ゲスト
(ka0000)
暑さに勝つための料理
マスター:春秋冬夏

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/06 12:00
- 完成日
- 2018/08/14 11:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「こんな話を知っているか?」
とある料理人が、食事をしていた女性客に暇つぶしがてら口を開く。というのも、今目の前で昼食を摂っている、この店の店主の顔がやばいという事情を知らずに来てしまった客以外に人がいないというのも理由の一つかもしれない。
「リアルブルーには、夏真っ盛りになる直前の頃に、ちょっと変わったモノを食う事で、夏の暑さに負けない体が手に入るらしい」
「ひ!? ごめんなさい食べないでください私は美味しくないです……」
「食わねぇよ!?」
つい大声を出したツッコミに、女性客はお代を残して猛ダッシュ。
「また来ますから食べないでぇえええ!!」
取り残された料理人は、閉まるドアを寂しそうに見つめていた。
「と、言うわけなんだ……」
事情を説明した料理人こと依頼人は、その悪魔のような顔を悲しみのあまり魔獣のように歪ませて、ハンター達に向けて顔を上げた。
「また来てくれると聞いた以上、実際に来るかどうかは別としても、いや、来ると信じてその料理を用意してやりたいんだ」
で、なんでそれがハンターへの依頼なのか、という話なのだが。
「その食材はちょっと変わった魚でな」
示した地図は山の中の、とある湖。一般人なら苦労はしそうだが、別にいけない事はない。
「ここに住んでて、大きさが……」
依頼人の指が差したのは店の、端から端。ハンターの四、五人分ほどだろうか。
「このくらいで、戦ってみるとそこまでの苦戦はしないらしいが、プロじゃないと危なくてな……もし仕留めて持って来てくれたら、アンタ達にもごちそうしよう。もちろん、報酬は報酬でだすぞ」
話を聞いた君たちはまだ見ぬ食材的な何かに想いを馳せて依頼を受けてもいいし、既に満腹だから、と受けなくてももいい。
とある料理人が、食事をしていた女性客に暇つぶしがてら口を開く。というのも、今目の前で昼食を摂っている、この店の店主の顔がやばいという事情を知らずに来てしまった客以外に人がいないというのも理由の一つかもしれない。
「リアルブルーには、夏真っ盛りになる直前の頃に、ちょっと変わったモノを食う事で、夏の暑さに負けない体が手に入るらしい」
「ひ!? ごめんなさい食べないでください私は美味しくないです……」
「食わねぇよ!?」
つい大声を出したツッコミに、女性客はお代を残して猛ダッシュ。
「また来ますから食べないでぇえええ!!」
取り残された料理人は、閉まるドアを寂しそうに見つめていた。
「と、言うわけなんだ……」
事情を説明した料理人こと依頼人は、その悪魔のような顔を悲しみのあまり魔獣のように歪ませて、ハンター達に向けて顔を上げた。
「また来てくれると聞いた以上、実際に来るかどうかは別としても、いや、来ると信じてその料理を用意してやりたいんだ」
で、なんでそれがハンターへの依頼なのか、という話なのだが。
「その食材はちょっと変わった魚でな」
示した地図は山の中の、とある湖。一般人なら苦労はしそうだが、別にいけない事はない。
「ここに住んでて、大きさが……」
依頼人の指が差したのは店の、端から端。ハンターの四、五人分ほどだろうか。
「このくらいで、戦ってみるとそこまでの苦戦はしないらしいが、プロじゃないと危なくてな……もし仕留めて持って来てくれたら、アンタ達にもごちそうしよう。もちろん、報酬は報酬でだすぞ」
話を聞いた君たちはまだ見ぬ食材的な何かに想いを馳せて依頼を受けてもいいし、既に満腹だから、と受けなくてももいい。
リプレイ本文
●道中に不安しかないんですが?
