ゲスト
(ka0000)
Road to Road
マスター:楠々蛙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/23 19:00
- 完成日
- 2018/08/16 00:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
とある小さな村で、買い出しの最中と思しき二人連れが一組あった。
片や藍色のポンチョを肩に掛けた男──キャロル=クルックシャンク。
片やカーマイン染のポンチョを羽織る少女──ラウラ=フアネーレ。
ラウラの足許にはもう一匹、黒猫のルーナが付き添っている。
三者は一様に、言葉も交わす事なく村の表通りを歩いていた。口を開いたのは雑貨屋に注文を告げる時だけで、そのほとんどはラウラによるものだ。キャロルは店の入口で不景気なツラで壁に身を預けたままだった。
右手に買い出しの荷を抱えて、通りを歩くラウラの後に続くキャロル。
その折りの事だ。
不意に、男が一人、通りの向かいから歩いてくるのが見えた。正確には、体格からして男と思しきと判断できるだけで、襤褸切れ寸前のローブを頭から被ったその人影の素性を窺う事はできそうもないのだが。
傍目に察せられる事があるとすれば、襤褸切れの下から覗く樫製の棒切れからして、どうやら男の右脚は義足らしいという事だ。足取りからしてもやや右脚を引き摺っているようだったが、さほどぎこちなさは感じない。
キャロルの炭色の瞳が、一瞬、その男を捉える。だが彼は、一瞥を寄越したのみで、すぐに視線を切った。
やがて、襤褸切れ纏うその男は、ラウラの左側に並び歩くキャロルの隣を──横切った。そしてその瞬間、襤褸切れが風を巻いて翻る。
BAANG!
銃声は、キャロルの左手が発した。
スウィベルドロゥ──振り返らずして銃をホルスターに納めたまま、キャロルは銃口を、背後で義足を軸に素早く振り返った男へ向けて、不意の一発を放ったのだ。
銃声を劈くように響いたのは、金属音。金属の悲鳴を発したのは、男が襤褸切れの内から抜き出した、分厚い鉈のようなナイフである。キャロルの背中を斬り付けようとしたその得物で咄嗟に銃撃を防いだのだ。
通りに響く銃声の余韻も消えぬ内に、キャロルはインディゴブルーの外套を翻して振り返った。その時には既に、左手にホルスターから抜き放った三インチのシングルアクションリボルバーの銃把を握っている。
コッキングも既に、果たし済み。あとは銃爪に、四ポンドのトリガープルを掛ければ、事足れり。
しかしキャロルは、照準を定めた銃に何かが当たった事を悟って、銃爪から指を離す。銃口へ視線こそ向けなかったが、その時リボルバーの銃口には、男が投じた細い錐状のナイフが突き立っていたのだ。構わず撃発していれば、暴発していただろう。
左手の銃を放棄すると共に、右手もまた抱えた紙袋を離し、右ホルスターに納まる銃の握り手を掴んでいた。
騎兵(キャバルリー)御用達の、七・五インチ。
BAANG!
BAANG!
BAANG!
抜き放つが早いか、電光石火の三連射を叩き込む。
トリプルショット──初弾・次弾・次々弾のコッキングを、右手親指・左手親指・小指で果たし、最前の銃声を度重なる銃声で劈くガントリックである。
キャロルは撃発する際、初弾を男の足許へ向けて放ち、次弾以降は照準を固定しようとする手首の力を緩めて撃った。
集弾が過ぎればまた防がれると、あえて弾丸を下から上へと散らしたのだ。
だが男も然る者で、咄嗟に足を滑らせて初弾を躱し、同時に鉈めいたナイフを掲げて胴に迫った次弾を防ぎ、更に頭をめいいっぱいに振って、三発目も躱しせしめた。
最後の一発が、男のフードを貫き、その面貌を露にする。
齢はキャロルと変わらぬか。赤褐色の髪の下で、一つ切りの鈍色の瞳がヘラヘラとした笑みを浮かべている。
もう一つの眼は、何の酔狂か眼帯代わりに巻かれた女物のベルトのバックル部分に覆い隠されていた。
「てめぇ──」
キャロルの軋るような声。それを受けて、男は「あっしはジャンク」と言った。
「性も名もねぇ、ただのガラクタ(Junk)でさぁ」
「名なんざ聞いちゃいねえ。そのふざけたツラを忘れるかよ、ジャンク・ザ・リッパー」
唾吐く代わりに咥え煙草を地面に捨てたキャロルの台詞に、男──ジャンクは、芝居が掛かった風に、隻眼を丸くした。
「おやま、お憶えでぇ? たかが行き摺りでああなっただけのあっしらにそこまで熱をお入れとは、ちぃとも思っちゃおりませんで」
あからさまな嘲弄を含んだ声に、キャロルは吐き捨てた煙草を踏み躙って応じる。
「俺ぁ別に、お前なんぞに興味はねぇ。お前も、あの薄っぺらい笑い顔浮かべたガキも、他の連中も纏めてな。サンピン共がどうしようが知ったことじゃない。
俺がお前に聞くこたぁ一つ切りだ。とっととヤツの居所を吐け。吐いたら失せろ」
