ハンター芸能、活動報告web生放送

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~50人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/21 19:00
完成日
2018/06/27 05:37

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●の前に、ちょっとした後始末

 ──結局のところ、何が一番悪かったのか。
 ごろりと草原に寝そべり青空を眺めながら伊佐美 透は考える。後悔ならいくらでも挙げられた。付随する言い訳も反射的に思い付くが、却って情けなさを上乗せする心地もあった。纏まらない、半ば纏まるわけがないと思う思考をそれでもこれ以上は散らかすまいと悪あがきする。そして。
「んー、何が一番悪かったかって言ったら、手前どもが思うに」
 隣で、同じくぼんやり空を眺めていたチィ=ズヴォーが口を開く。
「運じゃねえっすかね」
 一言だった。
 あまりに堂々とした一言だった。
 それはとっくに考えた道筋でそれに対する反論も何通りもあった筈なのに自分以外の口から聞かされるそれには否定しがたいものかあった。
 ……だってあれはただの雑魔退治のはずだったのだ。そもそもの計算違いは何なのかと言われればそりゃあ、あんなもんに遭遇してしまったからとしか言いようがない。断じて狙ってこのあとの仕事に大穴開けようとしたわけではないのだ。万一重体になっても日程的にはどうにかなると逆算した上で程度を弁えて仕事を選んだ筈だった。どうしろと。
 ……仕事。こないだのと、これからのと。どちらも、今の自分の在り方だ。結局。
「……まあ、こうしてうだうだ悩んでたって、これからやることが変わる訳じゃないんだよな」
 立ち上がる。何時ものように。そうして、透はチィを見た。大体こうやって、彼に一言もらえばそろそろ終わりの合図だった。今回もそうやって終わる。
 そんなわけで。


●本題ここから

「はい! 放映をご覧の皆さん初めましてこんにちは伊佐美 透です。観覧の皆は雨の中どうもありがとう。……風邪ひかないように気を付けてね?」
 秋葉原の某ビルにあるサテライトスタジオ。カメラの前と外に集まる人たちに穏やかな笑顔で手を振っていた。
 いけしゃあしゃあと、という想いは直前まであったが、それでも、観衆の前ではおくびにも出さない。そういう職業だから。
 というわけで、本日の仕事である。秋葉原のスタジオを使っての公開web放送。彼単独ではなく、先日立ち上げられたハンター専用の芸能事務所、その全体としての番組。
 放送の内容は、リアルブルーで芸能活動を始めた、今始動している活動内容を報告、紹介するもの。
「というわけで、俺からの発表なんですが。えー、新たに舞台の出演が決定しました! タイトルは『放課後/七不思議/倶楽部』!」
 彼が出演するのはライトノベルを原作とした舞台劇だ。高校を舞台とした冒険活劇で、霊媒トラブル体質、故に気弱で引っ込み思案の中野 央太を主役に、元気で姉御はだの東谷 明、クラスの高嶺の花的存在のお嬢様西丘 静、のんびり癒し系男子南川 暖、冷静で皮肉屋の北山 涼の5人が、央太に巻き込まれる形で学園に残された呪いと隠された悲劇に挑んでいく、というもの。友情を通じた主人公の成長が主な見せ場となる。
「というわけで、こちら北山 涼役として出演させていただくことになりました。……うん。高校が舞台ですよ? ……うん、入学して数ヶ月のことって事だから、15か6の筈だね。俺? 27だけど何か」
 ところでweb放送なのでweb視聴者からはリアルタイムでコメントが入る。時にそれらと軽快にやりとりする必要がある。
 ……実際、舞台の世界ではこれくらいの役と実際の年齢差は時折あることなのでこれ自体についてはそうそう卑下も気負いもしていない。
「しっかり、納得してもらえる演技を堂々やってみせたいと思います。そのために、そうだな、原作とか色々読み込んで、あとは若い子とも会話とかしつつ若作りしていきたいと思います……あれ? いや違うよ!? 役作りね!? 普通に言い間違えた!」
 スタジオの外の、窓から覗く観覧者たちの声はこちらには聞こえないが、こちらが話す内容は聞こえている。多くの人が笑う中、透は恥ずかしそうに顔を覆う。
「もう良いです。次行こう次! 俺の報告終わり!」
 そう言って彼は強引に話を打ち切って──実際この辺が尺的には頃合いである──場を明け渡すように下がっていく。
 ……さて、次に話すのは?

