• 空蒼

【空蒼】ミドガルズオルム~星の傷跡編~

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/06/26 12:00
完成日
2018/07/11 15:03

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●辺境からの使者
「ヴェルナー殿からの書状を持参したというのはあなたですか?」
 常人がほぼ近付くことの無い、第六師団の師団都市『オルブリッヒ』。
 蔑称を『アリ地獄』、『アナグラ』と言われるようなこの地に来客……しかも辺境要塞ノアーラ・クンタウの管理者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)からの書状を持った者が訪ねてきたとあって、イズン・コスロヴァ(kz0144)は手に掛けていた書類を中断して応接室へと駆け込んだ。
「はい、突然の訪問となってしまって、ご無礼をお許し下さい」
 埃がライトの灯りを乱反射しながら舞い、様々な企画書のそびえる室内。
 頭を下げたのは、まだ青年と少年の中間にあるような端正な顔つきの……だが精悍な体つきから部族の戦士とひと目で知れる男子だった。
「俺はオイマト族のイェルズ・オイマトといいます。ヴェルナーさんからこちらに、帝国随一の腕を持つ技術士がいると伺って参りました。お願いします、俺の義手を作って下さい」
 イェルズ・オイマト(kz0143)が、両手で封筒を前に突き出すようにして頭を下げた。
 その、左手。有り合わせの材料で急ぎで作ったものらしく、長期利用は難しかろうという事は技術士でもないイズンにもひと目で分かった。
「確か辺境にもドワーフがいらっしゃいませんでしたか? 彼らにお願いされなくて良いのでしょうか」
「はい。最初にお願いしたんですが、完成したと見せられたものに……その、何故かキャノン砲が付いてまして……」
「……なるほど。拝見致します」
 書面を受け取り、その内容を一読するとイズンは書面を封筒に戻しイェルズを見た。
「申し訳ありませんが、私には貴方の義手の制作が出来ません」
 縋るように大きく見開かれた瞳に、イズンは申し訳なさそうに柳眉を下げ告げた。
「ですので、作業場までご同行願えますか? この書状も私では無くヴァーリ……第六師団長に見て貰った方が良いでしょう」

「……綺麗な切り口だのう」
 イェルズの左腕を舐めるように観察しているドワーフからは、得も言われぬ“芳香”が漂ってくる。
 見た目も、ヴェドルのヨアキム(kz0011)を一回り細身にしたような……でも体毛は二倍にしたような……だが良く似た風貌をしている。
(……ドワーフの偉い人ってみんなこんな感じなのかな……???)
「出来ますか?」
 イズンの問いが聞こえなかったのか、ヴァーリは鼻息荒く疵痕に魅入っている。
「ここまで綺麗なら魔術回路を組み込んで覚醒時のマテリアルを信号化して……」
「出来ますか?」
 話を遮るようにイズンが再度問えば、ヴァーリは愚問だと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「儂を誰だと思っておる。材料さえあれば元の腕よりも良いモノをこさえてやる」
「本当ですか!?」
 若草色の瞳を輝かせ、イェルズがヴァーリの油ヅヤで輝くつむじを見る。
「“材料さえあれば”、な。イズン、ちょっと取りに行ってきてくれ」
「……分かりました。どちらまで?」
「南方大陸と龍園だ」
 両極端な地名を言われ、思わず顔を見合わせたイェルズとイズンだった。

●龍園ヴリトラルカへ
 ヴァーリからの指示を受け、早速龍園にやってきたイェルズとハンター達。
 彼らはまず、義手作りの材料を集める許可を得る為に龍園のハンターオフィスを訪ねていた。
「サヴィトゥールさん、初めまして! 先日はうちの族長がお世話になったそうで、ありがとうございました!」
「いや、こちらこそうちの……騎士隊長が世話になった」
 サヴィトゥール(kz0228)の台詞に微妙な間があった事に気付いて首を傾げるイェルズ。
 龍園の若きハンターオフィス長はシャンカラ(kz0226)の事を『うちの馬鹿』と言いかけたのだが、それを億尾にも出さずに真顔で続ける。
「……義手の材料を集めに来たそうだな。何でも、マテリアル鉱石が必要だとか」
「はい。出来れば大きいものが良いそうなんですが……。分けて戴く事は可能ですか?」
「大きなもの、となるとここにはない。星の傷跡まで直接取りに行った方が早いだろう」
 『星の傷跡』。サヴィトゥールの言葉を聞いてハンター達は思い出す。

