ゲスト
(ka0000)
タスカービレの温泉宿~安全確認も
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/15 19:00
- 完成日
- 2018/08/07 00:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「いい雰囲気のができたみたいね」
農業振興地「ジェオルジ」役人のフィーネ・リスパルミオはそう言ってキャンドルの入ったグラスを爪先でちょん、とつついた。そんな遊び心にこたえるかのようにグラスの中の炎が揺れた。
「広間での宴会もいいけど、こういうしっとりできるラウンジ的なものも必要だからね」
イ寺鑑(kz0175)はそう頷いてグラスを傾けた。
ここはジェオルジの田舎村「タスカービレ」。そのタスカービレ奥地の森の中に整備した東方風の温泉宿である。
鑑とフィーネが座るのはその温泉旅館離れの作業場。
土間にカウンターをしつらえ、長椅子を並べた開放的な酒場だった。地元特産のチクワを焼くための炭焼きスペースがある。半屋外で庭続きの土間なので野趣味が際立つ。鑑が飲んだのは同じく特産の白ワイン「レ・リリカ」だ。
「そうね。気分良く口説かれちゃいそう」
「口説くって……」
カウンター席に座っていたフィーネ、酒を飲んで隣に座る鑑にしなだれ身を預けた。鑑は慌てたが、それは一瞬。
「……一カ月前なら口説かれたのに」
フィーネ、寂しそうに鑑から離れた。
「え?」
「昔からの許婚との結婚が決まっちゃったわ。悪い話じゃないからいいんだけど、冒険が終わっちゃったな、って感じ」
「……冒険ばっかりも、寂しいもんだよ?」
鑑の手にした酒が揺らぐ。昔日の記憶を呼び覚ますように。
「何があったの」
酒を飲み聞くフィーネ。酒が誘う。普段は踏み込まないところへ。
「強くなるため剣道に打ち込み、強くなって田舎を飛び出し、いない間に田舎の守るべき人たちは帰らぬ人、さ」
酒が揺らぐ。鑑の口は引き結ばれている。
「こっちは学んだことを生かしたいって飛び出たつもりが、やっぱりしがらみの中ってね。役人の職もできるだけ伸ばしたんだけど、任を解かれちゃった」
あーあ、と杯を置くフィーネ。
「いつまでいられるんだ?」
「とうの昔に期限なんて切れてたわよ」
「鬼ザルがいなくなって、その引き金となった甲冑歪虚がいなくなったから?」
「それもあるけど、タスカービレの立て直しが落ち着いたから、ってのが大きいわね」
溜息一つ。
そして顔を上げた。
「餞別、欲しいな」
潤んだ瞳。
ねだるように震える唇。
「感謝、だな。餞別というより」
そして――。
「……一体これまで何人に感謝したの?」
「泣けてくるよ。さよならの感謝ばっかりだ」
熱い瞳で満足そうに聞くフィーネ、鑑のこたえにぷっと吹き出した。
「女たらしにはいい罰よ」
「これが女遊びはしてないんだがね」
鑑が言った瞬間、今度はフィーネから。
「これは慰めよ。辛い記憶は忘れなさいっていう、ね」
再び口づけ。今度はやや軽めに。
「ありがとう。強い女性(ひと)だ」
「それで? 貴方はどうするの?」
「何が?」
改めて聞くフィーネに目を丸くする鑑。
「またさよならするの? ここと」
「今回はここに骨を埋めるつもりだよ。ふるさとを守ってこそのサムライだ」
「本当のふるさとは?」
「……辛い記憶しか残ってないよ。流れ流れて居つきそうになった場所は、どこも。ここだけさ。人やらなにやら残ってるのは」
「それじゃ、これからどうするの?」
改めて聞くフィーネ。
「みんなを呼んでもう一度周囲を警戒。その後は温泉とここで騒ぐさ」
「じゃ、それまでは私もここにいるわね」
というわけで、東方風温泉宿の周辺を索敵して安全確認し、その後温泉と座敷での御膳料理、土間の酒場、そして一泊の宿泊を楽しんでもらえる人、求ム。
●おまけ
「ほへ~、温泉宿かぁ」
ハンターオフィスで依頼の掲示を見ているのは、南那初華(kz0135)。
「た、たまにはいいよね、たまにはいいよね♪」
いそいそと依頼を受けるべく受付嬢の元へとスキップする。
農業振興地「ジェオルジ」役人のフィーネ・リスパルミオはそう言ってキャンドルの入ったグラスを爪先でちょん、とつついた。そんな遊び心にこたえるかのようにグラスの中の炎が揺れた。
「広間での宴会もいいけど、こういうしっとりできるラウンジ的なものも必要だからね」
イ寺鑑(kz0175)はそう頷いてグラスを傾けた。
ここはジェオルジの田舎村「タスカービレ」。そのタスカービレ奥地の森の中に整備した東方風の温泉宿である。
鑑とフィーネが座るのはその温泉旅館離れの作業場。
土間にカウンターをしつらえ、長椅子を並べた開放的な酒場だった。地元特産のチクワを焼くための炭焼きスペースがある。半屋外で庭続きの土間なので野趣味が際立つ。鑑が飲んだのは同じく特産の白ワイン「レ・リリカ」だ。
「そうね。気分良く口説かれちゃいそう」
「口説くって……」
カウンター席に座っていたフィーネ、酒を飲んで隣に座る鑑にしなだれ身を預けた。鑑は慌てたが、それは一瞬。
「……一カ月前なら口説かれたのに」
フィーネ、寂しそうに鑑から離れた。
「え?」
「昔からの許婚との結婚が決まっちゃったわ。悪い話じゃないからいいんだけど、冒険が終わっちゃったな、って感じ」
「……冒険ばっかりも、寂しいもんだよ?」
鑑の手にした酒が揺らぐ。昔日の記憶を呼び覚ますように。
「何があったの」
酒を飲み聞くフィーネ。酒が誘う。普段は踏み込まないところへ。
「強くなるため剣道に打ち込み、強くなって田舎を飛び出し、いない間に田舎の守るべき人たちは帰らぬ人、さ」
酒が揺らぐ。鑑の口は引き結ばれている。
「こっちは学んだことを生かしたいって飛び出たつもりが、やっぱりしがらみの中ってね。役人の職もできるだけ伸ばしたんだけど、任を解かれちゃった」
あーあ、と杯を置くフィーネ。
「いつまでいられるんだ?」
「とうの昔に期限なんて切れてたわよ」
「鬼ザルがいなくなって、その引き金となった甲冑歪虚がいなくなったから?」
「それもあるけど、タスカービレの立て直しが落ち着いたから、ってのが大きいわね」
溜息一つ。
そして顔を上げた。
「餞別、欲しいな」
潤んだ瞳。
ねだるように震える唇。
「感謝、だな。餞別というより」
そして――。
「……一体これまで何人に感謝したの?」
「泣けてくるよ。さよならの感謝ばっかりだ」
熱い瞳で満足そうに聞くフィーネ、鑑のこたえにぷっと吹き出した。
「女たらしにはいい罰よ」
「これが女遊びはしてないんだがね」
鑑が言った瞬間、今度はフィーネから。
「これは慰めよ。辛い記憶は忘れなさいっていう、ね」
再び口づけ。今度はやや軽めに。
「ありがとう。強い女性(ひと)だ」
「それで? 貴方はどうするの?」
「何が?」
改めて聞くフィーネに目を丸くする鑑。
「またさよならするの? ここと」
「今回はここに骨を埋めるつもりだよ。ふるさとを守ってこそのサムライだ」
「本当のふるさとは?」
「……辛い記憶しか残ってないよ。流れ流れて居つきそうになった場所は、どこも。ここだけさ。人やらなにやら残ってるのは」
「それじゃ、これからどうするの?」
改めて聞くフィーネ。
「みんなを呼んでもう一度周囲を警戒。その後は温泉とここで騒ぐさ」
「じゃ、それまでは私もここにいるわね」
というわけで、東方風温泉宿の周辺を索敵して安全確認し、その後温泉と座敷での御膳料理、土間の酒場、そして一泊の宿泊を楽しんでもらえる人、求ム。
●おまけ
「ほへ~、温泉宿かぁ」
ハンターオフィスで依頼の掲示を見ているのは、南那初華(kz0135)。
「た、たまにはいいよね、たまにはいいよね♪」
いそいそと依頼を受けるべく受付嬢の元へとスキップする。
リプレイ本文
●
「ここが鬼ザルが出たという場所か」
レイア・アローネ(ka4082)が森の中の温泉宿を見渡しつつ呟いた。
「いかにも、何かありそうな静けさ……」
その時はどうだったのか。いまは何事もなく静まり返って……。
「えへへぇ、カナちゃんカナちゃん。温泉だよ、温泉~♪」
「仕方ないわね、マナ姉は……すっかりはしゃいじゃって」
にぎやかにピンクいのとエロむらさ……こほん。可愛らしい色合いの服を着た北条・真奈美(ka4064)と大人びた配色のドレスに身を包んだ北条・佳奈美(ka4065)がレイアの前を横切った。
「せっかくだからぁ、村の男の人達のお話も聞きたいなぁー?」
「それってつまり、一緒に過ごすってことね……一緒に」
にこやかに言う真奈美にうふふと微笑する佳奈美。
「温泉宿でやがりますか、少し息抜きにいくのも良さそうでやがりますね」
そこへ新たにシレークス(ka0752)が現れた!
