ゲスト
(ka0000)
明日があるなら
マスター:守崎志野

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/14 15:00
- 完成日
- 2018/07/22 03:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
かつてはささやかな緑があったという土地は、既に荒れて灰色になっている。集落の真ん中に掘られた井戸も、水が涸れて久しいと思われた。
粗末な家、というより小屋の中には病人らしい者が伏せっている。聞いた話の通りだ。
「済みません、城塞都市からシャハラの使いで来た者ですが」
井戸の近くに座っている長老らしい老人に近づき、ケイカは声を掛けた。
「城塞都市から?」
「はい。この集落の、エルノという女性に渡った豆や穀物の事なのですが」
「エルノ?部族にそんな女はおらん」
「え?」
数ヶ月前、シャハラが手配して開拓を進めている土地で食事への毒物混入と収穫物の盗難が起こった。
ハンター達が赴いて調べたことが糸口となって調査が進み、その後毒物混入は予期せぬ自然交配で弱い毒性を持った変種が出来たことに気付かず、通常の作物と一緒に収穫した事による事故という結論に達した。
確かに実だけを見れば通常より少し大きい程度でそれと思って見なければ簡単には見分けられない。
一方盗難の調査は難航したものの、皮肉にもその毒性のお陰でどこに流れたかということがわかってきた。
中毒患者らしき病人が出ていないかという情報を集め、そこから逆に辿っていったのだ。
「あなた達にその回収をお願いしたいの。理由は何であれ、放っておく訳にはいかないから」
毒性種の有無にかかわらず流れた作物の回収、中毒患者が出ていた場合は被害の調査と薬草や代わりの食糧の手配。
シャハラがケイカを含む配下にそう命じたのは当然だ。故意ではない、盗難に遭ったといっても、毒性のあるものを食糧として流したとなれば信用問題だ。下手を打てば開拓そのものがあらぬ誤解で撤退に追い込まれかねない。
それに、わかったのは流れた先や仲介した行商人くらいのもので、まだわからない事も多い。今までにわかった関係者からもっと話を聞く必要がある。
ケイカが担当することになったのは小さな集落だった。モグリの行商人からエルノという女性が受け取り、持ち帰ったという。
その集落はかつて男性が狩猟、女性が畑を耕して生計を立てていたが、歪虚の影響でか獲物がいなくなり、土地は枯れた。それでも一時は男性達が傭兵のような事をして糧を得ていたのだが、戦いの主力がハンターでなければ担えなくなった事や帝国への帰属問題で揉めた事でそれも失ったという。
そんな状況で何とか生活の糧を得ようとすれば、とれる手段は多くない。彼女は行商人の仲介で末端の兵士に身体を提供し、行商人は兵士から金を、エルノは行商人から食糧を受け取ったとの事だった。
「そんな女はいない……って、どういうことですか?」
「どうもこうも、そんな女は元からここにはおらん」
この部族は男尊女卑の気風が強く残り、女性の貞操観念に厳しいという。そんな中でエルノがとった手段がわかれば追放とかも有り得るかもしれない。
「……では、その女性とは関係なく外から運び込まれた食糧の事なのですが」
「何の事か知らんが、言い掛かりは迷惑だ。帰れ」
「でも、外から食糧が入った事は事実でしょう?その中には毒があるものが混ざっているかもしれないんです」
回収した分の補償はすること、中毒患者が出ていた場合は薬等の手配はすることを説明しようとしたが、
「帰れといっておる!小娘が!」
「ちょっと!」
取り付く島もない。だが、遠目ではあるが小屋で伏せっているのは中毒患者ではないかと思われる。
「痛い目を見たくなかったらとっとと帰れ!」
騒ぎを聞きつけたのか、十人前後の男女が周囲に集まってきた。
「話だけでも聞いて貰えませんか……」
「失せろ!」
誰かが持っていた棒がケイカの上に振り下ろされた。
●
「それは大変だったわね」
「はい。毒物が入った事で責められる事は考えていましたが、品物の存在自体を否定されるとは思いませんでした」
「でも、あなたの事だからただ逃げ帰ってきた訳ではないわね?」
何らかの情報はあるのでしょうと促すシャハラに、ケイカは頷いた。
集落から文字通り叩き出されたケイカだったが、肩や腕の痣だけ作って戻った訳ではない。
「出てきたのはほとんどが女性で、男性は二、三人でした」
戦いを生業にしていた位だからこういう時には男性が出てくる方が自然だ。男性に優先的に食糧を分けた結果、中毒で多くの男性が伏せることになったのではないか。
「あと、外側から見た限りですが、不自然に青々した畑がありました」
盗み出されたものの中には生命力・繁殖力の強化し、枯れた土地でも収穫出来る事を目的に作り出されたものもある。それらが植え付けられたとすればその不自然さにも説明が付く。
「どうやら間違いはないと思うけど、その分ではすんなり回収できそうにないわ」
「そうですね」
答えつつ、ケイカは集落の様子を思い起こしていた。
自分に殊更敵意を持っているという風ではなかったが、集落の人間が必死だったのは間違いない。
或いは彼らは、あの作物に生き延びる唯一の可能性を見いだし、奪われまいとしたのかもしれない。
そしてエルノという女性はどこに行ったのだろう?