ジャンクの口許が、痙攣するようにヒクついた。それは一瞬の事で、彼の表情はまたへらりとした笑みへ戻る。
「すれ違いざまに引金引きなすった人の言う台詞ですかぃ、それが」
「先に抜いたな、お前だ」
「あんなのぁ、ただの挨拶でしょうやぁ。まあいいですよぅ、こちとらの用向きは、まさしくしかり、ソレですからねぃ」
悪びれもせずに告げたジャンクの言葉に、「どういうこった」とキャロルが眉をひそめる。
「どうもこうもねぇ、おたくがさっき言いなすったでしょうや。うちの大将の居所が知りたいんでやしょ? でもまぁ、言うまでもないことですかねぃ。
なんせ、おたくら、今まさにソコへ向かってるっていうんですからねぃ」
「っ、それどういうこと!?」
それまでただ固まる他に為す術を持ち合わせなかったラウラが、ジャンクの台詞に顕著に反応する。「下がってろ」とキャロルが制止しなければ、後も構わず詰め寄っていたことだろう。
「洗いざらい、吐け。そのあとで、かっちり殺してやるよ」
ラウラが踏み止まるのを後ろ目に確認するや、改めてキャロルはその眼光をジャンクへ向けた。
その眼光の鋭さを肌で感じたはずのジャンクはしかし、ニヤリと口許に笑みを広げる。
「あぁ、恨み辛みってのぁ、さぞかし気分が良いんでやしょう?」
いや、一つ残された鈍色の瞳に浮かぶ笑みは、ギラギラ──と形容すべきだろうか。最も近い言葉を探すとするなら、それは──悋気だ。
手にしたナイフの切先で片目を塞ぐ女物のベルトのバックルを撫でる。バックルの金目が、ちゃり──と鳴いた。
「なに……?」
「まったく虫唾が走りますよ。おたくら、まるでわかっちゃいねぇ。
自分らが、どれだけ恵まれた復讐者(リヴェンジャー)か」
「なにが言いてぇ」
「気に喰わねぇっつってんですよぉ」
ジャンクはそう呟くと、ナイフを振った。
すると、周囲の物陰から拳銃やらライフルやらを掲げた、いかにも無法者といった風情の男達がわらわらと姿を現した。
「こらえんのはもう止めだ。右眼が疼いてたまらねぇ」
ジャンクはぬらり──とナイフの切先を持ち上げて、キャバルリーモデルのリボルバーを掲げるキャロルへ、その切っ先を突き付ける。
「こっちこそ、きっちり殺してやりますよぅ」
片や藍色のポンチョを肩に掛けた男──キャロル=クルックシャンク。
片やカーマイン染のポンチョを羽織る少女──ラウラ=フアネーレ。
ラウラの足許にはもう一匹、黒猫のルーナが付き添っている。
三者は一様に、言葉も交わす事なく村の表通りを歩いていた。口を開いたのは雑貨屋に注文を告げる時だけで、そのほとんどはラウラによるものだ。キャロルは店の入口で不景気なツラで壁に身を預けたままだった。
右手に買い出しの荷を抱えて、通りを歩くラウラの後に続くキャロル。
その折りの事だ。
不意に、男が一人、通りの向かいから歩いてくるのが見えた。正確には、体格からして男と思しきと判断できるだけで、襤褸切れ寸前のローブを頭から被ったその人影の素性を窺う事はできそうもないのだが。
傍目に察せられる事があるとすれば、襤褸切れの下から覗く樫製の棒切れからして、どうやら男の右脚は義足らしいという事だ。足取りからしてもやや右脚を引き摺っているようだったが、さほどぎこちなさは感じない。
キャロルの炭色の瞳が、一瞬、その男を捉える。だが彼は、一瞥を寄越したのみで、すぐに視線を切った。
やがて、襤褸切れ纏うその男は、ラウラの左側に並び歩くキャロルの隣を──横切った。そしてその瞬間、襤褸切れが風を巻いて翻る。
BAANG!
銃声は、キャロルの左手が発した。
スウィベルドロゥ──振り返らずして銃をホルスターに納めたまま、キャロルは銃口を、背後で義足を軸に素早く振り返った男へ向けて、不意の一発を放ったのだ。
銃声を劈くように響いたのは、金属音。金属の悲鳴を発したのは、男が襤褸切れの内から抜き出した、分厚い鉈のようなナイフである。キャロルの背中を斬り付けようとしたその得物で咄嗟に銃撃を防いだのだ。
通りに響く銃声の余韻も消えぬ内に、キャロルはインディゴブルーの外套を翻して振り返った。その時には既に、左手にホルスターから抜き放った三インチのシングルアクションリボルバーの銃把を握っている。
コッキングも既に、果たし済み。あとは銃爪に、四ポンドのトリガープルを掛ければ、事足れり。
しかしキャロルは、照準を定めた銃に何かが当たった事を悟って、銃爪から指を離す。銃口へ視線こそ向けなかったが、その時リボルバーの銃口には、男が投じた細い錐状のナイフが突き立っていたのだ。構わず撃発していれば、暴発していただろう。
左手の銃を放棄すると共に、右手もまた抱えた紙袋を離し、右ホルスターに納まる銃の握り手を掴んでいた。
騎兵(キャバルリー)御用達の、七・五インチ。
BAANG!
BAANG!
BAANG!
