ゲスト
(ka0000)
ゴブリン巣穴の用心棒
マスター:STANZA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/22 19:00
- 完成日
- 2014/06/30 18:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ねえ、こんな事もうやめようよ。
その一言が、言えなかった。
僕と親友のカルロは12歳、二人とも駆け出しのハンターだ。
ついこの間、二人で一緒に精霊と契約して、ハンターとしての第一歩を踏み出したばかり。
そんな新人ハンターが最初に戦う相手と言ったら、ゴブリンかコボルドあたりが定番だろう。
奴等は弱いくせに好戦的で、そこそこの知恵も持ってるから、新人の練習台には丁度良いんだ。
だから僕達も、最初はゴブリン退治に出掛けた。
パーティのメンバーは初心者ばかりだったけど、何も問題はなかった。
だって奴等、信じられないくらい弱くて……これならだけ二人だけで充分だっていうくらい、全然平気だったんだ。
本当はゴブリンで少し経験を積んだら、他のもう少し難しそうな依頼を受けるつもりだった。
でも、あいつらが……ゴブリン達が余りにも弱くて、簡単に倒せたから。
「なあ、この調子で他のゴブリン達も片っ端から潰して行こうぜ?」
カルロが言った。
表向きは、奴等の被害を未然に防ぐため。
奴等がいなくなれば、皆が安心して暮らせるだろ?
でも本音は違った。
殆ど抵抗もしないで倒れていく奴等を狩るのが、楽しかったから。
それ以上に強い奴と戦って怪我したり、負けたりするのが嫌だったから。
僕達はそれから、ゴブリンの巣を探しては潰して行った。
被害が出ている巣は勿論、人間とは接触せずに静かに暮らしてる奴等の巣まで。
その時、初めて知ったんだ。
ゴブリンの中にも、子供や赤ん坊がいる事を。
「子供だろうと赤ん坊だろうと、こいつらはモンスターだ。こいつらが大きくなったら、人間を襲うようになるんだぜ?」
カルロはそう言った。
僕も確かに、そうなんだろうとは思う。
けど、静かに暮らしてるゴブリン達までわざわざ探し出して、全滅させるっていうのは……ちょっと、違うんじゃないかって思った。
でも言えなかった。
カルロは親友だから。
嫌われたくなかったから。
それに僕自身、やっぱり狩りは楽しかったから。
自分がものすごく強くなった様な気がして。
僕は皆を守るヒーローなんだって、そう思えて。
そして今日も、僕達は新しい巣を見付けた。
「ここにいるのも、どうせザコばっかりだ。楽勝だな!」
カルロと二人、もうすっかり勝った気になって突っ込んで行った。
けど、その巣には——
「なんだ、こいつ……今までのと違うぞ!?」
他のゴブリンとは、明らかに違う奴がいた。
身体が大きくて、力も強そうで、それに武器も他とは違う。
普通のゴブリンは木の棒や、せいぜい棍棒くらいしか持ってないのに、そいつはピカピカに磨かれた大きな斧を持ってたんだ。
それに巣穴の奥にもう一匹、弓矢を持った奴がいた。
僕達だけじゃ勝てないって、そう思った。
でも、その時にはもう周りをゴブリン達に囲まれてて。
僕は何とか、そいつらを蹴散らして逃げて来た。
だけど、暫く夢中で走って……気が付いたらカルロの姿が見えなくなってて。
どこではぐれたのか、全然覚えてないんだ。
無事に逃げられたのか、それもわからない。
もしかしたら、あいつらに捕まってるかもしれない。
それどころか、もう——
————
「お願いします、カルロを助けて下さい!」
ハンターオフィスに一人の少年が転がり込んで来たのは、その日の午後の事だった。
服は泥で汚れ、あちこちに擦り傷や切り傷を作っている。
その殆どは転んだり木の枝か何かで擦って出来た傷の様だが、左腕の傷は刃物で斬り付けられたものらしい。
少年の話によれば、彼等はゴブリンの巣を潰そうとして、用心棒に逆襲された様だ。
相手は恐らくゴブリンソルジャーだろう。
友人のカルロという少年が、まだ現場に取り残されている可能性が高いと言う。
手の空いている者は救出に向かって欲しい。
相手は普通のゴブリンよりは強敵だが、数人でかかれば——そして油断しなければ、駆け出しのハンターでもそう苦労はしないだろう。
