心、響かせて 2

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/07/04 09:00
完成日
2018/07/12 10:08

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 僕は歌を取り戻した。歌ってないときは死んでいるも同然だ。
「あ、良いこと思いついた」
 僕は劇場をうめるゾンビ達に言う。特に返事はないけれど、こういうときは喋るに限る。
「ゾンビの数もだいぶ増えてきたし、せっかくだからみんなで帝国本土へ行こうよ!」
 本土へ行けば人がいっぱいいることだろう。もっと僕の歌を聴いてもらえるというわけだ。ああ、考えただけでぞくぞくする。
「問題はどうやって本土まで行くかだけど……面白いこと思いちゃった」
 これはちょっと試してみたくなる案だった。
「とりあえず君たち、重りになるものをたくさん用意してくれないかな?」


 グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)はクレーネウス・フェーデルバール兵長とともにかつて傷つけてしまった兵士達の慰問から帰ってくる最中だった。
 グリューエリンは床を見つめて歩く。
 そこには墓があった。そこにはもう治らない傷があった。
 グリューエリンを睨む者がいた。恨みの目で見る者がいた。
「兵長」
「なんだね、グリューエリン」
「私……ちゃんとごめんなさいを言えてましたか?」
「言えてたさ」
 けれど、どうしようもないことだった、とどこか諦めて様子でグリューエリンを許す者もいたのだった。あの状況で戦えたのは、良くも悪くも歌のお陰だ。兵士としての勤めを果たすことができた、と。
 でも、これが大事な一歩。
 グリューエリンは拳を握りしめる。
──ここから、今までを背負って私は再び歩き出すのだ。
──逃げないために。
 その様子をクレーネウスも見ていた。
──ああ、彼女ならきっと大丈夫だ。
──我々の選んだアイドルは間違いではなかった……。
 そうして、辿り着いた帝国歌舞音曲部隊のための一室の扉を開けると。
「おかえりなさい、ふたりとも」
 と、馨しい美声が出迎えた。
 椅子に優雅に腰掛けているアラベラ・クララ(kz0250)が発したものである。
「ふたりが出かけている間に、書類が届きましたよ」
 アラベラは慣れた調子で、デスクの上の書類を指差した。
……そう。あの、ハンター達がグリューエリンとアラベラの仲を取り持って以来、アラベラはこうしてこの一室に居着くようになっていたのだ。
「ところで、慰問の方はどうでしたか?」
「……いろいろ言われましたが、当然のことだと思います。でも、必要なことですから」
「そうですか。それはよかった……ところで、例の書類、なにやら緊急の用件らしいですよ」
 クレーネウスが早速その書類を取り上げ、用件を確認し、頭をかいた。
「どうさないました、兵長」
「いや、内容は単純な浜辺に出現した雑魔の退治以来なんだが」
 おそらく、グリューエリンの再始動を受けて、リハビリのつもりで回されて来た任務なのだろう。しかし、クレーネウスはグリューエリンのために、前回あるハンターにも提案された下水道掃除を計画していたところだった。
 だが、上からの命令では仕方ない。
「グリューエリン、すぐにハンター達と連れ立って、該当の浜辺へ向かってくれないか」
「もちろん構いませんわ」
「一体、どんな内容なのです? 妾にも見せてください」
 書類を覗き込もうとするアラベラであるが、ひょいと、クレーネウスが持っていたそれをグリューエリンが取り上げて隠した。
「アラベラ殿。これは帝国軍の任務です。軍人でない貴女を関わらせるわけにはいきません」
「むむ。まだそんなことを言っているのですか。じゃあ、妾も軍人になります。さあ、入隊条件を示しなさい!」
「えーっと、……」
 といっても、グリューエリンに人一人(正しくは英霊だが)を入隊許可する権利などなるはずがない。
「まあ、それは追い追い考えていくとしましょう。とにかく、浜辺の雑魔退治です。内容は……」

