• 空蒼

【空蒼】脚本家の黒い計画

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/07/17 09:00
完成日
2018/07/24 01:43

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 コードネーム、OF-004。
 統一地球連合軍に所属するエージェントだが、自ら望んで強化人間になった。


「お前は誰だ? 俺に何の用だ?!」
 少年は、自身の脳裏に響く声に違和感を覚えながらも、コックピット内部で叫んだ。
 抑えきれない感情が今にも破裂しそうになる。だが、OF-004はギリギリの極限で耐えていた。


『きみの実力、知りたくて……ちょっと、確認したいんだけど』


「確認? そんなことはどうでも良い! 俺に戦いの場を与えろ!!」
 OF-004は、自暴自棄になっていた。
 蘇る……コロニーでの記憶。
 ヒトは極限状態になると、どうなるか、OF-004は身を持って知っていた。
 だからこそ、理解できない。
 何故、自分は生きているのか……。




 リアルブルー。
 日本、名古屋にて。
 黒いエクスシアが、突如、姿を現した。
 ビルの屋上に白い仮面を付けた紳士らしき男が立っていた。カッツォ・ヴォイ(kz0224)だ。
 その隣には、気怠そうな表情をした少年もいる。黙示騎士シュレディンガーである。
「ノーフェース、リアルブルーの技術に興味あったよね。強化人間の少年、こっちに飛ばしておいたから。ついでに、『おまけ』も付いてくるはずだよ♪」
「まずは、お手並み拝見だな」
 カッツォがそう告げると、シュレディンガーは「またね~」と手を振りながら瞬間移動で消え去った。
「……リアルブルーの技術も捨てたものではないようだな。この世界でも、憎しみの感情が広がっている……甘美な果実のように」
 新しい劇が始まる楽しみに、カッツォは高揚としていた。
「計画通り、強化人間の『力』を手に入れることができれば……ククク」
 ステッキを握り、カッツォは黒いエクスシアの動向を見つめていた。



 10メートルほどある小型クラスタが、名古屋付近の平地に出没した。
 2体の小型クラスタに挟まれているのは、黒いエクスシア。
 人々が逃げ惑う中、黒いエクスシアはヒトのことなど気にも留めず、小型クラスタに攻撃をしかけていた。
 大剣を振りおろし、一刀両断すると、その衝撃で小型クラスタが砕け散り、消滅していく。


「たったの一撃で撃破とは、素晴らしい」
 ニヤリと笑うカッツォ。


 黒いエクスシアは素早く移動すると、もう一体の小型クラスタ目掛けて大剣を繰り出した。その攻撃は凄まじく、あっけなく小型クラスタが消え去っていった。
 砂埃が荒れる中、CAMの集団が姿を現した。だが、統一地球連合軍ではなかった。
 援軍でもなかった。
 歪虚CAMと呼ばれる中型狂気が無数……黒いエクスシアに集中攻撃をしかけていた。
 さらに、クラゲと巻貝が融合したような小型狂気の群れまで現れ、黒いエクスシアに襲い掛かる。
 地上戦は激しさを増し、なかなか終わらなかった。
 倒しても倒しても、次から次へと狂気のヴォイドが現れるのだ。
 それでも尚、黒いエクスシアは戦い続けていた。



 クリムゾンウェスト連合軍から要請が入り、マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)は、援軍として参加したハンターたちと共に、リアルブルーの日本、名古屋にやってきていた。
「白い仮面を付けた男の目撃情報もある。おそらく、カッツォ・ヴォイだろうが、ヤツの目的は何だ?」
 眉を顰めるマクシミリアン。
 カッツォは以前から、世界を滅ぼすと告げていた。
 その世界とは、クリムゾンウェストだけでなく、リアルブルーも含まれているのではないか?
 先の対戦で、月面基地の地下に現れたカッツォは、大精霊を狙っているような行動もしていた。
 それも、カッツォにとっては『演出』だったのか?
 疑問はつきないが、今回の目的は歪虚CAMと小型狂気の群れを倒すことだ。
 だが、黒いエクスシアの存在も気になる。
 突然、現れたかと思うと、小型クラスタ2体を倒してしまったのだ。
 黒いエクスシア、ただ一機だけで。
 狂気のヴォイドたちは、黒いエクスシアと戦いを続けていたが、どうにも本能的に暴れているようにも窺えた。
 つまり、特に目的もなく、互いに戦っているだけなのかもしれないが、この地に住む人々にとっては脅威であることに変わりはなかった。
 世界の各地で、強化人間が暴走しているという情報もあったが、黒いエクスシアは…否、その機体に搭乗している者は、自らの意思で戦っている可能性が高い。
 今のところは……であるが。
 マクシミリアンは人々を隣町まで避難するように誘導し、仲間たちと協力して、道路を一時的に封鎖することにした。狂気のヴォイド集団を食い止めるためである。
「ここで、狂気のヴォイド集団を片づける。一匹、残らずな」
 迫り来る歪虚CAMと小型狂気の群れ。
 黒いエクスシアは、単独で狂気ヴォイドたちと戦っていた。
 おそらく、カッツォも近くに隠れている恐れがある。
「カッツォの目的を探るにしても、まずは狂気ヴォイドを倒すことを優先した方が良いだろう」
 名古屋に住む人々のためにも、真っ先に倒すべき対象は、狂気ヴォイドの群れだ。
 その憂いを取り除くことが先決である。
 ハンターたちは、それぞれの想いを胸に、戦う決心をしていた。