 星の傷跡。かつて、強欲王メイルストロムが封じられていた場所。
 リグ・サンガマの大地の北の果てにある場所。
 龍脈の収束点であり、大量の正のマテリアルが循環、蓄積している為、地下に進むほど高純度のマテリアル鉱石を含んでいる。
 世界中を巡る魂の集う場所と考えられ、古くから死者と対話する聖地として守られて来た。

「星の傷跡ってリグ・サンガマの皆さんにとって聖地なんですよね? そこに立ち行って、採掘してしまって良いんですか?」
「人の子が困っているとあれば青龍様もお赦しになられるだろう。……ただし、1つ頼みたい事がある」
「何でしょう?」
「もし、巨大なマテリアル鉱石を見つけた場合は、その場所を自分に報せて欲しい」
「え。そんな事でいいんですか?」
「聖地の管理も我々の仕事に含まれる。その手伝いが代償だ」
「分かりました。ありがとうございます!」

●彼の事情
 マテリアル鉱石の採掘許可を得たハンター達は、星の傷跡の北側を目指して歩いていた。
 大きく純度が高いものなら、かつて強欲王が封じられていた場所より更に北を探すといい……というサヴィトゥールのアドバイスに従った形だ。
「……イェルズ。何だって急に義手を作るなんて言い出したんだい?」
「いえ、元々ヴェルナーさんから紹介状は戴いていて、先延ばしになっていたんですよ」
「それは知ってるけど、急いでるみたいだからさ」
「リアルブルーで、俺に似た歪虚が出たって話知ってますよね」
 イェルズの言葉にハッとするハンター。
 先日、リアルブルーを訪れた際に、ハンターから自分に似た歪虚がいると言う話を聞かされた。
 恐らく、彼の喪った身体のどこかが使われたであろう事も。
「俺が原因で起きた事なら、始末つけないと。その為にも、急いで義手を作って貰う必要があるんです」
「原因って言ったって。あれは……」
 腕や目を喪ったのはイェルズのせいではない。
 それでも、責任を感じてしまうのは彼らしくもあるが……。
 ため息をつくハンター。ふと、ずっと疑問に思っていた事を口にする。
「そういえば、義手に月と蛇の文様を入れて欲しいなんてヴァーリに頼んでたが、何か意味があるのか?」
「はい。月と蛇はシバ様の文様なんです。辺境の戦士の力と魂が宿るといいなって……」
「……そういう事か」
 イェルズの呟きに頷くハンター達。
 オイマト族の祖霊の馬ではなく、月と蛇を選んだ。
 これも1つの意思表明なのだろう。
 そんな話をしていた矢先。彼らの前に、赤い鱗を持つリザードマンとワイバーンが立ち塞がった。
 威嚇するような咆哮。ハンター達は武器を構える。
「強欲の残党か。やっぱりタダでは採らせてくれんか……!」
「仕方がない。応戦するよ!」

