ゲスト
(ka0000)
心、響かせて 3
マスター:ゆくなが

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/25 15:00
- 完成日
- 2018/07/31 13:40
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「いい風ですわね……」
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)が炎色の髪を抑えて言う。
青い海を心地の良い風が吹き渡る。
そう、今ハンター一行は船上にいた。
●船上までの経緯
浜辺でのゾンビ退治の後、その様子を見ていた商人から声を掛けられた。彼は近くの港の商人であった。なんでも、最近商船の失踪が相次いでいるので、調査してほしいと言うのだ。
失踪した船はある島の近くを通る予定だったものばかりだと言う。
ハンターオフィスへの報告もそこそこに、早速ハンターたちはその島へと赴くことになったのだ。
●さて、再び船上
「一体、その島では何が待ち受けていると言うのでしょうね? 妾が目立てる舞台なら良いのですけど」
そう言うのは、風に金色の髪をなびかせた、アラベラ・クララ(kz0250)であった。
●アラベラの経緯
アラベラは軍属になることは出来なかった。それは精霊を軍事力として扱うことであり、国際世論的に問題がある。
しかし、アラベラは安全な精霊であり、本人の希望もあったことから、帝国軍に協力しても良いという許可が出たのだ。
そこで、さっそく何やら不穏な案件を抱えているグリューエリンと共に活動することにしたのである。
●そして、船上
グリューエリンがアラベラをそっと見る。
グリューエリンはまだアラベラを完全に受け入れることは出来なかった。それはいつでも自由に生きているアラベラに対する羨望にも似た疎ましさに起因していることは自分でもわかっていた。
──私は、どうしたいのだろう。
グリューエリンは思う。
──私は、歌を……。
──歌いたいと思っているのでしょうか……。
そんな考えに沈んでいる時である。共に乗船している船員から声が上がった。
前方に3隻の船が見えてきたのだ。それはなんと、失踪している船たちだと言うではないか。
それらは、みるみる、グリューエリンたちの船へ近づいて来た……。
「あれは一体、なんです……!?」
望遠鏡でグリューエリンが向かってくる船を覗くと、信じられないものが見えた。
大量のゾンビが船に乗っており、生きた人間はどこにもいない。
彼らは、この船に狙いをつけたように、どんどん近づいてくる。
そして──ついに、ゾンビを満載にした船に、ハンターたちの船は接舷されてしまった。
●船上は戦場へ、そして揺さぶられる心
「グリューエリン、会いたかったよ!」
そんな言葉とともに、ゾンビの船からひとりの少年がハンターたちの船に飛び乗った。
彼は、無数のコウモリを従えた、10代前半といえる体格の少年だった。
そして、その声は、確かに浜辺にいたコウモリから聞こえて来たそれと同じものであった。
「貴方は、一体何者ですか!?」
グリューエリンが剣を抜き放って、鋭く問う。
「ああ、そうか。君は僕を知らないんだよね」
少年は微笑した。
「僕はヨル。君に憧れた人間だよ……今はもう歪虚だけどね」
肩をすくめて、少年──ヨルは言う。
「僕は君に訊きたいことがあるんだ……グリューエリン、どうして歌わなくなってしまったんだい?」
「どうして、貴方がそれを……?」
「僕の島はよく船が立ち寄るから、割と帝国本土の情報が手に入るんだ。だから、僕は君がもう歌わなくなってしまったことを知っている……ねえ、どうしてなんだい?」
本当に悲痛そうな顔をして、ヨルは問いかける。
「貴方には関係ありません……!」
「いや、あるね。僕は君に憧れて、歌を頑張ったんだ。君みたいになりたいと思った。だから、君が歌わなくなって本当に悲しいんだ。ねえ、グリューエリン」
彼はそこで一度言葉を区切った。
「もう一度歌ってよ」
それは、心からの訴えのように聞こえた。
グリューエリンはこたえない。ただ言葉に射抜かれたように立ち尽くしていた。
「……もしかして、よっぽどのことがあって歌えなくなっちゃった?」
「っ……!」
「わかるよ、その気持ち。僕も歌えなくなってしまったんだ。忌々しい変声期のおかげでね。でも、この歪虚の体になってからはすっかり元通りだ」
ヨルは細く白い喉をさすりながら言う。
「でも、僕がもう一度歌えたんだから、君だって歌えるはずだ。……そうだね、質問を変えよう。君は……何があったらもう一度歌ってくれるのかな?」
「どういうこと、です?」
「例えばさ、殺されかけたら、もう一度歌うって約束してくれるのかなってことさ」
その時だった。船のひとつからゾンビが跳んで来て、グリューエリンへ手に持った棍棒を思いっきり振り下ろした。
それを弾き返したのはアラベラの盾だった。
「そこの少年。グリューエリンにばかり構ってないで妾の方を見たらどうです?」
「君、誰? 僕、グリューエリンにしか用はないんだけど。ま、いっか」
そう言うと、ヨルは従えている船に目配せした。