 何故、戦うのか。
 もしかしたら、理由はないのかもしれない。
 ないのなら、自分で決めれば良い。
 想いは、自由なのだから。

リプレイ本文

 リアルブルー、名古屋。
 無人の廃工場が立ち並ぶ中、狂気のヴォイド集団は好き勝手に動き回っていた。
「なんだか乱戦になりそうな予感だわ。廃工場の中に敵が紛れ込んでいる可能性もあるから、皆、気を付けて」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)が『千日紅』を発動させ、刻令ゴーレム「Gnome」ゲー太に命じてCモード「wall」を発動…地面から2m四方の構造物が出現した。
 カーミンは次の攻撃に備えて洋弓「フォルティトゥード」に魔矢「ラヴァストーン」を番える。
 イェジドのコーディはアリア・セリウス(ka6424)を乗せて、一気に敵の前衛へと走り抜けていく。
 東條 奏多(ka6425)はフェンリルライズのオーラを纏ったイェジドの鋼夜に騎乗して、アリアがいる場所の隣接する位置まで素早く駆けて、敵の手前でイェジドから降りた。
「名古屋は俺たちで取り戻す。この地を狂気ヴォイドに奪われてたまるか」
 奏多の眼光が鋭くなる。
 久し振りに訪れた日本の地……奏多は、自分が戦う理由が今、はっきりと分かったのだ。
 そうだ。俺は、そのために、ここに来たのだと。
 ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)が搭乗した魔導型デュミナスのパピルサグXはハイパーブーストで、さらに後方へと移動していく。
「今回も、厄介なことになったな。黒いエクスシアには見覚えがあるが、まずは歪虚殲滅を優先だな」
 落ち着いた物言いのルナリリル。
 射程内まで後方移動すると、パピルサグXはロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構えた。
 長射程のライフルならば、小型狂気が浮遊して隣町まで移動する前に撃ち落すことも可能だ。
 封鎖した道路を敵が抜けたら、それこそ手遅れになる恐れもあった。
 だが、パピルサグXが後方へと移動したこともあり、敵が抜けていく可能性も低くなる。
 魔導型デュミナスのJack・The・Ripperに搭乗しているのは、リカルド=フェアバーン(ka0356)だ。
 白い仮面を付けた男の目撃情報を聞いて、リカルドの心は震えていた。
「……わき腹が疼いてきやがった……」
 過去のトラウマが蘇るが、リカルドはそれでも尚、歪嘘の撃滅のため、仲間の援護をすると覚悟していた。前方へと移動するJack・The・Ripper。
 神代 誠一(ka2086)が搭乗するのは、R7エクスシアのベクトルである。
 ジェネレーター「エクソドス」を装備した『イニシャライズオーバー』を展開したベクトル機は、スキルトレースLv20による『ランアウト』を発動させ移動し、前方にいるアリアたちを援護する位置に陣取っていた。
「まずは浮遊している小型狂気を狙った方が、良いか」
 誠一が、そう思うのは尤もだ。小型狂気は、アリアたちの上空を浮遊していたのだ。
 アリアの攻撃は命中すれば凄まじいものだが、上空に浮遊している小型狂気を狙い撃つなら、遠距離攻撃の武器が適している。
 久我・御言(ka4137)は第二の愛機とも言えるコンフェッサーに騎乗して、量産型フライトパックの『フライトブースト』で飛行状態となり、地上にいる仲間たちと歩調を合わせて上空を移動していた。
 御言の狙いは黒いエクスシアとの交信であったが、そのためにも上空に浮遊している小型狂気を倒すため、試作波動銃「アマテラス」を構えていた。
「一時的な飛行だが、上空にいる小型狂気は任せたまえ」
 トランシーバーで仲間たちに報告する御言。
 連絡を受けて、鳳城 錬介(ka6053)はリーリーの威降に騎乗して走り出し、敵の前衛を目指して駆けていく。
「俺は小型狂気を狙います。もしかしたら廃工場から伏兵が現れるかもしれませんから、周囲を警戒してください」
