ゲスト
(ka0000)
リベルタースの防人 棘×2=トゲトゲ
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/02 22:00
- 完成日
- 2018/07/09 23:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
例えば、歴史的に見て時代が鳴動するような瞬間、同じ世界で同じ時を過ごし、同じ空気を吸っていたとしても。それとは気づかずにただ日々を過ごしている人たちは大勢いる。
大勢いる、というか、このクリムゾンウェスト世界においては殆どの人間がそうだ。現代リアルブルー世界のような情報技術が発展していないこの世界においては、その中心地から離れれば離れる程、大きく時間的な齟齬が生じる。
「聞きましたか、たいちょ~。おうじょ様とたいこー様が結婚なさるそうですよ! びっくりです!」
王国リベルタース地方、グラズヘイム王国西海岸。かつて黒大公ベリアルの本拠地のあったイスルダ島の対岸に建てられた監視塔── この地にて、海から上陸して来る歪虚たちの警戒に当たるを任務とする兵隊たち、通称『リベルタースの防人』たちの、その内のほんの一分隊の長を務めるジャスパー・ダービーは、部下である女兵士ノエラ・ソヌラがそう呼吸を弾ませるのを耳にして、海に向けていた望遠鏡から目を離し……やおらそちらを振り返ると眉間を指で揉みしだいた。
「……びっくりなのはお前の頭だ。王女との縁談話が上がっていたのは、大公本人ではなくその孫だ」
溜め息交じりにジャスパーが指摘すると、ノエラはきょとんとした顔をした。
「そーなのですかぁ…… まあ、細かい話はどーでもいいです」
「おい」
「そんなことよりここからが最新情報です! なんと、その結婚に反対する大勢の人々が王都に押しかけているらしいのです! なんででしょうね、お目出たい話なのに」
「…………」
お目出たいのはお前の頭だ。そう言い掛けて言葉を失くした『たいちょーさん』は、こめかみを抑えて頭を振った。
「……王族や貴族の縁談は政争、という話は置いておく。どうせ言っても理解できないだろうからな」
「はい、ありがとうございます!」
「……。とりあえず、お前の情報はもう古い。王女と大公家との縁談話は白紙になった」
「ええっ!?」
「更に王女と大公を歪虚が襲ったが、これも撃退された」
「えええええっ!?」
驚天動地な反応を示すノエラ。最新の話題を持って来たつもりが、より最新の情報で返された。
「な、なんでそんなことが分かるんですか?! これ、ヘルメス通信(新聞)の最新号なのに!」
ジャスパーは無言で、最近、監視塔に配備されたばかりの無線通信機を指差してやった。王女が進める近代化により最近になって監視塔に導入されたものだ。
「ず、ずるいです!」
「あん?」
「そんなぶんめーの利器に頼るなんて! せっかく最新の恋バナを茶飲み話にしようと思っていたのに! そのコイバナ自体がなくなっちゃったじゃないですか! おのれ、文明の利器!」
「コイバナって、お前、王女と大公の……? っていうか、今の話、中隊長が朝礼で報告してたよね?」
「コイバナと繋がりませんでしたっ!」
「だよな、うん、知ってた。……っていうか、お前、その為にわざわざ監視塔の上まで戻って来たのか? 昼休憩だったろう?」
「はいっ!」
大きくそう頷くと、ノエラは持って来たパンをその場でもふもふ食べると、最後に水を一気に呷って食事を終えた。無言だったのは怒っていたからではなく、単にコイバナ以外の話題に興味がなかったからだろう。
「ごちそうさまでしたっ! それでは任務に戻ります!」
「うん、任務じゃなく休憩に、な」
「えへへ……」
「(なぜ笑う)」
お腹いっぱいになったからか、なんか機嫌を良くして笑顔ではしごを下りていくノエラ。共に監視に当たっていた部下のルイ・セルトン(この度、通信兵に任命された)が何か言いたげにジャスパーを見やる。
「……懐かれてますね」
「……アレでうちの中隊一の剣豪だっていうんだからなぁ」
「いえ、そういうことではなく……」
ルイが大きくため息をついていると、何かが梯子を駆け上がるドドド……という音が響いた。「たぁいぃちょぉぉおおおっ……!」という声が徐々に大きくなっていき、最高点に達したところでノエラがひょいと顔を出す。
「沖合、海上から何かが来ます! 数は2!」
「何か?」
「トゲトゲです!」
だから報告はいつも明瞭にしろと…… グチグチ小言を言いながらジャスパーは双眼鏡を海へと向けた。あっちです、とノエラがジャスパーの背中からひっついて指を差し。間近でその『たわみ』を見たルイがクワッとした顔をする。
「……いた。あれか…… 前に見た歪虚だな」
そんな部下二人にまったく頓着せず、ジャスパーはすぐに警報ならせの指示を出した。応じて飛び起き、すぐに手動式のサイレンを鳴らすノエラ。ルイは無線機で後方の駐屯地を呼び出し、歪虚出現の一方を入れる……
現れた2体の歪虚はいずれも『浮遊して前進する流体金属製のウニだかイガグリ』の様な外観の雑魔だった。その全長は約2m。本体部分の大きさはその半分程で、全身を覆う長い棘が残りの半分を占めている。
「ウニですか? 私にはマリモに見えますけどぉ」