「そうだね、例えば、君たちが乗っている船が沈みそうになったら、また歌ってくれるって約束してくれるのかな?」
ヨルは一度、ゾンビたちに呼びかけるように歌を歌った。
すると、接舷した船や、隣り合わせになった船から梯子やロープ、あるいは脚力でゾンビたちは、次々ハンターたちの船へ乗り移ってくるではないか。
「さらに例えばだけど、ゾンビたちに船員が殺されそうになったら、また歌ってくれるのかな!? グリューエリン!」
「私は……私は…………」
「何をしているのです、グリューエリン! しっかりしなさい!」
アラベラが言うも、グリューエリンは少年の言葉の毒にやられているようだ。
その間にも、ゾンビたちは迫ってくる。
「私は……!」
グリューエリンの言葉が、儚く風にかき消された。
グリューエリン・ヴァルファー(kz0050)が炎色の髪を抑えて言う。
青い海を心地の良い風が吹き渡る。
そう、今ハンター一行は船上にいた。
●船上までの経緯
浜辺でのゾンビ退治の後、その様子を見ていた商人から声を掛けられた。彼は近くの港の商人であった。なんでも、最近商船の失踪が相次いでいるので、調査してほしいと言うのだ。
失踪した船はある島の近くを通る予定だったものばかりだと言う。
ハンターオフィスへの報告もそこそこに、早速ハンターたちはその島へと赴くことになったのだ。
●さて、再び船上
「一体、その島では何が待ち受けていると言うのでしょうね? 妾が目立てる舞台なら良いのですけど」
そう言うのは、風に金色の髪をなびかせた、アラベラ・クララ(kz0250)であった。
●アラベラの経緯
アラベラは軍属になることは出来なかった。それは精霊を軍事力として扱うことであり、国際世論的に問題がある。
しかし、アラベラは安全な精霊であり、本人の希望もあったことから、帝国軍に協力しても良いという許可が出たのだ。
そこで、さっそく何やら不穏な案件を抱えているグリューエリンと共に活動することにしたのである。
●そして、船上
グリューエリンがアラベラをそっと見る。
グリューエリンはまだアラベラを完全に受け入れることは出来なかった。それはいつでも自由に生きているアラベラに対する羨望にも似た疎ましさに起因していることは自分でもわかっていた。
──私は、どうしたいのだろう。
グリューエリンは思う。
──私は、歌を……。
──歌いたいと思っているのでしょうか……。
そんな考えに沈んでいる時である。共に乗船している船員から声が上がった。
前方に3隻の船が見えてきたのだ。それはなんと、失踪している船たちだと言うではないか。
それらは、みるみる、グリューエリンたちの船へ近づいて来た……。
「あれは一体、なんです……!?」
望遠鏡でグリューエリンが向かってくる船を覗くと、信じられないものが見えた。
大量のゾンビが船に乗っており、生きた人間はどこにもいない。
彼らは、この船に狙いをつけたように、どんどん近づいてくる。
そして──ついに、ゾンビを満載にした船に、ハンターたちの船は接舷されてしまった。
●船上は戦場へ、そして揺さぶられる心
「グリューエリン、会いたかったよ!」
そんな言葉とともに、ゾンビの船からひとりの少年がハンターたちの船に飛び乗った。
彼は、無数のコウモリを従えた、10代前半といえる体格の少年だった。
そして、その声は、確かに浜辺にいたコウモリから聞こえて来たそれと同じものであった。
「貴方は、一体何者ですか!?」
グリューエリンが剣を抜き放って、鋭く問う。
「ああ、そうか。君は僕を知らないんだよね」
少年は微笑した。
「僕はヨル。君に憧れた人間だよ……今はもう歪虚だけどね」
肩をすくめて、少年──ヨルは言う。
「僕は君に訊きたいことがあるんだ……グリューエリン、どうして歌わなくなってしまったんだい?」
「どうして、貴方がそれを……?」
「僕の島はよく船が立ち寄るから、割と帝国本土の情報が手に入るんだ。だから、僕は君がもう歌わなくなってしまったことを知っている……ねえ、どうしてなんだい?」
本当に悲痛そうな顔をして、ヨルは問いかける。
「貴方には関係ありません……!」
「いや、あるね。僕は君に憧れて、歌を頑張ったんだ。君みたいになりたいと思った。だから、君が歌わなくなって本当に悲しいんだ。ねえ、グリューエリン」
彼はそこで一度言葉を区切った。
「もう一度歌ってよ」
それは、心からの訴えのように聞こえた。
グリューエリンはこたえない。ただ言葉に射抜かれたように立ち尽くしていた。
「……もしかして、よっぽどのことがあって歌えなくなっちゃった?」
「っ……!」
「わかるよ、その気持ち。僕も歌えなくなってしまったんだ。忌々しい変声期のおかげでね。でも、この歪虚の体になってからはすっかり元通りだ」
ヨルは細く白い喉をさすりながら言う。
「でも、僕がもう一度歌えたんだから、君だって歌えるはずだ。……そうだね、質問を変えよう。君は……何があったらもう一度歌ってくれるのかな?」
「どういうこと、です?」
「例えばさ、殺されかけたら、もう一度歌うって約束してくれるのかなってことさ」
その時だった。船のひとつからゾンビが跳んで来て、グリューエリンへ手に持った棍棒を思いっきり振り下ろした。
