ゲスト
(ka0000)
【陶曲】ゼンマイ仕掛けの災厄
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/07/16 19:00
- 完成日
- 2018/07/24 00:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とある昔話
昔々、1人の子供が犬のおもちゃを持っていました。
おもちゃには巻ネジがついていて、それを回すと動くことが出来ました。
毎日毎日子供はおもちゃの犬と遊びました。
それから何年かたった後、子供のもとに本物の子犬がやってきました。
そうしたら子供は、おもちゃの犬には見向きもしなくなりました。
おもちゃの犬は、本物の犬から噛まれたり振り回されたり埋められたり掘り出されたりし、ボロボロになっていきました。ゼンマイが切れ、動かなくなりました。
子供はおもちゃの犬を――ゴミとして捨ててしまいました。
それから何年もたった後、ラルヴァというおじいさんが町外れのゴミ捨て場に捨てられた犬のおもちゃを見つけました。
雨に打たれ風にさらされ錆だらけになった犬のおもちゃは、巻きネジだけがカタカタ動き続けていました。
「自我はあれど思考するに至らぬ段階か……よろしい、ではわたしがそれを与えてあげよう」
おじいさんはおもちゃの背中から、巻ネジを抜き取りました。
それを持って町のおもちゃ屋に行きました。
もう夜中でおもちゃ屋は閉まっていましたが、おじいさんが近づくと店の扉が音もなく開きました。
おじいさんは陳列棚からおもちゃの猫を手に取り、巻ネジを突き刺し、回します。
すると猫がパチパチ瞬きしました。
「あれ? ここはどこ? わたしは誰? あなたは誰?」
「私かい。私はラルヴァと言うんだよ。そしてキミは――」
●ポルトワール
各種ギルドや会社の本館、本社が立ち並ぶ通りの一角。白地に青十字の旗を掲げた建物がある。
それは、海運会社グリーク商会の本社だ。
今そこには、カチャ・タホを筆頭とするハンターたちが集まっていた。依頼主であるグリーク商会次期会長(実際的な権限は既に現会長から彼女に移っているとの説もあるが)ニケ・グリークから依頼内容の説明を受けるために。
「最近この近くの土地を買収したんです。事業の拡張のために。土地の所有者とは話が付いていたんですが。その土地を借りてビジネスをしておられる方が、どうしても立ち退きたくないと頑張っておられまして。私としてもあれこれ提案差し上げたんですが、どうも聞き入れてもらえませんで」
よくありそうな揉め事だなと思いつつカチャは、聞いた。
「所有者さんから話をしてもらったらどうですか?」
「それがね、所有者さんもその方に、あまり強くは言いたくないらしくて。私は言うべきだと思うんですがね。経営破綻しているのは事実なんですから」
「その人は、一体何の商売をしていらっしゃるんです?」
「孤児院の経営です。もとエクラ教会の神父さんでしてね。もうかなりのご高齢ですが」
「私たちに何をしてもらいたいと?」
「第三者の観点から、説得に加わってくれませんか? なるべく穏便に運びたいんですよ。可能な限りはね」
●偽物は嫉妬する
ぼくはぴょんきち。ぼくはうさぎ。
ラルヴァさまによると、ぼくの前にはモンキチというぼくがいたらしい。モンキチの前にはまた違うぼくがいて、その前にもまた違うぼくがいて、たくさんぼくがいたらしい。よく分かんないけど。
おもちゃのうさぎは本物のうさぎより優れている。
だって本物のうさぎはとんでもなく馬鹿で、とんでもなくもろい。
ぼくのように話をすることも出来ないし、ちょっと蹴ったら破れてぐちゃぐちゃしたものをはみ出させる。
こんなものを体の中に詰めているなんて、本物のうさぎ、ばっちい。
おもちゃのほうが上等だ。
ああ、生きてるものってなんて簡単に壊せるんだろう。生きてるものは皆下等だ。ぼくらの方が優れているんだ。
●災厄の訪れ
ポルトワール。
港沿いの通りには、一つの小さな孤児院がある。
しっくいの剥げた壁に囲まれた中にあるのは、遊具数点と飼育小屋のある庭。そして古ぼけた建物。
ここに収容されている子供たちは全部で10人。
現在彼らは建物の裏に固まり、真剣な顔で話し合っている。自分たちにはどうにも出来ない問題を。
「この孤児院がなくなっちゃうって本当なの」
「本当みたい。海運会社がこの土地を買うんだって。今日、この孤児院へ院長先生に話しをしに来るんだって」
「院長先生はここは絶対売らないから、心配しなくていいっていってたわ」
「何と言われようと孤児院は手放しませし閉鎖もしません。お引き取りください」
「しかしですね、このままでは成り立っていけませんでしょう。失礼ですが経営が赤字続きなのではなかったですか?」
「心配は無用です。私の貯金もありますし、寄付をしてくださる篤志家もおります。孤児院経営は商売とは違います。損する得するの問題ではない。エクラ様への信仰告白であり奉仕なのです」
白い髭を生やした院長は、どうにも頑固で手のつけようがなかった。なるほど善良にして高潔な「いい人」らしいが、現実に対処する手腕はからきしありそうにない。
外で激しく犬が吠え始めた。それを渡りに船と捕らえたか、院長は話し合いの席を立つ。
「すみませんが、ちょっと見てきますので……」
残ったニケは椅子の背に身をもたせ掛け、同席しているハンターたちにぼやく。