追い出されたのか、集落の有様に呆れて出て行ったのか、それとも…
それに、彼女はどうして集落の禁忌を犯したのだろう?
周囲の有様を見かねて自ら行動を起こしたのか、意思に反して追い込まれたのか。
「どっちにしても、その結果が存在も否定される事だった、なんてね」
立場の弱い者というのは、いつもそうなのか。
あの調子ではシャハラやフリッツが行っても同じだろう。
かといって手をこまねいていたら問題になりかねないし、手繰れるかもしれない細い糸さえ切れてしまう。
ハンターの協力を仰ぐというシャハラの判断に異存は無かった。
かつてはささやかな緑があったという土地は、既に荒れて灰色になっている。集落の真ん中に掘られた井戸も、水が涸れて久しいと思われた。
粗末な家、というより小屋の中には病人らしい者が伏せっている。聞いた話の通りだ。
「済みません、城塞都市からシャハラの使いで来た者ですが」
井戸の近くに座っている長老らしい老人に近づき、ケイカは声を掛けた。
「城塞都市から?」
「はい。この集落の、エルノという女性に渡った豆や穀物の事なのですが」
「エルノ?部族にそんな女はおらん」
「え?」
数ヶ月前、シャハラが手配して開拓を進めている土地で食事への毒物混入と収穫物の盗難が起こった。
ハンター達が赴いて調べたことが糸口となって調査が進み、その後毒物混入は予期せぬ自然交配で弱い毒性を持った変種が出来たことに気付かず、通常の作物と一緒に収穫した事による事故という結論に達した。
確かに実だけを見れば通常より少し大きい程度でそれと思って見なければ簡単には見分けられない。
一方盗難の調査は難航したものの、皮肉にもその毒性のお陰でどこに流れたかということがわかってきた。
中毒患者らしき病人が出ていないかという情報を集め、そこから逆に辿っていったのだ。
「あなた達にその回収をお願いしたいの。理由は何であれ、放っておく訳にはいかないから」
毒性種の有無にかかわらず流れた作物の回収、中毒患者が出ていた場合は被害の調査と薬草や代わりの食糧の手配。
シャハラがケイカを含む配下にそう命じたのは当然だ。故意ではない、盗難に遭ったといっても、毒性のあるものを食糧として流したとなれば信用問題だ。下手を打てば開拓そのものがあらぬ誤解で撤退に追い込まれかねない。
それに、わかったのは流れた先や仲介した行商人くらいのもので、まだわからない事も多い。今までにわかった関係者からもっと話を聞く必要がある。
ケイカが担当することになったのは小さな集落だった。モグリの行商人からエルノという女性が受け取り、持ち帰ったという。
その集落はかつて男性が狩猟、女性が畑を耕して生計を立てていたが、歪虚の影響でか獲物がいなくなり、土地は枯れた。それでも一時は男性達が傭兵のような事をして糧を得ていたのだが、戦いの主力がハンターでなければ担えなくなった事や帝国への帰属問題で揉めた事でそれも失ったという。
そんな状況で何とか生活の糧を得ようとすれば、とれる手段は多くない。彼女は行商人の仲介で末端の兵士に身体を提供し、行商人は兵士から金を、エルノは行商人から食糧を受け取ったとの事だった。
「そんな女はいない……って、どういうことですか?」
「どうもこうも、そんな女は元からここにはおらん」
この部族は男尊女卑の気風が強く残り、女性の貞操観念に厳しいという。そんな中でエルノがとった手段がわかれば追放とかも有り得るかもしれない。
「……では、その女性とは関係なく外から運び込まれた食糧の事なのですが」
「何の事か知らんが、言い掛かりは迷惑だ。帰れ」
「でも、外から食糧が入った事は事実でしょう?その中には毒があるものが混ざっているかもしれないんです」
回収した分の補償はすること、中毒患者が出ていた場合は薬等の手配はすることを説明しようとしたが、
「帰れといっておる!小娘が!」
「ちょっと!」
取り付く島もない。だが、遠目ではあるが小屋で伏せっているのは中毒患者ではないかと思われる。
「痛い目を見たくなかったらとっとと帰れ!」
騒ぎを聞きつけたのか、十人前後の男女が周囲に集まってきた。
「話だけでも聞いて貰えませんか……」
「失せろ!」
誰かが持っていた棒がケイカの上に振り下ろされた。
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「それは大変だったわね」
「はい。毒物が入った事で責められる事は考えていましたが、品物の存在自体を否定されるとは思いませんでした」
「でも、あなたの事だからただ逃げ帰ってきた訳ではないわね?」
何らかの情報はあるのでしょうと促すシャハラに、ケイカは頷いた。
集落から文字通り叩き出されたケイカだったが、肩や腕の痣だけ作って戻った訳ではない。
「出てきたのはほとんどが女性で、男性は二、三人でした」
戦いを生業にしていた位だからこういう時には男性が出てくる方が自然だ。男性に優先的に食糧を分けた結果、中毒で多くの男性が伏せることになったのではないか。
「あと、外側から見た限りですが、不自然に青々した畑がありました」
盗み出されたものの中には生命力・繁殖力の強化し、枯れた土地でも収穫出来る事を目的に作り出されたものもある。それらが植え付けられたとすればその不自然さにも説明が付く。
「どうやら間違いはないと思うけど、その分ではすんなり回収できそうにないわ」
「そうですね」
答えつつ、ケイカは集落の様子を思い起こしていた。
自分に殊更敵意を持っているという風ではなかったが、集落の人間が必死だったのは間違いない。
或いは彼らは、あの作物に生き延びる唯一の可能性を見いだし、奪われまいとしたのかもしれない。
そしてエルノという女性はどこに行ったのだろう?