それを弾き返したのはアラベラの盾だった。
「そこの少年。グリューエリンにばかり構ってないで妾の方を見たらどうです?」
「君、誰? 僕、グリューエリンにしか用はないんだけど。ま、いっか」
そう言うと、ヨルは従えている船に目配せした。
「そうだね、例えば、君たちが乗っている船が沈みそうになったら、また歌ってくれるって約束してくれるのかな?」
ヨルは一度、ゾンビたちに呼びかけるように歌を歌った。
すると、接舷した船や、隣り合わせになった船から梯子やロープ、あるいは脚力でゾンビたちは、次々ハンターたちの船へ乗り移ってくるではないか。
「さらに例えばだけど、ゾンビたちに船員が殺されそうになったら、また歌ってくれるのかな!? グリューエリン!」
「私は……私は…………」
「何をしているのです、グリューエリン! しっかりしなさい!」
アラベラが言うも、グリューエリンは少年の言葉の毒にやられているようだ。
その間にも、ゾンビたちは迫ってくる。
「私は……!」
グリューエリンの言葉が、儚く風にかき消された。
リプレイ本文
「私は……私は……あいたっ」
混乱するグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)が突然素っ頓狂な声をあげた。
同時にシパーン! という小気味良い打擲音が響く。
「まーた独りで考える。悪い癖だよ」
グリューエリンの腰を叩いた張本人、キヅカ・リク(ka0038)が言う。
「今はあの時とは違う。アイツの言う通りに歌う必要はない」
「でも……!」
「歌うべき瞬間はきっと君がもう知っている。そうだろう?」
その言葉に、グリューエリンはどきりとした。
そして、敵との間に時音 ざくろ(ka1250)が立ちはだかる。
「安心してゆっくり深呼吸してグリューエリン、無理に歌わなくてもいい、落ち着くまではざくろ達が護るから」
メイスと盾を構え、ざくろが敵との距離をはかる。
「エリンちゃん」
キヅカはグリューエリンの手を握った。
「大丈夫、僕たちがいる」
「そーそー。ダイジョーブ、独りじゃないよー。僕たち全員でまもろー」
キヅカの言葉にフューリト・クローバー(ka7146)も同意する。
「歌かー。歌ねー。僕はねー歌は好きで楽しいから歌うの。あなたのことは理解したくないしされたくないやー」
にこっりと宣言して、フューリトはレクイエムを歌いはじめる。
船員たちはゾンビの襲来により軽い混乱状態にあった。このままでは船員に死者が出ることは必定だ。
だが、その時、潮風よりも轟く大音声で呼ばわる者がいた。
「落ち着けお前ら!!」
漆黒のマントを翻すその姿は、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。
さすがの音量に、船員たちも耳を傾ける。
「とにかく、船長室まで逃げるんだ! 道は俺様が切り開いてやる!」
その言葉で、船員たちは落ち着きを取り戻した。
そして、デスドクロの言葉にはヨルも反応した。
「……君、この前僕の歌を邪魔してきた奴だよね」
「おまえこそ聞いた声だと思ったらアレか。この前のコウモリマンか」
ヨルを見下ろしてデスドクロが言う。
「いいかコウモリマン、よく聞け」
デスドクロが静かに語り始めた。
「グリりんのファンなのは良く分かったし、ストーキングする熱意も良し。力があるんならそれを武器に、己の望みを叶えるべく、無茶を通すのはアリだ。だがひとつだけ分かっちゃいねぇことがあったようだ」
デスドクロは一度深く息を吸って続きを紡ぐ。
「ウチのアイドルが歌うかどうかを最終的に決めるのは歌手本人じゃあねぇ……。暗黒プロデューサーたるこの俺様に決定権があるってことを、知らなかったようだなァ」
「歌手なら歌うかどうかを決めるのは本人でしょ?」
「まあ素人なら仕方ねえ。っつーワケでコウモリマンはグリじゃなく、俺様に頼め。懇願しろ」
デスドクロの言わんとしているのは、この混乱した状況に、グリューエリンの責任は無いと言うことだ。
「もしかして君たち戦うつもり? 戦力差わかってるの?」
しかしアラベラ・クララ(kz0250)の槍がゾンビを紙のように千切っていく。
「にしても、少年ヨル! 本当に妾のことを知らないのですか?」
「うん、誰?」
「妾は絶火の騎士……」
「騎士なの? 僕、歌わない人間には興味ないんだよねー」
「この不敬者ー!」
「アラベラさん、落ち着いて」
そんなアラベラに声をかけるのはUisca Amhran(ka0754)だ。
「アラベラさん、私とユニットを組んで」
「ゆにっと?」
「2人組あいどるもリアルブルーでは王道アイドルの1つなの。2人なら、お互いの隙をなくせるから」
「では組みましょう、ユニットを!」
アラベラの水際立った一撃がゾンビを刺し貫く。
「では……参りますっ」
一際高い靴音が鳴らされる、華麗なステップが戦場に華を添えた。
なにより、踊りながらUiscaは歌っていた。
恐怖に打ち勝つ歌を、もう一度立ち上がってと願う歌を。
それは──スキルに寄らない、祈りの込められたただの歌だった。
「歌いたくない人が無理に歌う必要はないです。歌はその人の心……魂そのものなんですからっ」
Uiscaは言う。
