ゲスト
(ka0000)
【MN】モスキートsurvive
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/12 19:00
- 完成日
- 2018/08/22 00:36
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
世界は急変した。もう歪虚に立ち向かうハンターはいない。だが、いい事もあった。
何故なら歪虚はどういう訳かハンターという戦う存在が居なくなった事を知り、侵略の先を変えてしまったのだ。
残ったのは皮肉にも以前よりは平和な世界……人同士の揉め事はあるにしろ、恐怖の対象が消えたのは大きい。
人々は静かになった世界でそれぞれの生を楽しむ。
だが、実際はハンター達も未だ世界に存在した。ただ、人間に見えていないだけ。
どういう作用でこうなったのかは判らない。一説ではマテリアルの歪んだ暴走かもと囁かれたが、一番信憑性が高かったのは遺伝子の存在。一定量のマテリアルを保有し操れる遺伝子を持っていた者達の身体への突然変異ではないかと言われている。
がそんな御託はさておいて、ハンター達の暮らしは一変した。
彼らの身体は元の身長によって多少の違いはあるもののおおよそ三センチに変化し、戦う相手は歪虚から人類最悪のあの吸血生物、蚊へと変わる。なぜなら、蚊のメスは繫殖期、人の血液を吸収する。その量は自分の体重が倍になる位であるから小さくなったハンターには頂けない。
もし、可能な限り吸い出されてしまったら完全に致死量となり、あっという間に昇天だ。
プゥーーーーーン
その羽音がするだけでハンター達に緊張が走る。
ある者は民家の隅に寝屋を作って生活し、またある者は森でリスと共に一夜を明かす。
そして、怯えるようにその羽音と共に目を覚ます。
だが、幸いな事に携帯していた武器も小さくなっていた事から戦う術は持ち合わせていた。
息を殺して、敵の接近に緊張が走る。ハンターより今は小動物の方が大きいのだし、人間もまだ存在するのだからそっちに行けばいいものの、何故だか執拗にハンターを狙ってくる。それはきっと力によるものだろう。
マテリアルが多い方がきっとよい子孫を残せると、そう本能が教えているようだ。
「くっ、油断したぜっ」
周囲を警戒しつつ、一人のハンターが得物を構える。
彼は一匹オオカミなのか、単独でここを塒にしていたらしく周りに救いの手を差し伸べてくれる者はいない。
蚊と彼…暫くのにらみ合いが続く。が、これがまた蚊の作戦だった。
一直線には来ず、その場でゆらゆらとこちらを翻弄する動き…幼少時代のトンボを捕まえる時の事を思い出す。
(誘っているのか?)
彼は思う。だが、そう思った時にはもう遅い。ぼんやりと視界が狭くなり、手にも力が入らなくなる。
「な……」
その時やっと彼は自分の不注意に気が付いた。背後にもう一匹の蚊がいて、彼の背中を貫いている。
(くっ、痛みなど…感じなかったのに…)
振り返った先、自分に刺さった管はどうやら一本ではないようだ。そして、視線を前に戻して彼は知る。
余り知られていないが、蚊はああ見えて何本もの針を持っていた。皮膚を傷つける針に、広げたままにしておく針、そして幹部に麻酔をかけ血液が固まらないようにする針というか管など。それらを普段は一つの鞘に納めているから一本に見えているようだ。
「あ…あぁ…」
血液が吸い出されていくのを感じる。流し込まれた麻酔液のせいで痛みはないが、このままだとヤバいだろう。
「ッ、立ち去れ! 害虫共っ!」
とそこへ声がして、彼を諦めて二匹の蚊が飛び去って行く。
が、度肝を抜かれたのはこの後だ。
声の主はあろうことかバッタに乗って登場すると、彼を抱え再びそれに乗り込む。
「あんた、一体…」
「喋るな。時間がない、行くぞ」
男はバンデラと言った。彼もハンターらしい。
ごつい鎧に大剣を携えて、そう言えば目の色がバッタと同じに見える。
こうして彼は一命を取り留め運ばれた先には大勢のハンターがいた。
彼等は身を護る為共同で過ごしているのだという。
「さっきのは…」
礼を言った後、あの不思議な現象を彼が尋ねる。
「ああ、あれか。私達はあれを虫心(ムシン)と呼んでいる。どうやら、この姿になって覚醒すると一定時間だけ虫を操れるようになるらしい。最近気づいた事だがな。近くにいる虫をじって見つめて念じればおまえも出来る筈だ」
男が言う。そして、色々聞くうちに彼の知らなかった事実を耳にする。
「私達で調べた結果、奴らとの戦いを終わらせる方法がついに判明した。戦では頭を潰せば勝ち…では、奴らの頭はどれなのか。そこで行きついたのがキングの存在だ」
「キング?」
眉をひそめ彼が聞き返す。
「まず始めに襲ってくるのは全てメスだ。しかも繁殖後の…ならば、繁殖する相手がいなくなればどうなる? しかも都合のいい事にオスの蚊がハーレムを狙ってやり合ってくれたおかげで今は一匹しかいないとしたらどうだ」
