ゲスト
(ka0000)
老人の末路
マスター:きりん

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/13 22:00
- 完成日
- 2018/07/17 13:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●穴を掘る
男は家の地下を掘ろうと思い立った。
ダンジョンを作るのだ。
まずは一部屋、二十メートル正方形の部屋を作りたい。
その次は左右に延びる通路を作るつもりだった。
通路の先には、それぞれ十メートル正方形の二つの小部屋。そこには宝箱を置く。片方は空で、もう片方は罠。
作り終わったら元の部屋に戻り、正面に通路を作る。三つの通路は全て直線で、幅二メートルの長さが八メートルだ。
正面通路の先には、もう一つ二十メートル正方形の部屋を一つ。この部屋にモンスターを置く。
部屋の先にはまた通路。通路を進むと十メートル正方形の小部屋。ここには何もないが、三方向に通路が続く。正面と左右だ。通路の幅は全て二メートルで長さは六メートル。
左右の通路の先は十五メートル正方形の部屋にしようと思い立つ。部屋には罠を仕掛けて、次の通路に繋がる入り口に続くドアを設置する。ドアには鍵も掛けよう。ドアを開ける鍵は罠のトリガーとして部屋の目立つ位置に置いておく。
左右の鍵の掛かった扉の先には五メートルほどの小部屋の中に宝箱。男が用意したちょっとしたアイテムが入っている。
部屋にもどって、残る一つの部屋を出て、幅四メートル長さ八メートルの通路を進めばボス部屋だ。部屋の大きさは最低でも三十メートルは欲しい。他の部屋と同じ正方形でいいだろう。なお、通路がない部屋と部屋はドアで隔てておく。
たったこれだけの広さでも、男にとっては生涯を捧げなければ為し得ない広さだ。
詳細を書いた日記を閉じ、気合を入れて、男はシャベルを片手に作業を開始した。
●まだまだ穴を掘る
男はシャベルの他につるはしを持ちこんでいた。さらには土を運び出すための猫車まで用意していた。猫車とは、タイヤが一つついた土を運ぶための台車だ。
掘り過ぎて、シャベルだけではどうにもならなくなっていたのである。
「ふう、ふう、さすがに堪える」
汗を拭いて、男は一人ごちる。
青年だった男は、いつしか中年となっていた。
やや貧弱だった身体は、長年の肉体の酷使によってがっしりとした身体に変わり、シャベルを扱う姿が堂に入っている。
つるはしを振るう腕も力強く筋肉が盛り上がり、大量の土を猫車で運び出す足取りもしっかりと安定している。
ただ、男の肌の色の白さだけは変わらなかった。
日の光をあまり浴びないから、焼けようがないのだ。
「やっと半分か。まだ先は長いな」
男の後ろには、それなりの見てくれになったダンジョンの姿がある。
まだまだ途上で崩落の危険性もあるが、それで死ぬなら仕方ないと男はある意味割り切っていた。
補強をしたいが金もない時間もない人手もないの三重苦なので、後回しにせざるを得ない。
「まだまだ歳には負けんぞ」
力強い手で、男はつるはしの先を壁に叩きつけた。
●ダンジョンには敵が必要
掘っている途中で、男は気がついた。
まだ配置する敵の種類を決めていない。
何がいいだろうと男は考えた。
とはいっても、男が確保できる生物なんてたかが知れている。
せいぜい小型の肉食獣。しかしそれではダンジョン内を徘徊する敵としては頼りない。何とか大型の肉食獣を手に入れたいところだ。ライオンなんてどうだろう。
子どもを手に入れて、飼育できれば一番いいのだが。
「まあ、そう上手くはいくわけがないな……」
とりあえず保留にし、次の候補を考える。
「コボルド、ゴブリン……無理だな」
地域によっては温厚な場合もあるのだろうが、男が住んでいる地域はコボルドもゴブリンも人を襲う害獣と同じだった。
自分が作ったダンジョンに住んでくれと頼んだところで、頷いてくれるはずがない。それどころか、男自身が屍としてダンジョンの中に躯を晒す羽目になりかねない。
「フーム。まあ、作りながら考えるか。まだまだ先は長いんだ」
男はシャベルを構え直した。
●穴掘りの果てに
男は老境を迎えていた。
「ふう、ふう……」
筋肉こそまだついているものの、脂が乗っていた時代に比べ、すっかり衰えた腕を必死に振るって、つるはしで穴を掘っている。
既に一つの部屋を除いて全ての場所を掘り終えており、今はその最後の場所、ボス部屋を掘っている。
「さ、さすがに老体には堪えるわい……」
汗をかきかき、男は身体に鞭打って猫車を引き、土を運び出す。
これも大事な作業だった。
ダンジョンを掘るということは、相応量の土が出る。その土をどうにかしなければ、その土で今度は自分が埋まりかねない。
「だが、後もう少しじゃ……。後もう少しで、全てが終わる」
青息吐息、フラフラになりながらもかつて男だった老人は懸命に働いていた。
中年の頃の倍の時間をかけ、震える手で土を掘り、集め、猫車に乗せて外に運ぶ。
男の吐く息は荒い。もう歳なのだ。明らかに無理をしている。
「ここで、諦めるわけには……」
歯を食い縛って動き続ける男には、もうダンジョンのことしか見えていない。
「せめて、ダンジョンの完成を……」
もはや、ボス部屋で掘っていない区画は二メートルほどしかない。ここさえ掘り終われれば完成だ。後はもう死んでもいい。男は本気でそう思っている。
