ゲスト
(ka0000)
黒ひげ男、危機一髪!
マスター:ラゑティティア

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/13 15:00
- 完成日
- 2018/08/18 22:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「怖いものが無くなる……という状況には、大きく分けて2つある」
黒髭を蓄えた男は、酒を片手に語り始めた。
「ひとつは、何ものにもかえがたい何かを手に入れた時
ひとつは、すべてを失い闇と化した時」
そこまで言うと、大きくグビッとジョッキが傾く。
持論なのだろうが、言葉の一つ一つに重みのようなものがあった。
ハンター達はちょっと一杯やるかと、ふらりと近くの町で酒場に立ち寄っただけなのだが……
案内された合席の縦長テーブルに、この髭の男が座っていた。
年は外見から推測すると60代後半といったところだ。
農業をしているのか肌は日焼けし、汚れた作業着を着ている。
酒場の店内も、よく柱などを観察すれば、彼と一緒に年を取ったかのように古めかしかった。
「おぬしらは戦場と関わりのある仕事についているとみえる。
この先、どんな未来が待っているかは知るよしもないが。
たとえすべてを失うことがあっても、闇にだけはひれ伏しちゃいかんぞい」
グビグビする酔っ払いの長話に、注文もできないままのハンター達。
さすがに見かねた主人が助け舟を出してくれた。
「……おいおいヒゲさん、また若い衆に愚痴ってるのかい?」
ヒゲというのは彼のあだ名なのだろうか。
「すまんね、ヒゲさんの息子はハンターだったんだけど、いろいろあってね。
まあ悪気があって言ってるわけじゃないから許してやってね」
「ム……っ!?」
急に髭男の顔色が蒼くなる
――直後
ガシャガシャンッッ!
ガラス窓に体当たりし、何かが次々と侵入してくる。
正常とは思えない血走る目と逆立つ漆黒の毛並み
剥き出されるひときわ目立つ牙
姿は犬に似ているが、ただの犬ではないのは明らかだった。
正体がわからないまま客達が悲鳴を上げ、一目散に外へ逃げ始める。
獣によって店内が無残に破壊されているが、主人は構わずカウンターから出て客の流れを誘導した。
その迅速な対応で、他の一般客や従業員はさほど時間をかけることなく無事に外へ避難できたようだ。
主人の動揺は汗に表れていたものの、客の前でうろたえることはない。
彼の前面を飾るゆるい絵柄のエプロンも、なんとなく誇らしげに見えた。
「君達、見かけない顔だし、外から来たんだろう?
せっかく店に寄ってくれたのにこんな事態になってすまないね。
じつは最近、町の近くに雑魔が目撃されてた噂があったんだよ。
近々ハンターに依頼するという話だったんだがね……」
苦笑しつつも申し訳なさそうに謝罪してくれる。
「あーほらヒゲさんもっ。じーっとしてないでこっちこっち!」
主人が急かすものの、何故かまったく動かず、逃げようとしない。
そういえば敵が出てくる直前、何か唸ったように見えたが。
……まさかこの髭オヤジ、敵の気配をとらえていたとでもいうのか?
ハンター達がやや緊張気味にさまざまな思考を巡らせていた時だった
「ぎ……ぎっくり腰になってしもうた」
黒髭を蓄えた男は、酒を片手に語り始めた。
「ひとつは、何ものにもかえがたい何かを手に入れた時
ひとつは、すべてを失い闇と化した時」
そこまで言うと、大きくグビッとジョッキが傾く。
持論なのだろうが、言葉の一つ一つに重みのようなものがあった。
ハンター達はちょっと一杯やるかと、ふらりと近くの町で酒場に立ち寄っただけなのだが……
案内された合席の縦長テーブルに、この髭の男が座っていた。
年は外見から推測すると60代後半といったところだ。
農業をしているのか肌は日焼けし、汚れた作業着を着ている。
酒場の店内も、よく柱などを観察すれば、彼と一緒に年を取ったかのように古めかしかった。
「おぬしらは戦場と関わりのある仕事についているとみえる。
この先、どんな未来が待っているかは知るよしもないが。
たとえすべてを失うことがあっても、闇にだけはひれ伏しちゃいかんぞい」
グビグビする酔っ払いの長話に、注文もできないままのハンター達。
さすがに見かねた主人が助け舟を出してくれた。
「……おいおいヒゲさん、また若い衆に愚痴ってるのかい?」
ヒゲというのは彼のあだ名なのだろうか。
「すまんね、ヒゲさんの息子はハンターだったんだけど、いろいろあってね。
まあ悪気があって言ってるわけじゃないから許してやってね」
「ム……っ!?」
急に髭男の顔色が蒼くなる
――直後
ガシャガシャンッッ!
