ゲスト
(ka0000)
【空蒼】暗がりそっと、君の手を引いて
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/17 12:00
- 完成日
- 2018/07/21 06:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「……何ですか。『お前まだ正気だったのか』とでも言いたげですね」
顔を合わせるなり、高瀬少尉は伊佐美 透にそう言った。
少尉はかつて少し関わりのあった──あまり良い関わりとはいえない──強化人間だ。未だ暴走の兆しを見せない彼は、これまで通り力あるものとして必要な戦闘への参加は続けているらしい。
動乱の蒼の世界、その最中の依頼ではあるが、今回のこれは、内容としてはこれまでに良くあるものだった。狂気VOIDの討伐。火星クラスタ戦の折りなどに放たれ未だ残留するそれらが姿を現した物らしい。地味だがかといって放置して良いものではない。
奇しくも、透と少尉の初対面の時と状況は酷似していた。まだ市街地からは離れた場所に姿を現したVOIDの迎撃。だが、万一を考え作戦は戦闘区域となりうる可能性のある場所に住む市民の一時避難を完了させた後に開始する。
つまり……行動開始まで、雑談する程度の時間があった。
「……無事が分かって良かったと、思ってるよ」
嘘では無い気持ちで、透は答えた。あまり良い間柄では無いと言っても、知っている人間が不遇な末路を遂げるというのは目覚めの良いものではない。
「……。そちらは、ご活躍のようで」
そうしてそれに返された、皮肉混じりに言うつもりだったんだろう言葉は……ただ、疲れた声だった。
かつてこの少尉は、ハンターへの敵意を露にしていた。特に透がこちらの世界で芸能活動をしようとすることに対しては。
彼にとっては強化人間こそ真にリアルブルーを守る存在であるべきだったのだ。普段は紅の世界に居るハンターたちよりも、真っ先にこの世界の人類の盾となり剣となる存在は軍であり強化人間だった。
何となくハンターとなり気紛れにこちらにやって来て、戦いとは別のことにも興味を持つことが許されているようなハンターが英雄として称賛され、軍や強化人間が日陰者に追いやられかねないのは気にくわなかっただろう。
筋違いの嫉妬もあったのかもしれない。だが、その底には自負もあったのだと……思う。自らの意志で強化人間へとその身を変えるには、必要な覚悟は小さくなかった、筈だ。
──だがその結果は。その裏にあった、真実は。
……もう、ハンターを妬む、そんな気持ちすら湧かない。ただ──疲れた。そんな様子だった。
そうして。
「ここで、僕を、殺してみますか」
ぎょっとすることを、少尉は真顔で言った。
「貴方たちにはそれが許されるでしょう。ここで、僕が『暴走』したなら。……貴方になら出来るんじゃないですか。僕には僕の理屈がありますが、それでも。貴方には散々不快なことを言ったという自覚もありますよ」
「……君は暴走してない」
「それは、暴走したら、殺すということですかね」
少尉は唇の端を吊り上げて言った。まるで暴走することが分かっているような──あるいは。
良く言われる話だ。たとえ振りであっても。狂人と同様の行動をすればそれは狂人と何が違うというのか。
「馬鹿なこと、考えるな! 大体これは君一人の問題じゃない! 暴走事例の報告が増えたら、強化人間排除の話が余計に加速する!」
「それも……良いのかも知れませんよ。決断は、早く促した方が。守るはずだったものを害する前に」
「……。強化人間が、必ず暴走するかは、まだ分からないだろう」
希望的観測だろうとは思いながらも、透はそれを口にした。欧州の事件は突然、大規模に起きた。強化人間がいずれ必ず暴走するものならば、とっくに散発的な事件があちこちで起きてなければならなかったはずだ。だから。暴走させるには、何か、もう一手要る。それさえ突き止めれば……。
「……仮にそうだとしても。悠長にそれを解明している暇が有りますかね……あるいは、その必要が」
「必要がって……」
「人類は本当にそんなものを求めているんでしょうか。連日の報道にデモ。君たちに僕たちを殺せという叫びは。こう、聞こえませんか」
──真実なんてどうでもいい。化物同士殺し合え。血みどろになって俺たちを楽しませろ。
「……僕たちは。何のために──いや、何と戦ってるんですか? どう、勝利するんです……?」
少尉の言葉が。理解は……出来た。
世界は変わってしまった。『VOIDという敵性存在』が居る世界に。『覚醒者という英雄』を知る世界に。『強化人間の脅威』を疑う世界に。そうなれば人々の在り様も変わる。何もなかった頃とは、もう違う。自分達が。『普通』だった世界なんて。もう。
失われた。壊された。奪われた。
そのことを。理解は、した。自覚したともいえる。そのことに対して。
「──だったら、取り戻す」
ふいに。想いは、口をついて出た。
「……そうだ。俺は、それをもう一度、取り戻そうとしたんだ。その為に戦ってきた」
元居た場所に、帰りたかった。ただ地球という場所じゃない。役者という仕事じゃない。自分が自分として、繰り返してきた日常。
「まだ、終わってない。ここに居るのは、俺たちを否定しようとする人たちだけじゃない。悪意がそれを塗りつぶそうとしたって、抗える。きっと……届く」