抜き放つが早いか、電光石火の三連射を叩き込む。
トリプルショット──初弾・次弾・次々弾のコッキングを、右手親指・左手親指・小指で果たし、最前の銃声を度重なる銃声で劈くガントリックである。
キャロルは撃発する際、初弾を男の足許へ向けて放ち、次弾以降は照準を固定しようとする手首の力を緩めて撃った。
集弾が過ぎればまた防がれると、あえて弾丸を下から上へと散らしたのだ。
だが男も然る者で、咄嗟に足を滑らせて初弾を躱し、同時に鉈めいたナイフを掲げて胴に迫った次弾を防ぎ、更に頭をめいいっぱいに振って、三発目も躱しせしめた。
最後の一発が、男のフードを貫き、その面貌を露にする。
齢はキャロルと変わらぬか。赤褐色の髪の下で、一つ切りの鈍色の瞳がヘラヘラとした笑みを浮かべている。
もう一つの眼は、何の酔狂か眼帯代わりに巻かれた女物のベルトのバックル部分に覆い隠されていた。
「てめぇ──」
キャロルの軋るような声。それを受けて、男は「あっしはジャンク」と言った。
「性も名もねぇ、ただのガラクタ(Junk)でさぁ」
「名なんざ聞いちゃいねえ。そのふざけたツラを忘れるかよ、ジャンク・ザ・リッパー」
唾吐く代わりに咥え煙草を地面に捨てたキャロルの台詞に、男──ジャンクは、芝居が掛かった風に、隻眼を丸くした。
「おやま、お憶えでぇ? たかが行き摺りでああなっただけのあっしらにそこまで熱をお入れとは、ちぃとも思っちゃおりませんで」
あからさまな嘲弄を含んだ声に、キャロルは吐き捨てた煙草を踏み躙って応じる。
「俺ぁ別に、お前なんぞに興味はねぇ。お前も、あの薄っぺらい笑い顔浮かべたガキも、他の連中も纏めてな。サンピン共がどうしようが知ったことじゃない。
俺がお前に聞くこたぁ一つ切りだ。とっととヤツの居所を吐け。吐いたら失せろ」
ジャンクの口許が、痙攣するようにヒクついた。それは一瞬の事で、彼の表情はまたへらりとした笑みへ戻る。
「すれ違いざまに引金引きなすった人の言う台詞ですかぃ、それが」
「先に抜いたな、お前だ」
「あんなのぁ、ただの挨拶でしょうやぁ。まあいいですよぅ、こちとらの用向きは、まさしくしかり、ソレですからねぃ」
悪びれもせずに告げたジャンクの言葉に、「どういうこった」とキャロルが眉をひそめる。
「どうもこうもねぇ、おたくがさっき言いなすったでしょうや。うちの大将の居所が知りたいんでやしょ? でもまぁ、言うまでもないことですかねぃ。
なんせ、おたくら、今まさにソコへ向かってるっていうんですからねぃ」
「っ、それどういうこと!?」
それまでただ固まる他に為す術を持ち合わせなかったラウラが、ジャンクの台詞に顕著に反応する。「下がってろ」とキャロルが制止しなければ、後も構わず詰め寄っていたことだろう。
「洗いざらい、吐け。そのあとで、かっちり殺してやるよ」
ラウラが踏み止まるのを後ろ目に確認するや、改めてキャロルはその眼光をジャンクへ向けた。
その眼光の鋭さを肌で感じたはずのジャンクはしかし、ニヤリと口許に笑みを広げる。
「あぁ、恨み辛みってのぁ、さぞかし気分が良いんでやしょう?」
いや、一つ残された鈍色の瞳に浮かぶ笑みは、ギラギラ──と形容すべきだろうか。最も近い言葉を探すとするなら、それは──悋気だ。
手にしたナイフの切先で片目を塞ぐ女物のベルトのバックルを撫でる。バックルの金目が、ちゃり──と鳴いた。
「なに……?」
「まったく虫唾が走りますよ。おたくら、まるでわかっちゃいねぇ。
自分らが、どれだけ恵まれた復讐者(リヴェンジャー)か」
「なにが言いてぇ」
「気に喰わねぇっつってんですよぉ」
ジャンクはそう呟くと、ナイフを振った。
すると、周囲の物陰から拳銃やらライフルやらを掲げた、いかにも無法者といった風情の男達がわらわらと姿を現した。
「こらえんのはもう止めだ。右眼が疼いてたまらねぇ」
ジャンクはぬらり──とナイフの切先を持ち上げて、キャバルリーモデルのリボルバーを掲げるキャロルへ、その切っ先を突き付ける。
「こっちこそ、きっちり殺してやりますよぅ」
リプレイ本文
サルーン二階に位置する、古い安宿の一室。
埃っぽいシーツの上に猫のように身を丸めていた連城 壮介(ka4765)は、耳を打つ銃声に、ゆっくりと目蓋を開ける。
寝台に立て掛けて置いた刀を手に取りながら、身を起こした連城は、窓の方へと視線を向けた。
「この乾いた銃声は……、聞き覚えのある音ですね」
彼はそう呟くと、着流しの裾を払いながら寝台から足を下ろして下駄を履き、窓の方へと歩み寄って行った。
サルーン一階で、ウィスキー揺蕩うグラスを傾けていたJ・D(ka3351)もまた、その銃声を耳にしていた。グラスをテーブルに置いて立ち上がったJDは、ガンベルトのホルスターに納めた、砲兵用(アーティラリー)リボルバーの銃把を左手で探る。
ブーツの拍車を鳴らして一歩踏み出したJDは、不意に後ろで椅子の足が床板を擦る音がするのを聞いて、振り返った。
「……おめェサンはそこで待ってな」
JDがそう言うと、椅子を引いて立ち上がろうとしたパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が「ムゥ」とむくれた顔を返す。
別件の依頼で道すがらを共にしていた二人は、このサルーンで喉を潤していたのだ。
JDはパティを置いて、スウィングドアの方へと足を向けた。
「っ、それどういうこと!?」
ドアの脇へと位置づけ、外の様子を窺った彼は、よく響くそのソプラノに、サングラスの奥の瞳を大きく開いた。
