星見る山で遭いましょう

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/08/10 19:00
完成日
2018/08/16 01:07

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●課外授業の下準備
 教師ジェレミアは山に来ていた。今度、課外授業で天体観測をするのだ。その下見に来ている。
 子どもの足でも登れるような低い山だ。所々急な斜面はあるが、登山道はなだらかなところを選んで作られている。
「虫が多いなぁ」
 季節的なものもあるが、羽虫が多い。虫の嫌うハーブなどを持たせるべきだろう。子どもたちが長いこと空を見上げていても危険がないスペースが取れるか、座れるところはあるか、間違って転げ落ちるところはどこか。そう言ったことを検分して行く。
 既に日は沈み掛かっている。良い景色だ。きっと、星空も綺麗なのだろう。今日はこのまま直帰になっている。もう少し景色を見てから帰っても、学校で待たせる人はいない。
「それにしても暑いな」
 ジェレミアは水筒の中の水を飲んだ。そして、休める日陰を探す。

 山頂の広場には、大きな木が真ん中に一本立っている。そこをぐるりと回って周辺を見ていたジェレミアは、不意に人の気配に気付いてそちらを見る。見れば、黄色っぽいワンピースを着た、学校の生徒くらいの少女が木にもたれて立っているではないか。見たことのない顔だ。彼の教え子ではない。
「君、こんなところで何を……」
 言いかけて、彼は絶句した。

 夕陽を浴びたその肌は、陶器のようにつやつやとしており、間違ってもヒトのそれではなかったからだ。

「……歪虚……」
「あら、よくわかったわね。何をしていると思う?」

 がちゃ、がちゃ、とどこからか音がする。
(にににに、逃げなきゃ!)
 彼は先日、ハンターたちから歪虚に遭遇した際の心構えを聞かせてもらう機会があった。そこで語られた内容は「とにかく逃げろ」。立ち向かって勝てるわけがないのは当然だし、少しでもこの歪虚の少女から逃げなくてはならない。金色の瞳がぱちぱちと瞬き、彼女が木から体を起こす。
「く、来るな!」
 生徒と同じくらいの年齢らしいその少女に怒鳴るのは正直心が痛んだが、今はそれどころではないと言うのも同じくらいの本音だった。少女はくすりと笑う。
「そう? 逃げようと言うのね? 良いわ。じゃあ追いかけっこをしましょう。朝になるまでにこの山から逃げられたら、あなたの勝ち。その前に私があなたに追いついたら私の勝ちよ」
 がちゃ、がちゃ、と音がする。
 自分が負けたら何をされるのか。考えるだに恐ろしくて、ジェレミアはよろよろと後ずさる。しかし、山を下りるだけならどうにかなる。
「……山を下りるだけなら簡単、なんて思ってる?」
 くすり、と彼女が笑った。

 がちゃ、がちゃ、と音がする。
 何の音?
 ブリキでできた蜘蛛の音!
 
 およそ小型犬くらいのサイズはあるだろうか。夕陽に照らされて金属光沢を見せる蜘蛛が、どこからかわらわらと、少女の元に集まってくる。
「う、うわああああ!?」
「可愛いでしょう? 私の蜘蛛よ。私の言うことを聞いてくれるの! これが私の味方よ。二十いるから、山中に放ってあなたを探すわ」
「な……」
 そんなの反則ではないか。でも、少女は首を傾げて微笑むばかりだ。
「そうね、私の方が数が多いわ。不公平ね。だからあなたに先にスタートさせてあげる」
 そう言って、彼女はジェレミアに近づいた。

 彼の足下にいた蜘蛛を踏み台にすると、その胸を思い切り両手で突いた。

「ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 転倒したジェレミアは、その後ろの斜面を転がって行く。どれくらい転げただろうか、木にぶつかって、ようやく止まったところで顔を上げる。少女は随分と遠くになった。安心するが、右足を捻挫したようで、痛い。
「さあ! 今からスタートよ! 早く逃げなくては死んでしまうわ! さあ! さあ!」
 楽しげで、それでいた狂ったようにも聞こえる歓声。夕陽に満ちる山の中で、金色の瞳が光った。
「う、ううう……」
 ジェレミアは匍匐前進で斜面を降りる。上から金属がふれあう音がした。こちらにもいくつか向かってくる。