「変わった形の魚って……水の中にいるやつはだいたい全部魚とかそういう話じゃねえだろうな……こんな山んなかで変わったとか言われると変な想像しちまうぞ」
不穏な事をのたまう少年、フェルム・ニンバス(ka2974)は虚ろな目でまだまだ続く傾斜を眺める。都会っ子の彼は舗装もされていない山道で足腰をやられ、怠さが全身から滲みだしていた。そんな彼に歩幅を合わせ、セシア・クローバー(ka7248)が軽く会釈。
「フェルムだったか? 同じ魔導師だが、君が先輩だ。よろしく頼む」
「ん、なんだ。先輩……?」
自分より背の高いセシアを見上げ、フェルムは半眼に。
「年上にそういわれると、なんだかな……もっと先輩っぽいやついるだろ」
「なに、それとこれとは別、というやつさ」
セシアは魔術師として、という話なのだと説明したうえで、既に帰りたそうな顔をしているフェルムをじーっと見つめて。
「つかぬことを聞くが、山歩きには慣れているか?」
「あぁ、慣れてるぞ。怠くて仕方なくても歩き続けてる現状を、『慣れる』って言うのならな」
ケッと吐き捨てるフェルムはめんどくさそうな視線を返し。
「そういうあんたは随分余裕そうじゃないか」
「私はそこそこだ。妹は山ではそんなに寝ない」
「ふぅん……ん?」
フェルムは帰ってきた言葉に違和感を覚えたが、ツッコミを放棄した。ただでさえ歩き疲れて全てを投げだしたいのに、変につついて厄介な話を聞かされたくはなかったからだ。
などと、道中に不安しかない今回の部隊だったが、目的地についたらついたで。
「鰻、ですか? 私のところでは薫製にしたものを酒のつまみにしたり、酸っぱいスープの具にしたりしていましたよ? だから、魚屋さんで薫製や生が売っていましたね。マウジーのところは違うのでしたか」
「私の所だと、蒲焼が一般的ですかね」
「蒲焼き……ああ、土用丑、東洋で世界初と言われている奇才、平賀源内初のコピーライトという。それはとても楽しみです」
と、期待に胸を膨らませるハンス・ラインフェルト(ka6750)に対して。
「この時期でこの場所ですから、もう年単位でここに住んでいる魚だろうと思います。おばあちゃん達と家族旅行に行った時に、水族館で鰻の展示を見たんですが、そこで初めてオオウナギを見たんです。昔話に出てくる池の主ってこれかって思いました。あ、でも、オオウナギじゃない鰻でも、海に下る前はこういう場所にいますから……でも、もしかしたら全然違う魚狙いかもしれないです。どうしよう、ハンスさんの期待度が高すぎます」
穂積 智里(ka6819)は戦々恐々のガクガクブルブル。ていうか、ハンターが出ないと怪我人が出るって時点で、ただの魚じゃないと思うんだ……。
「夏の暑さに負けない体になるって、本当?」
「本当らしいですよ。なんでも、土曜丑なるものは、夏の暑さに倒れてしまわぬよう、体を強くするために鰻を売り込み始めたのが始まりだとか……」
「あわわわ……」
樅(ka7252)に聞かれるなり、楽しそうに説明するハンスを眺めて、これで鰻じゃなかったらハンスだけでなく樅までガッカリするのではないだろうか、といつの間にか犠牲者(予定)が増えてしまった事に智里が青ざめてしまう。
「どうか鰻でありますように……!」
●見た目のインパクトは確かにあるかも?
「細長い魚……か」
依頼人の話を思い返すレイア・アローネ(ka4082)はまだ見ぬ魚に想いを馳せる。
「街に来てから色々魚を食べるようにはなったが……まだ食べてない魚があるなら是非戴きたいものだ。細長いというと太刀魚みたいなのより長いのかな?」
などと楽観的なレイアに対して、フェルムは半信半疑で今回の道具を見る。
「釣りってのは、ちゃんとそういう、釣りなのか……?」
ながーい紐の先に繋がった長い筒。その直径はフェルムが収まりそうで収まれないサイズ。
「それにこれ、獲物の大きさを考えると短くないか?」
フェルムが事前に聞いた説明だと、魚の大きさはハンター数人分はあったはずだ。しかし用意されている筒の大きさは彼の体の半分程度。
「あぁ、それはだな」
レイアは何故か準備運動を始める。
「釣りに使う道具らしい」
「……は?」
首を傾げるフェルムの前で、レイアは筒の中に餌を仕込み、それを頭上でぶんぶん、ぽーん……ぼちゃっ。
「あとはあの筒の中に魚が頭を突っ込むと、抜けなくなるから釣り上げる仕掛けらしい」
「なんで針と糸じゃダメなんだよ?」
「詳しくは分からんが、習性を利用したものらしい……来たッ!」
早速食いついた獲物に興奮気味のレイアだが、ジワジワと引きずり寄せられていく。
「手伝います!」
「あ、私も!」
ハンスと智里も加わり、三人がかりで紐を引けば少しずつ、細長い魚影が。
「見えてきたぞ!」
「いよいよですね……!」
「鰻でありますように、鰻でありますように……!」
水を巻き上げて、姿を見せたその魚は……。
「……ッ!?」
レイアが地上にのたうつそれに絶句する。胴回りの太さこそ人のそれより細いが、全長は成人がおおよそ五、六人はあろうかという大物。
「ほとんどウミヘビじゃないか……!」
「これは想像したのよりちょっと……」
「鰻だった……よ、良かった……」
化物染みた体躯を前に身構えるレイア。紡錘形の体を想像していた分驚きを隠せないハンス。出てきたものが鰻っぽい何かだったことに安堵する智里……いやここ安堵するところか!?
