ゲスト
(ka0000)
我輩と料理教室である
マスター:瑞木雫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2018/07/04 07:30
- 完成日
- 2018/07/20 02:08
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ギアン・アナスタージ(kz0165)は、同盟で名を馳せている料理人である。
新星の如く現れ、様々なコンテストにて賞を勝ち獲り続けてきた彼を、人はこう呼ぶ。
――“料理界の彗星”、と。
「ねぇ、ギアン! お料理教室に興味ない?」
そう言って広告チラシを手渡したのは――ギアンの姉のロザリーナ・アナスタージ(kz0138)だった。
ギアンはチラシを受け取りながら、眉を潜める。
この時点でなんとなく、“姉のお願い”の内容を察しながら……。
「料理教室?」
「そう! 最近、料理教室の事業を始めたのだけれど、結構人気なのよ♪ それでね。生徒の皆さんから、あなたをぜひ特別講師として呼んで欲しいっていうご要望があって――」
ちらっちらっ。
そんなふうに期待しながら見つめてくる姉を見ながら、『ほらやっぱり…』とギアンは内心で呟いた。
「……我輩は、人に教える柄ではない」
「そうかしら? 私はギアンだったら、“料理教室の先生”も、ちゃんと出来ると思うわよ♪」
「……」
ロザリーナの交渉は止まらない。
「最大の人数は4人に設定しましょう♪ 作る料理は……何が良いかしら? 最近お菓子作りにも嵌ってるみたいだし、お菓子でもいいわねっ♪」
「別に……。本当に上手に作れるようになりたいものなんて、人それぞれ違うものなのだから、我輩はどうせやるなら、望まれているものを教えたいが――」
「まぁ! それは名案ねっ! そうしましょうよ♪」
「いや。まだ引き受けるとは言っておらぬ」
「えーっ」
ギアンは、もう少し慎重に考えてから返事をしたかった。
だがロザリーナがそうさせてくれず、ぐいぐいと返事を迫られていく。
「いつものように料理人として料理をするのも楽しいだろうけれど、きっと先生をするのも面白いわよ♪ 私もお手伝いとして、ちゃんと補佐するわっ。ねっ! だから引き受けてくれるでしょう?」
「そんなすぐには返事できん。我輩は料理教室の先生など、した事が無いのだぞ」
「あら? 自信がないの?」
ロザリーナは首を傾げながら、きょとんとした。
勿論彼女に悪気はない。
――が。
どうやらギアンのプライドに火を点けてしまったらしい。
「我輩が、自信が無いわけなかろうっ」
料理人ではなく先生という、いつもとは特殊な立場であれど……。
ギアンは料理に関する事には、絶対の自信があった。
“我輩がつくる料理は美味い”
“故に、そんな我輩が教えるのだから、美味く作れない筈がない”
――と。
「じゃあ、決まりね♪」
そうしてロザリーナは、微笑みながら開講を決めてしまい、自身のスケジュール帳にそう書き込むのだった。
********
ロザリーナが創設したお料理教室――【Rose Cooking】で、彼女の弟であるギアン・アナスタージが講師として、特別レッスンを担当するらしい。
そのまま告知チラシを読んでいくと、『お好きなお料理・お菓子(デザート)が極められるレッスン!』という文字が目に飛び込むだろう。
どうやら生徒一人一人作る料理は違って良いらしく、美味しいレシピを教えてくれる上、美味しく作るコツ等も教えてくれるのだとか。
レッスンの開講日は、偶々予定の無い日だった。
だったら行ってみようかな? と、思った貴方は、申込書に作りたい料理・お菓子を書き込み――【Rose Cooking】に送るのだった。
リプレイ本文
ギアン・アナスタージは、のちに其の日を振り返って、目を細める。
“食べて貰いたい人がいる”
そんな彼ら彼女らの想いが、微笑ましい。
そしていつか、その料理を食べて貰う日には……
君達が込めた愛情が、伝わりますように。
――そう、心密かに願うのだった。
●
