ゲスト
(ka0000)
【空蒼】船出 ~狂気の暴走~
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2018/07/15 22:00
- 完成日
- 2018/07/20 12:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
各国へ配備された強化人間は、統一地球連合宙軍が管理している。
しかし、すべての強化人間が同じような個性を持っているとは限らない。
アスガルドのように子供ばかりかと思うかもしれないが、大人の強化人間存在する。
――フランス駐留軍所属『シアン・エラン』。
かつて、外国人の志願兵で正規部隊を構成したフランス陸軍の流れにある部隊である。 歴史のある部隊と思われるかもしれないが、その内実は他の部隊で行き場の無くなった者達が送り込まれる『終着点部隊』とも揶揄されている。
「本部から指示が出た。ノルマンディで開催されるニダヴェリールの除幕式を護衛せよ、との事だ」
シアン・エラン隊長のアドルフォ大尉は、招集した隊員の前で気怠そうに言い放った。
人手が足りないにしても、監獄のようなこの部隊を引っ張り出すとなれば異常事態と言っても差し支えない。
表立って警備など似合うはずもない。
その事は隊員も熟知していた。
「パッボ、そいつぁ表向きだろ? 本当の目的はなんだ」
愛用のアサルトライフルを掃除しながら、フィデリオは銃身を覗き込んでいる。
シアン・エランは汚れ仕事中心で他の部隊から面汚しと疎まれた部隊だ。
一つだけずば抜けて能力はあっても、協調性が絶望的に欠落していれば他の隊員とやっていくのは難しい。
生きる為に必死で覚えた芸。
群れを追い出された犬は、いつしか同じような境遇の犬と身を寄せ合っていた。
そうして出来たのがシアン・エラン。強化人間部隊の中でも得意な存在だ。
そんなシアン・エランに単なる護衛任務が舞い込んでくる訳がない。
表向きの任務とは別に、他の部隊には頼めない別の任務が下る事が多いのだ。
察しの良いフィデリオを前に大尉は鼻を鳴らした。
「いい子だ、フィッリオ。俺達の任務は『ある人物の調査』だ。詳細は当日になってから話すが、軍でも任務を表向きには言えんらしい」
「へぇ、ご大層なこって」
「フィッリァ。陽動の為に爆弾を用意して欲しい」
イタリア語で娘と呼ばれた――エルダは思わず口笛を吹いた。
人物調査に爆弾を用意しろとは、思わぬ発注だったからだ。
「随分と物騒ね。派手に仕掛ける気?」
「いや、陽動の為だ。万一発見されそうな時は……そうだな、イギリス野郎の仕業にでも見せかけろ。とにかく騒ぎが起きれば奴は必ず動き出すはずだ。そこを追いかけて確実に証拠を押さえる」
大尉は力強く拳を握った。
フィデリオもエルダも作戦の詳細は知らない。いや、むしろ知る気もない。厄介事に関わるのは、いつもパッボ――アドルフォの仕事だ。自分達は与えられた任務を遂行するだけでいい。
深く考える事は、命を縮める事もある。
だが、自分の流儀は貫く。たとえ、野良犬の集団に身を置いていても。
「爆弾は作るわ。だけど、いつものようにやらせてもらうわよ」
「ゲームか? 本当好きだなぁ、エルダは」
呆れかえるフィデリオ。
だが、この時点から運命の歯車は大きく動き出す事になる。
●
ニダヴェリール除幕式当日。
ノルマンディの会場では各国要人が大騒ぎで逃げ惑っていた。
追いかけるは強化人間達。会場を護衛していた強化人間達が暴走、一般人を容赦なく撃ち殺している光景が全世界へ生中継されている。
まさに、地獄。
そんな中に、シアン・エランの隊員達の姿があった。
「はっーはっは。どうしたどうしたっ! もっと踊って見せろよぉ!」
フィデリオの銃弾が要人の背中へ突き刺さる。
要人は地面に顔を打ち付けながら倒れ込んだ。
流れ出る大量の血。その時点で要人に息がない事は分かっている。
だが、フィデリオの暴走が止まる気配はない。
「フェスタの盛り上がりが足りないか? なら、タンブロを叩かないとなぁ!」
フィデリオは手榴弾のピンを外すと逃げ惑う要人の群れに投げ込んだ。
数秒後、大きな爆発。
要人の体が吹き飛ぶと同人に、悲痛なる声が響き渡る。
狂気に満ちた光景の中、フィデリオは一人で悦に入る。
一方、別の地点では。
「テンチュー!」
赤い和物の甲冑に身を包んだ大尉が、要人の喉に槍を突き立てる。
音も無く吸い込まれるように刺さった刃。
それを引き抜いた瞬間、大量の血が前方へと噴き出した。
しかし大尉はそれに目を向ける事無く、背後に居たドレス姿の女性へ斬り掛かる。
「まだいるか、VOID……テンチュー!」
上段から振り下ろされた太刀は、女性の頭を捉えて深く突き刺さる。
細かい痙攣を繰り返す女性。開いた瞳孔に移るのは、青いノルマンディの空だろうか。 既にシアン・エランの二人によって多数の要人達が殺されていた。
暴走――否、大量殺戮と言っても過言ではない行動。
ノルマンディに悲鳴と混乱が吹き荒れていた。
