ゲスト
(ka0000)
旧水道跡ゴミ拾い作戦
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/08 19:00
- 完成日
- 2018/08/21 03:02
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
嘗て、この地域に未だマテリアルを用いた水道の技術がもたらされていなかった頃のこと、川から町に畑に、水を引くための樋が巡らされていた。
その殆どが新しい技術の水道に置き換わり、廃れていったが、未だ僅かにその形を残す物が有る。
長い時の流れの中、苔生してひび割れて、土の中に半ば埋もれた樋を揺り籠のように眠る精霊がいた。
樋に使われるよりも前に石の中に生まれて、加工され、廃れて、尚昏々と眠り続けていたらしい。
最近、その眠りを妨げられたと言って、精霊はからりころりとオフィスを訪ねてきた。
「目を覚ましたばかりでここらのことはよく知らぬ。かか様の声を遠く遠くに聞いておったが……」
清廉な紫の光りを纏う、大層賢いお方だというかか様は、恐らくアメンスィのことだろう。
かの精霊は、先頃までこちらと不仲だったと聞くが、眼前の精霊もこちらを覗うように、目を眇めている。
「なに、唯、是れの寝床を掃除してくれたら、かか様へご挨拶に参じる手土産として、ご助力頂きました、と、申して遣っても良いと云っている」
●『旧水道跡ゴミ拾い作戦』
仮称をラヴェルと名乗った精霊の依頼を受けて集められたハンターへ、軍手と長靴、トングとゴミ袋が支給された。
白と灰の斑のヴェールを被った小柄な精霊。顔は見えないが時折覗かせる手には深い皺が多く、節が目立つ。
しゃがれた声は老婆のそれ、歩く度にからんころんと転がる様な音が鳴る。
よろしく頼むぞ。と、細い肩を聳やかして居丈高に言ってみせるが、その両手にもトングが確り握られている。
旧水道は、川の近くは埋められたが、残りは現在の水道管に併走するように所々石樋の縁を覗かせている。
全体が露出している部分を見れば、深さは膝上程度まで、幅は大人の肩幅を超えない程度。
小柄な精霊が横になると、丁度すっぽりと収まるようだ。
回りは木や草が茂って陰り、石の表面はひんやりとして心地良い。
ハンター達は休憩を取りながら、伸びすぎた草を刈ったり、枯れ葉を拾ったりしながら歩いて行く。
「是れは、この辺りで眠っておった。ここまで上から進んできたが、是れを起こした無粋ものはおらなんだな」
下流にいるのかと、水道跡の脇に支給品のシートを敷いて茶を飲みながら眺めるが、ここからは更に町へ近付いていく。
町の賑やかさで起こされたのだろうかと首を捻り、もっといやな物だったと首を振る。
カップを片付け、シートを畳みハンター達は再び歩き出す。
枯れ葉に紛れる人工物のゴミも増えてきた頃に、ハンター達もその無粋ものの気配を、負のマテリアルのそれを感じ取った。
※
※
※
●所謂、前日譚(「或る少女と歯車の思い出―訪問―」より一部を抜粋)
少女の人形は通りを隔てた屋根の上に腰掛けて、或る家を眺め、その家族の物語を聞いていた。
「――――とても残念です、こちらに越してきた時の荷物に紛れて捨ててしまったかも知れません。どこかに有ると思いたいのですが、実物は……私もこの子も見たことがない」
「祖父ちゃんの人形さん?」
「うん、祖父ちゃんと友達の特別な人形さんだよ」
男は小さな息子の頭を撫でながら、彼の父親が語った昔話を思い出す。
若い頃に友人達と作っていた特別な人形。
歯車の仕掛けで歩き、剣を立てて掲げ、跪いてから立ち上がって引き返す。
人形にしては複雑な動きをするその計画は、まだほんの数歩を歩いたところで、計画を凍結させていた。
絵を得意としていた祖父が友人達に披露した、その人形をイメージして描いた柔らかな金髪と緑の目の少年が、大層好評だったと晩年まで自慢していた。
仕事や、色色な都合で別れることになった祖父を含む6人の友人達は、人形を頭と胴、左右の手足を分け合って、将来それを完成させるべく再会することを誓ったという。
祖父はその右腕を持っていた。
祖父が友人達の再会に間に合わなかったことと、右腕の遺失を伝えた、その晩。
両親の亡骸が転がっている。
全身から夥しい血を流し、恐怖に引き攣った顔、裏返った目玉、逃げろと叫んだ口。
2人を殺した少女、壮絶に美しく、夜の暗がりにも映える白磁の肌。艶やかに微笑んだ唇に、薔薇色の頬。
こんな状況であってさえ見とれてしまうほどの麗しい人形。
幼い一人息子は、悲鳴も上げられずに膝から崩れて意識を無くした。
「見付けたわ」
人形の手には人形の手、家中をひっくり返すように荒らして、漁って。少女の人形は彼女の手よりも一回り大きな手をして、歯車に飾られた人形の右腕を掲げた。