「小夜殿、来てくれていたのだな」
ギアンが声を掛けると、浅黄 小夜(ka3062)はぺこりとお辞儀をした。
小夜は以前、薔薇の花屋にてギアンから様々なレシピを教わっていた。
あれから練習や機会もあって、余程のトラブルがなければそれなりに一人で出来る様にもなった。
けれど……。
「まだ見た目や…細やかな味までは…、美味しく…できなくて…。そういうコツなどを…教えて貰えたら嬉しく…。いつもよりちょっとだけ綺麗やったり…丁寧な味になれると…嬉しい…です」
「そうか。そういうことなら、任せたまえ。我輩で良ければ力になろう」
「ありがとう…ございます。ギアンのお兄はん…」
小夜はお礼を伝えつつ。
心秘かに、食べて貰いたいと思う大切な人――仲良しのお兄さんの事を思い浮かべ、頑張ろう、と意気込んだ。
「今回作りたいのは、『ガーデンパーティーに出す軽食』だよ。東方や蒼世界にも合う料理って事で、『手毬寿司』を作ってみたいんだ」
カフカ・ブラックウェル(ka0794)はそう言うと、早速調理を始めた。
「まずは酢飯だね。黄金比は米酢4:砂糖2:塩1…米も入れた比率は米36:米酢4:砂糖2:塩1、か。今回は4合の米をやや固めに炊いて――。ごはん全体にすし酢を回しかけて切るように混ぜる……こういうやり方で良いのかな、ギアン先生?」
「ああ。ていうか……」
手際が良く、美味しく作るコツも心得ているようなカフカに、神妙な顔つきでギアンが一言。
「君、我輩に教わる必要あるのかね」
「まぁまぁ。そう言わずに頼むよ、ギアン先生」
ブラックウェル家は代々男の方が腕が良い家系であるらしい。
「勿論、母さんの料理は十二分に美味しいよ。けど、父さんの料理の腕は更にその上をいってたし――そんな父さん直伝で僕も覚えたけど…。そうだね。…人並みには出来る筈だよ、多分」
少しはにかむように微笑むカフカ。
「あ、ロゼ。手伝ってくれる?」
「はーい♪」
ギアンは、カフカに呼ばれ、楽しそうにお手伝いに行くロザリーナを見ながら、
(カフカ殿は恐らく姉より、料理が得意なのだろうな…)
なんて。
心の中でぽつりと呟くのだった。
「材料はささっとみじん切りに。素材毎にお皿を分けて、小麦粉もサッとふるいにかけて大きめのボウルに入れる――っと。下茹でしたタコさんは、市販のより大きめにカットしようかなぁ♪」
ミィナ・アレグトーリア(ka0317)は料理慣れした手際の良さで、下準備を完璧にこなしていた。
ただ和食については、これまで作った機会がなかったようで、お出汁をとるのは初挑戦。
ギアンが横で見守る中、一生懸命、鍋とにらめっこしている。
ミィナは西洋料理とお菓子作りが得意だ。
しかしどうやら、和食は勝手が違うようで……。
「えと、お出汁は昆布を戻して火をつけて、沸騰したら鰹節入れて煮る、でええんかな? 昆布は沸騰前に取り出すのん? ブイヨンやコンソメみたいに煮込まなくていいん?」
「その通り。沸騰するまで煮てしまうと、風味が損なわれてしまうのだ」
「そうなのん? それはいけないのん!」
「うむ。出汁を取る時の重要なポイントなのである」
一方、大伴 鈴太郎(ka6016)は、ホッとしていた。
「鈴さんも一緒で嬉しいのん! 美味しいお料理作れるように、頑張るのんー♪」
「あぁ! オレもミィナと一緒で嬉しい。頑張ろうなっ!」
ミィナと仲良く微笑み合った鈴太郎。
ロザリーナの教室なら…と思い切って参加してみたが、生徒は全員顔見知りな上、恋しょこからのミィナがいるのも大きく、緊張は大分解れていたようだ。
お陰でギアンにも気安く――
「あはは。姉弟でもあんま性格似てなさそうな?」
と、フランクに話しかける。
「よく言われる。我輩は姉の様に甘々ではないぞ」
「へぇ、そうなんか? ま、今日は頼りにしてンぜ、センセ!」
「んむ。では早速…。鈴殿は確かサンドイッチが作りたいんだったな」
「そうそう。色々入ったご馳走みてーな! そんで…見た目もちょっと可愛い感じの…」
言うと、鈴太郎は少し俯く。
(気負わず渡せそうだし、具を挟むだけなら簡単そうだし…!)
