• 空蒼
  • 初心

【空蒼】玻璃の眩惑【初心】

マスター:ことね桃

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/07/24 22:00
完成日
2018/08/10 10:38

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●消えるVOID

 ゆらり、ゆらり、ふわり、ふわりと。
 崩れたビルの合間を、様々な色を宿した硝子の針球が浮遊する。

 ここは杜の都と呼ばれた街・仙台。
 かつて緑ゆたかな都市開発が行われていたことで有名な街だが、数日前になんともアバンギャルドな彩りのこのVOIDが現れて以来大規模な爆発が頻発。今や軍人以外の人間が一切存在しないゴーストタウンとなっていた。
 もちろん人間達も「それ」の悪逆を為すすべもなく見ていたわけではない。
 リアルブルーで開発された様々な兵器による攻撃はもちろんのこと、ハンターにVOIDの討伐を何度か依頼したこともある。
 しかし軍人たちはその日のことを思い出すと、何とも言えない苦々しい顔をするのだった。

 それはつい先日のこと。
「ははッ、なんとも動きが鈍い敵さんだな!」
 CAMに搭乗した手練れのハンターが大空に舞い上がると、のんびりと宙をゆく針球に向けてミサイルを発射した。
 この地はもはや人が戻ることのない廃墟ばかり。それならば遠慮することはない。
 ドドドッと地を揺らすような轟音が響き、爆炎が針球を包み込む。たちまち鮮やかな硝子が砕け、地上に燃え落ちていった。
「全弾命中……さて、中身はどんなもんかね!」
 ハンターは警戒の姿勢を解かぬまま上唇を舐め、モニターを鋭い目で見つめる。彼の仲間も地上から、空中から、それぞれ睨みつけるようにして目を凝らした。
 周囲に漂う負のマテリアルは絶えていない。おそらくは黒煙の中から凶暴な大型VOIDが一行に凶暴な牙を剥くはずだ。
 だが――。
「おかしいわ。炎の中にVOIDがいない!」
「何だって!? あのガタイなら見逃すはずねえだろっ!」
 仲間の焦りと驚きの声に慌てるハンター。同じく空中から兵器を構えたハンターが舌打ちし、硝子の舞い散る空間を掃射する。
 地上にいる仲間も連なる廃墟を縫うように駆け巡りVOIDを見つけ出そうとしたが、瓦礫に視界を狭められてしまい。
「……負のマテリアル、見失いました……ごめんなさい」
 泣きだしそうな顔で跪く女性ハンターの声を、仲間達はただ静かに聞くしかできなかった。


●艶やかに、狡猾に、卑屈に

「つまりだ。どうやら奴さんは自分に勝ち目があると判断した時にだけ、姿を隠さずに応じてくれるらしい」
 軍人は目の前に立つ初々しいハンター達に疲れ切った瞳を向けると、煙草の吸殻を灰皿代わりの空き缶にぐっと押し付けた。
「要はあれがこちらの戦力を見くびっている時にだけ存分に戦えると?」
「ああ、そうだ。実際、俺らが通常兵器で迎撃した時は散々暴れてくれたからな。ハンターでもまだ経験の浅い相手には好戦的な態度をとりやがったしなあ」
 ホチキスで綴じただけの簡素な報告書をハンター達に渡す軍人。そこにはたしかに卑劣としか呼びようのない戦闘記録が綴られていた。
 派遣されたハンター一行の中で東北地方にゆかりのある只埜 良人(kz0235)が眉根を寄せる。
「厄介な相手ですね。別の地域に移動する前に何としてもカタをつけなければ……」
 良人の生き別れた弟妹たちは今も東北で一般人として生活を続けているはずだ。かつての友人や同僚たちも住むこの地をVOIDの好き勝手にさせるわけにはいかない。
 軍人は良人やハンター達の顔に緊張が漂うと同時に熱い義憤の意志が宿っているのをみとめると、自前のトランシーバーを胸ポケットに押し込んだ。
「ああ。今のところ、お前さんたちが最後の希望ってやつだ。俺達も周辺区域を哨戒し、奴が逃げないように見張りを続ける。どうか力を貸してくれ!」
 いかつい軍人が深く頭を下げる姿にハンター達は頷きあうと、すぐさま戦場へ向かうのだった。