言い終えて。
「……成程。『希望の象徴』らしいことを言うようになったじゃないですか。でもそういうのは、もっと堂々とした表情でやらないと駄目じゃないですかね」
少尉の反応は、乾いたもののままだった。
その通り。自分の表情は今きっと、苦悩に満ちているのだろう。透は認めた。自分は酷く甘いことを言っている。そのせいで犠牲も生まれるかもしれない。それを思いながら望みを、未練を引きずるのは……苦しい。
そうするうちに、避難完了の連絡が入った。
「二手に別れましょうか」
少尉はそう言った。彼が何を考えてそんなことを言い出したのか。分かってしまった、気がした。
それでも透はそれを了承して、少尉とは別行動をとることを選択する。少尉が行おうとすること、それに対してどうするのか。選ぶことを選べなかった。故の選択。それから。
だからやっぱり、憚られた。そんな彼の前で、『希望』を語ることは。
「……偉そうなこと言って、具体的な勝算があるわけじゃないんだよな」
そうして別れた後、同行することになったハンターたちに透はポツリと言った。
「俺だって分かってるんだ。今のリアルブルーで、個人の想いがどうとか言ってる場合じゃないんじゃないか、ってことだって。……それでも」
なら、どうすればいいのか。
ただなんとなく戦って、それで、思うように生きて。それでいいのか。
何かもっと無いのだろうか。出来ること。すべきこと。思うこと。
どうすればいい。
どう在ればいい。
今ここで。覚醒者であるということは、どういうことなのだろう。
この場に居るほかのハンターたちは、何を想うのだろうか。
顔を合わせるなり、高瀬少尉は伊佐美 透にそう言った。
少尉はかつて少し関わりのあった──あまり良い関わりとはいえない──強化人間だ。未だ暴走の兆しを見せない彼は、これまで通り力あるものとして必要な戦闘への参加は続けているらしい。
動乱の蒼の世界、その最中の依頼ではあるが、今回のこれは、内容としてはこれまでに良くあるものだった。狂気VOIDの討伐。火星クラスタ戦の折りなどに放たれ未だ残留するそれらが姿を現した物らしい。地味だがかといって放置して良いものではない。
奇しくも、透と少尉の初対面の時と状況は酷似していた。まだ市街地からは離れた場所に姿を現したVOIDの迎撃。だが、万一を考え作戦は戦闘区域となりうる可能性のある場所に住む市民の一時避難を完了させた後に開始する。
つまり……行動開始まで、雑談する程度の時間があった。
「……無事が分かって良かったと、思ってるよ」
嘘では無い気持ちで、透は答えた。あまり良い間柄では無いと言っても、知っている人間が不遇な末路を遂げるというのは目覚めの良いものではない。
「……。そちらは、ご活躍のようで」
そうしてそれに返された、皮肉混じりに言うつもりだったんだろう言葉は……ただ、疲れた声だった。
かつてこの少尉は、ハンターへの敵意を露にしていた。特に透がこちらの世界で芸能活動をしようとすることに対しては。
彼にとっては強化人間こそ真にリアルブルーを守る存在であるべきだったのだ。普段は紅の世界に居るハンターたちよりも、真っ先にこの世界の人類の盾となり剣となる存在は軍であり強化人間だった。
何となくハンターとなり気紛れにこちらにやって来て、戦いとは別のことにも興味を持つことが許されているようなハンターが英雄として称賛され、軍や強化人間が日陰者に追いやられかねないのは気にくわなかっただろう。
筋違いの嫉妬もあったのかもしれない。だが、その底には自負もあったのだと……思う。自らの意志で強化人間へとその身を変えるには、必要な覚悟は小さくなかった、筈だ。
──だがその結果は。その裏にあった、真実は。
……もう、ハンターを妬む、そんな気持ちすら湧かない。ただ──疲れた。そんな様子だった。
そうして。
「ここで、僕を、殺してみますか」
ぎょっとすることを、少尉は真顔で言った。
「貴方たちにはそれが許されるでしょう。ここで、僕が『暴走』したなら。……貴方になら出来るんじゃないですか。僕には僕の理屈がありますが、それでも。貴方には散々不快なことを言ったという自覚もありますよ」
「……君は暴走してない」
「それは、暴走したら、殺すということですかね」
少尉は唇の端を吊り上げて言った。まるで暴走することが分かっているような──あるいは。
良く言われる話だ。たとえ振りであっても。狂人と同様の行動をすればそれは狂人と何が違うというのか。
「馬鹿なこと、考えるな! 大体これは君一人の問題じゃない! 暴走事例の報告が増えたら、強化人間排除の話が余計に加速する!」
「それも……良いのかも知れませんよ。決断は、早く促した方が。守るはずだったものを害する前に」
「……。強化人間が、必ず暴走するかは、まだ分からないだろう」
希望的観測だろうとは思いながらも、透はそれを口にした。欧州の事件は突然、大規模に起きた。強化人間がいずれ必ず暴走するものならば、とっくに散発的な事件があちこちで起きてなければならなかったはずだ。だから。暴走させるには、何か、もう一手要る。それさえ突き止めれば……。
「……仮にそうだとしても。悠長にそれを解明している暇が有りますかね……あるいは、その必要が」
「必要がって……」