人形の右腕は見る間に黒く侵蝕された。
(「或る少女と歯車の思い出―贈物―」に続く)
嘗て、この地域に未だマテリアルを用いた水道の技術がもたらされていなかった頃のこと、川から町に畑に、水を引くための樋が巡らされていた。
その殆どが新しい技術の水道に置き換わり、廃れていったが、未だ僅かにその形を残す物が有る。
長い時の流れの中、苔生してひび割れて、土の中に半ば埋もれた樋を揺り籠のように眠る精霊がいた。
樋に使われるよりも前に石の中に生まれて、加工され、廃れて、尚昏々と眠り続けていたらしい。
最近、その眠りを妨げられたと言って、精霊はからりころりとオフィスを訪ねてきた。
「目を覚ましたばかりでここらのことはよく知らぬ。かか様の声を遠く遠くに聞いておったが……」
清廉な紫の光りを纏う、大層賢いお方だというかか様は、恐らくアメンスィのことだろう。
かの精霊は、先頃までこちらと不仲だったと聞くが、眼前の精霊もこちらを覗うように、目を眇めている。
「なに、唯、是れの寝床を掃除してくれたら、かか様へご挨拶に参じる手土産として、ご助力頂きました、と、申して遣っても良いと云っている」
●『旧水道跡ゴミ拾い作戦』
仮称をラヴェルと名乗った精霊の依頼を受けて集められたハンターへ、軍手と長靴、トングとゴミ袋が支給された。
白と灰の斑のヴェールを被った小柄な精霊。顔は見えないが時折覗かせる手には深い皺が多く、節が目立つ。
しゃがれた声は老婆のそれ、歩く度にからんころんと転がる様な音が鳴る。
よろしく頼むぞ。と、細い肩を聳やかして居丈高に言ってみせるが、その両手にもトングが確り握られている。
旧水道は、川の近くは埋められたが、残りは現在の水道管に併走するように所々石樋の縁を覗かせている。
全体が露出している部分を見れば、深さは膝上程度まで、幅は大人の肩幅を超えない程度。
小柄な精霊が横になると、丁度すっぽりと収まるようだ。
回りは木や草が茂って陰り、石の表面はひんやりとして心地良い。
ハンター達は休憩を取りながら、伸びすぎた草を刈ったり、枯れ葉を拾ったりしながら歩いて行く。
「是れは、この辺りで眠っておった。ここまで上から進んできたが、是れを起こした無粋ものはおらなんだな」
下流にいるのかと、水道跡の脇に支給品のシートを敷いて茶を飲みながら眺めるが、ここからは更に町へ近付いていく。
町の賑やかさで起こされたのだろうかと首を捻り、もっといやな物だったと首を振る。
カップを片付け、シートを畳みハンター達は再び歩き出す。
枯れ葉に紛れる人工物のゴミも増えてきた頃に、ハンター達もその無粋ものの気配を、負のマテリアルのそれを感じ取った。
※
※
※
●所謂、前日譚(「或る少女と歯車の思い出―訪問―」より一部を抜粋)
少女の人形は通りを隔てた屋根の上に腰掛けて、或る家を眺め、その家族の物語を聞いていた。
「――――とても残念です、こちらに越してきた時の荷物に紛れて捨ててしまったかも知れません。どこかに有ると思いたいのですが、実物は……私もこの子も見たことがない」
「祖父ちゃんの人形さん?」
「うん、祖父ちゃんと友達の特別な人形さんだよ」
男は小さな息子の頭を撫でながら、彼の父親が語った昔話を思い出す。
若い頃に友人達と作っていた特別な人形。
歯車の仕掛けで歩き、剣を立てて掲げ、跪いてから立ち上がって引き返す。
人形にしては複雑な動きをするその計画は、まだほんの数歩を歩いたところで、計画を凍結させていた。
絵を得意としていた祖父が友人達に披露した、その人形をイメージして描いた柔らかな金髪と緑の目の少年が、大層好評だったと晩年まで自慢していた。
仕事や、色色な都合で別れることになった祖父を含む6人の友人達は、人形を頭と胴、左右の手足を分け合って、将来それを完成させるべく再会することを誓ったという。
祖父はその右腕を持っていた。
祖父が友人達の再会に間に合わなかったことと、右腕の遺失を伝えた、その晩。
両親の亡骸が転がっている。
全身から夥しい血を流し、恐怖に引き攣った顔、裏返った目玉、逃げろと叫んだ口。
2人を殺した少女、壮絶に美しく、夜の暗がりにも映える白磁の肌。艶やかに微笑んだ唇に、薔薇色の頬。
こんな状況であってさえ見とれてしまうほどの麗しい人形。
幼い一人息子は、悲鳴も上げられずに膝から崩れて意識を無くした。
「見付けたわ」
人形の手には人形の手、家中をひっくり返すように荒らして、漁って。少女の人形は彼女の手よりも一回り大きな手をして、歯車に飾られた人形の右腕を掲げた。
人形の右腕は見る間に黒く侵蝕された。
(「或る少女と歯車の思い出―贈物―」に続く)
リプレイ本文
●
後悔する。
この依頼を断れば、きっと。銃に持ち替えて握るトングの先を見詰めてマリィア・バルデス(ka5848)は暫し考え込む。