ガラス窓に体当たりし、何かが次々と侵入してくる。
正常とは思えない血走る目と逆立つ漆黒の毛並み
剥き出されるひときわ目立つ牙
姿は犬に似ているが、ただの犬ではないのは明らかだった。
正体がわからないまま客達が悲鳴を上げ、一目散に外へ逃げ始める。
獣によって店内が無残に破壊されているが、主人は構わずカウンターから出て客の流れを誘導した。
その迅速な対応で、他の一般客や従業員はさほど時間をかけることなく無事に外へ避難できたようだ。
主人の動揺は汗に表れていたものの、客の前でうろたえることはない。
彼の前面を飾るゆるい絵柄のエプロンも、なんとなく誇らしげに見えた。
「君達、見かけない顔だし、外から来たんだろう?
せっかく店に寄ってくれたのにこんな事態になってすまないね。
じつは最近、町の近くに雑魔が目撃されてた噂があったんだよ。
近々ハンターに依頼するという話だったんだがね……」
苦笑しつつも申し訳なさそうに謝罪してくれる。
「あーほらヒゲさんもっ。じーっとしてないでこっちこっち!」
主人が急かすものの、何故かまったく動かず、逃げようとしない。
そういえば敵が出てくる直前、何か唸ったように見えたが。
……まさかこの髭オヤジ、敵の気配をとらえていたとでもいうのか?
ハンター達がやや緊張気味にさまざまな思考を巡らせていた時だった
「ぎ……ぎっくり腰になってしもうた」
リプレイ本文
●戦闘開始
グオォォッ!
「危ない!」
髭男の間近に迫っていた雑魔の前に、鞍馬 真(ka5819)が滑り込む。
正確な一撃を放つため、すでに剣心一如で呼吸は整え終えていた。
真のマテリアルに共鳴して管楽器のような音を奏でる響劇剣『オペレッタ』。
心の刃を使用して心に宿す力を武器に伝え、素早く踏み出して苛烈な電光石火をお見舞いする。
雑魔はその一撃にひとたまりもなく倒れ伏すが、真は引き続き髭男を狙う敵に警戒した。
髭男と主人がその光景に目を見開いたのは言うまでもない。
危機的状況が180度変わろうとしていたことは、一般人である彼らが見ても明らかだった。
「まさか……」
愕然とする主人の言葉を続けるように、星野 ハナ(ka5852)とクレイ・ルカキス(ka7256)が声を上げる。
「マスター! 私達はハンターですぅ!
こっちはきちんと守りきるのでぇ、安全第一になさって下さいぃ!」
「必ず守りますから、あなたは外へ逃げてください。僕たちを信じて!」
これを境に、店内は本格的に戦場の舞台と化した。
陰陽符『天光』を片手に雑魔に駆け寄るハナ。
近づいてくるものに襲い掛かろうと、雑魔達のほうもハナを標的としてその距離を縮めてくる。
「一挙に周辺の敵も巻き込んでみますぅ!」
ハナの蒼く輝いた瞳が前方の二体を捉え、複数の符を使って結界を張る。
「五色光符陣!」
符術師の言葉に応えるように結界が強く光った。
めがくらみそうなほどの光がやむと、その場所には焼け跡だけが残っていた。
「ちょっとだけゆっくりしようとしたらこれですか……」
店の雑魔達を見回しつつ、重くため息を吐くサクラ・エルフリード(ka2598)。
「早く夕食、食べたいんだけどなあ」
同じくため息を吐いていたクレイに目をやると、彼は主人に注意を向けて瞬脚を使っているところだった。
そして、真、ハナ、エメラルド・シルフィユ(ka4678)は髭男の近くにいる。
主人や髭男の守りはもういいだろうとサクラは判断し、酒の棚に焦点を合わせた。
「二人の守りはいるようですし……私はお酒を守るとしましょうか……。
ハンターがいる酒場を襲った事を後悔する暇も与えず倒させて貰います……」
「頼んだよー!
