ゲスト
(ka0000)
影の狙撃者
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/22 09:00
- 完成日
- 2018/06/24 22:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●夜道を歩く男
仕事で遅くなった男は、夜の帳が下りた夜道を早足で歩いていた。
普段ならもっと早く帰宅しているのだが、その日は作業が立て込んでいて定時までに終わらず残業になってしまったのである。
「まだ寒いなぁ……もうすぐ暖かくなるのかねぇ」
ぼそりと呟く男の息は僅かに白い。
夜ということで温度が低下し、元々気温自体も今日は低めだったので、春が近い季節でありながら、まだまだ冷え込みは続いていた。
男はふと回りに違和感を抱いた。
何となくではあるが、何だかいつもの道と同じ風景なのに印象が違う。
「おかしいな……気のせいか?」
ずっと不思議な胸騒ぎが収まらず、男は不安になった。
うっすらとした嫌な予感がずっと脳裏にこびり付いており、中々消えてくれない。
近くで何者かが、自分の様子を窺っているような気さえする。
早足だった男は、まるで急かされるように走り出していた。
まるで男を煽るように、男の回りに矢が突き立つ。
襲撃者はわざと矢を外しているようだった。
必死に逃げる男目掛けて、殺意が篭められた最後の矢が放たれる。
しかしその矢は寸前で通りすがりのハンターに防がれた。
「大丈夫か」
尋ねるハンターに、男は何度も頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいい。家にまで送ろう」
こうして、男は無事に家まで帰ることができたのだった。
●暗闇から放たれる矢
最近、街を騒がせている一つの噂がある。
夜道を一人で歩いていると、どこからともなく矢が飛んでくる。
しかし振り向いてみても、射手がどこにもいないのだという。
曰く、その暗殺者は影に隠れ、影から影に移動し、決してその姿を見せない。
また、明るいうちに活動することはなく、暗殺者が動き出すのは、日が沈んだ後の夜のみ。
「闇に紛れて奇襲とは、卑怯な。私がその正体を暴いてやろう」
男を助けたハンターは憤慨し、血気盛んに暗殺者との接触を試みた。
しかし次の日、そのハンターは重傷を負った状態で発見された。
ハンターは沢山の矢傷を負っており、その中でも特に酷かったのが、肋骨の隙間を縫って肺を傷付けた一矢だった。
頭を射抜かれたり、心臓などを射抜かれたりしなかった分だけよかったと考えるべきだろうが、重傷であることには変わりない。
「まさか、ハンターがやられるとは」
「一人で行くからやられたんだ。複数なら分からんぞ」
「どちらにしろ、被害が出た以上迂闊に夜に外を出歩けんな」
街の住人たちは、皆不安の声を上げている。
無理もない。
一人とはいえハンターがやられるということは、敵はそれなりに強いということだ。
同時に、一般人には危険すぎる相手ということでもある。
「これは、本格的にハンターズソサエティに依頼を出した方がいいんじゃないか?」
「そうだな。そうしよう。射手が人なのか亜人なのか歪虚なのかも分からない以上、俺たちだけでどうこうしようとしても被害が拡大するだけだ」
こうして、街の住人たちはハンターズソサエティに依頼をした。
●ハンターズソサエティ
受付嬢として依頼を整理していたジェーン・ドゥは、新たに受理されたばかりの依頼を手に取り確認を始めた。
まずは緊急性について、今すぐハンターを派遣するに足る判断が下されているかどうかを調べる。
当て嵌まるのは、現地で人が襲われている最中なのが分かっている場合、あるいは排除対象が明確な脅威だとはっきり認識されている場合、そして既に犠牲者が出ている場合である。
この三つのシチュエーションに当て嵌まる依頼は、確認でき次第優先的にハンターたちへ斡旋を行い、依頼の消化を促す。
ハンターたちの自主性に任せるだけでは、取り返しがつかない事態になる恐れがあるためだ。
今回の依頼のケースは、二番目と三番目の複合だった。
たまたま居合わせたハンターが退治を試みて、逆に返り討ちに遭っている。
重傷を負ってはいるものの、幸い死んではおらず、治療の経過も順調なようだが、単独とはいえ覚醒者であるハンターを下すというのは、間違いなく明確な脅威だ。
少なくとも、ただの人間や亜人、動物などという可能性は極めて少ないだろう。
ジェーンは件の依頼を手に、ハンターたちの下へ向かった。
「依頼です」
凛としたジェーンの声に、何人かのハンターたちが視線を向ける。
「とある街で、夜道を帰宅途中に住人が狙撃されるという事件が頻発しています」
話を聞いたハンターたちは物騒だという感想を抱いたが、まだそれが自分たちに繋がるような依頼だとは思わなかった。
ただそれだけの話なら国家権力が動けばあっさり解決できるだろうし、受けるのは物好きなハンターくらいのものだろう。
