ゲスト
(ka0000)
ブリキの蜘蛛
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/28 07:30
- 完成日
- 2018/08/01 01:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●花畑に潜むもの
その商人は、商談を終えて自分の町に戻る途中、花畑の傍らを通ろうとしていた。御者台にはお付きの者が二人、交替で馬を御している。
帰ったらひとまず書類をまとめて、それから家族の顔を見よう。数日離れているとやはり寂しいものだ。
不意に、馬車が止まった。もう少しで帰れるのに、何なんだ一体。がたがたと御者台が揺れる。慌てた様子で客車のドアが開かれた。
「どうした」
「た、大変です! お花畑の中から歪虚らしきものが!」
「何! 歪虚だと!」
「こちらに気付いてどんどん寄ってくるんですよ! 一旦離れましょう」
「こっちは馬だぞ! どうにかならんのか?」
「小型犬くらいの蜘蛛がぶわーって出てきてるんですけど!」
「もっと早く言え! 近くの町に行くんだ。そこでハンターオフィスに連絡を取ってもらおう」
「わかりました!」
●紛れ込んだ蜘蛛
商人たちは大急ぎで馬車を近くの町に走らせた。馬も、ただならぬ気配を察知したのか、全速力で走っている。
そうして助けを求めて駆け込んだ町で事情を話すと、そこの町に住んでいる司祭兼ハンターだと言う赤毛の男性が、速やかにオフィスに通報した。商人とお付きの二人は、宿で一休みしている。
「花畑に蜘蛛の歪虚、ですか」
「えっ、もしかしてあの花畑か? ここからちょっと遠くのあの?」
司祭が思案していると、通りすがりのエルフの女性が驚いた様に声を掛ける。司祭は彼女を見ると、
「ああ、サンドラ。あなたよくあそこの花畑に行きますよね? 最近蜘蛛を見ましたか?」
「いや、見てないよ。先週も行ったけど。だいいち、見てたらお前に報告してるに決まってるじゃないか」
「失礼、それもそうでした。と言うことはこの一週間で居着いたのか……蜘蛛は一晩で巣をかけてしまうと言いますからね」
「うん。朝取っ払っても夜には張ってたりするからな」
「歪虚の蜘蛛が同じかどうかは別ですが、同じ形をしている以上、生態も準じていると考えても良いでしょう」
「どこからかやって来たのかな?」
がちゃがちゃ。
「何だ司祭、これから退治にでも行くのか? そんなに武装をして」
「武装? 私は着の身着のままですが……」
がちゃがちゃ。
「そんなにがちゃがちゃ言わせて。法衣の下に甲冑でも着てるみたいじゃないか」
「そんなわけないでしょう。見てくださいいくら着やせと言っても甲冑の上から法衣なんて、こんなもんじゃ済みませんよ」
がちゃがちゃ。
「じゃあこの音は……」
サンドラと呼ばれたエルフがきょろきょろと辺りを見渡したその時だった。
「キャーッ!」
悲鳴がする。見れば、幼い少女が、司祭とサンドラの向こうを見て真っ青になっているではないか! 二人は音を立てる勢いで少女の視線を追う。
「司祭! 蜘蛛だ!」
「馬車にくっ付いてきたのでしょうね! サンドラ下がりなさい!」
司祭はサンドラを下がらせると、足を上げて威嚇する蜘蛛に正面からマジックアローを叩き込んだ。蜘蛛はそれで吹き飛ぶと、けたたましい金属音を立ててひっくり返り、消滅する。オーバーキル気味である。
「い、一匹だけか……?」
「わかりません。ゴキブリなんかは一匹見たら三十はいると思えと言いますから」
「大変だ」
「仲間の後を追って他がくる可能性もあります。ハンターが来るまでは私が迎撃に出ましょう。あなたは皆に避難を呼びかけてください」
「わかった。司祭、気をつけろ」
「あなたも」
●ハンターオフィスにて
「と、言うわけでぇ、お花畑の蜘蛛退治だけじゃ済まなくなってきたみたいですぅ」
お下げに眼鏡の職員は、資料を見ながら眉間に皺を寄せた。
「ゴキブリじゃないんですけどぉ、数の多いって最初からわかってる歪虚ですし、それこそ一匹見たら三十いるくらいに思った方が安全ですぅ。今のところ町が蜘蛛に覆い尽くされた、って言う続報はないので大丈夫だとは思うんですけどぉ、あんまりたくさんだと司祭様一人じゃもたないので早く行ってあげてください」
そう言ってから、職員は資料の一文を読んで目を瞬かせた。ハンターたちを見回す。
「それと、何かブリキみたいな感じで、動くとがっちゃんがっちゃんうるさいらしいですぅ。町の人は今のところその音で警戒してるみたいですねぇ」
その商人は、商談を終えて自分の町に戻る途中、花畑の傍らを通ろうとしていた。御者台にはお付きの者が二人、交替で馬を御している。
帰ったらひとまず書類をまとめて、それから家族の顔を見よう。数日離れているとやはり寂しいものだ。