 錬介が、アリアと奏多のフォローに入った。
「カーミンも、廃工場からの敵を気にしていたわね。了解よ」
 アリアが頷き、奏多は無言で相槌を打つ。
 歪虚CAMの中型狂気たちは、後方にいる黒いエクスシア目掛けてマテリアルライフルで集中攻撃……黒いエクスシアは、歪虚CAMの攻撃を全て回避すると、素早く駆け寄り、大剣を振り降ろし歪虚CAM一体を撃破していた。だが、長時間の戦闘により、黒いエクスシアはダメージを受けていた。
 小型狂気たちは、アリアたちの上空を抜けて、後方へと浮遊しながら移動していた。
 封鎖された道路に近い位置に居たパピルサグXが、ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構え、上空を浮遊している小型狂気を撃ち抜いていく。
「やっぱり来たな。ここから先へはいかせない」
 ルナリリルの戦術は、理に叶っていた。最終的な目的がなんであれ、まずは上空に浮遊している小型狂気たちを撃ち落としていくのは賢明だ。
 リカルドのJack・The・Ripperは試作型スラスターライフルで、歪虚CAMの中型狂気を狙い撃つ。命中してダメージを与えることができたが、歪虚CAMは黒いエクスシアの動きに気を取られていた。
「こっちに向いてくれねぇかな……まあ、報酬のためにも、やれることは、きっちりやらせてもらうぜ」
 リカルドは、そう呟きながらも、嫌な予感だけはしていた。
 アリアは『氷輪詩』を詠唱…コーディに騎乗して、歪虚CAMの中型狂気を目指して走り抜けていく。小型狂気は浮遊して後方へと移動しているため、アリアを乗せたコーディは地上を駆け抜け、歪虚CAMの集団がいる場所まで辿り着くことができた。
 『アクセルオーバー』で加速した奏多が『ランアウト』で移動……『アサルトディスタンス』を駆使して歪虚CAM二体を絶火刀「シャイターン」で斬り裂いていく。
 先にJack・The・Ripperの攻撃を受けていた歪虚CAMは、奏多の攻撃が止めとなり、砕け散るように消滅していった。もう一体はダメージは受けていたが、まだ倒れる様子はなかった。
 だが、奏多が歪虚CAMたちの間を擦り抜けたことによって、敵の狙いがハンターへと向けられるようになっていた。
 黒いエクスシアは、大剣で薙ぎ払うように歪虚CAM一体を斬り裂き、消滅させていく。
 誠一は、錬介と互いにトランシーバーで連絡を取り合いながら、小型狂気を優先して攻撃していくことにした。
「歪虚CAM、残り8体……だが、浮遊している小型狂気の集団が隣街へ向かって移動しているなら」
 誠一が搭乗するベクトル機が上空を漂う小型狂気に標準を合わせ『マテリアルライフル』を放った。
 直線上に居た小型狂気が10体、紫色の光線に貫かれていき、跡形もなく消え去っていった。
 錬介が援護に入り、フォースリングを媒体とした『マジックアロー』を放ち、5体の小型狂気に命中すると、その衝撃で消滅していった。
 イニシャライズオーバーの範囲内にいた錬介は、狂気に汚染されることはなかった。
 フライトブーストで飛行していたコンフェッサーは、御言が発動する『フーファイター』によって短時間ではあったが、空間戦闘に適した状態になっていた。
「さあ、遊びはここまでだ」
 操縦席にいた御言がスティックを握ると、コンフェッサーが試作波動銃「アマテラス」を発動体とした『マテリアルビーム』を放った。
 ターゲットは浮遊している小型狂気たちだ。光線は一直線に迸り、一気に5体の小型狂気が消滅していく。
 封鎖された道路付近にいたパピルサグXは、ロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構え、迫り来る小型狂気を確実に仕留めていく。
「こっちに来る小型狂気は、片付いたな。まあ、こんなものか」
 ルナリリルは、そう言いつつも、黒いエクスシアに搭乗している人物に心当たりがあった。
 自分の記憶が正しければ、コードネームは、OF-004だ。