「たまたま街に居合わせたハンターが退治を試みたようですが、残念ながら失敗に終わりました。ですが、ハンターの無事は確認されています。現在負傷して療養中だそうです。意識もはっきりしているということで、調書が取られています。ご覧ください」
ジェーンは紙の報告書をハンターたちに配っていく。
「対象を暫定的に『シャドウスナイパー』と呼称します。恐らくは歪虚ですが、どうやら単独のようです。一対一でハンターを退けるのですから、それなりの力を持つと推測されています。特殊能力として、影の中に潜り移動する能力を持つようです。何らかの方法で辺りを照らす必要があるでしょう」
これらの情報は、やられたハンターの話を聞いて収集したものだ。
実際に目にして能力を見たということで、信頼度はそれなりに高い。
ただ惜しむべくは、姿形について詳細なデータを得られなかったことか。
「街はリゼリオほどではありませんが、それなりの規模のようです。手分けして探索し、出現したらその場に集まることになります。連絡手段、移動手段の確保は必須でしょう。既にハンターが撃退された例がありますので、単独での戦闘は可能な限り避けることをお勧めします」
街中ということである程度道が整備され、天気もよく、移動することに対しては不自由しないだろう。
後はいかにして速やかに連絡を行えるかにかかっている。
「敵は状況判断が素早く、敵わないとみるやすぐさま撤退し、自分が有利な場所へと誘い込むそうで、それで件のハンターもやられたようです。このことから、かなりの知性が窺えます。歪虚であれば当然説得が通用するとは思えませんが、相手が賢いという前提で注意して行動を行うようにしてください」
最後に、ジェーンは深く頭を下げた。
「それでは、皆様のご活躍をお祈りさせていただきます」
依頼を受けるために、何人かのハンターが立ち上がった。
仕事で遅くなった男は、夜の帳が下りた夜道を早足で歩いていた。
普段ならもっと早く帰宅しているのだが、その日は作業が立て込んでいて定時までに終わらず残業になってしまったのである。
「まだ寒いなぁ……もうすぐ暖かくなるのかねぇ」
ぼそりと呟く男の息は僅かに白い。
夜ということで温度が低下し、元々気温自体も今日は低めだったので、春が近い季節でありながら、まだまだ冷え込みは続いていた。
男はふと回りに違和感を抱いた。
何となくではあるが、何だかいつもの道と同じ風景なのに印象が違う。
「おかしいな……気のせいか?」
ずっと不思議な胸騒ぎが収まらず、男は不安になった。
うっすらとした嫌な予感がずっと脳裏にこびり付いており、中々消えてくれない。
近くで何者かが、自分の様子を窺っているような気さえする。
早足だった男は、まるで急かされるように走り出していた。
まるで男を煽るように、男の回りに矢が突き立つ。
襲撃者はわざと矢を外しているようだった。
必死に逃げる男目掛けて、殺意が篭められた最後の矢が放たれる。
しかしその矢は寸前で通りすがりのハンターに防がれた。
「大丈夫か」
尋ねるハンターに、男は何度も頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!」
「礼はいい。家にまで送ろう」
こうして、男は無事に家まで帰ることができたのだった。
●暗闇から放たれる矢
最近、街を騒がせている一つの噂がある。
夜道を一人で歩いていると、どこからともなく矢が飛んでくる。
しかし振り向いてみても、射手がどこにもいないのだという。
曰く、その暗殺者は影に隠れ、影から影に移動し、決してその姿を見せない。
また、明るいうちに活動することはなく、暗殺者が動き出すのは、日が沈んだ後の夜のみ。
「闇に紛れて奇襲とは、卑怯な。私がその正体を暴いてやろう」
男を助けたハンターは憤慨し、血気盛んに暗殺者との接触を試みた。
しかし次の日、そのハンターは重傷を負った状態で発見された。
ハンターは沢山の矢傷を負っており、その中でも特に酷かったのが、肋骨の隙間を縫って肺を傷付けた一矢だった。
頭を射抜かれたり、心臓などを射抜かれたりしなかった分だけよかったと考えるべきだろうが、重傷であることには変わりない。
「まさか、ハンターがやられるとは」
「一人で行くからやられたんだ。複数なら分からんぞ」
「どちらにしろ、被害が出た以上迂闊に夜に外を出歩けんな」
街の住人たちは、皆不安の声を上げている。
無理もない。
一人とはいえハンターがやられるということは、敵はそれなりに強いということだ。
同時に、一般人には危険すぎる相手ということでもある。
「これは、本格的にハンターズソサエティに依頼を出した方がいいんじゃないか?」
「そうだな。そうしよう。射手が人なのか亜人なのか歪虚なのかも分からない以上、俺たちだけでどうこうしようとしても被害が拡大するだけだ」
こうして、街の住人たちはハンターズソサエティに依頼をした。
●ハンターズソサエティ
