• 虚動

【虚動】歪虚化亜人とぜんまい仕掛けの武器

マスター:えーてる

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/25 19:00
完成日
2015/01/07 01:40

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 リアルブルー産の対歪虚用戦闘装甲機、通称「CAM」。それがマギア砦の南方に集められ、今まさに稼動実験を始まる。
 帝国が辺境に土地を借り、王国と同盟の協力を得て行われる一大プロジェクトだ。ある者はCAMの有効性を願い、ある者は眼前の利益のために動く。多くの人が関われば、思惑が交錯するのは当然だ。
 何もなかったこの地も、次第に人で賑わい始める。今ではちょっとした町に見えなくもない。同盟軍によって運ばれたCAMも勢揃いし、静かに実験の時を待った。

 そんな最中、見張り役の男が叫ぶ。
「北東から雑魔の群れが出現! その数100を越えます!」
 それを聞いた首脳陣の顔色が変わった。
「バタルトゥ殿、この数の襲撃は自然な数と言えますかな?」
「……群れを成して行動するのは見かけるが……、この数は……異様だ」
 予想された答えとはいえ、こうもハッキリ言われると辛い。
 しかし、二の句は早かった。
「CAMは……投入できないのか……?」
 敵の襲来で張り詰めた空気が、期待と不安の入り混じったものに変化した。
「今回の肝は改修したエンジンの稼動実験だ。実戦でデータを取る予定はない」
「とはいえ、いずれは敵を相手にするのだ。道理を語っている場合ではないぞ」
 雑魔退治にCAM投入を希望するのは推進派の面々だが、彼らは慎重派を押し切るだけの決定的な材料を持っていた。
 実はCAMのデモンストレーション用として、これまでの作戦に投入された際の挙動を披露するべく、貴重な特殊燃料をサルヴァトーレ・ロッソから少量ながら預かっていた。短時間の運用であれば、雑魔退治に差し向けても問題ないというのが彼らの主張である。
「だが、できればCAMに負担を与えたくないし、雑魔も近づけたくはないというのも本音だ」
「ならば……ハンターの手を借りるしかない、だろうな……」
 結局、ハンターとCAMの共同作戦として、雑魔の群れを撃破することになった。


「はぁ……全く。私がせっかく作った玩具をよこせだなんて」
 遠く山のとある木の頂上に立ち、それらを見下ろしてモナ・アラーネアは呟いた。
 進軍する異形の兵士。亜人を捕らえて「良い物」を据え付けたそれは、見た目は兎も角お気に入りではあった。
 つるりとした肌が陽の光を艷やかに照り返し、銀髪とドレスが木の葉に合わせて温い風に揺れる。それだけならば絵にもなるだろうが、生憎その肌の艶は陶器のそれであり、揺れる銀髪はそのまま銀糸だ。人に似せた姿ではいるが、その本質は無機物である。
「姿を見られたのはやはり問題でしたわ。でも罰と言うのならば甘んじて受けねばなりませんし……でもでも、だからって手出し無用はあんまり、そう、あんまりにもあんまりですわ!」
 などと言いつつ、彼女はニヤニヤ笑いながらその光景を眺めていた。
「あぁ、でも……アレはとても良い物ですわね」
 人ならざるものの視力は、ゆっくりと起動するCAMを捉えている。それが強力な兵器であることは一目で分かるし、脅威になることもすぐに分かる。
 ただ、彼女の意見は少々異常だった。
「きっと粉砕されてしまいますわ。たかだか百の軍勢など。あの大きな武器で無残に焼かれ、裂かれ、撃ち抜かれてしまいますわ。握り潰され、踏み潰されてしまいますわ」
 彼女はうずうずと体をくねらせていた。
「私が手塩にかけて作り上げた玩具が、肉の華になって散っていく様……嗚呼、嗚呼、それは……それはきっと――」
 その倒錯的な笑みは、明らかに自軍の敗北を予期して、歓喜している顔だった。
「きっと、素晴らしい光景ですわ」
 彼女の悦びは破壊にある。
 物が壊れる様こそが――それが異常であるほどに――彼女を昂ぶらせるのだ。
 それは決して敵の死だけを望むものではない。歪で派手な死を迎えるならばそれは歪虚でも構わないし、壮大に壊滅するならば無機物だろうと構わない。――あるいは自分の身でさえも。
 だからこそ、彼女にとって手出し無用というのは重い処罰であった。
 だが、そう、これ以上はゲームの参加資格を失うに違いないから、彼女は飛び出して行きそうな半身をどうにか押しとどめていた。
 遥か下方、森の狭間から、何かが鋼糸を伸ばして彼女の足を絡めとっていた。
 今にも飛び出して行きそうな己をその場に縛り付けてまで、彼女は遥か遠くから号令を発する。
「さぁお行きなさい、我が下僕たちよ」
 ギチギチと機械仕掛けの武器が動き出す。正気を失ったゴブリンたちが、その肉に埋め込まれた機械の武器を唸らせて、進撃を開始する。
 ギロリ、と森の暗闇で何かの目が光った。
「派手に争い、派手に壊れて、私を楽しませなさい――おーっほっほっほっほっ!!」
 彼女の高笑いと共に、それらは一斉に武器を振り上げた。