見知った顔と、見知らぬ男が対峙する通りの状況を何事かと思案する間に、いかにもガラの悪そうなガンマン達が物陰から現れる。
「四の五の構える場合じゃねェな」
スウィングドアへと手を掛けて、JDは外へと躍り出た。
「JDか……!?」
眼を剥いて驚きを露にするキャロルをよそに、JDは肩に掛けた群青色のポンチョを翻しざまにリボルバーを抜いて、こちらへ振り返って銃口を向けようとするガンマン達目掛けて弾を撒く。
撃鉄を煽ぎながら銃を連射しつつ、JDはサルーン前に繋いで置いた自分の馬に走り寄って、鞍に差してあるレバーアクションのライフルを手に取った。抜くや否や、レバーを操作して初弾を薬室に装填し、手近なガンマンへ鉛弾を喰らわせる。
背後で踏み音。
振り返れば、ナイフを片手に肉迫する男の姿があった。咄嗟にライフルの銃身で迫る一刺を受け止める。
押し込まれるナイフに呻くJD。
その時、頭上から窓の開く音がし、ふと眼を上げて見れば、着流しの袖をはためかせて舞う青年──連城の姿があった。
連城は飛び降りざまに刀を揮って、男の背へ斬り付ける。
血飛沫と共に断末魔の叫びを上げて倒れる骸を足許に、連城は血刀を構える。
「おめェサンは……?」
「連城と言います。キャロルさんの助太刀ですよ。そちらも同じだとお見受けしましたが?」
「そうかィ。いや、礼がまだだったな。あんがとさんよ。俺はJD。しかし、奴サンらも随分顔が広ェな」
「なにかと厄介事に縁のある人達ですから」
「違ェねェ。だが今回ばかしは、ちィとばかり毛色が違ェようだ」
キャロルと対峙する義足男を見遣って、JDがそう言うと「そうなので?」と連城が視線と共に問う。
「ああ」と頷いたJDだったが、周りを取り囲もうとするガンマン達に、改めて気を向けた。
レバーを立て続けに操作しながらライフルを連射するJDの傍らで、袖内に忍ばせていた鎖分銅でガンマンを打つ連城。
三流を相手に寄せ付けぬ二人だったが、それまで物陰へ隠れていた一人のガンマンが銃身を切り詰めたショットガンを抱いて躍り出た。
咄嗟に得物を向けるも、相手は散弾、照準もそぞろなガンマンが先んじる。
だが、ショットガンが鳴る事はなかった。
打擲音にも似た音が響いたかと思えば、男の眼が裏返り、口から黒煙を吐きながら頽れたのだ。土の上で痙攣しているのを見る限り、死んではいないらしい。
「パティ……!?」
今度はラウラが驚きの声を上げて、スウィングドアの方を見る。
そこには、稲妻を発して塵と化す呪符を手に握った、パティの姿があった。
「待ってテ、ラウラ! スグに行くカラ!」
彼女はテラスから勢い良く飛び降りるや、雷撃を撒きながら、脇目も振らずにラウラ達の許へと駆けてゆく。
「ったく、あの娘っ子は……!」
脇の甘いパティに銃を向けようとするガンマンを先んじてライフルで撃ち抜いたJDは新しい実包を装填しつつ、手近なガンマンを斬り伏せた連城を横目に見遣った。
「悪ィが兄サン、あの聞かん娘の露払いを頼まれちゃくれねェか」
「ええ、任されました」
頷いた連城が軽い身捌きで疾駆し、道すがらにすれ違うガンマンに血化粧を施しながら、パティの許へと身を運んでゆく。
それを見送り「さァて」と呟きながら、JDがライフルを構え直した。
「騒ぎが納まるまで顔を出さないでくれ」
近衛 惣助(ka0510)は店員にそう念を押すと、雑貨屋の前に停めて置いた軍用のトライクのサイドカーに積んでおいたアサルトライフルと予備弾倉を取り出して身に付け始めた。
「よぅ、そこの兄さん」
とその時、彼の背後からそう呼び掛ける声があった。
近衛は携帯していたオートマチック拳銃を抜くや否や安全装置を外し、振り返り様に背後へと銃口を向けた。
すると「おっと」と声を上げて背後に立つ、頭にターバンを巻いた壮年の男が両手を肩の上に上げる。
「すまねぇな兄さん。急に声を掛けたのは不用心だった」
そう詫びる男に敵意がないと見て、近衛は銃口を上に逸らした。
「いや、こちらこそすまない。なにしろこの騒ぎだからな」
「みてぇだな。いやはやなんとも、こいつはちょっと想定外だ」
「……なにか心当たりが?」
男の物言いに含むところを感じて、近衛は眼光を鋭くする。
「そう怖い顔しなさんな。ま、俺が胡散臭い事は認めるがね」
男は苦笑しながら頬を掻くと、ふと通りの向こう──騒ぎの中心らしき方へと視線を送った。その面貌の左側は古い火傷に覆われており、良く見れば彼の左眼はもう一方の眼と比べて色合いが異なるのがわかった。
「ちょいとばかし追ってるヤツが居てな。風の噂を頼りに来てみりゃ、この騒ぎってわけだ」
男のその眼差しを見て取った近衛は、アサルトライフルのコッキングレバーを操作し、セレクターをSAFEからSEMIへと切り替えながら「まだ名前を聞いていなかったな」と言った。
「俺は近衛惣助、元軍人だ。そちらは?」
すると男は、使い古しと思しきカービンライフルを構えながら応えた。
「俺はジャンク(ka4072)。しがねぇ傭兵さ」
「一体全体、こいつはどういうわけだ……?」
銃砲店の中でレバーアクションライフルを抱えて外の騒ぎを窺っているのは、バリー=ランズダウンである。巡るましく移り変わってゆく状況に外へ躍り出る機会を逸していたのだ。
パティが守りの符術を以ってしてラウラを庇い、キャロルと連城が、あのジャンクと斬り結ぶ。
そしてJDと軍人風の装備に身を固めた男が地上から、そしてターバン巻きの男が家屋の屋根に上ってガンマンを相手にしていた。
「ねえ、そこのあなた」
どう撃って出たものかと考えあぐねていたバリーに、そう声を掛ける者があった。ふとそちらを見遣れば、そこには首許に風防用と思しきゴーグルを引っ掛けた女の姿があった。