受付嬢として依頼を整理していたジェーン・ドゥは、新たに受理されたばかりの依頼を手に取り確認を始めた。
まずは緊急性について、今すぐハンターを派遣するに足る判断が下されているかどうかを調べる。
当て嵌まるのは、現地で人が襲われている最中なのが分かっている場合、あるいは排除対象が明確な脅威だとはっきり認識されている場合、そして既に犠牲者が出ている場合である。
この三つのシチュエーションに当て嵌まる依頼は、確認でき次第優先的にハンターたちへ斡旋を行い、依頼の消化を促す。
ハンターたちの自主性に任せるだけでは、取り返しがつかない事態になる恐れがあるためだ。
今回の依頼のケースは、二番目と三番目の複合だった。
たまたま居合わせたハンターが退治を試みて、逆に返り討ちに遭っている。
重傷を負ってはいるものの、幸い死んではおらず、治療の経過も順調なようだが、単独とはいえ覚醒者であるハンターを下すというのは、間違いなく明確な脅威だ。
少なくとも、ただの人間や亜人、動物などという可能性は極めて少ないだろう。
ジェーンは件の依頼を手に、ハンターたちの下へ向かった。
「依頼です」
凛としたジェーンの声に、何人かのハンターたちが視線を向ける。
「とある街で、夜道を帰宅途中に住人が狙撃されるという事件が頻発しています」
話を聞いたハンターたちは物騒だという感想を抱いたが、まだそれが自分たちに繋がるような依頼だとは思わなかった。
ただそれだけの話なら国家権力が動けばあっさり解決できるだろうし、受けるのは物好きなハンターくらいのものだろう。
「たまたま街に居合わせたハンターが退治を試みたようですが、残念ながら失敗に終わりました。ですが、ハンターの無事は確認されています。現在負傷して療養中だそうです。意識もはっきりしているということで、調書が取られています。ご覧ください」
ジェーンは紙の報告書をハンターたちに配っていく。
「対象を暫定的に『シャドウスナイパー』と呼称します。恐らくは歪虚ですが、どうやら単独のようです。一対一でハンターを退けるのですから、それなりの力を持つと推測されています。特殊能力として、影の中に潜り移動する能力を持つようです。何らかの方法で辺りを照らす必要があるでしょう」
これらの情報は、やられたハンターの話を聞いて収集したものだ。
実際に目にして能力を見たということで、信頼度はそれなりに高い。
ただ惜しむべくは、姿形について詳細なデータを得られなかったことか。
「街はリゼリオほどではありませんが、それなりの規模のようです。手分けして探索し、出現したらその場に集まることになります。連絡手段、移動手段の確保は必須でしょう。既にハンターが撃退された例がありますので、単独での戦闘は可能な限り避けることをお勧めします」
街中ということである程度道が整備され、天気もよく、移動することに対しては不自由しないだろう。
後はいかにして速やかに連絡を行えるかにかかっている。
「敵は状況判断が素早く、敵わないとみるやすぐさま撤退し、自分が有利な場所へと誘い込むそうで、それで件のハンターもやられたようです。このことから、かなりの知性が窺えます。歪虚であれば当然説得が通用するとは思えませんが、相手が賢いという前提で注意して行動を行うようにしてください」
最後に、ジェーンは深く頭を下げた。
「それでは、皆様のご活躍をお祈りさせていただきます」
依頼を受けるために、何人かのハンターが立ち上がった。
リプレイ本文
●事前準備
集まったハンターたちは、そのまま夜まで待つ者、昼のうちから精力的に動き始める者に別れた。
日が沈む頃、集合場所に各々が集まってくる。
「私の魔法とブリジットの刀で、シャドウスナイパーを追い詰めちゃうよ!」
「聞き込みと、夜出歩かないよう周辺住民に注意喚起しておきました。さあ行きましょうか」
夢路 まよい(ka1328)51とブリジット(ka4843)が一緒に行動を開始する。
「松明台と松明を置ける場所を探して確保しておきました。設置済みなので後は点けて回るだけです」
クオン・サガラ(ka0018)の報告は、空しく流れた。同行する相手が急用で来れなくなったのだ。
「お昼はレオンさんに楽をさせてもらった分、夜は任せてくださいね。頑張りますから」
「誘い込みやすそうな場所、隠れやすそうな場所の見当をつけておいたよ。着くまでに説明するね」
夜桜 奏音(ka5754)とレオン(ka5108)は現地に向かいながら必要な情報のすり合わせを行う。
「学校を回った後、時間の許す限り住宅訪問をして情報を集めましたし、ばっちりです」
「学校を中心に区内の状況を下調べしといたぜ。後は夜に備えて軽く仮眠を取った。さて、行くぞ」
マルカ・アニチキン(ka2542)とトリプルJ(ka6653)も、住宅区を下調べした結果を携え索敵に出る。
各自シャドウスナイパーが出現した場合の誘導場所を確認、共有し、ハンターたちは速やかに夜の街に散っていった。
戦いの始まりだ!
