ゲスト
(ka0000)
【操縁】Afflizione
マスター:風亜智疾

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/02 22:00
- 完成日
- 2018/08/13 01:09
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
■『餌』
駆ける。木々を除け、森を抜け、ただひたすらに駆け続ける。
反響するけたたましい嗤い声に含まれている憎悪と嫉妬と歓喜を感じつつ、男はただ駆ける。
元来た方へ戻るか――否。その先には街がある。街には人が住んでいる。
では、振り切って目的地へ向かうか――否。その先には村がある。村にも人が住んでいる。
「キャッハハハハハ!!! いつまで逃げルのさ!」
逃げ切れるか。いや。
『大きさ』的にも『速度』的にも、それは無理だろう。
であるならば。
(……拾われる事が、あればいい)
足を止め、一瞬で息を整えて腰に携えた長剣を引き抜いた。
振り返り際一閃。閃いた剣閃の僅か外で立ち止まったのは、二体の石獣と小さな人影。
「やっと観念シタ?」
「…………」
首元の解れたロングストールが風に靡く。
それで口元を隠すようにして無言を貫く男に、人影は苛立ったように目を吊り上げた。
「お前は餌なんダからさ。手間取らセルナよ!」
石獣はその太く長い尾を揺らし、立てられた耳を男へと向けている。
片方は体勢を低く、今にも飛びかからんばかりに。
片方はやや『脚部を引きずりながら』も、大きく開けた顎から不可視の弾丸を放たんばかりに。
「運が悪カッタって、諦めなヨ。諦めて……斃れロ」
長い金の髪を使って、顔の左側を隠した人影――ジャルージー、エミーリオ(kz0233)が嗤う。
確認できる右目に、溢れんばかりの殺意を浮かべて嗤う。
ゆっくりと上げられた腕を確認して、男は咄嗟にズボンのポケットに入っていた無線機を通話状態にする。
誰かと周波数を合わせたわけではない。
それでも、もし万が一にも可能性があるのならば。
(一人で戦うのは、どうも得意じゃないんだがな)
振り下ろされた腕を合図に、二体の石獣。
狐型ゴーレムが、男に向かってその牙と爪を翻した。
■壊れたものは
「……え……?」
ぽとり、と。音を立てて手から筆が滑り落ちる。
転がる絵筆に子猫がじゃれつくのを、彼女はどこか別の世界のように感じていた。
天気のいい庭先で絵を描いていた彼女の元に届けられた、ひとつの報せ。
それは――。
■オフィスにて
「まず、現状について説明する」
オフィスの受付担当、バルトロが表情を強張らせながら資料を配っていく。
「確認された敵は、獣型のゴーレムが2体と嫉妬の歪虚、エミーリオ。エミーリオはまだ傷が癒えきってないのか、あまり広範囲の移動を行っていないと思われる。つまり、まだ敵は発見箇所からそう遠い場所には移動していない可能性が高い」
地図上、大きく丸をつけられたのは、小さな村と街を繋ぐたった一本の森の中を通る道。そしてその周囲。
「狙いは分からん。が、相手があのエミーリオだっていうなら、これもあいつのゲームなんだろう。おそらく、誰でもよかった。最初に遭遇したのが『アイツ』だっただけで、それすら偶然だっただろう」
切欠は偶然出会っても、結果は出てしまった。そう。偶然が呼んだのはあまりにも。
「偶然付近を通りかかった新人ハンターの無線に、交戦中のアイツからの無線が入った。聞き取りから分かっているのは、戦闘終了後、現場からはエミーリオは石獣二体を残し立ち去った。ということだけだ」
恐らく現場に向かって交戦することになるのは二体の石獣だけだと。そういうことらしい。
バルトロは石獣についての情報が載った書類を、無意識のうちに強く握りしめていた。
「石獣は狐型。片方は物理特化ですばしこく、片方は『脚部が悪く』動きが鈍いが、魔法と防御に特化している」
これらは全て、交戦した人物が無線を通じて届けた情報だった。
「今回のミッションは、残された二体の狐型ゴーレムを撃破すること。数は少ないが、油断は出来ん。なぜなら……」
何故なら。
「交戦したハンターが、重体でまだ意識が戻っていない。アイツは経験もある。決して弱くもない。ただ運悪く一人で奴らと遭遇した。結果が、これだ」