現場までは、この少年……マルコが案内してくれるそうだ。
「すみません、よろしくお願いします!」
マルコは集まったハンター達に向かって、深々と頭を下げた。
リプレイ本文
「あぁ?! ガキが粋がりやがってメンドくせー!」
「自業自得、なんじゃない?」
床に手をつき、頭を下げたマルコの胸に、デルフィーノ(ka1548)とフランキスカ・コルウス(ka0626)の言葉が突き刺さる。
「ごめんなさい、でも!」
「やれやれ、困った子達だね」
それを見かねたのか、エルデ・ディアマント(ka0263)が小さく肩を竦めた。
「しょうがないから助けてあげちゃおうか」
そう言って、こっそり片目を瞑ってみせる。
皆が最初からこの少年を助けるつもりでいた事は、場の雰囲気から感じ取っていた。
「これは正式な依頼だと思って良いのね?」
しばらく離れた所で様子を見ていたフランキスカが、ゆっくりと腰を上げる。
「たとえ子供だろうとクライアントの依頼なんだから、仕事はきっちりさせてもらうけど…」
どうにも苛立ちを隠せないのは、後先を考えない彼等の行動が昔の自分と重なって見えるせい、だろうか。
「なんつーかまぁ……反省させるのは後か。死んだらそれすら出来ない」
レベッカ・アマデーオ(ka1963)はマルコを立たせ、転移門へと促した。
「案内してくれるんでしょ?」
慌てて立ち上がり、マルコは門へと急ぐ。
「メンドくせーけど、しかたねーか」
身に着けたアクセサリをじゃらじゃらと鳴らしながら、デルフィーノがそれに続いた。
「俺らが助けてやんねーと、後味悪いしな」
ここはひとつ恩を売ってやる……という事にして。
「ま、序でにゴブリンも退治だ、退治。俺らならパパッとヤれるだろ」
しかし気楽に言ったその言葉に、ギュンター・ベルンシュタイン(ka0339)が疑問を投げた。
「新人といっても、オレたちよりは先輩なんだよな。油断は禁物か」
万全の体勢で戦えるよう、武器や道具の点検は現場に着く前に済ませておかなくては。
焦る気持ちはわかるが、ここは慎重に。
「急いては事をし損じるとも言うからな」
強い敵と対するなら、特に。
暫しの後、しっかりと準備と作戦を整えた一行は森の中に身を潜めていた。
現場まではまだ少し距離があるが、敵が警戒を怠ってるとは思えない。
「ちっとばかし頭が回る相手なら、一人逃げれば、仲間連れて戻ってくるくらい、予想してやがるです」
八城雪(ka0146)が声を潜めて言った。
「奇襲するなら出来るだけそっと近づいた方が良さそうです」
暫くそのまま静かに歩を進める。
やがて視界が開けた先に、ゴブリン達の姿が見えてきた。
同時に、木の枝にしがみついた少年の姿も。
「よかった、まだ無事だね」
エルデがほっと息を吐く。
とりあえず彼を救助しない事には始まらない。
ここから見える限り、ゴブリンは木の下に六匹。
その他に弓を持った体格の良いものが一匹、巣穴のすぐ外で周囲に目を光らせていた。
「斧持ちの方は巣穴ン中か」
懐からリボルバーを取り出しつつ、デルフィーノが呟く。
「ま、外に出てたとしても俺らに掛かりゃ、問題無いけどな」
その軽口は本心か、それともマルコを安心させる為なのか。
「マルコ、お前は絶対に見付からないよーに、その辺に隠れてろよ?」
さりげなく前に立った彼に言われて、少年は草の陰で身を固くした。
仲間達は互いに身振りで配置や役割分担を決め、物音を立てない様に静かに配置に付く。
「ゴブリンソルジャー……強いか弱いか、腕試しをかねさせてもらうか」
エルデの攻性強化で攻撃力を底上げして貰ったギュンターは、更に自らプロテクションで守備力を上げた。
「んじゃ、タイミング合わせていきましょ。突出しすぎないよう気をつけてね」
レベッカも自身に攻性強化を使い、弓兵に魔導銃の狙いを付ける。
「よっしゃ! いっちょぶちかまして、救出してくっか!」
切り込み役の葵(ka2143)が一声叫んで飛び出すと同時に、デルフィーノが空に向けて威嚇射撃を一発。
カルロに石を投げていたゴブリン達は、一斉にその手を止めた。
が、何が起きたのかを理解する前に、飛び込んだ葵が手近な一匹を袈裟懸けに斬る。