「噂をすれば、なんとやらね」
 カーミンは上空に浮遊している小型狂気に狙いを定めて、洋弓「フォルティトゥード」による『菖蒲』を解き放つ。連撃の矢によって小型狂気が一体、消滅していく。
 廃工場の中から、鉄の部品が融合した人形たちが出没したが、ゲー太が発動したCモード「bind」の結界に引っかかり、人形たちは移動不能になっていた。
「マクシミリアン、鉄の人形って嫉妬の眷属よね? どうして、狂気のヴォイド集団に混ざってるのよ?」
 カーミンの問いに、仲間の援護に加わっていたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が応えた。
「嫉妬と狂気……以前にも、この組み合わせがあったな」
 考え込むマクシミリアン。思い当たることはあったが、まだ確信はなかった。
「鉄の人形? まさか……」
 錬介は、工場からの伏兵に供えてフォースリングの『マジックアロー』を放ち、5体の人形に命中すると、粉々になって消滅した。
 奏多の指示でイェジドの鋼夜は別行動を取り、狼嗅覚を駆使して、工場付近の匂いを嗅いでいた。異変に気付いた鋼夜がウォークライで周囲を威嚇していた。
 イェジドのコーディが『追跡』を開始した。
「コーディ、見つけたの?」
 アリアはコーディに騎乗していたため、イェジドが追跡することになれば、自ずと歪虚CAMから離れることになる。
 歪虚CAMたちは奏多に集中攻撃を仕掛けていたこともあり、鋼夜を呼び寄せる余裕はなかった。
 奏多が敵の攻撃を全て回避すると、黒いエクスシアが歪虚CAMの背後から大剣を振り下ろして一刀両断にする。斬り裂かれた歪虚CAMが一体、消滅。
「まさか黒いエクスシアを間近で見るとはな。それよりも、できるだけ、敵の数は減らす……ここで逃げ出したら信用に関わるからねえ」
 リカルドが操縦する魔導型デュミナスのJack・The・Ripperが、斬機刀「建御雷」を構え、中型狂気の関節部を斬り裂いていく。
 Jack・The・Ripperは、味方を援護するために中型狂気と戦っていた。
 その最中、御言が乗るコンフェッサーが白旗を掲げながら『マテリアルライン』を発動させ、黒いエクスシアに搭乗している人物との交信を試みた。
 白旗は、マクシミリアンから借りた白い布を代用したものだ。
「私の名前は、久我・御言。ハンターだ。君の所属と目的はなんだ?」
 通信が繋がることに成功したのか、黒いエクスシアに搭乗している人物が、コンフェッサーとの通信に乗せて、返答した。
『……所属は、統一地球連合軍。コードネーム、OF-004……目的、狂気ヴォイドを全て倒すこと』
「ならば、共闘したい。私たちと君の目的は同じだ」
 御言は、懸命に話し続ける。コンフェッサーは、白旗を掲げたままだ。
『……敵意がないことは分かった。今回だけは、共闘しても良い』
 意外にも、OF-004は承諾してくれた。
 