「これってどんな料理にするのかな……まさか、生じゃないよね?」
「フランスではフライや煮込み、タルタルにテリーヌと幅広く使われていると聞きますからね。どういう料理になるか楽しみです」
引っかかった筒をブン投げて、軽く頭を振った魚がヌラリと体を起こし、その姿をじーっと見やる樅とハンス。こいつら、既に食う事しか考えてない……。
「身体が滑る……調理以前に、これは剣で捉えるのは至難だぞ……!」
得物は長剣しかないレイアは冷や汗交じりに得物を構える。
「ふむ、そういう事ならお任せください」
スラリ、ハンスが抜刀。手の中で得物を翻し、峰を魚に向けて片脚を引いた。
「魚に効くかは分かりませんが、ね」
「物理的には苦戦しそうだが……斬れない以上はそれが一番か」
セシアが雪の結晶を象った水晶が添えられた薄青の杖を翳す。
「援護する。トドメは任せた」
「食う事を考えればあまり身を傷つけたくはない……そちらは任せたぞ!」
レイアは剣を納め、徒手空拳の構え。お前、まさか……。
「い、く、ぞぉおおお!!」
抱き着きに行ったー!?
●ハンター式鰻漁?
レイアの瞳孔が開き、彼女の視点が魂だけ肉体から離れたように高くなる。見えていないはずの自身の体と、鰻の体のその後方。目には見えてないはずの場所ですら、手に取る様に感じ取れるように。
「私が抑える! その間に……」
ぬるん。
「私が抑えるから……」
にゅるん。
「わ、私が……」
つーるりん。
「……っていうか凄いぬるぬるするっ……!」
まぁそりゃ、ねぇ?
「えぇい、負けてたまるか!!」
諦めずに跳びかかるが、鰻の方もレイアを敵と認識したらしく。
「うわぁああああ!?」
めっちゃ巻き付いた。
「ちょっ、なんだこれ苦しいような気持ち悪いような……!?」
布面積の少ない鎧何か着てるから、肌に直接粘液がついてぬりゅぬりゅぬめぬめ。
「大丈夫か!? 今助けに……」
「待て!」
助けに入ろうとするセシアなのだが、レイア本人が制止する。
「今ならこいつの意識は私に向いている。今の内に仕留め……」
にゅるん。
「ひっ!?」
「……できるだけ早く仕留めた方がよさそうだな」
ぬめりでレイアが堕ちる前に仕留める速攻戦が要求されそうだ。
「では、早速」
そう言葉を残した時には、ハンスの姿は既に鰻の前にある。動きはおろか、構えすら見せなかった男は既に得物を振りかぶっていて。
「あれ?」
いつ振り下ろしたのか、その動作を見せない独特の所作でありながら、その一撃は空を切る。この鰻そんなにヤバいの!? と思いきやそんなことはなく。
「まずい、息継ぎに水に戻るつもりだ!」
必死に身をよじって湖に向かって全速前進する鰻。ついでに思いっきり引きずられてるレイア。
「痛い痛い痛い痛い! 擦れる、削れる!?」
「おっきな魚におろしレイア……?」
樅はリアルブルーの文化を中途半端に聞きかじっているのか、それともただ単に大根よろしくすり下ろされるレイアを想像したのか、じゅるり。
「なんだか美味しそう?」
「冗談言ってないで早くなんとかしてくれ!!」
「はーい」
返事と同時に絡繰刀を構える樅。スッと目蓋を降ろし、深呼吸。心を無にして精神を研ぎ澄ます。
「先輩、頼むぞ!」
「その呼び方なんとかならないのか……?」
セシアが杖を振るえば土が抉り返されるようにして起き上がり、鰻の前に立ちはだかる、が。
「やはり高さが足りない……!」
