ゲスト
(ka0000)
実験畑の研究日誌3頁目
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/24 15:00
- 完成日
- 2015/01/02 09:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
白衣の長い袖を折り畳み、裾を草に引っ掛けて歩く小柄な女性。若い研究生達が彼女を先生と呼んで手を振った。
瓶底眼鏡の厚いレンズ越しのくりっとした目で笑って彼女は空を見上げた。
遠く遠くに雪雲が見える。
いずれここに雪か、あるいは雨か、冷たい木枯らしを届けるだろう。
「皆さん、準備は良いですか?」
指先を赤らめた手を吐息で温めて、ぱんっと小気味良く打ち鳴らす。
研究生達が集まった畑と、その傍らに成型を終えた材木が積まれている。
「天気が変わってしまう前に作ってしまいましょう。もうここからでも、雲が見えていますから」
指さす先の雲に研究生達が声を上げて慌ただしく作業を始める。
しかし。
●
ハンターの案内人を自称し、日々依頼を探して宣伝活動に励む、ひとりのハンターオフィス受付嬢。
ここ、農業魔術研究機関、通称「実験畑」の広場で日時計を眺めるのが日課となりつつある。
散水を被ってしまったために張り替えた手製のポスターには、
ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を貸しましょう!
害獣の駆除なんて、駆け出しハンターさんのいい経験です!
荒んだ戦いの日々を送るハンターさんに、癒やしの農村ライフな一時を!
ポップな書体でカラフルにそう書かれている。
実験畑の研究は、力仕事もあれば、小難しい頭脳労働もある。大がかりな危なっかしい依頼じゃ無くても、例えば、草むしりの手伝いだって、頼まれれば頑張るんだから。
今日のランチは実験畑で採れたカボチャのパイ、サクサクした生地の中に温かな甘さを感じ寒空の下ほっと心を和ませる。
「こんにちは、あなた、あのポスターを貼って回ってる方?」
白衣に着られたような小柄な女性が声を掛けてきた。
分厚い眼鏡の奥で目を細め、小さな頭を傾けて。
「本当に、ちょっとしたことなんだけど……人手をお借りできませんか?」
彼女の言葉に案内人は、「喜んで!」と、目を輝かせた。
案内人を連れて、白衣の女性が畑へ戻ると、研究生達が深く埋め込んだ柱石の上に一番大きな丸木を立てていた。
「みんな、ハンターオフィスの方よ。協力をお願いしたから、みんなはクッションの準備をしましょう。さあ!」
ぱんっと手を打ち鳴らす。
走って行った研究生を見送り、組んだばかりの丸木を撫でる大柄な研究生。
「済みません、俺がコレじゃなかったら」
その足首には包帯が巻かれていた。
「大丈夫です! 何なりと、お任せ下さい!」
言葉を遮って案内人が身を乗り出した。
丸木を横目に一瞥し、えへんと首を縦に揺らす。そして。
「では、ご依頼内容を覗ってもよろしいですか?」
●
天気って、大事よね。
だからよく見えるように櫓を組もうと思ったの。
設計図ができて、模型ができて、木を切って。
後は組むだけなんだけど、私の研究室の子達ったら、揃って高いところ苦手だったみたい。
みんな、彼が何とかしてくれるって思っていたみたいだけど、この間、足首を挫いてしまってね。
作業自体は難しいものじゃ無いわ。
木を組むから少し重いのは仕方ないけれど、私でも運べたくらいだもの。
木を組んで、板を敷いて、またその上に組んで。一番上は昇れるように籠にして。
山の方が見えるくらいに。大きすぎて影が畑の邪魔をしないくらいに。
一番下が今できたところ、横に渡した支えの木を使って昇って貰って。
2段目から木を組めるように凹凸が付けてあるからその通りにね。
これが設計図で、これは彼が作ってくれた模型。良くできているでしょう?
案内人が呼び集めたハンター達に軍手を配り、研究生達がもしもの落下に備えてクッションを敷き、命綱のロープを引っ張りその強度を確かめている。
ハンター達に示された数枚の設計図が山からの北風に煽られてかさかさ、乾いた音を立てた。
白衣の長い袖を折り畳み、裾を草に引っ掛けて歩く小柄な女性。若い研究生達が彼女を先生と呼んで手を振った。
瓶底眼鏡の厚いレンズ越しのくりっとした目で笑って彼女は空を見上げた。
遠く遠くに雪雲が見える。
いずれここに雪か、あるいは雨か、冷たい木枯らしを届けるだろう。
「皆さん、準備は良いですか?」
指先を赤らめた手を吐息で温めて、ぱんっと小気味良く打ち鳴らす。
研究生達が集まった畑と、その傍らに成型を終えた材木が積まれている。
「天気が変わってしまう前に作ってしまいましょう。もうここからでも、雲が見えていますから」
指さす先の雲に研究生達が声を上げて慌ただしく作業を始める。
しかし。
●
ハンターの案内人を自称し、日々依頼を探して宣伝活動に励む、ひとりのハンターオフィス受付嬢。
ここ、農業魔術研究機関、通称「実験畑」の広場で日時計を眺めるのが日課となりつつある。
散水を被ってしまったために張り替えた手製のポスターには、
ちょっとした依頼にも、ハンターさんの手を貸しましょう!