●商業区 夜
武具屋、馬車屋、雑貨屋、宿屋などが立ち並ぶ通りを、まよいとブリジットはそれぞれ魔導バイクと馬で走っていく。
建物の中は住民たちが用意した灯りで煌々と照らされているようで、窓などの建物の隙間から漏れる明かりが狭い路地を照らしている。
昼間の間に周辺住民に接触していたのが効いたのか、建物から漏れる光は路地に対してもかなりの面積を照らしている。
まよいとブリジットにとっては予想外な幸運で、今夜ハンターが動くことを知った住民たちが気を利かせてくれたのだ。
後はまよいが乗るバイクのライトと二人の身体に吸着している灯火の水晶球の明かりで、かなりの面積暗闇を照らすことができる。
それに二人は移動しているので、一瞬でもライトが当たれば姿が見えるのも大きい。
二人はまだ相対していないので知る由もなかったが、光の中では敵は影の中に存在できず、移動もできない状態になるのだ。故に、光を嫌う。
「影から影に移動ね~。面倒な敵もいたもんだね。敵がいる影を周りから全部照らして影じゃなくしちゃったら、その敵はどこへ行っちゃうんだろうね?」
「やってみる価値はあるかもしれませんね。暗がりより狙うとは、真っ当な相手ではないですし。そのまま消滅するか、はたまた光の中に飛び出てくるか」
今のところ、まよいとブリジットの間で交わされている通信は感度良好を保っている。
状況が動くまで、二人は巡回を続けた。
●住宅区 夜
建物内部が煌々と照らされていても、住宅区の通りは案外暗がりが多かった。
それは、住宅区特有の立地のせいである。
中央に学校があり、その回りに一戸建てと豪邸、集合住宅が立ち並ぶという環境は、建物の凹凸が激しく暗がりを生みやすい。
また、校庭や豪邸特有の広い庭などがあるせいで、建物内部を照らす光が通りや路地にまで光が届いていないことも多く、いちいちハンターたちが照らして確認する必要があるのだ。
マルカとトリプルJの身体に吸着する灯火の水晶球があれば確認すること自体は難しくないが、灯火の水晶球が発する光は指向性なのでどうしても照らしている最中に死角が生まれる。
「カッコイイ二つ名の風上にも置けない不埒を働く輩です……っ! ところでJさん、あなた何をしているんです?」
憤慨するマルカは、トリプルJのいる位置で灯火の水晶球の光の他に、小さな光が瞬いているのを見て通信機越しに尋ねる。
「煙草やマッチは意外と狙撃の目標になるからな。襲われる可能性はいくらでも高めておきたいだろ? いや俺様元々ヘビースモーカーでもあるんだが」
煙草をすぱすぱ吸いながら、着火の指輪で指先に小さな炎を灯し、トリプルJは答える。
彼は身体を張って囮を務めているのだ。決して煙草を吸いたいだけではない。
いつでも狙撃される準備はできている。
しかしあまりにもあからさま過ぎたのか、敵は現れなかった。
●スラム 夜
レオンと奏音が担当するスラムは、住人が用意した明かりの割合が極端だった。
ブラックマーケットや教会、孤児院といったそこそこ大きな建物がしっかり照らされている代わりに、周辺に点在する廃屋はほぼ暗闇に呑まれている。
これは、住人たちの経済状況の低さや、住人が用意できた明かりの総数が少ないせいがあるだろう。
他の地区の住民のように各自で明かりを持っておらず、確実に明かりで照らされているこの三つの建物に集まり閉じこもっているようだ。
よくよく考えれば、合理的な判断ではある。
しかし、索敵をするレオンと奏音にしてみれば迷惑な話で、灯火の水晶球が照らす範囲よりも、暗闇の方が明らかに範囲が広い。
幸い昼間のうちに下見をしておいたからどうにかなっているが、うっかり忘れていたら完全に手探りでの索敵になっていたかもしれない。
「うーん……このまま警戒し続けるっていうのも限度があるし、早めに解決しないとね。これ以上被害が出ないうちにっていう意味でも」
「影から影へと動くらしいですし、光源は必要ですね。廃屋も全部照らしてあれば嬉しいんですけど、無い物ねだりはできませんよね」
警戒は続けているが、どこから狙撃されるか分からない以上、時間が経つにつれ精神的な負担と疲労はどうしても大きくなる。
もし状況が違えば、狙われたのはレオンと奏音だったかもしれない。
それだけの条件が、スラムには揃っているのだから。
しかし、予想外の展開から、敵の標的は別の人物に移っていた。
●工業区 夜
真夜中の風景に、淡く輝く黄金の鎧は完全に埋没していた。
灯火の水晶球や、魔導バイクの夜間走行用ライトに比べ、鎧が発する光は儚い。
これは単純に光量の問題だ。
灯火の水晶球や、魔導バイクの夜間走行用ライトに比べ、鎧そのものが光るというのはインパクトこそ大きいものの、照明目的の光ではないため明かりとしては頼りないといわざるを得ない。
よく光るよう鎧は事前に丁寧に磨き上げ、装備も必要なもののみ外に出すようにして光を隠さないようにしていてもだ。
ただし、それがバイクに跨ってライトをつけて高速で移動しているのならば話は別である。
幸か不幸か回りの風景もそのインパクトに負けていないのが面白いところだ。
軒を連ねる鍛冶屋、織物屋、土建屋、木工屋などの回りは、夜だというのに建物から漏れ出る光で何時になく明るい。
もちろんそれらの明かりは魔導バイクが走る通りまで届くようなものではないが、建物の回りの細い路地を気にする必要はないというのは、クオンにとって正直嬉しい誤算である。
携帯しているトランシーバーの受信はオンにし続けている。どれほど効果があるかはともかく、探知機代わりにしているのだ。
クオンが曲がり角を曲がるために、バイクを減速させたところでそれは起こった。
