ゲスト
(ka0000)
リゼリオの暑い一日
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2018/08/21 22:00
- 完成日
- 2018/08/26 01:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
リゼリオはここ数日、記録的な熱波に襲われていた。
暑い。とにかく暑い。朝から暑い。
太陽が高くなってくるにつれ、それがじわじわと強まっていく。
一体今何度なのかと手持ちの温度計を見てみたら、まだ午前中だというのに余裕の摂氏35度。
午後には恐らく40度の大台を突破することだろう。
道行く人々はカゲロウの燃え立つ中、影を求めさすらっている。
鳥も鳴かず、犬も吠えず、猫も屋外を出歩かない。
せめて風でもあればいいのだが、それもない。
朝に水を撒いてもらった庭木も花もつのる一方の暑気に勝てずぐったりしおれ、葉を下向ける。
皆バテ気味だ。
常人に比べ強力な肉体を持つはずのハンターさえもが、そうだ。
魔導扇風機を回しても汗が止まらず、かき氷は食べ切る前に甘い色水と化し、作り置きのカレーさえも一日で傷んでしまう惨状。
涼を取るため町を離れている者も多い。
行く先は海や、山や、川――ちなみにアレックスはジェオルジに、カチャは故郷のタホ郷に避難しているとのこと。
しかしそういう当てがない者はただひたすら息を殺し、暑さをやり過ごすしかない。脱水症状を引き起こさないよう水分補給に気をつけながら。
しかし、ああなんということだろう。皆がこんなに大変な思いをしているときに、非常識にも、町中に歪虚が現れた。
●こいつ、出現時を心得ておらぬ
ハンターたちはかんかん照りの中を歩く。
ある者は麦藁帽子を被り、ある者は日傘を持ち、ある者は濡らしたタオルを頭にかけている。
人影どころかただの影も見当たらない公園のどまん中。
舗装道の照り返しで目が痛くなってくる。
みんな無言だ。もう話をする気にもなれないのだ。
今、時刻は昼下がり。
気温はつい先程40度越えをしたところ。
空は一面の濃い青。吸い込まれそうな夏空。眩しいを通り越し痛いほどの日差し。
かなたに浮かぶ入道雲は固まっているのかと思えるくらい動きがない。
せめて風が欲しい。風がひと吹きでもいいから欲しい。
「あっつ……」
「あづ……」
「あつい……」
足裏が熱い。
靴を履いていてこれだ。脱いだらどうなるんだろうとぼんやり思いながらハンターたちは、陽炎で揺らぐ前方を見やる。
そこには噴水があった。
ただし水は出ていない。数日前から故障中なのだそうだ。
水盤に取り残された水は炎天下のもと容赦なく蒸発し、今では底の方でわずかにわだかまっているだけ。
そこに、さえないコンニャク色をしたスライムがいた。
死んだように動かないが、表面がわずかに膨らんだりへこんだりしているところからするに、生きているようだ。
恐らく水を求めてここに来たのだろう。
しかし、その水も尽き欠けている。ゲル化状の体が端から干からび、ひび割れている有り様。このままほっといたら勝手に蒸発して消滅するのではないだろうか。
敵ながら哀れなものだ――などという感傷的な思いなど抱かずハンターたちは、無言でそれぞれの武器を取り上げた。
とにかく早く仕事を終わらせたい。日陰に入りたい。その一心で。
●遠い高原
「カチャ、そこの柱も持って行って」
「はーい」
カチャは母に命じられるまま両肩に長い柱を担ぎ上げ、運んで行く。タホ郷はただ今夏祭りの準備中。彼女は会場設営のためあちこち走り回っている次第。
リゼリオで暑い思いをしているのとどっちがよかっただろうと思いつつ、額の汗を拭う。高山地の涼風が吹いてきた。
「カチャ、大鍋出すの手伝いなさい」
「はーい」
山間の郷には本日も、清流をわたる心地よき風が吹く。
●遠い南の島
ユニゾン島は常夏の島。常に花盛り、常に緑色。そして建物は白。
昼下がり、日傘を手にマゴイは島の見回りをしていた。市民がちゃんと昼休みを消化しているか確かめるため。
港湾地区にて数少ない店舗の扉が閉められ、工場地区にて機械の運転が停止し、市民たちが木陰で、あるいは屋内で昼寝しているのを確認し、満足げに頷く。
『……とてもよい……』
それを終えた後再び地下の市民生産機関に戻り、休憩室に入る。仮眠を取る。自身もまた市民として、昼休み消化の義務を果たすために。
暑い。とにかく暑い。朝から暑い。
太陽が高くなってくるにつれ、それがじわじわと強まっていく。
一体今何度なのかと手持ちの温度計を見てみたら、まだ午前中だというのに余裕の摂氏35度。
午後には恐らく40度の大台を突破することだろう。
道行く人々はカゲロウの燃え立つ中、影を求めさすらっている。