鰻の胴体が長すぎて、生み出した壁を乗り越えてしまった。その姿を見て、智里が手をポムン。
「そういえば、鰻って滝を昇ることができるんでしたっけ? 水流の無いただの壁なら……」
「さすがはマウジー、博識です」
拍手するハンスに智里がてれり。お前ら、それどころじゃねぇだろ。
「マウジーより優先すべきものなど、ありません」
ハンス、キリッとしてるとこ悪いけど後ろが大惨事です。
「ったく、どいつもこいつも……」
使えない、という言葉の代わりに白骨のような杖を振るうフェルム。
「そこの鈍くさそうな眼鏡、とっとと走れ!」
「そ、そんなことありませんもん!」
フェルムが苛立たし気に土の壁を呼び出して、セシアの壁に並べる事で鰻の進行を阻み、側面に折れ曲がるが。
「うっ」
巻き付いたままのレイアが壁の隙間に引っ掛かる。そこで怯んだ隙に智里は(本人的には割と必死だが)ゆっくりと鰻の前に回り込み。
「ハンスさんお願いします!」
「請け負った」
光の壁を生み出せば、構わず乗り越えようとした鰻がバチィ!! 弾き飛ばされるようにして湖から離れるようにシューッ! 待ち構えていたハンスが腰を落とし、峰を向けて得物を翻し、脳天をぶん殴って受け流すように後方へ。
「身を傷つけないように……!」
頭から落ちた鰻がビクンビクン。そこへ狙いを定めた樅による一撃。切先は目を貫き、そのまま頭を貫通した。
「目が……回る……」
だが、レイアという尊い犠牲の事を忘れてはならない。
●あのヌメヌメがこんなことに
「背開き腹開きの差はありますけど、蒸して焼くのとそのまま焼いてご飯の間に挟んだりお茶漬けにしたりもありますね。タレをつけない白焼き、タレをつけた蒲焼き、蒲焼きを微塵切りにして酢のものにしたウザク、卵焼きの中心に入れた鰻のだし巻き、肝焼き、半助鍋……料理として知ってはいても、血に毒があるから一般家庭では捌かずに出来上がったものを買ってくるんです。だから、調理法自体は知りません、ごめんなさい……」
「それは良かった」
依頼人の店に帰ってきた一行が待っている間、智里が鰻の話題を切り出すものの、期待に目を輝かせるハンスからのプレッシャー? に押し負けてしりすぼみに。しかしハンスの方は何故か嬉しそうに智里の肩を抱いて。
「知らないのなら、これから二人で学べますからね」
ハンスが厨房に呼びかけると、OKが出た。踏み込んだ彼らが見たものとは……。
「なるほど、こうやって余分な脂を落とすのですか」
並んだ鉢のような器の中に真っ赤な炭を入れ、その上に金網を乗せて作られた巨大なグリルに乗せられた鰻だった物。開かれた身から脂が滲みだし、鮮度と旨味を全力で押し付けてくる。
「そういえば、これ返せるんですか?」
開いた焼き魚の身に何本も刺さった串を見て、智里がふと疑問を抱くが、依頼人はそれをグンッと一転させて、裏面を焼く。
「おぉ……!」
目を輝かせて『やりたいオーラ』を振りまくハンスだが、依頼人は目逸らし。その後も無言の攻防(?)が繰り広げられつつ、完成したものがこちら。
「よかった、ちゃんと火が通ってる」
ほっと安堵のため息を溢す樅の前にあったのは、いわゆるうな重……何故この店には重箱があったのだろう?
「ぬめってにょろにょろしてたよな……本当に食えるのか……? 歪虚じゃなけりゃなんでも食えるって話にするなよ」
フェルムが軽く引いていると、依頼人が嘆きの怨霊みたいな顔で悲しそうな視線を向けてくることに気づいてビクゥ!?