今そのハンターは、病院で必死の治療を施されているらしい。
「交戦し、情報を集めたハンターは『ディーノ・オルトリーニ(kz0148)』。灰色狼と呼ばれる、闘狩人の男だ」
駆ける。木々を除け、森を抜け、ただひたすらに駆け続ける。
反響するけたたましい嗤い声に含まれている憎悪と嫉妬と歓喜を感じつつ、男はただ駆ける。
元来た方へ戻るか――否。その先には街がある。街には人が住んでいる。
では、振り切って目的地へ向かうか――否。その先には村がある。村にも人が住んでいる。
「キャッハハハハハ!!! いつまで逃げルのさ!」
逃げ切れるか。いや。
『大きさ』的にも『速度』的にも、それは無理だろう。
であるならば。
(……拾われる事が、あればいい)
足を止め、一瞬で息を整えて腰に携えた長剣を引き抜いた。
振り返り際一閃。閃いた剣閃の僅か外で立ち止まったのは、二体の石獣と小さな人影。
「やっと観念シタ?」
「…………」
首元の解れたロングストールが風に靡く。
それで口元を隠すようにして無言を貫く男に、人影は苛立ったように目を吊り上げた。
「お前は餌なんダからさ。手間取らセルナよ!」
石獣はその太く長い尾を揺らし、立てられた耳を男へと向けている。
片方は体勢を低く、今にも飛びかからんばかりに。
片方はやや『脚部を引きずりながら』も、大きく開けた顎から不可視の弾丸を放たんばかりに。
「運が悪カッタって、諦めなヨ。諦めて……斃れロ」
長い金の髪を使って、顔の左側を隠した人影――ジャルージー、エミーリオ(kz0233)が嗤う。
確認できる右目に、溢れんばかりの殺意を浮かべて嗤う。
ゆっくりと上げられた腕を確認して、男は咄嗟にズボンのポケットに入っていた無線機を通話状態にする。
誰かと周波数を合わせたわけではない。
それでも、もし万が一にも可能性があるのならば。
(一人で戦うのは、どうも得意じゃないんだがな)
振り下ろされた腕を合図に、二体の石獣。
狐型ゴーレムが、男に向かってその牙と爪を翻した。
■壊れたものは
「……え……?」
ぽとり、と。音を立てて手から筆が滑り落ちる。
転がる絵筆に子猫がじゃれつくのを、彼女はどこか別の世界のように感じていた。
天気のいい庭先で絵を描いていた彼女の元に届けられた、ひとつの報せ。
それは――。
■オフィスにて
「まず、現状について説明する」
オフィスの受付担当、バルトロが表情を強張らせながら資料を配っていく。
「確認された敵は、獣型のゴーレムが2体と嫉妬の歪虚、エミーリオ。エミーリオはまだ傷が癒えきってないのか、あまり広範囲の移動を行っていないと思われる。つまり、まだ敵は発見箇所からそう遠い場所には移動していない可能性が高い」
地図上、大きく丸をつけられたのは、小さな村と街を繋ぐたった一本の森の中を通る道。そしてその周囲。
「狙いは分からん。が、相手があのエミーリオだっていうなら、これもあいつのゲームなんだろう。おそらく、誰でもよかった。最初に遭遇したのが『アイツ』だっただけで、それすら偶然だっただろう」
切欠は偶然出会っても、結果は出てしまった。そう。偶然が呼んだのはあまりにも。
「偶然付近を通りかかった新人ハンターの無線に、交戦中のアイツからの無線が入った。聞き取りから分かっているのは、戦闘終了後、現場からはエミーリオは石獣二体を残し立ち去った。ということだけだ」
恐らく現場に向かって交戦することになるのは二体の石獣だけだと。そういうことらしい。
バルトロは石獣についての情報が載った書類を、無意識のうちに強く握りしめていた。
「石獣は狐型。片方は物理特化ですばしこく、片方は『脚部が悪く』動きが鈍いが、魔法と防御に特化している」
これらは全て、交戦した人物が無線を通じて届けた情報だった。
「今回のミッションは、残された二体の狐型ゴーレムを撃破すること。数は少ないが、油断は出来ん。なぜなら……」
何故なら。
「交戦したハンターが、重体でまだ意識が戻っていない。アイツは経験もある。決して弱くもない。ただ運悪く一人で奴らと遭遇した。結果が、これだ」
今そのハンターは、病院で必死の治療を施されているらしい。
「交戦し、情報を集めたハンターは『ディーノ・オルトリーニ(kz0148)』。灰色狼と呼ばれる、闘狩人の男だ」