「私、どうにも宗教関係の方と相性が悪いんですよね」
院長の声が外から聞こえてきた。
「フラッシュ、何を騒いでいるんだ。静かにしなさい……」
次いで、立て続けの銃声が響いた。
子供たちはビクッと身を強ばらせる。
「……今の何の音?」
年長の子が年少の子に押されるようにして、恐る恐る足を進めた。
建物の前に回ってきてみれば、鉄臭さと生臭さが交じり合った匂い。
飼育小屋の近く、蜂の巣にされた犬と院長が血溜まりに転がっている。
その側にウサギがいた。
しかし本物のウサギではない。大きな巻ネジが背中についたおもちゃのウサギ。大きさは1メートルほどか。
それが作り物の目玉を動かし子供たちを見た。
『ねえ、きみたちもすぐ壊れる?』
ウサギの前面がばくりと割れた。黒光りする銃口が顔を覗かせる。
その時疾風のごとき勢いで、異変を嗅ぎ付けたハンターたちが場に飛び込んできた。
子供たちに体当たりし地面に伏させる。
固形化した負のマテリアルが銃口から飛び出し、カチャの右脇腹を貫通した。
痛みと熱さに加え、体の中を食い荒らされるような気持ち悪さが襲ってくる。
「おえっ……」
吐き気を催しそうになりながらカチャは、自ら弾の貫通した脇腹を押さえ、回復魔法をかけた。
しかし傷口はなかなか塞がらない。指の間からどんどん血が滲み出してくる。
(この感じ、どこかで……)
彼女はそこで気づいた。ウサギの背についている巻ネジが、以前致命傷を負わせてきた歪虚の背についていたものと、全く一緒であることに。
昔々、1人の子供が犬のおもちゃを持っていました。
おもちゃには巻ネジがついていて、それを回すと動くことが出来ました。
毎日毎日子供はおもちゃの犬と遊びました。
それから何年かたった後、子供のもとに本物の子犬がやってきました。
そうしたら子供は、おもちゃの犬には見向きもしなくなりました。
おもちゃの犬は、本物の犬から噛まれたり振り回されたり埋められたり掘り出されたりし、ボロボロになっていきました。ゼンマイが切れ、動かなくなりました。
子供はおもちゃの犬を――ゴミとして捨ててしまいました。
それから何年もたった後、ラルヴァというおじいさんが町外れのゴミ捨て場に捨てられた犬のおもちゃを見つけました。
雨に打たれ風にさらされ錆だらけになった犬のおもちゃは、巻きネジだけがカタカタ動き続けていました。
「自我はあれど思考するに至らぬ段階か……よろしい、ではわたしがそれを与えてあげよう」
おじいさんはおもちゃの背中から、巻ネジを抜き取りました。
それを持って町のおもちゃ屋に行きました。
もう夜中でおもちゃ屋は閉まっていましたが、おじいさんが近づくと店の扉が音もなく開きました。
おじいさんは陳列棚からおもちゃの猫を手に取り、巻ネジを突き刺し、回します。
すると猫がパチパチ瞬きしました。
「あれ? ここはどこ? わたしは誰? あなたは誰?」
「私かい。私はラルヴァと言うんだよ。そしてキミは――」
●ポルトワール
各種ギルドや会社の本館、本社が立ち並ぶ通りの一角。白地に青十字の旗を掲げた建物がある。
それは、海運会社グリーク商会の本社だ。
今そこには、カチャ・タホを筆頭とするハンターたちが集まっていた。依頼主であるグリーク商会次期会長(実際的な権限は既に現会長から彼女に移っているとの説もあるが)ニケ・グリークから依頼内容の説明を受けるために。
「最近この近くの土地を買収したんです。事業の拡張のために。土地の所有者とは話が付いていたんですが。その土地を借りてビジネスをしておられる方が、どうしても立ち退きたくないと頑張っておられまして。私としてもあれこれ提案差し上げたんですが、どうも聞き入れてもらえませんで」
よくありそうな揉め事だなと思いつつカチャは、聞いた。
「所有者さんから話をしてもらったらどうですか?」
「それがね、所有者さんもその方に、あまり強くは言いたくないらしくて。私は言うべきだと思うんですがね。経営破綻しているのは事実なんですから」
「その人は、一体何の商売をしていらっしゃるんです?」
「孤児院の経営です。もとエクラ教会の神父さんでしてね。もうかなりのご高齢ですが」
「私たちに何をしてもらいたいと?」
「第三者の観点から、説得に加わってくれませんか? なるべく穏便に運びたいんですよ。可能な限りはね」
●偽物は嫉妬する
ぼくはぴょんきち。ぼくはうさぎ。
ラルヴァさまによると、ぼくの前にはモンキチというぼくがいたらしい。モンキチの前にはまた違うぼくがいて、その前にもまた違うぼくがいて、たくさんぼくがいたらしい。よく分かんないけど。
おもちゃのうさぎは本物のうさぎより優れている。
だって本物のうさぎはとんでもなく馬鹿で、とんでもなくもろい。
ぼくのように話をすることも出来ないし、ちょっと蹴ったら破れてぐちゃぐちゃしたものをはみ出させる。
こんなものを体の中に詰めているなんて、本物のうさぎ、ばっちい。
おもちゃのほうが上等だ。
ああ、生きてるものってなんて簡単に壊せるんだろう。生きてるものは皆下等だ。ぼくらの方が優れているんだ。
●災厄の訪れ
ポルトワール。
港沿いの通りには、一つの小さな孤児院がある。
しっくいの剥げた壁に囲まれた中にあるのは、遊具数点と飼育小屋のある庭。そして古ぼけた建物。
ここに収容されている子供たちは全部で10人。
