• 空蒼

【空蒼】正気の裂け目

マスター:ゆくなが

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/08/08 09:00
完成日
2018/08/12 00:23

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ここまで来れば、大丈夫か……?」
 眼鏡の男が言う。
 ここはリアルブルー、日本のとある沿岸の倉庫街。
 彼らがたどり着いたのはある倉庫の中だ。
「お前ら、全員生きてるな?」
 眼鏡の男が、仲間を省みる。
「なんとか、ね……」
 そのうちショートヘアの気の強そうな女性が答えた。
「ありがとう、君たちのおかげで助かったよ……」
 その中にひとり、武装もせず、仕立ての良いスーツを汗に濡らした、中年の男がいた。ポケットから取り出した、白いハンカチで汗を拭く。
「いえ……自分たちにできる事をしたまでですから……」
 眼鏡の男が、控えめに言った。

●少し前
 中年の男は統一地球連合議会の議員であった。VOIDと繋がっていない、善良な議員である。
 しかし、この議員、車で移動中に、VOIDと繋がった議員がいた事で暴動を起こした民間人から襲撃されてしまう。
 運転手は気絶し、車は大破。どうしようもなくなっていたところへ、眼鏡の男とその仲間──強化人間の彼らが助けに来たのだった。
 彼らは、暴走する強化人間を見てなお、希望を捨てず、人類側として戦っている強化人間たちだった。
 議員は彼らに助けられ、この倉庫へとたどり着いた。

●これからの事
「で、でもこれからどうするの?」
 ツインテールの少女が言う。ライフルを抱えていて、腰にはナイフを帯びている。
「迂闊に動くと、危なくない……?」
「秋葉原のハンターオフィスに連絡して、保護してもらおう。連絡するから、ちょっと待っていてくれ」
 議員は携帯電話を取り出し、倉庫の隅へ行って連絡を取り始めた。
「ま、なんとかなるだろ」
 そんな中明るい声で、大柄の男が言う。
 4人の強化人間の中で一際背が高く、斧を背負った男だ。
 彼は頭から血を流していた。
 民間人から逃げる際に負った傷である。
 強化人間は今や危険な存在になった。議員も狙われているが、それを守ろうとする彼らも民間人の攻撃の的になった。
 しかし、彼らはあくまで議員を守るために行動し、民間人を傷つける事はしなかった。
 とくに、この男は仲間を庇ったために、そこかしこに傷を作っていた。
「と、とにかく手当しなきゃ……」
 ツインテールが応急手当を始めるが、緊張と恐怖のため、手が震えて作業が遅い。それを見かねたショートヘアが代わりに、手当をしてやった。
「怪我人がいることも、忘れず伝えてくれ!」
 眼鏡が議員の背中に言葉を投げる。
 議員は手を上げて答えた。

●しばらくして
 ハンターたちは議員から連絡のあった倉庫へと急行していた。
 各々装備は万全だ。
 ぽつぽつと街灯の灯る倉庫街を駆け抜ける。
 月はなく、星が地上の灯りに駆逐されて、ほとんど見えない夜だった。
 そして、目的の倉庫の扉を勢いよく開ける。
 同時にハンターたちは武器を抜いて、敵を見据え──
──強化人間たちと目が合った。

●辿り着いた場所で
「た、助けに……」
「ようやく助けに来てくれたのか!!」
 喜びの声を上げるツインテールの言葉を議員が遮って、ハンターたちに駆け寄る。
「さあ、早く私を助けてくれ!」
 議員はハンターのひとりに縋り付いた。
 ハンターたちは倉庫内を見渡す。
 しかし、そこには敵らしきものはどこにもいなくて、ただ、強化人間と思われる4人と議員が居るばかりだった。
「どういう、ことだ……?」
 武器を抜き放ったハンターを見て、不自然に思った眼鏡が疑問の声を上げる。
 ハンターたちも何がなんだかわからない。
 だって──ハンターたちは「議員が暴走した強化人間に追われている」という通報を受けてやってきたのだから。