依頼を見た瞬間背筋に走った寒気の感触が、未だにべったりと這うように残っていて、炎天下の汗も相俟って酷い不快感を催している。
「少し多めに貰っていって良いかしら?」
それを振り切るように受付嬢へ声を掛けて、ゴミ袋の束を掴んで目的地へ向かった。
ハンター達と対面した精霊は、トングの先をひょいひょいと揺らし、値踏みをする様な視線をヴェール越しに向けてくる。
「ブリジットです。宜しくお願いしますね」
丁重に頭を下げてブリジット(ka4843)が名乗り、玲瓏(ka7114)は懐かしそうに目を細めた。
「……それも水道のとなれば、生活にも身近な神様ですね」
多様な神を祀っていた故郷を思い出す。ラヴェルと名乗る精霊が眠っていたのも、水道に用いられる以前はそのような石の一つだったのだろう。
「今回はよろしくお願いするわ、」
カリアナ・ノート(ka3733)がそこで言葉を切る。
斑のヴェールを見詰めて次の言葉に詰まっていた。
「……ラヴェル、さん?」
覗いている手や首元の皺は深く、小柄な身体は筋張って背を丸めているようにも見える。
しかし、おばーちゃん、などと、呼んでは怒られそうだ。迷いを見透かすように、ひゅんと踊ったトングの先が向けられた。
「顔に出ておるぞ。大方是れが醜い老婆に見えるのだろう?」
その通りだと笑う声は矍鑠として、トングの先をボルディア・コンフラムス(ka0796)とGacrux(ka2726)にも振り向ける。
行くぞ、と小柄な形相応の狭い歩幅を急かして先頭を歩き、旧水道の端へ至る。
綺麗にすることを厭うわけでは無い、とボルディアが泥と混ざって折り重なった枯葉を除いて石樋を掘り出しながら溜息を吐く。
「はー……全く、めんど、いや、何でもねぇよ」
先は長い。ガクルックスも、川から離されて長い年月を感じるその跡を眺め、使われていた頃を思い呟いた。
「時代と共に、此処も忘れられた場所になっていくのでしょう」
ハンター達がそれぞれ作業に取り掛かる横で、精霊も両手のトングを振り回しながらも器用に扱って溜まった枯葉や朽ちた雑草を除いていく。
●
泥に埋もれていた辺りを終えると、枯木や、新しい落葉も目立ってくる。どこからか飛んできたゴミも混ざっており、精霊は摘まみ挙げたそれを興味深そうに眺めていた。
先ずは大きな物からだな、と、ボルディアが口を大きく広げたゴミ袋に枯木を放り込む。
トングで軽く掴める物を次々と放り込みながら進んでいく。
続いたガクルックスは枯葉や泥の残りを箒で除き、最後にカリアナが残った雑草を抜いて行く。
「塵一つ残さないわ!」
サンダルの足で仁王立ちになって、夏の陽差しに眩しい剥き出しの腕を樋の底まで伸ばして、取り残しのゴミを捕まえて袋の中で手を払う。
ガクルックスが精霊へ目を向けた。
今し方まで先頭を行っていたが、ゴミに飽いたのかボルディアに任せて下がっている。
疲れたのかと見れば、両手のトングは相変わらずひょいひょいと忙しなく動いていた。
「眠りを妨げたものが何であるのかは気になりますね……この辺りの物では無いようですが」
枝や葉など、自然物のごみは構わずに袋へ。ブリジットが気に掛けながら拾った人工物の、何かを包んでいたらしい紙袋や、元の形の想像の付かない錆びた金属片は、精霊の興味を惹いたが気配は無いと一蹴される。
念の籠もりやすい物に注意しようと石樋を見るが、辺りには他に変わった物は見当たらない。
「……あんまり良い事じゃなさそうよね。寝ているのが好きなら、良い事が起きたってそのまま寝ていそうでしょう?」
黙々と作業を進めていたマリィアの手がふと止まり、摘まみ上げた丸い石にはしゃぐラヴェルを一瞥した。
この精霊が目を覚ました理由とは。途方も無い時間を、宿った石が切り出されても尚、眠っていた精霊が目を覚まし助けを求めるような理由。
雑魔でも棲み着いたのだろうか。そう思って身構えながら、目の前のゴミを拾い上げてゴミ袋へ落とす。
石を、ぽい、と樋の外側へ転がして精霊はマリィアの顔を見上げた。
ヴェール越しの目は覗えないが、口許に刻まれた皺は人の良さそうな形をしている。
「是れが寝汚いみたいに言うな。まあ、良い事では無いな」
精霊はヴェールを深く被り直してトングを振りながら玲瓏の方へと小走りに近付いた。
「精霊様からすれば、ここはどんな場なのでしょう」
掃除はお清めの基本、そう留め置いて一心に手を動かす。
精霊自身が作業に加わるとは、余程困っていたのだろうと。それに加えて、良い事では無いという言葉。
玲瓏は連れた犬、こまを呼んで回りを見張るように言う。頷く様に鬣を揺らして小さく吠えた犬は耳を立てて鼻をひくひくと、空気に紛れた異物の匂いを探る。
お喋りは嫌いでは無いという精霊に話し掛けている内に精霊が目覚めたと言う辺りまで下ってきた。
「疲れてませんか? 少し休みましょう」
