雪原の忘れ物

マスター:紺一詠

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/25 07:30
完成日
2015/01/01 21:36

みんなの思い出

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オープニング

●1
 10人ぐらいの悪童が一群になり、村へ続く道を歩いている。その中に一人、襟首から入り込む寒気に、ひとしきり身を震わせる、年の頃なら7、8の少年。
 どうしてこんなに寒いのだろう。
 答えは、明白だった。マフラーを結んでないからだ。少年、名をセイという、は慌てて自らを探る。上着のかくしやブーツの内側や、およそあるはずのないところまで、丹念に調べる。が、見付かるわけがない。
 思い当たる節はある。村はずれの野辺で雪合戦に興じたとき、邪魔になって脱ぎ捨ててしまったのだ。そこいらの薮に引っ掛けたような記憶はあるが、はて、正確にはどのあたりに置いてきたものだか。
 セイは空を振り仰ぐ。冬の日の入りは早い。太陽は西山の稜線にさしかかりつつある。あと1時間もすれば、地上は青黒く染まるだろう。洋墨を吸ったテーブルクロスのように。
 今すぐマフラーを取りに戻ろう。素早く決意する。あれは、セイの母が、己のセーターをほぐして編んでくれたものだ。なくすわけにはいかない。捜しものは得意だ。真っ暗になるまえにはマフラーを見つけ出せるに違いない。
 心配しないで、すぐに追い付くから。同行の友人達に告げると、セイは来た道を駆け戻る。薄く雪の積もる平路。ブーツの先が銀雪を蹴りあげれば、包丁で菜を断つような音が軽やかに鳴りわたる。ざく、ざく、と。ざくざくざく、と。

●2
 ある村のはずれにあらわれたコボルドを駆除してほしい。単純といえば単純、そんな依頼が、ハンターズソサエティに届けられた。
 そこは、からりと広い空き地だ。ところどころに成人の身の丈程の高さの薮は残されているものの、下生えの野草は冬枯れしてしており、総じて見晴らしはいい。浅く雪は積もっているようだが、激しい運動の障害になるほどではない。せいぜい尻餅を警戒する程度でいいだろう。
 コボルドの数は、おおむね10体。ただし遠目からの視認による推定であり、多少の上下は心してほしい。
 ハンターオフィスの職員は、最後に、これは是非とも気に留めてほしいのですが、と、説明を継ぐ。
「村の子どもが一人、行方がしれないそうです」
 コボルドがあらわれた場所は、村の子どもらのよい遊び場であった。だが、そこへ忘れ物を取りに行った少年が、24時間を経過しても戻ってきていない。そもそもコボルドの発見も、少年の行方を求めている最中の出来事であったらしい。
「もしかすると、身動きがとれないのかもしれません」
 少年の捜索については、今回の依頼にふくまれていない。ハンターズソサエティに申し出た村人は、悪いほうに思い切りのいい性格だったのだろう。既に少年の救命は諦めているようだ。
 村はけして裕福とはいえない。なにかを失うことに慣れすぎたのか。しかし、世の空しさを悟った住人ばかりでないのも、確たる事実である。少年の遊び仲間、母親、声高に主張しないだけで、皆、今も少年の帰りを待ち焦がれている。
「……あなたがたは、どう思われますか?」
 職員は挑戦的な目付きで、ハンター達を見据える。そこから先はあなたがたの自由だ。

●3
 泣きたい。けれども、泣けない。セイは上着の袖でまぶたを擦る。
 マフラーを探している途中、セイは平野の向こうにコボルドを見付けてしまった。急いで姿をくらまそうとしたが、よっぽど焦っていたのか、右の足首をくじき、枯れ薮の隙間に身を寄せるのがやっとだった。昼の雪合戦で、セイの属していた側が、基地として利用していた薮だ。
 今のところ、コボルドに発見された様子はないが、それも時間の問題だろう。だが、走って逃れようにも、傷付いた脚では村まで逃げ切れる自信がない。
 それに――……、
 枯れ草を透かしてコボルドの1体をのぞむ、セイ。
 一足遅かった。セイのマフラーはコボルドの手に渡ってしまった。試行錯誤を経てそれの使用方法をおぼろげに悟ったコボルトは、マフラーをぐるぐると体に巻き付けている。彼のものであったマフラーに、幾つかの大きな綻びが出来ていることを、セイは認める。
 それでもいいから、マフラーを取り返したい。
 しかし、今はどうしようもなかった。奪回どころか逃走さえ儘ならない右足。じわじわと落ちゆく体力。運良く上着に忍ばせておいた菓子で、どうにか空腹はしのいだが、それもいつまでもつだろう。
 泣きたい。けれども、泣かない。かじかむ指に、セイは吐息を当てる。かすかな温みだけが、たしかな味方のように思われた。