●真相と暴走
「暴走した強化人間に追われている、助けてくれ!」
 議員はハンターオフィスにそう連絡していたのだ。
 この議員、確かにVOIDと繋がりはないが、強化人間に強い不信感を抱いていたのだった。
 強化人間に助けられてなお、議員が叫ぶ。
「あいつらは暴走する可能性があるんだろう!? なら早くやっつけてくれ!」
「何勝手なこと言ってんのよあんた……!?」
 怒りのあまり、ショートヘアが武器を抜刀し、議員へと大股で歩き出す。
 しかし、それを眼鏡が制した。
「連絡に行き違いがあったんだろう。とにかく僕らは暴走もしていないし、人類への敵対意思もない。それに仲間が傷を負っているんだ。どうか助けてくれないか?」
 穏やかな声で眼鏡が言う。
 確かに、彼らは暴走しているようには見えない。
 ハンターたちも武器を下げる。
「何をしてるんだ!? 私が一策を講じて、民間人から引き離し、こうして安全に戦える場所まで誘導してきたんだぞ!?」
 なおも、議員が喚く。
「あいつらは危険なんだ──」
「やめてよ!!」
 そんな議員の言葉をかき消すように、ツインテールが叫んだ。
 ツインテールの顔は恐怖と屈辱に濡れていた。
「あたしたちだって怖いんだよ!? いつか暴走しちゃうんじゃないかって、怖い思いしてるんだよ!? 危険なのは一番あたしたちがわかっているよ! でも、そういう風に、決めつけるのは、やめてよ……」
 泣き崩れたツインテールの背中をショートヘアが優しく撫でた。
 その時である、大柄の強化人間が呻いた。
「どうした!?」
 眼鏡が駆け寄る。
 大柄の男はうずくまっている。呻きは止まらず、徐々にそれは大きくなっていく。
 だが、そんな中で、大柄の男は何かを呟いていた。
「……して、殺して……くれ……」
 言うと同時に、大柄の男が腕をふるって、眼鏡を押しのけた。
 慌てて、離れる眼鏡。
 男はむくりと立ち上がり、血走った目で倉庫にいる全員に明確な殺意を向けた。
「まさか……暴走したのか!?」
 一気に緊張が走る。
「だから言ったじゃないか!」
 と、議員は喚いていた。
「いや……こんなのいやぁあ!!」
 ツインテールは錯乱し、頭をかきむしる。
「もう、殺して止めるしか……」
 眼鏡が大柄の男に銃口を向けようとした時、眼鏡の体が大きく痙攣した。
 そして、振り返った彼の目は、赤く充血し、正気がとっくに潰えたことを示していた。
「嘘よ……こんな、……きゃっ」
 混乱しているツインテールをショートヘアが突き飛ばした。
「どうしたの……?」
「ごめん、私も、駄目……みたい……」
 幽鬼のようにふらつくショートヘア。その瞳は──ただ殺意に満ちていた。
「嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!」
 がりがり頭をかいて、現実を否定しようとするツインテール。でも、そんなことをしても何も変わらない。
 ツインテールは涙をたたえた瞳で、議員を睨みつけた。
「あんたのせいよ……、あんたが嘘なんてつくから!!」
 そして、ツインテールはライフルの銃口を議員に向ける。
「殺してやる……殺してやる!!」
 唯一暴走していない彼女は、正気のままに人間へと殺意を向けるのだった。
 倉庫に──暴力が充満する。

