ゲスト
(ka0000)
第四師団長、登場?~おばあちゃんと語る会
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/12/24 12:00
- 完成日
- 2014/12/30 09:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――帝国第十師団の管轄都市『アネリブーベ』。
囚人の街にも、夜は訪れる。
獣脂のランプが独特の匂いを放ち、ゆらりと炎を揺らす中、アネリブーベの中枢『アネリの塔』の一室に、チン、とグラスを打ち合わせる音が響いた。
「おめでとう、と言っておきますわ、ユディ嬢」
ゆるりとグラスを傾ける2人の女の、1人は第十師団長ゼナイド(kz0052)。黒く塗った唇が、どこか優しげに笑む。
「ほほほ、ありがとうゼナイドちゃん。すまないわねぇ、こんなおばあちゃんの遅すぎる門出に、こんな良いワイン開けさせちゃって」
もう1人は、60は既に超えていようかという白髪の老女。リアルブルーのニホンという国から伝来したという着物の柄が、ランプの炎に照らされ揺れる。
その首には、囚人の証である首輪は付けられてはいない。けれどよく見れば、僅かに首を巡る痕が残っていた。
それは、それなりの年月、老女が囚人の首輪と共に過ごしたことを物語っている。
「構いませんわよ。美味しいワインは理由を付けて開けるに限りますわ。だって新しいのを取り寄せられますもの」
「まあ! 確かに、素晴らしい真理ねぇ」
王国から輸入したという血のような色のワインは、帝国で作られたものよりもずっと飲みやすく、コクがありながらまろやかだ。
「では、ベルトルードに着いたらあたしの奢りで、今度は同盟のワインを届けましょうかねぇ」
「楽しみにしてますわ! ま、海賊上がりの荒くれ者の世話に追われて遅くなっても構いませんけれど」
ゼナイドの言葉が終わるか終わらないかのうちに、おほほほほ、と楽しげな笑い声が響く。
「大丈夫よゼナイドちゃん。何せあたしは、人生で陸にいたより海にいた方が長い女ですからねぇ」
「あらそうでしたわね! だったら得意分野じゃなくって?」
「勿論よ」
今度は2つ、重なる笑い声。
それがふっと途絶え、ゼナイドは瓶の底に残ったワインを手酌で注いで一気に喉に流し込む。
「でも、ユディ嬢がいないと寂しくなりますわ」
「そうねぇ、でも今度会うときは同格だと思うと嬉しくもあってねぇ」
「生意気でしてよ? わたくしは師団長経験も、陛下を愛して愛して愛しまくって、挙句に壊して土下座させてヒールで頭を踏み潰して――ああん、たまりませんわぁ! な、気持ちは負けませんもの。あ、でも師団長経験はオズワルド様には負けますわね」
「あたし、ゼナイドちゃんのそういう言葉の前後が噛み合ってないところ結構好きよ」
「わたくしはユディ嬢じゃなくて陛下が好きって話ですのよ!」
地団太を踏んでいたゼナイドは、けれど途中でたまらず笑い出す。
それに重なる、老女の笑い声――彼女の名は、ユーディト・グナイゼナウ。
『ユーディトへ。第四師団長として、ベルトルードへ向かい着任するように』
62の齢を数えた老女が、それだけ書かれた簡素な、けれど重大な辞令を受け取った、その夜のことであった。
翌朝。
「……行ってしまいましたわね」
馬に乗ってユーディトが消えていった街道の向こうに視線をやり、ゼナイドはそっと目を細める。
隣にいたマンゴルトが、ふとその顔を覗き込んだ。
「寂しいかの?」
「寂しくありませんわ。そもそも勝手にわたくしの顔を覗き込まないで下さいましこのエロ頭!」
「エロ頭……」
「セクハラするツルツル頭の略ですわ」
マンゴルトが、困ったように何か言いかけたそのとき。
街道に、突如現れる影。蹄の音。
冷気を切ってこちらへ駆けてくるのは、ゼナイドがユーディトに贈った駿馬。新たな主の姿は背にはない。
「……そういえば、ユーディトは船で暮らした時代が長いから、乗馬が苦手だった、ような……」
マンゴルトの言葉に続くは、沈黙。
その間にゼナイドに駆け寄り、鼻面をすり寄せる駿馬。
「ああもうわたくしが送って行きますわ!」
「ま、待て待て! ベルトルードまで何日かかると思っておる、その間師団長の仕事は……」
「だったら誰か、親衛隊でも」
「しかし、第四師団長の立場として、他の師団の者に護衛を頼むというのは……」
「七面倒ですわね! だったら……そう、ハンター。ハンターに依頼しますわ。今すぐ。使いを出しなさい」
ゼナイドが振り向くと、さっと兵士の1人が膝を突く。
「緊急の依頼として、ユーディト・グナイゼナウの救出とベルトルードまでの護衛を。すぐにハンターを集めて……うちの備品の魔導車、ハンターとユディ嬢が乗れるサイズのを用意しますわ!」
――そして10分後には、最寄りのハンターオフィスにゼナイドからの依頼が貼りだされたのだった。
一方その頃。
「まぁ、馬に乗るのなんてもう50年ぶりだものねぇ、ちょっと調子に乗ってしまったわ……ほほほ」
着物の埃をぱたぱた払い、ユーディトはあっさりと言って肩を竦めた。
ちょっと馬の足を速めようとして暴走した馬からすっ転んだが、怪我はない。得物のトライデントも、咄嗟に引っ掴んで落ちたおかげで手元にある。