しかし、さすがの男も老衰には勝てなかった。
「もう少しなのに……口惜しや……」
男の手からつるはしが零れ落ちる。
同時に男も倒れた。
ダンジョンを掘り続けた男の孤独な末路だった。
●そして舞台はハンターズソサエティへ
依頼を整理していた受付嬢は、一つの依頼に目を留めた。
じっくりと依頼に目を通した受付嬢の顔に、呆れの表情が浮かぶ。
受付嬢はその依頼を手に、普段通りのにこやかな営業スマイルでハンターたちの下へ向かった。
「依頼です」
また来たと、ハンターたちが思ったかどうかは定かではない。
「とある村の外れに住んでいた老人が家の地下に作ったダンジョンを埋め立てたいので、中を調べて欲しいのだそうです。家自体がもう十年近く放置されていたみたいですね」
あくまではきはきとした口調を崩さずに、受付嬢は説明を続けた。
「調査しましたところ興味深い情報を得ました。過去にその老人が偶然村を立ち寄ったハンターの助けを得て、大蛇の群れを捕獲したことがあったらしいです」
何面倒なことをしてくれたんだそのハンターはと、その場にいたハンターたちが思ったかどうかは分からない。
「また、怖いもの知らずな村人から、ダンジョンの最深部でつるはしとシャベルを持ったゾンビを見たという情報もあります。外れとはいえ、村の中なので早急に討伐してください。村人からは頼まれていませんが、念のため老人の消息も確認してください。まあ、ゾンビが持っているものを見ると大方察せられるとは思いますが、一応お願いします」
受付嬢は最後まで営業スマイルを崩さずに話を締め括った。
男は家の地下を掘ろうと思い立った。
ダンジョンを作るのだ。
まずは一部屋、二十メートル正方形の部屋を作りたい。
その次は左右に延びる通路を作るつもりだった。
通路の先には、それぞれ十メートル正方形の二つの小部屋。そこには宝箱を置く。片方は空で、もう片方は罠。
作り終わったら元の部屋に戻り、正面に通路を作る。三つの通路は全て直線で、幅二メートルの長さが八メートルだ。
正面通路の先には、もう一つ二十メートル正方形の部屋を一つ。この部屋にモンスターを置く。
部屋の先にはまた通路。通路を進むと十メートル正方形の小部屋。ここには何もないが、三方向に通路が続く。正面と左右だ。通路の幅は全て二メートルで長さは六メートル。
左右の通路の先は十五メートル正方形の部屋にしようと思い立つ。部屋には罠を仕掛けて、次の通路に繋がる入り口に続くドアを設置する。ドアには鍵も掛けよう。ドアを開ける鍵は罠のトリガーとして部屋の目立つ位置に置いておく。
左右の鍵の掛かった扉の先には五メートルほどの小部屋の中に宝箱。男が用意したちょっとしたアイテムが入っている。
部屋にもどって、残る一つの部屋を出て、幅四メートル長さ八メートルの通路を進めばボス部屋だ。部屋の大きさは最低でも三十メートルは欲しい。他の部屋と同じ正方形でいいだろう。なお、通路がない部屋と部屋はドアで隔てておく。
たったこれだけの広さでも、男にとっては生涯を捧げなければ為し得ない広さだ。
詳細を書いた日記を閉じ、気合を入れて、男はシャベルを片手に作業を開始した。
●まだまだ穴を掘る
男はシャベルの他につるはしを持ちこんでいた。さらには土を運び出すための猫車まで用意していた。猫車とは、タイヤが一つついた土を運ぶための台車だ。
掘り過ぎて、シャベルだけではどうにもならなくなっていたのである。
「ふう、ふう、さすがに堪える」
汗を拭いて、男は一人ごちる。
青年だった男は、いつしか中年となっていた。
やや貧弱だった身体は、長年の肉体の酷使によってがっしりとした身体に変わり、シャベルを扱う姿が堂に入っている。
つるはしを振るう腕も力強く筋肉が盛り上がり、大量の土を猫車で運び出す足取りもしっかりと安定している。
ただ、男の肌の色の白さだけは変わらなかった。
日の光をあまり浴びないから、焼けようがないのだ。
「やっと半分か。まだ先は長いな」
男の後ろには、それなりの見てくれになったダンジョンの姿がある。
まだまだ途上で崩落の危険性もあるが、それで死ぬなら仕方ないと男はある意味割り切っていた。
補強をしたいが金もない時間もない人手もないの三重苦なので、後回しにせざるを得ない。
「まだまだ歳には負けんぞ」
力強い手で、男はつるはしの先を壁に叩きつけた。
●ダンジョンには敵が必要
掘っている途中で、男は気がついた。
まだ配置する敵の種類を決めていない。
何がいいだろうと男は考えた。
とはいっても、男が確保できる生物なんてたかが知れている。
せいぜい小型の肉食獣。しかしそれではダンジョン内を徘徊する敵としては頼りない。何とか大型の肉食獣を手に入れたいところだ。ライオンなんてどうだろう。
子どもを手に入れて、飼育できれば一番いいのだが。
「まあ、そう上手くはいくわけがないな……」
とりあえず保留にし、次の候補を考える。
「コボルド、ゴブリン……無理だな」
地域によっては温厚な場合もあるのだろうが、男が住んでいる地域はコボルドもゴブリンも人を襲う害獣と同じだった。
自分が作ったダンジョンに住んでくれと頼んだところで、頷いてくれるはずがない。それどころか、男自身が屍としてダンジョンの中に躯を晒す羽目になりかねない。
「フーム。まあ、作りながら考えるか。まだまだ先は長いんだ」
男はシャベルを構え直した。
●穴掘りの果てに
男は老境を迎えていた。