「人類は本当にそんなものを求めているんでしょうか。連日の報道にデモ。君たちに僕たちを殺せという叫びは。こう、聞こえませんか」
──真実なんてどうでもいい。化物同士殺し合え。血みどろになって俺たちを楽しませろ。
「……僕たちは。何のために──いや、何と戦ってるんですか? どう、勝利するんです……?」
少尉の言葉が。理解は……出来た。
世界は変わってしまった。『VOIDという敵性存在』が居る世界に。『覚醒者という英雄』を知る世界に。『強化人間の脅威』を疑う世界に。そうなれば人々の在り様も変わる。何もなかった頃とは、もう違う。自分達が。『普通』だった世界なんて。もう。
失われた。壊された。奪われた。
そのことを。理解は、した。自覚したともいえる。そのことに対して。
「──だったら、取り戻す」
ふいに。想いは、口をついて出た。
「……そうだ。俺は、それをもう一度、取り戻そうとしたんだ。その為に戦ってきた」
元居た場所に、帰りたかった。ただ地球という場所じゃない。役者という仕事じゃない。自分が自分として、繰り返してきた日常。
「まだ、終わってない。ここに居るのは、俺たちを否定しようとする人たちだけじゃない。悪意がそれを塗りつぶそうとしたって、抗える。きっと……届く」
言い終えて。
「……成程。『希望の象徴』らしいことを言うようになったじゃないですか。でもそういうのは、もっと堂々とした表情でやらないと駄目じゃないですかね」
少尉の反応は、乾いたもののままだった。
その通り。自分の表情は今きっと、苦悩に満ちているのだろう。透は認めた。自分は酷く甘いことを言っている。そのせいで犠牲も生まれるかもしれない。それを思いながら望みを、未練を引きずるのは……苦しい。
そうするうちに、避難完了の連絡が入った。
「二手に別れましょうか」
少尉はそう言った。彼が何を考えてそんなことを言い出したのか。分かってしまった、気がした。
それでも透はそれを了承して、少尉とは別行動をとることを選択する。少尉が行おうとすること、それに対してどうするのか。選ぶことを選べなかった。故の選択。それから。
だからやっぱり、憚られた。そんな彼の前で、『希望』を語ることは。
「……偉そうなこと言って、具体的な勝算があるわけじゃないんだよな」
そうして別れた後、同行することになったハンターたちに透はポツリと言った。
「俺だって分かってるんだ。今のリアルブルーで、個人の想いがどうとか言ってる場合じゃないんじゃないか、ってことだって。……それでも」
なら、どうすればいいのか。
ただなんとなく戦って、それで、思うように生きて。それでいいのか。
何かもっと無いのだろうか。出来ること。すべきこと。思うこと。
どうすればいい。
どう在ればいい。
今ここで。覚醒者であるということは、どういうことなのだろう。
この場に居るほかのハンターたちは、何を想うのだろうか。
リプレイ本文
──勝算がないってのは、諦める理由になるの?
反発的に浮かぶその問いは、その形からしてもう答えなど決まっているのだろう。会話を聞き終えて、キヅカ・リク(ka0038)は涼しげな表情を変えることなく、一人想いを固めていた。
額からつう、と汗が垂れてくるのを感じると、苦笑してそれを拭い、張り付く前髪を軽く払う。
夏とはいえここまで過酷だったっけ? 思わずそんな事を感じると。
──厳しい世界、か。
異世界へと転移する前。この世界は、リアルブルーは確かにそうだったと、自分は判っていたじゃないかと、反芻する。
……世界はそんなに優しくない。現実はそんなに甘くはないと。
誰もがどこかで、諦めを、妥協を求められる。だから自ら諦めることが、割り切ることが『賢い』生き方だと。
──この世界の”オトナ”は皆そう言っていた。
かつてはそれを『判って』いた筈だ。彼もそうだった。それが正しいと思っていた。
……がさりと目前の枝が大きく揺れて葉擦れの音を立てる。ぬるりと姿を現したVOID、それを認めるとリクはすらりと聖機剣を抜き放ち切っ先をピタリと向ける。光の矢が一条、真っ直ぐに伸びて敵を貫いた。
魔法の矢。科学とは、この世界で学ぶものとは異なる理によって生まれる力。彼が異世界へと転移したことで手に入れたもの。
内から沸き上がるものを意識して、リクはぎゅ、と剣の柄を握る掌に力を込める。
否。彼が異世界で見つけたものとは、ただの力だけではない。
──消えない面影がある。
彼を認めてくれた少女。
あの世界で、彼をはじめて好きだと言ってくれた。
彼に胸にその想いを刻んで、告げた彼女は願った。
……「誰もが笑って生きられる世界」、を。
──止まない歌がある。
記憶として飲み込まれた世界、何百と同じ刻を繰り返していた世界で、やはり何百と歌われたのだろう歌。
彼の耳にその詩を刻んで、歌う彼女は望んだ。
……「生きていられる明日」、を。
紅の世界で、彼は知った。
世界にはもっと可能性があるということを。
……そして、手を伸ばしても届かないこともあるということを。
……彼女たちはもう、居ない。
その為に戦う僕なんかは”オトナ”からすれば笑い話だろうと、彼は冷静に己を見下ろす。
それでも止まる気は更々無かった。彼女らの願いと、夢を知っているのは自分だけだ。それを無かった事になど、絶対にさせない。あの日の希望を真実に変えるのだ。