現在彼らは建物の裏に固まり、真剣な顔で話し合っている。自分たちにはどうにも出来ない問題を。
「この孤児院がなくなっちゃうって本当なの」
「本当みたい。海運会社がこの土地を買うんだって。今日、この孤児院へ院長先生に話しをしに来るんだって」
「院長先生はここは絶対売らないから、心配しなくていいっていってたわ」
「何と言われようと孤児院は手放しませし閉鎖もしません。お引き取りください」
「しかしですね、このままでは成り立っていけませんでしょう。失礼ですが経営が赤字続きなのではなかったですか?」
「心配は無用です。私の貯金もありますし、寄付をしてくださる篤志家もおります。孤児院経営は商売とは違います。損する得するの問題ではない。エクラ様への信仰告白であり奉仕なのです」
白い髭を生やした院長は、どうにも頑固で手のつけようがなかった。なるほど善良にして高潔な「いい人」らしいが、現実に対処する手腕はからきしありそうにない。
外で激しく犬が吠え始めた。それを渡りに船と捕らえたか、院長は話し合いの席を立つ。
「すみませんが、ちょっと見てきますので……」
残ったニケは椅子の背に身をもたせ掛け、同席しているハンターたちにぼやく。
「私、どうにも宗教関係の方と相性が悪いんですよね」
院長の声が外から聞こえてきた。
「フラッシュ、何を騒いでいるんだ。静かにしなさい……」
次いで、立て続けの銃声が響いた。
子供たちはビクッと身を強ばらせる。
「……今の何の音?」
年長の子が年少の子に押されるようにして、恐る恐る足を進めた。
建物の前に回ってきてみれば、鉄臭さと生臭さが交じり合った匂い。
飼育小屋の近く、蜂の巣にされた犬と院長が血溜まりに転がっている。
その側にウサギがいた。
しかし本物のウサギではない。大きな巻ネジが背中についたおもちゃのウサギ。大きさは1メートルほどか。
それが作り物の目玉を動かし子供たちを見た。
『ねえ、きみたちもすぐ壊れる?』
ウサギの前面がばくりと割れた。黒光りする銃口が顔を覗かせる。
その時疾風のごとき勢いで、異変を嗅ぎ付けたハンターたちが場に飛び込んできた。
子供たちに体当たりし地面に伏させる。
固形化した負のマテリアルが銃口から飛び出し、カチャの右脇腹を貫通した。
痛みと熱さに加え、体の中を食い荒らされるような気持ち悪さが襲ってくる。
「おえっ……」
吐き気を催しそうになりながらカチャは、自ら弾の貫通した脇腹を押さえ、回復魔法をかけた。
しかし傷口はなかなか塞がらない。指の間からどんどん血が滲み出してくる。
(この感じ、どこかで……)
彼女はそこで気づいた。ウサギの背についている巻ネジが、以前致命傷を負わせてきた歪虚の背についていたものと、全く一緒であることに。
リプレイ本文
天竜寺 詩(ka0396)が覚醒し、カチャに駆け寄っていく。メイム(ka2290)も。
自分自身もそうしたい気持ちを抑えリナリス・リーカノア(ka5126)はマルカ・アニチキン(ka2542)と共にアースウォールを作り上げた。ウサギから子供たちを隠すために。子供達から院長たちを隠すために。
「大丈夫、私達に任せて!」
リナリスの言葉を継いで、ジャック・エルギン(ka1522)も言った。彼らの安全を図るためには、いち早くこの場から移動させなくてはならない。
「ガキ共は一ヶ所に固まって、建物の中に入れ!」
そこでディーナ・フェルミ(ka5843)が飛び出して行く。院長の生死確認をすべく。
「院長先生!?」
彼女の行動は子供たちに『先生は死んでいないのではないか』という希望を与え、避難行動への弾みをつけた。
●
詩はカチャにピュリファイケーションを施した。しかし回復には至らない。汚染数値が浄化数値を上回っていたのだ。カチャの中には負の効果が残っている。
メイムはそれをトランスキュアにより、自分の中に取り込んだ。
カチャはようやくBSを解くことが出来た。
「カチャさん、何とかするからリナリスさんの後ろまで下がって」
「――すいません、メイムさん」
「いや、いいよ。こういうときはお互い様だから。それより急いで」
「はい」
投げ渡されたポーションを手に、リナリスたちの方へ向かうカチャ。
詩は仲間たちがまだ効果範囲内にいる間に、茨の祈りを発動した。
続けてぴょんきちに話しかける。子供たちが避難する時間を稼ぐために。
「あなた、モンキチの仲間!? モンキチはお姉ちゃん達が倒したはずだけど」
ウサギはその場で軽快に跳ね、言った。
『モンキチっていうのは、前のボク。今のボクはぴょんきち』
「まさかネジの方が本体だったって訳? ってそんな事貴方が知ってる訳ないか。モンキチより頭悪そうだしラルヴァも貴方程度の兎に秘密をポンポン話さないよね。丁度銃を持ってるしせいぜい鉄砲玉扱いなんでしょ? 君」
モンキチの後継と言うならばモンキチの性格も受け継いでいるのではないか。そこを期待しての煽りだった。
その読みは半分当たり外れていた。
ぴょんきちはモンキチ同様馬鹿にされると怒るが、だからといってすぐさまその相手に襲いかかるほど単細胞ではない――端的に言って、もっと利口で陰湿だった。
『ボクは頭がいいから、キミたちが何を壊されたらいやなのか分かるぞ』
先ほどカチャを襲った弾丸が、詩にではなく、子供たちがいる方に向け発された。
障壁のアースウォールが難無く突き破られた。
ジャックは咄嗟にガウスジェイルを使い、飛んできた弾を自分に被弾させる。