「ふう、ふう……」
筋肉こそまだついているものの、脂が乗っていた時代に比べ、すっかり衰えた腕を必死に振るって、つるはしで穴を掘っている。
既に一つの部屋を除いて全ての場所を掘り終えており、今はその最後の場所、ボス部屋を掘っている。
「さ、さすがに老体には堪えるわい……」
汗をかきかき、男は身体に鞭打って猫車を引き、土を運び出す。
これも大事な作業だった。
ダンジョンを掘るということは、相応量の土が出る。その土をどうにかしなければ、その土で今度は自分が埋まりかねない。
「だが、後もう少しじゃ……。後もう少しで、全てが終わる」
青息吐息、フラフラになりながらもかつて男だった老人は懸命に働いていた。
中年の頃の倍の時間をかけ、震える手で土を掘り、集め、猫車に乗せて外に運ぶ。
男の吐く息は荒い。もう歳なのだ。明らかに無理をしている。
「ここで、諦めるわけには……」
歯を食い縛って動き続ける男には、もうダンジョンのことしか見えていない。
「せめて、ダンジョンの完成を……」
もはや、ボス部屋で掘っていない区画は二メートルほどしかない。ここさえ掘り終われれば完成だ。後はもう死んでもいい。男は本気でそう思っている。
しかし、さすがの男も老衰には勝てなかった。
「もう少しなのに……口惜しや……」
男の手からつるはしが零れ落ちる。
同時に男も倒れた。
ダンジョンを掘り続けた男の孤独な末路だった。
●そして舞台はハンターズソサエティへ
依頼を整理していた受付嬢は、一つの依頼に目を留めた。
じっくりと依頼に目を通した受付嬢の顔に、呆れの表情が浮かぶ。
受付嬢はその依頼を手に、普段通りのにこやかな営業スマイルでハンターたちの下へ向かった。
「依頼です」
また来たと、ハンターたちが思ったかどうかは定かではない。
「とある村の外れに住んでいた老人が家の地下に作ったダンジョンを埋め立てたいので、中を調べて欲しいのだそうです。家自体がもう十年近く放置されていたみたいですね」
あくまではきはきとした口調を崩さずに、受付嬢は説明を続けた。
「調査しましたところ興味深い情報を得ました。過去にその老人が偶然村を立ち寄ったハンターの助けを得て、大蛇の群れを捕獲したことがあったらしいです」
何面倒なことをしてくれたんだそのハンターはと、その場にいたハンターたちが思ったかどうかは分からない。
「また、怖いもの知らずな村人から、ダンジョンの最深部でつるはしとシャベルを持ったゾンビを見たという情報もあります。外れとはいえ、村の中なので早急に討伐してください。村人からは頼まれていませんが、念のため老人の消息も確認してください。まあ、ゾンビが持っているものを見ると大方察せられるとは思いますが、一応お願いします」
受付嬢は最後まで営業スマイルを崩さずに話を締め括った。
リプレイ本文
●突入前
集まったハンターたちは、老人の家の前にやってきた。
家の中に入ると、地下室に続く階段がある。
先にロニ・カルディス(ka0551)が行った聞き込みによると、地下室の先に、ダンジョンへの入り口があるという。
また、最深部まで行った怖いもの知らずの村人から、最深部への最短ルートについての情報も入手した。
まずは家の中を捜索する。
埃を被った書斎の引き出しの中に、日記の束があるのをアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が見つけた。
その多くは特筆するようなことは書かれていないが、最後の一冊は、ダンジョン作成についての記述で埋め尽くされている。
中を一通り読み込むと、アルトは日記を戻して皆の後を追って先に進んだ。
地下室に行くと、さらに地下へと続く穴があった。
鉄製の蓋で塞がれており、それを開くと、石造りの下り階段が見える。
明かりで照らしてみたところ、階段のみ石造りで、下りた先にはそこそこ広い空間が広がっているようだ。
光量の問題か、上からではその空間を照らすことはできず、階段を照らすので精一杯だ。
目視で確認するためには、下に降りる必要があるだろう。
「夢は人それぞれだろうが、まさかこんな代物を作っているとはな……。調査も兼ねて攻略しておくのが、せめてもの葬いか」
既に死者の仲間入りを果たしている家の持ち主のことを思い、ロニは神妙な面持ちになっている。
「手製のダンジョンか、冒険家としては放っておけないよ! それに村人さんに危険があっては大変だもん」
死者よりも生者の心配をする時音 ざくろ(ka1250)は、同時に冒険心を胸いっぱいに躍らせている。
「ダンジョンとか残されて迷惑って? え~、でもロマンがあって楽しそうって、ちょっぴり思っちゃった。何事も楽しんでやらなきゃ損だよ」
無邪気に夢路 まよい(ka1328)は目の前の光景を事実と受け入れ、それを否定せず前向きに肯定した。
「まぁ、中に大蛇仕込んだり、自分がゾンビになったというのがいただけないが、面白いことをやったな、お爺さんは」
独りでダンジョンを掘った老人の執念を、死者にはもう届かないと知りつつもアルトは賞賛する。
「ここは私達でこのダンジョンをきちんと攻略して報告書にまとめて貰うというのでどうだろう。皆、どう思う?」
レイア・アローネ(ka4082)の言葉に、他の面々はそれぞれ彼ら彼女ららしい反応を見せながらも、全員が賛同した。
準備を終えたハンターたちが、ダンジョンへと潜る。
さあ、依頼の始まりだ!