その斜め後ろからふいに現れたクリュ・コークス(ka0535)が、まだ辛うじて崩れ落ちずに踏み留まっていたゴブリンの胸に、ジャマダハルの刃を確実に食い込ませた。
「狙い通り、あいつらあわ喰ってやがるぜ」
葵はカルロがしがみついている木とゴブリン達の間に割って入り、押し返す様にロングソードを大きく振る。
これでカルロからは注意が逸れるだろうし、横に回り込めば仲間の射線を塞ぐ事もない。
ついでに自分達を敵だと認識してくれれば一安心、向かって来るものは倒すまでだ。
「もしカルロにまた注意が行って、人質にしようとされたりしたら面倒なことになるからな」
すぐ傍にいた一匹が怖れをなした様に顔色を変え、踵を返して逃げ出そうとする。
だが、そこに飛び込んだ雪がハルバードを振り下ろし、頭から真っ二つに切り裂いた。
三人の攻撃が届かない場所にいた一匹が何事かを叫びつつ、石を投げ返しながら巣穴へ逃げ込もうとする。
しかしエルデが放った機導砲のエネルギーが一条の光となってその背を貫き、ゴブリンはそのままそこに膝を折った。
これで三匹、残る三匹は棍棒を振りかざして反撃の構えを見せる。
だがそれをエルデとデルフィーノが銃撃で牽制、その隙に再び踏み込んだ葵が、棍棒を振り上げた腕を叩き斬った。
その背後に回ったクリュが背中から急所を一突きして、四匹目。
雪はもう一体が振り下ろして来た棍棒をハルバードの柄で受け、押し返しつつ返す刃で切り下ろす。
これで五匹、だがこいつら弱すぎる。
「よぇーヤツとばっか戦っても、ツマンネーだけ、です」
後衛の援護で既に弱っていたとは言え、一撃なんて。
「ちったぁホネのあるヤツと、やりてぇ、です」
そう言えば弓持ちのソルジャーはどうなったかと、そちらを見た。
森の中に身を潜めたまま弓矢の狙いを付けるフランキスカに、デルフィーノが攻性強化をかける。
「遠くから狙い撃ちなんて出来るのが、アンタだけと思わないことね」
仲間が突撃した直後、ソルジャーは木の上のカルロに狙いを定めた。
近寄ればこいつの命はない、という事なのだろうが――その脅しは、彼等には通用しなかった。
フランキスカは最大射程からありったけの威力を乗せた矢を放つ。
だが、遠方から飛来する矢に気付いた弓兵は咄嗟に身をかわし、そのまま巣穴に向けた走り出した。
その背に向けてレベッカが魔導銃を撃ったが、これも当たる事なく、弓兵は巣穴の暗がりへと逃げ込んでしまった。
「運の良い奴だね」
入れ替わりに、斧を手にしたソルジャーが四匹の手下を引き連れて、のそりと現れた。
ゴブリン達は棍棒を振りかざしてハンター達に迫る。
どうやらまだ、自分達に勝機があると思っている様だ。
「数が多いってのはそれだけで気が大きくなるもんだけどさ……その強みの理由が無くなったときが怖いよね」
レベッカは、向かって来るものを魔導銃を媒介に作り出した光の剣で一閃、後は仲間に任せて木の下に立った。
「カルロだっけ? さあ、下りて来な!」
「飛び降りるんだよ、ハンターならそれくらい平気でしょ?」
エルデも一緒に声をかける。
「無理なら受け止めてあげても良いけど?」
下で腕を広げたエルデに、カルロは精一杯の虚勢を張った。
自分と同じくらいの、しかも女の子に受け止めて貰うなんてカッコ悪すぎる。
助けに来て貰っただけで、もう充分カッコ悪いのに――
しかしもう体力も限界に達していたカルロは途中で力尽き、結局はエルデに受け止めて貰う事となってしまった。
「よく頑張ったね。それじゃあ後はボクらにお任せさ」
そのまま後方で待つマルコの元へ運び、エルデはすぐ戦線に復帰する。
だが、既に戦いは終盤に差し掛かっていた。
「貴様らがこのままだと危険なんでな、芽は潰させてもらう。世に平穏のあらんことを」
仲間と共にゴブリンの集団に突っ込んで行ったギュンターは、弓兵と入れ替わりに現れた斧兵の前に立った。
「さぁ、オレと踊って貰おうか!!」
バスタードソードを持つ手に力を込めて振り下ろす。
だが斧兵はその一撃を斧の刃で受け止め、力任せに押し返して来た。
巨大な斧が空を切り、ギュンターは辛うじてそれを下がって避けるが、避けてばかりもいられない。
後ろには援護してくれる味方も、守るべき少年達もいるのだ。