「この世界では歌は危険な凶器となりました……。でも包丁で人を殺せるからと料理人を否定してしまうのですか……? 歌そのものではなく歌う人自身が大事なんです。これが貴女が歌えなくなったあの場に一緒にいた私の“答え”ですっ」
「エリンちゃん」
手を握ったままのキヅカがグリューエリンに声をかける。
「どんなに力をもっても出来る事と出来ない事がある。それでも諦めたくない。救えるものがあると信じてるから。エリンちゃんにも出来る事、出来ないことがある。だからこそ選ぶんだ。胸の中にある想いを真実に変えたいのなら」
「私に出来ること……胸にある想い……」
ハンターたちの気遣いで、グリューエリンはいくらか落ち着きを取り戻していた。
「じゃあ、僕も行くね。僕が出来ることをするために」
キヅカがグリューエリンの手を離す。
グリューエリンはその背中を見送った。胸に想いの炎を感じながら。
●
「まずは海賊退治、でいいのかな?」
深緑の軌跡が描かれ、ゾンビが両断されていく。樅(ka7252)の攻撃だった。
「海賊……ていうか、ゾンビ? ま、どっちでもいいけどっ」
力を身体中に巡らせて、放たれた一撃はゾンビの頭を吹き飛ばした。
「雑魚だけど、数が多いね!」
そこかしこに、深緑の斬撃が奔る。その度にゾンビは次々塵へとかえっていく。
「っと、危機発見!」
今にも船員に鎌を振り下ろそうとしているゾンビがいた。
全速力で樅が駆け寄る。
「──間に合うかな!?」
ついに鎌が振り下ろされる、と思ったが、不意にその動きが止まった。
フューリトのレクイエムが行動を阻害したのだ。
そして、樅は滑り込むように、走ってきた力を全て刀に乗せ、ゾンビの体を真っ二つに切り裂いた。
船員に怪我はない。彼は「ありがとう」と礼を述べて船長室の方に駆け出した。
「このままじゃ、いくら倒してもキリがない……根本的に数を減らすには……」
樅が接舷している敵の船を睨んだ。そこからは梯子やロープがかけられ、その上をゾンビたちが歩いてきている。
「あれ破壊した方がいいだろうね」
しかし、そうするためには、まだゾンビが邪魔だった。
ゾンビたちは未だ逃げ切っていない船員に狙いを定めている。
デスドクロが制圧射撃で船員室までの道を開いているが、船員がそこに集中すればするほど、ゾンビたちも群がってくる。
その時だった。樅の視界の端に燃え上がるマテリアルのオーラが見えた。
キヅカがソウルトーチを発動したのだ。
ゾンビの視線が一斉にキヅカへと注がれる。
「やるなら今のうちに!」
「わかったよ、任せて!」
樅はゾンビたちをなぎ倒しながら、ついに船の縁へとたどり着いた。
「こんな無粋なもの、斬っちゃうよ!」
絡繰刀を振り上げて、一気にロープや梯子を両断する。
ついに、それらは崩れさり、その上を歩いていたゾンビたちが海へと落下していった。
しかし、左舷にも敵の船はある。そこからは走り幅跳びの要領で、ゾンビたちが移乗してきていた。
即座に樅は走り出し、迎撃に向かう。
「悪いが一気に殲滅させもらう」
キヅカがマテリアルを練り上げ、生み出された魔法の矢が5本の矢がはっしとゾンビたちを貫いてく。
そして、その攻撃はヨルの従えているコウモリへも着弾した。
しかし、ヨルはなおも泰然としている。
「ねえ、もう一度歌ってよグリューエリン」
ヨルがなおもグリューエリンへ言う。
そんなヨルへUiscaが問いかける。
「自分が無理に歌わされたら良い歌を歌えますか? 本当のファンなら無理強いはおやめなさい」
「歌うべき人間が歌うのは当然のことだろう?」
「……あなたには何を話しても無駄のようですね」
闇色の龍の爪や牙がゾンビどころかヨルや周囲のコウモリを貫いた。
「あれ、動けないや。まあ、喋れればいいか」
Uiscaが放った【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻による移動不能だ。
グリューエリンにも、ゾンビたちが群がってくる。
それをざくろやアラベラが次々と撃退する。
「そんなに歌が聞きたいなら、代わりにざくろが歌ってあげるよ☆」
ざくろは高らかに歌を歌いながら、ゾンビたちを捌いて行く。
「それに君は大きな勘違いをしている、無理に歌わせた歌に、お前が好きだったグリューエリンの歌のような感動は生まれない! ……超機導パワーオン、弾け飛べっ!」
剣を振り下ろしてきたゾンビをざくろが攻性防壁で吹き飛ばす。弾き出されたゾンビは、海へと落下した。
「くらえ必殺デルタエンド!」
さらにデルタレイが群がるゾンビを焼き焦がす。
そして、今度はざくろはメイスをヨルへと向けた。
「……お次は燃え尽きろ拡散ヒートレイ」
静かな言葉とともに、無数の熱線がヨルとコウモリへと照射される。
前回の戦闘から、ざくろはコウモリが歌の要だと考えていた。だから、ここで破壊できる分は破壊することにしたのだ。
それはUiscaとキヅカ、フューリトも同じで、コウモリを優先して攻撃していた。
「いいのかな、僕にばかり構っていて。ゾンビはまだまだいるよ?」
度重なる攻撃で、3体のコウモリが塵になって消えていった。しかし、それだけはヨルの言葉通りだった。
ロープや梯子を破壊しても、ゾンビはまだ船にいるし、ジャンプで乗り移ってこようとしているものも大勢いる。