(喜んで、くれるかな…)
密かに想う人ができた。
恋も自分らしくとは思いつつ…。
でもやっぱり少しは女の子らしい事が出来るようになりたくて。
――なんて。
健気な恋心を自覚する鈴太郎。
しかしギアンの一言で、ハッとしてしまうだろう。
「では先ず、具の調理から始めよう」
「!!」
鈴太郎は吃驚仰天の顔をした。
そうか。
サンドイッチって、挟めばいいだけでは無かった。
完全に失念していたらしく、鈴太郎は頭を抱える。
(材料は…、ゼラチン…砂糖…ミネラルウォーター…レモン…蜂蜜…ミルク…。それから、色点けのシロップやジャム。夏みかんや…レモンの夏らしい柑橘系に…さっぱりした味の紅茶…)
小夜は必要量より少し多めに準備して持ち込んだ材料を確認していた。
「手順は…そんなに難しくない筈やけれど…、沸騰させ過ぎんように…とか…注意せんと…ですね。それから…冷蔵庫は…ありますか? なければ…氷の前において…団扇で仰いで…冷やそうかな、と…」
「冷蔵庫はあるぞ。冷やす際には遠慮なく使うと良い。ところで確認なのだが、君が作りたいのは3種のゼリーだったかな?」
「…はい。琥珀糖も少し…考えたんですけど…、乾燥までの時間が必要なので…またの機会に。なので、夏らしく…涼やかに…ゼリーがいいな、と…」
「ふむ。了解した。彩りの綺麗な、夏色のゼリーを作ろう」
そうして小夜とギアンが相談し合い、一緒に考えながら、ゼリーを作る頃――。
鈴太郎は、こっそり……。
ロザリーナへ、ある報告をしていた。
「ロゼピー…あんな? オレ好きなヤツできたかも。だから、ちっと頑張りたくてさ。み、皆には内緒な?」
その報告がロザリーナはどれ程嬉しかっただろう。
鈴太郎がいつも女の子のように扱ってくれて内心姉のように慕ってくれているように、彼女にとって鈴太郎は可愛くて愛しい存在だ。
――そんな彼女の初恋なんて、嬉しいに決まっている。
「そう、そうなのね! 益々とっても綺麗になってるなぁ、と思っていたの! 鈴ちゃんは今、素敵な恋をしているのね」
ロザリーナは心から喜び、祝福した。
鈴太郎はそれがちょっぴり恥ずかしくて。
けれど頬をほんのり赤く染めながら、はにかむように微笑む。
ミィナの方では、まさかの事態が発生。
「ギアンさん。もしかしたら、うち……失敗しちゃったかもなのん……」
「なにっ!?」
ミィナがしょんぼりして助けを求めると、ギアンは駆け付けた。
「おかしい、ミィナ殿の調理工程は特に問題なかった筈……!」
作る様子は、遠くからでもしっかり見ていた。順調そうだったからこそ、離れていた。何が起こったのだろう。慌てながらミィナから交代して生地を混ぜてみると――あら不思議。ダマにもなっておらず、既になめらかで美しい生地が仕上がっているようで。
「? いや……。特に失敗しているようには見えないが…? (なんなら綺麗にできている位のような)」
「えぇっ? これで合っとるん…?」
ミィナは不安そうに首を傾げた。
「クレープと比べて薄い気がするのんー」
「ク、クレープ!?」
成程、どうやら彼女は慣れ親しんだお菓子作りがベースにあるらしい。
「クレープなら確かに薄いだろうが、たこ焼きはこれでいい。安心したまえ」
「そうなん…?」
ギアンがそう言うと、ミィナは、ふんわり納得したようだ。
「あ、そういえば……。生地は作れたけれど、ここからどうやって丸くするん??」
「それはだな……」
ギアンはある物をジャーンとミィナに見せて自慢する。
「この、我輩がリアルブルーで入手した“たこ焼き専用の鉄板”を使うのである!」
「わぁ! すごーい!! ワッフル焼くのとは違う形なのん!」
ミィナは真新しい物を見るように目をキラキラさせた。
そしてギアンは彼女に、たこ焼きの丸め方を伝授する。
「まず、この熱した鉄板に生地を流し入れ…、タコ等の具を入れていく。そして良い頃合いになれば、竹串を使って――くるっと」
「わぁ…なんや難しそう…。でも、上手にできるよう覚えるんよ! たこ焼きは皆で一緒に調理を楽しめる料理なのん。たとえたこ焼きに馴染みがなくても、うちが教えられるように♪」
ギアンはそれを聞いてなるほど、と思った。
ああ、きっとあの彼は――
「ギアンさん知っとる? タコさんって当て字で多い幸せって書くらしいんよー。幸せいっぱい来ますように♪」
彼女のこういうほのぼのしたところが、好きなんだろうなぁ。
……と、なんとなく思ったのを心に秘めるのだった。
鈴太郎はとても焦っていた。
メモを取りながら素直に指導を聞き、手つきは覚つかずとも真剣に取り組んだ。
しかしギアンが離れ一人になると……。
このままでいいのか不安になってしまっていたのだ。
心細くて周りの皆の様子を見れば手際に見入ってつい手が止まったり、このままでいいか不安になり火加減を弄ってしまったり。
「鈴殿、火が強すぎるぞ!」
「あ…っ!!」
鈴太郎は慌てて火を止めるが、調理していたモノは理想通りに作れていなかった。
「…やっぱ自分には無理なんかな。美味しいの、作ってやりたかったんだけどなあ」
目頭が熱くなるのを堪えつつ、悲しそうにあははと笑って呟く鈴太郎。
しかし、ギアンは活を入れた。
「我輩が教えるのだ。美味しく作れない筈がない!」
料理は科学。自分の調理法、温度、計量を完璧に守れば、絶対に美味しいものが作れる!