「僕は綿毛の方のタンポポですかね」
……。ともかく、その『流体金属で出来たウニとかイガグリとかマリモとかタンポポとか言った外観をした、直系2m越えのトゲトゲ球形中型雑魔』は、時折、水面をぽ~んと高く跳ねてはふわふわと漂い下りつつ、平均して高度2m辺りをフワフワと漂いながら浜へと向かって来ていた。
「たしか、あの棘、やたらと硬かったよなあ…… 銃弾を跳弾させたり、刃先が本体に届くのを妨げたり……」
「私、覚えてますぅー。殴ってもふわふわ風船みたいで衝撃が伝わらなかったり……」
「ああ。攻撃手段として、反対側の棘を引っ込めて槍の様に突き出して来たり、棘を矢の様に射出して来たりな」
そう言う側から、海上の『金属ウニ』がキラリと光を放ち…… 直後、面前に突き出された何かに視界を塞がれたジャスパーはガンッ! という衝撃音を間近に聞いて硬直した。
目の前を塞いでいたのは横から掲げられたノエラの盾だった。その盾に阻まれた『ウニ』の射出棘は半ばまで盾を食い破っており、ジャスパーの眼前ギリギリで止まっていた。
「……すまん、ノエラ。助かった」
「えへへ~」
縦に刺さったその棘(なんかピチピチと跳ねている)を無造作に抜き捨てながら、ノエラがジャスパーにはにかんでみせる。
「前はどうにか棘を使わせた隙をついて本体を殴ったものだが……今回は2体か」
「……お互いに相方の隙をフォローし合ってくるでしょうね。どうしますか、隊長?」
ルイの質問にジャスパーは「よし」と頷いた。
「今回もハンターたちに任せよう」
大勢いる、というか、このクリムゾンウェスト世界においては殆どの人間がそうだ。現代リアルブルー世界のような情報技術が発展していないこの世界においては、その中心地から離れれば離れる程、大きく時間的な齟齬が生じる。
「聞きましたか、たいちょ~。おうじょ様とたいこー様が結婚なさるそうですよ! びっくりです!」
王国リベルタース地方、グラズヘイム王国西海岸。かつて黒大公ベリアルの本拠地のあったイスルダ島の対岸に建てられた監視塔── この地にて、海から上陸して来る歪虚たちの警戒に当たるを任務とする兵隊たち、通称『リベルタースの防人』たちの、その内のほんの一分隊の長を務めるジャスパー・ダービーは、部下である女兵士ノエラ・ソヌラがそう呼吸を弾ませるのを耳にして、海に向けていた望遠鏡から目を離し……やおらそちらを振り返ると眉間を指で揉みしだいた。
「……びっくりなのはお前の頭だ。王女との縁談話が上がっていたのは、大公本人ではなくその孫だ」
溜め息交じりにジャスパーが指摘すると、ノエラはきょとんとした顔をした。
「そーなのですかぁ…… まあ、細かい話はどーでもいいです」
「おい」
「そんなことよりここからが最新情報です! なんと、その結婚に反対する大勢の人々が王都に押しかけているらしいのです! なんででしょうね、お目出たい話なのに」
「…………」
お目出たいのはお前の頭だ。そう言い掛けて言葉を失くした『たいちょーさん』は、こめかみを抑えて頭を振った。
「……王族や貴族の縁談は政争、という話は置いておく。どうせ言っても理解できないだろうからな」
「はい、ありがとうございます!」
「……。とりあえず、お前の情報はもう古い。王女と大公家との縁談話は白紙になった」
「ええっ!?」
「更に王女と大公を歪虚が襲ったが、これも撃退された」
「えええええっ!?」
驚天動地な反応を示すノエラ。最新の話題を持って来たつもりが、より最新の情報で返された。
「な、なんでそんなことが分かるんですか?! これ、ヘルメス通信(新聞)の最新号なのに!」
ジャスパーは無言で、最近、監視塔に配備されたばかりの無線通信機を指差してやった。王女が進める近代化により最近になって監視塔に導入されたものだ。
「ず、ずるいです!」
「あん?」
「そんなぶんめーの利器に頼るなんて! せっかく最新の恋バナを茶飲み話にしようと思っていたのに! そのコイバナ自体がなくなっちゃったじゃないですか! おのれ、文明の利器!」
「コイバナって、お前、王女と大公の……? っていうか、今の話、中隊長が朝礼で報告してたよね?」
「コイバナと繋がりませんでしたっ!」
「だよな、うん、知ってた。……っていうか、お前、その為にわざわざ監視塔の上まで戻って来たのか? 昼休憩だったろう?」
「はいっ!」
大きくそう頷くと、ノエラは持って来たパンをその場でもふもふ食べると、最後に水を一気に呷って食事を終えた。無言だったのは怒っていたからではなく、単にコイバナ以外の話題に興味がなかったからだろう。
「ごちそうさまでしたっ! それでは任務に戻ります!」
「うん、任務じゃなく休憩に、な」
「えへへ……」
「(なぜ笑う)」
お腹いっぱいになったからか、なんか機嫌を良くして笑顔ではしごを下りていくノエラ。共に監視に当たっていた部下のルイ・セルトン(この度、通信兵に任命された)が何か言いたげにジャスパーを見やる。
「……懐かれてますね」
「……アレでうちの中隊一の剣豪だっていうんだからなぁ」
「いえ、そういうことではなく……」
ルイが大きくため息をついていると、何かが梯子を駆け上がるドドド……という音が響いた。「たぁいぃちょぉぉおおおっ……!」という声が徐々に大きくなっていき、最高点に達したところでノエラがひょいと顔を出す。