「やれやれ、見つかってしまったようだな」
 白い仮面を付けた男、カッツォ・ヴォイ(kz0224)は、廃工場の内部で、鉄の人形を生み出していた。
 その現場に辿り着けたのは、コーディのおかげだ。
 追跡が上手くいき、アリアはカッツォと接触することができた。
「こちら、アリア。北側の一番奥にいるわ」
 トランシーバーで連絡を取ると、鋼夜と合流した奏多、リーリーの威降に騎乗した錬介が駆けつけてきた。
 アリアは『氷輪詩』を奏で、『心の刃』からの『透刃花・玲瓏』をカッツォ目掛けて繰り出した。
「劇の脚本は大分変わったようだけれど、今の筋書きを教えてくれないかしら? 世界は交差して錯乱、憎悪も希望も目標あってこそ……舞台に出る以上、それを知って、歌う権利はあるでしょう?」
 衝撃が走り、カッツォに命中……そして、カウンターが繰り出される。
 心の刃で動きを封じるつもりでいたが、カッツォは抵抗に打ち勝ったのだ。
 コーディが『ブロッキング』でカッツォのカウンターを受け止め……だが、非情にもカッツォの杖がコーディの胴部を貫き、血飛沫が飛び散り、その反動でアリアは床に転がり落ちた。
 アリアは致命傷を免れたが、コーディは深手を負っていた。
「ほう、主人を庇うとは、幻獣も、なかなか使えるモノだな。心の刃は諸刃の剣……この私とて、日々、強化している。そう何度も同じ技は通用しないのだよ…ククク」
 嫌味にも聞こえるカッツォの声だ。
「コーディさん!」
 直感で、錬介はコーディが命に関わると判断した。
 錬介の『ファーストエイド』による『フルリカバリー』によって、コーディは生命力を回復することができた。だが、かなりの深手だったため、コーディの怪我は完全には回復しなかった。
「そろそろ顔、拝ませてくれよ、色男。隠す意味も、大してないだろう?」
 奏多は『アクセルオーバー』の残像を纏い、絶火刀「シャイターン」による『天誅殺』を繰り出す。
 その刃は、カッツォの腕に命中して、かなりのダメージを与えていた。その衝撃で、カッツォの腕は切り裂かれるが、カウンターが発動する。
 凄まじい速さで、カッツォの杖が、奏多の胴部に深く喰いこんでいく。
「東條 奏多…貴様の言う通り、隠す意味はないが、この仮面は無意味ではないのだよ」
 カッツォがそう告げると、奏多の身体が崩れ落ちる。
「何が狙いか知らないが……もう少し遊んで行けよ、マナー違反野郎。歌姫の演目すっぽかすほど……野暮じゃあないだろう?」
 奏多は重体になりながらも、意識がある限り、懸命にカッツォの行く手を阻もうとしていた。
「歌姫? アリアのことか?」
「カッツォ、なんて仮面ではなく、貴方の名は…ソレ、が本名なんてない」
 アリアは『心の刃』を発動させ『想思花・月魄』による二刀流で魔導剣「カオスウィース」と双龍剣「ナラク・アグニ」の連撃に加え『想思花・祓月』による斬撃を放った。
 カッツォの胴部に命中し、かなりのダメージを与えていたが、それがカウンターを誘発…。
 無残にもアリアの腹部にカッツォの杖が突き刺さる。
「……ふむ、仕方がない」
 カッツォは、意識を失ったアリアを抱き抱えると、その場から立ち去り……瞬間移動で逃げると思いきや、そのまま足早に工場の外へと走り出した。
 イェジドの鋼夜は『ブロッキング』で威嚇するが、カッツォは鋼夜の頭上を飛び越え、着地すると、さらに加速していった。
 とっさにトランシーバーを取り出す錬介。
「こちら鳳城、カッツォがアリアさんを連れて、工場から逃げ出しました。俺は東條さんの治癒に専念します」
『こちら神代、了解です。カッツォへの対応は、こちらに任せてください』
 ベクトル機に搭乗した誠一は、通信を切ると、モニターを確認した。
 北側の工場から走り去るカッツォ。
 誠一の心には、氷のように冷える殺意がカッツォに向けられていたが、まずは仲間のアリアを助け出すことに気持ちを切り替えるように努めていた。
(カッツォの狙いは、新しい舞台役者や戦力探し…もしくは憎悪や嫉妬心を煽って? だとしたら、アリアさんが狙われるのも不自然ではないか)
 誠一はスティックを握り、ベクトル機を操縦しながらカッツォを追いかけた。


 一方。
 錬介が、傷だらけの奏多に『フルリカバリー』を施すと、傷口は塞がったが、完全に回復させることはできなかった。
「東條さん、回復には時間がかかりますが、ご無事で良かったです」
「……すまない」
 奏多が起き上がろうとすると、イェジドの鋼夜が擦り寄ってきた。
「鋼夜、心配かけて悪かった」
 優しく鋼夜の頭を撫でる奏多。
 それでも、鋼夜は不安な表情をしていた。