 CAMの燃料は貴重品。
 有事に備えて起動するCAMの横に、ハンターたちが布陣する。
「CAMの支援が必要なら合図してくれ」
 パイロットがハンターたちにそう言って、コクピットの中へ消えた。
 やがて彼らの眼前へと、雑魔が迫る。
「……なんだ、あれは」
 ゴブリンが歪虚化したものだというのは、見れば分かる。装備は粗末で、武器を持っているだけだ。
 いや、持っているというのは正確ではなかった。
「機械が埋め込まれて……?」
 腕や肩に鉄の塊が埋め込まれている。肉を裂き、骨を引き抜いて、それは腕の中に無理矢理収められていた。
 何らかの機械のようだった。ただ、それは無秩序に取り付けられ、恐らく意味のないであろう歯車やぜんまいがくるくると空転している。
 零れそうになった機械を、負のマテリアルで出来た糸が縛り付けて強引に肉の内側に固定していた。それだけでなく、糸はゴブリンの四肢にまで伸び、まるで操り人形のようにそれらを動かしているようだった。
 その糸に縛られた雑魔は、報告にあった嫉妬の歪虚モナ・アラーネアの配下に酷似していた。
「待て、あれは……銃じゃないか?」
 収めきれずに肉を裂いて露出した一部分は、確かに銃であった。他にも、玩具の剣であったり、チェーンソーであったり、或いは鉄の塊など、様々な金属が体に縫い付けられていた。
 ゴブリンたちは動くたびに機械の装備に肉を削り取られていた。だが彼らは痛みを感じている様子はなく、機械の律動に恍惚とさえしていた。
 埋め込まれた機械に身を削がれながら、ふらふらとした出来の悪い人形のような足取りでCAMへと迫る、歪虚化したゴブリンたち。
 醜悪な姿に眉をひそめる一同。そこへ目掛けて、それらは異形の腕を……銃を構えた。
「っ、来るぞ!」
 否応はなく、くぐもった銃声と共に戦端は開かれた。

リプレイ本文


 異形のゴブリンが銃器を放ち、銃弾が殺到する。
「銃撃!? これでなんとかっ」
 マコト・タツナミ(ka1030)が防御障壁を張り、CAMを守る。
 ハンターへ半分、CAMへ半分飛んだ弾丸だが、ハンターへ向かったものは回避か防御され、CAMへ向かったものも幾つかは外れ、残りは防御障壁に阻まれ、なんとか損傷は軽微で済んだ。
「屈んでいて欲しいな!」
『了解だ、護衛を頼む!』
 同じく防御障壁を張ったレイン・レーネリル(ka2887)の要請にパイロットは答え、CAMはゆっくりと膝立ちになる。被弾面積は一回り程度小さくなった。
「また、あの人?の仕業なんだね」
 盾を掲げて流れ弾を警戒しながら、レインは亜人の姿を見る。いつか見た、マテリアルの糸に操られた雑魔――モナ・アラーネアの配下と特徴は同じだ。
「生物に無理やり機械を埋め込むなんてね」
「意味のない部品とかついてるあたり、趣味は合いそうだけど……」
 エリス・ブーリャ(ka3419)も防御障壁を待機しながら犬歯を剥いた。
「生き物の体を弄ぶとはロクな奴じゃねぇ。どこの誰だか知らねぇが、見つけ次第バラバラにしてやる」
 姿の見えぬ仕掛け人に対し、豹変したエリスは吼えた。
「技術ってのは本来、傷つける事に使っちゃいけないんだ!」
「その通りだよ。今回のデモンストレーションには技術の未来が掛かってるからね」
 だから、と彼女は紫電とともに槌を構えた。
「みんなで一刻も早くゴブリンを撃退しないとね」
 レインも魔導銃を振り上げた。
「悪いけどゴブリンさん。同情はするけど、手加減はしないからね!」