 早く降りなくてはならない。

●ハンターオフィスにて
「山で蜘蛛雑魔が目撃された。金属っぽいやつって言ってたからね、多分嫉妬だろう。この前も出なかった? まあ、とにかくその蜘蛛が、山じゅうに広がって、何かを探しているようだって」
 青年職員がそう説明していると、慌てた様子で眼鏡にお下げの職員がやって来た。
「ちょっと、ちょっと、それ、蜘蛛の出る山ですよね」
「そうだよ」
「続報ですぅ。小学校の先生が、その山に課外授業の下見で行っていたんだそうですぅ。ジェレミア先生、直帰の予定だけどまだ家に帰ってきてないって」
「なんだって?」
 青年職員はハンターたちを見回した。
「山を燃やせば済むってわけにはいかなくなったぜ。諸君急いでくれ。下見に行ってからどれくらい経ってるの?」
「授業が終わってから出発したそうなのでぇ、かれこれ三時間」
「やばい。蜘蛛の目撃証言が一時間前だ。蜘蛛が後から来たとは限らないけど、もし山道で遭遇してたら逃げて通報しても良さそうだもんな……行ってから蜘蛛が来た可能性は高い。やばい。急いでくれ」
「ジェレミア先生って……」
 お下げの職員が呟いた。青年職員は頷いた。
「この前も嫉妬歪虚に襲われた先生だよ。この前はハンターが間に合ったけど。今度もそうとは限らない。無事を祈るしかないね」

リプレイ本文

●四本の登山道
 登山道は四本ある。ひとまずそれぞれの登山道から上りながらジェレミアに声を掛ける、と言うことで一同の意見は一致した。まず、本人が登ったという東から入ることを希望したのは穂積 智里(ka6819)と星野 ハナ(ka5852)だ。ヴァイス(ka0364)、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、レイア・アローネ(ka4082)は他に合わせると言う。
「占術で見てみたんだけどね」
 そう言ったのは鞍馬 真(ka5819)だ。
「その結果、一番蓋然性が高いのは西南西と言うことになった。勿論、占いだから必ず当たるわけじゃない。でも、手応えを感じるんだ。自分で出した結果でもあるし、私は西に行きたい」
「ああ、構わないと思うぜ。じゃあ俺は……北から行くか」
「では私は南から行こう。これで四方向だな。アルトはどうする?」
「東以外が一人ずつか……占いの結果が西なら私も西に行こうか。東西に二人ずついれば、南北に何かあってもすぐに駆けつけられる」
「ああ、東の智里も移動力あるからな。丁度良いだろう」
「よろしくお願いしますぅ。それにしても、人形と言い蜘蛛と言い、この辺嫉妬大発生ですぅ? カッツォクラスとは言いませんけどぉ、そこそこ大物が隠れてるかもですぅ」
 災厄の十三魔にして、嫉妬歪虚の中でもかなり上位にいる歪虚。殺人脚本家の異名を取るカッツォ・ヴォイ。彼ほどでないにせよ、嫉妬の歪虚が多く発生するなら、それなりに位のある歪虚がいるかもしれない。終わったら山狩りですぅ。ハナの目は据わっていた。
「ジェレミア先生、歪虚に好かれ過ぎているみたいで心配です……」
「あの時にいた教師か……無事に逃げてくれればいいのだが……」
 ジェレミアと面識のある智里とレイアはやや心配の面持ちだ。ハンターたちはトランシーバーと伝話の設定を済ませると、各々担当する登山道へ向かった。

●光の道
 二人分の水晶球が煌々と灯りを灯している。ハナと智里は、東の登山道から山頂を目指して登っていた。
「見つかるかもしれませんけど、視界の確保優先で良いですよね」
「勿論ですぅ。できるだけ歪虚を引きつけてぇ、先生の安全確保しましょう」
「はい」
「あら……」
 二人がジェレミアの姿を探しながら歩いていると、どこからか少女の声が降ってくる。
「お迎えね? ずるいわ……でも、見付けられるかしら?」
 楽しんでいるような声だ。智里はむっとした顔で空を見上げ、ハナも不機嫌そうな顔を作って言い返す。
「お前、もしかしてカッツォの手下ですぅ?」
「どう思う?」
「この近辺をねぐらにするつもりなら殺しますよぅ」
「嫌よ。蜘蛛以外の虫が多すぎるもの……ふふ、それでも、私がここをねぐらにしたらどうするの? 逃げる?」
「お前程度が怖くてハンターやれるかですぅ」
「まあ、怖いお姉様。でも、そんなに怒っていては」
 金属の音がする。
「私の蜘蛛があなたたちを見付けてしまうわ」
「ハナさん!」
 智里が警戒を促した。蜘蛛の雑魔が、二人を見付けてやって来たのだ。左右から、一匹ずつ。
「残念でしたぁ。私たちは先生じゃありませぇん」
 ハナは符を取り出す。殺気が放たれている。挟まれる形になったが、智里にも攻撃の準備がある。ためらう理由もない。五色光符陣とデルタレイの光が、水晶球の灯りに加わった。

