ゲスト
(ka0000)
【空蒼】いつか儚く消えてしまうのならば
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/20 19:00
- 完成日
- 2018/07/25 19:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
二人、並んで座って、夜空を見上げていた。
瞬く星が、まるで闇に飲み込まれようとしてるみたいだと思いながら。
少年と少女。話がしたいと、呼び出したのは少女の方。
不思議には思わなかった。普段とは違う空気の中、ゆっくりと話したい、吐き出したい事なら──沢山、ある。
世界が、揺らぎ続けている。
信じたい未来と、目を背けてはいけない事実。交じり合う、二つの可能性の中で、彼女は何を思ったんだろう。
少年は、少女の言葉をじっと待つ。
そうして。
「ねえ……訓練所に居たときからね。君のことが好きだったよって、今言ったら、困る?」
膝を抱えて泣きそうな顔で、少女は、少年に告げた。
「……僕たち、デートがしたいんです」
リアルブルーのハンターオフィスで、依頼主として紹介された少年少女。その片方である少年は、依頼内容をそう告げた。
それのどこに問題が? と、ハンターは視線で先を促す。
「ハンターの皆さんに、見守ってほしいんです。……僕たち、強化人間だから」
それに……ハンターたちは、どんな顔をしただろう。驚きか。警戒か。呆れか。それとも……ただただ微笑んだだろうか。
「状況は、分かってるんです。でも信じたい気持ちもあって……。それでも……だから。僕たちのどちらかが『そうなって』しまったら、やっぱりきっと後悔する。そう思って、彼女が告白してくれて。僕もそれに……応えたくて」
この想いが、いつか。
壊れて、狂って、消えてしまうのならば、そうなる前に。
「あの……それで」
申し訳なさそうに、少年は口を重くする。それに。
「あのっ、出来たら、遊園地行きたいなって! あの、私が、私が言いだしたんですっ」
そうして、そこで少女が、精一杯の明るい声で、そう言った。
「小さいところで良いんですっ! 平日なら空いてるかなって! ……それでも、いきなり貸し切りとは、行かないでしょうけど……」
もう、依頼の意図は説明する必要は無いだろう。
彼らは怯えている。人の多いところに行って、そうしてもし、自分たちが『暴走』してしまったら、と。
だから、ハンターたちに見守ってほしい。……もし、暴走したら、自分たちが一般人に手をかける前に……と。
「あ、の、駄目だと思うなら、良いんです! でも、そしたらどうするのがいいかなって。その……。せめてやっぱり、彼と思い出は、残したくて……だって」
──だって、初めて好きになった人が、僕もだよって、言ってくれたんですよ?
「恋人が出来たら、やっぱり遊園地デート、って、憧れだったんですけど。で、でもありますよね、静かなところで思い出に残るデートプランも! わ、私根が単純だからそういうの思いつかないんですけど!」
少女はずっと、元気な声でハンターたちに訴えていた。笑顔で。今にも泣きそうな……笑顔で。
傷ついた、揺れる願いと、想いを抱えて。
終わるかもしれない世界を、最後まで、懸命に生きようと。
「あ、そうだ、ハンターさんたちは恋人いますか? そうしたらお話も聞きたいです! そうしたら、」
もし、独り残されることになっても、私たちにどんな未来があったのかなって、想像することは出来るのかなあ。
瞬く星が、まるで闇に飲み込まれようとしてるみたいだと思いながら。
少年と少女。話がしたいと、呼び出したのは少女の方。
不思議には思わなかった。普段とは違う空気の中、ゆっくりと話したい、吐き出したい事なら──沢山、ある。
世界が、揺らぎ続けている。
信じたい未来と、目を背けてはいけない事実。交じり合う、二つの可能性の中で、彼女は何を思ったんだろう。
少年は、少女の言葉をじっと待つ。
そうして。
「ねえ……訓練所に居たときからね。君のことが好きだったよって、今言ったら、困る?」
膝を抱えて泣きそうな顔で、少女は、少年に告げた。
「……僕たち、デートがしたいんです」
リアルブルーのハンターオフィスで、依頼主として紹介された少年少女。その片方である少年は、依頼内容をそう告げた。
それのどこに問題が? と、ハンターは視線で先を促す。
「ハンターの皆さんに、見守ってほしいんです。……僕たち、強化人間だから」
それに……ハンターたちは、どんな顔をしただろう。驚きか。警戒か。呆れか。それとも……ただただ微笑んだだろうか。
「状況は、分かってるんです。でも信じたい気持ちもあって……。それでも……だから。僕たちのどちらかが『そうなって』しまったら、やっぱりきっと後悔する。そう思って、彼女が告白してくれて。僕もそれに……応えたくて」
この想いが、いつか。
壊れて、狂って、消えてしまうのならば、そうなる前に。
「あの……それで」
申し訳なさそうに、少年は口を重くする。それに。
「あのっ、出来たら、遊園地行きたいなって! あの、私が、私が言いだしたんですっ」
そうして、そこで少女が、精一杯の明るい声で、そう言った。
「小さいところで良いんですっ! 平日なら空いてるかなって! ……それでも、いきなり貸し切りとは、行かないでしょうけど……」
もう、依頼の意図は説明する必要は無いだろう。
彼らは怯えている。人の多いところに行って、そうしてもし、自分たちが『暴走』してしまったら、と。
だから、ハンターたちに見守ってほしい。……もし、暴走したら、自分たちが一般人に手をかける前に……と。
「あ、の、駄目だと思うなら、良いんです! でも、そしたらどうするのがいいかなって。その……。せめてやっぱり、彼と思い出は、残したくて……だって」
──だって、初めて好きになった人が、僕もだよって、言ってくれたんですよ?