「ここは通さん!」
自身に施した守護の力を頼りに、反撃で傷付く事を厭わず距離を詰める。
巣穴の前に追い詰めれば、中から弓を射かけて来る弓兵の射線を狭める事にもなるだろう。
その隙に巣穴の入口に貼り付いたエルデは、腕だけを伸ばして、奥の暗闇に向けて魔導銃を連射。
「ふふーふ、どこまで避けられるかな?」
どうせよく見えないのだから、狙いを付ける必要もない。
当たればラッキー、当たらなくても牽制にはなる。
「オレもソルジャーとやらせろ、です」
側面から飛び込んで来た雪がハルバードを一閃、斧兵はそれさえも軽々と受け止めてしまう――が、一瞬その注意が正面から逸れた。
ギュンターはそれを逃さず、バスタードソードを叩き込む。
『ギャッ』
斧兵の肩口から血飛沫が飛んだ。
それは自分を傷付けた相手に怒りの目を向けるが。
「余所見してる暇はねーぞ、です」
雪が突き出した槍斧の切っ先が、脇腹を抉った。
動きが止まった所を狙い、フランキスカが遠方から足を狙って一撃。
流石にこれは分が悪いと悟ったのか、斧兵は脇腹を押さえ足を引きずりながら、巣穴へと逃げて行く。
それを援護する様に、巣穴の暗がりから矢が立て続けに飛んで来た。
頼りにしていた用心棒が逃げたのを見て、他のゴブリン達も慌てて巣穴に転がり込む。
「逃げたか」
それを目で追い、クリュが呟く。
だが逃がすつもりはなかった。
「今回の事で人間への恨みを持つようになっただろうからな……後々復讐に来られても困る」
「そうだな」
葵が頷く。
「反撃の概念のあるやつだし、カルロを狙ったってあたりで逆襲とか考える奴らだから、ほっといたらまた数集めて……とかやりかねねえし」
仲間達にも異存はなかった。
「全く、血の気の多いヤツばっかです」
自分も人の事は言えないが、と雪。
しかし洞窟は狭いし敵は弱くてつまらないし。
「武器が狭ぇとこ向きじゃねぇし、残りもそんなに居ねぇですから、任せる、です」
だが、巣穴に入る必要はなかった。
「生木でも燃やして、炙り出してやるかね」
葵が枯れ草や木の枝を集め始める。
束ねて火を点け、煙に巻かれて出て来たところで一網打尽だ。
仲間が準備を進める中、レベッカは二人の少年を掃討の場に引きずり出す。
「アンタたちには見届けなきゃいけない義務があるんだ。自分たちの行いの結末を目ぇ逸らさずしっかり目に焼き付けな」
これから行う事は、本来なら必要なかった殺しだ。
「あたしら海賊にだって、いただく物だけいただけば無用な殺しはしない。ハンターだって同じだ。仁義ってモンがある」
その仁義を曲げさせたのは誰か。
「しっかり見ておきな」
煙攻めに遭ったゴブリン達は、たまらず巣の外に転がり出て来た。
待ち構えたフランキスカが、それを一匹ずつ射貫いていく。
「わざわざ無闇に狭い通路に並ぶ必要もないでしょ」
一撃で倒れなくても、その先にはデルフィーノの銃撃が待っていた。
「派手に血を噴きそうな所を狙ってみっかね」
喉元や肝臓、心臓部分、大腿部。身体の構造が人と同じなら、その辺りに動脈が通っている筈だ。
狙い澄ました一撃は狙い通りに急所に当たり、ゴブリンは血飛沫を上げて転がる。
それを何とか避けて逃走を図ったものは、クリュが追いかけて確実に潰した。
手負いの斧兵には、二度目の攻性強化を受けたフランキスカが足を射貫き、膝を付いた所にデルフィーノが機導砲で止めを刺した。
残る弓兵は、エルデから攻性強化を受けた雪とギュンターが挟み撃ち。
仲間の援護を受けつつ、反撃の間も与えずに切り伏せた。
跳ね飛ばされた首が少年達の足元に転がる。
見開かれた目が、恨めしそうに二人を見つめていた。
「さぁ、帰るまでが依頼ですよ」
ギュンターはバスタードソードを大きく振って刃に付いた血を飛ばし、鞘に収める。
「しっかし、お前ら……何してんだよ。自分の力量を思い知れっつーの!」
デルフィーノが言う通り、今回助かったのは運が良かったからで、そうでなければ今頃は天国行きだ。
「油断も隙もあるってことを自覚しない子供だから、そういうことになるのよ。助けを呼んでくれるオトモダチがいることに感謝しなさいな」
フランキスカはカルロに言葉を叩き付けると、くるりと背を向けて皆から離れて行く。