ガクルックスが声を掛ける。頭3つ程背の低い精霊、カリアナよりも小さく見えるが、丸めた背を伸ばせば僅かに越えるくらいだろうか。
何も無かったというようにこまも玲瓏の側に戻ってきた。
シートを広げて暫し腰を下ろして休む。
カリアナから差し出されたミネラルウォーターのコップを受け取った精霊は暫くそれを眺めてからゆっくりと乾した。
長く水が傍らにあったから懐かしいのだと、小さな足で石樋の中を歩き振り返る。
休憩を終えて歩き出す。ゴミ袋も次第に重くなり、ガクルックスが持ち込んだ荷車が役に立ち始めた頃。
拾うゴミは人工物の割合が増え、その原形を留める最近廃棄されたような物も見え始めた。
精霊は拾い上げた紙片の文字に首を捻り、隣にいたカリアナに読んでくれと言う。
そしてそれがどうやら恋文の断片であると知ると腹を抱えて笑い出したが、石樋に向き合うハンター達はそのゴミに辟易と溜息を吐く。
「すごい量ですね」
玲瓏が手許のゴミ袋を見て呟く。
水の流れる場所に汚れを溜めるのは良くない。悪臭や感染症の元にもなってしまう。
精霊は頷きながら小さな手で先を指す。この樋は町へ水を引き込むための物。流れに乗ればそれは町に届いてしまう。
一頻り笑った紙片を玲瓏のゴミ袋に放り込み、相槌を打つ。
摘まんだ木の玩具には、石樋の中で無ければ土に帰っていただろうと、トングの先で弄び呟く。
玲瓏がやはり困っていたのだろうかと尋ねると、この程度で目覚めることはないと言って首を横に揺らした。
「人間の暮らしの断片だと思えば面白い。是れを起こした物に比べれば些末。可愛らしいにも程がある」
呵呵と笑った精霊を暫し眺めてマリィアがそっと近付いた。
「ラヴェルさん……だったわよね? 寝ている間の知覚はどの程度働くのかしら」
精霊は誰かに似ているようにも思えず、傲慢に見えた様子も、他者との交流がなさ過ぎたためだろう。
仲間との会話で幾らかの刺は取れた様にさえ見える。
さっぱりだと言う様に首を捻る精霊は、樋をトングで叩く。軽く、強く。そしてまた、首を捻る。
「切り出される前は夢もちょくちょく見ておったが。もう憶えておらんな……かか様のことは不思議とよく存じ上げておるのだが」
そのお姿まで鮮明に。トングを樋に叩き付けるとこちらの方が痛みそうだと言って精霊はゴミ拾いに戻る。
そう、とマリィアは樋の先へ視線を向けた。
宿る石を叩かれても感知出来ない。しかし、長く触れていたらしい水の流れは、懐かしむ程度には感じ取っていた。感じていたのが水ではなくマテリアルだったとしたら。
こういう場所を好みそうな歪虚に心当たりが複数有る。ラヴェルを起こした存在に警戒を強めた。
原因も当然ですが、とブリジットは傾いだゴミ袋の端をガサリと音を立てて引き上げる。
「住処がゴミで埋まっているというのは、気持ちのよいものではないでしょう」
抑も、人間の出したゴミ。お詫びしたいところです、と精霊を見れば、片方だけの手袋を摘まみ上げて、自身の手に合わせて眺めている。
二回りも三回りも大きなそれをゴミ袋へ放り込んで、精霊はブリジットの顔を見上げた。
「捨てたのか?」
小さな指がブリジットを指す。あたしでは無いけれど。そう言い淀むと、精霊はふいと顔を背けた。
「ならば謝ることは無い……言葉だけなら受け取って遣らなくも無いがな」
不遜な態度だが、気にするなと言いたいのだろう。精霊の手は照れ隠しか急いたように動いている。
任せるわけにはと、ブリジットもトングを構えててきぱきゴミを取り除いていく。
袋を複数広げて分別をしながら進めるカリアナが精霊の方へ目を向けた。
休憩は取ったが、お年寄りに見える精霊の体調が気に掛かる。
「ラヴェル、さーん、休まなくても平気かしら?」
呼び掛けると精霊は平気だと言う様にトングを振って答えた。
割れた食器が重なっている。陶器片は幾つも落ちていたが、この状態は不自然だと、ガクルックスは分別している袋にそれを拾いながら考える。
意図的に投棄した物では無いだろうか。
片付けてきた石樋を振り返り、その端を眺めるように目を細めた。
「手を加えなければ、またすぐにゴミが溜まるのではないでしょうかねぇ」
それは手間だと、策を巡らせるように考える。
罅の入った皿を拾い上げ、食べ物を載せたところも見てみたかったとそれをゴミ袋へ。
精霊の様子に、屈んで凝り固まった身体を解すように動かしてボルディアが尋ねた。
「なぁ、ラヴェルっていつぐらいからここにいるんだ? 昔からいるなら、その頃の話でも聞かせてくれよ」
昔々だと精霊は答えた。
トングを掴んだまま腕を組んではてと首を捻りながら、出来た時からだと石樋を見下ろす。
「春を数えておった。是れが切り出されてからだが……春を十程数えて、後は知らぬ」
ぐっすりだった。精霊は得意気に言う。
面白い話しは聞けそうにねぇなとボルディアは笑った。
是れが聞きたいくらいだと精霊も頷いた。
その笑い声がふつりと切れた。