「恋人が出来たら、やっぱり遊園地デート、って、憧れだったんですけど。で、でもありますよね、静かなところで思い出に残るデートプランも! わ、私根が単純だからそういうの思いつかないんですけど!」
少女はずっと、元気な声でハンターたちに訴えていた。笑顔で。今にも泣きそうな……笑顔で。
傷ついた、揺れる願いと、想いを抱えて。
終わるかもしれない世界を、最後まで、懸命に生きようと。
「あ、そうだ、ハンターさんたちは恋人いますか? そうしたらお話も聞きたいです! そうしたら、」
もし、独り残されることになっても、私たちにどんな未来があったのかなって、想像することは出来るのかなあ。
リプレイ本文
「デート、いいわね!」
話を聞き終えるなり、アティ(ka2729)が歓声を上げる。
「あっ……アティといいます。宜しくお願いしますね」
そうして、依頼人と、依頼を受ける一行から注目を浴びると、彼女は気を取り直したように一度そう丁寧に名乗った。
「私に出来る事なら相談にのるわね。特定の相手は……まあ、いないんだけどね? 友達には結婚した娘もいるし、ほら、それに女の子だもの」
少し照れくさそうにしながら、アティはそれでも、楽しそうに少年少女に話しかける。
「俺の経験上初デートは大体失敗するから行きたい所に行くのが一番っす。失敗は次に活かせばいいんす」
そう言ったのは神楽(ka2032)だ。
「そうね。肩肘を張らずに行きたい所に行くのが良いと思う。遊園地っていうのもリアルブルーの友達から話は仕入れてきたわ」
アティも頷いて神楽の言葉に同意する。遊園地、という単語が改めて出てきたところで、テオバルト・グリム(ka1824)とGacrux(ka2726)が僅かに反応し、目配せをし合う。
「神楽さんは、お付き合いの経験が豊富なんですか?」
その時、さも実感があるかのような神楽の言葉に、少女がキラキラとした目を向けていた。
「え、え~と、こないだフラレじゃないフッタばかりで今はフリーなんで話せないっすね」
神楽は気まずそうに視線を泳がせた。実の所、付き合ったことは無い。見栄を張っているだけである。
テオバルトが、苦笑気味に進み出た。
「恋人の話が聞きたいんだっけ? 今は奥さんなんだけど良いかな?」
そう言って彼が話を切り出すと、少年少女は興味津々な瞳をテオバルトに向けて──Gacruxは、そっと一行から離れていくのだった。
(現状では歪虚である確証もない、か……)
Gacruxは現時点では彼らを人間として交流することにした。
希望に応えてはやりたいが、世情も鑑みて一般人にも誠実に対応したい。
テオバルトとも相談し、彼は強化人間に比較的理解のあるだろう、ムーンリーフ財団系列の遊園地が無いか調べ、事前にアポを取ることにした。
『強化人間を、当園にですか……』
ハンターからの、重要な話だと言って繋いでもらった責任者の声は、重たかった。
「我々覚醒者が監視に着きます。平日など、閑散とした時間帯は有りませんか?」
責任者の声には戸惑いはありつつも、やはり、財団の上の方の人間という事で、強化人間に対する理解と、現状への心痛も感じられた。それを鑑みて、Gacruxはあくまで誠実に、真剣に交渉を重ねる。
「そちらの安全については十分に配慮するつもりです。打ち合わせをさせてください」
そうして、Gacruxは幾つかの意見を述べようとする。避難経路の確認や、強化人間と狭所で遭遇する環境にはアクターは置かない等……。
だが。
『……警備への協力は、出来ません』
それに対する、責任者の第一声はこうだった。
『強化人間が暴走した、という結果になるのならば。たとえ被害が無いとしても、我々がそれを「知っていた」訳にはいきません』
結局、被害を食い止めたとしても、知っててそれを招き入れた、というだけで批判は免れない。
『暴走した強化人間は。財団に騙されたと思い込みテロを企てて当園を狙ったんです。……そしてそれを、たまたま、何かのついでに観光で訪れていた貴方方が、阻止するんです』
ムーンリーフ財団系列であるがゆえに。これが、これまでの事件によりダメージを受けた彼らが、ギリギリで受け入れられるシナリオだという。それ故に、あらかじめ強化人間が来ることが洩れる余地は、有ってはならない。