ほぼ無音に近い、僅かとすらいえるほどに小さな、風切り音。ハンターでなければ、聞き逃していたかもしれない。
運転中で満足な回避行動を取れないクオンは、鎧の金属部分で受け止めることで矢を弾く。
矢が鎧を貫けないと仮定しての一種の賭けだったが、上手くいったようだ。
クオンは矢をかいくぐりながら街の中心部に向かってしばらくバイクを走らせると、トランシーバーを手に取り、叫んだ。
「こちらクオン・サガラ! 『シャドウスナイパー』の出現を確認しました! これより誘導を開始します! どうぞ!」
たまたま通信圏内にいた奏音が一番にクオンの通信を拾った。
『レオンさんとただちに工業区に急行します。レオンさん、魔導短伝話の範囲に誰かが入り次第連絡をお願いします』
『今入ったよ! こちらレオン、工業区で『シャドウスナイパー』が出現! 応援に向かってくれ!』
『まよいだよ! 工業区に『シャドウスナイパー』出現了解! 今から応援行くね! ブリジット、伝達お願い!』
『分かりました! 商業区のブリジットです! まよいさんと一緒にこれからクオンさんを助けに行きます!』
『トリプルJだ! 了解した、俺もマルカと一緒にクオンの野郎を助けに行く! マルカ、お前もさっさと来い! でないと着く前に終わっちまうぞ!』
『それよりも、取り逃がす可能性の方が怖いですよ! 急ぎましょう! クオンさんをずっと一人にしておくのは危険です!』
送信が終わり受信するだけになったトランシーバーから、次々仲間たちの声が聞こえてくる。
「……頼もしい仲間たちですね、これは。何が何でも保たせなくてはいけませんね……!」
チェイスの最中、既に鎧の隙間を縫ってシャドウスナイパーの矢はクオンの身体を傷付けている。
一人であることが災いして、ずっと粘着されているのだ。速度は勝っているが、相手は影を利用して最短距離を移動できる。
バイクで移動しているクオン自身が回避し辛い代わりに、狙うシャドウスナイパーもバイクの速度のせいで当てにくくなっていてもおかしくないのだが、まぐれなのか技量が高いのか、当たってしまった。
幸いと言っていいものか、狙われるのはクオンだけでバイクにはかすりもしていない。狙いはあくまでクオンのようだ。
タイミングを合わせるために、多少遠回りして目的地である誘導場所についたクオンは、シャドウストーカーが追ってくるのを見ると、ライトを点灯させたままのバイクから下りて、設置していた松明に火をつけていった。
退路を塞ぐように、松明の炎が揺らめき、影を払拭していく。
シャドウストーカーは何かの予兆を感じたのか、残った影から逃げようとする。
しかしそこには、超特急ですっ飛んできた奏音が立ち塞がっていた。
「逃走なんてさせると思いますか? ──やっと見つけたんです。逃がしませんよ」
静かな迫力すら感じさせる声音で、奏音は淡々と符を放ち結界で拘束する。これでもう、シャドウストーカーは動けない。
一転して自分が窮地に陥ったことに気付いたシャドウストーカーは、手傷を負っているクオンに狙いを定めようとした。
せめて奴だけでも、ということらしい。
しかし、それも叶わない。
奏音がいるなら、同行者のレオンだっているのだ。
何故かシャドウストーカーはレオンに向けて矢を放っていた。
レオンが自身の周囲にマテリアルを漲らせ、感覚を空間に拡張させることで、攻撃のベクトルを強制的に捻じ曲げたのだ。
「攻撃は俺が受け持つよ。クオン、大丈夫かい?」
当たり前のように矢を弾いてみせるレオンの問いかけに、クオンは不敵に笑い、頷いた。
クオンには、まよいとブリジット、マルカとトリプルJの二組が、ほぼ同時にこの場所に突入してくるのが見えていたのだ。
バイクをその辺に乗り捨てたまよいは、錬金杖に魔法をかけて跨り、空中に浮かび上がる。
「お待たせー! いい感じだね! なら私は予定通り、念には念を入れて空から照らすよ!」
まよいは高度を上げ過ぎないようにしつつ空中から灯火の水晶球でシャドウストーカーを照らし、その姿を暴いた。
その姿は、一言で言うならば、人型をした影の怪物。
目も鼻も口もないのっぺりとした顔は、逃げ道を探すかのようにしきりに左右に振られている。
顔が、まよいに向けられた。
負けじと、まよいも睨み返した。
シャドウストーカーがゆっくりと弓に矢を番える。
まよいが悪戯っぽく笑い、魔法で風を纏うと錬金杖ごと宙返りをした。
そうして退いたまよいに入れ替わるように、ブリジットが追いついた。
ブリジットはハンディLEDライトをしまう。走っている最中は危険なので、これで夜道を照らしていたのである。
それに釣られたかシャドウストーカーが狙いを変更し、ブリジット目掛け矢を放つ。
「飛び道具であれば見えずとも!」
刀で矢を斬り払い、ブリジットは機動力を生かして間合いに入るまで突進した。
間合いに入ると即座に抜刀。
その一刀は外れるが、ブリジットの動きはそれを予測していたように次の動作に繋がる。
先ほどの居合い抜きを上回る電光石火の二刀目が、逃げることすら許さずシャドウストーカーを斬り裂いた。
声無き絶叫が上がる。
それと同時だった。
「道を塞ぎます! Jさん、続いてください!」
光を纏い、馬を駆って、マルカがシャドウストーカー目掛け走る。
聖なる光、輝ける流星、大いなる閃光。
光を生み出す魔法をいくつも放ち、たなびく光の尾を引いて移動するその様はまさに彗星。
実際の殺傷力は低くとも、光が一瞬であっても、視覚的なインパクトはかなりのものがあった。
そして光とは、シャドウストーカーが厭うもの。