「……一応食うけどさ」
とは口にするが、中々一口目を口にできないフェルムの横で、レイアが箸を軽く動かし、こんなものか、と使い方を確認して。
「ではいただくとしよう」
ご飯と一緒に焼き魚の一切れを、はぐ。口にした途端に動かなくなるレイアを樅がじっと見つめて。
「え、なに、どうしたの? まさか、毒……!?」
智里の話を思い出してオロオロする彼女の前で、レイアがようやく再起動。
「なんだこれ……魚か……?」
「魚だよ、そいつに締められて頭のネジでも緩んだか?」
フェルムが「これ本当に大丈夫なんだろうな?」とフォークで魚をつんつんしてる間にも、レイアは箸を進める。
「魚臭さがなく、脂が異常に乗り過ぎていて……まるで肉……! いや、肉はこんなに柔らかくない……というか魚にしても柔らかい……!」
噛み切る、という力が必要ないほどの柔らかなそれは噛んだだけで解けるよう。それでいて味は濃厚であるが、肉の脂のように舌の上でとろけるものとは質が異なり、口いっぱいに旨味が広がる魚類独特の脂ののり方。
「小骨は噛み切れるほど柔らかくむしろいいアクセントになっていて……何よりも香りが凄い……! 口の中で溶けていくようだ……!」
骨は邪魔にはならぬほど瑞々しく、魚独特の臭みがないどころか、不思議な風味が淡泊でありながら濃厚な味を引き立ててくれる。
「普通は香辛料でごまかすんだが、こいつはそれすら必要ない一級品だ。存分に味わってくれ」
ニタァ。危ない物でも出してんのかなって店主の顔に見守られつつ、ハンター達は食事を楽しむのだった。
「よ、良かったです……ハンスさんも喜んでくれたみたいで、それが一番安心できました……」
「私は東洋に絡んだものはなんでも好きですからね」
食事を終えて、智里の第一声がこれである。そんな彼女を、ハンスはそっと抱き寄せて。
「少しでも関係しそうなものがあったら、また誘って下さいね、マウジー」
静かに、二人の影が重なった。そんな傍ら、レイアは店主に笑って見せる。
「また捕まえるなら言ってくれ……その時はまた全力で手伝おう」
返答代わりに、とんとん。店主が自分の頬を叩き、レイアが釣られて自分の頬に触れるとご飯粒がついており。
「相当気に入ってくれたようだな」
「ま、まぁな!!」
「変わった形の魚って……水の中にいるやつはだいたい全部魚とかそういう話じゃねえだろうな……こんな山んなかで変わったとか言われると変な想像しちまうぞ」
不穏な事をのたまう少年、フェルム・ニンバス(ka2974)は虚ろな目でまだまだ続く傾斜を眺める。都会っ子の彼は舗装もされていない山道で足腰をやられ、怠さが全身から滲みだしていた。そんな彼に歩幅を合わせ、セシア・クローバー(ka7248)が軽く会釈。
「フェルムだったか? 同じ魔導師だが、君が先輩だ。よろしく頼む」
「ん、なんだ。先輩……?」
自分より背の高いセシアを見上げ、フェルムは半眼に。
「年上にそういわれると、なんだかな……もっと先輩っぽいやついるだろ」
「なに、それとこれとは別、というやつさ」
セシアは魔術師として、という話なのだと説明したうえで、既に帰りたそうな顔をしているフェルムをじーっと見つめて。
「つかぬことを聞くが、山歩きには慣れているか?」
「あぁ、慣れてるぞ。怠くて仕方なくても歩き続けてる現状を、『慣れる』って言うのならな」
ケッと吐き捨てるフェルムはめんどくさそうな視線を返し。
「そういうあんたは随分余裕そうじゃないか」
「私はそこそこだ。妹は山ではそんなに寝ない」
「ふぅん……ん?」
フェルムは帰ってきた言葉に違和感を覚えたが、ツッコミを放棄した。ただでさえ歩き疲れて全てを投げだしたいのに、変につついて厄介な話を聞かされたくはなかったからだ。
などと、道中に不安しかない今回の部隊だったが、目的地についたらついたで。
「鰻、ですか? 私のところでは薫製にしたものを酒のつまみにしたり、酸っぱいスープの具にしたりしていましたよ? だから、魚屋さんで薫製や生が売っていましたね。マウジーのところは違うのでしたか」
「私の所だと、蒲焼が一般的ですかね」
「蒲焼き……ああ、土用丑、東洋で世界初と言われている奇才、平賀源内初のコピーライトという。それはとても楽しみです」
と、期待に胸を膨らませるハンス・ラインフェルト(ka6750)に対して。
「この時期でこの場所ですから、もう年単位でここに住んでいる魚だろうと思います。おばあちゃん達と家族旅行に行った時に、水族館で鰻の展示を見たんですが、そこで初めてオオウナギを見たんです。昔話に出てくる池の主ってこれかって思いました。あ、でも、オオウナギじゃない鰻でも、海に下る前はこういう場所にいますから……でも、もしかしたら全然違う魚狙いかもしれないです。どうしよう、ハンスさんの期待度が高すぎます」
穂積 智里(ka6819)は戦々恐々のガクガクブルブル。ていうか、ハンターが出ないと怪我人が出るって時点で、ただの魚じゃないと思うんだ……。
「夏の暑さに負けない体になるって、本当?」
「本当らしいですよ。なんでも、土曜丑なるものは、夏の暑さに倒れてしまわぬよう、体を強くするために鰻を売り込み始めたのが始まりだとか……」
「あわわわ……」
樅(ka7252)に聞かれるなり、楽しそうに説明するハンスを眺めて、これで鰻じゃなかったらハンスだけでなく樅までガッカリするのではないだろうか、といつの間にか犠牲者(予定)が増えてしまった事に智里が青ざめてしまう。
「どうか鰻でありますように……!」
●見た目のインパクトは確かにあるかも?
