳が、少し険しい気配を帯びて巨大なCAMを見据えていた。
(CAMという物は良く分からないけれど、無機質で冷たい感じがするわね)
自然を愛しするアイシュリングには、あまり好ましく思えなかった。
けれど今後の戦いに必要な物だとは理解している。
「こうしてゴブリンが襲ってきたのが、その証拠ね……」
数といい、組織だった行動といい、どう考えても単なる偶然とは思えないタイミング。
(この場所を察知し、指示を与えている、更に上位の存在が何処かに…?)
だがアイシュリングはひとまず頭からその考えを追いだした。
「ゴブリンを近づかせるわけには、いかないわ」
マギスタッフを手にエルフの戦士は前へ進み出る。
「雑魔連中め……お約束というかタイミングが不気味だぜェ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)も、やはりそう考える。
だが意味を考えるのは全てが解決してからだ。五芒星の紋章が輝く拳銃を空に掲げ、大声をあげる。
「落ちつけ!!」
声と同時にホーリーライトの光が空へ向かって放たれ、混乱の中にある人々が振り向く。
目に入ったシガレットの顔は、できれば関わり合いになりたくないと思わせるような凄みのある笑みを浮かべていた。
「慌てず騒がず、避難にご協力お願いするんだぜェ。死にたかねえよなあ?」
すかさず、ルシオ・セレステ(ka0673)の柔らかな声が続く。
「彼が厳しく促すほど急いでいるんだ。大丈夫 私達が皆さんを安全な場所へ導きます……精霊と共に」
穏やかな青の瞳のエルフは、包みこむような眼差しで微笑んだ。
シガレットととの役割分担は成功し、人々は一応大人しくなる。
そこへ怜が戻って来て、コンテナへの避難を勧めた。ルシオは頷き、呼びかける。
「さぁ、此方へ」
心おきなく戦うには、場を整える必要がある。この場合、弱く雑魔と戦うこともできない人々がいてはハンター達も動きにくいだろう。
「大丈夫じゃ。皆は我らが守ってみせるぞ」
アルマ(ka3330)がにっこりと笑いかける。見た目は可愛い少女だが、自分の身長の倍近くもある大剣を軽々と肩にかついだ姿は実に頼もしい。
数人の軍人が先導する一団を守る様にして、ハンター達はコンテナ目指して移動を始めた。
司令所に辿りついたソフィアは、CAMとの通信を依頼する。
「わたしはソフィア =リリィホルム、協力を要請されたハンターですっ。CAMとの連携をお願いしたいですっ」
緊張は隠しようもないが、落ちついた女の声が応じた。
『メリンダ・ドナーティです。ご協力に感謝します』
短いやり取りで、メリンダの状況が分かった。体勢を立て直せば、戦闘にも加われそうだ。
だが、随時の通信はこことCAMとの間でしか無理らしい。リアルブルーでは宇宙空間での行動を視野に入れたCAMは気密性が高く、トランシーバーでの通信も難しかった。
「じゃあ準備ができたら協力するから教えてねっ。こっちで分かることがあったら、なんとかして合図するよっ!」
ソフィアはメリンダを元気づけるようにそう言って、また大急ぎで外へと駆けて行った。
メリンダは操縦席で、大きく深呼吸する。外部マイクの拾う音は周囲の混乱を伝えて来た。
気にはなるが、多くのハンター達が協力してくれている。外の事は彼らに任せるしかないのだ。
自分のやるべきこと、そして自分しかやれない事に専念するしかない。
「外部カメラの調整方法をお願いします」
倒れたりしなくとも、この巨体が1歩踏み出すだけで、近くの人や物が危険に晒される。
メリンダは慎重にコントローラーを操作して行く。
内部での苦闘は外からは見えず、なかなか動かないCAMは恐らくもどかしい程だったろう。
すぐ傍に辿りついた静架(ka0387)は、しばし膝をついたCAMを普段通りの無表情で眺めていた。
その心中には、リアルブルーでの戦いの日々が甦る。
「久々に見ました。こいつが出てくると戦況がひっくり返されるから、苦手でしたね……」
だが、味方になれば心強いことこの上ない。
小柄なミルフルール・アタガルティス(ka3422)から見れば、その巨体は一層大きく見える。
「これがCAMと言うものか? 大きいのぅ」
半ば開いた口から、呆れたような声が漏れた。だがいつまでも見学している訳にも行くまい。
敵が近付いて来る方角を見るが、さっぱり良く分からない。手をかざし、つま先立ちで精一杯背伸びしてみるが、やはり見えない。
「うむ……見えぬ! そこな御仁、少々頼みたい事があるが」
「何か御用でしょうか? て、なんですか!?」
「丁度良い、肩を貸していただきたい」
当人の許可を得るより先に、ミルフルールは勝手に静架の肩によじ登ってしまった。
「あの、自分を物見台に使わないで下さい」
「おぉ、あれか。ひぃ、ふぅ、みぃ……いっぱいだな!」
静架の抗議に耳を貸さず、ミルフルールは視界に捉えた敵の数を数えた。が、残念なことに、片手以上は『沢山』で済まされてしまった。
「どこから来てどこへ向かうのか、見極めが重要ですね……」
肩からミルフルールが降りるのを助けながら、静架が呟く。しかしその時にはもう、ミルフルールは斧を担いで矢のように飛び出していた。
「では、参ろうぞっ! 一番槍の誉れはゆずれんのだ!!」
「って、言ってる傍から突っ込まないで下さいよっ!!」
見ていられなくなり、静架も仕方なく後を追う。
(元気なお嬢さんですね……)
マスクで半ば覆われた静架の顔は、彼にしては珍しく微笑を浮かべていた。
●
ゴブリンの集団は、既に肉眼で確認できる程近付いている。総勢30体程か。
「はは。さっすが、連中もCAM見学か、大人気じゃないか。こんなにファンが集まるんだもの、あっち側もそれだけ気にしてるんだろうね」
まるで他人事のような口ぶりで、南條 真水(ka2377)が小さく笑った。分厚い眼鏡に阻まれ、その目が実際はどんな表情をしているのかは判らない。
神楽(ka2032)は思わす空を仰いだ。
「会場警備の楽な仕事の筈だったんすけど。ついてないっすね~」
「数が多いな……だが、押される訳には行かん。確り食い止めさせて貰うぞ」
ライナス・ブラッドリー(ka0360)は儀式のような仕草で、咥えていた煙草を唇から離してもみ消した。
神楽は帰ったら追加料金を請求してやろうかなどとぶつぶつ言いつつも、愛馬の背に跨り前方を見据える。
「はぁ~、食い止めてやるからとっとと避難するっす! CAMの方も急ぐっすよ」
「余り単騎で突進するなよ。囲まれるぞ」
ライナスの一応の注意に、神楽が手を振って応え馬を進ませた。
馬上で魔導銃を構え、先鋒のゴブリンが射程内に入ったところで先制の一発。
あわよくば相手の出鼻をくじき、少しでも数を減らそうと思ったのだが、距離があり過ぎて全く当たらなかった。
それでも足元を狙って来る銃弾には、敵も多少は慎重になる。
神楽は味方が体勢を整えるまで、出て来る敵を押さえることに専念した。
取り回しの良い短めの戦槍を構えつつ、 レイス(ka1541)は眉をひそめる。
「踊らされるのも癪だが……そうも言っていられる状況ではない、か」
CAMの機動実験が行われているこのタイミングでのまとまった数の敵の出現には、何らかの意図があるように思えてならない。
(威力偵察の心算か。歪虚共め)
レイスの全身を一瞬黒い炎が覆い尽くす。それが消えた頃には歪虚に対する憎しみ、怒りの感情は、静かな意思に変わっていた。