その結果をぴょんきちは大変不審がった。梟のように頭部をぐるっと回す。
『あれ? おかしいな。狙ったところに当たってないぞ、なんでかな』
隙をついてメイムが、レセプションアークを仕掛ける。
「ノシつけて返すよー。煌めけ、『レセプションアーク』!」
大地から天に向け伸びる光の柱が、ぴょんきちを飲み込んだ。
(ここで歪虚の襲撃なんてタイミングが悪すぎる――いや、でも、僕らがいたのはまあ不幸中の幸いか)
思って葛音 水月(ka1895)は傍らの葛音 ミカ(ka6318)に言った。
「いくよ!」
ミカは返事することすらなく動く。完全に彼とシンクロして。
両者、光の中から変わらぬ姿で飛び出してきたぴょんきちに切りかかる。
「そっちを狙うのは、ちょっといただけないねー」
超重刀と聖罰刀をぴょんきちは避け切り、銃撃を見舞う。
水月とミカも、それを避けた。
ぴょんきちはさも不思議そうに首を傾げる。高速度で動き回りながら。
『んー、当たらないなんておかしいな。ボクなんかちょっと足遅くなった?』
水月はぴょんきちの前を塞ぐように陣取り注意を引く。近接威力に勝るミカが攻撃に集中出来るようにと。
「さぁて、僕は厄介かな?」
●
前衛がぴょんきちの足止めをしている間にリナリスとマルカは、改めてアースウォールを作り直した。
ジャックは自分の傷を確認するのもそこそこに、子供たちの様子を確認する。
「怪我したヤツは居ねえか? 身体を低くしてろ」
まだ幼い子たちからけたたましい泣き声が上がった。
よく見たら足元に水たまり。恐怖で漏らしたらしい。マルカは急いでなだめる。
「大丈夫、履き替えたらいいですから」
カチャとリナリスもそれに加勢した。
「気にしなくていいですよ。悪いことしたんじゃないですから」
「そーそー、こんなのよくあることだよ。おねえちゃんもいまだにちょっとやっちゃうし♪」
そのまま急いで建物の中へ。なるべく奥の部屋へ。
さすがと言うべきか、ニケはいち早くそこへ避難してきていた。
彼女はハンターたちに尋ねる。窓から離れ、姿勢を低くして。
「戦況は?」
ジャックは不敵な笑みを浮かべた。
「この上なくいいぜ――さあ。いいかガキども。床に伏せてじっとしてるんだ。俺たちが戻ってくるまでな」
擦り傷などをこさえた子に応急手当を施し、一同は再び建物の入り口まで引き返した。ぴょんきちの侵入を防ぐために。
●
ぴょんきちと前衛ハンターたちとの攻防は続いていた。
相変わらずぴょんきちはハンターたちよりも、ハンターたちが守ろうとしているもの――子供たちを攻撃対象にしていた。
だが建物に近づこうとすると、ミカと水月の二段攻撃に阻まれる。
「ミカ! 攻撃を受けないように、気を付けてっ」
「大きな声を出さなくても分かってるよ、水月」
銃撃すると、メイムのラストテリトリーに阻まれる。
「お前の相手はこっちだよ!」
加えて詩からプルガトリオが飛んでくる。BSを転化されているぴょんきちは、4者4様の集中攻撃をすべて完全に避け切ることが出来なかった。
水月の刃が当たる。
ぴょんきちの背部が凹んだ。しかしそれは、フィルムを逆再生するように回復して行く。ピグマリオ特有の回復能力だ。
そこで子供たちの避難誘導を済ませたジャックたちが戻ってくる。
「チッ、好き勝手してんじゃねえ!」
「後ろへは行かせません……スクラップさせます!」
直後ぴょんきちはハンターたちから大きく間をとった。
逃げるつもりではとメイムは、ソウルトーチを試みる。
「ブリキウサギ、こっちを見ろぉ」
次の瞬間、ぴょんきちの頭が後方に倒れた。出てきたのは元の頭の大きさを超えたガトリング砲。
『うん、変な魔法の理屈が分かったよーな気がする。試してみよう』
続けて範囲射撃が行われた。
メイムはラストテリトリーを使った。
ジャックはガウスジェイルを使った。
しかし両者とも、自身に攻撃を集中させることは出来なかった。
何故ならぴょんきちは攻撃対象を定めていなかったからである。何も見ぬまま遊びのようにただ漫然と掃射したのだ。
もちろんそんなことをすれば命中率は下がるし威力も落ちる。だが誰かには、何かには当たる。
●
ディーナは馬から降り院長たちに駆け寄った。
リザレクションを発動したが、何の変化も起きなかった。なぜなら彼はすでに死んでしまっているから。
唇を噛みしめる。
再度馬に跨がろうとしたところにぴょんきちの流れ弾が飛んできて、馬が被弾した。
すぐさま回復、浄化魔法をかけ、馬の一命を取り留めさせる。
そのまま安静にさせておき、自らの足で走りだす。
●
ぴょんきちは踊るように撥ねた。
『やっぱり。狙わなきゃ当たる。ボクって賢い』
無作為にばらまかれた弾丸は、ハンターたちにそれぞれダメージを与えた。そして一層憤激させた。
ジャックが目の上に流れてくる血を拭い、衝撃波を繰り出した。
メイムがレセプションアークを叩きつける。
マルカのアイスボルトとリナリスのアイスボルトが同時に当たる。
ミカと水月が同時に切りかかった――避けられず、またしてもダメージを受ける。
そこにディーナが戻ってきた。
彼女の怒りはすさまじく、攻撃もまたそれに準じていた。
セイクリッドフラッシュを浴びたぴょんきちの体が内側から弾け、無数のバネや歯車や、その他なんだかよく分からない部品の小山へと変わる。
それらは生き物のように渦を巻いて寄り集まり、再び形をとる――5匹のぴょんきちへと。
そして四方八方に走りだす。