リプレイ本文
■電光石火
鞍馬 真(ka5819)の歌声が響く。それは、力強く吹く風を思わせる、戦歌。
一瞬交差する神代 誠一(ka2086)との視線には言葉がない。なくとも、数々の戦場を共に駆けた信頼がそこにはあった。
歌と共に、真は赤く煌く剣を翻し駆け出す。
後ろ足を微かに引きずる様なヴォルぺと視線を合わせ、相手を魅了する真と同じ敵を抑えようとカール・フォルシアン(ka3702)も動き始める。
「僕ちょっと虫の居所が悪いんです。理由はどうあれ、不愉快極まりません」
常のカールからはおよそ想像がつかないような、苛立ちがそこにあった。
穏やかでない心境の理由は、彼にしか分からない。
ただその苛立ちが、この戦場を早く終結させようという意思に繋がっているのだけは確かだろう。
流石魔法特化のヴォルぺ、そう簡単に完全な魅了状態には落ちてはくれないが、そもそも動きが鈍いのだ。
得意の魔法攻撃が封じられてしまえば、三人で抑えることは可能だろう。
「あからさまに、悪意を感じるゴーレムですね……」
そう考え、他方のヴォルぺと合流しない様立ち位置を考え、レイレリア・リナークシス(ka3872)は射程をギリギリに取る。
魅了が不完全であるならば、と放たれたアイスボルトは鈍い狐を縫い止めることに成功した。
上手く嵌った連携に、石獣はどうしようもない。
ただその硬い身で繰り出される攻撃を受け防ぐしかなかった。
他方、攻撃特化のヴォルぺへは残りのメンバー全員での短期決戦を仕掛ける。
初手仕掛けたのは浅緋 零(ka4710)の氷の二矢。
「……レイに出来るのは、ただひとつ」
二体の石獣を引き離す強い意志を持ったその矢は見事、思惑通りに狐たちの間に距離を作らせた。
「足を引きずった狐の理由、拝聴したときから思いましたが……なるほど、確かにこれは、腹立たしい」
次に攻撃狐へと向かったのは闇色の刃の雨。
鳳城 錬介(ka6053)が放った魔法の刃たちは、狐の体を次々に串刺してその移動を停止させた。
「……速やかに破壊できるよう、最大限援護いたします」
移動が出来なくなった狐が、あるはずのない声帯の代わりなのか石同士をこすり合わせて不協和音を響かせる。
そこへ飛び込んでいく二つの影。
まだ自身の後方で次撃へと力を蓄えるクィーロ・ヴェリル(ka4122)と視線を交わして前を向いた誠一は、若草色の光を残像に一瞬で攻撃狐へと肉薄していく。
鋭い雷のごとき赤き閃きが二線。狙うは鍛えることが最も不可能と呼ばれるその顔面にある両眼。
咄嗟に顔を背け回避した狐の死角を突いた場所から、突然繰り出されたのは光の刃と鈍い音を立てる刃の二刀。
攻撃狐の斜め前。そこに滑り込んでいたのはリカルド=フェアバーン(ka0356)。
踝を狙った攻撃は一刀目は鈍い音を立てて防がれたが、二刀目は浅くとも傷を負わせることに成功した。
忌々し気に目を細めた狐が、鋭い爪を翻し眼前の誠一へと振り下ろす。
回避が間に合わず瞬影を利用し攻撃をいなそうとするも、想像より遥かに重い一撃が深く誠一の肩口を貫いて地面へと縫い付け。
そこで動いたのは、クィーロだ。
「こンの、じゃじゃ馬がぁ!」
初手を犠牲にし底上げしたその力に、高揚した心と激昂を乗せ、命を燃やす一撃を、誠一を縫い止めることで頭が下がり、的にしやすくなった顔面目掛け閃かせる。
両眼を横一閃。
恐るべき力で深く切り裂かれ、狐は咆哮を上げつつ誠一の肩口から爪を引き抜いた。
「サンキュ、クィーロ」
よろめきつつ立ち上がる誠一に背を向けつつ、クィーロは笑う。
「湿気た面してっと置いてくぞ誠一。遅れんなよ」
メンバーの内、数名が考えていたことがあった。
あったが、それを持ち込むほど楽観視していなかったため、行動を様々考えていた。
だからこそのハンターたちの『幸運』が、この戦場で展開されていることを今この場にいないエミーリオは知る由もない。
固くとも動きが鈍い敵の動きをほぼ止めてしまえば、どうなるか。
――それはただの『攻撃を受け続けるだけの的』だ。
魔法に特化しているとはいえ、お得意の魔法攻撃が出来なければそれは無意味。
爪を翻して攻撃してみようとしても、白地の盾を構えたカールがその攻撃を受け止めつつ距離を離すように狐の身をノックバックさせてしまう。