「もう安全、かな? かな?」
狐中・小鳥(ka5484)も一緒である。安全、というのは鬼ザルの脅威の事だが……。
「小鳥、ちょっと付き合いやがれ」
シレークス、小鳥の腕をがしっと掴んで早速温泉の方に連行する。
「はわっ!」
小鳥はシレークスとは逆に森の方を向いてそちらに行こうとしていた。急に後ろに引っ張られたものだから、踏み出した足をピーンと前に掲げたままわたたとバランスを崩す。
「なんで逃げようとしやがるですか!」
「いたただよぅ。……温泉は森の探索の後じゃないかな? かな?」
どしーんした小鳥に不満たらたらのシレークス。住民の安寧の観点では小鳥が正しいだろう。それでもシレークスは聖職者なのか……あ、ごめんなさいこっち睨まないで。
「じゃ、手早く片付けて温泉を堪能しないとな」
今度はレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が通り掛かった。
「そだね。これだけ人数いるんだもん。らくしょーらくしょー」
南那初華(kz0135)も一緒である。
わいわい、がやがや。
とにかく、周りは一気ににぎやかになった。
「……静けさとは無縁のようだが、本当にここが襲われたのか?」
レイア、先ほどまで浸っていた雰囲気をぶち壊され振り向く。
「間違いないはずですよ?」
話を振られたブリジット(ka4843)は穏やかにたたずんだまま、少し後方に視線をやる。
そこでは。
「来てくれて助かるよ、ウーナ」
イ寺鑑(kz0175)がウーナ(ka1439)と話していた。
「あれから気になってたしね。……それより鑑センセ、滞在期限切れたんだって?」
「え? それはフィーネだな」
「……いま一瞬、ギクッとしなかった?」
ウーナが鑑の様子を確認した時だった。
「鑑さーん」
とたたたた、と白く小さな人物が駆け寄って大の字フライングボディアタック!
「わっ! ディーナは相変わらず元気だな?」
受け止める鑑に、そのままハグしてぴっとりくっついたままのディーナ・フェルミ(ka5843)。
「鑑さんも退治に行くの? それとも今日は道場で指導?」
「退治はないはずだけど見回りかな?」
「鑑センセ?」
抱き着いたまま見上げるディーナに微笑する鑑。その横で、ディーナが鑑の手を取って両手で包み、見上げた。
しっかりこたえて、と視線が訴える。
「フィーネ、婚約者の元に帰るんだってさ。楽しかった冒険とお別れだって」
だから安心して、と優しいまなざしに。
その時だった!
「クッソ―。鑑は絶対こっち側だと思ってたのによぉ」
トリプルJ(ka6653)が両手を後頭部に組んでしれっと鑑のそばを通り過ぎた。
「……なんか二枚目っぽいイ寺様にイラッときますが口を出すのも野暮…生暖かく見守りましょう」
続いて多由羅(ka6167)も手で髪を撫でつけつつ素知らぬ振りで通り過ぎ……。
「あの、口に出てますよ?」
ブリジット、さすがにそれはどうでしょうと近くに来た多由羅に進言。
「それよりどうするんだ? 私としてはここを襲った奴らとぜひ相手してみたかったものだが」
レイアはしびれを切らしていた。
「この場を守ったのは、貴女なんですよね。ではその話から……」
「おねーちゃんと一緒におしごとー」
ブリジットの言葉を遮るようにフューリト・クローバー(ka7146)が元気にしゅっぱつー。
おや。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)と穂積 智里(ka6819)も出発したぞ。智里はバスケットを提げているではないか。
「具体的な危険があるわけではないようですから、森林浴と洒落込んでも間違いではないと思いますよ」
「そうかもしれないけどそうじゃないような…」
ハンスの主張に押し切られた模様である。
これに気付いたフューリトがぱあっと花が咲くような笑顔を見せたが……。
「リト、本当に安全なのか確かめる仕事ならば、この仕事の結果が出るまで安全と考えない方がいい」
セシア・クローバー(ka7248)がすぐさま追い付き追い越し注意点を言って聞かせている。
「でも……」
セシアの言葉にフューリトが後ろ髪を引かれるようにハンスと智里を見る。
「ハンターと気付いてすら襲ってくるものがいるか、いればそれを倒してから追加探索、くらいの気持ちで問題ないでしょう」
「うーん、人の気配で逃げる程度の動物なら確かに問題ないですけど…お弁当を広げて襲われやすい状態の方が良いのかもしれませんけど…」
腰に手を回すハンスに、疑問を呈しながらも絡め取られるように流される智里である。
「そうだ、おべんとー」
「寝るからダメだ」
ぱあっ、と再び笑顔のフューリトだがセシアがぴしりと止めた。
その一瞬の間に割り込むようにGacrux(ka2726)が指示を出した。
「地図に書き込んでいきます。手分けして真新しい縄張り跡等無いか調査を」
「山から何かが来ても完っ璧に死守しますからお任せ下さいぃ」
星野 ハナ(ka5852)、留守は任せろとばかりに……なんか調理道具を持っていたり。
この雰囲気に、多由羅の気分も乗って来た。
「ふ…後始末という訳ですか…悪くない」
「よし。後に人手が必要と言うのなら吝かではない。私も協力させて貰おう」
レイアも気分を改めその気になった。
「え? 多由羅さんからは温泉に誘われたような気が……」
「決して! 温泉入って食事貰ってゆっくりしに来たわけではないぞ?!」
ブリジットが暴露しそうなところ、声を大にしてレイアが否定しておくのだった。
●
「南那、様子はどうだ?」
森の中でソウルトーチのオーラを纏ったレイオスが、傍で警戒していた初華に聞いてみた。
「……大丈夫みたいね」
「まあ、そんなところですかねぇ」
初華の返事に、ガクルックスのぼんやりした声。
「あとは……この静けさをどうとるか」
「そうですね。新しい縄張りがあればもうちょっと違う様子も出てくるはず」
腰に手を当て森を見回すレイオスに、地図を畳むガクルックス。
「違う様子って?」
「戻るとしますかねぇ。そこで分かるはず」
「あん、待って」
ガクルックスとレイオス、出掛けたエリアは大丈夫と撤収。初華が後を追った。
さて、トリプルJ。
「まー、手っ取り早くやるぜ?」
「え? え? なんでわたしここにいるのかな、かな?」
道なき道へと踏み込もうとするJの背後で小鳥が目を点にして首を傾げていた。
「鑑につき合わすわけにはいかねーからだろーがよ。行くぜ!」
「ちょっと待ってだよ! 藪の中に入るって聞いてな……引っかかってる引っかかってる!」
山道から外れ低木の下に獣道らしきものを発見すると小鳥の手を引いてずいずい入っていった。小鳥、チャイナ服の裾が枝に引っかかって大変なことになりそうだったり。
手を引いているのは他にもいる。
「ハンスさん……探索はいいんですか?」
右手を引かれて歩く智里が不安そうにハンスに聞く。
ハンスは智里の左手を取りつつどこかに向かっているのだ。周囲を探索している様子はない。
「探索? してますよ。そろそろのはず……ほら、見つけました」
ばさっと枝を払ったハンスの前には小川があった。
「その……いいんでしょうか?」
「この隙を襲ってくれば仕事は完了ですよ」
ちら、と横を見ながらおにぎりを食べようか迷う智里。ハンスの方は岩に座って川に漬けた素足をわざとばしゃばしゃやりつつ、やはりお弁当のおにぎりにパクリ。
(浄化……必要になさそうですし)
智里、結局雰囲気に流されて恋人の隣でおべんとを楽しむのだった。びくっ、と身を震わせたのは腰に手を回されたから。こんなときに、と肩から軽くぶつかって不満を示しておくのだった。
「鬼ザルはいない…か」
こちら、レイア。何かすっかりやる気が失せている様子で。
「その、もうちょっと頑張って探した方がよいのではないでしょうか?」
ブリジットが穏やかに言って聞かせる。
「本当にここにいたのか、多由羅?」
「倒したのは温泉、でしたか」
聞かれた答える多由羅。
「え?」
聞き返すブリジット。
本当にそうなんでしょうか、というより嫌な予感に襲われたと言っていい。
証拠に。
「よし。すぐにそこへ行くぞ!」
「まあそれもいいでしょうなぁ」
「ですが探索が……」
きびすを返すレイアに額の汗をぬぐった多由羅。この様子に慌てるブリジットだが、その時!