(……何を言ってんの、あたしは。さっさと報酬貰ってしまおう……)
自分の苛立ちをぶつける様な態度を取ってしまった事に、我ながら大人げないと自己嫌悪。
「力を誇示したいと言う欲求は、私は必ずしも否定しない」
その背中を気にしつつ、クリュが少年達に追い討ちをかけた。
「向上心に欠けるが、まあ、迷惑をかけないのならそれも生き方だろう。亜人が潜在的に危険なのも事実だ」
だが、と語気を強める。
「相手を侮るのは論外だ。弱い相手の討伐を生業としたいのなら、相手が弱いかどうかを確かめろ。情報収集を怠らず、弱敵にも全力で当たれ。そして、自らの仕事がどんな影響をもたらすかを知れ。それがハンターだ」
「なんにだって超えちゃいけない線ってのはある。それを超えたら、あとは自分が追われるだけさ」
レベッカが死骸に目を落とす。
「きっちり反省して繰り返さないようにしな。でなきゃ、次は無いよ」
今頃は自分達がああなっていたかもしれないのだ。
「ハンターは命を張ったお仕事なんだから。舐めてかかるなんてごんごどーだんだよ」
応急手当を終えたエルデが、軽くカルロの頭を小突く。
「これに懲りたら次は慎重に行くこと」
「ま、その心意気は買うけどな」
デルフィーノの言葉に、怒られっぱなしだった二人は嬉しそうに顔を綻ばせるが。
「って、調子に乗んな!」
ガツン、脳天に拳骨が落ちた。
「暫く大人しくしてろ。討伐だけがハンターの仕事じゃねーしな」
「次は薬草摘みなんかでもいいかもね。意外と楽しいよ?」
エルデに言われ、二人は神妙に頷いた。
普段なら、そんなの男の仕事じゃない、とでも反論する所だろうが――
その様子を、雪は少し距離を置いて見守っていた。
二人にどうこう言う気はないが、こういう商売は何処に何が居て、いつ命を落とすかもわからない。
「そーいうとこも含めて、スリルがあっておもしれぇと思わねーです?」
なんて、ただの独り言だけど。
彼等がこれからも道を踏み外す事なく、胸を張って生きて行ける様に。
そう願いつつ、彼等は帰途に就いた。
「自業自得、なんじゃない?」
床に手をつき、頭を下げたマルコの胸に、デルフィーノ(ka1548)とフランキスカ・コルウス(ka0626)の言葉が突き刺さる。
「ごめんなさい、でも!」
「やれやれ、困った子達だね」
それを見かねたのか、エルデ・ディアマント(ka0263)が小さく肩を竦めた。
「しょうがないから助けてあげちゃおうか」
そう言って、こっそり片目を瞑ってみせる。
皆が最初からこの少年を助けるつもりでいた事は、場の雰囲気から感じ取っていた。
「これは正式な依頼だと思って良いのね?」
しばらく離れた所で様子を見ていたフランキスカが、ゆっくりと腰を上げる。
「たとえ子供だろうとクライアントの依頼なんだから、仕事はきっちりさせてもらうけど…」
どうにも苛立ちを隠せないのは、後先を考えない彼等の行動が昔の自分と重なって見えるせい、だろうか。
「なんつーかまぁ……反省させるのは後か。死んだらそれすら出来ない」
レベッカ・アマデーオ(ka1963)はマルコを立たせ、転移門へと促した。
「案内してくれるんでしょ?」
慌てて立ち上がり、マルコは門へと急ぐ。
「メンドくせーけど、しかたねーか」
身に着けたアクセサリをじゃらじゃらと鳴らしながら、デルフィーノがそれに続いた。
「俺らが助けてやんねーと、後味悪いしな」
ここはひとつ恩を売ってやる……という事にして。
「ま、序でにゴブリンも退治だ、退治。俺らならパパッとヤれるだろ」
しかし気楽に言ったその言葉に、ギュンター・ベルンシュタイン(ka0339)が疑問を投げた。
「新人といっても、オレたちよりは先輩なんだよな。油断は禁物か」
万全の体勢で戦えるよう、武器や道具の点検は現場に着く前に済ませておかなくては。
焦る気持ちはわかるが、ここは慎重に。
「急いては事をし損じるとも言うからな」
強い敵と対するなら、特に。
暫しの後、しっかりと準備と作戦を整えた一行は森の中に身を潜めていた。
現場まではまだ少し距離があるが、敵が警戒を怠ってるとは思えない。
「ちっとばかし頭が回る相手なら、一人逃げれば、仲間連れて戻ってくるくらい、予想してやがるです」
八城雪(ka0146)が声を潜めて言った。