害獣の駆除なんて、駆け出しハンターさんのいい経験です!
荒んだ戦いの日々を送るハンターさんに、癒やしの農村ライフな一時を!
ポップな書体でカラフルにそう書かれている。
実験畑の研究は、力仕事もあれば、小難しい頭脳労働もある。大がかりな危なっかしい依頼じゃ無くても、例えば、草むしりの手伝いだって、頼まれれば頑張るんだから。
今日のランチは実験畑で採れたカボチャのパイ、サクサクした生地の中に温かな甘さを感じ寒空の下ほっと心を和ませる。
「こんにちは、あなた、あのポスターを貼って回ってる方?」
白衣に着られたような小柄な女性が声を掛けてきた。
分厚い眼鏡の奥で目を細め、小さな頭を傾けて。
「本当に、ちょっとしたことなんだけど……人手をお借りできませんか?」
彼女の言葉に案内人は、「喜んで!」と、目を輝かせた。
案内人を連れて、白衣の女性が畑へ戻ると、研究生達が深く埋め込んだ柱石の上に一番大きな丸木を立てていた。
「みんな、ハンターオフィスの方よ。協力をお願いしたから、みんなはクッションの準備をしましょう。さあ!」
ぱんっと手を打ち鳴らす。
走って行った研究生を見送り、組んだばかりの丸木を撫でる大柄な研究生。
「済みません、俺がコレじゃなかったら」
その足首には包帯が巻かれていた。
「大丈夫です! 何なりと、お任せ下さい!」
言葉を遮って案内人が身を乗り出した。
丸木を横目に一瞥し、えへんと首を縦に揺らす。そして。
「では、ご依頼内容を覗ってもよろしいですか?」
●
天気って、大事よね。
だからよく見えるように櫓を組もうと思ったの。
設計図ができて、模型ができて、木を切って。
後は組むだけなんだけど、私の研究室の子達ったら、揃って高いところ苦手だったみたい。
みんな、彼が何とかしてくれるって思っていたみたいだけど、この間、足首を挫いてしまってね。
作業自体は難しいものじゃ無いわ。
木を組むから少し重いのは仕方ないけれど、私でも運べたくらいだもの。
木を組んで、板を敷いて、またその上に組んで。一番上は昇れるように籠にして。
山の方が見えるくらいに。大きすぎて影が畑の邪魔をしないくらいに。
一番下が今できたところ、横に渡した支えの木を使って昇って貰って。
2段目から木を組めるように凹凸が付けてあるからその通りにね。
これが設計図で、これは彼が作ってくれた模型。良くできているでしょう?
案内人が呼び集めたハンター達に軍手を配り、研究生達がもしもの落下に備えてクッションを敷き、命綱のロープを引っ張りその強度を確かめている。
ハンター達に示された数枚の設計図が山からの北風に煽られてかさかさ、乾いた音を立てた。
リプレイ本文
●
「俺、感激っす!」
役犬原 昶(ka0268)はくるりと振り返り、コランダム(ka0240)の周りではしゃぐ。
師匠、師匠と楽しげな声がコランダムを呼び、彼女が真剣に見詰める図面を覗き込んだ。
「師匠の技術が間近で見れるっす、ね!」
コランダムは図面から顔を上げ、基礎と1段目のみ作られたきりの櫓を見る。役犬原の声に頷くと図面を揃えて差し出した。
「そうですね。良い機会です……あなたも図面をよく見ておきなさい」
役犬原が渡されたじっと見詰め、コランダムは依頼主を探した。
「丁寧に書かれていますね」
細かな数字と組み立ての順序や向き……この仕事に慣れた身なら、見ただけで十分にその完成をイメージできる。天辺に当たる辺りを見上げ、真冬の白い太陽に目を細め、櫓が建てば長く陰るであろう畑を指し示した。
図面の制作者らしい研究生の手を引いた。
「――設計図、見せて貰っても良いだろうか?」
ザレム・アズール(ka0878)は、役犬原に声を掛ける。
「使う順に木材を並べておいたら効率も上がるんだ。それなら、彼らにも手伝って貰える」
役犬原は図面を広げながら、地面に置かれた木材を見詰めた。
「だな。最初は……最初は……」
「この階段の所じゃ無いかな? そこの板に上らないと」
背を丸く図面を覗き込んで首を捻った役犬原の手元、ザレムが指を伸ばして1段目までの階段をなぞり、その指で作りかけの櫓を指した。
おお、と声を上げると、依頼人達と話し終えたコランダムが振り返る。
「では、その続きから皆さんにお願いしましょうか」
研究生が元気よく頷いて、ザレムの元に向かった。
「今日はよろしく。一緒に頑張ろう……君たちの先生が使う物だから、確りした物を作ろう」
上って組み立てるだけが必要なことでは無いからと微笑んで、挨拶の手を硬く握った。