『……非常時の避難行動の指示や避難経路については、あらかじめお教えすることも出来ますが』
「それらは、『我々が現場で的確に判断した』──そういうことですね?」
Gacruxの言葉に、電話の向こうで頷く気配がした。
どうすべきか。
いざことが起きてしまえば、スタッフの混乱は避けられない。
事前協力が得られないという事は、予定していた、作業員に紛れ込んでの監視も行えない。
人々の安全より汚名の危険性が大事か……とは、責められまい。そもそも、危険なことに巻き込もうとしているのはこちらだ。
つまり──その条件で、守り抜く自信と覚悟があるかだ。向こうも、その答えを待っている。
「……やってみましょう」
静かに、だがはっきりとした意志を込めて、Gacruxは答えた。
「うちの奥さんはなー優しくてかわいい人だよ。感情豊かでくるくる変わる表情が魅力的だな!」
Gacruxが交渉する間、テオバルトは自身の恋愛について熱く語り続けていた。
「でも照れ屋な所があって、俺が『かわいい』って言うと『かわいくない』って返してくるんだよひどくない?」
少年少女は、それを真面目な顔で、ふんふんと頷きながら聞いていた。
「だから俺は彼女のどんな所が好きかを沢山並べるんだ。そうすると真っ赤になって静かになるんだけど、そういう所も堪らなく可愛いんだよ」
テオバルトの言葉に、少女が「いいなあ……」と呟いて、期待するように少年を見た。少年は、ぎこちなく微笑み返して、テオバルトに助けを求める視線を送る。
「沢山見つけるコツ? そんなのいつも見ていれば良いんだよ。ただ愛しい人だけを見るんだ。他の事は気にするな!」
テオバルトのトーンは益々熱を増していく。
「表情でもいいし、ちょっとした仕草でもいい。胸の奥が温かくなったなら、思わず笑みが溢れたなら。その気持ちのまま告げればいい」
──「君が好きだよ」ってな。
そこで一区切りを入れると、少年は……思いきるにはまだ経験と勢いが足りないのか、少女の周辺に視線を彷徨わせて口を開きかけては閉じるを繰り返す。
そこで。
「女の子の方はお料理とか出来るかしら?」
一旦、時間が必要かなと、アティが切り出した。
「え?」
「お昼はもちろん、買って食べるのも良いけどお弁当なんて作ってみたら?」
「お弁当……手作りの、お弁当……彼に……!」
少女が、憧れと躊躇いに瞳を煌かせて、アティを見る。
「私でよければ教えてあげるわよ」
「はい、それじゃあお願いします!」
少女がそう言って勢いよく立ち上がると、女同士、仲良く連れ立ってこの場を離れていく。
残された少年に。
「──恥ずかしいとか考えるな。今言わないでいつ言うんだ」
テオバルトは、再び語り始める。
「未来が分からないなら尚更だ。例え明日倒れる事になったとしても、最高の恋をしたと……全力で愛したと胸を張れる日々を送るんだ」
声は、先ほどまでの勢いと熱さは無かった。その分、強さと真剣さが増していた。
少年は、恥ずかしがっていた表情を引き締め、頷く。
「俺は送っている。誰より妻を愛しているし、愛されている自信がある!」
最後に、テオバルトがそう言うと。
「はい! 僕も……すぐには分からないですが、このデート中には必ず……彼女に、本気の想いを伝えて見せます!」
少年も本気の声で答えて……テオバルトは、ゆっくりと頷いた。
Gacruxが戻ってくる。
遊園地へと交渉が済んだところで、彼にはもう一つ、やっておきたいことがあった。
体温と脈の確認。暴走の兆候と、強化人間そのものへの調査。……異常は、無かった。
「身体に異常はないですか? 耳鳴りや幻聴のようなものは?」
受け答えははっきりしていて、デートを却下されるのを恐れて嘘をついているようにも見えない。
何も見つからないし、変わらないように思えた。そうして。
「……こちらの遊園地であれば、貴方方を受け入れてくれると、そう、話が付きましたよ」
Gacruxは、そこまで確認すると、彼らに報告した。
「遊園地……行けるんですか!」
少女が歓喜の声を上げる。
