• 空蒼

【空蒼】ミドガルズオルム~南方大陸編~

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/06/26 09:00
完成日
2018/07/25 11:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●辺境からの使者
「ヴェルナー殿からの書状を持参したというのはあなたですか?」
 常人がほぼ近付くことの無い、第六師団の師団都市『オルブリッヒ』。
 蔑称を『アリ地獄』、『アナグラ』と言われるようなこの地に来客……しかも辺境要塞ノアーラ・クンタウの管理者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)からの書状を持った者が訪ねてきたとあって、イズン・コスロヴァ(kz0144)は手に掛けていた書類を中断して応接室へと駆け込んだ。
「はい、突然の訪問となってしまって、ご無礼をお許し下さい」
 埃がライトの灯りを乱反射しながら舞い、様々な企画書のそびえる室内。
 頭を下げたのは、まだ青年と少年の中間にあるような端正な顔つきの……だが精悍な体つきから部族の戦士とひと目で知れる男子だった。
「俺はオイマト族のイェルズ・オイマトといいます。ヴェルナーさんからこちらに、帝国随一の腕を持つ技術士がいると伺って参りました。お願いします、俺の義手を作って下さい」
 イェルズ・オイマト(kz0143)が、両手で封筒を前に突き出すようにして頭を下げた。
 その、左手。有り合わせの材料で急ぎで作ったものらしく、長期利用は難しかろうという事は技術士でもないイズンにもひと目で分かった。
「確か辺境にもドワーフがいらっしゃいませんでしたか? 彼らにお願いされなくて良いのでしょうか」
「はい。最初にお願いしたんですが、完成したと見せられたものに……その、何故かキャノン砲が付いてまして……」
「……なるほど。拝見致します」
 書面を受け取り、その内容を一読するとイズンは書面を封筒に戻しイェルズを見た。
「申し訳ありませんが、私には貴方の義手の制作が出来ません」
 縋るように大きく見開かれた瞳に、イズンは申し訳なさそうに柳眉を下げ告げた。
「ですので、作業場までご同行願えますか? この書状も私では無くヴァーリ……第六師団長に見て貰った方が良いでしょう」

「……綺麗な切り口だのう」
 イェルズの左腕を舐めるように観察しているドワーフからは、得も言われぬ“芳香”が漂ってくる。
 見た目も、ヴェドルのヨアキム(kz0011)を一回り細身にしたような……でも体毛は二倍にしたような……だが良く似た風貌をしている。
(……ドワーフの偉い人ってみんなこんな感じなのかな……???)
「出来ますか?」
 イズンの問いが聞こえなかったのか、ヴァーリは鼻息荒く疵痕に魅入っている。
「ここまで綺麗なら魔術回路を組み込んで覚醒時のマテリアルを信号化して……」
「出来ますか?」
 話を遮るようにイズンが再度問えば、ヴァーリは愚問だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「儂を誰だと思っておる。材料さえあれば元の腕よりも良いモノをこさえてやる」
「本当ですか!?」
 若草色の瞳を輝かせ、イェルズがヴァーリの油ヅヤで輝くつむじを見る。
「“材料さえあれば”、な。イズン、ちょっと取りに行ってきてくれ」
「……分かりました。どちらまで?」
「南方大陸と龍園だ」
 両極端な地名を言われ、思わず顔を見合わせたイェルズとイズンだった。


●南方大陸の地下遺跡へ
「やぁ、イズン殿。久方振りだな、息災なようで何よりだ」
「ご無沙汰しております。……ケン王もお変わりないようで」
「お前達のお陰で、強欲竜達の襲撃が半数以下に減ったからな。お陰で色々な物事が進んでいる」
 今、南方大陸のコボルド達は地下遺跡の更に奥に眠っている鉱石を採取して諸国に輸出することで食料などの物資を得ていた。
 特に襲撃が減った事で、人口が増えたため、食料問題が彼らコボルドにとって最大の問題となっている。
 『明日食べる為の食料』が今と昔では違う意味で少ない。これは嬉しい悲鳴だとケンは笑う。
 もちろん砂漠の緑化に向けての援助も引き続き行っているが、一朝一夕という訳には行かないのが自然との闘いだ。
「それで? アダマス鉱石が欲しいのだったか?」
「はい。出来れば、純度の高く大きいモノが」
 イズンの話を聞いて、ケンはろうそく耳を左右に振った。
「その量となると中々だな……恐らく黄の一族の遺跡に行った方が早いだろう。使者を送っておくので行ってこい」
「感謝いたします」