追い出されたのか、集落の有様に呆れて出て行ったのか、それとも…
それに、彼女はどうして集落の禁忌を犯したのだろう?
周囲の有様を見かねて自ら行動を起こしたのか、意思に反して追い込まれたのか。
「どっちにしても、その結果が存在も否定される事だった、なんてね」
立場の弱い者というのは、いつもそうなのか。
あの調子ではシャハラやフリッツが行っても同じだろう。
かといって手をこまねいていたら問題になりかねないし、手繰れるかもしれない細い糸さえ切れてしまう。
ハンターの協力を仰ぐというシャハラの判断に異存は無かった。
リプレイ本文
●
崩れかけた小屋に潜んだラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)の目に映っていたのは、まるで死んだように静かな早朝の集落だった。常ならばこういう集落の女達は、朝餉の支度や仕事の準備などで忙しい筈なのだが。
シャハラは最初から補償として代わりの食糧や種苗、場合に依っては技術や人材も提供する用意があり、ケイカはその事も含めて話す筈だったという。誠実であることが長い目で見れば利益になる、それがシャハラの方針なのだと。
それならば話さえ聞いて貰えればすんなり運びそうに見えるが、ラィルを含めてこの依頼に加わったハンター達にはそうは思えなかった。
「どうだ、誰か動きそうか?」
小屋の外からレイア・アローネ(ka4082)の潜めた声がした。
「いいや。もしかすると、女が勝手に出歩くのを許さんのかもなぁ」
ケイカへの態度からして正面から乗り込むばかりでは、頑なに拒否するだけでなく誤魔化したり隠したりすることもあり得る。それを防ぐ為に情報が必要だと、二人は集落に先回りしてまず女達から話を聞き出すべく張り込んでいたのだが。
「とは言え、男があの様子では女が水や食糧を調達するしかないだろうからな」
辛抱強く待てば機会はあるだろう。自分は畑の近くで張ってみるという言葉を残してレイアの気配が遠ざかった。
「畑……か」
表に気を配りつつ、ラィルは昨夜撮った写真を眺めてみた。断言は出来ないが、墓地に茂る植物は以前に開拓地で異常な変種だといって見せられたものと共通点があるような気がする。
墓地の中央には碑名こそないが墓標代わりに大きな石や古い武器が置かれ、意外に綺麗にされていた。一方、隅の方には申し訳程度に小さな石や朽ちた木が植物に埋もれている。
おそらくは中央にあるのが男性の墓、隅にあるのが女性の墓なのだろう。
死んだ後までもあからさまな扱い。いつの世も因習や腐敗で真っ先に犠牲になるのは力や立場の弱い女子供だ。
心の奥に小さく痛みを感じながら、ラィルは機会を待った。
●
「わふ!ケイカさーんっ!」
ケイカの顔を見て歓声を上げたアルマ・A・エインズワース(ka4901)に抱き上げられて、ケイカは目を丸くした。
「お久しぶりです、アルマさん」
名前を呼ばれて嬉しそうにケイカを抱き上げたままくるくる回っていたアルマだったが、ケイカの袖口から痣が見えるとその動きが止まり、彼女を降ろした。同時にケイカの身体を暖かく感じる力が包み、痣が薄れていく。
「あ……ありがとうございます……?」
その力の印象とは裏腹にアルマの顔から表情が消え、不穏な笑い声が漏れる。
「……あ、こりゃ拙いな」
傍でその様子を見ていた煉谷 縁(ka6564)が思わず肩をすくめる。アルマとの繋がりでこの依頼に加わった縁は、本気で怒った時のアルマが無表情から笑う事を知っていた。
「……落ち着いてますよ?うふふ」
魔王を目指す者として、キレても八つ当たりをするような品のない真似はしない。
「アルマ様?」
アルマを見かねたように和住 珀音 (ka6874)が声を掛ける。彼女もケイカの痣を見て厳しい目をしていたのだが、それはおくびにも出さず穏やかにケイカに自己紹介する。
「わふ。それじゃ、方向性変えるですっ」
珀音の態度に幾らか気分が宥められたのか、アルマがいつもの表情に戻った。
もっとも、ケイカを殴った輩にはきっちりと反省して貰うつもりであるけれど。
●
畑に茂った豆に潜むようにしていたレイアの元に機会が訪れた。一人の女がレイアに気付かず、豆を摘み始めたのだ。やつれているせいで一見老いて見えるが、よく見れば精々レイアよりも少し年上程度のようだ。
「済まない。私はハンターだが、少し話をさせてくれないか?」
「あ、あの……」
女の目には怯えと警戒があったが、どこか眩しいものを見るような色が混じる。逃げ出さなかったのはそのせいだろうか。
「今、豆を摘もうとしていたようだが、それに毒があるかもしれないと知っていての事か?」
「え?毒?そんなものが!?」
女の顔が強張る。
「現に男達は毒で身体を壊しているのだろう?」
「……違うよ。皆が身体を壊したのはエルノが持って帰った物が古くて傷んでいたからで……」
「では、エルノという女性はこの村に居たのだな?」