「奇襲するなら出来るだけそっと近づいた方が良さそうです」
暫くそのまま静かに歩を進める。
やがて視界が開けた先に、ゴブリン達の姿が見えてきた。
同時に、木の枝にしがみついた少年の姿も。
「よかった、まだ無事だね」
エルデがほっと息を吐く。
とりあえず彼を救助しない事には始まらない。
ここから見える限り、ゴブリンは木の下に六匹。
その他に弓を持った体格の良いものが一匹、巣穴のすぐ外で周囲に目を光らせていた。
「斧持ちの方は巣穴ン中か」
懐からリボルバーを取り出しつつ、デルフィーノが呟く。
「ま、外に出てたとしても俺らに掛かりゃ、問題無いけどな」
その軽口は本心か、それともマルコを安心させる為なのか。
「マルコ、お前は絶対に見付からないよーに、その辺に隠れてろよ?」
さりげなく前に立った彼に言われて、少年は草の陰で身を固くした。
仲間達は互いに身振りで配置や役割分担を決め、物音を立てない様に静かに配置に付く。
「ゴブリンソルジャー……強いか弱いか、腕試しをかねさせてもらうか」
エルデの攻性強化で攻撃力を底上げして貰ったギュンターは、更に自らプロテクションで守備力を上げた。
「んじゃ、タイミング合わせていきましょ。突出しすぎないよう気をつけてね」
レベッカも自身に攻性強化を使い、弓兵に魔導銃の狙いを付ける。
「よっしゃ! いっちょぶちかまして、救出してくっか!」
切り込み役の葵(ka2143)が一声叫んで飛び出すと同時に、デルフィーノが空に向けて威嚇射撃を一発。
カルロに石を投げていたゴブリン達は、一斉にその手を止めた。
が、何が起きたのかを理解する前に、飛び込んだ葵が手近な一匹を袈裟懸けに斬る。
その斜め後ろからふいに現れたクリュ・コークス(ka0535)が、まだ辛うじて崩れ落ちずに踏み留まっていたゴブリンの胸に、ジャマダハルの刃を確実に食い込ませた。
「狙い通り、あいつらあわ喰ってやがるぜ」
葵はカルロがしがみついている木とゴブリン達の間に割って入り、押し返す様にロングソードを大きく振る。
これでカルロからは注意が逸れるだろうし、横に回り込めば仲間の射線を塞ぐ事もない。
ついでに自分達を敵だと認識してくれれば一安心、向かって来るものは倒すまでだ。
「もしカルロにまた注意が行って、人質にしようとされたりしたら面倒なことになるからな」
すぐ傍にいた一匹が怖れをなした様に顔色を変え、踵を返して逃げ出そうとする。
だが、そこに飛び込んだ雪がハルバードを振り下ろし、頭から真っ二つに切り裂いた。
三人の攻撃が届かない場所にいた一匹が何事かを叫びつつ、石を投げ返しながら巣穴へ逃げ込もうとする。
しかしエルデが放った機導砲のエネルギーが一条の光となってその背を貫き、ゴブリンはそのままそこに膝を折った。
これで三匹、残る三匹は棍棒を振りかざして反撃の構えを見せる。
だがそれをエルデとデルフィーノが銃撃で牽制、その隙に再び踏み込んだ葵が、棍棒を振り上げた腕を叩き斬った。
その背後に回ったクリュが背中から急所を一突きして、四匹目。
雪はもう一体が振り下ろして来た棍棒をハルバードの柄で受け、押し返しつつ返す刃で切り下ろす。
これで五匹、だがこいつら弱すぎる。
「よぇーヤツとばっか戦っても、ツマンネーだけ、です」
後衛の援護で既に弱っていたとは言え、一撃なんて。
「ちったぁホネのあるヤツと、やりてぇ、です」
そう言えば弓持ちのソルジャーはどうなったかと、そちらを見た。
森の中に身を潜めたまま弓矢の狙いを付けるフランキスカに、デルフィーノが攻性強化をかける。
「遠くから狙い撃ちなんて出来るのが、アンタだけと思わないことね」
仲間が突撃した直後、ソルジャーは木の上のカルロに狙いを定めた。
近寄ればこいつの命はない、という事なのだろうが――その脅しは、彼等には通用しなかった。
フランキスカは最大射程からありったけの威力を乗せた矢を放つ。
だが、遠方から飛来する矢に気付いた弓兵は咄嗟に身をかわし、そのまま巣穴に向けた走り出した。
その背に向けてレベッカが魔導銃を撃ったが、これも当たる事なく、弓兵は巣穴の暗がりへと逃げ込んでしまった。
「運の良い奴だね」
入れ替わりに、斧を手にしたソルジャーが四匹の手下を引き連れて、のそりと現れた。