 メリエ・フリョーシカ(ka1991)は斬馬刀を盾に、銃弾を防いでいた。
 すると、ちょうど隣にいた烏丸 薫(ka1964)が頭を悩ませながらメリエに問いかける。
「CAMも腹ペコでは動けぬ状況。ならば拙者ら動けるものが動いて敵を斬る……って認識でOKでござる?」
「恐らくは。腹が減っては、って言いますものね。『からくり』に無理させないよう頑張りましょう」
 少女はそう答えたものの。
(やれ傷を付けるな、大事にしろ、防衛しろ……それが『切り札』……?)
 メリエは一抹の不安を抱いていた。
(強力なのは直にも見たから分かるけど……そんな箱入り、頼りにしていいものかな)
 まぁそもそもからしてCAMは借り物であるし、これを雑に扱えるようにするためのこの実験であるというのは、もちろん彼女も理解している。複雑なことは分からないし、皇帝陛下も期待している。ならば、悩むことはあるまい。
「……ふぅ。望ましい形にするのが一番、か」
「うん?」
「いえ、独り言です。メリエ、一番槍参ります!」
 そして複雑なことが分からないのは薫も同様であった。悩んだ末の彼の結論はこうだ。
「とりあえずCAM狙う敵は容赦なくたたっ斬るでござるよ! 烏丸 薫、参る!」
 宣言通りに一番槍を取るメリエに並び、薫は敵群へと飛び出していく。

「ふむ、あれがあいつが言ってた蜘蛛姫とやらの……ということは、今回も見られているのかな?」
 飄々とした男を思い浮かべ、フワ ハヤテ(ka0004)はひとりごちた。シールドを半遮蔽に当たらないようと願った祈りは一先ず通じた。
「まあ構わないさ。見られていようがいまいが、やることは大して変わらないのだから」
 CAMに風の守りをかけ、フワは更に風の魔術を紡ぐ。
 鈴胆 奈月(ka2802)は機導術を待機しながら前へ出た。
「やれやれ、ずいぶんと悪趣味だな」
「本当にな」
 先を行く真田 八代(ka1751)も頷く。
「敵の目的……よくわからないですが、CAMを傷つけさせる訳にはいきません……」
 そこにシュネー・シュヴァルツ(ka0352)も飛び出していく。
「お粗末なお人形だね……わたしの方が、よっぽど人形っぽくない?」
「それはちょっと、よく分からないな……」
 前へと出る十色 エニア(ka0370)の呟きに、八代は首を傾げた。
「亜人とは言え可哀想なんだよ。今、眠らせてあげるからね」
 弓月 幸子(ka1749)はカードを一枚引き抜いた。
「歪虚化した上に機械で無理やり戦わされている姿は、流石にちょっと同情するね……」
 星垂(ka1344)もその姿を眺めて目を細めた。
「せめてもの情け……ボクが終わらせてあげるよ」