――そう語りながら。
「作ってあげたい相手がいるのだろう?」
「うぅ…」
鈴太郎はこくりと頷いた。
そして再び頑張ろうとする彼女を見て、コック姿のくまごろーも一生懸命応援している。
カフカは丁寧に真心を込めて、手毬寿司を握っていた。
(酢飯はピンポン玉サイズに丸めて……。更に、鮪と、鯛と、帆立――茹でエビと、薄焼卵と、木の芽を、綺麗に盛り付けていく……)
食べて貰う人の事を想って、浮かんだのは、妹と、彼女のこと。
喜んで貰えるといいな、と心の中で思いながら……。
「まぁ! とっても綺麗ね」
ロザリーナの瞳がきらきらする。
すると、カフカは微笑みを浮かべ、手毬寿司を一つロザリーナへ。
「味見、してみて? はい、あーん」
「えぇっ!?」
とてもナチュラルな動作だった。だが、ウブなロザリーナには少しハードルが高かったらしい。
彼女はどうやら照れているようだった。
その表情を見たカフカはくすりと笑う。
「恥ずかしいの? それじゃあ、お皿に乗せてあげる」
そうしてお皿に味見の手毬寿司を用意されたロザリーナは、少しおろおろしていたが…。
ぱくりと食べて、感激する。
「おいしー!」
「そう。良かった」
カフカは目を細める。
「じゃあ次は、バルサミコ酢の酢飯に生ハムを包んで、食用花やピクルスを添えた洋風の手毬寿司も作ってみるよ」
「洋風のも作るの? 任せてっ」
ロザリーナはにっこりと微笑んで。
横で、お手伝い役を楽しむのだった。
「バリエーションは、“蜂蜜レモン”…“夏みかん”…“紅茶とミルク”…の3種を…」
小夜はまず、1種目を作っていく。
「蜂蜜レモンは…、細かくしたレモンの果肉と蜂蜜を…入れて…薄い黄色に…底は透明の色になるように…して…」
続いて2種目、
「夏みかんは…、海の色に見立てて…上の部分は青色のシロップを少々…。透明なゼリーに…大振りに割った蜜柑の果肉を…ごろんと転がす…」
そして3種目を――。
「紅茶とミルクは…、上は煮出した紅茶の茶…、底の方は…砂糖を含めて甘くしたミルクをしいて…優しい味に…なるように…」
丁寧に丹精を込めて作る様子を見守っていたギアンは、うんうんと頷く。
「んむ、良い感じだ」
「ありがとう…ございます…。あとは…冷蔵庫に入れるだけ…ですね」
――そうして、よく冷えて良い頃合いになれば。
とても涼やかで、爽やかに。
冷んやり、ぷるんっとした夏色のゼリーが完成するだろう。
「出来ました…。いつもより…とても、綺麗に…」
そうして味も確かめようと一口食べてみると、ほんのり甘く丁寧な味で。
小夜の瞳がきらきらと輝く。
見守っていたギアンは、目を細めた。
「きっと彼も、喜んでくれるだろう」
小夜が誰の為に作っていたかは、聴かずとも――
ギアンはどうやら気付いていたらしい。
その言葉で、お菓子をあげたいと慕う彼のことを意識した小夜は、
「…はい」
と、頷いた。
そしてその頬がほんのり赤く、淡く。
綺麗に染まるのだった。
「出来た…!!」
鈴太郎の瞳がきらきらと輝く。
――独力で作れたのは、ありふれたハムサンド等ばかりだけれど。
最後に頑張って作った玉子サンドが、上手に作れたから。
料理をした実感が沸いて。
型抜きで可愛く仕上げる事もできた。
だから、大満足だ。
「へへ…」
鈴太郎は照れていた。
その様子を見ていたギアンは、微笑みを浮かべる。
たこ焼きをくるくると回していたミィナは、段々コツを掴んできたようで――。
外はカリッと、中はトロリとなるよう、上手に作れるようになっていた。
「綺麗に作れる様になったんよー!」
ミィナは、にこにこ笑顔を輝かせる。
