ゲスト
(ka0000)
消えた宗主の謎を追え
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/07 09:00
- 完成日
- 2018/08/13 20:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●戻る途中
グラズヘイム王国のイスルダ島の帰り道に王立図書館に寄り道するつもりで大江 紅葉はリゼリオで転移門をくぐろうとした。護衛兼お守りでいる松永 光頼も承諾したし、何かあれば引きずってでも帰るつもりだ。
職員に呼び止められ、紅葉は手紙をもらう。
「……行先は変えます」
光頼は紅葉の表情から何か問題があったと理解した。
王国のある大きな町の領主の屋敷に向かう。
連絡なしかつ夕方に差し掛かっているが、領主のシャールズ・べリンガーは応対してくれた。その息子のリシャールも同席する。
以前、リシャールに送った刀がテーブルに置かれており、紅葉が来た要件を察していた。
光頼は席をはずそうと思ったが、紅葉もシャールズ達も聞かれて構わないという判断だった。
シャールズがかいつまんで状況を説明した。
事件の発端はこの町にある図書館で特定の書物から字が消えるということだった。調査の結果、女性の歪虚の姿があった。
次に、近くの林の雑魔の調査をしたところ、リシャールが術に捕まった。その時、彼の刀につけられた香に反応したというのだ。なお、調査対象の雑魔はいなかった。
「吸収したんでしょうね」
「おそらく」
紅葉と光頼の意見は合致する。妖怪と呼んでいた憤怒に属する歪虚の持つ能力だろう。
そのあと、来た時と同様の道で戻ったのだろうと思われる。なぜなら、大江家の里の近くに現れた。
ハンターたちが歪虚から情報を引き出した結果、大江家があの土地に居を構えるきっかけとなった、便宜上「初代」と呼んでいる男の関係者だったらしい。
「……ライブラリで見ましたが、ものすごく、気さくすぎて、八方美人の人でした」
「褒めていませんね?」
「一応、悪い人ではないですよ。ただ、口説き文句が挨拶だった場合、相手が本気になるとこのような事件になるという見本ですね」
紅葉が手厳しく告げるが、光頼は否定しようがなかった。
「分かりました。こちらに戻ったということ、私を殺すという話になっているそうですので」
「待ってください、その言葉、初耳ですが」
光頼に同意を示すように、ベリンガー親子が首を縦に振る。
「ハンターが会ったといったじゃないですか? その時に、恨み晴らすならば、子孫を根絶やしするとのことでした。ただ、直系は私しかいないんですよ」
紅葉が笑う。
「いや、笑い事ではないですよ!」
「でも、何とかしやすいじゃないですか」
確かに囮にでもすればあっさり相手は出てくるだろう。
「まず、その、浄化スキルしかない状況を変えましょう」
「あー」
「あと、護衛を付けましょう」
「しばらくは光頼殿がいますし、天ノ都にいる間大丈夫ですよ」
リシャールが何か言いたげに見つめている。
状況からリシャールが来たがっているのため、紅葉と光頼が説得し断った。
●依頼
帰宅した日の次の日には紅葉は陰陽寮に顔を出した。報告書を書き、都から再び離れることを紙面に起こす。今回のは都への影響を書いて陰陽寮の仕事に絡めた。吉備家に戻る際、光頼に出会い、引きずられるように紅葉は依頼を出しに行った。
依頼の内容は、紅葉が都から出て師岬に向かう間の護衛だ。師岬とは紅葉が住む地域についてつけた仮称だ。
歪虚が本気か嘘か知らないが、紅葉の命を狙うといっていることもある。
「大江宗家が誰かってわかれば来るでしょう」
これまで交戦したハンターで重傷を負った者はないとはいえ、紅葉がいるということでどうしてくるかわからない。
「私は里に荷物を持っていくので、魔導トラックで出かけます」
紅葉の移動手段は気にしないでいいということになる。
日程を決め、出発日の早朝に吉備家で待ち合わせということでまとまったのだった。
●前夜
紅葉は魔導トラックに荷物を積む。以前里で発掘された太刀と文箱を載せた。太刀は修理して使えるようにしてある。文箱は白紙の紙が入っているのみ。
メーンは虎猫と柴犬などのペットの餌と人間の食料、草木の種である。
「宗主、積み終わりました」
「ありがとうございます」
実際、本人は積もうとして途中から家を仕切る田貫の夫に止められて、お茶を飲んでじっとしていただけだ。疲労が抜けていないのもあり、甘えていた。
出発するということもあり、紅葉は夜寝る前に気になって占いをしてみることにした。
紅葉の腕前は九割外れ、一割は状況から分析・推理して当てるかというものだった。
「はっ! この卦は、何か出るみたいですね……何かって何ですっ!」
「にゃー」
「最近拾った虎猫ですね、名前はまだにゃいです」
虎猫を撫でる。
「当たりました!」
ぱああ、と顔を明るくする。そして、気分良く床に着いた。