どうしようも。本当にどうしようもないほどの、一方的な。
たとえ魅了が届かなくとも、カールが生み出す無数の氷柱がその脚部を裂き機動力を更に削ぎ。
無理やりに魔法で衝撃波を生み出そうとしても、万全でないそれはレイレリアのカウンターマジックが打ち消す。
あらゆる攻撃は防がれ、動きは止められ。
そこに、怒りを伴って攻撃を繰り出している真の攻撃が放たれ続ける。
たとえ回避や受けのついでのように繰り出される爪で体を傷つけられようとも、真の動きは止まらない。
「私の苛立ちは、この程度じゃ収まらないんだよ」
尊敬するディーノが酷い怪我を負ったことも。そして嫉妬のジャルージーが、今眼前で対している『脚の悪い狐』を作り上げたことも。
全部が全部、不愉快で仕方ないのだ。
憤り、その想いは熱く石を絶つ強き意志を伴い。
「ぶっ壊す……!!」
魔の力を宿した赤き剣を、その首を跳ね落とすように下から掬い上げる。魔法狐の石で出来た首に、深く亀裂が入る。
二撃、光の刃を更にその亀裂を追うように跳ね上げる。
不協和音と、甲高い石を絶つ音が場に響いた。
最後のあがきにと体を揺さぶる狐の脚部目掛け、カールが氷柱を生み出す。
致命傷に追撃。最早魔のヴォルぺには力も命も残ってはいない。
重々しい音を立てて、その身を地に落とすしかないのだった。
――カールの大鷲の幻影が、空を舞う。
他方、同タイミング。
零の焼け付く痛みを伴う氷の矢を振り払うように回避して、狐が一歩踏み出す。
想像よりも早い移動再開だが、敵もダメージを負っている。攻撃を歪め自身に向かわせることは間に合わなかった。その為に誠一が深手を負ってしまった。
ならばと錬介は足止めよりも回復に行動を変更していく。
強く暖かい光が誠一を包み、その傷口を急速に塞いでいった。
「錬介さんがいると、遠慮なしに戦えるから心強いな」
独り言のように呟いて、貫かれた方の手を数度確認するように握り込む。
その間に狐の真横へと移動していたリカルドが、腹を真っ二つに断つように渾身の力を込めた攻撃を繰り出した。
絶叫とも呼べる声が木々に反響する。
大きく開いた狐の口を、誠一たちは見逃さない。
一瞬視線を交わした後、誠一とクィーロは駆け出す。
振り回される爪と牙が細かな傷を負わせようとも、二人は止まらない。
振り抜かれた誠一の手から投擲される赤閃が狐の口内へと吸い込まれ、その身を内側から裂き。
渾身の力で振り下ろされた刀がその首を絶つ。
声もなく、ただ大きな音を立てて、石獣は地に伏した。
「終わりましたね。皆さん、一度集まって下さい。傷を癒しましょう」
二体の敵が斃れたことを確認し、錬介は小さく息を吐いてから微笑んだ。
■先見
戦闘終了後、珍しくまだ形を残していたゴーレムたちへ、メンバーが警戒しつつ捜索を始めた。
「これがゲームだというなら、敵を斃したら宝箱がないとね」
クィーロの言葉を受けた。というわけではないのだろうが。
時間差、だろうか。砂になって消えていくゴーレムたちから舞い上がる、数十枚の紙、紙、紙。
それら全てに描かれた動物達に、数人が固く拳を握り締めた。
ふと、のんびりとした普段の動作からは想像もつかないほど機敏に零が振り返る。
木々の奥。そこに揺れた金の髪に気付いたのだ。
殺気立ったメンバーの視線を受けながら、それは響き始めた。
「キャハハッ……キャハハハハハハハッ!!!」
木々に反響する甲高く耳障りな声は、少しずつ近づいてくる。
もう少し。あと少し。
それを『範囲』に捉えた瞬間、誠一は隠し持っていた畜音石を作動させた。
「ヴェラを手中に堕とすにはまず周りからって? ストーカーは嫌われんぜ?」
挑発するような言葉をかけつつ見上げた場所。それは木の上。
太い枝に腰掛けるようにして笑うジャルージーは、左目を金の髪で隠しつつ右目に隠し切れない殺意を浮かべている。
向ける先は、言わずもがなだ。
「ねぇ、知っテル? ニンゲンって愚かダカラさ、目に見えるオモイってやつに弱いんダ」
凶悪な嗤いを口角に履いて、エミーリオは告げる。
「例え描いテル本人にそのつもりがなくても。そこに無意識に込められたオモイってやつがあれば、じゅーぶんなんだヨ」
どうして絵本には子狐が出てこない?
たまに絵本以外で登場する子狐はどうして『脚が悪い』ように描かれない?
