• 空蒼

【空蒼】恨絶の狂機 2機目

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/07/17 22:00
完成日
2018/07/24 05:03

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●???
 真っ暗闇のコクピットの中、若い女性兵士が蹲っていた。
「わ、私は悪くない。だって、あんなに愛し合っていたのに」
 それなのに、遠ざけられた。
 私は本気だった。だから、あの人も本気だったはず。
「あの人は私の、私のもの、私だけのもの!」
 飲食していないはずなのに、自然と体には力が入る。
 いや、体の奥底から力がみなぎってくる。
 頭の中に呼び掛けてくる“音”が、本当の自分に目覚めさせてくれる。
「そう、あの人を手にする為、あの人を苦しめるこの世界を壊してしまえば!」
 ドクンと心臓の音が響いた。
 何かが近づいてくる。此処はあの人と愛し合う大切な場所。それを汚される訳にはいかない。
「いかないと。私が守っておかないと!」
 女性は目を見開くと、スロットを全開に回した――。

●廃棄コロニー
 元々は農業&観光用の小規模コロニーだったが、地球圏に対する狂気VOIDの攻勢の折り、そのコロニーは廃棄が決定した。
 優先して守るべきは人命であったからだ。それから暫くはオートで作動していたが、それもメンテナンスがなければ次々に不都合が生じる。
 このコロニーが戦場にならなかった事もあるが、コロニー内の気圧と酸素濃度は保たれたままだ。
 もっとも、環境調整が狂ってしまい、晴天なのに霧雨が自由気ままに降る、夏の朝という状態になっている。
(……ダメね……)
 自機に特別に備え付けられたマテリアルラインの試作品のパネルを叩きながら、星加 籃奈(kz0247)は心の中で呟く。
 コンフェッサーに搭載されている機能の一つであるマテリアルラインは別機体と通信を繋ぐ事が出来る。
 特定条件下においては、お互いのCAMカメラの映像ですらも共有できるのだ。
 そして、マテリアルラインの開発研究者である籃奈には、もう一つの可能性を見出していた。
(理論上は、リモートコントロールが可能だけど……出力が足らないのかしら……あるいは……)
 行方不明になったシーバ軍曹の機体に繋ごうと思ったが無理だったようだ。
 どうしたものかと思考していた時、リー軍曹の声が通信機から入って来る。
「自然って凄いっすね、籃奈隊長殿」
 コロニー内の状況をCAMのモニターごしに見た感想だった。
 彼の言う通り、コロニーの自然環境を管理するプログラムが壊れている為か、コロニー内は様々な野菜が自由気ままに伸び放題となっている。
 所々にある水路や通路の段差も草木に埋もれているので注意が必要だろう。
「観光しに来た訳じゃないから、警戒を怠るな」
「共感してくれたっていいのに」
「リー軍曹は無駄な話が多いのだ。敵地だという事を忘れるな」
 コロニー内には狂気VOIDが潜んでいるという。
 まずはこれを見つけ出して、討伐しなければならないだろう。
「籃奈隊長。このコロニーは元々は農業を兼ねた観光用コロニーとの事ですか」
「その通りよ、コンドウ曹長。見て、天敵がいないから蜜蜂の姿も多い」
 無農薬に近い状態での栽培が売りだったようで、受粉には蜜蜂を使っていたようだ。
 ある意味、人の手が全く入らないこの状況は、蜜蜂達にとって楽園ともいえるかもしれない。
「……籃奈隊長殿。子供の頃、ハチって怖くなかったですか?」
「ったく、無駄話が多い」
「いや、聞いて下さいよ。なんか、大きいハチは怖くてですね」
「蜜蜂が呆れる程巨大でも、所詮は蜜蜂だからな」
「……あれ、ハチだと思いますか? 11時の方向です」
 カメラを向けた籃奈は映ったものが、最初は冗談かと思った。
 しかし、よく見れば見る程、違和感を感じる。
「なんだ、あれは……コンドウ曹長。そちらからも確認できるか?」
「外見は蜜蜂に良く似ていますが……巨大化しているように見えますね」
 確証はないが、狂気VOIDと融合してしまったのだろう。
 大きさはCAMより一回り小さい程だが、自由にコロニー内を飛び回り、その運動性能は高そうだ。
「籃奈隊長。いかがいたしましょうか」
「そうね。あれらを殲滅しないとコロニー内に拠点は作れないわね」
「へ……それじゃ、今度はハチ退治って事かよ……」
「覚悟を決めなさい、リー軍曹」
 籃奈の台詞に彼の情けない声が通信機から響くのであった。