「沖合、海上から何かが来ます! 数は2!」
「何か?」
「トゲトゲです!」
だから報告はいつも明瞭にしろと…… グチグチ小言を言いながらジャスパーは双眼鏡を海へと向けた。あっちです、とノエラがジャスパーの背中からひっついて指を差し。間近でその『たわみ』を見たルイがクワッとした顔をする。
「……いた。あれか…… 前に見た歪虚だな」
そんな部下二人にまったく頓着せず、ジャスパーはすぐに警報ならせの指示を出した。応じて飛び起き、すぐに手動式のサイレンを鳴らすノエラ。ルイは無線機で後方の駐屯地を呼び出し、歪虚出現の一方を入れる……
現れた2体の歪虚はいずれも『浮遊して前進する流体金属製のウニだかイガグリ』の様な外観の雑魔だった。その全長は約2m。本体部分の大きさはその半分程で、全身を覆う長い棘が残りの半分を占めている。
「ウニですか? 私にはマリモに見えますけどぉ」
「僕は綿毛の方のタンポポですかね」
……。ともかく、その『流体金属で出来たウニとかイガグリとかマリモとかタンポポとか言った外観をした、直系2m越えのトゲトゲ球形中型雑魔』は、時折、水面をぽ~んと高く跳ねてはふわふわと漂い下りつつ、平均して高度2m辺りをフワフワと漂いながら浜へと向かって来ていた。
「たしか、あの棘、やたらと硬かったよなあ…… 銃弾を跳弾させたり、刃先が本体に届くのを妨げたり……」
「私、覚えてますぅー。殴ってもふわふわ風船みたいで衝撃が伝わらなかったり……」
「ああ。攻撃手段として、反対側の棘を引っ込めて槍の様に突き出して来たり、棘を矢の様に射出して来たりな」
そう言う側から、海上の『金属ウニ』がキラリと光を放ち…… 直後、面前に突き出された何かに視界を塞がれたジャスパーはガンッ! という衝撃音を間近に聞いて硬直した。
目の前を塞いでいたのは横から掲げられたノエラの盾だった。その盾に阻まれた『ウニ』の射出棘は半ばまで盾を食い破っており、ジャスパーの眼前ギリギリで止まっていた。
「……すまん、ノエラ。助かった」
「えへへ~」
縦に刺さったその棘(なんかピチピチと跳ねている)を無造作に抜き捨てながら、ノエラがジャスパーにはにかんでみせる。
「前はどうにか棘を使わせた隙をついて本体を殴ったものだが……今回は2体か」
「……お互いに相方の隙をフォローし合ってくるでしょうね。どうしますか、隊長?」
ルイの質問にジャスパーは「よし」と頷いた。
「今回もハンターたちに任せよう」
リプレイ本文
リベルタースの砂浜に、雷の如く銃声が轟いた。その場にいる戦力の中で最も長い射程を持つ防人たちが、上陸した2体の『白銀色』と『黒銀色』のウニに向かって一斉射撃を浴びせ掛けたのだ。
直後に遠くで鳴り響く甲高い金属音── 放たれた銃弾は、しかし、ウニの硬い棘に弾かれ、跳弾して周囲の海面や地面に水柱や砂柱を巻き上げるだけで終わる。
「なるほど、これは厄介そうな相手ですね…… 文字通り、手応えのありそうな的です」
「兵士諸君にはウニのトゲが発射されたところを狙ってもらった方が良さそうだ。トゲがリロードされるまでの少ない時間だが、ないよりはきっとマシさ」
その様子を見て呟くアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の傍らで、フワ ハヤテ(ka0004)がそう兵たちに告げる。
「おめーたち兵隊は後方から支援してくれればいーです。矢面に立つのは自分たちの仕事でやがります」
シレークス(ka0752)はそうノエラの頭をぐりぐりすると、円匙(ショベル)を肩に担いで前に出た。
「なぁに、こっちもあの時より進化(?)しているのです。今度は穴だらけにされてはねぇです」
そう言うと、シレークスはショベルを砂に突き立て、その場に穴を掘り始めた。それを見てノエラが不思議そうに小首を傾げる。
「あの雲丹だか毬藻だか軽い棘付き鉄球だかわからないものを嵌める為の穴ですか…… 出来るだけ早く掘ってくださいね。私の全身が穴だらけになる前に」
そんなシレークスの直掩につくのは、戦友のサクラ・エルフリード(ka2598)。自ら盾となって守る覚悟の彼女にニヤリと一つ笑みを返し……『怪力無双』によって発現した剛力に筋肉漲らせたシレークスが、まるでブルドーザーの様に土を掻き出し、海水を掛けて叩いて固めていく……
シレークスとサクラを除いた全員は、上陸を果たした敵の正面に展開して戦闘態勢を取った。近接組の3人を前衛に、魔術師のハヤテ、回復役のアデリシア、符術師の夜桜 奏音(ka5754)の3人を支援可能距離に置く。
「ところで、歪虚が身体を残した場合、塾生が進んで美味になった事例と、負のマテリアルが強すぎて腹を壊した事例の両方があると聞く。あの『ウニ』の場合はどうであったか?」
両腕を組んでジッと敵を睨み据えつつ、ルベーノ・バルバライン(ka6752)がサクラに訊いた。
「さぁ…… 歪虚になってからの日にちとか、個体差もあるようですし…… 実際に食べてみないと分からないんじゃないですかね」
「なるほど…… とりあえず殴ってみなければ話にならぬか」
ルベーノは礼を言うと、組んでいた腕を解いて、誰よりも早く、速く、敵へと向かって駆け出した。それが開戦の合図となった。