エミーリオはその、描いた本人すら気づかなかった無意識を『嗅ぎ分けた』のだと嗤う。
嗅ぎ分けられた無意識。それは――『嫉妬』。
「御託はいい、エミーリオ。どうしてディーノさんを狙った」
普段からは想像もつかない怒りに満ちた表情で問う真へ、ジャルージーは甲高い声を上げる。
「グーゼンだよ!」
その言葉に、誠一は焼け付きそうな殺意を視線に乗せた。
(偶然? そんなわけがあるか)
そう。どう考えても偶然であるはずがない。
『運悪く』ディーノが会っただけ? 相手は『誰でもよかった』?
眼前の嫉妬の歪虚に限って、そんなわけがないのだ。
盤上にある駒はなんだって悪意を持って自分だけが楽しめるように使う。
それが、嫉妬の歪虚エミーリオなのだから。
「ヴェラを引っ張り出したいんだろうが……そうはさせねぇよ」
「出来るか出来ないカは、まだ分からないダロ」
不敵に笑い、誠一は眼鏡のブリッジを押し上げる。
その動きにすっと笑みを消したエミーリオが、ふと誠一の腰元に括られたものへと視線を落として忌々し気に舌打ちした。
(先刻まで対峙していた敵の強さといい、エミーリオの様子といい。まだ万全ではないようですね)
その様子を見ていたレイレリアは考察する。
とはいえ、こちらも傷は癒えたとはいえ体力的には疲労している。
ここで戦闘するのは、得策ではないだろう。
なによりエミーリオ自身は『己が戦うよりも、駒に戦わせる』ことを好むタイプだ。
仕掛けてくるとも思えない。
(現状を考えれば、エミーリオはそろそろ――)
思考しつつ観察していたカールが考えた、その通りに。
珍しく無言のまま、身を翻してエミーリオはその場を後にしようとする。
その時だった。
エミーリオと舌戦を始める誠一の後ろから、まるで放つ矢と同じように痛みと暑さを齎す氷のような視線を向けていた零が口を開いた。
「何度でも、射貫いてあげるよ」
顔だけをこちらに向けたエミーリオが、ちらり見える零の髪に留まっていたバレッタを確認して目を細める。
「お前を、的として。何度でも……必ず」
淡々と紡がれる言葉に、歪虚は口角を引き上げた。
「オマエもなんだ。ソッカ……」
言葉はそこまで。
嘲笑うように嘲笑ひとつ残して、嫉妬の歪虚は去っていった。
■目覚め
クィーロが作戦前に依頼していたうち『ディーノに対する敵からの細工の有無確認』は行われていたらしい。
結果は白。なにも細工は施されていなかったらしい。
戦闘後戻ったメンバーのうち数名は、意識は回復したもののまだ傷の癒えていなかったディーノの見舞いへ訪れていた。
万が一を考え、錬介が早期回復を狙いリザレクションを施す。
本来ならばゆっくりと傷を癒すに限るのだが、もしここであの歪虚が仕掛けて来た場合、癒す時間を与えられるとは思えなかったからだ。
深く息を吐いて謝意を述べるディーノへと、真は笑いかける。
「おはよう、ディーノさん」
■証拠
もう一方、クィーロが頼んでいた『関係者の警護』については、作戦前は受け入れられなかった。
それは『絵本は利用されていても、作者である絵本作家に実害は伴っていない為、確実にそうなると断定できない為』という理由だった。
だからこそ。そうなると思っていたからこそ。
誠一はオフィスへと畜音石に入っていた音声を提出したのだ。
「音声を確認して頂ければ分かると思いますが」
そう前置きをして、実際に何度も彼自身が相対したエミーリオという歪虚の思考を述べていく。
相手の狙いは絵本ではなく『絵本を描く作家本人』であること。
彼女を使って何をしようとしているのかは、まだ分からないが。
以前エミーリオが駒と呼んでいたある『男性』は、身の内にあった負の感情を増大されて人々を先導していたこと。
何度もエミーリオと遭遇したメンバーの証言と、証拠の音声。
それらはオフィスの意識を変えることに成功する。
常に警護することは難しくとも、彼女自身に事情を説明し、彼女が外出するときは可能な限り警護をつけること。
それがこの先、どれだけの歪虚の企みを潰すことになるのか。
ハンターたちはまだ知らない。
――遠く。嫉妬の歪虚の怒りに満ちた声が――
END
鞍馬 真(ka5819)の歌声が響く。それは、力強く吹く風を思わせる、戦歌。
