• 空蒼

【空蒼】恨絶の狂機 1機目

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
4日
締切
2018/06/25 19:00
完成日
2018/07/01 20:52

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「なぜ、貴方がここに……」
 研究所の一室で星加 籃奈(kz0247)が絶句する。
 所長が行方不明になって空いていた席に新しい所長が就任。それが、夫を陥れた上司だったからだ。
 そして、この上司こそ、軍との癒着による不正を行っていた人物なのだ。
「身の丈に合う事は何事も大切だよ、籃奈君」
 相変わらず、いやらしい視線を向けてくる上司。
 あまりの気持ち悪さに思わず一歩引きそうになったが、辛うじて耐えた。
「……こんな、こんな事があっていいはずない! 所長は、貴方の不正を!」
「なんの話をしているか分からないが、前の所長は仕事を放棄して蒸発した。それだけだ」
 籃奈が想定していた以上に、闇は深そうだ。
 上司はニヤリとした表情を浮かべながら、書類の束を机の上に叩きつける。
「君に“仕事”だよ。早速、明日から宇宙に行ってもらう」
「拒否します」
「それは認められない。なぜなら、これは“マテリアルライン”の不都合を確認しなければならない事案だからね」
 新型のCAMであるコンフェッサーには特別な能力が搭載されている。
 マテリアルラインという一種の通信能力なのだが、それが不都合を起こし、時として通話できないという事が発生したと報告があったのだ。
 実際は搭乗者の何らかのミスでしかないのは明らかなのだが、時として世の中は不条理なもの。
「君も知っての通り、既にコンフェッサーの生産は始まっている。カスタムタイプも含めれば相当数に上る。今更、不都合がありましたでは済まされないのだ」
「……そうやって、私の主人も死地に送り込んだのですか!」
「どうも、君は妄想癖があるようだね。これは軍からの作戦だ。拒否するというのなら、それでも構わない。敵前逃亡になるだけの事」
 しばらく沈黙が続いた後、籃奈は静かに書類の束を手にした。


 地球圏に残存するVOIDを殲滅する為、各地で戦いが繰り広げられている。
 その動きは地上だけではなく、宇宙でも同様であった。廃棄されたコロニー群とその周辺には今だ、多数のVOIDが潜んでいるという話もあるらしい。
 それらを討伐する連合宙軍は拠点の再構築も行う必要があった。
「……その拠点の一つを構築する為に、付近のVOID勢力を殲滅するのが、私達の作戦です」
 作戦室で告げたのは籃奈だった。
 相手は今回の作戦の為に集められた強化人間達だ。
 如何にも堅物の軍人というイメージの男が、図太い腕を挙げる。
「質問よろしいでしょうか?」
「コンドウ曹長、質問を認めます」
「ハンター達は同行しますか?」
「全作戦とは断言できませんが、可能な限り、ハンター達も参戦する予定です」
 籃奈の答えに強化人間達からどよめきが起こる。
 中には一緒に戦ったという者も居るのかもしれない。
「っへ。あいつら、可愛い子が多いからな。どうなってるんだが、そう思わないかい? シーバちゃん。いや、君も可愛いけどね」
「え? えと……」
「無駄な私語は慎みなさい、リー軍曹。シーバ軍曹が困っているわ」
 チャラそうな強化人間の男が注意され、ビシっと敬礼をする。
「失礼しました。一番可愛いのは、我らが籃奈隊長殿と思っております」
「この馬鹿をここに配属したのは誰よ……」
 呆れ顔の籃奈に、一同から笑い声があがる。
 寄せ集めの隊員らではあるが、CAMの操縦技術は各々あるようだ。宇宙空間での戦闘経験者も多い。
 恐る恐る、シーバという名の女性強化人間が訊ねる。
「ハンター達との共同作戦では……その、通信の件は……」
「心配しなくてもいいわ。研究所からコンフェッサーの試作オプションがあるから。詳細は各自の端末に送った資料を各自確認して」
 宇宙空間では通信が大切だ。
 通信機の持ち込みは当然の事だが、周波数合わせや機材の調整をハンターと行う手間が発生する。
 今回の作戦に合わせ、籃奈が持ち込んだ試作品は、コンフェッサーの“マテリアルライン”を応用したものだ。
 籃奈機がハブとなり、ハンターを含めた各機との通信網を構築する事になる。
「それでは作戦開始まで、各自、最終調整を」
 強化人間らが一斉に立ち上がった。
 VOIDを駆逐する為に――。