リプレイ本文

 銃声が倉庫に轟いた。
「やめとけ」
 ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)がツインテールの強化人間に制圧射撃を放ったのだ。
「何よ……邪魔する気!?」
 ツインテールはルナリリルを睨みつけて言う。
「まずは落ち着け。貴官は任務遂行に適切な精神状態ではない」
 マリナ アルフェウス(ka6934)がアイテムスローで精神安定剤をツインテールに投げ渡す。
 ツインテールは引きつった笑いを見せた。
「あたしが正気じゃないっていうの!? あたしは、狂ってない……暴走してない! 全部あの議員が悪いんだ!」
 ツインテールは、精神安定剤を地面に叩きつけ、ブーツの底で踏みにじった。
 マリナは歩夢(ka5975)に目配せした。
 歩夢も頷いてこたえる。
 地面にへたりこむ様にしている議員が喚いた。
「精神安定剤だと!? そんなことをしている場合か!?」
「あー、ちょっと黙っとけ」
 ルナリリルが辟易として言う。
──相変わらずどこの世界もクソみたいな事象と事例に満ちてるな……流石にげんなりするぞ。
 ルナリリルは思う。
──絶望などする気はない……。
──……考え込んでる場合ではないか。
 暴走した強化人間たちが武器を手に、ハンターたちに向かって走り出した。
「仕方ない……戦闘開始、だ」
 ルナリリルも駆け出した。
 混沌とした、吹き出した感情の絡まる戦場へと。


「ったく、やりきれねえぜ!」
 吐き捨てながらも、歩夢は強化人間と対峙する。
 歩夢は、修祓陣を発動する。眩い光の柱が立ち上り、味方の防御をさらに高める。
 その加護を受けて、ソレル・ユークレース(ka1693)が飛び出した。
「人間同士の諍いや命の奪い合いの光景だって見てきた。でもな、こいつらをただの敵だとは断じたくねえな……」
 ソレルは呟きつつ、ショートヘアの強化人間と刃を交わす。
「……上手くいくかはわからんが、やらずに後悔するなら、やるだけやってみても構わんだろう。任せたぞ!」
 ショートヘアが交わした刀を即座に引き、突きを放つ。
 ソレルは横に飛ぶことでそれを避け、伸びきった敵の腕を下から浅く斬りつける。
 ハンターたちは暴走した強化人間を殺さないよう拿捕するつもりでいた。
 そのためにソレルはヒッティングと活人剣を駆使し、狙うのは頭と胴以外の四肢に絞っていた。今は暴走を解除する方法はない。けれど未来に方法を見つけられるかもしれない。その希望を信じて、敵を生かすことにしたのだ。
 ルナリリルもまた積極的に前へ出て敵の目を引きつけるつもりだった。
 眼鏡の強化人間が走りながら銃を構え、ルナリリルに照準を合わせ、撃つ。
 それはルナリリルに着弾するかと思った刹那、光の障壁が弾丸の勢いを殺した。
 そして弾道を逆にたどる様に、光の障壁から雷電が伸びて、眼鏡の体に巻きついた。
「大人しくしてもらうぞ」
 ルナリリルが射撃で眼鏡を攻撃する。
 しかしルナリリルの側面から、大柄の強化人間が斧を振り下ろした。
 だが、それも攻性防壁に阻まれて威力を大幅に削ぎ落とされる。
「これで動きづらくなっただろ?」
 やはり、大柄にも雷電が纏わりつき、縄の様に行動を阻害する。
 ショートヘアの強化人間はソレルが抑えている。
 未だ自由なのは、ツインテールの彼女だけだった。