――がさっ!
「おねーちゃんが指差す方にいくよー」
「すまない。この先は安全だと思う」
楽しそうに歩くフューリトと周囲の確認に余念のないセシアが木々の間から出てきた。
「何か苦労してそうですね?」
二人の様子に違和感を抱いたブリジットが聞いてみる。
「寝てしまう前に戻りたい、というところだな……ほら、次はこっちだ」
「うん。分かったよおねーちゃんー。僕、こっちに行けばいいんだねー」
というわけで温泉宿の方に戻って行くセシアとフューリト。
「……」
それを見送りレイアが無言の主張。
「……仕方ありませんね」
「はい。戻りましょう」
これに折れる多由羅とブリジットである。
「行ったぞ、ウーナ!」
「任せて!」
この時、鑑とウーナは別の場所で戦闘態勢に入っていた。
――ガウン!
鑑の追い込んだ鹿にウーナのリボルバーが火を噴いた。もう一匹逃げる!
「お鍋ですのーっ!」
ディーナが回り込んでいた!
そのまま振り上げたホーリーメイスで叩き潰す!
「やったなの~♪」
「鬼ザルがいたときは森の動物も逃げてたからな」
「ようやく平和になったってことだね」
満足そうに倒した鹿に抱き着くディーナの元に鑑とウーナも集まって来た。
●
さて、温泉旅館の方では。
「干した布団を取り込め!」
「二階の方はベッドメイクだ」
青竜紅刃流の門下生たちがドタバタと準備に追われていた。男でなだけに少し乱雑か。
――さわっ。
「うっ!?」
取り込もうと布団をつかんだ若い独身門下生の手に、優しく柔らかく女性の手が重ねられた。
「せっかくもふもふになったんだから、布団に触る手は優しくお願いするわ」
佳奈美である。
その隣でも。
――ぴとっ。
「わ!」
「早く取り込んで温泉に入ろっ。えへへ、いろいろお話も聞きたいな!」
真奈美がシーツを取り込もうとバンザイしていた若い門下生に背後から密着!
「そういう事だから、早く作業を終わらせて家族風呂に来てね♪」
むにん、ときょぬーを押しつけてのお願……おねだり。
果たして!
「いや、まさかな……」
半信半疑で家族風呂にきた若い門下生たち。
そこで見たものはッ!
「あら、いらっしゃい♪」
「えへへぇっ♪ カナちゃんと待ってたんだよ!」
大人むらさきビキニに身を包んだ佳奈美が大きな胸の先を向けるように振り向き、ピンクいビキニの真奈美が胸を躍らせるように顔を上げて門下生たちに笑顔を向けた。
というか、蠱惑的に笑っている。
肉感的な身体を窮屈そうにビキニに押し込んで。
どちらもそろいの色違い水着姿で。
「じゃ、背中流してあげるわね」
湯から上がった佳奈美が歩み寄る。門下生たちはそのスタイルにくぎ付けでなすがまま。
「仲良く過ごそーねー」
真奈美もノリノリである。
場面は戻って、旅館の横では。
「まったく、小鳥は行っちまいやがるし!」
――ドゴッ!
シレークスが薪割りをしていた。それも豪快に。
自らの筋力と剛力込めて、おっきな胸は邪魔にならないようそこだけはしとやかに。
「……あの、教会の人ですよね?」
あまりの迫力に遠巻きに見守る門下生が聞いてきた。
「聖職者でやがりますよ!」
――ドゴッ!
懺悔しているのか斬下しているのか、とにかく薪は真っ二つ。
ここで満足そうなディーナを先頭に、鑑とウーナが戻ってきた。
鑑、鹿を背負っている。
「待ってましたよぉ~。出番ですねぇ~」
すかさずペティナイフやミートハンマーを持ったハナがやって来た。
「よぉ、鑑。そっちもかよ」
同時にJも戻ってきた。
どさ、と落としたのは猪である。
「宴会用の肉追加な」
にぃ、とJ。
「死ぬかと思ったんだよ……」
後ろからは小鳥が姿を現した。チャイナ服の裾とかはひっかき傷で破れ髪や服に小枝が引っ付いている。どさりと仕留めたイノシシを下ろし、大きくため息。
実はあれから、Jが凶悪な顔して狩りをしまくっていたのである。
そりゃもうやっかみ混じりのリア充撲滅パワーを推進力にしてすごい勢いで。
「早速、血抜きして解体して調理ですよ~、うふふふふ」
ハナ、大包丁ぎらん。
「え、もう調理するのかな?」
驚く小鳥。
「熟成って上手く腐らせることですからぁ、最近は熟成させずに美味しいジビエが流行ですぅ」
言いつつハナ、すでにドシっと包丁振り下ろして酒で血抜きしながら酒でガシガシ洗っていたり。
「煮込み用にすりおろし玉葱・ヨーグルト・蜂蜜・酒の用意をお願いしますねぇ~。時間は二時間ですから、それまで温泉でゆっくりどうぞ~」
手伝いの門下生に指示を手早く出している。
「それじゃ手伝うんだよ……ふえっ!?」
「いい汗かいた。小鳥、ひとっ風呂付き合いやがれ」
「はわわわ!? 強引だよー!?」
ここでシレークス、小鳥の首根っこを掴んで温泉にゴーである。
●
で、女湯に行ってみると。
「い、意外と空いてるような?」
タオルをボディに巻きつけた小鳥、濃いめの湯煙の中きょろきょろしながら湯舟まで行く。
「空いてやがるならそれで……小鳥、そのタオルはなんでやがりますか!」
「はわっ?!」
びくっと振り返った小鳥が見たのは、聖職者にあるまじきわがままボディをばばーんと惜しげもなく晒し雄々しく立つシレークスの姿。何とも清々しい表情で、安らぎすら見て取れる。
でもって、聖職者は悩める子羊に安らぎを与えるのがお仕事の一つ。
つかつかと前かがみで迷い気味な小鳥に近寄ると……。
「女湯でこんなもの付けてんじゃねぇでやがります!」
シレークス、タオルをつかんで引っぺがした。
「って、これってもしかして……はわわわわっ!」
哀れ小鳥、くるくるあれ~となって湯船にばしゃーん。
なお、この時先客がいなかったわけではない。
「おねーちゃん。僕きょうがんばったよー。汗もちゃんとながしたー」
フューリトがいた。
湯に漬かってうつらうつらしている。
「リト、湯船では絶対寝るな、寝たら冷たいアイスも牛乳も買わないぞ」
隣でまったりするセシア、ジト目。
「だぁいじょおぶだよーおねーちゃん……ちゃんと気持ちいいから寝ちゃうかもー」
「言ってることが変わってきたぞ、リト。フツーは湯船で寝ない! しかもあっちの騒ぎもあるしフツー寝落ちしない!」
セシア、ばしゃーんしている小鳥とシレークスの方を見つつ語気を強める。揉み合っててなかなか仲睦まじくにぎやかである。
「うんうん、寝落ちしない~」
「寄っかかるな。ほら、ここで寝たら死ぬぞ?」
「えへへー、おねーちゃん優しい~」
「だから寄っかかるな、寝るな、わっ!」
というわけで、ばしゃ~ん。
こちら、男湯。
「あー、サッパリするな」
じっくりと湯に漬かり、空を仰ぐようにしてレイオスが声を漏らした。
「探索の結果も問題なかっですね」
ガクルックスも一緒だ。うーん、と両手を上げて伸びをする隣のレイオスの微笑ましさにわずかな笑みをたたえている。
「女湯の方は賑やかだな」
一緒にいたJ、ちょぃと遠くからの悲鳴と派手な湯の音を気にした。
「おや、気になりますか?」
「まあな、初華の奴がドジ踏んでねぇか……」
冷笑交じりに聞いてきたガクルックスに、そんなんじぇねぇと答えるJ。
「南那か……まあ、女湯でなら問題は……」
レイオスがそう言ったときだった!
「ガクさーん、来たよ~」
何と、初華が入ってきたではないか。一応タオルで身を包んでいるが!