「けれど、ゼナイドちゃんから折角いただいたお馬さんを逃がしてしまったわ……ちゃんとゼナイドちゃんのところに戻っているといいけれど」
その願いは叶っているのだが、問題はベルトルードまでの道のりである。
アネリブーベに一旦戻った方が明らかに近いが、馬から落ちて戻って来たとか恥ずかしいし、ちょっと戻るのは面倒な距離だし。
――ベルトルードまでの距離は、面倒どころではないが。
「まぁいいわ、歩きましょう。街道沿いだし大丈夫よ」
そう言って身の丈以上の長さを誇るトライデントに身の回りの品を詰めた風呂敷包みを縛りつけて担ぎ、おばあちゃんはてくてくと歩き始めるのであった。
囚人の街にも、夜は訪れる。
獣脂のランプが独特の匂いを放ち、ゆらりと炎を揺らす中、アネリブーベの中枢『アネリの塔』の一室に、チン、とグラスを打ち合わせる音が響いた。
「おめでとう、と言っておきますわ、ユディ嬢」
ゆるりとグラスを傾ける2人の女の、1人は第十師団長ゼナイド(kz0052)。黒く塗った唇が、どこか優しげに笑む。
「ほほほ、ありがとうゼナイドちゃん。すまないわねぇ、こんなおばあちゃんの遅すぎる門出に、こんな良いワイン開けさせちゃって」
もう1人は、60は既に超えていようかという白髪の老女。リアルブルーのニホンという国から伝来したという着物の柄が、ランプの炎に照らされ揺れる。
その首には、囚人の証である首輪は付けられてはいない。けれどよく見れば、僅かに首を巡る痕が残っていた。
それは、それなりの年月、老女が囚人の首輪と共に過ごしたことを物語っている。
「構いませんわよ。美味しいワインは理由を付けて開けるに限りますわ。だって新しいのを取り寄せられますもの」
「まあ! 確かに、素晴らしい真理ねぇ」
王国から輸入したという血のような色のワインは、帝国で作られたものよりもずっと飲みやすく、コクがありながらまろやかだ。
「では、ベルトルードに着いたらあたしの奢りで、今度は同盟のワインを届けましょうかねぇ」
「楽しみにしてますわ! ま、海賊上がりの荒くれ者の世話に追われて遅くなっても構いませんけれど」
ゼナイドの言葉が終わるか終わらないかのうちに、おほほほほ、と楽しげな笑い声が響く。
「大丈夫よゼナイドちゃん。何せあたしは、人生で陸にいたより海にいた方が長い女ですからねぇ」
「あらそうでしたわね! だったら得意分野じゃなくって?」
「勿論よ」
今度は2つ、重なる笑い声。
それがふっと途絶え、ゼナイドは瓶の底に残ったワインを手酌で注いで一気に喉に流し込む。
「でも、ユディ嬢がいないと寂しくなりますわ」
「そうねぇ、でも今度会うときは同格だと思うと嬉しくもあってねぇ」
「生意気でしてよ? わたくしは師団長経験も、陛下を愛して愛して愛しまくって、挙句に壊して土下座させてヒールで頭を踏み潰して――ああん、たまりませんわぁ! な、気持ちは負けませんもの。あ、でも師団長経験はオズワルド様には負けますわね」
「あたし、ゼナイドちゃんのそういう言葉の前後が噛み合ってないところ結構好きよ」
「わたくしはユディ嬢じゃなくて陛下が好きって話ですのよ!」
地団太を踏んでいたゼナイドは、けれど途中でたまらず笑い出す。
それに重なる、老女の笑い声――彼女の名は、ユーディト・グナイゼナウ。
『ユーディトへ。第四師団長として、ベルトルードへ向かい着任するように』
62の齢を数えた老女が、それだけ書かれた簡素な、けれど重大な辞令を受け取った、その夜のことであった。
翌朝。
「……行ってしまいましたわね」
馬に乗ってユーディトが消えていった街道の向こうに視線をやり、ゼナイドはそっと目を細める。
隣にいたマンゴルトが、ふとその顔を覗き込んだ。
「寂しいかの?」
「寂しくありませんわ。そもそも勝手にわたくしの顔を覗き込まないで下さいましこのエロ頭!」
「エロ頭……」
「セクハラするツルツル頭の略ですわ」
マンゴルトが、困ったように何か言いかけたそのとき。
街道に、突如現れる影。蹄の音。
冷気を切ってこちらへ駆けてくるのは、ゼナイドがユーディトに贈った駿馬。新たな主の姿は背にはない。
「……そういえば、ユーディトは船で暮らした時代が長いから、乗馬が苦手だった、ような……」
マンゴルトの言葉に続くは、沈黙。
その間にゼナイドに駆け寄り、鼻面をすり寄せる駿馬。
「ああもうわたくしが送って行きますわ!」
「ま、待て待て! ベルトルードまで何日かかると思っておる、その間師団長の仕事は……」
「だったら誰か、親衛隊でも」
「しかし、第四師団長の立場として、他の師団の者に護衛を頼むというのは……」
「七面倒ですわね! だったら……そう、ハンター。ハンターに依頼しますわ。今すぐ。使いを出しなさい」
ゼナイドが振り向くと、さっと兵士の1人が膝を突く。
「緊急の依頼として、ユーディト・グナイゼナウの救出とベルトルードまでの護衛を。すぐにハンターを集めて……うちの備品の魔導車、ハンターとユディ嬢が乗れるサイズのを用意しますわ!」
――そして10分後には、最寄りのハンターオフィスにゼナイドからの依頼が貼りだされたのだった。
一方その頃。
「まぁ、馬に乗るのなんてもう50年ぶりだものねぇ、ちょっと調子に乗ってしまったわ……ほほほ」
着物の埃をぱたぱた払い、ユーディトはあっさりと言って肩を竦めた。