 一方、地上では籃奈の一人息子である孝純が夜空を見上げていた。
 残されるのはいつもの事だ。空港で分かれる際、いつもより力強く抱き締めてきた母の事が不安になる。
「……父さんも、あの作戦に出る前に、あんな感じだった」
 何か覚悟を決めたようなそんな想いが伝わってきた。
「父さん……母さんを守ってあげて……」
 その時、トンと肩に手を置いたのは鳴月 牡丹(kz0180)だった。
 籃奈が留守している間、時折、様子を見に来る事にしているからだ。
「孝純君は大丈夫なのかい?」
 まだ十歳そこらの男の子だ。
 頼れる親族も居ない状態なので、一人で暮らしていかなければならない。
「やらないといけない事があるから……軍人になる為に」
「学者になるんじゃなかったのかい?」
「……母さんを守りたいんだ」
「そっか」
 少年らしい想いを聞き、牡丹は微笑を浮かべた。

リプレイ本文

●備え
 慣れない無重力状態に表情を曇らせながら十色 エニア(ka0370)が呟いた。
「うーん、ちょっと面倒だね、この感覚……」
 流石に宇宙酔いという事にはならないが、好みの問題でもあるだろうか。
 その隣ではエニアとは対照的に満面の笑顔でルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)がカード(という名の符)を掲げていた。
「宇宙の海もニンジャの海、歪虚の好きにはさせません!」
 これが地上であれば、その豊満な胸が盛大に揺れただろう。
 大きく広がった胸がまるで別の生き物のようにも見える。これもニンジャが成せる技か。
 掲げたカードを作戦説明の為に、ハンター達の控室にやってきた星加 籃奈(kz0247)に向ける。
「爆破事件があったから、籃奈さんも心配だもの!」
 ルンルンのその台詞に作戦の煮詰め調整を行っていた鹿東 悠(ka0725)とクラン・クィールス(ka6605)が険しい表情となった。
「ニンジャの基本は情報共有です! 実は、籃奈さんは――」
 という事で、大袈裟な身振り手振りで、籃奈を襲った爆破事件を説明するルンルン。
 所々、その補足をエニアが入れ、最後に、籃奈が呆れた様子で告げた。
「――という事ですが、あまり、気にしなくてもいいです。確かに、悪戦場ではありますが、勝てない作戦を行う程、軍に余裕もありませんから」
 今回の作戦では、強化人間十数人がCAM部隊を編制している。
 それらを支援する整備員や軍艦の兵士達は、かなりの数になるのだ。戦力全てを捨て石にするつもりはないだろう。
「寄せ集め部隊に少な目の応援、それを持っても分の悪い敵戦力への対応……嵌められているかもしれませんね」
 鹿東の言葉に籃奈は頷いた。
「戦力的にはギリギリだから……上司にとっては、あわよくば、戦死すれば良し……と見ているかもしれないわ」
 そして、視線をエニアとルンルンへと向けた。
「ハンターへの依頼は軍からオフィスを通してだから偶然だと思いたいけど……二人を巻き込んでいたら、間違いなく、私のせいね」
 二人は籃奈の一人息子とは友達ともいえる関係なので、もし、ハンターの人選に上司が絡んでいたとしたら、二人とも厄介払いされているという事だ。
「ちゃんとみんなで帰還しようね」
「孝純君と、またニンジャ修行(ゲーム)する為ですから、気にしちゃダメです!」
 エニアとルンルンの言葉を聞きながら、クランは頷いた。
「やる事は変わらないが……何かの陰謀が牙を剥いてくるとして……その思い通りにさせるのは癪だな」
「全くです……対策を用意して黒幕には悔しがって貰いましょう」
 僅かに口元を緩め、鹿東が応える。
 陰謀云々が杞憂に終わればいいのだが……この悪戦場を乗り切るのが第一だ。死地も一周回れば活路が見えるはずなのだから。
 クランは籃奈を安心させる為――ではないだろうが、頼もしく告げた。
「……とにかく、どうにかしてみせよう」
「頼りにしているわ。今回、私は積極的には戦闘に参加しないけど」
 籃奈機はマテリアルラインを応用した試作品を持ち込む事になっている。
 それは、各機体の通信を繋ぐものという。狂気歪虚の電波障害による影響を最小限に留める為のものだ。
 また、この試作品は籃奈が【界冥】作戦時に持ち込んだ物を発展させているという。
「だから、通信系については心配はいらないけど」
「念の為に、に『トランシーバー』を持参していこう……必要になる様な事が起きなければ良いが、何が起こるか分からないのが戦場だからな」
 そう言ったのはクランだった。
 戦場では何が起こるか分からない。念には念を入れても問題はないはずだ。
 クランの言葉を心の中で繰り返しながら、トランシーバーを籃奈に渡すエニア。
「多分、今後も使えそうだし」
「そうだね。私達の最終目標は廃墟コロニーに拠点を構築する事だから」
 今回の戦いはその前哨戦という訳だ。
 ルンルンが突如として符を掲げて術を唱えだした。
「ルンルン忍法ニンジャテレカ!」
 説明すると、符術師が扱う符術の口伝符というものだ。
 彼女はそれを複数枚作ると、その場の全員に渡していく。もっとも、覚醒者という括りではない籃奈には使えないのだが……。
「準備も整ったようですし、行きますか」
 鹿東の台詞に全員が視線を合わせて、力強く頷いた。