「アリア!」
 カーミンが『ネモフィラ』でターゲットを合わせて射撃し『牽制射撃』を駆使して歪虚CAM一体を撃破した途端、アリアを抱きかかえたカッツォと遭遇した。
「カッツォ! アリアを返しなさい! 酷いことしたら承知しないわよ!」
 必死に叫ぶカーミン。
 カッツォは面白そうに笑いながら応えた。
「返してやっても良いが、条件がある。黒いエクスシアを足止めしてほしい」
 御言がマテリアルラインで交信して、OF-004と共闘すると約束したばかりだった。
 異変に気付いたOF-004は、マテリアルラインの通信を利用して御言と連絡を取り合っていた。
『久我、あの白い仮面を付けた男は何者だ? 女性を人質に取っているのか?』
「……共闘すると、君は言ってくれたな」
 御言が、苦渋に満ちた声で言った。
『なら、話は早い。女性を助け出すために、俺のエクスシアを足止めしろ』
 迷うことなく告げるOF-004。
「だが、君を十三魔のカッツォとの戦いに巻き込みたくはない」
『白仮面……カッツォか。ヤツとは面識はないが、俺は久我たちと一時的に共闘すると決めた。俺のエクスシアを足止めすることも、共闘になるだろう。女性を救い出すことも共闘だ』
 合理的に告げるOF-004。
 御言は、OF-004の黒いエクスシアをフォローするため、事の次第をトランシーバーで仲間たちに伝えた。
「こちら神代、事情は分かりました。黒いエクスシアを足止めするのは、俺がやります」
 誠一には、別の考えもあった。
 黒いエクスシアとOF-004が、カッツォに連れ去られたら、一大事だからだ。
 カッツォの筋書き通りに動くのは本意ではないが、アリアを救出するには、条件を飲むしかない。
 ベクトル機はヴァイパーソード「マジュラーダ」を鞭形態に変動させ、スキルトレースLv20による『蔦葛』を発動させる。鞭が黒いエクスシアの両脚に撒き付くと、蔦が這い上がって絡みつくような幻影が浮かび上がった。
「……フフフ」
 カッツォが指を鳴らした。
 しばらくすると、黒いエクスシアが至近距離からベクトル機に攻撃をしかけてきた。
「これも、カッツォの演出か?!」
 誠一はとっさにスティックを握り、ベクトル機が黒いエクスシアの大剣を回避。
 蒼機銃「マトリカリア」を構えたカーミンが、黒いエクスシアのメインカメラを狙い撃つ。当たったのは、ペイント弾だ。
「落ち着いて、OF-004。カッツォの条件は、黒いエクスシアの足止めよ」
 残っていた歪虚CAM3体は、ゲー太が作ったCモード「bind」の結界で移動不能となっていた。
 Jack・The・Ripperは、歪虚CAMを優先して攻撃…斬機刀「建御雷」を掲げて、振り下ろすと、虱潰しに歪虚CAMを叩き潰していた。
「カッツォ対応は、神代たちに任せるぜ。……正直、逃げ出したいが、歪虚CAMを倒す程度なら、やってやれないことはない」
 リカルドのカッツォに対するトラウマは、予想以上であった。
 ここでは説明できないほどの傷心…きりきりまい、とでも言っておこう。
 パピルサグXがベクトル機と合流した頃には、黒いエクスシアと白いベクトル機が、剣と剣を交差させる対戦になっていた。
 ルナリリルは『伝波増幅』を発動させ、パピルサグXのコックピット内部からトランシーバーで黒いエクスシアとの通信を試みたが、雑音ばかりが聴こえて、対象となる相手との周波数が合わなかった。
「仲間との通信は可能だが、OF-004とは直接、通信できない。所属が異なるからか?」
 トランシーバーを使って黒いエクスシアとコンタクトを取るのは困難であることが判明した。
 味方か敵か不明な対象と交信するためには、マテリアルラインが効果的だ。かと言って、必ずしもマテリアルラインが成功するとは限らない。
「白と黒のオセロ・ゲームのような楽しい劇を見させてもらったよ……ククク」
 カッツォの言葉に気付き、カーミンが振り返った刹那。
 そこにいたはずのカッツォの姿は消えていた。
「アリア! 目を覚まして!」
 カーミンが、倒れているアリアの元へと駆け寄る。
「……カーミン?」
 アリアの瞳が、ゆっくりと開いた。全身、傷だらけではあったが、重体にならなかったのは、檜ケ谷 樹の祈りが通じたからだろうか。
「良かった……もう、驚かせないでよ」
 カーミンが安堵して、アリアに微笑む。
「……カッツォは?」
「案の定、いなくなったわ。OF-004とセーイチを対戦させて、何様のつもりよ。白仮面野郎!」
 憤慨するカーミンであった。