●宇宙へ
 鳴月 牡丹(kz0180)がいつものように、籃奈の一人息子である孝純の家にやって来た。
 保護者感覚の牡丹ではあるが、正直、どっちが保護者か分からなくもない……だって、鳴月さんが来ると掃除が増えるから(孝純君証言)。
「やっほー。孝純君。元気してた……って、どうしたんだい?」
 部屋に入った牡丹は、積み上がった段ボールや大きな衣装ケースに驚く。
 孝純がひょこっと顔を挙げた。
「鳴月さん、こんにちわです」
「まるで、引っ越しみたいだね」
「そうなのです。先日、軍の偉い人が来まして。母に近い方が良いだろうからって月面への移住を進められたのです」
 タイミング的に怪しいと思った牡丹だが、彼女の思考ではそれ以上、深読みは出来なかった。
「そっか。それじゃ、僕が手伝ってあげるよ!」
「え……」
 驚愕の表情を浮かべる孝純。
 その顔を見て、牡丹も「え?」と繰り返すのであった。


==================
●目的
蜂型狂気VOIDの殲滅

●内容
蜂型狂気VOIDの巣を見つけ出して破壊しつつ、蜂型狂気VOIDを殲滅する。

●廃棄コロニー
CAMでの行動や戦闘行為に支障がない程の広さを持つコロニー。
空気や重力は地上と変わらないものとする。
★設定が複雑になる事で逆にハンター達に不利になる可能性が高いので、判定上の理由により、地上と変わらないとする。
★ただし、コロニーと母艦までの間は宇宙空間であった為、当依頼に参加する場合、前回と同様CAMオンリーとする。
【界盟】作戦で使われた特別なイニシャライザーは、今回、準備の関係上、ハンター達には限定的となります。
その為、『生身や生体ユニット等での出撃は不可。認められるのはCAMでの出撃のみ』とさせて頂きます。
(シナリオの主旨・課題として、今回はCAMに焦点を当てている為の特別ルールとなります)
(CAMが無い場合、未強化のコンフェッサーを貸し出されます)

環境プログラムが故障しているので、コロニー内は野菜や果実樹が育ち放題になっており、ちょっとしたジャングルとなっている。
段差などは見たままだと確認できないので、転倒などに注意が必要。