鳥も鳴かず、犬も吠えず、猫も屋外を出歩かない。
せめて風でもあればいいのだが、それもない。
朝に水を撒いてもらった庭木も花もつのる一方の暑気に勝てずぐったりしおれ、葉を下向ける。
皆バテ気味だ。
常人に比べ強力な肉体を持つはずのハンターさえもが、そうだ。
魔導扇風機を回しても汗が止まらず、かき氷は食べ切る前に甘い色水と化し、作り置きのカレーさえも一日で傷んでしまう惨状。
涼を取るため町を離れている者も多い。
行く先は海や、山や、川――ちなみにアレックスはジェオルジに、カチャは故郷のタホ郷に避難しているとのこと。
しかしそういう当てがない者はただひたすら息を殺し、暑さをやり過ごすしかない。脱水症状を引き起こさないよう水分補給に気をつけながら。
しかし、ああなんということだろう。皆がこんなに大変な思いをしているときに、非常識にも、町中に歪虚が現れた。
●こいつ、出現時を心得ておらぬ
ハンターたちはかんかん照りの中を歩く。
ある者は麦藁帽子を被り、ある者は日傘を持ち、ある者は濡らしたタオルを頭にかけている。
人影どころかただの影も見当たらない公園のどまん中。
舗装道の照り返しで目が痛くなってくる。
みんな無言だ。もう話をする気にもなれないのだ。
今、時刻は昼下がり。
気温はつい先程40度越えをしたところ。
空は一面の濃い青。吸い込まれそうな夏空。眩しいを通り越し痛いほどの日差し。
かなたに浮かぶ入道雲は固まっているのかと思えるくらい動きがない。
せめて風が欲しい。風がひと吹きでもいいから欲しい。
「あっつ……」
「あづ……」
「あつい……」
足裏が熱い。
靴を履いていてこれだ。脱いだらどうなるんだろうとぼんやり思いながらハンターたちは、陽炎で揺らぐ前方を見やる。
そこには噴水があった。
ただし水は出ていない。数日前から故障中なのだそうだ。
水盤に取り残された水は炎天下のもと容赦なく蒸発し、今では底の方でわずかにわだかまっているだけ。
そこに、さえないコンニャク色をしたスライムがいた。
死んだように動かないが、表面がわずかに膨らんだりへこんだりしているところからするに、生きているようだ。
恐らく水を求めてここに来たのだろう。
しかし、その水も尽き欠けている。ゲル化状の体が端から干からび、ひび割れている有り様。このままほっといたら勝手に蒸発して消滅するのではないだろうか。
敵ながら哀れなものだ――などという感傷的な思いなど抱かずハンターたちは、無言でそれぞれの武器を取り上げた。
とにかく早く仕事を終わらせたい。日陰に入りたい。その一心で。
●遠い高原
「カチャ、そこの柱も持って行って」
「はーい」
カチャは母に命じられるまま両肩に長い柱を担ぎ上げ、運んで行く。タホ郷はただ今夏祭りの準備中。彼女は会場設営のためあちこち走り回っている次第。
リゼリオで暑い思いをしているのとどっちがよかっただろうと思いつつ、額の汗を拭う。高山地の涼風が吹いてきた。
「カチャ、大鍋出すの手伝いなさい」
「はーい」
山間の郷には本日も、清流をわたる心地よき風が吹く。
●遠い南の島
ユニゾン島は常夏の島。常に花盛り、常に緑色。そして建物は白。
昼下がり、日傘を手にマゴイは島の見回りをしていた。市民がちゃんと昼休みを消化しているか確かめるため。
港湾地区にて数少ない店舗の扉が閉められ、工場地区にて機械の運転が停止し、市民たちが木陰で、あるいは屋内で昼寝しているのを確認し、満足げに頷く。
『……とてもよい……』
それを終えた後再び地下の市民生産機関に戻り、休憩室に入る。仮眠を取る。自身もまた市民として、昼休み消化の義務を果たすために。
リプレイ本文
●f,n hot
天竜寺 詩(ka0396)はスライムを前に虚ろな目をしていた。
(この暑いのに迷惑なスライムだなぁ。さっさと片付けて少しでも暑さがマシな所にいかないと)
マルカ・アニチキン(ka2542)は見えない隣人に話しかけている。
「あ、カチャさん。どうしたんですそんなところにふっわふわ浮いて……」
藤堂研司(ka0569)は孔雀羽の団扇で顔を扇ぎ続けているが、汗が少しも止まらない。つい弱音を吐く。
「あっぢぃ……死ぬ……あっぢぃ……なんでこんな日の仕事なんて受けちまったんだ……」
そのとき強烈な輝きが場を満たした。
万歳丸(ka5665)がアブソリュート・ポーズを決めたのだ。
「暑い? オイオイ、舐めたこといってンじゃねェぜ……見ろよ、俺を! この! 未来の大英雄たる! 俺のォ……体をよォォォ!!」
彼が身につけているのは武器、大胸筋矯正ギブス、両親の形見の首飾りのみ――いや、まだあった。公序良俗の砦を守る大きめ昆布のふんどし。
