明日のでくのぼう

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/12/25 19:00
完成日
2015/01/06 02:40

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 王国での歪虚退治はおおよそ騎士団が担っている。貴族は私兵を持つ者が多いが、領地経営や雑魔退治までの用途であり、強力な歪虚を退治できるのは騎士だけである。その騎士団は領主たる貴族からの要請で始めて軍を動かすが、治安が悪い北部等の地域では駐屯地や砦を設け、即応可能なように騎士がつめている場合もある。騎士ジェフリーと騎士ダリウスはそんな用途で作られた砦の一つに詰めていた。
 ジェフリーとダリウスはグラズヘイム王立学校の騎士課程で同期だった。2人は在学当時から武勇に優れていた。2人は卒業後、同じ隊の所属となった。2人は歪虚討伐で功績厚く、2年の下積みの後、揃って従騎士から騎士へと昇格した。けれども、小隊長になったのはジェフリーが先だった。



 特に何もなければ、砦の中庭は平和そのものである。物品を納入する業者はここまで入ってこず、騎士の訓練も砦の外で行う場合が多い。昼も過ぎれば人もまばら。そんな中、ダリウスは物陰から遠巻きに、厩舎に居るジェフリーを睨みつけていた。
(ぐぬぬ……。おのれ、あんなひょろ長いだけのやつのどこが良いというのだ。さっぱりわからん!)
 そういうダリウスは身長2mに届こうかという巨漢だ。横幅も女性の2倍はあり、全身を鍛え上げた筋肉で覆っている。確かにダリウスから見ればジェフリーはひょろ長いが、その基準では騎士団の9割がひょろ長いとかやせっぽち、骸骨などという形容詞がつくだろう。
(顔か!?)
 ジェフリーは確かに美形と言えるほうだが十人並みである。ただ、四角い熊みたいなダリウスと比べれば確かに優劣はある。
(それとも服か!?)
 今は私服だがそこは優劣はない。何故ならジェフリーは作業用の汚れて良いボロを着ているからだ。1人黙々と軍馬の世話をしており、掃除も1人でこなしている。
(やはりさっぱりわからん……)
 ダリウスは物陰に引っ込み腕組みをして唸った。彼が仲間に怒りの視線を向けるのは、理由があってのことだった。
(あ……)
 ジェフリーが黙々と蹄鉄の点検をしていると、1人の娘が走り寄ってきた。女中の1人で、駐屯地内の掃除を担当している娘だった。
「あの……ジェフリー様」
「なんだ?」
 娘は顔を赤くして俯き、もじもじと迷った様子で視線をさまよわせた後、決意をした顔でジェフリーに一歩踏み出した。
「その……ですね……」
 娘はジェフリーに顔を近づけ何事か耳打ちする。言葉の先は聞こえなかったが、その表情から何を言ってるかは手に取るようにわかる。ジェフリーが娘に何事か答えると、顔の赤い娘は嬉しそうに小走りで去っていった。
(な、な、な、な、なんと不埒な!! 今日もまた違う娘だ! やつめ、これで何人目だ。騎士の風上にもおけんやつめ!)
 理由はこれである。要するにジェフリーが、女中を始めとする女性達に人気なのが気に食わないのだ。恋愛は自己責任の要素もあるため、彼女たちの事は一万歩譲って許したとしても、もう一つ彼には許せないことがあった。
(……リンダ!)
 先程の女性とすれ違いざま、洗濯物の詰まった大きな籠を抱えた女性――リンダ――がジェフリーへと近づいていった。
 リンダは近くの村の娘だった。2年前からこの砦で騎士団の生活に関わる仕事をしている。艶やかな黒髪の持ち主で女中の白い制服にその長い髪が良く映えた。小柄だがキビキビとした仕草の女性で、百合のような優しい笑みが印象的だった。そんな彼女は通りがかりにジェフリーと楽しそうに雑談している。ああ、それはまるで……。
(まさかリンダ、昨日の深夜不在だったが……やつと……!?)
 どう見ても普通の友達程度の気安さだった。元から騎士科出身のエリートは玉の輿狙いの村娘達に人気だ。それに加え、貴族出身のはずのジェフリーは出身や職業に拘るようなことがなく、それゆえに平民出の者には人気があった。
(おのれぇぇ!! 許さん。許さんぞ、ジェフリィーー!!)
 それが全ての人に同じように映るわけでもない、というのは世の中の難しいところだ。ちなみに昨晩リンダは、砦内の夜回りで居なかっただけに過ぎない。教えてもらえないあたり、ダリウスが信用されてないだけだろう。
(だがあんな奴と同じようにしていてはいかん。騎士に大切なのは戦いでの強さだ。そうだ、奴と模擬戦をしよう。そうすればあのひょろ長いのが大して強くないとわかるはずだ。恐らく女中達は俺のことをのろまなでくの坊と思っているに違いない。だが断じて違う。重く硬い鎧を着る事こそが強い騎士の条件なのだ。奴のような曲芸の如き剣では歪虚の皮膚も貫通できまい。ジェフリーが訓練をさぼって模擬戦に応じないのも、自分の弱さをさらけ出したくないからに違いない!)
 しつこく訂正をするなら、ジェフリーが訓練できないのは本人のやる気の問題ではなく、
 他の者がやりたがらない事務やら渉外を一手に引き受けているからである。
(くそ、なんて卑怯な奴だ! だが攻略の糸口はわかった。まずは奴を模擬戦に引きずりだし、女達の前で化けの皮をはいでくれるわ!!)
「……何してるんですか?」
「決まっている! 俺が隊長に代わり、あの不埒者を監視しておるのよ!」
「ジェフリーさんが何かしたんですか?」
「見ての通りではないか! 奴は女中達を次々と……?」
 はて、今俺に話しかけてきたのは一体?
 そこまで考えて、ダリウスは背後へと視線をめぐらせた。