リプレイ本文

 ――星の傷跡は龍園ヴリトラルカより更に北に位置する。
 ここは、世界の数カ所に存在すると言われる星の中心に近づける場所の一つであり、リグ・サンガマの龍達にとっては安息の地でもある。
 また、世界中を巡る魂の集う場所と考えられ、古くからリグ・サンガマでは死者と対話する聖地として守られてきた。
 あらゆる生物が生きたままでは辿りつけないその場所に、輪廻の源、死後の楽園があると考えられてきたのだ。
 ワイバーンの背に乗ったエステル・ソル(ka3983)は、不思議な淡い光に満ちたその場所に向けてぺこりと頭を下げる。
「……ちょっとだけお邪魔しますです。どうぞ力を貸してくださいです」
「わーい! イェルズさんですー!」
「アルマさん、お久しぶりd……」
 その横で、イェルズ・オイマト(kz0143)に突撃するアルマ・A・エインズワース(ka4901)。
 イェルズの声が途切れたのは、アルマのわんこタックルに耐え切れずに吹き飛んだからである。
 ……まあ、アルマのタックルに耐えられるものは、ハンターの中でも数える程しかいない筈であるが。
「ちょっとアルマ何してんのさ!!」
「何ってご挨拶ですよう」
「あんたの挨拶は激しすぎるんだよ!」
「まあまあ、俺は大丈夫ですから……」
 額に青筋を浮かべているラミア・マクトゥーム(ka1720)を宥めるイェルズ。
 その様子を見て、エステルがかくりと首を傾げる」
「アルマさんとイェルズさん、仲良しさんです?」
「まあ、そうね。そう言えるんじゃないかしら」
 長い髪を靡かせてくすりと笑うフィルメリア・クリスティア(ka3380)。
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がグリフォンの背に跨りながら周囲を伺う。
「北の大地にあるからもっと寒いのかと思っていたけど、ここは割と暖かいんだね」
「ああ、確かこの辺りには温泉が多いのよ。だからじゃないかしら。以前青のリザードマンに連れて来て貰ったことがあるわ」
「わふっ! 僕も来たことあるです! 正のマテリアルが沢山溶けだしてるから、傷の治りが早くなるんですよっ」
 続いたフィルメリアとアルマの説明にイェルズが目を輝かせる。
「へー。マテリアルが溶けだした温泉ですか。いいなあ。古傷にも効くのかな……」
「……イェルズ。古傷を気にするなんて、調子が悪いのかい?」
「あっ。いえ、そういう訳ではないんですけど」
「どこか痛むならすぐに言うんだよ。これでも聖導士の端くれだ。私で良ければ診るからね」
 ぽつりと呟いた彼を心配そうに覗き込むルシオ・セレステ(ka0673)。
 そんなやり取りをする2人を、ラミアは無言で見つめる。
 ――イェルズにあの歪虚のことを言えば責任を感じてしまうのは分かっていた。
 ああなったのは、決して彼のせいではない。
 むしろとばっちりに近いのに、それでも自分の責と受け取ってしまうのは、実直で何事にも一生懸命なイェルズらしいと言えばそうなのだけれど。
 彼にこの事実を伝えたこと。義手を作りを急ぐ切欠となった責任を取らなくては……。
「ラミアさん。どうかしました?」
「ううん。何でもない。……早速来たみたいだね。イェルズ、しっかり前見な!」
 ラミアの声に反応し、動き出す仲間達。
 淡い光を放つ岩の間から見える赤い鱗。
 隊列を組んでやってくるリザードマン。そしてその上には2匹の赤いワイバーンが滑空していた。
「リザードマンは引き受ける! ワイバーンを頼んだ!」
「ええ。任せておいて」
「了解! 行くよレガリア!」
 グリフォンを地上に着けながら言うアルト。それに応えて、フィルメリアの青いワイバーンとラミアの赤いグリフォンが空へと駆け上がる。


 ――リザードマンとの戦いは、戦いというより一方的な暴力という表現が相応しい状態だった。
 何故って、ハンターの中でもトップクラスと言える実力のアルトがいるのだ。
 彼女にしてみれば、リザードマンの相手など赤子の手を捻るようなものだった。
「ジュリア! 回り込み飛行とダウンバーストを繰り返せ! 極力逃がすな!」
 アルトの指示に嘶きで応えたグリフォン。
 彼女は周囲の岩を目にも止まらぬ速さで駆け上がり、凄まじい速度でリザードマンに迫る。
「……残り14」
 抵抗する暇も与えず、すれ違いざまに2体斬り倒したアルト。
 その流れるような剣戟に目を丸くするエステル。アルマがあはは……と笑いを漏らす。
「流石アルトさんです。すごいです……!」
「こうも実力差があると何だかリザードマンが可哀想な気がしますねえ」
「わたくしももっともっと頑張るです……!」
「そうですねえ。折角ですし全部倒してしまいましょうかー」
「はいです!」
 頷き合うアルマとエステル。
 こうも敵数が多いと範囲攻撃で無差別に片づけてしまうのが楽ではあるのだが、周囲はマテリアル鉱石だらけだ。
 下手に岩に攻撃を当てて、鉱石を破壊してしまっては目も当てられない。
「わふーっ。ふかふか、飛んでるですーっ! グリフォンさん、飛行任せましたよー!」
「フローさん、回避お願いするです……!」
 