不意に、馬車が止まった。もう少しで帰れるのに、何なんだ一体。がたがたと御者台が揺れる。慌てた様子で客車のドアが開かれた。
「どうした」
「た、大変です! お花畑の中から歪虚らしきものが!」
「何! 歪虚だと!」
「こちらに気付いてどんどん寄ってくるんですよ! 一旦離れましょう」
「こっちは馬だぞ! どうにかならんのか?」
「小型犬くらいの蜘蛛がぶわーって出てきてるんですけど!」
「もっと早く言え! 近くの町に行くんだ。そこでハンターオフィスに連絡を取ってもらおう」
「わかりました!」
●紛れ込んだ蜘蛛
商人たちは大急ぎで馬車を近くの町に走らせた。馬も、ただならぬ気配を察知したのか、全速力で走っている。
そうして助けを求めて駆け込んだ町で事情を話すと、そこの町に住んでいる司祭兼ハンターだと言う赤毛の男性が、速やかにオフィスに通報した。商人とお付きの二人は、宿で一休みしている。
「花畑に蜘蛛の歪虚、ですか」
「えっ、もしかしてあの花畑か? ここからちょっと遠くのあの?」
司祭が思案していると、通りすがりのエルフの女性が驚いた様に声を掛ける。司祭は彼女を見ると、
「ああ、サンドラ。あなたよくあそこの花畑に行きますよね? 最近蜘蛛を見ましたか?」
「いや、見てないよ。先週も行ったけど。だいいち、見てたらお前に報告してるに決まってるじゃないか」
「失礼、それもそうでした。と言うことはこの一週間で居着いたのか……蜘蛛は一晩で巣をかけてしまうと言いますからね」
「うん。朝取っ払っても夜には張ってたりするからな」
「歪虚の蜘蛛が同じかどうかは別ですが、同じ形をしている以上、生態も準じていると考えても良いでしょう」
「どこからかやって来たのかな?」
がちゃがちゃ。
「何だ司祭、これから退治にでも行くのか? そんなに武装をして」
「武装? 私は着の身着のままですが……」
がちゃがちゃ。
「そんなにがちゃがちゃ言わせて。法衣の下に甲冑でも着てるみたいじゃないか」
「そんなわけないでしょう。見てくださいいくら着やせと言っても甲冑の上から法衣なんて、こんなもんじゃ済みませんよ」
がちゃがちゃ。
「じゃあこの音は……」
サンドラと呼ばれたエルフがきょろきょろと辺りを見渡したその時だった。
「キャーッ!」
悲鳴がする。見れば、幼い少女が、司祭とサンドラの向こうを見て真っ青になっているではないか! 二人は音を立てる勢いで少女の視線を追う。
「司祭! 蜘蛛だ!」
「馬車にくっ付いてきたのでしょうね! サンドラ下がりなさい!」
司祭はサンドラを下がらせると、足を上げて威嚇する蜘蛛に正面からマジックアローを叩き込んだ。蜘蛛はそれで吹き飛ぶと、けたたましい金属音を立ててひっくり返り、消滅する。オーバーキル気味である。
「い、一匹だけか……?」
「わかりません。ゴキブリなんかは一匹見たら三十はいると思えと言いますから」
「大変だ」
「仲間の後を追って他がくる可能性もあります。ハンターが来るまでは私が迎撃に出ましょう。あなたは皆に避難を呼びかけてください」
「わかった。司祭、気をつけろ」
「あなたも」
●ハンターオフィスにて
「と、言うわけでぇ、お花畑の蜘蛛退治だけじゃ済まなくなってきたみたいですぅ」
お下げに眼鏡の職員は、資料を見ながら眉間に皺を寄せた。
「ゴキブリじゃないんですけどぉ、数の多いって最初からわかってる歪虚ですし、それこそ一匹見たら三十いるくらいに思った方が安全ですぅ。今のところ町が蜘蛛に覆い尽くされた、って言う続報はないので大丈夫だとは思うんですけどぉ、あんまりたくさんだと司祭様一人じゃもたないので早く行ってあげてください」
そう言ってから、職員は資料の一文を読んで目を瞬かせた。ハンターたちを見回す。
「それと、何かブリキみたいな感じで、動くとがっちゃんがっちゃんうるさいらしいですぅ。町の人は今のところその音で警戒してるみたいですねぇ」
リプレイ本文
●蜘蛛と言われて
ハンターたちが到着すると、赤毛の司祭が小走りにやって来た。
「ああ、来て下さいましたか。迅速なご対応感謝します。この町の司祭です」
ハンターたちも簡単に自己紹介を済ませると、イリアス(ka0789)が魔導短伝話を司祭に差し出した。
「私とクレイくんも町の見回りに入ります。司祭さんは人が集まっている避難所の守りをお願いできたら」
「ああ、助かりますよ。通信機を教会に置いてきてしまって。お借りします」
町に残って見回りをするのはイリアスとクレイ・ルカキス(ka7256)、花畑に直行するのは、フワ ハヤテ(ka0004)、アシェ-ル(ka2983)、七夜・真夕(ka3977)だ。
「害虫退治だなんて夏らしい依頼だ。さっさと済ませて木陰で涼みたいものだよ」