「そういえば」
 ケンは尾を緩やかに振った。
「あの人間と歪虚は3ヶ月前に星へ還ったぞ」
 ケンの静かな一言をイズンもまた、静かな瞳で受け止め、頷いた。
「報告は受けておりました。最期まで見届けていただいたこと、感謝しております」
 イズンの瞳の奥を見つめ、ケンは再度尾を緩やかに振ると頷き返した。
「また何かあれば申してみよ。力になれることがあれば一族を挙げて協力しよう」
「……有り難うございます」


●アダマス鉱石を守れ!
 最寄りの転移門を使っても、砂漠を2日横断しなければならないという過酷な旅だった。
 移動は陽が沈んでからの夜間にラクダを使って行い、日中はオアシスの傍でテントを張りなるべく休む。それが砂漠を移動するコツでもある。
「魔導トラック欲しい……」
「近くに大型の転移門がありませんでしたので……申し訳ありません」
 満天の星空の下。ぐんと気温が下がった砂漠では冬用のコートを羽織ってもまだなお寒い。
 嘆く声にイズンが生真面目に頭を下げた。
 日中の温度差は著しく、さらに熱い砂漠では休むと言っても熟睡出来る訳も無く、皆の疲労はピークを迎えていた。
 しかし、苦労した甲斐あって無事オーダーに適うだけのアダマス鉱石を手に入れられた。
 あとは、これをヴァーリの元まで届けるだけだ。
「今夜中で転移門のある……っ!?」
 突如、ラクダが跳ねた。
「……これは……サンドワーム!?」
 イズンが覚醒すると同時に、目の前に砂の壁が立ちそびえ、そして頭上から大量の砂が降ってくる。
 砂の雨が止んだ頃、イズン達一行はすっかり周囲をサンドワームに囲まれてしまっていたのだった。



 ※特殊ルール※
・全員ラクダ(移動力5)に騎乗しているものとします。
 騎乗を解除して戦う事はプレイングにて可能ですが、他の騎乗物に移乗することは不可となりますのでご注意下さい。
・全員アダマス鉱石(コスト20)を装備しているものとします。
 出発時の装備品コストが+20となります。コストがオーバーする場合、移動力にマイナス修正(コスト1~5↑で移動力-1、コスト6~10↑で移動力-2……)を入れさせて頂きますのでご注意下さい。
・一定以上のダメージを受けると判定の結果、アダマス鉱石を『一部落とす』ことがあります。
 重傷になると、『全て紛失した』という判定になります。
・落とした鉱石は二度と拾えません。

リプレイ本文

●守る為の戦い
 3体のサンドワームから降ってきた砂を払いながら、アーサー・ホーガン(ka0471)は仮面の下の顔を盛大にしかめた。
「やれやれ、最後の最後にご登場とは」
「さて、コイツは厄介な状況だなぁ……まずは囲みを抜けねぇとな」
 「さて、どうしたもんかね」と、劉 厳靖(ka4574)はアーサーを見て、後列の羊谷 めい(ka0669)と浅黄 小夜(ka3062)を見る。
 幸いにしてここまでの道中、敵らしい敵の攻撃を受けていない為、スキルに関しては問題がない。ただし、この二日間殆ど熟睡出来ていない状況であり、そういった意味での肉体的・精神的な疲労というのは誰もが抱えている。
「この程度の歪虚にくれてやるほど安い命ではありません。アダマス鉱石を死守しつつ、戦いましょう」
 さも当然といった風にイズン・コスロヴァ(kz0144)がアサルトライフルを構え、淡々と述べる。
「……まー、そうなるわなぁ」
 やれやれと言わんばかりに両肩を竦めて劉は敵を見つつ、ヴィロー・ユの柄に手を掛ける。
 一方でめいはそんなイズンを見て、ほぅ、と息を吐いた。
(イズンさんは砂漠とかでも大丈夫なのでしょうか……いつもシャンとしてて格好良いな。憧れちゃいます)
「……逃げる、は無理、でしょか?」
 敵は3体。自分達を中心にほぼ等間隔に囲む様に鎌首をもたげているのを見た小夜の問いに、イズンは首を振って否定する。
「ほぼ足の速さは五角。砂に潜られれば地の利は敵にありますし、道中に他の敵と遭遇すれば被害の拡大は間逃れません」
 まだ村までも距離があり、逃げ切ることは難しいだろうとイズンは告げる。
「俺にはイェルズとの個人的な関わりはねぇが、折角ここまで運んだってのになくしたとあっちゃつまらねぇからな。じゃぁ、まずは敵の動きを止めて、一体ずつ確実に倒す! 行くぞ!」
 アーサーの号令に「だな」「はい」「……わかりました」「わかりました」と4人が口々に頷き、ラクダを走らせた。