ちょっと馬の足を速めようとして暴走した馬からすっ転んだが、怪我はない。得物のトライデントも、咄嗟に引っ掴んで落ちたおかげで手元にある。
「けれど、ゼナイドちゃんから折角いただいたお馬さんを逃がしてしまったわ……ちゃんとゼナイドちゃんのところに戻っているといいけれど」
その願いは叶っているのだが、問題はベルトルードまでの道のりである。
アネリブーベに一旦戻った方が明らかに近いが、馬から落ちて戻って来たとか恥ずかしいし、ちょっと戻るのは面倒な距離だし。
――ベルトルードまでの距離は、面倒どころではないが。
「まぁいいわ、歩きましょう。街道沿いだし大丈夫よ」
そう言って身の丈以上の長さを誇るトライデントに身の回りの品を詰めた風呂敷包みを縛りつけて担ぎ、おばあちゃんはてくてくと歩き始めるのであった。
リプレイ本文
石畳の上に雪の積もった街道を、1台の大きな魔導車が軽快に走っていく。
「新たな師団長になる方、ですか」
ハンドルを握った音桐 奏(ka2951)が、ふとそう口にする。
「聞けば元囚人という事ですが……」
「ウチの爺さんから名前は聞いた事があったが、まさかこの目で見られるとはな」
ユーディト・グナイゼナウ。
元海賊であるロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は感慨深げにその名を呟いた。かつては海賊であり、第十師団マスケンヴァルの囚人となっていたという、異例の経歴。
窓枠に肘をついたレベッカ・アマデーオ(ka1963)が、ぼんやりと過ぎ行く景色を眺めながら呟く。彼女も同じ、海賊の出。
「海賊から、ね……随分な物好きも……」
よくいるものね、と言いかけて、レベッカは肩を竦めた。
「あたしも似たようなモンか。でも、それでも……落馬はしない……多分……」
「それでも、師団長となるに相応しい実力を有しているのでしょうね」
奏がそう期待を込めて笑みを浮かべれば、ウル=ガ(ka3593)が低く唸るように呟く。
「60歳を超えて、尚、現役か……見習わなければならん、な。それにしても……」
徒歩でベルトルードに向かうとは豪気なモノだ、と感心したような言葉に、隣で蒼真・ロワ・アジュール(ka3613)がうんうんと頷く。
「お手並みを拝見する事があれば、是非拝見したいところだね」
「だが、幾ら強くとも、現役であろうとも、1人旅には少々危険だろう……。巧くピックアップして、共に行く……か」
「そうね、まずはユーディトさんの安全を確保しなければ」
後ろの座席から、クレア グリフィス(ka2636)が微笑みと共に頷き、蒼真が力強く拳を握る。
「ご老人でしかも女性とあっちゃ、男として助けないワケにはいかないでしょ!」
そんな仲間達の様子を背中で聞きながら、奏はくすと笑みを浮かべる。
「とても楽しい行程になりそうですね」
そのためにも、と続けた奏の言葉を引き取るように、クレアがぱちりとウィンク。
「早くユーディトさんを見つけてしまいましょう♪」
一人街道を歩いていたユーディトは、大きな魔導車が目の前で止まったことに、あら、と目を丸くした。
「お迎えに参りましたよ、マダム・ユーディト」
「あらまぁ……もしかして、ハンターさんかしら?」
すっと車を降りて一礼したロジャーに、ユーディトが頬に手を当てて微笑む。
海賊稼業の大先輩であるユーディトに対しての、ロジャーの精一杯の敬意。彼が敬語を使うことは、随分と珍しいことだ。
「はい、ゼナイドさんの依頼を請けまして」
「まぁ、ゼナイドちゃんが! ありがたいことだわ」
運転席から笑顔で答えた奏に、嬉しそうに声を弾ませるユーディト。その荷物を蒼真が、トライデントをレベッカが、幾分皺の寄った手から受け取る。
「歩いてこうって発想が豪胆だなぁ……でもさ、何日かかるかわからないよ?」
乗って乗って、とユーディトを促し、レベッカは受け取ったトライデントを車のボディにくくりつける。その、ロープの縛り方に。
「まぁ、懐かしい使い方ね。ロープワークも、最近はめっきりご無沙汰でねぇ」
そう言ってありがとう、と笑んだユーディトに、同じ海賊の出とわかってもらえたようだと、レベッカは小さく笑って頷く。
「お荷物は、車の後ろに置いていいかな、マダム?」
「あらお願いねぇ、ありがとうね可愛い紳士さん」
その言葉で、初対面で少年だとわかってもらえたと蒼真の顔が輝く。
「ボクの故郷では淑女を丁重に扱うのがマナーなんだ。これくらい当然のコト!」
嬉しそうにニコニコと、蒼真は車のドアを開いてユーディトをエスコート。
車のシートは、着物でも乗りやすいようにウルが少し後ろに下げておいた。さらにロジャーが、「どうぞ、マダム」と差し出した手を、礼を言ってユーディトが取り、ついと身軽に車に乗り込んでシートにちょこんと収まる。
「こんなおばあさんにみんな優しくしてくれて、お姫様にでもなった気分だわ」
「せっかくの機会、お互い素敵な旅にしたいものね♪」
楽しそうなユーディトに、軽く周囲を見張っていたクレアが最後に乗り込みながら笑顔で頷く。ドアの閉まる音に頷き、奏が緩やかにアクセルを踏み心地よく車を発進させる。
こうして、第四師団長(予定)ユーディト・グナイゼナウとの旅が始まった。
「第四師団って、海軍なんだっけ?」