「砂浜ぐらいでは足は取られないわよ。むしろ、ランニングと持久力を鍛えるのにもってこい!」
ルベーノの後に続き、笑みを浮かべて走る同じ前衛組のカーミン・S・フィールズ(ka1559)。一方、無言で並走する不動 シオン(ka5395)の表情はどこかまだ暗く重い……
ウニたちも攻撃を開始する。ひゅんひゅんと風を切る棘の音に、ハヤテの後ろについて来た兵士たちが首を竦める。
「君たちはこの壁に隠れながら射撃をするといいよ。ボクのはかなり頑丈だからね」
ハヤテは『アースウォール』で土壁を作ると兵士たちにそう勧めた。自身への被弾機会を分散してくれる肉壁の損耗を減らすことが目的だったが、勿論、口に出したりはしない。
一方、前衛に向かってウニたちが放った棘はその悉くが躱された。無理筋を悟ったのか、ウニたちは長距離からの狙撃を断念して中距離連射に攻撃手段を切り替える。
(知能が有るのか無いのかよくわからん奴だが、どうやら状況を判断する能力はあるようだな)
回避先を潰す様に棘を連射し始めた敵に対抗し、アデリシアは前衛組へ続けざまに戦乙女の加護を付与した。敵の攻撃をあらぬ方へと逸らす、戦神の御業の一つだ。
「味方の前進を支援します。まずはこちらに敵の注意を向けさせますかね」
奏音はカードホルダーから牡丹灯籠の描かれた符を5枚抜き出すと、指で広げたそれを前方へと投げ放った。5枚の符はそれぞれ5色に発光しながら風に舞う様に飛翔して、黒銀を取り囲むように地面へ張り付き、結界を形成。直後、その内部を満たすように沸き上がった光の柱が閃光と化して敵を灼く。
「……阻害効果の方は抵抗されましたか。なら……」
続けざま、奏音はエンシェントギア「マルドゥック」を起動した。魔導装置の16のギアがカチカチと動き出し、その内の10がより強い光を放ち始める。
だが、彼女が術を発動するより早く、術者の存在を感知したウニたちが奏音に棘を放ち始め…… それを見たシオンは両手に構えた自動拳銃から牽制射を撃ち放った。オートマチック「エヘールシト」──派手さは無いが安定した弾道性能を持つ、手に馴染むプロのツールだ。だが……
「……なるほど、中々硬そうなウニじゃないか」
その銃弾を弾かれて、シオンの表情がウズと動いた。それまでが嘘の様に瞳に生気が漲り始める。
シオンは、ただ真正面からぶつかって勝てる相手に興味はなかった。彼女が斬り伏せるに値するのは、こちらの正面攻撃など軽くいなし、搦手や不意打ちなどに対しても動じず、怯まず、隙すら見せず、最後の最後まで徹底して対抗してくる強敵のみ。故に、敵との間には、正道も、信義も、和解も、許容も必要ない。彼女が希求するのは徹底的に、無残で、無慈悲で、生き汚い、救いなど欠片も存在しない命懸けの死闘でなければならない……
神楽舞う奏音を守るように屹立するハヤテの土壁── その間に誰よりも早く敵への接近を果たしたルベーノが、射撃するウニを殴り飛ばしてその体勢を大きく崩した。
「ハッハッハッ! 本当にバルーンみたいに跳ぶではないか! 前衛全員で囲んでビーチバレーというのもなかなか面白そうだ!」
反撃の棘が乱射される中、高笑いをするルベーノ。アデリシアが付与した戦神の加護は正常に効果を発揮していた。放たれた棘は彼を避けるように傍らを飛び抜けて行き……唯一、直撃コースに乗った1本は拳で掴み取る。
「フワフワとして攻撃が通り辛いというのなら……まずはそれを固めないとお話にならないわけですね」
敵を射程に捉えたアデリシアが『ブルガトリオ』を発動した。黒銀の周囲に生じた闇の蟠りから突き立つ刃──それは更なる棘塗れとなったウニの身体をその場に縫い付け、空中に固着する。
「これで跳ねなくなれば儲けもの。さあ、諸君、検証といこう」
ハヤテの言葉に応じて敵へと迫る前衛。同時に、鈴を鳴らすように奉納の神楽舞を終えた奏音の黒髪と白き衣がふわりと浮かび……彼女をそよいでいった風は集いて奔流を成し、白き光の激流と化して『黒銀』を呑み込んだ。
対する黒銀の反撃は──しかし、自覚も無いままに白銀へと放たれた。それは奏音が放った『白竜の息吹』の効果だった。対象を混乱させることで敵の攻撃を抑止する白竜の力だ。
何かされたと悟った黒銀は即座に攻撃手段を変更した。対象を取らない無差別の全周範囲攻撃を接近する前衛に向け放ったのだ。
その圧倒的な『棘の帳』を、カーミンは瞬き一つも挟まずに見定めた。機械指輪から繋がる光の回路── 隙間を潜るようにすり抜けた彼女の残像しか棘たちは捉えられず。技名『千日紅』が持つ『不朽』の花言葉の如く、カーミンに触れる事すら能わない。
「咲き誇れぇ!」
回路の繋がる蒼機槍── その光刃を形成するマテリアルに『オレアンダー』の毒を混ぜ込み、白銀に向けて高加速射撃。技名『藤袴』の花言葉『ためらい』『遅れ』の通り、敵が反応するより早くその一撃を本体へと届かせる。
一方、その弾幕を一切躱さずに突破して来たのはシオンだった。銃を投げ捨て、鞘すら放って、その瞳を妖しく光らせつつ、黒の混じった紫焔を引いて、抜き身を提げて敵へと迫る。
「私の村正と貴様の棘…… どちらが硬くて鋭いか、試してみるとしようじゃないか……!」