「南那を呼んでたのか?」
「……温泉の後ちょっとお付き合いをとは言いましたが、まさかそう間違えますか」
振り返るレイオスになんでそうなりますかねぇ、なガクルックス。
「とにかくここは男湯だ。初華、出直してこい」
「ほへ? ここって家族湯じゃ……」
Jに言われ慌てて出て確認した初華。直後に「きゃー」と悲鳴が上がる。
でもって、ドタバタ戻って来る初華。
「ご、ごめん。また後でねっ!」
顔を出してそれだけ言って逃げる。
「なんでまたわざわざ入って言いに来るかなぁ」
「いやはや」
ため息をつくレイオスとガクルックス。
「ま、素直なのはいいとこなんじゃねぇのか?」
やれやれ、とJ。
時は遡り、家族湯。
「うふふ、ありがと」
佳奈美、門下生に背中を流してもらって艶やかな笑みを浮かべ振り返り礼を言っていた。まさかこうなるとは思ってみなかった門下生、純だったらしくとても丁寧に、下心のないように懸命に洗っていたのでえへへと満足そうだ。
「あっ、ごめん」
「え? べつにいいよ~。それより、また後でね~」
真奈美の方は門下生の手がちょっと胸に当たったようだったが、天使のような笑みを浮かべていた。
「そうだな。みなさん戻ってきてみたいだし」
立場上、急いで出る門下生たちだった。真奈美と佳奈美も上がる。
その後、入って来たのはハンスと智里だった。
「折角の家族風呂、相応に楽しまないと誘ってくれたイ寺さんに申し訳ないでしょう?」
「そ、そうではありますけど……」
少し遠慮がちだった智里だが、ハンスの背中を流すときは目を輝かせ、一生懸命にごしごし。
「マウジーは?」
「わ、私は……腕とか足なら……」
ハンスが紳士的に応じたのでほっとする智里。
しかし!
「ひゃっ!」
「脚なら、とマウジーは言いましたが?」
「い、言いましたけど~」
太腿付け根付近の内側を洗われるとは思わなかったようで。もちろんタオルでしっかり隠している。
そんなことがあったので智里、湯船に隣り合わせで浸かったときは下の方ばかり気にすることになる。
これは実際正解で……。
「ひゃん!」
「どうしました? 足の間に座らせただけでしょう?」
智里の腰に手をやり飛び上がらせたハンス、そのまま前に回り込ませ股の間に囲い込んだ。
「ですけど……見える所にキスマークは駄目ですからっ…ひゃん」
「マウジーは温泉は嫌いのようですね」
「日本人ですから温泉大好きですけどっ…今からまだみんなでごはんがっ…」
とかなんとかばしゃばしゃやってたり。
家族風呂でそんな濃密なやり取りがある中、女湯では客が入れ替わっていた。
「西方育ちの私にはあまりなじみがないのですがこういうのも悪くありませんね」
ブリジットが湯船につかったまま白い腕を伸ばし、もう一方の手で湯を馴染ませるように二の腕を撫でていた。ふうっ、とため息をつく顔はすっかりいい気分でほんのり紅に染まっていた。
「ま、まあここには鬼ザル退治に来て、その報酬としてゆっくりしているだけだぞ?」
豊満な胸を右手で隠しつつ頬を染めて漬かるレイア、どうやら温泉を心待ちにしていたよ……あ、こっち睨まれた。ごめんなさい。温泉なんて別に気にもしてなかったけど成り行き上浸かっただけです。
「鬼ザル、いなくて良かったですね。……そういえば、温泉でも戦ったって言っていましたか?」
ブリジット、慣れた風に岩の並びの具合のいい場所でゆったりしている多由羅に話を振った。
「そうですねぇ……」
多由羅、当時を思い出すように天を仰ぎ肯定。おっきな胸は湯から出てしまうがそこはそれ、濃い湯煙がもわわんと。
「……一応警戒しておくか、ブリジット」
「そ、そうですね。簡単な武器くらい持ってきておきましょうか」
二人が武器を取りに湯から上がり、脱衣所に近付こうとした時だった!
――ごそっ……。
「何だ?」
「堂々とはしてない……気配ですね」
レイアの瞳が戦闘態勢になり、ブリジットが不審そうにする。
「……のぞきとはまた言い訳の利かないことを」
多由羅も湯から上がってやって来た。
――ごそっ、ごそっ……。
さらに脱衣所から気配。脱いでいる、というより何かを置いてほかの脱衣衣装を確認しているようだ。
「下着泥棒……か」
「できれば穏便に済ませたいですが……」
レイアが腰を落とし、ブリジットが息を整えた。
「……殺り合いたがっているとしか思えませんね」
多由羅の声を合図に、だっと三人が駆け出し機先を制した!
――がらっ!
「覚悟するがいい、鬼ザル!」
「あまり褒められた行為ではありませんよ」
「さあ、共に死にましょう―――。」
レイア、ブリジット、多由羅が踏み込んで見たものはッ!
「ほへっ?!Σ な、何? なんなのようっ!」
タオルにくるまっていた初華だった。三人の剣幕に気圧され、涙目。
「え、ええと。さっき家族湯と間違えて思いっきり男湯に行っちゃったから、今度はちゃんと入ってる人の脱いだ服を調べて女性だけって確認してから入ろうと……」
とにかく、一件落着。
この頃、家族湯。
「なあ、本当にいいのか?」
ウーナは髪をまとめ上げ、タオルを巻いて胸をぎゅっぎゅと絞り込むようにタオルを巻いていたとき、鑑の声を聞いた。
「前にちゃんとねだったでしょ? 家族になるなら普通じゃない?」
振り返ると鑑、すでに腰にタオルを巻いた状態で。
そこにディーナが抱き着いている。
「家族になるなら、ウーナちゃんも鑑さんも一緒に入ろうなの」
「鑑センセ、嫌なんだ?」
ウーナが意地悪く聞きつつ湯船の方に。
「嫌じゃないさ。……行こう」
「良かったなの」
というわけで、三人でちゃぽん。
鑑、両手に花状態。
「家族、か……」
「どうしたの?」
呟く鑑に身を寄せて聞くウーナ。ぴぴんと大切そうな話だと感じたディーナも身を寄せる。
「失うだけだったから、戸惑ってるのさ。しかも若くて……」
「鑑センセ?」
ウーナ、鑑の腕に身を絡ませた。タオルで絞めつけた胸に鑑の腕が当たる。
そして見上げる瞳。
「ウーナ?」
「あたしたち最初にあってから何年か覚えてる? 3年だよ?」
「そうだな、結構な時間だ。世話にもなった」
ぐっと顎を上げて迫るウーナ。大人の瞳。
「これだけ長い付き合いなんだから、もっと頼ってくれても……心を近付けても……ううん」
が、ねだるような瞳はここまで。
瞬間、湯が跳ねた。
誰かが身を上げた気配。
誰かが何かを受け止めた気配。
「?」
ほぼ同時に無邪気に抱き着いていたウーナが、気配の変化に顔を上げた。
――ばしゃん。
「攻めるとやっぱり強いな、ウーナは。今日はこっちから前の返事で同じことしようとしたのに」
「ふーんだ。もたもたしてる鑑センセが悪いんじゃない♪」
ウーナの方からキスしたらしい。
●
大広間では風呂上がりのハンターたちを待ちかねたように座布団と膳が並んでいた。
「お、旨そうじゃねぇか!」
風呂上がりでほくほくのJが早速座る。
「お肉は醤油だれや塩胡椒・大蒜・カレー粉等塗し薄切りにして焼いてますぅ」
「へー、ふぐ刺しみたいに皿に盛りつけたか。こういう盛り付けや器は日本の宿を思い出すな」
ハナの説明にレイオスが満足そう。
「角煮は炭酸で煮込んでより柔らかく、トラウトは焼きほぐし胡麻と一緒に混ぜご飯、野草は天婦羅。地場物宴会料理完成ですぅ」
気をよくしたハナ、副菜やお鉢の中なども解説。地元食材を活用しきった見事な腕前である。
「確かに……すごいですが……気になります」
智里は料理に感心しつつもなぜか首筋を気にしている。そういえば浴衣の襟を上げて何かを隠しているような?
「さて、何のことでしょうか?」
ハンス、すっとぼけ。
「これは美味しいですね」
ガクルックス、天婦羅をさくさく楽しんでいる。
「こういう食いでのあるのは好みだぜ!」
Jは肉をがつがつ。
「ご飯ものはやっぱりほっとするな」
レイオス、焼き魚の風味の染みたご飯をじっくり味わっていたり。
というわけで、一仕事終えたハナは皆の食事後、ゆっくりと温泉。
「やっぱり仕事した後は温泉だから」
「まあ、どうしてもというならぁ」
初華に連れてこられたようで。
ちなみに、家族風呂で初華もハナもタオルに身を包んでいる。
「ま、もっかい風呂は定番だしな」
Jがいる。
「初華は確か、RBの転移者でしたか?」
ガクルックスもいる。
「うん。そうだけど」
「……今もRBに帰りたいですか」
無邪気に返答する初華に、慎重に聞いてみる。
それを初華、感じ取った。
「どっちでもいい。もう流され慣れちゃったから。……でも」
「でも?」
ガクルックス、初華の疲れた風な、寂しそうな顔を見逃さない。
「お父さんとお母さんが無事かどうかは、知っておきたいな……それでどうなるってわけじゃないけど」
(逃げない子ですね……良くも悪くも)
先の、男湯から逃げる際に謝りに戻ってきたことを思い出すガクルックスだった。
一緒にのんびりしていたレイオスもその表情に気付いた。
「そういや南那はいつも働いてるな。たまの骨休めくらい良いと思うぜ」
「それじゃ、バーにお酒に飲みに行くのもいいですよぅ」
レイオスとハナの勧めで、離れのバーに。
そこではすでに先客が!