「良かった……ありがとうございます!」
少年が少女の肩を抱いて、感謝の言葉を述べる。
願いが叶う喜びに、少年と少女は互いに潤ませた瞳で見つめ合う。
「──恋の痛みを知らぬよりは、知っていた方がいい」
彼らを見て、Gacruxはポツリと言った。
「それに……人間、身を焦がす程の大恋愛など、一生に在るか無いかくらいのものですから」
どこか痛みを感じさせる声音で。
「なるべく視界に入らないようにするんでデートを楽しめっす。お化け屋敷とかはパルム経由で監視するんでよろしくっす」
神楽はそう言って、少女の肩に自身の使い魔であるパルムを乗せてやる。「よろしくね」と、少女が微笑んでパルムを撫でた。
「あ、キスとかする時はパルムに目隠ししとけっすよ」
その隙に、少年にそう耳打ちすると、少年は顔を真っ赤にして慌てふためく。
かくして、彼らの遊園地デートは開始された──その、監視作戦も。
テオバルトは、二人の邪魔にならないよう、双眼鏡を手に遠くから見守ることにする。多少の距離は有っても、彼がスキルを駆使した全力の起動を見せれば一瞬で詰められる。
作業員として雇ってもらうという当てが外れたGacruxは、不自然にならないよう程よい距離を一人歩き様子を見るしかなかった。
そうして、神楽はアティとカップルの振りをして監視することを提案する。
「まあ……遠慮する相手もいないから、今回は仕方ないわね。あ、でも変なことしようとしたら容赦しないわよ?」
「変なことってどんなことっすかね。ぐへへ……ぼあっ!」
アティの釘刺しに秒も持たずに神楽が下世話な顔を浮かべると、アティは宣言通り容赦のない一撃をお見舞いした。
……なんて、冗談めかして言いながら。
なんだかんだ、アティは最後まで神楽に付き合うのあった。彼女の肩越しに、少年少女を見つめる神楽の表情は信じられたから。
彼らに見守られながら、少年少女たちは遊園地を堪能する。
──ジェットコースターっていう馬より速い乗り物とかあるのよね。私たちだとC A Mとかでそれ以上のものに慣れちゃってるのが問題、って話だったけどそういうのは人にもよるし一度乗って見るのがいいんじゃないかしら?
アティの言葉に、彼らはためらいもなく列に並びコースターを楽しむ。
「あ、あはははははっ! 怖かった、びっくりしちゃったっ! あはは!」
「本当……CAMと違って直接速さと風が来るから……びっくりした」
──指輪を購入し交換しておくのを強く薦めておきますよ。こういう基本的な事が大事ですよ。
これは、何かあった時、想いの拠り所になるという意味も秘めての、Gacrux のアドバイス。
「ねえねえお土産屋さんに指輪があるよ! これにしよう?」
「え……こんなので、良いの? ちゃんと金属製ではあるけど……」
「ここのがいいの。今日の思い出を一生大事にしたい……!」
「そう。だね……。……ちゃんとしたのは、またいつかね」
お化け屋敷。メリーゴーランド。コーヒーカップ。ハンターたちの忠告に従い、あるいは彼ら自身で。めい一杯、少年少女たちは、はしゃいで、笑って、輝いていた。
やがて、夕暮れ時になる。
──外せないのが観覧車。高い場所にゆっくり進んで二人きりで景色とか眺めたりね。
「わあ……」
少女が歓声を上げる。茜から藍に変わりつつある空。海は夕日に煌き、街には明かりが灯り始めていた。
「綺麗だねえ!」
「……うん」
「今日、とっても楽しかったね! ねえ、この世界は綺麗だよね! とっても、素敵だよね! だから……」
観覧車は、もうすぐ、頂点に差し掛かろうとしていた。そこで。
「君と……一緒に、護りたかった、なあ……」
ポタリと。少女の瞳から涙が零れ落ちる。
そして。
「……嫌だよ。壊れたくない。殺されたくないよぉ! デート楽しかった、また行きたい、君が好きだよ、ずっと一緒に居たいよ! なんで!? どうして!? 世界を守りたいと思っちゃ、いけなかった? ハンターの皆さんに憧れたら、いけなかったの……!?」
その慟哭を。
ハンターたちは、御守り代わりにと託したトランシーバーから、聞いていた。
神楽は、使い魔を通じてその光景を、見ていた。