リプレイ本文

●瓦礫の街で

「これは……ひっでぇなぁ」
 軍の施設から外に出るなり、マカリオ・R・エインズワース(ka6449)が呻くように呟いた。
 ひどく荒涼とした風景。彼は件のVOIDこと歪虚の暴威を肌で感じ取る。
(三下悪役気質の歪虚らしいが、破壊力は歪虚の名に相応だな)
 急いで周囲を見回すも、目につくものは瓦礫ばかり。負のマテリアルの気配も――今のところ感じない。
(さてさて、奴さんはどこにいるやら……さっさと見つけてやんねーとな)
 マカリオは仲間と確認した通りのルートを脳内で反芻すると早速索敵を開始した。

 ヴァン・ヴァルディア(ka6906)は仲間と散会するなり精悍な顔を引き締めた。隠居時代に衰えたという肉体はあふれる覇気に呼応するように充実している。
(戦といえど若者と協力しあうのは胸が躍るわい! それに歪虚がどれほどのものじゃろうと、若者の邪魔はさせん。それが儂の役目じゃからの!)
 若者達の歩みを守るためなら囮の役割とて担ってみせる――心の中でかたく誓った彼は自転車に乗ると、力強く地を蹴った。

 玲瓏(ka7114)は辛うじて焼け残ったビルの非常階段を駆け上ると索敵を開始した。彼女の優れた視覚は些細な異常も見逃さない。
「現在歪虚の姿は目視できませんが、追い込みに適した道を確認しましたので報告しますね」
 索敵に併せて街の状況を確認し、つぶさにトランシーバーで報告する玲瓏。「了解」と複数の声が返される中で、先行するジェスター・ルース=レイス(ka7050)が声を弾ませる。
「そっか、じゃあ南側の地下道入り口付近が一番追い込みの都合に良いんだな。次点は東の大通りっと。よし、早速細工してくるぜ!」
 彼は強力な粘着テープを買い込み、罠を仕掛けようと目論んでいるのだ。
 玲瓏は「お気をつけて」と彼の意気込みに応えると、再びぬばたまの瞳に意識を集中させた。

 索敵に奔走するアルカ・リー(ka0636)は半壊したビルの陰に潜り込むと、同行する深守・H・大樹(ka7084)に小声で囁いた。
「それにしても格下相手ならヤル気が出る歪虚なんて、変な歪虚ネ」
「そうかな? 強いと逃げる……僕はある意味賢い歪虚だと思うな」
 真っ正直なアルカの言葉に柔らかく己の見解を明らかにする大樹。するとアルカが頬をぷくと膨らませた。
「それはそうかもしれないけどネ? わたし、見下されるのは好きじゃないネ。舐めてると痛い目見ることになるって分からせてあげるヨ」
「ああ、そうだね。見下すという行為はきっと誰にとっても不愉快なものだ。だからそんな歪虚の討伐はもちろんのこと、皆で無事に帰らなければね」
 真摯な態度と穏やかな声に宿る強い信念。それをしかと感じ取ったアルカは目を細めて「当然ネ」と応じた。


●宙を揺蕩う歪虚魚

 索敵を開始してから数分後のこと。玲瓏がトランシーバーに鋭く叫んだ。
「歪虚、発見しました! 場所は――!」
 彼女の視線の先、崩れ落ちたビルの合間を色鮮やかな針の珠がゆったりと進んでいく。
 目印となるランドマークを告げられたハンター達は事前に決めた配置に向かって走り出した。

 第一に歪虚への接近に成功した大樹はビルの陰にすぐさま身を寄せると、浮遊する歪虚の影を確認した。色鮮やかな影の中央に黒いものが浮かんでいる。
(報告通り派手な殻だね。あの黒いのが本体かな? とにかく今は打ち合わせ通りに)
 大樹は敵の進行方向から自身の立ち位置が外れていることを確認すると、マジックアローを発動させた。
 ビシィッッ!
 表面を穿たれヒビが入る殻。歪虚が動きを止める。そこに物陰で待機していたアルカが現れて人差し指を歪虚に突き出した。
「アナタ、弱い相手としか戦わないなんて自分が弱いと言っているようなものネ! 立派な歪虚ならわたしのような駆け出しハンターぐらい簡単に捕まえられないと恥ずかしいヨ!!」
 息継ぎなしで捲し立て、歪虚へ背を向けるアルカ。ランアウトで強化された脚が荒れた足場をものともせず南に向けて疾走する。歪虚は先ほどよりも明らかに速度を上げてアルカを追い始めた。
 大樹はすぐに隠の徒を発動させるとトランシーバーに向けて囁きかけた。
「予定通り南の地下道ルートに誘導開始。僕は歪虚が転身しないよう、追跡と妨害に専念するよ。皆、よろしくね」