「おかわり! 次の酒、持ってくるです!」
「ちょ、お酒飲み過ぎじゃないかな!?」
空いた杯を差し出すシレークスに、はわわな小鳥。
「はぁ~、たまんねぇですねぇ♪」
シレークスはお代わりもらってぷはー。小鳥は大丈夫かな、とか心配そうにノンアルコールをちびり。
それにシレークス、かちんときた。
「小鳥、もっとばーっと飲みやがれです。ほら、こういう風に!」
「ふわわわっ! 此処ではダメだよ、はわわわわ!? 脱がしたらダメだってば!?」
飲んだくれの自称兼一応聖職者の言葉を解説すると、いつもの脱ぎっぷりのように思い切りよく飲め、ということのよう……あ、小鳥が涙目でこっち見てる。ええと……彼女の言い分を解説すると、いつも脱いでるわけじゃないし脱ぎっぷりもいいわけじゃないそうです。とにかくディフェンス頑張れー。
さて、もう一組。
「私は成人してるの問題ないの」
ディーナがかぱかぱ酒を空けている。
「……」
鑑、困ったようにウーナの方を向くと。
「パイロットはスクランブルがあるから無暗に飲まないもんだけど、今日はね」
大人なら当然、とばかりにウーナも酒を飲んでいる。
「鑑さん大好き~~」
あー。ディーナ、酔っぱらって抱き着いた。これは離れそうにもない。抱き枕状態。
「ディーナ?」
「やなの一緒に寝るのー」
困った風にウーナを見ると、攻撃的な瞳で立ち上がった。
「いいよ。これから二人で、きっちりお世話するんだからね!」
寝室で三人一緒に寝たようで。
「結局私は一度も「てっぽう」を使いませんでしたし…。スタイルを変えるつもりは全くありませんが、最後に少しだけ撃ってみますか…」
酔った余興に多由羅は銃を構えているが……遠くのマンターゲットにはかすりもせず。
「……ふっ、秘剣で遠くの敵も斬ることの出来る私にとってやはりてっぽうなど無用の長物…」
「仕方ありません。勇者は温泉で鬼ザルと戦い村を守るも銃はからきし~♪」
「ブリジット様、なぜ歌を!」
「え? これでも吟遊詩人の端くれですから」
ががん、と振り返る多由羅に困った風なブリジット。
「うむ、チクワもうまいな」
レイアはお酒の方に夢中で。
前後するが、家族湯では。
「水音の分此方の方が響かないかと思いましてね」
「そんな風に思うの、ハンスさんだけですからっ」
ハンスと智里である。
キスの音が響いていたり。
でもって、酒場。
「お仕事がんばって、温泉気持ちよくて、ご飯おいしくて、お星様綺麗だったから、いい1日ー」
「あぁ、いい1日だったな」
フューリトとセシアは夜空の星を見上げている。
「……でも、お前は少し寝すぎだ」
セシア、振り回されて少し眠い。
「……本当にいい星空ですよ」
「また酔っぱらうからノンアルコールを奢ったのに……」
天を見上げるガクルックスに、横を心配するレイオス。
「ゴメン、のぼせたみたい……」
「仕方ねぇ。ほら、マッサージしてやるから床の間いくぞ」
くらくらの初華をJがおんぶしていたり。
さらに向こうでは。
「じゃあねぇ、あたし達の部屋でもっと色々とお話聞かせてほしいなぁっ♪」
「仕方ないからお相手してあげましょうかね」
若手門下生と飲んでいた真奈美と佳奈美が寝室へ。
それぞれ、平和になったこの場所を実感しつつ。
夜は更ける――。
「ここが鬼ザルが出たという場所か」
レイア・アローネ(ka4082)が森の中の温泉宿を見渡しつつ呟いた。
「いかにも、何かありそうな静けさ……」
その時はどうだったのか。いまは何事もなく静まり返って……。
「えへへぇ、カナちゃんカナちゃん。温泉だよ、温泉~♪」
「仕方ないわね、マナ姉は……すっかりはしゃいじゃって」
にぎやかにピンクいのとエロむらさ……こほん。可愛らしい色合いの服を着た北条・真奈美(ka4064)と大人びた配色のドレスに身を包んだ北条・佳奈美(ka4065)がレイアの前を横切った。
「せっかくだからぁ、村の男の人達のお話も聞きたいなぁー?」
「それってつまり、一緒に過ごすってことね……一緒に」
にこやかに言う真奈美にうふふと微笑する佳奈美。
「温泉宿でやがりますか、少し息抜きにいくのも良さそうでやがりますね」
そこへ新たにシレークス(ka0752)が現れた!
「もう安全、かな? かな?」
狐中・小鳥(ka5484)も一緒である。安全、というのは鬼ザルの脅威の事だが……。
「小鳥、ちょっと付き合いやがれ」
シレークス、小鳥の腕をがしっと掴んで早速温泉の方に連行する。
「はわっ!」
小鳥はシレークスとは逆に森の方を向いてそちらに行こうとしていた。急に後ろに引っ張られたものだから、踏み出した足をピーンと前に掲げたままわたたとバランスを崩す。
「なんで逃げようとしやがるですか!」
「いたただよぅ。……温泉は森の探索の後じゃないかな? かな?」
どしーんした小鳥に不満たらたらのシレークス。住民の安寧の観点では小鳥が正しいだろう。それでもシレークスは聖職者なのか……あ、ごめんなさいこっち睨まないで。
「じゃ、手早く片付けて温泉を堪能しないとな」
今度はレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が通り掛かった。
「そだね。これだけ人数いるんだもん。らくしょーらくしょー」
南那初華(kz0135)も一緒である。
わいわい、がやがや。
とにかく、周りは一気ににぎやかになった。
「……静けさとは無縁のようだが、本当にここが襲われたのか?」
レイア、先ほどまで浸っていた雰囲気をぶち壊され振り向く。
「間違いないはずですよ?」
話を振られたブリジット(ka4843)は穏やかにたたずんだまま、少し後方に視線をやる。
そこでは。
「来てくれて助かるよ、ウーナ」
イ寺鑑(kz0175)がウーナ(ka1439)と話していた。
「あれから気になってたしね。……それより鑑センセ、滞在期限切れたんだって?」
「え? それはフィーネだな」
「……いま一瞬、ギクッとしなかった?」
ウーナが鑑の様子を確認した時だった。
「鑑さーん」
とたたたた、と白く小さな人物が駆け寄って大の字フライングボディアタック!
「わっ! ディーナは相変わらず元気だな?」
受け止める鑑に、そのままハグしてぴっとりくっついたままのディーナ・フェルミ(ka5843)。
「鑑さんも退治に行くの? それとも今日は道場で指導?」
「退治はないはずだけど見回りかな?」
「鑑センセ?」
抱き着いたまま見上げるディーナに微笑する鑑。その横で、ディーナが鑑の手を取って両手で包み、見上げた。
しっかりこたえて、と視線が訴える。
「フィーネ、婚約者の元に帰るんだってさ。楽しかった冒険とお別れだって」
だから安心して、と優しいまなざしに。
その時だった!