「昆布だけに藻細工――なンてなァ!!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はよろりら噴水の縁に寄り、乾燥スライムの姿に衝撃を受けた。
スラちゃんがこんなにカピカピなんて、ツルツルじゃないなんて、許されていいことじゃない。
「ま、まる?!! トードー! おみ……おみしゅ……をっ」
台詞の途中で倒れる。熱に負けたのだ。
「……ってパッティーー!!!?? てめェ……倒れてンじゃねェ!」
万歳丸はパティを抱き抱え、がくがく揺さぶった。節制蒸留水を立て続けに発動し、パティの顔目がけぶちまけた。
「起きろ! 起きろよ……!! パッティィィィィ……!!!!」
水分補給によってパティは、目をキラキラさせ起き上がった。
「マルのばんざい汁ハすっごいんダヨっ。たっくさん出テ、きもちーんダヨ。ししょーも浴びるとイーヨ、ばんざい汁!」
汗でないのは重々承知だが、それでもなんかこう、汁とか言われるとやはり抵抗感を感じずにはいられないエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)。
「いや、私はいい」
と言っているところ、研司が突然叫んだ。
「パティさん、万歳丸さん、きりんさんチームの連携を見せよう!」
どこから持ってきたものか知れない鉄人の鍋を取り出しガッツポーズ。
「こいつにカピカピ死に体スライムをぶちこみーの! アーンド!万歳汁で戻しーのしてぇ! 清涼感溢れるスライム汁を作ろうぜ!」
彼の目はぐるぐる回っていた。頭蓋骨の中身が茹だってきたらしい。
まだそこまで行っていないルベーノ・バルバライン(ka6752)は、何を馬鹿なことをといった口調で突っ込みを入れる。
「水で戻したところでスライムが感謝して涼を提供してくれるとも思えん。そのまま倒すより一手増やす分暑さが倍増するではないか」
正論だ。
しかし場は既に、正論が通じるものではなくなっていた。
「コイツだって……被害者だろ? もちろんその後は真剣勝負よォ! やンなら正々堂々ォ、ケリをつけようじゃねェか……!」
水に落ちた歪虚は叩かない。手を貸し引き上げてやった上でぶん殴る。それが彼のやり方。
乾いていたゲル物質が万歳汁によって潤いを取り戻し、本物のコンニャクみたいになっていく。
(あ、なんかクラゲを戻す時みたい……今度クラゲの酢の物でも作るかな……)
などと思いながらぼんやり事態を眺めていた詩は、脚にピリッと走った痺れで我に返った。勢いを取り戻したスライムが、触手を伸ばし攻撃してきたのだ。
「……てそうじゃなくて! わざわざ戻さなくてもいいのに、しょうがないなぁ。まぁ戻しちゃったものはしょうがないけど」
ジャッジメントを放ち、自分に向かって伸びてきた触手を釘づける。
エラもうにょうにょわき出てきた触手をピンポイントに狙い、瞬矢を放つ。10メートルほど離れた場所から。
「後で食材にするというなら、全部消し飛ばすわけにはいきませんから……」
飛び散った触手の一部がパトシリアの足に当たる。
「あいタッ! もウ、スラちゃんチクチクするんダヨー」
払い落としたそれをビーチサンダルでふみふみした彼女は、太鼓を取り出し叩き始める。高らかに歌うはファセットソング。
「♪ハアー、踊り踊るぅならチョイトリゼリオ音頭ぉー♪」
ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンッ
その刺激を受け幻と会話していたマルカが、正気に戻らぬままハンターとしての矜持と任務を思い出した。
「そうですね、分かりましたカチャさん、nice boat!」
目もくらむ白熱の日差しにサムズアップするやいなや、アイスボルトをスライムに向け放つ。
次いでリナリス・リーカノア(ka5126)もアイスボルトを放つ。
スライムがガキンと固まった。
万歳丸が殴った。
「おいどうした、しっかりしろ! 戦いはこれからだぜ!」
スライムが二つにぶっ千切れ飛び散る。
その片方を研司は鍋で受け止め、大包丁で切り刻み始める。
「オラ! おとなしくしろ! 味が落ちるだろ!!」
ルベーノは臨界点を突破した皆の所業に慄きつつ、自分の方に飛び散ってきたスライムに白虎神拳を食らわし、消滅させた。
「何と言うハイテンション……このビッグウェーブに乗れぬ俺が間違っていたということか?」
とにかく治療が必要なほどの怪我をした人はいない。
なので詩は、早々退場するとした。
「それじゃ」
リナリスも去る。
「それじゃ、あたしも♪」
ルベーノも場を後にした。何やらぶつぶつ言いながら。
「この暑さでは食中毒が怖い、それにμはものが食べられん……」
マルカのパルムも主人の肩を離れ、1人でどこかに歩いて行く。
いまだ別世界から戻ってこられないマルカは、それに気づかなかった。