それをやってしまえば子孫の連鎖が続かなくなり、次第に数は減ってジ・エンド。
そうなれば怯えて暮らす事もなくなり、こんな姿でも今までよりは熟睡できるかもしれない。
希望はある。こうなってしまった理由は判らないままだが、救いがある事を知り拳を握る。
「やるかね、君も」
バンデラが言う。この男…いや、ここのハンター達は諦めていないのだ。
この理不尽な状況からも目を背けず、ただ未来を勝ち取る事を考えている。
「もちろん」
彼が言う。作戦は明後日――全ては彼等の腕にかかっていた。
何故なら歪虚はどういう訳かハンターという戦う存在が居なくなった事を知り、侵略の先を変えてしまったのだ。
残ったのは皮肉にも以前よりは平和な世界……人同士の揉め事はあるにしろ、恐怖の対象が消えたのは大きい。
人々は静かになった世界でそれぞれの生を楽しむ。
だが、実際はハンター達も未だ世界に存在した。ただ、人間に見えていないだけ。
どういう作用でこうなったのかは判らない。一説ではマテリアルの歪んだ暴走かもと囁かれたが、一番信憑性が高かったのは遺伝子の存在。一定量のマテリアルを保有し操れる遺伝子を持っていた者達の身体への突然変異ではないかと言われている。
がそんな御託はさておいて、ハンター達の暮らしは一変した。
彼らの身体は元の身長によって多少の違いはあるもののおおよそ三センチに変化し、戦う相手は歪虚から人類最悪のあの吸血生物、蚊へと変わる。なぜなら、蚊のメスは繫殖期、人の血液を吸収する。その量は自分の体重が倍になる位であるから小さくなったハンターには頂けない。
もし、可能な限り吸い出されてしまったら完全に致死量となり、あっという間に昇天だ。
プゥーーーーーン
その羽音がするだけでハンター達に緊張が走る。
ある者は民家の隅に寝屋を作って生活し、またある者は森でリスと共に一夜を明かす。
そして、怯えるようにその羽音と共に目を覚ます。
だが、幸いな事に携帯していた武器も小さくなっていた事から戦う術は持ち合わせていた。
息を殺して、敵の接近に緊張が走る。ハンターより今は小動物の方が大きいのだし、人間もまだ存在するのだからそっちに行けばいいものの、何故だか執拗にハンターを狙ってくる。それはきっと力によるものだろう。
マテリアルが多い方がきっとよい子孫を残せると、そう本能が教えているようだ。
「くっ、油断したぜっ」
周囲を警戒しつつ、一人のハンターが得物を構える。
彼は一匹オオカミなのか、単独でここを塒にしていたらしく周りに救いの手を差し伸べてくれる者はいない。
蚊と彼…暫くのにらみ合いが続く。が、これがまた蚊の作戦だった。
一直線には来ず、その場でゆらゆらとこちらを翻弄する動き…幼少時代のトンボを捕まえる時の事を思い出す。
(誘っているのか?)
彼は思う。だが、そう思った時にはもう遅い。ぼんやりと視界が狭くなり、手にも力が入らなくなる。
「な……」
その時やっと彼は自分の不注意に気が付いた。背後にもう一匹の蚊がいて、彼の背中を貫いている。
(くっ、痛みなど…感じなかったのに…)
振り返った先、自分に刺さった管はどうやら一本ではないようだ。そして、視線を前に戻して彼は知る。
余り知られていないが、蚊はああ見えて何本もの針を持っていた。皮膚を傷つける針に、広げたままにしておく針、そして幹部に麻酔をかけ血液が固まらないようにする針というか管など。それらを普段は一つの鞘に納めているから一本に見えているようだ。
「あ…あぁ…」
血液が吸い出されていくのを感じる。流し込まれた麻酔液のせいで痛みはないが、このままだとヤバいだろう。
「ッ、立ち去れ! 害虫共っ!」
とそこへ声がして、彼を諦めて二匹の蚊が飛び去って行く。
が、度肝を抜かれたのはこの後だ。
声の主はあろうことかバッタに乗って登場すると、彼を抱え再びそれに乗り込む。
「あんた、一体…」
「喋るな。時間がない、行くぞ」
男はバンデラと言った。彼もハンターらしい。
ごつい鎧に大剣を携えて、そう言えば目の色がバッタと同じに見える。
こうして彼は一命を取り留め運ばれた先には大勢のハンターがいた。
彼等は身を護る為共同で過ごしているのだという。
「さっきのは…」
礼を言った後、あの不思議な現象を彼が尋ねる。
「ああ、あれか。私達はあれを虫心(ムシン)と呼んでいる。どうやら、この姿になって覚醒すると一定時間だけ虫を操れるようになるらしい。最近気づいた事だがな。近くにいる虫をじって見つめて念じればおまえも出来る筈だ」
男が言う。そして、色々聞くうちに彼の知らなかった事実を耳にする。
「私達で調べた結果、奴らとの戦いを終わらせる方法がついに判明した。戦では頭を潰せば勝ち…では、奴らの頭はどれなのか。そこで行きついたのがキングの存在だ」
「キング?」
眉をひそめ彼が聞き返す。
「まず始めに襲ってくるのは全てメスだ。しかも繁殖後の…ならば、繁殖する相手がいなくなればどうなる? しかも都合のいい事にオスの蚊がハーレムを狙ってやり合ってくれたおかげで今は一匹しかいないとしたらどうだ」