●大蛇の襲撃
ロニが放った魔法の明かりが、部屋を照らす。
老人が残した日記に書かれていた情報は、その多くが役に立つものだった。
さすがに長い時が経っているので、その全てを頭から信じるわけにもいかないだろうが、それでも大まかな地理や、潜んでいるであろう敵の情報については参考にすることができる。
せっかくだからと、アルトとざくろが方位磁石と歩幅、十フィート棒代わりにざくろのメイスを使って丁寧にマッピングを始めた。
日記を読み込めば大よその地理は分かるが、全て記述なので結局はこのように地図に起こした方が分かりやすいのだ。
「……ふむ。さすがにあちこちガタが来ているみたいだな。皆、注意してくれ。戦闘の最中にいきなり崩落してもおかしくない」
壁に入ったヒビや一部が崩落しかけている壁など、危険な場所をチェックして回りながら、アルトは地図に情報を書き込んでいく。
「でも、ダンジョンに潜る時って、何が出てくるのかワクワクするよね。十年も経ってたら日記と食い違ってることもあるかもしれないし、楽しみだよ」
にっこりと笑うざくろは女物の服を着ていて、その細身な体格もあって女らしい。だが男だ。
別に女装趣味というわけではなく、文化祭の罰ゲームで女装させられていた最中にクリムゾンウエストに転移してしまったために、地球の冒険家の正装だと誤魔化してしまい、引くに引けなくなった結果である。
女装しても違和感がない容姿に生まれついていたのは、不幸というべきか幸運というべきか、どちらだろうか。
まよいが己の身体に吸着させた灯火の水晶球の、指向性の光を操作する。
ロニの光が全体をぼんやりと照らす中、まよいの灯火の水晶球が細かい箇所をさらに強く照らす。
他にもロニ、ざくろ、アルトが灯火の水晶球を持っているので、同じように回りを照らす。
これは視界を確保するというのと同時に、敵を発見しやすくするという意味も持つ。
当然強い明かりを出すのだから敵からも発見されやすくなるが、気付かず不意をつかれるよりかはよほどいい。
「マッピングはアルトとざくろが行っているようだし、私は護衛に回ろう。失敗したら言ってくれ。予備がある」
携帯しているマッピングセットを見せて、レイアは周囲の警戒を始めた。
魔法で生み出された明かりはあるとないとでは雲泥の差だが、それで全ての闇が即座に払われるわけではない。
灯火の水晶球も指向性である以上、死角は必ず発生する。
何かの拍子に敵が死角に潜り込んでこないとも限らないので、こうしてレイアが注意することは、決して無駄ではないのだ。
そして、そう時間が経たないうちにレイアの警戒を促す声が飛ぶ。
部屋の隅、それぞれの明かりで照らされて、その姿が克明に浮かび上がる。
大蛇がいたのだ。
十年も経てば雑魔になっていてもおかしくない大蛇は、見た目から判断するのは難しい状態だった。
はっきり雑魔だと分かる形態変化が少ないのだ。
そしてハンターとしての感覚が捉えた気配は、やはり微妙なものだった。
言葉でいうと、状況的にやはり雑魔の可能性が高いが、雑魔だと特筆できるほど強くはなさそう、という程度だ。
おもむろにアルトが作業を中断し戦闘態勢に入る。
炎のようなオーラを纏い、同時に体内のマテリアルも制御し、自身の残像すら吹き飛ばすかのような勢いで超加速する。
アルトの目は、地面をのたくる大蛇の姿を捕らえていた。
マテリアルを己の身体に直接収束、継続放出することで防御膜を形成したざくろが続けて飛び出す。
少し遅れてレイアがアルトとざくろのカバーに向かい、走る。
もし大蛇が攻撃してくるようなら、守備を意識して身構え、盾や鎧の装甲部分で攻撃を受け止めて無効化する腹積もりなのだ。
レイアの目がもう一匹を見逃さず発見し、叫んで二人に伝える。
追いかけるレイアは、自分の役割があくまで壁役であって、攻撃機会が来ないことを悟っていた。
部屋にいた大蛇は二匹。そして味方で攻撃行動に入っているのも二人。
実際に、鋭く踏み込んで壁や天上を蹴ってさらに勢いを増したアルトのすれ違い様の斬撃と、ざくろのマテリアルをエネルギーに変換して一瞬だけ生み出した光の剣によって、大蛇は共に一撃で撃滅されたのだから。
次の部屋では、今度は三匹の大蛇に出迎えられた。
「ふふーん! 複数相手は私の十八番だよ! ……あれっ? わっ、ちょ、待ってよー!」