リプレイ本文

●収録前の前日譚

 ライブの本番会場でのリハーサルを終えて、狐中・小鳥(ka5484)はふぅ、と息を吐く。
 覚醒者だから体力には自信がある。それでも、ただ運動量からだけではない疲労感が身体に籠っていて……でも、それが心地好い。
 スポットライトの熱。アンプチャーで増幅されたサウンドの振動。クリムゾンウェスト出身の彼女には馴染みの無いものだ。色とりどりの光に演出されながらのステージも。その全てに、ドキドキして、胸が熱い。自分はこれから本当に、リアルブルーで、アイドルをするんだ、って。
 ステージに腰かけて、しばし客席を見つめる。今日はリハーサル。まばらにスタッフが座るだけの、がらんとした。
「狐中さん、大丈夫そうですか?」
 そうしていると話しかけてきたのは同じハンターであり、スタッフとしてハンターたちの芸能活動を手伝っている穂積 智里(ka6819)だった。
「リアルブルーの施設はクリムゾンウェストと全然違いますから、戸惑うことも多いと思います。でも、クリムゾンウェストの事が分からない人たちにそれが上手く伝わるかも分かりませんから……何か私が聞いておいた方がいいこともあるかな、と」
 張り切り過ぎて、無理や我慢はしていないか。最善を尽くすためには、言うべきことは言ってきちんと自分に合わせて調整することが必要な部分もあるだろう。智里は気遣いながら小鳥に話しかける。
「ありがとうっ! 大丈夫だよっ!」
 小鳥は弾んだ声でそう答えた。期待も、不安もあるけど、それ以上に「楽しみ」という気持ちが大きい。そんな笑顔で。
「……お客さん、楽しんでくれるかな?」
 多くても、少なくても。ポツリと小鳥が呟く、その横で不安を感じさせないように頷きながら。智里は自分の方が余程、このライブに成功してほしいと願っている自分を少し浅ましく思う。
 ……前に家族に向かって出した手紙がどうなったのか。その結果は今は出ていない。事務所に、彼女宛の手紙のようなものは来ていないという。届かなかったのか。それともここにいることが伝わっていないのか。
 智里は、この後もスタッフとして参加することになっている舞台のチラシを確認した。紙面の一番下に一列、他の人たちと並べられる形で、スタッフとしての彼女の名前がある。
 この立ち位置では、これが限界。ハンターだからと贔屓は出来ないと言われた。それは正しいと思う。同じ立場の人に対して露骨に覚醒者を区別するようなやり方をしたら、逆に反感を買うだろう。分かっていて……でも、これで気付いてもらえる日は来るだろうか、と内心で溜め息を吐く。
 それでも……今は小鳥たち、彼女たちの成功を少しでも手伝うことが己の望みを叶える一歩だと、そう気持ちを入れ直して、周りの声の細かな雑用に応えていく。
 そんな彼女に寄り添い同じように手伝いながら、ハンス・ラインフェルト(ka6750)は何かを考えているようだった。

 大伴 鈴太郎(ka6016)が再び芸能事務所を訪れたのは、一先ずスタッフとして参加させてもらえないかと願い出るためだった。アイドルとして、というのはやはり、踏ん切りかつかなくて。
 そうして、事務所へと向かう……
「大伴さん?」
 その前に、すれ違い様に出会った人物が、彼女に声をかけた。
「へっ!?」
 返事より先にすっとんきょうな声が出る。
「……なんか、声かけたらまずいタイミングだったろうか」
 そう言って、呼び掛けた伊佐美 透は苦笑する。
「いや、不味かねーけど……その……」
「まあその……先日の礼を言いたかっただけだから。君のお陰で助かった。どうもありがとう」
「先日? って、ああ」
 思い当たる節があって、鈴は微笑を浮かべる。思い出して、改めて無事でよかったとホッとして。
(……あれ? 別に避けられて……ない?)
 ……そして、普通に話しかけられていることにここで気付く。
「どうかしたか?」
「いや、あのさ。前にここの事務所で会ったときにさ……」
「ああ……。あの時も悪かった。ちょっとあって、本当に余裕無くてな。……そっちでも心配かけてたか? なら、それももう平気だから」
 すまない、と透が詫びると、鈴は暫く固まっていた。思い悩んでいたことが、完全に誤解だったと理解するまでの、数秒。その、後。
「なーんだよ! もう、仕方ねえなあ! まっなんにせよ元気ならいーンだよ! な!」
 打って変わって明るい声を出して、透の背中をバシバシと叩く鈴。嬉しそうに笑うその様子は、以前の態度を思わせた。
「はは。そういうことだから……呼び止めて悪かった」
 もしかして事務所に行くつもりだったのか、と聞くと、鈴はそうだった、とやっぱり上機嫌に笑って再び歩き出す。
 現金な、と言われても仕方ない程の気分の変わりようである──大元の恋の悩みは何も進展していないのだが。
 まあ、つまり。
 彼女は浮かれていた。
「大伴さんも、そう言えば鎌倉でやっていた舞台に出演されてましたね? これ、やってみませんか」
 その後、そうして中橋から持ちかけられた話に、深く考えずに了承する程度には。