うつらうつらしていたが、目がパチッと開いた。暫く床で五感を研ぎ澄ますと、起き上がる。寝間着から動ける服に着替えた。カードバインダーと符があることを確認する。
紅葉は書置きを座卓に置き、魔導トラックを止めているところに向かう。
「どうかしましたか?」
門番に気づかれる。
「書置きはしましたが……何か来そうなので今のうちの行きます」
「え?」
紅葉は魔導トラックを出すために戸を開けた。
「……私が出ていればここから去るでしょう?」
カタンと何かが動く音がした。
「まずいです! あなたは、そこの隅に、早く」
紅葉は門番を突き飛ばすように隅にやると、覚醒状態になり【地縛符】を放った。気休めでも時間稼ぎができればいい。
「その匂いは……おぬしかえ?」
聞いたことのない女性の声。
「ふふふ、わざわざ調合しただけありますね。では、さようならですー」
紅葉は魔導トラックのハンドルを握ると発車させたのだった。
●当日
早朝からの護衛のはずだったが、状況が変わっていた。
この屋敷を面倒見る田貫夫妻と門番の証言により、紅葉がすでに天ノ都を出ている状況だと知る。
「置手紙によると、途中に里跡といいますが、まだ何も対処されていない地域にいるということです。振り切れれば一旦戻るかどうかするとありました」
そのため、ハンターには護衛ではなく、状況の確認や歪虚への対応願いとなるという。
田貫夫妻や吉備家の者が願うのは、紅葉の無事である。
追いかけると、目的地の近くに横転した傷だらけの魔導トラックが一台あり、荷物が散乱していた。
グラズヘイム王国のイスルダ島の帰り道に王立図書館に寄り道するつもりで大江 紅葉はリゼリオで転移門をくぐろうとした。護衛兼お守りでいる松永 光頼も承諾したし、何かあれば引きずってでも帰るつもりだ。
職員に呼び止められ、紅葉は手紙をもらう。
「……行先は変えます」
光頼は紅葉の表情から何か問題があったと理解した。
王国のある大きな町の領主の屋敷に向かう。
連絡なしかつ夕方に差し掛かっているが、領主のシャールズ・べリンガーは応対してくれた。その息子のリシャールも同席する。
以前、リシャールに送った刀がテーブルに置かれており、紅葉が来た要件を察していた。
光頼は席をはずそうと思ったが、紅葉もシャールズ達も聞かれて構わないという判断だった。
シャールズがかいつまんで状況を説明した。
事件の発端はこの町にある図書館で特定の書物から字が消えるということだった。調査の結果、女性の歪虚の姿があった。
次に、近くの林の雑魔の調査をしたところ、リシャールが術に捕まった。その時、彼の刀につけられた香に反応したというのだ。なお、調査対象の雑魔はいなかった。
「吸収したんでしょうね」
「おそらく」
紅葉と光頼の意見は合致する。妖怪と呼んでいた憤怒に属する歪虚の持つ能力だろう。
そのあと、来た時と同様の道で戻ったのだろうと思われる。なぜなら、大江家の里の近くに現れた。
ハンターたちが歪虚から情報を引き出した結果、大江家があの土地に居を構えるきっかけとなった、便宜上「初代」と呼んでいる男の関係者だったらしい。
「……ライブラリで見ましたが、ものすごく、気さくすぎて、八方美人の人でした」
「褒めていませんね?」
「一応、悪い人ではないですよ。ただ、口説き文句が挨拶だった場合、相手が本気になるとこのような事件になるという見本ですね」
紅葉が手厳しく告げるが、光頼は否定しようがなかった。
「分かりました。こちらに戻ったということ、私を殺すという話になっているそうですので」
「待ってください、その言葉、初耳ですが」
光頼に同意を示すように、ベリンガー親子が首を縦に振る。
「ハンターが会ったといったじゃないですか? その時に、恨み晴らすならば、子孫を根絶やしするとのことでした。ただ、直系は私しかいないんですよ」
紅葉が笑う。
「いや、笑い事ではないですよ!」
「でも、何とかしやすいじゃないですか」
確かに囮にでもすればあっさり相手は出てくるだろう。
「まず、その、浄化スキルしかない状況を変えましょう」
「あー」
「あと、護衛を付けましょう」
「しばらくは光頼殿がいますし、天ノ都にいる間大丈夫ですよ」
リシャールが何か言いたげに見つめている。
状況からリシャールが来たがっているのため、紅葉と光頼が説得し断った。
●依頼
帰宅した日の次の日には紅葉は陰陽寮に顔を出した。報告書を書き、都から再び離れることを紙面に起こす。今回のは都への影響を書いて陰陽寮の仕事に絡めた。吉備家に戻る際、光頼に出会い、引きずられるように紅葉は依頼を出しに行った。
依頼の内容は、紅葉が都から出て師岬に向かう間の護衛だ。師岬とは紅葉が住む地域についてつけた仮称だ。
歪虚が本気か嘘か知らないが、紅葉の命を狙うといっていることもある。
「大江宗家が誰かってわかれば来るでしょう」
これまで交戦したハンターで重傷を負った者はないとはいえ、紅葉がいるということでどうしてくるかわからない。
「私は里に荷物を持っていくので、魔導トラックで出かけます」
紅葉の移動手段は気にしないでいいということになる。