「やりましたよ、カチャさん見ていてくれましたか?――あれ、どうしてそんなところに競泳パンツ姿で浮いているんですジルb――」
●詩INエビサ
「うーん、潮風が気持ちいいなぁ」
甲板で伸びをする詩の目に映るのは、橙色の屋根瓦と白壁の町並み。
港に着いて向かうのは、かつて知ったるレストラン『ガタン』。いつぞや歪虚になりかけていたあの招き猫は、今もちゃあんと入り口を守っていた。
「久しぶりだね」
声をかけて頭をなでて、魔導カメラで記念撮影。
それから店内へと入る。真っ白なクロスが引かれたテーブルに着き、メニューを開き、ウェイターに声をかける。
「すいませーん、コースお願いしますー」
●リナリスINタホ郷
緑に覆われた山々、清々しい空気、夏なお涼しいここはタホ郷。
「リナリスさーん! 来てくれたんですか!」
「やっほー、カチャ。なんだか忙しそうだね♪」
娘とその婚約者がはしゃいでいる所、母ケチャがやってくる。
「あら、リナリス。来てたの」
「ケチャお母様、お久しぶりです。ご無沙汰していて申し訳ありません。その償いには足りませんが、今日はぜひこれをお納めいただきたいと思いまして……」
深々頭を下げたリナリスは、背負っていた樽を降ろし蓋を開ける。
詰まっていたのは清酒、焼酎、ブランデー、ベルモット。夏野菜のピクルス――暑気払いを兼ね、酸味とスパイスの辛味をきかせた彼女のお手製だ。
「このピクルスは酒の肴にどうぞ。郷の皆さんにも賞味してもらえる様沢山作ったんです」
「なかなか気が利くわね」
「はい、皆さんに喜んでもらえばと! あたしも来年の春から部族の一員になりますから! カチャ、お祭り準備あたしも手伝うよ♪」
●火力一番勝負
研司はあえて調味料を使わないことにした。折角エラが鰹節を手にいれてきたのだ。それでだしを取らずしてどうする。
がんがん調理用の焚き火が燃える前で、大包丁をふるう。鰹節が薄く薄くそがれていく。
パトリシアがスマホで写真を撮りながら言った。
「トード、スラちゃんの姿が見えないヨ?」
「だいじょうぶ、もともと寒天だって調理中に消えるものだから問題は無い。可能ならダシにもう一味欲しいところだが……」
「ちょうどいい、ここに昆布があるぜ!」
何のためらいも無く腰の昆布に手をかける万歳丸。
エラが瞬矢を放った。彼の昆布から作られたダシを口にしたくないがための反射行動だった。
昆布を手に掲げたまま吹き飛ばされる万歳丸。
「ああっ、マル! 駄目なのダヨ!」
パトリシアが桜幕符を発動。彼の下半身に桜モザイクをかけ見えてはならぬモノを死守。
しかし続けて研司が上着を脱ぎ、下着も脱ぎ、エプロン一丁の姿に。
「くそお! 熱い! しかし負けん! 料理王に、俺はなる!」
後方から見ると危険な状態だが、再度パトリシアの桜モザイクがフォローしたので問題ない。
エラは周囲の狂騒に惑わされることなくズッキーニ、キューリ、冬瓜を切り分け、青紫蘇とみょうがを刻む。
炙った鯵の干物を解し、ゴマを擂りにかかるところでひと思案。
「あ、そうだ。万歳丸さんがカシワを買ってきたんだった……あれはどうしよう」
ちなみにマルカはダウンし、木陰に伏していた。かち割り氷とトマトを入れた盥と一緒に。
「……潮騒が…潮騒が聞こえる……」
とうわ言を吐いているが、本当に聞こえているのはあつかましいミンミン蝉の声だけ。
彼女のパルムは冷房が利いたハンターオフィスでアイスミルクティーを飲んでいるのだが、そんなこと知る由もなかった。
●詩INエビサ
塩気と甘味のハーモニー、生ハムメロン。
トマトの酸味が快いガスパチョ。
ニンニクの香味が効いた牛ヒレ肉のカルパッチョ。
それらを堪能した後待望のデザートが来る。
「待ってました♪」
それはレモンジェラート。涼しげなガラス容器に盛られた淡黄色の氷菓子。
まず写真、そして一口。
「んー、おいしー!」
●試食会
「これがスライムの味か……副菜の数々が出汁を引き立ッ」
台詞の途中で研司は倒れた。体内に取り込んだ熱が許容限界点を超えたのだ。
エラは黙って彼を引きずり、マルカの横に並べておく。
パトリシアと万歳丸は湯しかない鍋を小皿に掬い、飲んでみた。
「スライム汁ってさっぱりしてるんだネー」
「スライムってなあカツオダシみてーな味がするんだなあ」
実際カツオダシしか入って無いからだと思ったが、口にはしないでおくエラ。
パトリシアと万歳丸は、彼女が作った冷や汁パスタと鶏の酒蒸しトマト添えを食しにかかる。
「あ、お味噌とパスタって意外と合うのネ! おいしーヨ、ししょー!」
「鶏の酒蒸しもいけるぜ。パティ、食え食え。この肉は俺のおごりだ遠慮はいらねえ……ん? そいや髪、伸びたンだな……」
「エ? 今気づいたノ、マル」
木陰でやっと息を吹き返したマルカが、目の前の盥に頭を突っ込んで涼をとる。氷水はとても心地よかった。
