ゲスト
(ka0000)
森の奥、淵の調査
マスター:竜桐水仙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/27 07:30
- 完成日
- 2018/07/05 08:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●山中
森の中、澄んだ小川を辿って、男が進む。
背丈ほどもある草木をかき分けながら、川上に向けて歩いていた。
彼は山師で、木を切り倒してそれを卸すことを生業にしていた。
しかし最近は、その仕事に身が入らないでいる。
がさり
どこかで下生えが鳴る。
男はビクリと立ち止まり、怯えた表情であたりを見回した。
森の中で音がすることそのものは、さほど珍しいことではない。
なにせ、猪が闊歩していることもある山奥である。リスなどの小動物が駆け回っていることもあるし、風が地表を撫でていくこともありえる。
それでも、木こりがその音を無視できないでいる理由は、この先にある淵が原因だった。
「怖いなぁ」
そう言って足を止めた男の目の前に広がっているのは、不気味な雰囲気の淵。
ぬるぬるとよどみ、青黒く染まった水面が、嫌な雰囲気を醸し出している。
淵の真ん中には、骸骨じみた岩が顔を出していて、じっとこちらを見詰めているように感じられた。
空気もよどんでいるようで、湿気の強い風が頬をこする。
この淵を見つけたのは単なる偶然だった。
山の裏側に回り込んだ折、都合良く綺麗な沢を見つけ、そのそばで昼休みにしたのがそもそもの発端だ。
メシを平らげ、手持ち無沙汰を感じた彼が、沢に流れ込む小川を上って行ったとき、たまたま目の前に広がっていたのである。
この淵を見つけて以来、下生えの中から雑魔が顔を出してきそうな気がして、周囲を気にしないではいられなくなった。そうして、いてもたってもいられなくなった彼は、思い切ってハンターに調査を依頼することにしたのである。
●ハンターオフィス
依頼を持ってきたハンターに対し、眼鏡のクールな受付嬢は、事務的に受付を済ませていく。
「この依頼の達成目標は、案内人である山師の護衛と、淵周辺に雑魔が発生していないかの調査です。加えて、可能であればで構わないので、淵のよどみを解消してきてください。水の流れが悪いと、負のマテリアルが溜まりやすくなります。雑魔発生の危険を減らすために、可能な限り水の流れを確保してきていただきたいです」
書類を確認しながら、その他注意事項を読み上げていく。
「朝一番で出発し、午前中に淵周辺の調査を完了させ、午後にハンターオフィスへ戻ってくる予定となっています。昼食はお弁当を森に持って行くことになるでしょうか。森の状況を聞く限り、雑魔が発生するほどマテリアルは偏っていないと思いますが、念のため戦闘もできるよう、準備しておいてください」
顔を上げ、眼鏡を押し上げながら締めくくる。
「簡単な依頼ですが、万が一がないとも限りません。注意して臨んでください」
森の中、澄んだ小川を辿って、男が進む。
背丈ほどもある草木をかき分けながら、川上に向けて歩いていた。
彼は山師で、木を切り倒してそれを卸すことを生業にしていた。
しかし最近は、その仕事に身が入らないでいる。
がさり
どこかで下生えが鳴る。
男はビクリと立ち止まり、怯えた表情であたりを見回した。
森の中で音がすることそのものは、さほど珍しいことではない。
なにせ、猪が闊歩していることもある山奥である。リスなどの小動物が駆け回っていることもあるし、風が地表を撫でていくこともありえる。
それでも、木こりがその音を無視できないでいる理由は、この先にある淵が原因だった。
「怖いなぁ」
そう言って足を止めた男の目の前に広がっているのは、不気味な雰囲気の淵。
ぬるぬるとよどみ、青黒く染まった水面が、嫌な雰囲気を醸し出している。
淵の真ん中には、骸骨じみた岩が顔を出していて、じっとこちらを見詰めているように感じられた。
空気もよどんでいるようで、湿気の強い風が頬をこする。
この淵を見つけたのは単なる偶然だった。
山の裏側に回り込んだ折、都合良く綺麗な沢を見つけ、そのそばで昼休みにしたのがそもそもの発端だ。