フラヴィ・ボー(ka0698)は並べられた木材の合間を縫うように歩き、柱石の隅に立って1段目を支える丸木に触れる。
肩を震わせ腕を抱いて、ほうっと深く嘆息を零し。わくわくする、とこれから組み立てて行くであろう先の空を見上げて呟いた。
ハンター達にはしゃいだり竦んだり落ち着かない様子の研究生へ手を振る。
「皆で協力して作ろう。自分の手が入ってると一層大事にしようと思えるから」
作物もそうじゃないかな。そう尋ねる様に言い添えると、そう思う、と明るい声が返された。
「まずは上で組み立てる班と、地上で資材を組んで送る班に分かれようか」
図面と木材、現在の状況を一通り眺め、ロニ・カルディス(ka0551)が全体に声を掛ける。
「俺は地上組だな」
ザレムが連れていた研究生と手を上げる。
藤田 武(ka3286)が、屈んでいたローブの裾を払って立ち上がった。
「私もそちらへ。リアルブルーでの日曜大工の経験が生かせれば良いのですが」
ある程度形を作ってから引き上げて組み立てる建設方法を思い浮かべ、それをどう使おうかぐるりと見渡す。
組み立ててから上に送るなら、と役犬原が手を打った。
「あの! これ、上手く合わせたら滑車みたいに使えないっすか? 師匠?」
これ、と荷物の中からチャクラムとドリルを取り出す。チャクラムを指に引っ掛けて、回転させながらドリルを軽く動かして。
「チャクラムにロープを渡してドリルで巻き取ったら早いと思うっす」
コランダムはその所作を暫し眺めて、ゆっくりと頷いた。
「悪くなさそうですね、必要になる高さまでに準備できそうですか?」
「任せて下さいっす」
役犬原が大声で答える。
「では……私たちは上で組み立てましょう。あなたも仕上がり次第」
「ああ、了解した」
「分かったっす」
コランダムが頷いて伝えると。ロニと役犬原が頷いた。
木材の合間を縫って戻り、図面を覗き込むとフラヴィも櫓から半歩下がる。
「僕も下に残ろう。柱に、柵かな、準備する物も多そうだ」
「だろうな。だが、上る時は出来るだけ身軽な方が良い。工具も最低限にしておきたい」
木槌を握ってロニが告げる。
「私は、ひとまず滑車作りを手伝いましょう」
それならと藤田は頷いた。滑車を作れれば、木材を上へ運ぶことも容易になり、櫓の上で使う工具も少なくなるだろう。
研究生達も木材の組み立てへ回りハンター達はそれぞれの持ち場へ散開した。
●
階段だけを手早く組み立てて、ロニとコランダムは1段目に柱を運び上げる。高さがそれほど無い内は直接組み立ててしまっても問題は無く、コランダムも彼女の弟子に教えることもなさそうだ。
形を整えた木材を運んできた研究生達は、ロニが木槌を下ろす度に凹凸が噛み合って嵌まる様子に歓声を上げていたが。次第に黙々と作業に徹し始めた。
隙間に木材を渡しぐらつきを抑え、触れて、押して図面を思い出して、その頑丈さ確かめて頷くと梯子を打ち付けて2段目へ上る。
次の段は一段下に木材を運んでから、下から上へと渡していく。3段目の木材を運び終えると、ロニは提げていたロープを中程で絶ち、それぞれを別の柱へ括った。反対の端を己の腰に結び、作業を妨げていないことを確かめる。
「そろそろ、命綱を……2箇所に繋いだ方がいいだろう。片方が外れても安心できる」
「そうしておきましょうか……そうですね、もしも落ちる時は笛を鳴らします」
コランダムもロープを括る。首に提げたハーモニカを示し、音を伝えておきましょうと下を覗う。木材を運ぶ、あるいは滑車を作っているハンター達を探した。
「それじゃあ、始めよう! っと、その前に。落ちたり、落ちてきたりしたら危ないから、ヘルメットを被ってもらいたいんだけど」
有るかなとザレムが尋ねると、先生と呼ばれる依頼人がはい、と頷き、工具の中に紛れたそれを取りだした。
「全員分、は、ないですね」
いくつだろうかと、手元で丸い青銅の帽子を重ねて数え、研究生の数に指を折る。残りは借りてきますねと、研究生が建物の方へと走り、お願いしますと手を振った。
「出来るところから始めておこう。――向こうも進めているみたいだし、その次からかな、重そうだな。運ぶなら2人がか、り……」
「ああ、言ってる側から」
フラヴィの言葉の途中、木材を見つけた研究生が1人走って行った。ザレムが彼を追って、引き摺り始めたところを端に手を掛け、2人で運び始める。フラヴィも深呼吸を一つ気合いを入れ直した。
役犬原がちらりちらりと櫓を振り返る。
「師匠に任された仕事……っ、でも、気になるっす……」
何度も振り返ってから頬をぱんっと叩いて、よし、と声を上げ、取り出したチャクラムをくるりと指に回す。そこにひょこりと案内人が顔を出した。藤田が顔を向けると肩を竦めて明るく笑う。