しかし、それでもハンターたちは健闘し、ついに全員の船員の救助に成功したのだった。
「ちぇ、ひとりも殺せなかったのか。つまんないの……でもまあ、これでゆっくりグリューエリンと話ができると思えば悪くもないかな。て言うか、さっきの結構痛かったよ?」
ヨルは焼かれた右肩を撫でて、ざくろに言う。
「僕、戦闘は苦手なんだけどね。だってほら、僕は歌手だから。グリューエリンもそうだろう? こんなゾンビたちに囲まれているより、観客の前で歌う方がずっと素敵じゃないか。ねえ、歌ってよ、グリューエ……」
「ちょっと黙りなよ」
ヨルの言葉が途中で切れた。
死角から忍び寄っていた樅が疾風剣でヨルの脇腹を貫いたのだ。
「歌えなくなった理由はただの声変わり、今は歪虚になって憧れの人を脅して歌わせようとする、恥知らずで軟弱な変態。……消えた方がいいと思うよ?」
すぐに、距離をとる樅。
ヨルはそれでも、グリューエリンを見た。
「ねえ、グリューエリン、君も歌えなくなったんだろう。僕の気持ちがわかるよね。……それにゾンビはまだまだいるよ? あそこに見える船にだってたくさんいるんだ。その気になれば船を沈めることだってできる。ねえ、歌ってよ」
「なんども言わせるな、コウモリマン」
デスドクロが口を挟む。
「リハーサルも無しにグリに歌わせることは俺様が断じて許さねえ。それはコウモリマンのやり口がどうこうって話じゃあなく、プロとしての気構えの問題だ。その上で伝えるぜ、グリりんはいずれまたコンサートを開くってことをな」
グリューエリンは俯いたままだ。
「ヨルにしつもーん」
手を上げて、フューリトが言った。
「憧れのグリューさんに歌ってもらってどうしたいー?」
「……グリューエリンはもう一度歌うべきなんだ」
「無理に歌ったグリューさんの歌でも嬉しくなるー?」
「それでもグリューエリンが歌えると僕は信じている」
「んーと、歌、好きー? 歌って楽しいー?」
「……もちろん好きだね」
「そうなんだーありがとー」
そしてフューリトはくるりとグリューエリンに向き直る。
「グーリューさーん」
フューリトがぽむ、と肩を叩いた。
「潮風で喉傷めちゃうし、言われたから歌うとかしなくていいと思うけど。歌うか歌わないかはグリューさんの好きにしちゃっていいと思うー」
フューリトはいつもと変わらない調子で、でも毅然と言うのだった。
「あなたにはその自由がある」
「……自由?」
「そーだよ。グリューさんが自分で選んでいいんだよ」
グリューエリンがそれを聴いた時、なにかが瞳の奥で弾けたようだった。
「私は……」
グリューエリンが一度深呼吸をしてから、言葉を紡いだ。
「私は歌います」
そのこたえに、ぱっとヨルの顔が輝いた。
「よかった信じてたよ……」
「勘違いしないでください」
切り捨てるように、グリューエリンは言った。
「貴方が言うから、歌うのではありません。私が歌いたいから歌うのです。フューリト殿の言う通りでした。歌いたいなら歌う、その自由が私にはある、だから歌うのです」
グリューエリンは凛と決意を語る。
「リク殿の言ったように、出来る事、出来ないことがあって、その中で胸の中にある想いを真実に変えるため私は歌う。この胸に灯った炎は歌いたいと叫んでいる」
キヅカも黙って、グリューエリンの言葉を聴いていた。
「Uisca殿の言う通り、歌そのものではなく歌う人自身が大事なのです。私は、確かに歌えなかった。けれど、そう言った過去だって大事にして、歌う人間に私はなりたい」
その言葉にUiscaは安心して微笑んだ。
「無理やり歌った歌に、感動させることなんて出来ませんものね、ざくろ殿」
ざくろはにっこり笑って肯定した。
「それに、デスドクロ殿の言うように、リハーサルもなしにいきなりは歌えませんわ」
デスドクロは鷹揚に頷く。
「私が、こうしてここにいるのは、皆様がいてくれたからです。私は独りじゃなかった。だからここにいられる──私はその人たちのために、人を笑顔にするために、もう一度、歌いたい」
そして、グリューエリンはロングソードの切っ先をヨルへと突きつけた。
「私は、貴方にはならない」
緑の瞳にはもう、一点の曇りもない。
「……あははっ、何それ面白いね!」
ヨルは身をよじらせて笑った。
「そういうことなら分かったよ」
ヨルはそう言うと、乗ってきた自分の船へ帰って行った。
「あそこに島が見えるだろう? あれが僕が生まれ育ち、僕が支配している島だ。そこの劇場で待ってる。早く来てね。さもないと、他の船を襲っちゃうから」
ヨルは歌声を響かせて、ゾンビに帰るように指示する。
「今度こそ決着だ、グリューエリン。僕は君を殺すことで、憧れを殺すことで、本当の歌手になる。じゃあね」
こうして、ゾンビを乗せた3隻の船は退いていった。
●
「グリューさんハイタッチ」
船員が無事なのを確認し、仲間の傷を癒した後フューリトが手を上げて言った。
「あなたもいたからなしえたことだよー」
「はい、皆様無事でよかったです」
グリューエリンがフューリトにハイタッチをする。
「僕は眠くなったので子守唄お願ぐー」
言い終わらないうちに、フューリトが前向きに倒れながら眠った。