 ――其は星の光。蒼き瞬きは願いと共に……estrella fugaz。
 ――光よ。我が手に来たれ。矢となりて彼の者を貫け。

 2人の詠唱はほぼ同時。
 アルマの蒼い光線とエステルが放つ光の矢は真っ直ぐに飛び、リザードマンの鱗を穿ち、砕く。
 そしてイェルズもまた、アルトを助けるようにリザードマン達を食い止めていた。
「へえ。イェルズさんもなかなかやるね」
「義手に慣れるように戦闘訓練積んでましたからね……!」
「その調子なら義手さえ手に入れればすぐに戦えるんじゃないか、な」
 そんな会話をしつつも攻撃の手を緩めぬアルト。
 ほぼ半数の仲間を失ったリザードマン達は、流石に己の不利を悟ったか。
 逃げ出そうとして……イェルズの死角から剣を振り上げる。
「……イェルズ! 左!!」
「うわっ!?」
「……ダメです」
 ルシオの叫びに咄嗟に身を反転させたイェルズ。リザードマンの剣が空を切って――アルマから放たれた光線が、歪虚を貫いた。
「すみません! 助かりました!」
「イェルズさんを傷つけるのはだめですよ。僕許さないです」
「いやあの、そこまでして貰わなくても……」
「ダメったらダメです」
 にこにこと笑いながらも言い切るアルマに困惑するイェルズ。そんな彼にルシオは言い聞かせるように続ける。
「……私達は君を甘やかすつもりはないよ。でもね、現状の不自由や不足を補うのが仲間だろう?」
「そうです! 仲間は助け合うのです!」
 こくこくと頷くエステル。
 ――そうしている間も、アルトはリザードマン達を斬り刻んでいた。


 その少し前。フィルメリアとラミアは2体いるワイバーンを手分けして対峙していた。
「シェラリス! 回避お願い!」
「グォ!!」
 赤いワイバーンが吐き出した炎を旋回で避けたフィルメリア。
 リザードマン達と連携して動こうと試みるも、彼女に行く手を阻まれて思うようにいかない。
 そして幾度とない銃撃で、ワイバーンに苛立ちと疲弊が見える。
 忌々しげな咆哮。噛みつこうと思ったのか。大きな口を開けて高速で突っ込んで来る。
「……短気を起こすと良い事ないわよ?」
 フィルメリアはにっこりと笑うと、青いワイバーンに合図を送り――。
 狙いを定めて飛行するシェラリス。フィルメリアの手にした星剣が巨大化し、ワイバーンの赤い身体に叩き込まれる……!
 苦しげな叫びをあげるワイバーン。上から叩きつけるように殴られたそれは、そのまま地面へと落下した。
「あら。マテリアル鉱石に当たらなかったかしら。もう少しおしとやかに落ちればいいのにね」
 さらりと無茶なことを言うフィルメリア。
 動かなくなったワイバーンから、ふと目線を移す。
 その先では、グリフォンに乗ったラミアと赤いワイバーンが一定の距離を保ちながら、離れては近づき、近づいては離れを繰り返していた。
 速度的にはほぼ互角だろうか。
 ラミアから重い一撃を喰らったせいか、近づくのは危険だと判断したらしい。
 距離を取りながら炎を撒き散らすワイバーンに、彼女は必死で追い縋る。
「コラー! うろちょろすんな!!」
「支援するわ!」
 状況を瞬時に理解したフィルメリア。短い詠唱。
 彼女の目前に現れる光の三角。そこから真っ直ぐに光線が伸びて、赤いワイバーンの翼を焼く。
「今よ!」
「おう! 行くよ、レガリア!!」
 フィルメリアの声に応え、グリフォンと呼吸を合わせるラミア。もがくワイバーンに急接近し、同時に攻撃を叩き込む……!
 響く苦し気な悲鳴。
 赤いワイバーンはそのままクレバスの深部へと消えて行った。
「……流石にあそこに落ちたら助からないでしょうね」
「そうだね。ありがと、フィルメリア。助かったよ」
「どういたしまして。お役に立てて何よりだわ」
「リザードマンは……もう倒し終わってるみたいだね」
「そうね。じゃあ早速、今日の本題に入りましょうか?」
 微笑むフィルメリアに頷くラミア。
 2人はワイバーンとグリフォンを駆り、仲間達と合流した。