「おぉ、流石だ。とても綺麗に出来ているじゃないか。む? これは?」
「えへへ。こっちは甘味なんよ~。クレープの生地を使って、具やタコの代わりに硬めのカスタードやクリームチーズを入れて、ハニーメープルをかけて出来上がりなのんっ♪」
「なるほど…。これは…美味いな…!」
ギアンは甘味Verを食べて感激する。
たこ焼きも勿論美味しく、ミィナの甘味アレンジも絶品だ。
そしてカフカの手毬寿司はというと――。
まるで宝箱のようにキラキラと輝きを放っていた。
「す、すごいな…!」
「すっごく輝いてるのん…!」
「まるで宝石箱のよう…ですね…」
「こ、こんなん食べるの勿体無ぇよ!」
ギアン、ミィナ、小夜、鈴太郎の反応に、少し照れるカフカ。
そしてロザリーナは、カフカが褒められているのを見て嬉しいらしく、にこにこと微笑んでいる。
「ありがとう。思っていた以上に、上手に作れたみたい。良かったら食べてね。皆の分もと思っていっぱい作ってあるから、是非」
カフカがそう言うと、皆の瞳がキラキラと輝いて――。
斯くしてお料理教室はパーティーに。
皆で仲良く味わいながら、鮨種の旨みと酢飯のハーモニーを楽しむのだった。
“食べて貰いたい人がいる”
そんな彼ら彼女らの想いが、微笑ましい。
そしていつか、その料理を食べて貰う日には……
君達が込めた愛情が、伝わりますように。
――そう、心密かに願うのだった。
●
「小夜殿、来てくれていたのだな」
ギアンが声を掛けると、浅黄 小夜(ka3062)はぺこりとお辞儀をした。
小夜は以前、薔薇の花屋にてギアンから様々なレシピを教わっていた。
あれから練習や機会もあって、余程のトラブルがなければそれなりに一人で出来る様にもなった。
けれど……。
「まだ見た目や…細やかな味までは…、美味しく…できなくて…。そういうコツなどを…教えて貰えたら嬉しく…。いつもよりちょっとだけ綺麗やったり…丁寧な味になれると…嬉しい…です」
「そうか。そういうことなら、任せたまえ。我輩で良ければ力になろう」
「ありがとう…ございます。ギアンのお兄はん…」
小夜はお礼を伝えつつ。
心秘かに、食べて貰いたいと思う大切な人――仲良しのお兄さんの事を思い浮かべ、頑張ろう、と意気込んだ。
「今回作りたいのは、『ガーデンパーティーに出す軽食』だよ。東方や蒼世界にも合う料理って事で、『手毬寿司』を作ってみたいんだ」
カフカ・ブラックウェル(ka0794)はそう言うと、早速調理を始めた。
「まずは酢飯だね。黄金比は米酢4:砂糖2:塩1…米も入れた比率は米36:米酢4:砂糖2:塩1、か。今回は4合の米をやや固めに炊いて――。ごはん全体にすし酢を回しかけて切るように混ぜる……こういうやり方で良いのかな、ギアン先生?」
「ああ。ていうか……」
手際が良く、美味しく作るコツも心得ているようなカフカに、神妙な顔つきでギアンが一言。
「君、我輩に教わる必要あるのかね」
「まぁまぁ。そう言わずに頼むよ、ギアン先生」
ブラックウェル家は代々男の方が腕が良い家系であるらしい。
「勿論、母さんの料理は十二分に美味しいよ。けど、父さんの料理の腕は更にその上をいってたし――そんな父さん直伝で僕も覚えたけど…。そうだね。…人並みには出来る筈だよ、多分」
少しはにかむように微笑むカフカ。
「あ、ロゼ。手伝ってくれる?」
「はーい♪」
ギアンは、カフカに呼ばれ、楽しそうにお手伝いに行くロザリーナを見ながら、
(カフカ殿は恐らく姉より、料理が得意なのだろうな…)
なんて。
心の中でぽつりと呟くのだった。