●出撃
(さて、隊長さんも含めガキどもの引率もやりますか……)
 Azrael(R7エクスシア)(ka0725unit001)のコックピットの中、モニターに映る強化人間部隊のCAMを確認しつつ、鹿東が心の中で呟いた。
 1機ずつ確認したが、機体に違和感は無いようだ。
 同時にトランシーバーの通信状態を確認する。
「保険が無駄になるのが一番……ではありますけどね。それでは、作戦を開始します」
「各機、戦闘開始!」
 鹿東の開始の言葉と共に、籃奈が部下に命令を下す。
 出撃した全機体が一斉に加速すると、流星の如く光跡を残した。
 ハンター達が提案した作戦は至ってシンプルであった。短期決戦前提での突撃だ。
 籃奈は戦力をクラスタ攻略側に傾けてある。敵護衛戦力との戦いは不利になるが、そもそも、クラスタを破壊しなければ、敵の増援は止まらないのだ。妥当と言えるだろう。
 その時、通信機を通して法螺貝が吹かれたような音が聞こえてきた。
「セイバーIちゃん出撃です!」
 ルンルンの元気な声と共に、CAMの飛忍『セイバーI』(コンフェッサー)(ka5784unit004)が突出した。
 それに強化人間らが駆る数機のコンフェッサーが追随する。
「続かせて貰うよ、ルンルンちゃん! あっと、俺はリーだ。君の背中を守らせて欲しい」
 そんな声が通信機から聞こえてくるが、間髪入れずに籃奈からツッコミが入る。
「リー軍曹。ハンターのケツばっかり追い掛けないで、先頭に出なさい」
「おおっと、嫉妬しないで下さいよ、籃奈隊長殿!」
「……エニアさん、そのCAMから撃ち落として構わないわ」
 籃奈隊長の冷たい声にエニアが苦笑を浮かべた。
 悪乗りするように応える。
「分かったわ。ファイアーボールに巻き込んで、ね」
「ちょ、待って。エニアちゃんだっけ? 君みたいな可愛い声の“娘”が、そんな事しちゃダメだよ」
 慌てるリー軍曹の台詞に各機からの笑い声が聞こえてくる。
 冗談が飛び交う雰囲気を鹿東は感じながら、機体を加速させた。
 濃紺に染められたエクスシアがVOIDから放たれるレーザーの雨を直線的な機動を描いて避ける。
 まだ、距離はあるようだが――。
「クランさん、今です」
「射線上からの退避、確認した。撃つ!」
 ダインスレイブ(ka6605unit004)の滑腔砲が狙いを定めた。
 放たれたのは強力な貫通徹甲弾だ。長射程を貫通するその砲撃は極めて強力である。
 射撃の反動も大きいが、砲撃戦を念頭に設計・作製された機体だ。すぐさま、姿勢を整えた。
「続けて、雑魚を蹴散らす。死にたくなければ、効果範囲に入るなよ」
「こちら、コンドウ。了解した」
「シーバ軍曹は、ハンターの突破後、コンドウ曹長を援護」
「わ、分かりました!」
 通信機から聞こえてくる会話を聞き流しつつ、クランは素早く、コントロールパネルを叩いた。
 対VOIDミサイルを撃つ為だ。まずは敵の護衛群を突破しなければならない。その為には火力の出し惜しみはしない。
「……ぶち抜くぞ、ダインスレイブ」
 高速で射出されたミサイルが光の跡を残しながら飛ぶと、巨大な爆発を起こした。
 想像絶する衝撃に文字通り吹き飛ぶ小型狂気。
「擬人型が出てきたよ!」
 オファニム(ka0370unit002)の肩部分に搭載された巨大なプラズマキャノンを放つエニア。
 小型狂気と違い、擬人型はクリムゾンウェストにおいて歪虚CAMと呼ばれる。
 CAMととても似た姿形をしている為か、その運動性能はCAMと比べても遜色ないだろう。
 援護射撃を受けつつ、ルンルンのコンフェッサーが大鎌を振り回しながら擬人型に突撃した。
 斬りつけた直後に姿勢制御を兼ねたスタスタ―とバーニアをふかして戦場を駆ける。
「ひょー! すげーな、覚醒者は」
 驚く強化人間の台詞。
 何回転かした後、機体の向きを固定すると、マテリアルソードを逆手に持たせ、スキルトレースで符術を発動させる。
「くらえ、ニンジャコレダーァァァァ!」
 宇宙空間を切り裂くように稲妻が迸る。
 避け損ねた擬人型が姿勢を崩しながら出鱈目に負のマテリアルのレーザーを放ってきた。
 それに対し、ルンルンはバルーンを機体から射出させ、自機をバルーンの動きに合わせる。
「飛忍ニンポー分身の術!」
 と叫ぶが、勿論、忍術ではなく、コンフェッサーが持つ能力だ。
 近接のコンフェッサー。遠距離のダインスレイブ。異なる設計思想の機体だが、同時運用の相性は高い。
 ルンルンが前線を支えている間も、クラン機の砲撃は続いた。クラスタへの突破口が作られたのを確認すると、残存する擬人型に照準を合わせた。
「敵護衛戦力を削るぞ」
 余裕があれば、クラスタへの直接攻撃もあり得るが……その余裕はなさそうだなとクランは思った。
 クラスタから敵の増援が出現してくるのが見えたからだ。