「クッソ―。鑑は絶対こっち側だと思ってたのによぉ」
トリプルJ(ka6653)が両手を後頭部に組んでしれっと鑑のそばを通り過ぎた。
「……なんか二枚目っぽいイ寺様にイラッときますが口を出すのも野暮…生暖かく見守りましょう」
続いて多由羅(ka6167)も手で髪を撫でつけつつ素知らぬ振りで通り過ぎ……。
「あの、口に出てますよ?」
ブリジット、さすがにそれはどうでしょうと近くに来た多由羅に進言。
「それよりどうするんだ? 私としてはここを襲った奴らとぜひ相手してみたかったものだが」
レイアはしびれを切らしていた。
「この場を守ったのは、貴女なんですよね。ではその話から……」
「おねーちゃんと一緒におしごとー」
ブリジットの言葉を遮るようにフューリト・クローバー(ka7146)が元気にしゅっぱつー。
おや。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)と穂積 智里(ka6819)も出発したぞ。智里はバスケットを提げているではないか。
「具体的な危険があるわけではないようですから、森林浴と洒落込んでも間違いではないと思いますよ」
「そうかもしれないけどそうじゃないような…」
ハンスの主張に押し切られた模様である。
これに気付いたフューリトがぱあっと花が咲くような笑顔を見せたが……。
「リト、本当に安全なのか確かめる仕事ならば、この仕事の結果が出るまで安全と考えない方がいい」
セシア・クローバー(ka7248)がすぐさま追い付き追い越し注意点を言って聞かせている。
「でも……」
セシアの言葉にフューリトが後ろ髪を引かれるようにハンスと智里を見る。
「ハンターと気付いてすら襲ってくるものがいるか、いればそれを倒してから追加探索、くらいの気持ちで問題ないでしょう」
「うーん、人の気配で逃げる程度の動物なら確かに問題ないですけど…お弁当を広げて襲われやすい状態の方が良いのかもしれませんけど…」
腰に手を回すハンスに、疑問を呈しながらも絡め取られるように流される智里である。
「そうだ、おべんとー」
「寝るからダメだ」
ぱあっ、と再び笑顔のフューリトだがセシアがぴしりと止めた。
その一瞬の間に割り込むようにGacrux(ka2726)が指示を出した。
「地図に書き込んでいきます。手分けして真新しい縄張り跡等無いか調査を」
「山から何かが来ても完っ璧に死守しますからお任せ下さいぃ」
星野 ハナ(ka5852)、留守は任せろとばかりに……なんか調理道具を持っていたり。
この雰囲気に、多由羅の気分も乗って来た。
「ふ…後始末という訳ですか…悪くない」
「よし。後に人手が必要と言うのなら吝かではない。私も協力させて貰おう」
レイアも気分を改めその気になった。
「え? 多由羅さんからは温泉に誘われたような気が……」
「決して! 温泉入って食事貰ってゆっくりしに来たわけではないぞ?!」
ブリジットが暴露しそうなところ、声を大にしてレイアが否定しておくのだった。
●
「南那、様子はどうだ?」
森の中でソウルトーチのオーラを纏ったレイオスが、傍で警戒していた初華に聞いてみた。
「……大丈夫みたいね」
「まあ、そんなところですかねぇ」
初華の返事に、ガクルックスのぼんやりした声。
「あとは……この静けさをどうとるか」
「そうですね。新しい縄張りがあればもうちょっと違う様子も出てくるはず」
腰に手を当て森を見回すレイオスに、地図を畳むガクルックス。
「違う様子って?」
「戻るとしますかねぇ。そこで分かるはず」
「あん、待って」
ガクルックスとレイオス、出掛けたエリアは大丈夫と撤収。初華が後を追った。
さて、トリプルJ。
「まー、手っ取り早くやるぜ?」
「え? え? なんでわたしここにいるのかな、かな?」
道なき道へと踏み込もうとするJの背後で小鳥が目を点にして首を傾げていた。
「鑑につき合わすわけにはいかねーからだろーがよ。行くぜ!」
「ちょっと待ってだよ! 藪の中に入るって聞いてな……引っかかってる引っかかってる!」
山道から外れ低木の下に獣道らしきものを発見すると小鳥の手を引いてずいずい入っていった。小鳥、チャイナ服の裾が枝に引っかかって大変なことになりそうだったり。
手を引いているのは他にもいる。
「ハンスさん……探索はいいんですか?」
右手を引かれて歩く智里が不安そうにハンスに聞く。
ハンスは智里の左手を取りつつどこかに向かっているのだ。周囲を探索している様子はない。
「探索? してますよ。そろそろのはず……ほら、見つけました」
ばさっと枝を払ったハンスの前には小川があった。
「その……いいんでしょうか?」
「この隙を襲ってくれば仕事は完了ですよ」
ちら、と横を見ながらおにぎりを食べようか迷う智里。ハンスの方は岩に座って川に漬けた素足をわざとばしゃばしゃやりつつ、やはりお弁当のおにぎりにパクリ。
(浄化……必要になさそうですし)
智里、結局雰囲気に流されて恋人の隣でおべんとを楽しむのだった。びくっ、と身を震わせたのは腰に手を回されたから。こんなときに、と肩から軽くぶつかって不満を示しておくのだった。
「鬼ザルはいない…か」
こちら、レイア。何かすっかりやる気が失せている様子で。
「その、もうちょっと頑張って探した方がよいのではないでしょうか?」
ブリジットが穏やかに言って聞かせる。
「本当にここにいたのか、多由羅?」
「倒したのは温泉、でしたか」
聞かれた答える多由羅。
「え?」
聞き返すブリジット。
本当にそうなんでしょうか、というより嫌な予感に襲われたと言っていい。
証拠に。
「よし。すぐにそこへ行くぞ!」
「まあそれもいいでしょうなぁ」
「ですが探索が……」
きびすを返すレイアに額の汗をぬぐった多由羅。この様子に慌てるブリジットだが、その時!
――がさっ!
「おねーちゃんが指差す方にいくよー」
「すまない。この先は安全だと思う」
楽しそうに歩くフューリトと周囲の確認に余念のないセシアが木々の間から出てきた。
「何か苦労してそうですね?」
二人の様子に違和感を抱いたブリジットが聞いてみる。
「寝てしまう前に戻りたい、というところだな……ほら、次はこっちだ」
「うん。分かったよおねーちゃんー。僕、こっちに行けばいいんだねー」
というわけで温泉宿の方に戻って行くセシアとフューリト。
「……」
それを見送りレイアが無言の主張。
「……仕方ありませんね」
「はい。戻りましょう」
これに折れる多由羅とブリジットである。
「行ったぞ、ウーナ!」
「任せて!」
この時、鑑とウーナは別の場所で戦闘態勢に入っていた。
――ガウン!
鑑の追い込んだ鹿にウーナのリボルバーが火を噴いた。もう一匹逃げる!
「お鍋ですのーっ!」
ディーナが回り込んでいた!
そのまま振り上げたホーリーメイスで叩き潰す!
「やったなの~♪」
「鬼ザルがいたときは森の動物も逃げてたからな」
「ようやく平和になったってことだね」
満足そうに倒した鹿に抱き着くディーナの元に鑑とウーナも集まって来た。
●
さて、温泉旅館の方では。
「干した布団を取り込め!」
「二階の方はベッドメイクだ」
青竜紅刃流の門下生たちがドタバタと準備に追われていた。男でなだけに少し乱雑か。
――さわっ。
「うっ!?」
取り込もうと布団をつかんだ若い独身門下生の手に、優しく柔らかく女性の手が重ねられた。
「せっかくもふもふになったんだから、布団に触る手は優しくお願いするわ」
佳奈美である。
その隣でも。
――ぴとっ。
「わ!」
「早く取り込んで温泉に入ろっ。えへへ、いろいろお話も聞きたいな!」
真奈美がシーツを取り込もうとバンザイしていた若い門下生に背後から密着!
「そういう事だから、早く作業を終わらせて家族風呂に来てね♪」
むにん、ときょぬーを押しつけてのお願……おねだり。
果たして!
「いや、まさかな……」
半信半疑で家族風呂にきた若い門下生たち。
そこで見たものはッ!
「あら、いらっしゃい♪」
「えへへぇっ♪ カナちゃんと待ってたんだよ!」
大人むらさきビキニに身を包んだ佳奈美が大きな胸の先を向けるように振り向き、ピンクいビキニの真奈美が胸を躍らせるように顔を上げて門下生たちに笑顔を向けた。
というか、蠱惑的に笑っている。
肉感的な身体を窮屈そうにビキニに押し込んで。
どちらもそろいの色違い水着姿で。
「じゃ、背中流してあげるわね」
湯から上がった佳奈美が歩み寄る。門下生たちはそのスタイルにくぎ付けでなすがまま。
「仲良く過ごそーねー」
真奈美もノリノリである。
場面は戻って、旅館の横では。
「まったく、小鳥は行っちまいやがるし!」
――ドゴッ!
シレークスが薪割りをしていた。それも豪快に。
自らの筋力と剛力込めて、おっきな胸は邪魔にならないようそこだけはしとやかに。
「……あの、教会の人ですよね?」
あまりの迫力に遠巻きに見守る門下生が聞いてきた。
「聖職者でやがりますよ!」
――ドゴッ!