「どうもっ、あっち重たそうなんで……って、冗談です。使って下さい、とのことですよ」
案内人は戻り、その後残された金鎚や捻子に釘にと一通り収められた工具箱、使えそうな大きさの端材と小型の鋸。
滑車を作るなら、ロープを通して回転させなければいけない。作るとなると手が掛かりそうだが、どう作ろうかと材料を眺めて藤田は首を捻る。
「チャクラムの回る指の部分を棒に変えて……ロープが通る幅を持たせれば良いでしょうか」
「だな! で、ドリルで巻き取ったら大分楽だろ?」
からからとドリルを回す。木材を跳ね上げない程度の速さで、引き上げるための手が空いた分、組み立ても早く進むだろうと。
藤田は小枝で地面にさらりと滑車の絵描き、こんな感じかと、円で示す滑車とそれを櫓に支える板。
「こちらは、お任せしてもよろしいでしょうか。私は櫓に取り付ける部分を作ってみます」
幅と厚さを考えながら板を選び、道具と材料を揃えていく。
役犬原も金槌を取ると、チャクラムの刃に据えた。
「刃は丸くしておいた方がいいな。ロープを切ったら大変だからな」
かん、かん、とリズミカルに一周。刃を外側へ折り、もう一度追って潰しきる。金槌を打った後に触れて曲がった鉄の固く丸い感触に頷いた。
藤田は板を繋いで支えを作り、重ねて接ぎ合わせ、ロープの通る隙間を広げたチャクラムに棒を通す。役犬原が手を添え棒の両端を板で塞ぐと、チャクラムはからりと厚い板の支えの中で回転した。
「出来たな」
「出来ましたね……丁度、間に合ったようですよ」
見上げるとコランダムがハーモニカを示し、落ちたら吹く、と音を鳴らしている。
ロニとコランダムは次の段へ移るらしく、片方を残してロープを解いた。
「俺、師匠の方に戻るな」
「私も、組み立てる方を手伝います」
役犬原は大柄な体で跳ねる様に櫓へ向かい、藤田もローブの袖を捲り直した。
●
合流した藤田から滑車の歓声を聞くと、ザレムとフラヴィは櫓の近くで組み立てた木材にロープを掛ける。二度三度と回して固定したそれに端を括ったロープを抱え、フラヴィは櫓に上った。
「上に届けてくるよ」
「お願いするよ。みんな、引っ張り上げるから、頭、ちゃんと守っておこうね」
ザレムは近くで作業していた研究生を見渡して声を掛ける。
届いたヘルメットを被ると、磨いた丸い表面に陽光が眩しく照り返した。
引き上げを待ちながらザレムと藤田は作業に戻る。次に引き上げる木材を確かめ、組み合わせた箇所を確かめる。
「少しぐらつくかな。落ちたりはしないと思うけど。少し心配だね」
「そうですね……楔でも打ち込んでおきましょうか」
小さな木片を僅かな隙間に据えて、金鎚を滑らせるように打ち込んでいく。
収まっただろうかとザレムに尋ね、2人掛かりで押してみる。
「良さそう。――準備できたみたいだね。引き上げるよ、みんな、声を掛けていこう」
上げる時は手を離れてからも。
もしも落ちる時はフォールってどうかなと研究生に問い掛けた。落とさないようにと笑いながら、研究生が頷いた。
最上段の1つ下でロープを受け取り、それを滑車に通した役犬原は端から少しずつドリルに巻き取っていく。ロープは次第に撓みを無くして、張り詰めていく。
「良いですか、師匠」
コランダムを見上げると、滑車の際で構える彼女とロニが頷いた。
「はい、こちらは準備できました」
「ああ、上げてくれ」
からからとドリルに合わせて滑車が回り、少しずつロープが巻き取られていく。
木材が櫓に当たらないように手を添えていなし、ロニも1つ下に降りてその勢いを制御する。
「大丈夫だ、そのまま動かしていてくれ……よし、後1段だ」
最後は殊更ゆっくりと、慎重に巻き取って一番上へ1段分を組み立てた木材を届ける。役犬原も上ってロープの解かれた木材を、その端を1段下の木材に作られた凹みに据える。
「師匠、ここで合ってますか」
「ええ、そこです。他も合わせてから打っていきましょう」
コランダムとロニも木材に手を掛け、こん、と木槌で打ち込むと、凹凸はぴたりと嵌まって運び上げられた木材はぐらつくことも無く1段櫓を高く伸ばした。
「上手くいったな」
「ええ、上出来です。この調子で次も作っていきましょう」
ロニとコランダムが安堵の表情を見せると、役犬原は身を乗り出して下に向かって、できたぞとはしゃぐ手を降った。
フラヴィは作業の切りが付いたところで手を止めた。櫓は見上げる高さに伸びていた。そろそろ半分だろうか。近くにいた研究生に、ヤカンは有るかと声を掛ける。