それをやってしまえば子孫の連鎖が続かなくなり、次第に数は減ってジ・エンド。
そうなれば怯えて暮らす事もなくなり、こんな姿でも今までよりは熟睡できるかもしれない。
希望はある。こうなってしまった理由は判らないままだが、救いがある事を知り拳を握る。
「やるかね、君も」
バンデラが言う。この男…いや、ここのハンター達は諦めていないのだ。
この理不尽な状況からも目を背けず、ただ未来を勝ち取る事を考えている。
「もちろん」
彼が言う。作戦は明後日――全ては彼等の腕にかかっていた。
リプレイ本文
●乗り物
身体が小さくはなれど、本来持つハンター達の志は変わらない。
剣を極めんとする者は相手が蚊に代わろうとも、やる事は同じだと友から貰い受けた斬魔刀『祢々切丸』を手に立ち上がる。というか、むしろ相手が虫になった事は好都合ではないかと考える。何故なら、先人は言っていた。蚊や蠅を剣で斬れるようになれば達人の域と――。
「ふふ、これはまさに僥倖。今日こそ日頃の修業の成果を見せる時です!」
髪を一つにまとめて、東方の鬼の里からやって来た女剣士・多由羅(ka6167)が微笑む。
彼女は元来戦う事が好きだった。だから、この姿になっても敵がいるのならそこまで嘆きはしない。
羽音を聞くや否や自分から向かって行く程でありこの拠点に来てからもそれは変わらず。積極的に打ち倒していく姿に新人達は憧れさえ抱いている。だがただ一点、受け入れがたき部分があるとすればそれは虫の選択だろう。
虫心…この姿となって与えられたハンターの新たな能力。
僅かな時間ではあるが、これを使えばどんな虫でも操る事が出来る。
だから、蝶を利用し空を飛んだり、バンデラの様にバッタやその他の虫を使い己の足として利用する者が多い中、彼女がチョイスしたのはあろうことかあの黒き弾丸である。
「なっ、なんという事だ…多由羅、お前どうかしているぞっ!」
多由羅のチョイスした虫を前にレイア・アローネ(ka4082)が怒鳴る。
ちなみに今回のキング討伐にあたって、バンデラ達はいくつかのチームを編成。
一人では不意打ちに備えられないということで三人を一チームとし、多由羅と同じチームに割り当てられたのがレイアともう一人、夢路 まよい(ka1328)である。山奥育ちのレイアではあったが、流石に黒い弾丸の使用は予想外だ。拒む彼女に更なる予想外な出来事が降りかかる。それはまよいの発言だ。
「あら、別に私は構わないわよ。事を迅速に進めるにはうってつけじゃないかしら?」
ケロッとした顔で言ってのけるまよいに開いた口が塞がらない。
「うそだろ…お前らマジでどうかしているぞッ」
確かにこの虫(多由羅が多由羅号『G』と命名)の動きは速い。どの虫よりも速いと言えるかもしれないが、光沢のあるボディに終始不規則に動く触角が何だか気持ち悪い。足にもひだがあるようでかなりの精神的ダメージを与えてくる。それに加えて、この虫は飛ぶ。鎧の様な背中の内に隠した羽で飛行するから厄介だ。だがそれを良いように言い換えれば、まさにパーフェクトボディ。三人を乗せて尚パワフル且つスピーディーに動ける最強の虫であると言えよう。だから多由羅にはレイアの気持ちが判らない。
「おや、何か問題でもありますでしょうか?」
――と本気で判らないという表情を返してくる。
「ほら、別にもいるだろう。そう、かぶと虫はどうだ? アレもパワーはあると私は思うが」
「カブトですか。私もそれは考えました。しかし、今は急ぐ時…あれは少し遅いかと」
姿を思い浮かべて多由羅の返答。しかしまだだ。
「じゃあ、カマキリはどうだ。あれも飛ぶし、いざという時の助けにもなるぞ」
大きな鎌が特徴の肉食昆虫、あれならばそれ程抵抗はなく乗りやすいとレイアが提案する。
だが、多由羅の意見はこうだ。
「あの細い体に三人は難しいかと…後、案外カマキリの胴の部分は少ないですし、結構ゆらゆらしているんですよね」
言われてみれば、羽が収納されている部分を考えると乗れる部分は思ったより少ないかもしれない。
「だ、だったらバッタは」
「あれは駄目ね。一回のジャンプで相当跳ぶから振り落とされかねないわ」
レイアの必至の説得だったが、やはり味方はいなかった。まよいからの意見が多由羅号を後押しする。
「うぬぬ…どうしてもダメなのか?」
「何、乗ってればあっという間よ。ねえ、多由羅」
この辺虫には無頓着なのかまよいがさらりと言う。
「さあ、そうと決まれば呼びますから覚悟して下さいね」
多由羅はそう言って、今日の多由羅号を探し始める。
「あ…悪夢だ……」
がくりと膝をつき、レイアが呟く。が、あの独特の気配を感じるや否や一気に全身に鳥肌が立つ。
「活きのいいのが見つかりました。さあ、乗って下さ…」
「やっぱり嫌だーーーーーッ!」
レイアの素直な叫び――それと共に彼女は一目散に走り出す。
「あそこまで嫌がってるならこのまま行けばいいのでは?」