「あの連中は、あなたのお客さん?」
言外に敵かと問う女に頷く。
「ああ。あのガラの悪そうな連中は」
それを聞いた女は「じゃあ、手を貸しましょうか?」と提案する。
咄嗟の事に「あぁ……」とバリーが言い淀んでいると、女は「マリィアよ。マリィア・バルデス(ka5848)」と名を告げる。
「バリーだ。じゃあミス・バルデス。失礼だが、得物は?」
傍目には丸腰にしか見えないマリィアは、バリーにそう問われると「今はこれだけ」と、外套の懐からデリンジャーを取り出して見せた。
「それは……」とまた言葉を探すバリーに「安心して」と自信あり気に微笑を浮かべるマリィア。
「外に留めてある愛車に、もっとゴツイのを積んであるから。だけどそこまで距離があるのよ」
「つまり、得物を取りに行くから援護を頼むと?」
「話が早くて助かるわ」と微笑むマリィアに、バリーは観念したように「……わかった」と頷くや、ライフルを片手で抱えて、ブレイクオープンリボルバーを手に取った。
「出る前に一つ良いか?」
「なに?」
「あの義足の男は、生け捕りにしたい」
バリーがそう言うと、やや思案する間を置いてマリィアは口を開く。
「訳アリ?」と問う彼女に「そんなところだ」と肩を竦めるバリー。
「ふぅん。まあいいわ。善処する、ってところで構わないなら」
「十分だ。……タイミングは?」
リボルバーの撃鉄を起こしざまにバリーが問うと、マリィアは指を三本立てて示す。
戸口に手を掛けた彼女は指を一本ずつ折り、そして最後の一本を折るや否や、表に飛び出した。
マリィアに気が付いたガンマン達が店先を振り返る。
だが、彼らが銃口をマリィアに向けるよりも速く、バリーの銃が銃声を発した。
彼は親指で素早く撃鉄を起こしながら弾をばら撒き、シリンダーが空になるや、ライフルに持ち替えて、さらに連射しながら、自らも戸口から身を躍らせた。弾薬を切らしたバリーは、ガンマン達が態勢を立て直して反撃を寄越す前に物陰へ滑り込む。
物陰と言っても、驢馬でも引けそうな飼葉を積んだ荷車だ。雨と降り注ぐ弾丸を前にしては、いつまで持つものか。
銃撃の隙を突き、再装填したリボルバーを突き出して、手近なガンマンに狙いを付ける。
そして銃爪を引いたその時だった。
照星の奥で、ガンマンが爆ぜたのだ。肉片とも呼べぬ粉のような欠片を散らしながら、その半身を消失させたのである。
身を乗り出して、マリィアが走り去った方を覗いてみれば、そこには軍用らしき魔導バイクを銃架にして、対物ライフルを構える彼女の姿があった。
発火炎が華咲いて、またガンマンの一人が粉と散る。
「たまげたな」
標的を失くした銃口を彷徨わせながら、バリーは思わず呟いていた。
キャロルの放つトリプルショットを鉈状のナイフで防ぎ、連城が投げる鎖分銅を樫製の義足で蹴り払ったジャンクは、身体の捻りを利用して投げナイフを投擲した。
中空のナイフが避雷針となって、パティの呪符から生じた稲妻を受け止める。
「……ったく。まあ、端っから期待しちゃいやせんでしたがねぇ」
紫電を散らすナイフから距離を取り大きく一歩後ろへ飛び退いたジャンクは、雇いのガンマンがあらかた倒れたのを見て毒づいた。
「マダ、戦う気ナノ……?」
それでもなお、戦う姿勢を崩さないジャンクに、パティは思わず問うていた。
「下がってな」
前へ出ようとしたパティを制し、地面に落とした空薬莢を蹴り飛ばしながら、ローディングゲートを閉じ撃鉄を起こしたキャバルリーを手に提げたキャロルが一歩前に出る。
「オ、オカシイよ。なんで、そんなに。ころすトカ、ころさないトカ、ソンナコトよりもっとハッピィなコト、いっぱいアルヨ……?」
「パティ……」
声を詰まらせながら訴えかけるパティの背後に庇われながら、ラウラが、何と言えば良いかわからないというような声で呟く。
「いやはや、お若いですねぃ」と、二人の様子を見たジャンクの台詞は、嘲笑うというには、何処か郷愁の念を感じさせる声音だった。
「まぁ、羨ましいとも思いやせんがね」
ナイフをことさらに大きく振って、ジャンクは言った。
「殺すとか、殺さないとか。それだけでしか物事を量れなくなっちまった手合いがいるんですよぅ」
「パティには、わからないよ。ぜんっぜん、わかんない」
「でしょうや。わかる必要も、ありゃしねぇんですよぅ」
諭すような声音でそう言ったジャンクは、左手を一閃して、ナイフを投じた。
数えて四本の投げナイフが、パティの足許にまるで線を引くように突き立つ。
パティはその一線を踏み越えようとして、しかし、ぎらり──と光るナイフの鈍い輝きに足を竦ませた。
すると彼女の前に、連城が手に持つ白刃を翳して言う。
「パティ……さん、ですかね? あなたには、ラウラさんの護衛をお願いします」
刃を寝かせて構えながら、連城はじゃらら──と音を立てて、袖口から鎖分銅を地面に着く寸前にまで伸ばした。
パティに背中を向けて得物を構える連城の面差しを視たジャンクが「おやま、ご同類ですかぃ」と一つ切りの眼に笑みを浮かべる。
「さて、それはどうでしょうかね」
ターバン巻きの男──ジャンクは、眼帯巻きのジャンクと距離を置いた家屋の屋上で、傷だらけのライフルケースから、古めかしい狙撃銃を取り出していた。
ローディングゲートに実包を一つずつ押し込み、ボルトを引いて初弾を薬室に装填する。
「悪いねえ。同じ看板で悪名憚られちゃ、こちとら商売上がったりなのさ」
銃床を肩に当て、己と同じ名の男に照準を付けながら、木製のフレームに口許を寄せて囁く。