●レイアの願い
 南から登っていたレイアは、蜘蛛雑魔と交戦していたが、おもむろに相手が吐き出した糸が足に絡んでしまっていた。動きにくい。
「くっ!」
 だからと言って、突っ立って餌食になるつもりもない。
「蜘蛛たちは誰が誰だかわかってないの。あなたが彼でなくたって構わない」
 少女の楽しげな声がする。
「ならば!」
 彼女は攻撃を一旦捨てた。守りの構えだ。
「掛かってこい!」
 蜘蛛が飛びかかってくる。備えていたおかげで、それを回避することは容易だった。糸を払うことには失敗したが、敵を排除することを優先とした。なぎ払う。動きにくい分、相手が避けにくい戦法を使うのが得策だ。蜘蛛は正面から斬撃を受けて消滅した。
「あら……面白くなったと思ったのに……」
「貴様!」
「ふふっ! 早く見つかると良いわね」
 レイアは以前ジェレミアと会ったときのことを思い出す。歪虚対策の講習会の時のことだ。とにかく逃げるようにと言ったハンターたちの言葉に頷いていた彼が浮かんだ。
(正直それさえ正しい選択とは言い切れない。逃げても無駄な時もあるからだ)
 彼女は足に絡んだ糸を断ち切る。
(……それでも……上手く逃げてくれ……!)
 呼びかけながら彼女は登山道を行く。
 生きた人間も死んだ人間も見つからなかった。

●踏み外した跡
 槍に光を灯しながら、ヴァイスは北の登山道を上がって行った。少女の声が語りかける。
「光る槍ね。そんなに明るくしては私の蜘蛛があなたを見付けてしまうわよ?」
「ま、それはそれで好都合なんだよな」
「私の蜘蛛は二十いるのに?」
「大分減ってるぜ」
「こんなに可愛い蜘蛛に暴力を振るうなんて、人の心がないのかしら?」
「どの口で言うんだ?」
 ヴァイスは眉を上げる。
 既に、仲間たちから蜘蛛雑魔撃破の連絡は来ていた。この山に二十。だとしたら、一匹当たりが受け持つ範囲も広くなる。突然大勢に襲われることはないし、一人三体ちょっと倒せば殲滅だ。もっとも、少女が本当の事を言っている保証もないのだが。
 がちゃ、と金属が鳴る音を、ヴァイスの耳は捉えた。音のする方に槍をかざすと、光を反射する小型犬サイズの蜘蛛が、確かにこちらを見ている。
「お出ましか」
 光らせたままの槍を構える。その後ろから、もう一体来ているのを見た彼は、好機と判断した。蒼炎で槍に魔力を纏わせる。蜘蛛が攻撃態勢を整える前に、踏み込んで一気に二体刺し貫いた。確かな手応えを感じる。蜘蛛は貫かれたまま消滅した。あとは静かなものだ。やはり、数はそれほど多くないらしい。
「ヴァイスだ。今蜘蛛を二体撃破した。ジェレミアはまだ発見していない」
 仲間に連絡を入れる。丁度反対側、南にいるレイアとの通信は、雑音が多かったがなんとか通じた。
(それにしても、遊んでるみたいなものの言い方だな)
 そんなことを思いながら、彼は山頂にたどり着いた。少女の声はあれっきり聞こえない。
「ヴァイスさん」
 丁度、東からきたハナと智里も上がってきていた。
「おう。何体か蜘蛛にちょっかい掛けられたがお前たち大丈夫だったか?」
 連絡は取っていたが、実際に顔を見れば気を遣うものだ。だが、二人とも特に怪我した様子はない。
「大丈夫ですぅ。五色光符陣連打すればイチコロですぅ」
「数も多くなかったですしね」
「声によれば二十だ。本当の事を言っていればな」
「あ、でもそれは信憑性ありそうですね」
 智里が頷いた。
「山中に散らばっているなら、一匹一匹の距離は伸びますし」
「そうは言ってもぉ、歪虚の言うことですし信用なりません。先生を見付けたら山狩りですぅ。オフィスから許可は貰ってますぅ」
 そう。ハナはオフィスでこの依頼を請け負った時点で、ジェレミアを救出した後、一匹残らず雑魔を殲滅するための山狩りの許可を得ている。
「遊びに行った子供が殺されたり攫われたりしたら目も当てられませんからぁ。私の経験に過ぎませんけどぉ、嫉妬歪虚は他より契約者を欲しがる傾向が強い気がするんですぅ……殺るなら徹底的に殺らねばですぅ」
 どの道、歪虚が残っている可能性があって放置を指示するほどオフィスも落ちぶれてはいない。説明した職員も、
「頼むよ。一匹残らず潰してくれ」
 と言って送り出した。
 さて、三人は、他の三人に山頂までたどり着いた旨の連絡を入れてから、広場を探した。もしかしたら下山できずに隠れているかもしれない。しかし見つかったのは……。
「……追われて落ちたのでしょうか」
 人が踏み外した様な痕跡だった。
「蜘蛛に落とされたのかも知れないですぅ」
 そう言ってハナが指すのは、丁度人が踏み外したらしいところのすぐ手前にある、二列に並んだ合計八つの小さな穴だった。丁度蜘蛛がここにいたような。しかしそれにしては深い。
「穂積です。山頂、南西の傾斜に人が踏み外した様な痕跡を発見しました。鞍馬さんの占いの通り、西の可能性が……」
 その時だった。山中に呼子の音が響き渡った。彼女たちの足下、もっと下の方から聞こえた。