●そして再び、放送日当日

「公開Web放送始まります。通行する方のために通路の確保の御強力をお願いします」
「横列を作っての観覧にご協力下さい。最前列は時間により交代とさせて頂いてます。ご理解をお願いします」
「中で公開Web放送開始します、よろしかったら御見学どうぞ」
 智里とハンスは今日も現場スタッフとして、サテライトの見学者が交通の妨げとならないよう誘導したり、待機する人に参加者の公演のパンフレットを配ったり、通りがかりの人に呼び掛けたりと働いている。
「あ、お疲れさまですう」
 二人に軽く声をかけるのは今日観客としてやってきた星野 ハナ(ka5852)だった。とはいえ同じハンターとして気遣いとして軽く声をかけた程度で、視線はすぐに会場の方へと向かう。
 間もなく開始する会場前には既に幾らかの人が集まり始めている。軽く出演の予定時刻などが張り出されており、彼女の友人が割りと早めに出てくるということを確認すると、声をかけて序盤の前列を確保させてもらう。
 暫くは、このまま待ち時間。
「……アレが私の最後にして最大の黒歴史だとは思えませんしぃ、どうせまた重ねちゃうなら開き直った方がマシですぅ」
 ふと過る想いに、ひっそりと独りごちる。覚醒者となった時点でどうせ山あり谷ありの人生だ。それ位の心構えがないとやっていけない。
 ──人それをオバタリアン化と言う、等という言葉も脳裏を掠めていくが。いや、その単語もうかなり死語じゃないのか。
 まあ、そんな形で自分自身とは決着を着けると、あとは何とはなしに周囲の人たちを眺めたりなどして過ごす。
 何事だろうとか、ハンターという単語に好奇心で視線を向ける人も居るが、中には目当てがいるのか、わくわくと目を輝かせて待ちわびている人がいる。
「……良いですよねえ。推しがいる人生っていうのは」
 しみじみと彼女は思う。あんな風に、目を輝かせて。日常を彩らせて。ちょっとくらい嫌なことだって推しを目の前にする瞬間だけは忘れてられる。そういうものでしょ?
 さて呑気に眺めてる皆さんに新たにこちらの沼に落ちる人はいるのだろうか。もしそうなったらグッドラックよい推し活動を。出演者観客双方にエールを送りながら、やがて公開放送は開始された。