ハヤテが、魔導伝話を調整しながら言った。
「蜘蛛って田舎にいけば一杯いますよね。私も田舎育ちだからよく分かります」
うんうん、と頷いたのはアシェールだ。
「普通の蜘蛛さんへ激しい風評被害になりかねないので、確り討伐しましょう!」
「蜘蛛は正直苦手なんだけど……仕方ないわね」
真夕はちょっぴり苦い顔だ。
「街を守らないと、だし、商人さんも早くお家に帰らせてあげたいしね」
「そうですよね。一体残らず討伐しないと」
クレイも魔導伝話の指定を終えて、二人に同意する。
「では頼みます。私は避難場所になっている建物を巡回します。何かあれば連絡しますよ」
司祭の言葉を合図に、ハンターたちは各自行動を開始した。
●ブリキの蜘蛛
ハヤテは自分の馬、アシェールは借りた馬、真夕は魔箒に乗って花畑に急いだ。先頭のハヤテが、突然馬を立ち止まらせる。
「どうしたんですか?」
アシェールが訪ねると、ハヤテは前を指した。
「どうやら、お出迎えだよ」
音を立てながら、小型犬くらいの大きさの蜘蛛が、馬車のわだちを辿っている。こちらにに気付いたようで、近寄ってきた。アシェールの馬はただならぬ気配を察して後ずさり、乗り手がそれを宥める。
「ああ、怖がらないで。大丈夫ですからね」
ハヤテは魔導拳銃を抜いた。狙いを付けて、引き金を引く。蜘蛛は思ったより敏捷で、けたたましい音を立てて後ろに跳びはねた。
「ああ、弱い分回避には長けてるのかな?」
「そうかもしれないわね。花畑に着いたら、反撃にも気をつけた方が良いかも」
真夕がハヤテの呟きに応じながら、マジックアローを撃ち放つ。ハヤテに気を取られていた蜘蛛は、横合いからその攻撃を受けて吹き飛ぶ。すぐに消滅した。
「急ぎましょう。ああやってどんどん来られたら困っちゃう」
「そうだね。急ごうか」
道中でも数体蜘蛛を見かけたが、いずれもハンターたちがそれぞれに仕留めた。中でも一体は、ハヤテのエクウスが踏みつけてしまい、それだけで霧散した。念のため馬の足を確認したが、特に害はなさそうだ。
花畑に到着すると、各々乗っていたものから降りた。エクウスも町の馬も待機だ。
がちゃん、がちゃん、がさがさ。
ブリキの蜘蛛が歩く音がする。花々の中では、蜘蛛の背中がところどころで見え隠れしている。
「草花の中に潜んでずるいです!」
アシェールは憤慨している。
「これだけ魔術師が揃っているんだ、手分けすれば直ぐに片が付くさ。そうだろう?」
ハヤテが微笑むと、二人は頷いた。
アシェールは真ん中の通路にアースウォールを立てた。その上によじ登ると、二十センチ幅の足場で器用に仁王立ちになる。
「ここからなら見つけ放題です!」
ハヤテと真夕も、それぞれマジックフライトと魔箒で跳び上がる。空から俯瞰するように索敵するが……。
「うじゃうじゃと……いるにはいるけど、聞いてたよりちょっと数が少なくないかしら? 巣はなさそう」
「町に行った可能性があるね」
「大変だわ。でも、イリアスとクレイがいるから大丈夫ね」
「念のためしらせておこう」
ハヤテが魔導スマートフォンでイリアスと連絡を取る。
「もしもし、イリアスです」
「ハヤテだよ。今花畑なんだけど、最初に聞いてたより数が少ないんだ。そちらに行ってる可能性がある。気をつけて」
「わかりました! ありがとうございます。クレイくんと司祭さんにも伝えておきますね」
「ああ、それが良いだろう」
通話を終えると、ハヤテは二人を見た。
「では始めるとしよう」
上から索敵した結果、蜘蛛の数は約二十。すでに、アシェールの立てたアースウォールに興味を覚えて道に出てきている個体もあった。もちろん、そうでない個体も。
「道に出てきたのは任せるよ。僕は花畑に潜んでいるのを仕留めていこうかな」
「わかったわ。できるだけ、花畑を壊さないようにしたいから、出てきてくれないかしら……」
「なに、多少散ったところでまた再生するさ」
ハヤテが肩を竦める。彼は早速、花の間からはみ出る丸い蜘蛛の背中にマジックアローを撃ち込んだ。空から不意を突かれた形になり、蜘蛛は一発KOだ。
「アシェール! 蜘蛛が登ってきてる! 気をつけて!」
数を狙おうと少し距離を取った真夕がそれに気付いた。真夕が撃つこともできるが、アースウォールもダメージが蓄積すると崩れてしまう。そして、魔術師の撃つマジックアローは一発でそのダメージに達してしまう恐れがあった。すばしっこい蜘蛛だ。避けられて壁に当たっては元も子もない。
「大丈夫です! 真夕さんは他の蜘蛛をお願いします!」
アシェールは、蜘蛛の突進をコギトで受け止めた。そのままルーンソードを抜いて、蜘蛛を斬り伏せる。激しい金属音。壁から落ちた蜘蛛は落下地点で崩れて消えた。
「サギステルとか言われそうですけど、ちゃんと魔術師ですからね!」