懺悔しているのか斬下しているのか、とにかく薪は真っ二つ。
ここで満足そうなディーナを先頭に、鑑とウーナが戻ってきた。
鑑、鹿を背負っている。
「待ってましたよぉ~。出番ですねぇ~」
すかさずペティナイフやミートハンマーを持ったハナがやって来た。
「よぉ、鑑。そっちもかよ」
同時にJも戻ってきた。
どさ、と落としたのは猪である。
「宴会用の肉追加な」
にぃ、とJ。
「死ぬかと思ったんだよ……」
後ろからは小鳥が姿を現した。チャイナ服の裾とかはひっかき傷で破れ髪や服に小枝が引っ付いている。どさりと仕留めたイノシシを下ろし、大きくため息。
実はあれから、Jが凶悪な顔して狩りをしまくっていたのである。
そりゃもうやっかみ混じりのリア充撲滅パワーを推進力にしてすごい勢いで。
「早速、血抜きして解体して調理ですよ~、うふふふふ」
ハナ、大包丁ぎらん。
「え、もう調理するのかな?」
驚く小鳥。
「熟成って上手く腐らせることですからぁ、最近は熟成させずに美味しいジビエが流行ですぅ」
言いつつハナ、すでにドシっと包丁振り下ろして酒で血抜きしながら酒でガシガシ洗っていたり。
「煮込み用にすりおろし玉葱・ヨーグルト・蜂蜜・酒の用意をお願いしますねぇ~。時間は二時間ですから、それまで温泉でゆっくりどうぞ~」
手伝いの門下生に指示を手早く出している。
「それじゃ手伝うんだよ……ふえっ!?」
「いい汗かいた。小鳥、ひとっ風呂付き合いやがれ」
「はわわわ!? 強引だよー!?」
ここでシレークス、小鳥の首根っこを掴んで温泉にゴーである。
●
で、女湯に行ってみると。
「い、意外と空いてるような?」
タオルをボディに巻きつけた小鳥、濃いめの湯煙の中きょろきょろしながら湯舟まで行く。
「空いてやがるならそれで……小鳥、そのタオルはなんでやがりますか!」
「はわっ?!」
びくっと振り返った小鳥が見たのは、聖職者にあるまじきわがままボディをばばーんと惜しげもなく晒し雄々しく立つシレークスの姿。何とも清々しい表情で、安らぎすら見て取れる。
でもって、聖職者は悩める子羊に安らぎを与えるのがお仕事の一つ。
つかつかと前かがみで迷い気味な小鳥に近寄ると……。
「女湯でこんなもの付けてんじゃねぇでやがります!」
シレークス、タオルをつかんで引っぺがした。
「って、これってもしかして……はわわわわっ!」
哀れ小鳥、くるくるあれ~となって湯船にばしゃーん。
なお、この時先客がいなかったわけではない。
「おねーちゃん。僕きょうがんばったよー。汗もちゃんとながしたー」
フューリトがいた。
湯に漬かってうつらうつらしている。
「リト、湯船では絶対寝るな、寝たら冷たいアイスも牛乳も買わないぞ」
隣でまったりするセシア、ジト目。
「だぁいじょおぶだよーおねーちゃん……ちゃんと気持ちいいから寝ちゃうかもー」
「言ってることが変わってきたぞ、リト。フツーは湯船で寝ない! しかもあっちの騒ぎもあるしフツー寝落ちしない!」
セシア、ばしゃーんしている小鳥とシレークスの方を見つつ語気を強める。揉み合っててなかなか仲睦まじくにぎやかである。
「うんうん、寝落ちしない~」
「寄っかかるな。ほら、ここで寝たら死ぬぞ?」
「えへへー、おねーちゃん優しい~」
「だから寄っかかるな、寝るな、わっ!」
というわけで、ばしゃ~ん。
こちら、男湯。
「あー、サッパリするな」
じっくりと湯に漬かり、空を仰ぐようにしてレイオスが声を漏らした。
「探索の結果も問題なかっですね」
ガクルックスも一緒だ。うーん、と両手を上げて伸びをする隣のレイオスの微笑ましさにわずかな笑みをたたえている。
「女湯の方は賑やかだな」
一緒にいたJ、ちょぃと遠くからの悲鳴と派手な湯の音を気にした。
「おや、気になりますか?」
「まあな、初華の奴がドジ踏んでねぇか……」
冷笑交じりに聞いてきたガクルックスに、そんなんじぇねぇと答えるJ。
「南那か……まあ、女湯でなら問題は……」
レイオスがそう言ったときだった!
「ガクさーん、来たよ~」
何と、初華が入ってきたではないか。一応タオルで身を包んでいるが!
「南那を呼んでたのか?」
「……温泉の後ちょっとお付き合いをとは言いましたが、まさかそう間違えますか」
振り返るレイオスになんでそうなりますかねぇ、なガクルックス。
「とにかくここは男湯だ。初華、出直してこい」
「ほへ? ここって家族湯じゃ……」
Jに言われ慌てて出て確認した初華。直後に「きゃー」と悲鳴が上がる。
でもって、ドタバタ戻って来る初華。
「ご、ごめん。また後でねっ!」
顔を出してそれだけ言って逃げる。
「なんでまたわざわざ入って言いに来るかなぁ」
「いやはや」
ため息をつくレイオスとガクルックス。
「ま、素直なのはいいとこなんじゃねぇのか?」
やれやれ、とJ。
時は遡り、家族湯。
「うふふ、ありがと」
佳奈美、門下生に背中を流してもらって艶やかな笑みを浮かべ振り返り礼を言っていた。まさかこうなるとは思ってみなかった門下生、純だったらしくとても丁寧に、下心のないように懸命に洗っていたのでえへへと満足そうだ。
「あっ、ごめん」
「え? べつにいいよ~。それより、また後でね~」
真奈美の方は門下生の手がちょっと胸に当たったようだったが、天使のような笑みを浮かべていた。
「そうだな。みなさん戻ってきてみたいだし」
立場上、急いで出る門下生たちだった。真奈美と佳奈美も上がる。
その後、入って来たのはハンスと智里だった。
「折角の家族風呂、相応に楽しまないと誘ってくれたイ寺さんに申し訳ないでしょう?」
「そ、そうではありますけど……」
少し遠慮がちだった智里だが、ハンスの背中を流すときは目を輝かせ、一生懸命にごしごし。
「マウジーは?」
「わ、私は……腕とか足なら……」
ハンスが紳士的に応じたのでほっとする智里。
しかし!
「ひゃっ!」
「脚なら、とマウジーは言いましたが?」
「い、言いましたけど~」
太腿付け根付近の内側を洗われるとは思わなかったようで。もちろんタオルでしっかり隠している。
そんなことがあったので智里、湯船に隣り合わせで浸かったときは下の方ばかり気にすることになる。
これは実際正解で……。
「ひゃん!」
「どうしました? 足の間に座らせただけでしょう?」
智里の腰に手をやり飛び上がらせたハンス、そのまま前に回り込ませ股の間に囲い込んだ。
「ですけど……見える所にキスマークは駄目ですからっ…ひゃん」
「マウジーは温泉は嫌いのようですね」
「日本人ですから温泉大好きですけどっ…今からまだみんなでごはんがっ…」
とかなんとかばしゃばしゃやってたり。
家族風呂でそんな濃密なやり取りがある中、女湯では客が入れ替わっていた。
「西方育ちの私にはあまりなじみがないのですがこういうのも悪くありませんね」
ブリジットが湯船につかったまま白い腕を伸ばし、もう一方の手で湯を馴染ませるように二の腕を撫でていた。ふうっ、とため息をつく顔はすっかりいい気分でほんのり紅に染まっていた。
「ま、まあここには鬼ザル退治に来て、その報酬としてゆっくりしているだけだぞ?」
豊満な胸を右手で隠しつつ頬を染めて漬かるレイア、どうやら温泉を心待ちにしていたよ……あ、こっち睨まれた。ごめんなさい。温泉なんて別に気にもしてなかったけど成り行き上浸かっただけです。
「鬼ザル、いなくて良かったですね。……そういえば、温泉でも戦ったって言っていましたか?」
ブリジット、慣れた風に岩の並びの具合のいい場所でゆったりしている多由羅に話を振った。
「そうですねぇ……」
多由羅、当時を思い出すように天を仰ぎ肯定。おっきな胸は湯から出てしまうがそこはそれ、濃い湯煙がもわわんと。
「……一応警戒しておくか、ブリジット」
「そ、そうですね。簡単な武器くらい持ってきておきましょうか」
二人が武器を取りに湯から上がり、脱衣所に近付こうとした時だった!
――ごそっ……。
「何だ?」
「堂々とはしてない……気配ですね」
レイアの瞳が戦闘態勢になり、ブリジットが不審そうにする。
「……のぞきとはまた言い訳の利かないことを」
多由羅も湯から上がってやって来た。
――ごそっ、ごそっ……。
さらに脱衣所から気配。脱いでいる、というより何かを置いてほかの脱衣衣装を確認しているようだ。
「下着泥棒……か」
「できれば穏便に済ませたいですが……」
レイアが腰を落とし、ブリジットが息を整えた。
「……殺り合いたがっているとしか思えませんね」
多由羅の声を合図に、だっと三人が駆け出し機先を制した!