●攻略
 新手のVOIDの群れが出現に対し、鹿東はスキルトレースにて闘狩人スキルを発動させた。
 彼の機体が炎のようなオーラに包まれると幾体もの小型狂気が追い縋り、細い鋭針のようなレーザーと触手が濃紺色のエクスシアに迫る。
 それらを装甲で弾く。カンカン! と音がコックピット内に響くが、この程度は大した事ではない。
「各員、周りを見ろ。近くに居る仲間と連携を取れ」
 そう告げながら、ハンドガンの機構を回避行動の反動に合わせ作動する。
 クルっと機体を反転。追い掛けてくる小型狂気の群れに、プラズマグレネードを打ち込んだ。
 それでも諦めずに触手を伸ばそうとしたが、グレネードとは違う爆発が起こる。
「このまま、一気にクラスタに取り付こう」
 ファイアーボールを放ったのはエニアの機体だった。
 小型狂気はそれで四散したが、あれと戦う事になるなら、クラスタ対応で良かったと、千切れた触手を見て思うエニアだった。
 気を取り直してオファニムを操作する。直掩のVOIDが、緩急のついた高機動な動きについていけずに置いていかれる。
 ついでいうと、ハンターの護衛に付いてきた強化人間も、遅れる。
「噂には聞いていたけど、マジでハンターの機体はどうかしちゃってるんじゃねぇ」
 リー軍曹がそんな事を呟いた。
 もっとも、機体の方向性が違うというのもある。
 エニアが駆るオファニムはエースパイロット用に再調整されたものだ。逆に、強化人間達が搭乗しているコンフェッサーは魔法能力を有した格闘戦の機体である。
「敵機の射出口の位置は把握した。先にそこを優先する」
「タイミングを合わすよ」
 鹿東とエニアの二人の機体が交差しながら、クラスタの側面壁を飛翔する。
 対空砲火に似たレーザーがクラスタから放たれるが、鹿東は無理に避けようとせず、堅い装甲部分に当てる。
 振り返れば強化人間らの機体も必死に付いて来ていた。
「無事に残れたら一杯奢ってやる。目の前の不届きモノを始末するぞ」
「そりゃ、楽しみ、だぜ!」
 数機が並び、射撃体勢に入るのを確認して、鹿東とエニアの機体も上下に並ぶとジェネレーターと接続した武器を構えた。
「大砲を撃つ。巻き込まれないよう注意しろ!」
「発射!」
 全員が通信機で繋がっているので、タイミングを合わすのが楽だった。
 幾本ものマテリアルライフルの光がクラスタの射出口に集中すると、巨大な爆発を発生させる。
「クラスタ対応の全機、フルファイア!」
 爆発が収まらないうちから、籃奈から強化人間達に命令。
 敵味方の激しい砲火の中をエニア機が飛ぶと、射撃の終えた強化人間らの機体にファイアエンチャントを付与していく。
「エニアちゃん、ありがとうー。今度、お礼に食事でもどう?」
「遠慮しておくかな……籃奈さんに怒られそうだし」
 リー軍曹のデートのお誘いに、目を細めてエニアは答えた。
 “間違えられている”ようだが、今から指摘すると彼の士気に関わりそうだから黙ってようかと思う。
「行って良いわよ、エニアさん。私の服を貸してあげるから」
「ひゃっほー! 籃奈隊長殿直々にお許しが出た!」
 籃奈の服のサイズはエニアには丁度いいのかもしれない。