 CAMへ防御魔術をかけ、後は速攻で殲滅する。今回の作戦は概ねそうなる。
「ハンターが道を切り拓く! いざ!」
 一番槍を取ったメリエを、身軽なシュネーと星垂、薫が追い抜く。
 皆狙いは同じく、ゴブリンたちにCAMを狙わせないこと。射線に割りこむように斬りかかり、シュネーと薫が注意を引いた。
「精霊さんボクに力を!」
 星垂は精霊の力を借りて身体能力を高めると、敵の間へと飛び込む。同士討ちを誘う魂胆だ。反応して振り払われた歪虚の剣は明後日の方向へと振るわれる。
「ふふん、こっちだよ♪ どこを狙っているのかな?」
 遅れて八代が機械剣から機導砲を放ち、注意を奪う。
 少しだけ距離を開けて、エニアはワンドを掲げた。
「最近、前に出てばっかりな気がするんだよねー……」
 と言いつつも、エニアは魔術を唱え始める。催眠の雲の魔術。歪虚の多くは眠らないのだが……。
「『生物』なら、眠ってくれるよね?」
 歪虚とはいえ相手は亜人。エニアは半ば確信と共に魔術を解き放った。
「皆下がって!」
 という彼の合図に皆が反応した。
「おっとぉ」
 薫は咄嗟に雲の範囲外へと退いた。だが手足の力は抜かず、不測の事態に備える。
 星垂もひょいとその場を飛び退くが、遅れたのは先頭に立つメリエであった。
「ちっ、邪魔だっ!」
 歪虚ゴブリンの剣を打ち払うが、そのせいで足が一歩遅れる。
 魔術の中でも意識を保とうと唇を噛もうとするメリエの首根っこを、誰かが掴んだ。
「シュネーさん!」
「大丈夫」
 メリエとシュネーの足先を眠りの雲が掠めた。
 バタバタと次々眠りに落ちるゴブリンたち。これで左翼は終わり、右翼へ……と足を向けそうになったエニアは、思わず眉をひそめた。
「うえ……そういう起き方する?」
 ごりごりごりと骨肉を削る機械の動きが激しくなる。飛び散る肉片の中、無理やり目覚めさせられたゴブリンは、胡乱な目でハンターを捉えた。
「例え亜人でも、こうもなれば憐れみは湧くものか」
「作った人は趣味が悪い……ですね……」
 一度下がったメリエとシュネーは、肩を並べて己の獲物を振りかざす。
「……だが、同じ事。今楽にしてやる。その首掻っ切ってな!」
 メリエは斬馬刀を大上段に構え直した。

 飛来した弾丸を見てマコトは防御障壁を張る。これで打ち止め。
「よし……行こう」
「うっしゃあ、ぶちかましてこい!」
 ウォーハンマーを担ぎ上げ前傾姿勢を取るマコトを激励すると、エリスは代わって防御障壁を張った。
「それじゃ、頑張ってきてくれ」
「ごめんなさい、行ってきます!」
 駆け出すマコトに奈月が強化術をかける。更にそれを追い抜くように放たれたフワの風の刃がゴブリンを捉えた。
「あれだけ機械が組み込まれても生命活動をしている辺り、非常に興味深いね。いやはや、調べられないのが残念でならないよ」
 あわよくば腕をと狙った刃だが切り落とすことは叶わない。自傷状態とは言え、流石に歪虚だ。
「パイロットさん、お願い!」
 レインの掛け声に合わせて、CAMがゆっくりと武器を構えた。その動きにゴブリンたちが身構えるが。
「貴様らポンコツ共なんざ、CAM様の手を煩わすまでもねぇぜ」
 そこへエリスの銃撃が殺到した。
「君達如きにCAMを動かすなんて、もったいなさすぎるな」
 という奈月も、機導砲を準備。レインも距離を詰めて銃撃を送り込む。
「ま、絶対に撃たないけどね」
 レインはこの場にいない下手人目掛けて呟いた。
 あくまでCAMの攻撃は自衛に留める、というのは皆の共通見解だ。腕を動かす程度ならば、消耗の内には入らない。
「ボクのターン、全力で行くんだよ」
 幸子はわずかに前に出て、マテリアルを溜める。
「精霊さんボクに力を貸して!」
 強力な水の魔術がゴブリンを打ち据えとどめを刺した。
 更に、前線に到達したマコトがウォーハンマーを振り上げる。
「ごめんなさい……おとなしく痺れててっ」
 槌越しに発動した電磁の術がゴブリンの動きを麻痺させた。

 半数以上のゴブリンは倒れたが、執拗にCAMを狙う敵もいた。
 離れた位置から銃を構える歪虚に、薫は咄嗟に拳銃の引き金を引く……が当たらない。
「拙者、射撃は苦手……」
「任せろぉーい!」
 放たれた弾丸はエリスの防御障壁に阻まれた。
「魔術師だって、前衛できるよ!」
 催眠魔術があまり意味を成さないことが判明し、エニアも攻撃に出た。鞭で銃器を絡めとって照準をずらす。
「って、ちょっ」
 動きを止めようとしたゴブリンが逆に斬りかかってくる。杖を盾にするも防ぎきれない。
 メリエはチェーンソーの一撃を斬馬刀で受け流した。明らかに欠けた刃に舌打ちをする。
「ちっ! 当たれば流石に唯じゃすまんか……だからと言って、退きもしないしやる事も変わらん!」
 彼女が薙ぎ払ったその影から、別のゴブリンが銃撃。狙いは……CAM。
 だが、その弾丸は……。
「ふっ――!」
 シュネーが差し出した腕に受け止められた。
「おいおい、無茶するな」
「一撃で倒れさえしなければ……いい」
 機械剣を薙ぎ払う八代の声も振り切って、傷もそのままにシュネーは更に前へ。攻撃の手を緩めるつもりは毛頭ないようだ。
「何やら面白い物が埋め込まれているでござるな?」
 そう笑うなり、薫は数度腕を狙われた歪虚目掛けて斬りかかり、その機械を腕ごと切り飛ばした。サンプルに、と薫はそれを拾いあげて後方へ放る。
 既に大勢は決していた。