「それもそうですね。今の彼女ならばこの子より早いかもですし」
遠ざかっていくレイアの背を眺めて、二人も多由羅号で出発する。
キングの居場所、正確な位置は判らずとも推測できる。
オスが一匹しかいないのなら、メスは彼を求めて集まってくる筈だ。通常ならばオスが集まってメスを呼び寄せるのだが、この状況であれば逆が起こると推測される。だから、まだ交尾していないメスの向かう場所を探せばいい。但し、しているか否かの判断はというと、それはハンターを襲って来るか否かで判るだろう。何せ血を求めるのは産卵前なのだ。
「とりあえず情報の場所に向かいます」
多由羅がそう言い、地図を片手にキング潜伏予想場所へと急ぐ。
「ハァ…ついに乗る事になるとは」
そんな彼女の横でレイアは深く溜息。体力温存の為と渋々引き上げられ今に至る。
けれど、やはりというか予想通りGの背中は居心地が悪い。早くついてくれと願いながらその場で目を閉じ、やり過ごそうとする。頬に当たる風は悪くないものの、目を開けると待っている現実を知っているからとても複雑な気分だ。
「ちょっと待って。あそこで止めて」
そんな事を考えていると、同乗しているまよいから停止の声が上がって、何事かと瞼を上げる。
するとその先に見えたのは小さ目の水たまりだった。雨が続いていたからか割と深い。
普通の人間だったなら何の事はないが、今の姿ではその水たまりも池の様に見える。
そこでレイアが様子見に水面を覗き込んで、その先の光景にゾッとした。
中で動く小さな物体、それらは頻りにぴくぴく動き泳ぎ回っている。
「これは…」
「ボウフラ、って言うんだっけ? こういう水辺に沸くのを思い出したのよね」
錬金杖をバトンにくるくる回しつつ取り出し、まよいが言う。
「やるのか?」
「もちろんよ。これをほっといたら蚊になるだけだもの」
レイアの問いにそう答えて意識を集中。
すると杖より先に指にはめられた銀の指輪が光を帯びて、その後出現したのは光の矢だ。
「悪いけど、死んでもらうわよ」
杖から無数の光が伸び、蠢く幼虫達を貫いてゆく。
「私達も手伝いましょう」
「ああ」
水溜まりの縁からレイアは剣を、多由羅は刀を差し入れ幼虫を貫いてゆく。
だが、我が子の死を目撃した蚊は堪ったものではない。
子殺しのハンター目掛けて、特攻を仕掛けてくるメスの蚊達。
その羽音に気付いて、三人も応戦の構えを取る。
「フフフッ。団体様、大歓迎ですよv」
多由羅の目付きが変わる。それは戦闘狂ともとれる彼女の狂気の染みた微笑と瞳の輝きに由来する。
「やってやる。元の姿に戻る為になっ!」
果たして戻れるかどうかは謎であるが、レイアも剣を構えそう言葉した。
●天敵
まよいのマジックアローが接近する蚊を狙う。
だが、フォースリングで本数を増幅しているからか、全てを急所に当てる事は叶わない。
連続で打ち続けるうちに集中のスキルを使えど、外れて飛んでいく矢が増え始める。
「大丈夫かっ、キングまでそれではもたんだろう」
そんな彼女を庇う様に立ち回り声をかけるレイア。
彼女は盾を持参しているから多少距離を詰められても跳ね返す事が出来る。
針での攻撃を盾でカバーして、あわよくば針が折れて使えなくなる事を願う。
一方、多由羅は早々に虫心を解いて実力で応戦。剣士足るのも戦うなら己が剣と決めていたのだろう。けれど、足場が悪かった。水溜まりの近くということもあって思ったより足を取られた苦戦しているようだ。ちなみに多由羅号は虫心が解けると同時に、そそくさと茂みの方へ身を隠している。
「ふらふらふらふら、逃げてばかりでは勝てませんよ」
多由羅がそう言って挑発するも蚊に人語は通じない。
戦闘スタイルを変えずに、ただ右へ左へ巧みな動きでこちらを翻弄してくる。
「ちっ、バンデラ達はまだなのか」
Gの高速移動でここまで来たからバンデラ達の隊とはだいぶ差が開いてしまっている。
援軍はくると思われるが、それまでもつか。
「いいわ、こうなれば奥の手よ」
まよいがそう言い、近くの木にしがみ付く。
「おい、一体何を」
レイアが問いにまよいはしがみ付いたまま、
「待ってて。私も助っ人を呼んでくるからそれまでお願い」
と言い残して、昆虫の様にしゃかしゃか木を登り始める。
「それまでってったって…ええい、ままよっ!」
敵の数、数十匹。数は多いが、このままここで犬死などしたら末代までの恥だ。
そこでレイアはソウルトーチで自分に意識を引き付けての薙ぎ払いで集団殲滅を狙う。
そして、遠い敵には衝撃波を飛ばし、少しでも接近を遅らせる事を考える。
(こんな広い場所では一匹ずつ対応できる場所もない…面倒だな)
個々で対応できれば時間稼ぎもしやすいが、これはそうも言っていられないだろう。
多由羅もスキルを使っているようで攻撃の威力は凄まじい。
ただ、数の暴力で迫ってこられると流石の彼女と言えど、消耗が大きそうだ。
それでも何とか踏ん張って、やっと来たのはまよいのターン。
「かかって来なさいっ、メス共!」
まよいの瞳が夜中の猫の目のように輝いている。
