ゲスト
(ka0000)
【空蒼】熱帯雨林の悪魔
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/26 19:00
- 完成日
- 2018/06/30 10:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
30ミリ弾が少女の体を砕く。
黒いカソックが肉片と共に飛び散り、融和をうたうはずの式典が地獄と化した。
●72時間前。地球連合軍駐屯地
「崑崙と繋がりました」
「挨拶は情報を受け取ってからだ。いつ通信障害が起こるか分からん」
冷房がよく効いた司令部の中、緊張感に満ちたやりとりが交わされている。
「受信完了。全ファイル整合性チェック完了。問題なし」
「軽度の通信障害が発生」
「基地の南東に未確認のVOIDを確認」
基地の周辺地図が表示されたディスプレイに、歪虚の推定位置が表示される。
付近に民家はなく、基地から離れている場所にしか出現していないとはいえ放置はできない。
「ボス! サルヴァトーレ・ブルへの救援を提案します!」
「落ち着け、人口密集地でもないのにこの程度で呼べるか」
黒々とした肌の男性軍人が、鼻で笑って命令を下す。
「第3小隊を出せ」
命令は速やかに実行されたものの、士官のほとんど全員がもの言いたげな表情だ。
能力的にも人格的にも本来このような態度をとる男女ではない。
第3のCAM小隊のメンバーに問題があるのだ。
「こちら強化人間CAM小隊、任せて下さい!」
通信機越しの声はあまりにも若い。
彼等は、暴走事件が噂される強化人間だった。
●48時間前。地球連合軍駐屯地
「おそらく強力なVOIDが潜んでいます」
「第三小隊が撃破したのは新規に発生したVOIDです。汚染の拡大は深刻ですな」
クリムゾンウェストでいう雑魔数体を倒してはしゃいでいる第3小隊とは逆に、司令部はお通夜じみた雰囲気だ。
「空軍を呼んで吹き飛ばしてから再攻撃するか、それが駄目ならこの基地を放棄することも考えるべきです」
「ふーむ」
崑崙からの書類をめくっていた司令が、陽気な口笛を吹いて書類を会議卓に広げた。
「なんですかこれ」
カソックと呼ぶには違和感のある衣装の金髪少女が、何故かメイスを構えて微笑んでいる。
「コスプレ?」
「ファンタジー・ワールドからの援軍らしいぞ」
「ああ、異世界人の」
「現地宗教組織で教育を受けた……ワーオ、絵に描いたような狂信者ですな」
軽口だが目は真剣だ。
「広域浄化術が使えると書かれていますね」
「話半分の能力だとしても有用だ。軽度の汚染が消えるなら歩兵部隊を投入できる」
「先方が来たいと言っているんだ。受け入れよう」
司令の体から、物理的にすら感じられる圧が噴き出す。
「異世界の友人に我々の力を理解してもらおうじゃないか」
最も苦しいときを生き抜いた軍人達が、2日の攻勢開始に向け動き出した。
●4時間前。第2CAM格納庫
「聞いたか?」
「ああ、覚醒者が来るんだろ」
第1に比べると廃墟じみた格納庫の中、強化人間達が輪になって話し込んでいる。
逞しい者の比率は高いが、皆成人に達していない若者達だ。
「やだな」
「別に関係ねぇだろ。俺達だけでVOIDを倒せばいいのさ」
改造人間を取り巻く環境が悪化しつつある。この場にいる全員も当然気付いている。
だが、自ら前線を志願するほど士気が高い彼等にとって、少々の冷たい視線など闘志を燃やすためのスパイスに過ぎない。
「それがよ、なんていうか」
「なんだよ」
「日本のアニメに出てくるイカレ聖職者みたいなんだとよ」
「暴力を振るって良い相手は、って奴か?」
「VOIDの気配がする相手には、って奴だ」
軽口のつもりの声に、恐怖が濃厚に滲んでいた。
●1秒後
「いっ、たぁーいっ!」
ミックスジュースと化した皮、肉、骨、神経が、膨大なマテリアルに吸い込まれるようにして元に位置に戻る。
「ジョニー! お前何をっ」
「止まれ、おい、止まってくれよぉっ」
歓迎式典で儀仗兵役を務めるはずだったデュミナス4機のうち3機が、暴れる1機をなんとか抑え込もうとしてる。
基地首脳陣は全員壇上で死人同然の顔色だ。
「良い狙いです」
死んだはずの少女は平然としている。
服は再生されないようで、少し不健康な色の肌が強烈な陽光にさらされていた。
「次は歪虚を狙ってくれると」
嬉しいですと言い終わる前に、第2射が控えめな胸元へ迫る。
鉄と鉄がぶつかり拉げる音が響く。
いつの間にか構えた盾の中央が、銃弾の凹んでいた。
「第1小隊、第2小隊に命じる。第3小隊を取り押さえろ。抵抗する場合は射殺を許可する」
「待って」
「待って下さい。ジョニーは」
怒りと絶望が渦巻く式典会場で、犠牲者の少女だけが心底楽しげだ。
リアルブルー人の混乱を喜んでいるのではない。
南東にある熱帯雨林から現れた狂気の群れへ熱烈な視線を向けていた。
●護衛任務
今回あなたにお願いする依頼は護衛です。
護衛対象は聖堂教会司祭イコニア・カーナボン。
低強度、広範囲の浄化術の遣い手です。
自衛可能な戦闘能力はあるものの、歪虚に対して好戦的すぎるため単身突っ込んで行く可能性大です。
重傷までなら許容しますので武力行使してでも死なせないで下さい。
依頼遂行中、遊軍に被害が発生しても問題ありません。
現地軍の承諾も得ています。
存分に力を振るって下さい。
・地図
abcde
あ□強□□1 □=平地。障害物なし。縦100m横100m
い会□□□□ 会=平地。歓迎式典会場。イコニアと軍人12名がいます
う□ハハ□□ 1=平地。友軍CAM4機。強化人間小隊の捕縛または破壊を目指す
え□□□□□ 2=平地。友軍CAM4機。南から来る小型狂気の足止めで手一杯
お□□□□2 ハ=平地。ハンター初期位置。各人が好きな位置を選択可能
か□狂森森森
強=平地。CAM搭乗中の強化人間1人が狂乱しています。残る3人もCAM搭乗中
狂=平地。中型狂気2体が北上中
森=熱帯雨林。小型狂気が次々に現れています。奥に大型の気配も?
