ゲスト
(ka0000)
【空蒼】恨絶の狂機 3機目
マスター:赤山優牙
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
●月面都市
星加孝純に貸し与えられた一室に、黒いスーツ姿の男達が数人押し入って来たのは、ちょうど、鳴月 牡丹(kz0180)が自作料理を作っていた時だった。
「ちょっと待ちなよ。突然、押し入って来て、問答無用で連れ出すってあり得ないよ」
お玉片手に告げた牡丹の手を、無謀にも掴む男。
次の瞬間、男はあっけなくひっくり返る。
「言っておくけど、僕は覚醒者だからね。強引に事を運ぼうなんて思わない方がいいよ」
「……分かった。覚醒者なら話が早い」
別の男が構えた拳銃を降ろす。
「強化人間の暴走の件は知っているな?」
「勿論さ」
「……とても言い難いのだが、孝純君のお母さんが率いる部隊が“暴走”したと連絡があった」
衝撃的な言葉に息子は声を上げた。
「嘘だ! 母さんが、母さんが暴走するはずない!」
「まだ、君のお母さんが暴走したとは決まっていない。ただ、部隊が“暴走”したのは確かなようなのだ」
牡丹は大きくため息をついた。
「それと、孝純君が連れていかれる関係は?」
「説得者の一人として候補が上がった」
「リアルブルーじゃ、子供にそんな役目を押し付けるのかい?」
静かな怒りが感じられる雰囲気に男達は後ずさる。
「あくまで説得する候補者の一人だ」
「……行くよ。絶対に行く!」
拳を握り、孝純が宣言した。
本人が言い出したのであれば、牡丹も止めようがない。
男達の視線に牡丹はお玉を向けた。
「孝純君がそう言うなら仕方ないね。ただ、条件があるよ。彼にハンターを同行させる事」
「船には護衛にハンターを付ける予定でもある。その条件でこちらも良いだろう」
こうして、孝純は宇宙船へと案内される事になった。
ただ、それは普通の船では無かったのだが……。
●廃棄コロニー――仮拠点
「その話は本当なの?」
星加 籃奈(kz0247)は部下のリー軍曹の話に耳を疑った。
部下が反乱を計画しているというのだ。
「早く、止めた方が良い!」
「証拠が無いのに、動けない。それに、話が事実だとして、他にも共犯者がいそうな状態じゃ、迂闊に動けないわ」
全員を一時的に拘束する事も可能だろう。
だからといって、籃奈にはリー軍曹の話を一方的に信じる事は出来なかった。
「証拠……分かった! 証拠があればいいんだな!」
部屋を飛び出そうとする彼を籃奈が止める。
「ちょっと待って」
「止めたって無駄ですよ。俺は止まりませんから」
「いえ、違うの。そうじゃなくて……」
リー軍曹が足を止めて振り返る。
そこには、籃奈が耳を抑えているような仕草をしていた。
「聞こえない? “声”が……シーバ軍曹もコンドウ曹長も、“声”って言ってたんでしょ?」
「時々、何か聞こえるような気がしますが、俺には何も?」
大袈裟に首を傾げるリー軍曹。
隊員の中にも同じように訴える強化人間が居るという。
特にコロニー内に仮拠点を作ってからはその傾向が強くなった――らしい。
「みんな、疲れているんですよ。俺は霊感強い方ですけど、ここにはそんなものありはしませんって」
あるいはそうした超常現象に慣れていないのか。
「強化人間の暴走の話は知ってる?」
「シーバ軍曹もコンドウ曹長も暴走してるって思うんですか? あの二人は行方不明になって、数日以上経過してるんですよ。食料はここにしかないので、もう死んでますよ」
「本当にそう思うの?」
「……もしかして、誰かが食料を渡しているとか……あ。それなら、反乱の件は!?」
閃いたように背筋を伸ばすリー軍曹。
籃奈は深く頷いた。
「リー軍曹に特命するわ。食料の備蓄・消費状況を秘密裏に確認しなさい」
「分かりました!」
ビシっと敬礼してからリー軍曹は部屋を飛び出した。
自分達の知らない所で、何か、大きな陰謀が動いている。そんな気がしたからだ。
仮拠点である為、それほど大きくないので、リー軍曹はすぐに食糧庫に付いた。見張りは誰も居なかった。