「きっ、この……やってくれますわね」
 彼女、モナは歯ぎしりした。
「あの巨人が派手に壊してくれると思っていましたのに、またお預け!」
 我慢というのは彼女の嫌うものの一つである。
「お預けお預け、お預けばかり……頭が痛くなりますわ!」
 眼下で最後の『玩具』の首が飛んだ。
 今何もかも叩き壊してしまえば少し爽快だと考えたが、彼女は慌てて頭を振った。それをしては、あの方の思惑を崩す事になってしまう。
 ここは大人しく撤退する所だ。襲撃自体は失敗を織り込み済みなのだから。今、自分が出て行く事こそ失敗だ。
 撤退のために己を縛る糸を解いたモナは、ふと視線を感じた。
「――あら」
 金髪の術師が一声発し、黒髪の女性がこちらへ駆け出す。
 彼女は本気でこの距離ならばと思っていた。彼女を追う女性を振り切ることなど容易い、が。
「見つかってしまったら、仕方ないですわね?」
 興が乗ってしまった彼女は、まるで言い訳にならない言葉を免罪にして、ふらりと前へ飛び降りた。


 エリスはこれが威力偵察だと考え、指揮官の存在を示唆。周囲を見回したフワが高台の樹上に影を見つけた。
 戦闘後すぐにそれを追ったシュネーは森に踏み込んだ途端、足を引っ張られた。
 咄嗟に足元を払い糸を断つ。が。
「お一人様と話しても仕方ありませんわ?」
 日傘での強烈な打擲を腹に受け、シュネーは吹き飛ばされた。
「ぐっ……」
「その傷で追ってきた覚悟に免じて、少し出向いて差し上げますわ。おーっほっほっほっ!」
 高笑いと共に、彼女は森から現れた。
「来たか」
「モナ・アラーネア……」
 一同が武器を構える中、彼女は優雅に日傘を差した。
「御機嫌よう、ハンターの皆様。ご用事のようですけれど、一体どうなされました?」
 まさか、と彼女はヒールの先で土を突いた。
「争いたいと言うのならば、私も考えなくてはなりませんわね」
「少なくとも、今そのつもりはこっちにもないよ。会話のつもりだ」
 エニアの答えにモナは少し目を見開いて、それから一つ頷いた。
「面白い。いいですわよ? 何をお話しましょうか。私は頭を使うのは苦手ですから、さて、期待に添えるかは分かりませんけれど」
「目的……」
 シュネーは簡潔に呟き、エニアが継いだ。
「こんなことを仕掛ける目的は何?」
「我が主の命」
 モナはにやりと笑った。
「遊戯を愛する我が主が、新たなゲームを開こうとしている。私はその下準備を担っているのですわ」
 その言葉に一同は各々の感情を表出した。
「あの亜人は実験台ってか」
 睨むエリスにモナは首を振った。
「大げさな。あれはただの戯れですわ」
「てっめぇ……!」
 その隣で、幸子が拳を握りしめた。
「……君しか笑っていない、そんなものゲームとは言わないんだよ」
 彼女はモナを睨みつけた。
「そんなゲームはボクは認めない、潰してみせるよ」
「あら、情熱的。態々表明せずとも、態度で示して頂ければ尚良い」
 そう戯けてみせるモナを一瞥し、レインは皮肉げに口元を歪めた。
「……これもゲームだって言うのなら、良いよ。私達が遊んであげる」
 彼女は一度鼻を鳴らして、指をモナへと突きつけた。
「そんなに遊んで欲しいなんて、所詮はあなたも玩具なんだね」
 その言葉に。
「……あら、あらあら」
 モナ・アラーネアはくすくすと笑い出した。
「よく、よくお分かりではありませんの。――そう、全ては玩具。歪虚も、ハンターも、あの巨人も、私すらも! 糸に操られる玩具に過ぎないのですわ!」
 彼女は両腕を広げて高らかにそう謳いあげた。
「全ては我が主、『混迷の遊戯者』クラーレ・クラーラ様の掌の上! 誰も主のゲームから逃れることは出来ない!」
 ひらりと飛び上がった彼女は、樹木の上へと降り立った。
「本日はここでお暇すると致しましょう。今はまだ、その時ではありませんわ」
「……逃すと思うかい?」
 フワが放った風の刃は、しかし鋼糸と相殺した。
「私と争いたくば、盤上へと上がって来なさい。お待ちしていますわ、ハンターの皆々様!」
 それだけ言い残して、彼女は森の向こうへと跳び上がった。
「おーっほっほっほっほっほっ! ――帰りますわよ、我が半身!」
 ――森の中で、何か大きな物が蠢いた。
 息を潜めていたそれに、その場の誰もが気付かなかった。何がいたかは分からないが、この場で戦闘していたらどうなっていたか。
 レインは伸ばしていた指で頬を掻いた。
「……盛大に格好つけてみたけど、やっぱり私には似合わないなぁ」