そのままでは地面に激突しそうなところを、グリューエリンが受け止める。
「さあ、一度港へ帰りましょう」
次なる決戦に備えて、ハンターたちは帰港するのだった。
混乱するグリューエリン・ヴァルファー(kz0050)が突然素っ頓狂な声をあげた。
同時にシパーン! という小気味良い打擲音が響く。
「まーた独りで考える。悪い癖だよ」
グリューエリンの腰を叩いた張本人、キヅカ・リク(ka0038)が言う。
「今はあの時とは違う。アイツの言う通りに歌う必要はない」
「でも……!」
「歌うべき瞬間はきっと君がもう知っている。そうだろう?」
その言葉に、グリューエリンはどきりとした。
そして、敵との間に時音 ざくろ(ka1250)が立ちはだかる。
「安心してゆっくり深呼吸してグリューエリン、無理に歌わなくてもいい、落ち着くまではざくろ達が護るから」
メイスと盾を構え、ざくろが敵との距離をはかる。
「エリンちゃん」
キヅカはグリューエリンの手を握った。
「大丈夫、僕たちがいる」
「そーそー。ダイジョーブ、独りじゃないよー。僕たち全員でまもろー」
キヅカの言葉にフューリト・クローバー(ka7146)も同意する。
「歌かー。歌ねー。僕はねー歌は好きで楽しいから歌うの。あなたのことは理解したくないしされたくないやー」
にこっりと宣言して、フューリトはレクイエムを歌いはじめる。
船員たちはゾンビの襲来により軽い混乱状態にあった。このままでは船員に死者が出ることは必定だ。
だが、その時、潮風よりも轟く大音声で呼ばわる者がいた。
「落ち着けお前ら!!」
漆黒のマントを翻すその姿は、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だ。
さすがの音量に、船員たちも耳を傾ける。
「とにかく、船長室まで逃げるんだ! 道は俺様が切り開いてやる!」
その言葉で、船員たちは落ち着きを取り戻した。
そして、デスドクロの言葉にはヨルも反応した。
「……君、この前僕の歌を邪魔してきた奴だよね」
「おまえこそ聞いた声だと思ったらアレか。この前のコウモリマンか」
ヨルを見下ろしてデスドクロが言う。
「いいかコウモリマン、よく聞け」
デスドクロが静かに語り始めた。
「グリりんのファンなのは良く分かったし、ストーキングする熱意も良し。力があるんならそれを武器に、己の望みを叶えるべく、無茶を通すのはアリだ。だがひとつだけ分かっちゃいねぇことがあったようだ」
デスドクロは一度深く息を吸って続きを紡ぐ。
「ウチのアイドルが歌うかどうかを最終的に決めるのは歌手本人じゃあねぇ……。暗黒プロデューサーたるこの俺様に決定権があるってことを、知らなかったようだなァ」
「歌手なら歌うかどうかを決めるのは本人でしょ?」
「まあ素人なら仕方ねえ。っつーワケでコウモリマンはグリじゃなく、俺様に頼め。懇願しろ」
デスドクロの言わんとしているのは、この混乱した状況に、グリューエリンの責任は無いと言うことだ。
「もしかして君たち戦うつもり? 戦力差わかってるの?」
しかしアラベラ・クララ(kz0250)の槍がゾンビを紙のように千切っていく。
「にしても、少年ヨル! 本当に妾のことを知らないのですか?」
「うん、誰?」
「妾は絶火の騎士……」
「騎士なの? 僕、歌わない人間には興味ないんだよねー」
「この不敬者ー!」
「アラベラさん、落ち着いて」
そんなアラベラに声をかけるのはUisca Amhran(ka0754)だ。
「アラベラさん、私とユニットを組んで」
「ゆにっと?」
「2人組あいどるもリアルブルーでは王道アイドルの1つなの。2人なら、お互いの隙をなくせるから」
「では組みましょう、ユニットを!」
アラベラの水際立った一撃がゾンビを刺し貫く。
「では……参りますっ」
一際高い靴音が鳴らされる、華麗なステップが戦場に華を添えた。
なにより、踊りながらUiscaは歌っていた。
恐怖に打ち勝つ歌を、もう一度立ち上がってと願う歌を。
それは──スキルに寄らない、祈りの込められたただの歌だった。
「歌いたくない人が無理に歌う必要はないです。歌はその人の心……魂そのものなんですからっ」
Uiscaは言う。
「この世界では歌は危険な凶器となりました……。でも包丁で人を殺せるからと料理人を否定してしまうのですか……? 歌そのものではなく歌う人自身が大事なんです。これが貴女が歌えなくなったあの場に一緒にいた私の“答え”ですっ」
「エリンちゃん」
手を握ったままのキヅカがグリューエリンに声をかける。
「どんなに力をもっても出来る事と出来ない事がある。それでも諦めたくない。救えるものがあると信じてるから。エリンちゃんにも出来る事、出来ないことがある。だからこそ選ぶんだ。胸の中にある想いを真実に変えたいのなら」
「私に出来ること……胸にある想い……」
ハンターたちの気遣いで、グリューエリンはいくらか落ち着きを取り戻していた。
「じゃあ、僕も行くね。僕が出来ることをするために」
キヅカがグリューエリンの手を離す。
グリューエリンはその背中を見送った。胸に想いの炎を感じながら。
●
「まずは海賊退治、でいいのかな?」
深緑の軌跡が描かれ、ゾンビが両断されていく。樅(ka7252)の攻撃だった。