歪虚の侵攻に怯える人々を守らねばならない。
レイスは瞬脚で突進し、歪虚との距離を一気に詰めて行く。
神楽によって頭を押さえられた敵は、陣形を整えて迎え討とうと待ち構えていた。
漠然と突っ込んで来ている訳ではないらしく、2つのグループに分かれ、そのうちの一隊が前に展開している。
「しっかりついて来るのだぞ」
レイスは不意に、敵の前方を掠めるようにして左へ曲った。隊列を為していた敵が、レイスを追おうとする前方とその意図が分からない後方とに別れて乱れる。
レイスを追った数体のゴブリンは、後続のハンター達に側面を晒す結果になった。
ヤナギ・エリューナク(ka0265)はそのタイミングを逃さず、進み出る。背後にCAMを庇うように右側から接近し、隊列を乱したゴブリンを狙う。
「これ以上邪魔はさせねェゼ? 1体残らず片付けてやらぁ」
不意をつかれたゴブリンが体勢を整える前に、1体の喉元目がけて容赦なく刃を繰り出す。だが、ゴブリンは咄嗟に剣を握った腕で庇った。
「ハッ、楽しませてくれるじゃねェか。だがその腕はもう使えねェな?」
金色の目を細め、ヤナギはユナイテッド・ドライブ・ソードを構え直した。
次撃を繰り出すヤナギの足元を、別のゴブリンが剣で薙ぐ。1体ずつならさほど脅威に値しないが、敵の数が多い。回避する先にも別のゴブリンがいて上手く避けきれない。ヤナギの腿から鮮血が迸った。
「いかんな。向こうは乱れてはいるが、数が多い」
CAMを守る様に後方に位置するライナスからは全体が良く見える。愛用の猟銃を構え、ヤナギに迫るゴブリンの足元を狙う。
例え狙い通りに当たらなくとも僅かでも隙ができれば、ヤナギは敵の攻撃をかわすだろう。
「さて、南條さんも雑魚退治ぐらいならがんばろうかな」
真水が射程限界まで進み、純白の機動杖を構える。機動砲の白い光が剣の形となって宙を切り裂いた。
光の剣はヤナギに迫るゴブリンの首の付け根を掠め霧散する。だが、おびただしい体液を撒き散らしながらも、ゴブリンはまだ倒れない。
一歩下がった真水はそれを確認し、頭を掻きつつライナスを見た。
「うむ、一発では無理か。えらくタフだね」
こうなったら連携で、確実に数を減らす方が得策だろう。テトラ・ティーニストラ(ka3565)が真水の前に出る。
「やはー! じゃあ足並み揃えて敵を迎撃するよっ!」
遠足にでも来たような明るい声だが、攻撃は容赦ない。
神秘的な輝きを放つ緑の髪と青いマフラーがふわりと浮きあがると、手裏剣「朧月」が手元を離れる。一瞬その軌道は視界から消え、気がつけば真水がダメージを与えたゴブリンの膝を砕いていた。
倒れたゴブリンに、瞬脚で近付いていたウル=ガ(ka3593)が銃撃、止めを刺してまた離脱する。
「……俺の実力では一発でゴブリンを沈めることは難しい、からな」
テトラが歓声を上げた。
「いい感じっ! この調子でいくよっ!」
「私もお手伝いします」
エミリー・ファーレンハイト(ka3323)が下がるウル=ガを追うゴブリン目がけて、機動砲を放った。
「父が言っておりました。敵と男は、充分引き付けてから仕掛ければ簡単に落とせるもんだ。そして婿を……と」
あくまでも真面目な顔でエミリーが頷くと、ライナスが思わず肩を竦めた。
「立派な親父さんだな」
それぞれが攻撃を仕掛けては離脱、敵を翻弄し確実に仕留めて行く。
背後にはCAM、そして一般人がいる。ここを通すわけにはいかない。
混乱した状況で1体、また1体とゴブリンが倒れる。
「……数が多ければ勝てる等と、馬鹿な事を。それが間違いであることを性根に刻んでくれよう」
ウル=ガは混乱する敵の間を移動し、負傷し動きの鈍ったゴブリンに止めを刺そうと近づいた。
デリンジャーを向けた瞬間、軽い衝撃を感じてウル=ガは飛び退る。レザーアーマーの上から棍棒で力任せに胴を殴られていた。
「成程、そう来たか」
殴りつけてきたゴブリンは、負傷したゴブリンを庇うように回り込む。
それまで個々に動いていたゴブリン達が、2体1組になって互いを補い始めていた。
レイスはゴブリン達を再び動揺させるべく、仲間が攻撃を仕掛けたところで反転し攻撃を仕掛ける。
その繰り返しにも乗って来なくなる。敵はレイスを牽制しつつ主な攻撃は前方へ集中し、前進しつつあった。
「ただのゴブリンの知能ではないな」
繰り出されるゴブリンの槍をいなし、レイスは一度距離を取った。
――ゴブリンを指揮する存在は、間違いなくある程度の知能を持っている。
●
5体程のゴブリンを倒しただろうか。
こと切れた敵の姿は霧散してしまったので、確実なところは分からない。
「しかし数が多いっすね~」
そう神楽がぼやくのも無理はない。敵は数に物を言わせて、じりじりとこちらへ押してくる。
「まぁ地道にやってくっす」
神楽の魔導銃がゴブリンの足元を撃ち抜き、1体のゴブリンが団体から脱落した。
「ボクはこの数の不利を何とか覆してみせるよ!」
すかさずユーリィ・リッチウェイ(ka3557)が、倒れたゴブリンを狙い撃つ。
ダメージの度合いが分からない以上、どうせなら後顧の憂いも断っておいた方が良いと考えたからだ。銃弾はゴブリンの腕を掠め、立ち上がることを許さない。
「ここは、通さんよ?」
ミルフルールが長い斧を両手で支え、当たるを幸いに振り払う。というより、握ったまま回転している。
「奥義鮮血華弁陣(ブラッディ・フルール)っ!」
謎の技名を叫びつつ回転したまま敵へと接近、斧は見事ゴブリンの脚の付け根を深々と抉った。
だがこの攻撃が長く続くはずもない。
「いかん、目が廻ったのだ……」
既に重い斧に自分が振り回されているような状態では、まともに戦えるはずもない。
「ふぎゃっ!?」
ゴブリンの棍棒がしたたかにミルフルールを殴りつけた。吹き飛ばされる小さな体を、静架が受け止める。
「無茶をしすぎですよ」
「かたじけないのじゃ……」
小脇に抱えられ、ミルフルールはそれでも斧をしっかり握りしめていた。
絶え間ない連携攻撃に、敵がまばらになる。隙間から見えるのは他のゴブリンとは種類の異なる、斧を担いだゴブリンソルジャーだ。
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は馬の首をそちらへ向ける。
「あれがこの班の指揮官か」
「みたいね!」
Jyu=Bee(ka1681)は守りの構えで防御を固めつつ、こちらも馬を準備する。
「支援します」
ホーリーメイスを携え、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が狙いを定める。
3人が互いに頷き合ったかと思うと、2騎が一気に駆け出した。敵に遭遇するタイミングと斜線を見定め、ユキヤはホーリーライトで壁になっているゴブリンを狙う。その隙に騎乗の2人が距離を詰めて行く。
「ジュウベエちゃんが侍ソウルを見せてあげる! エルフ新陰流、受けられる者なら受けてみなさい!!」
気分は戦場を駆けるリアルブルーの侍。だが当人に正確な知識がある訳ではない。それでもこの場合、主が恐れていては乗馬にもそれが伝わるだろう。意気高くJyu=Beeは突進む。
リカルドと共に一気に射程内まで突っ込み、構えたライフルを乱射して敵の気を引きつけようと試みた。
(ちょっとでも知能があるなら、攻撃を仕掛けた相手に反撃ぐらいはするよね!)