少年は。強く少女を抱きしめる。
涙に潰れた少女の瞳が、見開かれる。
「僕は」
震えた声だった。それでも。
ハンターに相談しよう、と言ったのは彼だった。ふざけるなと怒鳴られるかもと思った。その場で斬り捨てられるかもと思った。なのに、我儘に答えてくれた。励ましの言葉をくれた。愛を、教えてくれた。彼らの顔を思い出して。
「何があっても、僕は君とずっと一緒に居るから。これだけは約束する。何があっても、僕たちの運命は一緒だ」
深呼吸する。言うべき言葉。何度でも。
「僕も……『君が好きだよ』」
神楽の視界に、少年の掌が近づいていった。神楽が見えたものはそこまでだった。一度、使い魔を通じた視界が閉ざされる。そして。
次に見えたのは、顔を真っ赤にして唇を抑える少女。恥ずかしそうに外を眺める少年。
「……やるじゃねっすか」
アティの横で。神楽は呟いた。
観覧車が、降りてくる。
もうそろそろ時間だと、ハンターたちは降り立つその場に迎え立っていた。
「君たちの想いは、決して間違いなんかじゃない」
テオバルトが告げる。
出歯亀と理解しつつ、それでも、言わずにはいられない言葉が、彼らにはあった。
「お前達がいけない事は何一つないっす。VOIDに殺された奴等と同じ様に運が悪かっただけっす」
神楽は抑えた声で切り出した。
「強化人間を殺した事がある俺はお前達を助けてやるとは約束できないっす」
ピクリと、少年少女の肩が震える。
「だからこれはお願いっす。今の壊れたくないって気持ちを、好きな人と一緒にいたいって願いを、世界を守りたいって思いを、俺達に抱いた憧れを忘れないで欲しいっす。
お前達を救おうと努力している人がその方法を見つけるまで諦めずに抗って欲しいっす。
見つかるかどうか解らないっす。多分長く苦しむだけっす。きっと諦めて壊れた方が楽っす。
……でももう一度デートする為に頑張って欲しいっす」
その言葉は。
救えなかった事実があるからこそ、余計に切実さを帯びて彼らに伝わった。
「人は、いつか別れる。強化人間でも、ハンターでも、それは同じ。だからこそ精一杯生きるの。その時間を大切に、覚えておく為に」
アティは、少年少女らの手をギュ、と握りながら、優しく告げる。
「貴女達の事、守るから。精一杯守るから。今を精一杯幸せに生きて欲しい」
そんな、ハンターたちの言葉に。
我儘をかなえてくれた、彼らの想いに。
少年たちは、答えた。
「皆さん、今日は本当に、どうもありがとうございました!」
「私たち……闘いますから! 最後まであきらめずに闘いますから……!」
結局最後まで。
彼らは、暴走の兆候は見せなかった。
涙の痕を滲ませながら、ハンターたちと別れる少年少女は、最後、晴れやかな笑顔だった。
話を聞き終えるなり、アティ(ka2729)が歓声を上げる。
「あっ……アティといいます。宜しくお願いしますね」
そうして、依頼人と、依頼を受ける一行から注目を浴びると、彼女は気を取り直したように一度そう丁寧に名乗った。
「私に出来る事なら相談にのるわね。特定の相手は……まあ、いないんだけどね? 友達には結婚した娘もいるし、ほら、それに女の子だもの」
少し照れくさそうにしながら、アティはそれでも、楽しそうに少年少女に話しかける。
「俺の経験上初デートは大体失敗するから行きたい所に行くのが一番っす。失敗は次に活かせばいいんす」
そう言ったのは神楽(ka2032)だ。
「そうね。肩肘を張らずに行きたい所に行くのが良いと思う。遊園地っていうのもリアルブルーの友達から話は仕入れてきたわ」
アティも頷いて神楽の言葉に同意する。遊園地、という単語が改めて出てきたところで、テオバルト・グリム(ka1824)とGacrux(ka2726)が僅かに反応し、目配せをし合う。
「神楽さんは、お付き合いの経験が豊富なんですか?」
その時、さも実感があるかのような神楽の言葉に、少女がキラキラとした目を向けていた。
「え、え~と、こないだフラレじゃないフッタばかりで今はフリーなんで話せないっすね」
神楽は気まずそうに視線を泳がせた。実の所、付き合ったことは無い。見栄を張っているだけである。
テオバルトが、苦笑気味に進み出た。