レイアの言葉に女は息を呑んで震え始めた。
「私は事実を知りたいだけだ。エルノがどうなっていたとしても、それでこの村をどうこうする気は無いし、あなたに迷惑は掛けないようにするつもりだ。だから、聞かせて欲しい」
レイアの言葉に女は大きく息を弾ませていたが、やがて絞り出すように言った。
「あんた、女なのに剣を持ってるのかい?」
「ああ、そうだ。これでも集落では男にも引けを取ったことがない。だが」
世の中にはまだ見ぬ強者が多く居る。そんな存在と見えて己を磨く為にハンターになったのだ。
「あんたはいいね。あたしにもそんな力があれば……」
「だが、あなた達にも思うところはあるのだろう?」
力があろうがなかろうが、人は何かを思いそれが力になる。話を聞くことで、力になれる事があるかもしれない。
ややあって、女は口を開いた。
「エルノは、死んだよ。いや、殺されたんだ」
●
一人の女が壺を手に力無く歩いて行く。井戸に水汲みにでも行くのだろうか。
ラィルは彼女にそっと近づき、腕を取った。
「……ゆ、許して……許してください……」
明らかにラィルに怯えている。それが、何かやましい事があるからなのか、それとも男性に虐げられてきた生活で身についたものなのか、判然としないのだが。
「驚かせてごめんな。僕はハンターや。ちょっとだけお話させてもらえんかな」
優しく穏やかに、決して威圧感を与えないように。そんなラィルを、女は震えながらも不思議なものを見るような目になった。
「この村に、モグリの商人から食料を買った人がおるやろ?」
女は答えない。だが、それは拒否しているのではなく、どう答えたものか考えあぐねているように見えた。
「その人は、殺されたんやないか?」
女の喉がか細い声を上げた。ラィルは優しく女の肩を撫でて言葉を継いだ。
「誤解せんといてや?それをどうこうするつもりはないんや」
その品が元々盗品であり、危険な未完成品である事、依頼主の目的は被害が大きくならないうちに品物を回収する事で買った者を罰するつもりはない事、また、補償として食料や種苗など様々な便宜を図る用意をしている事を話し、
「エルノという人を捜しとるのも、手に入れた時の事を聞きたかったからなんや。なあ、知っとる事を話してもらえんかな?迷惑掛けるつもりはないし、きみが話したとかは他の人には黙っとくから」
「あんた、変わってるね。男なのに」
「そうなんか?普通のつもりなんやけど」
女は初めて小さく笑った。が、その先の話はとても笑えるものではなかった。
「ここじゃね、女は人間じゃないのさ。人じゃなく物なんだよ。エルノだって……」
●
井戸のところには相変わらず長老、そして見張るように棍棒や農具、中には粗末な槍を手にした男女がいる。
「あの、すみません」
ケイカが声を掛けると馬鹿にしたように
「ふん、懲りずにまた来おったか。痛い目に遭ったのに頭がないのか、馬鹿娘が……」
言葉尻が萎んでいく。今度は一人ではなかったのだ。それも、たおやかな娘といった風情の珀音はともかく、アルマと縁、長身の男が二人。しかもアルマは笑顔だが明らかに不穏な空気を振りまいている。
改めて話をと言いかけるケイカをアルマが制した。
「ケイカさん、僕、ちょっと言いたい事があるです。代わってもらえるです?」
「いいですけでど……あの」
「わかってます。話すだけですー」
アルマは帽子を取って一礼した。
「初めまして。ソサエティより参りました、ハンターのアルマと申します」
非の打ち所のない挨拶だが、笑顔が危ない。
「此方に最近入った食糧は、盗品である可能性が高いです。代品の手配はできておりますので、回収に同意して頂けませんか」
いきなり本題だ。しかも、同意は確定と言わんばかりの口調。
「何のことだ!?聞いてないぞ!」
「たった今お伝えしました。ここにいる全員が証人です」
「証拠でもあるのか!」
それでも引く事は沽券に関わるのか、言い返す長老に
「勿論あるで」
集落の方からラィルとレイアが現れた。
「証拠はこの村の畑と墓地に茂っとる豆そのものや。これは開拓地で試験的に作られとったもんで、まだ出回ってない筈や。しばらく前に盗まれた分以外はな」
確証と言うほどではないが、ほぼ間違いあるまい。
「それと、あなた達はエルノが傷んだ物をつかまされたか、幼い娘を餓死させられた腹いせに毒を盛ったと思っていたようだが、それは違う。元々、その豆には毒のある物が混じっていたんだ」
言外に、エルノは誤解で殺されたのだと滲ませつつレイアが指摘する。長老は黙り込んだが、今度は背後にいた女が吠えた。
「毒でも使いようはある。こいつを交易品にする道もあるじゃないか!」
「元々盗品であるものを、それと解って栽培する村と取引をしようと思う商人がいますかね?」
冷ややかに投げつけるアルマに、やれやれとばかりに縁が続けた。