私もお酒くらいゆっくり飲みたかったなあ」
真にとってもワーカーホリックの貴重な休日だった。戦闘に巻き込まれた不運を嘆く。
「……いえ、早くお酒が飲みたいとかそういうわけではないデスヨ……」
サクラは否定はしていたが、本当のところは本人のみぞ知る。
仲間との会話もそこそこに、背に書かれた『一輝闘閃』の道着をはためかせて彼女の赤い瞳が睨んだ先には、カウンター方向めがけてまっしぐらな雑魔の姿。
「お酒を傷つける事は獣であろうと許しませんよ……?
シャドウブリット……!」
容赦なく、黒い塊を対象に向かって飛ばす。
背部に強い衝撃を受け、雑魔は転げるように床に倒れ込んだ。
それを間近で見てしまった主人は思わず足を止めていたが、
「大丈夫です。そのまま外へ避難してください」
クレイがすかさず誘導する。
この騒動の中、もちろんエメラルドも沈黙して髭男を守っていた。
……いや、どちらかというと、髭男を見ながら何かを考えているような様子だと言ったほうがしっくりくる。
「真剣な表情ですぅ」
妙な空気を感じて振り返るハナ。
そういえば、エメラルドは髭男が酒を飲んで語っている時も大真面目に聞いていた様子だった。
このままいくと壺とか売りつけられそうだ、と皆が心配するほどに。
そんなエメラルドは、なにやら急に大きく息を吸った。
「そこそこ修羅場を潜ってきたつもりの私ですら動揺はあったというのに微動だにせぬとは……流石だ……!
感服だ!」
「「え」」
周囲の仲間達と髭男の声が思わず揃った。
固まる一同だが、口を開いたエメラルドの勢いはもう止まらない。
「よし、そのお力を借りよう!
だが世話にばかりはならないぞ
御仁のサポートには力不足かもしれないが、私もハンター。戦わせてくれ!」
「はあ? い、いや……」
戸惑う髭男を尻目に、向かってきていた雑魔がその目の端に映ると問答無用のセイクリッドフラッシュ。
エメラルドの光の波動が周囲に広がり、相手に衝撃とダメージを与えていた。
華麗なる裁きだ。
「さあ、御仁! お力を見せて貰おう!」
星剣『アルマス・ノヴァ』を片手に、金髪の勝利の女神が微笑む。
神々しい光景に、見た者は思わず拝みたくなるだろう
このやらかしてしまっている部分さえ無ければ
「な、何を言っとるんだ。それより、こ、腰が」
「……何? 腰?
ま、まさか歴戦の古傷か……!
くっ……古傷を推してまで戦場に立つ貴方こそハンターの鑑……!」
言いながら拳を作る。
彼女の中で、誤解がどんどん積み重なっているらしく。
「心意気は我々が受け取った!