●異変
 クラスタへの攻勢が強まる一方、周辺での狂気との戦闘は防戦に押し込まれていた。
 強化人間らの機体の数が少ないのが原因だ。ルンルンとクランが居なければ文字通り壊滅していたかもしれない。
「リリカルニンジャバリアー!」
 カードが機体の周囲に結界を張った。防御力を高める符術である。
 囲まれたルンルン機を援護するように、クランの機体が砲撃を繰り返す。
「これはキツイか……」
 先程から、彼の機体は攻撃の手を緩めていない。
 二種の弾を使い分けつつ、自身に迫る敵に対しても堅い防御力を活かしながら対抗する。
「クラスタが破壊されるまでの辛抱だ」
 強化人間が乗る機体を庇いながら、クランは告げた。
 分かれた戦力を残存する狂気に集中できる。正念場ともいえるだろう。
「あ、ありがとうございます……え、えと、クランさん」
 通信機から聞こえてきたのは、シーバ軍曹の遠慮がちな声だった。
「気にするな。それより、先程から動きが可笑しいが、機体の不調か?」
「い、いえ、そんな事は……」
 何らかのアクシデント――ではないようだが、クランから見て、シーバ軍曹の機体の動きは精細さに欠けていた。
 本人はそんなつもりは無いようだし、CAM操縦の練度が特段に悪いという訳でもない。
「確りしろ、シーバ軍曹」
「す、すみません。コンドウ曹長」
 体調でも優れないのだろうか。
 強化人間らの会話に割り込むように、ルンルンが心配の声を挙げた。
「体調管理もニンジャには大事です! どうしたのですか?」
「……まぁ、忍者かどうかは兎も角、どんな些細な事で良い。気になる事があるのか?」
 そう、クランも尋ねた。
 戦場では何が起こるか分からないのだ。少しでも危険な行動に出ない様に落ち着かせる必要がある。
「えと……その……き、聞こえませんか?」
 シーバ軍曹の台詞に誰しも?マークが浮かぶ。
 通信機を通じて会話は聞こえる。だが、それ以外に聞こえるものはない。
 ましてや、ここは宇宙だ。コックピットの外から音が聞こえるなどあり得ない。
「何も聞こえないが。疲れているのではないか、シーバ軍曹」
「でも、籃奈隊長。時々、聞こえるのです……ほら、いまも……何か、呼んでるように……」
 異変が起こったのはその直後の事だった。
 ルンルンとクランの機体とシーバ軍曹の機体の間に、多数の狂気が割り込んで来たのだ。
「戻れ! シーバ軍曹」
「コンドウ曹長も聞こえませんか……呼んでる……声? 違う? なんだろう……」
「シーバ軍曹!」
 唐突な異変にクランはモニターを確認する。
 遠くにこれから攻略する廃棄コロニーがあるだけで、この戦場に出現している敵は変わらない。
「援護する! コンドウ曹長、やれるか?」
「ダメだ。敵が多すぎる!」
 動きを止めたシーバ軍曹の機体を引き戻そうとするが、小型狂気の群れが壁となり邪魔をした。
 それを崩そうと、ルンルン機が大鎌を振るう。
「切り裂けグレートニンジャサイズ……成敗です!」
 ルンルンの攻撃で、ようやく小型狂気の群れに穴が開いた。
 そこを突破しようとするコンドウ曹長とクランの機体。パワーを生かしてクラン機が小型狂気を引きずったまま、シーバ軍曹の機体へと接近する。
「掴まれ!」
「……私、行って来ます!」
 バシっとクラン機の腕を払うと、直後にシーバ軍曹の機体が廃棄コロニーに向かって飛んだ。
 それを追い掛ける間もなく、残存する狂気VOIDがクランの前に立ち塞がった。
 その時だった。戦場を包むかのように大爆発が発生する。鹿東とエニアがクラスタを破壊したのだった。
「シーバ軍曹!」
 幾度となく部下の名前を呼ぶ籃奈の声が通信機から聞こえてくるが、その強化人間から返事は無かった。