「“みくににおわせしわがおおきみよ”」
 劉の朗々とした歌声が響き渡る中、小夜がヴァイザースタッフを掲げその先端にマテリアルを集束させる。仄暗い空間に重暗い紫の光源が現れ、それは見る間に一体のサンドワームを包み込み重力波となり襲いかかった。
「これで!」
 ほぼ同時にめいが後ろの一体へ向けて夜の闇を凝縮したような刃を飛ばす。刃はサンドワームの身体を貫き、その胴体を空間に縫い付ける。
 その結果を見るよりも先にアーサーと劉はまだ無傷のサンドワームへと駆け出す。
 目の前のサンドワームが弾幕に覆われる。イズンの放った制圧射撃だ。
 アーサーはそれを意に介さずマテリアルの硝煙の中へと飛び込むと右、左と交互に斬り付け、更にアスラトゥーリによるオーラの斬撃を放つ。
「……っち、案の定火属性持ちか……!」
 二刀流は右手・左手それぞれの武器で攻撃を行う。
 水属性を持つストームレインの攻撃は深く傷を入れる事が出来たが、一方で火属性を持つレーヴァテインの一撃は表皮を撫でた程度に過ぎなかった。
 劉は僅かに攻撃の届く範囲に届かなかった為、アーサーの後方で襲撃に備える。
「攻撃が来ます!!」
 小夜とめいの攻撃により、移動を封じられた二体だが、口から火炎を吐くことは出来る。
 イズンが射撃で攻撃を逸らそうとするが適わない。
 小夜とめい、そしてイズンが火球に飲まれた。
 マテリアルの炎であるため、実際に焼けたりするわけでは無い。
 それでも全身を焦げ付かせるような衝撃に3人はそれぞれに思わず悲鳴を上げた。
「このっ!」
 劉がラクダの脚力を活かした突撃でサンドワームの胴を貫き、アーサーは引き続き二刀流にオーラの斬撃を乗せて斬り付けていく。
「小夜さん!」
 最も生命力が低い小夜へとめいが回復スキルを準備しながら問う。
「……大丈夫、やから」
 そんなめいの声に応えつつ、「大丈夫」と再度自分に言い聞かせるように小夜は呟いた。自身へのダメージはそれほど深刻なモノではない。
(まだ動けてない。なら、攻撃が、優先)
 小夜は3体のサンドワームを順々に見つめ、冷静に状況を判断するとアーサーと劉が攻撃している一体へと杖の先を向ける。
 砂漠の夜は冷たい。
 その夜気を集めたような冷気が1本の矢となりサンドワームへと真っ直ぐに飛んでいく。その一矢を受けたサンドワームはその場で見事に凍り付いて行った。
「ナイス小夜!」
 劉の声に小夜は思わず頬を緩めた。
 めいは再度後方のサンドワームへプルガトリオを放ち、イズンのフォールシュートが凍り付いたサンドワームを蜂の巣にしていく。
「……それでも倒れない、か。全く頑丈なミミズ様だ」
 うんざりした声音でアーサーは呟くと、敵の攻撃に備えて眼前で炎と水を纏った刃を交差させた。


