• 初心

【初心】ただ人形は冷たく眠る

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/29 12:00
完成日
2018/07/03 17:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 人が蘇るのだそう。男の聞いた話である。
 負のマテリアルに犯されると、死体が動き出すこともあるらしい。ハンターオフィスに持ち込まれる依頼にはそんな話がずらりとある。
 男は思った──この男、年齢は20代後半の小太りである。薄暗い部屋で、五角形をひき伸ばしたような黒い棺の元に跪いて、その中身を愛おしそうに撫でていた。
 その中身は、青白い肌をした少女である。非常に端正な顔立ちの、生気のない美少女の体が横たわっていた。
 少女はぴくりともしない。されるがままになっている。それは何故か──?
 その少女は、人間でも死体でもなく、人形だからであった。
 男は、この人形を愛していた。人間の女性など目に入らぬ。ただ、この人形だけを愛していたのである。
 だから、男は動き出す死体の話を聞いて思ったのだ。
 死んだはずの人間が蘇るのなら、この命のない人形もひょんなことで動き出すのではないか?
 運良く、近くにマテリアルの乱れた貝塚が見つかった。
 だから、男は人形を連れてそこへ行くことにした。
「俺の嫁! いま命を吹き込んであげるからね!」
 男は興奮していった。

 数日後、男は人形を棺に入れて馬車に乗せて、例の貝塚にたどり着いた。近々浄化術をするとかで、立ち入り禁止の御触れが出ていたが、そんなことは気にしなかった。
 ぶるっと、男は震えた。今日はむしろ暑いくらいだ。だから、こんなに悪寒がするのはこの貝塚のマテリアルが乱れている証拠である。
 でも、男は立ち止まらない。
 ついに貝塚にたどり着き、その近くに赤いじゅうたんを敷いてその上に棺を安置した。
 人形が負のマテリアルにより動き出すようになるまで、どのくらいかかるかわからない。そもそも動き出すのかすら怪しい。しかし、男は確信していた。であるから、男はその側で野宿の準備をし始めた。迷彩マントを着込み、いざ見つかっても隠れられるようにしているのだった。
 さて、それから数時間が経った。日はとっぷり沈み、明かりは男が用意したランプしかない。
 男がうとうとしかけると、ずぶりという湿った音が聞こえた。
──きた! 男は思った。棺を照らすが蓋の開いた気配はない。
 はてなと思っていると、またずぶり、という音が聞こえる。よく聞くと、地面からしているように思う。
 男は地面を舐めるようにランプで照らしていく。それは貝塚の根元までたどり着き、そこから、黄ばんだ骨が地面から突き出たのだった。
 それも、ただの骨ではない。腕の形をした骨である。その腕は地面に手をつくと地中から体を引き上げた。
 土と年月により茶色くなった骨だけで動く怪物──スケルトンの姿がそこにはあった。
 男が腰を抜かしていると、左右からかちかちと硬質な音がする。周囲を照らすと、四足動物型のスケルトンが2体、細長い頭蓋骨に並んだ、鋭い牙を打ち鳴らしていた。
 男は逃げ出した。その時、大事な嫁(人形)を置き去りにしてしまったことに気がついた。
 引き返そうとすると、人型スケルトンが骨を投げつけて来た。それは男のこめかみをかすって、暗闇の中に消えていく。男のこめかみからは血が流れていた。
 男はとうとう逃げ出した。乗って来た馬車の御者台に這いずるように乗り込んで、遮二無二馬を鞭打ち逃げ出した。そしてハンターオフィスに駆け込んだのであった。
男は哀願する。
「俺は無様にも嫁を置いて来てしまった! どうかあいつらを打ち倒して、俺の嫁を取り戻してくれ!」
 涙と鼻水に顔面をぐしょぐしょにしているので、オフィスの職員は引いていた。
「……ということで、貝塚に現れたスケルトン型雑魔3体を討伐してください。この貝塚についてですが、近々お祓いの予定があるので後始末などは考えなくて結構です」
「そんなことより、俺の嫁を助けてくれ! お祓いとか、そんなのどうでもいいじゃねえか!」
 男は、職員の説明をかき消すような大声で訴える。職員は、隣に座る男からちょっと席を離した。
「できる事なら、人形を回収してあげてください」
「できる事ならじゃねえ、絶対だ!」
 このようにして、依頼は持ち込まれたのであった。