黒いカソックが肉片と共に飛び散り、融和をうたうはずの式典が地獄と化した。
●72時間前。地球連合軍駐屯地
「崑崙と繋がりました」
「挨拶は情報を受け取ってからだ。いつ通信障害が起こるか分からん」
冷房がよく効いた司令部の中、緊張感に満ちたやりとりが交わされている。
「受信完了。全ファイル整合性チェック完了。問題なし」
「軽度の通信障害が発生」
「基地の南東に未確認のVOIDを確認」
基地の周辺地図が表示されたディスプレイに、歪虚の推定位置が表示される。
付近に民家はなく、基地から離れている場所にしか出現していないとはいえ放置はできない。
「ボス! サルヴァトーレ・ブルへの救援を提案します!」
「落ち着け、人口密集地でもないのにこの程度で呼べるか」
黒々とした肌の男性軍人が、鼻で笑って命令を下す。
「第3小隊を出せ」
命令は速やかに実行されたものの、士官のほとんど全員がもの言いたげな表情だ。
能力的にも人格的にも本来このような態度をとる男女ではない。
第3のCAM小隊のメンバーに問題があるのだ。
「こちら強化人間CAM小隊、任せて下さい!」
通信機越しの声はあまりにも若い。
彼等は、暴走事件が噂される強化人間だった。
●48時間前。地球連合軍駐屯地
「おそらく強力なVOIDが潜んでいます」
「第三小隊が撃破したのは新規に発生したVOIDです。汚染の拡大は深刻ですな」
クリムゾンウェストでいう雑魔数体を倒してはしゃいでいる第3小隊とは逆に、司令部はお通夜じみた雰囲気だ。
「空軍を呼んで吹き飛ばしてから再攻撃するか、それが駄目ならこの基地を放棄することも考えるべきです」
「ふーむ」
崑崙からの書類をめくっていた司令が、陽気な口笛を吹いて書類を会議卓に広げた。
「なんですかこれ」
カソックと呼ぶには違和感のある衣装の金髪少女が、何故かメイスを構えて微笑んでいる。
「コスプレ?」
「ファンタジー・ワールドからの援軍らしいぞ」
「ああ、異世界人の」
「現地宗教組織で教育を受けた……ワーオ、絵に描いたような狂信者ですな」
軽口だが目は真剣だ。
「広域浄化術が使えると書かれていますね」
「話半分の能力だとしても有用だ。軽度の汚染が消えるなら歩兵部隊を投入できる」
「先方が来たいと言っているんだ。受け入れよう」
司令の体から、物理的にすら感じられる圧が噴き出す。
「異世界の友人に我々の力を理解してもらおうじゃないか」
最も苦しいときを生き抜いた軍人達が、2日の攻勢開始に向け動き出した。
●4時間前。第2CAM格納庫
「聞いたか?」
「ああ、覚醒者が来るんだろ」
第1に比べると廃墟じみた格納庫の中、強化人間達が輪になって話し込んでいる。
逞しい者の比率は高いが、皆成人に達していない若者達だ。
「やだな」
「別に関係ねぇだろ。俺達だけでVOIDを倒せばいいのさ」
改造人間を取り巻く環境が悪化しつつある。この場にいる全員も当然気付いている。
だが、自ら前線を志願するほど士気が高い彼等にとって、少々の冷たい視線など闘志を燃やすためのスパイスに過ぎない。
「それがよ、なんていうか」
「なんだよ」
「日本のアニメに出てくるイカレ聖職者みたいなんだとよ」
「暴力を振るって良い相手は、って奴か?」
「VOIDの気配がする相手には、って奴だ」
軽口のつもりの声に、恐怖が濃厚に滲んでいた。
●1秒後
「いっ、たぁーいっ!」
ミックスジュースと化した皮、肉、骨、神経が、膨大なマテリアルに吸い込まれるようにして元に位置に戻る。
「ジョニー! お前何をっ」
「止まれ、おい、止まってくれよぉっ」
歓迎式典で儀仗兵役を務めるはずだったデュミナス4機のうち3機が、暴れる1機をなんとか抑え込もうとしてる。
基地首脳陣は全員壇上で死人同然の顔色だ。
「良い狙いです」
死んだはずの少女は平然としている。
服は再生されないようで、少し不健康な色の肌が強烈な陽光にさらされていた。
「次は歪虚を狙ってくれると」
嬉しいですと言い終わる前に、第2射が控えめな胸元へ迫る。
鉄と鉄がぶつかり拉げる音が響く。
いつの間にか構えた盾の中央が、銃弾の凹んでいた。
「第1小隊、第2小隊に命じる。第3小隊を取り押さえろ。抵抗する場合は射殺を許可する」
「待って」
「待って下さい。ジョニーは」
怒りと絶望が渦巻く式典会場で、犠牲者の少女だけが心底楽しげだ。
リアルブルー人の混乱を喜んでいるのではない。
南東にある熱帯雨林から現れた狂気の群れへ熱烈な視線を向けていた。
●護衛任務
今回あなたにお願いする依頼は護衛です。
護衛対象は聖堂教会司祭イコニア・カーナボン。
低強度、広範囲の浄化術の遣い手です。
自衛可能な戦闘能力はあるものの、歪虚に対して好戦的すぎるため単身突っ込んで行く可能性大です。
重傷までなら許容しますので武力行使してでも死なせないで下さい。
依頼遂行中、遊軍に被害が発生しても問題ありません。
現地軍の承諾も得ています。
存分に力を振るって下さい。
・地図
abcde
あ□強□□1 □=平地。障害物なし。縦100m横100m
い会□□□□ 会=平地。歓迎式典会場。イコニアと軍人12名がいます
う□ハハ□□ 1=平地。友軍CAM4機。強化人間小隊の捕縛または破壊を目指す
え□□□□□ 2=平地。友軍CAM4機。南から来る小型狂気の足止めで手一杯
お□□□□2 ハ=平地。ハンター初期位置。各人が好きな位置を選択可能
か□狂森森森
強=平地。CAM搭乗中の強化人間1人が狂乱しています。残る3人もCAM搭乗中
狂=平地。中型狂気2体が北上中
森=熱帯雨林。小型狂気が次々に現れています。奥に大型の気配も?
リプレイ本文
●紅異世的戦闘法
「妙な視線を感じるわね」
イコニアと同類と思われているのかしらと内心つぶきながら、八原 篝(ka3104)が大型の魔導機弓を構える。
カチリ、カチリと歯車が踊り、両の翼が生きているかのように開いていく。
巻き上げられ張り詰めたワイヤーのまわりに、マテリアルの燐光混じりの蒸気が漂った。
「はっきりと見てしまうと、ちょっと引くわね」
負傷も回復も見慣れた光景だが、イコニアほど派手なのはクリムゾンウェストでもあまりない。
「これ以上面倒を増やして欲しくなんだけどね」
ママチャリを止める。
火属性の矢を2本指に挟み、異様な速度で1本ずつ放つ。
100メートル以上距離がある、戦車じみたサイズの巨大巻き貝が揺れる。
鉄色の装甲に矢羽根の末端が2つ小さく生えていた。
「結構固いわね」
強襲型に酷似した中型狂気が進撃を継続する。
腹にため込んだ目玉レーザー発振機を使い、基地のCAMより脅威な篝を焼くつもりだ。
その速度は篝には劣るが十分速い。
篝がママチャリを巧みに操り退き撃ちをしても、この程度の速度差であれば確実に追いつかれてしまうだろう。
大きな狼型幻獣が篝を追い抜きママチャリを隠す。
「式典なんてつまらないと思ってましたが、こういうのは望んでないんですよねっ」
軍人に聞こえない場所で吐き捨て、ソフィア =リリィホルム(ka2383)の可愛らしい顔に不敵な笑みが浮かぶ。
マテリアルで灰銀色に染まった髪が向かい風に吹かれて優雅に舞った。
「来た」
声と仕草があざと可愛らしいものに切り替わる。
斜め後方からカメラと視線が向けられた気配をはっきりと感じる。
前方からは複数のレーザーを束ねた極太負マテリアルレーザーが飛んでくる。
「先手必勝! ぶち抜け、ガン……ブレイズ!」