 それから数十秒後、地下道に繋がる通りで銃声が響いた。物陰に潜んでいたマカリオが射撃で歪虚の針を数本へし折ったのだ。
 睨みつけるようにマカリオに向けて旋回する歪虚。当然、マカリオの立ち位置も地下道への道程にある。
「おっと。はいはい、こっちなぁ。ん、怒ってんのか? 変なとこで人間臭ぇよなぁ、お前さん」
 マカリオはわざと手を上げ、歪虚へ銃を見せつけた。目的地まではそう遠くない。それまでにこの敵を十分に「誤解」させなければならない。――上着の内に秘めた聖書の厚みを胸で感じながら、彼は歪虚に挑発的な笑みを向けた。

 一方、ジェスターは最後の粘着テープを地下道そばの小道に貼るとトランシーバーを起動させた。
「トラップ設置完了したぜ。なぁ、誘導は順調か?」
「ああ。アルカさん達が大通り中央の交差点まで。今、俺も彼らに追従する形で敵を追っている」
 通信に応じた只埜 良人(kz0235)の声は走りながら通話しているのか時折荒い息が混じっている。ジェスターが僅かに眉間に皺を寄せた。
「あと少しだな。俺も前に出るからさ、只埜は回復と防御系をやってもらっていいか?」
「ああ、任せてくれ。それではまた、後ほど」
 硬い声を最後に通信が切れる。ジェスターは最後のテープの芯を潰しポケットへ押し込むと、腰にさげた刀を抜いた。

 ズザァアアッ!
 色鮮やかな歪虚が大通りに散乱する瓦礫を押しやりながら突進する。
「うあっ!?」
 度重なる交戦で針の3割程度を失ったといえど、針がアルカの腕を深く貫いた。繊細な腕からとめどなく血がしたたり落ちる。
「アルカ!」
 マカリオが叫んだ。だがアルカは小さく横に首を振ると、痛む腕をかえりみることなく毅然とした表情で歪虚に向き合った。
「こんな傷、大したことないネ。それよりアナタ、駆け出しハンター相手なのにすぐに倒せないなんて情けなくないカ?」
 命がけの挑発に不快そうに唸り声を上げる歪虚。にわかにその身を覆う殻が輝き始める。
(あれは!?)
 前線に追いついた玲瓏が目を見開く。最悪のケースを想定した彼女は左手に癒しの力を増幅させるロザリオを強く握り、右手で神楽鈴を振り上げた。
「光よ、届いてっ!!」
 心地よい音とともに癒しの光がアルカを包み込んでいく。
 続けてヴァンが脇道から飛び込んできた。彼は自身が乗る自転車さえも足場にせんと突進する。そして飛び降る瞬間、針を失った殻へ鎧通しの力を纏った拳を叩き込んだ!
「カッカッカ、余所見はいかんのう!」
 歪虚が空中で体を傾ける。ダメージの重なった殻に一層細かくヒビが入り、破片が大きく崩れ落ちた。しかし歪虚は歯ぎしりに似た音を出してヴァンに針を向ける。
「ほう、まだ足りんか。儂も見くびられたもんじゃな! ま! 現役の頃より落ちておるからの! カッカッカ!」
 緑の目を細めるヴァン。そう、これでいい。少なくとも目的地に到達するまでは。
 一行は頷きあうと、南に向かってしたたかに誘導を再開した。