「こいつが全部悪いのよ!」
 ツインテールは、銃口をなおも議員に合わせる。
 その射線をルナリリルと歩夢がそれぞれ塞ぐが、2人は同一スクエアにはおらず、議員までの射線を占有スクエアとして攻撃を妨害することは叶わない。
「死んじゃえ!!」
 弾丸が射出される。
 しかし、それでも2人の行動は無駄ではなく、弾丸は議員の肩をかすめて、背後の壁に当たった。
 情けない悲鳴を議員があげる。
「どうしてもあいつを殺したいって言うのかよ!?」
 歩夢がツインテールに問いかける。
「あいつが、嘘なんてつくから!」
「結局お前らは暴走した! 私は正しかった!」
 議員も自分が正しいと主張する。
「おおかた何故こうなったかは予想がつく……が、オーダーには従おう。これも仕事だ」
 マリナは議員をちらりと見て、出来れば一発撃ちたいと思ったがその気持ちを堪え、戦場を見渡す。
「歩夢、準備はいいか?」
 歩夢が御霊符を発動し、式神が現れる。
「いくぞ、マリナ!」
 式神がツインテールに向かっていく。
「なんなのよ、あんたたち……!」
 ツインテールが銃口をマリナに向けて発砲する。
 それをマリナはひらりと交わし、言葉を紡ぐ。
「重ねて言う。まずは落ち着け」
「あたしは落ち着いている!」
「そうだな……あんたたちは議員を守った」
 歩夢が言葉を挟む。
「あんたたちとはじめて会った時、まだ正気を保っていた。なら、答えはひとつだ。あんたたち強化人間の主張こそが事実なのだろう」
 歩夢は符の配置を変える。
「議員をそれでも守ったあんたたちの主張が間違っていることなんてない。だから……あんたを正気に戻す!」
 その言葉とともにツインテールの周囲が眩い光に包まれた。
 五色光陣符。光属性の魔法攻撃を行い、同時に敵の目を眩ます攻撃だった。
 歩夢は威力を抑えたその魔法で、ツインテールの視界を奪う。
「何……、眩しくて、何も見えな……きゃっ」
 歩夢とその式神がツインテールを取り押さえ、拘束した。
「何するつもり!?」
 ツインテールは暴れるが、身動きが取れない。
「少しちくりとする。だが、すぐに落ち着くはずだ」
 マリナは精神安定剤を取り出して、ツインテールに近づいていく。
「違う、あたしはおかしくなんかない。狂ってなんかない……!」
「貴官は任務遂行に適切な精神状態ではない」
「あたしは、あたしは……!」
 精神安定剤がツインテールに注射される。ゆっくりと、マリナはプランジャを押し込んでいく。
 全ての薬液がツインテールに流し込まれた後、歩夢と式神はツインテールから離れた。
「あたしは間違ってない……おかしくなんかない……あたしは……あたしは……」
 取り押さえられた衝撃でツンテールのライフルは地面に転がっていた。
 しかし、ツインテールの腰にはまだナイフのホルスターがあった。
 彼女はナイフを取り出して注射された痕にそれを突き刺した。薬液を体から取り除こうとするようにツインテールはナイフで腕を抉る。
「あたしは間違ってなんかない……! 狂ってなんかない……! だって全部、あの議員が悪いのよ……」
 言葉は徐々に弱々しくなっていった。
 ツインテールは泣いていた。
 顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
 ついにナイフも取り落とし、血塗れの手で顔を隠して、まるで母胎の中に漂う胎児のように体を丸めて、泣きはじめたのだった。
 マリナも歩夢も黙って彼女の様子を見ていた。
 ツインテールはもう泣いているばかりで、立ち上がる気配すらない。
 マリナは彼女にもう敵対意思がないと判断した。
「……こちらマリナ。尻尾は落ち着いた。援護する」
「何故だ!?」
 やはりそう喚くのは議員だった。
「暴走する危険は常にある! あいつは私を殺そうとした! ついでにそいつも殺しておけば……」
 その言葉を遮るように、銃声が響いた。
 マリナが議員へ威嚇射撃を行なったのだ。
「すまない。このままでは安全を保障できない。即座に退避せよ」
 マリナの声は機械的だった。その理由は誰にもわからなかった。


 マリナと歩夢がツインテールに精神安定剤を打ち込むことに成功したのを、ルナリリルも確認していた。もちろん、マリナが弾丸で議員を黙らせたのも。
「……嫌な世の中だな、全く」
 正直、ルナリリルは議員の発言にイラついていたので、死ななきゃ少々扱いが雑でもいいや、と考えていた。
「それでも、とにかくやれる限りの事はやってみるとしよう。世に平穏をもたらす為にな」
 冷静にルナリリルは言った。
「ダメ元でもな……!」
 ルナリリルは、眼鏡の強化人間に対して、機導浄化術・浄癒を発動した。
 しかし、眼鏡はなおも止まらず、ルナリリルに対して攻撃を仕掛けてきた。
「やはり効果なし、か……」
 つまり、強化人間の暴走はバッドステータスではないのだ。