●狂機
 小型クラスタを破壊し、宙域に残存する狂気を殲滅させてから、ハンター達と強化人間らは母艦へと戻って来た。
 損害は強化人間らの機体が数機、大破していたが、それ以外は作戦には支障は無かった。
「機体の補充は問題ないが、パイロットの損失は大きい……」
 幸いな事に大破した機体に乗っていた強化人間は全員、救助できた。
 今回、予備の機体は多く用意しているので、機体の損害は正直言うと、大きな問題ではない。
「だが、シーバ軍曹が行方不明だ。これは、おおごとになる」
 深刻そうな表情で籃奈が告げる。
 強化人間の反乱や暴走が話題になっているだけあって、シーバ軍曹の動きは擁護できない。
「異変は、『何か聞こえる』と言う事らしいですが……俺には何も聞こえませんでしたね」
 通信ログを丁寧に確認しながら鹿東が言った。
 記録にはハンター達と強化人間らの台詞しかなく、それ以外の第三者のものは残っていない。
「これがマテリアルラインの不都合?」
「その不都合は、確か、『通話できない』状態という事じゃないのか」
 エニアは首を傾げ、クランが補足を入れた。
 特定の人だけ通話が出来て、他の人には聞こえなかったという事であれば、分からなくも無いが……。
「主人の命令はニンジャとしては絶対だと思うのです」
「ルンルンの言う通り、隊長命令を無視して行ってしまうというのは、明らかに可笑しいか」
 鹿東は廃棄コロニーを映しているモニターを見つめた。
 軍隊において上官の命令は絶対だ。それをシーバ軍曹が理解していないとは思えない。
「……シーバ軍曹の前歴は分かりますか?」
「月面の防衛隊という事だけど、所属していた部隊そのものは特殊でもなく、普通だったと思うわ」
 籃奈が即答で答えた。
 結成されて間もないのだ。人柄などは籃奈もまだよくわかっていない。分かるのは書類に書かれていた程度の事。
 クランが大きく息を吐いた。状況がきな臭くなってきたようだ。
「ルートから廃棄コロニーに向かったのは確実なんだろう?」
「それは、間違いないわ」
 シーバ軍曹の機体が廃棄コロニーに入っていく事までは母艦の望遠レンズで確認できた。
「それじゃ、シーバさんを探しに、次回はコロニーに突入です!」
 カードを掲げてルンルンが宣言した。
 廃棄コロニー内に蔓延る狂気VOIDを殲滅して宇宙拠点を構築しなければならないのだ。どの道、シーバ軍曹の跡を追う事になる。
「無事で居てくれたら良いけど……」
 エニアの呟きに、一行は頷いた。
 廃棄コロニーは狂気VOIDが潜んでいるのだから。