●一方的な猛攻
 アーサーの提案した作戦は面白いほど嵌まっていた。
 特にこのサンドワームが火属性であり、水属性が弱点であった事は、アーサーの一撃を重くし、小夜のアイスボルトが刺さる。
 注意深く敵の動きを見ていれば回避行動を取ることも難しくない。
 範囲攻撃が多く、巨大な敵ではあるが、一体ずつ倒すように作戦を組み立てたのは最善手だったといっていい。
 それでもこの劣悪な環境で生き存えてきた歪虚だけあって、生命力は予想より遥かに高く。ようやく一体目のサンドワームを倒した一行は、再度行動力を奪った2体から距離を取るべくラクダを走らせる。
「大丈夫か、小夜?」
 駆け寄ってきた小夜に劉が問う。
「はい、気付けて良かったです」
「おぅ……? そりゃ、よかったな?」
 傷の具合を訊ねたつもりだった劉は、微妙に会話が噛み合っていない気がしつつもラクダの手綱を捌く方へ意識を移した。
 小夜が“気付けたこと”とはグラビティフォールのことだ。
 グラビティフォールは強力な重力により敵を圧壊する強力な技だが、難点としてその範囲内“全員”を巻きこむ。
 実は、小夜は行動阻害の威力を上げた方を発動させようとしていた。
 だがそれを使うと自分も巻きこむことに気付いて、慌てて距離のある方に変えて、自分も仲間も巻きこまないように発動させたのだ。
 強い敵と戦う為に能力を強化して来た。その威力を危うく自分自身で体験……どころか、ダイナミックな自殺に至るところだった。
 ハンターのスキルとはこう言った諸刃の剣のところが往々にしてあるので気を付けなければならないと、小夜は気を引き締める。

「一体、動き始めました!」
 サンドワームが砂に潜ったのを見ためいが声を上げ、殿を走っていたアーサーが立ち止まり、オーラを纏う。
 めいは無傷のアーサーを見てアンチボディを施した。
「無理しないでくださいね?」
「そいつは難しい注文だな」
 「サンキュ」と告げたアーサーは口角を上げたまま注意深く地中に視線を向ける。
 もう一体のサンドワームは口を開閉しながら、プルガトリオの縫い止めから逃れようと身を捩っている。
 アーサーの真下の砂が動いた――次の瞬間、アーサーは転がり回避。
 しかし砂の雨が周囲に振り注ぎ、アーサーとめいは視界を奪われる。口腔内にも砂が入り込み、正しく砂を噛む感触に二人は思わず顔をしかめた。
「“うみゆかば おおわだつみ やまゆかば おおやまつみ これのかむづまります かけまくもかしこき いくさのおおかみたち”」
 幸い砂の雨の範囲外にいた劉が東方の戦歌を高らかに歌い、アーサー達に届くよう位置取る。小夜は距離を取ってから氷の矢をサンドワームへと突き立てた。
 直ぐ様立ち直ったアーサーとめいは攻撃へと転じる。
 二刀流からのオーラでの斬撃を放つと距離を取り反撃へと供える。
 めいもまた闇の刃を放ち、それと同時に鞄からある物を取り出すとサンドワームへと向かって投げつけた。
「うまく、入って!」
 めいが投げたのはトントゥの鈴。涼やかで楽しげな音と共に鈴は放射線を描いてサンドワームの口の中へと吸い込まれていく。
「よかった!」
 それを見届けためいはアーサーの後を追って走り出す。
「今のは?」
 アーサーに問われ、めいは少し気恥ずかしそうに俯く。
「えっと……サンドワームの地中での移動のとき、地上からだとやっぱり分かりにくかったので……地中深くに潜られたら聞こえないと思いますけど、地表近くに来られたら音でどこに出てくるかわかるかなって」
 猫に鈴、ならぬ、サンドワームに鈴、というわけらしい。
「なるほど……そいつはいいアイディアだ。保険は多いに越したことは無ぇ」
 アーサーに褒められてめいは更に恥ずかしそうに微笑んだ。
 イズンの銃声が夜の砂漠に響き渡り、凍り付いたサンドワームは反撃の機会を得られないまま5人の攻撃に晒されていく。