一瞬交差する神代 誠一(ka2086)との視線には言葉がない。なくとも、数々の戦場を共に駆けた信頼がそこにはあった。
歌と共に、真は赤く煌く剣を翻し駆け出す。
後ろ足を微かに引きずる様なヴォルぺと視線を合わせ、相手を魅了する真と同じ敵を抑えようとカール・フォルシアン(ka3702)も動き始める。
「僕ちょっと虫の居所が悪いんです。理由はどうあれ、不愉快極まりません」
常のカールからはおよそ想像がつかないような、苛立ちがそこにあった。
穏やかでない心境の理由は、彼にしか分からない。
ただその苛立ちが、この戦場を早く終結させようという意思に繋がっているのだけは確かだろう。
流石魔法特化のヴォルぺ、そう簡単に完全な魅了状態には落ちてはくれないが、そもそも動きが鈍いのだ。
得意の魔法攻撃が封じられてしまえば、三人で抑えることは可能だろう。
「あからさまに、悪意を感じるゴーレムですね……」
そう考え、他方のヴォルぺと合流しない様立ち位置を考え、レイレリア・リナークシス(ka3872)は射程をギリギリに取る。
魅了が不完全であるならば、と放たれたアイスボルトは鈍い狐を縫い止めることに成功した。
上手く嵌った連携に、石獣はどうしようもない。
ただその硬い身で繰り出される攻撃を受け防ぐしかなかった。
他方、攻撃特化のヴォルぺへは残りのメンバー全員での短期決戦を仕掛ける。
初手仕掛けたのは浅緋 零(ka4710)の氷の二矢。
「……レイに出来るのは、ただひとつ」
二体の石獣を引き離す強い意志を持ったその矢は見事、思惑通りに狐たちの間に距離を作らせた。
「足を引きずった狐の理由、拝聴したときから思いましたが……なるほど、確かにこれは、腹立たしい」
次に攻撃狐へと向かったのは闇色の刃の雨。
鳳城 錬介(ka6053)が放った魔法の刃たちは、狐の体を次々に串刺してその移動を停止させた。
「……速やかに破壊できるよう、最大限援護いたします」
移動が出来なくなった狐が、あるはずのない声帯の代わりなのか石同士をこすり合わせて不協和音を響かせる。
そこへ飛び込んでいく二つの影。
まだ自身の後方で次撃へと力を蓄えるクィーロ・ヴェリル(ka4122)と視線を交わして前を向いた誠一は、若草色の光を残像に一瞬で攻撃狐へと肉薄していく。
鋭い雷のごとき赤き閃きが二線。狙うは鍛えることが最も不可能と呼ばれるその顔面にある両眼。
咄嗟に顔を背け回避した狐の死角を突いた場所から、突然繰り出されたのは光の刃と鈍い音を立てる刃の二刀。
攻撃狐の斜め前。そこに滑り込んでいたのはリカルド=フェアバーン(ka0356)。
踝を狙った攻撃は一刀目は鈍い音を立てて防がれたが、二刀目は浅くとも傷を負わせることに成功した。
忌々し気に目を細めた狐が、鋭い爪を翻し眼前の誠一へと振り下ろす。
回避が間に合わず瞬影を利用し攻撃をいなそうとするも、想像より遥かに重い一撃が深く誠一の肩口を貫いて地面へと縫い付け。
そこで動いたのは、クィーロだ。
「こンの、じゃじゃ馬がぁ!」
初手を犠牲にし底上げしたその力に、高揚した心と激昂を乗せ、命を燃やす一撃を、誠一を縫い止めることで頭が下がり、的にしやすくなった顔面目掛け閃かせる。
両眼を横一閃。
恐るべき力で深く切り裂かれ、狐は咆哮を上げつつ誠一の肩口から爪を引き抜いた。
「サンキュ、クィーロ」
よろめきつつ立ち上がる誠一に背を向けつつ、クィーロは笑う。
「湿気た面してっと置いてくぞ誠一。遅れんなよ」
メンバーの内、数名が考えていたことがあった。
あったが、それを持ち込むほど楽観視していなかったため、行動を様々考えていた。
だからこそのハンターたちの『幸運』が、この戦場で展開されていることを今この場にいないエミーリオは知る由もない。
固くとも動きが鈍い敵の動きをほぼ止めてしまえば、どうなるか。
――それはただの『攻撃を受け続けるだけの的』だ。
魔法に特化しているとはいえ、お得意の魔法攻撃が出来なければそれは無意味。
爪を翻して攻撃してみようとしても、白地の盾を構えたカールがその攻撃を受け止めつつ距離を離すように狐の身をノックバックさせてしまう。
どうしようも。本当にどうしようもないほどの、一方的な。