 内容は次の通り。
 ある港町付近の浜辺にゾンビ型の雑魔が現れた。数は6体。
 目撃情報によれば、雑魔は海からやって来たそうだ。
 武装はしていないようだが、足に鉄球や碇などの重りをつけている者があり、振り回されれば当然凶器になる。
 なぜか、雑魔達は人を襲うことなく、浜辺をうろうろするばかりである。
 不思議なことはこれも目撃証言によるものだが、上陸当時、ゾンビ達からは歌声が聞こえるというのだ。
 厳密に言えば、ゾンビ達が歌っているのではなく、ゾンビ達の周囲を飛び回っている、コウモリのようなものから発せられているらしい。
 この歌声には不思議な力があるらしく、歌声を聴いた者(この時は非覚醒者だった)は、まるで操り糸を止めた人形のように動くかなくなってしまったという。現在、コウモリからの歌声は確認されていない。
 すでに、周辺住民の避難は済んでおり、立ち入りも禁じられているので、一般人が紛れ込むようなことはない。
 これらのゾンビ、およびコウモリ型のナニカの早急な排除を、ハンターオフィスと協力して願う。

「歌声……」
 グリューエリンの顔がちょっと曇った。
「無理をしなくてもいいんだぞ」
 そうクレーネウスは言うが、グリューエリンは炎色の髪を揺らして首を振る。
「いえ、私はアイドルと同時に軍人。任務をこなすのも重要な役目ですわ」
 こうして、依頼はハンターオフィスに張り出されることとなった。
 不穏な予感を響かせて。

リプレイ本文

「やっほー、グリューさん」
 フューリト・クローバー(ka7146)が手をひらひらさせてグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)に挨拶する。
「慰問行ってきたんだってー?」
 ちょっとグリューエリンの顔がこわばった。
「まーその後は兵の皆さんそれぞれだしねー謝られたから許さなければならないなんてないし」
 皆が許してるけど許したくない。皆は許してないけど許したい。そういうのもあっていいのだと、フューリトは言う。
「だって、皆違う人間じゃーん、答えもひとそれぞれー」
「そうですわね……」
 その言葉に、救われたらしくグリューエリンはホッとした表情になった。
「ところで、グリューさん、最近歌っているー?」
「ゆっくりとですが声出しはしていますわ」
「よければ戦闘前にちょっと練習しなーい?」
 こうして、ちょっとだけフューリトとグリューエリンは歌の練習をした。
 前回よりも、グリューエリンの声は、まだ歌とは言えないが、のびのびと響いていた。きっと少しずつではあるが彼女は前に進めているのだろう。
「付き合ってくれてありがとー」
「いえ、こちらこそありがとう存じますわ、フューリト殿」
「エリンちゃん」
 続いて、キヅカ・リク(ka0038)が声を掛ける。
「慰問、お疲れ様。あー、でもさ。何かあったらというか、そういう時こそ呼んでくれて構わないんだからね。友達なんだからさ」
「リク殿……」
 フューリトはひとりで歌を歌っていた。
 いい感じに歌っていたかと思えば、ころりと音を外したり、歌詞を変えて歌ってみたり、あるいは抜いてみたり。
 グリューエリンに変に力が入らないよう和ませるためである。
 歌を練習したのもそのためだ。
 グリューエリンの表情も先ほどよりずっと柔らかい。
 けれど、もう、見えてきていた。
 浜辺にたむろするゾンビたちが。


「浜辺にゾンビって妙な組み合わせとは思ったけど……海の底歩いてきたワケね」
 クリス・クロフォード(ka3628)が言う。
「で、アレが歌ってたっていうコウモリと」
 ゾンビたちの後ろには、1匹の負のマテリアルを纏ったコウモリが飛んでいた。
 時音 ざくろ(ka1250)は魔導カメラでそのコウモリを撮影する。
「歌声というのが一番気にはなるけど、後から見直したら、何か気づく事もあるかも知れないから、念の為」
「いいこと、グリューエリン」
 クリスがグリューエリンに振り返る。
「単独行動厳禁よ。味方のフォローが届く範囲で立ち回ること。OK?」
 さらに、高瀬 未悠(ka3199)も、グリューエリンの肩に手を置いて言葉をかける。
「大丈夫よ。私達は絶対に死なないわ。一緒に彼等を解放してあげましょう」
 未悠は微笑む。
 それにグリューエリンも強く頷き返した。
「よろしい。……それじゃ、魁は私に任せてもらおうかしら」
 進み出るクリス。その体の中ではマテリアルが駆け巡っている。
「貫くわよ!」
 イメージするのは天翔ける青龍。前方に力を集中させ、そして一気に解き放つ。
 青龍翔咬波が敵陣を駆け抜けた。
 そこでようやく、ゾンビたちはのっそりハンターたちの方を見る。
「一緒に戦うのも久しぶりだね……行こう、グリューエリン! ゾンビとコウモリが何を企んでるか分からないけど、好きにはさせない」
 ざくろの声を合図に、ハンターたちが駆け出していく。
 そして、数拍の後、コウモリからは歌が聞こえてきた。
「……ねえ、すごくイヤな予感するのって私だけ?」
 クリスが怪訝な面持ちでコウモリを見る。
 歌声に伴い、ゾンビたちの力が強化されてゆくではないか。
「あれが例の歌声……」
 キヅカは蓄音石へマテリアルを込める。ざくろと同じく情報収集のためだ。
 かくして戦端は開かれたのだった。
 だが、その直前、コウモリが歌い出す数拍の間に、
『グリューエリン?』
 という小さな問いかけの言葉があったことに誰が気付いたであろうか。