「恋人の話が聞きたいんだっけ? 今は奥さんなんだけど良いかな?」
そう言って彼が話を切り出すと、少年少女は興味津々な瞳をテオバルトに向けて──Gacruxは、そっと一行から離れていくのだった。
(現状では歪虚である確証もない、か……)
Gacruxは現時点では彼らを人間として交流することにした。
希望に応えてはやりたいが、世情も鑑みて一般人にも誠実に対応したい。
テオバルトとも相談し、彼は強化人間に比較的理解のあるだろう、ムーンリーフ財団系列の遊園地が無いか調べ、事前にアポを取ることにした。
『強化人間を、当園にですか……』
ハンターからの、重要な話だと言って繋いでもらった責任者の声は、重たかった。
「我々覚醒者が監視に着きます。平日など、閑散とした時間帯は有りませんか?」
責任者の声には戸惑いはありつつも、やはり、財団の上の方の人間という事で、強化人間に対する理解と、現状への心痛も感じられた。それを鑑みて、Gacruxはあくまで誠実に、真剣に交渉を重ねる。
「そちらの安全については十分に配慮するつもりです。打ち合わせをさせてください」
そうして、Gacruxは幾つかの意見を述べようとする。避難経路の確認や、強化人間と狭所で遭遇する環境にはアクターは置かない等……。
だが。
『……警備への協力は、出来ません』
それに対する、責任者の第一声はこうだった。
『強化人間が暴走した、という結果になるのならば。たとえ被害が無いとしても、我々がそれを「知っていた」訳にはいきません』
結局、被害を食い止めたとしても、知っててそれを招き入れた、というだけで批判は免れない。
『暴走した強化人間は。財団に騙されたと思い込みテロを企てて当園を狙ったんです。……そしてそれを、たまたま、何かのついでに観光で訪れていた貴方方が、阻止するんです』
ムーンリーフ財団系列であるがゆえに。これが、これまでの事件によりダメージを受けた彼らが、ギリギリで受け入れられるシナリオだという。それ故に、あらかじめ強化人間が来ることが洩れる余地は、有ってはならない。
『……非常時の避難行動の指示や避難経路については、あらかじめお教えすることも出来ますが』
「それらは、『我々が現場で的確に判断した』──そういうことですね?」
Gacruxの言葉に、電話の向こうで頷く気配がした。
どうすべきか。
いざことが起きてしまえば、スタッフの混乱は避けられない。
事前協力が得られないという事は、予定していた、作業員に紛れ込んでの監視も行えない。
人々の安全より汚名の危険性が大事か……とは、責められまい。そもそも、危険なことに巻き込もうとしているのはこちらだ。
つまり──その条件で、守り抜く自信と覚悟があるかだ。向こうも、その答えを待っている。
「……やってみましょう」
静かに、だがはっきりとした意志を込めて、Gacruxは答えた。
「うちの奥さんはなー優しくてかわいい人だよ。感情豊かでくるくる変わる表情が魅力的だな!」
Gacruxが交渉する間、テオバルトは自身の恋愛について熱く語り続けていた。
「でも照れ屋な所があって、俺が『かわいい』って言うと『かわいくない』って返してくるんだよひどくない?」
少年少女は、それを真面目な顔で、ふんふんと頷きながら聞いていた。
「だから俺は彼女のどんな所が好きかを沢山並べるんだ。そうすると真っ赤になって静かになるんだけど、そういう所も堪らなく可愛いんだよ」
テオバルトの言葉に、少女が「いいなあ……」と呟いて、期待するように少年を見た。少年は、ぎこちなく微笑み返して、テオバルトに助けを求める視線を送る。
「沢山見つけるコツ? そんなのいつも見ていれば良いんだよ。ただ愛しい人だけを見るんだ。他の事は気にするな!」
テオバルトのトーンは益々熱を増していく。
「表情でもいいし、ちょっとした仕草でもいい。胸の奥が温かくなったなら、思わず笑みが溢れたなら。その気持ちのまま告げればいい」
──「君が好きだよ」ってな。
そこで一区切りを入れると、少年は……思いきるにはまだ経験と勢いが足りないのか、少女の周辺に視線を彷徨わせて口を開きかけては閉じるを繰り返す。