意気揚々と魔法を使おうと前に出たまよいに先んじて、大蛇が三匹ともまよいに襲いかかってきた。
一匹目、二匹目を回避するまよいだが、三匹目に反応しきれず錬金杖を間に割り込ませるのが精一杯だった。
レイアが割り込もうと走るが、それより先にロニの裂帛の声が飛ぶ。
「援護する! 味方への攻撃はこの俺が通さん!」
マテリアルを変成させた聖なる光の防護壁がまよいの回りに発生し、攻撃を受け止め燐光をきらめかせながら消滅する。
戦闘中なので、言葉の代わりに笑顔でロニへの感謝を伝えたまよいは、今度こそ魔法の矢を複数本宙に生み出し、それぞれの矢で大蛇三匹を射抜いた。
そうして安全を確保したところで、皆でマッピングを再開する。
手分けしてダンジョンの状態を確認し、ざくろとアルトに伝えて地図の空白を埋めていく。
特にロニが全体把握力に優れていて、上手く皆をフォローしていた。
当然調べたのは安全が確認されている二つの部屋のみだ。
横道は後で調べることにして、話し合った結果とりあえずは最深部を目指すことになった。
●とある老人の末路
最深部は、今までで一番広い空間だった。
皆の明かりを総動員しても、その全てを照らし切って何もかもを暴くことは難しい。
ただ、それを見つけるのには十分な光量だった。
ゾンビが一体、最深部である部屋の真ん中で立ち尽くしていた。
そのゾンビはふらりとした歩みで壁に近付くと、手に持つつるはしで壁を叩いては、元の場所に戻るのを繰り返す。
そしてスコップで何もない地面を掬っては、土を何かに入れる動作をこれも繰り返す。
部屋の隅に、壊れ朽ちた猫車が転がっていることにも、気付いていない。
意味を見出せず、生前の行動をなぞるだけのその動きは、死してなお残る老人の未練を表しているかのようで、見る者に哀れみを抱かせた。
それは、ハンターである彼ら彼女らも例外ではない。
とはいえ、やるべきことに代わりはなく、問題なく戦闘態勢に入った。
「俺とレイアで支援と壁役を行う。おまえたちは攻撃に集中しろ。崩落には注意しろよ。いい加減、あの爺さんを眠らせてやろう」
ロニが全員を素早く見回して、事前の打ち合わせ通りに動き出す。
遠くから魔法を撃ち込めるので、初撃はまよいが担当するのが適任だという流れになり、自然とこの形になった。
いつでも飛び出せるようにざくろが身構え、まるで獲物に飛び掛る直前の肉食獣のように息を潜めている。
その凄まじい身体能力に裏打ちされた自信からか、リラックスした態度のアルトは無言で穏やかな笑みを浮かべ仕掛けるタイミングを窺っている。
「密かに顔色が悪い老人を見間違えたのかもしれないだけとも思っていたのだが、まあ、そんなわけなかったか。倒してやることが、供養になればいいが」
初撃を担当することで、一番敵意をもらいそうなまよいに対しいざという時壁になれるよう身構えたレイアが、神妙な表情を浮かべる。
最初こそきょとんとした表情を浮かべたまよいは、事実を飲み込むと花咲くような笑顔を浮かべ、己のマテリアルを励起させて渾身の一撃を放つ準備に入る。
「期待には応えなきゃいけないよね! 全ての熱を奪われし純然たる静に凍えよ……アブソリュートゼロ!」
水と地の複合魔法よって生じた効果がゾンビにはっきり現れると同時に、アルトが地を蹴った。
遅れてその背をざくろが追いかける。
いつでも二人を庇えるように、その後をレイアとロニが続いた。
老人ゾンビにアルトとざくろが肉薄する。
「可哀想だが、逃がして村にいかれても困るんでな。速やかに倒させてもらうぞ」
「彷徨う魂にむけ、延びろ光の剣! ……立派なダンジョンだったよ、だからもう眠って」
まよいの魔法で動きが阻害されている老人ゾンビを、アルトの刀とざくろの光の剣が塵に返そうとした瞬間、それより少し早く老人ゾンビは消滅した。
どうやらまよいの魔法の時点で老人ゾンビはその威力に耐え切れなかったようだった。
●宝箱の中身とその後の顛末
残りの大蛇を始末した一行は、お楽しみに取っておいた宝箱を漁ることにした。
老人の手製ダンジョンなので中身に期待してはいけないことは重々承知しているものの、やはりこういうトレジャーハントはダンジョン探索の醍醐味だ。
なお、部屋や廊下を隔てる扉については必ずアルトが内部の様子を探り不意討ちなどの奇襲がないことを確認してから開け、出てきた敵も問題なく倒せたので、予想外の事態は起きなかった。