風向きの変わる瞬間ふと漂ってきた負のマテリアルの気配。こまも唸る様に歯を剥いている。
「ここまでは負のマテリアルを感じなかったわね」
マリィアが精霊の方を向き、更に上流へ視線を移す。
「逃走手段があるならさておき、安全のためにここで待っていたらどうかしら」
歪虚が来るとしてもこの先からだろうから。
精霊は申し出を一旦断って、もう暫しの同行を願い出た。
●
同行をと言った精霊がハンター達の後ろへ下がり、寒気がすると言い、蹲り休憩を申し出るようになった。
強い負のマテリアルの気配にハンター達も警戒を保って進んでいく。念のためにと覚醒して得物を支度する者もいる。
石樋は変わらずゴミが溢れており、片手に得物を握ったまま、もう片方の手でトングを使う。
息を飲んだブリジットの手が止まる。その近くでガクルックスも砕けた髪飾りを掴んだトングを微かに震わせた。
「何か見付けたか? 是れはもう、……! そ、それは、っ、あ、ああ、……た、たただの、ひっ、ひとの骸ではない。是れは、っ、さ、先程の、ところで待たせてもらう!」
是れはその骨が投じられて目覚めたのだ。脱兎の如く石樋を駆けながらラヴェルが言い残していった。
「これは、ただ事ではありませんねぇ」
拾い上げそうになった髪飾りを戻してガクルックスが言う。
驚きに言葉を無くしていたブリジットも頷いて、静かに白骨を見詰めた。
玲瓏が手を合わせて瞼を伏せる。警戒しながらの数拍の黙祷の後、その状態を改める。
「男女のようですねえ」
ガクルックスがボルディアに目を向けた。ボルディアは傍に屈んで手を伸ばす。
マテリアルを込めて触れると暗い靄が視界を覆う。
「見えねぇな。時間の所為か?」
「衣服の様子では春頃では無いでしょうか? 状態から見て、一年は経っていないように思えます」
玲瓏が骸の周囲を観察して告げる。グローブを着けて拾い上げたのは破れたカーディガン。土を払って繊維を解せば元はどうやら桜色だったらしい。
それくらいの期間なら何か見えても可笑しくは無い。ボルディアが再度試みようとする前に、カリアナの歌声が響いた。
弔いの詩に負のマテリアルが僅かに払われるとボルディアの視界に幼い子どもの姿がちらついた。
「ガキが見えるな。年は、ああっ、分からねぇ。……に、げろ?」
男女、春頃、子どもを逃がそうとしている。それ以上の情報はこの場では得られそうに無い。
身分証の類いも見付からない。経験があるというマリィアの指示で遺骨をそれぞれシートに包み、オフィスへの連絡の後に回収の手を待つことになった。
「弔ってあげたいところです……」
「はい、身元が分かると良いのですが」
ブリジットが作業を見詰め、玲瓏も終えた手袋を外しながら応じる。
春頃、負のマテリアル、人形の腕。あの頃の事件と関係が有るのだろうかと首を傾がせた。
歌を終えたカリアナは骨の横たえられていた跡を眺めている。
子どもかと呟いたガクルックスの脳裏に過ぎる或る歪虚の姿。真逆と思いながらも眉間に深く皺が寄った。
「ありがとう、貴方の依頼のお陰で私達は彼等を連れて帰れたわ」
膝を抱え、ヴェールを握って丸くなっていた精霊が、ハンター達の足音に顔を上げた。
変わらず顔は晒さぬままだが、逃げ出した時の動転ぶりは幾分か落ち付いているらしい。
マリィアの言葉に1つ頷き、済んだのかと尋ねた。
亡骸の回収に伴い、今後の調査のために所々手付かずになっているが、負のマテリアルを感じた物は恐らく全て回収したと答えると、精霊はほうと安堵の息を吐いた。
世話になったと言う精霊に、今後のことをハンター達が問う。
ここに精霊がいることを周知させて、綺麗な状態を維持するためにも祠を作ってはと提案する。
「凝ったものは作れねぇけどな」
せめて雨風に晒されない程度のものを。何かいると知らしめる物をとボルディアが宙に指を揺らして祠の輪郭を描く。
「運べる大きさでしたら引っ越しも、と思ったのですよね」
この辺りの石樋を全てというのは難しい。それならここに何か印をと、ガクルックスが斧を手に言う。
「定期的に手を入れるようには訴えていきたいです。祠には、好みがおありと思いますので」
祀られるのはお嫌いですかと玲瓏が精霊の表情を覗うように尋ねた。
それならせめて立て札だけでもとブリジットが言う。
任せる。
そう言った精霊に、後日彼等の手を借りた小さな祠が建立された。
同じ石を用いて、木の屋根を乗せた簡素な物だが、その存在を知った町の人から時折花や菓子が供えられるようにもなったらしい。
後悔する。
この依頼を断れば、きっと。銃に持ち替えて握るトングの先を見詰めてマリィア・バルデス(ka5848)は暫し考え込む。
依頼を見た瞬間背筋に走った寒気の感触が、未だにべったりと這うように残っていて、炎天下の汗も相俟って酷い不快感を催している。
「少し多めに貰っていって良いかしら?」