後日、クラゲをお土産に戻ってきた詩はパトリシアと写真の見せあいこをし、楽しく夏の一日について語り合った。
「――バカラオのコロッケ、とてもおいしかったんだよ。おかみさん達にそれを言ったらすごく喜んでくれて、このクラゲもらっちゃった。ところでこの一面の桜、何?」
「ア、ソレはマルとトードの絶対領域ナノ」
●リナリスINタホ家
カチャの胸の豊かさは間違いなく母親譲りに違いない、とリナリスは思った。義母の背をせっせと流しながら。
この機会にぜひもっと近づきになりたいと、風呂での背中流しを申し出たのだ。
「お母様、おかゆいところはございませんかー」
「そうねー、右の肩甲骨の下あたりかしら」
「背中一面見事な竜の入れ墨ですねお母様」
「ああ、私たちの年代はこの程度、珍しくなかったのよ。世代が下るごとに、段々小さくなっちゃったけどね。それでも嫌がるんだからしょうの無い子よ、カチャも」
カチャの名前が出たところでリナリスは、思い切って言った。
「……カチャを生んで下さって、ありがとうございます。魅力に溢れた素晴らしいお嬢さんです。カチャと共に歩む事が出来るのは、私にとって最高の喜びです♪」
ケチャはリナリスを振り返った。苦笑交じりに言った。
「あの子のこと、頼むわね」
外で風呂釜の火焚をしていたカチャはその会話を漏れ聞いて、照れたように頭をかいた。
●ルベーノINユニゾン
ユニゾンは場所的にリゼリオよりも南にある。従って平均気温はリゼリオより高い。
が、それほどひどい暑さは感じない。
環境に合わせた都市設計がなされているからだろう。陰となる緑はふんだんにあるし、至る所水路が張り巡らされているし、建物の中は適度に気温が下げられている。
――ウテルスのことを聞かれたマゴイは、母が赤子を思うような響きを込めて言った。
『……ウテルスの状態は良好よ……炉が完成しさえすれば……起こしてあげることが出来る……新しい市民を皆……最適に健康に生まれさせることが出来る……』
いよいよ彼女の悲願が実現するのか。感慨深く思うと同時にルベーノは、クギを刺しておいた。彼女が、いやユニゾンが、ユニオンの二の舞いをしないために。
「デザインヒューマンだろうがそうでなかろうが、人が望まれて生まれることに変わりはないと俺は思う。デザインヒューマンの方が望まれる気持ちは強いかもしれん。だがそれは容易く選民思想に繋がりかねん……自身にとっても他者にとってもな。多様性を受け入れることなくしてよい社会は成らんということを、忘れんようにしてくれ」
腑に落ち無さそうにマゴイが返す。
『……ユニオンは多様性を否定してはいない……多様な職種にはそれを最適な形でこなせる多様な人材が必要……』
「規定された多様性は多様性とは言わん。中に居ては歪みは分からん。お前には確かに仲間が必要だ。それでも教育だけでは人間は強制できん。交流の門戸だけは閉ざさんでくれよ、μ」
彼はマゴイに土産を渡した。
白いレースの扇子、白いレースのリボンが付いたつばの広い白い帽子、白い長手袋。
いつも同じ詰め襟長袖ワンピースの制服でなく、たまには違う格好をしてみるのもいいのではないか。こちらの世界により馴染む取っ掛かりになるのではないか。そう思ってのチョイスだった。
「服装自体は精神力で作りだしているのだろう? ならば気に入れば同じものを作って使えるのではないかと思ってな。別にユニオンも日常服が決められていたわけではないのだろう?」
『……そうね……勤務時間外は……規定の範囲内で自己選択してもよい……』
マゴイの服装が変わっていく。胸元が開き肩が出て、スカートが膨らむ。
白いレースの帽子にぴったりな白いサマードレス姿。
しかし惜しいことに、それは一瞬で終わった。
『……でも私はまだ勤務時間中……』
と呟き、マゴイが元に戻してしまったのである。
そこにコボルドたちがやってきた。
「いた、うべーの」「かりかりいーつもありがと」「くえ」
お礼にと彼らがルベーノに渡してきたのは、取れたてのマンゴーであった。
天竜寺 詩(ka0396)はスライムを前に虚ろな目をしていた。
(この暑いのに迷惑なスライムだなぁ。さっさと片付けて少しでも暑さがマシな所にいかないと)
マルカ・アニチキン(ka2542)は見えない隣人に話しかけている。
「あ、カチャさん。どうしたんですそんなところにふっわふわ浮いて……」
藤堂研司(ka0569)は孔雀羽の団扇で顔を扇ぎ続けているが、汗が少しも止まらない。つい弱音を吐く。
「あっぢぃ……死ぬ……あっぢぃ……なんでこんな日の仕事なんて受けちまったんだ……」
そのとき強烈な輝きが場を満たした。
万歳丸(ka5665)がアブソリュート・ポーズを決めたのだ。