事前予測というものは大事である。
罠の解除も全て無事に成功し、三つの宝箱の鍵も解除して得た中身は、綺麗に梱包されたリボン三つとベルト二つだった。
十年の歳月によって外側の梱包自体はボロボロになっているが、その梱包のおかげか中身はほぼ新品同様に綺麗なままである。
というか間違いなく新品なはずだ。まさかいくら手製ダンジョンといえども、中古品を入れたりはすまい。
ちょうど女性はリボン、男性はベルトと綺麗に分けられるようになっていたので、各々で分けることになった。
以上で今回の冒険は終わりだが、全てが終わった後のことも、少し語ろう。
まずは村の墓場に、真新しい老人の墓ができた。
その墓場には、ロニによって、ゾンビが消えても残ったスコップやつるはし、日記といった、老人の遺品の数々が納められたという。
老人が掘ったダンジョンは、アルトの提案によって補強と利用方法が検討されることになった。
再び村の総意として埋められてしまうのか、それとも何らかの方針で再利用されるのかは分からないが、老人の人生を賭けた行為が無駄にならなくなる可能性が繋がったといえるだろう。
ざくろはダンジョンにかけられた手間と思いを感じて探索完了後もしばらく余韻に浸り、得たアイテムは大したものではないが冒険した証のちょっとした記念品になった。
まよいはしんみりした余韻を吹き飛ばすかのように、新たな依頼をまた探し始めたようだ。無邪気で明るい彼女らしい選択である。
レイアは受付嬢ジェーン・ドゥに依頼の顛末を報告し、老人のためにも老人の名前入りで記録を記しておくことを頼んだ。
この時ばかりはうさんくさい受付嬢も、神妙な表情で頷きすぐに作業に取り掛かったという。
集まったハンターたちは、老人の家の前にやってきた。
家の中に入ると、地下室に続く階段がある。
先にロニ・カルディス(ka0551)が行った聞き込みによると、地下室の先に、ダンジョンへの入り口があるという。
また、最深部まで行った怖いもの知らずの村人から、最深部への最短ルートについての情報も入手した。
まずは家の中を捜索する。
埃を被った書斎の引き出しの中に、日記の束があるのをアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が見つけた。
その多くは特筆するようなことは書かれていないが、最後の一冊は、ダンジョン作成についての記述で埋め尽くされている。
中を一通り読み込むと、アルトは日記を戻して皆の後を追って先に進んだ。
地下室に行くと、さらに地下へと続く穴があった。
鉄製の蓋で塞がれており、それを開くと、石造りの下り階段が見える。
明かりで照らしてみたところ、階段のみ石造りで、下りた先にはそこそこ広い空間が広がっているようだ。
光量の問題か、上からではその空間を照らすことはできず、階段を照らすので精一杯だ。
目視で確認するためには、下に降りる必要があるだろう。
「夢は人それぞれだろうが、まさかこんな代物を作っているとはな……。調査も兼ねて攻略しておくのが、せめてもの葬いか」
既に死者の仲間入りを果たしている家の持ち主のことを思い、ロニは神妙な面持ちになっている。
「手製のダンジョンか、冒険家としては放っておけないよ! それに村人さんに危険があっては大変だもん」
死者よりも生者の心配をする時音 ざくろ(ka1250)は、同時に冒険心を胸いっぱいに躍らせている。
「ダンジョンとか残されて迷惑って? え~、でもロマンがあって楽しそうって、ちょっぴり思っちゃった。何事も楽しんでやらなきゃ損だよ」
無邪気に夢路 まよい(ka1328)は目の前の光景を事実と受け入れ、それを否定せず前向きに肯定した。
「まぁ、中に大蛇仕込んだり、自分がゾンビになったというのがいただけないが、面白いことをやったな、お爺さんは」
独りでダンジョンを掘った老人の執念を、死者にはもう届かないと知りつつもアルトは賞賛する。
「ここは私達でこのダンジョンをきちんと攻略して報告書にまとめて貰うというのでどうだろう。皆、どう思う?」
レイア・アローネ(ka4082)の言葉に、他の面々はそれぞれ彼ら彼女ららしい反応を見せながらも、全員が賛同した。
準備を終えたハンターたちが、ダンジョンへと潜る。
さあ、依頼の始まりだ!