「休憩。お茶にしようと思うんだ」
あ、と頷いた研究生は建物を指してフラヴィの腕を取った。
「こちらです。せんせー、あたしら、お茶煎れてきまーす!」
楽しげな声で告げると、腕を組むようにフラヴィを畑から木材の中から連れ出した。
畑と小屋を横目に幾つか、煉瓦造りの建物に入り階段を上る。研究室と紹介された扉の2つ隣、不揃いの家具が並んだ休憩室。他の教授に師事している研究生だろうか、数人が寛いでいる。
彼らに櫓作りの話しを披露しながら研究生はヤカンに水を汲み、みんなで育てているとハーブを入れる。
「……大きな物を作るのは、とても楽しい……作物もそうなのかな?」
「うーん……」
ふつ、とヤカンの中湯が沸き始める。甘酸っぱく、清涼感の有る香りが広がる。
沸騰を待ちながら、フラヴィが独り言のように尋ね研究生がヤカンを覗く。
「出来上がっていくのを見ると、やる気も湧く。頑張ろうって思うんだ」
「それは分かります。あたしも、収穫は大好き!」
くすくすと内緒話のように笑い合って、ヤカンいっぱいのお茶とカップを抱えて畑に戻り、ハンターと研究生に配っていく。
丁度半分だと、コランダムも櫓を降りて図面を確認し、その傍らに役犬原がじゃれついている。
ザレムは受け取ったお茶を手に研究生の様子を見て回り、声を掛けて励ましている。足を痛めていた研究生も櫓の完成が近付いて、笑顔が戻ったようだ。
「温まりますね」
藤田がほっと息を吐く。その吐息は一瞬白く浮かびすぐに流れた。
「もうひと頑張りだな」
櫓を見上げ、ロニが呟いた。
●
藤田と数人の研究生が木材を運ぶ。その横には箱形に作られた板が置かれている。
「この上に、籠が乗ることになりますね、重要な部分です、落ち着いて作りましょう」
藤田自身も落ち着こうと息を吐いて木材を取る。声を掛けて手を添えながら組み立てていき、箱を乗せてもぐらつかないことを確かめ、出来ましたねと声が零れると、研究生達からも喜ぶ声が上がった。
半ばも越えると引き上げるロープが届かなくなる。慌てた声を上げた役犬原に、端を捕まえたロニが運び上げたいくつかの荷の中からロープを取り出し、きつく結んで継ぎ足した。
「もうすぐ完成だからな……」
足りなくもなるだろうと、継いだロープの端を役犬原に、結び目の箇所を伝えて差し出した。
こちらも、と言う声が研究生の間から聞こえた。
「ロープか?」
フラヴィが差し出しながら尋ねる。きつく縛った結び目に指が立たなくなったらしい。
「そうですね、切って仕舞った方が早そうです」
藤田が工具箱の大振りの鋏で立つと、受け取った代わりのロープを括り付けた。
ロープの交換を終えて更に数段積み重ね。空気も大分冷えてきた頃、コランダムが役犬原を呼んだ。
「見ていますから、やってみて下さい」
「し、師匠!」
最後の一段。下では最後の籠にロープが回っている。籠を支える大事な部分だ。見ていますとコランダムは繰り返し、仕口の場所を示し、叩く場所と向きとを丁寧に伝える。
ごくりと喉を鳴らし、役犬原が木槌を打った、こん、と高い音が小気味良く鳴った。
籠を引き上げ櫓が完成するとザレムは敷いていたクッションを数枚抱えて梯子を昇る。
「先生が使われるんですよね、体を冷やすと良くないですよ」
籠の中に敷き詰めて、ふと顔を上げると山の端を赤く染める夕日が見えた。
薄く棚引く雲が流されて、明日は良い天気になりそうだ。
「俺、感激っす!」
役犬原 昶(ka0268)はくるりと振り返り、コランダム(ka0240)の周りではしゃぐ。
師匠、師匠と楽しげな声がコランダムを呼び、彼女が真剣に見詰める図面を覗き込んだ。
「師匠の技術が間近で見れるっす、ね!」
コランダムは図面から顔を上げ、基礎と1段目のみ作られたきりの櫓を見る。役犬原の声に頷くと図面を揃えて差し出した。
「そうですね。良い機会です……あなたも図面をよく見ておきなさい」
役犬原が渡されたじっと見詰め、コランダムは依頼主を探した。
「丁寧に書かれていますね」
細かな数字と組み立ての順序や向き……この仕事に慣れた身なら、見ただけで十分にその完成をイメージできる。天辺に当たる辺りを見上げ、真冬の白い太陽に目を細め、櫓が建てば長く陰るであろう畑を指し示した。
図面の制作者らしい研究生の手を引いた。
「――設計図、見せて貰っても良いだろうか?」
ザレム・アズール(ka0878)は、役犬原に声を掛ける。
「使う順に木材を並べておいたら効率も上がるんだ。それなら、彼らにも手伝って貰える」
役犬原は図面を広げながら、地面に置かれた木材を見詰めた。