真夕も、フォースリングに刻まれているという術式の力を借りて、寄ってきた蜘蛛五体に狙いを定めた。
「行くわ!」
五本のマジックアローが飛んで行った。二体がそれに貫かれ、三体は仲間の被弾を見てかさかさと逃げていく。
「蜘蛛の子を散らすってやつね……厄介だわ」
「手数を増やした方が良いかな? ダブルキャストを使ってみるか」
「あ、でしたら私、試したいことが……」
アシェールが壁の上申し出る。
「何だろう?」
「双術を使ってみたいんです。フォースリングもあるので十体は狙えます!」
「すごいね」
「まさか、こんなに早く試し切り……じゃなくて、試し撃ちできるとは思いもしませんでした!」
ルーンソードの周辺に七色の魔法陣が発生する。それぞれの魔法陣から、五本ずつ、合わせて十本、魔法の矢が発射された。
天罰のように、壁の上から降り注ぐ矢。狙われた十体の内、逃げおおせたのは三体。
「すごいじゃないか」
ハヤテが感嘆したように言う。
「すごい! 今ので大分数が減ったわ! もうちょっとよ!」
真夕が箒の上ではしゃいだ。花畑にいた蜘蛛たちは、警戒して逃げるものも、威嚇するために出てくるものもある。逃げようとした一体を、ハヤテのマジックアローが襲った。
●町に響く足音
「お花畑にブリキの蜘蛛……普通の蜘蛛さんの方が似合ってたかしら」
イリアスはクレイと別れてから独りごちた。それからはっとして首を横に振る。
「そ、そういう問題じゃないわよね。頑張って町を守りましょう」
うんうんと頷いてから、彼女は耳を澄ませて巡回を始めた。司祭によると、甲冑が歩いているような音、らしい。
吊り看板が揺れる音、どこかの窓が閉まる音、金属の音は、案外日常に溢れている。
蜘蛛のいそうな所、狭い通路や壁を見て回るが、なかなか見つからない。
「もしかして町にはいないのかしら?」
首を傾げたその時だった。スマートフォンが鳴った。
「もしもし、イリアスです」
「ハヤテだよ」
花畑に行ったハヤテからだった。彼が言うには、花畑にいる蜘蛛が最初に聞いていたより少ないと言うのだ。町に行った可能性がある。イリアスは息を呑んだ。
通話を終えて、思案する。やはり町にも来ているのか。
「困ったわね……とりあえずクレイくんと司祭さんに伝話しなきゃ」
イリアスはまずクレイに連絡を入れた。
「もしもし! クレイです」
「あ、クレイくん? イリアスだけど、今ハヤテさんから伝話があってね……」
ハヤテからの伝達事項を伝えると、伝話の向こうでクレイが息を呑むのが聞こえた。
「やっぱり来てるんですね……わかりました。よりいっそう注意してみます」
「うん、お願いね」
クレイとの通話を終えて、司祭に渡した伝話へかけると、彼女の後ろで着信音がした。振り返ると、花屋を背にして、短伝話で出ようとしている司祭と目が合う。どうやら、避難場所巡回の途中だったらしい。
「あ、司祭さん、それ私」
「ああ、失礼。あなたでしたか。どうしました?」
「あのね……」
イリアスが用件を口にしようとしたその時だった。がちん、と上から音がする。はっと彼女が顔を上げると、花屋の屋根に蜘蛛が乗っている。今にもこちらに飛びかかろうと言わんばかりだ。
「危ない!」
魔導拳銃を抜いて咄嗟に撃ち放った。しかし、落ちてくる蜘蛛にはぎりぎりのところを掠めて行く。掠めた弾丸の風圧でバランスを崩した蜘蛛は地面でひっくり返った。イリアスはもう一度、狙いを付けて発砲すると、今度は当たった。蜘蛛が消えるのを確認してから、イリアスはクレイに伝話をかける。
「イリアスさん……」
「クレイくん? 私今一体見付けて仕留めたんだけど、そちらは大丈夫?」
「三体見付けたんです。しかもちょっと聞いてたより大きくて……」
「三体も!? どこにいるの?」
「雑貨屋さんの前です」
「雑貨屋さんね。すぐ行くわ! 無理をしたら駄目よ」
「わかりました」
「司祭さん、私行かなきゃ。雑貨屋さんの前に三体いるって」
「その周辺の避難場所を警戒します。討伐はお願いします。ありがとうございました」
「任せて」
客も店員も避難した雑貨屋。その前で、金属音を立てながら蜘蛛が行ったり来たりしている。クレイは剣を抜いて思案した。いくら雑魚らしい、とは言え、一人で三体を相手にするのは少々危険な気もした。小型犬くらい、と聞いていたが、一般的な小型犬より少し大きいのである。それくらいで著しく強くなっているとも思えないが、イリアスが来るまで待った方が良いだろう。
「クレイくん、どう?」
イリアスはすぐにやって来た。
「あれなんです」
「ほんとだ。私が見たのよりちょっと大きいね」
「援護をお願いしても良いですか?」
「もちろんよ。気をつけてね」
「はい」
イリアスが銃を抜いてから、クレイは瞬脚で強化したランアウトで駆け出した。足音に、一体が気付いて振り返る。
「行くぞ!」