「材料はささっとみじん切りに。素材毎にお皿を分けて、小麦粉もサッとふるいにかけて大きめのボウルに入れる――っと。下茹でしたタコさんは、市販のより大きめにカットしようかなぁ♪」
ミィナ・アレグトーリア(ka0317)は料理慣れした手際の良さで、下準備を完璧にこなしていた。
ただ和食については、これまで作った機会がなかったようで、お出汁をとるのは初挑戦。
ギアンが横で見守る中、一生懸命、鍋とにらめっこしている。
ミィナは西洋料理とお菓子作りが得意だ。
しかしどうやら、和食は勝手が違うようで……。
「えと、お出汁は昆布を戻して火をつけて、沸騰したら鰹節入れて煮る、でええんかな? 昆布は沸騰前に取り出すのん? ブイヨンやコンソメみたいに煮込まなくていいん?」
「その通り。沸騰するまで煮てしまうと、風味が損なわれてしまうのだ」
「そうなのん? それはいけないのん!」
「うむ。出汁を取る時の重要なポイントなのである」
一方、大伴 鈴太郎(ka6016)は、ホッとしていた。
「鈴さんも一緒で嬉しいのん! 美味しいお料理作れるように、頑張るのんー♪」
「あぁ! オレもミィナと一緒で嬉しい。頑張ろうなっ!」
ミィナと仲良く微笑み合った鈴太郎。
ロザリーナの教室なら…と思い切って参加してみたが、生徒は全員顔見知りな上、恋しょこからのミィナがいるのも大きく、緊張は大分解れていたようだ。
お陰でギアンにも気安く――
「あはは。姉弟でもあんま性格似てなさそうな?」
と、フランクに話しかける。
「よく言われる。我輩は姉の様に甘々ではないぞ」
「へぇ、そうなんか? ま、今日は頼りにしてンぜ、センセ!」
「んむ。では早速…。鈴殿は確かサンドイッチが作りたいんだったな」
「そうそう。色々入ったご馳走みてーな! そんで…見た目もちょっと可愛い感じの…」
言うと、鈴太郎は少し俯く。
(気負わず渡せそうだし、具を挟むだけなら簡単そうだし…!)
(喜んで、くれるかな…)
密かに想う人ができた。
恋も自分らしくとは思いつつ…。
でもやっぱり少しは女の子らしい事が出来るようになりたくて。
――なんて。
健気な恋心を自覚する鈴太郎。
しかしギアンの一言で、ハッとしてしまうだろう。
「では先ず、具の調理から始めよう」
「!!」
鈴太郎は吃驚仰天の顔をした。
そうか。
サンドイッチって、挟めばいいだけでは無かった。
完全に失念していたらしく、鈴太郎は頭を抱える。
(材料は…、ゼラチン…砂糖…ミネラルウォーター…レモン…蜂蜜…ミルク…。それから、色点けのシロップやジャム。夏みかんや…レモンの夏らしい柑橘系に…さっぱりした味の紅茶…)
小夜は必要量より少し多めに準備して持ち込んだ材料を確認していた。
「手順は…そんなに難しくない筈やけれど…、沸騰させ過ぎんように…とか…注意せんと…ですね。それから…冷蔵庫は…ありますか? なければ…氷の前において…団扇で仰いで…冷やそうかな、と…」
「冷蔵庫はあるぞ。冷やす際には遠慮なく使うと良い。ところで確認なのだが、君が作りたいのは3種のゼリーだったかな?」
「…はい。琥珀糖も少し…考えたんですけど…、乾燥までの時間が必要なので…またの機会に。なので、夏らしく…涼やかに…ゼリーがいいな、と…」
「ふむ。了解した。彩りの綺麗な、夏色のゼリーを作ろう」
そうして小夜とギアンが相談し合い、一緒に考えながら、ゼリーを作る頃――。
鈴太郎は、こっそり……。
ロザリーナへ、ある報告をしていた。
「ロゼピー…あんな? オレ好きなヤツできたかも。だから、ちっと頑張りたくてさ。み、皆には内緒な?」
その報告がロザリーナはどれ程嬉しかっただろう。