「細長い魚……か」
依頼人の話を思い返すレイア・アローネ(ka4082)はまだ見ぬ魚に想いを馳せる。
「街に来てから色々魚を食べるようにはなったが……まだ食べてない魚があるなら是非戴きたいものだ。細長いというと太刀魚みたいなのより長いのかな?」
などと楽観的なレイアに対して、フェルムは半信半疑で今回の道具を見る。
「釣りってのは、ちゃんとそういう、釣りなのか……?」
ながーい紐の先に繋がった長い筒。その直径はフェルムが収まりそうで収まれないサイズ。
「それにこれ、獲物の大きさを考えると短くないか?」
フェルムが事前に聞いた説明だと、魚の大きさはハンター数人分はあったはずだ。しかし用意されている筒の大きさは彼の体の半分程度。
「あぁ、それはだな」
レイアは何故か準備運動を始める。
「釣りに使う道具らしい」
「……は?」
首を傾げるフェルムの前で、レイアは筒の中に餌を仕込み、それを頭上でぶんぶん、ぽーん……ぼちゃっ。
「あとはあの筒の中に魚が頭を突っ込むと、抜けなくなるから釣り上げる仕掛けらしい」
「なんで針と糸じゃダメなんだよ?」
「詳しくは分からんが、習性を利用したものらしい……来たッ!」
早速食いついた獲物に興奮気味のレイアだが、ジワジワと引きずり寄せられていく。
「手伝います!」
「あ、私も!」
ハンスと智里も加わり、三人がかりで紐を引けば少しずつ、細長い魚影が。
「見えてきたぞ!」
「いよいよですね……!」
「鰻でありますように、鰻でありますように……!」
水を巻き上げて、姿を見せたその魚は……。
「……ッ!?」
レイアが地上にのたうつそれに絶句する。胴回りの太さこそ人のそれより細いが、全長は成人がおおよそ五、六人はあろうかという大物。
「ほとんどウミヘビじゃないか……!」
「これは想像したのよりちょっと……」
「鰻だった……よ、良かった……」
化物染みた体躯を前に身構えるレイア。紡錘形の体を想像していた分驚きを隠せないハンス。出てきたものが鰻っぽい何かだったことに安堵する智里……いやここ安堵するところか!?
「これってどんな料理にするのかな……まさか、生じゃないよね?」
「フランスではフライや煮込み、タルタルにテリーヌと幅広く使われていると聞きますからね。どういう料理になるか楽しみです」
引っかかった筒をブン投げて、軽く頭を振った魚がヌラリと体を起こし、その姿をじーっと見やる樅とハンス。こいつら、既に食う事しか考えてない……。
「身体が滑る……調理以前に、これは剣で捉えるのは至難だぞ……!」
得物は長剣しかないレイアは冷や汗交じりに得物を構える。
「ふむ、そういう事ならお任せください」
スラリ、ハンスが抜刀。手の中で得物を翻し、峰を魚に向けて片脚を引いた。
「魚に効くかは分かりませんが、ね」
「物理的には苦戦しそうだが……斬れない以上はそれが一番か」
セシアが雪の結晶を象った水晶が添えられた薄青の杖を翳す。
「援護する。トドメは任せた」
「食う事を考えればあまり身を傷つけたくはない……そちらは任せたぞ!」
レイアは剣を納め、徒手空拳の構え。お前、まさか……。
「い、く、ぞぉおおお!!」
抱き着きに行ったー!?
●ハンター式鰻漁?