そして、彼女の下には大きな肢体――八本の足が空中に浮いているかのように見える。
だが、実際はその虫が作り出した糸の上…そう、彼女は蜘蛛へ虫心を使っているのだ。
「どうしたの、蜘蛛の女王アラクネに怖気づいたのかしら?」
そう声をかけるも蚊達は蜘蛛を見たまま動かない。如何やら攻撃を躊躇しているようだ。
何故なら余り知られていない事だが、蜘蛛は蚊も捕食する。
つまり天敵の登場により少し蚊も冷静さを取り戻したらしい。
「やだ、コレ逆効果? まあ、いいわ。罠は勿体ないけどキングの元へ急ぐわよっ」
折角張った蜘蛛の巣をそのままに、木を下りるとまよいは二人を蜘蛛の背に乗せる。
「今度は蜘蛛か」
そう愚痴るレイアであるが、もうこうなっては成る様になれだ。
「おい、こっちだ! キングの居場所が分かったぞ!」
そこへ蜂に乗ったハンター仲間が現れて、彼女達はその場を離脱しそちらに向かうのであった。
●弱肉強食
羽をもつ蚊であるが、羽がやられればこちらのものだ。
バンデラ達後発隊はまず羽を落とすよう尽力し、その後しとめるやり方で多くの蚊を葬っていく。
そして、行きついた先はひっそりとした茂みの奥だった。高くも低くもない葉っぱの天井で陰になっているから気温も丁度いい。快適に過ごせる場所で彼はほかのオスを倒した後は優雅に過ごしてきたのだろう。
だが、ハンターらの到着にキングの目に新たな殺気が加わる。
『誰だ、お前ら…』
もしキングが喋れたならそう言っている事だろう。
傷だらけではあるが、それが勝者の勲章のようにも見える。
「同族同士で争うとは…実に醜い奴。ここで死んでもらうぞ」
レイア他ここに来たハンター達がキングを見据え、得物を構える。
彼を取り巻くメスの蚊もぎらついた目でこちらを見据える。
そこで先に動いたのはハンター側だった。ありったけの遠距離魔法と中距離射程の武器を持って攻撃を開始する。それはまさに戦場の光景。だが、相手には羽があるからそう簡単には仕留められない。けれど、これでいい。弓や弾丸、魔法のそれに気が取られている隙に踏み込んで、接近が得意な者達で追い打ちをかければそれで済む事。小さくなったとてハンターの跳躍力はそこそこある。高く飛ばせなければ、勝機はある。
「ご覚悟を」
雑魚には目もくれず、頬や腕へのかすり傷を無視して多由羅がキングとの距離を詰める。
飛び来るメスを縦横無尽を駆使して斬り払うそのスピードはさっきの多由羅号を見ているみたいだ。とにかく素早く間合いを詰めて、彼女がキングに繰り出したのは活人剣――致命傷を負わせる事なく、行動不能にするこの技を使ったのには意味がある。
それは生物とはより強い遺伝子を求めて動くものだ。
応戦もしないで負けるオスを見れば、例え一匹だとしても魅力も無くなる筈だ。
多由羅のそれに魅入られた様にキングは全く動かない。いや、動けない。
つまりもう事は終わっていた。その異様な空気に蚊のみならず、ハンターらの動きもぴたりと止まる。
「やったのか…?」
レイアが尋ねる。が、多由羅の思惑は外れる。この活人剣という技は行動不能にする技で、死亡させる訳ではない。であるから蚊達はそれを本能で理解したらしい。動きを止めてはいるが、生きている。つまりはこの状況――判りやすく人間の状態に言い換えるならば『うちの旦那を気絶させて、恥かかせてくれて何してくれとんじゃーい!』あるいは『うちの唯一の男を辱めるたぁどういう了見じゃーい!』といった感じか。一瞬の沈黙の後、そんな訳でメス達が一気にご乱心を始める。
「わー、ちょっとおまえ何してくれちゃってんの~!?」
口調が変わる程にレイアは涙目になりながら迫りくる蚊を必至で盾で押し戻す。
「当てが外れましたか…ならば」
しゅぱぱぱぱっ
今度こそキングの最期であった。細い足を、僅かな胴を真っ二つに斬るとぱたりと倒れる。
が、悪化した状況はそう簡単に変わる筈もなく…。
「ギャーーーーー、さっきより速いってー!!」
倒れたキングを横目にメスの蚊が闇雲に針を振るう。
「離脱、離脱だ―――!」
その状況に慌てて、バンデラが皆に呼びかける。
キングは死んだ。無事ハンターの手によって倒された。
しかし、発狂したメスの蚊がハンター達を襲い、ハンターも大きな打撃を受け始める。
そこで慌てて、拠点に戻る中出会ったのはまたあいつだ。
「あら、多由羅号。戻って来てくれたのですか?」
どういう訳かこちらに駆けてくるGに多由羅が声をかける。
だが、多由羅はともかく突然の遭遇に、レイアは再びの鳥肌が立ち嫌悪感から彼女に剣を構えさせる。
そして、豪快に振り被ると後は見事なフルスイング。
「こっちに来るなぁぁぁぁ!」
彼女の渾身の一打がものの見事にGを剣の腹でうち飛ばす。
「ああ、多由羅号が…」
「ホームラーン…ってあら、残念」
嘆く多由羅を余所に場外確定の良い当たりで飛んで行った先にはあろうことかまよいの蜘蛛が張った巣があって、べちゃりとついた後はお仕事を終えた蜘蛛・アラクネさんの胃袋へ。これが自然界の掟……それを痛感するも今は背後からの攻撃をただただかわすのが精一杯の彼女達であった。