鈴太郎がいつも女の子のように扱ってくれて内心姉のように慕ってくれているように、彼女にとって鈴太郎は可愛くて愛しい存在だ。
――そんな彼女の初恋なんて、嬉しいに決まっている。
「そう、そうなのね! 益々とっても綺麗になってるなぁ、と思っていたの! 鈴ちゃんは今、素敵な恋をしているのね」
ロザリーナは心から喜び、祝福した。
鈴太郎はそれがちょっぴり恥ずかしくて。
けれど頬をほんのり赤く染めながら、はにかむように微笑む。
ミィナの方では、まさかの事態が発生。
「ギアンさん。もしかしたら、うち……失敗しちゃったかもなのん……」
「なにっ!?」
ミィナがしょんぼりして助けを求めると、ギアンは駆け付けた。
「おかしい、ミィナ殿の調理工程は特に問題なかった筈……!」
作る様子は、遠くからでもしっかり見ていた。順調そうだったからこそ、離れていた。何が起こったのだろう。慌てながらミィナから交代して生地を混ぜてみると――あら不思議。ダマにもなっておらず、既になめらかで美しい生地が仕上がっているようで。
「? いや……。特に失敗しているようには見えないが…? (なんなら綺麗にできている位のような)」
「えぇっ? これで合っとるん…?」
ミィナは不安そうに首を傾げた。
「クレープと比べて薄い気がするのんー」
「ク、クレープ!?」
成程、どうやら彼女は慣れ親しんだお菓子作りがベースにあるらしい。
「クレープなら確かに薄いだろうが、たこ焼きはこれでいい。安心したまえ」
「そうなん…?」
ギアンがそう言うと、ミィナは、ふんわり納得したようだ。
「あ、そういえば……。生地は作れたけれど、ここからどうやって丸くするん??」
「それはだな……」
ギアンはある物をジャーンとミィナに見せて自慢する。
「この、我輩がリアルブルーで入手した“たこ焼き専用の鉄板”を使うのである!」
「わぁ! すごーい!! ワッフル焼くのとは違う形なのん!」
ミィナは真新しい物を見るように目をキラキラさせた。
そしてギアンは彼女に、たこ焼きの丸め方を伝授する。
「まず、この熱した鉄板に生地を流し入れ…、タコ等の具を入れていく。そして良い頃合いになれば、竹串を使って――くるっと」
「わぁ…なんや難しそう…。でも、上手にできるよう覚えるんよ! たこ焼きは皆で一緒に調理を楽しめる料理なのん。たとえたこ焼きに馴染みがなくても、うちが教えられるように♪」
ギアンはそれを聞いてなるほど、と思った。
ああ、きっとあの彼は――
「ギアンさん知っとる? タコさんって当て字で多い幸せって書くらしいんよー。幸せいっぱい来ますように♪」
彼女のこういうほのぼのしたところが、好きなんだろうなぁ。
……と、なんとなく思ったのを心に秘めるのだった。
鈴太郎はとても焦っていた。
メモを取りながら素直に指導を聞き、手つきは覚つかずとも真剣に取り組んだ。
しかしギアンが離れ一人になると……。
このままでいいのか不安になってしまっていたのだ。
心細くて周りの皆の様子を見れば手際に見入ってつい手が止まったり、このままでいいか不安になり火加減を弄ってしまったり。
「鈴殿、火が強すぎるぞ!」
「あ…っ!!」
鈴太郎は慌てて火を止めるが、調理していたモノは理想通りに作れていなかった。
「…やっぱ自分には無理なんかな。美味しいの、作ってやりたかったんだけどなあ」
目頭が熱くなるのを堪えつつ、悲しそうにあははと笑って呟く鈴太郎。
しかし、ギアンは活を入れた。
「我輩が教えるのだ。美味しく作れない筈がない!」
料理は科学。自分の調理法、温度、計量を完璧に守れば、絶対に美味しいものが作れる!