 ハンター達は物陰で身体を震わせながら、ストーキングに精を出すダリウスを見つけてしまった。見つめる先には赤の隊の小隊長ジェフリー・ブラックバーン。睨む目は血走って今にも血の涙を流さんばかりに怒りに満ちている。それは例えるなら、彼女を奪われた男が奪った男を睨み殺そうとするかの如くだった。
「い、いまの話、聞いていたのか?」
 それはもう、聞くまでもなくぶつぶつとでかめの声で喋っていた。うんと言うのも憚られるが、いいえというのも嘘になる。そもそも内容にも突っ込みどころが多くて、ハンター達は眩暈を覚えていた。どれから訂正すべきか。それとも黙って去るべきか。迷う間にダリウスは俯きながらしばし何事か呟いていたが、名案を閃いたらしくクワッと大きく目を見開いた。そして、近くに居たハンターの1人の肩をしっかり捕まえた
「ならば、仕方あるまい! 俺の秘密を知ったのなら、一蓮托生! 奴の伸びきった鼻をへし折り、女達の目を覚まさせる! お前たちももちろん! 協力するのだ!」
 一蓮托生ってそんな意味だっけ? しかし突っ込めば何を言われるかわからない。ここでいいえなどと言おうものなら、この男は秘密保持の為に容赦なくこちらの意識を奪おうとするだろう。その場を適当に繕う為、ハンター達はとりあえず「おう」とか「はい」とか、気のない返事を返した。満足そうなダリウスの顔をみながら、暗澹たる気分でその場を離れる算段を練った。