ナイフを翳して連城と刃を合わせようとする男を照準器の奥に捉えながら、銃爪を引き絞る。
空を裂く弾丸は、攻勢の態勢に移った標的を目掛けて飛んだ。
しかし──今まさに振り落されようとしていたナイフが、寸でのところで軌道を変えた。肉厚の刀身を砕きはしたものの、僅かにそれた弾道は、男の右眼を覆うベルトの端を噛み千切るに終わった。
「勘の良い野郎だ」
素早くボルトを操作して次弾を装填し、照準。
だが相手は、その身に纏うローブを手ずから剥ぎ取って、翻しながら中空に放ち、狙撃を阻害する。
構わず撃発するも、手応えからして、穴を開けたのは布きれ一枚のみだろう。
さらにボルトを引いて、空の真鍮管を排莢。しかしボルトを戻すその前に、標的が位置する辺りを白煙が覆った。
発煙手榴弾……! 外套の内に隠していたか、あるいは義足の付け根にでも仕込んでいたか。
煙幕が晴れてスコープを覗いてはみたが、後に残されたのは砕けた刃片と、千切れたベルトの一部だけ。流石に得物を失くしてもなお喧嘩を吹っ掛ける程、耄碌はしていないらしい。
「やれやれ、取り逃がしたか……」
ライフルを片手で抱えながら、ジャンクは懐から紙巻き煙草を取り出した。
「なんだったの……?」
ジャンクが姿を消したのを見るや、膝の力が抜けたのか、ラウラは紙袋を抱えたままその場に腰を落とした。
「っ……!」不意に冷たい鉄の感触が触れたのに気付いて、彼女は地面に着いた手を引っ込める。
「…………」しかしラウラは、自分が触れたモノが何なのかに気が付くと、おそるおそると手を伸ばした。
「ラウラ、だいじょうぶ?」
心配そうな声でパティが近付いた時、ラウラの足許に転がっていたはずの、誰の物とも知れない血の付いたポケットリボルバーは、何処にも見当たらなくなっていた。
埃っぽいシーツの上に猫のように身を丸めていた連城 壮介(ka4765)は、耳を打つ銃声に、ゆっくりと目蓋を開ける。
寝台に立て掛けて置いた刀を手に取りながら、身を起こした連城は、窓の方へと視線を向けた。
「この乾いた銃声は……、聞き覚えのある音ですね」
彼はそう呟くと、着流しの裾を払いながら寝台から足を下ろして下駄を履き、窓の方へと歩み寄って行った。
サルーン一階で、ウィスキー揺蕩うグラスを傾けていたJ・D(ka3351)もまた、その銃声を耳にしていた。グラスをテーブルに置いて立ち上がったJDは、ガンベルトのホルスターに納めた、砲兵用(アーティラリー)リボルバーの銃把を左手で探る。
ブーツの拍車を鳴らして一歩踏み出したJDは、不意に後ろで椅子の足が床板を擦る音がするのを聞いて、振り返った。
「……おめェサンはそこで待ってな」
JDがそう言うと、椅子を引いて立ち上がろうとしたパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が「ムゥ」とむくれた顔を返す。
別件の依頼で道すがらを共にしていた二人は、このサルーンで喉を潤していたのだ。
JDはパティを置いて、スウィングドアの方へと足を向けた。
「っ、それどういうこと!?」
ドアの脇へと位置づけ、外の様子を窺った彼は、よく響くそのソプラノに、サングラスの奥の瞳を大きく開いた。
見知った顔と、見知らぬ男が対峙する通りの状況を何事かと思案する間に、いかにもガラの悪そうなガンマン達が物陰から現れる。
「四の五の構える場合じゃねェな」
スウィングドアへと手を掛けて、JDは外へと躍り出た。
「JDか……!?」
眼を剥いて驚きを露にするキャロルをよそに、JDは肩に掛けた群青色のポンチョを翻しざまにリボルバーを抜いて、こちらへ振り返って銃口を向けようとするガンマン達目掛けて弾を撒く。
撃鉄を煽ぎながら銃を連射しつつ、JDはサルーン前に繋いで置いた自分の馬に走り寄って、鞍に差してあるレバーアクションのライフルを手に取った。抜くや否や、レバーを操作して初弾を薬室に装填し、手近なガンマンへ鉛弾を喰らわせる。
背後で踏み音。
振り返れば、ナイフを片手に肉迫する男の姿があった。咄嗟にライフルの銃身で迫る一刺を受け止める。
押し込まれるナイフに呻くJD。
その時、頭上から窓の開く音がし、ふと眼を上げて見れば、着流しの袖をはためかせて舞う青年──連城の姿があった。
連城は飛び降りざまに刀を揮って、男の背へ斬り付ける。
血飛沫と共に断末魔の叫びを上げて倒れる骸を足許に、連城は血刀を構える。
「おめェサンは……?」
「連城と言います。キャロルさんの助太刀ですよ。そちらも同じだとお見受けしましたが?」
「そうかィ。いや、礼がまだだったな。あんがとさんよ。俺はJD。しかし、奴サンらも随分顔が広ェな」
「なにかと厄介事に縁のある人達ですから」
「違ェねェ。だが今回ばかしは、ちィとばかり毛色が違ェようだ」
キャロルと対峙する義足男を見遣って、JDがそう言うと「そうなので?」と連城が視線と共に問う。
「ああ」と頷いたJDだったが、周りを取り囲もうとするガンマン達に、改めて気を向けた。
レバーを立て続けに操作しながらライフルを連射するJDの傍らで、袖内に忍ばせていた鎖分銅でガンマンを打つ連城。
三流を相手に寄せ付けぬ二人だったが、それまで物陰へ隠れていた一人のガンマンが銃身を切り詰めたショットガンを抱いて躍り出た。
咄嗟に得物を向けるも、相手は散弾、照準もそぞろなガンマンが先んじる。
だが、ショットガンが鳴る事はなかった。
打擲音にも似た音が響いたかと思えば、男の眼が裏返り、口から黒煙を吐きながら頽れたのだ。土の上で痙攣しているのを見る限り、死んではいないらしい。