『わあ、危ない』
『一時退散だ』
『わーい』
「まっ……待つですのー!」
一瞬虚を突かれたもののディーナは、その卓越した移動力で分裂したぴょんきちたちを追い回し、セイクリッドフラッシュをかけ回った。ここで完全に彼を消滅させておく腹積もりで。
「また次の歪虚になられるのはごめんですの!」
ほかのハンターたちも追い回しに協力する。分裂したゆえかぴょんきちは弱かった。たちまちやられてしまった。
ディーナは目を皿のようにして地面を眺め、バネや歯車、ことにあの巻ネジが残っていないか調べ回る。前回のことを思えば素直に消滅するとも思えなかったからだ。
しかし場には何も残っていなかった。
●
幸い子供たちは無事だった。ニケもまた。
そのことを確認した水月は早速ミカのことを、あからさまに心配し始める。
「ミカ。怪我はないですか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。どこも問題ない」
マルカはニケに話しかける。
「ニケさん、ご無事でしたか。よかったです」
「ええ、幸いにも。ところで院長さんはどうなられましたか?」
子供たちの視線がディーナに集まった。
彼女は目を伏せ、事実を述べる。
「……私が駆けつけたときにはもう、エクラ様の御元へ旅立たれてしまわれていたの。力及ばずで申し訳ないの……」
子供たちの間を動揺が駆け抜けた。
ニケはこめかみを押さえ息を吐く。
今回の説得交渉に乗り気でなかったジャックは彼女に、以下の提案をした。子供が路頭に迷うなどということは、あってはならないことだと思えたから。
「交渉は延期したらどうだ。代表者が亡くなったからといって、子供と交渉する訳にもいかねえだろ。まして親を失った子から、家まで取り上げたとあっちゃ――」
「そのことなら心配要りません。この子たちの新しい受け入れ先は幾つか探してあります。院長先生にもそのことは、折に触れ提示していたんですけどね」
そのとき年長組の少年がニケに向かって声を上げた。
「お前……歪虚に頼んだんじゃないのか。院長先生殺してくれって」
「違います。歪虚が出たのは偶然です」
「おかしいだろ、何でお前だけ襲われてないんだよ」
「そりゃ、歪虚に直接会わなかったからですよ。それだけのことです」
そこは確かなのだとメイムも認める。
さりげなく調べたが、ニケの頭から変な糸などは出ていない。だからこれは本当に偶然なのだ。何かあるんじゃないかと勘ぐられてもしょうがないくらいタイミングのいい偶然。
カチャと無事を喜び合っていたリナリスは少し考えてから、ニケに苦言する。
「ねえ、処理の仕方もっと慎重になったほうがいいよ。商会にとって都合がよすぎる展開だよ、これ。下手したらこの子が今言ったみたいな話が拡散しちゃうよ。院長さんに身寄りとかなかったの?」
「いませんでしたよ」
「じゃあ、院長の遺産をこの子たちが相続出来るようにしてあげたら? 貯金、まだあったんでしょう?」
「いいですよ。それが本当に残っていたらですが」
「後さ、同じ施設に移れるようにしてあげたら?」
「10人分の空きが同一施設に同時期に出るなんてこと、あると思います?」
「新しい施設作ったら?」
「誰が?」
「グリーク商会が。慈善事業から学ぶことも多いと思うよ?」
「お断りします。慈善事業についてなら商会は、自由都市同盟の貧民救済活動に毎年一定額を寄付しています」
水月とミカは成り行きに耳を傾けている。口に出しはしなかったものの、彼らもまた、子供たちの行く末が気がかりだったのだ。
そこで詩が言った。
「慈善じゃなく、投資っていうのはどう? 奨学金を与えて、ナルシス君のいた商船学校へ入れるの。確か寄宿舎あったよね、あそこ。それで見込みのありそうな子、社員候補にしたら? 世間的にも受けが良さそうだし。寄る辺ない子への援助方法としては」
ニケは子供たちの方に視線を向けた。先程の少年が白い目で睨み返す。
詩は、その子に言う。
「学校に入って勉強すれば、社員として商会に潜り込めるかも知れないよ? いつか会社を乗っ取れるかもしれないよ? そしたらニケさん、超悔しがるだろーなー。泣いちゃうかもー」
ニケはにやっとした。すばらしく気が利いた冗談でも聞いたときみたいに。
子供たちへ向け、挑戦的に言う。
「やる気のある子には支援してもいいですよ。ただ言っておきますが、今言った商船学校は基本的に裕福な家庭の子弟が入る所です。あなたがたのような子への風当たりは正直強いと思います――それでもやりますか?」
それを受けて立ったのは、先程の少年だった。
「お前の会社潰してやる」
「いい意気込みですね。あなた、名前は?」
「マルコ」
●
事件から数日が過ぎた。
子供たちは本日新しい施設に旅だつ。
これも縁ということでハンターたちは、その見送りに来ている――ニケも、一応来ている。
行く先はポルトワール市内にある複数の孤児院。
院長の葬式や転居の用意等のため数日泊まり込みしていたディーナは、彼らと最も仲良くなっていた。出発を前に励ましの言葉を送る。
「司祭様が居なくなったから、ここの責任者が居なくなってしまったの。でもきっと、次の院でも新しいお友達は出来るの」
しゃがみこむ。一番不安そうな顔をした年少の子の肩に両手を置き、しっかり目を見て言う。
「死と再生はエクラでも否定しないの。不安なことがあったら新しい司祭様に聞けばきっと教えてくれるの」