それを振り切るように受付嬢へ声を掛けて、ゴミ袋の束を掴んで目的地へ向かった。
ハンター達と対面した精霊は、トングの先をひょいひょいと揺らし、値踏みをする様な視線をヴェール越しに向けてくる。
「ブリジットです。宜しくお願いしますね」
丁重に頭を下げてブリジット(ka4843)が名乗り、玲瓏(ka7114)は懐かしそうに目を細めた。
「……それも水道のとなれば、生活にも身近な神様ですね」
多様な神を祀っていた故郷を思い出す。ラヴェルと名乗る精霊が眠っていたのも、水道に用いられる以前はそのような石の一つだったのだろう。
「今回はよろしくお願いするわ、」
カリアナ・ノート(ka3733)がそこで言葉を切る。
斑のヴェールを見詰めて次の言葉に詰まっていた。
「……ラヴェル、さん?」
覗いている手や首元の皺は深く、小柄な身体は筋張って背を丸めているようにも見える。
しかし、おばーちゃん、などと、呼んでは怒られそうだ。迷いを見透かすように、ひゅんと踊ったトングの先が向けられた。
「顔に出ておるぞ。大方是れが醜い老婆に見えるのだろう?」
その通りだと笑う声は矍鑠として、トングの先をボルディア・コンフラムス(ka0796)とGacrux(ka2726)にも振り向ける。
行くぞ、と小柄な形相応の狭い歩幅を急かして先頭を歩き、旧水道の端へ至る。
綺麗にすることを厭うわけでは無い、とボルディアが泥と混ざって折り重なった枯葉を除いて石樋を掘り出しながら溜息を吐く。
「はー……全く、めんど、いや、何でもねぇよ」
先は長い。ガクルックスも、川から離されて長い年月を感じるその跡を眺め、使われていた頃を思い呟いた。
「時代と共に、此処も忘れられた場所になっていくのでしょう」
ハンター達がそれぞれ作業に取り掛かる横で、精霊も両手のトングを振り回しながらも器用に扱って溜まった枯葉や朽ちた雑草を除いていく。
●
泥に埋もれていた辺りを終えると、枯木や、新しい落葉も目立ってくる。どこからか飛んできたゴミも混ざっており、精霊は摘まみ挙げたそれを興味深そうに眺めていた。
先ずは大きな物からだな、と、ボルディアが口を大きく広げたゴミ袋に枯木を放り込む。
トングで軽く掴める物を次々と放り込みながら進んでいく。
続いたガクルックスは枯葉や泥の残りを箒で除き、最後にカリアナが残った雑草を抜いて行く。
「塵一つ残さないわ!」
サンダルの足で仁王立ちになって、夏の陽差しに眩しい剥き出しの腕を樋の底まで伸ばして、取り残しのゴミを捕まえて袋の中で手を払う。
ガクルックスが精霊へ目を向けた。
今し方まで先頭を行っていたが、ゴミに飽いたのかボルディアに任せて下がっている。
疲れたのかと見れば、両手のトングは相変わらずひょいひょいと忙しなく動いていた。
「眠りを妨げたものが何であるのかは気になりますね……この辺りの物では無いようですが」
枝や葉など、自然物のごみは構わずに袋へ。ブリジットが気に掛けながら拾った人工物の、何かを包んでいたらしい紙袋や、元の形の想像の付かない錆びた金属片は、精霊の興味を惹いたが気配は無いと一蹴される。
念の籠もりやすい物に注意しようと石樋を見るが、辺りには他に変わった物は見当たらない。
「……あんまり良い事じゃなさそうよね。寝ているのが好きなら、良い事が起きたってそのまま寝ていそうでしょう?」
黙々と作業を進めていたマリィアの手がふと止まり、摘まみ上げた丸い石にはしゃぐラヴェルを一瞥した。
この精霊が目を覚ました理由とは。途方も無い時間を、宿った石が切り出されても尚、眠っていた精霊が目を覚まし助けを求めるような理由。
雑魔でも棲み着いたのだろうか。そう思って身構えながら、目の前のゴミを拾い上げてゴミ袋へ落とす。
石を、ぽい、と樋の外側へ転がして精霊はマリィアの顔を見上げた。
ヴェール越しの目は覗えないが、口許に刻まれた皺は人の良さそうな形をしている。
「是れが寝汚いみたいに言うな。まあ、良い事では無いな」
精霊はヴェールを深く被り直してトングを振りながら玲瓏の方へと小走りに近付いた。
「精霊様からすれば、ここはどんな場なのでしょう」
掃除はお清めの基本、そう留め置いて一心に手を動かす。
精霊自身が作業に加わるとは、余程困っていたのだろうと。それに加えて、良い事では無いという言葉。
玲瓏は連れた犬、こまを呼んで回りを見張るように言う。頷く様に鬣を揺らして小さく吠えた犬は耳を立てて鼻をひくひくと、空気に紛れた異物の匂いを探る。
お喋りは嫌いでは無いという精霊に話し掛けている内に精霊が目覚めたと言う辺りまで下ってきた。
「疲れてませんか? 少し休みましょう」
ガクルックスが声を掛ける。頭3つ程背の低い精霊、カリアナよりも小さく見えるが、丸めた背を伸ばせば僅かに越えるくらいだろうか。
何も無かったというようにこまも玲瓏の側に戻ってきた。