レイアの瞳孔が開き、彼女の視点が魂だけ肉体から離れたように高くなる。見えていないはずの自身の体と、鰻の体のその後方。目には見えてないはずの場所ですら、手に取る様に感じ取れるように。
「私が抑える! その間に……」
ぬるん。
「私が抑えるから……」
にゅるん。
「わ、私が……」
つーるりん。
「……っていうか凄いぬるぬるするっ……!」
まぁそりゃ、ねぇ?
「えぇい、負けてたまるか!!」
諦めずに跳びかかるが、鰻の方もレイアを敵と認識したらしく。
「うわぁああああ!?」
めっちゃ巻き付いた。
「ちょっ、なんだこれ苦しいような気持ち悪いような……!?」
布面積の少ない鎧何か着てるから、肌に直接粘液がついてぬりゅぬりゅぬめぬめ。
「大丈夫か!? 今助けに……」
「待て!」
助けに入ろうとするセシアなのだが、レイア本人が制止する。
「今ならこいつの意識は私に向いている。今の内に仕留め……」
にゅるん。
「ひっ!?」
「……できるだけ早く仕留めた方がよさそうだな」
ぬめりでレイアが堕ちる前に仕留める速攻戦が要求されそうだ。
「では、早速」
そう言葉を残した時には、ハンスの姿は既に鰻の前にある。動きはおろか、構えすら見せなかった男は既に得物を振りかぶっていて。
「あれ?」
いつ振り下ろしたのか、その動作を見せない独特の所作でありながら、その一撃は空を切る。この鰻そんなにヤバいの!? と思いきやそんなことはなく。
「まずい、息継ぎに水に戻るつもりだ!」
必死に身をよじって湖に向かって全速前進する鰻。ついでに思いっきり引きずられてるレイア。
「痛い痛い痛い痛い! 擦れる、削れる!?」
「おっきな魚におろしレイア……?」
樅はリアルブルーの文化を中途半端に聞きかじっているのか、それともただ単に大根よろしくすり下ろされるレイアを想像したのか、じゅるり。
「なんだか美味しそう?」
「冗談言ってないで早くなんとかしてくれ!!」
「はーい」
返事と同時に絡繰刀を構える樅。スッと目蓋を降ろし、深呼吸。心を無にして精神を研ぎ澄ます。
「先輩、頼むぞ!」
「その呼び方なんとかならないのか……?」
セシアが杖を振るえば土が抉り返されるようにして起き上がり、鰻の前に立ちはだかる、が。
「やはり高さが足りない……!」
鰻の胴体が長すぎて、生み出した壁を乗り越えてしまった。その姿を見て、智里が手をポムン。
「そういえば、鰻って滝を昇ることができるんでしたっけ? 水流の無いただの壁なら……」
「さすがはマウジー、博識です」
拍手するハンスに智里がてれり。お前ら、それどころじゃねぇだろ。
「マウジーより優先すべきものなど、ありません」
ハンス、キリッとしてるとこ悪いけど後ろが大惨事です。
「ったく、どいつもこいつも……」
使えない、という言葉の代わりに白骨のような杖を振るうフェルム。
「そこの鈍くさそうな眼鏡、とっとと走れ!」
「そ、そんなことありませんもん!」
フェルムが苛立たし気に土の壁を呼び出して、セシアの壁に並べる事で鰻の進行を阻み、側面に折れ曲がるが。
「うっ」
巻き付いたままのレイアが壁の隙間に引っ掛かる。そこで怯んだ隙に智里は(本人的には割と必死だが)ゆっくりと鰻の前に回り込み。
「ハンスさんお願いします!」
「請け負った」
光の壁を生み出せば、構わず乗り越えようとした鰻がバチィ!! 弾き飛ばされるようにして湖から離れるようにシューッ! 待ち構えていたハンスが腰を落とし、峰を向けて得物を翻し、脳天をぶん殴って受け流すように後方へ。
「身を傷つけないように……!」
頭から落ちた鰻がビクンビクン。そこへ狙いを定めた樅による一撃。切先は目を貫き、そのまま頭を貫通した。
「目が……回る……」
だが、レイアという尊い犠牲の事を忘れてはならない。
●あのヌメヌメがこんなことに
「背開き腹開きの差はありますけど、蒸して焼くのとそのまま焼いてご飯の間に挟んだりお茶漬けにしたりもありますね。タレをつけない白焼き、タレをつけた蒲焼き、蒲焼きを微塵切りにして酢のものにしたウザク、卵焼きの中心に入れた鰻のだし巻き、肝焼き、半助鍋……料理として知ってはいても、血に毒があるから一般家庭では捌かずに出来上がったものを買ってくるんです。だから、調理法自体は知りません、ごめんなさい……」
「それは良かった」