リプレイ本文


 鋼鉄じみた寒波がきりきりと全身を締め上げる、そんな冬の日だ。
「馴じんだ……かな?」
 大きく片脚を振り上げたかと思えば、そのまま膝を折ったり、奇妙な動作を繰り返す、アルフィ(ka3254)。勝利を祈祷する最中――の、わけはなく、下穿きに巻いた藁紐の調子をたしかめているだけだ。
 滑り止めの附属する靴を借りられないか、村に具申したアルフィだが、慣れぬ用具で駆けずるよりは、と、藁の活用を勧められた。これならば、普段使いの履き物で事足りる。
「森の外には、いろんな工夫があるんだね」
 藁のかすかな違和感すら慈しみつつ、早足で行けば、件の原っぱだ。愛馬テンペストで先行したリュー・グランフェスト(ka2419)が、ハンター達を出迎える。
「ここなら、コボルドにも気付かれないだろ」
 雪原の端の、村に近い側の、立ち枯れた灌木が集う其処は、辛うじて乗用馬に物陰を与えてやれるほどのゆとりがある。
 最善の選択だ、と、ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)の経験が告げる。彼の髪色と気配にどこか似た、荒涼たる雪原を臨みながら、ヴォルフガングはリューに尋ねる。
「コボルドの正確な数は分かるか?」
「13。何度も数えたから、まちがいない」
 小屋につながれた番犬を計算するわけではないのだ。身を晦ましながら、せわしないコボルドを計るのは、案外骨が折れた。リューが先行で儲けた時間の、半分近くを注ぎ込む程度には。空間把握に優れたリューですらそうなのだから、不得手な者なら、より手間がかかったかもしれない。
 信憑できる数字ほど、ありがたい情報は、ない。それを知り抜くヴォルフガング、そうか、と、そっけなく応じる。ややあって、御苦労だったな、と短く付け加えた。
「リーダーっぽいの、いた?」
 自身も目撃せんがため、アルフィ、立ち木より高く跳ねようと試みながら、問えば、リュー、やんわりと首を横に振る。
「俺の見てきたかんじじゃ、いないなあ」
 アルフィが超えようとしているそれは、リューが攀じ登ろうかと検討していた立ち木の一本でもあった。
 だが、今は冬節。このあたりの木立はそっくり葉を散らし、枝枝をあらわにしている。これの頂上にまたがる行為は、戦旗を掲揚するに等しい。リュー、索敵は地上のみにとどめたおいた。
 付かず離れずといったコボルドの状況を思い出す、同時に芽ぐんだ、赫い闘志をも。一対一ならば非力な小物にすぎぬコボルドとはいえ、数がそろえば油断はならぬ。
 だから、リューはここにいる。手招く危険を待たせて、平常心で武装して。彼の本質からいささか隔たった、物静かな声音で報告する。
「烏合の衆だな。烏じゃなくて、コボルドだけど」
「そっか。ボクも見……みえ……見えないっ」
「俺は見えるけど」
「……ああ、俺もよく見える」
 見た目が成人に達せぬ二人に促されたせいか、ヴォルフガング、こころばかり長めに言葉を吐く。戦場となるであろう空間に、青い眼を眇める。
 散らばる足取りは13のコボルドのものか、と考えるが、コボルドの出現前に村の子らが雪遊びしていたというではないか。コボルドと悪童どもの足跡は、魔女のスープのように入り交じり、判然としない。ならば、他の痕跡を見繕えばよい。
「坊主がコボルドに見付かって逃げた場合は……」
 リューが『そこにはいなかった』と告げた数カ所を除き、点在する薮に目配りする。その間、アルフィは小柄な体を、ぴこん、ぺたん、何度もしならせていた。