「ホーリーセイバーかけとくから、前衛さんファイトー」
 フューリトが前衛に立つ味方の武器に光の加護を施す。
 そして、フューリト自身も、前へ進んでいく。
「眠い時に寝る。眠そうな人も寝かせる。僕の哲学ー」
 奏で始めるのは死せるモノを縛り付ける清浄なる歌声。
「そういうわけで、撃破の方よろしくー」
「うん、一気に行くよ! 焼き払え拡散ヒートレイ!」
 ざくろが前方に赤白く輝く無数の熱線を放射し、ゾンビたちを焼き尽くす。
 そして、素早く敵陣に飛び込んだクリスが、服いっぱいに石を詰め込んだゾンビに向かって掌底を放つ。さらに、手のひらからマテリアルの奔流を流しこみ、防御を無視する一撃を見舞う。
「敵は僕が引き付ける。バックアップ、頼める?」
 そして、前衛より少し後ろにいたキヅカが、歩調を合わせていた未悠とグリューエリンに言う。
 キヅカはソウルトーチを発動し、敵の視線を引きつけた。
 それにつられて、2体の重りを足につけたゾンビたちがキヅカの方へ走り出す。
 しかし、
「そこ、通行止めよ」
 未悠が張り巡らせていたディヴァインウィルの結界に阻まれ、足が止まる。
「エリンちゃん、今だ!」
 グリューエリンが、ロングソードを2振り構え、不意の足止めをくらった敵に斬りかかる。
 もう1体のゾンビが重りを振り上げ、キヅカ目掛けて振り下ろす。
 だが、それも攻性防壁の光の障壁に阻まれ弾かれた。
「もう一撃お願い!」
「はい!」
 返す刀でいま弾かれたゾンビも踊るようにグリューエリンが斬りつけた。
キヅカは連携することで、グリューエリンに経験を積ませたいと思っていた。そして、その連携は上手くいっているのだった。
 その時だった。鋭く飛んできた拳ほどもある石が、キヅカのこめかみに命中した。
 傷口から真紅の血が流れる。
「リク、大丈夫!?」
 未悠がすぐに声を掛けるが、キヅカは手を上げて大丈夫だと合図した。
 そんな戦場には歌が響いていた。
 コウモリから聞こえる歌である。
 そして、そのコウモリに近づく漆黒の姿があった。