掲げた刃の切っ先から再び光の矢が生まれ、敵に向かっていく。矢がどこにどう向かうのか、もう己の手足がどのように動くかのようにイメージか出来て、それは届かぬはずの場所に手を伸ばそうとする感覚を思わせた。
オトナたちが届くわけ無いよと嗤う場所まで。勝手に手を伸ばして、届かなくて、それでもまだ手を伸ばす。
嗚呼、きっとさぞ無様な姿なのだろう。とても希望の象徴なんてものじゃない。道理に耳を貸さずに感情だけで手足をバタつかせるコドモじみた姿。
それでも、いい。
諦めてオトナに成るくらいなら、僕はコドモで十分だ。
手を伸ばして何かを掴める”かも”しれないから。まだ、世界を、人を、自分を、諦めたくなんかないから。
世間体とか人目とか、そんな事に構っていられるほど、生憎と、出来ちゃいないのだ、と。
だから今彼は此処にいる。
今日この場。何が彼を迷わせることもなかった。あとはただすべきことを。彼は、その力を振るう。
●
真夏の山中を歩く一行の足取りは、決して迷いの無いものばかりでは無かった。
「……な、なぁ、行かせちまって良かったのかな? そりゃ少尉のこたイケ好かねぇ野郎だと思ってっけど……けど……」
暫く言葉もなく進む中、耐えかねたかのようにそう口を開いたのは大伴 鈴太郎(ka6016)だった。
「そうね。もっと急ぎましょうか」
それに。涼やかな声で答えたのは、七夜・真夕(ka3977)だ。
真夕は視線を鈴に、それから鈴がさ迷わせつつも向かっている先にと順番に向ける。そうして、ふと思い出して、
「私は七夜・真夕。よろしくね」
透に、まずそう告げた。透はそれに、「あ、ああ……」と多少戸惑いながら、挨拶と名乗りを返す。
真夕は錬金杖を軽く掲げ、少し上方をぐるりと見渡す。
「空にいるなら遠慮は無用よね。ここはさっさと片付けて、次にいこう? ……まだ、戦っている人のところに」
──手伝ってくれないかな。
差し伸べられた言葉に答えようとして、だが邪魔が入った。
見構える鈴に、真夕も振り向く。
タン! と真夕の靴がスタッカートを刻んだ。明るくテンポのよい歌が、その唇から紡がれる。
それに勢いを得るように鈴が飛び出し、抉るような手甲の一撃を叩き込む。
その動作に乱れは無かった。だが表情は晴れない。
「綺麗事。そうかもしれないね」
そんな鈴の様子を見てか、向かい来る敵を光の矢で払い落としながら、真夕が再び口を開く。
「それでも私たちはやるしかない」
続く、友人の言葉に。友人の言葉だったからこそ。
「なンでだよ!? ハンターだからか!? 覚醒者に……されちまったから?」
思わず鈴は叫んだ。自分を隠しきれずに。
(今自分がどうすべきかワカンねぇのは、ハンターの使命から目ぇ背けてきたツケなンかな)
真夕と己との差に、そう、思ってしまったから。
ただの学生で……帰りたいだけだったのだ。将来の夢も出来て……戦わなくたって他の依頼でも食べて行ける。なのに。
真夕は首を振る。
「正義の味方だとか、希望の象徴とか、そんな言葉の為じゃないよ……だってりんたろーだって、あの少尉さんを死なせたく無かったんでしょう?」
「……わかンね……でも何だかこのままじゃいけねぇ気がした……そンだけなんだよ」
「死にたくない。死なせたくない。目の前で失われる命を助けたいって思うのは当然じゃない?」
私には相方が一番大事。
でもだからといって、他の人がどうなったって良いとは思わない。
私は人間だもの、と真夕は軽く笑ってみせる。
「疲れて放り出したくなっているのなら、それはその人が疲れてしまうほどに重い荷物を背負っている、って事。……人間だもの。いっとき疲れてしまう事はある。でもそれが本心なら、初めから疲れたりはしないと思う」
そんな……ものだろうか。いや。分かる。良く分かる話のはずなのだ。鈴だって、いつもだったら、四の五の言わずやりたいようにやる! と思えばいいはずだった。それが何故、今はこんなにも心乱れるのだろう。
「……良く、知らねンだ」
「え?」
「イギリスだかの。強化人間が暴走したってのは耳にしてたけど、ンな大事になってたなんてよ」
鈴がそれを切り出すと、真夕はそこで初めて、ああ……と溜め息をついて、少し顔を曇らせた。「重いよね」と、真夕もそれには、ポツリと言った。でも。
「強化人間だとか、そうじゃないとか、それも関係ない。会話ができて、意思が通じるならば、仲良くできるかもしれない」
「通じなくなったら!?」
「それは……」
「強化人間を相手にするって、でも、そーゆーことなンだろ!? こやって戦って、もし目の前で、本当に暴走して、そうなったらマユは……!」
──殺すのか。
その言葉を、鈴はどうしても言えない。
理不尽だ。何故こんなことを背負わされなければならないのか。
勝手に転移させられて、帰る故郷も滅茶苦茶になって……もう十分だろう。
──これ以上、傷付きたくない。
言いながら、後ろめたさも認めていた。今ここで戦うのは、それを誤魔化す為だけなのかも……とも。
「……そうね。でもそれは、今目の前で起きてる事じゃない」
そんな鈴に、ゆっくり、一つ息を整えてから、真夕は答えた。
「私は万能じゃない。知らない場所で同じ事が起きていたとしても、それは助けられない。……いいえ、目の前で起こっても、助けられないときはあるかもしれない。でもそれを、今やるべきことをしない理由にはしないわ」