 ソレルはショートヘアと剣戟を交わしていた。
 ショートヘアが一閃、水平に斬り込んだ。
 ソレルは盾で軌道を逸らして、さらに上体を反らすことで、攻撃を躱す。
 続いて、ソレルは刀を上段に掲げて、相手の腕めがけて振り下ろした。
 しかし、ショートヘアはなおも距離を詰めてきて、返す刀でさらにソレルの胴体へ一撃見舞おうとする。
 距離が詰まったことで、ソレルの刃はこのままでは敵の頭に当たってしまう。ソレルは即座に刀を引きもどし、防御に転じた。盾で相手の攻撃を滑らせて、軌道を無理やり変える。
 胴からそれた斬撃はそれでもソレルの太ももを切り裂いた。
 ソレルは今、守りの構えを発動しているために、移動することができない。
 とにかく敵を足止めすることにソレルは専念していた。
 ショートヘアもまた、守りの構えに捕まって移動が出来なかった。
 2人はその場に釘付けにされたまま、刀を交わし合う。
 刃が触れ合って火花が散る。
 瞬間的に、倉庫内が明るく照らされる。
 風を斬る音、鋼が打ち合わされる音。
 そして、その瞬間はやってきた。
 ショートヘアは続く打ち合いに痺れを切らしたのか、今一度大上段に刀を掲げた。
 相手を首筋から腰にかけて両断しようとする刃が、ソレルを強襲する。
 音すら追いつけないような速さで振り下ろされるそれを、ソレルは自分の盾で受けた。
 甲高い悲鳴のような金属音が鼓膜を突き刺す。
 ショートヘアは盾に止められてなお、全体重を刀に傾け、刃を押し込もうとする。
 敵の腹部はガラ空きだ。しかし、攻勢に転じるために少しでも体重を移動させれば、即座に敵の勢いに負ける。そして、ソレルは相手を殺さないために、胴は狙わないことにしていた。
──このままでは押し負ける……。
 ソレルは思う。
──さあ、どうする。
 次なる手を考えていた時である、ショートヘアが急に体勢を崩し、攻撃を中断した。
 何ごとかと確認すると、ショートヘアは左手に注射器を握っていた。
「暴走が止まるかどうかは不明だが、精神安定剤の使用を推奨する」
 アイテムスローでマリナが精神安定剤を投げて寄越したのだ。
 しかし、あくまでアイテムスローはアイテムを渡すだけのスキル。それを使用するかどうかは受取手次第である。
 また、アイテムスローの効果対象は味方だけ。マリナがどんなに強化人間を味方に思っていようと、相手がマリナたちハンターを味方と思うかは別の問題だ。
 ショートヘアは、受け取った手で精神安定剤を握り潰した。
 ぱらぱらと破片が床に落ちる。
「投与不可能と理解。攻撃に移る」
 マリナの持っている精神安定剤はこれで最後。こうなれば、戦う他なかった。
「援護感謝する」
 精神安定剤に意味はなかった。しかし、アイテムを投げられたことで出来た相手の隙は見逃さない。
 ソレルの刀が閃く。
 ショートヘアもソレルの動きに気がついたがもう遅い。
 下から迫った刃が、ショートヘアの刀を持つ右腕を傷つけた。
 相手の腕がだらりと垂れる。
 即座にショートヘアは武器を左手に持ち替えるも、ソレルの方が早い。
 振り上げた刃を今度は振り下ろす。
 狙うのは足。ソレルの刀がショートヘアの太ももを斬り裂いた。
 それきり、ショートヘアは地面に倒れた。
 ついに体力が尽きたのであろう。
 太ももの傷は深いわりに出血量は多くなかった。
 何故なら、ソレルが活人剣を使い、重傷になりかねない血管を避けたからだった。
「これで、まずはひとり、だな」
 ソレルがひとまず安堵していった。