日程を決め、出発日の早朝に吉備家で待ち合わせということでまとまったのだった。
●前夜
紅葉は魔導トラックに荷物を積む。以前里で発掘された太刀と文箱を載せた。太刀は修理して使えるようにしてある。文箱は白紙の紙が入っているのみ。
メーンは虎猫と柴犬などのペットの餌と人間の食料、草木の種である。
「宗主、積み終わりました」
「ありがとうございます」
実際、本人は積もうとして途中から家を仕切る田貫の夫に止められて、お茶を飲んでじっとしていただけだ。疲労が抜けていないのもあり、甘えていた。
出発するということもあり、紅葉は夜寝る前に気になって占いをしてみることにした。
紅葉の腕前は九割外れ、一割は状況から分析・推理して当てるかというものだった。
「はっ! この卦は、何か出るみたいですね……何かって何ですっ!」
「にゃー」
「最近拾った虎猫ですね、名前はまだにゃいです」
虎猫を撫でる。
「当たりました!」
ぱああ、と顔を明るくする。そして、気分良く床に着いた。
うつらうつらしていたが、目がパチッと開いた。暫く床で五感を研ぎ澄ますと、起き上がる。寝間着から動ける服に着替えた。カードバインダーと符があることを確認する。
紅葉は書置きを座卓に置き、魔導トラックを止めているところに向かう。
「どうかしましたか?」
門番に気づかれる。
「書置きはしましたが……何か来そうなので今のうちの行きます」
「え?」
紅葉は魔導トラックを出すために戸を開けた。
「……私が出ていればここから去るでしょう?」
カタンと何かが動く音がした。
「まずいです! あなたは、そこの隅に、早く」
紅葉は門番を突き飛ばすように隅にやると、覚醒状態になり【地縛符】を放った。気休めでも時間稼ぎができればいい。
「その匂いは……おぬしかえ?」
聞いたことのない女性の声。
「ふふふ、わざわざ調合しただけありますね。では、さようならですー」
紅葉は魔導トラックのハンドルを握ると発車させたのだった。
●当日
早朝からの護衛のはずだったが、状況が変わっていた。
この屋敷を面倒見る田貫夫妻と門番の証言により、紅葉がすでに天ノ都を出ている状況だと知る。
「置手紙によると、途中に里跡といいますが、まだ何も対処されていない地域にいるということです。振り切れれば一旦戻るかどうかするとありました」
そのため、ハンターには護衛ではなく、状況の確認や歪虚への対応願いとなるという。
田貫夫妻や吉備家の者が願うのは、紅葉の無事である。
追いかけると、目的地の近くに横転した傷だらけの魔導トラックが一台あり、荷物が散乱していた。
リプレイ本文
●現地へ
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は話を聞き、嫌な記憶がよみがえる。大江 紅葉(kz0163)の妹・若葉の死や辺境の集落が歪虚に襲われたときのこと。
「連れ戻して関係者全員から後悔するほど説教を聞かせてやるさ。死なせてたまるかよ」
その言葉にトリプルJ(ka6653)がうなずく。紅葉を追った歪虚が人の前に現れたときから知っているため来たが、直前に大けがを負ってしまった。
「こんな時に添え物ですまねぇな。戦闘以外でやれることはやらにゃーな」
レイア・アローネ(ka4082)が首を横に振る。
「そういうな。知っていることは強みだ。それに、紅葉と合流して……急ごう」
一行は紅葉がいるはずの場所に向かった。
大江家の里がある方に行く途中にある里の跡である。まだ、誰も戻っていないため放置された場所。
近づくと、横転した魔導トラックが目に入る。
ステラ・フォーク(ka0808)は魔導トラックの様子と地面を見る。
「トラックの傷は以前のような擦り傷ぶつけ傷ですわね。血痕はないようですね」
紅葉にひとまず大きなけがはないように思われた。妙に地面がぬかるんでいるが、ひとまずそれは後回しだった。
エルバッハ・リオン(ka2434)は違う場所を調べる為、軍用双眼鏡で周囲を見渡す。
「人が歩いた跡は見えますね。雨が降り出しそうですし……紅葉さんが隠れそうなところ……近くの可能性がありますね」
星野 ハナ(ka5852)は念のために【生命感知】を行う。
「ここに特に反応はないです。早く探さないといけないですぅ」
トラックの影や隅に埋まっているなど特にはないということ。一つずつ推測はつぶしていくしかない。
冷たい風が吹き始めた。
●小屋
小屋まではまとまって移動する。その先は分担しても構わないだろう。
「【生命感知】……え? 何かいますよ、私たち以外にぃ」
ハナが眉をしかめた。
反応が動物か鳥かもわからないし、歪虚がいない保証にはならない。
用心しつつ、小屋を念入りに見る必要がある。出入口についている足跡は、入り乱れていて細かいことはわからない。動物の物はなくはないが、前を通っただけのような物が多い。
「紅葉さん、いますか」
エルバッハが声をかけて扉を開ける。そばではステラが銃剣付き自動拳銃を構える。
扉が開いた中は小屋で寝るのによさそうな毛布がある。その毛布はぐちゃぐちゃでこんもりとした山になっている。