●大蛇の襲撃
ロニが放った魔法の明かりが、部屋を照らす。
老人が残した日記に書かれていた情報は、その多くが役に立つものだった。
さすがに長い時が経っているので、その全てを頭から信じるわけにもいかないだろうが、それでも大まかな地理や、潜んでいるであろう敵の情報については参考にすることができる。
せっかくだからと、アルトとざくろが方位磁石と歩幅、十フィート棒代わりにざくろのメイスを使って丁寧にマッピングを始めた。
日記を読み込めば大よその地理は分かるが、全て記述なので結局はこのように地図に起こした方が分かりやすいのだ。
「……ふむ。さすがにあちこちガタが来ているみたいだな。皆、注意してくれ。戦闘の最中にいきなり崩落してもおかしくない」
壁に入ったヒビや一部が崩落しかけている壁など、危険な場所をチェックして回りながら、アルトは地図に情報を書き込んでいく。
「でも、ダンジョンに潜る時って、何が出てくるのかワクワクするよね。十年も経ってたら日記と食い違ってることもあるかもしれないし、楽しみだよ」
にっこりと笑うざくろは女物の服を着ていて、その細身な体格もあって女らしい。だが男だ。
別に女装趣味というわけではなく、文化祭の罰ゲームで女装させられていた最中にクリムゾンウエストに転移してしまったために、地球の冒険家の正装だと誤魔化してしまい、引くに引けなくなった結果である。
女装しても違和感がない容姿に生まれついていたのは、不幸というべきか幸運というべきか、どちらだろうか。
まよいが己の身体に吸着させた灯火の水晶球の、指向性の光を操作する。
ロニの光が全体をぼんやりと照らす中、まよいの灯火の水晶球が細かい箇所をさらに強く照らす。
他にもロニ、ざくろ、アルトが灯火の水晶球を持っているので、同じように回りを照らす。
これは視界を確保するというのと同時に、敵を発見しやすくするという意味も持つ。
当然強い明かりを出すのだから敵からも発見されやすくなるが、気付かず不意をつかれるよりかはよほどいい。
「マッピングはアルトとざくろが行っているようだし、私は護衛に回ろう。失敗したら言ってくれ。予備がある」
携帯しているマッピングセットを見せて、レイアは周囲の警戒を始めた。
魔法で生み出された明かりはあるとないとでは雲泥の差だが、それで全ての闇が即座に払われるわけではない。
灯火の水晶球も指向性である以上、死角は必ず発生する。
何かの拍子に敵が死角に潜り込んでこないとも限らないので、こうしてレイアが注意することは、決して無駄ではないのだ。
そして、そう時間が経たないうちにレイアの警戒を促す声が飛ぶ。
部屋の隅、それぞれの明かりで照らされて、その姿が克明に浮かび上がる。
大蛇がいたのだ。
十年も経てば雑魔になっていてもおかしくない大蛇は、見た目から判断するのは難しい状態だった。
はっきり雑魔だと分かる形態変化が少ないのだ。
そしてハンターとしての感覚が捉えた気配は、やはり微妙なものだった。
言葉でいうと、状況的にやはり雑魔の可能性が高いが、雑魔だと特筆できるほど強くはなさそう、という程度だ。
おもむろにアルトが作業を中断し戦闘態勢に入る。
炎のようなオーラを纏い、同時に体内のマテリアルも制御し、自身の残像すら吹き飛ばすかのような勢いで超加速する。
アルトの目は、地面をのたくる大蛇の姿を捕らえていた。
マテリアルを己の身体に直接収束、継続放出することで防御膜を形成したざくろが続けて飛び出す。
少し遅れてレイアがアルトとざくろのカバーに向かい、走る。
もし大蛇が攻撃してくるようなら、守備を意識して身構え、盾や鎧の装甲部分で攻撃を受け止めて無効化する腹積もりなのだ。
レイアの目がもう一匹を見逃さず発見し、叫んで二人に伝える。
追いかけるレイアは、自分の役割があくまで壁役であって、攻撃機会が来ないことを悟っていた。
部屋にいた大蛇は二匹。そして味方で攻撃行動に入っているのも二人。
実際に、鋭く踏み込んで壁や天上を蹴ってさらに勢いを増したアルトのすれ違い様の斬撃と、ざくろのマテリアルをエネルギーに変換して一瞬だけ生み出した光の剣によって、大蛇は共に一撃で撃滅されたのだから。
次の部屋では、今度は三匹の大蛇に出迎えられた。
「ふふーん! 複数相手は私の十八番だよ! ……あれっ? わっ、ちょ、待ってよー!」
意気揚々と魔法を使おうと前に出たまよいに先んじて、大蛇が三匹ともまよいに襲いかかってきた。
一匹目、二匹目を回避するまよいだが、三匹目に反応しきれず錬金杖を間に割り込ませるのが精一杯だった。
レイアが割り込もうと走るが、それより先にロニの裂帛の声が飛ぶ。
「援護する! 味方への攻撃はこの俺が通さん!」
マテリアルを変成させた聖なる光の防護壁がまよいの回りに発生し、攻撃を受け止め燐光をきらめかせながら消滅する。
戦闘中なので、言葉の代わりに笑顔でロニへの感謝を伝えたまよいは、今度こそ魔法の矢を複数本宙に生み出し、それぞれの矢で大蛇三匹を射抜いた。
そうして安全を確保したところで、皆でマッピングを再開する。
手分けしてダンジョンの状態を確認し、ざくろとアルトに伝えて地図の空白を埋めていく。
特にロニが全体把握力に優れていて、上手く皆をフォローしていた。
当然調べたのは安全が確認されている二つの部屋のみだ。
横道は後で調べることにして、話し合った結果とりあえずは最深部を目指すことになった。
●とある老人の末路
最深部は、今までで一番広い空間だった。