相手を滅ぼすという明確な殺意を振りまきながら、シオンは爆炎の如き閃光を振りまくその刀身を黒銀目掛けて振り下ろした。残った棘を幾重に重ねてその一撃を受け凌がんとする黒銀── シオンは口の端の笑みを深くすると、その棘の何本かを断ち割りつつ、その刃を敵本体へと届かせた。
「どうやら実験結果が出たね」
棘の破片の舞う中、ウニと切り結ぶシオンを見やって、ハヤテがそう呟いた。
アデリシアの闇の刃で空中に固着されたウニは、自ら跳んでダメージを軽減することが出来なくなっていた。
●
突き出された棘の槍を「フンッ!」と両腕の籠手を交差させて受け止めて。ルベーノはお返しとばかりに抉り込む様にして敵に鉄爪を突き入れた。
互いに足を止めてのドツキ合い── アデリシアの闇の刃を砕いた黒銀がそれから逃れ、間合いを取りに掛かる。ルベーノは追撃を仕掛けず、ハヤテの呼びかけに応じて一旦、後方へと跳び退さる。
ハヤテはそれを確認すると、黒銀に向かって紫色の重力場を集束させていった。『アースウォール』と『グラビティフォール』の同時詠唱──ひどく難易度の高い荒業を、ハヤテは複雑化したマテリアルの流れを整然と調整しながら、淡々と、軽々と、2つの術式を同時に構築して見せる。
直後、黒銀の周囲に集束した重力場が限界を超えて圧壊し、重圧が一気にウニの身体を圧し潰す。その場から逃れようとして、しかし、動きの鈍った黒銀を、アデリシアは『ブルガトリオ』で再度空中に拘束した。反撃は、しかし、その半数が白銀へと飛んだ。奏音の白竜の力はいまだに黒銀を捉えて逃さない……
その黒銀を庇うように、白銀が前に出た。
2体は二重惑星の様に互いの周りをクルクル回転し始め、無防備になった部分を『自転』と『公転』で互いにフォローし、カバーする。
そうして後顧の憂いを失くしてからの2体のウニの全力攻撃──それぞれの反面を使った無差別一斉範囲射撃が放たれた。回避の余地も無いほどに密度を高めた『棘の壁』がまるで爆発の衝撃波の如くハンターたちを薙ぎ払う。
ハヤテが立て続けた土壁が一瞬で崩れ去り。思わず身を固まらせてしまった奏音を式神が庇って千々に消え。身体のそこかしこから血を流したシオンが、「……ハハハッ。まだ私は生きているぞ! 先に殺さなければ明日は無いぞ!」と再び敵へ向かって走る。
「……っ! 立て直します!」
「皆さん、踏ん張ってください……!」
光の防御壁で棘の豪雨を凌いだアデリシアとサクラが、行動を回復へと切り替え、仲間たちに光を飛ばし。掘った穴が塹壕代わりとなって被弾しなかったシレークスが「ん?」と顔を上げる。
ハヤテは続けざまの同時詠唱で土壁を再興しながら、銀の指輪に光を曳いて、前面に5本の魔法の矢を横一列に展開させた。前面に伸び立った土壁を超える様にそれを投射するハヤテ。弧を描き、斜め上方から降り来た魔力の矢が2体のウニと周囲へ突き立ち、衝撃がウニの身体と地面とを震わせる。
直後、ルベーノの肩を足場に宙高く跳躍したカーミンが、身を捻りながら黒銀の『頭部』へ槍の穂先を突き下ろし。そのまま棒高跳びの要領で白銀と黒銀、両者の間にスルリと着地する。
「その針、痛いんだっけ? ごめん、当たんないから分っかんないわー」
一瞬の硬直の後、我に返って『槍』を繰り出す白と黒。だが、その直前にカーミンはスルリと両者の間を抜け出している。
突き出された槍がそれぞれ互いの身体を突き殴り…… 玉突きの様に2体が離れて、弱点部位が露になる。
「! サクラ、白を任せやがります! アデは回復を!」
「……! 本気ですか……!」
瞬間、離れた黒銀に向かって、穴から飛び出したシレークスが防御も捨てて一気に駆け寄り。一方、サクラは両手いっぱいに保持した盾で以って流れて来た白銀をフルスイング。その動きを加速させてシレークスが掘った穴の方へと流してやる。
すーっ、と宙を滑るように流れて行った白銀の下半分が、ふわっといった感じですっぽりと穴に嵌る。その瞬間、奏音は間髪入れずに地縛符2枚を投擲した。穴の底と側壁の土を泥状にして接触している棘を呑み込み、穴の底に固定化する。
「今です!」
ハヤテの号令の下、一斉に銃撃を浴びせ掛ける防人たち。ハヤテ本人もまた『グラビティウォール』と『マジックミサイル』、攻撃魔法の二重詠唱を連続して一気に畳み掛ける。
一気呵成の攻めを受ける白銀を助けるべく向かおうとした黒銀は、しかし、突っ込んで来たシレークスが傷つくのも構わずに突き立てた手刀と、そこからのアイアンクローで本体をがっちり掴まれた。
「そっちには行かせねーのですよ……!」
その拘束を解かんと黒銀が彼女の身体をざくざくと切り刻み、それをアデリシアが『フルリカバリー』で癒し直す。
「まったく! どんな無茶ですか! また穴だらけじゃないですか!」
叫ぶアデリシアの傍らを駆け抜け、シレークスの隣りに走り寄ったルベーノが『ガウスジェイル』で彼女に向かう攻撃を自身の方へと捻じ曲げた。躱しもせず、受けもせず……その因果を用いてそのダメージを己の攻撃力へと転化。シレークスと呼吸を合わせてカウンターでぶん殴る。
「もういいです。放してください!」
奏音の地縛符連打によって拘束された白銀がハヤテの連続同時詠唱によって、潰され、千切られ、魔法の矢に打たれて壊滅するのを確認して、サクラは黒銀を振り返って闇の刃で固着した。