日曜朝に主役を張れる可憐な声だが威力は極悪だ。
炎を細い直線上に束ねレーザーと平行に照射。
負属性のレーザーと入れ替わりに中型狂気に着弾。そこで止まらず貫通して斜め後方にいたもう1体の脇を焼き溶かす。
「まずっ」
ガンブレイズとレーザーはぶつからなかったため、巨大巻き貝2つ分のレーザーがソフィアを……正確には彼女を乗せるイェジドを襲う。
「ズィル!」
見切りも跳躍速度も素晴らしかった。
ただ、極太長距離レーザーという範囲攻撃全てを躱すのは困難だ。
ジィルの灰銀の体毛が一部黒く焦げ、神経を逆撫でする臭気が鼻を刺激した。
「俺達を舐めやがったな」
燃える焔のたてがみを持つ幻獣と、洒落た帽子のハンターが獰猛な笑みを浮かべる。
踏み込む。
集束が甘くその分射程が短く躱しづらいレーザーが出迎えるが幻獣を覆うバリアを打ち抜けない。
重い音が響く。
体格が良いとはいえイェジドは中型狂気より一回り以上小さい。
しかし適切な速度とタイミングによる体当たりは、巨大鉄巻き貝のバランスを大きく崩してたたらを踏ませることに成功する。
火属性の矢が連続で突き刺さる。
中型狂気が反撃しようとしても極太レーザーでも届かない。
ならばもう一度ソフィアを狙おうとしても、移動を封じられ至近距離を岩井崎 旭(ka0234)主従に跳びまわられてはまともに狙いをつけることもできない。
「頑丈ね。でもこの程度ならっ」
ソフィアは目の前の地面に攻性のマテリアルを叩き込み、ごく僅かな時間差で扇状の土地から炎を噴出させる。
レーザー砲撃のため触れあうような距離にいた中型狂気2体が、まとて炎を浴びて貝の表面を溶かされた。
重い音が再度響く。
もう1体の巻き貝が、尖った部分を地面に突っ込まされ身動きがとれなくなる。
対物ライフルじみた矢が10秒に2つの頻度で深い穴を穿つ。
標的が移動しない分狙い易くなった巻き貝2つをガンブレイズが貫く。
「歓迎式典するってのが、台無しじゃねーか! 護衛しに来た甲斐があるってもんだけど、な」
重すぎて人類が武器として扱えるはずのない鉄塊が、まるで木切れであるかのように高速で振るわれる。
もちろん質量は見た目の通り。
穴が開き表面が溶けた巻き貝に烈風の如き二連撃が2つの陥没をつくる。
衝撃で中の眼球が弾け、破片混じりの体液が零れた。
●救援
ハンターが圧倒しているとはいえ、中型狂気は非常に強い。
小型狂気でも数さえ揃えばCAM1個小隊では対抗出来ないほどだ。
「リーダー! 退却するなら早めに決めろ」
デュミナスがレーザーを避け、眼球と虫とクラゲを混ぜて悪意で歪めたようなVOIDをガトリングガンで粉砕する。
しかし命中率と回避率が9割越えが基本のハンターと比べると目を覆いたくなるほど成功率が低い。
今もまた1機が片足を焼き切られて真横へ倒れた。
「北から騎兵が1接近中」
「何?」
「騎兵だ。騎兵、だよな?」
混乱するCAM第二中隊の横をユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)とイェジドが駆け抜ける。
小型狂気よりは大きく重装甲デュミナスと比べると子供のように小さいイェジドが、己を誇示するように吼えた。
第二小隊の南を埋め尽くすように小型狂気の拡大が止まる。
声に威圧されもとより鈍い動きをさらに鈍らせる。
「これ以上踏み込めば、その先は死だけよ。貴方達は一度退いて態勢を立て直しなさい」
深紅の装束がひるがえり、蒼白に輝く刃が振るわれる度に3から4のVOIDが命を絶たれて地面に転がる。
「エルフ?」
パイロットが呆然とつぶやく。
20代前半だろうか。白銀の髪は腰を超えて足まで伸び、首から頬にかけて底光りする雷の如き紋様で覆われている。
「少しでも時間を稼いであげる」
擱座したデュミナスに迫ったVOIDが無色の衝撃波に切り刻まれる。
そんなファンタジーな現象を発生させたエルフは、現地の言葉が通じなかったのかなと瞬いていた。
「それに、死の先へ踏み込むのは私一人で十分よ……」
レーザーの豪雨がユーリひとりを狙う。
蒼白い毛並みのイェジドは自己判断で危なげ無く躱しながら、私もいるぞと言いたげな雰囲気だ。
ユーリは口には出さずに口元だけで柔らかな笑みを浮かべる。
それだけで察したオリーヴェが、さらに数を増した小型狂気群に足を踏み入れる。
蒼姫刀「魂奏竜胆」で刺突が繰り出される。
凶悪な威力とそれを使いこなす技術が組み合わされることで、決して薄くない装甲が綺麗に切断され核でもある目玉が衝撃で潰れる。
南の熱帯雨林から、津波を思わせる数の小型狂気が増援として現れた。
「急ぎなさい。護りながら戦えるほど強くはないでしょう?」
ユーリは平然としている。
恐怖に心が麻痺しているわけでも諦めたわけでも無い。
増援がこの程度の質と数であることに拍子抜けしているだけだ。
擱座機が両側から支えられ北へ移動する。
膨大な数の小型VOIDは、立っていて木に鍛えられているとはいえ非覚醒者でしか無い軍人よりもユーリに惹きつけられる。
そして、近づいた数だけ討ち果たされる。
「私達の力は計算外ということ? まるで意図して狙った様に沸いてきてるのは事実。やはり……内部に何かしら潜んでいる可能性は有りそうかしら?」
一瞬だけ、間強化人間のことを考えた。
●説得
リアルブルーの基準では強化人間は超人だ。
非覚醒者では使いこなせない機種にも乗れるし、生身でVOIDと戦うことすらできる。
つまり、一度暴走すると止める手段が限られるということだ。
「まずいと分かっているようね。やり方を分かっていないのは若いから?」
上空を飛ぶグリフォンの上で、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が双眼鏡を覗き込んでいる。
普段でも遠くがはっきり見えるエラが道具まで使うと、抵抗するデュミナスもその近くの地面も至近距離でいるかのようによく見える。
「機体外見に異常は発見できず。CAMと人間以外の移動の痕跡も……」
調査範囲を広げる。
南の熱帯雨林だけではなく、遠くの東にある熱帯雨林にも、北と西にある軍施設にも意識を向ける。
基地の士気は高いようで清掃も十分されていて何も痕跡が無い。
熱帯雨林は汚染されているとはいえまだ生き残りはいるようで、小さな跡はいくつかある。
「今回の事件には関係ない、か」
特別強い歪虚の気配は感じない。
隠密に長けた高位の歪虚が近くにいるなら可能性はあるが、普通に考えると可能性は0に近い。
敵意を向けてくる暴れるデュミナスかその操縦者に原因がある確率は、5割を超えている印象だ。
地球連合にとってもリアルブルーにとっても友軍であるハンターに向ける感情としては不自然過ぎる。
「第2小隊、VOIDから精神的な影響を受けている気配は?」
皆にいるCAM4機に問い合わせる。
「ない! 何かあったんだな? 第2小隊全員、帰還後に精密検査を受ける。以上だ」
最悪の期間の生き残りだけあって、察しもいいし決断が早い。
なのでエラは、強化人間部隊の護衛と見守りに専念することにした。
「CAMごと狂気感染してる可能性があるの、ならCAMの両手両足をぶっ壊して中から操縦者さんを引き摺りだして、CAMのAIと操縦者さん両方を浄化して正気に戻すの!」
ドリル2本とショートソードしか武装を積んでいないように見えるR7エクスシアが、4機のエクシアに呼びかけている。
「ンなことしたらジョニーが死んぢまうっ」