まるで孫が祖母に話をせがむようにレベッカが話しかければ、ユーディトはそんなレベッカに楽しげに頷く。
「そうそう、帝国の中では海軍は弱くてねぇ……だからこそあたし達みたいな海賊が、貿易船から通行料なんかいただいて、その分他の同業さんから護衛してあげたり出来たんだけど」
「へぇ、結構『真っ当な』方の海賊だね」
「そうねぇ。結局、沿岸の村なんかからの略奪じゃ恨まれるし、凶悪犯罪になっちゃうから海軍やハンターからも絶対に容赦してもらえないもの。でもね、貿易船からそれなりにいただいて、逆に沿岸の村を助けてあげたりなんかすると、追われても庇ってくれたりね」
「なるほど、そういう活動もありますよね」
ロジャーが会話に加わりながら、炭酸飲料を注いだカップを皆に配り、つまみにナッツの袋を開ける。
「リアルブルー産の飲み物だそうです。酒でなくて申し訳ないですが……」
「あらまぁ、嬉しいわ。お酒は好きだけど、珍しい飲み物もあたしは好きよ」
興味深げにカップを受け取ったユーディトが、一口飲んでにこ、と笑う。
「美味しいわねえこれ。帝国産のスパークリングよりずっといいわ」
「光栄ですマダム」
笑顔で一礼したロジャーに対し、クレアが目を瞬かせる。
「帝国のワインは、そんなに質が悪いかしら?」
そうね、と頷いたユーディトは、炭酸飲料をもう一口。
「葡萄はともかく、醸造技術が王国や同盟にはまだまだ……それでも長く海にいれば水は傷んでしまうし、あの辺りは真水の井戸がなかなか掘れなくてね。だから、帝国産の安ワインは、かなりあの辺りに出回ってるのよ」
「じゃあ、醸造技術がちゃんと高まれば?」
今度はほつれてしまったユーディトの羽織を繕っていた蒼真が顔を上げて問う。
「外国の味には敵わなくても、安くて味のいいのが出来るかも知れないわ。砂糖を入れるベルトルード式も嫌いじゃないけどね」
「そっか……ボクのおじいちゃんが、リアルブルーのフランスっていう国の、ロワールという地域の白ワインの作り手だったから、気になったんだ。ボクも日本に引っ越さなければ跡継いでたかもだし」
「まぁ、そうなの? おじいさまは醸造技術のスペシャリストなのね」
「そう! ま、ボクの方は、今は歌って踊れるハンターを目指してるけどねっ」
楽しげなユーディトと蒼真の会話に、興味津々聞き入るクレア。
「よろしければ、私も質問してもよろしいですか、グナイゼナウさん。貴女はとても興味深いので」
顔を合わせられず失礼しますが、と運転しながら言った奏に、あらあら、とユーディトは笑って。
「嬉しいわねぇ、興味を持ってもらえるのは、大歓迎よ」
「ありがとうございます。では……そうですね、お若い頃から、海で暮らされていたのですか?」
「そうね、まぁ、若いといったら若いわねぇ……小さい頃からってわけじゃないけどね」
奏の問いにふふ、と目を細めて。
「あたしね、一応旧帝国の貴族の出身なのよ」
さらっと言い放った言葉に、思わず一同は振り向く。
「まだ十と少しの頃に、同盟に見聞を広めに行こうとしたら、海賊船に捕まっちゃってねぇ」
「え、それじゃあ……」
「そんな悲惨なものじゃなかったわよ、結構良くしてくれたわ。あの時の首領は、ちゃんとあたしが16になった日、プロポーズしてくれたしねぇ」
ホホホ、と笑ったユーディトび、左手の薬指に輝くは潮でも錆びぬ金の指輪。
「それじゃ、旦那さんが亡くなって、ばーちゃんが跡継いだの?」
目をぱちぱちさせて尋ねたレベッカに、ユーディトが頷く。
「そうなのよ、成人したあたしと旦那の子は独立してしまったし、末っ子はまだちょっと小さくてね。でも革命が起きてしばらくしたら、皇帝陛下が……いえ、もう先帝ね。海賊退治に親征して来て、頑張ったけど一騎打ちで吹っ飛ばされちゃってねぇ……」
「なるほど。そして、アネリブーベに?」
「ええ、最初の数年は下層の方にいたから、ちょっと大変だったわねぇ。位が上がったら、ゼナイドちゃんとも仲良くできたし楽しかったけどね」
さっぱり苦労した様子も見せずに言うユーディトである。
「でも最近、また同業の動きが活発になってるみたいですね」
ロジャーが新しいナッツの袋を開けて勧めながら、そう話を振る。
「あら、そうなの? 第十師団に入って以来、すっかり疎くなっちゃってねぇ」
「はは。俺ん所は世の中慌ただしくなって、海賊やってる場合じゃないって活動は自粛してんですが、そういう時こそ稼ぎ時だっていうのも間違いではありませんからね」
「そうなのよねぇ」
苦笑したロジャーに合わせて頷き、ナッツを上品に口にするユーディト。
「まぁ、人々が苦しい時にその人から取るのはお洒落じゃないけど、そういう時こそ『有る所』からちょっといただくのはやってたかしら。活動をお休みして、その時期は安心してもらうのも素敵な海賊よね」
話し込んだり、ウルの提案で少し休憩を取ったり――その間に、そろそろ日が西に傾いていた。
「次の街辺りで、宿を取ろうかしらね。迎えに来てくれたんだから、宿代は任せて頂戴ね」
そう言って、ユーディトはぽんと懐を叩いて見せた。
夕食時――ジュースやら酒瓶やらが回されて、食事が次々運ばれてくる中、ウルは自分で頼んだ酒をちびりと煽っていた。
「あまり食べないのかしら?」
急に隣に来たユーディトに尋ねられ、すっとウルは自分の隣の椅子を引く。