子供はこくんと頷いた。リナリスに撮って貰った孤児院の写真を握り締めて。
そこに新しい孤児院の職員がやってきた。子供たちを引き取るために。ディーナは立ち上がり、そちらへ向かう。
マルカはニケにこそりと聞いた。
「マルコくんがいませんが」
「ああ、彼なら皆に先んじて商船学校に行きました。まずは卒業出来ることを期待してますよ」
そっけなく言う彼女の横顔をマルカはしげしげ眺め、ふっと表情を緩めた。
「あの……ニケさんは、自分で思ってるより優しい人だと思いますよ。冷たい態度をするようで、周りに優しい結果を与えてくれてるんだと私は思います……」
●
どことも知れない場所。
嫉妬王ラルヴァは読んでいた新聞からふと顔を上げ、傍らを見た。
「おや、お帰りぴょんきち。随分シンプルな姿になったね」
巻ネジに歯車とネジが一ずつつくっついたものが、跳ねながらラルヴァのひざに乗る。
『ハンターがボクを壊そうとしたんだ。ボクはうまく騙して逃げたけど、すごく力削られちゃった。頭にくる。いつか仕返ししてやる』
自分自身もそうしたい気持ちを抑えリナリス・リーカノア(ka5126)はマルカ・アニチキン(ka2542)と共にアースウォールを作り上げた。ウサギから子供たちを隠すために。子供達から院長たちを隠すために。
「大丈夫、私達に任せて!」
リナリスの言葉を継いで、ジャック・エルギン(ka1522)も言った。彼らの安全を図るためには、いち早くこの場から移動させなくてはならない。
「ガキ共は一ヶ所に固まって、建物の中に入れ!」
そこでディーナ・フェルミ(ka5843)が飛び出して行く。院長の生死確認をすべく。
「院長先生!?」
彼女の行動は子供たちに『先生は死んでいないのではないか』という希望を与え、避難行動への弾みをつけた。
●
詩はカチャにピュリファイケーションを施した。しかし回復には至らない。汚染数値が浄化数値を上回っていたのだ。カチャの中には負の効果が残っている。
メイムはそれをトランスキュアにより、自分の中に取り込んだ。
カチャはようやくBSを解くことが出来た。
「カチャさん、何とかするからリナリスさんの後ろまで下がって」
「――すいません、メイムさん」
「いや、いいよ。こういうときはお互い様だから。それより急いで」
「はい」
投げ渡されたポーションを手に、リナリスたちの方へ向かうカチャ。
詩は仲間たちがまだ効果範囲内にいる間に、茨の祈りを発動した。
続けてぴょんきちに話しかける。子供たちが避難する時間を稼ぐために。
「あなた、モンキチの仲間!? モンキチはお姉ちゃん達が倒したはずだけど」
ウサギはその場で軽快に跳ね、言った。
『モンキチっていうのは、前のボク。今のボクはぴょんきち』
「まさかネジの方が本体だったって訳? ってそんな事貴方が知ってる訳ないか。モンキチより頭悪そうだしラルヴァも貴方程度の兎に秘密をポンポン話さないよね。丁度銃を持ってるしせいぜい鉄砲玉扱いなんでしょ? 君」
モンキチの後継と言うならばモンキチの性格も受け継いでいるのではないか。そこを期待しての煽りだった。
その読みは半分当たり外れていた。
ぴょんきちはモンキチ同様馬鹿にされると怒るが、だからといってすぐさまその相手に襲いかかるほど単細胞ではない――端的に言って、もっと利口で陰湿だった。
『ボクは頭がいいから、キミたちが何を壊されたらいやなのか分かるぞ』
先ほどカチャを襲った弾丸が、詩にではなく、子供たちがいる方に向け発された。
障壁のアースウォールが難無く突き破られた。
ジャックは咄嗟にガウスジェイルを使い、飛んできた弾を自分に被弾させる。
その結果をぴょんきちは大変不審がった。梟のように頭部をぐるっと回す。
『あれ? おかしいな。狙ったところに当たってないぞ、なんでかな』
隙をついてメイムが、レセプションアークを仕掛ける。
「ノシつけて返すよー。煌めけ、『レセプションアーク』!」
大地から天に向け伸びる光の柱が、ぴょんきちを飲み込んだ。
(ここで歪虚の襲撃なんてタイミングが悪すぎる――いや、でも、僕らがいたのはまあ不幸中の幸いか)
思って葛音 水月(ka1895)は傍らの葛音 ミカ(ka6318)に言った。
「いくよ!」
ミカは返事することすらなく動く。完全に彼とシンクロして。
両者、光の中から変わらぬ姿で飛び出してきたぴょんきちに切りかかる。
「そっちを狙うのは、ちょっといただけないねー」
超重刀と聖罰刀をぴょんきちは避け切り、銃撃を見舞う。
水月とミカも、それを避けた。
ぴょんきちはさも不思議そうに首を傾げる。高速度で動き回りながら。
『んー、当たらないなんておかしいな。ボクなんかちょっと足遅くなった?』
水月はぴょんきちの前を塞ぐように陣取り注意を引く。近接威力に勝るミカが攻撃に集中出来るようにと。
「さぁて、僕は厄介かな?」
●
前衛がぴょんきちの足止めをしている間にリナリスとマルカは、改めてアースウォールを作り直した。
ジャックは自分の傷を確認するのもそこそこに、子供たちの様子を確認する。
「怪我したヤツは居ねえか? 身体を低くしてろ」
まだ幼い子たちからけたたましい泣き声が上がった。
よく見たら足元に水たまり。恐怖で漏らしたらしい。マルカは急いでなだめる。
「大丈夫、履き替えたらいいですから」
カチャとリナリスもそれに加勢した。
「気にしなくていいですよ。悪いことしたんじゃないですから」