シートを広げて暫し腰を下ろして休む。
カリアナから差し出されたミネラルウォーターのコップを受け取った精霊は暫くそれを眺めてからゆっくりと乾した。
長く水が傍らにあったから懐かしいのだと、小さな足で石樋の中を歩き振り返る。
休憩を終えて歩き出す。ゴミ袋も次第に重くなり、ガクルックスが持ち込んだ荷車が役に立ち始めた頃。
拾うゴミは人工物の割合が増え、その原形を留める最近廃棄されたような物も見え始めた。
精霊は拾い上げた紙片の文字に首を捻り、隣にいたカリアナに読んでくれと言う。
そしてそれがどうやら恋文の断片であると知ると腹を抱えて笑い出したが、石樋に向き合うハンター達はそのゴミに辟易と溜息を吐く。
「すごい量ですね」
玲瓏が手許のゴミ袋を見て呟く。
水の流れる場所に汚れを溜めるのは良くない。悪臭や感染症の元にもなってしまう。
精霊は頷きながら小さな手で先を指す。この樋は町へ水を引き込むための物。流れに乗ればそれは町に届いてしまう。
一頻り笑った紙片を玲瓏のゴミ袋に放り込み、相槌を打つ。
摘まんだ木の玩具には、石樋の中で無ければ土に帰っていただろうと、トングの先で弄び呟く。
玲瓏がやはり困っていたのだろうかと尋ねると、この程度で目覚めることはないと言って首を横に揺らした。
「人間の暮らしの断片だと思えば面白い。是れを起こした物に比べれば些末。可愛らしいにも程がある」
呵呵と笑った精霊を暫し眺めてマリィアがそっと近付いた。
「ラヴェルさん……だったわよね? 寝ている間の知覚はどの程度働くのかしら」
精霊は誰かに似ているようにも思えず、傲慢に見えた様子も、他者との交流がなさ過ぎたためだろう。
仲間との会話で幾らかの刺は取れた様にさえ見える。
さっぱりだと言う様に首を捻る精霊は、樋をトングで叩く。軽く、強く。そしてまた、首を捻る。
「切り出される前は夢もちょくちょく見ておったが。もう憶えておらんな……かか様のことは不思議とよく存じ上げておるのだが」
そのお姿まで鮮明に。トングを樋に叩き付けるとこちらの方が痛みそうだと言って精霊はゴミ拾いに戻る。
そう、とマリィアは樋の先へ視線を向けた。
宿る石を叩かれても感知出来ない。しかし、長く触れていたらしい水の流れは、懐かしむ程度には感じ取っていた。感じていたのが水ではなくマテリアルだったとしたら。
こういう場所を好みそうな歪虚に心当たりが複数有る。ラヴェルを起こした存在に警戒を強めた。
原因も当然ですが、とブリジットは傾いだゴミ袋の端をガサリと音を立てて引き上げる。
「住処がゴミで埋まっているというのは、気持ちのよいものではないでしょう」
抑も、人間の出したゴミ。お詫びしたいところです、と精霊を見れば、片方だけの手袋を摘まみ上げて、自身の手に合わせて眺めている。
二回りも三回りも大きなそれをゴミ袋へ放り込んで、精霊はブリジットの顔を見上げた。
「捨てたのか?」
小さな指がブリジットを指す。あたしでは無いけれど。そう言い淀むと、精霊はふいと顔を背けた。
「ならば謝ることは無い……言葉だけなら受け取って遣らなくも無いがな」
不遜な態度だが、気にするなと言いたいのだろう。精霊の手は照れ隠しか急いたように動いている。
任せるわけにはと、ブリジットもトングを構えててきぱきゴミを取り除いていく。
袋を複数広げて分別をしながら進めるカリアナが精霊の方へ目を向けた。
休憩は取ったが、お年寄りに見える精霊の体調が気に掛かる。
「ラヴェル、さーん、休まなくても平気かしら?」
呼び掛けると精霊は平気だと言う様にトングを振って答えた。
割れた食器が重なっている。陶器片は幾つも落ちていたが、この状態は不自然だと、ガクルックスは分別している袋にそれを拾いながら考える。
意図的に投棄した物では無いだろうか。
片付けてきた石樋を振り返り、その端を眺めるように目を細めた。
「手を加えなければ、またすぐにゴミが溜まるのではないでしょうかねぇ」
それは手間だと、策を巡らせるように考える。
罅の入った皿を拾い上げ、食べ物を載せたところも見てみたかったとそれをゴミ袋へ。
精霊の様子に、屈んで凝り固まった身体を解すように動かしてボルディアが尋ねた。
「なぁ、ラヴェルっていつぐらいからここにいるんだ? 昔からいるなら、その頃の話でも聞かせてくれよ」
昔々だと精霊は答えた。
トングを掴んだまま腕を組んではてと首を捻りながら、出来た時からだと石樋を見下ろす。
「春を数えておった。是れが切り出されてからだが……春を十程数えて、後は知らぬ」
ぐっすりだった。精霊は得意気に言う。
面白い話しは聞けそうにねぇなとボルディアは笑った。
是れが聞きたいくらいだと精霊も頷いた。
その笑い声がふつりと切れた。
風向きの変わる瞬間ふと漂ってきた負のマテリアルの気配。こまも唸る様に歯を剥いている。
「ここまでは負のマテリアルを感じなかったわね」