それを確認して『槍』の範囲外へと下がるシレークス。その間にシオンが背後(?)から白銀に迫り寄り……棘を飛ばして丸坊主になったその本体に妖刀村正を抜き打ちにした。
「これは勝負ではなく殺し合いだ。隙を見せれば命は無い──それが真剣勝負だと、身を以って思い知れ……!」
魔法威力を乗せた刃が逆薙ぎの一文字に白銀の本体を断ち割って── ずるり、と真っ二つに分かれてずれた球体がパァン! と弾けて消え去った。
●
「こんな事もあろうかと、水着を着て来て正解だったのです…… さあ、サクラにアデ! 汗と砂塗れになった身体を海で綺麗にしていくのです!」
戦闘後。すっかり傷を癒したシレークスが、穴と血塗れになった服を脱ぎ捨て、海へと向かって走っていく。付き合わされたサクラとアデリシアは無言でそれを見送って……「ここって最前線の海岸ですよね」とポツリと呟き。直後、巨大タコ雑魔に襲われる戦友を見て、溜め息交じりに助けに向かう。
2体のウニは歪虚化して長い時間が立っていたらしく、後に何も残さずに消失したが……タコの雑魔はその身を残していった為、ルベーノはそれを酒の肴に美味しく頂いたという。
直後に遠くで鳴り響く甲高い金属音── 放たれた銃弾は、しかし、ウニの硬い棘に弾かれ、跳弾して周囲の海面や地面に水柱や砂柱を巻き上げるだけで終わる。
「なるほど、これは厄介そうな相手ですね…… 文字通り、手応えのありそうな的です」
「兵士諸君にはウニのトゲが発射されたところを狙ってもらった方が良さそうだ。トゲがリロードされるまでの少ない時間だが、ないよりはきっとマシさ」
その様子を見て呟くアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の傍らで、フワ ハヤテ(ka0004)がそう兵たちに告げる。
「おめーたち兵隊は後方から支援してくれればいーです。矢面に立つのは自分たちの仕事でやがります」
シレークス(ka0752)はそうノエラの頭をぐりぐりすると、円匙(ショベル)を肩に担いで前に出た。
「なぁに、こっちもあの時より進化(?)しているのです。今度は穴だらけにされてはねぇです」
そう言うと、シレークスはショベルを砂に突き立て、その場に穴を掘り始めた。それを見てノエラが不思議そうに小首を傾げる。
「あの雲丹だか毬藻だか軽い棘付き鉄球だかわからないものを嵌める為の穴ですか…… 出来るだけ早く掘ってくださいね。私の全身が穴だらけになる前に」
そんなシレークスの直掩につくのは、戦友のサクラ・エルフリード(ka2598)。自ら盾となって守る覚悟の彼女にニヤリと一つ笑みを返し……『怪力無双』によって発現した剛力に筋肉漲らせたシレークスが、まるでブルドーザーの様に土を掻き出し、海水を掛けて叩いて固めていく……
シレークスとサクラを除いた全員は、上陸を果たした敵の正面に展開して戦闘態勢を取った。近接組の3人を前衛に、魔術師のハヤテ、回復役のアデリシア、符術師の夜桜 奏音(ka5754)の3人を支援可能距離に置く。
「ところで、歪虚が身体を残した場合、塾生が進んで美味になった事例と、負のマテリアルが強すぎて腹を壊した事例の両方があると聞く。あの『ウニ』の場合はどうであったか?」
両腕を組んでジッと敵を睨み据えつつ、ルベーノ・バルバライン(ka6752)がサクラに訊いた。
「さぁ…… 歪虚になってからの日にちとか、個体差もあるようですし…… 実際に食べてみないと分からないんじゃないですかね」
「なるほど…… とりあえず殴ってみなければ話にならぬか」
ルベーノは礼を言うと、組んでいた腕を解いて、誰よりも早く、速く、敵へと向かって駆け出した。それが開戦の合図となった。
「砂浜ぐらいでは足は取られないわよ。むしろ、ランニングと持久力を鍛えるのにもってこい!」
ルベーノの後に続き、笑みを浮かべて走る同じ前衛組のカーミン・S・フィールズ(ka1559)。一方、無言で並走する不動 シオン(ka5395)の表情はどこかまだ暗く重い……
ウニたちも攻撃を開始する。ひゅんひゅんと風を切る棘の音に、ハヤテの後ろについて来た兵士たちが首を竦める。
「君たちはこの壁に隠れながら射撃をするといいよ。ボクのはかなり頑丈だからね」
ハヤテは『アースウォール』で土壁を作ると兵士たちにそう勧めた。自身への被弾機会を分散してくれる肉壁の損耗を減らすことが目的だったが、勿論、口に出したりはしない。
一方、前衛に向かってウニたちが放った棘はその悉くが躱された。無理筋を悟ったのか、ウニたちは長距離からの狙撃を断念して中距離連射に攻撃手段を切り替える。
(知能が有るのか無いのかよくわからん奴だが、どうやら状況を判断する能力はあるようだな)
回避先を潰す様に棘を連射し始めた敵に対抗し、アデリシアは前衛組へ続けざまに戦乙女の加護を付与した。敵の攻撃をあらぬ方へと逸らす、戦神の御業の一つだ。
「味方の前進を支援します。まずはこちらに敵の注意を向けさせますかね」
奏音はカードホルダーから牡丹灯籠の描かれた符を5枚抜き出すと、指で広げたそれを前方へと投げ放った。5枚の符はそれぞれ5色に発光しながら風に舞う様に飛翔して、黒銀を取り囲むように地面へ張り付き、結界を形成。直後、その内部を満たすように沸き上がった光の柱が閃光と化して敵を灼く。