「パティ……!?」
今度はラウラが驚きの声を上げて、スウィングドアの方を見る。
そこには、稲妻を発して塵と化す呪符を手に握った、パティの姿があった。
「待ってテ、ラウラ! スグに行くカラ!」
彼女はテラスから勢い良く飛び降りるや、雷撃を撒きながら、脇目も振らずにラウラ達の許へと駆けてゆく。
「ったく、あの娘っ子は……!」
脇の甘いパティに銃を向けようとするガンマンを先んじてライフルで撃ち抜いたJDは新しい実包を装填しつつ、手近なガンマンを斬り伏せた連城を横目に見遣った。
「悪ィが兄サン、あの聞かん娘の露払いを頼まれちゃくれねェか」
「ええ、任されました」
頷いた連城が軽い身捌きで疾駆し、道すがらにすれ違うガンマンに血化粧を施しながら、パティの許へと身を運んでゆく。
それを見送り「さァて」と呟きながら、JDがライフルを構え直した。
「騒ぎが納まるまで顔を出さないでくれ」
近衛 惣助(ka0510)は店員にそう念を押すと、雑貨屋の前に停めて置いた軍用のトライクのサイドカーに積んでおいたアサルトライフルと予備弾倉を取り出して身に付け始めた。
「よぅ、そこの兄さん」
とその時、彼の背後からそう呼び掛ける声があった。
近衛は携帯していたオートマチック拳銃を抜くや否や安全装置を外し、振り返り様に背後へと銃口を向けた。
すると「おっと」と声を上げて背後に立つ、頭にターバンを巻いた壮年の男が両手を肩の上に上げる。
「すまねぇな兄さん。急に声を掛けたのは不用心だった」
そう詫びる男に敵意がないと見て、近衛は銃口を上に逸らした。
「いや、こちらこそすまない。なにしろこの騒ぎだからな」
「みてぇだな。いやはやなんとも、こいつはちょっと想定外だ」
「……なにか心当たりが?」
男の物言いに含むところを感じて、近衛は眼光を鋭くする。
「そう怖い顔しなさんな。ま、俺が胡散臭い事は認めるがね」
男は苦笑しながら頬を掻くと、ふと通りの向こう──騒ぎの中心らしき方へと視線を送った。その面貌の左側は古い火傷に覆われており、良く見れば彼の左眼はもう一方の眼と比べて色合いが異なるのがわかった。
「ちょいとばかし追ってるヤツが居てな。風の噂を頼りに来てみりゃ、この騒ぎってわけだ」
男のその眼差しを見て取った近衛は、アサルトライフルのコッキングレバーを操作し、セレクターをSAFEからSEMIへと切り替えながら「まだ名前を聞いていなかったな」と言った。
「俺は近衛惣助、元軍人だ。そちらは?」
すると男は、使い古しと思しきカービンライフルを構えながら応えた。
「俺はジャンク(ka4072)。しがねぇ傭兵さ」
「一体全体、こいつはどういうわけだ……?」
銃砲店の中でレバーアクションライフルを抱えて外の騒ぎを窺っているのは、バリー=ランズダウンである。巡るましく移り変わってゆく状況に外へ躍り出る機会を逸していたのだ。
パティが守りの符術を以ってしてラウラを庇い、キャロルと連城が、あのジャンクと斬り結ぶ。
そしてJDと軍人風の装備に身を固めた男が地上から、そしてターバン巻きの男が家屋の屋根に上ってガンマンを相手にしていた。
「ねえ、そこのあなた」
どう撃って出たものかと考えあぐねていたバリーに、そう声を掛ける者があった。ふとそちらを見遣れば、そこには首許に風防用と思しきゴーグルを引っ掛けた女の姿があった。
「あの連中は、あなたのお客さん?」
言外に敵かと問う女に頷く。
「ああ。あのガラの悪そうな連中は」
それを聞いた女は「じゃあ、手を貸しましょうか?」と提案する。
咄嗟の事に「あぁ……」とバリーが言い淀んでいると、女は「マリィアよ。マリィア・バルデス(ka5848)」と名を告げる。
「バリーだ。じゃあミス・バルデス。失礼だが、得物は?」
傍目には丸腰にしか見えないマリィアは、バリーにそう問われると「今はこれだけ」と、外套の懐からデリンジャーを取り出して見せた。
「それは……」とまた言葉を探すバリーに「安心して」と自信あり気に微笑を浮かべるマリィア。
「外に留めてある愛車に、もっとゴツイのを積んであるから。だけどそこまで距離があるのよ」
「つまり、得物を取りに行くから援護を頼むと?」
「話が早くて助かるわ」と微笑むマリィアに、バリーは観念したように「……わかった」と頷くや、ライフルを片手で抱えて、ブレイクオープンリボルバーを手に取った。
「出る前に一つ良いか?」
「なに?」
「あの義足の男は、生け捕りにしたい」
バリーがそう言うと、やや思案する間を置いてマリィアは口を開く。
「訳アリ?」と問う彼女に「そんなところだ」と肩を竦めるバリー。
「ふぅん。まあいいわ。善処する、ってところで構わないなら」
「十分だ。……タイミングは?」
リボルバーの撃鉄を起こしざまにバリーが問うと、マリィアは指を三本立てて示す。
戸口に手を掛けた彼女は指を一本ずつ折り、そして最後の一本を折るや否や、表に飛び出した。
マリィアに気が付いたガンマン達が店先を振り返る。
だが、彼らが銃口をマリィアに向けるよりも速く、バリーの銃が銃声を発した。
彼は親指で素早く撃鉄を起こしながら弾をばら撒き、シリンダーが空になるや、ライフルに持ち替えて、さらに連射しながら、自らも戸口から身を躍らせた。弾薬を切らしたバリーは、ガンマン達が態勢を立て直して反撃を寄越す前に物陰へ滑り込む。
物陰と言っても、驢馬でも引けそうな飼葉を積んだ荷車だ。雨と降り注ぐ弾丸を前にしては、いつまで持つものか。
銃撃の隙を突き、再装填したリボルバーを突き出して、手近なガンマンに狙いを付ける。
そして銃爪を引いたその時だった。