「海賊……ていうか、ゾンビ? ま、どっちでもいいけどっ」
力を身体中に巡らせて、放たれた一撃はゾンビの頭を吹き飛ばした。
「雑魚だけど、数が多いね!」
そこかしこに、深緑の斬撃が奔る。その度にゾンビは次々塵へとかえっていく。
「っと、危機発見!」
今にも船員に鎌を振り下ろそうとしているゾンビがいた。
全速力で樅が駆け寄る。
「──間に合うかな!?」
ついに鎌が振り下ろされる、と思ったが、不意にその動きが止まった。
フューリトのレクイエムが行動を阻害したのだ。
そして、樅は滑り込むように、走ってきた力を全て刀に乗せ、ゾンビの体を真っ二つに切り裂いた。
船員に怪我はない。彼は「ありがとう」と礼を述べて船長室の方に駆け出した。
「このままじゃ、いくら倒してもキリがない……根本的に数を減らすには……」
樅が接舷している敵の船を睨んだ。そこからは梯子やロープがかけられ、その上をゾンビたちが歩いてきている。
「あれ破壊した方がいいだろうね」
しかし、そうするためには、まだゾンビが邪魔だった。
ゾンビたちは未だ逃げ切っていない船員に狙いを定めている。
デスドクロが制圧射撃で船員室までの道を開いているが、船員がそこに集中すればするほど、ゾンビたちも群がってくる。
その時だった。樅の視界の端に燃え上がるマテリアルのオーラが見えた。
キヅカがソウルトーチを発動したのだ。
ゾンビの視線が一斉にキヅカへと注がれる。
「やるなら今のうちに!」
「わかったよ、任せて!」
樅はゾンビたちをなぎ倒しながら、ついに船の縁へとたどり着いた。
「こんな無粋なもの、斬っちゃうよ!」
絡繰刀を振り上げて、一気にロープや梯子を両断する。
ついに、それらは崩れさり、その上を歩いていたゾンビたちが海へと落下していった。
しかし、左舷にも敵の船はある。そこからは走り幅跳びの要領で、ゾンビたちが移乗してきていた。
即座に樅は走り出し、迎撃に向かう。
「悪いが一気に殲滅させもらう」
キヅカがマテリアルを練り上げ、生み出された魔法の矢が5本の矢がはっしとゾンビたちを貫いてく。
そして、その攻撃はヨルの従えているコウモリへも着弾した。
しかし、ヨルはなおも泰然としている。
「ねえ、もう一度歌ってよグリューエリン」
ヨルがなおもグリューエリンへ言う。
そんなヨルへUiscaが問いかける。
「自分が無理に歌わされたら良い歌を歌えますか? 本当のファンなら無理強いはおやめなさい」
「歌うべき人間が歌うのは当然のことだろう?」
「……あなたには何を話しても無駄のようですね」
闇色の龍の爪や牙がゾンビどころかヨルや周囲のコウモリを貫いた。
「あれ、動けないや。まあ、喋れればいいか」
Uiscaが放った【龍獄】黒龍擁く煉獄の檻による移動不能だ。
グリューエリンにも、ゾンビたちが群がってくる。
それをざくろやアラベラが次々と撃退する。
「そんなに歌が聞きたいなら、代わりにざくろが歌ってあげるよ☆」
ざくろは高らかに歌を歌いながら、ゾンビたちを捌いて行く。
「それに君は大きな勘違いをしている、無理に歌わせた歌に、お前が好きだったグリューエリンの歌のような感動は生まれない! ……超機導パワーオン、弾け飛べっ!」
剣を振り下ろしてきたゾンビをざくろが攻性防壁で吹き飛ばす。弾き出されたゾンビは、海へと落下した。
「くらえ必殺デルタエンド!」
さらにデルタレイが群がるゾンビを焼き焦がす。
そして、今度はざくろはメイスをヨルへと向けた。
「……お次は燃え尽きろ拡散ヒートレイ」
静かな言葉とともに、無数の熱線がヨルとコウモリへと照射される。
前回の戦闘から、ざくろはコウモリが歌の要だと考えていた。だから、ここで破壊できる分は破壊することにしたのだ。
それはUiscaとキヅカ、フューリトも同じで、コウモリを優先して攻撃していた。
「いいのかな、僕にばかり構っていて。ゾンビはまだまだいるよ?」
度重なる攻撃で、3体のコウモリが塵になって消えていった。しかし、それだけはヨルの言葉通りだった。
ロープや梯子を破壊しても、ゾンビはまだ船にいるし、ジャンプで乗り移ってこようとしているものも大勢いる。
しかし、それでもハンターたちは健闘し、ついに全員の船員の救助に成功したのだった。
「ちぇ、ひとりも殺せなかったのか。つまんないの……でもまあ、これでゆっくりグリューエリンと話ができると思えば悪くもないかな。て言うか、さっきの結構痛かったよ?」
ヨルは焼かれた右肩を撫でて、ざくろに言う。
「僕、戦闘は苦手なんだけどね。だってほら、僕は歌手だから。グリューエリンもそうだろう? こんなゾンビたちに囲まれているより、観客の前で歌う方がずっと素敵じゃないか。ねえ、歌ってよ、グリューエ……」
「ちょっと黙りなよ」
ヨルの言葉が途中で切れた。
死角から忍び寄っていた樅が疾風剣でヨルの脇腹を貫いたのだ。
「歌えなくなった理由はただの声変わり、今は歪虚になって憧れの人を脅して歌わせようとする、恥知らずで軟弱な変態。……消えた方がいいと思うよ?」
すぐに、距離をとる樅。
ヨルはそれでも、グリューエリンを見た。