身体が小さくはなれど、本来持つハンター達の志は変わらない。
剣を極めんとする者は相手が蚊に代わろうとも、やる事は同じだと友から貰い受けた斬魔刀『祢々切丸』を手に立ち上がる。というか、むしろ相手が虫になった事は好都合ではないかと考える。何故なら、先人は言っていた。蚊や蠅を剣で斬れるようになれば達人の域と――。
「ふふ、これはまさに僥倖。今日こそ日頃の修業の成果を見せる時です!」
髪を一つにまとめて、東方の鬼の里からやって来た女剣士・多由羅(ka6167)が微笑む。
彼女は元来戦う事が好きだった。だから、この姿になっても敵がいるのならそこまで嘆きはしない。
羽音を聞くや否や自分から向かって行く程でありこの拠点に来てからもそれは変わらず。積極的に打ち倒していく姿に新人達は憧れさえ抱いている。だがただ一点、受け入れがたき部分があるとすればそれは虫の選択だろう。
虫心…この姿となって与えられたハンターの新たな能力。
僅かな時間ではあるが、これを使えばどんな虫でも操る事が出来る。
だから、蝶を利用し空を飛んだり、バンデラの様にバッタやその他の虫を使い己の足として利用する者が多い中、彼女がチョイスしたのはあろうことかあの黒き弾丸である。
「なっ、なんという事だ…多由羅、お前どうかしているぞっ!」
多由羅のチョイスした虫を前にレイア・アローネ(ka4082)が怒鳴る。
ちなみに今回のキング討伐にあたって、バンデラ達はいくつかのチームを編成。
一人では不意打ちに備えられないということで三人を一チームとし、多由羅と同じチームに割り当てられたのがレイアともう一人、夢路 まよい(ka1328)である。山奥育ちのレイアではあったが、流石に黒い弾丸の使用は予想外だ。拒む彼女に更なる予想外な出来事が降りかかる。それはまよいの発言だ。
「あら、別に私は構わないわよ。事を迅速に進めるにはうってつけじゃないかしら?」
ケロッとした顔で言ってのけるまよいに開いた口が塞がらない。
「うそだろ…お前らマジでどうかしているぞッ」
確かにこの虫(多由羅が多由羅号『G』と命名)の動きは速い。どの虫よりも速いと言えるかもしれないが、光沢のあるボディに終始不規則に動く触角が何だか気持ち悪い。足にもひだがあるようでかなりの精神的ダメージを与えてくる。それに加えて、この虫は飛ぶ。鎧の様な背中の内に隠した羽で飛行するから厄介だ。だがそれを良いように言い換えれば、まさにパーフェクトボディ。三人を乗せて尚パワフル且つスピーディーに動ける最強の虫であると言えよう。だから多由羅にはレイアの気持ちが判らない。
「おや、何か問題でもありますでしょうか?」
――と本気で判らないという表情を返してくる。
「ほら、別にもいるだろう。そう、かぶと虫はどうだ? アレもパワーはあると私は思うが」
「カブトですか。私もそれは考えました。しかし、今は急ぐ時…あれは少し遅いかと」
姿を思い浮かべて多由羅の返答。しかしまだだ。
「じゃあ、カマキリはどうだ。あれも飛ぶし、いざという時の助けにもなるぞ」
大きな鎌が特徴の肉食昆虫、あれならばそれ程抵抗はなく乗りやすいとレイアが提案する。
だが、多由羅の意見はこうだ。
「あの細い体に三人は難しいかと…後、案外カマキリの胴の部分は少ないですし、結構ゆらゆらしているんですよね」
言われてみれば、羽が収納されている部分を考えると乗れる部分は思ったより少ないかもしれない。
「だ、だったらバッタは」
「あれは駄目ね。一回のジャンプで相当跳ぶから振り落とされかねないわ」
レイアの必至の説得だったが、やはり味方はいなかった。まよいからの意見が多由羅号を後押しする。
「うぬぬ…どうしてもダメなのか?」
「何、乗ってればあっという間よ。ねえ、多由羅」
この辺虫には無頓着なのかまよいがさらりと言う。
「さあ、そうと決まれば呼びますから覚悟して下さいね」
多由羅はそう言って、今日の多由羅号を探し始める。
「あ…悪夢だ……」
がくりと膝をつき、レイアが呟く。が、あの独特の気配を感じるや否や一気に全身に鳥肌が立つ。
「活きのいいのが見つかりました。さあ、乗って下さ…」
「やっぱり嫌だーーーーーッ!」
レイアの素直な叫び――それと共に彼女は一目散に走り出す。
「あそこまで嫌がってるならこのまま行けばいいのでは?」
「それもそうですね。今の彼女ならばこの子より早いかもですし」
遠ざかっていくレイアの背を眺めて、二人も多由羅号で出発する。
キングの居場所、正確な位置は判らずとも推測できる。
オスが一匹しかいないのなら、メスは彼を求めて集まってくる筈だ。通常ならばオスが集まってメスを呼び寄せるのだが、この状況であれば逆が起こると推測される。だから、まだ交尾していないメスの向かう場所を探せばいい。但し、しているか否かの判断はというと、それはハンターを襲って来るか否かで判るだろう。何せ血を求めるのは産卵前なのだ。