「どういう事だ? まぁ、その方がやりやすいか」
見つかっても、銀蝿だと良い訳すればいいし。
そんな軽いノリで食糧庫の扉を開けた瞬間だった。
仮拠点のアチコチで爆発が起こり、その爆風に巻き込まれ、彼は気を失った。
●
同時多数の爆発により、仮拠点は瓦礫の山と化す。
火災にはコロニーの自動消火機能が働いたようで、すぐさま消火自動ロボットが集う。
「予定通りですね」
「扇動した者らを連れて、先に奥に行っておけよ」
ひそひそと会話する一組の強化人間。
「ちゃんと、俺も回収してくださいよ。巻き込まれてコロニーごと消滅させられても嫌ですから」
「合流ポイントでの集合時間は変わらないからな。遅れるなよ」
そう告げて、一人の強化人間はシャトルに乗り込み、もう一人はコンフェッサーを起動させる。
シーバ軍曹とコンドウ曹長の行方不明という不確定要素があるものの、ここまでは“彼ら”の予定通りに事が進んでいた。
『世界各地で暴走を起こす強化人間達の生命の保証と一連の事態の究明』
それを主張させる反乱を起こす。
籃奈が率いるこの部隊は、元々、軍から何かと目を付けられた者が多い。あるいは、居なくなってもらいたい者も居る。
だから、反乱に同調する者が多かった。
参加を希望しなかった者、あるいは仲間にするには危険と判断された者は先程の爆発に巻き込まれるように仕組んだ。
シャトルに乗り込んだ強化人間はコロニーの奥に向かうように見せかけつつ、出口を目指す。
「コロニーの外で待機している輸送船に、反乱が起きたと伝えなければな」
何も知らされていない輸送船の船長は驚くだろう。
後は“上司”の指示通りに動けばいい。
その時になって、強化人間はモニターに映る機影に気が付いた。かなりの速度で向かってくる。
「なんだ……こ、これは……シーバ軍曹の機体だと!?」
「……どこに、どこに行くの。許さない。誰一人も逃がさないから!」
「お、落ち着け! シーバ軍曹!」
強化人間は焦った。まさか、本当に強化人間が暴走しているとは思っていなかったからだ。
明らかな殺意を向けてくるシーバ軍曹。対して、シャトルは無武装だ。
「俺は仲間だぞ!」
「貴方は仲間じゃない。だって、“声”が聞こえないでしょ」
「や、やめろぉぉぉぉ!」
絶叫と共に、シャトルの操縦席にコンフェッサーの拳が叩き込まれたのであった。
一方、その頃、コロニーの奥へと進んだ強化人間達にも異変が発生していた。
“声”が聞こえた者達が、暴走を始めたのだ。
扇動していた強化人間はその暴走に巻き込まれ――残ったのは、“本当に暴走”している強化人間らの機体だけとなった。
星加孝純に貸し与えられた一室に、黒いスーツ姿の男達が数人押し入って来たのは、ちょうど、鳴月 牡丹(kz0180)が自作料理を作っていた時だった。
「ちょっと待ちなよ。突然、押し入って来て、問答無用で連れ出すってあり得ないよ」
お玉片手に告げた牡丹の手を、無謀にも掴む男。
次の瞬間、男はあっけなくひっくり返る。
「言っておくけど、僕は覚醒者だからね。強引に事を運ぼうなんて思わない方がいいよ」
「……分かった。覚醒者なら話が早い」
別の男が構えた拳銃を降ろす。
「強化人間の暴走の件は知っているな?」
「勿論さ」
「……とても言い難いのだが、孝純君のお母さんが率いる部隊が“暴走”したと連絡があった」
衝撃的な言葉に息子は声を上げた。
「嘘だ! 母さんが、母さんが暴走するはずない!」
「まだ、君のお母さんが暴走したとは決まっていない。ただ、部隊が“暴走”したのは確かなようなのだ」
牡丹は大きくため息をついた。
「それと、孝純君が連れていかれる関係は?」
「説得者の一人として候補が上がった」
「リアルブルーじゃ、子供にそんな役目を押し付けるのかい?」
静かな怒りが感じられる雰囲気に男達は後ずさる。
「あくまで説得する候補者の一人だ」
「……行くよ。絶対に行く!」
拳を握り、孝純が宣言した。
本人が言い出したのであれば、牡丹も止めようがない。
男達の視線に牡丹はお玉を向けた。
