• 空蒼
  • 無し

【空蒼】暗がりそっと、君の手を引いて

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
参加費
1,000
参加人数
現在4人 / 3~4人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2018/07/17 12:00
リプレイ完成予定
2018/07/26 12:00

オープニング

「……何ですか。『お前まだ正気だったのか』とでも言いたげですね」
 顔を合わせるなり、高瀬少尉は伊佐美 透にそう言った。
 少尉はかつて少し関わりのあった──あまり良い関わりとはいえない──強化人間だ。未だ暴走の兆しを見せない彼は、これまで通り力あるものとして必要な戦闘への参加は続けているらしい。
 動乱の蒼の世界、その最中の依頼ではあるが、今回のこれは、内容としてはこれまでに良くあるものだった。狂気VOIDの討伐。火星クラスタ戦の折りなどに放たれ未だ残留するそれらが姿を現した物らしい。地味だがかといって放置して良いものではない。
 奇しくも、透と少尉の初対面の時と状況は酷似していた。まだ市街地からは離れた場所に姿を現したVOIDの迎撃。だが、万一を考え作戦は戦闘区域となりうる可能性のある場所に住む市民の一時避難を完了させた後に開始する。
 つまり……行動開始まで、雑談する程度の時間があった。
「……無事が分かって良かったと、思ってるよ」
 嘘では無い気持ちで、透は答えた。あまり良い間柄では無いと言っても、知っている人間が不遇な末路を遂げるというのは目覚めの良いものではない。
「……。そちらは、ご活躍のようで」
 そうしてそれに返された、皮肉混じりに言うつもりだったんだろう言葉は……ただ、疲れた声だった。
 かつてこの少尉は、ハンターへの敵意を露にしていた。特に透がこちらの世界で芸能活動をしようとすることに対しては。
 彼にとっては強化人間こそ真にリアルブルーを守る存在であるべきだったのだ。普段は紅の世界に居るハンターたちよりも、真っ先にこの世界の人類の盾となり剣となる存在は軍であり強化人間だった。
 何となくハンターとなり気紛れにこちらにやって来て、戦いとは別のことにも興味を持つことが許されているようなハンターが英雄として称賛され、軍や強化人間が日陰者に追いやられかねないのは気にくわなかっただろう。
 筋違いの嫉妬もあったのかもしれない。だが、その底には自負もあったのだと……思う。自らの意志で強化人間へとその身を変えるには、必要な覚悟は小さくなかった、筈だ。
 ──だがその結果は。その裏にあった、真実は。
 ……もう、ハンターを妬む、そんな気持ちすら湧かない。ただ──疲れた。そんな様子だった。
 そうして。
「ここで、僕を、殺してみますか」
 ぎょっとすることを、少尉は真顔で言った。
「貴方たちにはそれが許されるでしょう。ここで、僕が『暴走』したなら。……貴方になら出来るんじゃないですか。僕には僕の理屈がありますが、それでも。貴方には散々不快なことを言ったという自覚もありますよ」
「……君は暴走してない」
「それは、暴走したら、殺すということですかね」
 少尉は唇の端を吊り上げて言った。まるで暴走することが分かっているような──あるいは。
 良く言われる話だ。たとえ振りであっても。狂人と同様の行動をすればそれは狂人と何が違うというのか。
「馬鹿なこと、考えるな! 大体これは君一人の問題じゃない! 暴走事例の報告が増えたら、強化人間排除の話が余計に加速する!」
「それも……良いのかも知れませんよ。決断は、早く促した方が。守るはずだったものを害する前に」
「……。強化人間が、必ず暴走するかは、まだ分からないだろう」
 希望的観測だろうとは思いながらも、透はそれを口にした。欧州の事件は突然、大規模に起きた。強化人間がいずれ必ず暴走するものならば、とっくに散発的な事件があちこちで起きてなければならなかったはずだ。だから。暴走させるには、何か、もう一手要る。それさえ突き止めれば……。
「……仮にそうだとしても。悠長にそれを解明している暇が有りますかね……あるいは、その必要が」
「必要がって……」
「人類は本当にそんなものを求めているんでしょうか。連日の報道にデモ。君たちに僕たちを殺せという叫びは。こう、聞こえませんか」