「ん……ちょっと傷が付いちゃったかな……」
 マコトはCAMの装甲を撫でて呟いた。とはいえ、あれだけの銃撃を受けて装甲板に軽く弾痕が出来た程度で済んだのは僥倖だったと言えよう。
「修復のお手伝い、出来ませんか?」
『あぁ、整備士たちも喜ぶだろう。一先ず撤退しよう』
 パイロットの勧めもあり、CAMの隣へ荷台が寄せられる。
「強化された歪虚かぁ」
 星垂はCAMの装甲を叩いて息を吐いた。
「このおっきい鉄のお人形さんがまともに動くようになるまで大変そうだなぁ」
「動いてもらわなきゃ困ります。お金も手間もかかってますから」
 メリエは複雑な顔で鉄の巨人を見上げた。
『ろくに動かさなかったおかげで、燃料の消費も最低限で済んだ。皆に感謝する』
「昔みたいに動いてくれればラクなんだけどな」
「そうもいかないさ。燃料がないんじゃ」
 八代の言葉に奈月は苦笑し、もっとも、と付け足した。
「本音を言うと……僕も、またCAMが戦っている姿を見てみたかったな」
『まぁそれは未来に期待しよう。……さて、荷台に載せるぞ』
 その言葉に、CAMに頬ずりしていたレインは名残惜しげにその場を離れた。
「いいなぁ格好いいなぁ。このオイル臭さとか堪らないぃ!」
 それでもその挙動に目を輝かせるレインの横で、エリスがぼんやりそれを見ていた。
「巨大ロボかー、鉄の塊が動くのはロマンだけど兵器ってのがなんかなー」
 それより、と彼女は呟く。薫もぽんとそれを投げる。
 機械の残骸である。ゴブリンの死亡と共に大部分が塵と化したが、一部のパーツは残っていた。
「わりと形が残ったでござるな」
「穴だらけだけどね。原形をもう少し留めていれば」
 フワが惜しそうに呟く。この装備がどこから流れてきたのか、もしかしたら追えるかもしれない。同盟内部の状況を鑑みるに、恐らく直近の出処は海賊だろうが……。
「機械を組み込む技術か。早くオフィスに知らせなきゃ」
 エリスは呟いた。

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MVP一覧

  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツka0352
  • スカイブルーゲイル
    マコト・タツナミka1030
  • 月日星の剣
    烏丸 薫ka1964
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャka3419

重体一覧

参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • スカイブルーゲイル
    マコト・タツナミ(ka1030
    人間(蒼)|21才|女性|機導師
  • 静かな闘志
    星垂(ka1344
    エルフ|12才|女性|霊闘士
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ファランクス
    真田 八代(ka1751
    人間(蒼)|17才|男性|機導師
  • 月日星の剣
    烏丸 薫(ka1964
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャ(ka3419
    エルフ|17才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問掲示板
イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067
人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/12/23 23:17:03
アイコン 相談卓
マコト・タツナミ(ka1030
人間(リアルブルー)|21才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/12/25 09:52:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/24 18:30:51