「そーそー、こんなのよくあることだよ。おねえちゃんもいまだにちょっとやっちゃうし♪」
そのまま急いで建物の中へ。なるべく奥の部屋へ。
さすがと言うべきか、ニケはいち早くそこへ避難してきていた。
彼女はハンターたちに尋ねる。窓から離れ、姿勢を低くして。
「戦況は?」
ジャックは不敵な笑みを浮かべた。
「この上なくいいぜ――さあ。いいかガキども。床に伏せてじっとしてるんだ。俺たちが戻ってくるまでな」
擦り傷などをこさえた子に応急手当を施し、一同は再び建物の入り口まで引き返した。ぴょんきちの侵入を防ぐために。
●
ぴょんきちと前衛ハンターたちとの攻防は続いていた。
相変わらずぴょんきちはハンターたちよりも、ハンターたちが守ろうとしているもの――子供たちを攻撃対象にしていた。
だが建物に近づこうとすると、ミカと水月の二段攻撃に阻まれる。
「ミカ! 攻撃を受けないように、気を付けてっ」
「大きな声を出さなくても分かってるよ、水月」
銃撃すると、メイムのラストテリトリーに阻まれる。
「お前の相手はこっちだよ!」
加えて詩からプルガトリオが飛んでくる。BSを転化されているぴょんきちは、4者4様の集中攻撃をすべて完全に避け切ることが出来なかった。
水月の刃が当たる。
ぴょんきちの背部が凹んだ。しかしそれは、フィルムを逆再生するように回復して行く。ピグマリオ特有の回復能力だ。
そこで子供たちの避難誘導を済ませたジャックたちが戻ってくる。
「チッ、好き勝手してんじゃねえ!」
「後ろへは行かせません……スクラップさせます!」
直後ぴょんきちはハンターたちから大きく間をとった。
逃げるつもりではとメイムは、ソウルトーチを試みる。
「ブリキウサギ、こっちを見ろぉ」
次の瞬間、ぴょんきちの頭が後方に倒れた。出てきたのは元の頭の大きさを超えたガトリング砲。
『うん、変な魔法の理屈が分かったよーな気がする。試してみよう』
続けて範囲射撃が行われた。
メイムはラストテリトリーを使った。
ジャックはガウスジェイルを使った。
しかし両者とも、自身に攻撃を集中させることは出来なかった。
何故ならぴょんきちは攻撃対象を定めていなかったからである。何も見ぬまま遊びのようにただ漫然と掃射したのだ。
もちろんそんなことをすれば命中率は下がるし威力も落ちる。だが誰かには、何かには当たる。
●
ディーナは馬から降り院長たちに駆け寄った。
リザレクションを発動したが、何の変化も起きなかった。なぜなら彼はすでに死んでしまっているから。
唇を噛みしめる。
再度馬に跨がろうとしたところにぴょんきちの流れ弾が飛んできて、馬が被弾した。
すぐさま回復、浄化魔法をかけ、馬の一命を取り留めさせる。
そのまま安静にさせておき、自らの足で走りだす。
●
ぴょんきちは踊るように撥ねた。
『やっぱり。狙わなきゃ当たる。ボクって賢い』
無作為にばらまかれた弾丸は、ハンターたちにそれぞれダメージを与えた。そして一層憤激させた。
ジャックが目の上に流れてくる血を拭い、衝撃波を繰り出した。
メイムがレセプションアークを叩きつける。
マルカのアイスボルトとリナリスのアイスボルトが同時に当たる。
ミカと水月が同時に切りかかった――避けられず、またしてもダメージを受ける。
そこにディーナが戻ってきた。
彼女の怒りはすさまじく、攻撃もまたそれに準じていた。
セイクリッドフラッシュを浴びたぴょんきちの体が内側から弾け、無数のバネや歯車や、その他なんだかよく分からない部品の小山へと変わる。
それらは生き物のように渦を巻いて寄り集まり、再び形をとる――5匹のぴょんきちへと。
そして四方八方に走りだす。
『わあ、危ない』
『一時退散だ』
『わーい』
「まっ……待つですのー!」
一瞬虚を突かれたもののディーナは、その卓越した移動力で分裂したぴょんきちたちを追い回し、セイクリッドフラッシュをかけ回った。ここで完全に彼を消滅させておく腹積もりで。
「また次の歪虚になられるのはごめんですの!」
ほかのハンターたちも追い回しに協力する。分裂したゆえかぴょんきちは弱かった。たちまちやられてしまった。
ディーナは目を皿のようにして地面を眺め、バネや歯車、ことにあの巻ネジが残っていないか調べ回る。前回のことを思えば素直に消滅するとも思えなかったからだ。
しかし場には何も残っていなかった。
●
幸い子供たちは無事だった。ニケもまた。
そのことを確認した水月は早速ミカのことを、あからさまに心配し始める。
「ミカ。怪我はないですか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。どこも問題ない」
マルカはニケに話しかける。
「ニケさん、ご無事でしたか。よかったです」
「ええ、幸いにも。ところで院長さんはどうなられましたか?」
子供たちの視線がディーナに集まった。
彼女は目を伏せ、事実を述べる。
「……私が駆けつけたときにはもう、エクラ様の御元へ旅立たれてしまわれていたの。力及ばずで申し訳ないの……」
子供たちの間を動揺が駆け抜けた。
ニケはこめかみを押さえ息を吐く。
今回の説得交渉に乗り気でなかったジャックは彼女に、以下の提案をした。子供が路頭に迷うなどということは、あってはならないことだと思えたから。
「交渉は延期したらどうだ。代表者が亡くなったからといって、子供と交渉する訳にもいかねえだろ。まして親を失った子から、家まで取り上げたとあっちゃ――」