「常のことだ」
「食べる量は人それぞれだものね。お酒は飲むのだったら、同盟産のワインだけれどいかが?」
「では、そちらは頂こう……ありがたい」
グラスに注がれた1杯を受け取って、やはりちびちびと飲み始めるウル。
「ばーちゃん、あたしもそっち行っていいかな?」
ジュースの瓶を持ったレベッカが、ちょこんとテーブルに顔を出す。いらっしゃい、とユーディトが笑む。
ちら、と上げたウルの表情は渋いが、瞳は興味深げにユーディトに向けられている。きっと、瞳の方が本当だ。
再び語り合ううち、更けていく夜。散会後、外に出たウルは夜の澄んだ星空を見上げ――横笛に、唇を当てた。
夜風に乗って流れていくのは、昔からクリムゾンウェストで歌われていた曲。
ベッドに入ろうとしていた老女は、そっと長年知ったメロディに目を細めた。
翌朝、きんと澄んだ空気の中、車に乗り込む前にハンター達は街の外に集まっていた。
「師団長を任命される程の方の実力、我が身で実感させていただきます」
「私も、若い人と手合わせするのは久しぶりだわ」
楽しげにユーディトがトライデントを握り、奏が真っ直ぐな瞳で銃を構える。
周りではハンター達が、じっと真剣な視線を注ぐ。新たなる師団長の動きを、見逃すまいと。
――先に動いたのは、ユーディト。すっと姿勢を低くし、そのまま一気に距離を詰める!
奏がマテリアルを一気に視覚と感覚に集中させる。細めた瞳が狙いを据え、息を詰め引き金を引く。けれどその弾丸はユーディトの横をすり抜け――、
ユーディトがすっと槍を引く。キィン、と鋭い音。
そのやや後ろに、弾丸が落ちる。跳弾によって、死角から奏がユーディトを狙ったものだ。そして、ユーディトが石突で弾き飛ばしたものだ。
再び、奏が引き金を引く前に。
三叉の穂先が、奏の喉元にぴったりと当たっていた。
「皇帝が皇帝なら師団長も師団長だな……」
ロジャーがぽつり、と呟き、蒼真が深く頷く。銃弾を弾いた時、ユーディトは後ろを振り向いてはいなかった。
「やはり師団長クラスの実力は素晴らしいですね、私もいずれその域に達したいところです」
「けれど、いい狙いだったわ。久しぶりに私も緊張したもの」
その言葉に嬉しそうに笑んで、奏はユーディトの差し出した手を握った。
そして、その日の休憩中である。
「おう、このばーさんの命が惜しけりゃ」
そう言った盗賊は、次の瞬間左右に吹き飛んでいた。
死なない程度に頭を打って、的確に気絶させてある。
「まだ現役と言っても、今回のボクらの仕事は護衛だからね、ボクらに任せてほしいな」
プロテクションを掛けながら言った蒼真に、では頼むわね、とユーディトは悪戯っぽくウィンク。
クレアがユーディトのそばに立ち、機導砲を使い盗賊達の戦闘能力を奪っていく。
「改造したこいつの威力、試してみっか」
そう言って調整済みの水中銃を、スキルフルコンボで撃ち込んだロジャーは、直後ちょっとやりすぎたかという顔になった。
あっという間に殲滅された盗賊達に対して、ハンター達の被害は魔導車のタイヤにめり込んだ一発のみ。クレアがさっさと補修を済ませ、その間に帝国軍の詰め所に盗賊達を放り込む。
再びの車の旅。ロジャーが己の冒険譚――着ぐるみ姿で雑魔から人々を守った話、伝説の海賊の宝を探しに行った話などを法螺話風に語ってユーディトを笑わせたり、クレアが海戦について、またベルトルードの話を聞いたり――もうベルトルードに着こうかという頃。
「ばーちゃんみたいな人が増えたら、陸の連中のあたしらに対する見方も変わるのかな……」
そう言ったレベッカに、ユーディトがどうしたの、と優しく微笑む。
「だってさ……親が海賊ってだけで、その子どもまで犯罪者みたいな論調じゃない……」
八つ当たりと言われたらそうかもしれない。でも、聞かずにはいられなくて。
そんなレベッカの頭を、孫にするかのようにユーディトは撫でて。
「あたしは、海賊の出であるのが誇り。だけど、それが生き辛いのは確かね」
だから、とユーディトは力強く、微笑んで。
「この地は、胸を張って生きられる場所にしたいと思うわ。海賊であれ、貧しい人であれ。この辺りの人は、ほとんどがそのどちらかだものね」
「それが、師団長としてしたいことですか」
奏の言葉に、ユーディトが頷く。
そして――ベルトルードの街の門で。
「また、お会いする時を楽しみにしているわね♪」
そう言ってこの街の美味しいものが新しく出来ていたら教えて欲しいと言うクレアに、微笑んで頷くユーディト。
「それから、知り合いに美人が居たら紹介して下さい」
「あら」
「あ、勿論マダムもお美しいですよ?」
「おほほ、嬉しがらせはいいのよ。いい殿方がいるって言っとくわ」
ロジャーの言葉に、楽しげにユーディトは笑う。
そして全員と別れをたっぷり惜しんで、街に消えていくおばあちゃんを、ハンター達は名残惜しく見送った。
「新たな師団長になる方、ですか」
ハンドルを握った音桐 奏(ka2951)が、ふとそう口にする。
「聞けば元囚人という事ですが……」
「ウチの爺さんから名前は聞いた事があったが、まさかこの目で見られるとはな」
ユーディト・グナイゼナウ。