●
ハンター達も手を拱いていた訳ではない。
脱出用のシャトルまでエルダを追い詰める事に成功していた。
ハンター達の攻撃を受け、胸から血を流して倒れるエルダ。
だが、ハンター達の顔に安堵はない。
「……ちっ! スイッチが入れられてる!」
ハンターの顔が大きく曇った。
既に脱出用シャトルに複数の爆弾が仕掛けられている事が判明している。現在、統一地球連合宙軍の軍人が必死の捜索を行っている最中だが、発見されているのは一つや二つではない。
仮にこれらの爆弾が破裂すれば、脱出用シャトルを失うだけではない。
今も会場から脱出してきた要人達が、逃げる為にこの場所へ集まっている。彼らもその爆発に巻き込まれる事は避けられない。
「ふふっ、残念だったわね。VOID」
「おい! 爆弾を止める方法は!」
顔から生気が抜けつつあるエルダの体を、ハンターは必死で揺すった。
力無い笑顔を浮かべるエルダは、一つのタブレットを渡した。
そこにはメッセージと共にソフトウェアのキーボードが表示されていた。
『1人の水兵が殺された。
彼は分かっているだけで118人の仲間の一人だ。
彼は12番目のグループに属している。
彼はグループの中でも下っ端だ。
私は、彼に毒殺された』
キーボードにはアルファベットが描かれている。
「答えをそこへ入力しなさい。正解すれば爆弾は解除される」
エルダがそう言った瞬間、爆弾のカウントが開始された。
制限時間は――10分。
あまりに厄介過ぎるクイズだ。
「制限時間を越えたら爆弾は爆発するわ。入力制限は五回」
「こんなゲームしている場合じゃない! 早くその女の口を割らせれば……」
別のハンターが悲鳴のように叫ぶ。
だが、エルダはいつの間にか所持していたデリンジャーを自らのこめかみに押しつけていた。
「ただのゲームじゃない。VOIDと生死を賭けたゲームよ。
そして……ゲームはもう、始まったの」
引き金を引くエルダ。
乾いた銃声がシャトルへ響き渡り、エルダの亡骸がシャトルの床に転がった。
しかし、すべての強化人間が同じような個性を持っているとは限らない。
アスガルドのように子供ばかりかと思うかもしれないが、大人の強化人間存在する。
――フランス駐留軍所属『シアン・エラン』。
かつて、外国人の志願兵で正規部隊を構成したフランス陸軍の流れにある部隊である。 歴史のある部隊と思われるかもしれないが、その内実は他の部隊で行き場の無くなった者達が送り込まれる『終着点部隊』とも揶揄されている。
「本部から指示が出た。ノルマンディで開催されるニダヴェリールの除幕式を護衛せよ、との事だ」
シアン・エラン隊長のアドルフォ大尉は、招集した隊員の前で気怠そうに言い放った。
人手が足りないにしても、監獄のようなこの部隊を引っ張り出すとなれば異常事態と言っても差し支えない。
表立って警備など似合うはずもない。
その事は隊員も熟知していた。
「パッボ、そいつぁ表向きだろ? 本当の目的はなんだ」
愛用のアサルトライフルを掃除しながら、フィデリオは銃身を覗き込んでいる。
シアン・エランは汚れ仕事中心で他の部隊から面汚しと疎まれた部隊だ。
一つだけずば抜けて能力はあっても、協調性が絶望的に欠落していれば他の隊員とやっていくのは難しい。
生きる為に必死で覚えた芸。
群れを追い出された犬は、いつしか同じような境遇の犬と身を寄せ合っていた。
そうして出来たのがシアン・エラン。強化人間部隊の中でも得意な存在だ。
そんなシアン・エランに単なる護衛任務が舞い込んでくる訳がない。
表向きの任務とは別に、他の部隊には頼めない別の任務が下る事が多いのだ。
察しの良いフィデリオを前に大尉は鼻を鳴らした。
「いい子だ、フィッリオ。俺達の任務は『ある人物の調査』だ。詳細は当日になってから話すが、軍でも任務を表向きには言えんらしい」
「へぇ、ご大層なこって」
「フィッリァ。陽動の為に爆弾を用意して欲しい」
イタリア語で娘と呼ばれた――エルダは思わず口笛を吹いた。
人物調査に爆弾を用意しろとは、思わぬ発注だったからだ。
「随分と物騒ね。派手に仕掛ける気?」
「いや、陽動の為だ。万一発見されそうな時は……そうだな、イギリス野郎の仕業にでも見せかけろ。とにかく騒ぎが起きれば奴は必ず動き出すはずだ。そこを追いかけて確実に証拠を押さえる」
大尉は力強く拳を握った。
フィデリオもエルダも作戦の詳細は知らない。いや、むしろ知る気もない。厄介事に関わるのは、いつもパッボ――アドルフォの仕事だ。自分達は与えられた任務を遂行するだけでいい。
深く考える事は、命を縮める事もある。
だが、自分の流儀は貫く。たとえ、野良犬の集団に身を置いていても。
「爆弾は作るわ。だけど、いつものようにやらせてもらうわよ」
「ゲームか? 本当好きだなぁ、エルダは」
呆れかえるフィデリオ。
だが、この時点から運命の歯車は大きく動き出す事になる。
●
ニダヴェリール除幕式当日。
ノルマンディの会場では各国要人が大騒ぎで逃げ惑っていた。