それを偽善というならば、私は偽善者で構わない。
傲慢だろうが、強欲だろうが、これが彼女の結論。
揺らぐことはない。
「私から言いたいことは、これだけかな」
気付けば今現れた全ての敵は片付いていた。真夕は再び、捜索範囲の敵を探して歩き始める。
鈴は……まだ答えられない。
●
魔術師である真夕をカバーするためだろう、鈴がそちらに向かって、そのまま二人話し始めるのを確認すると、鞍馬 真(ka5819)は透と共に逆翼の敵へと向かった。
丁度いいタイミングなのだろう──聞かれたくない話をするには。
「……どんな想いを抱くかは人それぞれだよ。私もきみも同じ覚醒者だけど、考え方は同じじゃないだろう?」
「……」
真の言葉に、透は僅かに表情を曇らせた。
切り出した、前置くような真の言葉は、歩み寄りのようで、しかしその距離が決して埋まらないことも意味している。
「──欧州で、強化人間の子供たちを殺したよ」
「……そうか」
半ば分かっていたという風な、落ち着いた声だった。それから。
「すまない」
透はそう言うと、真はつい苦笑する。
「どうしてきみが謝るんだ?」
「なんだろうな。色々あるんだが……どう、言えばいいか。……君が体験してきたことは、俺が考えているよりもずっと、重いことなんだろう」
「……。透の言っていることは、正直、綺麗事だと思う」
きっぱりと、真は告げる。もう、彼のような前向きなことは言えない。希望を持つには、非情な現実を知りすぎた。
「戦っていれば解決策が見つかると、思ったんだ」
見つからなかった。殺すしかなかった。
「そうまでして生かした他の子供達は再び暴走した」
そうしてまた戦いになって──その戦いで、また、彼は。
「……助けたいと願っているのに、現実にはこの手で彼らの居場所を、生命を奪っている」
言った直後、真の手にした剣から光が爆ぜた。纏わせていたマテリアルが膨れ上がり斬り払った敵を飲み込んでいく。過剰なまでの力の奔流にVOIDは自壊を待つことなく溶け崩れていき。
「……何のために戦っているかなんて、私が聞きたいよ」
周囲の敵を殲滅したことを確認して、真はポツリと言った。
「自分の全てを失ってでも大切なものを守るって決めたから、どれだけ苦しくても戦いは続けるけどね」
同じく戦闘を終えた透が振り向いたときに真が握りしめていたのは、純白の杖だった。彼の新たな契約と──決意の形。
「ああ、その……おめでとう。大精霊に認められるなんて……いや、真なら驚くことじゃないか」
「ありがとう。……でも、それでも」
真は透を真っ直ぐに見る。
「諦めそうになるんだ。こんな状態だから。だから──どうか、きみはその想いを抱き続けて欲しい。諦めないで欲しい」
例え綺麗事だとしても、諦めないと言う人が隣に居てくれたら、自分も前を向けるから。
──それが、私の希望になるから。
「……なんてね!」
そこまで言って真は、突如朗らかな顔で笑う。
「これは私の勝手な願いだからあまり気にしないで。要は「覚醒者」なんて枠に囚われず、透は透らしく胸を張って我が道を往けば良いってことさ!」
気負い過ぎることの無いよう、冗談めかして言うと。
「本当に君は良いのか。それで」
「うん?」
「君の横で綺麗事を吐いて、本当にそれでいいんだな」
勿論……と、言うつもりで。その、低く、強めの語気には思わずたじろいだ。
「……舞台に臨むとさ。つくづく感じるんだ。俺がここに立つ為に本当に色んな人に支えてもらってるなって」
「うん?」
「自分の為じゃなくたって。何も残せていないように人からは見えたって。そこに価値や情熱が無いなんて言わせない」
……嗚呼、そういう、事か。
理解した。話の成り行きも、念押された問いの意味も。
「誰かのために戦う、そこにある君自身をもう少し認めたっていいんじゃないか。そんな君を尊敬して、大切に思う人たちが居るってことも」
確かに。軽率なことを言ったかもしれないと、真は少し後悔した。
成程酷い綺麗事だ。その空虚も知らずに。自分に、価値があるだなんて。
●
「話が、途切れちゃってたわよね」
一通り戦いを終えて、真夕が切り出す。
「私は助けたい。だからこれから行く──あなたはどうする?」
質問しておきながら真夕は返事を待たずに移動を始めた。リクも、微苦笑してから迷わずそれに続く。
(オレなんかがやらなくても、他につえーヤツらがいっぱい居ンだよな……)
先頭を行くリクと真夕を見ながら、思う。
(でも、シンや他のダチが戦ってンのに……)
その少し後ろをついていく真を見て、そうも思う。
そうして。
「トールは……マジでどうにかするつもりなンか? 死ンじまったら……もう芝居できねンだぜ」
互いに出遅れて、隣を往くことになった透に、鈴はとうとうそう問いかけていた。
「このまま。強化人間たちとはと殺し合うことが当たり前になっていったら、その先にあるのはもう、戻りたかった場所じゃ、無くなる気がして。それを……何もせずに黙って見ていられるか、かな」
言われて。鈴には、分かるようで、分からない。
(世界を救うとか守るとか、話がデカ過ぎてピンとこねぇよ)
ただ、それでも何となく分かるのは──本腰を入れてこの戦いに身を投じるなら、過酷な戦いになるのだろうということ。身体も、心も。
彼女自身、友人や故郷を守るために命を張ったことはあるが。それでも。