「紅葉さん、いますか?」
もう一度エルバッハが声をかけると、毛布がもぞもぞ動き、ウサギが一羽とパルムが一体出てくる。
「……え? 紅葉さんのペットにいましたよね?」
ステラが記憶をたどるが、紅葉のペットかわからない。
「何がいたんだ?」
出入口が狭いこともあり、周囲を警戒しているレイアから確認の声が飛ぶ。
「まさかと思うが、屋根裏とかあってそこから?」
トリプルJが建物の壁に背を預けつつ問う。
「いえ、たぶん、紅葉さんですね……そのペットがいます」
エルバッハの言葉の後、毛布から紅葉の頭が出てきた。
「み、水をください……」
紅葉があっさり見つかったことで安堵したところに怒りが湧いていた。ひとまず無事は確認した、水分を訴えているが。
「トラックに……水はあります」
「とってくる……ん、雨だな」
レイオスは水を取りに行く前に、中に入ることを提案するが、こちらに近づいてくる歪虚がいることに気づいた。
「トリプルJ、紅葉に説明をしていてくれるか?」
「ああ」
レイオスに言われ、トリプルJが小屋の戸口に立ち、エルバッハとステラが出てくる。
紅葉の生存は確認したのだから、目の前に集中すべきだった。
「紅葉、水は後だ」
レイアは声をかけ、早く片を付けないとならないと感じた。
「……何やらぞろぞろと」
女の声がする。
頭に何もかぶってはおらず、長い黒髪が水にぬれている。着ているのはドレスではなく小袖に女袴だ。
「雨には濡れてもいいということか? いつもなら頭に布被っているのに」
トリプルJが声をかけると、文車妖妃と名乗った歪虚は鼻で笑い「死んでいく輩に答えるのは無駄よのう」と言う。手に持っている大太刀を鞘から外す。
「小娘がそこにおるのだろう? 面差しが似ておるのが腹立つのう」
女が知っている人間と面差しが似ているか判断付く者はいないが、血筋ならばどこか似ていることもあるだろう。
「おぬしら、邪魔するのかのう?」
「する、に決まっているだろう」
レイアが真剣な表情で告げる。小屋から敵を引き離すことが重要であるし、前に出ることになるレイオスが特に敵のスキルに注意が必要と考えている。
「噂に聞くとすごく重すぎる女だと聞いたぞ?」
レイオスが挑発する。この歪虚が生じた経緯はあくまで紅葉や関係者の推測に過ぎない。一方的な思いの結果か、歪虚の襲撃を経てなったのかなどわからない。
「ええ? そんな理由どうでもいいですぅ。人を襲った以上、知ったこっちゃないですぅ、共感もしません……さっさと死の世界に戻れですぅ」
ハナは可愛らしい言い方であるため、非常に毒を含む言葉になっていたが、真理でもある。
案の定、文車妖妃の表情が苛立ちになっている。
「そうですわね。事情があったとしても、歪虚となってしまってはどうしようもありませんわ」
ステラは銃を構える。小屋を守ることに専念することにした。そこに、紅葉がいるのだから。
「のこのこ出てきたのがあなたの運の尽きです。ここで始末してあげます」
エルバッハは小屋から引き離すような位置に立ち、【ダブルキャスト】を用い【ファイアアロー】を放った。
●雨、流す
文車妖妃はエルバッハを追う。紅葉を狙うにしても、小屋とハンターは邪魔だ。
エルバッハに追いつく前に、ステラの銃撃が文車妖妃に迫る。
「雨が強いと視界が……」
ステラは眉をしかめる。視界がなくなるほどの雨ではないが、目や指に雨粒がまとわりつくこと厄介この上ない。
ハナは間合を詰めたところで符を放つ。
「【五色光符陣】避けられたところで問題はないのですぅ。符が消えますがぁ」
範囲がぎりぎりだったため、前に進む文車妖妃は回避し範囲の外に出た。
「小屋から離れてくれることは嬉しいがな」
レイアは苦笑しつつエルバッハを追った文車妖妃を追う。
「広いところに向かうともとれるがな……どちらにせよ、決着付けるこちらの意図には合致しているんだよな」
レイオスは聞いていた敵の能力を考え【レジスト】をかけてから追った。
「小娘」
文車妖妃はエルバッハに大太刀を振るう。一度通った刃がすぐに振り下ろされる。エルバッハの回避する位置を狙っている動きだ。そのため、二度目は回避しきれなかったが、鎧でほぼ受け止めている。
そのまま距離が詰められた状況で、エルバッハは先ほどと違う属性を持つ魔法を放つ。
「どれが効き易いとかあれば、それを使いたいのですが……効いているのですから、焦りは禁物です」
しかし、どちらも同じような感触にであったが、若干、火の方は避けようという意思が強く見られたような気がした。
ハナはエルバッハの様子を瞬間的に判断する。
「回復は後でよいですね……続いていくのですぅ【五色光符陣】」
符が飛び文車妖妃を包囲し攻撃した。
「ちぃ」
攻撃に巻き込まれ、文車妖妃は舌打ちをする。形相が怒りとなり、ハナを攻撃目標を決めたらしく、エルバッハに背を向ける。
エルバッハは背を向けられると、文車妖妃の頭には獣や人間らしい顔がいくつか浮かんでいることに気づいた。
(布は、これを隠していたのでしょうか?)