「オレぁ学もねぇし礼儀もこの通りなっちゃいねェが、あんたらが困ってンのだけはわかる。ンでもよ、目先のことだけ考えてちゃ、どうにもならねェのは知ってンだろうよ」
その場にいた男女を見回し
「それとも、目先だけで、未来なく死ンじまいてェのかい、おたくら」
「今のこの土地に、どんな未来があるって言うんだよ!代品と言ったって、どうせその場限りだろう!?」
「いいえ。当座の食料だけでなく、種苗や必要な資材も提供する用意があります。その為の調査なんです」
ケイカが言い添えるが、
「信用できるか!」
罵声に対してアルマがうふふと笑い始めそうになっている。
「あのなァ。信用ってどの口が言うンだ?最初にケイカの嬢ちゃんが来た時、話も聞かずにぶん殴ったんだろ、おたくら」
内心で、今回は手を出さなかっただけましだけどなと付け加える。ケイカに手出しをしていたら、アルマがどう出た事やら。
気勢をそがれたところで、控えめな様子で珀音が進み出る。
「同じくハンターの和住珀音と申します。見たところ、そちらは床に伏せっている方も多くいらっしゃるご様子。調査と回収をこちらにお任せいただけないでしょうか?」
「全部回収しちまわねェと、こっちも仕事なんでねェ」
行くぞ、と珀音を促して集落に入っていく縁。
「ま、待て!」
慌てた様子の長老に、アルマが止めとばかりに言い放った。
「そういえば、どうして畑だけではなく墓地に?」
あの豆は、エルノと姿の見えない子供達の死体を養分にして育っているのではないか。
図星だったらしく、長老はがっくりと肩を落とした。
●
豆の回収は実だけではなく、文字通り根こそぎという事になる。おかげであまり見たくないものを見る羽目になった。何しろ根が半ば白骨化した遺体に絡んでいるのだから。引っ張れば切れもせずに離れたのは僅かな幸いだった。
そして墓地で豆の苗床になっていたのは子供の遺体ばかりで、エルノのそれは見つからなかった。
「珀音の嬢ちゃん、他に生命探知の反応はねぇのか?」
「はい、残念ですが」
ラィルやアルマが最初からエルノが殺されたと考えていた中で、縁は生きている可能性を考えていた。
万が一、或いは、もしかしたら。
それは願望に過ぎないのかもしれないが、拾える命があるならば。
しかし。
「見つかったで」
ラィルの声がそれを断ち切った。
「墓に葬ってさえ貰えんかったんやな」
まるでただの肥料か何かのように畑に埋められていたエルノの遺体を前に、ラィルがぽつりと言った。
「エルノは元々この村の人間じゃないそうや」
移動中に意に反してここに連れてこられ、無理無体に子供を産まされた。
「その子供が女の子だったので、酷い扱いを受けていたらしい」
同情する者も僅かながらいたが、どうにもならない。むしろ、我が身かわいさに同調していたようだ。
そして、男尊女卑は子供にも及ぶ。
死んだ子供のうち、毒に当たって死んだのは男の子ばかり。女の子はほとんど餓死だったらしい。
エルノが何を思って行動し、死んでいったのか、今となっては知る術もなかった。
●
「代品は間違いないだろうな」
回収が終わって居直ったのか、長老が居丈高にケイカに聞いてきた。
「はい、回収分を届けるのと入れ違いに出発する手筈ですから」
「その前にー」
と、アルマが前に出てきた。長老と、集まってきた人々を見回す。
「ところで僕の大事な子を殴ったのは誰です?実は僕すっごく怒ってますー」
個人的な話だが、仕事は一段落付いたのだ。ラィルもレイアもこの程度なら止める気は無さそうだし、縁に至ってはここで止めても却ってまずいくらいに思っているらしく肩を竦めただけだった。
集まった男女はしばらくざわついていたが、突き出されるよりも出頭した方がましだと思ったのか、数人の男女が進み出た。
「悪い事したら、どうするですー?」
謝れと言っているのはわかるが、彼らにも見栄やプライドがある。ハンターならともかく、一般人の小娘に……と、言うところか。
「女である私が、口を出すのは烏滸がましいですが……」
見かねたように珀音が口を挟む。
「悪事を働いた訳でもなく、それどころか村を救おうと動いてくださった方に手を上げるなど、人として激しく間違っております!この方に……、ケイカ様に……手を上げたことに対して謝罪をなさい!」
この村の感覚を考えて控えめに振る舞っていた珀音だったが、内心腹に据えかねる物があったらしい。
そんな様子を見ていたケイカが、意を決したように進み出た。
「私の態度も少し軽率だったようです。誤解を与えてしまった事をお詫びします」
頭を下げるケイカに毒気を抜かれたのか、いや、自分達も悪かったし……とかボソボソ言い出す人々に、
「はっきり言うですー」
アルマが迫力のある笑顔を向けた。
●
「本当に軽率だったな、私」
帰路、ハンター達の背を見ながらケイカは呟き、内心で付け加えた。
自分の手で『復讐』を成し遂げたいとばかりで、無力さに焦って。