リプレイ本文

 ハンター達はここ数日仕事のために砦で寝起きしている。なので同じ動線で動く人々の顔はだいたい把握していた。ダリウスの依頼(?)を聞いた瞬間にそれぞれが出した結論は。
(傍から見てれば「格の差」は歴然なんだが……)
 奄文 錬司(ka2722)はうっかり「めんどくせえ」を呟かないように口をつぐんだ。どう見ても勝ち目が薄い。腕力ではどうか知らないが、勝負すれば確実に負けるだろう。
(蓼食う虫も好き好きと言うけれど、さすがにこれは……ねえ?)
 アルバート・P・グリーヴ(ka1310)も同じ結論を下す。オネエな彼は同じ男には厳しい。たとえ美形でも努力しない輩は許さない単純に男らしさで勝負するような人物であれば評価軸の違いと受け入れたものだが。
(色恋は自然なお気持ちですが、仲間同士で負の感情を抱くのは本人の為にもよろしくありませんわ)
 リュイ=ユウエル(ka3652)も彼の言動に苦い顔だ。皆の前で叩きのめせば良いという発想がそもそも良くない。それではどう贔屓目に見てもダリウスが悪者になってしまう。恐らく言うとおりにお膳立てをしても、全て台無しになってしまうだろう。まずは服を選ばせるついでに彼自身の矯正から進めなければならない。
(そう考えれば伸び代があり、お買い得とも言えるな)
 宮前 怜(ka3256)は割合前向きではあった。割と困難な状況だが勝敗があるわけでもない。完璧すぎて倍率が高すぎるジェフリーに対して、戦闘以外が疎かな彼は倍率が低い。操縦する側で居てくれる女性であるなら、これは良い相手となるだろう。
(そもそもリンダさん、好きな人居るのでしょうか?)
 ミオレスカ(ka3496)は再度ジェフリーとリンダを盗み見る。ダリウスの曲解はともかく、他に好きな人がいてもおかしくない。その時はただの横恋慕になる。応援するわけにはいかないだろう。
 何にせよまずは下準備とお膳立てがいる。興奮状態の彼をここから移動させ、前準備を納得させねばならない。言い訳はなんとしたものか。少し考え込む一同だったが、そもそもそんな親切心を出してない人間もいた。
「シル、ジェフリーさん見てても思ったけど、ジェフリーさん、別にかっこいいと思わないし、
 服装だって、作業用の汚れた服着ててもジェフリーさんには女の人達が寄っていくよ?」
「なに?」
 ダリウスの言葉に真っ向から否定を返したのはシルフェ・アルタイル(ka0143)だった。周囲がギョッとして止める間もなく彼女の言葉は続く。
「あと、ダリウスさんに服のセンスがあっても、ジェフリーさんがいなくてもきっと、ダリウスさんはモテないよ。物陰からこそこ人の事見たり、おっきい声で独り言言ってる人、気持ち悪いもん」
「き……き……き!!」
 既にジェフリーの件で怒り心頭のダリウスはシルフェの言葉で血管が破裂しそうな顔をしていた。シルフェは気付いているのか居ないのか。いや、確実に気付いているがわかった上で最後まで言い切るつもりのようだった。
「あっ、怒った。そうやって、気に入らないことがあるといつも怒ってるんでしょ? 自分に都合のいいことしか聞き入れないんだ。部下の人とか同僚さんからも相談とかもされなさそうだもんね。いろんな意味で『器が小さい』っていう言葉がぴったりだね、ダリウスさん」
「あの、それぐらいに……」
 コリーヌ・エヴァンズ(ka0828)が間に入ろうとするが既に遅く、ダリウスは真っ赤な顔で手を戦慄かせている。女性には手を挙げないというぎりぎりの矜持で、彼はその手を押しとどめていた。しかしそれで彼女の言葉が止まるわけもなく。
「『頭悪くて、人望がないから、小隊長になれなかったんだ』って誰か言ってたよ。人望のな――むー!」
 止まらない会話をザザ(ka3765)が強引に遮った。具体的には口をふさいで。話がこじれすぎてしまったが、とにかく拙い時は撤退が肝要である。
「ともかく、ダリウス」
「なんだ!?」
 アルバートは厩舎を指さした。そこでは何事かと驚いた顔のジェフリーがこちらに視線を向けていた。
「見てたことがばれたわ。場所を変えましょ?」
「お……おう」
 場所を変えるついでに頭も冷やさせよう。これでは話をまとめるどころか、話が始まらない。流石にまずい状況に気づいたのかダリウスはおとなしく引き下がる。前途多難な始まりだったが、幸いにしてハンター達はこのダメ男の矯正に前向きだった。