疑問が浮かぶが、戦闘に集中する必要がある。隠していたからと言ってどうということもないだろうから。
「あえて符術師を狙うということは、ああー、愛しの君が結婚した相手がそれだったか?」
「なるほど、どのような物語があったかは興味がある」
レイオスの【ソウルエッジ】で強化した【刺突一閃】が、レイアの【ソウルエッジ】での【刺突一閃】が文車妖妃に向かう。その上、レイアは【リバースエッジ】を放った。
連続で強力な技が叩き込まれ、文車妖妃は回避しきれないものを食らう。
「こちらからも行きます」
ステラが援護とばかり銃弾を叩き込む。
レイオスとレイア、ハナを巻き込むように文車妖妃は薙ぎ払った。
小屋の中で紅葉にトリプルJが説明をする。
「あんたが敵を連れて移動した結果、こうなっているんだ」
トリプルJの言葉に、紅葉はほっと息を吐いた。
「皆無事なのですね」
「あんたのことを死ぬほど心配しているがな」
能天気に見える紅葉にトリプルJは少しちくりと告げる。
「で、あいつは何を言ってきた?」
「それが、会話してませんよ? ここに私が到着したのは先ですし、できる限り見つかる時間は稼ごうと、あちこちにうろついた形跡を作っておきました」
「……先にあんたを見つけられたから、作られた形跡は知らないんだがな」
「それはそれで良かったです」
紅葉は苦笑する。
「ったく……命狙われている人間の割には緊張感がないな」
「あることにはあったんですけれどね……世界が広がったら何とかなるって余裕が出ました」
「おいおい……まー、いいのか?」
トリプルJは言葉に困るが、無意味に死ぬ気がある態度ではないためこれ以上特に言わない。
「そんな世の中になりました。彼女にもわかってもらわないと……妖怪と化したものは消えるしかないのです」
紅葉は立ち上がる。
「待て、出て行こうとしているんじゃないだろうな」
「彼女に話をするのは……今ですよね?」
「だな」
紅葉は小屋の外に出る。トリプルJも続いた。紅葉は彼の状況を気にしているため、何かあれば守るつもりではあった。
扉を守っていたステラは驚く。
「紅葉さん、中にいたほうが!」
「最後に一言を言わせてください」
「そういうことですの? 気を付けてくださいね」
「はい」
ステラは紅葉の動きに合わせて、行動をとる。
雨が弱まる、通り過ぎるだけの雨雲。
文車妖妃は力を使い切った状態であったが、紅葉の姿を見た瞬間、すべてを捨て走る。
「なんで、出てきたんだ!」
レイオスが舌打ちをする。
「紅葉さん!」
エルバッハが鋭く注意を促す。
「私はあなたを知りません。あなたに怒りをぶつける相手がいたならば、もっと早くぶつけるべきでした」
文車妖妃は足を止め、目を見開き紅葉を見つめる。
「紅葉さん、理由を知っているのかもしれませんがぁ、共感はしちゃだめですぅ」
「しませんよー」
ハナの忠告に紅葉は穏やかな表情で真っ直ぐに答えてくる。
文車妖妃が足を止めた為、すぐに新たな包囲網ができた。
「腹を立てたことは仕方がないでしょう。歪虚になった経緯は良し悪しを問いません。ただ、民に手を出すことは許せません」
「それだけか」
「あなたが歪虚という道を選んでしまったので。あなたが人間のままであれば、真正面から話をいたしました。それが私の気持ちです」
文車妖妃は苦笑し、怒りの形相になる。
「うぬは殺す」
「先ほどから言ってますね?」
紅葉に向かう文車妖妃の進路にレイオスとレイアが割って入る。
「いい加減にしろ」
「これで終わりだ」
レイオスとレイアがほぼ同時に叫ぶように、気合の様に声をあげ、スキルを用いた攻撃を放つ。
文車妖妃は間一髪でそれを回避するが、方向は変えず紅葉に向かう。
「飛んで火にいる夏の虫なのですぅ」
「わざわざ怒りに身を焦がさなくてもよいでしょうに」
ハナの【五色光符陣】が展開され、エルバッハの【アイスボルト】が文車妖妃を狙う。
「それ以上進ませはしません【ファントムハンド】」
ステラは紅葉より前に出て、スキルを放ち、銃弾を放った。
文車妖妃に攻撃が重なり、距離を詰めたところでスキルにからめとられ止まる。
「もう、何も残っていないのですよ、あなたが食べてしまったから」
文箱を紅葉は見せ、蓋を開いた。白紙の紙の束が風に乗り舞い、雨に溶けて行った。
「……う、うわああああ」
文車妖妃は怒りなのか嘆きなのかわからない声をあげる。
大太刀を振るい紅葉を攻撃しようとするが、精度はなかった。その間に、ハンターたちの攻撃により、とどめを刺され、霧散した。
「声を聞きたかったんだがな」
トリプルJは【深淵の声】を使うことを考えていた。しかし、相手が歪虚であるため、討伐されてしまえば、死体は残らない。意識があれば抵抗されるだろうから、タイミングは難しかった。
「そうですね、歪虚ですもの……せめて、墓碑くらいですかね……」
紅葉がなんともいえない顔で告げたのだった。
●説教
先ほどまでの雨が不思議なほど空は晴れ渡る。
ひとまず、けが人は回復魔法で治したり、周囲を見回りなど分担する。見回りに行くと、紅葉が作った罠の残骸やら池に落ちている小袖など見つけることになる。
紅葉は文車妖妃がいたあたりをじっと見つめる。
「本当に……トラックの横転はびっくりしましたわ」
ステラが言うと紅葉は目が泳ぐ。
「まさかと思うが、追いつかれたとか?」
レイアの問いかけに、紅葉が首を横に激しくふる。