自分に何かあったら怒ったり心配してくれる人がいてくれる事を考えていなかった、と。
崩れかけた小屋に潜んだラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)の目に映っていたのは、まるで死んだように静かな早朝の集落だった。常ならばこういう集落の女達は、朝餉の支度や仕事の準備などで忙しい筈なのだが。
シャハラは最初から補償として代わりの食糧や種苗、場合に依っては技術や人材も提供する用意があり、ケイカはその事も含めて話す筈だったという。誠実であることが長い目で見れば利益になる、それがシャハラの方針なのだと。
それならば話さえ聞いて貰えればすんなり運びそうに見えるが、ラィルを含めてこの依頼に加わったハンター達にはそうは思えなかった。
「どうだ、誰か動きそうか?」
小屋の外からレイア・アローネ(ka4082)の潜めた声がした。
「いいや。もしかすると、女が勝手に出歩くのを許さんのかもなぁ」
ケイカへの態度からして正面から乗り込むばかりでは、頑なに拒否するだけでなく誤魔化したり隠したりすることもあり得る。それを防ぐ為に情報が必要だと、二人は集落に先回りしてまず女達から話を聞き出すべく張り込んでいたのだが。
「とは言え、男があの様子では女が水や食糧を調達するしかないだろうからな」
辛抱強く待てば機会はあるだろう。自分は畑の近くで張ってみるという言葉を残してレイアの気配が遠ざかった。
「畑……か」
表に気を配りつつ、ラィルは昨夜撮った写真を眺めてみた。断言は出来ないが、墓地に茂る植物は以前に開拓地で異常な変種だといって見せられたものと共通点があるような気がする。
墓地の中央には碑名こそないが墓標代わりに大きな石や古い武器が置かれ、意外に綺麗にされていた。一方、隅の方には申し訳程度に小さな石や朽ちた木が植物に埋もれている。
おそらくは中央にあるのが男性の墓、隅にあるのが女性の墓なのだろう。
死んだ後までもあからさまな扱い。いつの世も因習や腐敗で真っ先に犠牲になるのは力や立場の弱い女子供だ。
心の奥に小さく痛みを感じながら、ラィルは機会を待った。
●
「わふ!ケイカさーんっ!」
ケイカの顔を見て歓声を上げたアルマ・A・エインズワース(ka4901)に抱き上げられて、ケイカは目を丸くした。
「お久しぶりです、アルマさん」
名前を呼ばれて嬉しそうにケイカを抱き上げたままくるくる回っていたアルマだったが、ケイカの袖口から痣が見えるとその動きが止まり、彼女を降ろした。同時にケイカの身体を暖かく感じる力が包み、痣が薄れていく。
「あ……ありがとうございます……?」
その力の印象とは裏腹にアルマの顔から表情が消え、不穏な笑い声が漏れる。
「……あ、こりゃ拙いな」
傍でその様子を見ていた煉谷 縁(ka6564)が思わず肩をすくめる。アルマとの繋がりでこの依頼に加わった縁は、本気で怒った時のアルマが無表情から笑う事を知っていた。
「……落ち着いてますよ?うふふ」
魔王を目指す者として、キレても八つ当たりをするような品のない真似はしない。
「アルマ様?」
アルマを見かねたように和住 珀音 (ka6874)が声を掛ける。彼女もケイカの痣を見て厳しい目をしていたのだが、それはおくびにも出さず穏やかにケイカに自己紹介する。
「わふ。それじゃ、方向性変えるですっ」
珀音の態度に幾らか気分が宥められたのか、アルマがいつもの表情に戻った。
もっとも、ケイカを殴った輩にはきっちりと反省して貰うつもりであるけれど。
●
畑に茂った豆に潜むようにしていたレイアの元に機会が訪れた。一人の女がレイアに気付かず、豆を摘み始めたのだ。やつれているせいで一見老いて見えるが、よく見れば精々レイアよりも少し年上程度のようだ。
「済まない。私はハンターだが、少し話をさせてくれないか?」
「あ、あの……」
女の目には怯えと警戒があったが、どこか眩しいものを見るような色が混じる。逃げ出さなかったのはそのせいだろうか。
「今、豆を摘もうとしていたようだが、それに毒があるかもしれないと知っていての事か?」
「え?毒?そんなものが!?」
女の顔が強張る。
「現に男達は毒で身体を壊しているのだろう?」
「……違うよ。皆が身体を壊したのはエルノが持って帰った物が古くて傷んでいたからで……」
「では、エルノという女性はこの村に居たのだな?」
レイアの言葉に女は息を呑んで震え始めた。
「私は事実を知りたいだけだ。エルノがどうなっていたとしても、それでこの村をどうこうする気は無いし、あなたに迷惑は掛けないようにするつもりだ。だから、聞かせて欲しい」
レイアの言葉に女は大きく息を弾ませていたが、やがて絞り出すように言った。
「あんた、女なのに剣を持ってるのかい?」
「ああ、そうだ。これでも集落では男にも引けを取ったことがない。だが」
世の中にはまだ見ぬ強者が多く居る。そんな存在と見えて己を磨く為にハンターになったのだ。