メシを平らげ、手持ち無沙汰を感じた彼が、沢に流れ込む小川を上って行ったとき、たまたま目の前に広がっていたのである。
この淵を見つけて以来、下生えの中から雑魔が顔を出してきそうな気がして、周囲を気にしないではいられなくなった。そうして、いてもたってもいられなくなった彼は、思い切ってハンターに調査を依頼することにしたのである。
●ハンターオフィス
依頼を持ってきたハンターに対し、眼鏡のクールな受付嬢は、事務的に受付を済ませていく。
「この依頼の達成目標は、案内人である山師の護衛と、淵周辺に雑魔が発生していないかの調査です。加えて、可能であればで構わないので、淵のよどみを解消してきてください。水の流れが悪いと、負のマテリアルが溜まりやすくなります。雑魔発生の危険を減らすために、可能な限り水の流れを確保してきていただきたいです」
書類を確認しながら、その他注意事項を読み上げていく。
「朝一番で出発し、午前中に淵周辺の調査を完了させ、午後にハンターオフィスへ戻ってくる予定となっています。昼食はお弁当を森に持って行くことになるでしょうか。森の状況を聞く限り、雑魔が発生するほどマテリアルは偏っていないと思いますが、念のため戦闘もできるよう、準備しておいてください」
顔を上げ、眼鏡を押し上げながら締めくくる。
「簡単な依頼ですが、万が一がないとも限りません。注意して臨んでください」
リプレイ本文
●現場へ
朝一番にギルドに集合したレイア・アローネ(ka4082)、エメラルド・シルフィユ(ka4678)、神紅=アルザード(ka6134)の三人は、ちょうど今、依頼主である山師の案内に従って問題の淵へと山道を辿っている所だった。
ヨモギのような雑草が目線の高さまで生い茂っていたり、鉛筆くらいの太さしかない幹の木が生えていたりと、左手を流れる川以外はまったく見通しが利かない。
川がなければ、山師の背中を見失うだけで遭難してしまいそうな森だった。
実際辿っている川岸も、道と呼べるほどしっかりしたものはない。踏み倒された草が、言われればかろうじて分かる程度に細々と続いているのみ。
蒸し暑い気候も相まって、三人は眉をひそめて歩いているた
体力的には問題ないのだが、気分が滅入ってしまっているのだ。
山師が振り返り、三人を気遣う。
「もうすぐです。この丘をのぼりきれば、問題の淵ですから」
「うん……。ここまで草木が生い茂っていると、圧迫感を覚えるものなんだな」
「この視界いっぱいの植物で、蒸し暑さが増している気がするぞ。水浴びでもしたいものだが……」
「とにかく問題の淵まで頑張りましょう。そこから先は、やることが決まっているんだもの」
会話で時間を繋ぎながら、ひたすらに足を進めていく。
目的地に着いた頃には、全員の額を汗が伝っていた。
「問題の淵です」
山師が示した先に広がるのは、おどろおどろしい雰囲気の淵。
よどんで油のような何かが浮いている水面、緑色をした水。苔むした岩は、何かの骸骨を連想させる形をしている。水草も顔を覗かせていたりして、足を入れるのもためらわれる様子だった。
「さすがにここに入る気はしないな」
肩をすくめるエメラルド。
三人の様子を窺う山師の視線を受けて、神紅が一歩踏み出して二人に切り出す。
「それではまず、雑魔がいるかどうかを調べましょう」
「そうだな。前情報では雑魔は出ないだろうということだったが、警戒は怠らないようにしよう」
エメラルドが全員に向けてそう言った後、何かに気づいたように山師に視線を向ける。
「あなたは私と一緒に回ろうか。大丈夫、私は聖導士だから、守ることは得意だ」
山師は、生唾を飲み込んでから、重々しく頷いた。
それを見届けたレイアが、一つ頷いてから申し出る。
「それでは人数も少ないので、効率よく動いていこう。手分けして周囲を調べるのでいいかな」
「それなら私は、この川を越えたところから、淵の向こう岸までを見てくるよ」
「私はこの方を連れていることだし、すこし山の中へ足を踏み入れてみよう。レイアは淵のこちら側を調べるのでいいか?」
「了解した。それではそれぞれ調べ終えたら、またここに集まろう。それでいいかい?」
「わかった」
「わかったわ」
そういうことになった。
●調査
淵に沿って歩きながら、神紅は周囲の痕跡を確認していく。
淵と草木との境界、草木の向こう側、淵の内部。