「とりあえず情報の場所に向かいます」
多由羅がそう言い、地図を片手にキング潜伏予想場所へと急ぐ。
「ハァ…ついに乗る事になるとは」
そんな彼女の横でレイアは深く溜息。体力温存の為と渋々引き上げられ今に至る。
けれど、やはりというか予想通りGの背中は居心地が悪い。早くついてくれと願いながらその場で目を閉じ、やり過ごそうとする。頬に当たる風は悪くないものの、目を開けると待っている現実を知っているからとても複雑な気分だ。
「ちょっと待って。あそこで止めて」
そんな事を考えていると、同乗しているまよいから停止の声が上がって、何事かと瞼を上げる。
するとその先に見えたのは小さ目の水たまりだった。雨が続いていたからか割と深い。
普通の人間だったなら何の事はないが、今の姿ではその水たまりも池の様に見える。
そこでレイアが様子見に水面を覗き込んで、その先の光景にゾッとした。
中で動く小さな物体、それらは頻りにぴくぴく動き泳ぎ回っている。
「これは…」
「ボウフラ、って言うんだっけ? こういう水辺に沸くのを思い出したのよね」
錬金杖をバトンにくるくる回しつつ取り出し、まよいが言う。
「やるのか?」
「もちろんよ。これをほっといたら蚊になるだけだもの」
レイアの問いにそう答えて意識を集中。
すると杖より先に指にはめられた銀の指輪が光を帯びて、その後出現したのは光の矢だ。
「悪いけど、死んでもらうわよ」
杖から無数の光が伸び、蠢く幼虫達を貫いてゆく。
「私達も手伝いましょう」
「ああ」
水溜まりの縁からレイアは剣を、多由羅は刀を差し入れ幼虫を貫いてゆく。
だが、我が子の死を目撃した蚊は堪ったものではない。
子殺しのハンター目掛けて、特攻を仕掛けてくるメスの蚊達。
その羽音に気付いて、三人も応戦の構えを取る。
「フフフッ。団体様、大歓迎ですよv」
多由羅の目付きが変わる。それは戦闘狂ともとれる彼女の狂気の染みた微笑と瞳の輝きに由来する。
「やってやる。元の姿に戻る為になっ!」
果たして戻れるかどうかは謎であるが、レイアも剣を構えそう言葉した。
●天敵
まよいのマジックアローが接近する蚊を狙う。
だが、フォースリングで本数を増幅しているからか、全てを急所に当てる事は叶わない。
連続で打ち続けるうちに集中のスキルを使えど、外れて飛んでいく矢が増え始める。
「大丈夫かっ、キングまでそれではもたんだろう」
そんな彼女を庇う様に立ち回り声をかけるレイア。
彼女は盾を持参しているから多少距離を詰められても跳ね返す事が出来る。
針での攻撃を盾でカバーして、あわよくば針が折れて使えなくなる事を願う。
一方、多由羅は早々に虫心を解いて実力で応戦。剣士足るのも戦うなら己が剣と決めていたのだろう。けれど、足場が悪かった。水溜まりの近くということもあって思ったより足を取られた苦戦しているようだ。ちなみに多由羅号は虫心が解けると同時に、そそくさと茂みの方へ身を隠している。
「ふらふらふらふら、逃げてばかりでは勝てませんよ」
多由羅がそう言って挑発するも蚊に人語は通じない。
戦闘スタイルを変えずに、ただ右へ左へ巧みな動きでこちらを翻弄してくる。
「ちっ、バンデラ達はまだなのか」
Gの高速移動でここまで来たからバンデラ達の隊とはだいぶ差が開いてしまっている。
援軍はくると思われるが、それまでもつか。
「いいわ、こうなれば奥の手よ」
まよいがそう言い、近くの木にしがみ付く。
「おい、一体何を」
レイアが問いにまよいはしがみ付いたまま、
「待ってて。私も助っ人を呼んでくるからそれまでお願い」
と言い残して、昆虫の様にしゃかしゃか木を登り始める。
「それまでってったって…ええい、ままよっ!」
敵の数、数十匹。数は多いが、このままここで犬死などしたら末代までの恥だ。
そこでレイアはソウルトーチで自分に意識を引き付けての薙ぎ払いで集団殲滅を狙う。
そして、遠い敵には衝撃波を飛ばし、少しでも接近を遅らせる事を考える。
(こんな広い場所では一匹ずつ対応できる場所もない…面倒だな)
個々で対応できれば時間稼ぎもしやすいが、これはそうも言っていられないだろう。
多由羅もスキルを使っているようで攻撃の威力は凄まじい。
ただ、数の暴力で迫ってこられると流石の彼女と言えど、消耗が大きそうだ。
それでも何とか踏ん張って、やっと来たのはまよいのターン。
「かかって来なさいっ、メス共!」
まよいの瞳が夜中の猫の目のように輝いている。
そして、彼女の下には大きな肢体――八本の足が空中に浮いているかのように見える。
だが、実際はその虫が作り出した糸の上…そう、彼女は蜘蛛へ虫心を使っているのだ。
「どうしたの、蜘蛛の女王アラクネに怖気づいたのかしら?」
そう声をかけるも蚊達は蜘蛛を見たまま動かない。如何やら攻撃を躊躇しているようだ。
何故なら余り知られていない事だが、蜘蛛は蚊も捕食する。
つまり天敵の登場により少し蚊も冷静さを取り戻したらしい。
「やだ、コレ逆効果? まあ、いいわ。罠は勿体ないけどキングの元へ急ぐわよっ」