追いかけるは強化人間達。会場を護衛していた強化人間達が暴走、一般人を容赦なく撃ち殺している光景が全世界へ生中継されている。
まさに、地獄。
そんな中に、シアン・エランの隊員達の姿があった。
「はっーはっは。どうしたどうしたっ! もっと踊って見せろよぉ!」
フィデリオの銃弾が要人の背中へ突き刺さる。
要人は地面に顔を打ち付けながら倒れ込んだ。
流れ出る大量の血。その時点で要人に息がない事は分かっている。
だが、フィデリオの暴走が止まる気配はない。
「フェスタの盛り上がりが足りないか? なら、タンブロを叩かないとなぁ!」
フィデリオは手榴弾のピンを外すと逃げ惑う要人の群れに投げ込んだ。
数秒後、大きな爆発。
要人の体が吹き飛ぶと同人に、悲痛なる声が響き渡る。
狂気に満ちた光景の中、フィデリオは一人で悦に入る。
一方、別の地点では。
「テンチュー!」
赤い和物の甲冑に身を包んだ大尉が、要人の喉に槍を突き立てる。
音も無く吸い込まれるように刺さった刃。
それを引き抜いた瞬間、大量の血が前方へと噴き出した。
しかし大尉はそれに目を向ける事無く、背後に居たドレス姿の女性へ斬り掛かる。
「まだいるか、VOID……テンチュー!」
上段から振り下ろされた太刀は、女性の頭を捉えて深く突き刺さる。
細かい痙攣を繰り返す女性。開いた瞳孔に移るのは、青いノルマンディの空だろうか。 既にシアン・エランの二人によって多数の要人達が殺されていた。
暴走――否、大量殺戮と言っても過言ではない行動。
ノルマンディに悲鳴と混乱が吹き荒れていた。
●
ハンター達も手を拱いていた訳ではない。
脱出用のシャトルまでエルダを追い詰める事に成功していた。
ハンター達の攻撃を受け、胸から血を流して倒れるエルダ。
だが、ハンター達の顔に安堵はない。
「……ちっ! スイッチが入れられてる!」
ハンターの顔が大きく曇った。
既に脱出用シャトルに複数の爆弾が仕掛けられている事が判明している。現在、統一地球連合宙軍の軍人が必死の捜索を行っている最中だが、発見されているのは一つや二つではない。
仮にこれらの爆弾が破裂すれば、脱出用シャトルを失うだけではない。
今も会場から脱出してきた要人達が、逃げる為にこの場所へ集まっている。彼らもその爆発に巻き込まれる事は避けられない。
「ふふっ、残念だったわね。VOID」
「おい! 爆弾を止める方法は!」
顔から生気が抜けつつあるエルダの体を、ハンターは必死で揺すった。
力無い笑顔を浮かべるエルダは、一つのタブレットを渡した。
そこにはメッセージと共にソフトウェアのキーボードが表示されていた。
『1人の水兵が殺された。
彼は分かっているだけで118人の仲間の一人だ。
彼は12番目のグループに属している。
彼はグループの中でも下っ端だ。
私は、彼に毒殺された』
キーボードにはアルファベットが描かれている。
「答えをそこへ入力しなさい。正解すれば爆弾は解除される」
エルダがそう言った瞬間、爆弾のカウントが開始された。
制限時間は――10分。
あまりに厄介過ぎるクイズだ。
「制限時間を越えたら爆弾は爆発するわ。入力制限は五回」
「こんなゲームしている場合じゃない! 早くその女の口を割らせれば……」
別のハンターが悲鳴のように叫ぶ。
だが、エルダはいつの間にか所持していたデリンジャーを自らのこめかみに押しつけていた。
「ただのゲームじゃない。VOIDと生死を賭けたゲームよ。
そして……ゲームはもう、始まったの」
引き金を引くエルダ。
乾いた銃声がシャトルへ響き渡り、エルダの亡骸がシャトルの床に転がった。
リプレイ本文
大規模宇宙ステーション『ニダヴェリール』の姿が全世界へ配信される。
それは、ムーンリーフ財団にとって人類の希望をお披露目するイベントであった。
だが、全世界に配信されたのは希望ではなかった。
突如、暴走した強化人間が暴走を始めたのだ。
悲鳴と怒号に彩られた世界――その場所に身を置いた者達がいる。
「ファンタスティコ! 歪虚の割りに良い声で泣くじゃねぇか。名演技ものだ。人間だったら、女優賞もんだ」
逃げる女性の足を短機関銃で撃ち抜いたフィデリオ。
這いずって必死で逃げようとする女性へしゃがみ込み、ナイフの刃で首筋を引き抜いた。
溢れる鮮血。
女性は反射的に傷口を手で押さえるが、その血は止まる気配すらない。
その光景をトリプルJ(ka6653)は目撃したのだ。
「チッ、マジかよ……これが元軍人とかイカレ過ぎじゃねぇか」
舌打ち。
まさに狂気と言っても差し支えない。
フィデリオは逃げ惑う要人を片っ端から殺害していた。
背後からアサルトライフルを斉射。その後、移動力を奪ってから確実に相手を仕留める。
そうやって築かれた死体の山は、既に数十にも及んでいた。
暴走する強化人間を、トリプルJは目の当たりにさせられていた。
「おい、そこまでだ。これ以上はやらせねぇ」
トリプルJは、フィデリオに向かって歩き出した。
このままフィデリオを放置していれば、被害はますます拡大していく。