そこで。
「女の子の方はお料理とか出来るかしら?」
一旦、時間が必要かなと、アティが切り出した。
「え?」
「お昼はもちろん、買って食べるのも良いけどお弁当なんて作ってみたら?」
「お弁当……手作りの、お弁当……彼に……!」
少女が、憧れと躊躇いに瞳を煌かせて、アティを見る。
「私でよければ教えてあげるわよ」
「はい、それじゃあお願いします!」
少女がそう言って勢いよく立ち上がると、女同士、仲良く連れ立ってこの場を離れていく。
残された少年に。
「──恥ずかしいとか考えるな。今言わないでいつ言うんだ」
テオバルトは、再び語り始める。
「未来が分からないなら尚更だ。例え明日倒れる事になったとしても、最高の恋をしたと……全力で愛したと胸を張れる日々を送るんだ」
声は、先ほどまでの勢いと熱さは無かった。その分、強さと真剣さが増していた。
少年は、恥ずかしがっていた表情を引き締め、頷く。
「俺は送っている。誰より妻を愛しているし、愛されている自信がある!」
最後に、テオバルトがそう言うと。
「はい! 僕も……すぐには分からないですが、このデート中には必ず……彼女に、本気の想いを伝えて見せます!」
少年も本気の声で答えて……テオバルトは、ゆっくりと頷いた。
Gacruxが戻ってくる。
遊園地へと交渉が済んだところで、彼にはもう一つ、やっておきたいことがあった。
体温と脈の確認。暴走の兆候と、強化人間そのものへの調査。……異常は、無かった。
「身体に異常はないですか? 耳鳴りや幻聴のようなものは?」
受け答えははっきりしていて、デートを却下されるのを恐れて嘘をついているようにも見えない。
何も見つからないし、変わらないように思えた。そうして。
「……こちらの遊園地であれば、貴方方を受け入れてくれると、そう、話が付きましたよ」
Gacruxは、そこまで確認すると、彼らに報告した。
「遊園地……行けるんですか!」
少女が歓喜の声を上げる。
「良かった……ありがとうございます!」
少年が少女の肩を抱いて、感謝の言葉を述べる。
願いが叶う喜びに、少年と少女は互いに潤ませた瞳で見つめ合う。
「──恋の痛みを知らぬよりは、知っていた方がいい」
彼らを見て、Gacruxはポツリと言った。
「それに……人間、身を焦がす程の大恋愛など、一生に在るか無いかくらいのものですから」
どこか痛みを感じさせる声音で。
「なるべく視界に入らないようにするんでデートを楽しめっす。お化け屋敷とかはパルム経由で監視するんでよろしくっす」
神楽はそう言って、少女の肩に自身の使い魔であるパルムを乗せてやる。「よろしくね」と、少女が微笑んでパルムを撫でた。
「あ、キスとかする時はパルムに目隠ししとけっすよ」
その隙に、少年にそう耳打ちすると、少年は顔を真っ赤にして慌てふためく。
かくして、彼らの遊園地デートは開始された──その、監視作戦も。
テオバルトは、二人の邪魔にならないよう、双眼鏡を手に遠くから見守ることにする。多少の距離は有っても、彼がスキルを駆使した全力の起動を見せれば一瞬で詰められる。
作業員として雇ってもらうという当てが外れたGacruxは、不自然にならないよう程よい距離を一人歩き様子を見るしかなかった。
そうして、神楽はアティとカップルの振りをして監視することを提案する。
「まあ……遠慮する相手もいないから、今回は仕方ないわね。あ、でも変なことしようとしたら容赦しないわよ?」
「変なことってどんなことっすかね。ぐへへ……ぼあっ!」
アティの釘刺しに秒も持たずに神楽が下世話な顔を浮かべると、アティは宣言通り容赦のない一撃をお見舞いした。
……なんて、冗談めかして言いながら。
なんだかんだ、アティは最後まで神楽に付き合うのあった。彼女の肩越しに、少年少女を見つめる神楽の表情は信じられたから。
彼らに見守られながら、少年少女たちは遊園地を堪能する。
──ジェットコースターっていう馬より速い乗り物とかあるのよね。私たちだとC A Mとかでそれ以上のものに慣れちゃってるのが問題、って話だったけどそういうのは人にもよるし一度乗って見るのがいいんじゃないかしら?