「だな。最初は……最初は……」
「この階段の所じゃ無いかな? そこの板に上らないと」
背を丸く図面を覗き込んで首を捻った役犬原の手元、ザレムが指を伸ばして1段目までの階段をなぞり、その指で作りかけの櫓を指した。
おお、と声を上げると、依頼人達と話し終えたコランダムが振り返る。
「では、その続きから皆さんにお願いしましょうか」
研究生が元気よく頷いて、ザレムの元に向かった。
「今日はよろしく。一緒に頑張ろう……君たちの先生が使う物だから、確りした物を作ろう」
上って組み立てるだけが必要なことでは無いからと微笑んで、挨拶の手を硬く握った。
フラヴィ・ボー(ka0698)は並べられた木材の合間を縫うように歩き、柱石の隅に立って1段目を支える丸木に触れる。
肩を震わせ腕を抱いて、ほうっと深く嘆息を零し。わくわくする、とこれから組み立てて行くであろう先の空を見上げて呟いた。
ハンター達にはしゃいだり竦んだり落ち着かない様子の研究生へ手を振る。
「皆で協力して作ろう。自分の手が入ってると一層大事にしようと思えるから」
作物もそうじゃないかな。そう尋ねる様に言い添えると、そう思う、と明るい声が返された。
「まずは上で組み立てる班と、地上で資材を組んで送る班に分かれようか」
図面と木材、現在の状況を一通り眺め、ロニ・カルディス(ka0551)が全体に声を掛ける。
「俺は地上組だな」
ザレムが連れていた研究生と手を上げる。
藤田 武(ka3286)が、屈んでいたローブの裾を払って立ち上がった。
「私もそちらへ。リアルブルーでの日曜大工の経験が生かせれば良いのですが」
ある程度形を作ってから引き上げて組み立てる建設方法を思い浮かべ、それをどう使おうかぐるりと見渡す。
組み立ててから上に送るなら、と役犬原が手を打った。
「あの! これ、上手く合わせたら滑車みたいに使えないっすか? 師匠?」
これ、と荷物の中からチャクラムとドリルを取り出す。チャクラムを指に引っ掛けて、回転させながらドリルを軽く動かして。
「チャクラムにロープを渡してドリルで巻き取ったら早いと思うっす」
コランダムはその所作を暫し眺めて、ゆっくりと頷いた。
「悪くなさそうですね、必要になる高さまでに準備できそうですか?」
「任せて下さいっす」
役犬原が大声で答える。
「では……私たちは上で組み立てましょう。あなたも仕上がり次第」
「ああ、了解した」
「分かったっす」
コランダムが頷いて伝えると。ロニと役犬原が頷いた。
木材の合間を縫って戻り、図面を覗き込むとフラヴィも櫓から半歩下がる。
「僕も下に残ろう。柱に、柵かな、準備する物も多そうだ」
「だろうな。だが、上る時は出来るだけ身軽な方が良い。工具も最低限にしておきたい」
木槌を握ってロニが告げる。
「私は、ひとまず滑車作りを手伝いましょう」
それならと藤田は頷いた。滑車を作れれば、木材を上へ運ぶことも容易になり、櫓の上で使う工具も少なくなるだろう。
研究生達も木材の組み立てへ回りハンター達はそれぞれの持ち場へ散開した。
●
階段だけを手早く組み立てて、ロニとコランダムは1段目に柱を運び上げる。高さがそれほど無い内は直接組み立ててしまっても問題は無く、コランダムも彼女の弟子に教えることもなさそうだ。
形を整えた木材を運んできた研究生達は、ロニが木槌を下ろす度に凹凸が噛み合って嵌まる様子に歓声を上げていたが。次第に黙々と作業に徹し始めた。
隙間に木材を渡しぐらつきを抑え、触れて、押して図面を思い出して、その頑丈さ確かめて頷くと梯子を打ち付けて2段目へ上る。
次の段は一段下に木材を運んでから、下から上へと渡していく。3段目の木材を運び終えると、ロニは提げていたロープを中程で絶ち、それぞれを別の柱へ括った。反対の端を己の腰に結び、作業を妨げていないことを確かめる。
「そろそろ、命綱を……2箇所に繋いだ方がいいだろう。片方が外れても安心できる」
「そうしておきましょうか……そうですね、もしも落ちる時は笛を鳴らします」
コランダムもロープを括る。首に提げたハーモニカを示し、音を伝えておきましょうと下を覗う。木材を運ぶ、あるいは滑車を作っているハンター達を探した。
「それじゃあ、始めよう! っと、その前に。落ちたり、落ちてきたりしたら危ないから、ヘルメットを被ってもらいたいんだけど」
有るかなとザレムが尋ねると、先生と呼ばれる依頼人がはい、と頷き、工具の中に紛れたそれを取りだした。
「全員分、は、ないですね」