 狂気ヴォイドの集団は全て消滅して、周囲は静まり返っていた。
 黒いエクスシアは、カッツォがいなくなると、戦うことを止めて、その場から動く気配はなかった。
 御言が搭乗するコンフェッサーが、敵意はないことを伝えるため、簡易的に作った白旗を振り続けていた。
 カーミンは魔導拡声機「ナーハリヒト」を使い、OF-004に呼びかけていた。
「私は、カーミン・S・フィールズよ。あなたと話がしたいの」
 イヤリング「エピキノニア」からは雑音が聞こえるだけで、OF-004とは交信できなかった。
 リーリーの威降に騎乗した錬介が駆けつけ、様子を見守っていた。
 御言とカーミンが、根気よく呼びかけていると、ようやく黒いエクスシアのコックピットが開いた。
 OF-004はヘルメットを取ると、地面に着地した。
「……あんたら、ハンターとか言ったな。覚醒者…選ばれし者だな」
 事務的に話しかけてくるOF-004。
 カーミンは魔導拡声機を下ろして、直接、声をかけた。
「リアルブルーでは、覚醒者のこと、選ばれし者とも呼ばれているの?」
「……俺が勝手に、そう呼んでいるだけだ」
 OF-004が、無機質な声で応じる。
「OF-004…これは、コードネームよね。あなたの本名は? 所属が統一地球連合軍なら、強化人間かしら?」
 カーミンの問いかけに、OF-004は眉を顰めたが、ヘルメットを片手で抱えたまま、こう告げた。
「本名を教えるつもりはないが、俺が強化人間だということは確かだ。それで、どうする気だ?」
 どうやら、OF-004はハンターたちを警戒しているようだった。
 コードネームは名乗っていたが、本名を明かすことは滅多になかった。故に、現段階において、ハンターたちが、OF-004の本名を知る由は無いのだ。
 カーミンは怯むこともなく、OF-004と話を続けた。
「この世界では、強化人間を排斥しようとする動きがあるわ。あなた自身、どんなことが遭ったの?」
 錬介が、躊躇いがちに言った。
「君は、どうして力を求めたのでしょうか。まだその理由を思い出せますか?」
「悪いが、今のあんたらに教える気はないな。初対面で、ベラベラ話す訳がないだろう?」
 立ち去ろうとするOF-004。
「待って。まだ聞きたいことがあるの。強化人間になって、貴方が果たしたかった想いは何?」
 カーミンの言葉に、OF-004が足を止める。
「……世界を……守りたかった……だが、今の人類は……」
 そう告げた後、OF-004はヘルメットを被り、黒いエクスシアに乗り込んだ。
 錬介は、言葉が上手く出てこなかった。
「OF-004、……負けては駄目ですよ」
 生きる為に。誓いの為に。伝えたい想いが溢れて、錬介はOF-004と対面するだけで精一杯であった。
 コンフェッサーとのマテリアルラインが繋がっていたこともあり、御言がOF-004との通信を続けていた。
「OF-004、君は私たちと共闘して、アリアくんを救出するために協力してくれたではないか」
『協力じゃない。共闘だ。今回は、目的が同じだったから、共闘したまで……次は、どうなるか俺にも分からないな』
 OF-004はそう告げた後、黒いエクスシアが飛び去り、その場から離れていった。
 御言がコンフェッサーとのマテリアルラインで、何度もOF-004に呼びかけたが、返答はなく、いつしか時間が過ぎて、通信が途絶えた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 10
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズka1559
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言ka4137
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介ka6053

重体一覧

  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多ka6425

参加者一覧

  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ジャック・ザ・リッパー
    Jack・The・Ripper(ka0356unit001
    ユニット|CAM
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ゲーター
    ゲー太(ka1559unit003
    ユニット|ゴーレム
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ベクトル
    ベクトル(ka2086unit001
    ユニット|CAM
  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    パピルサグイクス
    パピルサグX(ka4108unit001
    ユニット|CAM
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka4137unit005
    ユニット|CAM
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    イオリ
    威降(ka6053unit005
    ユニット|幻獣
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    コーディ
    コーディ(ka6424unit001
    ユニット|幻獣
  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多(ka6425
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    コウヤ
    鋼夜(ka6425unit003
    ユニット|幻獣

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アリア・セリウス(ka6424
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/07/17 08:44:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/12 15:54:38