「……阻害効果の方は抵抗されましたか。なら……」
続けざま、奏音はエンシェントギア「マルドゥック」を起動した。魔導装置の16のギアがカチカチと動き出し、その内の10がより強い光を放ち始める。
だが、彼女が術を発動するより早く、術者の存在を感知したウニたちが奏音に棘を放ち始め…… それを見たシオンは両手に構えた自動拳銃から牽制射を撃ち放った。オートマチック「エヘールシト」──派手さは無いが安定した弾道性能を持つ、手に馴染むプロのツールだ。だが……
「……なるほど、中々硬そうなウニじゃないか」
その銃弾を弾かれて、シオンの表情がウズと動いた。それまでが嘘の様に瞳に生気が漲り始める。
シオンは、ただ真正面からぶつかって勝てる相手に興味はなかった。彼女が斬り伏せるに値するのは、こちらの正面攻撃など軽くいなし、搦手や不意打ちなどに対しても動じず、怯まず、隙すら見せず、最後の最後まで徹底して対抗してくる強敵のみ。故に、敵との間には、正道も、信義も、和解も、許容も必要ない。彼女が希求するのは徹底的に、無残で、無慈悲で、生き汚い、救いなど欠片も存在しない命懸けの死闘でなければならない……
神楽舞う奏音を守るように屹立するハヤテの土壁── その間に誰よりも早く敵への接近を果たしたルベーノが、射撃するウニを殴り飛ばしてその体勢を大きく崩した。
「ハッハッハッ! 本当にバルーンみたいに跳ぶではないか! 前衛全員で囲んでビーチバレーというのもなかなか面白そうだ!」
反撃の棘が乱射される中、高笑いをするルベーノ。アデリシアが付与した戦神の加護は正常に効果を発揮していた。放たれた棘は彼を避けるように傍らを飛び抜けて行き……唯一、直撃コースに乗った1本は拳で掴み取る。
「フワフワとして攻撃が通り辛いというのなら……まずはそれを固めないとお話にならないわけですね」
敵を射程に捉えたアデリシアが『ブルガトリオ』を発動した。黒銀の周囲に生じた闇の蟠りから突き立つ刃──それは更なる棘塗れとなったウニの身体をその場に縫い付け、空中に固着する。
「これで跳ねなくなれば儲けもの。さあ、諸君、検証といこう」
ハヤテの言葉に応じて敵へと迫る前衛。同時に、鈴を鳴らすように奉納の神楽舞を終えた奏音の黒髪と白き衣がふわりと浮かび……彼女をそよいでいった風は集いて奔流を成し、白き光の激流と化して『黒銀』を呑み込んだ。
対する黒銀の反撃は──しかし、自覚も無いままに白銀へと放たれた。それは奏音が放った『白竜の息吹』の効果だった。対象を混乱させることで敵の攻撃を抑止する白竜の力だ。
何かされたと悟った黒銀は即座に攻撃手段を変更した。対象を取らない無差別の全周範囲攻撃を接近する前衛に向け放ったのだ。
その圧倒的な『棘の帳』を、カーミンは瞬き一つも挟まずに見定めた。機械指輪から繋がる光の回路── 隙間を潜るようにすり抜けた彼女の残像しか棘たちは捉えられず。技名『千日紅』が持つ『不朽』の花言葉の如く、カーミンに触れる事すら能わない。
「咲き誇れぇ!」
回路の繋がる蒼機槍── その光刃を形成するマテリアルに『オレアンダー』の毒を混ぜ込み、白銀に向けて高加速射撃。技名『藤袴』の花言葉『ためらい』『遅れ』の通り、敵が反応するより早くその一撃を本体へと届かせる。
一方、その弾幕を一切躱さずに突破して来たのはシオンだった。銃を投げ捨て、鞘すら放って、その瞳を妖しく光らせつつ、黒の混じった紫焔を引いて、抜き身を提げて敵へと迫る。
「私の村正と貴様の棘…… どちらが硬くて鋭いか、試してみるとしようじゃないか……!」
相手を滅ぼすという明確な殺意を振りまきながら、シオンは爆炎の如き閃光を振りまくその刀身を黒銀目掛けて振り下ろした。残った棘を幾重に重ねてその一撃を受け凌がんとする黒銀── シオンは口の端の笑みを深くすると、その棘の何本かを断ち割りつつ、その刃を敵本体へと届かせた。
「どうやら実験結果が出たね」
棘の破片の舞う中、ウニと切り結ぶシオンを見やって、ハヤテがそう呟いた。
アデリシアの闇の刃で空中に固着されたウニは、自ら跳んでダメージを軽減することが出来なくなっていた。
●
突き出された棘の槍を「フンッ!」と両腕の籠手を交差させて受け止めて。ルベーノはお返しとばかりに抉り込む様にして敵に鉄爪を突き入れた。
互いに足を止めてのドツキ合い── アデリシアの闇の刃を砕いた黒銀がそれから逃れ、間合いを取りに掛かる。ルベーノは追撃を仕掛けず、ハヤテの呼びかけに応じて一旦、後方へと跳び退さる。
ハヤテはそれを確認すると、黒銀に向かって紫色の重力場を集束させていった。『アースウォール』と『グラビティフォール』の同時詠唱──ひどく難易度の高い荒業を、ハヤテは複雑化したマテリアルの流れを整然と調整しながら、淡々と、軽々と、2つの術式を同時に構築して見せる。
直後、黒銀の周囲に集束した重力場が限界を超えて圧壊し、重圧が一気にウニの身体を圧し潰す。その場から逃れようとして、しかし、動きの鈍った黒銀を、アデリシアは『ブルガトリオ』で再度空中に拘束した。反撃は、しかし、その半数が白銀へと飛んだ。奏音の白竜の力はいまだに黒銀を捉えて逃さない……
その黒銀を庇うように、白銀が前に出た。
2体は二重惑星の様に互いの周りをクルクル回転し始め、無防備になった部分を『自転』と『公転』で互いにフォローし、カバーする。