依頼人の店に帰ってきた一行が待っている間、智里が鰻の話題を切り出すものの、期待に目を輝かせるハンスからのプレッシャー? に押し負けてしりすぼみに。しかしハンスの方は何故か嬉しそうに智里の肩を抱いて。
「知らないのなら、これから二人で学べますからね」
ハンスが厨房に呼びかけると、OKが出た。踏み込んだ彼らが見たものとは……。
「なるほど、こうやって余分な脂を落とすのですか」
並んだ鉢のような器の中に真っ赤な炭を入れ、その上に金網を乗せて作られた巨大なグリルに乗せられた鰻だった物。開かれた身から脂が滲みだし、鮮度と旨味を全力で押し付けてくる。
「そういえば、これ返せるんですか?」
開いた焼き魚の身に何本も刺さった串を見て、智里がふと疑問を抱くが、依頼人はそれをグンッと一転させて、裏面を焼く。
「おぉ……!」
目を輝かせて『やりたいオーラ』を振りまくハンスだが、依頼人は目逸らし。その後も無言の攻防(?)が繰り広げられつつ、完成したものがこちら。
「よかった、ちゃんと火が通ってる」
ほっと安堵のため息を溢す樅の前にあったのは、いわゆるうな重……何故この店には重箱があったのだろう?
「ぬめってにょろにょろしてたよな……本当に食えるのか……? 歪虚じゃなけりゃなんでも食えるって話にするなよ」
フェルムが軽く引いていると、依頼人が嘆きの怨霊みたいな顔で悲しそうな視線を向けてくることに気づいてビクゥ!?
「……一応食うけどさ」
とは口にするが、中々一口目を口にできないフェルムの横で、レイアが箸を軽く動かし、こんなものか、と使い方を確認して。
「ではいただくとしよう」
ご飯と一緒に焼き魚の一切れを、はぐ。口にした途端に動かなくなるレイアを樅がじっと見つめて。
「え、なに、どうしたの? まさか、毒……!?」
智里の話を思い出してオロオロする彼女の前で、レイアがようやく再起動。
「なんだこれ……魚か……?」
「魚だよ、そいつに締められて頭のネジでも緩んだか?」
フェルムが「これ本当に大丈夫なんだろうな?」とフォークで魚をつんつんしてる間にも、レイアは箸を進める。
「魚臭さがなく、脂が異常に乗り過ぎていて……まるで肉……! いや、肉はこんなに柔らかくない……というか魚にしても柔らかい……!」
噛み切る、という力が必要ないほどの柔らかなそれは噛んだだけで解けるよう。それでいて味は濃厚であるが、肉の脂のように舌の上でとろけるものとは質が異なり、口いっぱいに旨味が広がる魚類独特の脂ののり方。
「小骨は噛み切れるほど柔らかくむしろいいアクセントになっていて……何よりも香りが凄い……! 口の中で溶けていくようだ……!」
骨は邪魔にはならぬほど瑞々しく、魚独特の臭みがないどころか、不思議な風味が淡泊でありながら濃厚な味を引き立ててくれる。
「普通は香辛料でごまかすんだが、こいつはそれすら必要ない一級品だ。存分に味わってくれ」
ニタァ。危ない物でも出してんのかなって店主の顔に見守られつつ、ハンター達は食事を楽しむのだった。
「よ、良かったです……ハンスさんも喜んでくれたみたいで、それが一番安心できました……」
「私は東洋に絡んだものはなんでも好きですからね」
食事を終えて、智里の第一声がこれである。そんな彼女を、ハンスはそっと抱き寄せて。
「少しでも関係しそうなものがあったら、また誘って下さいね、マウジー」
静かに、二人の影が重なった。そんな傍ら、レイアは店主に笑って見せる。
「また捕まえるなら言ってくれ……その時はまた全力で手伝おう」
返答代わりに、とんとん。店主が自分の頬を叩き、レイアが釣られて自分の頬に触れるとご飯粒がついており。
「相当気に入ってくれたようだな」
「ま、まぁな!!」
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 4人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
ちょっと変わった魚を釣ろう レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/08/05 21:55:33 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/05 15:02:20 |