いくつだろうかと、手元で丸い青銅の帽子を重ねて数え、研究生の数に指を折る。残りは借りてきますねと、研究生が建物の方へと走り、お願いしますと手を振った。
「出来るところから始めておこう。――向こうも進めているみたいだし、その次からかな、重そうだな。運ぶなら2人がか、り……」
「ああ、言ってる側から」
フラヴィの言葉の途中、木材を見つけた研究生が1人走って行った。ザレムが彼を追って、引き摺り始めたところを端に手を掛け、2人で運び始める。フラヴィも深呼吸を一つ気合いを入れ直した。
役犬原がちらりちらりと櫓を振り返る。
「師匠に任された仕事……っ、でも、気になるっす……」
何度も振り返ってから頬をぱんっと叩いて、よし、と声を上げ、取り出したチャクラムをくるりと指に回す。そこにひょこりと案内人が顔を出した。藤田が顔を向けると肩を竦めて明るく笑う。
「どうもっ、あっち重たそうなんで……って、冗談です。使って下さい、とのことですよ」
案内人は戻り、その後残された金鎚や捻子に釘にと一通り収められた工具箱、使えそうな大きさの端材と小型の鋸。
滑車を作るなら、ロープを通して回転させなければいけない。作るとなると手が掛かりそうだが、どう作ろうかと材料を眺めて藤田は首を捻る。
「チャクラムの回る指の部分を棒に変えて……ロープが通る幅を持たせれば良いでしょうか」
「だな! で、ドリルで巻き取ったら大分楽だろ?」
からからとドリルを回す。木材を跳ね上げない程度の速さで、引き上げるための手が空いた分、組み立ても早く進むだろうと。
藤田は小枝で地面にさらりと滑車の絵描き、こんな感じかと、円で示す滑車とそれを櫓に支える板。
「こちらは、お任せしてもよろしいでしょうか。私は櫓に取り付ける部分を作ってみます」
幅と厚さを考えながら板を選び、道具と材料を揃えていく。
役犬原も金槌を取ると、チャクラムの刃に据えた。
「刃は丸くしておいた方がいいな。ロープを切ったら大変だからな」
かん、かん、とリズミカルに一周。刃を外側へ折り、もう一度追って潰しきる。金槌を打った後に触れて曲がった鉄の固く丸い感触に頷いた。
藤田は板を繋いで支えを作り、重ねて接ぎ合わせ、ロープの通る隙間を広げたチャクラムに棒を通す。役犬原が手を添え棒の両端を板で塞ぐと、チャクラムはからりと厚い板の支えの中で回転した。
「出来たな」
「出来ましたね……丁度、間に合ったようですよ」
見上げるとコランダムがハーモニカを示し、落ちたら吹く、と音を鳴らしている。
ロニとコランダムは次の段へ移るらしく、片方を残してロープを解いた。
「俺、師匠の方に戻るな」
「私も、組み立てる方を手伝います」
役犬原は大柄な体で跳ねる様に櫓へ向かい、藤田もローブの袖を捲り直した。
●
合流した藤田から滑車の歓声を聞くと、ザレムとフラヴィは櫓の近くで組み立てた木材にロープを掛ける。二度三度と回して固定したそれに端を括ったロープを抱え、フラヴィは櫓に上った。
「上に届けてくるよ」
「お願いするよ。みんな、引っ張り上げるから、頭、ちゃんと守っておこうね」
ザレムは近くで作業していた研究生を見渡して声を掛ける。
届いたヘルメットを被ると、磨いた丸い表面に陽光が眩しく照り返した。
引き上げを待ちながらザレムと藤田は作業に戻る。次に引き上げる木材を確かめ、組み合わせた箇所を確かめる。
「少しぐらつくかな。落ちたりはしないと思うけど。少し心配だね」
「そうですね……楔でも打ち込んでおきましょうか」
小さな木片を僅かな隙間に据えて、金鎚を滑らせるように打ち込んでいく。
収まっただろうかとザレムに尋ね、2人掛かりで押してみる。
「良さそう。――準備できたみたいだね。引き上げるよ、みんな、声を掛けていこう」
上げる時は手を離れてからも。
もしも落ちる時はフォールってどうかなと研究生に問い掛けた。落とさないようにと笑いながら、研究生が頷いた。
最上段の1つ下でロープを受け取り、それを滑車に通した役犬原は端から少しずつドリルに巻き取っていく。ロープは次第に撓みを無くして、張り詰めていく。
「良いですか、師匠」
コランダムを見上げると、滑車の際で構える彼女とロニが頷いた。
「はい、こちらは準備できました」
「ああ、上げてくれ」
からからとドリルに合わせて滑車が回り、少しずつロープが巻き取られていく。
木材が櫓に当たらないように手を添えていなし、ロニも1つ下に降りてその勢いを制御する。
「大丈夫だ、そのまま動かしていてくれ……よし、後1段だ」
最後は殊更ゆっくりと、慎重に巻き取って一番上へ1段分を組み立てた木材を届ける。役犬原も上ってロープの解かれた木材を、その端を1段下の木材に作られた凹みに据える。