マリィアが精霊の方を向き、更に上流へ視線を移す。
「逃走手段があるならさておき、安全のためにここで待っていたらどうかしら」
歪虚が来るとしてもこの先からだろうから。
精霊は申し出を一旦断って、もう暫しの同行を願い出た。
●
同行をと言った精霊がハンター達の後ろへ下がり、寒気がすると言い、蹲り休憩を申し出るようになった。
強い負のマテリアルの気配にハンター達も警戒を保って進んでいく。念のためにと覚醒して得物を支度する者もいる。
石樋は変わらずゴミが溢れており、片手に得物を握ったまま、もう片方の手でトングを使う。
息を飲んだブリジットの手が止まる。その近くでガクルックスも砕けた髪飾りを掴んだトングを微かに震わせた。
「何か見付けたか? 是れはもう、……! そ、それは、っ、あ、ああ、……た、たただの、ひっ、ひとの骸ではない。是れは、っ、さ、先程の、ところで待たせてもらう!」
是れはその骨が投じられて目覚めたのだ。脱兎の如く石樋を駆けながらラヴェルが言い残していった。
「これは、ただ事ではありませんねぇ」
拾い上げそうになった髪飾りを戻してガクルックスが言う。
驚きに言葉を無くしていたブリジットも頷いて、静かに白骨を見詰めた。
玲瓏が手を合わせて瞼を伏せる。警戒しながらの数拍の黙祷の後、その状態を改める。
「男女のようですねえ」
ガクルックスがボルディアに目を向けた。ボルディアは傍に屈んで手を伸ばす。
マテリアルを込めて触れると暗い靄が視界を覆う。
「見えねぇな。時間の所為か?」
「衣服の様子では春頃では無いでしょうか? 状態から見て、一年は経っていないように思えます」
玲瓏が骸の周囲を観察して告げる。グローブを着けて拾い上げたのは破れたカーディガン。土を払って繊維を解せば元はどうやら桜色だったらしい。
それくらいの期間なら何か見えても可笑しくは無い。ボルディアが再度試みようとする前に、カリアナの歌声が響いた。
弔いの詩に負のマテリアルが僅かに払われるとボルディアの視界に幼い子どもの姿がちらついた。
「ガキが見えるな。年は、ああっ、分からねぇ。……に、げろ?」
男女、春頃、子どもを逃がそうとしている。それ以上の情報はこの場では得られそうに無い。
身分証の類いも見付からない。経験があるというマリィアの指示で遺骨をそれぞれシートに包み、オフィスへの連絡の後に回収の手を待つことになった。
「弔ってあげたいところです……」
「はい、身元が分かると良いのですが」
ブリジットが作業を見詰め、玲瓏も終えた手袋を外しながら応じる。
春頃、負のマテリアル、人形の腕。あの頃の事件と関係が有るのだろうかと首を傾がせた。
歌を終えたカリアナは骨の横たえられていた跡を眺めている。
子どもかと呟いたガクルックスの脳裏に過ぎる或る歪虚の姿。真逆と思いながらも眉間に深く皺が寄った。
「ありがとう、貴方の依頼のお陰で私達は彼等を連れて帰れたわ」
膝を抱え、ヴェールを握って丸くなっていた精霊が、ハンター達の足音に顔を上げた。
変わらず顔は晒さぬままだが、逃げ出した時の動転ぶりは幾分か落ち付いているらしい。
マリィアの言葉に1つ頷き、済んだのかと尋ねた。
亡骸の回収に伴い、今後の調査のために所々手付かずになっているが、負のマテリアルを感じた物は恐らく全て回収したと答えると、精霊はほうと安堵の息を吐いた。
世話になったと言う精霊に、今後のことをハンター達が問う。
ここに精霊がいることを周知させて、綺麗な状態を維持するためにも祠を作ってはと提案する。
「凝ったものは作れねぇけどな」
せめて雨風に晒されない程度のものを。何かいると知らしめる物をとボルディアが宙に指を揺らして祠の輪郭を描く。
「運べる大きさでしたら引っ越しも、と思ったのですよね」
この辺りの石樋を全てというのは難しい。それならここに何か印をと、ガクルックスが斧を手に言う。
「定期的に手を入れるようには訴えていきたいです。祠には、好みがおありと思いますので」
祀られるのはお嫌いですかと玲瓏が精霊の表情を覗うように尋ねた。
それならせめて立て札だけでもとブリジットが言う。
任せる。
そう言った精霊に、後日彼等の手を借りた小さな祠が建立された。
同じ石を用いて、木の屋根を乗せた簡素な物だが、その存在を知った町の人から時折花や菓子が供えられるようにもなったらしい。
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相談卓 Gacrux(ka2726) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/08/07 20:24:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/07 20:15:18 |