元海賊であるロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は感慨深げにその名を呟いた。かつては海賊であり、第十師団マスケンヴァルの囚人となっていたという、異例の経歴。
窓枠に肘をついたレベッカ・アマデーオ(ka1963)が、ぼんやりと過ぎ行く景色を眺めながら呟く。彼女も同じ、海賊の出。
「海賊から、ね……随分な物好きも……」
よくいるものね、と言いかけて、レベッカは肩を竦めた。
「あたしも似たようなモンか。でも、それでも……落馬はしない……多分……」
「それでも、師団長となるに相応しい実力を有しているのでしょうね」
奏がそう期待を込めて笑みを浮かべれば、ウル=ガ(ka3593)が低く唸るように呟く。
「60歳を超えて、尚、現役か……見習わなければならん、な。それにしても……」
徒歩でベルトルードに向かうとは豪気なモノだ、と感心したような言葉に、隣で蒼真・ロワ・アジュール(ka3613)がうんうんと頷く。
「お手並みを拝見する事があれば、是非拝見したいところだね」
「だが、幾ら強くとも、現役であろうとも、1人旅には少々危険だろう……。巧くピックアップして、共に行く……か」
「そうね、まずはユーディトさんの安全を確保しなければ」
後ろの座席から、クレア グリフィス(ka2636)が微笑みと共に頷き、蒼真が力強く拳を握る。
「ご老人でしかも女性とあっちゃ、男として助けないワケにはいかないでしょ!」
そんな仲間達の様子を背中で聞きながら、奏はくすと笑みを浮かべる。
「とても楽しい行程になりそうですね」
そのためにも、と続けた奏の言葉を引き取るように、クレアがぱちりとウィンク。
「早くユーディトさんを見つけてしまいましょう♪」
一人街道を歩いていたユーディトは、大きな魔導車が目の前で止まったことに、あら、と目を丸くした。
「お迎えに参りましたよ、マダム・ユーディト」
「あらまぁ……もしかして、ハンターさんかしら?」
すっと車を降りて一礼したロジャーに、ユーディトが頬に手を当てて微笑む。
海賊稼業の大先輩であるユーディトに対しての、ロジャーの精一杯の敬意。彼が敬語を使うことは、随分と珍しいことだ。
「はい、ゼナイドさんの依頼を請けまして」
「まぁ、ゼナイドちゃんが! ありがたいことだわ」
運転席から笑顔で答えた奏に、嬉しそうに声を弾ませるユーディト。その荷物を蒼真が、トライデントをレベッカが、幾分皺の寄った手から受け取る。
「歩いてこうって発想が豪胆だなぁ……でもさ、何日かかるかわからないよ?」
乗って乗って、とユーディトを促し、レベッカは受け取ったトライデントを車のボディにくくりつける。その、ロープの縛り方に。
「まぁ、懐かしい使い方ね。ロープワークも、最近はめっきりご無沙汰でねぇ」
そう言ってありがとう、と笑んだユーディトに、同じ海賊の出とわかってもらえたようだと、レベッカは小さく笑って頷く。
「お荷物は、車の後ろに置いていいかな、マダム?」
「あらお願いねぇ、ありがとうね可愛い紳士さん」
その言葉で、初対面で少年だとわかってもらえたと蒼真の顔が輝く。
「ボクの故郷では淑女を丁重に扱うのがマナーなんだ。これくらい当然のコト!」
嬉しそうにニコニコと、蒼真は車のドアを開いてユーディトをエスコート。
車のシートは、着物でも乗りやすいようにウルが少し後ろに下げておいた。さらにロジャーが、「どうぞ、マダム」と差し出した手を、礼を言ってユーディトが取り、ついと身軽に車に乗り込んでシートにちょこんと収まる。
「こんなおばあさんにみんな優しくしてくれて、お姫様にでもなった気分だわ」
「せっかくの機会、お互い素敵な旅にしたいものね♪」
楽しそうなユーディトに、軽く周囲を見張っていたクレアが最後に乗り込みながら笑顔で頷く。ドアの閉まる音に頷き、奏が緩やかにアクセルを踏み心地よく車を発進させる。
こうして、第四師団長(予定)ユーディト・グナイゼナウとの旅が始まった。
「第四師団って、海軍なんだっけ?」
まるで孫が祖母に話をせがむようにレベッカが話しかければ、ユーディトはそんなレベッカに楽しげに頷く。
「そうそう、帝国の中では海軍は弱くてねぇ……だからこそあたし達みたいな海賊が、貿易船から通行料なんかいただいて、その分他の同業さんから護衛してあげたり出来たんだけど」
「へぇ、結構『真っ当な』方の海賊だね」
「そうねぇ。結局、沿岸の村なんかからの略奪じゃ恨まれるし、凶悪犯罪になっちゃうから海軍やハンターからも絶対に容赦してもらえないもの。でもね、貿易船からそれなりにいただいて、逆に沿岸の村を助けてあげたりなんかすると、追われても庇ってくれたりね」
「なるほど、そういう活動もありますよね」
ロジャーが会話に加わりながら、炭酸飲料を注いだカップを皆に配り、つまみにナッツの袋を開ける。
「リアルブルー産の飲み物だそうです。酒でなくて申し訳ないですが……」
「あらまぁ、嬉しいわ。お酒は好きだけど、珍しい飲み物もあたしは好きよ」
興味深げにカップを受け取ったユーディトが、一口飲んでにこ、と笑う。
「美味しいわねえこれ。帝国産のスパークリングよりずっといいわ」
「光栄ですマダム」
笑顔で一礼したロジャーに対し、クレアが目を瞬かせる。
「帝国のワインは、そんなに質が悪いかしら?」
そうね、と頷いたユーディトは、炭酸飲料をもう一口。