「あんたはいいね。あたしにもそんな力があれば……」
「だが、あなた達にも思うところはあるのだろう?」
力があろうがなかろうが、人は何かを思いそれが力になる。話を聞くことで、力になれる事があるかもしれない。
ややあって、女は口を開いた。
「エルノは、死んだよ。いや、殺されたんだ」
●
一人の女が壺を手に力無く歩いて行く。井戸に水汲みにでも行くのだろうか。
ラィルは彼女にそっと近づき、腕を取った。
「……ゆ、許して……許してください……」
明らかにラィルに怯えている。それが、何かやましい事があるからなのか、それとも男性に虐げられてきた生活で身についたものなのか、判然としないのだが。
「驚かせてごめんな。僕はハンターや。ちょっとだけお話させてもらえんかな」
優しく穏やかに、決して威圧感を与えないように。そんなラィルを、女は震えながらも不思議なものを見るような目になった。
「この村に、モグリの商人から食料を買った人がおるやろ?」
女は答えない。だが、それは拒否しているのではなく、どう答えたものか考えあぐねているように見えた。
「その人は、殺されたんやないか?」
女の喉がか細い声を上げた。ラィルは優しく女の肩を撫でて言葉を継いだ。
「誤解せんといてや?それをどうこうするつもりはないんや」
その品が元々盗品であり、危険な未完成品である事、依頼主の目的は被害が大きくならないうちに品物を回収する事で買った者を罰するつもりはない事、また、補償として食料や種苗など様々な便宜を図る用意をしている事を話し、
「エルノという人を捜しとるのも、手に入れた時の事を聞きたかったからなんや。なあ、知っとる事を話してもらえんかな?迷惑掛けるつもりはないし、きみが話したとかは他の人には黙っとくから」
「あんた、変わってるね。男なのに」
「そうなんか?普通のつもりなんやけど」
女は初めて小さく笑った。が、その先の話はとても笑えるものではなかった。
「ここじゃね、女は人間じゃないのさ。人じゃなく物なんだよ。エルノだって……」
●
井戸のところには相変わらず長老、そして見張るように棍棒や農具、中には粗末な槍を手にした男女がいる。
「あの、すみません」
ケイカが声を掛けると馬鹿にしたように
「ふん、懲りずにまた来おったか。痛い目に遭ったのに頭がないのか、馬鹿娘が……」
言葉尻が萎んでいく。今度は一人ではなかったのだ。それも、たおやかな娘といった風情の珀音はともかく、アルマと縁、長身の男が二人。しかもアルマは笑顔だが明らかに不穏な空気を振りまいている。
改めて話をと言いかけるケイカをアルマが制した。
「ケイカさん、僕、ちょっと言いたい事があるです。代わってもらえるです?」
「いいですけでど……あの」
「わかってます。話すだけですー」
アルマは帽子を取って一礼した。
「初めまして。ソサエティより参りました、ハンターのアルマと申します」
非の打ち所のない挨拶だが、笑顔が危ない。
「此方に最近入った食糧は、盗品である可能性が高いです。代品の手配はできておりますので、回収に同意して頂けませんか」
いきなり本題だ。しかも、同意は確定と言わんばかりの口調。
「何のことだ!?聞いてないぞ!」
「たった今お伝えしました。ここにいる全員が証人です」
「証拠でもあるのか!」
それでも引く事は沽券に関わるのか、言い返す長老に
「勿論あるで」
集落の方からラィルとレイアが現れた。
「証拠はこの村の畑と墓地に茂っとる豆そのものや。これは開拓地で試験的に作られとったもんで、まだ出回ってない筈や。しばらく前に盗まれた分以外はな」
確証と言うほどではないが、ほぼ間違いあるまい。
「それと、あなた達はエルノが傷んだ物をつかまされたか、幼い娘を餓死させられた腹いせに毒を盛ったと思っていたようだが、それは違う。元々、その豆には毒のある物が混じっていたんだ」
言外に、エルノは誤解で殺されたのだと滲ませつつレイアが指摘する。長老は黙り込んだが、今度は背後にいた女が吠えた。
「毒でも使いようはある。こいつを交易品にする道もあるじゃないか!」
「元々盗品であるものを、それと解って栽培する村と取引をしようと思う商人がいますかね?」
冷ややかに投げつけるアルマに、やれやれとばかりに縁が続けた。
「オレぁ学もねぇし礼儀もこの通りなっちゃいねェが、あんたらが困ってンのだけはわかる。ンでもよ、目先のことだけ考えてちゃ、どうにもならねェのは知ってンだろうよ」
その場にいた男女を見回し
「それとも、目先だけで、未来なく死ンじまいてェのかい、おたくら」
「今のこの土地に、どんな未来があるって言うんだよ!代品と言ったって、どうせその場限りだろう!?」
「いいえ。当座の食料だけでなく、種苗や必要な資材も提供する用意があります。その為の調査なんです」
ケイカが言い添えるが、
「信用できるか!」
罵声に対してアルマがうふふと笑い始めそうになっている。