●『大きな声』
 アルトはバイクで可能な限り登山道を先行した。真は西登山道の、少し南側にそれた山の中に入る。西南西、と言う極めて微妙な方角が出たのだ。勿論占いだから必ず当たるわけではない。だが、真はその結果に確かな手応えを感じていた。まるで、全ての縁と運が、彼を導こうとするかのように。
 金属音がした。水晶球でそちらを照らすと、威嚇するように足を上げる蜘蛛がいる。風雷陣を放つと、まるで避雷針に落ちる雷の様に蜘蛛を貫いた。
「ジェレミアさん!」
 アルトが拡声器で呼びかける。バイクを降りた徒歩の彼女の高さまで、真も追いついていたようだ。
「助けに来た! 今六人で探している!」
「あら……随分と大きな声ね?」
 少女の声がどこからかする。真は上を見た。姿は見えない。
「……陰から見ていて楽しいか? まあ、楽しいんだろうな……嫉妬らしい感性だよ」
「そうかしら? こっそり贈り物を置いて、それを開けた人がびっくりするのを、影から見たことはないの?」
「趣味の悪い贈り物だ」
 真は嫉妬の歪虚と因縁がある。嫌悪感を隠さずに言い返した。
「そんなことより、あんなに大きな声で呼んで良いのかしら? 彼、先生なんでしょう? 呼ばれたらきっと、返事をしてくれるわ。大きな声でね」
 くすくすと笑う。
「私の蜘蛛がそれを見付けるわ」
「だったら、それより早く見付けるだけだ」
 アルトが落ち着き払って言い返すのが聞こえる。彼女は再び拡声器で呼びかけた。真は少し思案してから、言い放つ。
「つまり、私たちは彼の返事が聞こえるところにいるんだね?」
「あ」
 しまった、と言わんばかりの声がした。ハッタリのつもりだったが、相手は思ったより正直か、頭が足りていないらしい。真は口角を上げる。次の瞬間、呼子の音が響いた。真の近くだった。