一瞬で距離を詰めた彼は、シグルリオーマで斬りつけた。やはり、生命力も防御力もそこまで他の蜘蛛と差はなかったようだ。一撃で蜘蛛は塵に返る。
「良かった。あんまり強いのが紛れてたら困っちゃう」
「ですね。おっと」
蜘蛛が突進してきた。クレイはそれを横に飛んで回避。イリアスが蜘蛛の背後から発砲した。胴体を貫かれて、蜘蛛は前のめりにつんのめって消え失せた。その塵の上を踏み越えるようにして、クレイが残りの一体に迫る。蜘蛛が後ずさって、剣先はわずかに届かない。
「思ったより素早いな……」
蜘蛛はチャンスと見たのか、そのままクレイに覆い被さるようにして飛びかかった。しかし、金属の足が石畳に引っかかり、その場で盛大に転げた。
「クレイくん、伏せて!」
イリアスの言葉に従ってクレイが伏せると、イリアスがもう一度発砲した。足が引っかかった蜘蛛は逃げられない。弾丸は足を吹き飛ばしながら着弾した。飛んで行った足も含めて、最後の一体はそのまま霧散した。
●それぞれの後始末
「もう蜘蛛は見たくないわ……」
花畑から、げっそりとした表情の真夕と、笑みを絶やさないハヤテが戻って来た。アシェールはせっかくだからと花畑で遊んでから戻るらしい。
町の方も、イリアスとクレイで見回りを終えて、安全が確認できている。
「直感視で見に行こうかなって思ってたけど、大丈夫そう?」
イリアスが訪ねると、真夕はハヤテと顔を見合わせる。
「僕たちも探したけど、別の目が入った方がより確実だとは思うよ」
「そうね。見てきてくれるならそれはそれでありがたいわ。アシェールも残ってるし」
「じゃあ、私ちょっと行ってくるね」
イリアスはそう言うと、馬を借りに小走りに駆けて行った。
「さて、僕は冷たいものでも頂こうかな。酒屋は開いたかな?」
ハヤテがそれを見送って、司祭を見た。
「もう少しお待ちを。どなたか避難場所に行って安全を報告してもらえませんか? 私一人ではどうにも時間がかかりそうで」
「だったら僕が行きます」
クレイが挙手した。
「ああ、頼みます。私は教会と宿に行きますのであなたは集会場と町長宅をお願いします」
「あ、待って、宿には私が行くわ。商人さんが良ければ送って行く」
真夕が申し出た。
「お願いします」
ハンターたちはそれぞれの目的に向かって解散した。
「アシェールさん」
イリアスが花畑に到着すると、アシェールは花冠を編んでいるところだった。
「あ、イリアスさん」
「お疲れ様。可愛いわね、冠」
「子どもたちに作って行こうと思って」
「そう。きっと喜ぶわ。私はちょっと卵がないかとかを見に来たんだけど」
「卵ですか」
「ブリキの蜘蛛も卵で増えたら困っちゃうから」
「じゃあ、私も一緒に探します」
「ありがとう、アシェールさんがいてくれたら助かっちゃうな」
「引き籠もりで鍛えた、この聴覚! 不自然に重たいものが引っかかってたらきっとわかります」
「じゃあ私は目で探すね」
「もう大丈夫ですよ!」
クレイは安全を、集会場に避難していた人たちに報告した。緊張の面持ちをしていた彼らは、それで安心した表情になる。
「ああ、よかった……ありがとうハンターさん……」
「皆さんが無事で良かったです」
クレイは顔を綻ばせる。町の人たちが三々五々出てくるのを見て、彼は次の避難場所に向かった。
酒屋は営業を再開した。ハヤテはふらりと店に入ると、冷たい飲み物を注文する。暑い中動き回っていたのだ。冷たい飲み物の一杯でも飲まなくては倒れてしまう。
「あの花畑、うちのガキもよく遊んでたんだけど、蜘蛛に荒らされてなかったかい?」
ハヤテが今回の依頼を受けたハンターであることに気付いた店主が、飲み物を出しながら気遣わしげに言う。魔術師はにっこりと笑った。
「多少はね。でも大丈夫さ。雑魔は全て討伐したし、これ以上傷つけるものはないからね」
商人は喜んで真夕からの護衛の申し出を受け入れた。彼女は商人と同じ客車に乗って、外を警戒する。
「それにしても無事でいてくれて安心したわ」
「おかげで助かったよ。家族の顔が見られそうだ」
「それなら良かった」
順調に馬車は走って行った。もう、脅かすものは何もなかった。
ハンターたちが到着すると、赤毛の司祭が小走りにやって来た。
「ああ、来て下さいましたか。迅速なご対応感謝します。この町の司祭です」
ハンターたちも簡単に自己紹介を済ませると、イリアス(ka0789)が魔導短伝話を司祭に差し出した。
「私とクレイくんも町の見回りに入ります。司祭さんは人が集まっている避難所の守りをお願いできたら」
「ああ、助かりますよ。通信機を教会に置いてきてしまって。お借りします」
町に残って見回りをするのはイリアスとクレイ・ルカキス(ka7256)、花畑に直行するのは、フワ ハヤテ(ka0004)、アシェ-ル(ka2983)、七夜・真夕(ka3977)だ。