「暑い? オイオイ、舐めたこといってンじゃねェぜ……見ろよ、俺を! この! 未来の大英雄たる! 俺のォ……体をよォォォ!!」
彼が身につけているのは武器、大胸筋矯正ギブス、両親の形見の首飾りのみ――いや、まだあった。公序良俗の砦を守る大きめ昆布のふんどし。
「昆布だけに藻細工――なンてなァ!!」
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はよろりら噴水の縁に寄り、乾燥スライムの姿に衝撃を受けた。
スラちゃんがこんなにカピカピなんて、ツルツルじゃないなんて、許されていいことじゃない。
「ま、まる?!! トードー! おみ……おみしゅ……をっ」
台詞の途中で倒れる。熱に負けたのだ。
「……ってパッティーー!!!?? てめェ……倒れてンじゃねェ!」
万歳丸はパティを抱き抱え、がくがく揺さぶった。節制蒸留水を立て続けに発動し、パティの顔目がけぶちまけた。
「起きろ! 起きろよ……!! パッティィィィィ……!!!!」
水分補給によってパティは、目をキラキラさせ起き上がった。
「マルのばんざい汁ハすっごいんダヨっ。たっくさん出テ、きもちーんダヨ。ししょーも浴びるとイーヨ、ばんざい汁!」
汗でないのは重々承知だが、それでもなんかこう、汁とか言われるとやはり抵抗感を感じずにはいられないエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)。
「いや、私はいい」
と言っているところ、研司が突然叫んだ。
「パティさん、万歳丸さん、きりんさんチームの連携を見せよう!」
どこから持ってきたものか知れない鉄人の鍋を取り出しガッツポーズ。
「こいつにカピカピ死に体スライムをぶちこみーの! アーンド!万歳汁で戻しーのしてぇ! 清涼感溢れるスライム汁を作ろうぜ!」
彼の目はぐるぐる回っていた。頭蓋骨の中身が茹だってきたらしい。
まだそこまで行っていないルベーノ・バルバライン(ka6752)は、何を馬鹿なことをといった口調で突っ込みを入れる。
「水で戻したところでスライムが感謝して涼を提供してくれるとも思えん。そのまま倒すより一手増やす分暑さが倍増するではないか」
正論だ。
しかし場は既に、正論が通じるものではなくなっていた。
「コイツだって……被害者だろ? もちろんその後は真剣勝負よォ! やンなら正々堂々ォ、ケリをつけようじゃねェか……!」
水に落ちた歪虚は叩かない。手を貸し引き上げてやった上でぶん殴る。それが彼のやり方。
乾いていたゲル物質が万歳汁によって潤いを取り戻し、本物のコンニャクみたいになっていく。
(あ、なんかクラゲを戻す時みたい……今度クラゲの酢の物でも作るかな……)
などと思いながらぼんやり事態を眺めていた詩は、脚にピリッと走った痺れで我に返った。勢いを取り戻したスライムが、触手を伸ばし攻撃してきたのだ。
「……てそうじゃなくて! わざわざ戻さなくてもいいのに、しょうがないなぁ。まぁ戻しちゃったものはしょうがないけど」
ジャッジメントを放ち、自分に向かって伸びてきた触手を釘づける。
エラもうにょうにょわき出てきた触手をピンポイントに狙い、瞬矢を放つ。10メートルほど離れた場所から。
「後で食材にするというなら、全部消し飛ばすわけにはいきませんから……」
飛び散った触手の一部がパトシリアの足に当たる。
「あいタッ! もウ、スラちゃんチクチクするんダヨー」
払い落としたそれをビーチサンダルでふみふみした彼女は、太鼓を取り出し叩き始める。高らかに歌うはファセットソング。
「♪ハアー、踊り踊るぅならチョイトリゼリオ音頭ぉー♪」
ドンドコ ドンドコ ドンドコ ドンッ
その刺激を受け幻と会話していたマルカが、正気に戻らぬままハンターとしての矜持と任務を思い出した。
「そうですね、分かりましたカチャさん、nice boat!」
目もくらむ白熱の日差しにサムズアップするやいなや、アイスボルトをスライムに向け放つ。
次いでリナリス・リーカノア(ka5126)もアイスボルトを放つ。
スライムがガキンと固まった。
万歳丸が殴った。
「おいどうした、しっかりしろ! 戦いはこれからだぜ!」
スライムが二つにぶっ千切れ飛び散る。
その片方を研司は鍋で受け止め、大包丁で切り刻み始める。
「オラ! おとなしくしろ! 味が落ちるだろ!!」
ルベーノは臨界点を突破した皆の所業に慄きつつ、自分の方に飛び散ってきたスライムに白虎神拳を食らわし、消滅させた。
「何と言うハイテンション……このビッグウェーブに乗れぬ俺が間違っていたということか?」
とにかく治療が必要なほどの怪我をした人はいない。
なので詩は、早々退場するとした。
「それじゃ」
リナリスも去る。
「それじゃ、あたしも♪」
ルベーノも場を後にした。何やらぶつぶつ言いながら。