「孝純君がそう言うなら仕方ないね。ただ、条件があるよ。彼にハンターを同行させる事」
「船には護衛にハンターを付ける予定でもある。その条件でこちらも良いだろう」
こうして、孝純は宇宙船へと案内される事になった。
ただ、それは普通の船では無かったのだが……。
●廃棄コロニー――仮拠点
「その話は本当なの?」
星加 籃奈(kz0247)は部下のリー軍曹の話に耳を疑った。
部下が反乱を計画しているというのだ。
「早く、止めた方が良い!」
「証拠が無いのに、動けない。それに、話が事実だとして、他にも共犯者がいそうな状態じゃ、迂闊に動けないわ」
全員を一時的に拘束する事も可能だろう。
だからといって、籃奈にはリー軍曹の話を一方的に信じる事は出来なかった。
「証拠……分かった! 証拠があればいいんだな!」
部屋を飛び出そうとする彼を籃奈が止める。
「ちょっと待って」
「止めたって無駄ですよ。俺は止まりませんから」
「いえ、違うの。そうじゃなくて……」
リー軍曹が足を止めて振り返る。
そこには、籃奈が耳を抑えているような仕草をしていた。
「聞こえない? “声”が……シーバ軍曹もコンドウ曹長も、“声”って言ってたんでしょ?」
「時々、何か聞こえるような気がしますが、俺には何も?」
大袈裟に首を傾げるリー軍曹。
隊員の中にも同じように訴える強化人間が居るという。
特にコロニー内に仮拠点を作ってからはその傾向が強くなった――らしい。
「みんな、疲れているんですよ。俺は霊感強い方ですけど、ここにはそんなものありはしませんって」
あるいはそうした超常現象に慣れていないのか。
「強化人間の暴走の話は知ってる?」
「シーバ軍曹もコンドウ曹長も暴走してるって思うんですか? あの二人は行方不明になって、数日以上経過してるんですよ。食料はここにしかないので、もう死んでますよ」
「本当にそう思うの?」
「……もしかして、誰かが食料を渡しているとか……あ。それなら、反乱の件は!?」
閃いたように背筋を伸ばすリー軍曹。
籃奈は深く頷いた。
「リー軍曹に特命するわ。食料の備蓄・消費状況を秘密裏に確認しなさい」
「分かりました!」
ビシっと敬礼してからリー軍曹は部屋を飛び出した。
自分達の知らない所で、何か、大きな陰謀が動いている。そんな気がしたからだ。
仮拠点である為、それほど大きくないので、リー軍曹はすぐに食糧庫に付いた。見張りは誰も居なかった。
「どういう事だ? まぁ、その方がやりやすいか」
見つかっても、銀蝿だと良い訳すればいいし。
そんな軽いノリで食糧庫の扉を開けた瞬間だった。
仮拠点のアチコチで爆発が起こり、その爆風に巻き込まれ、彼は気を失った。
●
同時多数の爆発により、仮拠点は瓦礫の山と化す。
火災にはコロニーの自動消火機能が働いたようで、すぐさま消火自動ロボットが集う。
「予定通りですね」
「扇動した者らを連れて、先に奥に行っておけよ」
ひそひそと会話する一組の強化人間。
「ちゃんと、俺も回収してくださいよ。巻き込まれてコロニーごと消滅させられても嫌ですから」
「合流ポイントでの集合時間は変わらないからな。遅れるなよ」
そう告げて、一人の強化人間はシャトルに乗り込み、もう一人はコンフェッサーを起動させる。
シーバ軍曹とコンドウ曹長の行方不明という不確定要素があるものの、ここまでは“彼ら”の予定通りに事が進んでいた。
『世界各地で暴走を起こす強化人間達の生命の保証と一連の事態の究明』
それを主張させる反乱を起こす。
籃奈が率いるこの部隊は、元々、軍から何かと目を付けられた者が多い。あるいは、居なくなってもらいたい者も居る。
だから、反乱に同調する者が多かった。
参加を希望しなかった者、あるいは仲間にするには危険と判断された者は先程の爆発に巻き込まれるように仕組んだ。
シャトルに乗り込んだ強化人間はコロニーの奥に向かうように見せかけつつ、出口を目指す。
「コロニーの外で待機している輸送船に、反乱が起きたと伝えなければな」
何も知らされていない輸送船の船長は驚くだろう。
後は“上司”の指示通りに動けばいい。