 最後、依頼主──名前はハンスと言った──に聞かれないよう、オフィス職員がハンター達に声をかける。
「今回の依頼人は、少々……手のかかる方かもしれません。万が一のため、補助になるベテランハンターを潜ませておきますので、安心して戦ってください」
……もちろん、彼の出番がない方がいいのですけど。
 そう付け足しつつ、職員はハンターを送り出した。

リプレイ本文

「大丈夫だよな? 本当に大丈夫だよな!?」
 悲壮な声が響き渡る。
 今回の依頼人ハンスのものだ。彼は自分の人形……もとい嫁が無事に帰ってくるかどうかを心配しているのである。
 その背中を、玄武坂 コウ(ka5750)が元気よく叩いた。
「ま、あんたはどんと構えていてくれ。あんたの嫁さんもあんたに怪我などして欲しくないはずだ。それにもしあんたに何かあったら、あんたの嫁さんはどうなる。あんな素敵な嫁さんだ、他の人の手に渡るなんて……あんたもいやだろ?」
 コウがハンスに言う。
 今回、保護対象である人形のことをハンターたちは依頼人の神経を逆撫でしないように、あるいは愛着への敬意を示して「嫁」や「花嫁さん」と呼称することにしていた。
「安心してまかせとけって」
 ハンスの心配を吹き飛ばすような笑顔でコウは告げた。
 それに、ハンスはほっとしたらしく、少し気分が落ち着いたようだった。
「いやー、せやかてこないに愛されはったらお嫁さん冥利に尽きるちゅうものやね。ちょおと憧れてまうわぁ」
 花瑠璃(ka6989)は、頬に手を当てて言った。
「……こういう家族の形もあるものなんですね」
 家族に強い憧れを持つシグ(ka6949)は、興味深そうにハンスを眺めていた。
 たとえそれが……。
「愛を抱くものに正気なし、とはいえ」
 橘花 夕弦(ka6665)の言うように、狂気と紙一重のものであっても。
 何の反応も返さない人形。返される言葉も、表情もなく、花も育てればその色で応えるというのに……いや、
「だから、このような奇行をでしょうか」
 ハンスには聞こえない独り言を夕弦はこぼすのだった。
 そして、ちょうどその時、目的の貝塚が見えてきた。
 人型スケルトンと、2体の4足動物型スケルトン、そして赤いじゅうたんの上に安置された棺がある。
「私は……えーっと、ヴォ、歪虚? と遊べる! 依頼人さんはお嫁さんを助けられる! Win-Win!」
 雑魔と遊ぶことに楽しみを覚えるアリス・オリビア(ka7119)は早くもテンション高めにまだ見ぬ戦闘に期待を寄せる。
「みんな」
 と、そこで、コウが全員に聞こえるように声をかけた。
「俺たちならきっと大丈夫だ。依頼人を守って、その嫁さんも守って、そして敵を討伐できる。そっちは頼む。こっちはこっちできっちりやり抜くぜ!」
 それを聴いたハンターたちもあるものは強く頷き、またあるものは静かな視線だけでこたえるのだった。
「行くぞ!」
 そして、ハンターたちが覚醒状態へと移行する。
 すると、同時に、雑魔たちも彼らに気付いた。
 素早く、人型のスケルトンが貝塚から取り出した骨をハンターたちへと放り投げる。
 それは矢のように鋭く、ハンターたちを強襲した。
 が、澄んだ金属音とともに、それは断ち落とされた。
 夕弦の大太刀による抜刀だった。
 刃は水面に映る月のようにシンとした鋭気を湛えている。
「推して参ります──心の芯なき骨、妄念を断つ刃として」
 その言葉が戦いの幕開けとなった。