「この暑さでは食中毒が怖い、それにμはものが食べられん……」
マルカのパルムも主人の肩を離れ、1人でどこかに歩いて行く。
いまだ別世界から戻ってこられないマルカは、それに気づかなかった。
「やりましたよ、カチャさん見ていてくれましたか?――あれ、どうしてそんなところに競泳パンツ姿で浮いているんですジルb――」
●詩INエビサ
「うーん、潮風が気持ちいいなぁ」
甲板で伸びをする詩の目に映るのは、橙色の屋根瓦と白壁の町並み。
港に着いて向かうのは、かつて知ったるレストラン『ガタン』。いつぞや歪虚になりかけていたあの招き猫は、今もちゃあんと入り口を守っていた。
「久しぶりだね」
声をかけて頭をなでて、魔導カメラで記念撮影。
それから店内へと入る。真っ白なクロスが引かれたテーブルに着き、メニューを開き、ウェイターに声をかける。
「すいませーん、コースお願いしますー」
●リナリスINタホ郷
緑に覆われた山々、清々しい空気、夏なお涼しいここはタホ郷。
「リナリスさーん! 来てくれたんですか!」
「やっほー、カチャ。なんだか忙しそうだね♪」
娘とその婚約者がはしゃいでいる所、母ケチャがやってくる。
「あら、リナリス。来てたの」
「ケチャお母様、お久しぶりです。ご無沙汰していて申し訳ありません。その償いには足りませんが、今日はぜひこれをお納めいただきたいと思いまして……」
深々頭を下げたリナリスは、背負っていた樽を降ろし蓋を開ける。
詰まっていたのは清酒、焼酎、ブランデー、ベルモット。夏野菜のピクルス――暑気払いを兼ね、酸味とスパイスの辛味をきかせた彼女のお手製だ。
「このピクルスは酒の肴にどうぞ。郷の皆さんにも賞味してもらえる様沢山作ったんです」
「なかなか気が利くわね」
「はい、皆さんに喜んでもらえばと! あたしも来年の春から部族の一員になりますから! カチャ、お祭り準備あたしも手伝うよ♪」
●火力一番勝負
研司はあえて調味料を使わないことにした。折角エラが鰹節を手にいれてきたのだ。それでだしを取らずしてどうする。
がんがん調理用の焚き火が燃える前で、大包丁をふるう。鰹節が薄く薄くそがれていく。
パトリシアがスマホで写真を撮りながら言った。
「トード、スラちゃんの姿が見えないヨ?」
「だいじょうぶ、もともと寒天だって調理中に消えるものだから問題は無い。可能ならダシにもう一味欲しいところだが……」
「ちょうどいい、ここに昆布があるぜ!」
何のためらいも無く腰の昆布に手をかける万歳丸。
エラが瞬矢を放った。彼の昆布から作られたダシを口にしたくないがための反射行動だった。
昆布を手に掲げたまま吹き飛ばされる万歳丸。
「ああっ、マル! 駄目なのダヨ!」
パトリシアが桜幕符を発動。彼の下半身に桜モザイクをかけ見えてはならぬモノを死守。
しかし続けて研司が上着を脱ぎ、下着も脱ぎ、エプロン一丁の姿に。
「くそお! 熱い! しかし負けん! 料理王に、俺はなる!」
後方から見ると危険な状態だが、再度パトリシアの桜モザイクがフォローしたので問題ない。
エラは周囲の狂騒に惑わされることなくズッキーニ、キューリ、冬瓜を切り分け、青紫蘇とみょうがを刻む。
炙った鯵の干物を解し、ゴマを擂りにかかるところでひと思案。
「あ、そうだ。万歳丸さんがカシワを買ってきたんだった……あれはどうしよう」
ちなみにマルカはダウンし、木陰に伏していた。かち割り氷とトマトを入れた盥と一緒に。
「……潮騒が…潮騒が聞こえる……」
とうわ言を吐いているが、本当に聞こえているのはあつかましいミンミン蝉の声だけ。
彼女のパルムは冷房が利いたハンターオフィスでアイスミルクティーを飲んでいるのだが、そんなこと知る由もなかった。
●詩INエビサ
塩気と甘味のハーモニー、生ハムメロン。
トマトの酸味が快いガスパチョ。
ニンニクの香味が効いた牛ヒレ肉のカルパッチョ。
それらを堪能した後待望のデザートが来る。
「待ってました♪」
それはレモンジェラート。涼しげなガラス容器に盛られた淡黄色の氷菓子。
まず写真、そして一口。
「んー、おいしー!」
●試食会
「これがスライムの味か……副菜の数々が出汁を引き立ッ」
台詞の途中で研司は倒れた。体内に取り込んだ熱が許容限界点を超えたのだ。
エラは黙って彼を引きずり、マルカの横に並べておく。
パトリシアと万歳丸は湯しかない鍋を小皿に掬い、飲んでみた。
「スライム汁ってさっぱりしてるんだネー」
「スライムってなあカツオダシみてーな味がするんだなあ」
実際カツオダシしか入って無いからだと思ったが、口にはしないでおくエラ。
パトリシアと万歳丸は、彼女が作った冷や汁パスタと鶏の酒蒸しトマト添えを食しにかかる。
「あ、お味噌とパスタって意外と合うのネ! おいしーヨ、ししょー!」