「こんな日にこんな場所で仲間が歪虚に飲まれるのを見てるつもりなの!?」
「こいつあの聖職者並に話が通じねぇっ」
大変遺憾な言いがかりである。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は対歪虚の専門家であるハンターとして誠実に対応しているだけなのだ。
CAM用ショートソードの刃をマテリアルの光が覆う。
問題の機を取り押さえようとしていた1体がディーナ機の前に立ち塞がるが、中の強化人間は冷や汗まみれで呼吸も不規則だ。
強化人間と覚醒者の違いではなく、生物としての圧倒的な格の差が強化人間の心身を圧迫している。
「私は操縦士じゃないの狙って殴っても外すかもなの! 貴方達の方が技量が上かもしれないけれど」
全力で戦えば抗戦ならできる。
だが生身のディーナ込みなら絶対に勝てないことを、強化人間の本能が気付いていた。
R7がするりと脇を抜け、甘い拘束しか出来ない2機を押しのける。
「仲間を叩きのめせないならせめて押さえつけるのを手伝うの、それも無理なら離れて逃走経路を塞いで見ているの!」
ディーナの最上位に近い格の覚醒者だ。
本人の平和志向とは関係無く暴力の専門家であり、要するにどの程度なら死なないか感覚的に分かる。
「女は度胸!」
イコニアへの殺意で思考すら薄れていたはずのジョニーが、ディーナに怯えて泣きわめく。
ジョニー機の外部スピーカーを遠隔操作で切る程度の配慮は、基地司令部にもあった。
「右手! 左手! 足は左右同時!」
怯えきり回避も受けもできないジョニーの……ジョニー機の手足を切断して仰向けに地面に転ばせる。
よいしょと腹に腰を下ろして押さえ込んで機体から降り、司令部から預かったキーで直接コクピットを強制解放する。
13~4歳にしか見えない少年が、恐怖一色の目で見上げていた。
「ピュリフィケーションからの」
四半世紀前なら聖堂教会から聖女認定されたかもしれない浄化術を炸裂させ、微かに漂う負マテリアルまで消し飛ばす。残ったのは呆然とした強化人間だけだ。
「頸動脈!」
そっと指で押さえるだけで血の流れを止める。
逆上した少年の指がディーナに当たらず自らの喉元へ向かい、ディーナに施術された法術により跳ね返され本人も気絶する。
「うむ、なのっ」
損失CAM1機、死傷者0。
会心の制圧および救出劇であった。
●拡大する混乱
「あの娘はどこに行った」
「司令部より優先だ。なんとしても助けろ!」
基地司令以下が混乱している。
式典での友軍誤射は、基地司令の首では足りないかもしれない重大事件だ。
地球統一連合議会議長の1つか2つ下の首が必要になるかもしれない。
「CAM乗り以外は逃げろ。室内には入るなよ、崩れたらどうしようもないぞ」
魔導拡声機を使った大音量が叩き付けられる。
声の主である仙堂 紫苑(ka5953)は、耳を押さえる軍人達を横目で見ながら通信機を操作する。
「お前らの仲間なら何とかしろ! 違う、殺さず取り押さえるくらいしてみせろ」
「できるならしている。気に食わんガキでも見捨てるほど落ちちゃいねぇ」
怒鳴り返してくる小隊長は自分自身の無力に怒っている。
第3小隊が気に食わない子供の集団であることと、見守り導く対象であることは両立する。
「ならできることをしろ」
幸いなことにディーナの制圧作業は順調だ。
紫苑はわざと鼻を鳴らし挑発することで、ループに陥りかけていた第1小隊長の意識を誘導する。
「言われなくても」
活動を再開する。後方からの襲撃を警戒したり、VOIDとの直接戦闘に向いていない軍人を守ったりとやるべき事は山ほどある。
「できてるじゃないか」
機敏に動く第1小隊4機を見つめ、紫苑の口元に爽やかな笑みが浮かんだ。
「司令! 見つけました、あの車です」
「何だあれはぁっ!?」
かなりのエリートのはずの軍人が我を忘れて絶叫する。
黙っていれば清楚な金髪司祭が、ロープでぐるぐる巻きにされて唸っていた。
「んんーっ!(なんでこんなことを)」
鋼色の無骨な魔導トラック、スチールブル。
その運転席にちょこんと座っているのは10代になったばかりに見えるエルフだ。
「んんーっ(信じていたのに)」
涙で滲んだ緑の瞳が、バックミラー越しにエルバッハ・リオン(ka2434)の良心を刺激する。
だがエルバッハは騙されない。
「解放したらまた歪虚……VOIDに突っ込みますよね?」
右手でハンドルを操作しながら左手でゲーム機風スティックを弄る。
車載の重機関銃が大量の弾を吐き出し、10秒あたり12メートルほどの速度で突っ込んでくる小型狂気を1つずつ破壊する。
「んんー(しませんよ)」
縛られた状態で、心底反省した態度を表現できるのは実に見事。
「視線が泳いでいますよ」
だが付き合いの長いエルバッハには全く通じない。
この司祭は、歪虚を直接殺りたいから己の適性を無視して前線を望む問題児なのだ。
司祭が肩を落とす。
そのタイミングで、集中により強度を上げた眠りの雲を荷台に出現させた。
「んんっ(まけませんっ)」
活きの良い魚が抵抗するようにじったんばったんする。
完全に抵抗されたことに気付いて、エルバッハはとりあえずイコニアを放置することした。
「荷台からフルリカバリーや浄化術で味方の支援を。できますよね?」
距離を詰めてきた小型狂気を加速で突き放し、1匹1匹確実に止めを刺す。
当然のように、イコニアの出番は一切無い。
「んー(もうちょっとで)」
頑丈なはずのロープから異音が発生。
高位覚醒者としての腕力で引きちぎるつもりらしい。
エルバッハは気付いているが特に反応はしない。
前衛のハンターだけでは抑えきれなかった小型狂気群をじっと見て、静かに詠唱を開始した。
ぶちりとロープが引きちぎられる。
カメラ越しに見ていた基地司令部とお茶の間の視聴者が呆然として、イコニアが鼻歌交じりに荷台から身を起こした。
「来たれ」
基地の計測機器が異常を感知する。
上空に唐突に熱が生じ、大量の火球と化して降り注ぐ。
着弾予想位置は6箇所。
熟練の砲兵なら必ず選ぶだろう箇所に完璧なタイミングで着弾。
発生した爆風が膨大な数の小型狂気を消滅させる。
「わたしの、でばん」
イコニアが荷台でへたり込む。
クレーターが耕した地面に、歪虚は一匹も残っていなかった。
●大型狂気
「これで終わりだ」
重く固く鋭い鉄塊が連続で巻き貝を砕く。
砕けた破片が内側へまき散らされ肉を裂いて眼球を半壊させる。
「っと」
イェジドが飛び退いた直後、大量の体液が降り注ぎ地面に染みこむ前に本体ごと薄れて消えた。
「後1……0匹」
旭は軽く息を吐いて魔斧を構え直す。
大量の矢が埋まった2体目中型も、ついに限界に達して消えていった。
北から歓声が聞こえる。
TV越しに、歓迎式典中継のチャンネルを見ていた人々も熱狂している。
しかし旭も他のハンターも、イコニアですら緊張感を保ったままだ。
最初の異変は森。
一部が強烈に揺れ、逃げようとした鳥や小動物が途中で力を失い落ちていく。
次に小型の狂気が現れる。
まるで何かから逃げ出しているようだ。
「なあ、間に合うと思うか?」
魔斧の刃がぴたりと止まる。
「全てを相手にするなら不可能」
降下してきたグリフォンの上で、エラが事実のみを口にする。
「中型以上を我々が倒せば基地生残の可能性は残ります。強化人間も居場所を守るために死に物狂いになるでしょう」
基地のCAMのうち健在なものは9機。
うち3機だけがハンター基準でまともな戦力として計算できる。