どこも変わった様子はなく、植物がのびのびと成長しているのみ。
たまに草が倒れていることもあったが、あくまで野生動物の自然な痕跡であり、変に草が枯れているなど、雑魔の痕跡はどこにも見当たらない。
湿気が停滞して空気は悪いが、不快感を示すほどの異常もない。
そんなことを考えているうちに、淵を半周してしまった。
一度立ち止まって、周囲を眺め渡す。
正面に、レイアが草をかき分けながらこちらに向かってきているのを捉えた。
LEDライトを使って、証拠を掴もうと一生懸命に捜査している。
神紅は、視線を足下に戻し、調査を続けながらそちらに向けて移動を再開した。
間もなく二人は合流を果たす。
「レイアさん、様子はどう?」
「雑魔がいるような痕跡はなにも見つからないな。よどみの原因のひとつは見つけたが」
「なるほど、それでは一度戻りましょう。エメラルドさんもきっと戻っている頃よね」
「そうしよう」
二人は連れ立って、元の位置に戻っていった。
二人と別れた後。エメラルドは山師の案内に従って、淵から見て、山師のいつも活動している領域に近い森の中を見て回っていた。
緑、緑、緑と、代わり映えのしない景色。
その中に潜む生き物の痕跡を見せてもらっても、負のマテリアルなどは感じ取れない。
広い範囲をまんべんなく見て回って、歪虚の気配は微塵も感じられなかった。
元の位置に戻ってみると、他の二人はまだ帰ってきていない。
一足先に、淵にピュリフィケーションをかけることにした。
腰から星剣を引き抜き、胸の前に両手で構える。
顔の前にキラキラと輝く剣身を持ってきて、ピュリフィケーションが発動した。
心なしか空気が軽くなったような気がして、山師の顔色が明るくなる。
エメラルドが剣を腰に収めたところで、残りの二人が合流した。
「遅れてすまない」
「こちらは歪虚の痕跡はありませんでしたよ」
「私もだ。どうやらここには歪虚がいないようだな」
「本当ですか!」
三人の言葉に安堵し、近くの木の根元に腰掛ける山師。
三人はそれを見て微笑みながら、次の行動について話し合い始める。
「歪虚の心配がないとなれば、残るはよどみの問題を解決するだけだが……」
「それについて、私が原因の一つを見つけてきたんだ」
「先程も言っていましたね。それはなんなの?」
「ちょうど川上側、この淵に水が流れ込んでくるところが、水草やゴミでせき止められていたんだ」
「なるほど、それにより流れが悪くなり、水がよどんでしまったと」
エメラルドが淵の表面を見て、言葉を続ける。
「そもそもこの淵の形状も、流れにくくなっている原因ではありそうだがな」
流れ出る川の水に対して、逆向きに淵の水が対流しているのが、表面の油などから見て取れる。
「流れ込むところの水草を刈り取って、流れ出る川を広げてあげれば、よどみは解消できるかしら?」
「川上の所は、定期的なメンテナンスが必要だろうな。水草が生えてくれば、自然とそこにゴミが引っ掛かってしまうだろう」
セレナの言葉を受けて、エメラルドが山師を振り返る。
山師は大きく頷いた。
「自分が定期的に見て、流れを悪くしそうだったら刈り取っとくよ」
「それでは、水草を刈り取った後で川の拡張にかかるとしよう」
「了解!」
「了解よ」
その後、無事に水の流れが復活したことを確認して、四人は依頼達成と判断し、山を下りたのだった。
●昼食
山を下りきる前に、太陽が南中する。
途中で山師が足を止め、三人に向けてこう切り出した。
「お弁当を持っているひともいると思うんですが、お昼を食べるために、ちょっとだけ寄り道しませんか」
「いいわね! どこか景色のいいところでも知っているの?」
「こちらです。ついてきてください」
川下へ向けてどんどん進んでいく山師。
辿り着いたそこは……
「「「わぁぁぁぁ……!」」」
清涼な風が頬を撫で、目に優しい青色の水が溜まった、とても綺麗な沢。
沢と言うよりは小規模な湖といった方がイメージに近いかもしれない。
丈の低くなった下生えに、まばらになった木々。日が差し込んだだけで、先程の淵とは雰囲気が大違いである。
スタスタと足を進めていく山師は、大きな岩によじ登り、その上に座り込んだ。
三人もそれに倣って腰を下ろす。
山師は手に持っていたバスケットを中央に置き、覆っていたバンダナを取り去った。