たとえ魅了が届かなくとも、カールが生み出す無数の氷柱がその脚部を裂き機動力を更に削ぎ。
無理やりに魔法で衝撃波を生み出そうとしても、万全でないそれはレイレリアのカウンターマジックが打ち消す。
あらゆる攻撃は防がれ、動きは止められ。
そこに、怒りを伴って攻撃を繰り出している真の攻撃が放たれ続ける。
たとえ回避や受けのついでのように繰り出される爪で体を傷つけられようとも、真の動きは止まらない。
「私の苛立ちは、この程度じゃ収まらないんだよ」
尊敬するディーノが酷い怪我を負ったことも。そして嫉妬のジャルージーが、今眼前で対している『脚の悪い狐』を作り上げたことも。
全部が全部、不愉快で仕方ないのだ。
憤り、その想いは熱く石を絶つ強き意志を伴い。
「ぶっ壊す……!!」
魔の力を宿した赤き剣を、その首を跳ね落とすように下から掬い上げる。魔法狐の石で出来た首に、深く亀裂が入る。
二撃、光の刃を更にその亀裂を追うように跳ね上げる。
不協和音と、甲高い石を絶つ音が場に響いた。
最後のあがきにと体を揺さぶる狐の脚部目掛け、カールが氷柱を生み出す。
致命傷に追撃。最早魔のヴォルぺには力も命も残ってはいない。
重々しい音を立てて、その身を地に落とすしかないのだった。
――カールの大鷲の幻影が、空を舞う。
他方、同タイミング。
零の焼け付く痛みを伴う氷の矢を振り払うように回避して、狐が一歩踏み出す。
想像よりも早い移動再開だが、敵もダメージを負っている。攻撃を歪め自身に向かわせることは間に合わなかった。その為に誠一が深手を負ってしまった。
ならばと錬介は足止めよりも回復に行動を変更していく。
強く暖かい光が誠一を包み、その傷口を急速に塞いでいった。
「錬介さんがいると、遠慮なしに戦えるから心強いな」
独り言のように呟いて、貫かれた方の手を数度確認するように握り込む。
その間に狐の真横へと移動していたリカルドが、腹を真っ二つに断つように渾身の力を込めた攻撃を繰り出した。
絶叫とも呼べる声が木々に反響する。
大きく開いた狐の口を、誠一たちは見逃さない。
一瞬視線を交わした後、誠一とクィーロは駆け出す。
振り回される爪と牙が細かな傷を負わせようとも、二人は止まらない。
振り抜かれた誠一の手から投擲される赤閃が狐の口内へと吸い込まれ、その身を内側から裂き。
渾身の力で振り下ろされた刀がその首を絶つ。
声もなく、ただ大きな音を立てて、石獣は地に伏した。
「終わりましたね。皆さん、一度集まって下さい。傷を癒しましょう」
二体の敵が斃れたことを確認し、錬介は小さく息を吐いてから微笑んだ。
■先見
戦闘終了後、珍しくまだ形を残していたゴーレムたちへ、メンバーが警戒しつつ捜索を始めた。
「これがゲームだというなら、敵を斃したら宝箱がないとね」
クィーロの言葉を受けた。というわけではないのだろうが。
時間差、だろうか。砂になって消えていくゴーレムたちから舞い上がる、数十枚の紙、紙、紙。
それら全てに描かれた動物達に、数人が固く拳を握り締めた。
ふと、のんびりとした普段の動作からは想像もつかないほど機敏に零が振り返る。
木々の奥。そこに揺れた金の髪に気付いたのだ。
殺気立ったメンバーの視線を受けながら、それは響き始めた。
「キャハハッ……キャハハハハハハハッ!!!」
木々に反響する甲高く耳障りな声は、少しずつ近づいてくる。
もう少し。あと少し。
それを『範囲』に捉えた瞬間、誠一は隠し持っていた畜音石を作動させた。
「ヴェラを手中に堕とすにはまず周りからって? ストーカーは嫌われんぜ?」
挑発するような言葉をかけつつ見上げた場所。それは木の上。
太い枝に腰掛けるようにして笑うジャルージーは、左目を金の髪で隠しつつ右目に隠し切れない殺意を浮かべている。
向ける先は、言わずもがなだ。
「ねぇ、知っテル? ニンゲンって愚かダカラさ、目に見えるオモイってやつに弱いんダ」
凶悪な嗤いを口角に履いて、エミーリオは告げる。
「例え描いテル本人にそのつもりがなくても。そこに無意識に込められたオモイってやつがあれば、じゅーぶんなんだヨ」
どうして絵本には子狐が出てこない?
たまに絵本以外で登場する子狐はどうして『脚が悪い』ように描かれない?