リカルドは取り回しの良い短銃身ライフルを選んだ。ゴブリンソルジャーに狙いを定め、引鉄を引く。
だが意外にも機敏な動きでかわされてしまう。
燈京 紫月(ka0658)は射程ギリギリの位置でデリンジャーを構え、威嚇射撃でソルジャーの気を逸らす。
「足止め、ぐらいは……僕にも、できるはずです……」
いつもは怯えたようにも見える表情はなりを潜め、紫と緑の淡い光に照らし出された顔立ちは毅然と前を見据えている。
その間にリカルドは一度馬を下げた。
(銃弾が通りにくいな、少しほぐしてやるか)
ライフルをモーニングスターに替え、感触を確かめるように握り直す。
「硬いなら砕けば柔らかくなるだろ」
料理人らしい表現で、リカルドは攻めの構えを発動。猛然とソルジャー目がけて突っ込んだ。
立ち塞がる1体のゴブリンの脛をすれ違いざまに叩き折るや、鈍器を振り上げソルジャーと対峙する。
が、その時にはゴブリンソルジャーも斧を構えていた。
リカルドはモーニングスターを巧みに操り、すぐさま敵の脇腹目がけて叩きつけるが、それとクロスするように斧の斬撃が軸足を襲う。
「ちょっと、私を無視しないでよ!!」
リカルドを補佐しようとJyu=Beeが近付く。
「た、大変、なのです!」
紫月が思わず悲鳴のような声を上げた。集団の中にもう1体、ゴブリンソルジャーが見えたのだ。しかもそいつは弓を構えて、Jyu=Beeを狙っている。
「気がついて、くださいっ!!」
強弾に祈りを籠め、弓ソルジャー向けて放つ。だが弾が届くより先に、矢は宙へ。
最悪の事態を想定し、紫月の顔が色を失う。矢はJyu=Beeの頭部めがけて飛んで行く。
「ひゃあっ!?」
Jyu=Beeが素っ頓狂な声を上げた。頭に当たった矢は、ギリギリ帽子を射抜いていたのだ。
「ちょっと、失礼ね! 落ち武者になっちゃうところじゃないの!!」
ぷんすか怒りながら、ライフルをまた乱射する。
「ヘイヘイヘイ、そんなヘナチョコな攻撃で、このジュウベエちゃんに当たるとでも思っているの?」
この班全体を相手取るには、味方の手数が足りなかった。ひとまずは自分が囮となって目を引き、敵の進路を少しでもCAMから逸らすしかない。
Jyu=Beeの無事な姿に、紫月が胸を撫で下ろした。
「よ、良かった……いや、良くないの、です!」
慌てて確認すると、負傷したリカルドはユキヤの援護で戦線を離脱していた。
「大丈夫ですか。傷をみせてください」
ユキヤは穏やかな微笑を崩さないまま、赤に染まるリカルドの脚をヒールで癒して行く。
「すまんな、助かる」
「いえ。お役に立てたのなら良かったです」
立ち上がったリカルドは、再び敵を見据えた。
「今度こそ仕留めてやる」
一団は益々CAMとの距離を縮めつつある。
●
ヤナギが忌々しげに舌打ちする。
「チッ、ドジったぜ」
脚に負った傷は、フランシスカ(ka3590)が癒してくれた。
「これで大丈夫なはずですが、まだ痛みますか」
抑揚のない淡々とした声でそう言うと、ヤナギの顔色を観察する。
「大丈夫だ。恩に着るぜ」
ニヤリと笑って見せ、ヤナギは再びゴブリンに対峙する。
「今度はドジったりしねェ」
フランシスカも立ち上がりバスターソードを構える。
「急な依頼ですが、お仕事には変わりありません。接近されすぎる前に、食い止めます。――行きます」
剣を振り抜くと、漆黒の魔法の塊が最も接近している2体のゴブリン目がけて飛んで行く。黒塊はゴブリンの足を打ち、僅かにその侵攻を抑える。だがその間に、別のゴブリンが脇を抜けて来た。
テトラはその方向に躊躇うことなく身を晒す。
「いつもよりちょーっとだけ必死になっちゃうよ! 閃いて、碧の風ッ!」
マルチステップの発動で身軽になったテトラだったが、ゴブリンの槍は鎧の隙間を的確に貫いた。
「くっ……! でも、ここは抜かせないっ!!」
「お手伝いします」
エミリーが回り込むと、威力を増した手裏剣でゴブリンの胴を狙った。
頑丈なゴブリンには大したダメージはなさそうだったが、ここは少しでも時間を稼ぎたい。
「CAMには近づかせませんよ」
踏ん張る二人に、ライナスが呻く。
「無茶をする!」
次撃の構えを見せるゴブリンの頭を狙い撃ち、援護する。
その時、CAMからメリンダの声が響いた。
『お待たせしました、動けます!』
姿勢を立て直したCAMは、今やしっかりと地面を踏みしめていた。
通信施設から戻っていたソフィアがCAMの前に立ち、機動砲で斜線を描いて見せる。
「この方向、退避してっ!!」
光軌が描く意味を悟り、レイスが呟いた。
「……CAMが動く?」
戦槍を強く繰り出し、敵を怯ませた隙を見て一度下がる。
ソフィアはCAMの構えたガトリングガンに攻性強化を与えた。
「さあ、どんな風になるのかなっ!」
思いの外滑らかな動作だった。CAMは人間そのものの動きで、銃器を構える。
その高さから見えたのは、今戦闘している集団の後方に控える別の集団だった。
近くに味方がいないことを確認し、メリンダはコントローラーを操作する。
「当たって……!!」
辺りに響く銃声。後方のゴブリン集団の一角が一瞬で崩れた。
歓声を外部マイクが拾い、コクピットのメリンダにもその声は届いた。
けれどメリンダの表情は険しい。
(これは……大変なことになるんじゃないかしら)
軍隊は強力な武器を欲する。CAMは恐らく、今後の戦況を変えるだろう。
だがこの銃口がもし、こちらを向いたときはどうなるのか……。
メリンダはその考えを追い出すように強く頭を振り、外に呼びかける。
「後方の集団に気をつけてください。ゴブリンメイジです」
岩井崎 旭(ka0234)は愛馬サラダをそちらへ導く。
「とりあえず時間は稼いで……いや、そのまま倒してくるわ」
不敵な言葉と共に疾風怒濤の突進。
「始まったか」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)も愛馬を駆り、わざと目を引くように後方の集団へと向かう。
その姿を見送り、カダル・アル=カーファハ(ka2166)は別方向へと移動する。
「メイジを守るゴブリンは捨て駒だろうしな」
弓の射程なら、旭が敵を引きつけているうちにメイジを狙える。
この集団の目的がCAM、護衛が多少減ろうとも前進を続ける筈だ。
「CAMに近づかせるなっつうことなら、メイジの気を散らしてやるとしよう」
「少しよろしいですか」
振り向くと、穏やかな微笑を浮かべたエミリーがいた。
「少しでも力になれれば嬉しいです」
カダルの弓が一瞬、光を纏う。攻性強化だ。
無表情のままカダルが小さく頷き、進み出る。
前方の集団を大きく迂回し、メイジの姿を視認できる位置を探すつもりだ。
戦闘の激しい物音に、コンテナの壁が震えた。
全員が中に入った後も、怜はコンテナの上から周囲を警戒する。同盟軍の兵士もコンテナの出入口付近を守ってくれていた。
今の所、敵はCAMだけを狙っている。迅速な避難誘導が功を奏し、一般人に害が及ぶことはなかった。
だが壁の向こうに何があるか分からない状況では、激しい物音は恐怖を掻きたてる。
「こんなところで死ぬのはごめんだ! 外に出してくれ!!」
コンテナの内部にそんな叫び声が響く。その声に驚き、子供が泣き出した。
シガレットは子供の頭を優しく撫でてから、叫んだ人物に近付き肩を掴んだ。
「誰だって死にたかねェと思うぜ。外の俺達の仲間もだ」