何より、フィデリオを止めなければ『脱出用シャトルに仕掛けられた爆弾』を止める事ができない。
「あん? 歪虚が俺に命令するんじゃ……ねぇよ!」
トリプルJに向けてフィデリオがアサルトライフルの引き金を引いた。
片手でアサルトライフルを持っていた為だろう。銃身が安定せず、弾丸はトリプルJと離れた場所へ飛んでいく。
――だが。
「ぎゃっ!」
トリプルJの背後で響く悲鳴。
弾丸はトリプルJに当たらず、背後にいた要人に命中したようだ。
「いいのか? 避ければ、別の歪虚に当たるぞ」
「てめぇ!」
トリプルJはファントムハンドを試みようとする。
ところが、フィデリオは逃げ惑う人々の中にその身を隠した。
視線を遮られる事で、ファントムハンドからの対象から外れてしまう。
「何かしようとしただろ? 甘ぇぞ。見え見えなんだよ!」
「……ならば、これは読んでいたか?」
いつの間にかフィデリオの傍らにメンカル(ka5338)がいた。
アクセルオーバーで残像を纏って一気に接近。ベノムエッジを発動させ、蒼機槍「ダチュラ」を手にフィデリオへ肉薄する。
メンカルはフィデリオの暗殺を狙っていた。真っ向勝負を避け、静かに人の波に紛れながら、フィデリオを静かに始末する――。
「チッ!」
フィデリオは手持ちの手榴弾をメンカルとの間に転がして、横へ飛んだ。
爆ぜる手榴弾。
空気を震わると同時にメンカルとフィデリオに距離を作り出す。
「……恨むがいい。だが、いい大人相手に容赦する気はない」
メンカルはナイトカーテンで再び姿を消した。
強化人間、それも大人が相手であれば躊躇する必要は無い。これ以上の愚行を繰り返させない為にも、フィデリオはここで倒さなければならない。
「やる気か? 歪虚の分際で」
フィデリオは弾丸のカートリッジを取り替えながら、二人の狩人を意識し始めていた。
●
一方、除幕式会場の別地点でも『シアン・エラン』は暴れ回っていた。
「テンチュー!」
真紅の鎧に身を包んだアドルフォ大尉は、手にしていた十字槍を突き出した。
背中から貫かれた要人は、そのまま血を吐き出しながら地面へと倒れ込む。
極東の島国で見られる異様な出で立ちに、違和感を拭えない。
何故、かような場所に侍が――。
「あの姿、どういう意図が?
いえ、それ以上に爆弾の設置って早すぎでしょう!?」
ブリジット・B・バートランド(ka1800)には、様々な疑問を抱いていた。
それは眼前で暴れ回るアドルフォ大尉の姿だけではない。脱出用シャトルに仕掛けられた爆弾設置の素早さ。それに付け加えて多くの爆弾を保有していた理由。
仮に爆弾を設置する場所が脱出用シャトルではなかった場合、あの爆弾は何に使うべきだったのか。
爆弾を設置したエルダは死亡。さらに隊員だった強化人間二人が暴走した以上、明確な回答を得るには難しいかもしれない。
「手筈通り敵の連携を防ぎながら、一気に片付ける」
ブリジットはブーツ「ライフェン」を装備してジェットブーツを発動させる。
一気に間合いを詰めながら、電撃剣「トニトゥルス」の大きく振り下ろす。
「……む!」
アドルフォは反射的に槍でブリジットの一撃を受け止めた。
肉薄する二人。
顔の表情が見える位置まで接近。ブリジットにはアドルフォの顔に憎しみと怒りが浮かんでいる事が分かる。軍人なら、もっと冷静であるべきだと思うのだが。
「シアン・エランに下った命令は何?」
「インペラトーレに仇為す敵。バクフの犬と話す口は持たぬ!」
力任せに押し退けようとする大尉。
だが、そうなる前にブリジットは大尉の身につけた鎧の胴へ蹴りを一発。
強引に自分から間合いを離した。接近戦ではなく、攻撃を繰り返してダメージを蓄積させるつもりなのだ。
さらに
「悪ぃが急いでいるんでな。すぐにくたばってもらおうか」
シャルカ・カル・カリアス(ka7158)はリボルバー「キャバルリー」を手に銃撃を浴びせかける。
強弾を交えながら、距離を一定に保つように心がける。
ブリジットとシャルカによる中距離攻撃の連続。
鎧に阻まれている為、直撃は避けられているものの、ダメージを確実に与えている。
しかし、大尉もただ攻撃を黙って受け続けてはいない。
「ヒキョウモノめ! 貴様等がそう来るなら……!」
大尉は懐から煙玉を取り出すと、地面に向かって叩き付ける。
立ちこめる煙。
大尉の姿を白い煙で覆い隠し、ブリジットとシャルカの視界を封じていく。
――煙に乗じて攻撃を行うつもりだ。
そう直感したシャルカは早速対策に動き出す。
「小賢しいマネしてんじゃねぇぞ!」
直感視を使って煙が立ちこめる方向へ意識を向ける。
しかし、直感視で捉えられたのは人間らしい気配が複数。逃げ惑う人々を煙で包み込んでいた為、煙では大尉の居場所を特定するまでには至らないようだ。
一方、ゴーグル「カタランパネイン」も有効範囲が狭い上、逃げ惑う人々まで検知してしまう為、明確に大尉の場所が掴めない。
「くそっ。どうすりゃいいんだよ」
周囲を見回すシャルカ。
だが、こうしている間にも大尉は確実に二人へと接近していく。
何処から来る?