 洗濯を担当する女中達は午前中目の回る忙しさになる。昼の一番日差しの強い時間に間に合わせて洗濯を干すためだ。それも洗濯物を全て集めた頃には余裕もできる。女中達は井戸の側で桶を並べ、雑談に興じながら汚れ物を洗う。コリーヌはその洗濯の列に混じっていた。
「そういえばエリアス様と炊事担当のドリス、付き合ってるみたいよ」
「うそ! 全然そんな風じゃないわよ」
「それがね、この前、物置で2人きりで居たって話よ」
 物はためしと恋愛の話題を振ってみれば、雑談はどんどんと広がっていった。疑われないのは良いことだが、広がりすぎて収拾が付かない。
「なるほどー。ジェフリーさんが人気ってわけでもないのね?」
「そりゃそうよ。恋人と愛人と伴侶は別物だわ」
 女中に混じってさもありなんと頷くのはアルバートだった。
「顔が良くて性格が良くてお金も持ってる。でもおつきあいするってなると面倒なことも多いわよ」
 貴族の家なら相手の素性を気にするだろう。本人は良くても親戚が拒否するというのは良くある話だ。そして外聞をやたらに気にする。善良な人物でもその範疇から逃れられないこともある。彼自身も周囲の貴族相手に嫌というほど思い知らされてきたことだ。
「ならダリウスとかはどうだ? 話題に上がっていないが、お買い得だぞ?」
 暇つぶしの体で顔を出していた宮前が、渦中の人物の名をあげる。女中達の反応は概ね、良くはなかった。
「えー?」
「ないよねー」
 宮前の振った話題に女中達は黄色い声音で笑い声をあげる。
「逆に考えるんだ。他がぜんぜんダメな分、尻に敷いてしまいやすい」
「そう言われても限度がねえ」
 ミオレスカは他の女中達には応援を貰おうと思っていたが、それどころではない。誰もがその話題に触れないようににしているのはよくわかった。余程、疎まれているらしい。そこへ渦中の人物は何の気なしに現れた。ダリウスが現れると今までの騒々しい会話がぴたっと止んだ。
「じ、実は少し暇でな。何か手伝うことないか?」
 女中達は最初何を言っているのかさっぱり理解できなかった。ここに至るまでにダリウスは強くアルバートに言い含められていた。
「良いこと? 幼子がいきなり重い斧を扱う事ができないように、恋愛においても鍛錬が肝心よ」
「お、おう」
 ダリウスは「なんだこいつ」と思いつつも、出会ったことのない手合いにまるで反論できなかった。
「騙されたと思って黙って私の言うことをお聞きなさい。まずは……」
 鍛錬の前に準備運動がてら女中の仕事を肩代わりする。会話する機会を作ることもそうだが、好きな相手の仕事をまるでわからないのは良くない。
「気持ちは嬉しいけど洗濯はダメよ。破っちゃうでしょ」
「ぬぐ……」
「それよりもさ、薪が足りなくなってるの。割るの手伝ってくれる」
 女中達の中でも大柄な女が進み出る。普段は彼女が午後に担当する仕事らしい。ダリウスはおとなしく彼女について行き、ダリウスが去るとざわざわと喧噪が戻った。
「あんた達も大変だね」
「これもアフターサービスさ」
 何かを察した物分りの良い女中に、宮前は肩をすくめて答えた。



 ジェフリーは相変わらず忙しそうで、なかなか捕まらなかった。
「いつも大変だな。騎士の訓練もあるだろうに」
「何事も訓練さ。馬の世話も自分の為でもあるしな」
 ジェフリーは手を止めず、丹念に馬にブラシをかけている。馬は人の顔を覚える生き物だと言う。死活問題にもなるのだろう。馬の世話は騎兵の大事な仕事でとるわけにもいかず、錬司・リュイ・ザザの三人は厩の清掃を手伝うことにした。
「しかしなんでまた、模擬戦なんだ?」
「いつも忙しいジェフリー隊長に、鍛錬する時間や名目を作りたいとダリウスさんは言っていました」
「本当にあいつがそんな殊勝なことを言ったのか?」
 苦笑するジェフリーにリュイは何も言い返せなかった。嘘も方便だ。悪意があってしているわけではない。彼も咎めているわけではない。だが、ダリウスがそう思っているかと問われれば、答えは否だ。
「そうイジメないでくれ。俺も同じ霊闘士として腕前を拝見したい」
「ほう?」
「錬司もそうだろう?」
 ザザに振られ、錬司はジェフリーに真っ直ぐ向き直った。
「小隊長にまでなった騎士に一つ、戦術指南をしてもらいたくてね」
「はは。武術なら教えられることもあるが、戦術となると難しいな」
 苦笑するジェフリーだが、特に嫌そうな顔はしていなかった。なんとかなりそうと思った一同だが、ジェフリーの顔から微笑は直ぐに消えた。
「教えるのは構わんが、今はあいつとの模擬戦はダメだ」
「なぜ?」
「あいつとやると模擬戦でなく決闘になる」
「……」
 ジェフリーの顔は険しい。これはダメかと思われたが、ジェフリーはすぐに表情をゆるめた。
「俺が怖いのはそれだけだ。模擬戦なら問題はない。取り計らってくれるか?」
「それなら、なんとかして見せます」
 リュイは笑顔でジェフリーに返す。ダリウスは自分に関わること以外ならば正論に弱い。彼女には操縦する自信があった。ジェフリーは「宜しく頼む」とだけ返すと、また別の仕事で席を外して行った。