皆、我々の力を髭の御仁に示そう!」
もはやコメディのような展開になってきた。
そろそろ真が苦笑しつつエメラルドをなだめることに。
「敵はもうほとんど倒せてるよ」
戦況は優勢である。
真は敵の逃亡も警戒していたが、残る一体の傍にはすでにクレイの姿があった。心配はなさそうだ。
「お酒が破壊される前に……」
サクラの希望が聞こえたかどうかはわからないが。
ランアウトを使ったクレイは、最後の敵に身体にマテリアルを潤滑させ、洗練された動きで敵に迫る。
彼のスペルブーツ『アウダクス』が戦闘行動中の脚への負担を減らしているようだった。
「スラッシュエッジ!」
主人が無事に外へ避難できたことも確認し、精度の高く確実な一撃を敵に繰り出した。
攻撃はその脚に見事に命中。
倒れ伏した雑魔に背を向け、クレイはミリタリー風のデザインが施されたベレー帽をかぶり直した。
「雑魔退治、完了ですぅ」
ハナの笑顔に迎えられてほっとしながら、髭男のことも気にするクレイ。
「ヒゲさんは……」
「うおぉぉ
こ、腰が……限界……に……っ」
ぱたむ。
「あ」
ちょうど力尽きた。
「御仁ーーっ!!」
絶叫しながら髭男を支えるエメラルド。
なんと言葉をかけたらよいものか、苦笑を浮かべる仲間達。
ともあれ、無事に雑魔退治は一件落着したのだった。
●勝利の酒盛り
ハンター一同の活躍により、いつもと変わらぬ夜が戻ってきた。
「皆さん無事でなによりです」
クレイは外に避難していた主人や他の客達に声をかけている。
目立った外傷はなかったが、ハナは念のため主人と髭男をヒールの柔らかい光で癒していた。
壁に背を預けていた真が、その様子を見ながらのんびりと声をかける。
「偶然我々が居合わせて良かったなあ、わざわざ依頼を出す必要も無くなって一石二鳥じゃないか」
主人は深く頷いた。
「本当に驚いたよ。まさか君達がハンターだったとは。
酒まで無事だったし、助けてくれたお礼に……と言いたいんだが」
雑魔が暴れてしまった店内。まずは片付けからだ。
真の表情が少し曇ると、主人が笑みをくれる。
「そんな顔をしないで。感謝しているよ。
大変な状況だったのに、君達は店内の備品にも気を配ってくれていた。
おかげで被害は比較的少なめに済んでいると思う。
古ぼけてしまっているけど、私にとっては愛着のある店だからね。とても嬉しかったよ」
「い、いえ……」
少し照れているのか、真はやや下を向いてしまう。
すると今度はハナが、主人にずぃっと顔を近づけてきた。
「美味しいお酒を飲むためにもお片付けは手伝いますよぅ。
ついでに調理もお手伝いしても良いですぅ? みんなが無事のお祝いですぅ」
主人や髭男のトラウマにならないよう、パーティモドキを提案してくれる。
「ありがたい。是非ともお願いできるかい」
「僕も掃除手伝います」
クレイも同調し、さっそく割れたガラスなどの掃除を始めた。
続くようにサクラや真も手伝いを始めている。
「報酬として頂けるなら」
エメラルドは何か言いたげに、髭男に緑の瞳をまっすぐ向けた。
「私達に背中で戦い方を示した御仁にも奢らせて貰おう」
果てしなく持ち上げてくスタイルのエメラルド。
髭男もさすがに降参のようである。
「ある意味敵より印象に残ったぞい……。
だがまあ、若いように見えて良い腕前だったわい」
片付けは早々に終わり、あっという間にお酒タイムがやってきた。
雑魔を倒した英雄が酒場にいるとでも噂が広がったのか、他の客達も帰るどころかむしろ増えているようで、ガラスのない窓から身を乗り出す者もでてきている。
クレイは客とも一杯飲みたいと主人に相談して配ることに。
やっと自分の席に着席した時には、戦闘をした時よりもヘトヘトになっていた。
「ああ、お腹すいたー
今日のおすすめ何ですか? 僕もうお腹ペコペコで」
「おまたせですぅ、トルティーヤですよぉ。
お店の野菜や肉も使わせてもらいましたぁ」
クレイに呼び寄せられるように、ハナがウェイトレスのように料理を両手で運んできた。