リプレイ本文


 CAMが次々に生い茂る大地へ降り立つ。
 ちょうど南瓜か何か、巨大に育った作物を踏んだようだった。
(廃棄コロニーだが、これなら地上とさほど変わらないか……)
 瀬崎・統夜(ka5046)がコックピット内のモニターを確認しながら心の中で呟いた。
 黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)が映し出している外の風景は一見、ジャングルのようだ。
 酸素濃度、重力――地上と全く同じという訳ではないが、少なくとも活動する上で支障はないだろう。
(もっとも、CAMから降りる事を考えなければ宇宙と同じ事か)
 機体操作という点で言えば、少しは楽なのかもしれない。
 ダインスレイブ(ka6605unit004)に乗るクラン・クィールス(ka6605)はモニター表示された敵情報を見つめる。
「さて……今度の歪虚は蜂か。そうとだけ言うには、些かサイズが並外れではあるが」
 車ぐらい大きな蜂という事だけで、並外れもいい所だ。
「どこまで蜂なのかは分からないけど……正確には蜂型狂気VOIDと呼ぶべきかもしれないわ」
 通信機から聞こえてくるのは星加 籃奈(kz0247)の言葉。
 蜂と融合したのか、蜂を真似たのか、その正体はVOIDしか分からない。
「……しかし、消えたシーバ軍曹の事が気がかりだな。このコロニーに入った様だが」
「何かあるかと思いましたがここまで来ると別の可能性が高くなってきましたね」
 クランの言葉に頷きながら、鹿東 悠(ka0725)が言う。
 前回、コロニー外での戦いの最中、強化人間であるシーバ軍曹が命令を無視して行方不明になったのだ。
 母船の望遠レンズが、彼女の機体がコロニーに入っていく所を目撃している。
「それに、前回の歪虚の動きも妙だった。シーバ軍曹を襲いもせず、むしろ守る様な……悪い想定は、しておくべき……か」
 コントロールパネルを叩き、クランは機体を前進させた。
 それをモニターごしに確認しながら、鹿東もAzrael(R7エクスシア)(ka0725unit001)を進ませる。
「その可能性が現実のものになったなら……相応に厄介でしょうけど……」
 強化人間が暴走し、人類に矛を向ける――それは、地球規模で発生しているのだ。
 ただでさえ、強化人間だけでもなく、VOIDもセットになると、厄介な事この上ないのは確実だ。
「イニシャライズフィールドは正常に作動していた以上、“声”が狂気に感染した結果か否か……」
 シーバ軍曹が乗っていたコンフェッサーにはイニシャライズフィールドが搭載されていた。
 狂気VOIDの影響を最小限に留めるその機能は、出撃前の整備ログ上は正常だったという。
 とりあえず、シーバ軍曹の件は気に留めつつも、今は目の前の敵に集中すべきだろう。
 CAMの飛忍『セイバーI』(コンフェッサー)(ka5784unit004)を駆るルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は機体を派手に跳躍させた。
 土煙を立てて大地に立つとその反動はコックピット内にも伝わり――ルンルンの豊満な胸が揺れた。
「暖かくなると湧いてくる、害虫駆除も正義のニンジャにお任せなんだからっ!」
 言うまでも無いが、農場における蜜蜂は一般的には益虫だ。
 狂気VOIDという事で言うと、害虫という表現は正しいかもしれない。
「これ、食料用としての再利用は‥‥流石に無理そうだね」
 そんな言葉を漏らしたのは、Sthen=No(R7エクスシア)(ka5902unit002)に乗る十色 乃梛(ka5902)だった。
 蜂も巨大化して育ってしまった野菜も、流石に食料用への再利用は難しいかもしれない。
 見た目や味にこだわらなければ、野菜類は大丈夫……かもしれないけど。
 ルンルンと乃梛の台詞に強化人間のリー軍曹が会話に割り込んで来た。
「ひゅー! いつもながら、二人とも可愛い声してるねー!」
「え……?」
「十色ちゃんだったっけ? 早く終わらせて、デートにでも行こうよ」
 どうも、乃梛を誰かと勘違いしているような様子だ。
 困惑していると、ルンルンからトランシーバーを通じて、直接、乃梛に連絡が入る。
「きっと、エニアさんの事だと思うのです!」
「あ……なるほど」
 ルンルンからの助言で乃梛は察した。
 リー軍曹の勘違いが確実だったからだ。この事実をなんて伝えるべきかと思案するのも束の間、籃奈から作戦開始が告げられたのであった。


「えー? それじゃ、この前、一緒だったのは、双子の“姉”だったって事かよー」
 通信機から聞こえてくるのはリー軍曹の驚きの言葉。
 正確に説明すると“姉”では無いのだが、面白いのでこのままにしておこうかと思う乃梛だった。
「まぁ、それなら、双子一緒にどうだい?」
 敵の巣を探さなければいけないのに、この無駄口の多さだ。
 鹿東が咳払いしてから言った。
「リー軍曹、老婆心からアドバイスですが……見目麗しい方に惹かれるの理解できる。ですが、『相手のことを知る』事から始めた方がいいですよ」
「ひー。鹿東さんもうちの隊長殿と一緒で厳しい!」
 全く反省と言うか改善の余地が見えないリー軍曹の言葉。
(まともに理解して貰えるとは思えませんでしたが……ここまでとは)
 無駄に私語が多いので、軍隊の中では、さぞ、上官に目をつけられていただろう。
 気を取り直して、鹿東は機体を操作させ、幾つもの大きな段差を越える。
 バランスを崩しかけても冷静にスラスターを吹かし、体勢を調整した。
 乃梛の機体もCAM用の長大な鎌でバッサバッサと先程から、無駄に伸びきっている草や蔦を切り落としていた。彼女の魔導レーダーには今のところ、敵の巣は見つかっていないが……。
 二人が乗っているエクスシアは共に新型の機体だ。リー軍曹が乗っているのはエクスシアよりも更に新型。
「さすがに新型は違うな……」
 瀬崎は他機体との違いに、舌を巻く思いだった。彼の乗る機体は魔導型デュミナスだからだ。
 といっても、そこまで大きく性能が違うかといえば、そうでもない。ただ、その僅かな差が戦場では明暗を分ける時がある事を彼は知っている。
「まあ、仕方のないところか。それ以外でカバーしよう」
 スキルトレースを発動。猟撃士としての能力を機体で活かす。
 青々とした緑の中に、不規則な動きをする目標を見つけた。恐らく、蜂型狂気VOIDだろう。
「相手は蜂という事だったが、木の上の方にもいるか……?」
 十分に警戒は怠らない。草木の間から出現してくる可能性も高いからだ。
 蜂型狂気VOIDだけではなく、行方不明になったというシーバ軍曹という事も。
「よし、俺に任せて下さい!」
「リー軍曹、待ってください。そのまま泳がして追跡させましょう」
 鹿東が提案する。
 まだ敵はハンター達のCAMに気が付いていないようからだ。
 巣に戻るかもしれない。なら、積極的に探すよりかは確実に巣に辿り着けるはずだからだ。