「害虫退治だなんて夏らしい依頼だ。さっさと済ませて木陰で涼みたいものだよ」
ハヤテが、魔導伝話を調整しながら言った。
「蜘蛛って田舎にいけば一杯いますよね。私も田舎育ちだからよく分かります」
うんうん、と頷いたのはアシェールだ。
「普通の蜘蛛さんへ激しい風評被害になりかねないので、確り討伐しましょう!」
「蜘蛛は正直苦手なんだけど……仕方ないわね」
真夕はちょっぴり苦い顔だ。
「街を守らないと、だし、商人さんも早くお家に帰らせてあげたいしね」
「そうですよね。一体残らず討伐しないと」
クレイも魔導伝話の指定を終えて、二人に同意する。
「では頼みます。私は避難場所になっている建物を巡回します。何かあれば連絡しますよ」
司祭の言葉を合図に、ハンターたちは各自行動を開始した。
●ブリキの蜘蛛
ハヤテは自分の馬、アシェールは借りた馬、真夕は魔箒に乗って花畑に急いだ。先頭のハヤテが、突然馬を立ち止まらせる。
「どうしたんですか?」
アシェールが訪ねると、ハヤテは前を指した。
「どうやら、お出迎えだよ」
音を立てながら、小型犬くらいの大きさの蜘蛛が、馬車のわだちを辿っている。こちらにに気付いたようで、近寄ってきた。アシェールの馬はただならぬ気配を察して後ずさり、乗り手がそれを宥める。
「ああ、怖がらないで。大丈夫ですからね」
ハヤテは魔導拳銃を抜いた。狙いを付けて、引き金を引く。蜘蛛は思ったより敏捷で、けたたましい音を立てて後ろに跳びはねた。
「ああ、弱い分回避には長けてるのかな?」
「そうかもしれないわね。花畑に着いたら、反撃にも気をつけた方が良いかも」
真夕がハヤテの呟きに応じながら、マジックアローを撃ち放つ。ハヤテに気を取られていた蜘蛛は、横合いからその攻撃を受けて吹き飛ぶ。すぐに消滅した。
「急ぎましょう。ああやってどんどん来られたら困っちゃう」
「そうだね。急ごうか」
道中でも数体蜘蛛を見かけたが、いずれもハンターたちがそれぞれに仕留めた。中でも一体は、ハヤテのエクウスが踏みつけてしまい、それだけで霧散した。念のため馬の足を確認したが、特に害はなさそうだ。
花畑に到着すると、各々乗っていたものから降りた。エクウスも町の馬も待機だ。
がちゃん、がちゃん、がさがさ。
ブリキの蜘蛛が歩く音がする。花々の中では、蜘蛛の背中がところどころで見え隠れしている。
「草花の中に潜んでずるいです!」
アシェールは憤慨している。
「これだけ魔術師が揃っているんだ、手分けすれば直ぐに片が付くさ。そうだろう?」
ハヤテが微笑むと、二人は頷いた。
アシェールは真ん中の通路にアースウォールを立てた。その上によじ登ると、二十センチ幅の足場で器用に仁王立ちになる。
「ここからなら見つけ放題です!」
ハヤテと真夕も、それぞれマジックフライトと魔箒で跳び上がる。空から俯瞰するように索敵するが……。
「うじゃうじゃと……いるにはいるけど、聞いてたよりちょっと数が少なくないかしら? 巣はなさそう」
「町に行った可能性があるね」
「大変だわ。でも、イリアスとクレイがいるから大丈夫ね」
「念のためしらせておこう」
ハヤテが魔導スマートフォンでイリアスと連絡を取る。
「もしもし、イリアスです」
「ハヤテだよ。今花畑なんだけど、最初に聞いてたより数が少ないんだ。そちらに行ってる可能性がある。気をつけて」
「わかりました! ありがとうございます。クレイくんと司祭さんにも伝えておきますね」
「ああ、それが良いだろう」
通話を終えると、ハヤテは二人を見た。
「では始めるとしよう」
上から索敵した結果、蜘蛛の数は約二十。すでに、アシェールの立てたアースウォールに興味を覚えて道に出てきている個体もあった。もちろん、そうでない個体も。
「道に出てきたのは任せるよ。僕は花畑に潜んでいるのを仕留めていこうかな」
「わかったわ。できるだけ、花畑を壊さないようにしたいから、出てきてくれないかしら……」
「なに、多少散ったところでまた再生するさ」
ハヤテが肩を竦める。彼は早速、花の間からはみ出る丸い蜘蛛の背中にマジックアローを撃ち込んだ。空から不意を突かれた形になり、蜘蛛は一発KOだ。
「アシェール! 蜘蛛が登ってきてる! 気をつけて!」
数を狙おうと少し距離を取った真夕がそれに気付いた。真夕が撃つこともできるが、アースウォールもダメージが蓄積すると崩れてしまう。そして、魔術師の撃つマジックアローは一発でそのダメージに達してしまう恐れがあった。すばしっこい蜘蛛だ。避けられて壁に当たっては元も子もない。
「大丈夫です! 真夕さんは他の蜘蛛をお願いします!」
アシェールは、蜘蛛の突進をコギトで受け止めた。そのままルーンソードを抜いて、蜘蛛を斬り伏せる。激しい金属音。壁から落ちた蜘蛛は落下地点で崩れて消えた。