周囲からも「おおー!」と歓声が上がる。
「お料理上手ですね!」
「まだまだありますぅ」
クレイ達に笑顔を向け、その後もハナは主人と共に、次々と酒や料理をテーブルに並べていく。
「やっと休日を満喫できる……」
真が椅子を軋ませて落ち着いた隣の席には、すでにサクラが着席していた。
やがてハナやエメラルドもそれぞれ席につくと待ちに待った時間がやってくる。
「「乾杯!」」
数秒の差だったが、一同の中で最も早く酒を味わったのはサクラだった。
「お酒の味はどうですかぁ?」
楽しそうにハナに尋ねられ、サクラは一旦グラスをテーブルに置く。
「美味しいですね……仕事をした後のお酒は良いです……」
「もっとありますよぉ。お酒はほとんど無事だったのでぇ、マスターがいっぱい用意してくれますぅ」
だが、遠慮するように、サクラの猫耳カチューシャが揺れる。
「……飲みすぎないようにしたいので……
飲み過ぎても記憶無くすくらいなのですけど、何故か止められるのですよね……」
不思議です……と、まとめたサクラだが、記憶を失っているところからすでに危うい予感がひしひしとする。
言葉を失ったハナが見えているのかいないのか、サクラは彼女の料理をぱくっと一口。
「料理が得意なのですね……私は不得意なので」
「食べること大好き→好きなら自分で作っちゃおうって結論ですぅ。キャハ♪」
復活したハナは、バッチリ笑顔で説明していた。
「しかし闇……か……。興味深い話だった」
エメラルドが酒を片手に語り始めたのは、ここに来てすぐ髭男に聞かされたあの話題らしい。
髭男に言っているのか、ただの独り言なのかはわからないが、そんなエメラルドの語りを、髭男は黙ったまま横目で聞いていた。
「それを感じた事のない今の境遇を恵まれていると感謝すべきか……。
このような稼業をしていては、いつそれが来るかわからないが。
それを忘れず、いざという時に大切なものを失わないように、
失って後悔しないように心掛けるべきという話だな……。
ふむ……確かに私も日頃心の中に油断や甘えがなかったとは言い切れないな……」
すると、聞いていた真も髭男に伝えておきたかったことがあるらしく、酒の手を休めた。
「ヒゲさん、私は一度全て(記憶)を失っている。
それでも闇の方には向かわなかったから、大丈夫だよ」
「――そうか」
たった三文字。
されど、どこか安心したような彼の気持ちが表れた三文字。
どんなに周囲が賑わっていても、エメラルドと真は聞き逃すことはなく。
主人にも聞こえていたのかうっすら微笑みを浮かべた後、彼はゆっくりとハンター達の前へ歩み出た。
「この場にいる皆を代表して、改めてお礼を言わせてほしい。
敵を倒して助けてくれただけじゃなく、片付けや料理まで手伝ってもらって。
――本当にどうもありがとう、心優しきハンター達」
パチパチパチ!
直後、わざとらしいほどに大きな拍手が響く。
誰のものかと思えば、やはり髭男だ。
だがそれは、次第に酒場全体の拍手へと変わっていった。
拍手に応えるように酒を高く掲げて乾杯するハンター一同。
笑顔の絶えない酒盛りは、夜が明けるまで続いたのだった。
グオォォッ!
「危ない!」
髭男の間近に迫っていた雑魔の前に、鞍馬 真(ka5819)が滑り込む。
正確な一撃を放つため、すでに剣心一如で呼吸は整え終えていた。
真のマテリアルに共鳴して管楽器のような音を奏でる響劇剣『オペレッタ』。
心の刃を使用して心に宿す力を武器に伝え、素早く踏み出して苛烈な電光石火をお見舞いする。
雑魔はその一撃にひとたまりもなく倒れ伏すが、真は引き続き髭男を狙う敵に警戒した。
髭男と主人がその光景に目を見開いたのは言うまでもない。
危機的状況が180度変わろうとしていたことは、一般人である彼らが見ても明らかだった。
「まさか……」
愕然とする主人の言葉を続けるように、星野 ハナ(ka5852)とクレイ・ルカキス(ka7256)が声を上げる。
「マスター! 私達はハンターですぅ!