クリムゾンウェストへ覚醒者を引き戻す力が生じ始める。
十数分後にはユニットごと再転移されるはずだ。
丘が見えた。
木々をはじき飛ばしながら北上するそれは、巨大目玉と鉄クラゲを大量の捏ねて固めた巨大狂気だ。
「機体の慣らしの為に来たんだが……実戦演習までさせてくれるとは、武装を整えたかいがあったな。行くぞHUDO!」
不動明王を連想させる白銀の機体が、浮遊する分厚い盾に乗り地表10メートルを飛ぶ。
視界内だけで3桁後半のVOIDから噴き出す狂気が押し寄せるが、展開されたイニシャライズフィールドを貫けない。
「色々試させてもらおう」
白に近い炎が地面に降り注ぐ。
小型は次々の消滅し、中型狂気も装甲部分を溶かされ中身を剥き出しにする。
世界の敵を力ずくで止めさせる様は神話にも見える。
「第1小隊と第2小隊は指定の地点へ移動してください。念入りに浄化してあります」
エラが素早く情報と指示を送る。
実際に機導浄化術で念入りに浄化してあるので、エクスシアと比べると負マテリアルに弱いデュミナスもそこでなら多少は戦えるはずだ。
「さて」
後は戦うだけだ。
主の戦意を感じ、グリフォン山葵の顔が引き締まる。
「行きましょう」
鷲の翼が力強く空気とマテリアルと掴む。
湿気た風が強烈な竜巻に変わり、熱帯雨林から出た直後の小型VOIDを大量に捻りきる。
「キリがないですねこれ!」
ソフィアのリボルバーが文字通り火を吹く。
銃口から直線的に伸びる膨大なエネルギーは、巨大な光の剣のようだ。
小型は焼き溶かされ中型も拳以上に大きな穴を開けられ、生き残りの中型が逃げて戦力の空白地帯がうまれる。
そこへエルバッハのメテオが着弾。
空白地帯を爆発的に広げて敵の全力を前後に分断する。
基地のCAMが参戦して分断された少数を受け持ち、ハンターにかかる負担がその分減った。
「これが原因?」
極限まで効率化したデルタレイで3つずつVOIDを減らしながら、エラが軽く眉を寄せる。
迎撃のレーザーの数と威力は大きいが知性は感じない。
今も、ソフィアがばらまく雷の1つに当たり、面攻撃でも高速攻撃でも無い数だけの迎撃レーザーをソフィアに向けている。
「何かはもう逃げたのかもな。最初とは違って足遅いのと速いのでタイミングがばらばらだ」
数百の数がむしろ邪魔になり、100以下の力しか発揮できないまま一方的に数を減らされる。
「出し惜しみ無しだ」
HUDOが着地し木々が消えた地面を走る。
前後左右からレーザーが降り注ぐが分厚い盾と装甲で有効打にはほど遠い。そもそも3分の2以上が当たりすらしない。
リロードキャストを使い果たし残弾1となった電磁加速砲を媒介に、ファイアスローワーを使う。
溢れる熱が、巨体の前脚として機能していた鉄眼球を芯まで溶かした。
「そら」
魔斧が中型狂気を斬り飛ばす。
旭もウォルドーフも範囲攻撃を何度か浴びてはいるがまだまだいける。
ハンターに臆して逃げた同属から取り残された最後の中型へ、連撃を浴びせて粉砕した。
ソフィアは可愛らしくも凜々しい表情だ。
お茶の間のファンも凄まじい勢いで増えている。
「ここは通さないっ」
ソフィアの意識の半分は決めポーズとその維持に裂かれている。
残り半分でも高度な術を発動可能だから大丈夫、なはずだ。
3つの光球がソフィアの背後に出現。そこから溢れる膨大な光の線が複雑極まる陣を描いてVOIDへの道を作る。
「いっけー!」
この瞬間アクセスが殺到していくつかのサーバーがダウン。
光級3つが最後まで大型狂気を守っていたVOIDに大穴を開けた。
そこに自然発生ではあり得ない竜巻が直撃する。
戦闘では強みになるはずの巨体が弱点と化し、凶悪な竜巻により巨大なVOIDが端から削られていく。
撤退が始まる。
知性はなくても己の危機は分かるらしく、外見からは想像し辛い速さで元来た方向へ這い進む。
動くたびに、下部の眼球が潰れ零れた負マテリアルが地面に染みこんだ。
「第2小隊、止まりなさい。我々は後数分で異世界へ戻されます」
ハンターは皆追撃していない。
大型を仕留められなかった場合の基地が全滅するかもしれないからだ。
「そのまま警戒を続けてください。司令部、通信状態が改善したようですのでCAM部隊への指揮と我々への要請をお願いします」
第1と第2の8機を事実上指揮していたのを適当な言葉でごまかす。
「承知した。ハンターの皆さんにはイコニア女史の警護をお願いしたい」
基地司令は、積極的に誤魔化されてくれた。
●TV中継
「みなさんのお陰で助かりました」
スポットライトは数秒でイコニアからディーナに移動した。
映像として映える浄化術と年下の少年を救った姿は、報道対象として最高だった。
「これで良かったのですか?」
イコニアに怒った気配はない。
篝から貸してもらった外套を来たまま、不思議そうな顔でたずねてきた。
「ええ。ことを荒立てる気がないのは政府と民衆に伝わったはずよ」
混乱を抑える足しになる……どころではない。
篝の予測に基づきカメラ写りを考慮した言動を心がけていたので、外交レベルで失点を減らし得点を増やすことができていた。
「イコニアさん、エルバッハさんにお礼を言った方がいいんじゃないか?」
呆れと共感が絶妙の割合で混じった視線が紫苑から向けられる。
「エルバッハさんが正しいのは分かっているんです」
「うんうん、気持ちだけは分かるよ」
無意識に戦いを楽しむ戦闘狂の一面がある紫苑にとって、イコニアの考えも感情も容易に推測できる。
だから、やらかしたとき必要な行動も分かる。
「謝りに行ってきます」
「ジョニーって奴は無事か?」
「はい、医務室で手当を受けています。目覚めたときに暴れようとしたので薬で眠らせましたので聞き取りはまだです」
軍人の返事を聞いて、旭が静かにうなずいた。
「にしても、ジョニーって奴の暴走は何だったんだ?」
短時間の調査では、強化人間の機体からも周辺にもVOIDは発見できなかった。
「恐慌だったのか? ヴォイドのせいだってんなら、次がねーように備えねーとな。俺らも、連合軍も」
「ええ」
軍人は目に力を取り戻し、旭を真っ直ぐ見て力強く同意する。
雷獣を思わせるイェジドが目つきを鋭くした。
臭覚だけでは確信は持てないが、強化人間全員から歪虚由来の力を感じる。
「あまり時間は無いけど、やれる事は……かな?」
激闘を終えても、難題は山積みのようだった。
「妙な視線を感じるわね」
イコニアと同類と思われているのかしらと内心つぶきながら、八原 篝(ka3104)が大型の魔導機弓を構える。
カチリ、カチリと歯車が踊り、両の翼が生きているかのように開いていく。
巻き上げられ張り詰めたワイヤーのまわりに、マテリアルの燐光混じりの蒸気が漂った。
「はっきりと見てしまうと、ちょっと引くわね」
負傷も回復も見慣れた光景だが、イコニアほど派手なのはクリムゾンウェストでもあまりない。
「これ以上面倒を増やして欲しくなんだけどね」
ママチャリを止める。
火属性の矢を2本指に挟み、異様な速度で1本ずつ放つ。
100メートル以上距離がある、戦車じみたサイズの巨大巻き貝が揺れる。
鉄色の装甲に矢羽根の末端が2つ小さく生えていた。
「結構固いわね」
強襲型に酷似した中型狂気が進撃を継続する。
腹にため込んだ目玉レーザー発振機を使い、基地のCAMより脅威な篝を焼くつもりだ。
その速度は篝には劣るが十分速い。