「ねえ、グリューエリン、君も歌えなくなったんだろう。僕の気持ちがわかるよね。……それにゾンビはまだまだいるよ? あそこに見える船にだってたくさんいるんだ。その気になれば船を沈めることだってできる。ねえ、歌ってよ」
「なんども言わせるな、コウモリマン」
デスドクロが口を挟む。
「リハーサルも無しにグリに歌わせることは俺様が断じて許さねえ。それはコウモリマンのやり口がどうこうって話じゃあなく、プロとしての気構えの問題だ。その上で伝えるぜ、グリりんはいずれまたコンサートを開くってことをな」
グリューエリンは俯いたままだ。
「ヨルにしつもーん」
手を上げて、フューリトが言った。
「憧れのグリューさんに歌ってもらってどうしたいー?」
「……グリューエリンはもう一度歌うべきなんだ」
「無理に歌ったグリューさんの歌でも嬉しくなるー?」
「それでもグリューエリンが歌えると僕は信じている」
「んーと、歌、好きー? 歌って楽しいー?」
「……もちろん好きだね」
「そうなんだーありがとー」
そしてフューリトはくるりとグリューエリンに向き直る。
「グーリューさーん」
フューリトがぽむ、と肩を叩いた。
「潮風で喉傷めちゃうし、言われたから歌うとかしなくていいと思うけど。歌うか歌わないかはグリューさんの好きにしちゃっていいと思うー」
フューリトはいつもと変わらない調子で、でも毅然と言うのだった。
「あなたにはその自由がある」
「……自由?」
「そーだよ。グリューさんが自分で選んでいいんだよ」
グリューエリンがそれを聴いた時、なにかが瞳の奥で弾けたようだった。
「私は……」
グリューエリンが一度深呼吸をしてから、言葉を紡いだ。
「私は歌います」
そのこたえに、ぱっとヨルの顔が輝いた。
「よかった信じてたよ……」
「勘違いしないでください」
切り捨てるように、グリューエリンは言った。
「貴方が言うから、歌うのではありません。私が歌いたいから歌うのです。フューリト殿の言う通りでした。歌いたいなら歌う、その自由が私にはある、だから歌うのです」
グリューエリンは凛と決意を語る。
「リク殿の言ったように、出来る事、出来ないことがあって、その中で胸の中にある想いを真実に変えるため私は歌う。この胸に灯った炎は歌いたいと叫んでいる」
キヅカも黙って、グリューエリンの言葉を聴いていた。
「Uisca殿の言う通り、歌そのものではなく歌う人自身が大事なのです。私は、確かに歌えなかった。けれど、そう言った過去だって大事にして、歌う人間に私はなりたい」
その言葉にUiscaは安心して微笑んだ。
「無理やり歌った歌に、感動させることなんて出来ませんものね、ざくろ殿」
ざくろはにっこり笑って肯定した。
「それに、デスドクロ殿の言うように、リハーサルもなしにいきなりは歌えませんわ」
デスドクロは鷹揚に頷く。
「私が、こうしてここにいるのは、皆様がいてくれたからです。私は独りじゃなかった。だからここにいられる──私はその人たちのために、人を笑顔にするために、もう一度、歌いたい」
そして、グリューエリンはロングソードの切っ先をヨルへと突きつけた。
「私は、貴方にはならない」
緑の瞳にはもう、一点の曇りもない。
「……あははっ、何それ面白いね!」
ヨルは身をよじらせて笑った。
「そういうことなら分かったよ」
ヨルはそう言うと、乗ってきた自分の船へ帰って行った。
「あそこに島が見えるだろう? あれが僕が生まれ育ち、僕が支配している島だ。そこの劇場で待ってる。早く来てね。さもないと、他の船を襲っちゃうから」
ヨルは歌声を響かせて、ゾンビに帰るように指示する。
「今度こそ決着だ、グリューエリン。僕は君を殺すことで、憧れを殺すことで、本当の歌手になる。じゃあね」
こうして、ゾンビを乗せた3隻の船は退いていった。
●
「グリューさんハイタッチ」
船員が無事なのを確認し、仲間の傷を癒した後フューリトが手を上げて言った。
「あなたもいたからなしえたことだよー」
「はい、皆様無事でよかったです」
グリューエリンがフューリトにハイタッチをする。
「僕は眠くなったので子守唄お願ぐー」
言い終わらないうちに、フューリトが前向きに倒れながら眠った。
そのままでは地面に激突しそうなところを、グリューエリンが受け止める。
「さあ、一度港へ帰りましょう」
次なる決戦に備えて、ハンターたちは帰港するのだった。
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相談用スレッド デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013) 人間(リアルブルー)|34才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/07/24 21:13:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/21 01:55:11 |
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質問用スレッド Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/07/23 22:34:03 |