 コウと夕弦がスケルトンに向かって疾走して行く。
 迎え撃つように4足動物型スケルトンも骨だけになった体を忙しく動かして疾駆する。
 前衛であるコウと夕弦が敵とぶつかり合うのを、やはり心配そうにハンスは見ていた。
「だーいじょーぶだよ、ハンスさん!」
 アサルトライフルを構えつつ、アリスが言う。元気よくアホ毛がピコピコ動いていた。
「とりあえず、私がハンスさんの護衛だから、ここから動かないでね! あ、護ってあげるけど、万が一にでも私に惚れちゃダメだからね! ハンスさんには素敵なお嫁さんがいるんだし!」
「ハンス、聴いて欲しいの」
 そして、ハンスに声を掛けるのはノア(ka7212)だ。
「今から、私がお嫁さんを助けに行ってくるわ」
 ハンターたちの作戦はこうだ。前衛が敵を引きつけ、中衛が道を道を切り開いた隙に、ノアが棺のもとまで行って、人形を回収してくる、というものだ。こうすれば、戦闘中、不注意により人形を傷つけてしまう心配もない。さらに、女性のノアがその役割をすることで、人形を嫁と呼んでいるハンスへの気配りにもなっているのだ。
 けれど、人形を抱えて走ることになるノアは無防備になってしまう。
 それでも、ハンターである自分だったら軽傷で済む。人形が傷つけば、ハンスも傷つく。それはノアの望むところではなかった。
「ノアさん、ノアさん! いい感じに敵が前衛に引きつけられているっぽいよ! 行くなら今!」
 アリスが援護射撃をしつつ、ノアへゴーサインを出す。
「大丈夫、きっと助けてみせるわ」
 ノアは力強く笑って、棺に向かって走り出した。


 太刀が閃いて、陽光を反射する。
 きらりと光るその一瞬、月光のごとき軌跡を描いて、切っ先が4足動物型の顎を破壊した。
 夕弦は一之太刀による大上段の構えから、退路を塞ぐように回り込みつつ、急所めがけて大太刀を振り下ろしたのだ。
 そして、そのまま横に飛んで、不断に動き続ける。大太刀の切っ先を流転する月影のごとく敵の視線を奪うように動かす。
 ノアが目的を達成するまで、敵の注意を引きつけなければならない。
 4足動物型スケルトンは夕弦との距離を測りつつ、攻撃の機会を見計らっていたようだが、突然、その胴体に拳が叩き込まれた。
「余所見してると痛い目見るぜ!?」
 コウによる打撃攻撃だった。
 コウはハンスを守るように、人型スケルトンの投擲射線に入りつつ、4足動物型スケルトンに狙いを定め、攻撃を繰り返していた。
「一撃で止まると思うなよ!? どんどん行くぜ!」
 打撃のラッシュを浴びせるコウ。しかし、それをかいくぐった敵は、姿勢を低くして、コウの足に噛み付いた。
 牙を突き立てられ、コウの足から血が流れる。しかし、その出血量は多くはなかった。
 事前に、コウが金剛により練り上げたマテリアルを全身に纏わせていたのと、
「ひゃあ、いたそうどすなあ。でも、好きにはさせまへん」
 戦闘開始直後に、前衛であるコウと夕弦のふたりに花瑠璃が加護符を施していたため、ダメージは軽減されたのだった。
「シグはん、一緒にそれぞれがあんじょうできますよう、援護しましょか」
 花瑠璃が符を構える。戦闘の最中にあって、花瑠璃は笑みを絶やさない。覚醒中の彼女の周りには、仄かに青い燐光を纏う蝶と、鮮やかに香る桜吹雪が舞い、幻想的な光景を作り出していた。
「ええ、花瑠璃さん、改て宜しくお願いします」
 シグはこたえ、味方の援護のため、敵の動きを観察する。
 4足動物型スケルトンは一度、飛びすさり、助走をつけて突進へ転じる。
 だが、走り出す刹那、アリスの弾丸がスケルトンの頭を穿った。
「ヒット! さぁて、どんどん当てていくよ!」
 照準を再補正してアリスも4足動物型スケルトンを狙っている。
 さらにシグのライトニングボルトが戦場を駆け抜ける。
 一直線に敵を焼き尽くす光の帯は、投擲攻撃により、ノアを妨害しようとしていた人型スケルトンを貫いた。
「邪魔はさせない……」
 人型スケルトンはその空の眼窩でシグを睨みつけ、骨を鋭く投げつけた。
 だが、シグはそれを軽く躱す。
 その隙に、ノアは、人形の収められた棺に到達していたのだった。
 棺の蓋をあけると、そこには青白い顔をした、美しい人形が横たわっていた。それをノアはそっと抱え出し、ハンスの元へ向かうために再び走り出す。
 が、その時だった。ノアは視界の隅に、飛来してくる何かを捉えていた。
 彼女は咄嗟に、人形をかばうように、飛来物へ背中を向けた。
 ぐさり、と肉を裂く音がして、ノアの背中から血が流れる。
 ノアの背中には鏃のような鋭い、やはり人型スケルトンが放った貝塚から発掘されたものが突き立っていた。
 攻撃を受けながらも、敵は、やはり無防備なノアを狙ったのだ。
 それでも。
 ノアは走りはじめた。
 人形を、嫁と呼ぶ者の元へ届けるために。
「もう、手出しはさせない」
 冷たくシグが言い放つと、瞬脚を用いた素早い移動で敵とノアの間に割り込み、アースウォールで壁を作る。
 また、夕弦もノアへの攻撃を阻止するように、動いていた。
「流れるは水と月と──移ろう心と刃」
 大太刀が閃き敵の気を引きつける。
「ハンス……!」
 そうして、ノアの辿り着いた先にはハンスが立っていた。
「はい、あなたのお嫁さんよ。大丈夫、血もかかってないから」
 ノアは自分のことより人形のことを、ハンスのことを心配していた。
 ハンスは嫁を受け取って、ぎゅっと一度抱きしめた。そして、ノアを心配そうに見る。
「あんた、その傷……」
「このくらい平気。じゃ、あとは敵を倒しちゃうから、そのままお嫁さんと隠れていてね」
 ノアは走り出した時と同じ、力強い笑みをやはり湛えたのだ。
「つまり、お姫様を守るナイトってことね♪」
 そう言い残すと、ノアは戦場に戻って行った。
 ハンスはその背中を見送った。血まみれの背中を。