皆の明かりを総動員しても、その全てを照らし切って何もかもを暴くことは難しい。
ただ、それを見つけるのには十分な光量だった。
ゾンビが一体、最深部である部屋の真ん中で立ち尽くしていた。
そのゾンビはふらりとした歩みで壁に近付くと、手に持つつるはしで壁を叩いては、元の場所に戻るのを繰り返す。
そしてスコップで何もない地面を掬っては、土を何かに入れる動作をこれも繰り返す。
部屋の隅に、壊れ朽ちた猫車が転がっていることにも、気付いていない。
意味を見出せず、生前の行動をなぞるだけのその動きは、死してなお残る老人の未練を表しているかのようで、見る者に哀れみを抱かせた。
それは、ハンターである彼ら彼女らも例外ではない。
とはいえ、やるべきことに代わりはなく、問題なく戦闘態勢に入った。
「俺とレイアで支援と壁役を行う。おまえたちは攻撃に集中しろ。崩落には注意しろよ。いい加減、あの爺さんを眠らせてやろう」
ロニが全員を素早く見回して、事前の打ち合わせ通りに動き出す。
遠くから魔法を撃ち込めるので、初撃はまよいが担当するのが適任だという流れになり、自然とこの形になった。
いつでも飛び出せるようにざくろが身構え、まるで獲物に飛び掛る直前の肉食獣のように息を潜めている。
その凄まじい身体能力に裏打ちされた自信からか、リラックスした態度のアルトは無言で穏やかな笑みを浮かべ仕掛けるタイミングを窺っている。
「密かに顔色が悪い老人を見間違えたのかもしれないだけとも思っていたのだが、まあ、そんなわけなかったか。倒してやることが、供養になればいいが」
初撃を担当することで、一番敵意をもらいそうなまよいに対しいざという時壁になれるよう身構えたレイアが、神妙な表情を浮かべる。
最初こそきょとんとした表情を浮かべたまよいは、事実を飲み込むと花咲くような笑顔を浮かべ、己のマテリアルを励起させて渾身の一撃を放つ準備に入る。
「期待には応えなきゃいけないよね! 全ての熱を奪われし純然たる静に凍えよ……アブソリュートゼロ!」
水と地の複合魔法よって生じた効果がゾンビにはっきり現れると同時に、アルトが地を蹴った。
遅れてその背をざくろが追いかける。
いつでも二人を庇えるように、その後をレイアとロニが続いた。
老人ゾンビにアルトとざくろが肉薄する。
「可哀想だが、逃がして村にいかれても困るんでな。速やかに倒させてもらうぞ」
「彷徨う魂にむけ、延びろ光の剣! ……立派なダンジョンだったよ、だからもう眠って」
まよいの魔法で動きが阻害されている老人ゾンビを、アルトの刀とざくろの光の剣が塵に返そうとした瞬間、それより少し早く老人ゾンビは消滅した。
どうやらまよいの魔法の時点で老人ゾンビはその威力に耐え切れなかったようだった。
●宝箱の中身とその後の顛末
残りの大蛇を始末した一行は、お楽しみに取っておいた宝箱を漁ることにした。
老人の手製ダンジョンなので中身に期待してはいけないことは重々承知しているものの、やはりこういうトレジャーハントはダンジョン探索の醍醐味だ。
なお、部屋や廊下を隔てる扉については必ずアルトが内部の様子を探り不意討ちなどの奇襲がないことを確認してから開け、出てきた敵も問題なく倒せたので、予想外の事態は起きなかった。
事前予測というものは大事である。
罠の解除も全て無事に成功し、三つの宝箱の鍵も解除して得た中身は、綺麗に梱包されたリボン三つとベルト二つだった。
十年の歳月によって外側の梱包自体はボロボロになっているが、その梱包のおかげか中身はほぼ新品同様に綺麗なままである。
というか間違いなく新品なはずだ。まさかいくら手製ダンジョンといえども、中古品を入れたりはすまい。
ちょうど女性はリボン、男性はベルトと綺麗に分けられるようになっていたので、各々で分けることになった。
以上で今回の冒険は終わりだが、全てが終わった後のことも、少し語ろう。
まずは村の墓場に、真新しい老人の墓ができた。
その墓場には、ロニによって、ゾンビが消えても残ったスコップやつるはし、日記といった、老人の遺品の数々が納められたという。
老人が掘ったダンジョンは、アルトの提案によって補強と利用方法が検討されることになった。
再び村の総意として埋められてしまうのか、それとも何らかの方針で再利用されるのかは分からないが、老人の人生を賭けた行為が無駄にならなくなる可能性が繋がったといえるだろう。
ざくろはダンジョンにかけられた手間と思いを感じて探索完了後もしばらく余韻に浸り、得たアイテムは大したものではないが冒険した証のちょっとした記念品になった。
まよいはしんみりした余韻を吹き飛ばすかのように、新たな依頼をまた探し始めたようだ。無邪気で明るい彼女らしい選択である。
レイアは受付嬢ジェーン・ドゥに依頼の顛末を報告し、老人のためにも老人の名前入りで記録を記しておくことを頼んだ。
この時ばかりはうさんくさい受付嬢も、神妙な表情で頷きすぐに作業に取り掛かったという。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/13 19:11:52 |
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手作りダンジョンアタック ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/07/13 21:41:49 |