怖い。止めたい。傷つかないでほしい。けど……彼女自身がどうしたらいいのかわからない。
……前に偉そうなことを言っておいて。こんなに臆病だと知られたら、彼は幻滅するだろうか。
「別に君に無理強いする気はないよ」
やがて優しい声で透は言った。
「君の身に降りかかったことは、言葉に尽くしがたい程壮絶なものだろう。けど、ここまで君は十分、頑張ってきたよ」
「……」
「けど、頑張ったっていうのはつまり、普段以上に力を入れてきたってことなんだから……今はその分、休んだり、時には誰かに縋ったりしても、いいんじゃないかな」
鈴の今の姿を見て。透の鈴への印象は、鎌倉で初めて見たときから何も変わらない──芯の強い、それでいて繊細で、健気な女の子だ。
……少し、鈴と透の歩調がズレた。透が早めたのか鈴が鈍ったのか。二人にわずかに距離が生まれて……鈴はその背を見る。
ああは言われても、分かってはいる。誰も、何もしないわけにはいかないのだ。 鎌倉が奪還できたのも使命を果たしてる人たちが居てくれたから。
だから。
(もしトールが……惚れたオトコがやるってンなら……その時はオレも勇気出せンの……かな)
今はただ、その背を追うようにして、足を動かす。
一行がまず辿り着いたのは、最初に二手に別れたその場所だった。もう片方のチームはまだ、戻ってきて、いない。
反発的に浮かぶその問いは、その形からしてもう答えなど決まっているのだろう。会話を聞き終えて、キヅカ・リク(ka0038)は涼しげな表情を変えることなく、一人想いを固めていた。
額からつう、と汗が垂れてくるのを感じると、苦笑してそれを拭い、張り付く前髪を軽く払う。
夏とはいえここまで過酷だったっけ? 思わずそんな事を感じると。
──厳しい世界、か。
異世界へと転移する前。この世界は、リアルブルーは確かにそうだったと、自分は判っていたじゃないかと、反芻する。
……世界はそんなに優しくない。現実はそんなに甘くはないと。
誰もがどこかで、諦めを、妥協を求められる。だから自ら諦めることが、割り切ることが『賢い』生き方だと。
──この世界の”オトナ”は皆そう言っていた。
かつてはそれを『判って』いた筈だ。彼もそうだった。それが正しいと思っていた。
……がさりと目前の枝が大きく揺れて葉擦れの音を立てる。ぬるりと姿を現したVOID、それを認めるとリクはすらりと聖機剣を抜き放ち切っ先をピタリと向ける。光の矢が一条、真っ直ぐに伸びて敵を貫いた。
魔法の矢。科学とは、この世界で学ぶものとは異なる理によって生まれる力。彼が異世界へと転移したことで手に入れたもの。
内から沸き上がるものを意識して、リクはぎゅ、と剣の柄を握る掌に力を込める。
否。彼が異世界で見つけたものとは、ただの力だけではない。
──消えない面影がある。
彼を認めてくれた少女。
あの世界で、彼をはじめて好きだと言ってくれた。
彼に胸にその想いを刻んで、告げた彼女は願った。
……「誰もが笑って生きられる世界」、を。
──止まない歌がある。
記憶として飲み込まれた世界、何百と同じ刻を繰り返していた世界で、やはり何百と歌われたのだろう歌。
彼の耳にその詩を刻んで、歌う彼女は望んだ。
……「生きていられる明日」、を。
紅の世界で、彼は知った。
世界にはもっと可能性があるということを。
……そして、手を伸ばしても届かないこともあるということを。
……彼女たちはもう、居ない。
その為に戦う僕なんかは”オトナ”からすれば笑い話だろうと、彼は冷静に己を見下ろす。
それでも止まる気は更々無かった。彼女らの願いと、夢を知っているのは自分だけだ。それを無かった事になど、絶対にさせない。あの日の希望を真実に変えるのだ。
掲げた刃の切っ先から再び光の矢が生まれ、敵に向かっていく。矢がどこにどう向かうのか、もう己の手足がどのように動くかのようにイメージか出来て、それは届かぬはずの場所に手を伸ばそうとする感覚を思わせた。
オトナたちが届くわけ無いよと嗤う場所まで。勝手に手を伸ばして、届かなくて、それでもまだ手を伸ばす。
嗚呼、きっとさぞ無様な姿なのだろう。とても希望の象徴なんてものじゃない。道理に耳を貸さずに感情だけで手足をバタつかせるコドモじみた姿。
それでも、いい。
諦めてオトナに成るくらいなら、僕はコドモで十分だ。
手を伸ばして何かを掴める”かも”しれないから。まだ、世界を、人を、自分を、諦めたくなんかないから。
世間体とか人目とか、そんな事に構っていられるほど、生憎と、出来ちゃいないのだ、と。
だから今彼は此処にいる。
今日この場。何が彼を迷わせることもなかった。あとはただすべきことを。彼は、その力を振るう。
●
真夏の山中を歩く一行の足取りは、決して迷いの無いものばかりでは無かった。
「……な、なぁ、行かせちまって良かったのかな? そりゃ少尉のこたイケ好かねぇ野郎だと思ってっけど……けど……」
暫く言葉もなく進む中、耐えかねたかのようにそう口を開いたのは大伴 鈴太郎(ka6016)だった。
「そうね。もっと急ぎましょうか」
それに。涼やかな声で答えたのは、七夜・真夕(ka3977)だ。
真夕は視線を鈴に、それから鈴がさ迷わせつつも向かっている先にと順番に向ける。そうして、ふと思い出して、
「私は七夜・真夕。よろしくね」
透に、まずそう告げた。透はそれに、「あ、ああ……」と多少戸惑いながら、挨拶と名乗りを返す。