「暗黒プロデューサーとしての勘が告げているぜ、ここにゃ新曲の手がかりがある。まーーーちがいねぇ!」
 デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は断言していた。
「自然発生したとは思えねぇ違和感だらけの状況にこそ、夢の欠片が隠されているってもんよ」
 彼は、コウモリの歌を聴くつもりでこの戦いに臨んでいた。
 そして、今、その漆黒の姿はコウモリを目の前にしていた。
「おまえが例の歌声か。聴いたところ、ボーイソプラノって感じだな。いい声じゃねぇの」
 そして、デスドクロはギター「ジャガーノート」を構えた。
「夜の眷属とセッションと洒落込もうじゃねぇか」
 ギターの音が響き渡る。かき鳴らされる音がボルテージを上げていこうとしたその時、不意に、歌が止まった。
『僕の歌に乱入するなんて……君、何様なの?』
 コウモリから言葉が聞こえてくる。それは少年の声音だった。
「そっちこそ、この俺様がセッションしてるのに歌をやめるなんざ、いい度胸じゃねぇの」
『まあ、僕の歌声を褒めたことに関してはできた観客だと評価しても良いけど……君、なんなのさ』
「俺様は暗黒プロデューサー、デスドクロ・ザ・ブラックホール様だ!!」
『ふうん。まあいいや。それじゃ……もう一度、歌うよ?』
 そして、歌が再開される。
「……」
 デスドクロの中では冷静な思考もされていた。
──確実な目撃証言があって尚「歌っていた」というのであれば、それは本当に歌なんだろうぜ。
──鳥の鳴き声や自然現象が起こす音を、人間は「歌」とは認識しねぇハズだ。
──それに、今の声……。
──コウモリに知性があって自ら歌を作り出したのか。スピーカーのような存在なのか。
──であればそれに歌を吹き込んだものがいるのか。
──場合によっちゃコウモリを作曲担当として迎え入れてやってもいいが……。
 その時である。ゾンビがデスドクロに向かって石を投擲し、腕に命中した。
 デスドクロの演奏が中止される。
「俺様の邪魔をするんじゃねぇ!」
 デスドクロの手のひらに黒く燃える球体が出現。腕が突き出される動きにしたがってそれは燃え盛る漆黒の槍へと姿を転じ、ゾンビへ射出された。


「自己満足な歌ね。響かないわ」
 未悠が言った。命を弄び使役する歌に好感など抱くはずもない。
「結界、そろそろ解くわよ!」
 未悠がディヴァインウィルを解除する。
 結界に阻まれていたゾンビたちがついに進撃を開始し、足についた重りを振り上げようとする。
 だが、その動きは緩慢で、それを見逃す未悠ではない。
「振り回すというのなら、破壊するまでよ」
 聖槍「ザイフリート」が鎖の部分を素早く打ち付けた。
 さらにもう一度、叩き込まれた強烈な一撃がついに鎖を破壊した。
「これでもう、振り回せないわね」
 重りを失ったゾンビは、素手でパンチを放つも、その伸び切った腕を下から、未悠は跳ね上げるように斬り落とした。
 そして、振り上げた斧槍を続いてゾンビの脳天めがけて振り下ろす。
 まるで、バターでも切るように、ぐにゃりと未悠の攻撃で両断されたゾンビは塵になって消えていったのだった。


 キヅカのソウルトーチに引っかからなかった重り付きのゾンビは、クリスの動きに翻弄されていた。
 クリスはひらりひらりと軽やかに移動する。
 ゾンビの重りが振り下ろされるも、クリスは横っ飛びで避ける。
 そして、ゾンビは避けたクリスを追いかけるように、重りを勢いよく振り回した。
「その攻撃を待っていたのよ!」
 クリスは姿勢を低くして、攻撃を避ける。
 重りのゾンビの周りには、石を詰められたゾンビたちもいた。そして重りを振り回す攻撃は敵味方関係なしの無差別攻撃だ。よって、重りは仲間を薙ぎ払って1周するのだった。
「まともな知性はないようね? それなら好都合。同士討ちを狙うまでよ」
 間断なく、クリスは動き続けるが、その視界に、石が飛び込んできた。
「っ……!」
 咄嗟に避ける、クリス。それによって姿勢が崩れた。そこへ石の投擲がクリスの脚に着弾する。
 続けて、攻勢に移ろうとするゾンビたち。しかし、その体を光の帯が貫いた。
 ざくろのデルタレイだ。
「言ったよね、好きにはさせないって。ざくろの攻撃、受けてもらうよ!」
 次々と光の収束が3体ずつゾンビたちを貫いて行く。
 それが煩わしかったのだろう。重りのついたゾンビが、ざくろへ重りを振り下ろした。
 だが、それは光の障壁によって阻まれる。
「超機導パワーオン、弾けとべっ!」
 吹き飛ばされるゾンビ。地面に墜落すると思った刹那、その体が突き上げられた。
 落下地点に待機していたクリスが思いっきり背中を突き上げたのだ。
 骨の砕ける音がして、ゾンビが呻き声をあげる。
 さらに、魔法の矢が打ち上げられたゾンビを貫いた。
 キヅカのマジックアローだ。[SA]の効果により効果範囲を5体まで増やした矢は、次々ゾンビたちに着弾していく。
「これで、終わりだ!」
 さらに降り注ぐキヅカのマジックアローによって、ついにゾンビたちは殲滅されたのであった。