「それはさすがにありません! 魔導トラックのスピードと一般的に人が走るスピードの差を考えてください」
レイアはあっと頭を掻く。それほど単純な話で良いのかという気もしなくはないが。
「ぬかるみにタイヤ取られて転んだのです」
紅葉の告白に沈黙が走った。普通に、危険な運転だ。
「危ないところでしたわね……歪虚関係ないのですね」
ステラが沈黙を破るようにおっとりと述べるが、歪虚に追われているからあわていたと考えれば関係ないとは言い切れない。
「それならよかったのか? まあ、無事だったんだから。帰りは乗せてもらうか」
トリプルJの言葉にステラの目が泳ぐ。
「そうですね、そのほうが傷に触らないでしょうから……紅葉さんはやる気に満ちていますが、ステラさんが首を横に振っていますが?」
エルバッハの提案に「それはよいかも」とトリプルJは言うが、ステラが小刻みに首を横に振っている。
「あんたは……そのあたりは俺たちが怒ることではないけどな、家に居る奴らにしっかり怒られろよ」
あきれ気味のレイオスは苦笑して、紅葉に告げる。紅葉は硬直した。
「あんたは一般人ではないとはいえ、歪虚と対峙してどうなるかわからないから、心配していたんだぞ」
レイオスに諭され、紅葉はしおれる。
「はいはい、トラックをもとに戻せますぅ? 戻せるなら戻して、一旦都に戻るのですぅ?」
ハナが手をたたいて促した。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は話を聞き、嫌な記憶がよみがえる。大江 紅葉(kz0163)の妹・若葉の死や辺境の集落が歪虚に襲われたときのこと。
「連れ戻して関係者全員から後悔するほど説教を聞かせてやるさ。死なせてたまるかよ」
その言葉にトリプルJ(ka6653)がうなずく。紅葉を追った歪虚が人の前に現れたときから知っているため来たが、直前に大けがを負ってしまった。
「こんな時に添え物ですまねぇな。戦闘以外でやれることはやらにゃーな」
レイア・アローネ(ka4082)が首を横に振る。
「そういうな。知っていることは強みだ。それに、紅葉と合流して……急ごう」
一行は紅葉がいるはずの場所に向かった。
大江家の里がある方に行く途中にある里の跡である。まだ、誰も戻っていないため放置された場所。
近づくと、横転した魔導トラックが目に入る。
ステラ・フォーク(ka0808)は魔導トラックの様子と地面を見る。
「トラックの傷は以前のような擦り傷ぶつけ傷ですわね。血痕はないようですね」
紅葉にひとまず大きなけがはないように思われた。妙に地面がぬかるんでいるが、ひとまずそれは後回しだった。
エルバッハ・リオン(ka2434)は違う場所を調べる為、軍用双眼鏡で周囲を見渡す。
「人が歩いた跡は見えますね。雨が降り出しそうですし……紅葉さんが隠れそうなところ……近くの可能性がありますね」
星野 ハナ(ka5852)は念のために【生命感知】を行う。
「ここに特に反応はないです。早く探さないといけないですぅ」
トラックの影や隅に埋まっているなど特にはないということ。一つずつ推測はつぶしていくしかない。
冷たい風が吹き始めた。
●小屋
小屋まではまとまって移動する。その先は分担しても構わないだろう。
「【生命感知】……え? 何かいますよ、私たち以外にぃ」
ハナが眉をしかめた。
反応が動物か鳥かもわからないし、歪虚がいない保証にはならない。
用心しつつ、小屋を念入りに見る必要がある。出入口についている足跡は、入り乱れていて細かいことはわからない。動物の物はなくはないが、前を通っただけのような物が多い。
「紅葉さん、いますか」
エルバッハが声をかけて扉を開ける。そばではステラが銃剣付き自動拳銃を構える。
扉が開いた中は小屋で寝るのによさそうな毛布がある。その毛布はぐちゃぐちゃでこんもりとした山になっている。
「紅葉さん、いますか?」
もう一度エルバッハが声をかけると、毛布がもぞもぞ動き、ウサギが一羽とパルムが一体出てくる。
「……え? 紅葉さんのペットにいましたよね?」
ステラが記憶をたどるが、紅葉のペットかわからない。
「何がいたんだ?」
出入口が狭いこともあり、周囲を警戒しているレイアから確認の声が飛ぶ。
「まさかと思うが、屋根裏とかあってそこから?」
トリプルJが建物の壁に背を預けつつ問う。
「いえ、たぶん、紅葉さんですね……そのペットがいます」
エルバッハの言葉の後、毛布から紅葉の頭が出てきた。
「み、水をください……」
紅葉があっさり見つかったことで安堵したところに怒りが湧いていた。ひとまず無事は確認した、水分を訴えているが。
「トラックに……水はあります」
「とってくる……ん、雨だな」
レイオスは水を取りに行く前に、中に入ることを提案するが、こちらに近づいてくる歪虚がいることに気づいた。
「トリプルJ、紅葉に説明をしていてくれるか?」
「ああ」
レイオスに言われ、トリプルJが小屋の戸口に立ち、エルバッハとステラが出てくる。
紅葉の生存は確認したのだから、目の前に集中すべきだった。
「紅葉、水は後だ」
レイアは声をかけ、早く片を付けないとならないと感じた。
「……何やらぞろぞろと」
女の声がする。
頭に何もかぶってはおらず、長い黒髪が水にぬれている。着ているのはドレスではなく小袖に女袴だ。
「雨には濡れてもいいということか? いつもなら頭に布被っているのに」