 順調に進行するweb放送、透の次に話し始めたのは、
「どうも。おじさん奏唱士で南川 暖役の鞍馬 真(ka5819)です」
 同じ舞台に出演するということで、同時に出演している真だった。
「……おじさんアイドルってなかなか酷い響きだね!」
 自ら茶化すようにそう笑って真は透を見て、透は苦笑していたが、
「えっと、その顔、何かな」
 その苦笑がどうも真の予想していたニュアンスとは違う気がして、戸惑いの顔を浮かべる。
 透はと言えば、黙って視聴者からのコメント欄が流れてくるモニタを指し示した。
『おじさんて……二十歳位でしょ?』
「いやちょっと?」
『おっさんに謝れ』
『ネタなら正直あんま笑えないです』
『俺まだおじさんって言われたくないですby大学生』
 何気ない一言でコメント欄、軽く炎上である。
「いや待って!? て今流れたの何!? 百歩譲って若干若く見える方なのは良いとして今『西丘さん役だと思った』って出てなかった!?」
『分かる』
『ゆるふわハーフアップが似合うおじさん♯とは』
「いや本当やめて……お気に入りのオフスタイルなのにやり辛くなるから……」
 最終的にさめざめと実年齢を訴えることになる真なのだった。コメント欄は再びざわついた。
「いや本当……私みたいなアラサーが癒し系高校生をやるなんてハードルが高いと思ってるんだけど……」
「まあ実際、見た目より気持ち的な部分は大きいんだよな。台本読んでてさ、今の俺の素の気持ちだと『あーここで尖っちゃうかー』みたいなこう……」
「生温い気持ち?」
「なるんだよなあ。今の年齢で見ちゃうと。高校位の時は実際こういうのがクールだと思ってた気がする。どっちかって言うとそういう部分かなって」
「成程分かる気がする。私も透さんに従ってするべきかな。『若作り』」
「……いや、またそれ持ってくるの!?」
 笑いが起きる。話術も心得のある真のトークは終始軽妙だった。
「──ところで鈴君、大丈夫?」
「え、あ、」
 その対応力と気配り精神でもって、ふと真はここで、実はずっとこの場に居るも先程から黙りっぱなしの鈴に声をかける。
「ほら。挨拶挨拶」
「あっえっえっと、東谷 明、役の、大伴、りんたろ、です」
 あからさまな極度の緊張丸出しの挨拶に、観覧者や視聴者からの訝しげな視線やコメントが飛び交った。
 今回は覚醒者らしいアクションをもっと攻めて行きたいという要望があるからと中橋に頼まれて、当時の有頂天さもあってノリで引き受けたが、ここに来て我に返った彼女である。
 固まって、流れていくコメント欄をパニックの頭で流れて……『やっぱりハンターなんて、調子に乗った連中なんじゃないの?』という一文の捉えたとき、思わず
「そんなんじゃねえ! ハンターってのはなぁ……!」
 と、腰を浮かせて、そしてはっとして慌てて口調を直す。
「いえ……あの、頑張り、ます」
「別に、ここは役者としてコメントする場所だし、素のままの鈴君でもいいんじゃないかな」
「い、いやだって……役のイメージとかあるしよ……あるだろ……ありますし?」
 口調が迷走しだした鈴に、不安視するコメントは益々増えていく。……特に、原作ファンにとっては。真は暫し考える。
「『部活動、って、なんになるのかなあ。この場合えーと……悪霊退散部ー?』」
 そうして突如、切り出された台詞を。
「『……では話に成らんだろう。放課後、校内の何処を調べようが言い訳の立つ活動内容。広報部と言うことにした。顧問は現国の樽井教諭と話を付けてある』」
 透が受ける。長めの台詞を聞いてるうちに、スイッチが入っていくような感覚を鈴は覚えた。だって、何度も合わせた。
「『え? あのダルイが良く顧問なんて引き受けたね?』」
「『遠征も付き添いも有り得ん校内完結型の文化部を作るが名前だけ貸してくれませんか。ところでもうじき産休予定の生駒教諭のバスケ部顧問をどうするかの話がでると思いますが、といったら快く引き受けて頂けたが』」
 ……。
 その後ももう少し、台詞だけ演技する。
 本来は五人でやるシーンを、今日は三人。やって見せられた部分は短かったが、何人かから『イメージ近い』『思ったよりはしっかりしてるね』との反応を引き出せたようだ。
「さっき大伴さんが言ってたけど、実際、原作のイメージを大事にするのは重要だよな。ファンの方に納得頂ける物が作れるよう、これからもっと仕上げていきます」
「それから、あえて私たちがやらせてもらえる以上、私たちだからできる部分もしっかりと見せていきたい、かな」
 間もなく放送の尺。それぞれの締めの言葉……。
「えっと、頑張り、ます!」
 やっぱりそこが限界というのが、彼女らしいと言えばらしい。