 敵巣の探索は幾班に分かれて行われていた。
 ルンルンの機体が、鉄塔に対して垂直に立っていた。忍術――スキルトレースによる壁歩き――によるものだ。
「植物が生い茂って視界が悪いなら、それより上にでちゃえばいいんだからっ……ルンルン忍法壁歩き」
 高い所から見ても、やはり、生い茂っている所の視界は悪い。
 彼女から見て死角になる所を確認し、クランが分け入った。
 直後、モニターを横切る影。咄嗟にCAM用の拳銃を放った。何発か撃った内の1発が命中するが、藪の中に消えていく。
「VOIDだ。そっちに抜けた」
「了解したわ。コンドウ曹長、タイミングを合わすわよ」
 クランからの通信を受け取り、籃奈とコンドウ曹長の機体がマシンガンを撃つ。
 雨あられのような弾丸が逃げ込んだ藪一帯に叩き込まれる。
 堪らず、蜂型狂気VOIDが飛び出す。慌てずに銃弾を撃ち続けるが、一気に懐に飛び込んで来た。
「機忍法ムササビの術!」
 聞こえてきたのは、ルンルンの叫び声。
 鉄塔に上っていたルンルンが飛び降りつつ、フライトシステムを起動させた。
「助かります!」
 コンドウ曹長が後退しつつ、銃弾をばら撒く。
 二人の強化人間の機体と蜂型狂気VOIDの間に、ルンルンは割って入ると機鎌を盛大に振り回した。
「普通の蜂だったら餌を用意して、運んでるとこ後つけて巣を見つけるんだけど……VOIDの餌って……私達?」
「餌になるかどうか、試す事は出来ないな」
 ルンルンの疑問に律義に答えながら、クランは機体姿勢を調整し、滑腔砲を敵に向ける。
 敵巣を見つける必要もあるが、VOIDの殲滅も任務の一つだからだ。


 ハンター達は強化人間らと共に幾体かの蜂型狂気VOIDを討伐しつつ、敵巣の探索を続けた。
 鹿東らのチームが敵巣に戻る個体を追跡、無事に発見へと至る。後は、目標を破壊、同時に蜂型狂気VOIDを殲滅するだけだ。
「タイミングを合わせて一斉攻撃か」
 クランは機体に装備されている対VOIDミサイルを確認する。
 兵装に異常は見られない。問題があるとすれば……。
「射程の関係で俺だけ離れる事になるな」
「それなら、コンドウ曹長にはクラン機の直掩を命じるわ」
 敵巣が近いのだ。離れていても別の所から敵が出現する可能性が高い。
 クランが遅れを取るとは考えていないが、護衛があった方が遠距離攻撃しやすいだろうと籃奈は判断したようだ。
「……コンドウ曹長?」
「……失礼しました。了解であります!」
 間があったが、コンドウ曹長は返事をすると、クラン機の横に並んぶ。
 籃奈は違和感を抱きながらも、通信機に向かって言った。
「近接と中距離と戦力を二手に分けるわ。ハンター達もそれでお願いできる?」
「それなら、俺と乃梛で援護する」
「私もそれでいいよ」
 瀬崎と乃梛の声に通信機を通じてリー軍曹が元気な声を上げる。
「それじゃ、俺が二人の護衛に入ります!」
「万が一の時は、大破覚悟で庇うなら許可するわ」
「イエッサー!」
 喜びを表現しているのか無駄に跳ねる機体をモニター越しで見つめる乃梛。
「……大丈夫かしら」
「まぁ、何とかなるだろう」
 そんな事で配置が決まる。
 敵巣は巨大な蔦類に囲まれており、全貌は分からないが、ドーム状のようになっているのが、微かに見えた。
「斉射タイミングと合わせて、前衛は突撃しましょうか」
「ニンジャ突撃です!」
 一体どんな突撃なのか気になるが、ルンルンは鹿東の台詞に続いて言う。
 敵巣を叩くのだ。油断は出来ない。