プロテクションの柔らかな光が相手を包む。この場合、実際の効果は皆無だろう。だがとにかく落ちつかせなければならない。
「大丈夫です。今の音はこちらの攻撃の音……」
トランシーバーを通してソフィアからもたらされる戦況を、ルシオの柔らかな声が簡単に告げる。
何が起きているのか分からないことが恐ろしいのだから、伝えれば落ちついてくれるはずだ。
ルシオが手にしたライトの灯が、穏やかに微笑む姿をどこか神秘的に浮かび上がらせている。
(皆、頑張って。回復は後で幾らでもするよ)
外の仲間を気遣いながらも、それとは気付かせない。
アルマはルシオの声が途切れた合間に、オカリナを吹く。
(皆の心がこれで少しでも収まると良いがの)
労わるような調べに乗せて、アルマの心がコンテナの中に響いて行った。
●
ルトガーが怯える馬の鼻面を優しく叩いた。
「よしよし、ここまでよく頑張ったな。少しここで待っていろ」
敵の目前に突っ込み、逃げ出すようにここまで駆けてきた。馬は本来優しい生き物で、戦闘には向かない。
物音に驚いて逃げ出さないよう、木にしっかりと繋いでルトガーはその場を離れた。
「それにしても、折角CAMを見学に来たというのに。まったく不粋なゴブリンどもだ」
物陰から覗くと、旭が敵の崩れた一角へ容赦なく攻め込むところだった。
ルトガーはそれを確認し、防御障壁で自分の守りを固める。
「キツいお仕置きをくれてやろうじゃないか」
旭に注意が向いた敵の背後を狙って、身を低くして飛び出した。
旭は接近すると同時に、目の前のゴブリンをノックバックの一撃で弾き飛ばす。
「次の指示は出させねぇッ!」
メイジは目の前だ。護衛のゴブリンは10体。そいつらは集まり、壁となってメイジを守る。
「雑魚に用はねぇ、どいてろ!!」
だが闘うことしか知らないゴブリン達は、只管メイジを守ろうと代わる代わる突っ込んでくる。
メイジは粗末な杖を振りかざし、魔法の光弾を旭めがけて叩きつけた。
が、旭はそれを軽くかわしてしまう。
「当たるかよ!」
だが突き出される槍は多く、邪魔で仕方が無い。
そこに突然、空から飛来した物があった。カダルの矢だ。
「流石に一矢で撃破、という訳にはいかんか」
不愉快そうに眉をしかめたカダルの目の前で、頭から血を流したメイジがよろめきながらも踏みとどまる。
更にルトガーが到着。
「おい、後ろがガラ空きだぞ」
突然のエレクトリックショックに、ようやく立ち上がったメイジの身体が硬直する。
旭を恐れる余り、意識も護衛の厚みもそちらに向いていたのだ。
2体1組のゴブリンがそれぞれ、カダルとルトガーの方へと槍を構えて突進。が、ルトガーの眼前ではその動きが不意に鈍った。
「遅くなったわ。巻き込まないタイミングを計っていたので」
アイシュリングが必要最低限の説明をした。スリープクラウドが上手くゴブリンに効いている。
「有難い。この隙に雑魚を片付けるとしよう」
ルトガーも短く答え、ゴブリンに銃撃を浴びせる。
旭は戦槍を振り上げ、メイジを一喝した。
「喰らえ!」
身動きの取れないメイジを更にブロウビートで威嚇する。それから戦槍に力を籠め、メイジ目がけて踏みこんだ。
既に護衛は少なく、メイジの動きは鈍い。旭の槍をどうにか逸らすのが精いっぱいである。
「いいぞ、このまま突き抜けるッ!」
体ごとぶつかる様に旭が繰り出した槍の先で、メイジゴブリンの姿が砂のように崩れていく。
「ハハッ、後は雑魚だけだぜ!」
メイジまで充分な距離を取っていたカダルにゴブリンが殺到する。持ち替えた銃で1体を倒す間に別の1体が接近し、カダルの足を槍で貫いた。
だがカダルは表情一つ変えることなくゴブリンを撃つ。
「……刃物で直接、叩き斬る感触が好きだが、この銃の破壊力もなかなか……」
砂が崩れるように霧散するゴブリンの身体を前に、カダルの口元には薄い笑みが浮かんでいた。
アイシュリングとルトガーも、半ば自棄の様なゴブリンの攻撃を受けつつも、それらを順に倒していく。
メイジが倒れたことで、ゴブリンソルジャーの動きにも動揺が見えた。
「さーて、後はゆっくり料理しちゃおうかな!」
CAMの攻撃に備えて距離を取っていたJyu=Beeが、嬉々としてライフルを構えた。
突出を控えていたユキヤも、ここが好機と見て掃討に移る。
Jyu=Beeを待ちうけるソルジャーの側面からホーリーライトを当てて姿勢を崩してやると、相手はその勢いによろめいた。
ライフルを避ける暇などなく、ソルジャーの1体が倒れる。
「あの、巻き込まないように、が、がんばります!」
言葉こそ控え目だが、紫月の攻撃は熾烈だった。移動を捨て、狙いを定めると強力な一撃がソルジャーの腕をもぎ取っていく。
「さっきの礼だ。最期に受け取れ」
リカルドの重い一撃に、ついに残る1体も霧散した。
「……仕事としちゃあこんなもんだな」
リカルドはモーニングスターを肩に担いで周囲を見渡した。無事なゴブリンの姿はもう見当たらない。
ただあるのは、CAMの巨体。
「本物はロッソでも見たことなかったな」
共に船に乗りこの世界に来た筈だが、民間所属だったリカルドには初めて見る姿だ。
今、そのコクピットが開くところだった。
メリンダは地上に降り、まずハンター達に礼を述べた。
「ご迷惑をおかけしました。けれど皆様のお陰で、CAMもこの場に居た見学者も全員無事です。ご協力に感謝いたします」
内面の疑念を一切感じさせない、同盟軍報道官の微笑がそこにあった。
<了>
突然の歪虚の出現に、場は大混乱に陥っている。
CAMからの呼び掛けに、群衆の中のハンター達はすぐに反応した。
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、ぷうっと頬を膨らませる。
「こういう時に限って湧いてくるんだからっ! 空気を読もうよっ」
歪虚に対し無駄な苦情を述べつつも、ソフィアの行動は早かった。手近の軍関係者を捕まえて問いただす。
「ねえ、通信施設は何処にあるのっ?」
教わった方角へ、猛然と走り出した。まずはCAMの操縦士と連絡を取らねばならないと思ったのだ。
その間にも右往左往する見学者の中を突っ切り、宮前 怜(ka3256)は軍関係者の一団の前に躍り出る。
「この人数の一般人を対処するには流石に人手が足りん。もしも犠牲者が出ればそっちも困るだろう?」
彼らも軍人である以上、既に事態を収拾すべく動き出している。ただその目はCAMを歪虚から守ることに向いていたのだ。
「あいつらはハンターが対処する。だから一般人の保護を頼みたい」
一団の中で最も階級が高いと思われる男が傍のひとりに何事か囁く。その男が頷くと怜の元へやって来て、説明した。
「今、援軍を要請しました。ひとまずはあのコンテナが空いていますので、そちらに誘導するつもりです」
見れば頑丈そうな輸送用のコンテナで、この場の一般人が全員入る余裕がありそうだ。
「よし分かった。お前さんも一緒に来てくれ」
アイシュリング(ka2787)の銀の瞳が、少し険しい気配を帯びて巨大なCAMを見据えていた。
(CAMという物は良く分からないけれど、無機質で冷たい感じがするわね)
自然を愛しするアイシュリングには、あまり好ましく思えなかった。
けれど今後の戦いに必要な物だとは理解している。
「こうしてゴブリンが襲ってきたのが、その証拠ね……」
数といい、組織だった行動といい、どう考えても単なる偶然とは思えないタイミング。
(この場所を察知し、指示を与えている、更に上位の存在が何処かに…?)