「ええと……初めまして、の方がまだ多いでしょうかね……春陰(ka4989)と申します……」
 次いで登場したのは、アイドルとして活動する春陰だ。
「いつか出会う守るべき方を探す為、アイドルをさせていただくことになりました」
 まだ経験は浅いらしく、場慣れしきっていないのか、緊張気味でやや小声気味で、トークもたどたどしい。
 ──だがイケメンである。
 この世界では珍しい青の髪は生来の物である自然さがあり、眼鏡を掛けた明るく優しい笑みと相まって静かで理性的な印象を与えている。
 身長は187cmとやはりこの国では目立つ長身。その全身はちゃんと内臓揃ってるのかと言いたくなるほど細い。だが見ていて不安になる細さではなく、肩や掌、時折覗く手首などから決して華奢ではないと分かる。総じてその長身痩躯が一番に与える印象は「手足長っ!」である。
 確かに知名度は低い彼であるが、逆に女性視聴者からすれば全くノーマークの美形が新登場したとも言える。守るべき方、の言葉に、早くも『守られたい……』『むしろ守ってあげたい……』等といった発言が既にちらほらと出始めている。
「まだ新人、大型スーパーのイベントや前座などの活動が主ですが……」
 実際の所、クリムゾンウェストでそうした経験があるわけでは無く、ほぼ素人から始めた彼である。
 しっかり下積みが必要という事で、話題は報告というよりは苦労話といった風情だ。
「それでですね、今回はええと、特別……ぶいてぃ? 特別映像を作っていただきまして……」

 言葉と共に、画像は生放送会場から収録済みの映像へと切り替わる。現場で観覧している人たちもモニタで確認できるそこには秋葉原に立つ春陰の姿があった。
「ふあ……皆さん、おはようございます。本日はちょっと、少し離れた場所のスーパーが会場という事でして……」
 背景には朝焼けの空が見えている。
「この通り、俺が電車? とかを使うと、目立ちますし、その他諸々の事情で、はい。こちらバイクで。今から。向かいます」
 やはりどこか自信なさげな──あと眠そう──口調で彼は告げると、バイクに跨る。
 朝日を背景に走り出す春陰。なお特別映像中もまだコメントは有効で、『諸々の事情=予算か』『ロケバスとか無いんかい』『イケメン無茶しやがって……』等との言葉が並んでいる。
 ──フェードイン。
「ええとー。道合ってます?」
 スタッフ:合ってますよ。
 そんなテロップで再開された映像は、思い切り左右を木々に囲まれていた。
「これ、最短距離なんですかね?」
 スタッフ:都会よりこうした道の方が気軽に走れるかな、だそうです。
「あー。お気遣いだったんですね。……そのお気遣いは良かったかなあ……整備された道は普通に走りやすいですよね……」
 『酷え(笑)』『ネタの為だろ絶対(笑)』そんなコメントが流れる中、向かい来るヘッドライト。慌てて脇に避ける春陰のバイク。
「あ、ちゃんとトラックとか来るんですね……ちゃんとした道ではあるんですね……業者さんもお疲れ様です」
 そんな風に言いながら進んでいくと、更に道は細くなっていく。
「まあでも、これで大型車とすれ違う危険性は……」
 ──フェードイン。
 『ちょ(笑)』『猪と並走ー!?』『逃げて流石に逃げてー!?』
 スタッフ:大丈夫そうですか?
「まあ雑魔という訳ではなさそうですし……ぶつからないと良いですねえ……殺すのは忍びないですし……」
 『そっちの心配だけか』『動じてねえ』『覚醒者パねえな』『むしろ猪逃げて?』
 ※同じ覚醒者のスタッフの安全確認の元撮影を続けています。
 ※危険ですので非覚醒者は絶対に真似しないでください。
 真剣な注意書きのテロップが余計にツッコミどころである。
 『しねえよ』『スタッフも覚醒者か……そりゃそうか』『お疲れ様です』
 ──フェードイン
 この後見渡す限りの農道を走り抜けたり、その際出会った農家のおばあちゃんに優しくしてもらってちょっと涙を誘うシーンがあったりしながら、無事会場につき、覚醒者ならではのアクションを披露するとおばちゃんや子供たちから歓声を受ける春陰。
 こうして今日のお仕事も無事に完了するのだった。

「この日もお陰様で現地の方には喜んでいただけまして。アイドルがどのような物なのか。私も模索している最中でございます」
 映像が会場に戻ってくる。『模索の方向が間違ってる』『逆に有りかも』等とのコメントが飛び交っていた。
「間も無く、我々がこちらの世界にもう少し長く滞在できるようになるかもしれないですね。そうしたら、バイクで東京から札幌まで目指すとかそうした仕事も計画されてるとか……」
 彼の持ち時間は、そのようにして締められた。特別映像の前後でむしろ男性視聴者の食いつきの方がよくなった感じの春陰である。