「鶏の酒蒸しもいけるぜ。パティ、食え食え。この肉は俺のおごりだ遠慮はいらねえ……ん? そいや髪、伸びたンだな……」
「エ? 今気づいたノ、マル」
木陰でやっと息を吹き返したマルカが、目の前の盥に頭を突っ込んで涼をとる。氷水はとても心地よかった。
後日、クラゲをお土産に戻ってきた詩はパトリシアと写真の見せあいこをし、楽しく夏の一日について語り合った。
「――バカラオのコロッケ、とてもおいしかったんだよ。おかみさん達にそれを言ったらすごく喜んでくれて、このクラゲもらっちゃった。ところでこの一面の桜、何?」
「ア、ソレはマルとトードの絶対領域ナノ」
●リナリスINタホ家
カチャの胸の豊かさは間違いなく母親譲りに違いない、とリナリスは思った。義母の背をせっせと流しながら。
この機会にぜひもっと近づきになりたいと、風呂での背中流しを申し出たのだ。
「お母様、おかゆいところはございませんかー」
「そうねー、右の肩甲骨の下あたりかしら」
「背中一面見事な竜の入れ墨ですねお母様」
「ああ、私たちの年代はこの程度、珍しくなかったのよ。世代が下るごとに、段々小さくなっちゃったけどね。それでも嫌がるんだからしょうの無い子よ、カチャも」
カチャの名前が出たところでリナリスは、思い切って言った。
「……カチャを生んで下さって、ありがとうございます。魅力に溢れた素晴らしいお嬢さんです。カチャと共に歩む事が出来るのは、私にとって最高の喜びです♪」
ケチャはリナリスを振り返った。苦笑交じりに言った。
「あの子のこと、頼むわね」
外で風呂釜の火焚をしていたカチャはその会話を漏れ聞いて、照れたように頭をかいた。
●ルベーノINユニゾン
ユニゾンは場所的にリゼリオよりも南にある。従って平均気温はリゼリオより高い。
が、それほどひどい暑さは感じない。
環境に合わせた都市設計がなされているからだろう。陰となる緑はふんだんにあるし、至る所水路が張り巡らされているし、建物の中は適度に気温が下げられている。
――ウテルスのことを聞かれたマゴイは、母が赤子を思うような響きを込めて言った。
『……ウテルスの状態は良好よ……炉が完成しさえすれば……起こしてあげることが出来る……新しい市民を皆……最適に健康に生まれさせることが出来る……』
いよいよ彼女の悲願が実現するのか。感慨深く思うと同時にルベーノは、クギを刺しておいた。彼女が、いやユニゾンが、ユニオンの二の舞いをしないために。
「デザインヒューマンだろうがそうでなかろうが、人が望まれて生まれることに変わりはないと俺は思う。デザインヒューマンの方が望まれる気持ちは強いかもしれん。だがそれは容易く選民思想に繋がりかねん……自身にとっても他者にとってもな。多様性を受け入れることなくしてよい社会は成らんということを、忘れんようにしてくれ」
腑に落ち無さそうにマゴイが返す。
『……ユニオンは多様性を否定してはいない……多様な職種にはそれを最適な形でこなせる多様な人材が必要……』
「規定された多様性は多様性とは言わん。中に居ては歪みは分からん。お前には確かに仲間が必要だ。それでも教育だけでは人間は強制できん。交流の門戸だけは閉ざさんでくれよ、μ」
彼はマゴイに土産を渡した。
白いレースの扇子、白いレースのリボンが付いたつばの広い白い帽子、白い長手袋。
いつも同じ詰め襟長袖ワンピースの制服でなく、たまには違う格好をしてみるのもいいのではないか。こちらの世界により馴染む取っ掛かりになるのではないか。そう思ってのチョイスだった。
「服装自体は精神力で作りだしているのだろう? ならば気に入れば同じものを作って使えるのではないかと思ってな。別にユニオンも日常服が決められていたわけではないのだろう?」
『……そうね……勤務時間外は……規定の範囲内で自己選択してもよい……』
マゴイの服装が変わっていく。胸元が開き肩が出て、スカートが膨らむ。
白いレースの帽子にぴったりな白いサマードレス姿。
しかし惜しいことに、それは一瞬で終わった。
『……でも私はまだ勤務時間中……』
と呟き、マゴイが元に戻してしまったのである。
そこにコボルドたちがやってきた。
「いた、うべーの」「かりかりいーつもありがと」「くえ」
お礼にと彼らがルベーノに渡してきたのは、取れたてのマンゴーであった。
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暑いの嫌だよ大作戦 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/08/21 14:59:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/21 20:06:46 |