トリプルJが声をかけると、文車妖妃と名乗った歪虚は鼻で笑い「死んでいく輩に答えるのは無駄よのう」と言う。手に持っている大太刀を鞘から外す。
「小娘がそこにおるのだろう? 面差しが似ておるのが腹立つのう」
女が知っている人間と面差しが似ているか判断付く者はいないが、血筋ならばどこか似ていることもあるだろう。
「おぬしら、邪魔するのかのう?」
「する、に決まっているだろう」
レイアが真剣な表情で告げる。小屋から敵を引き離すことが重要であるし、前に出ることになるレイオスが特に敵のスキルに注意が必要と考えている。
「噂に聞くとすごく重すぎる女だと聞いたぞ?」
レイオスが挑発する。この歪虚が生じた経緯はあくまで紅葉や関係者の推測に過ぎない。一方的な思いの結果か、歪虚の襲撃を経てなったのかなどわからない。
「ええ? そんな理由どうでもいいですぅ。人を襲った以上、知ったこっちゃないですぅ、共感もしません……さっさと死の世界に戻れですぅ」
ハナは可愛らしい言い方であるため、非常に毒を含む言葉になっていたが、真理でもある。
案の定、文車妖妃の表情が苛立ちになっている。
「そうですわね。事情があったとしても、歪虚となってしまってはどうしようもありませんわ」
ステラは銃を構える。小屋を守ることに専念することにした。そこに、紅葉がいるのだから。
「のこのこ出てきたのがあなたの運の尽きです。ここで始末してあげます」
エルバッハは小屋から引き離すような位置に立ち、【ダブルキャスト】を用い【ファイアアロー】を放った。
●雨、流す
文車妖妃はエルバッハを追う。紅葉を狙うにしても、小屋とハンターは邪魔だ。
エルバッハに追いつく前に、ステラの銃撃が文車妖妃に迫る。
「雨が強いと視界が……」
ステラは眉をしかめる。視界がなくなるほどの雨ではないが、目や指に雨粒がまとわりつくこと厄介この上ない。
ハナは間合を詰めたところで符を放つ。
「【五色光符陣】避けられたところで問題はないのですぅ。符が消えますがぁ」
範囲がぎりぎりだったため、前に進む文車妖妃は回避し範囲の外に出た。
「小屋から離れてくれることは嬉しいがな」
レイアは苦笑しつつエルバッハを追った文車妖妃を追う。
「広いところに向かうともとれるがな……どちらにせよ、決着付けるこちらの意図には合致しているんだよな」
レイオスは聞いていた敵の能力を考え【レジスト】をかけてから追った。
「小娘」
文車妖妃はエルバッハに大太刀を振るう。一度通った刃がすぐに振り下ろされる。エルバッハの回避する位置を狙っている動きだ。そのため、二度目は回避しきれなかったが、鎧でほぼ受け止めている。
そのまま距離が詰められた状況で、エルバッハは先ほどと違う属性を持つ魔法を放つ。
「どれが効き易いとかあれば、それを使いたいのですが……効いているのですから、焦りは禁物です」
しかし、どちらも同じような感触にであったが、若干、火の方は避けようという意思が強く見られたような気がした。
ハナはエルバッハの様子を瞬間的に判断する。
「回復は後でよいですね……続いていくのですぅ【五色光符陣】」
符が飛び文車妖妃を包囲し攻撃した。
「ちぃ」
攻撃に巻き込まれ、文車妖妃は舌打ちをする。形相が怒りとなり、ハナを攻撃目標を決めたらしく、エルバッハに背を向ける。
エルバッハは背を向けられると、文車妖妃の頭には獣や人間らしい顔がいくつか浮かんでいることに気づいた。
(布は、これを隠していたのでしょうか?)
疑問が浮かぶが、戦闘に集中する必要がある。隠していたからと言ってどうということもないだろうから。
「あえて符術師を狙うということは、ああー、愛しの君が結婚した相手がそれだったか?」
「なるほど、どのような物語があったかは興味がある」
レイオスの【ソウルエッジ】で強化した【刺突一閃】が、レイアの【ソウルエッジ】での【刺突一閃】が文車妖妃に向かう。その上、レイアは【リバースエッジ】を放った。
連続で強力な技が叩き込まれ、文車妖妃は回避しきれないものを食らう。
「こちらからも行きます」
ステラが援護とばかり銃弾を叩き込む。
レイオスとレイア、ハナを巻き込むように文車妖妃は薙ぎ払った。
小屋の中で紅葉にトリプルJが説明をする。
「あんたが敵を連れて移動した結果、こうなっているんだ」
トリプルJの言葉に、紅葉はほっと息を吐いた。
「皆無事なのですね」
「あんたのことを死ぬほど心配しているがな」
能天気に見える紅葉にトリプルJは少しちくりと告げる。
「で、あいつは何を言ってきた?」
「それが、会話してませんよ? ここに私が到着したのは先ですし、できる限り見つかる時間は稼ごうと、あちこちにうろついた形跡を作っておきました」
「……先にあんたを見つけられたから、作られた形跡は知らないんだがな」
「それはそれで良かったです」
紅葉は苦笑する。
「ったく……命狙われている人間の割には緊張感がないな」
「あることにはあったんですけれどね……世界が広がったら何とかなるって余裕が出ました」
「おいおい……まー、いいのか?」
トリプルJは言葉に困るが、無意味に死ぬ気がある態度ではないためこれ以上特に言わない。
「そんな世の中になりました。彼女にもわかってもらわないと……妖怪と化したものは消えるしかないのです」
紅葉は立ち上がる。
「待て、出て行こうとしているんじゃないだろうな」
「彼女に話をするのは……今ですよね?」