――そう語りながら。
「作ってあげたい相手がいるのだろう?」
「うぅ…」
鈴太郎はこくりと頷いた。
そして再び頑張ろうとする彼女を見て、コック姿のくまごろーも一生懸命応援している。
カフカは丁寧に真心を込めて、手毬寿司を握っていた。
(酢飯はピンポン玉サイズに丸めて……。更に、鮪と、鯛と、帆立――茹でエビと、薄焼卵と、木の芽を、綺麗に盛り付けていく……)
食べて貰う人の事を想って、浮かんだのは、妹と、彼女のこと。
喜んで貰えるといいな、と心の中で思いながら……。
「まぁ! とっても綺麗ね」
ロザリーナの瞳がきらきらする。
すると、カフカは微笑みを浮かべ、手毬寿司を一つロザリーナへ。
「味見、してみて? はい、あーん」
「えぇっ!?」
とてもナチュラルな動作だった。だが、ウブなロザリーナには少しハードルが高かったらしい。
彼女はどうやら照れているようだった。
その表情を見たカフカはくすりと笑う。
「恥ずかしいの? それじゃあ、お皿に乗せてあげる」
そうしてお皿に味見の手毬寿司を用意されたロザリーナは、少しおろおろしていたが…。
ぱくりと食べて、感激する。
「おいしー!」
「そう。良かった」
カフカは目を細める。
「じゃあ次は、バルサミコ酢の酢飯に生ハムを包んで、食用花やピクルスを添えた洋風の手毬寿司も作ってみるよ」
「洋風のも作るの? 任せてっ」
ロザリーナはにっこりと微笑んで。
横で、お手伝い役を楽しむのだった。
「バリエーションは、“蜂蜜レモン”…“夏みかん”…“紅茶とミルク”…の3種を…」
小夜はまず、1種目を作っていく。
「蜂蜜レモンは…、細かくしたレモンの果肉と蜂蜜を…入れて…薄い黄色に…底は透明の色になるように…して…」
続いて2種目、
「夏みかんは…、海の色に見立てて…上の部分は青色のシロップを少々…。透明なゼリーに…大振りに割った蜜柑の果肉を…ごろんと転がす…」
そして3種目を――。
「紅茶とミルクは…、上は煮出した紅茶の茶…、底の方は…砂糖を含めて甘くしたミルクをしいて…優しい味に…なるように…」
丁寧に丹精を込めて作る様子を見守っていたギアンは、うんうんと頷く。
「んむ、良い感じだ」
「ありがとう…ございます…。あとは…冷蔵庫に入れるだけ…ですね」
――そうして、よく冷えて良い頃合いになれば。
とても涼やかで、爽やかに。
冷んやり、ぷるんっとした夏色のゼリーが完成するだろう。
「出来ました…。いつもより…とても、綺麗に…」
そうして味も確かめようと一口食べてみると、ほんのり甘く丁寧な味で。
小夜の瞳がきらきらと輝く。
見守っていたギアンは、目を細めた。
「きっと彼も、喜んでくれるだろう」
小夜が誰の為に作っていたかは、聴かずとも――
ギアンはどうやら気付いていたらしい。
その言葉で、お菓子をあげたいと慕う彼のことを意識した小夜は、
「…はい」
と、頷いた。
そしてその頬がほんのり赤く、淡く。
綺麗に染まるのだった。
「出来た…!!」
鈴太郎の瞳がきらきらと輝く。
――独力で作れたのは、ありふれたハムサンド等ばかりだけれど。
最後に頑張って作った玉子サンドが、上手に作れたから。
料理をした実感が沸いて。
型抜きで可愛く仕上げる事もできた。
だから、大満足だ。
「へへ…」
鈴太郎は照れていた。
その様子を見ていたギアンは、微笑みを浮かべる。
たこ焼きをくるくると回していたミィナは、段々コツを掴んできたようで――。
外はカリッと、中はトロリとなるよう、上手に作れるようになっていた。
「綺麗に作れる様になったんよー!」
ミィナは、にこにこ笑顔を輝かせる。
「おぉ、流石だ。とても綺麗に出来ているじゃないか。む? これは?」
「えへへ。こっちは甘味なんよ~。クレープの生地を使って、具やタコの代わりに硬めのカスタードやクリームチーズを入れて、ハニーメープルをかけて出来上がりなのんっ♪」
「なるほど…。これは…美味いな…!」
ギアンは甘味Verを食べて感激する。
たこ焼きも勿論美味しく、ミィナの甘味アレンジも絶品だ。
そしてカフカの手毬寿司はというと――。
まるで宝箱のようにキラキラと輝きを放っていた。
「す、すごいな…!」
「すっごく輝いてるのん…!」
「まるで宝石箱のよう…ですね…」
「こ、こんなん食べるの勿体無ぇよ!」
ギアン、ミィナ、小夜、鈴太郎の反応に、少し照れるカフカ。
そしてロザリーナは、カフカが褒められているのを見て嬉しいらしく、にこにこと微笑んでいる。
「ありがとう。思っていた以上に、上手に作れたみたい。良かったら食べてね。皆の分もと思っていっぱい作ってあるから、是非」
カフカがそう言うと、皆の瞳がキラキラと輝いて――。
斯くしてお料理教室はパーティーに。
皆で仲良く味わいながら、鮨種の旨みと酢飯のハーモニーを楽しむのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 カフカ・ブラックウェル(ka0794) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/07/02 16:18:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/01 14:09:17 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/07/02 16:32:51 |