 対VOIDミサイルが飛び、砲撃音が響く。
 ズズンと振動しているのがCAMに乗っていても分かった。
「蜂の巣を突けば、まぁ、当然か」
 機体兵装のパネルを高速で叩きつつ、モニターに映った蜂型狂気VOIDの飛行ルートを確認するクラン。
 補助腕が2門の滑腔砲に給弾を行う。装填されたのは徹甲榴弾。広範囲を焼き払う事が出来るのだ。
「敵巣に変化は?」
「位置が変わったりしていないわ。砲撃支援の継続、よろしく頼みます」
 通信機から籃奈の返事が返ってきた。
 射程200メートル近くからの砲撃なのだ。敵の位置についての確認は怠らない。
 遥か後方からの援護射撃を受けつつ、瀬崎はモニター上に表示されている蜂型狂気VOIDに照準を合わせた。
「回避が高いというのは織り込み済みだ」
 ロックオン機能が一時的でも上昇する。
 高度な演算装置で対象の動きを予測する機体の能力だ。
「寒いのは苦手だろう?」
 紫電のようなオーラに包まれた兵装からマテリアルに包まれた弾丸が放たれる。
 それは、冷気を纏った射撃攻撃であり、直撃を受けと、動きが鈍くなるのだ。
「動きが遅くなったなら、狙えるよね?」
 乃梛はSthen=Noの武器をマテリアルライフルに持ち替える。
 流石に空飛ぶ敵には近接武器では限界があったからだ。
「狂気汚染は感じられないみたいだけど……」
 念のためイニシャライズオーバーを起動させているが、今のところ、狂気VOID特有の狂気汚染は感じられない。
 強化人間らが乗っているコンフェッサーには、イニシャライズフィールドが搭載されている……狂気汚染と強化人間の暴走とは別物なのだろうか。
 瀬崎と乃梛の連携攻撃により敵を一体葬ると次の標的に銃口を向けた。
「数は多いが確実にいこう」
「そうだよね。分かった、リー軍曹さん?」
 突然、話を振られた強化人間が「お、おおう!」と返事した。