篝がママチャリを巧みに操り退き撃ちをしても、この程度の速度差であれば確実に追いつかれてしまうだろう。
大きな狼型幻獣が篝を追い抜きママチャリを隠す。
「式典なんてつまらないと思ってましたが、こういうのは望んでないんですよねっ」
軍人に聞こえない場所で吐き捨て、ソフィア =リリィホルム(ka2383)の可愛らしい顔に不敵な笑みが浮かぶ。
マテリアルで灰銀色に染まった髪が向かい風に吹かれて優雅に舞った。
「来た」
声と仕草があざと可愛らしいものに切り替わる。
斜め後方からカメラと視線が向けられた気配をはっきりと感じる。
前方からは複数のレーザーを束ねた極太負マテリアルレーザーが飛んでくる。
「先手必勝! ぶち抜け、ガン……ブレイズ!」
日曜朝に主役を張れる可憐な声だが威力は極悪だ。
炎を細い直線上に束ねレーザーと平行に照射。
負属性のレーザーと入れ替わりに中型狂気に着弾。そこで止まらず貫通して斜め後方にいたもう1体の脇を焼き溶かす。
「まずっ」
ガンブレイズとレーザーはぶつからなかったため、巨大巻き貝2つ分のレーザーがソフィアを……正確には彼女を乗せるイェジドを襲う。
「ズィル!」
見切りも跳躍速度も素晴らしかった。
ただ、極太長距離レーザーという範囲攻撃全てを躱すのは困難だ。
ジィルの灰銀の体毛が一部黒く焦げ、神経を逆撫でする臭気が鼻を刺激した。
「俺達を舐めやがったな」
燃える焔のたてがみを持つ幻獣と、洒落た帽子のハンターが獰猛な笑みを浮かべる。
踏み込む。
集束が甘くその分射程が短く躱しづらいレーザーが出迎えるが幻獣を覆うバリアを打ち抜けない。
重い音が響く。
体格が良いとはいえイェジドは中型狂気より一回り以上小さい。
しかし適切な速度とタイミングによる体当たりは、巨大鉄巻き貝のバランスを大きく崩してたたらを踏ませることに成功する。
火属性の矢が連続で突き刺さる。
中型狂気が反撃しようとしても極太レーザーでも届かない。
ならばもう一度ソフィアを狙おうとしても、移動を封じられ至近距離を岩井崎 旭(ka0234)主従に跳びまわられてはまともに狙いをつけることもできない。
「頑丈ね。でもこの程度ならっ」
ソフィアは目の前の地面に攻性のマテリアルを叩き込み、ごく僅かな時間差で扇状の土地から炎を噴出させる。
レーザー砲撃のため触れあうような距離にいた中型狂気2体が、まとて炎を浴びて貝の表面を溶かされた。
重い音が再度響く。
もう1体の巻き貝が、尖った部分を地面に突っ込まされ身動きがとれなくなる。
対物ライフルじみた矢が10秒に2つの頻度で深い穴を穿つ。
標的が移動しない分狙い易くなった巻き貝2つをガンブレイズが貫く。
「歓迎式典するってのが、台無しじゃねーか! 護衛しに来た甲斐があるってもんだけど、な」
重すぎて人類が武器として扱えるはずのない鉄塊が、まるで木切れであるかのように高速で振るわれる。
もちろん質量は見た目の通り。
穴が開き表面が溶けた巻き貝に烈風の如き二連撃が2つの陥没をつくる。
衝撃で中の眼球が弾け、破片混じりの体液が零れた。
●救援
ハンターが圧倒しているとはいえ、中型狂気は非常に強い。
小型狂気でも数さえ揃えばCAM1個小隊では対抗出来ないほどだ。
「リーダー! 退却するなら早めに決めろ」
デュミナスがレーザーを避け、眼球と虫とクラゲを混ぜて悪意で歪めたようなVOIDをガトリングガンで粉砕する。
しかし命中率と回避率が9割越えが基本のハンターと比べると目を覆いたくなるほど成功率が低い。
今もまた1機が片足を焼き切られて真横へ倒れた。
「北から騎兵が1接近中」
「何?」
「騎兵だ。騎兵、だよな?」
混乱するCAM第二中隊の横をユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)とイェジドが駆け抜ける。
小型狂気よりは大きく重装甲デュミナスと比べると子供のように小さいイェジドが、己を誇示するように吼えた。
第二小隊の南を埋め尽くすように小型狂気の拡大が止まる。
声に威圧されもとより鈍い動きをさらに鈍らせる。
「これ以上踏み込めば、その先は死だけよ。貴方達は一度退いて態勢を立て直しなさい」
深紅の装束がひるがえり、蒼白に輝く刃が振るわれる度に3から4のVOIDが命を絶たれて地面に転がる。
「エルフ?」
パイロットが呆然とつぶやく。
20代前半だろうか。白銀の髪は腰を超えて足まで伸び、首から頬にかけて底光りする雷の如き紋様で覆われている。
「少しでも時間を稼いであげる」
擱座したデュミナスに迫ったVOIDが無色の衝撃波に切り刻まれる。
そんなファンタジーな現象を発生させたエルフは、現地の言葉が通じなかったのかなと瞬いていた。
「それに、死の先へ踏み込むのは私一人で十分よ……」
レーザーの豪雨がユーリひとりを狙う。
蒼白い毛並みのイェジドは自己判断で危なげ無く躱しながら、私もいるぞと言いたげな雰囲気だ。
ユーリは口には出さずに口元だけで柔らかな笑みを浮かべる。
それだけで察したオリーヴェが、さらに数を増した小型狂気群に足を踏み入れる。
蒼姫刀「魂奏竜胆」で刺突が繰り出される。
凶悪な威力とそれを使いこなす技術が組み合わされることで、決して薄くない装甲が綺麗に切断され核でもある目玉が衝撃で潰れる。
南の熱帯雨林から、津波を思わせる数の小型狂気が増援として現れた。
「急ぎなさい。護りながら戦えるほど強くはないでしょう?」
ユーリは平然としている。
恐怖に心が麻痺しているわけでも諦めたわけでも無い。
増援がこの程度の質と数であることに拍子抜けしているだけだ。
擱座機が両側から支えられ北へ移動する。
膨大な数の小型VOIDは、立っていて木に鍛えられているとはいえ非覚醒者でしか無い軍人よりもユーリに惹きつけられる。
そして、近づいた数だけ討ち果たされる。
「私達の力は計算外ということ? まるで意図して狙った様に沸いてきてるのは事実。やはり……内部に何かしら潜んでいる可能性は有りそうかしら?」
一瞬だけ、間強化人間のことを考えた。
●説得
リアルブルーの基準では強化人間は超人だ。
非覚醒者では使いこなせない機種にも乗れるし、生身でVOIDと戦うことすらできる。
つまり、一度暴走すると止める手段が限られるということだ。
「まずいと分かっているようね。やり方を分かっていないのは若いから?」
上空を飛ぶグリフォンの上で、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が双眼鏡を覗き込んでいる。
普段でも遠くがはっきり見えるエラが道具まで使うと、抵抗するデュミナスもその近くの地面も至近距離でいるかのようによく見える。
「機体外見に異常は発見できず。CAMと人間以外の移動の痕跡も……」
調査範囲を広げる。
南の熱帯雨林だけではなく、遠くの東にある熱帯雨林にも、北と西にある軍施設にも意識を向ける。
基地の士気は高いようで清掃も十分されていて何も痕跡が無い。
熱帯雨林は汚染されているとはいえまだ生き残りはいるようで、小さな跡はいくつかある。
「今回の事件には関係ない、か」
特別強い歪虚の気配は感じない。
隠密に長けた高位の歪虚が近くにいるなら可能性はあるが、普通に考えると可能性は0に近い。
敵意を向けてくる暴れるデュミナスかその操縦者に原因がある確率は、5割を超えている印象だ。
地球連合にとってもリアルブルーにとっても友軍であるハンターに向ける感情としては不自然過ぎる。