照星の奥で、ガンマンが爆ぜたのだ。肉片とも呼べぬ粉のような欠片を散らしながら、その半身を消失させたのである。
身を乗り出して、マリィアが走り去った方を覗いてみれば、そこには軍用らしき魔導バイクを銃架にして、対物ライフルを構える彼女の姿があった。
発火炎が華咲いて、またガンマンの一人が粉と散る。
「たまげたな」
標的を失くした銃口を彷徨わせながら、バリーは思わず呟いていた。
キャロルの放つトリプルショットを鉈状のナイフで防ぎ、連城が投げる鎖分銅を樫製の義足で蹴り払ったジャンクは、身体の捻りを利用して投げナイフを投擲した。
中空のナイフが避雷針となって、パティの呪符から生じた稲妻を受け止める。
「……ったく。まあ、端っから期待しちゃいやせんでしたがねぇ」
紫電を散らすナイフから距離を取り大きく一歩後ろへ飛び退いたジャンクは、雇いのガンマンがあらかた倒れたのを見て毒づいた。
「マダ、戦う気ナノ……?」
それでもなお、戦う姿勢を崩さないジャンクに、パティは思わず問うていた。
「下がってな」
前へ出ようとしたパティを制し、地面に落とした空薬莢を蹴り飛ばしながら、ローディングゲートを閉じ撃鉄を起こしたキャバルリーを手に提げたキャロルが一歩前に出る。
「オ、オカシイよ。なんで、そんなに。ころすトカ、ころさないトカ、ソンナコトよりもっとハッピィなコト、いっぱいアルヨ……?」
「パティ……」
声を詰まらせながら訴えかけるパティの背後に庇われながら、ラウラが、何と言えば良いかわからないというような声で呟く。
「いやはや、お若いですねぃ」と、二人の様子を見たジャンクの台詞は、嘲笑うというには、何処か郷愁の念を感じさせる声音だった。
「まぁ、羨ましいとも思いやせんがね」
ナイフをことさらに大きく振って、ジャンクは言った。
「殺すとか、殺さないとか。それだけでしか物事を量れなくなっちまった手合いがいるんですよぅ」
「パティには、わからないよ。ぜんっぜん、わかんない」
「でしょうや。わかる必要も、ありゃしねぇんですよぅ」
諭すような声音でそう言ったジャンクは、左手を一閃して、ナイフを投じた。
数えて四本の投げナイフが、パティの足許にまるで線を引くように突き立つ。
パティはその一線を踏み越えようとして、しかし、ぎらり──と光るナイフの鈍い輝きに足を竦ませた。
すると彼女の前に、連城が手に持つ白刃を翳して言う。
「パティ……さん、ですかね? あなたには、ラウラさんの護衛をお願いします」
刃を寝かせて構えながら、連城はじゃらら──と音を立てて、袖口から鎖分銅を地面に着く寸前にまで伸ばした。
パティに背中を向けて得物を構える連城の面差しを視たジャンクが「おやま、ご同類ですかぃ」と一つ切りの眼に笑みを浮かべる。
「さて、それはどうでしょうかね」
ターバン巻きの男──ジャンクは、眼帯巻きのジャンクと距離を置いた家屋の屋上で、傷だらけのライフルケースから、古めかしい狙撃銃を取り出していた。
ローディングゲートに実包を一つずつ押し込み、ボルトを引いて初弾を薬室に装填する。
「悪いねえ。同じ看板で悪名憚られちゃ、こちとら商売上がったりなのさ」
銃床を肩に当て、己と同じ名の男に照準を付けながら、木製のフレームに口許を寄せて囁く。
ナイフを翳して連城と刃を合わせようとする男を照準器の奥に捉えながら、銃爪を引き絞る。
空を裂く弾丸は、攻勢の態勢に移った標的を目掛けて飛んだ。
しかし──今まさに振り落されようとしていたナイフが、寸でのところで軌道を変えた。肉厚の刀身を砕きはしたものの、僅かにそれた弾道は、男の右眼を覆うベルトの端を噛み千切るに終わった。
「勘の良い野郎だ」
素早くボルトを操作して次弾を装填し、照準。
だが相手は、その身に纏うローブを手ずから剥ぎ取って、翻しながら中空に放ち、狙撃を阻害する。
構わず撃発するも、手応えからして、穴を開けたのは布きれ一枚のみだろう。
さらにボルトを引いて、空の真鍮管を排莢。しかしボルトを戻すその前に、標的が位置する辺りを白煙が覆った。
発煙手榴弾……! 外套の内に隠していたか、あるいは義足の付け根にでも仕込んでいたか。
煙幕が晴れてスコープを覗いてはみたが、後に残されたのは砕けた刃片と、千切れたベルトの一部だけ。流石に得物を失くしてもなお喧嘩を吹っ掛ける程、耄碌はしていないらしい。
「やれやれ、取り逃がしたか……」
ライフルを片手で抱えながら、ジャンクは懐から紙巻き煙草を取り出した。
「なんだったの……?」
ジャンクが姿を消したのを見るや、膝の力が抜けたのか、ラウラは紙袋を抱えたままその場に腰を落とした。
「っ……!」不意に冷たい鉄の感触が触れたのに気付いて、彼女は地面に着いた手を引っ込める。
「…………」しかしラウラは、自分が触れたモノが何なのかに気が付くと、おそるおそると手を伸ばした。
「ラウラ、だいじょうぶ?」
心配そうな声でパティが近付いた時、ラウラの足許に転がっていたはずの、誰の物とも知れない血の付いたポケットリボルバーは、何処にも見当たらなくなっていた。
依頼結果
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相談卓 近衛 惣助(ka0510) 人間(リアルブルー)|28才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/07/23 14:11:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/19 16:00:23 |