「皆、よろしくなんだよっ! アイドル…見習いの小鳥だよっ! 今日は少しでも顔と名前を覚えていって貰えると嬉しいな?」
 続いて、元気よく弾む声で登場したのは小鳥だ。やはりアイドルとして活動する、クリムゾンウェストでそれなりに経験を積んできた彼女の持ち時間は、小さなライブハウスでのライブ報告から始まった。
 用意されたダイジェスト映像で、輝くステージで端から端まで走り周り踊りつつ歌う彼女の姿が披露される。
「ライブ見に来てくれた人はいるのかな? かな? 楽しんでくれてたらいいんだけど……」
 そう言いながら前に出る彼女。対するコメントは……『足元大丈夫?(オロオロ』『心配……』『今日は転ばないで』……
「……こ、転んだ事は忘れて欲しいんだよ!?」
 慌てていう小鳥。幸いトーク中のことでパフォーマンス中ではなかったため、怪我もないし進行に影響は無かったが。逆に何もないところで転んだことがファンに心配……というか庇護欲を生んだようである。
「え、えっと、今日は、だから、一曲宣伝していきたいと思います! 元気に踊りながら歌う、明るい曲だよっ! 聞いていって下さい!」
 彼女が手を差し出すと同時に、イントロが流れ始める。

 ======Blade Dance ======

 キミの夢 切り拓いてくよ Blade Dance !(Blade Dance!)
 笑顔を 見たいから ほら見てて 煌かせるよ

 いつでも 駆けつけるよ はじける光みたいな 速さで
 キミと一緒 クルリ回って 笑えたら
 怖くないよ 上手くできる そんな気持ちするんだ

 この気持ち 止まらないの
 じっとしてなんか 居られない
 油断しちゃだめ 目を離せばほら ボクはここだよ!

 キミの夢 切り拓いてくよ Blade Dance !(Blade Dance!)
 笑顔を 見たいから ほら見てて 煌かせるよ

 誰にも 見せられない そんな気持ちだって あるよね
 隠れちゃうなら それでもいいよ そこにいて
 この気持ちは きっと届く キミがいるところまで 

 この気持ち 繋げていく
 諦めないで もう一度
 不安なんてね もう一捻りで 倒せるんだから!

 キミの闇 切り裂いていくよ Blade Dance !(Blade Dance!)
 涙に 負けないで ほら見てて かざした光

 紅く 燃え盛る 心も
 蒼く 沈みこむ 気持ちも
 両手に しっかり 握りしめるよ

 笑顔で 駆けつけるよ 涙も 飛び越えて
 だから舞うよ この脚もっと 軽やかに
 (STEP! STEP! JUMP!)

 キミの夢 切り拓いてくよ Blade Dance !(Blade Dance!)
 笑顔を 見たいから ほら見てて 煌かせるよ

 キミの闇 切り裂いていくよ Blade Dance !(Blade Dance!)
 涙に 負けないで ほら見てて かざした光

 ===================

 歌い終えると、観覧席からの拍手と応援のコメントが溢れていく。
「これからも元気に歌って踊って戦えr……戦えるはいらないのかな? ……アイドル目指して頑張って行くから応援よろしくだよっ!」
 最後まで、弾むような声で言い終えると、正統派アイドルと言える彼女の見せ場に『頑張れー』『これからも応援するよー』と温かい声援が贈られて、そうして彼女の出番はここで終了となった。



「エルバッハ・リオン(ka2434)と申します。よろしくお願いしますわ」
 最後に登場した彼女は、そう言って堂々と、優雅に一礼して見せた。
 報告するのは舞台への出演。
「以前、出演したテレビドラマで歪虚を演じてから、歪虚役のオファーが来るようになりました」
 終始笑顔を浮かべながら、朗らかな口調で彼女がそう言うと、『イリス様……?』『イリス様か!』と言ったコメントがちらほらと見え始める。
 かつて放映されたドラマ『紅の刑事──捜査0課』をはじめ、郷祭等の折にもいくつかの舞台を踏んできた彼女である。その生まれもあって立ち振る舞いは堂々たるものだった。
「今回の舞台も演出家さんからのご指名と聞いています。ありがたいことです」
 『またVOID役……?』『妖艶な演技に期待』といったコメントに彼女は唇に指を当ててほほ笑んで見せると、「詳細についてはやはり映像で」と、ここでやはり、用意されていた動画に切り替わる。
 始まったのはどうやら、舞台のオープニング演出の映像──所謂トレーラーと呼ばれるもののようだった。