ゴブリン達は棍棒を振りかざしてハンター達に迫る。
どうやらまだ、自分達に勝機があると思っている様だ。
「数が多いってのはそれだけで気が大きくなるもんだけどさ……その強みの理由が無くなったときが怖いよね」
レベッカは、向かって来るものを魔導銃を媒介に作り出した光の剣で一閃、後は仲間に任せて木の下に立った。
「カルロだっけ? さあ、下りて来な!」
「飛び降りるんだよ、ハンターならそれくらい平気でしょ?」
エルデも一緒に声をかける。
「無理なら受け止めてあげても良いけど?」
下で腕を広げたエルデに、カルロは精一杯の虚勢を張った。
自分と同じくらいの、しかも女の子に受け止めて貰うなんてカッコ悪すぎる。
助けに来て貰っただけで、もう充分カッコ悪いのに――
しかしもう体力も限界に達していたカルロは途中で力尽き、結局はエルデに受け止めて貰う事となってしまった。
「よく頑張ったね。それじゃあ後はボクらにお任せさ」
そのまま後方で待つマルコの元へ運び、エルデはすぐ戦線に復帰する。
だが、既に戦いは終盤に差し掛かっていた。
「貴様らがこのままだと危険なんでな、芽は潰させてもらう。世に平穏のあらんことを」
仲間と共にゴブリンの集団に突っ込んで行ったギュンターは、弓兵と入れ替わりに現れた斧兵の前に立った。
「さぁ、オレと踊って貰おうか!!」
バスタードソードを持つ手に力を込めて振り下ろす。
だが斧兵はその一撃を斧の刃で受け止め、力任せに押し返して来た。
巨大な斧が空を切り、ギュンターは辛うじてそれを下がって避けるが、避けてばかりもいられない。
後ろには援護してくれる味方も、守るべき少年達もいるのだ。
「ここは通さん!」
自身に施した守護の力を頼りに、反撃で傷付く事を厭わず距離を詰める。
巣穴の前に追い詰めれば、中から弓を射かけて来る弓兵の射線を狭める事にもなるだろう。
その隙に巣穴の入口に貼り付いたエルデは、腕だけを伸ばして、奥の暗闇に向けて魔導銃を連射。
「ふふーふ、どこまで避けられるかな?」
どうせよく見えないのだから、狙いを付ける必要もない。
当たればラッキー、当たらなくても牽制にはなる。
「オレもソルジャーとやらせろ、です」
側面から飛び込んで来た雪がハルバードを一閃、斧兵はそれさえも軽々と受け止めてしまう――が、一瞬その注意が正面から逸れた。
ギュンターはそれを逃さず、バスタードソードを叩き込む。
『ギャッ』
斧兵の肩口から血飛沫が飛んだ。
それは自分を傷付けた相手に怒りの目を向けるが。
「余所見してる暇はねーぞ、です」
雪が突き出した槍斧の切っ先が、脇腹を抉った。
動きが止まった所を狙い、フランキスカが遠方から足を狙って一撃。
流石にこれは分が悪いと悟ったのか、斧兵は脇腹を押さえ足を引きずりながら、巣穴へと逃げて行く。
それを援護する様に、巣穴の暗がりから矢が立て続けに飛んで来た。
頼りにしていた用心棒が逃げたのを見て、他のゴブリン達も慌てて巣穴に転がり込む。
「逃げたか」
それを目で追い、クリュが呟く。
だが逃がすつもりはなかった。
「今回の事で人間への恨みを持つようになっただろうからな……後々復讐に来られても困る」
「そうだな」
葵が頷く。
「反撃の概念のあるやつだし、カルロを狙ったってあたりで逆襲とか考える奴らだから、ほっといたらまた数集めて……とかやりかねねえし」
仲間達にも異存はなかった。
「全く、血の気の多いヤツばっかです」
自分も人の事は言えないが、と雪。
しかし洞窟は狭いし敵は弱くてつまらないし。
「武器が狭ぇとこ向きじゃねぇし、残りもそんなに居ねぇですから、任せる、です」
だが、巣穴に入る必要はなかった。
「生木でも燃やして、炙り出してやるかね」
葵が枯れ草や木の枝を集め始める。
束ねて火を点け、煙に巻かれて出て来たところで一網打尽だ。
仲間が準備を進める中、レベッカは二人の少年を掃討の場に引きずり出す。
「アンタたちには見届けなきゃいけない義務があるんだ。自分たちの行いの結末を目ぇ逸らさずしっかり目に焼き付けな」
これから行う事は、本来なら必要なかった殺しだ。
「あたしら海賊にだって、いただく物だけいただけば無用な殺しはしない。ハンターだって同じだ。仁義ってモンがある」