だがアイシュリングはひとまず頭からその考えを追いだした。
「ゴブリンを近づかせるわけには、いかないわ」
マギスタッフを手にエルフの戦士は前へ進み出る。
「雑魔連中め……お約束というかタイミングが不気味だぜェ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)も、やはりそう考える。
だが意味を考えるのは全てが解決してからだ。五芒星の紋章が輝く拳銃を空に掲げ、大声をあげる。
「落ちつけ!!」
声と同時にホーリーライトの光が空へ向かって放たれ、混乱の中にある人々が振り向く。
目に入ったシガレットの顔は、できれば関わり合いになりたくないと思わせるような凄みのある笑みを浮かべていた。
「慌てず騒がず、避難にご協力お願いするんだぜェ。死にたかねえよなあ?」
すかさず、ルシオ・セレステ(ka0673)の柔らかな声が続く。
「彼が厳しく促すほど急いでいるんだ。大丈夫 私達が皆さんを安全な場所へ導きます……精霊と共に」
穏やかな青の瞳のエルフは、包みこむような眼差しで微笑んだ。
シガレットととの役割分担は成功し、人々は一応大人しくなる。
そこへ怜が戻って来て、コンテナへの避難を勧めた。ルシオは頷き、呼びかける。
「さぁ、此方へ」
心おきなく戦うには、場を整える必要がある。この場合、弱く雑魔と戦うこともできない人々がいてはハンター達も動きにくいだろう。
「大丈夫じゃ。皆は我らが守ってみせるぞ」
アルマ(ka3330)がにっこりと笑いかける。見た目は可愛い少女だが、自分の身長の倍近くもある大剣を軽々と肩にかついだ姿は実に頼もしい。
数人の軍人が先導する一団を守る様にして、ハンター達はコンテナ目指して移動を始めた。
司令所に辿りついたソフィアは、CAMとの通信を依頼する。
「わたしはソフィア =リリィホルム、協力を要請されたハンターですっ。CAMとの連携をお願いしたいですっ」
緊張は隠しようもないが、落ちついた女の声が応じた。
『メリンダ・ドナーティです。ご協力に感謝します』
短いやり取りで、メリンダの状況が分かった。体勢を立て直せば、戦闘にも加われそうだ。
だが、随時の通信はこことCAMとの間でしか無理らしい。リアルブルーでは宇宙空間での行動を視野に入れたCAMは気密性が高く、トランシーバーでの通信も難しかった。
「じゃあ準備ができたら協力するから教えてねっ。こっちで分かることがあったら、なんとかして合図するよっ!」
ソフィアはメリンダを元気づけるようにそう言って、また大急ぎで外へと駆けて行った。
メリンダは操縦席で、大きく深呼吸する。外部マイクの拾う音は周囲の混乱を伝えて来た。
気にはなるが、多くのハンター達が協力してくれている。外の事は彼らに任せるしかないのだ。
自分のやるべきこと、そして自分しかやれない事に専念するしかない。
「外部カメラの調整方法をお願いします」
倒れたりしなくとも、この巨体が1歩踏み出すだけで、近くの人や物が危険に晒される。
メリンダは慎重にコントローラーを操作して行く。
内部での苦闘は外からは見えず、なかなか動かないCAMは恐らくもどかしい程だったろう。
すぐ傍に辿りついた静架(ka0387)は、しばし膝をついたCAMを普段通りの無表情で眺めていた。
その心中には、リアルブルーでの戦いの日々が甦る。
「久々に見ました。こいつが出てくると戦況がひっくり返されるから、苦手でしたね……」
だが、味方になれば心強いことこの上ない。
小柄なミルフルール・アタガルティス(ka3422)から見れば、その巨体は一層大きく見える。
「これがCAMと言うものか? 大きいのぅ」
半ば開いた口から、呆れたような声が漏れた。だがいつまでも見学している訳にも行くまい。
敵が近付いて来る方角を見るが、さっぱり良く分からない。手をかざし、つま先立ちで精一杯背伸びしてみるが、やはり見えない。
「うむ……見えぬ! そこな御仁、少々頼みたい事があるが」
「何か御用でしょうか? て、なんですか!?」
「丁度良い、肩を貸していただきたい」
当人の許可を得るより先に、ミルフルールは勝手に静架の肩によじ登ってしまった。
「あの、自分を物見台に使わないで下さい」
「おぉ、あれか。ひぃ、ふぅ、みぃ……いっぱいだな!」
静架の抗議に耳を貸さず、ミルフルールは視界に捉えた敵の数を数えた。が、残念なことに、片手以上は『沢山』で済まされてしまった。
「どこから来てどこへ向かうのか、見極めが重要ですね……」
肩からミルフルールが降りるのを助けながら、静架が呟く。しかしその時にはもう、ミルフルールは斧を担いで矢のように飛び出していた。
「では、参ろうぞっ! 一番槍の誉れはゆずれんのだ!!」
「って、言ってる傍から突っ込まないで下さいよっ!!」
見ていられなくなり、静架も仕方なく後を追う。
(元気なお嬢さんですね……)
マスクで半ば覆われた静架の顔は、彼にしては珍しく微笑を浮かべていた。
●
ゴブリンの集団は、既に肉眼で確認できる程近付いている。総勢30体程か。
「はは。さっすが、連中もCAM見学か、大人気じゃないか。こんなにファンが集まるんだもの、あっち側もそれだけ気にしてるんだろうね」
まるで他人事のような口ぶりで、南條 真水(ka2377)が小さく笑った。分厚い眼鏡に阻まれ、その目が実際はどんな表情をしているのかは判らない。
神楽(ka2032)は思わす空を仰いだ。
「会場警備の楽な仕事の筈だったんすけど。ついてないっすね~」
「数が多いな……だが、押される訳には行かん。確り食い止めさせて貰うぞ」
ライナス・ブラッドリー(ka0360)は儀式のような仕草で、咥えていた煙草を唇から離してもみ消した。
神楽は帰ったら追加料金を請求してやろうかなどとぶつぶつ言いつつも、愛馬の背に跨り前方を見据える。
「はぁ~、食い止めてやるからとっとと避難するっす! CAMの方も急ぐっすよ」
「余り単騎で突進するなよ。囲まれるぞ」
ライナスの一応の注意に、神楽が手を振って応え馬を進ませた。
馬上で魔導銃を構え、先鋒のゴブリンが射程内に入ったところで先制の一発。
あわよくば相手の出鼻をくじき、少しでも数を減らそうと思ったのだが、距離があり過ぎて全く当たらなかった。
それでも足元を狙って来る銃弾には、敵も多少は慎重になる。
神楽は味方が体勢を整えるまで、出て来る敵を押さえることに専念した。
取り回しの良い短めの戦槍を構えつつ、 レイス(ka1541)は眉をひそめる。
「踊らされるのも癪だが……そうも言っていられる状況ではない、か」
CAMの機動実験が行われているこのタイミングでのまとまった数の敵の出現には、何らかの意図があるように思えてならない。
(威力偵察の心算か。歪虚共め)
レイスの全身を一瞬黒い炎が覆い尽くす。それが消えた頃には歪虚に対する憎しみ、怒りの感情は、静かな意思に変わっていた。
歪虚の侵攻に怯える人々を守らねばならない。
レイスは瞬脚で突進し、歪虚との距離を一気に詰めて行く。
神楽によって頭を押さえられた敵は、陣形を整えて迎え討とうと待ち構えていた。