「もうちょっとなのにっ。いっぱい目を凝らしてるのにっ。身長が憎い!」
 コボルドの統率者がみあたらないということは、集合としての彼等を叩きやすい反面、追い詰められた弱卒の動きが読みにくい、という不都合も起こりうる。
 自棄を起こしたコボルドが、期せずして、少年を嗅ぎ付ける可能性だってあるのだ。ならば、尚のこと――……、
「はやく、見つけて……安心させてあげたいわね」
 金刀比良 十六那(ka1841)、提げた包みに、触れる。包みの正体は、白湯を詰めたペットボトル。それに触れるごと、差し込まれる感傷、錯覚。喪失とは不帰の象徴なのだ、と。
 ろくでもない連想から逃れるように、ペットボトルを一際強く握りこむ。
「……冷めないうちに、わたしてあげたい」
「ほんとうは、熱くつけた燗のほうが、効き目があるんじゃがの」
 もしも火々弥(ka3260)がイザヤの隣に居合わせたなら、からかい雑じりのそんな口上で、イザヤを力付けようとしたかもしれない。そして、イザヤ、ぷいと横向きになって、まなじりにぼうっと朱をきざし、未成年にアルコールなんて、と、反駁したかもしれない。
 しかし、火々弥とアルルベル・ベルベット(ka2730)、彼女等はそれぞれにコボルドの偵察に向かっていた。いや、どちらかといえば、アルルベル、コボルドそのものより、コボルドを取り巻く環境のほうに身も心も配っていたが。
 くすんだ下草のあたり、雪原の外周から辿るようにして、ロープを張り、霜雪を被せる。立ち上がり、コボルドに気取られておらぬことを確かめ、次へ移動する。地味で気疲れする作業だ。
 が、アルルベル、無機質な表情を欠片もひしゃげず、黙々と、罠の下ごしらえを続けた。なに、これぐらい、機導術の研究にくらべれば、嚢中の物を探るも同然。現実にそう意識したわけではなかったが、似たような意気を感じるともなく感じながら、アルルベルは新たな細工にとりかかる。
 どう思う、と、ハンターオフィスで投げられた質疑を思い返す。
「……ふむ。聞かれるまでもない」
 ほつほつと雪泥の滲みの増えゆく、きめこまかな白い肌。
 灰白の敷布を頭からはおり、迷彩に用いた、火々弥。他のハンター達より不敵に、彼女の言うところの『犬鬼』へ近付いていた。むろん一団の真っ只中に突っ込まないよう、用心はしている。コボルドの数は了解したのだから、あとは行方知れずの少年の身柄をあきらかにするだけだ。
『生死を問わず』
 隠しきれぬ悲愴を隠し、ヴォルフガングは言った。
『見つけて連れ帰るんだっ』
 木漏れ日のような光を瞳に浮かべ、アルフィは言った。
 火々弥は――……、
 橙の眼睛に火が灯る。じゅうぶんな緊張を備えた両眼で、雪原をみわたす。そして気が付いた。
 なにやら積雪の一段とえぐれた範囲がある。場合によっては表土までみえるほど、だが遠目からでは枯れ草で隠されて識別しにくいところに。火々弥、急き立てられるように、枯れ草を掻き分ける。
 いた。
 石塊のように、小さくこわばった少年が。生きている。
「おぬしセイじゃな?」
 一言だけ。少年の頷くのを認め、火々弥、首をねじる。薮の上からではなく横から顔を出したアルフィと、目が合った。察したアルフィが動けば、他のハンター達も矢継ぎ早に、隠密から攻勢へ、本能のベクトルを切り替える。
 潜む理由はなくなった。火々弥、灰白の被いをはねのける。覚醒した肉体が美しく、起つ。