その下から現れたのは、色とりどりのサンドイッチ。
BLTサンドやたまごサンド、ジャムサンドにピーナツバターと、様々な種類のサンドイッチが、バスケットの中に詰まっている。
「うちの家族が作ったんです。是非皆さんも食べてください」
「すまないな、ありがたくいただこう」
「うん、世話になる」
レイアとエメラルドの二人が、神紅に先だってバスケットに手を伸ばした。
その神紅は、目を輝かせて手を合わせた後、すぐに自分の荷物をごそごそやり始める。
「素敵なお弁当ですね! 私も人数分作ってきたので、ぜひ食べてくださいな」
そう言って、人数分の弁当箱を取り出す。
「はい、これは依頼主さんの分」
そのうちの一つを山師に渡す神紅。
山師は目を丸くして驚く。
「わぁ! ありがとうございます!」
「いえいえ」
神紅はにっこりと笑みを浮かべた。
そして次々に弁当を手渡していく。
「はい、これはレイアさんの分で、これはエメラルドさんの分です」
「おぉ、すまない! どうにも料理が苦手でな……。こういう所ではいつも世話になるよ」
「レイアさん、正直なのは素敵なことですが……」
「いや、本当に申し訳ない……。ウサギや猪を狩ってくるのであれば、いくらでもできるのだがな」
「そもそもこれだけ女性陣がそろっていて、お弁当を作ってきたのが私だけって、ちょっとマズいのではないかしら」
ジト目で周囲を見渡す神紅に、エメラルドが慌てて顔の前で手を振る。
「つ、作れないわけではないのだ! ただ自分用に作るのが面倒なだけで……」
「女子力がたりないのじゃない?」
(私もいつもは妹に作らせているのだけど……)
言い放った直後に視線を逸らせ、独白する。
周りは心の声に気付くわけもなく。
「じょ、女子力が足りない……か……」
「ぐふっ……」
二人とも盛大にダメージを食らって、頭を抱えている。
山師など、突然の展開についていけず、一人で小さくなってお弁当をつついている。
自身のことを棚に上げている手前、どうにも気が引けた神紅は話題転換を試みた。
「まぁ、いまはこの景色とお弁当を楽しみましょうよ。見てよあの湖、きれいよね」
「ふむ。何度見ても素晴らしい景色だな、ここは」
「ふぅ……。確かに、奥の木々が湖面に映っているのが神秘的だな」
若干困惑気味だったエメラルドがそれに乗っかったことで、話題がすり替わる。
レイアもなんとか精神を立て直し、話題を追従し始めた。
ひとしきり喋り通した四人(山師を含む)は、遅めだったが楽しい昼食を終え、ハンターオフィスに戻っていった。
こうして長かった一日は、その幕を下ろしたのである。
朝一番にギルドに集合したレイア・アローネ(ka4082)、エメラルド・シルフィユ(ka4678)、神紅=アルザード(ka6134)の三人は、ちょうど今、依頼主である山師の案内に従って問題の淵へと山道を辿っている所だった。
ヨモギのような雑草が目線の高さまで生い茂っていたり、鉛筆くらいの太さしかない幹の木が生えていたりと、左手を流れる川以外はまったく見通しが利かない。
川がなければ、山師の背中を見失うだけで遭難してしまいそうな森だった。
実際辿っている川岸も、道と呼べるほどしっかりしたものはない。踏み倒された草が、言われればかろうじて分かる程度に細々と続いているのみ。
蒸し暑い気候も相まって、三人は眉をひそめて歩いているた
体力的には問題ないのだが、気分が滅入ってしまっているのだ。
山師が振り返り、三人を気遣う。
「もうすぐです。この丘をのぼりきれば、問題の淵ですから」
「うん……。ここまで草木が生い茂っていると、圧迫感を覚えるものなんだな」
「この視界いっぱいの植物で、蒸し暑さが増している気がするぞ。水浴びでもしたいものだが……」
「とにかく問題の淵まで頑張りましょう。そこから先は、やることが決まっているんだもの」
会話で時間を繋ぎながら、ひたすらに足を進めていく。
目的地に着いた頃には、全員の額を汗が伝っていた。
「問題の淵です」
山師が示した先に広がるのは、おどろおどろしい雰囲気の淵。
よどんで油のような何かが浮いている水面、緑色をした水。苔むした岩は、何かの骸骨を連想させる形をしている。水草も顔を覗かせていたりして、足を入れるのもためらわれる様子だった。
「さすがにここに入る気はしないな」