 コウモリの歌はすでに止まっていた。
「デスドクロ、やりたいことは出来た?」
 クリスがデスドクロに問いかける。
「ああ、もう充分だ。グリりんらの新曲のフレーズに使える旋律はないかをこのデスドクロ様自らの暗黒耳で確かめることは出来た」
「そ。それならアレを破壊しましょ」
 コウモリへクリスが近づいていき、拳を叩き込む。
「意外と硬いわね……」
「クリス殿、お手伝いしますわ」
 グリューエリンの斬撃も叩き込まれる。
 コウモリは何ら抵抗しなかった。
 何発かの攻撃を浴びて崩れ去る刹那、黙していたコウモリから微かな声が聞こえた気がした。
『また会おうね、グリューエリン』
「え……?」
 グリューエリンの手が止まる。
 しかし、その時にはすでにコウモリは完全に塵になった後だった。
「グリューさん、どうしたの?」
 フューリトが跳ねるようにグリューエリンに近寄って、顔を覗き込む。
「いえ、今、コウモリに名前を呼ばれた気がして……」
「もしかして知り合いとかー?」
「声に聞き覚えはありませんが……」
 グリューエリンはちょっと考え込んだが、やはり心当たりはないようだった。
 雑魔の体や武器は残らない。しかし、ゾンビに詰められていた石や重りは、消滅せず残っていた。
 キヅカはゾンビの出所を探るため、増援を警戒しつつ、それらを回収しておく。
「無事録音できた?」
 万が一のために歌を耳コピしていたざくろがキヅカに問いかける。
 試しに蓄音石を再生して見ると、無事歌声は録音できていた。
「なんでコウモリは歌うんだろ」
 そこで、フューリトが素朴な疑問を発した。
「歌でなんかしたいのかなー? それはそうと、回復しなくちゃね。はーい、怪我人は僕の近くに寄ってー」
 フューリトがヒーリングスフィアで、仲間の傷を癒した。
「グリューエリン、戦いはどうだった?」
 未悠がグリューエリンに声をかける。覚醒の解かれた未悠にはすでに猫耳や尻尾はなく、瞳の虹彩も元に戻っていた。
「皆様と戦えてよかったと思います。きっと私独りでは達成出来なかったと思いますから」
「あのね、グリューエリン」
 未悠が赤い瞳で、グリューエリンを見つめる。
「独りで頑張らなきゃって思わないで。一緒ならたくさんのものを守れるわ。命も、未来も……貴女の心も。貴女は独りじゃないのよ」
「一緒なら……?」
「これまでの事で抱えていくものってあると思う。これから先の事で抱えなきゃってものもあると思う」
 キヅカが静かに語る。グリューエリンに──友達に向かって。
「だけど独りで背負わなくていい。……分けてくれなんて言わないよ。勝手に少し持っていく。そうすれば少しは……進みやすくなるでしょ?」
 グリューエリンは緑の瞳で皆を改めて見た。
「僕は知らないけど、色んな想いがあって今ここにいると思うんだよねー」
 フューリトはここにいる者、そしてここにはいない者の思いを感じるように、瞳を閉じた。
「ざくろも、もちろん歪虚は放っとけないけど、グリューエリンが心配だからここに来たんだよ」
 ざくろがにっこり笑う。
 ここに来て、ようやくグリューエリンは気付いたのだろう。
 自分が独りでなかったことに。
「よかった。私、独りぼっちではなかったのですね……」
 グリューエリンの顔には心の底からの安堵が広がっていた。


 この後、コウモリから発せられた歌声は検査に回された。
 歌っていた歌は、帝国で広く知られた歌であること、そして、声の主は少年であることが確定した。
 ゾンビの服装も、港周辺の住民と大差はない。
 また、キヅカの回収した石も、特に変わった成分はなく、帝国の近海にある島ならどこでも手に入るようなものであることがわかった。
 つまり、敵はそう遠くない場所にいるのだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 魂の灯火
    クリス・クロフォード(ka3628
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 寝る子は育つ!
    フューリト・クローバー(ka7146
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
クリス・クロフォード(ka3628
人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/07/04 08:38:56
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/30 21:05:23