「そのことなら心配要りません。この子たちの新しい受け入れ先は幾つか探してあります。院長先生にもそのことは、折に触れ提示していたんですけどね」
そのとき年長組の少年がニケに向かって声を上げた。
「お前……歪虚に頼んだんじゃないのか。院長先生殺してくれって」
「違います。歪虚が出たのは偶然です」
「おかしいだろ、何でお前だけ襲われてないんだよ」
「そりゃ、歪虚に直接会わなかったからですよ。それだけのことです」
そこは確かなのだとメイムも認める。
さりげなく調べたが、ニケの頭から変な糸などは出ていない。だからこれは本当に偶然なのだ。何かあるんじゃないかと勘ぐられてもしょうがないくらいタイミングのいい偶然。
カチャと無事を喜び合っていたリナリスは少し考えてから、ニケに苦言する。
「ねえ、処理の仕方もっと慎重になったほうがいいよ。商会にとって都合がよすぎる展開だよ、これ。下手したらこの子が今言ったみたいな話が拡散しちゃうよ。院長さんに身寄りとかなかったの?」
「いませんでしたよ」
「じゃあ、院長の遺産をこの子たちが相続出来るようにしてあげたら? 貯金、まだあったんでしょう?」
「いいですよ。それが本当に残っていたらですが」
「後さ、同じ施設に移れるようにしてあげたら?」
「10人分の空きが同一施設に同時期に出るなんてこと、あると思います?」
「新しい施設作ったら?」
「誰が?」
「グリーク商会が。慈善事業から学ぶことも多いと思うよ?」
「お断りします。慈善事業についてなら商会は、自由都市同盟の貧民救済活動に毎年一定額を寄付しています」
水月とミカは成り行きに耳を傾けている。口に出しはしなかったものの、彼らもまた、子供たちの行く末が気がかりだったのだ。
そこで詩が言った。
「慈善じゃなく、投資っていうのはどう? 奨学金を与えて、ナルシス君のいた商船学校へ入れるの。確か寄宿舎あったよね、あそこ。それで見込みのありそうな子、社員候補にしたら? 世間的にも受けが良さそうだし。寄る辺ない子への援助方法としては」
ニケは子供たちの方に視線を向けた。先程の少年が白い目で睨み返す。
詩は、その子に言う。
「学校に入って勉強すれば、社員として商会に潜り込めるかも知れないよ? いつか会社を乗っ取れるかもしれないよ? そしたらニケさん、超悔しがるだろーなー。泣いちゃうかもー」
ニケはにやっとした。すばらしく気が利いた冗談でも聞いたときみたいに。
子供たちへ向け、挑戦的に言う。
「やる気のある子には支援してもいいですよ。ただ言っておきますが、今言った商船学校は基本的に裕福な家庭の子弟が入る所です。あなたがたのような子への風当たりは正直強いと思います――それでもやりますか?」
それを受けて立ったのは、先程の少年だった。
「お前の会社潰してやる」
「いい意気込みですね。あなた、名前は?」
「マルコ」
●
事件から数日が過ぎた。
子供たちは本日新しい施設に旅だつ。
これも縁ということでハンターたちは、その見送りに来ている――ニケも、一応来ている。
行く先はポルトワール市内にある複数の孤児院。
院長の葬式や転居の用意等のため数日泊まり込みしていたディーナは、彼らと最も仲良くなっていた。出発を前に励ましの言葉を送る。
「司祭様が居なくなったから、ここの責任者が居なくなってしまったの。でもきっと、次の院でも新しいお友達は出来るの」
しゃがみこむ。一番不安そうな顔をした年少の子の肩に両手を置き、しっかり目を見て言う。
「死と再生はエクラでも否定しないの。不安なことがあったら新しい司祭様に聞けばきっと教えてくれるの」
子供はこくんと頷いた。リナリスに撮って貰った孤児院の写真を握り締めて。
そこに新しい孤児院の職員がやってきた。子供たちを引き取るために。ディーナは立ち上がり、そちらへ向かう。
マルカはニケにこそりと聞いた。
「マルコくんがいませんが」
「ああ、彼なら皆に先んじて商船学校に行きました。まずは卒業出来ることを期待してますよ」
そっけなく言う彼女の横顔をマルカはしげしげ眺め、ふっと表情を緩めた。
「あの……ニケさんは、自分で思ってるより優しい人だと思いますよ。冷たい態度をするようで、周りに優しい結果を与えてくれてるんだと私は思います……」
●
どことも知れない場所。
嫉妬王ラルヴァは読んでいた新聞からふと顔を上げ、傍らを見た。
「おや、お帰りぴょんきち。随分シンプルな姿になったね」
巻ネジに歯車とネジが一ずつつくっついたものが、跳ねながらラルヴァのひざに乗る。
『ハンターがボクを壊そうとしたんだ。ボクはうまく騙して逃げたけど、すごく力削られちゃった。頭にくる。いつか仕返ししてやる』
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
【質問卓】 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/07/16 10:07:18 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/15 18:50:02 |
|
![]() |
相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/07/16 19:27:54 |