「……これを、」
 イザヤ、白湯をアルフィに預けた。
「もっと栄養のあるもののほうが、よかったかもしれないけれど……」
 コボルドに匂いを悟られるかもしれないので、お湯でごめんなさいね。言葉の端のほうは冷気のなかに消えかかっていたが、アルフィは意に介さない。
「だいじょうぶ。ぽかぽかしてるね、懐炉みたい」
「……その。少しでも温かい物を口にしたら……安心できると良いんだけど」
「うん。ちゃんと渡すから」
「これも、頼む」
「まかせといてっ」
 リューからは彼の上着を受け取る。リューが先刻まで装っていた上着もまた、おだやかな煖気をのこしている。滑り止めを施したはずなのに、坂道を転げる雪礫のような恰好で、アルフィ、薮の中へ分け入る。束の間敢えなく含み笑いし、イザヤは急ぐ、戦場へ。
 始まったか、と、アルルベルは独り言つ。彼女の位置からも、セイの確保は見届けられた。
「凍えと恐れに良く耐えた。少年。ここから先は我々の領分だ」
 一計を案じるアルルベル、其処へはまっすぐ移動しない。大振りの楕円を描くように遠回りする。
 先鋒を切るは、火々弥だ。はじめからコボルドからそう遠くない場所にいた彼女が、ハンター達のなかでいちはやく立ち向かうこととなったのは、当然の成り行きといえよう。突出した彼女を囲むように、コボルドが陣を拡げるのも。
 しかし、すべては承知の上である。
 太刀で舞うように、躍るように。浅い遊撃に釣り込まれて、コボルドの爪が火々弥の皮膚に紅の一条を残す。火々弥、他人のもののように己の傷痍を眺めた。
「犬鬼共がわらわらと……。数が多いのは鬱陶しいのう」
 剣戟を重ねての負傷は、低きところへ水が流れるように、自然。なにも慌てることはない、と、行使する、マテリアルヒーリング。光があふれる光が、傷をなめす。
 次いで、リューが、事前に探っておいた雪の薄いところへ、踵を刺すようにして、
「おらよ!」
 到着。気合いとともに、ワイヤーウィップを展開する。コボルドの顎門から、抗議するような悲鳴が漏れる。ヴォルフガング、思わず口を出さずにいられない。
「やりすぎるなよ」
「分かってるって!」
 本当のことをいえば、リューの戦意を一番よく理解していたのは、ヴォルフガングだったろう。許されるならば、彼とて、すぐにでも全力を費やしたいのだ。しかし、考えなしの行動は理性が許されなかった。
「目的はあくまでも、コボルドの殲滅だ」
 コボルドの取り柄は、素早さにある。臆病を焚き付けた挙げ句、逃走されては、目的の達成は不可能だ。その上、今日は足場が悪い。ヴォルフガング、コボルドの全体にいったん目をやった。
「あれが、忘れ物の正体かね」
 殆ど襤褸と変わらぬ、赤色の編み物を、コボルドの1体が纏っている。
 ――余計な厄介事が増えるのは勘弁して欲しいんだがな。が、出来るだけ気に懸けるとしよう。彼の独言を、彼の太刀風が、鋭く断つ。
「ね、怪我はしてない?」
 まかせといて、と告げたように、セイに歩み寄ったアルフィは積極的に手を掛ける。
「上着はリューお兄さんからで、ペットボトルはイザヤお姉さんから。チーズもあるよ、これ美味しいの。えっと、他にも」
 備えあれば憂いなし、そうおばあさまも言ってたし。その言葉通り、次々と荷を降ろすアルフィ。まるで、ちょっとしたピクニックの支度だ。
「いいの?」
「ん?」
「ハンターさん達だよね? コボルドを倒しに来たんじゃないの」
 自分にかまっていてもいいのか、と、セイはほのめかす。子どもは気にしなくてもいいの、と、自分だって大きくないくせに、アルフィ、きっぱり言い退けて、薮の外の戦闘を見遣る。
「お兄さんもお姉さんも絶対に負けないし、ボクはセイを守ってみせるから」
 アルフィのその瞳は、茶から空色へ。バックラーにほつれる髪は、先につれて黄金へ。信念と信頼が、彼女をいっぱしの聖導士らしく仕立てる。
 そう、一見して、ハンター達はコボルドに押されているようだった。
 例えば、イザヤ。身を包む淡い橙色の光に打ちのめされたような、痛ましい表情をしている。放つマジックアロー、コボルドの脚部を狙うが、ほぼ停止することのないその部分への命中はやはり難しい。けして魔法が効いていないわけではないのだが。
 亜人の黄味がかった目に凄まれ、イザヤの次の一手が瞬刻止まる。押し込めたところから浮かび上がる、情動、恐慌にどこか似ついた。だが、彼女のうしろには、彼女より小さいものがいる。
「負けないわ……っ」
 接近するコボルドに、逆手に握ったエストックで、抗する。凍れるような鍔の質感が、鼓舞するようで、逆に頼もしい。
「もう、いいかな」
 途中でちょいと横転もしたけど(あれは敵の気を惹くための故意だと、後にリューは主張する)、リューは順調に敵を引き付けている。気付けば、野戦が始まったときのアルルベルと、ちょうど立ち位置を入れ替えたようなふうになっていた。
 ハンター等の作戦とは、中盤までは不利を装いつつ徐々に敵の力を削ぎ、最終的には一気呵成に彼等を必滅させることであった。いよいよか、と、リューは面を上げる。アルルベルと視線が絡む、コボルドの群れの後方に佇む彼女、深く肯く。その判断は正しい、と。
 そのときだ。
「うわあっ!」
 こけおどしとはまったく異なる、真なる咆哮。攻めの構えのあとの渾身撃が、ヴォルフガングのくりだした同様の攻撃が、至近のコボルドを薙ぐ。死というあきらかな完敗を目の前にし、残りのコボルド達が浮き足立つ。そのうちの何体かは、アルルベルの結わえた罠に足を取られた。
 ――知らないと本当に引っかかるのよね。先程までの動揺も忘れて、イザヤの口許に知らず識らず微笑が浮かぶ、が、すぐさま思い直した。彼女が炎の矢を解き放てば、アルルベルの紡ぐ雷撃がコボルドの行動をはばむ。それはまるで、最終楽章の如く。譜表に似た、アルルベルの表面の幾何模様が、魔導機械と共に燦然する。
「……幕切れじゃな」
 火々弥の切り下げる太刀が、コボルドの最期を見舞う。女性らしい豊かな肢体が為したとはおもえぬほど、緻密で精確な一撃だった。