アティの言葉に、彼らはためらいもなく列に並びコースターを楽しむ。
「あ、あはははははっ! 怖かった、びっくりしちゃったっ! あはは!」
「本当……CAMと違って直接速さと風が来るから……びっくりした」
──指輪を購入し交換しておくのを強く薦めておきますよ。こういう基本的な事が大事ですよ。
これは、何かあった時、想いの拠り所になるという意味も秘めての、Gacrux のアドバイス。
「ねえねえお土産屋さんに指輪があるよ! これにしよう?」
「え……こんなので、良いの? ちゃんと金属製ではあるけど……」
「ここのがいいの。今日の思い出を一生大事にしたい……!」
「そう。だね……。……ちゃんとしたのは、またいつかね」
お化け屋敷。メリーゴーランド。コーヒーカップ。ハンターたちの忠告に従い、あるいは彼ら自身で。めい一杯、少年少女たちは、はしゃいで、笑って、輝いていた。
やがて、夕暮れ時になる。
──外せないのが観覧車。高い場所にゆっくり進んで二人きりで景色とか眺めたりね。
「わあ……」
少女が歓声を上げる。茜から藍に変わりつつある空。海は夕日に煌き、街には明かりが灯り始めていた。
「綺麗だねえ!」
「……うん」
「今日、とっても楽しかったね! ねえ、この世界は綺麗だよね! とっても、素敵だよね! だから……」
観覧車は、もうすぐ、頂点に差し掛かろうとしていた。そこで。
「君と……一緒に、護りたかった、なあ……」
ポタリと。少女の瞳から涙が零れ落ちる。
そして。
「……嫌だよ。壊れたくない。殺されたくないよぉ! デート楽しかった、また行きたい、君が好きだよ、ずっと一緒に居たいよ! なんで!? どうして!? 世界を守りたいと思っちゃ、いけなかった? ハンターの皆さんに憧れたら、いけなかったの……!?」
その慟哭を。
ハンターたちは、御守り代わりにと託したトランシーバーから、聞いていた。
神楽は、使い魔を通じてその光景を、見ていた。
少年は。強く少女を抱きしめる。
涙に潰れた少女の瞳が、見開かれる。
「僕は」
震えた声だった。それでも。
ハンターに相談しよう、と言ったのは彼だった。ふざけるなと怒鳴られるかもと思った。その場で斬り捨てられるかもと思った。なのに、我儘に答えてくれた。励ましの言葉をくれた。愛を、教えてくれた。彼らの顔を思い出して。
「何があっても、僕は君とずっと一緒に居るから。これだけは約束する。何があっても、僕たちの運命は一緒だ」
深呼吸する。言うべき言葉。何度でも。
「僕も……『君が好きだよ』」
神楽の視界に、少年の掌が近づいていった。神楽が見えたものはそこまでだった。一度、使い魔を通じた視界が閉ざされる。そして。
次に見えたのは、顔を真っ赤にして唇を抑える少女。恥ずかしそうに外を眺める少年。
「……やるじゃねっすか」
アティの横で。神楽は呟いた。
観覧車が、降りてくる。
もうそろそろ時間だと、ハンターたちは降り立つその場に迎え立っていた。
「君たちの想いは、決して間違いなんかじゃない」
テオバルトが告げる。
出歯亀と理解しつつ、それでも、言わずにはいられない言葉が、彼らにはあった。
「お前達がいけない事は何一つないっす。VOIDに殺された奴等と同じ様に運が悪かっただけっす」
神楽は抑えた声で切り出した。
「強化人間を殺した事がある俺はお前達を助けてやるとは約束できないっす」
ピクリと、少年少女の肩が震える。
「だからこれはお願いっす。今の壊れたくないって気持ちを、好きな人と一緒にいたいって願いを、世界を守りたいって思いを、俺達に抱いた憧れを忘れないで欲しいっす。
お前達を救おうと努力している人がその方法を見つけるまで諦めずに抗って欲しいっす。
見つかるかどうか解らないっす。多分長く苦しむだけっす。きっと諦めて壊れた方が楽っす。
……でももう一度デートする為に頑張って欲しいっす」
その言葉は。
救えなかった事実があるからこそ、余計に切実さを帯びて彼らに伝わった。
「人は、いつか別れる。強化人間でも、ハンターでも、それは同じ。だからこそ精一杯生きるの。その時間を大切に、覚えておく為に」
アティは、少年少女らの手をギュ、と握りながら、優しく告げる。
「貴女達の事、守るから。精一杯守るから。今を精一杯幸せに生きて欲しい」
そんな、ハンターたちの言葉に。
我儘をかなえてくれた、彼らの想いに。
少年たちは、答えた。
「皆さん、今日は本当に、どうもありがとうございました!」
「私たち……闘いますから! 最後まであきらめずに闘いますから……!」
結局最後まで。
彼らは、暴走の兆候は見せなかった。
涙の痕を滲ませながら、ハンターたちと別れる少年少女は、最後、晴れやかな笑顔だった。
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相談卓 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/07/19 16:26:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/15 22:02:44 |