漠然と突っ込んで来ている訳ではないらしく、2つのグループに分かれ、そのうちの一隊が前に展開している。
「しっかりついて来るのだぞ」
レイスは不意に、敵の前方を掠めるようにして左へ曲った。隊列を為していた敵が、レイスを追おうとする前方とその意図が分からない後方とに別れて乱れる。
レイスを追った数体のゴブリンは、後続のハンター達に側面を晒す結果になった。
ヤナギ・エリューナク(ka0265)はそのタイミングを逃さず、進み出る。背後にCAMを庇うように右側から接近し、隊列を乱したゴブリンを狙う。
「これ以上邪魔はさせねェゼ? 1体残らず片付けてやらぁ」
不意をつかれたゴブリンが体勢を整える前に、1体の喉元目がけて容赦なく刃を繰り出す。だが、ゴブリンは咄嗟に剣を握った腕で庇った。
「ハッ、楽しませてくれるじゃねェか。だがその腕はもう使えねェな?」
金色の目を細め、ヤナギはユナイテッド・ドライブ・ソードを構え直した。
次撃を繰り出すヤナギの足元を、別のゴブリンが剣で薙ぐ。1体ずつならさほど脅威に値しないが、敵の数が多い。回避する先にも別のゴブリンがいて上手く避けきれない。ヤナギの腿から鮮血が迸った。
「いかんな。向こうは乱れてはいるが、数が多い」
CAMを守る様に後方に位置するライナスからは全体が良く見える。愛用の猟銃を構え、ヤナギに迫るゴブリンの足元を狙う。
例え狙い通りに当たらなくとも僅かでも隙ができれば、ヤナギは敵の攻撃をかわすだろう。
「さて、南條さんも雑魚退治ぐらいならがんばろうかな」
真水が射程限界まで進み、純白の機動杖を構える。機動砲の白い光が剣の形となって宙を切り裂いた。
光の剣はヤナギに迫るゴブリンの首の付け根を掠め霧散する。だが、おびただしい体液を撒き散らしながらも、ゴブリンはまだ倒れない。
一歩下がった真水はそれを確認し、頭を掻きつつライナスを見た。
「うむ、一発では無理か。えらくタフだね」
こうなったら連携で、確実に数を減らす方が得策だろう。テトラ・ティーニストラ(ka3565)が真水の前に出る。
「やはー! じゃあ足並み揃えて敵を迎撃するよっ!」
遠足にでも来たような明るい声だが、攻撃は容赦ない。
神秘的な輝きを放つ緑の髪と青いマフラーがふわりと浮きあがると、手裏剣「朧月」が手元を離れる。一瞬その軌道は視界から消え、気がつけば真水がダメージを与えたゴブリンの膝を砕いていた。
倒れたゴブリンに、瞬脚で近付いていたウル=ガ(ka3593)が銃撃、止めを刺してまた離脱する。
「……俺の実力では一発でゴブリンを沈めることは難しい、からな」
テトラが歓声を上げた。
「いい感じっ! この調子でいくよっ!」
「私もお手伝いします」
エミリー・ファーレンハイト(ka3323)が下がるウル=ガを追うゴブリン目がけて、機動砲を放った。
「父が言っておりました。敵と男は、充分引き付けてから仕掛ければ簡単に落とせるもんだ。そして婿を……と」
あくまでも真面目な顔でエミリーが頷くと、ライナスが思わず肩を竦めた。
「立派な親父さんだな」
それぞれが攻撃を仕掛けては離脱、敵を翻弄し確実に仕留めて行く。
背後にはCAM、そして一般人がいる。ここを通すわけにはいかない。
混乱した状況で1体、また1体とゴブリンが倒れる。
「……数が多ければ勝てる等と、馬鹿な事を。それが間違いであることを性根に刻んでくれよう」
ウル=ガは混乱する敵の間を移動し、負傷し動きの鈍ったゴブリンに止めを刺そうと近づいた。
デリンジャーを向けた瞬間、軽い衝撃を感じてウル=ガは飛び退る。レザーアーマーの上から棍棒で力任せに胴を殴られていた。
「成程、そう来たか」
殴りつけてきたゴブリンは、負傷したゴブリンを庇うように回り込む。
それまで個々に動いていたゴブリン達が、2体1組になって互いを補い始めていた。
レイスはゴブリン達を再び動揺させるべく、仲間が攻撃を仕掛けたところで反転し攻撃を仕掛ける。
その繰り返しにも乗って来なくなる。敵はレイスを牽制しつつ主な攻撃は前方へ集中し、前進しつつあった。
「ただのゴブリンの知能ではないな」
繰り出されるゴブリンの槍をいなし、レイスは一度距離を取った。
――ゴブリンを指揮する存在は、間違いなくある程度の知能を持っている。
●
5体程のゴブリンを倒しただろうか。
こと切れた敵の姿は霧散してしまったので、確実なところは分からない。
「しかし数が多いっすね~」
そう神楽がぼやくのも無理はない。敵は数に物を言わせて、じりじりとこちらへ押してくる。
「まぁ地道にやってくっす」
神楽の魔導銃がゴブリンの足元を撃ち抜き、1体のゴブリンが団体から脱落した。
「ボクはこの数の不利を何とか覆してみせるよ!」
すかさずユーリィ・リッチウェイ(ka3557)が、倒れたゴブリンを狙い撃つ。
ダメージの度合いが分からない以上、どうせなら後顧の憂いも断っておいた方が良いと考えたからだ。銃弾はゴブリンの腕を掠め、立ち上がることを許さない。
「ここは、通さんよ?」
ミルフルールが長い斧を両手で支え、当たるを幸いに振り払う。というより、握ったまま回転している。
「奥義鮮血華弁陣(ブラッディ・フルール)っ!」
謎の技名を叫びつつ回転したまま敵へと接近、斧は見事ゴブリンの脚の付け根を深々と抉った。
だがこの攻撃が長く続くはずもない。
「いかん、目が廻ったのだ……」
既に重い斧に自分が振り回されているような状態では、まともに戦えるはずもない。
「ふぎゃっ!?」
ゴブリンの棍棒がしたたかにミルフルールを殴りつけた。吹き飛ばされる小さな体を、静架が受け止める。
「無茶をしすぎですよ」
「かたじけないのじゃ……」
小脇に抱えられ、ミルフルールはそれでも斧をしっかり握りしめていた。
絶え間ない連携攻撃に、敵がまばらになる。隙間から見えるのは他のゴブリンとは種類の異なる、斧を担いだゴブリンソルジャーだ。
リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)は馬の首をそちらへ向ける。
「あれがこの班の指揮官か」
「みたいね!」
Jyu=Bee(ka1681)は守りの構えで防御を固めつつ、こちらも馬を準備する。
「支援します」
ホーリーメイスを携え、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)が狙いを定める。
3人が互いに頷き合ったかと思うと、2騎が一気に駆け出した。敵に遭遇するタイミングと斜線を見定め、ユキヤはホーリーライトで壁になっているゴブリンを狙う。その隙に騎乗の2人が距離を詰めて行く。
「ジュウベエちゃんが侍ソウルを見せてあげる! エルフ新陰流、受けられる者なら受けてみなさい!!」
気分は戦場を駆けるリアルブルーの侍。だが当人に正確な知識がある訳ではない。それでもこの場合、主が恐れていては乗馬にもそれが伝わるだろう。意気高くJyu=Beeは突進む。
リカルドと共に一気に射程内まで突っ込み、構えたライフルを乱射して敵の気を引きつけようと試みた。
(ちょっとでも知能があるなら、攻撃を仕掛けた相手に反撃ぐらいはするよね!)