「葡萄はともかく、醸造技術が王国や同盟にはまだまだ……それでも長く海にいれば水は傷んでしまうし、あの辺りは真水の井戸がなかなか掘れなくてね。だから、帝国産の安ワインは、かなりあの辺りに出回ってるのよ」
「じゃあ、醸造技術がちゃんと高まれば?」
今度はほつれてしまったユーディトの羽織を繕っていた蒼真が顔を上げて問う。
「外国の味には敵わなくても、安くて味のいいのが出来るかも知れないわ。砂糖を入れるベルトルード式も嫌いじゃないけどね」
「そっか……ボクのおじいちゃんが、リアルブルーのフランスっていう国の、ロワールという地域の白ワインの作り手だったから、気になったんだ。ボクも日本に引っ越さなければ跡継いでたかもだし」
「まぁ、そうなの? おじいさまは醸造技術のスペシャリストなのね」
「そう! ま、ボクの方は、今は歌って踊れるハンターを目指してるけどねっ」
楽しげなユーディトと蒼真の会話に、興味津々聞き入るクレア。
「よろしければ、私も質問してもよろしいですか、グナイゼナウさん。貴女はとても興味深いので」
顔を合わせられず失礼しますが、と運転しながら言った奏に、あらあら、とユーディトは笑って。
「嬉しいわねぇ、興味を持ってもらえるのは、大歓迎よ」
「ありがとうございます。では……そうですね、お若い頃から、海で暮らされていたのですか?」
「そうね、まぁ、若いといったら若いわねぇ……小さい頃からってわけじゃないけどね」
奏の問いにふふ、と目を細めて。
「あたしね、一応旧帝国の貴族の出身なのよ」
さらっと言い放った言葉に、思わず一同は振り向く。
「まだ十と少しの頃に、同盟に見聞を広めに行こうとしたら、海賊船に捕まっちゃってねぇ」
「え、それじゃあ……」
「そんな悲惨なものじゃなかったわよ、結構良くしてくれたわ。あの時の首領は、ちゃんとあたしが16になった日、プロポーズしてくれたしねぇ」
ホホホ、と笑ったユーディトび、左手の薬指に輝くは潮でも錆びぬ金の指輪。
「それじゃ、旦那さんが亡くなって、ばーちゃんが跡継いだの?」
目をぱちぱちさせて尋ねたレベッカに、ユーディトが頷く。
「そうなのよ、成人したあたしと旦那の子は独立してしまったし、末っ子はまだちょっと小さくてね。でも革命が起きてしばらくしたら、皇帝陛下が……いえ、もう先帝ね。海賊退治に親征して来て、頑張ったけど一騎打ちで吹っ飛ばされちゃってねぇ……」
「なるほど。そして、アネリブーベに?」
「ええ、最初の数年は下層の方にいたから、ちょっと大変だったわねぇ。位が上がったら、ゼナイドちゃんとも仲良くできたし楽しかったけどね」
さっぱり苦労した様子も見せずに言うユーディトである。
「でも最近、また同業の動きが活発になってるみたいですね」
ロジャーが新しいナッツの袋を開けて勧めながら、そう話を振る。
「あら、そうなの? 第十師団に入って以来、すっかり疎くなっちゃってねぇ」
「はは。俺ん所は世の中慌ただしくなって、海賊やってる場合じゃないって活動は自粛してんですが、そういう時こそ稼ぎ時だっていうのも間違いではありませんからね」
「そうなのよねぇ」
苦笑したロジャーに合わせて頷き、ナッツを上品に口にするユーディト。
「まぁ、人々が苦しい時にその人から取るのはお洒落じゃないけど、そういう時こそ『有る所』からちょっといただくのはやってたかしら。活動をお休みして、その時期は安心してもらうのも素敵な海賊よね」
話し込んだり、ウルの提案で少し休憩を取ったり――その間に、そろそろ日が西に傾いていた。
「次の街辺りで、宿を取ろうかしらね。迎えに来てくれたんだから、宿代は任せて頂戴ね」
そう言って、ユーディトはぽんと懐を叩いて見せた。
夕食時――ジュースやら酒瓶やらが回されて、食事が次々運ばれてくる中、ウルは自分で頼んだ酒をちびりと煽っていた。
「あまり食べないのかしら?」
急に隣に来たユーディトに尋ねられ、すっとウルは自分の隣の椅子を引く。
「常のことだ」
「食べる量は人それぞれだものね。お酒は飲むのだったら、同盟産のワインだけれどいかが?」
「では、そちらは頂こう……ありがたい」
グラスに注がれた1杯を受け取って、やはりちびちびと飲み始めるウル。
「ばーちゃん、あたしもそっち行っていいかな?」
ジュースの瓶を持ったレベッカが、ちょこんとテーブルに顔を出す。いらっしゃい、とユーディトが笑む。
ちら、と上げたウルの表情は渋いが、瞳は興味深げにユーディトに向けられている。きっと、瞳の方が本当だ。
再び語り合ううち、更けていく夜。散会後、外に出たウルは夜の澄んだ星空を見上げ――横笛に、唇を当てた。
夜風に乗って流れていくのは、昔からクリムゾンウェストで歌われていた曲。
ベッドに入ろうとしていた老女は、そっと長年知ったメロディに目を細めた。
翌朝、きんと澄んだ空気の中、車に乗り込む前にハンター達は街の外に集まっていた。
「師団長を任命される程の方の実力、我が身で実感させていただきます」
「私も、若い人と手合わせするのは久しぶりだわ」
楽しげにユーディトがトライデントを握り、奏が真っ直ぐな瞳で銃を構える。
周りではハンター達が、じっと真剣な視線を注ぐ。新たなる師団長の動きを、見逃すまいと。
――先に動いたのは、ユーディト。すっと姿勢を低くし、そのまま一気に距離を詰める!