右か左か。それとも上からか。
「大尉の武器は槍と刀。接近しなければ使えないはず……そうか!」
ブリジットは再びカタランパネインで周囲を確認する。
逃げ惑う人々も大尉も常に動き続けているはずだ。だが、二人に向かってゆっくりと歩み寄ってくる存在は一つしかない。
そしてその怪しい動きをする存在は、二人の背後から忍び寄ってくる。
「後方。六時方向。姿を隠さずにやってくる影があるわ」
「そこか!」
煙に浮かんだ黒い影に向かってキャバルリーを一発放つ。
銃弾は黒い影に右肩を撃ち抜く。
「……ぐっ!」
煙の向こうから聞こえる声。
その声には聞き覚えがある。
「戦うなら、もっと狡猾に戦うべきね。少なくともここは戦場なのだから。暴走してそんな事も忘れたの?」
ブリジットは電撃剣「トニトゥルス」を手にエレクトリックショックを影に向けて放った、
強烈な電撃が影を焼き尽くし、激しく痙攣させる。
煙が晴れる頃には、真紅の甲冑の来た大尉が地面に向かって倒れ込んでいた。
エレクトリックショックで完全に息の根を止める事ができたようだ。
「まずは、一人か」
シャルカは大尉の死亡を確認した上で、周囲の警戒を続けていた。
倒すべき相手は――まだ一人残っていたからだ。
●
「テメェも手榴弾一発で倒れる程、甘かねぇよなぁ!?」
フィデリオが手榴弾を投げる瞬間を狙って、トリプルJは一気に間合いを詰めた。
フィデリオの手から零れ落ちる手榴弾。
トリプルJは苦肉の策に出た。フィデリオが暴れれば、逃げ惑う要人に被害が及ぶ。それは攻撃を回避しようとしても同じ事。
敵の攻撃を回避する事が困難であれば――トリプルJは大胆な行動に出た。
「離せっ!」
「離すかよ。強化人間なんだから、簡単には死なねぇはずだよな」
手榴弾は爆発だけではなく、飛び散る破片による被害も侮れない。
しかし、人の体を貫通する程の威力があるかは別問題。言い換えれば、人の体を盾にすれば周囲への被害をある程度は抑える事ができる。
つまり、トリプルJはフィデリオ諸共、手榴弾の盾に巻き込むつもりなのだ。
一瞬の揺れ。
同時に大きく揺れる二人の体。
トリプルJは金剛で体の頑強さを高めていた。その上、体を入れ替えてフィデリオを下にする事で被害を軽減させる事に成功。だが、それでも無傷とは言えない。
フィデリオを捕まえるまでに、相応のダメージも負っていたからだ。
「くそっ! くそっ!」
地面で這いつくばりながらも暴れるフィデリオ。
その傍らでトリプルJは火の付いていないタバコを咥えていた。
「おっ、まだ生きてたか」
「だが、それもすぐに終わる」
フィデリオの横にメンカルが現れると、這いつくばるフィデリオに向かってしゃがみ込んだ。
「俺もお前と同じだ。真っ向勝負などしてたまるか。死にたくないんでな」
メンカルはダチュラをフィデリオの背中に突き刺した。
ベノムエッジを乗せた強烈な一撃。
人影紛れ、相手を翻弄。同時にフィデリオの背後に忍び寄る様は幻影のようだ。
「終わった。そちらは無事か」
「わりぃ、ちょっと休んだらすぐ行くぜ」
トリプルJは深呼吸した。
これでまだ終わりではない。爆弾を解除しなければならないからだ。
だが、トリプルJは敢えて解除をメンカルへと託した。
小さく頷くメンカル。足早に脱出用シャトルの方へと走り出した。
「頼むぜ。俺が向かう頃には全部終わってる……そう信じてるからな」
トリプルJはリジェネレーションで回復を行いつつ、メンカルを見送る。
爆弾はおそらく先行した仲間が止めてくれる。
ならば、自分は少しでも被害を食い止める為に怪我人の救助や搬送を手伝うべきだ。
今も会場は戦場となっている。
少しでもこの悲劇が流した血を、拭わなければ――。
●
強化人間を倒したハンター達だが、ここである失策に気付く。
確かに強化人間はハンターと比較しても単体の強さに差は生じている。二対一であれば早期に決着は付くだろう。
だが、この依頼は強化人間を倒すだけでは終わらない。
脱出用シャトルに仕掛けられた爆弾を解除しなければならない。
つまり、ハンター達が強化人間に対して二人ずつ戦力を割り振るならば、ハンター達は強化人間を倒した後で脱出用シャトルへ向かう移動時間が必要になる。
そして、その移動に要する時間には想定外の事象が発生していた。
「……お、何だよこりゃ!?」
シャルカの眼前には脱出用シャトルの存在に気付いて集まってきた群衆が存在していた。
シャトルへ向かう通路は限界で押し通るにも無理がある。
命が惜しい要人達が自分だけを我先にと考えて集まった結果である。
「この向こうに行けってぇのかよ。これなら最初から誰かを爆弾前に配置しておけば良かったじゃねぇか」
シャルカは悔やむ。
しかし、まだ希望はある先行したハンター達が存在していたからだ。
「タブレットとは、これか」
最初に辿り着いたのはメンカルであった。
手にしたタブレットにはあるメッセージが表示されている。
『1人の水兵が殺された。
彼は分かっているだけで118人の仲間の一人だ。
彼は12番目のグループに属している。
彼はグループの中でも下っ端だ。
私は、彼に毒殺された』
この問いに対し、メンカルは答えを予測してきたようだ。
「リアルブルーには元素の周期表があると聞いた。おそらく、このメッセージの正体はそれだ」
メンカルの推測では、爆弾解除には元素の周期表が関係していると考えていた。
118人の仲間。
12番目のグループ。
下っ端という言葉。
つまり、118は現在発見されている元素数であり、12番目のグループとは12族を指し示している。