 星の傷跡の広いクレバスの中をゆっくりと進むハンター達。
 進めば進む程に強くなるマテリアルの反応。
 そしてそこかしこに光輝くマテリアル鉱石があるのを見て、ルシオはふう、とため息をつく。
「正のマテリアルが集まる場所とは聞いていたけど、目視で分かるくらいの鉱石が沢山あるんだね」
「こんなにゴロゴロしてるとは思わなかった……」
「……あちこちに一杯ありすぎて良く分からないです」
 広がる景色に目を丸くするラミアとエステル。
 足元にも、天井にも。キラキラと瞬くマテリアルの光。
 薄暗がりの中で輝く鉱石はまるで星のようでとても綺麗だけれど。
 この中から『大きなもの』を探り当てるのはなかなか骨の折れる作業になりそうだった。
 エステルはイクシード・プライムやフルートを用いればマテリアル鉱石と共鳴してくれるのではないかと思って試したのだが、残念ながら何も起きなかった。
 そもそもイクシード・プライムは覚醒者が星の力と通じ合った時に顕現する特殊なものではあるが、そういった使い方をするものではないので仕方がないのかもしれない。
 フルートの音色も周囲がごつごつした岩が多いからか、思ったようには反響しなかった。
「うう。これで少しはマテリアル鉱石の場所が分かるかと思ったんですけど……」
「わふ。もっと奥行ってみましょうよー。奥に行けば行くほどマテリアル増えるはずですし」
「そうだね。あまり奥に行くのは危険だけど……」
「すみません。こんな危ないところまで付き合わせてしまって……」
 元気づけるように言うアルマに頷くアルト。頭を下げるイェルズの背中を、ラミアがバシッと叩く。
「痛っ!!? ラミアさん何するんですか!?」
「いちいち謝るんじゃないよ。皆危ないのは分かってるよ。それでもイェルズの義手を何とかしたいと思ったから来たんだろ」
「それはそうなんですけど……お手数かけて申し訳ないなって」
「だからそういうとこだよ! 水臭いって言ってるの!!」
 ぷんすこと怒るラミア
 本当にもう。何でこの男はこうなのか。
 いつも遠慮し過ぎなのだ。頼ってくれた方が嬉しいのに。
 ――こんなに支えたいと思っているのに何も分かってない……!
 エステルもこくりと頷くと、橙色の大きな瞳でイェルズを見上げる。
「……イェルズさんは申し訳ないって言いますけど、イェルズさんが取った行動で、沢山の人が助けられたです。わたくし達はその分をちょっとお返ししてるだけです」
「そうですよ! 僕、あの場にいた者としてとっても感謝してるです」
 イェルズの手を取ってぶんぶんと振り回すアルマ。
 あの時、結果としてイェルズは腕と瞳を失ったけれど。彼があの行動に出なければ、被害はもっと広がっていた筈だ。
「あの時君が助けた人はね、僕の仕事仲間なんだ。『あれで死なれちゃ寝覚めが悪い』なんて言ってたけどきちんと感謝してると思うよ。結局来られなかったけど、今日も来ようとしてたみたいだし」
「皆の言う通りだよ。君が皆を助けたいと思っているように、皆も君を助けたいのさ。……私も付き合える限りは付き合うと決めたしね」
 アルトの思わぬ言葉に気恥ずかしくなったのか頬を染めるイェルズ。ルシオはそんな彼に穏やかな目線を向ける。
 ――エンドレスが集め続けていた情報。あれを引き継いだ者がきっといる。
 目を覚まさない強化人間の子供達の手がかりが何処かにある……。
「イェルズがシバが託した未来を担う子供達の一人ならきっと様々なものを掴めると思うからね。無茶は適度に、踏み込むのは恐ろしく強い先達に任せておくといい。……私は、子供達を守るよ」
「あの。ルシオさんにとって俺も子供みたいなものですか?」
「ん? まあ、そうだね……。見守って行きたい子の一人ではあるよ」
「えぇ。俺、ルシオさんのこと素敵なお姉さんだと思ってるのになーー」
 不満そうなイェルズの一言にぴきっと固まるラミア。
 まあ、イェルズはもうちょっと女心というものを理解した方が良いと思うけど……というルシオのため息交じりの呟きが聞こえて、フィルメリアは笑いを噛み殺す。
「……それにしても、どうして義手にマテリアル鉱石が必要なのかしら。どの部分に使うのかちょっと気になるわね。イェルズさんは何か聞いてる?」
「あ、ヴァーリさんに聞きました! でも専門用語ばっかりで話の半分も理解出来なかったんですよね……」
「そう……。技師の宿命みたいなものかしらね。分かった部分では何と言っていたか覚えてるかしら」
「えっと、確か筋肉や神経の動きを伝えるのを補助する為って言ってたと思います。マテリアル鉱石でそんなことが出来るんですかね?」
「マテリアルはハンターと親和性がとても高いから……使い方によっては可能かもしれないわね」
 首を傾げるイェルズ。それを聞いたフィルメリアは考え込む。
 彼の言う通りのことが実現できるとしたら、帝国の第六師団長であるヴァーリはかなり技術力が高い技師ということになる。
 まあ、帝国は錬金術の本場だ。国全体が高い水準の機導技術に満たされていることから考えても、そういった技術者を抱えているのも頷ける。
 そんなことを考えながらも目はマテリアル鉱石を追っているフィルメリア。
 ラミアは超嗅覚を使うも、感じるのは温泉の匂いばかりでため息をついた。
「やっぱり鉱石は匂いじゃ分かんないか……」
「……これだけ光っているし、光の強弱である程度大きさの見分けがつくんじゃないか?」
「あ、それ僕も思ってたです」
「なるほどです……! より光ってるところを掘ればいいですね!!」
 ルシオの呟きにハイッ! と挙手をするアルマ。その言葉にエステルがきらりと目を輝かせる。
 では、より光が強いところを……と手分けして探し始めたハンター達。
 一際光が強い場所を見つけたアルトは、それがただの岩ではないことに気が付いた。
 深い青の鉱石は彼女の身長を遥かに超える大きさで……マテリアル鉱石に似ているが、少し違う。
 どこかで見たようなことがあるような気がするのだが……。
 正直、鉱石の良し悪しが分からない。
 アルトは、こういったものの扱いに慣れているであろう機導師に頼ることにした。
「フィルメリアさん。これ何だろ?」
 呼ばれて振り返るフィルメリア。アルトの元に歩いて行って……ああ、と声をあげる。
「これは龍鉱石じゃないかしら」
「……龍鉱石? それにしては随分大きくないか?」
「元々の龍が大きかったのか、身に余るほどのマテリアルを溜めこんでいたのか……どちらかしらね」
 フィルメリアの言葉に驚愕するアルト。龍園や北方にある遺跡の中で龍鉱石を見たことがあるが、こんな大きなものは見たことがなかった。
 龍鉱石は高純度のマテリアルを保有していた龍たちが死した後、大地にマテリアルを還すことなく石化して出来たものだと言われている。
 この大きな龍鉱石は、いわば青き龍の眷属の遺体とも言えた。
「……これもサヴィトゥールさんに報告した方がいいですね」
「そうね。龍の聖地と言われている場所で死した龍ですもの。きっと青龍の神官達も知っておきたいと思うわ」
「はいです。場所を書いておくです」
 龍鉱石を撫でながら言うフィルメリアにこくりと頷くエステル。
 手元の地図に龍鉱石があった場所を書き込む。