折角張った蜘蛛の巣をそのままに、木を下りるとまよいは二人を蜘蛛の背に乗せる。
「今度は蜘蛛か」
そう愚痴るレイアであるが、もうこうなっては成る様になれだ。
「おい、こっちだ! キングの居場所が分かったぞ!」
そこへ蜂に乗ったハンター仲間が現れて、彼女達はその場を離脱しそちらに向かうのであった。
●弱肉強食
羽をもつ蚊であるが、羽がやられればこちらのものだ。
バンデラ達後発隊はまず羽を落とすよう尽力し、その後しとめるやり方で多くの蚊を葬っていく。
そして、行きついた先はひっそりとした茂みの奥だった。高くも低くもない葉っぱの天井で陰になっているから気温も丁度いい。快適に過ごせる場所で彼はほかのオスを倒した後は優雅に過ごしてきたのだろう。
だが、ハンターらの到着にキングの目に新たな殺気が加わる。
『誰だ、お前ら…』
もしキングが喋れたならそう言っている事だろう。
傷だらけではあるが、それが勝者の勲章のようにも見える。
「同族同士で争うとは…実に醜い奴。ここで死んでもらうぞ」
レイア他ここに来たハンター達がキングを見据え、得物を構える。
彼を取り巻くメスの蚊もぎらついた目でこちらを見据える。
そこで先に動いたのはハンター側だった。ありったけの遠距離魔法と中距離射程の武器を持って攻撃を開始する。それはまさに戦場の光景。だが、相手には羽があるからそう簡単には仕留められない。けれど、これでいい。弓や弾丸、魔法のそれに気が取られている隙に踏み込んで、接近が得意な者達で追い打ちをかければそれで済む事。小さくなったとてハンターの跳躍力はそこそこある。高く飛ばせなければ、勝機はある。
「ご覚悟を」
雑魚には目もくれず、頬や腕へのかすり傷を無視して多由羅がキングとの距離を詰める。
飛び来るメスを縦横無尽を駆使して斬り払うそのスピードはさっきの多由羅号を見ているみたいだ。とにかく素早く間合いを詰めて、彼女がキングに繰り出したのは活人剣――致命傷を負わせる事なく、行動不能にするこの技を使ったのには意味がある。
それは生物とはより強い遺伝子を求めて動くものだ。
応戦もしないで負けるオスを見れば、例え一匹だとしても魅力も無くなる筈だ。
多由羅のそれに魅入られた様にキングは全く動かない。いや、動けない。
つまりもう事は終わっていた。その異様な空気に蚊のみならず、ハンターらの動きもぴたりと止まる。
「やったのか…?」
レイアが尋ねる。が、多由羅の思惑は外れる。この活人剣という技は行動不能にする技で、死亡させる訳ではない。であるから蚊達はそれを本能で理解したらしい。動きを止めてはいるが、生きている。つまりはこの状況――判りやすく人間の状態に言い換えるならば『うちの旦那を気絶させて、恥かかせてくれて何してくれとんじゃーい!』あるいは『うちの唯一の男を辱めるたぁどういう了見じゃーい!』といった感じか。一瞬の沈黙の後、そんな訳でメス達が一気にご乱心を始める。
「わー、ちょっとおまえ何してくれちゃってんの~!?」
口調が変わる程にレイアは涙目になりながら迫りくる蚊を必至で盾で押し戻す。
「当てが外れましたか…ならば」
しゅぱぱぱぱっ
今度こそキングの最期であった。細い足を、僅かな胴を真っ二つに斬るとぱたりと倒れる。
が、悪化した状況はそう簡単に変わる筈もなく…。
「ギャーーーーー、さっきより速いってー!!」
倒れたキングを横目にメスの蚊が闇雲に針を振るう。
「離脱、離脱だ―――!」
その状況に慌てて、バンデラが皆に呼びかける。
キングは死んだ。無事ハンターの手によって倒された。
しかし、発狂したメスの蚊がハンター達を襲い、ハンターも大きな打撃を受け始める。
そこで慌てて、拠点に戻る中出会ったのはまたあいつだ。
「あら、多由羅号。戻って来てくれたのですか?」
どういう訳かこちらに駆けてくるGに多由羅が声をかける。
だが、多由羅はともかく突然の遭遇に、レイアは再びの鳥肌が立ち嫌悪感から彼女に剣を構えさせる。
そして、豪快に振り被ると後は見事なフルスイング。
「こっちに来るなぁぁぁぁ!」
彼女の渾身の一打がものの見事にGを剣の腹でうち飛ばす。
「ああ、多由羅号が…」
「ホームラーン…ってあら、残念」
嘆く多由羅を余所に場外確定の良い当たりで飛んで行った先にはあろうことかまよいの蜘蛛が張った巣があって、べちゃりとついた後はお仕事を終えた蜘蛛・アラクネさんの胃袋へ。これが自然界の掟……それを痛感するも今は背後からの攻撃をただただかわすのが精一杯の彼女達であった。
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蚊 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/08/12 16:49:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/12 15:48:36 |