 敵巣から出現した蜂型狂気VOIDを仲間のハンターや強化人間らに任せ、鹿東は機体を巣の中に滑り込ませた。
 壁なのか狂気VOIDか分からないが、まとめてハンドガンのプラズマグレネードで燃やす。
「なるべく急ぎましょうか、ルンルンさん」
「はい! ニンジャサイズ!」
 ルンルン機がコンフェッサーとしての能力を最大限に活かす。
 機鎌がマテリアルのオーラに包まれ、そのまま、強固な柱に一撃を入れる。
 一角が崩れた。巻き込まれないようにスラスターを吹かしつつ、鹿東はコントロールパネルを叩き、操縦桿を操作する。
「巻き込まれないように気を付けて下さいね」
 そう告げたと同時に、機体背部のマジックエンハンサーが展開。
 出力を高めると、錬機剣の柄から伸びるマテリアルの刀身が一際、輝く。
 エクスシアは魔法能力に秀でた機体だ。鹿東機の一撃は柱や壁を文字通り粉砕する。
 僅かに開いたスペースの先にも柱が見える――が、機体は狭すぎて入れない。しかし、すぐさま、ルンルンはパネルをタッチした。
 マテリアルが創り出すメモリーカードがモニターに表示される。
 スキルトレースによる符術は条件さえ満たしていれば、CAMに乗っていても発動可能だ。
「ジュゲームリリ(中略)……ルンルン忍法ハイパーニンジャフレイム! 害虫の巣は消毒です!」
 操作するだけなので、無駄な動きは必要ないのだが、コックピット内で激しく揺れる胸。
 飛翔した符術が柱を破壊。次々に柱が壊された事により、連鎖的に敵巣が崩れていく。
 もう一押しだろう。
 だが、その時だった。通信機を通じてクランから驚くべき内容が伝わってきた。
「シーバ軍曹の機体だ」
「来る事は想定内ですが、狂気の影響を何らかの形で受けている可能性は高いです」
 引き続き、敵巣の中で攻撃を繰り返しながら鹿東は言った。
 出来る事であれば、機体を捕獲して武装解除したい所だが、この戦闘状況では困難だろう。
「強化人間の暴走か……」
 籃奈の声が通信機から微かに聞こえた。
 地球上で問題になっているらしいとは作戦行動中である彼女らの耳にも届いている。
「接近できるのなら、試しに浄化系のスキルを使ってみるけど」
 効果があるか分からないが、やってみる価値はあるのかと乃梛は思っていた。
 しかし、乃梛も蜂型狂気VOIDと戦っている以上、すぐに駆け付けるのは難しいだろう。
「ここは俺に任せて、リー軍曹と一緒に行け!」
 統夜がマルチロックオンを起動させる。
 命中精度は落ちるが、射勢を崩さない為には、これしかない。
「ありがとう。統夜さんも気を付けてね」
「くそう。カッコいいぜ」
 二人が後方に向かって駆け出す。
 その間にもシーバ機はクランへと向かっていた。
「止まるんだ、シーバ軍曹!」
 コンドウ曹長の制止が聞こえているのか聞こえていないのか、止まる気は全く無いようだ。
 仕方なく強引に止めようと立ち塞がったが、シーバ軍曹の機体は華麗な動きで避けるとCAM用ダガーを抜き持って、一直線にクランへと向かった。
「間に合うか!?」
 拳銃を向ける――が、シーバ軍曹の方が早い。
 だが、スラスターフレームの出力を最大限に上げて、機体のバランスをワザと崩して転がるようにクラン機はダガーの一撃を避けた。
 一連の動きだけで、確信できた事があった。それは殺気だ。
 シーバ機はクルっと姿勢を直すと反動で大地を蹴った。その動きは熟練のCAM乗りを彷彿させる。
「ここなら、届くよね」
 クラン機が襲われるよりも先に、乃梛の射撃が割って入る。
 その動きに、シーバ機は不利を感じたようだ。ダガーをクラン機に投げ捨てつつ、一気に後退していく。
「待つんだ」
 それを追い掛けるコンドウ曹長。
 位置的な問題で一番近い彼の機体がが追い縋るが――。
「戻りなさい! コンドウ曹長!」
 通信機から響く籃奈の命令は戦闘の音に遮られる。
 体勢を整えたクランも追撃に入るが、蜂型狂気VOIDが邪魔に入った。
 直後、大爆発がコロニーを揺らす。
「これが忍法の力です!」
「敵巣を片付けました。そちらの援護に入ります」
 ルンルンと鹿東が敵巣を破壊したのだった。
 まだ蜂型狂気VOIDは残っている。結局、残存したVOIDを殲滅した頃には、シーバ軍曹とコンドウ曹長の機体は見失っていた。