リカルドは取り回しの良い短銃身ライフルを選んだ。ゴブリンソルジャーに狙いを定め、引鉄を引く。
だが意外にも機敏な動きでかわされてしまう。
燈京 紫月(ka0658)は射程ギリギリの位置でデリンジャーを構え、威嚇射撃でソルジャーの気を逸らす。
「足止め、ぐらいは……僕にも、できるはずです……」
いつもは怯えたようにも見える表情はなりを潜め、紫と緑の淡い光に照らし出された顔立ちは毅然と前を見据えている。
その間にリカルドは一度馬を下げた。
(銃弾が通りにくいな、少しほぐしてやるか)
ライフルをモーニングスターに替え、感触を確かめるように握り直す。
「硬いなら砕けば柔らかくなるだろ」
料理人らしい表現で、リカルドは攻めの構えを発動。猛然とソルジャー目がけて突っ込んだ。
立ち塞がる1体のゴブリンの脛をすれ違いざまに叩き折るや、鈍器を振り上げソルジャーと対峙する。
が、その時にはゴブリンソルジャーも斧を構えていた。
リカルドはモーニングスターを巧みに操り、すぐさま敵の脇腹目がけて叩きつけるが、それとクロスするように斧の斬撃が軸足を襲う。
「ちょっと、私を無視しないでよ!!」
リカルドを補佐しようとJyu=Beeが近付く。
「た、大変、なのです!」
紫月が思わず悲鳴のような声を上げた。集団の中にもう1体、ゴブリンソルジャーが見えたのだ。しかもそいつは弓を構えて、Jyu=Beeを狙っている。
「気がついて、くださいっ!!」
強弾に祈りを籠め、弓ソルジャー向けて放つ。だが弾が届くより先に、矢は宙へ。
最悪の事態を想定し、紫月の顔が色を失う。矢はJyu=Beeの頭部めがけて飛んで行く。
「ひゃあっ!?」
Jyu=Beeが素っ頓狂な声を上げた。頭に当たった矢は、ギリギリ帽子を射抜いていたのだ。
「ちょっと、失礼ね! 落ち武者になっちゃうところじゃないの!!」
ぷんすか怒りながら、ライフルをまた乱射する。
「ヘイヘイヘイ、そんなヘナチョコな攻撃で、このジュウベエちゃんに当たるとでも思っているの?」
この班全体を相手取るには、味方の手数が足りなかった。ひとまずは自分が囮となって目を引き、敵の進路を少しでもCAMから逸らすしかない。
Jyu=Beeの無事な姿に、紫月が胸を撫で下ろした。
「よ、良かった……いや、良くないの、です!」
慌てて確認すると、負傷したリカルドはユキヤの援護で戦線を離脱していた。
「大丈夫ですか。傷をみせてください」
ユキヤは穏やかな微笑を崩さないまま、赤に染まるリカルドの脚をヒールで癒して行く。
「すまんな、助かる」
「いえ。お役に立てたのなら良かったです」
立ち上がったリカルドは、再び敵を見据えた。
「今度こそ仕留めてやる」
一団は益々CAMとの距離を縮めつつある。
●
ヤナギが忌々しげに舌打ちする。
「チッ、ドジったぜ」
脚に負った傷は、フランシスカ(ka3590)が癒してくれた。
「これで大丈夫なはずですが、まだ痛みますか」
抑揚のない淡々とした声でそう言うと、ヤナギの顔色を観察する。
「大丈夫だ。恩に着るぜ」
ニヤリと笑って見せ、ヤナギは再びゴブリンに対峙する。
「今度はドジったりしねェ」
フランシスカも立ち上がりバスターソードを構える。
「急な依頼ですが、お仕事には変わりありません。接近されすぎる前に、食い止めます。――行きます」
剣を振り抜くと、漆黒の魔法の塊が最も接近している2体のゴブリン目がけて飛んで行く。黒塊はゴブリンの足を打ち、僅かにその侵攻を抑える。だがその間に、別のゴブリンが脇を抜けて来た。
テトラはその方向に躊躇うことなく身を晒す。
「いつもよりちょーっとだけ必死になっちゃうよ! 閃いて、碧の風ッ!」
マルチステップの発動で身軽になったテトラだったが、ゴブリンの槍は鎧の隙間を的確に貫いた。
「くっ……! でも、ここは抜かせないっ!!」
「お手伝いします」
エミリーが回り込むと、威力を増した手裏剣でゴブリンの胴を狙った。
頑丈なゴブリンには大したダメージはなさそうだったが、ここは少しでも時間を稼ぎたい。
「CAMには近づかせませんよ」
踏ん張る二人に、ライナスが呻く。
「無茶をする!」
次撃の構えを見せるゴブリンの頭を狙い撃ち、援護する。
その時、CAMからメリンダの声が響いた。
『お待たせしました、動けます!』
姿勢を立て直したCAMは、今やしっかりと地面を踏みしめていた。
通信施設から戻っていたソフィアがCAMの前に立ち、機動砲で斜線を描いて見せる。
「この方向、退避してっ!!」
光軌が描く意味を悟り、レイスが呟いた。
「……CAMが動く?」
戦槍を強く繰り出し、敵を怯ませた隙を見て一度下がる。
ソフィアはCAMの構えたガトリングガンに攻性強化を与えた。
「さあ、どんな風になるのかなっ!」
思いの外滑らかな動作だった。CAMは人間そのものの動きで、銃器を構える。
その高さから見えたのは、今戦闘している集団の後方に控える別の集団だった。
近くに味方がいないことを確認し、メリンダはコントローラーを操作する。
「当たって……!!」
辺りに響く銃声。後方のゴブリン集団の一角が一瞬で崩れた。
歓声を外部マイクが拾い、コクピットのメリンダにもその声は届いた。
けれどメリンダの表情は険しい。
(これは……大変なことになるんじゃないかしら)
軍隊は強力な武器を欲する。CAMは恐らく、今後の戦況を変えるだろう。
だがこの銃口がもし、こちらを向いたときはどうなるのか……。
メリンダはその考えを追い出すように強く頭を振り、外に呼びかける。
「後方の集団に気をつけてください。ゴブリンメイジです」
岩井崎 旭(ka0234)は愛馬サラダをそちらへ導く。
「とりあえず時間は稼いで……いや、そのまま倒してくるわ」
不敵な言葉と共に疾風怒濤の突進。
「始まったか」
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)も愛馬を駆り、わざと目を引くように後方の集団へと向かう。
その姿を見送り、カダル・アル=カーファハ(ka2166)は別方向へと移動する。
「メイジを守るゴブリンは捨て駒だろうしな」
弓の射程なら、旭が敵を引きつけているうちにメイジを狙える。
この集団の目的がCAM、護衛が多少減ろうとも前進を続ける筈だ。
「CAMに近づかせるなっつうことなら、メイジの気を散らしてやるとしよう」
「少しよろしいですか」
振り向くと、穏やかな微笑を浮かべたエミリーがいた。
「少しでも力になれれば嬉しいです」
カダルの弓が一瞬、光を纏う。攻性強化だ。
無表情のままカダルが小さく頷き、進み出る。
前方の集団を大きく迂回し、メイジの姿を視認できる位置を探すつもりだ。
戦闘の激しい物音に、コンテナの壁が震えた。
全員が中に入った後も、怜はコンテナの上から周囲を警戒する。同盟軍の兵士もコンテナの出入口付近を守ってくれていた。
今の所、敵はCAMだけを狙っている。迅速な避難誘導が功を奏し、一般人に害が及ぶことはなかった。
だが壁の向こうに何があるか分からない状況では、激しい物音は恐怖を掻きたてる。
「こんなところで死ぬのはごめんだ! 外に出してくれ!!」