「サギステルとか言われそうですけど、ちゃんと魔術師ですからね!」
真夕も、フォースリングに刻まれているという術式の力を借りて、寄ってきた蜘蛛五体に狙いを定めた。
「行くわ!」
五本のマジックアローが飛んで行った。二体がそれに貫かれ、三体は仲間の被弾を見てかさかさと逃げていく。
「蜘蛛の子を散らすってやつね……厄介だわ」
「手数を増やした方が良いかな? ダブルキャストを使ってみるか」
「あ、でしたら私、試したいことが……」
アシェールが壁の上申し出る。
「何だろう?」
「双術を使ってみたいんです。フォースリングもあるので十体は狙えます!」
「すごいね」
「まさか、こんなに早く試し切り……じゃなくて、試し撃ちできるとは思いもしませんでした!」
ルーンソードの周辺に七色の魔法陣が発生する。それぞれの魔法陣から、五本ずつ、合わせて十本、魔法の矢が発射された。
天罰のように、壁の上から降り注ぐ矢。狙われた十体の内、逃げおおせたのは三体。
「すごいじゃないか」
ハヤテが感嘆したように言う。
「すごい! 今ので大分数が減ったわ! もうちょっとよ!」
真夕が箒の上ではしゃいだ。花畑にいた蜘蛛たちは、警戒して逃げるものも、威嚇するために出てくるものもある。逃げようとした一体を、ハヤテのマジックアローが襲った。
●町に響く足音
「お花畑にブリキの蜘蛛……普通の蜘蛛さんの方が似合ってたかしら」
イリアスはクレイと別れてから独りごちた。それからはっとして首を横に振る。
「そ、そういう問題じゃないわよね。頑張って町を守りましょう」
うんうんと頷いてから、彼女は耳を澄ませて巡回を始めた。司祭によると、甲冑が歩いているような音、らしい。
吊り看板が揺れる音、どこかの窓が閉まる音、金属の音は、案外日常に溢れている。
蜘蛛のいそうな所、狭い通路や壁を見て回るが、なかなか見つからない。
「もしかして町にはいないのかしら?」
首を傾げたその時だった。スマートフォンが鳴った。
「もしもし、イリアスです」
「ハヤテだよ」
花畑に行ったハヤテからだった。彼が言うには、花畑にいる蜘蛛が最初に聞いていたより少ないと言うのだ。町に行った可能性がある。イリアスは息を呑んだ。
通話を終えて、思案する。やはり町にも来ているのか。
「困ったわね……とりあえずクレイくんと司祭さんに伝話しなきゃ」
イリアスはまずクレイに連絡を入れた。
「もしもし! クレイです」
「あ、クレイくん? イリアスだけど、今ハヤテさんから伝話があってね……」
ハヤテからの伝達事項を伝えると、伝話の向こうでクレイが息を呑むのが聞こえた。
「やっぱり来てるんですね……わかりました。よりいっそう注意してみます」
「うん、お願いね」
クレイとの通話を終えて、司祭に渡した伝話へかけると、彼女の後ろで着信音がした。振り返ると、花屋を背にして、短伝話で出ようとしている司祭と目が合う。どうやら、避難場所巡回の途中だったらしい。
「あ、司祭さん、それ私」
「ああ、失礼。あなたでしたか。どうしました?」
「あのね……」
イリアスが用件を口にしようとしたその時だった。がちん、と上から音がする。はっと彼女が顔を上げると、花屋の屋根に蜘蛛が乗っている。今にもこちらに飛びかかろうと言わんばかりだ。
「危ない!」
魔導拳銃を抜いて咄嗟に撃ち放った。しかし、落ちてくる蜘蛛にはぎりぎりのところを掠めて行く。掠めた弾丸の風圧でバランスを崩した蜘蛛は地面でひっくり返った。イリアスはもう一度、狙いを付けて発砲すると、今度は当たった。蜘蛛が消えるのを確認してから、イリアスはクレイに伝話をかける。
「イリアスさん……」
「クレイくん? 私今一体見付けて仕留めたんだけど、そちらは大丈夫?」
「三体見付けたんです。しかもちょっと聞いてたより大きくて……」
「三体も!? どこにいるの?」
「雑貨屋さんの前です」
「雑貨屋さんね。すぐ行くわ! 無理をしたら駄目よ」
「わかりました」
「司祭さん、私行かなきゃ。雑貨屋さんの前に三体いるって」
「その周辺の避難場所を警戒します。討伐はお願いします。ありがとうございました」
「任せて」
客も店員も避難した雑貨屋。その前で、金属音を立てながら蜘蛛が行ったり来たりしている。クレイは剣を抜いて思案した。いくら雑魚らしい、とは言え、一人で三体を相手にするのは少々危険な気もした。小型犬くらい、と聞いていたが、一般的な小型犬より少し大きいのである。それくらいで著しく強くなっているとも思えないが、イリアスが来るまで待った方が良いだろう。
「クレイくん、どう?」
イリアスはすぐにやって来た。
「あれなんです」
「ほんとだ。私が見たのよりちょっと大きいね」
「援護をお願いしても良いですか?」
「もちろんよ。気をつけてね」