「あのなァ。信用ってどの口が言うンだ?最初にケイカの嬢ちゃんが来た時、話も聞かずにぶん殴ったんだろ、おたくら」
内心で、今回は手を出さなかっただけましだけどなと付け加える。ケイカに手出しをしていたら、アルマがどう出た事やら。
気勢をそがれたところで、控えめな様子で珀音が進み出る。
「同じくハンターの和住珀音と申します。見たところ、そちらは床に伏せっている方も多くいらっしゃるご様子。調査と回収をこちらにお任せいただけないでしょうか?」
「全部回収しちまわねェと、こっちも仕事なんでねェ」
行くぞ、と珀音を促して集落に入っていく縁。
「ま、待て!」
慌てた様子の長老に、アルマが止めとばかりに言い放った。
「そういえば、どうして畑だけではなく墓地に?」
あの豆は、エルノと姿の見えない子供達の死体を養分にして育っているのではないか。
図星だったらしく、長老はがっくりと肩を落とした。
●
豆の回収は実だけではなく、文字通り根こそぎという事になる。おかげであまり見たくないものを見る羽目になった。何しろ根が半ば白骨化した遺体に絡んでいるのだから。引っ張れば切れもせずに離れたのは僅かな幸いだった。
そして墓地で豆の苗床になっていたのは子供の遺体ばかりで、エルノのそれは見つからなかった。
「珀音の嬢ちゃん、他に生命探知の反応はねぇのか?」
「はい、残念ですが」
ラィルやアルマが最初からエルノが殺されたと考えていた中で、縁は生きている可能性を考えていた。
万が一、或いは、もしかしたら。
それは願望に過ぎないのかもしれないが、拾える命があるならば。
しかし。
「見つかったで」
ラィルの声がそれを断ち切った。
「墓に葬ってさえ貰えんかったんやな」
まるでただの肥料か何かのように畑に埋められていたエルノの遺体を前に、ラィルがぽつりと言った。
「エルノは元々この村の人間じゃないそうや」
移動中に意に反してここに連れてこられ、無理無体に子供を産まされた。
「その子供が女の子だったので、酷い扱いを受けていたらしい」
同情する者も僅かながらいたが、どうにもならない。むしろ、我が身かわいさに同調していたようだ。
そして、男尊女卑は子供にも及ぶ。
死んだ子供のうち、毒に当たって死んだのは男の子ばかり。女の子はほとんど餓死だったらしい。
エルノが何を思って行動し、死んでいったのか、今となっては知る術もなかった。
●
「代品は間違いないだろうな」
回収が終わって居直ったのか、長老が居丈高にケイカに聞いてきた。
「はい、回収分を届けるのと入れ違いに出発する手筈ですから」
「その前にー」
と、アルマが前に出てきた。長老と、集まってきた人々を見回す。
「ところで僕の大事な子を殴ったのは誰です?実は僕すっごく怒ってますー」
個人的な話だが、仕事は一段落付いたのだ。ラィルもレイアもこの程度なら止める気は無さそうだし、縁に至ってはここで止めても却ってまずいくらいに思っているらしく肩を竦めただけだった。
集まった男女はしばらくざわついていたが、突き出されるよりも出頭した方がましだと思ったのか、数人の男女が進み出た。
「悪い事したら、どうするですー?」
謝れと言っているのはわかるが、彼らにも見栄やプライドがある。ハンターならともかく、一般人の小娘に……と、言うところか。
「女である私が、口を出すのは烏滸がましいですが……」
見かねたように珀音が口を挟む。
「悪事を働いた訳でもなく、それどころか村を救おうと動いてくださった方に手を上げるなど、人として激しく間違っております!この方に……、ケイカ様に……手を上げたことに対して謝罪をなさい!」
この村の感覚を考えて控えめに振る舞っていた珀音だったが、内心腹に据えかねる物があったらしい。
そんな様子を見ていたケイカが、意を決したように進み出た。
「私の態度も少し軽率だったようです。誤解を与えてしまった事をお詫びします」
頭を下げるケイカに毒気を抜かれたのか、いや、自分達も悪かったし……とかボソボソ言い出す人々に、
「はっきり言うですー」
アルマが迫力のある笑顔を向けた。
●
「本当に軽率だったな、私」
帰路、ハンター達の背を見ながらケイカは呟き、内心で付け加えた。
自分の手で『復讐』を成し遂げたいとばかりで、無力さに焦って。
自分に何かあったら怒ったり心配してくれる人がいてくれる事を考えていなかった、と。
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相談卓 アルマ・A・エインズワース(ka4901) エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/07/14 13:10:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/14 13:08:43 |