こっちはきちんと守りきるのでぇ、安全第一になさって下さいぃ!」
「必ず守りますから、あなたは外へ逃げてください。僕たちを信じて!」
これを境に、店内は本格的に戦場の舞台と化した。
陰陽符『天光』を片手に雑魔に駆け寄るハナ。
近づいてくるものに襲い掛かろうと、雑魔達のほうもハナを標的としてその距離を縮めてくる。
「一挙に周辺の敵も巻き込んでみますぅ!」
ハナの蒼く輝いた瞳が前方の二体を捉え、複数の符を使って結界を張る。
「五色光符陣!」
符術師の言葉に応えるように結界が強く光った。
めがくらみそうなほどの光がやむと、その場所には焼け跡だけが残っていた。
「ちょっとだけゆっくりしようとしたらこれですか……」
店の雑魔達を見回しつつ、重くため息を吐くサクラ・エルフリード(ka2598)。
「早く夕食、食べたいんだけどなあ」
同じくため息を吐いていたクレイに目をやると、彼は主人に注意を向けて瞬脚を使っているところだった。
そして、真、ハナ、エメラルド・シルフィユ(ka4678)は髭男の近くにいる。
主人や髭男の守りはもういいだろうとサクラは判断し、酒の棚に焦点を合わせた。
「二人の守りはいるようですし……私はお酒を守るとしましょうか……。
ハンターがいる酒場を襲った事を後悔する暇も与えず倒させて貰います……」
「頼んだよー!
私もお酒くらいゆっくり飲みたかったなあ」
真にとってもワーカーホリックの貴重な休日だった。戦闘に巻き込まれた不運を嘆く。
「……いえ、早くお酒が飲みたいとかそういうわけではないデスヨ……」
サクラは否定はしていたが、本当のところは本人のみぞ知る。
仲間との会話もそこそこに、背に書かれた『一輝闘閃』の道着をはためかせて彼女の赤い瞳が睨んだ先には、カウンター方向めがけてまっしぐらな雑魔の姿。
「お酒を傷つける事は獣であろうと許しませんよ……?
シャドウブリット……!」
容赦なく、黒い塊を対象に向かって飛ばす。
背部に強い衝撃を受け、雑魔は転げるように床に倒れ込んだ。
それを間近で見てしまった主人は思わず足を止めていたが、
「大丈夫です。そのまま外へ避難してください」
クレイがすかさず誘導する。
この騒動の中、もちろんエメラルドも沈黙して髭男を守っていた。
……いや、どちらかというと、髭男を見ながら何かを考えているような様子だと言ったほうがしっくりくる。
「真剣な表情ですぅ」
妙な空気を感じて振り返るハナ。
そういえば、エメラルドは髭男が酒を飲んで語っている時も大真面目に聞いていた様子だった。
このままいくと壺とか売りつけられそうだ、と皆が心配するほどに。
そんなエメラルドは、なにやら急に大きく息を吸った。
「そこそこ修羅場を潜ってきたつもりの私ですら動揺はあったというのに微動だにせぬとは……流石だ……!
感服だ!」
「「え」」
周囲の仲間達と髭男の声が思わず揃った。
固まる一同だが、口を開いたエメラルドの勢いはもう止まらない。
「よし、そのお力を借りよう!
だが世話にばかりはならないぞ
御仁のサポートには力不足かもしれないが、私もハンター。戦わせてくれ!」
「はあ? い、いや……」
戸惑う髭男を尻目に、向かってきていた雑魔がその目の端に映ると問答無用のセイクリッドフラッシュ。
エメラルドの光の波動が周囲に広がり、相手に衝撃とダメージを与えていた。
華麗なる裁きだ。
「さあ、御仁! お力を見せて貰おう!」
星剣『アルマス・ノヴァ』を片手に、金髪の勝利の女神が微笑む。
神々しい光景に、見た者は思わず拝みたくなるだろう
このやらかしてしまっている部分さえ無ければ
「な、何を言っとるんだ。それより、こ、腰が」
「……何? 腰?
ま、まさか歴戦の古傷か……!