 ──舞台セットの上部。椅子に気だるげに腰掛ける、ゴシックドレスの少女。
「ゆめを、みましょう? くらくて、ふかくて──あまぁい、ゆめを」
 あどけなさと色っぽさを併せ持つ声で彼女が一言告げると……音楽が始まった。ピアノソロ。だが情熱的な。
 音楽に合わせて舞台上にはプロジェクターによる画像が投影される。絡まる操り人形の糸を思わせる線が流れ、エルバッハの名と役名が流麗なフォントで表示され、糸が解けるように消える。
 やがてセットの下部から役者が順番に現れ、軽いアクションと共にポーズ。合わせて、役者名と役名が次々に表示される。
 曲調が激しくなる。舞台下部では群舞が始まっていた。特殊部隊に扮する一群とVOIDと思しき姿の一団が、殺陣のような舞で入り乱れる。
 争いの巻き起こる下段と共に、彼女もまた。椅子も巧みに利用して、身悶える様に舞い踊る。
 翻るドレスの裾。垣間見える手首、足首には──球体関節。
 入り乱れる、人、画像。糸が絡み、ほどけて散っていく。
 倒れていく。人々も、VOIDも。
 その中で、舞台上段に向け一人、駆けあがっていく影。特殊部隊の生き残りのようだった。
 男は踊る彼女の背後に回り、社交ダンスのようにその片手を取り──もう片手で、首筋にナイフを。
 妖艶な笑い声と共に、音楽はフェードアウトしていき。
「これは、にくしみ、あらそいの物語……? いいえ、愛の物語!」
 叫ぶような一声と共に、タイトルロゴが大写しにされて──消える。

 映像が終わって暫くは、観覧席も、コメント欄も静かだった。
 数拍置いてから、どよめきと拍手が起こる。
「ありがとうございます。演技に関しては勿論精進してまいりますが……こうしてみると、やはりリアルブルーの舞台技術にも驚きですね」
 称賛に、彼女はやはり落ち着いた様子で受け応えた。
 ……どうやら、この舞台の内容は『要人暗殺を繰り返す歪虚の集団とその討伐を命令された特殊部隊の戦い』というものらしい。
 その中核となる、歪虚の集団を裏で操る、黒いゴシックドレスを着た少女人形型の嫉妬の歪虚がエルバッハの役。
「そしてこの戦いの決着は……ああ、これは、始まる前にお教えするわけにはいきませんでしたね?」
 実際の流れとしては、『多くの犠牲を出しながらも、特殊部隊が黒幕の自分も含めた歪虚の集団全てを斃して終わり』というのが大まかな内容となるが、もちろんここではそこまで話せない。
 最後まで、しっかりとした様子のエルバッハをトリとして──これで、番組の全ての予定が終了した。

●放送終わって

「30目前だろうが走り方や躍動感で充分十代って演じられますもんねぇ……高校生だと落ち着きすぎて40代に見える男の子もいましたしぃ、透さんがどんな高校生になるのか楽しみですぅ。コミカル路線やってくださらないのが残念と言えば残念ですけどぉ」
 何か思い当たる舞台もあったのだろう。見終えたハナが一人呟く。一先ず、呟きの満足そうな色から、彼女はそれなりに放送を楽しんだのだろう。
「すみませぇん、プレゼントって渡せますかぁ」
 やはり智里に声をかけて、ハナは手にした小さな花籠を見せる。
「ありがとうございます。プレゼントボックスはあちらです」
 内容に問題が無いとみて、智里は箱が設置された一角を示した。なお「やっぱ食べ物とかは駄目ですよねえ」と軽く確認すると、「そうですね、手作り既製品含め、食品はお断りしています」との答えだった。やはり、悲しいかなそういうものは異物混入を疑わねばならない。
 そうして、ハナは示された箱に、潰れないようにと隅の方に花籠を置いた。ちらりと見えた中に、すでに手紙がいくつか入っている。これらは予め目当てがいた人たちの物だろうが、感動したのかツボに来たのか、コンビニで便箋を買い求めこれから書く人もいるようだ。
 見返りは求めない。ほんの少しでも彼らの活動の糧になってくれれば。世界を隔てた推し活動はその気概は一層重要になるだろう。ハンターから返事は出せない。活動で応えるしか。
 ……彼女が贈る花も。ただ一ファンの想いとして。ひっそりと咲く。