「第2小隊、VOIDから精神的な影響を受けている気配は?」
皆にいるCAM4機に問い合わせる。
「ない! 何かあったんだな? 第2小隊全員、帰還後に精密検査を受ける。以上だ」
最悪の期間の生き残りだけあって、察しもいいし決断が早い。
なのでエラは、強化人間部隊の護衛と見守りに専念することにした。
「CAMごと狂気感染してる可能性があるの、ならCAMの両手両足をぶっ壊して中から操縦者さんを引き摺りだして、CAMのAIと操縦者さん両方を浄化して正気に戻すの!」
ドリル2本とショートソードしか武装を積んでいないように見えるR7エクスシアが、4機のエクシアに呼びかけている。
「ンなことしたらジョニーが死んぢまうっ」
「こんな日にこんな場所で仲間が歪虚に飲まれるのを見てるつもりなの!?」
「こいつあの聖職者並に話が通じねぇっ」
大変遺憾な言いがかりである。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は対歪虚の専門家であるハンターとして誠実に対応しているだけなのだ。
CAM用ショートソードの刃をマテリアルの光が覆う。
問題の機を取り押さえようとしていた1体がディーナ機の前に立ち塞がるが、中の強化人間は冷や汗まみれで呼吸も不規則だ。
強化人間と覚醒者の違いではなく、生物としての圧倒的な格の差が強化人間の心身を圧迫している。
「私は操縦士じゃないの狙って殴っても外すかもなの! 貴方達の方が技量が上かもしれないけれど」
全力で戦えば抗戦ならできる。
だが生身のディーナ込みなら絶対に勝てないことを、強化人間の本能が気付いていた。
R7がするりと脇を抜け、甘い拘束しか出来ない2機を押しのける。
「仲間を叩きのめせないならせめて押さえつけるのを手伝うの、それも無理なら離れて逃走経路を塞いで見ているの!」
ディーナの最上位に近い格の覚醒者だ。
本人の平和志向とは関係無く暴力の専門家であり、要するにどの程度なら死なないか感覚的に分かる。
「女は度胸!」
イコニアへの殺意で思考すら薄れていたはずのジョニーが、ディーナに怯えて泣きわめく。
ジョニー機の外部スピーカーを遠隔操作で切る程度の配慮は、基地司令部にもあった。
「右手! 左手! 足は左右同時!」
怯えきり回避も受けもできないジョニーの……ジョニー機の手足を切断して仰向けに地面に転ばせる。
よいしょと腹に腰を下ろして押さえ込んで機体から降り、司令部から預かったキーで直接コクピットを強制解放する。
13~4歳にしか見えない少年が、恐怖一色の目で見上げていた。
「ピュリフィケーションからの」
四半世紀前なら聖堂教会から聖女認定されたかもしれない浄化術を炸裂させ、微かに漂う負マテリアルまで消し飛ばす。残ったのは呆然とした強化人間だけだ。
「頸動脈!」
そっと指で押さえるだけで血の流れを止める。
逆上した少年の指がディーナに当たらず自らの喉元へ向かい、ディーナに施術された法術により跳ね返され本人も気絶する。
「うむ、なのっ」
損失CAM1機、死傷者0。
会心の制圧および救出劇であった。
●拡大する混乱
「あの娘はどこに行った」
「司令部より優先だ。なんとしても助けろ!」
基地司令以下が混乱している。
式典での友軍誤射は、基地司令の首では足りないかもしれない重大事件だ。
地球統一連合議会議長の1つか2つ下の首が必要になるかもしれない。
「CAM乗り以外は逃げろ。室内には入るなよ、崩れたらどうしようもないぞ」
魔導拡声機を使った大音量が叩き付けられる。
声の主である仙堂 紫苑(ka5953)は、耳を押さえる軍人達を横目で見ながら通信機を操作する。
「お前らの仲間なら何とかしろ! 違う、殺さず取り押さえるくらいしてみせろ」
「できるならしている。気に食わんガキでも見捨てるほど落ちちゃいねぇ」
怒鳴り返してくる小隊長は自分自身の無力に怒っている。
第3小隊が気に食わない子供の集団であることと、見守り導く対象であることは両立する。
「ならできることをしろ」
幸いなことにディーナの制圧作業は順調だ。
紫苑はわざと鼻を鳴らし挑発することで、ループに陥りかけていた第1小隊長の意識を誘導する。
「言われなくても」
活動を再開する。後方からの襲撃を警戒したり、VOIDとの直接戦闘に向いていない軍人を守ったりとやるべき事は山ほどある。
「できてるじゃないか」
機敏に動く第1小隊4機を見つめ、紫苑の口元に爽やかな笑みが浮かんだ。
「司令! 見つけました、あの車です」
「何だあれはぁっ!?」
かなりのエリートのはずの軍人が我を忘れて絶叫する。
黙っていれば清楚な金髪司祭が、ロープでぐるぐる巻きにされて唸っていた。
「んんーっ!(なんでこんなことを)」
鋼色の無骨な魔導トラック、スチールブル。
その運転席にちょこんと座っているのは10代になったばかりに見えるエルフだ。
「んんーっ(信じていたのに)」
涙で滲んだ緑の瞳が、バックミラー越しにエルバッハ・リオン(ka2434)の良心を刺激する。
だがエルバッハは騙されない。
「解放したらまた歪虚……VOIDに突っ込みますよね?」
右手でハンドルを操作しながら左手でゲーム機風スティックを弄る。
車載の重機関銃が大量の弾を吐き出し、10秒あたり12メートルほどの速度で突っ込んでくる小型狂気を1つずつ破壊する。
「んんー(しませんよ)」
縛られた状態で、心底反省した態度を表現できるのは実に見事。
「視線が泳いでいますよ」
だが付き合いの長いエルバッハには全く通じない。
この司祭は、歪虚を直接殺りたいから己の適性を無視して前線を望む問題児なのだ。
司祭が肩を落とす。
そのタイミングで、集中により強度を上げた眠りの雲を荷台に出現させた。
「んんっ(まけませんっ)」
活きの良い魚が抵抗するようにじったんばったんする。
完全に抵抗されたことに気付いて、エルバッハはとりあえずイコニアを放置することした。
「荷台からフルリカバリーや浄化術で味方の支援を。できますよね?」
距離を詰めてきた小型狂気を加速で突き放し、1匹1匹確実に止めを刺す。
当然のように、イコニアの出番は一切無い。
「んー(もうちょっとで)」
頑丈なはずのロープから異音が発生。
高位覚醒者としての腕力で引きちぎるつもりらしい。
エルバッハは気付いているが特に反応はしない。
前衛のハンターだけでは抑えきれなかった小型狂気群をじっと見て、静かに詠唱を開始した。
ぶちりとロープが引きちぎられる。
カメラ越しに見ていた基地司令部とお茶の間の視聴者が呆然として、イコニアが鼻歌交じりに荷台から身を起こした。
「来たれ」
基地の計測機器が異常を感知する。
上空に唐突に熱が生じ、大量の火球と化して降り注ぐ。
着弾予想位置は6箇所。
熟練の砲兵なら必ず選ぶだろう箇所に完璧なタイミングで着弾。
発生した爆風が膨大な数の小型狂気を消滅させる。
「わたしの、でばん」
イコニアが荷台でへたり込む。
クレーターが耕した地面に、歪虚は一匹も残っていなかった。
●大型狂気
「これで終わりだ」
重く固く鋭い鉄塊が連続で巻き貝を砕く。
砕けた破片が内側へまき散らされ肉を裂いて眼球を半壊させる。
「っと」
イェジドが飛び退いた直後、大量の体液が降り注ぎ地面に染みこむ前に本体ごと薄れて消えた。
「後1……0匹」
旭は軽く息を吐いて魔斧を構え直す。
大量の矢が埋まった2体目中型も、ついに限界に達して消えていった。
北から歓声が聞こえる。