「もう一体が来ます!」
 地中に潜ったサンドワームは何処から出てくるのか分からない。だが、自分達と3体目のサンドワームとの距離は離れている。
「さぁ、とっととコイツを片付けちまおうぜ」
 氷漬けにあったサンドワームは攻撃らしい攻撃がほとんど出来ないままにアーサーの剣技の前についに塵へと還っていった。
「あと、一体」
 小夜はアーサーから距離を取り、慎重に周囲を見回す。
(……大丈夫、他の敵はいない)
 劉の東方の歌声が響き渡るだけで、他の物音は殆ど無い。
 流石は砂漠に棲んでいる歪虚だけあって、その砂中を移動する音はどれほど耳を澄ませても聞こえない。
 だが――
「飛んで火に入る砂漠の蟲ってなぁっ!!」
 アーサーの真下に現れたサンドワームの一撃をアーサーはレーヴァテインの刃を盾に受け流す。
 このサンドワームには視力がなかった。ただ、命ある物が放つ生体マテリアルの熱量や光量を察知して追う。ゆえにソウルトーチに誘引されたサンドワームはアーサーのいるところにしか現れない。
「……とはいえ、そろそろスキルも尽きる。踏ん張りどころだな」
 めいももうプルガトリオは撃ち尽くしていたし、小夜のアイスボルトもあと数回を残すのみ。
「なら、俺の出番かね」
 劉が再びマーキス・ソングを歌い始める。
「行け! 小夜!!」
「はい!!」
 アーサーの呼び声に小夜は大きく返事を返し、氷の矢を生み出す。
 氷の彫刻のように凍り付いてくサンドワームは、見る者によっては夜の砂漠と相まって神秘的ですらある。しかし、イズンにとってはただの動かぬ的でしかない。
「高加速射撃を持ってくるべきでしたか」
 フォールシュートを撃ち尽くし、高威力スキルがないイズンは、ぽつりと反省の言葉を零しながら引き金を引く。
「そろそろご退場願いますってなぁっ!!」
 アーサーの生体マテリアルを乗せた一撃が、サンドワームの胴を貫き、砕く。
「“そのちから そのしんぴ いまいちどわれにかしたもう”!!」
 劉が歌いながら繰り出した槍の一撃に、急所を砕かれたサンドワームは声も無くその動きを止め、塵へと還っていった。


●いつかこの星空を思い出す
 ラクダから降りて砂漠に寝転がった劉が見上げた空は、恐らく西方にいる限り見られない星の数だ。
「相変わらずすんげぇ星」
(……あいつらにも、束の間の安らぎがあったなら良いんだがね)
 イズンから聞いた、アダムとペレットの末路。
 星を見上げながらぼんやりと劉は想いを馳せる。
「……北方で見た星空も素晴らしかったですが、砂漠の夜は明るく感じますね」
「空気が澄んでると見え易いんだったか? 北方は雲に覆われている事が多いが、雲のない日の夜空は格別らしいと聞いたが」
「えぇ、向こうの星空は……そうですね、凍てつくような寒さの中で見る星は恐ろしい程に美しいですよ」
 イズンがラクダから降りて空を見上げ、アーサーは騎乗したまま一緒に奮闘してくれた相棒の首を撫でている。
「お怪我は大丈夫ですか?」
「……はい、イチバン……遠くにいるように、気を付けました……から」
 小夜はめいに頷き答えながら、ラクダに括り付けていたアダマス鉱石が減っていないことにホッと安堵の息を吐いた。
「……今回は皆さん無事でよかったですが……もうこんな鬼ごっこはこりごりですね」
 めいが小さく笑って空を見上げる。
 そんなめいにつられるように、小夜も星空を見上げた。
(夜の砂漠……やっぱり星が綺麗……)
 いつか見た夢の中での宇宙遊泳を思い出して、小夜は思わず微笑んだ。
 いつからか怖くなくなった星空。
(いつか、一緒に……)
「さて、そろそろ行きましょうか。日が昇る前に転移門に辿り着けるよう、頑張りましょう」
「了解」「あいよ」「はい」「……はい」
 イズンの声にそれぞれが応え、それぞれに「あと少し頑張ろう」「よろしく」とラクダに声を掛け、ラクダの背に乗る。
 ラクダの大きな黒い瞳は星空を映して輝くようで美しく。そして砂漠の砂からその大きな瞳を守る為に長いまつげに覆われている。
(こんなに愛らしい動物だったんですね、ラクダって)
 リアルブルーの動物園で見たような気がするが、実際こうやって乗って触れて知る事は多い。
 めいはまたひとつ、知らなかったことを知った。
(また世界が、広がった)


 5人は夜の砂漠を駆け、これ以外の大きな戦闘になる事も無く転移門へと到着した。
 必要量に十分過ぎる程のアダマス鉱石を届けることに成功したお陰で、イェルズ・オイマト(kz0143)の義手は順調に作成されたという。
 後日、その報告を5人はそれぞれに受け取ると、あの砂漠の旅を思い出し、空を見上げた。
 ――砂漠のギラつく日差しとは違い、暖かな初夏の日差しがそこにはあった。

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MVP一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471

重体一覧

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 正秋隊(紫龍)
    劉 厳靖(ka4574
    人間(紅)|36才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/21 07:01:10
アイコン 質問卓
羊谷 めい(ka0669
人間(リアルブルー)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/06/21 19:27:42
アイコン 相談卓
羊谷 めい(ka0669
人間(リアルブルー)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/06/25 19:19:37