 そうして全てを終えると、ハンスと智里は連れ立って秋葉原の街へと繰り出していた。
 強制帰還まで後どれほどだろう。残された時間、どこに行こうかと考える智里に対し、ハンスが真っ先に連れ出したのは本屋だった。
 迷うことなく、ライトノベルのコーナーへと向かう。
 舞台化が決まった作品は、見つけ出すのは難しくは無かった。ハンスはそれを、三冊纏めて買う。
 手伝う作品として興味が沸くのは分かるけど、三冊? 訝しむ智里に、ハンスはそのうちの二冊を差し出した。
「どうぞ、マウジー。1冊は貴女のオーマに寄贈したらどうです? 宛名もなく何も書かずとも、届きさえすれば。マウジーのオーマやオーパなら、きっとここまで観に来てくれると思いますよ?」
 同時に言われた言葉に、智里はしばらく動けなかった。理解よりも先に感動が体内でさざ波を立てる。
「……え?」
 衝撃が通り過ぎて、やっと金縛りが解ける、その後は。
「ありがとうございます、ハンスさん!」
 思わず感動でそのままギュっと彼にハグする智里だった。
「私……ハンスさんと一緒で、良かった……」
 しみじみと呟く彼女に、ハンスは柔らかく苦笑してから、頬に軽いキスを落す。
「喜んでもらえて何よりですよ、マウジー」
 何も書かなくとも、祖父母たちならきっと。疑問に思って、そしてきっと、この舞台まで辿り着いてくれる。
 抜け駆けなのかもしれないけど、それでも、願いに向けて。
 可能な限りの努力はしていきたいと、彼女は今回も郵便局に向かい、今度は書籍小包を祖父母宛てに郵送した。
「せっかく聖地に来たんですから、残りの時間はまた秋葉原を散策して帰りましょうか」
 そこからは時間が許す限り、メイドカフェや勇者カフェ、猫カフェなどを巡り堪能する。
 手は勿論、しっかりと恋人の形に繋いで。
 智里は、そうして寄った場所の時折に、今日買ってもらったばかりのライトノベルを開く。
 寄り添って同じ本を。同じ時間を共有する幸せを噛みしめながら──彼女は次の公演に思いを馳せた。

 こんなことしてていいのだろうか、という想いは、多分誰にでもある。
 ハンターとして。こんなことをしている場合だろうか、とか。
 それでも、願いを、想いを、そこに抱く。
 番組を終え、後片付け、軽い打ち上げと互いへの労いも終えて、本日の出演者たちは帰途についていく。
 無事に、終わった。
 一先ずは大きな問題もなく、順調に。
(我ながら面の皮が厚いな……)
 全てを終えて、帰る準備をしながら真は表情に出さないように、内心で独りごちていた。演奏などで人前に立つことの多い真にこういう場面で緊張はなかった。……厚顔というのは勿論、その事ではない。
(私のせいで死にかけた相手と共演とか、ね……)
 先日の依頼の件は、彼にとってかなり引き摺るものだった。それでも、この話は前の依頼の件より先に決まっていたものだ、仕方なくはある。
 今は自分の心情より、目の前の事に全力を尽くす。その責任感でどうにかこなしたが。
 ……危うく窮地に陥らせた透には、正直に言えば未だ顔を合わせ辛いものが、あった。のだが。
「ちょっと、良いかな」
 そんな真に気付かずか──まあ、気付かせないようにしてたのが上手くいった訳でもあるか──透は声をかけてくる。ほんの少し、身構えた。
「何かな」
「いや、単純にタイミングの問題でなかなか聞けなかったんだけどさ」
「うん?」
「そろそろ、真って呼ぶようにしてもいいか」
 そうして、ごく、何も気にしてないかの口調で、彼はそう聞いてきた。そんなことを、わざわざ。


 ──望むことは。
 想いを、伝えること。繋がっていられるように、と。

 それから。

 願わくば、あなたの幸せなひと時に。
 変わりゆく世界。過酷な現実もあるこの世界で。

依頼結果

依頼成功度成功
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参加者一覧

  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 開拓者
    春陰(ka4989
    人間(紅)|25才|男性|舞刀士
  • 笑顔で元気に前向きに
    狐中・小鳥(ka5484
    人間(紅)|12才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/21 18:37:48
アイコン 相談卓
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2018/06/18 21:50:50