TV越しに、歓迎式典中継のチャンネルを見ていた人々も熱狂している。
しかし旭も他のハンターも、イコニアですら緊張感を保ったままだ。
最初の異変は森。
一部が強烈に揺れ、逃げようとした鳥や小動物が途中で力を失い落ちていく。
次に小型の狂気が現れる。
まるで何かから逃げ出しているようだ。
「なあ、間に合うと思うか?」
魔斧の刃がぴたりと止まる。
「全てを相手にするなら不可能」
降下してきたグリフォンの上で、エラが事実のみを口にする。
「中型以上を我々が倒せば基地生残の可能性は残ります。強化人間も居場所を守るために死に物狂いになるでしょう」
基地のCAMのうち健在なものは9機。
うち3機だけがハンター基準でまともな戦力として計算できる。
クリムゾンウェストへ覚醒者を引き戻す力が生じ始める。
十数分後にはユニットごと再転移されるはずだ。
丘が見えた。
木々をはじき飛ばしながら北上するそれは、巨大目玉と鉄クラゲを大量の捏ねて固めた巨大狂気だ。
「機体の慣らしの為に来たんだが……実戦演習までさせてくれるとは、武装を整えたかいがあったな。行くぞHUDO!」
不動明王を連想させる白銀の機体が、浮遊する分厚い盾に乗り地表10メートルを飛ぶ。
視界内だけで3桁後半のVOIDから噴き出す狂気が押し寄せるが、展開されたイニシャライズフィールドを貫けない。
「色々試させてもらおう」
白に近い炎が地面に降り注ぐ。
小型は次々の消滅し、中型狂気も装甲部分を溶かされ中身を剥き出しにする。
世界の敵を力ずくで止めさせる様は神話にも見える。
「第1小隊と第2小隊は指定の地点へ移動してください。念入りに浄化してあります」
エラが素早く情報と指示を送る。
実際に機導浄化術で念入りに浄化してあるので、エクスシアと比べると負マテリアルに弱いデュミナスもそこでなら多少は戦えるはずだ。
「さて」
後は戦うだけだ。
主の戦意を感じ、グリフォン山葵の顔が引き締まる。
「行きましょう」
鷲の翼が力強く空気とマテリアルと掴む。
湿気た風が強烈な竜巻に変わり、熱帯雨林から出た直後の小型VOIDを大量に捻りきる。
「キリがないですねこれ!」
ソフィアのリボルバーが文字通り火を吹く。
銃口から直線的に伸びる膨大なエネルギーは、巨大な光の剣のようだ。
小型は焼き溶かされ中型も拳以上に大きな穴を開けられ、生き残りの中型が逃げて戦力の空白地帯がうまれる。
そこへエルバッハのメテオが着弾。
空白地帯を爆発的に広げて敵の全力を前後に分断する。
基地のCAMが参戦して分断された少数を受け持ち、ハンターにかかる負担がその分減った。
「これが原因?」
極限まで効率化したデルタレイで3つずつVOIDを減らしながら、エラが軽く眉を寄せる。
迎撃のレーザーの数と威力は大きいが知性は感じない。
今も、ソフィアがばらまく雷の1つに当たり、面攻撃でも高速攻撃でも無い数だけの迎撃レーザーをソフィアに向けている。
「何かはもう逃げたのかもな。最初とは違って足遅いのと速いのでタイミングがばらばらだ」
数百の数がむしろ邪魔になり、100以下の力しか発揮できないまま一方的に数を減らされる。
「出し惜しみ無しだ」
HUDOが着地し木々が消えた地面を走る。
前後左右からレーザーが降り注ぐが分厚い盾と装甲で有効打にはほど遠い。そもそも3分の2以上が当たりすらしない。
リロードキャストを使い果たし残弾1となった電磁加速砲を媒介に、ファイアスローワーを使う。
溢れる熱が、巨体の前脚として機能していた鉄眼球を芯まで溶かした。
「そら」
魔斧が中型狂気を斬り飛ばす。
旭もウォルドーフも範囲攻撃を何度か浴びてはいるがまだまだいける。
ハンターに臆して逃げた同属から取り残された最後の中型へ、連撃を浴びせて粉砕した。
ソフィアは可愛らしくも凜々しい表情だ。
お茶の間のファンも凄まじい勢いで増えている。
「ここは通さないっ」
ソフィアの意識の半分は決めポーズとその維持に裂かれている。
残り半分でも高度な術を発動可能だから大丈夫、なはずだ。
3つの光球がソフィアの背後に出現。そこから溢れる膨大な光の線が複雑極まる陣を描いてVOIDへの道を作る。
「いっけー!」
この瞬間アクセスが殺到していくつかのサーバーがダウン。
光級3つが最後まで大型狂気を守っていたVOIDに大穴を開けた。
そこに自然発生ではあり得ない竜巻が直撃する。
戦闘では強みになるはずの巨体が弱点と化し、凶悪な竜巻により巨大なVOIDが端から削られていく。
撤退が始まる。
知性はなくても己の危機は分かるらしく、外見からは想像し辛い速さで元来た方向へ這い進む。
動くたびに、下部の眼球が潰れ零れた負マテリアルが地面に染みこんだ。
「第2小隊、止まりなさい。我々は後数分で異世界へ戻されます」
ハンターは皆追撃していない。
大型を仕留められなかった場合の基地が全滅するかもしれないからだ。
「そのまま警戒を続けてください。司令部、通信状態が改善したようですのでCAM部隊への指揮と我々への要請をお願いします」
第1と第2の8機を事実上指揮していたのを適当な言葉でごまかす。
「承知した。ハンターの皆さんにはイコニア女史の警護をお願いしたい」
基地司令は、積極的に誤魔化されてくれた。
●TV中継
「みなさんのお陰で助かりました」
スポットライトは数秒でイコニアからディーナに移動した。
映像として映える浄化術と年下の少年を救った姿は、報道対象として最高だった。
「これで良かったのですか?」
イコニアに怒った気配はない。
篝から貸してもらった外套を来たまま、不思議そうな顔でたずねてきた。
「ええ。ことを荒立てる気がないのは政府と民衆に伝わったはずよ」
混乱を抑える足しになる……どころではない。
篝の予測に基づきカメラ写りを考慮した言動を心がけていたので、外交レベルで失点を減らし得点を増やすことができていた。
「イコニアさん、エルバッハさんにお礼を言った方がいいんじゃないか?」
呆れと共感が絶妙の割合で混じった視線が紫苑から向けられる。
「エルバッハさんが正しいのは分かっているんです」
「うんうん、気持ちだけは分かるよ」
無意識に戦いを楽しむ戦闘狂の一面がある紫苑にとって、イコニアの考えも感情も容易に推測できる。
だから、やらかしたとき必要な行動も分かる。
「謝りに行ってきます」
「ジョニーって奴は無事か?」
「はい、医務室で手当を受けています。目覚めたときに暴れようとしたので薬で眠らせましたので聞き取りはまだです」
軍人の返事を聞いて、旭が静かにうなずいた。
「にしても、ジョニーって奴の暴走は何だったんだ?」
短時間の調査では、強化人間の機体からも周辺にもVOIDは発見できなかった。
「恐慌だったのか? ヴォイドのせいだってんなら、次がねーように備えねーとな。俺らも、連合軍も」
「ええ」
軍人は目に力を取り戻し、旭を真っ直ぐ見て力強く同意する。
雷獣を思わせるイェジドが目つきを鋭くした。
臭覚だけでは確信は持てないが、強化人間全員から歪虚由来の力を感じる。
「あまり時間は無いけど、やれる事は……かな?」
激闘を終えても、難題は山積みのようだった。
依頼結果
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/06/25 20:48:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/23 22:10:27 |