奏がマテリアルを一気に視覚と感覚に集中させる。細めた瞳が狙いを据え、息を詰め引き金を引く。けれどその弾丸はユーディトの横をすり抜け――、
ユーディトがすっと槍を引く。キィン、と鋭い音。
そのやや後ろに、弾丸が落ちる。跳弾によって、死角から奏がユーディトを狙ったものだ。そして、ユーディトが石突で弾き飛ばしたものだ。
再び、奏が引き金を引く前に。
三叉の穂先が、奏の喉元にぴったりと当たっていた。
「皇帝が皇帝なら師団長も師団長だな……」
ロジャーがぽつり、と呟き、蒼真が深く頷く。銃弾を弾いた時、ユーディトは後ろを振り向いてはいなかった。
「やはり師団長クラスの実力は素晴らしいですね、私もいずれその域に達したいところです」
「けれど、いい狙いだったわ。久しぶりに私も緊張したもの」
その言葉に嬉しそうに笑んで、奏はユーディトの差し出した手を握った。
そして、その日の休憩中である。
「おう、このばーさんの命が惜しけりゃ」
そう言った盗賊は、次の瞬間左右に吹き飛んでいた。
死なない程度に頭を打って、的確に気絶させてある。
「まだ現役と言っても、今回のボクらの仕事は護衛だからね、ボクらに任せてほしいな」
プロテクションを掛けながら言った蒼真に、では頼むわね、とユーディトは悪戯っぽくウィンク。
クレアがユーディトのそばに立ち、機導砲を使い盗賊達の戦闘能力を奪っていく。
「改造したこいつの威力、試してみっか」
そう言って調整済みの水中銃を、スキルフルコンボで撃ち込んだロジャーは、直後ちょっとやりすぎたかという顔になった。
あっという間に殲滅された盗賊達に対して、ハンター達の被害は魔導車のタイヤにめり込んだ一発のみ。クレアがさっさと補修を済ませ、その間に帝国軍の詰め所に盗賊達を放り込む。
再びの車の旅。ロジャーが己の冒険譚――着ぐるみ姿で雑魔から人々を守った話、伝説の海賊の宝を探しに行った話などを法螺話風に語ってユーディトを笑わせたり、クレアが海戦について、またベルトルードの話を聞いたり――もうベルトルードに着こうかという頃。
「ばーちゃんみたいな人が増えたら、陸の連中のあたしらに対する見方も変わるのかな……」
そう言ったレベッカに、ユーディトがどうしたの、と優しく微笑む。
「だってさ……親が海賊ってだけで、その子どもまで犯罪者みたいな論調じゃない……」
八つ当たりと言われたらそうかもしれない。でも、聞かずにはいられなくて。
そんなレベッカの頭を、孫にするかのようにユーディトは撫でて。
「あたしは、海賊の出であるのが誇り。だけど、それが生き辛いのは確かね」
だから、とユーディトは力強く、微笑んで。
「この地は、胸を張って生きられる場所にしたいと思うわ。海賊であれ、貧しい人であれ。この辺りの人は、ほとんどがそのどちらかだものね」
「それが、師団長としてしたいことですか」
奏の言葉に、ユーディトが頷く。
そして――ベルトルードの街の門で。
「また、お会いする時を楽しみにしているわね♪」
そう言ってこの街の美味しいものが新しく出来ていたら教えて欲しいと言うクレアに、微笑んで頷くユーディト。
「それから、知り合いに美人が居たら紹介して下さい」
「あら」
「あ、勿論マダムもお美しいですよ?」
「おほほ、嬉しがらせはいいのよ。いい殿方がいるって言っとくわ」
ロジャーの言葉に、楽しげにユーディトは笑う。
そして全員と別れをたっぷり惜しんで、街に消えていくおばあちゃんを、ハンター達は名残惜しく見送った。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談所 音桐 奏(ka2951) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/12/22 13:37:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/20 09:20:36 |