シャドウストーカーは戒めを振り解くが、もう遅く、逃げ道はマルカが塞いでいる。
そこへ、トリプルJが突っ込んできた。
「助走距離は九十メートル以上でも良かったかもなぁ! 余裕過ぎて欠伸が出るぜ!」
諦め悪く逃げようとするシャドウストーカーは、ここさえ乗り切れば再び自分が有利になることを知っている。
だからこそ、トリプルJがそうはさせない。
作り出した幻影の腕が、シャドウストーカーを捕らえた。
抵抗するシャドウストーカーだが、まるで馬に繋がれているかのように引き摺られる。
トリプルJがシャドウストーカーにラッシュを仕掛け、内臓を貫いて衝撃を与える一撃を叩き込んだ。
死に体になりながらも影を目指して逃げようとするシャドウストーカーだが、辿り着けず、まよいが放つ魔法の矢に射抜かれる。
続けて奏音が展開した符が光の結界となり、シャドウストーカーに追い討ちをかけた。
そして、最後に立ち塞がるのはやはり、この男、クオン・サガラ。
もはやこの男を殺さねば気が済まぬとばかりに、シャドウストーカーが矢を放つ。
クオンは無造作に盾で矢を叩き落した。
化け物らしき俊敏さでシャドウストーカーは移動しようとするが、攻撃の意識を捨てて守りに集中したレオンに足を止められた。
その隙を見逃さず、クオンのアサルトライフルが火を噴く。
「わたしが一人でいる時に仕留め切れなかった、あなたの落ち度です」
放たれた銃弾は、ライフルのライトで照らされたシャドウストーカーの顔に当たる部分を吹き飛ばした。
勢い余って、その身体が放物線を描き落下する。
シャドウストーカーだった影は、塵になって風にさらわれ消えていった。
集まったハンターたちは、そのまま夜まで待つ者、昼のうちから精力的に動き始める者に別れた。
日が沈む頃、集合場所に各々が集まってくる。
「私の魔法とブリジットの刀で、シャドウスナイパーを追い詰めちゃうよ!」
「聞き込みと、夜出歩かないよう周辺住民に注意喚起しておきました。さあ行きましょうか」
夢路 まよい(ka1328)51とブリジット(ka4843)が一緒に行動を開始する。
「松明台と松明を置ける場所を探して確保しておきました。設置済みなので後は点けて回るだけです」
クオン・サガラ(ka0018)の報告は、空しく流れた。同行する相手が急用で来れなくなったのだ。
「お昼はレオンさんに楽をさせてもらった分、夜は任せてくださいね。頑張りますから」
「誘い込みやすそうな場所、隠れやすそうな場所の見当をつけておいたよ。着くまでに説明するね」
夜桜 奏音(ka5754)とレオン(ka5108)は現地に向かいながら必要な情報のすり合わせを行う。
「学校を回った後、時間の許す限り住宅訪問をして情報を集めましたし、ばっちりです」
「学校を中心に区内の状況を下調べしといたぜ。後は夜に備えて軽く仮眠を取った。さて、行くぞ」
マルカ・アニチキン(ka2542)とトリプルJ(ka6653)も、住宅区を下調べした結果を携え索敵に出る。
各自シャドウスナイパーが出現した場合の誘導場所を確認、共有し、ハンターたちは速やかに夜の街に散っていった。
戦いの始まりだ!
●商業区 夜
武具屋、馬車屋、雑貨屋、宿屋などが立ち並ぶ通りを、まよいとブリジットはそれぞれ魔導バイクと馬で走っていく。
建物の中は住民たちが用意した灯りで煌々と照らされているようで、窓などの建物の隙間から漏れる明かりが狭い路地を照らしている。
昼間の間に周辺住民に接触していたのが効いたのか、建物から漏れる光は路地に対してもかなりの面積を照らしている。
まよいとブリジットにとっては予想外な幸運で、今夜ハンターが動くことを知った住民たちが気を利かせてくれたのだ。
後はまよいが乗るバイクのライトと二人の身体に吸着している灯火の水晶球の明かりで、かなりの面積暗闇を照らすことができる。
それに二人は移動しているので、一瞬でもライトが当たれば姿が見えるのも大きい。
二人はまだ相対していないので知る由もなかったが、光の中では敵は影の中に存在できず、移動もできない状態になるのだ。故に、光を嫌う。
「影から影に移動ね~。面倒な敵もいたもんだね。敵がいる影を周りから全部照らして影じゃなくしちゃったら、その敵はどこへ行っちゃうんだろうね?」
「やってみる価値はあるかもしれませんね。暗がりより狙うとは、真っ当な相手ではないですし。そのまま消滅するか、はたまた光の中に飛び出てくるか」
今のところ、まよいとブリジットの間で交わされている通信は感度良好を保っている。
状況が動くまで、二人は巡回を続けた。
●住宅区 夜
建物内部が煌々と照らされていても、住宅区の通りは案外暗がりが多かった。
それは、住宅区特有の立地のせいである。
中央に学校があり、その回りに一戸建てと豪邸、集合住宅が立ち並ぶという環境は、建物の凹凸が激しく暗がりを生みやすい。
また、校庭や豪邸特有の広い庭などがあるせいで、建物内部を照らす光が通りや路地にまで光が届いていないことも多く、いちいちハンターたちが照らして確認する必要があるのだ。
マルカとトリプルJの身体に吸着する灯火の水晶球があれば確認すること自体は難しくないが、灯火の水晶球が発する光は指向性なのでどうしても照らしている最中に死角が生まれる。
「カッコイイ二つ名の風上にも置けない不埒を働く輩です……っ! ところでJさん、あなた何をしているんです?」
憤慨するマルカは、トリプルJのいる位置で灯火の水晶球の光の他に、小さな光が瞬いているのを見て通信機越しに尋ねる。
「煙草やマッチは意外と狙撃の目標になるからな。襲われる可能性はいくらでも高めておきたいだろ? いや俺様元々ヘビースモーカーでもあるんだが」