 ハンター達の活躍により、廃棄コロニーの宙域に残存していた小型クラスタは破壊した。
 しかし、戦闘の最中、一人の強化人間が行方不明となってしまう。
 謎と不安を残しながらも、次の作戦へと向けて籃奈の部隊は動き出すのであった。


 おしまい。


●罪過
 展望デッキでリー軍曹は落ち込んでいた。
「もっと、仲良くしておけばよかったな……」
「……気に病む事はない」
「うお! 唐突に声を掛けないで下さいよ、コンドウ曹長!」
 心臓が飛び出る程、驚いているリー軍曹の真横に曹長は立ち並んだ。
 そして、周囲を確認し……誰も居ない事を確認すると、小声で告げる。
「……シーバ軍曹は“問題”を抱えていた」
「なんだそりゃ?」
「ここだけの話だ……妻子のいる将官と密接な関係だったらしい」
「マジかよ……つか、何で曹長がそれを?」
 リー軍曹の疑問に険しい表情のままコンドウ曹長は静かに答えた。
「俺も、その隊の出身だからな……この隊、思った以上に、深刻だぞ」
 曹長の拳は力強く握られていた――。

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参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • ユニットアイコン
    オファニム
    グラム(ka0370unit002
    ユニット|CAM
  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アズラエル
    Azrael(ka0725unit001
    ユニット|CAM
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ニンジャロボセイバーイ
    CAMの飛忍『セイバーI』(ka5784unit004
    ユニット|CAM
  • 望む未来の為に
    クラン・クィールス(ka6605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ダインスレイブ
    ダインスレイブ(ka6605unit004
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談の場
鹿東 悠(ka0725
人間(リアルブルー)|32才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/06/25 07:07:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/21 13:24:52