「俺はリュー。リュー・グランフェスト。よろしくな」
 とんだクリスマスになっちまったな。
 ようやく薮から引き出すことの叶ったセイに、リューが片手を差し出せば、セイとアルフィ、顔を見合わせたあと、ころころと声を揃えて笑い出す。ひとしきりのピクニックのあいだに、打ち解け合ったらしい。だが、それはリューの不満を解消する理由にはならなかった。
「なんで笑うんだよ!?」
「だってー。タイミングがおかしいよー」
「それどころじゃなかったんだから、しかたないだろ」
「それは、そうだけど」
 アルルベルがエレクトリックショックを使うなど、最大限の注意のもと取り戻したマフラーだが、あたりまえだが、元々の大穴を防ぐ役にはたたなかった。だが、セイはそれを満足げに首に巻く。
 新しいものを、という、イザヤの申し出はセイが断った。あのマフラーは新品ではなく、セイの母の着古したセーターを、仕立て直したものだ。イザヤのたてた予算があれば、もっと立派なマフラーを買えたかもしれない。
「でも、なにか違うと思うから」
「立派な心がけだ、少年」
 アルルベル、自身とそう背丈の違いのない少年の頭に、手をのせる。
「大切な物を取り戻したい気持ちも解る、が。そのために君を失っては母君も悲しむ。……今後は気をつけるように」
「うん」
「返事は『はい』じゃ」
「はいっ」
 セイ、今度は、火々弥に向かって一礼する。
「こんなことに巻き込まれてまで探したマフラーじゃ、大事にするがよい」
「じゃ、一緒に帰ろ! お母さんや友達に心配かけちゃダメだもんね!」
 手本とばかり、アルフィが一目散に駈け出す。そして案の定、頭から白雪に突っ込んでいった。

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参加者一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 夢の迷い子
    イザヤ・K・フィルデント(ka1841
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 真摯なるベルベット
    アルルベル・ベルベット(ka2730
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 星々をつなぐ光
    アルフィ(ka3254
    エルフ|12才|女性|聖導士

  • 火々弥(ka3260
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン コボルド退治と行方知れずの子供
火々弥(ka3260
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/12/25 01:57:12
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/22 01:02:39