真夕は錬金杖を軽く掲げ、少し上方をぐるりと見渡す。
「空にいるなら遠慮は無用よね。ここはさっさと片付けて、次にいこう? ……まだ、戦っている人のところに」
──手伝ってくれないかな。
差し伸べられた言葉に答えようとして、だが邪魔が入った。
見構える鈴に、真夕も振り向く。
タン! と真夕の靴がスタッカートを刻んだ。明るくテンポのよい歌が、その唇から紡がれる。
それに勢いを得るように鈴が飛び出し、抉るような手甲の一撃を叩き込む。
その動作に乱れは無かった。だが表情は晴れない。
「綺麗事。そうかもしれないね」
そんな鈴の様子を見てか、向かい来る敵を光の矢で払い落としながら、真夕が再び口を開く。
「それでも私たちはやるしかない」
続く、友人の言葉に。友人の言葉だったからこそ。
「なンでだよ!? ハンターだからか!? 覚醒者に……されちまったから?」
思わず鈴は叫んだ。自分を隠しきれずに。
(今自分がどうすべきかワカンねぇのは、ハンターの使命から目ぇ背けてきたツケなンかな)
真夕と己との差に、そう、思ってしまったから。
ただの学生で……帰りたいだけだったのだ。将来の夢も出来て……戦わなくたって他の依頼でも食べて行ける。なのに。
真夕は首を振る。
「正義の味方だとか、希望の象徴とか、そんな言葉の為じゃないよ……だってりんたろーだって、あの少尉さんを死なせたく無かったんでしょう?」
「……わかンね……でも何だかこのままじゃいけねぇ気がした……そンだけなんだよ」
「死にたくない。死なせたくない。目の前で失われる命を助けたいって思うのは当然じゃない?」
私には相方が一番大事。
でもだからといって、他の人がどうなったって良いとは思わない。
私は人間だもの、と真夕は軽く笑ってみせる。
「疲れて放り出したくなっているのなら、それはその人が疲れてしまうほどに重い荷物を背負っている、って事。……人間だもの。いっとき疲れてしまう事はある。でもそれが本心なら、初めから疲れたりはしないと思う」
そんな……ものだろうか。いや。分かる。良く分かる話のはずなのだ。鈴だって、いつもだったら、四の五の言わずやりたいようにやる! と思えばいいはずだった。それが何故、今はこんなにも心乱れるのだろう。
「……良く、知らねンだ」
「え?」
「イギリスだかの。強化人間が暴走したってのは耳にしてたけど、ンな大事になってたなんてよ」
鈴がそれを切り出すと、真夕はそこで初めて、ああ……と溜め息をついて、少し顔を曇らせた。「重いよね」と、真夕もそれには、ポツリと言った。でも。
「強化人間だとか、そうじゃないとか、それも関係ない。会話ができて、意思が通じるならば、仲良くできるかもしれない」
「通じなくなったら!?」
「それは……」
「強化人間を相手にするって、でも、そーゆーことなンだろ!? こやって戦って、もし目の前で、本当に暴走して、そうなったらマユは……!」
──殺すのか。
その言葉を、鈴はどうしても言えない。
理不尽だ。何故こんなことを背負わされなければならないのか。
勝手に転移させられて、帰る故郷も滅茶苦茶になって……もう十分だろう。
──これ以上、傷付きたくない。
言いながら、後ろめたさも認めていた。今ここで戦うのは、それを誤魔化す為だけなのかも……とも。
「……そうね。でもそれは、今目の前で起きてる事じゃない」
そんな鈴に、ゆっくり、一つ息を整えてから、真夕は答えた。
「私は万能じゃない。知らない場所で同じ事が起きていたとしても、それは助けられない。……いいえ、目の前で起こっても、助けられないときはあるかもしれない。でもそれを、今やるべきことをしない理由にはしないわ」
それを偽善というならば、私は偽善者で構わない。
傲慢だろうが、強欲だろうが、これが彼女の結論。
揺らぐことはない。
「私から言いたいことは、これだけかな」
気付けば今現れた全ての敵は片付いていた。真夕は再び、捜索範囲の敵を探して歩き始める。
鈴は……まだ答えられない。
●
魔術師である真夕をカバーするためだろう、鈴がそちらに向かって、そのまま二人話し始めるのを確認すると、鞍馬 真(ka5819)は透と共に逆翼の敵へと向かった。
丁度いいタイミングなのだろう──聞かれたくない話をするには。
「……どんな想いを抱くかは人それぞれだよ。私もきみも同じ覚醒者だけど、考え方は同じじゃないだろう?」
「……」
真の言葉に、透は僅かに表情を曇らせた。
切り出した、前置くような真の言葉は、歩み寄りのようで、しかしその距離が決して埋まらないことも意味している。
「──欧州で、強化人間の子供たちを殺したよ」
「……そうか」
半ば分かっていたという風な、落ち着いた声だった。それから。
「すまない」
透はそう言うと、真はつい苦笑する。
「どうしてきみが謝るんだ?」
「なんだろうな。色々あるんだが……どう、言えばいいか。……君が体験してきたことは、俺が考えているよりもずっと、重いことなんだろう」
「……。透の言っていることは、正直、綺麗事だと思う」
きっぱりと、真は告げる。もう、彼のような前向きなことは言えない。希望を持つには、非情な現実を知りすぎた。
「戦っていれば解決策が見つかると、思ったんだ」
見つからなかった。殺すしかなかった。
「そうまでして生かした他の子供達は再び暴走した」