 そんなことをしながら奥へと進んだハンター達。
 濃密なマテリアルの気配と、息苦しさを感じる。
 ここから先は恐らく、死の世界と呼ばれる場所だろう。
 よろけたイェルズを、ラミアが慌てて支える。
「イェルズ、大丈夫かい?」
「……大丈夫です。ちょっと息苦しいだけです」
「これ以上進むのは難しそうだね。ここから手前で探すとしようか」
 顔を顰めるイェルズ。ルシオの横をすり抜けて、アルマがずんずんと進んで行く。
「アルマさん、どこ行くんですか!?」
「わふ? どうせ手に入れるなら純度が高くて大きなものがいいかなって」
「これ以上進んだら危ないですよ!」
「大丈夫ですよー。じゅっとするのはすきですけど、じゅっとなるのは嫌ですし」
 慌てるイェルズに笑顔を返すアルマ。
 
 ――彼はやさしい人だ。
 無念のうちに消えたあの人は、人に仇なす歪虚であったのに。
 それを大事に思う自分の気持ちに理解を示してくれた。
 イェルズ自身はあの事件のことを気にしていない。責任を求められた訳でもない。
 でも、僕の迷いが――彼が腕や瞳を失う切欠の一端を担った。そう思うから……。
 だから。僕の力は。今は彼の為に――!