くっ……古傷を推してまで戦場に立つ貴方こそハンターの鑑……!」
言いながら拳を作る。
彼女の中で、誤解がどんどん積み重なっているらしく。
「心意気は我々が受け取った!
皆、我々の力を髭の御仁に示そう!」
もはやコメディのような展開になってきた。
そろそろ真が苦笑しつつエメラルドをなだめることに。
「敵はもうほとんど倒せてるよ」
戦況は優勢である。
真は敵の逃亡も警戒していたが、残る一体の傍にはすでにクレイの姿があった。心配はなさそうだ。
「お酒が破壊される前に……」
サクラの希望が聞こえたかどうかはわからないが。
ランアウトを使ったクレイは、最後の敵に身体にマテリアルを潤滑させ、洗練された動きで敵に迫る。
彼のスペルブーツ『アウダクス』が戦闘行動中の脚への負担を減らしているようだった。
「スラッシュエッジ!」
主人が無事に外へ避難できたことも確認し、精度の高く確実な一撃を敵に繰り出した。
攻撃はその脚に見事に命中。
倒れ伏した雑魔に背を向け、クレイはミリタリー風のデザインが施されたベレー帽をかぶり直した。
「雑魔退治、完了ですぅ」
ハナの笑顔に迎えられてほっとしながら、髭男のことも気にするクレイ。
「ヒゲさんは……」
「うおぉぉ
こ、腰が……限界……に……っ」
ぱたむ。
「あ」
ちょうど力尽きた。
「御仁ーーっ!!」
絶叫しながら髭男を支えるエメラルド。
なんと言葉をかけたらよいものか、苦笑を浮かべる仲間達。
ともあれ、無事に雑魔退治は一件落着したのだった。
●勝利の酒盛り
ハンター一同の活躍により、いつもと変わらぬ夜が戻ってきた。
「皆さん無事でなによりです」
クレイは外に避難していた主人や他の客達に声をかけている。
目立った外傷はなかったが、ハナは念のため主人と髭男をヒールの柔らかい光で癒していた。
壁に背を預けていた真が、その様子を見ながらのんびりと声をかける。
「偶然我々が居合わせて良かったなあ、わざわざ依頼を出す必要も無くなって一石二鳥じゃないか」
主人は深く頷いた。
「本当に驚いたよ。まさか君達がハンターだったとは。
酒まで無事だったし、助けてくれたお礼に……と言いたいんだが」
雑魔が暴れてしまった店内。まずは片付けからだ。
真の表情が少し曇ると、主人が笑みをくれる。
「そんな顔をしないで。感謝しているよ。
大変な状況だったのに、君達は店内の備品にも気を配ってくれていた。
おかげで被害は比較的少なめに済んでいると思う。
古ぼけてしまっているけど、私にとっては愛着のある店だからね。とても嬉しかったよ」
「い、いえ……」
少し照れているのか、真はやや下を向いてしまう。
すると今度はハナが、主人にずぃっと顔を近づけてきた。
「美味しいお酒を飲むためにもお片付けは手伝いますよぅ。
ついでに調理もお手伝いしても良いですぅ? みんなが無事のお祝いですぅ」
主人や髭男のトラウマにならないよう、パーティモドキを提案してくれる。
「ありがたい。是非ともお願いできるかい」
「僕も掃除手伝います」
クレイも同調し、さっそく割れたガラスなどの掃除を始めた。
続くようにサクラや真も手伝いを始めている。
「報酬として頂けるなら」
エメラルドは何か言いたげに、髭男に緑の瞳をまっすぐ向けた。
「私達に背中で戦い方を示した御仁にも奢らせて貰おう」
果てしなく持ち上げてくスタイルのエメラルド。
髭男もさすがに降参のようである。
「ある意味敵より印象に残ったぞい……。
だがまあ、若いように見えて良い腕前だったわい」
片付けは早々に終わり、あっという間にお酒タイムがやってきた。
雑魔を倒した英雄が酒場にいるとでも噂が広がったのか、他の客達も帰るどころかむしろ増えているようで、ガラスのない窓から身を乗り出す者もでてきている。
クレイは客とも一杯飲みたいと主人に相談して配ることに。
やっと自分の席に着席した時には、戦闘をした時よりもヘトヘトになっていた。
「ああ、お腹すいたー
今日のおすすめ何ですか? 僕もうお腹ペコペコで」