肩をすくめるエメラルド。
三人の様子を窺う山師の視線を受けて、神紅が一歩踏み出して二人に切り出す。
「それではまず、雑魔がいるかどうかを調べましょう」
「そうだな。前情報では雑魔は出ないだろうということだったが、警戒は怠らないようにしよう」
エメラルドが全員に向けてそう言った後、何かに気づいたように山師に視線を向ける。
「あなたは私と一緒に回ろうか。大丈夫、私は聖導士だから、守ることは得意だ」
山師は、生唾を飲み込んでから、重々しく頷いた。
それを見届けたレイアが、一つ頷いてから申し出る。
「それでは人数も少ないので、効率よく動いていこう。手分けして周囲を調べるのでいいかな」
「それなら私は、この川を越えたところから、淵の向こう岸までを見てくるよ」
「私はこの方を連れていることだし、すこし山の中へ足を踏み入れてみよう。レイアは淵のこちら側を調べるのでいいか?」
「了解した。それではそれぞれ調べ終えたら、またここに集まろう。それでいいかい?」
「わかった」
「わかったわ」
そういうことになった。
●調査
淵に沿って歩きながら、神紅は周囲の痕跡を確認していく。
淵と草木との境界、草木の向こう側、淵の内部。
どこも変わった様子はなく、植物がのびのびと成長しているのみ。
たまに草が倒れていることもあったが、あくまで野生動物の自然な痕跡であり、変に草が枯れているなど、雑魔の痕跡はどこにも見当たらない。
湿気が停滞して空気は悪いが、不快感を示すほどの異常もない。
そんなことを考えているうちに、淵を半周してしまった。
一度立ち止まって、周囲を眺め渡す。
正面に、レイアが草をかき分けながらこちらに向かってきているのを捉えた。
LEDライトを使って、証拠を掴もうと一生懸命に捜査している。
神紅は、視線を足下に戻し、調査を続けながらそちらに向けて移動を再開した。
間もなく二人は合流を果たす。
「レイアさん、様子はどう?」
「雑魔がいるような痕跡はなにも見つからないな。よどみの原因のひとつは見つけたが」
「なるほど、それでは一度戻りましょう。エメラルドさんもきっと戻っている頃よね」
「そうしよう」
二人は連れ立って、元の位置に戻っていった。
二人と別れた後。エメラルドは山師の案内に従って、淵から見て、山師のいつも活動している領域に近い森の中を見て回っていた。
緑、緑、緑と、代わり映えのしない景色。
その中に潜む生き物の痕跡を見せてもらっても、負のマテリアルなどは感じ取れない。
広い範囲をまんべんなく見て回って、歪虚の気配は微塵も感じられなかった。
元の位置に戻ってみると、他の二人はまだ帰ってきていない。
一足先に、淵にピュリフィケーションをかけることにした。
腰から星剣を引き抜き、胸の前に両手で構える。
顔の前にキラキラと輝く剣身を持ってきて、ピュリフィケーションが発動した。
心なしか空気が軽くなったような気がして、山師の顔色が明るくなる。
エメラルドが剣を腰に収めたところで、残りの二人が合流した。
「遅れてすまない」
「こちらは歪虚の痕跡はありませんでしたよ」
「私もだ。どうやらここには歪虚がいないようだな」
「本当ですか!」
三人の言葉に安堵し、近くの木の根元に腰掛ける山師。
三人はそれを見て微笑みながら、次の行動について話し合い始める。
「歪虚の心配がないとなれば、残るはよどみの問題を解決するだけだが……」
「それについて、私が原因の一つを見つけてきたんだ」
「先程も言っていましたね。それはなんなの?」
「ちょうど川上側、この淵に水が流れ込んでくるところが、水草やゴミでせき止められていたんだ」
「なるほど、それにより流れが悪くなり、水がよどんでしまったと」
エメラルドが淵の表面を見て、言葉を続ける。
「そもそもこの淵の形状も、流れにくくなっている原因ではありそうだがな」
流れ出る川の水に対して、逆向きに淵の水が対流しているのが、表面の油などから見て取れる。
「流れ込むところの水草を刈り取って、流れ出る川を広げてあげれば、よどみは解消できるかしら?」
「川上の所は、定期的なメンテナンスが必要だろうな。水草が生えてくれば、自然とそこにゴミが引っ掛かってしまうだろう」
セレナの言葉を受けて、エメラルドが山師を振り返る。
山師は大きく頷いた。