 籃奈と強化人間達の乗るCAMは討ち漏らしが居ないか周辺の探索を続けていた。
 巣跡に残ったのはハンター達と護衛としてのリー軍曹だけだった。ハンター達は滞在時間を迎えれば自動的に帰還できるからだ。
「コックピットの中だと気が付かなかったけど、とても良い風です!」
 グーと背伸びをしながらルンルンが深呼吸した。
 恐らく、コロニー内を気温を一定に保つ為に風が吹いているのだろう。
「コンドウ曹長は結局、戻らなかったですね」
 乃梛が遠くを見つめる。
 シーバ軍曹の機体とコンドウ曹長の機体は、コロニーの奥へと向かった形跡があった。
 コロニーの奥には何があるというのか。
「たとえ巣を壊しても、このままだったら残った蜜蜂もいつかVOID化しちゃうのかな?」
「コロニーの全容は解明する必要があるか」
 心配するような乃梛の呟きに、瀬崎が返した。
 もっとも、ある程度の脅威は今回排除したのだ。後は強化人間らが行うだろう。
「シーバ軍曹はやはり、暴走しているのだろうか」
 先の戦闘は一瞬の事だったが、クランは確かに強い殺気を感じた。
 反応が遅れていれば、コックピットにダガーが突き刺さっていた事だろう。
「……シーバ軍曹は、転属前の部隊で、妻子がいる将官と男女の関係だったみたいです」
「随分一途な方だったわけですか……拗れてしまっては病みもしますか……」
 苦笑した鹿東に、抑揚の無い口調でリー軍曹が話を続ける。
「コンドウ曹長も、シーバ軍曹と同じ隊だったらしいですけど……コンドウ曹長は“上官殴り”という話で」
「二人とも、問題があったという事ですか……リー軍曹はさしずめ、私語かな?」
 深刻そうに受け止めながら鹿東はそう返した。
 だが、リー軍曹は首を横に振った。
「俺は……敵前逃亡ですよ……」
 リー軍曹は遠くを見つめるように顔をあげる。
 見ている先はコロニーの外壁なのか、それとも、嫌な記憶なのか。
「その話はこの隊の人みんなそうなの?」
「そういえば、籃奈さんも何か事情があるって」
 首を傾げる乃梛とルンルン。
 となると、この隊自体が、軍や関係機関から見て問題がある強化人間が集められているという事になる。
 二人の言葉にリー軍曹は頷いた。
「他の隊員の話は聞いた事はないですが……ちょっとした噂話は耳にします」
「……想像以上に、根が深い上に厄介な事になりそうですね……」
 思わず、鹿東は頭を抱えた。
 何か大きな陰謀が動いている可能性もある。だが、一介のハンターでは出来る事は限られていた。
 出来れば大事になる前に依頼を出して欲しい所であるが、作戦自体、軍が統制しているとなると難しいだろう。何かの機会を待つ他ない。
「それに……コンドウ曹長が作戦開始直前に言っていたんです。“声が聞こえる”と……」
 “声”はシーバ軍曹が行方不明になる直前に聞いたものだ。それは、ハンター達にも他の強化人間にも聞こえなかった。
 リー軍曹の台詞にクランは先程の戦いを思い出していた。
 あの時、シーバ軍曹の機体が襲い掛かってきた時の事だ。
(シーバ軍曹の機体は俺に真っ直ぐに向かって来た。コンドウ曹長が立ち塞がったのを無視して……)
 軍曹の敵意は本物だった。しかし、曹長は無視した。
 まるで、ハンターのみが敵であるように。そんな雰囲気だった。
「……声。声か……。二人が無事なら良いがな……」
 クランは願うように呟いたのであった。


 ハンター達は強化人間らと共に、コロニー内の蜂型狂気VOIDを巣諸共、殲滅させた。
 だが、戦闘中に現れたシーバ軍曹を追い掛けてコンドウ曹長が行方不明となったのであった。


 おしまい。



 ハンター達が帰還し、残されたリー軍曹はそのまま待機していた。
 ボチボチ、周囲を探索していた仲間達も帰って来ている。戦いは終わったが、これから拠点構築があると思うと怠い。
「とりあえず、トイレだな」
 CAMを起動させたまま彼は草木の中に分け入った。
 用を足して戻る時、ふと、愛しの隊長にいたずらしてやろうと思い、隠れ続ける事にした。
 隠れながら戻ってきた仲間達の機体に近づく。
 自然と彼らの会話が耳に入って来た。聞き流そうとしたが、その内容にリー軍曹は驚いた。
「……と少し違うが、拠点構築後に予定通り、反乱を起こすぞ」
 仲間の一人は、確かにそう言ったのであった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    アズラエル
    Azrael(ka0725unit001
    ユニット|CAM
  • 【魔装】希望への手紙
    瀬崎・統夜(ka5046
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    シュバルツ
    黒騎士(ka5046unit001
    ユニット|CAM
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    ニンジャロボセイバーイ
    CAMの飛忍『セイバーI』(ka5784unit004
    ユニット|CAM
  • 疾風の癒し手
    十色 乃梛(ka5902
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ステンノー
    Sthen=No(ka5902unit002
    ユニット|CAM
  • 望む未来の為に
    クラン・クィールス(ka6605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ダインスレイブ
    ダインスレイブ(ka6605unit004
    ユニット|CAM

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
クラン・クィールス(ka6605
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/07/17 19:27:41
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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/13 06:33:00