 夕弦の太刀はなおも冴え渡る。
 横っ飛びで逃げようとする4足動物型スケルトンへ大上段から振り下ろされる一撃はその前足を吹き飛ばした。
 3本足になったスケルトンはそれでもバランスをとりながら、夕弦に向かって突進する。しかし夕弦はひらりと攻撃を躱し、今度は後ろ足を斬り落とした。
 勢いのまま、落下するいまや2足動物となったスケルトンに向かって、コウの渾身の一撃が放たれる。
「こいつでトドメだ!」
 コウは乗用馬に騎乗状態にあり、その状態では震撃は使えない。よって、放たれた攻撃は震撃ではなかったものの、弱ったスケルトンにトドメをさすには十分な威力であった。
「次はどこへ当たるかなっと!」
 残った4足動物型スケルトンへ、アリスの弾丸が次々撃ち込まれる。頭蓋骨に罅が入るも、いまだ砕けるには至らない。
「花瑠璃さん」
「それじゃ、いきましょか」
 4足動物型スケルトンに向けて、シグと花瑠璃の攻撃が殺到する。
 光と稲妻に穿たれ、悶えるスケルトン。一度、態勢を立て直そうと射線から外れるように飛ぼうとするが、その脇腹を強烈な一撃が貫いた。
「さ、私の相手もして頂戴ね」
 戦線に復帰したノアの一撃だった。
「ふふ、さながら森での舞踏会かしら」
 くすり、と楽しそうに微笑むノア。
「今よ!」
 ノアがアリスに合図する。
「チャンス到来!」
 アリスは黒色のアサルトライフル「ブラック・ペイン」の照準を敵の頭蓋骨に合わせる。
「いただきっ!」
 アリスはそんな掛け声とともに、引き金を引いた。
 銃声が響き渡り、銃身を弾丸が駆け抜け、銃口から飛び出した。
 そして、引き寄せられるように、スケルトンの脳天に着弾する。
「クリーンヒット!」
 満月のようにあいたその穴から、ぱらぱらと砕けるように4足動物型スケルトンは崩れ去った。
「残る相手は人型だけだね! さあ、遊んでもらうよ!!」
 アリスは楽しそうに言った。