煙草をすぱすぱ吸いながら、着火の指輪で指先に小さな炎を灯し、トリプルJは答える。
彼は身体を張って囮を務めているのだ。決して煙草を吸いたいだけではない。
いつでも狙撃される準備はできている。
しかしあまりにもあからさま過ぎたのか、敵は現れなかった。
●スラム 夜
レオンと奏音が担当するスラムは、住人が用意した明かりの割合が極端だった。
ブラックマーケットや教会、孤児院といったそこそこ大きな建物がしっかり照らされている代わりに、周辺に点在する廃屋はほぼ暗闇に呑まれている。
これは、住人たちの経済状況の低さや、住人が用意できた明かりの総数が少ないせいがあるだろう。
他の地区の住民のように各自で明かりを持っておらず、確実に明かりで照らされているこの三つの建物に集まり閉じこもっているようだ。
よくよく考えれば、合理的な判断ではある。
しかし、索敵をするレオンと奏音にしてみれば迷惑な話で、灯火の水晶球が照らす範囲よりも、暗闇の方が明らかに範囲が広い。
幸い昼間のうちに下見をしておいたからどうにかなっているが、うっかり忘れていたら完全に手探りでの索敵になっていたかもしれない。
「うーん……このまま警戒し続けるっていうのも限度があるし、早めに解決しないとね。これ以上被害が出ないうちにっていう意味でも」
「影から影へと動くらしいですし、光源は必要ですね。廃屋も全部照らしてあれば嬉しいんですけど、無い物ねだりはできませんよね」
警戒は続けているが、どこから狙撃されるか分からない以上、時間が経つにつれ精神的な負担と疲労はどうしても大きくなる。
もし状況が違えば、狙われたのはレオンと奏音だったかもしれない。
それだけの条件が、スラムには揃っているのだから。
しかし、予想外の展開から、敵の標的は別の人物に移っていた。
●工業区 夜
真夜中の風景に、淡く輝く黄金の鎧は完全に埋没していた。
灯火の水晶球や、魔導バイクの夜間走行用ライトに比べ、鎧が発する光は儚い。
これは単純に光量の問題だ。
灯火の水晶球や、魔導バイクの夜間走行用ライトに比べ、鎧そのものが光るというのはインパクトこそ大きいものの、照明目的の光ではないため明かりとしては頼りないといわざるを得ない。
よく光るよう鎧は事前に丁寧に磨き上げ、装備も必要なもののみ外に出すようにして光を隠さないようにしていてもだ。
ただし、それがバイクに跨ってライトをつけて高速で移動しているのならば話は別である。
幸か不幸か回りの風景もそのインパクトに負けていないのが面白いところだ。
軒を連ねる鍛冶屋、織物屋、土建屋、木工屋などの回りは、夜だというのに建物から漏れ出る光で何時になく明るい。
もちろんそれらの明かりは魔導バイクが走る通りまで届くようなものではないが、建物の回りの細い路地を気にする必要はないというのは、クオンにとって正直嬉しい誤算である。
携帯しているトランシーバーの受信はオンにし続けている。どれほど効果があるかはともかく、探知機代わりにしているのだ。
クオンが曲がり角を曲がるために、バイクを減速させたところでそれは起こった。
ほぼ無音に近い、僅かとすらいえるほどに小さな、風切り音。ハンターでなければ、聞き逃していたかもしれない。
運転中で満足な回避行動を取れないクオンは、鎧の金属部分で受け止めることで矢を弾く。
矢が鎧を貫けないと仮定しての一種の賭けだったが、上手くいったようだ。
クオンは矢をかいくぐりながら街の中心部に向かってしばらくバイクを走らせると、トランシーバーを手に取り、叫んだ。
「こちらクオン・サガラ! 『シャドウスナイパー』の出現を確認しました! これより誘導を開始します! どうぞ!」
たまたま通信圏内にいた奏音が一番にクオンの通信を拾った。
『レオンさんとただちに工業区に急行します。レオンさん、魔導短伝話の範囲に誰かが入り次第連絡をお願いします』
『今入ったよ! こちらレオン、工業区で『シャドウスナイパー』が出現! 応援に向かってくれ!』
『まよいだよ! 工業区に『シャドウスナイパー』出現了解! 今から応援行くね! ブリジット、伝達お願い!』
『分かりました! 商業区のブリジットです! まよいさんと一緒にこれからクオンさんを助けに行きます!』
『トリプルJだ! 了解した、俺もマルカと一緒にクオンの野郎を助けに行く! マルカ、お前もさっさと来い! でないと着く前に終わっちまうぞ!』
『それよりも、取り逃がす可能性の方が怖いですよ! 急ぎましょう! クオンさんをずっと一人にしておくのは危険です!』
送信が終わり受信するだけになったトランシーバーから、次々仲間たちの声が聞こえてくる。
「……頼もしい仲間たちですね、これは。何が何でも保たせなくてはいけませんね……!」
チェイスの最中、既に鎧の隙間を縫ってシャドウスナイパーの矢はクオンの身体を傷付けている。
一人であることが災いして、ずっと粘着されているのだ。速度は勝っているが、相手は影を利用して最短距離を移動できる。
バイクで移動しているクオン自身が回避し辛い代わりに、狙うシャドウスナイパーもバイクの速度のせいで当てにくくなっていてもおかしくないのだが、まぐれなのか技量が高いのか、当たってしまった。
幸いと言っていいものか、狙われるのはクオンだけでバイクにはかすりもしていない。狙いはあくまでクオンのようだ。
タイミングを合わせるために、多少遠回りして目的地である誘導場所についたクオンは、シャドウストーカーが追ってくるのを見ると、ライトを点灯させたままのバイクから下りて、設置していた松明に火をつけていった。