そうして後顧の憂いを失くしてからの2体のウニの全力攻撃──それぞれの反面を使った無差別一斉範囲射撃が放たれた。回避の余地も無いほどに密度を高めた『棘の壁』がまるで爆発の衝撃波の如くハンターたちを薙ぎ払う。
ハヤテが立て続けた土壁が一瞬で崩れ去り。思わず身を固まらせてしまった奏音を式神が庇って千々に消え。身体のそこかしこから血を流したシオンが、「……ハハハッ。まだ私は生きているぞ! 先に殺さなければ明日は無いぞ!」と再び敵へ向かって走る。
「……っ! 立て直します!」
「皆さん、踏ん張ってください……!」
光の防御壁で棘の豪雨を凌いだアデリシアとサクラが、行動を回復へと切り替え、仲間たちに光を飛ばし。掘った穴が塹壕代わりとなって被弾しなかったシレークスが「ん?」と顔を上げる。
ハヤテは続けざまの同時詠唱で土壁を再興しながら、銀の指輪に光を曳いて、前面に5本の魔法の矢を横一列に展開させた。前面に伸び立った土壁を超える様にそれを投射するハヤテ。弧を描き、斜め上方から降り来た魔力の矢が2体のウニと周囲へ突き立ち、衝撃がウニの身体と地面とを震わせる。
直後、ルベーノの肩を足場に宙高く跳躍したカーミンが、身を捻りながら黒銀の『頭部』へ槍の穂先を突き下ろし。そのまま棒高跳びの要領で白銀と黒銀、両者の間にスルリと着地する。
「その針、痛いんだっけ? ごめん、当たんないから分っかんないわー」
一瞬の硬直の後、我に返って『槍』を繰り出す白と黒。だが、その直前にカーミンはスルリと両者の間を抜け出している。
突き出された槍がそれぞれ互いの身体を突き殴り…… 玉突きの様に2体が離れて、弱点部位が露になる。
「! サクラ、白を任せやがります! アデは回復を!」
「……! 本気ですか……!」
瞬間、離れた黒銀に向かって、穴から飛び出したシレークスが防御も捨てて一気に駆け寄り。一方、サクラは両手いっぱいに保持した盾で以って流れて来た白銀をフルスイング。その動きを加速させてシレークスが掘った穴の方へと流してやる。
すーっ、と宙を滑るように流れて行った白銀の下半分が、ふわっといった感じですっぽりと穴に嵌る。その瞬間、奏音は間髪入れずに地縛符2枚を投擲した。穴の底と側壁の土を泥状にして接触している棘を呑み込み、穴の底に固定化する。
「今です!」
ハヤテの号令の下、一斉に銃撃を浴びせ掛ける防人たち。ハヤテ本人もまた『グラビティウォール』と『マジックミサイル』、攻撃魔法の二重詠唱を連続して一気に畳み掛ける。
一気呵成の攻めを受ける白銀を助けるべく向かおうとした黒銀は、しかし、突っ込んで来たシレークスが傷つくのも構わずに突き立てた手刀と、そこからのアイアンクローで本体をがっちり掴まれた。
「そっちには行かせねーのですよ……!」
その拘束を解かんと黒銀が彼女の身体をざくざくと切り刻み、それをアデリシアが『フルリカバリー』で癒し直す。
「まったく! どんな無茶ですか! また穴だらけじゃないですか!」
叫ぶアデリシアの傍らを駆け抜け、シレークスの隣りに走り寄ったルベーノが『ガウスジェイル』で彼女に向かう攻撃を自身の方へと捻じ曲げた。躱しもせず、受けもせず……その因果を用いてそのダメージを己の攻撃力へと転化。シレークスと呼吸を合わせてカウンターでぶん殴る。
「もういいです。放してください!」
奏音の地縛符連打によって拘束された白銀がハヤテの連続同時詠唱によって、潰され、千切られ、魔法の矢に打たれて壊滅するのを確認して、サクラは黒銀を振り返って闇の刃で固着した。
それを確認して『槍』の範囲外へと下がるシレークス。その間にシオンが背後(?)から白銀に迫り寄り……棘を飛ばして丸坊主になったその本体に妖刀村正を抜き打ちにした。
「これは勝負ではなく殺し合いだ。隙を見せれば命は無い──それが真剣勝負だと、身を以って思い知れ……!」
魔法威力を乗せた刃が逆薙ぎの一文字に白銀の本体を断ち割って── ずるり、と真っ二つに分かれてずれた球体がパァン! と弾けて消え去った。
●
「こんな事もあろうかと、水着を着て来て正解だったのです…… さあ、サクラにアデ! 汗と砂塗れになった身体を海で綺麗にしていくのです!」
戦闘後。すっかり傷を癒したシレークスが、穴と血塗れになった服を脱ぎ捨て、海へと向かって走っていく。付き合わされたサクラとアデリシアは無言でそれを見送って……「ここって最前線の海岸ですよね」とポツリと呟き。直後、巨大タコ雑魔に襲われる戦友を見て、溜め息交じりに助けに向かう。
2体のウニは歪虚化して長い時間が立っていたらしく、後に何も残さずに消失したが……タコの雑魔はその身を残していった為、ルベーノはそれを酒の肴に美味しく頂いたという。
依頼結果
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相談卓 フワ ハヤテ(ka0004) エルフ|26才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/07/02 14:36:28 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/01 01:58:24 |