 リュイの呼びかけで非番の騎士だけでなく、仕事に余裕のある女中達も広場に集まった。出世頭の小隊長が直接指南をつけてくれるとあって、従騎士達が何人も彼に挑みかかっていく。そしてその締めくくりとしてダリウスが現れる。この順番もハンター達の計らいで、ジェフリーの傾向と対策を錬るための作戦だった。いつもの重装備でなく、普段着と変わらない軽装で現れたダリウスに、ジェフリーは目を見開く。
「ダリウス」
「なんだ?」
「これは模擬戦だな?」
「おうとも」
「なら良い」
 二人のやりとりは簡潔だった。ここに至れば彼も騎士。その面立ちは戦士の風格を備えていた。彼は歪んでいたが、自分の行いは正しい行いだと自認していた。話を大きくしすぎる事、事実に反する事は避けるだけの理性はあった。彼が平服で現れたのは、リュイとコリーヌが何度も「心の広さを意識して」「騎士らしく紳士らしく」と念押ししたことに理由がある。何はともあれ、2人の模擬戦は誰が見ても正々堂々とした模擬戦となった。
 模擬戦の勝敗はあっという間に決した。ジェフリーはダリウスと力で勝負することを避け、序盤から手数での勝負に終始した。その手数の多さは尋常でなく、従騎士達に見せたものよりも更に早い。ダリウスはあっという間に首筋へと剣を突きつけられ、抵抗を止めた。
「俺が間違っていた……というのか」
「間違ってたとか、間違ってないとかじゃないのよ」
「最初に言ったよ。排除だの化けの皮を剥ぐだのは紳士的じゃないぬ」
 アルバートとコリーヌの説教は続く。ハンター達に何度も窘められ、それでも模擬戦の準備をしてもらい、そして敗北を喫した。その事が彼を素直にさせていた。ジェフリーはその説教の間、何も言わずに黙っていた。この流れに少しは疑問の声もあると予想していたが、腕を組んだまま一言もしゃべらない。
「ジェフリーさん、あなたもしかして……」
「ああ、彼が教えてくれた。知らない振りをしてすまない」
 錬司の疑問の答えにと、ジェフリーはダリウスに説教を続けるアルバートへと顔を向ける。それはしょうがない、と錬司は肩を竦めた。今回は皆が思い思いに動いた。こういう事も仕方ないだろう。いつの間にか説教が終わり、ジェフリーは入れ替わるようにダリウスの前にたった。ダリウスの目には既に敵意はない。
「時にダリウス」
「なんだ?」
「リンダへの告白は済んだのか?」
「!!!!??」
 がばっと跳ね起き、何かを言おうとするダリウスだが、何をいっても墓穴になると理解しているのかしばらく口をぱくぱくさせていた。
「な……なぜそれを……」
「リンダに教えてもらった」
 ジェフリーはこともなげに言ってリンダを見た。
「私は宮前さんから」
 リンダも同じように宮前を見、視線の集まった宮前は姿勢を低くして逃げようとしていた。
「き……貴様ー!」
 ダリウスの顔は怒っているのか泣いているのか、よくわからない顔になっていた。また暴れるかと思いきや、ひとしきり地団駄を踏むと座り込んでうなだれてしまった。
「ジェフリーに負けて、告白もこれで俺はどうすれば良いんだ……」
 ザザは項垂れる彼の肩を慰めるように叩いた。
「ま、良い機会じゃねえか。これを機にお友達からスタートしろよ」
「……」
 ザザの言葉にダリウスはのろのろと反応する。ダリウスは周囲を見回した後、恥ずかしさをごまかすように鼻をならす。立ち上がったダリウスは誰にも何も言わず、宿舎へと肩をいからせて戻っていった。女中達はそんな彼を、陽気な笑い声で見送った。


 騒動が終わった後、周囲のダリウスを見る目は変わった。バカとかでくのぼうとか、そういう悪い評価は変わらなかったけれども、その悪口には親しみがこもるようになった。手のつけられない怖い大男でなく、体が大きいだけの子供のように扱われている。今では完全に女中達の尻に敷かれている。それでも他人の妬みで頭が一杯だった頃よりは、ずっと生き生きとして毎日を過ごしているらしい。

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重体一覧

参加者一覧

  • 黒猫エイプリルの親友
    シルフェ・アルタイル(ka0143
    人間(紅)|10才|女性|疾影士
  • 蝶のように舞う
    コリーヌ・エヴァンズ(ka0828
    エルフ|17才|女性|霊闘士
  • 全てを見渡す翠眼
    アルバート・P・グリーヴ(ka1310
    人間(紅)|25才|男性|魔術師

  • 奄文 錬司(ka2722
    人間(紅)|31才|男性|聖導士
  • 奈落への案内人
    宮前 怜(ka3256
    人間(蒼)|32才|男性|猟撃士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 最後の砦
    リュイ=ユウエル(ka3652
    エルフ|24才|女性|聖導士

  • ザザ(ka3765
    人間(紅)|24才|男性|霊闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/22 23:48:25
アイコン 相談&雑談
奄文 錬司(ka2722
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/12/25 12:54:47