 ──真実なんてどうでもいい。化物同士殺し合え。血みどろになって俺たちを楽しませろ。

「……僕たちは。何のために──いや、何と戦ってるんですか? どう、勝利するんです……?」
 少尉の言葉が。理解は……出来た。
 世界は変わってしまった。『VOIDという敵性存在』が居る世界に。『覚醒者という英雄』を知る世界に。『強化人間の脅威』を疑う世界に。そうなれば人々の在り様も変わる。何もなかった頃とは、もう違う。自分達が。『普通』だった世界なんて。もう。
 失われた。壊された。奪われた。
 そのことを。理解は、した。自覚したともいえる。そのことに対して。
「──だったら、取り戻す」
 ふいに。想いは、口をついて出た。
「……そうだ。俺は、それをもう一度、取り戻そうとしたんだ。その為に戦ってきた」
 元居た場所に、帰りたかった。ただ地球という場所じゃない。役者という仕事じゃない。自分が自分として、繰り返してきた日常。
「まだ、終わってない。ここに居るのは、俺たちを否定しようとする人たちだけじゃない。悪意がそれを塗りつぶそうとしたって、抗える。きっと……届く」
 言い終えて。
「……成程。『希望の象徴』らしいことを言うようになったじゃないですか。でもそういうのは、もっと堂々とした表情でやらないと駄目じゃないですかね」
 少尉の反応は、乾いたもののままだった。
 その通り。自分の表情は今きっと、苦悩に満ちているのだろう。透は認めた。自分は酷く甘いことを言っている。そのせいで犠牲も生まれるかもしれない。それを思いながら望みを、未練を引きずるのは……苦しい。
 そうするうちに、避難完了の連絡が入った。

「二手に別れましょうか」
 少尉はそう言った。彼が何を考えてそんなことを言い出したのか。分かってしまった、気がした。
 それでも透はそれを了承して、少尉とは別行動をとることを選択する。少尉が行おうとすること、それに対してどうするのか。選ぶことを選べなかった。故の選択。それから。
 だからやっぱり、憚られた。そんな彼の前で、『希望』を語ることは。
「……偉そうなこと言って、具体的な勝算があるわけじゃないんだよな」
 そうして別れた後、同行することになったハンターたちに透はポツリと言った。
「俺だって分かってるんだ。今のリアルブルーで、個人の想いがどうとか言ってる場合じゃないんじゃないか、ってことだって。……それでも」
 なら、どうすればいいのか。
 ただなんとなく戦って、それで、思うように生きて。それでいいのか。
 何かもっと無いのだろうか。出来ること。すべきこと。思うこと。
 どうすればいい。
 どう在ればいい。
 今ここで。覚醒者であるということは、どういうことなのだろう。
 この場に居るほかのハンターたちは、何を想うのだろうか。

解説

リアルブルーの日本、山中に確認された浮遊型狂気のVOID討伐依頼です。これまでによく見られた触手と眼球からの熱線で攻撃してくる小型狂気の個体を索敵し討伐してください、とここまでがお膳立てですので今更こんなの頑張るの一言でどうにかしていいです。あえて戦闘や索敵で描写してほしいことがあれば書いてね。

まあそんなわけで。
【空蒼】連動、強化人間と覚醒者たち、激動の蒼の世界の現状について主に心情を吐き出すための個人連動、こちらは言わば[希望編]。
NPC、ハンターの伊佐美 透と強化人間の高瀬少尉、二人の会話は皆さんにも聞いていたことが可能です。
その後二手に分かれての作戦行動開始、こちらは伊佐美 透と共に行動を開始する側になります。

会話を聞いていて何を思ったか、どうしてこちら側を選んだか。
ご自由にPCの心情と状況整理にご利用ください。
NPCをどうにかしろ、というのは、今回の依頼の本題ではありません。
特に話しかけずPCの内心の整理だけにこの機会を利用してもらっても依頼の成功度としてマイナスにはなりません。
あなたのPCなら何を思って、今後に向けて行動指針をどう立てるか。今回注目するのはその点になります。

ただ、NPCに話しかければもちろん、今後の何かしらのNPCの行動に影響は出るでしょう。
あなたらしく行動する上で、あるいは何かの目的をもって、彼に何か助言──あるいは唆し──を行ってみるのも勿論ありです。
その場合今回凪池が同時提出しているこのシナリオは正しく連動します。向こうがどういう結果になるかで同じ言葉でも聞こえは違ってくるでしょう。

マスターより

凪池です。
さあ、リアルブルー、強化人間の問題がいよいよ大変なことになってきました。
凪池も元【RH】組として【空蒼】連動に参戦……かというと割と微妙で。いや今回何となく状況的に思うところがあったのでこんなシナリオを組んでみたのですが、実は今後の展開については全く考えてないのです。
というのも今回のシナリオで双方のNPCがどうなるか私には予想しきれないからです。なので敢えて何も考えず、完全にPLの皆さまに委ねたフリーハンドです。
そんなわけで、今回結果を受けて「あ、これ続きやらなあかん奴だ」となったら続きが出ますし、場合によってはここで完結です。
そんな感じで、皆さまが見せてくれる物をお待ちしてます。

関連NPC


  • 伊佐美 透(kz0243
    人間(リアルブルー)|28才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2018/07/21 06:45

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/13 12:52:01