「師匠、ここで合ってますか」
「ええ、そこです。他も合わせてから打っていきましょう」
コランダムとロニも木材に手を掛け、こん、と木槌で打ち込むと、凹凸はぴたりと嵌まって運び上げられた木材はぐらつくことも無く1段櫓を高く伸ばした。
「上手くいったな」
「ええ、上出来です。この調子で次も作っていきましょう」
ロニとコランダムが安堵の表情を見せると、役犬原は身を乗り出して下に向かって、できたぞとはしゃぐ手を降った。
フラヴィは作業の切りが付いたところで手を止めた。櫓は見上げる高さに伸びていた。そろそろ半分だろうか。近くにいた研究生に、ヤカンは有るかと声を掛ける。
「休憩。お茶にしようと思うんだ」
あ、と頷いた研究生は建物を指してフラヴィの腕を取った。
「こちらです。せんせー、あたしら、お茶煎れてきまーす!」
楽しげな声で告げると、腕を組むようにフラヴィを畑から木材の中から連れ出した。
畑と小屋を横目に幾つか、煉瓦造りの建物に入り階段を上る。研究室と紹介された扉の2つ隣、不揃いの家具が並んだ休憩室。他の教授に師事している研究生だろうか、数人が寛いでいる。
彼らに櫓作りの話しを披露しながら研究生はヤカンに水を汲み、みんなで育てているとハーブを入れる。
「……大きな物を作るのは、とても楽しい……作物もそうなのかな?」
「うーん……」
ふつ、とヤカンの中湯が沸き始める。甘酸っぱく、清涼感の有る香りが広がる。
沸騰を待ちながら、フラヴィが独り言のように尋ね研究生がヤカンを覗く。
「出来上がっていくのを見ると、やる気も湧く。頑張ろうって思うんだ」
「それは分かります。あたしも、収穫は大好き!」
くすくすと内緒話のように笑い合って、ヤカンいっぱいのお茶とカップを抱えて畑に戻り、ハンターと研究生に配っていく。
丁度半分だと、コランダムも櫓を降りて図面を確認し、その傍らに役犬原がじゃれついている。
ザレムは受け取ったお茶を手に研究生の様子を見て回り、声を掛けて励ましている。足を痛めていた研究生も櫓の完成が近付いて、笑顔が戻ったようだ。
「温まりますね」
藤田がほっと息を吐く。その吐息は一瞬白く浮かびすぐに流れた。
「もうひと頑張りだな」
櫓を見上げ、ロニが呟いた。
●
藤田と数人の研究生が木材を運ぶ。その横には箱形に作られた板が置かれている。
「この上に、籠が乗ることになりますね、重要な部分です、落ち着いて作りましょう」
藤田自身も落ち着こうと息を吐いて木材を取る。声を掛けて手を添えながら組み立てていき、箱を乗せてもぐらつかないことを確かめ、出来ましたねと声が零れると、研究生達からも喜ぶ声が上がった。
半ばも越えると引き上げるロープが届かなくなる。慌てた声を上げた役犬原に、端を捕まえたロニが運び上げたいくつかの荷の中からロープを取り出し、きつく結んで継ぎ足した。
「もうすぐ完成だからな……」
足りなくもなるだろうと、継いだロープの端を役犬原に、結び目の箇所を伝えて差し出した。
こちらも、と言う声が研究生の間から聞こえた。
「ロープか?」
フラヴィが差し出しながら尋ねる。きつく縛った結び目に指が立たなくなったらしい。
「そうですね、切って仕舞った方が早そうです」
藤田が工具箱の大振りの鋏で立つと、受け取った代わりのロープを括り付けた。
ロープの交換を終えて更に数段積み重ね。空気も大分冷えてきた頃、コランダムが役犬原を呼んだ。
「見ていますから、やってみて下さい」
「し、師匠!」
最後の一段。下では最後の籠にロープが回っている。籠を支える大事な部分だ。見ていますとコランダムは繰り返し、仕口の場所を示し、叩く場所と向きとを丁寧に伝える。
ごくりと喉を鳴らし、役犬原が木槌を打った、こん、と高い音が小気味良く鳴った。
籠を引き上げ櫓が完成するとザレムは敷いていたクッションを数枚抱えて梯子を昇る。
「先生が使われるんですよね、体を冷やすと良くないですよ」
籠の中に敷き詰めて、ふと顔を上げると山の端を赤く染める夕日が見えた。
薄く棚引く雲が流されて、明日は良い天気になりそうだ。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/21 07:31:19 |
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日曜大工 ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/12/23 22:34:46 |