退路を塞ぐように、松明の炎が揺らめき、影を払拭していく。
シャドウストーカーは何かの予兆を感じたのか、残った影から逃げようとする。
しかしそこには、超特急ですっ飛んできた奏音が立ち塞がっていた。
「逃走なんてさせると思いますか? ──やっと見つけたんです。逃がしませんよ」
静かな迫力すら感じさせる声音で、奏音は淡々と符を放ち結界で拘束する。これでもう、シャドウストーカーは動けない。
一転して自分が窮地に陥ったことに気付いたシャドウストーカーは、手傷を負っているクオンに狙いを定めようとした。
せめて奴だけでも、ということらしい。
しかし、それも叶わない。
奏音がいるなら、同行者のレオンだっているのだ。
何故かシャドウストーカーはレオンに向けて矢を放っていた。
レオンが自身の周囲にマテリアルを漲らせ、感覚を空間に拡張させることで、攻撃のベクトルを強制的に捻じ曲げたのだ。
「攻撃は俺が受け持つよ。クオン、大丈夫かい?」
当たり前のように矢を弾いてみせるレオンの問いかけに、クオンは不敵に笑い、頷いた。
クオンには、まよいとブリジット、マルカとトリプルJの二組が、ほぼ同時にこの場所に突入してくるのが見えていたのだ。
バイクをその辺に乗り捨てたまよいは、錬金杖に魔法をかけて跨り、空中に浮かび上がる。
「お待たせー! いい感じだね! なら私は予定通り、念には念を入れて空から照らすよ!」
まよいは高度を上げ過ぎないようにしつつ空中から灯火の水晶球でシャドウストーカーを照らし、その姿を暴いた。
その姿は、一言で言うならば、人型をした影の怪物。
目も鼻も口もないのっぺりとした顔は、逃げ道を探すかのようにしきりに左右に振られている。
顔が、まよいに向けられた。
負けじと、まよいも睨み返した。
シャドウストーカーがゆっくりと弓に矢を番える。
まよいが悪戯っぽく笑い、魔法で風を纏うと錬金杖ごと宙返りをした。
そうして退いたまよいに入れ替わるように、ブリジットが追いついた。
ブリジットはハンディLEDライトをしまう。走っている最中は危険なので、これで夜道を照らしていたのである。
それに釣られたかシャドウストーカーが狙いを変更し、ブリジット目掛け矢を放つ。
「飛び道具であれば見えずとも!」
刀で矢を斬り払い、ブリジットは機動力を生かして間合いに入るまで突進した。
間合いに入ると即座に抜刀。
その一刀は外れるが、ブリジットの動きはそれを予測していたように次の動作に繋がる。
先ほどの居合い抜きを上回る電光石火の二刀目が、逃げることすら許さずシャドウストーカーを斬り裂いた。
声無き絶叫が上がる。
それと同時だった。
「道を塞ぎます! Jさん、続いてください!」
光を纏い、馬を駆って、マルカがシャドウストーカー目掛け走る。
聖なる光、輝ける流星、大いなる閃光。
光を生み出す魔法をいくつも放ち、たなびく光の尾を引いて移動するその様はまさに彗星。
実際の殺傷力は低くとも、光が一瞬であっても、視覚的なインパクトはかなりのものがあった。
そして光とは、シャドウストーカーが厭うもの。
シャドウストーカーは戒めを振り解くが、もう遅く、逃げ道はマルカが塞いでいる。
そこへ、トリプルJが突っ込んできた。
「助走距離は九十メートル以上でも良かったかもなぁ! 余裕過ぎて欠伸が出るぜ!」
諦め悪く逃げようとするシャドウストーカーは、ここさえ乗り切れば再び自分が有利になることを知っている。
だからこそ、トリプルJがそうはさせない。
作り出した幻影の腕が、シャドウストーカーを捕らえた。
抵抗するシャドウストーカーだが、まるで馬に繋がれているかのように引き摺られる。
トリプルJがシャドウストーカーにラッシュを仕掛け、内臓を貫いて衝撃を与える一撃を叩き込んだ。
死に体になりながらも影を目指して逃げようとするシャドウストーカーだが、辿り着けず、まよいが放つ魔法の矢に射抜かれる。
続けて奏音が展開した符が光の結界となり、シャドウストーカーに追い討ちをかけた。
そして、最後に立ち塞がるのはやはり、この男、クオン・サガラ。
もはやこの男を殺さねば気が済まぬとばかりに、シャドウストーカーが矢を放つ。
クオンは無造作に盾で矢を叩き落した。
化け物らしき俊敏さでシャドウストーカーは移動しようとするが、攻撃の意識を捨てて守りに集中したレオンに足を止められた。
その隙を見逃さず、クオンのアサルトライフルが火を噴く。
「わたしが一人でいる時に仕留め切れなかった、あなたの落ち度です」
放たれた銃弾は、ライフルのライトで照らされたシャドウストーカーの顔に当たる部分を吹き飛ばした。
勢い余って、その身体が放物線を描き落下する。
シャドウストーカーだった影は、塵になって風にさらわれ消えていった。
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質問卓 マルカ・アニチキン(ka2542) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/20 13:59:40 |
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相談卓 夢路 まよい(ka1328) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/06/22 08:22:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/19 23:22:48 |