――がらっ!
「覚悟するがいい、鬼ザル!」
「あまり褒められた行為ではありませんよ」
「さあ、共に死にましょう―――。」
レイア、ブリジット、多由羅が踏み込んで見たものはッ!
「ほへっ?!Σ な、何? なんなのようっ!」
タオルにくるまっていた初華だった。三人の剣幕に気圧され、涙目。
「え、ええと。さっき家族湯と間違えて思いっきり男湯に行っちゃったから、今度はちゃんと入ってる人の脱いだ服を調べて女性だけって確認してから入ろうと……」
とにかく、一件落着。
この頃、家族湯。
「なあ、本当にいいのか?」
ウーナは髪をまとめ上げ、タオルを巻いて胸をぎゅっぎゅと絞り込むようにタオルを巻いていたとき、鑑の声を聞いた。
「前にちゃんとねだったでしょ? 家族になるなら普通じゃない?」
振り返ると鑑、すでに腰にタオルを巻いた状態で。
そこにディーナが抱き着いている。
「家族になるなら、ウーナちゃんも鑑さんも一緒に入ろうなの」
「鑑センセ、嫌なんだ?」
ウーナが意地悪く聞きつつ湯船の方に。
「嫌じゃないさ。……行こう」
「良かったなの」
というわけで、三人でちゃぽん。
鑑、両手に花状態。
「家族、か……」
「どうしたの?」
呟く鑑に身を寄せて聞くウーナ。ぴぴんと大切そうな話だと感じたディーナも身を寄せる。
「失うだけだったから、戸惑ってるのさ。しかも若くて……」
「鑑センセ?」
ウーナ、鑑の腕に身を絡ませた。タオルで絞めつけた胸に鑑の腕が当たる。
そして見上げる瞳。
「ウーナ?」
「あたしたち最初にあってから何年か覚えてる? 3年だよ?」
「そうだな、結構な時間だ。世話にもなった」
ぐっと顎を上げて迫るウーナ。大人の瞳。
「これだけ長い付き合いなんだから、もっと頼ってくれても……心を近付けても……ううん」
が、ねだるような瞳はここまで。
瞬間、湯が跳ねた。
誰かが身を上げた気配。
誰かが何かを受け止めた気配。
「?」
ほぼ同時に無邪気に抱き着いていたウーナが、気配の変化に顔を上げた。
――ばしゃん。
「攻めるとやっぱり強いな、ウーナは。今日はこっちから前の返事で同じことしようとしたのに」
「ふーんだ。もたもたしてる鑑センセが悪いんじゃない♪」
ウーナの方からキスしたらしい。
●
大広間では風呂上がりのハンターたちを待ちかねたように座布団と膳が並んでいた。
「お、旨そうじゃねぇか!」
風呂上がりでほくほくのJが早速座る。
「お肉は醤油だれや塩胡椒・大蒜・カレー粉等塗し薄切りにして焼いてますぅ」
「へー、ふぐ刺しみたいに皿に盛りつけたか。こういう盛り付けや器は日本の宿を思い出すな」
ハナの説明にレイオスが満足そう。
「角煮は炭酸で煮込んでより柔らかく、トラウトは焼きほぐし胡麻と一緒に混ぜご飯、野草は天婦羅。地場物宴会料理完成ですぅ」
気をよくしたハナ、副菜やお鉢の中なども解説。地元食材を活用しきった見事な腕前である。
「確かに……すごいですが……気になります」
智里は料理に感心しつつもなぜか首筋を気にしている。そういえば浴衣の襟を上げて何かを隠しているような?
「さて、何のことでしょうか?」
ハンス、すっとぼけ。
「これは美味しいですね」
ガクルックス、天婦羅をさくさく楽しんでいる。
「こういう食いでのあるのは好みだぜ!」
Jは肉をがつがつ。
「ご飯ものはやっぱりほっとするな」
レイオス、焼き魚の風味の染みたご飯をじっくり味わっていたり。
というわけで、一仕事終えたハナは皆の食事後、ゆっくりと温泉。
「やっぱり仕事した後は温泉だから」
「まあ、どうしてもというならぁ」
初華に連れてこられたようで。
ちなみに、家族風呂で初華もハナもタオルに身を包んでいる。
「ま、もっかい風呂は定番だしな」
Jがいる。
「初華は確か、RBの転移者でしたか?」
ガクルックスもいる。
「うん。そうだけど」
「……今もRBに帰りたいですか」
無邪気に返答する初華に、慎重に聞いてみる。
それを初華、感じ取った。
「どっちでもいい。もう流され慣れちゃったから。……でも」
「でも?」
ガクルックス、初華の疲れた風な、寂しそうな顔を見逃さない。
「お父さんとお母さんが無事かどうかは、知っておきたいな……それでどうなるってわけじゃないけど」
(逃げない子ですね……良くも悪くも)
先の、男湯から逃げる際に謝りに戻ってきたことを思い出すガクルックスだった。
一緒にのんびりしていたレイオスもその表情に気付いた。
「そういや南那はいつも働いてるな。たまの骨休めくらい良いと思うぜ」
「それじゃ、バーにお酒に飲みに行くのもいいですよぅ」
レイオスとハナの勧めで、離れのバーに。
そこではすでに先客が!
「おかわり! 次の酒、持ってくるです!」
「ちょ、お酒飲み過ぎじゃないかな!?」
空いた杯を差し出すシレークスに、はわわな小鳥。
「はぁ~、たまんねぇですねぇ♪」
シレークスはお代わりもらってぷはー。小鳥は大丈夫かな、とか心配そうにノンアルコールをちびり。
それにシレークス、かちんときた。
「小鳥、もっとばーっと飲みやがれです。ほら、こういう風に!」
「ふわわわっ! 此処ではダメだよ、はわわわわ!? 脱がしたらダメだってば!?」
飲んだくれの自称兼一応聖職者の言葉を解説すると、いつもの脱ぎっぷりのように思い切りよく飲め、ということのよう……あ、小鳥が涙目でこっち見てる。ええと……彼女の言い分を解説すると、いつも脱いでるわけじゃないし脱ぎっぷりもいいわけじゃないそうです。とにかくディフェンス頑張れー。
さて、もう一組。
「私は成人してるの問題ないの」
ディーナがかぱかぱ酒を空けている。
「……」
鑑、困ったようにウーナの方を向くと。
「パイロットはスクランブルがあるから無暗に飲まないもんだけど、今日はね」
大人なら当然、とばかりにウーナも酒を飲んでいる。
「鑑さん大好き~~」
あー。ディーナ、酔っぱらって抱き着いた。これは離れそうにもない。抱き枕状態。
「ディーナ?」
「やなの一緒に寝るのー」
困った風にウーナを見ると、攻撃的な瞳で立ち上がった。
「いいよ。これから二人で、きっちりお世話するんだからね!」
寝室で三人一緒に寝たようで。
「結局私は一度も「てっぽう」を使いませんでしたし…。スタイルを変えるつもりは全くありませんが、最後に少しだけ撃ってみますか…」
酔った余興に多由羅は銃を構えているが……遠くのマンターゲットにはかすりもせず。
「……ふっ、秘剣で遠くの敵も斬ることの出来る私にとってやはりてっぽうなど無用の長物…」
「仕方ありません。勇者は温泉で鬼ザルと戦い村を守るも銃はからきし~♪」
「ブリジット様、なぜ歌を!」
「え? これでも吟遊詩人の端くれですから」
ががん、と振り返る多由羅に困った風なブリジット。
「うむ、チクワもうまいな」
レイアはお酒の方に夢中で。
前後するが、家族湯では。
「水音の分此方の方が響かないかと思いましてね」
「そんな風に思うの、ハンスさんだけですからっ」
ハンスと智里である。
キスの音が響いていたり。
でもって、酒場。
「お仕事がんばって、温泉気持ちよくて、ご飯おいしくて、お星様綺麗だったから、いい1日ー」
「あぁ、いい1日だったな」
フューリトとセシアは夜空の星を見上げている。
「……でも、お前は少し寝すぎだ」
セシア、振り回されて少し眠い。
「……本当にいい星空ですよ」
「また酔っぱらうからノンアルコールを奢ったのに……」
天を見上げるガクルックスに、横を心配するレイオス。
「ゴメン、のぼせたみたい……」
「仕方ねぇ。ほら、マッサージしてやるから床の間いくぞ」
くらくらの初華をJがおんぶしていたり。
さらに向こうでは。
「じゃあねぇ、あたし達の部屋でもっと色々とお話聞かせてほしいなぁっ♪」
「仕方ないからお相手してあげましょうかね」
若手門下生と飲んでいた真奈美と佳奈美が寝室へ。
それぞれ、平和になったこの場所を実感しつつ。
夜は更ける――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/15 18:02:13 |