「はい」
イリアスが銃を抜いてから、クレイは瞬脚で強化したランアウトで駆け出した。足音に、一体が気付いて振り返る。
「行くぞ!」
一瞬で距離を詰めた彼は、シグルリオーマで斬りつけた。やはり、生命力も防御力もそこまで他の蜘蛛と差はなかったようだ。一撃で蜘蛛は塵に返る。
「良かった。あんまり強いのが紛れてたら困っちゃう」
「ですね。おっと」
蜘蛛が突進してきた。クレイはそれを横に飛んで回避。イリアスが蜘蛛の背後から発砲した。胴体を貫かれて、蜘蛛は前のめりにつんのめって消え失せた。その塵の上を踏み越えるようにして、クレイが残りの一体に迫る。蜘蛛が後ずさって、剣先はわずかに届かない。
「思ったより素早いな……」
蜘蛛はチャンスと見たのか、そのままクレイに覆い被さるようにして飛びかかった。しかし、金属の足が石畳に引っかかり、その場で盛大に転げた。
「クレイくん、伏せて!」
イリアスの言葉に従ってクレイが伏せると、イリアスがもう一度発砲した。足が引っかかった蜘蛛は逃げられない。弾丸は足を吹き飛ばしながら着弾した。飛んで行った足も含めて、最後の一体はそのまま霧散した。
●それぞれの後始末
「もう蜘蛛は見たくないわ……」
花畑から、げっそりとした表情の真夕と、笑みを絶やさないハヤテが戻って来た。アシェールはせっかくだからと花畑で遊んでから戻るらしい。
町の方も、イリアスとクレイで見回りを終えて、安全が確認できている。
「直感視で見に行こうかなって思ってたけど、大丈夫そう?」
イリアスが訪ねると、真夕はハヤテと顔を見合わせる。
「僕たちも探したけど、別の目が入った方がより確実だとは思うよ」
「そうね。見てきてくれるならそれはそれでありがたいわ。アシェールも残ってるし」
「じゃあ、私ちょっと行ってくるね」
イリアスはそう言うと、馬を借りに小走りに駆けて行った。
「さて、僕は冷たいものでも頂こうかな。酒屋は開いたかな?」
ハヤテがそれを見送って、司祭を見た。
「もう少しお待ちを。どなたか避難場所に行って安全を報告してもらえませんか? 私一人ではどうにも時間がかかりそうで」
「だったら僕が行きます」
クレイが挙手した。
「ああ、頼みます。私は教会と宿に行きますのであなたは集会場と町長宅をお願いします」
「あ、待って、宿には私が行くわ。商人さんが良ければ送って行く」
真夕が申し出た。
「お願いします」
ハンターたちはそれぞれの目的に向かって解散した。
「アシェールさん」
イリアスが花畑に到着すると、アシェールは花冠を編んでいるところだった。
「あ、イリアスさん」
「お疲れ様。可愛いわね、冠」
「子どもたちに作って行こうと思って」
「そう。きっと喜ぶわ。私はちょっと卵がないかとかを見に来たんだけど」
「卵ですか」
「ブリキの蜘蛛も卵で増えたら困っちゃうから」
「じゃあ、私も一緒に探します」
「ありがとう、アシェールさんがいてくれたら助かっちゃうな」
「引き籠もりで鍛えた、この聴覚! 不自然に重たいものが引っかかってたらきっとわかります」
「じゃあ私は目で探すね」
「もう大丈夫ですよ!」
クレイは安全を、集会場に避難していた人たちに報告した。緊張の面持ちをしていた彼らは、それで安心した表情になる。
「ああ、よかった……ありがとうハンターさん……」
「皆さんが無事で良かったです」
クレイは顔を綻ばせる。町の人たちが三々五々出てくるのを見て、彼は次の避難場所に向かった。
酒屋は営業を再開した。ハヤテはふらりと店に入ると、冷たい飲み物を注文する。暑い中動き回っていたのだ。冷たい飲み物の一杯でも飲まなくては倒れてしまう。
「あの花畑、うちのガキもよく遊んでたんだけど、蜘蛛に荒らされてなかったかい?」
ハヤテが今回の依頼を受けたハンターであることに気付いた店主が、飲み物を出しながら気遣わしげに言う。魔術師はにっこりと笑った。
「多少はね。でも大丈夫さ。雑魔は全て討伐したし、これ以上傷つけるものはないからね」
商人は喜んで真夕からの護衛の申し出を受け入れた。彼女は商人と同じ客車に乗って、外を警戒する。
「それにしても無事でいてくれて安心したわ」
「おかげで助かったよ。家族の顔が見られそうだ」
「それなら良かった」
順調に馬車は走って行った。もう、脅かすものは何もなかった。
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相談卓 イリアス(ka0789) エルフ|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/07/27 23:58:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/24 17:41:48 |