 眼鏡がルナリリルに銃の照準を合わせるが雷電が腕に絡みついて、引き金が引けない。
 その隙に、ルナリリルが銃で眼鏡の右肩を撃ち抜いた。
 眼鏡は衝撃で銃を取り落とす。くるくる回転して、銃が床を滑っていく。
 眼鏡は剣を構え近接戦闘を開始した。
 振り下ろされる剣。
 しかし、ルナリリルは体をずらして躱し、同時に抜き放った剣で居合の要領で相手の胴体を一撃食らわせる。
 眼鏡は続けて突進するように刺突を放ってきた。
「しつこい!」
 ルナリリルは振り向きざまに剣を逆手に持ち替え、剣の柄で突進してくる相手の顎を撃ち抜いた。
 眼鏡の強化人間の脳が揺れる。よろけた後、眼鏡はついに地面に大の字になって倒れた。
「お前も倒れとけ!」
 順手に剣を構え直し、迫り来る大柄の強化人間の腕を斬り裂くルナリリル。
 さらに、そこへマリナの銃弾が叩き込まれた。
 マリナはターゲッティングを使い、より防御の厚い部位を撃ち抜いた。
 大柄はマリナの方へ突進していく。
 しかし、その足が何かに絡め取られた。
「おっと、地縛符に引っかかるとは、ついてないね」
 歩夢がもしかしたら式神で相手を誘導することで効果があるのではないかと、設置しておいた地縛符であった。
「……ロックオン。殺さないで、倒す」
 マリナの弾丸でついに大柄の強化人間も倒れたのだった。


「どうして殺さなかった!?」
 議員が抗議する。
「起きたらどうするんだ!? なぜ殺さない!?」
「そこまでにしておけよ」
 ソレルが議員に冷たく言い放つ。
 出来れば一発殴ってやりたい──ソレルはそう思った。
 でも相手は一般人。手をあげるわけにはいかないのは承知している。いや、だからこそ、言わずにはいられない。
「お前らを守るために危険を冒しても戦っていた奴らだろうが。あいつらは勇敢な人間だ。それを……義理も、恩も、わかんねえのかよ。お前は」
「それでもあいつらは暴走した! そして、依頼人である私は暴走した強化人間を討伐しろと、殺せと言ったのだ! これでは依頼が達成されたとはとても言い難い!」
 議員はなおも自分が正しいと主張した。確かにそれはある意味で正しかった。
 ハンターたちは、暴走した強化人間を殺さず戦闘不能にすることで無力化した。それは不要な殺生を避ける尊い行為かもしれない。
 しかし、それは依頼の目的に反しており、この依頼の依頼人である議員も全くそれに納得していなかった。そういう意味で、この依頼は十全に達成されたとは言えなかった。
「みんな、生きてるの……?」
 その時であるツインテールが弱々しい声で問いかけた。
 結局その後、ツインテールが戦闘の邪魔をすることも、議員を狙うこともなかった。
「生きてるよ」
 歩夢が安心させるように言う。
「じゃあ、みんな、元に戻るの……?」
 ハンターたちは押し黙った。
 その方法はまだ確立されていない。そして、安易に首肯していいものではなかった。
「あたし、どうなるの……、これから、どうすればいいの……」
 倉庫での戦闘は無事終わった。
 傷はマリナがドリームパレードで癒した。
 しかし、そこには癒せない心の傷が残ったのだった。

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参加者一覧

  • White Wolf
    ソレル・ユークレース(ka1693
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 竜潰
    ルナリリル・フェルフューズ(ka4108
    エルフ|16才|女性|機導師
  • 真実を照らし出す光
    歩夢(ka5975
    人間(紅)|20才|男性|符術師
  • 青き翼
    マリナ アルフェウス(ka6934
    オートマトン|17才|女性|猟撃士

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アイコン 相談卓
マリナ アルフェウス(ka6934
オートマトン|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/08/08 00:19:43
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/08/03 23:34:08