「下っ端が周期表の下部を指しているならば、答えはシアンだ」
メンカルはタブレット上のキーボードを触って答えを入力していく。
『Cn』――シアン。
12族の下部にある元素だ。
しかし、答えを入力したものの、タブレットには変化がない。
「くっ、違うのか」
「いえ。周期表で合っているはずよ」
背後からブリジットが現れると、メンカルからタブレットを受け取った。
ブリジットはタブレットを前に大きく呼吸をする。
表示されていたカウントは、既に2分を切っていたからだ。
「シアンじゃ無いのか」
「ポイントは毒殺された、という部分よ。エルダがゲームと言っていた事実を考えれば、もっと知名度のある元素かもしれない。たとえば……」
ブリジットはタブレットを操作して『Hg』と入力した。
Hg――水銀。
古代では不老不死の薬といわれ、水銀中毒で多くの者が命を落とした。
毒殺というのであればこちらの方が、しっくり来る。
「どうでしょう……?」
祈る思いで、最後のキーに触るブリジット。
次の瞬間、画面に表示されたのは『スチェッソ』の文字。
そして、爆弾のカウントは停止する。どうやら、正解だったようだ。
「成功か。良かった……残るカウントは、僅かだったか」
「ええ。これで脱出用のシャトルは守り切れたわ」
脱出用シャトルを守り切った事で要人達の脱出路を確保する事ができた。
ここを爆破されていたとするなら、要人達は完全に逃げ場を失う所であった。
「それにしても、シアン・エランは何をしようとしていたの?」
「分からん。だが、準備から類するすれば、陽動で目を惹こうとしていた可能性がある」
メンカルはブリジットの問いにそう答えた。
爆弾が仮に陽動を目的としていたなら、フィデリオが何か任務を遂行しようとしてたとも考えられる。
だとするならば――。
「誰かを狙っていた……もしそうなら、本当の標的は誰?」
その問いに答えられる者は誰もいなかった。
それは、ムーンリーフ財団にとって人類の希望をお披露目するイベントであった。
だが、全世界に配信されたのは希望ではなかった。
突如、暴走した強化人間が暴走を始めたのだ。
悲鳴と怒号に彩られた世界――その場所に身を置いた者達がいる。
「ファンタスティコ! 歪虚の割りに良い声で泣くじゃねぇか。名演技ものだ。人間だったら、女優賞もんだ」
逃げる女性の足を短機関銃で撃ち抜いたフィデリオ。
這いずって必死で逃げようとする女性へしゃがみ込み、ナイフの刃で首筋を引き抜いた。
溢れる鮮血。
女性は反射的に傷口を手で押さえるが、その血は止まる気配すらない。
その光景をトリプルJ(ka6653)は目撃したのだ。
「チッ、マジかよ……これが元軍人とかイカレ過ぎじゃねぇか」
舌打ち。
まさに狂気と言っても差し支えない。
フィデリオは逃げ惑う要人を片っ端から殺害していた。
背後からアサルトライフルを斉射。その後、移動力を奪ってから確実に相手を仕留める。
そうやって築かれた死体の山は、既に数十にも及んでいた。
暴走する強化人間を、トリプルJは目の当たりにさせられていた。
「おい、そこまでだ。これ以上はやらせねぇ」
トリプルJは、フィデリオに向かって歩き出した。
このままフィデリオを放置していれば、被害はますます拡大していく。
何より、フィデリオを止めなければ『脱出用シャトルに仕掛けられた爆弾』を止める事ができない。
「あん? 歪虚が俺に命令するんじゃ……ねぇよ!」
トリプルJに向けてフィデリオがアサルトライフルの引き金を引いた。
片手でアサルトライフルを持っていた為だろう。銃身が安定せず、弾丸はトリプルJと離れた場所へ飛んでいく。
――だが。
「ぎゃっ!」
トリプルJの背後で響く悲鳴。
弾丸はトリプルJに当たらず、背後にいた要人に命中したようだ。
「いいのか? 避ければ、別の歪虚に当たるぞ」
「てめぇ!」
トリプルJはファントムハンドを試みようとする。
ところが、フィデリオは逃げ惑う人々の中にその身を隠した。
視線を遮られる事で、ファントムハンドからの対象から外れてしまう。
「何かしようとしただろ? 甘ぇぞ。見え見えなんだよ!」
「……ならば、これは読んでいたか?」
いつの間にかフィデリオの傍らにメンカル(ka5338)がいた。
アクセルオーバーで残像を纏って一気に接近。ベノムエッジを発動させ、蒼機槍「ダチュラ」を手にフィデリオへ肉薄する。
メンカルはフィデリオの暗殺を狙っていた。真っ向勝負を避け、静かに人の波に紛れながら、フィデリオを静かに始末する――。
「チッ!」
フィデリオは手持ちの手榴弾をメンカルとの間に転がして、横へ飛んだ。
爆ぜる手榴弾。
空気を震わると同時にメンカルとフィデリオに距離を作り出す。
「……恨むがいい。だが、いい大人相手に容赦する気はない」
メンカルはナイトカーテンで再び姿を消した。
強化人間、それも大人が相手であれば躊躇する必要は無い。これ以上の愚行を繰り返させない為にも、フィデリオはここで倒さなければならない。
「やる気か? 歪虚の分際で」
フィデリオは弾丸のカートリッジを取り替えながら、二人の狩人を意識し始めていた。
●
一方、除幕式会場の別地点でも『シアン・エラン』は暴れ回っていた。
「テンチュー!」
真紅の鎧に身を包んだアドルフォ大尉は、手にしていた十字槍を突き出した。
背中から貫かれた要人は、そのまま血を吐き出しながら地面へと倒れ込む。
極東の島国で見られる異様な出で立ちに、違和感を拭えない。
何故、かような場所に侍が――。
「あの姿、どういう意図が?