●デッドエンド

 高層ビルの狭間に存在する南の地下道入り口は瓦礫で封じられただけでなく、崩れたビルに挟まれており非常に閉鎖的な空間となっている。
 つまるところ「行き止まり」。件の歪虚が普段の小賢しい冷静さを保っていれば避けていた戦場だ。
 しかしアルカが転がる瓦礫を越え、通路に飛び込んできた。
 迎撃に備えていたジェスターが彼女に「誘導、サンキュな」と告げて走り出す。
(敵さん、侮ってくれんならいくらでも傲ればいいじゃん。そのかわり完全撃破だぜっ!)
 昂るジェスターの想いに応えるように、歪虚が通路に乗り込んできた。おそらくはアルカへの怒りで我を忘れているのだろう。
 ジェスターは巨大なそれに戸惑うことなく半身のまま刀を突き出した。夢中で飛んできた歪虚に鋭い刃がまっすぐに突き刺さる。
『ヒギィイイイッ!!?』
 奇妙な悲鳴と同時に崩れる玻璃の殻。大半の殻の破れ、黒い球体が露わになる。
 そこに残りのハンター達が駆けつけ、攻撃を開始した。
(逃がさない。そのために!)
 今一度大樹が瓦礫に隠れてマジックアローを撃つ。すると一旦後ずさりした歪虚がその身を硬直させた。
 一方、マカリオは大通り側でアースウォールを発動させる。これでちょっとした閉鎖空間の完成だ。
「つっかまーえたー……っと。そんじゃ、ちょっと本気出しますかねえ」
 マカリオのおどけたような声にようやく歪虚が振り向く。目の前に立ち塞がる壁と迫りくるハンター達。フシュ、と奇妙な音を立てると歪虚はキラキラと殻に光を宿し始めた。
(なんじゃ、あれは)
 ヴァンが歪虚を見据え、腕を構える。その瞬間、彼は大きな負のマテリアルが膨張するのを感じ取った。
「皆、伏せるんじゃッ!!」
 ヴァンが叫び、負傷を重ねたアルカに覆いかぶさる。ジェスターも盾を構え、腰を落とした。
 しかし彼らを襲ったものは――想像を超えた強烈な破裂音と衝撃。肌に細かい無数の欠片が突き刺さる。
「こいつは思いのほかキツいな! アルカ、ヴァン、無事か!?」
 ジェスターが2人を庇うべく駆けだそうとした。咄嗟に玲瓏がヒールを唱えて真正面から攻撃を受けたヴァンを治療。良人もロッドを振り上げ、皆に癒しの光を届ける。
 だが。
 この瞬間に誰もが気づき、愕然とした。
 歪虚の姿が見えないと。
(これが例の『爆発』!?)
 冷静に敵の観察に集中していた大樹が瞳を凝らして左右を見回す。
 すると先ほどの爆発により一部の瓦礫が吹き飛ばされ、今まで隠されていた脇道がいくつも露わとなったことに気がついた。すぐにハンター達が脇道を覗き込むも、追撃すべきか戸惑いが広がる。
(報告によれば歪虚は瞬間移動の類の能力は持っていない。それならまだ近くにいるはず)
 大樹は拳銃を握り、目と耳に意識を集中させた。
 ――その時、最も手前の脇道から何かが千切れる音がした。ただちに覗いてみれば、交差する道にジェスターが貼り込んだテープが千切れ落ちる様が目につく。
「……っ!」
 この道の先は大通りだ。もしテープのある場所に敵がいるとして、そのまま見逃しては――もう手が届くことはないだろう。
 いちかばちか。大樹が音のした方向にトリガーを引く。ペイント弾が発射され、弾ける音と共に……消えた。殊更凝視すれば、薄暗がりの空間が揺れる魚の尻尾のようにゆらゆらと揺れている。
「皆、歪虚はこの先だ!」
 そう大樹が鋭く叫ぶと同時に、弾丸のごとく駆け出す者がいた。
「さっきの借り、何倍にでもして返すネ!」
 アルカがランアウトの力を宿し、全力で駆ける。目の前の空間の微妙なゆらめきが彼女に強烈な違和感を与えていた――だから、わかる!
「落燕ッ!!」
 アルカの手が刃のごとき鋭さで陽炎然とした空間を突くと、重い手応えが伝わり足元に透明な球体が転がった。
 そこに向かってきたのはマカリオ。球体は地を転がり、彼の銃弾から逃れようとしたが――。
「切り札は取っておくもの、ってほど大層なもんじゃないけどなー」
 マカリオの手にあるものは拳銃ではなく、聖書だった。邪悪を地に縫い留める祈りの言葉が紡がれた瞬間、光のマテリアルが宙に結集する。
「ブラフを使う奴もいる、って覚えときな。……覚えても遅ぇか?」
 マカリオの苦笑とともに球体に突き刺さる光の杭。強烈な圧迫感に球体が悲鳴を上げ、ペイント弾のインクに塗れたみすぼらしい姿を現した。
「姿さえ見えれば!」
 良人がロッドで殴打する。
 そこに繋ぐように二連之業で追い打ちをかけるのはジェスターだ。
「舐めてくれてさあ! でもこれで終わりだぜ!!」
 細身の刃が歪虚を縦横に切り裂く。歪虚は恨みがましく彼を睨みつけたが、光の杭が歪虚の悪意を悉く押さえつけた。
 今が好機と、玲瓏とヴァンが大きく踏み出す。
「ヴァン様」
「おうよ、ここで決めなければの!」
 玲瓏が神楽鈴を握る手にスナップをきかせ、美しい音色を響かせる。かつて巫女だった玲瓏は神楽鈴を攻撃に使う状況に内心困惑するも、手を止めるわけにはいかない。
「この街の未来のため……ホーリーライト!」
 たちまち鈴から清らかな光が溢れ、歪虚の背を鋭く穿つ。
 そして。
「最後の馳走、堪能せい!!」
 ヴァンが自身の気を存分に注ぎ込んだ青龍翔咬波を放つ。歪虚は怒涛に放り込まれた玩具のようにマテリアルの激流に圧され……砕けていった。
 