「アルマさん! 危ないです!!」
「あともうちょっとだけ……!」
 後ろから聞こえるエステルの声。
 煌く地底。その奥を覗き込むアルマ。噎せ帰る程の濃密なマテリアルで息苦しいが……そこには掘り返す必要もないくらい、大きな鉱石が落ちていて――。
 義手であれば多少溶けたって大丈夫。修理が利くし。うん。遠慮なく無茶が出来るしこういう時は便利だ。
 今回は壊れたらヴァーリさんに頼めば直してもらえるかも……ん!? これを口実にトマーゾ先生に会いに行っちゃえばいいんじゃないですかね!!?
「……やったあ! イェルズさん! 採れたですよーーーー!!!」
「アルマさんありがとうございm」
「こらーーーー! こんなとこでタックルしたら危ないだろ!!?」
 大きなマテリアル鉱石を手に大喜びで振り返り、そのままわんこタックルをぶちかましたアルマ。
 再びイェルズが吹っ飛んで、ラミアの怒声が響いた。


「……星の傷跡の中に巨大な龍鉱石だと?」
 ハンター達の報告に目を見開くサヴィトゥール。
 あれから大小いくつかのマテリアル鉱石を入手することに成功したハンター達は、龍園のハンターオフィスで報告会を開いていた。
「ええ。あれは間違いなく龍鉱石だと思うわ」
「何であんなところに龍鉱石があったのかは分からないんだけど」
「いや、それを調べるのは我々の仕事だ。気にすることはない」
 フィルメリアとアルトに静かに答えるサヴィトゥール。エステルがおずおずとまとめた地図を差し出す。
「あの、龍鉱石や大きなマテリアル鉱石の場所は大体ですけどこれに記してあります」
「……そうか。助かった。礼を言わせて貰おう」


 こうして、マテリアル鉱石を入手し、第六師団の師団都市に戻ってきたハンター達。
 イズン達も無事にアダマス鉱石を持ち帰ることに成功。ヴァーリは早速工房に籠った。
 微調整を重ねた為、日数を要したがそれでも脅威的な速度でイェルズの元に新たな義手が届くことになり――。
 黒い鋼とマテリアル鉱石を使って作られたそれには、美しい月と蛇の文様が彫られていた。
「で、イェルズ。新しい義手の調子はどうだい?」
「今までとは全然違ってすごく使い心地がいいです。これも皆さんのお陰です。ありがとうございます!」
「そっか。良かったね。イェルズが気張らないといけない場面はきっとこの先沢山あるだろうけど、無理するんじゃないよ?」
「わふ! 大丈夫です! その時は僕また手伝いますし!!」
「わたくしもです!!」
 笑顔を返すイェルズに満足そうに頷くラミア。どこまでも素直なアルマとエステルにぐぬぬとなる彼女を、フィルメリアは母親のような暖かな目線を送る。
「乙女心は複雑よね……」

「……月と蛇を掘って貰ったんだね」
「はい。これで、ずっとシバ様と一緒です」
「ああ。イェルズが継いでくれて、きっとシバも喜んでいるだろう」
「どうですかね。俺、未熟な弟子だったんで……」
「最初から強い者などいないよ。大丈夫、イェルズは強くなっているさ」
 イェルズの頭をよしよしと撫でるルシオ。
 彼は嬉しそうに頷いて、空を仰ぐ。

 ――シバ様。
 俺はきっと、あなたの力と魂を継いでみせます。
 だから……そこで、見ていてください。

 イェルズを撫でるように吹く夏の風。
 どこからか、シバの声が聞こえたような気がした。

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    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワースka4901

重体一覧

参加者一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • ずっとあなたの隣で
    ラミア・マクトゥーム(ka1720
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    レガリア
    レガリア(ka1720unit003
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ジュリア
    ジュリア(ka3109unit003
    ユニット|幻獣
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    シェラリス
    Sheralis(ka3380unit005
    ユニット|幻獣
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    フローライト
    フロー(ka3983unit003
    ユニット|幻獣
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka4901unit006
    ユニット|幻獣

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マテリアルリンク参加者一覧

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/21 08:54:10
アイコン 質問卓
ルシオ・セレステ(ka0673
エルフ|21才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/06/25 22:10:22
アイコン 【相談卓】マテリアル鉱石探し
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/06/25 02:06:49