いえ、それ以上に爆弾の設置って早すぎでしょう!?」
ブリジット・B・バートランド(ka1800)には、様々な疑問を抱いていた。
それは眼前で暴れ回るアドルフォ大尉の姿だけではない。脱出用シャトルに仕掛けられた爆弾設置の素早さ。それに付け加えて多くの爆弾を保有していた理由。
仮に爆弾を設置する場所が脱出用シャトルではなかった場合、あの爆弾は何に使うべきだったのか。
爆弾を設置したエルダは死亡。さらに隊員だった強化人間二人が暴走した以上、明確な回答を得るには難しいかもしれない。
「手筈通り敵の連携を防ぎながら、一気に片付ける」
ブリジットはブーツ「ライフェン」を装備してジェットブーツを発動させる。
一気に間合いを詰めながら、電撃剣「トニトゥルス」の大きく振り下ろす。
「……む!」
アドルフォは反射的に槍でブリジットの一撃を受け止めた。
肉薄する二人。
顔の表情が見える位置まで接近。ブリジットにはアドルフォの顔に憎しみと怒りが浮かんでいる事が分かる。軍人なら、もっと冷静であるべきだと思うのだが。
「シアン・エランに下った命令は何?」
「インペラトーレに仇為す敵。バクフの犬と話す口は持たぬ!」
力任せに押し退けようとする大尉。
だが、そうなる前にブリジットは大尉の身につけた鎧の胴へ蹴りを一発。
強引に自分から間合いを離した。接近戦ではなく、攻撃を繰り返してダメージを蓄積させるつもりなのだ。
さらに
「悪ぃが急いでいるんでな。すぐにくたばってもらおうか」
シャルカ・カル・カリアス(ka7158)はリボルバー「キャバルリー」を手に銃撃を浴びせかける。
強弾を交えながら、距離を一定に保つように心がける。
ブリジットとシャルカによる中距離攻撃の連続。
鎧に阻まれている為、直撃は避けられているものの、ダメージを確実に与えている。
しかし、大尉もただ攻撃を黙って受け続けてはいない。
「ヒキョウモノめ! 貴様等がそう来るなら……!」
大尉は懐から煙玉を取り出すと、地面に向かって叩き付ける。
立ちこめる煙。
大尉の姿を白い煙で覆い隠し、ブリジットとシャルカの視界を封じていく。
――煙に乗じて攻撃を行うつもりだ。
そう直感したシャルカは早速対策に動き出す。
「小賢しいマネしてんじゃねぇぞ!」
直感視を使って煙が立ちこめる方向へ意識を向ける。
しかし、直感視で捉えられたのは人間らしい気配が複数。逃げ惑う人々を煙で包み込んでいた為、煙では大尉の居場所を特定するまでには至らないようだ。
一方、ゴーグル「カタランパネイン」も有効範囲が狭い上、逃げ惑う人々まで検知してしまう為、明確に大尉の場所が掴めない。
「くそっ。どうすりゃいいんだよ」
周囲を見回すシャルカ。
だが、こうしている間にも大尉は確実に二人へと接近していく。
何処から来る?
右か左か。それとも上からか。
「大尉の武器は槍と刀。接近しなければ使えないはず……そうか!」
ブリジットは再びカタランパネインで周囲を確認する。
逃げ惑う人々も大尉も常に動き続けているはずだ。だが、二人に向かってゆっくりと歩み寄ってくる存在は一つしかない。
そしてその怪しい動きをする存在は、二人の背後から忍び寄ってくる。
「後方。六時方向。姿を隠さずにやってくる影があるわ」
「そこか!」
煙に浮かんだ黒い影に向かってキャバルリーを一発放つ。
銃弾は黒い影に右肩を撃ち抜く。
「……ぐっ!」
煙の向こうから聞こえる声。
その声には聞き覚えがある。
「戦うなら、もっと狡猾に戦うべきね。少なくともここは戦場なのだから。暴走してそんな事も忘れたの?」
ブリジットは電撃剣「トニトゥルス」を手にエレクトリックショックを影に向けて放った、
強烈な電撃が影を焼き尽くし、激しく痙攣させる。
煙が晴れる頃には、真紅の甲冑の来た大尉が地面に向かって倒れ込んでいた。
エレクトリックショックで完全に息の根を止める事ができたようだ。
「まずは、一人か」
シャルカは大尉の死亡を確認した上で、周囲の警戒を続けていた。
倒すべき相手は――まだ一人残っていたからだ。
●
「テメェも手榴弾一発で倒れる程、甘かねぇよなぁ!?」
フィデリオが手榴弾を投げる瞬間を狙って、トリプルJは一気に間合いを詰めた。
フィデリオの手から零れ落ちる手榴弾。
トリプルJは苦肉の策に出た。フィデリオが暴れれば、逃げ惑う要人に被害が及ぶ。それは攻撃を回避しようとしても同じ事。
敵の攻撃を回避する事が困難であれば――トリプルJは大胆な行動に出た。
「離せっ!」
「離すかよ。強化人間なんだから、簡単には死なねぇはずだよな」
手榴弾は爆発だけではなく、飛び散る破片による被害も侮れない。
しかし、人の体を貫通する程の威力があるかは別問題。言い換えれば、人の体を盾にすれば周囲への被害をある程度は抑える事ができる。
つまり、トリプルJはフィデリオ諸共、手榴弾の盾に巻き込むつもりなのだ。
一瞬の揺れ。
同時に大きく揺れる二人の体。
トリプルJは金剛で体の頑強さを高めていた。その上、体を入れ替えてフィデリオを下にする事で被害を軽減させる事に成功。だが、それでも無傷とは言えない。
フィデリオを捕まえるまでに、相応のダメージも負っていたからだ。
「くそっ! くそっ!」
地面で這いつくばりながらも暴れるフィデリオ。
その傍らでトリプルJは火の付いていないタバコを咥えていた。
「おっ、まだ生きてたか」
「だが、それもすぐに終わる」