●想いよ届け

 全身を鮮やかな玻璃の欠片に変えて歪虚の体が地に散乱する。
 ジェスターはその中から特に美しい紅色のものを拾い、天へかざした。しかし紅は瞬時に色褪せて灰となり、呆気なく宙に霧散していった。
「なんつうか玻璃ってことは水晶じゃん? 爆発四散したのを拾えばアクセ作れるって思ったんだけどな。……ま、大体わかってたけどさ」
 鼻を鳴らして指先に残った灰を擦り落とすジェスターに、顎髭を撫でながらヴァンが言う。
「どんなに良い色をしていようとも歪虚は歪虚じゃからの。何であれ、誰ひとり欠けることなく勝てたのだから大金星じゃ」
 ああ、とジェスターは片眉を吊り上げて頷いた。
 アルカは全身に浅い傷を負っているものの、全く気にしていない様子で大きく伸びをする。
「うんうん、大迷惑で卑怯者の歪虚をボッコボコにできて良かったヨ」
「後は避難した人達が元の生活を取り戻すだけ、だね」
 大樹の一言に仲間達は大きく頷いた。

 一方、帰還の支度を整える玲瓏とマカリオは足元の瓦礫の中から小さな紙束――短冊を発見した。
「もうすぐ七夕まつりでしたかしら」
「良人から聞いたとこだとそうらしいな。歪虚さえ現れなければってさ」
 短冊には様々な願い事が幼い字で綴られている。きっと子供達が幸せな未来を信じて書いたものに違いない。
 すると玲瓏が辛うじて焼け残った街路樹の枝に短冊を飾りはじめる。
「玲瓏?」
「笹も吹き流しもないけれど……せめてこれぐらいは。帰ってきた人達が見つけてくださるように」
 呟きは、手を止めずに。
 マカリオが小さく鼻を鳴らした。
「なるほどな。おっちゃんも手伝うよ」
 優しく差し出された手に玲瓏はほんの少し驚いたが――すぐに柔らかな笑みを湛えてその手に短冊の半分を渡す。
「ありがとうございます。……はやい街の復興を願います。歪虚を倒しても、その爪痕を癒すのは難儀なこと。でも思いがあれば、何れにか」
 玲瓏が腕を動かすたびに腰に挿した神楽鈴がちりちりと音色を奏でる。その音色は優しく、焼け落ちた街の痛みをいたわるように響き続けた。

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    マカリオ・R・エインズワースka6449
  • 輝く星の記憶
    深守・H・大樹ka7084

重体一覧

参加者一覧

  • カンフーガール
    アルカ・リー(ka0636
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • おっちゃん
    マカリオ・R・エインズワース(ka6449
    人間(蒼)|35才|男性|魔術師
  • 呵呵大笑の老龍
    ヴァン・ヴァルディア(ka6906
    ドラグーン|50才|男性|格闘士
  • Braveheart
    ジェスター・ルース=レイス(ka7050
    ドラグーン|14才|男性|舞刀士
  • 輝く星の記憶
    深守・H・大樹(ka7084
    オートマトン|30才|男性|疾影士
  • 風雅なる謡楽士
    玲瓏(ka7114
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/21 18:56:39
アイコン 相談卓
アルカ・リー(ka0636
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/07/24 22:00:10