エミーリオはその、描いた本人すら気づかなかった無意識を『嗅ぎ分けた』のだと嗤う。
嗅ぎ分けられた無意識。それは――『嫉妬』。
「御託はいい、エミーリオ。どうしてディーノさんを狙った」
普段からは想像もつかない怒りに満ちた表情で問う真へ、ジャルージーは甲高い声を上げる。
「グーゼンだよ!」
その言葉に、誠一は焼け付きそうな殺意を視線に乗せた。
(偶然? そんなわけがあるか)
そう。どう考えても偶然であるはずがない。
『運悪く』ディーノが会っただけ? 相手は『誰でもよかった』?
眼前の嫉妬の歪虚に限って、そんなわけがないのだ。
盤上にある駒はなんだって悪意を持って自分だけが楽しめるように使う。
それが、嫉妬の歪虚エミーリオなのだから。
「ヴェラを引っ張り出したいんだろうが……そうはさせねぇよ」
「出来るか出来ないカは、まだ分からないダロ」
不敵に笑い、誠一は眼鏡のブリッジを押し上げる。
その動きにすっと笑みを消したエミーリオが、ふと誠一の腰元に括られたものへと視線を落として忌々し気に舌打ちした。
(先刻まで対峙していた敵の強さといい、エミーリオの様子といい。まだ万全ではないようですね)
その様子を見ていたレイレリアは考察する。
とはいえ、こちらも傷は癒えたとはいえ体力的には疲労している。
ここで戦闘するのは、得策ではないだろう。
なによりエミーリオ自身は『己が戦うよりも、駒に戦わせる』ことを好むタイプだ。
仕掛けてくるとも思えない。
(現状を考えれば、エミーリオはそろそろ――)
思考しつつ観察していたカールが考えた、その通りに。
珍しく無言のまま、身を翻してエミーリオはその場を後にしようとする。
その時だった。
エミーリオと舌戦を始める誠一の後ろから、まるで放つ矢と同じように痛みと暑さを齎す氷のような視線を向けていた零が口を開いた。
「何度でも、射貫いてあげるよ」
顔だけをこちらに向けたエミーリオが、ちらり見える零の髪に留まっていたバレッタを確認して目を細める。
「お前を、的として。何度でも……必ず」
淡々と紡がれる言葉に、歪虚は口角を引き上げた。
「オマエもなんだ。ソッカ……」
言葉はそこまで。
嘲笑うように嘲笑ひとつ残して、嫉妬の歪虚は去っていった。
■目覚め
クィーロが作戦前に依頼していたうち『ディーノに対する敵からの細工の有無確認』は行われていたらしい。
結果は白。なにも細工は施されていなかったらしい。
戦闘後戻ったメンバーのうち数名は、意識は回復したもののまだ傷の癒えていなかったディーノの見舞いへ訪れていた。
万が一を考え、錬介が早期回復を狙いリザレクションを施す。
本来ならばゆっくりと傷を癒すに限るのだが、もしここであの歪虚が仕掛けて来た場合、癒す時間を与えられるとは思えなかったからだ。
深く息を吐いて謝意を述べるディーノへと、真は笑いかける。
「おはよう、ディーノさん」
■証拠
もう一方、クィーロが頼んでいた『関係者の警護』については、作戦前は受け入れられなかった。
それは『絵本は利用されていても、作者である絵本作家に実害は伴っていない為、確実にそうなると断定できない為』という理由だった。
だからこそ。そうなると思っていたからこそ。
誠一はオフィスへと畜音石に入っていた音声を提出したのだ。
「音声を確認して頂ければ分かると思いますが」
そう前置きをして、実際に何度も彼自身が相対したエミーリオという歪虚の思考を述べていく。
相手の狙いは絵本ではなく『絵本を描く作家本人』であること。
彼女を使って何をしようとしているのかは、まだ分からないが。
以前エミーリオが駒と呼んでいたある『男性』は、身の内にあった負の感情を増大されて人々を先導していたこと。
何度もエミーリオと遭遇したメンバーの証言と、証拠の音声。
それらはオフィスの意識を変えることに成功する。
常に警護することは難しくとも、彼女自身に事情を説明し、彼女が外出するときは可能な限り警護をつけること。
それがこの先、どれだけの歪虚の企みを潰すことになるのか。
ハンターたちはまだ知らない。
――遠く。嫉妬の歪虚の怒りに満ちた声が――
END
依頼結果
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訂正卓 ディーノ・オルトリーニ(kz0148) 人間(クリムゾンウェスト)|41才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/07/28 18:27:40 |
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相談卓 鞍馬 真(ka5819) 人間(リアルブルー)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/08/02 00:52:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/29 21:03:37 |