コンテナの内部にそんな叫び声が響く。その声に驚き、子供が泣き出した。
シガレットは子供の頭を優しく撫でてから、叫んだ人物に近付き肩を掴んだ。
「誰だって死にたかねェと思うぜ。外の俺達の仲間もだ」
プロテクションの柔らかな光が相手を包む。この場合、実際の効果は皆無だろう。だがとにかく落ちつかせなければならない。
「大丈夫です。今の音はこちらの攻撃の音……」
トランシーバーを通してソフィアからもたらされる戦況を、ルシオの柔らかな声が簡単に告げる。
何が起きているのか分からないことが恐ろしいのだから、伝えれば落ちついてくれるはずだ。
ルシオが手にしたライトの灯が、穏やかに微笑む姿をどこか神秘的に浮かび上がらせている。
(皆、頑張って。回復は後で幾らでもするよ)
外の仲間を気遣いながらも、それとは気付かせない。
アルマはルシオの声が途切れた合間に、オカリナを吹く。
(皆の心がこれで少しでも収まると良いがの)
労わるような調べに乗せて、アルマの心がコンテナの中に響いて行った。
●
ルトガーが怯える馬の鼻面を優しく叩いた。
「よしよし、ここまでよく頑張ったな。少しここで待っていろ」
敵の目前に突っ込み、逃げ出すようにここまで駆けてきた。馬は本来優しい生き物で、戦闘には向かない。
物音に驚いて逃げ出さないよう、木にしっかりと繋いでルトガーはその場を離れた。
「それにしても、折角CAMを見学に来たというのに。まったく不粋なゴブリンどもだ」
物陰から覗くと、旭が敵の崩れた一角へ容赦なく攻め込むところだった。
ルトガーはそれを確認し、防御障壁で自分の守りを固める。
「キツいお仕置きをくれてやろうじゃないか」
旭に注意が向いた敵の背後を狙って、身を低くして飛び出した。
旭は接近すると同時に、目の前のゴブリンをノックバックの一撃で弾き飛ばす。
「次の指示は出させねぇッ!」
メイジは目の前だ。護衛のゴブリンは10体。そいつらは集まり、壁となってメイジを守る。
「雑魚に用はねぇ、どいてろ!!」
だが闘うことしか知らないゴブリン達は、只管メイジを守ろうと代わる代わる突っ込んでくる。
メイジは粗末な杖を振りかざし、魔法の光弾を旭めがけて叩きつけた。
が、旭はそれを軽くかわしてしまう。
「当たるかよ!」
だが突き出される槍は多く、邪魔で仕方が無い。
そこに突然、空から飛来した物があった。カダルの矢だ。
「流石に一矢で撃破、という訳にはいかんか」
不愉快そうに眉をしかめたカダルの目の前で、頭から血を流したメイジがよろめきながらも踏みとどまる。
更にルトガーが到着。
「おい、後ろがガラ空きだぞ」
突然のエレクトリックショックに、ようやく立ち上がったメイジの身体が硬直する。
旭を恐れる余り、意識も護衛の厚みもそちらに向いていたのだ。
2体1組のゴブリンがそれぞれ、カダルとルトガーの方へと槍を構えて突進。が、ルトガーの眼前ではその動きが不意に鈍った。
「遅くなったわ。巻き込まないタイミングを計っていたので」
アイシュリングが必要最低限の説明をした。スリープクラウドが上手くゴブリンに効いている。
「有難い。この隙に雑魚を片付けるとしよう」
ルトガーも短く答え、ゴブリンに銃撃を浴びせる。
旭は戦槍を振り上げ、メイジを一喝した。
「喰らえ!」
身動きの取れないメイジを更にブロウビートで威嚇する。それから戦槍に力を籠め、メイジ目がけて踏みこんだ。
既に護衛は少なく、メイジの動きは鈍い。旭の槍をどうにか逸らすのが精いっぱいである。
「いいぞ、このまま突き抜けるッ!」
体ごとぶつかる様に旭が繰り出した槍の先で、メイジゴブリンの姿が砂のように崩れていく。
「ハハッ、後は雑魚だけだぜ!」
メイジまで充分な距離を取っていたカダルにゴブリンが殺到する。持ち替えた銃で1体を倒す間に別の1体が接近し、カダルの足を槍で貫いた。
だがカダルは表情一つ変えることなくゴブリンを撃つ。
「……刃物で直接、叩き斬る感触が好きだが、この銃の破壊力もなかなか……」
砂が崩れるように霧散するゴブリンの身体を前に、カダルの口元には薄い笑みが浮かんでいた。
アイシュリングとルトガーも、半ば自棄の様なゴブリンの攻撃を受けつつも、それらを順に倒していく。
メイジが倒れたことで、ゴブリンソルジャーの動きにも動揺が見えた。
「さーて、後はゆっくり料理しちゃおうかな!」
CAMの攻撃に備えて距離を取っていたJyu=Beeが、嬉々としてライフルを構えた。
突出を控えていたユキヤも、ここが好機と見て掃討に移る。
Jyu=Beeを待ちうけるソルジャーの側面からホーリーライトを当てて姿勢を崩してやると、相手はその勢いによろめいた。
ライフルを避ける暇などなく、ソルジャーの1体が倒れる。
「あの、巻き込まないように、が、がんばります!」
言葉こそ控え目だが、紫月の攻撃は熾烈だった。移動を捨て、狙いを定めると強力な一撃がソルジャーの腕をもぎ取っていく。
「さっきの礼だ。最期に受け取れ」
リカルドの重い一撃に、ついに残る1体も霧散した。
「……仕事としちゃあこんなもんだな」
リカルドはモーニングスターを肩に担いで周囲を見渡した。無事なゴブリンの姿はもう見当たらない。
ただあるのは、CAMの巨体。
「本物はロッソでも見たことなかったな」
共に船に乗りこの世界に来た筈だが、民間所属だったリカルドには初めて見る姿だ。
今、そのコクピットが開くところだった。
メリンダは地上に降り、まずハンター達に礼を述べた。
「ご迷惑をおかけしました。けれど皆様のお陰で、CAMもこの場に居た見学者も全員無事です。ご協力に感謝いたします」
内面の疑念を一切感じさせない、同盟軍報道官の微笑がそこにあった。
<了>
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CAMと民間人護るよっ ソフィア =リリィホルム(ka2383) ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/12/21 05:55:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/18 10:20:29 |
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迎撃チーム相談卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/20 22:30:51 |
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避難チーム相談卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/20 23:18:04 |
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CAMチーム相談卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 |