フィデリオの横にメンカルが現れると、這いつくばるフィデリオに向かってしゃがみ込んだ。
「俺もお前と同じだ。真っ向勝負などしてたまるか。死にたくないんでな」
メンカルはダチュラをフィデリオの背中に突き刺した。
ベノムエッジを乗せた強烈な一撃。
人影紛れ、相手を翻弄。同時にフィデリオの背後に忍び寄る様は幻影のようだ。
「終わった。そちらは無事か」
「わりぃ、ちょっと休んだらすぐ行くぜ」
トリプルJは深呼吸した。
これでまだ終わりではない。爆弾を解除しなければならないからだ。
だが、トリプルJは敢えて解除をメンカルへと託した。
小さく頷くメンカル。足早に脱出用シャトルの方へと走り出した。
「頼むぜ。俺が向かう頃には全部終わってる……そう信じてるからな」
トリプルJはリジェネレーションで回復を行いつつ、メンカルを見送る。
爆弾はおそらく先行した仲間が止めてくれる。
ならば、自分は少しでも被害を食い止める為に怪我人の救助や搬送を手伝うべきだ。
今も会場は戦場となっている。
少しでもこの悲劇が流した血を、拭わなければ――。
●
強化人間を倒したハンター達だが、ここである失策に気付く。
確かに強化人間はハンターと比較しても単体の強さに差は生じている。二対一であれば早期に決着は付くだろう。
だが、この依頼は強化人間を倒すだけでは終わらない。
脱出用シャトルに仕掛けられた爆弾を解除しなければならない。
つまり、ハンター達が強化人間に対して二人ずつ戦力を割り振るならば、ハンター達は強化人間を倒した後で脱出用シャトルへ向かう移動時間が必要になる。
そして、その移動に要する時間には想定外の事象が発生していた。
「……お、何だよこりゃ!?」
シャルカの眼前には脱出用シャトルの存在に気付いて集まってきた群衆が存在していた。
シャトルへ向かう通路は限界で押し通るにも無理がある。
命が惜しい要人達が自分だけを我先にと考えて集まった結果である。
「この向こうに行けってぇのかよ。これなら最初から誰かを爆弾前に配置しておけば良かったじゃねぇか」
シャルカは悔やむ。
しかし、まだ希望はある先行したハンター達が存在していたからだ。
「タブレットとは、これか」
最初に辿り着いたのはメンカルであった。
手にしたタブレットにはあるメッセージが表示されている。
『1人の水兵が殺された。
彼は分かっているだけで118人の仲間の一人だ。
彼は12番目のグループに属している。
彼はグループの中でも下っ端だ。
私は、彼に毒殺された』
この問いに対し、メンカルは答えを予測してきたようだ。
「リアルブルーには元素の周期表があると聞いた。おそらく、このメッセージの正体はそれだ」
メンカルの推測では、爆弾解除には元素の周期表が関係していると考えていた。
118人の仲間。
12番目のグループ。
下っ端という言葉。
つまり、118は現在発見されている元素数であり、12番目のグループとは12族を指し示している。
「下っ端が周期表の下部を指しているならば、答えはシアンだ」
メンカルはタブレット上のキーボードを触って答えを入力していく。
『Cn』――シアン。
12族の下部にある元素だ。
しかし、答えを入力したものの、タブレットには変化がない。
「くっ、違うのか」
「いえ。周期表で合っているはずよ」
背後からブリジットが現れると、メンカルからタブレットを受け取った。
ブリジットはタブレットを前に大きく呼吸をする。
表示されていたカウントは、既に2分を切っていたからだ。
「シアンじゃ無いのか」
「ポイントは毒殺された、という部分よ。エルダがゲームと言っていた事実を考えれば、もっと知名度のある元素かもしれない。たとえば……」
ブリジットはタブレットを操作して『Hg』と入力した。
Hg――水銀。
古代では不老不死の薬といわれ、水銀中毒で多くの者が命を落とした。
毒殺というのであればこちらの方が、しっくり来る。
「どうでしょう……?」
祈る思いで、最後のキーに触るブリジット。
次の瞬間、画面に表示されたのは『スチェッソ』の文字。
そして、爆弾のカウントは停止する。どうやら、正解だったようだ。
「成功か。良かった……残るカウントは、僅かだったか」
「ええ。これで脱出用のシャトルは守り切れたわ」
脱出用シャトルを守り切った事で要人達の脱出路を確保する事ができた。
ここを爆破されていたとするなら、要人達は完全に逃げ場を失う所であった。
「それにしても、シアン・エランは何をしようとしていたの?」
「分からん。だが、準備から類するすれば、陽動で目を惹こうとしていた可能性がある」
メンカルはブリジットの問いにそう答えた。
爆弾が仮に陽動を目的としていたなら、フィデリオが何か任務を遂行しようとしてたとも考えられる。
だとするならば――。
「誰かを狙っていた……もしそうなら、本当の標的は誰?」
その問いに答えられる者は誰もいなかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/15 14:12:44 |
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【相談卓】 メンカル(ka5338) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2018/07/15 16:01:15 |