「おまたせですぅ、トルティーヤですよぉ。
お店の野菜や肉も使わせてもらいましたぁ」
クレイに呼び寄せられるように、ハナがウェイトレスのように料理を両手で運んできた。
周囲からも「おおー!」と歓声が上がる。
「お料理上手ですね!」
「まだまだありますぅ」
クレイ達に笑顔を向け、その後もハナは主人と共に、次々と酒や料理をテーブルに並べていく。
「やっと休日を満喫できる……」
真が椅子を軋ませて落ち着いた隣の席には、すでにサクラが着席していた。
やがてハナやエメラルドもそれぞれ席につくと待ちに待った時間がやってくる。
「「乾杯!」」
数秒の差だったが、一同の中で最も早く酒を味わったのはサクラだった。
「お酒の味はどうですかぁ?」
楽しそうにハナに尋ねられ、サクラは一旦グラスをテーブルに置く。
「美味しいですね……仕事をした後のお酒は良いです……」
「もっとありますよぉ。お酒はほとんど無事だったのでぇ、マスターがいっぱい用意してくれますぅ」
だが、遠慮するように、サクラの猫耳カチューシャが揺れる。
「……飲みすぎないようにしたいので……
飲み過ぎても記憶無くすくらいなのですけど、何故か止められるのですよね……」
不思議です……と、まとめたサクラだが、記憶を失っているところからすでに危うい予感がひしひしとする。
言葉を失ったハナが見えているのかいないのか、サクラは彼女の料理をぱくっと一口。
「料理が得意なのですね……私は不得意なので」
「食べること大好き→好きなら自分で作っちゃおうって結論ですぅ。キャハ♪」
復活したハナは、バッチリ笑顔で説明していた。
「しかし闇……か……。興味深い話だった」
エメラルドが酒を片手に語り始めたのは、ここに来てすぐ髭男に聞かされたあの話題らしい。
髭男に言っているのか、ただの独り言なのかはわからないが、そんなエメラルドの語りを、髭男は黙ったまま横目で聞いていた。
「それを感じた事のない今の境遇を恵まれていると感謝すべきか……。
このような稼業をしていては、いつそれが来るかわからないが。
それを忘れず、いざという時に大切なものを失わないように、
失って後悔しないように心掛けるべきという話だな……。
ふむ……確かに私も日頃心の中に油断や甘えがなかったとは言い切れないな……」
すると、聞いていた真も髭男に伝えておきたかったことがあるらしく、酒の手を休めた。
「ヒゲさん、私は一度全て(記憶)を失っている。
それでも闇の方には向かわなかったから、大丈夫だよ」
「――そうか」
たった三文字。
されど、どこか安心したような彼の気持ちが表れた三文字。
どんなに周囲が賑わっていても、エメラルドと真は聞き逃すことはなく。
主人にも聞こえていたのかうっすら微笑みを浮かべた後、彼はゆっくりとハンター達の前へ歩み出た。
「この場にいる皆を代表して、改めてお礼を言わせてほしい。
敵を倒して助けてくれただけじゃなく、片付けや料理まで手伝ってもらって。
――本当にどうもありがとう、心優しきハンター達」
パチパチパチ!
直後、わざとらしいほどに大きな拍手が響く。
誰のものかと思えば、やはり髭男だ。
だがそれは、次第に酒場全体の拍手へと変わっていった。
拍手に応えるように酒を高く掲げて乾杯するハンター一同。
笑顔の絶えない酒盛りは、夜が明けるまで続いたのだった。
依頼結果
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面白かった! | 4人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/13 10:28:18 |
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危機一髪!酒とヲヤジを守れ! 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2018/08/13 14:33:03 |