「自分が定期的に見て、流れを悪くしそうだったら刈り取っとくよ」
「それでは、水草を刈り取った後で川の拡張にかかるとしよう」
「了解!」
「了解よ」
その後、無事に水の流れが復活したことを確認して、四人は依頼達成と判断し、山を下りたのだった。
●昼食
山を下りきる前に、太陽が南中する。
途中で山師が足を止め、三人に向けてこう切り出した。
「お弁当を持っているひともいると思うんですが、お昼を食べるために、ちょっとだけ寄り道しませんか」
「いいわね! どこか景色のいいところでも知っているの?」
「こちらです。ついてきてください」
川下へ向けてどんどん進んでいく山師。
辿り着いたそこは……
「「「わぁぁぁぁ……!」」」
清涼な風が頬を撫で、目に優しい青色の水が溜まった、とても綺麗な沢。
沢と言うよりは小規模な湖といった方がイメージに近いかもしれない。
丈の低くなった下生えに、まばらになった木々。日が差し込んだだけで、先程の淵とは雰囲気が大違いである。
スタスタと足を進めていく山師は、大きな岩によじ登り、その上に座り込んだ。
三人もそれに倣って腰を下ろす。
山師は手に持っていたバスケットを中央に置き、覆っていたバンダナを取り去った。
その下から現れたのは、色とりどりのサンドイッチ。
BLTサンドやたまごサンド、ジャムサンドにピーナツバターと、様々な種類のサンドイッチが、バスケットの中に詰まっている。
「うちの家族が作ったんです。是非皆さんも食べてください」
「すまないな、ありがたくいただこう」
「うん、世話になる」
レイアとエメラルドの二人が、神紅に先だってバスケットに手を伸ばした。
その神紅は、目を輝かせて手を合わせた後、すぐに自分の荷物をごそごそやり始める。
「素敵なお弁当ですね! 私も人数分作ってきたので、ぜひ食べてくださいな」
そう言って、人数分の弁当箱を取り出す。
「はい、これは依頼主さんの分」
そのうちの一つを山師に渡す神紅。
山師は目を丸くして驚く。
「わぁ! ありがとうございます!」
「いえいえ」
神紅はにっこりと笑みを浮かべた。
そして次々に弁当を手渡していく。
「はい、これはレイアさんの分で、これはエメラルドさんの分です」
「おぉ、すまない! どうにも料理が苦手でな……。こういう所ではいつも世話になるよ」
「レイアさん、正直なのは素敵なことですが……」
「いや、本当に申し訳ない……。ウサギや猪を狩ってくるのであれば、いくらでもできるのだがな」
「そもそもこれだけ女性陣がそろっていて、お弁当を作ってきたのが私だけって、ちょっとマズいのではないかしら」
ジト目で周囲を見渡す神紅に、エメラルドが慌てて顔の前で手を振る。
「つ、作れないわけではないのだ! ただ自分用に作るのが面倒なだけで……」
「女子力がたりないのじゃない?」
(私もいつもは妹に作らせているのだけど……)
言い放った直後に視線を逸らせ、独白する。
周りは心の声に気付くわけもなく。
「じょ、女子力が足りない……か……」
「ぐふっ……」
二人とも盛大にダメージを食らって、頭を抱えている。
山師など、突然の展開についていけず、一人で小さくなってお弁当をつついている。
自身のことを棚に上げている手前、どうにも気が引けた神紅は話題転換を試みた。
「まぁ、いまはこの景色とお弁当を楽しみましょうよ。見てよあの湖、きれいよね」
「ふむ。何度見ても素晴らしい景色だな、ここは」
「ふぅ……。確かに、奥の木々が湖面に映っているのが神秘的だな」
若干困惑気味だったエメラルドがそれに乗っかったことで、話題がすり替わる。
レイアもなんとか精神を立て直し、話題を追従し始めた。
ひとしきり喋り通した四人(山師を含む)は、遅めだったが楽しい昼食を終え、ハンターオフィスに戻っていった。
こうして長かった一日は、その幕を下ろしたのである。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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![]() |
調査依頼 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/27 01:00:23 |