「だな」
紅葉は小屋の外に出る。トリプルJも続いた。紅葉は彼の状況を気にしているため、何かあれば守るつもりではあった。
扉を守っていたステラは驚く。
「紅葉さん、中にいたほうが!」
「最後に一言を言わせてください」
「そういうことですの? 気を付けてくださいね」
「はい」
ステラは紅葉の動きに合わせて、行動をとる。
雨が弱まる、通り過ぎるだけの雨雲。
文車妖妃は力を使い切った状態であったが、紅葉の姿を見た瞬間、すべてを捨て走る。
「なんで、出てきたんだ!」
レイオスが舌打ちをする。
「紅葉さん!」
エルバッハが鋭く注意を促す。
「私はあなたを知りません。あなたに怒りをぶつける相手がいたならば、もっと早くぶつけるべきでした」
文車妖妃は足を止め、目を見開き紅葉を見つめる。
「紅葉さん、理由を知っているのかもしれませんがぁ、共感はしちゃだめですぅ」
「しませんよー」
ハナの忠告に紅葉は穏やかな表情で真っ直ぐに答えてくる。
文車妖妃が足を止めた為、すぐに新たな包囲網ができた。
「腹を立てたことは仕方がないでしょう。歪虚になった経緯は良し悪しを問いません。ただ、民に手を出すことは許せません」
「それだけか」
「あなたが歪虚という道を選んでしまったので。あなたが人間のままであれば、真正面から話をいたしました。それが私の気持ちです」
文車妖妃は苦笑し、怒りの形相になる。
「うぬは殺す」
「先ほどから言ってますね?」
紅葉に向かう文車妖妃の進路にレイオスとレイアが割って入る。
「いい加減にしろ」
「これで終わりだ」
レイオスとレイアがほぼ同時に叫ぶように、気合の様に声をあげ、スキルを用いた攻撃を放つ。
文車妖妃は間一髪でそれを回避するが、方向は変えず紅葉に向かう。
「飛んで火にいる夏の虫なのですぅ」
「わざわざ怒りに身を焦がさなくてもよいでしょうに」
ハナの【五色光符陣】が展開され、エルバッハの【アイスボルト】が文車妖妃を狙う。
「それ以上進ませはしません【ファントムハンド】」
ステラは紅葉より前に出て、スキルを放ち、銃弾を放った。
文車妖妃に攻撃が重なり、距離を詰めたところでスキルにからめとられ止まる。
「もう、何も残っていないのですよ、あなたが食べてしまったから」
文箱を紅葉は見せ、蓋を開いた。白紙の紙の束が風に乗り舞い、雨に溶けて行った。
「……う、うわああああ」
文車妖妃は怒りなのか嘆きなのかわからない声をあげる。
大太刀を振るい紅葉を攻撃しようとするが、精度はなかった。その間に、ハンターたちの攻撃により、とどめを刺され、霧散した。
「声を聞きたかったんだがな」
トリプルJは【深淵の声】を使うことを考えていた。しかし、相手が歪虚であるため、討伐されてしまえば、死体は残らない。意識があれば抵抗されるだろうから、タイミングは難しかった。
「そうですね、歪虚ですもの……せめて、墓碑くらいですかね……」
紅葉がなんともいえない顔で告げたのだった。
●説教
先ほどまでの雨が不思議なほど空は晴れ渡る。
ひとまず、けが人は回復魔法で治したり、周囲を見回りなど分担する。見回りに行くと、紅葉が作った罠の残骸やら池に落ちている小袖など見つけることになる。
紅葉は文車妖妃がいたあたりをじっと見つめる。
「本当に……トラックの横転はびっくりしましたわ」
ステラが言うと紅葉は目が泳ぐ。
「まさかと思うが、追いつかれたとか?」
レイアの問いかけに、紅葉が首を横に激しくふる。
「それはさすがにありません! 魔導トラックのスピードと一般的に人が走るスピードの差を考えてください」
レイアはあっと頭を掻く。それほど単純な話で良いのかという気もしなくはないが。
「ぬかるみにタイヤ取られて転んだのです」
紅葉の告白に沈黙が走った。普通に、危険な運転だ。
「危ないところでしたわね……歪虚関係ないのですね」
ステラが沈黙を破るようにおっとりと述べるが、歪虚に追われているからあわていたと考えれば関係ないとは言い切れない。
「それならよかったのか? まあ、無事だったんだから。帰りは乗せてもらうか」
トリプルJの言葉にステラの目が泳ぐ。
「そうですね、そのほうが傷に触らないでしょうから……紅葉さんはやる気に満ちていますが、ステラさんが首を横に振っていますが?」
エルバッハの提案に「それはよいかも」とトリプルJは言うが、ステラが小刻みに首を横に振っている。
「あんたは……そのあたりは俺たちが怒ることではないけどな、家に居る奴らにしっかり怒られろよ」
あきれ気味のレイオスは苦笑して、紅葉に告げる。紅葉は硬直した。
「あんたは一般人ではないとはいえ、歪虚と対峙してどうなるかわからないから、心配していたんだぞ」
レイオスに諭され、紅葉はしおれる。
「はいはい、トラックをもとに戻せますぅ? 戻せるなら戻して、一旦都に戻るのですぅ?」
ハナが手をたたいて促した。
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憤怒歪虚討伐と大江宗主の救出 トリプルJ(ka6653) 人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2018/08/06 19:22:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/06 19:14:48 |