●星見る山で遭いましょう
 真は直感する。これは教師に間違いないと。彼はまさに、アルトの『大きな声』に対して、同じく『大きな声』で返事をしたのだ。
「先生! アルトさん、こっちだ!」
 駆け出すと同時に叫ぶ。アルトが踏鳴で登山道から飛び込み、真を追い抜く。上の方から蜘蛛が降りてきた。
「行かせない」
 コンボカードからの風雷陣。絶対に外せない、外さない。手首を翻して放った符は、すぐに雷に変わった。打たれて蜘蛛は消える。
「ずるいずるい! そういうのを『ゆーどーじんもん』と言うのよ!」
 少女の声は責め立てるように喚いた。動揺しているようだ。真も言い返す。
「言わないよ。そっちが勝手に言ったんじゃないか」
「真! ここだ!」
 アルトの声を頼りに走って行く。疾影士に抱き起こされた男性の姿が見えた。
「先生!」
 上から降りてきた智里が声を上げる。後から、ハナとヴァイスも追いついた。智里は、レイアがいないのを見て取ると、すぐにトランシーバーを取り出して連絡を入れた。
「穂積です! レイアさん大丈夫ですか? 南西の、少し西寄りのところで先生をみつけました!」
「こちらアローネだ! すぐ向かう!」
 レイアも呼子の音ですでにこちらに向かっていたらしい。すぐに合流した。
「怪我は?」
 アルトが訪ねると、ジェレミアは苦笑して右足をさする。
「突き落とされた時に捻挫したみたいだ。それ以外は大丈夫だよ。拡声器で呼んでくれて良かった。近くにいるってわかったから」
「突き落とされたのか」
 ヴァイスが顔をしかめる。そして、ハナと智里を見た。
「ハナが見付けたあの蜘蛛の足のような跡……」
 ハナは瞬き一つして結論に至ったらしい。ジェレミアを見て尋ねる。
「もしかして、蜘蛛を踏み台にした女の子に突き落とされたとか、ですかぁ?」
「よくわかったね。その通りだよ」
「あいつら、やりかねませんのでぇ」
 ハナは不機嫌そうな顔になったが、すぐに笑顔になって荷物の中からピッガーズを取り出した。智里も、ミネラルウォーターとパンを取り出す。
 ジェレミアは水筒と、小さな紙を取り出した。紙の方は何か包んでいたらしい。
「教訓と、ご教授に従ってね、僕も用意してたんだ。でももう空っぽだし、角砂糖じゃお腹にたまらないね」
 ピッガーズとパン、水をその場で消費した教師は、そこでようやく人心地ついたようだった。ハナが傍らにしゃがみ込む。
「一緒に下山しましょぉ。山狩りは後で此方でやりますからぁ」

●嫉妬の声
 移動力の高いアルトがジェレミアを背負い、同じく移動力のある智里がそれに付き添う形で下山を始めた。蜘蛛が全部で二十、と言う少女の声を信じるなら、半数以上は減らしたことになる。
「手が使えないと困るから、しっかりつかまっていてくれると助かる」
 アルトの言葉にジェレミアは従った。危険を承知で呼子を鳴らす程度に、彼はハンターを信用しているし、協力も惜しまない。
 下山中に危ない目に遭うことはなかった。出くわしたのも一体だけで、アルトはそれを無視して駆け抜けた。ヴァイスの蒼炎を纏った槍がそれを突き刺し、消滅させる。
 誰も大怪我をすることなく下山は完了した。ジェレミアは気が抜けたのかぐったりとしている。
「声の主は彼をただ殺したいってだけじゃないみたいだな……」
 ヴァイスが山を見上げる。真が首を振った。
「嫉妬にはそう言うところがあるんだよ。根性が悪い」
「先生も無事下山できたことですしぃ、山狩り、行っちゃいますぅ?」
 ハナが仲間たちを見る。真っ先に頷いたのは真だった。
「ああ、行こう。親玉は逃がしたかもしれないけど、残党はいるだろう」

 思った通り、蜘蛛の形をした歪虚はあまり残っていなかった。全部で二十と言う言葉に偽りはなかったようだ。正直なのか、頭が足りていないのか。
「嫉妬ってぇ、変に狡猾ですけどぉ、たまにお馬鹿さんですよねぇ」
「お馬鹿さん……そうだね。今回の声にはそう言う表現が合う気がするな」
 自分の力をひけらかす子どものようだ。嫉妬には往々にして子どもじみたところがあると言われている。
 嫉妬は何かに執着する。彼女とまた邂逅するのは自分たちか、それとも教師か。
「先生、嫉妬は一度何かに執着するとしつこいし、身の回りには気を付けた方が良い」
 真はジェレミアにそう進言した。
「何かあったら、ハンターオフィスを頼って欲しいな」
「うん。そうさせてもらうよ。ありがとう」
 教師は屈託なく答える。
 空には星が見えた。凶兆も吉兆も示さない、ただ穏やかな星空。
 ひとまず、夕べの蜘蛛がもたらした凶事は解決を見たようである。

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MVP一覧

  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

  • 鞍馬 真ka5819

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 作戦卓
レイア・アローネ(ka4082
人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/08/10 18:49:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/08/09 01:12:49