その仁義を曲げさせたのは誰か。
「しっかり見ておきな」
煙攻めに遭ったゴブリン達は、たまらず巣の外に転がり出て来た。
待ち構えたフランキスカが、それを一匹ずつ射貫いていく。
「わざわざ無闇に狭い通路に並ぶ必要もないでしょ」
一撃で倒れなくても、その先にはデルフィーノの銃撃が待っていた。
「派手に血を噴きそうな所を狙ってみっかね」
喉元や肝臓、心臓部分、大腿部。身体の構造が人と同じなら、その辺りに動脈が通っている筈だ。
狙い澄ました一撃は狙い通りに急所に当たり、ゴブリンは血飛沫を上げて転がる。
それを何とか避けて逃走を図ったものは、クリュが追いかけて確実に潰した。
手負いの斧兵には、二度目の攻性強化を受けたフランキスカが足を射貫き、膝を付いた所にデルフィーノが機導砲で止めを刺した。
残る弓兵は、エルデから攻性強化を受けた雪とギュンターが挟み撃ち。
仲間の援護を受けつつ、反撃の間も与えずに切り伏せた。
跳ね飛ばされた首が少年達の足元に転がる。
見開かれた目が、恨めしそうに二人を見つめていた。
「さぁ、帰るまでが依頼ですよ」
ギュンターはバスタードソードを大きく振って刃に付いた血を飛ばし、鞘に収める。
「しっかし、お前ら……何してんだよ。自分の力量を思い知れっつーの!」
デルフィーノが言う通り、今回助かったのは運が良かったからで、そうでなければ今頃は天国行きだ。
「油断も隙もあるってことを自覚しない子供だから、そういうことになるのよ。助けを呼んでくれるオトモダチがいることに感謝しなさいな」
フランキスカはカルロに言葉を叩き付けると、くるりと背を向けて皆から離れて行く。
(……何を言ってんの、あたしは。さっさと報酬貰ってしまおう……)
自分の苛立ちをぶつける様な態度を取ってしまった事に、我ながら大人げないと自己嫌悪。
「力を誇示したいと言う欲求は、私は必ずしも否定しない」
その背中を気にしつつ、クリュが少年達に追い討ちをかけた。
「向上心に欠けるが、まあ、迷惑をかけないのならそれも生き方だろう。亜人が潜在的に危険なのも事実だ」
だが、と語気を強める。
「相手を侮るのは論外だ。弱い相手の討伐を生業としたいのなら、相手が弱いかどうかを確かめろ。情報収集を怠らず、弱敵にも全力で当たれ。そして、自らの仕事がどんな影響をもたらすかを知れ。それがハンターだ」
「なんにだって超えちゃいけない線ってのはある。それを超えたら、あとは自分が追われるだけさ」
レベッカが死骸に目を落とす。
「きっちり反省して繰り返さないようにしな。でなきゃ、次は無いよ」
今頃は自分達がああなっていたかもしれないのだ。
「ハンターは命を張ったお仕事なんだから。舐めてかかるなんてごんごどーだんだよ」
応急手当を終えたエルデが、軽くカルロの頭を小突く。
「これに懲りたら次は慎重に行くこと」
「ま、その心意気は買うけどな」
デルフィーノの言葉に、怒られっぱなしだった二人は嬉しそうに顔を綻ばせるが。
「って、調子に乗んな!」
ガツン、脳天に拳骨が落ちた。
「暫く大人しくしてろ。討伐だけがハンターの仕事じゃねーしな」
「次は薬草摘みなんかでもいいかもね。意外と楽しいよ?」
エルデに言われ、二人は神妙に頷いた。
普段なら、そんなの男の仕事じゃない、とでも反論する所だろうが――
その様子を、雪は少し距離を置いて見守っていた。
二人にどうこう言う気はないが、こういう商売は何処に何が居て、いつ命を落とすかもわからない。
「そーいうとこも含めて、スリルがあっておもしれぇと思わねーです?」
なんて、ただの独り言だけど。
彼等がこれからも道を踏み外す事なく、胸を張って生きて行ける様に。
そう願いつつ、彼等は帰途に就いた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/20 23:54:36 |
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相談用 ギュンター・ベルンシュタイン(ka0339) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/06/22 00:55:38 |