そうしてまた戦いになって──その戦いで、また、彼は。
「……助けたいと願っているのに、現実にはこの手で彼らの居場所を、生命を奪っている」
言った直後、真の手にした剣から光が爆ぜた。纏わせていたマテリアルが膨れ上がり斬り払った敵を飲み込んでいく。過剰なまでの力の奔流にVOIDは自壊を待つことなく溶け崩れていき。
「……何のために戦っているかなんて、私が聞きたいよ」
周囲の敵を殲滅したことを確認して、真はポツリと言った。
「自分の全てを失ってでも大切なものを守るって決めたから、どれだけ苦しくても戦いは続けるけどね」
同じく戦闘を終えた透が振り向いたときに真が握りしめていたのは、純白の杖だった。彼の新たな契約と──決意の形。
「ああ、その……おめでとう。大精霊に認められるなんて……いや、真なら驚くことじゃないか」
「ありがとう。……でも、それでも」
真は透を真っ直ぐに見る。
「諦めそうになるんだ。こんな状態だから。だから──どうか、きみはその想いを抱き続けて欲しい。諦めないで欲しい」
例え綺麗事だとしても、諦めないと言う人が隣に居てくれたら、自分も前を向けるから。
──それが、私の希望になるから。
「……なんてね!」
そこまで言って真は、突如朗らかな顔で笑う。
「これは私の勝手な願いだからあまり気にしないで。要は「覚醒者」なんて枠に囚われず、透は透らしく胸を張って我が道を往けば良いってことさ!」
気負い過ぎることの無いよう、冗談めかして言うと。
「本当に君は良いのか。それで」
「うん?」
「君の横で綺麗事を吐いて、本当にそれでいいんだな」
勿論……と、言うつもりで。その、低く、強めの語気には思わずたじろいだ。
「……舞台に臨むとさ。つくづく感じるんだ。俺がここに立つ為に本当に色んな人に支えてもらってるなって」
「うん?」
「自分の為じゃなくたって。何も残せていないように人からは見えたって。そこに価値や情熱が無いなんて言わせない」
……嗚呼、そういう、事か。
理解した。話の成り行きも、念押された問いの意味も。
「誰かのために戦う、そこにある君自身をもう少し認めたっていいんじゃないか。そんな君を尊敬して、大切に思う人たちが居るってことも」
確かに。軽率なことを言ったかもしれないと、真は少し後悔した。
成程酷い綺麗事だ。その空虚も知らずに。自分に、価値があるだなんて。
●
「話が、途切れちゃってたわよね」
一通り戦いを終えて、真夕が切り出す。
「私は助けたい。だからこれから行く──あなたはどうする?」
質問しておきながら真夕は返事を待たずに移動を始めた。リクも、微苦笑してから迷わずそれに続く。
(オレなんかがやらなくても、他につえーヤツらがいっぱい居ンだよな……)
先頭を行くリクと真夕を見ながら、思う。
(でも、シンや他のダチが戦ってンのに……)
その少し後ろをついていく真を見て、そうも思う。
そうして。
「トールは……マジでどうにかするつもりなンか? 死ンじまったら……もう芝居できねンだぜ」
互いに出遅れて、隣を往くことになった透に、鈴はとうとうそう問いかけていた。
「このまま。強化人間たちとはと殺し合うことが当たり前になっていったら、その先にあるのはもう、戻りたかった場所じゃ、無くなる気がして。それを……何もせずに黙って見ていられるか、かな」
言われて。鈴には、分かるようで、分からない。
(世界を救うとか守るとか、話がデカ過ぎてピンとこねぇよ)
ただ、それでも何となく分かるのは──本腰を入れてこの戦いに身を投じるなら、過酷な戦いになるのだろうということ。身体も、心も。
彼女自身、友人や故郷を守るために命を張ったことはあるが。それでも。
怖い。止めたい。傷つかないでほしい。けど……彼女自身がどうしたらいいのかわからない。
……前に偉そうなことを言っておいて。こんなに臆病だと知られたら、彼は幻滅するだろうか。
「別に君に無理強いする気はないよ」
やがて優しい声で透は言った。
「君の身に降りかかったことは、言葉に尽くしがたい程壮絶なものだろう。けど、ここまで君は十分、頑張ってきたよ」
「……」
「けど、頑張ったっていうのはつまり、普段以上に力を入れてきたってことなんだから……今はその分、休んだり、時には誰かに縋ったりしても、いいんじゃないかな」
鈴の今の姿を見て。透の鈴への印象は、鎌倉で初めて見たときから何も変わらない──芯の強い、それでいて繊細で、健気な女の子だ。
……少し、鈴と透の歩調がズレた。透が早めたのか鈴が鈍ったのか。二人にわずかに距離が生まれて……鈴はその背を見る。
ああは言われても、分かってはいる。誰も、何もしないわけにはいかないのだ。 鎌倉が奪還できたのも使命を果たしてる人たちが居てくれたから。
だから。
(もしトールが……惚れたオトコがやるってンなら……その時はオレも勇気出せンの……かな)
今はただ、その背を追うようにして、足を動かす。
一行がまず辿り着いたのは、最初に二手に別れたその場所だった。もう片方のチームはまだ、戻ってきて、いない。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 8人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/13 12:52:01 |