「さっきはよくもやってくれたわね。痛かったわよ?」
 ノアが人型スケルトンと対峙する。
 敵は、花瑠璃の風雷符や、シグのライトニングボルトによって、すでに多数の傷が着いている。
 もはや、逃げ道もない。
 ノアが一歩踏み込んで、目にも留まらぬ速さでヌンチャクを叩き込んだ。
 肋骨が破壊される。
 アリスが弾丸を撃ち込んだ。
 それはスケルトンの剣を持っている方の手首を砕き、弾き飛ばした。
 シグは光を束ねライトニングボルトを照射する。
 続いて、投擲のために何かを掴んでいた逆の腕を灰になるまで焼き尽くした。
 花瑠璃の符が飛んでいき稲妻へと変貌する。
 それはスケルトンの足を串刺しにした。
 コウの拳がスケルトンの顔面を殴りつける。
 その衝撃でよろめいたスケルトンは無防備なまま、夕弦の前へ躍り出た。
 静止した水面のように静かに、夕弦は言葉を紡ぐ。
「──時に取り残された者は、再び静かに眠るがよい」
 刃を上にして、体に引き付けるようにして大太刀を構える夕弦。
 その動作はあまりに静かだったので、ゆっくり動いているようにも見えた。
 それほどまでに透き通った所作で、夕弦は敵の喉仏に突きを放つ。
 頭蓋骨が胴体を離れて遠くまで吹き飛んだ。
 かしゃん、という少し悲しい音を立てて、それは落下し、同時に体も崩れ落ちて、全ては塵に還元されていく。
 こうして戦いは終わったのだった。


「旦那さんもお嫁さんも、怪我がないみたいでなによりやわぁ」
 花瑠璃がハンスに声を掛ける。
 ハンスは嫁である人形を抱いて、ハンターたちをただ見ていた。
「おや、旦那さん、どないしはったん? 腰抜けてもうた?」
「いや、あんたたち強かったんだな、と思って……」
「なんやぁ。褒めてもなんもでーへんよ?」
 ハンスは嫁を抱きしめて、ハンターたちに感謝を述べた。
「ありがとう、本当にありがとう……」
「それはそうと、ハンスさん! 今度はお嫁さん置き去りにしちゃ駄目だからね! ちゃんと謝罪するように!」
 アリスがびしりと人差し指を立てて、ハンスをたしなめる。
「ハンス、もうこんなことをしては駄目よ? お嫁さんをこんな不気味な森に残すなんて可哀そうだわ、お着替えだって何日も出来ないでしょうし」
 ノアが再発防止のため、言葉を選びつつ、悲痛な面持ちでハンスに言った。
「そうだな。俺はちょっと血迷ってたのかもしれない。もうこんなことはせず、嫁を大事にして生きていくよ」
「お嫁さん、無事でしたなら何よりです。お嫁さんということは夫婦、夫婦ということは家族。家族を大切にする姿、とても胸を打たれました。どうか、末永くお幸せに……」
 シグはどこか眩しいものを見るように、ハンスたちを見て、この先の未来を祈った。
「花嫁さんにもしものことがあったら大変です。負のマテリアルによる異常がないか、診てもらうのがいいかもしれません」
 ハンスはハンターたちによって「救われた」のかもしれない。
 夕弦はそう提案しつつ、ハンスの顔から目をそらした。
 人に救う、救われる、或いは絶望するは人それぞれ。
「……俺は救われた側だから、なのでしょうね」
 その言葉は誰にも届かず、地面に落ちて砕けた。
「あ、そうだ、ノア。これ使えよ」
 コウがノアにヒーリングポーションを投げてよこした。
「背中の傷、深いんだろ?」
「ありがとう。それじゃ遠慮なく使わせてもらうわね」
「そんじゃ、帰ろうぜ」
 ハンターたちは歩き出す。
 その途中、貝塚から少し離れたところにある木のそばを通り過ぎた。
 ベテランハンターが潜んでいた木である。
 コウは通り過ぎる際、無事終わったことを示すように、小さくサムズアップして見せた。
 一行の最後尾には夕弦がいる。
「絡みつくは想いの蔦と。花咲くも、散らむもない」
 依頼主に言葉届くとは思わず。
 けれど、生きていれば、いずれ何かの幸せに辿り着く。
 夕弦はそう思うのだった。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • お前はもう食っている
    玄武坂 コウ(ka5750
    人間(紅)|17才|男性|格闘士
  • 静かな覆い
    橘花 夕弦(ka6665
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • まだ見ぬ家族を求めて
    シグ(ka6949
    オートマトン|15才|男性|疾影士
  • 百花繚乱
    花瑠璃(ka6989
    鬼|20才|女性|符術師

  • アリス・オリビア(ka7119
    オートマトン|17才|女性|猟撃士

  • ノア(ka7212
    鬼|24才|女性|格闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談場所っ!
アリス・オリビア(ka7119
オートマトン|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/06/28 01:13:47
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/25 11:39:57