その時になって、強化人間はモニターに映る機影に気が付いた。かなりの速度で向かってくる。
「なんだ……こ、これは……シーバ軍曹の機体だと!?」
「……どこに、どこに行くの。許さない。誰一人も逃がさないから!」
「お、落ち着け! シーバ軍曹!」
強化人間は焦った。まさか、本当に強化人間が暴走しているとは思っていなかったからだ。
明らかな殺意を向けてくるシーバ軍曹。対して、シャトルは無武装だ。
「俺は仲間だぞ!」
「貴方は仲間じゃない。だって、“声”が聞こえないでしょ」
「や、やめろぉぉぉぉ!」
絶叫と共に、シャトルの操縦席にコンフェッサーの拳が叩き込まれたのであった。
一方、その頃、コロニーの奥へと進んだ強化人間達にも異変が発生していた。
“声”が聞こえた者達が、暴走を始めたのだ。
扇動していた強化人間はその暴走に巻き込まれ――残ったのは、“本当に暴走”している強化人間らの機体だけとなった。
リプレイ本文
●
望遠レンズに映った仮拠点の状況は酷い状況だった。
「わー……ものの見事に……」
オファニム(ka0370unit002)の操縦席で十色 エニア(ka0370)が絶句した。
形をとどまっているものは何もなさそうであった。
魔導型ドミニオンがエニア機の横にスッと並ぶ。それはクラン・クィールス(ka6605)が駆るハイドランジア(ka6605unit002)だった。
「さて…来てみればこの有様か…」
強化人間達は先の依頼の後、仮拠点を構築していたという。
それが見事なまでに木端微塵だ。だが、生存者が居るかどうか、それをハンター達は確認しなければならない。
「通信が通じてるのか」
レラージュ・ベナンディ(オファニム)(ka0141unit003)のコックピット内で、様々な計器を確認しつつ、アニス・テスタロッサ(ka0141)がそんな事を告げた。
何らかの通信機器を搭載、あるいは、搭乗者が持ち込んでいないと通信は出来ない。
だが、今の状況は普段とは違った。全員の通信は繋がっているようだった。
「星加機が…稼働しているのか…」
モニターを確認するクランだが、どこにも星加機は見当たらない。
彼女の機体にはハンター達と強化人間達の全機の通信が繋がる試作品を搭載していた。
「機体は稼働しているけど、乗っている……という訳ではないみたい?」
「あるいは、通信状態を確保する為に、スタンバイ状態だった可能性もあるな」
エニアの問いに、アニスが答えた。
暴走しているという強化人間とも、もしかして、通信が届いている可能性がある。
もっとも、説得に応じるかは……リアルブルー各地での暴走強化人間との戦いを見る限り、困難だろうが。
コンフェッサー(ka2477unit003)に乗るアイビス・グラス(ka2477)もそう感じているようだった。
「今の状況を考えると、強化人間達に仮拠点を抑えられると厄介になりそうね」
生存者がいるかどうか分からないが、ハンター達に課せられた役目を考えると、強化人間達に仮拠点を取られるのは避けたいところだ。
「暴走……まぁ、暴走だろうが」
「くそっ! ここでもか!」
そう言ったのはMARTIA(R7エクスシア)(ka0178unit003)に乗る龍崎・カズマ(ka0178)と黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)に乗る瀬崎・統夜(ka5046)だった。
リアルブルー各地で強化人間の暴走は続いている。
中には子供といっても違和感がないような人も強化人間になっているケースもあるのだ。
「俺達もあいつらも、他存在の力を使ってるって意味じゃ大差ない。ある意味じゃ、俺達にもありえた未来かもしんねえな」
「契約した先が、大精霊か、あるいは歪虚か、だろうからね」
カズマの台詞にアイビスが頷いて答える。
ハンター達はついこの前まで味方だった者と戦うような事態になっているのだ。
「…暴走が事実なら、ただでは止まらないだろうな。昨日の友は今日の敵…か…難儀なものだ。本当に」
クランは覚悟を決める。シーバ軍曹とも、コンドウ曹長とも戦う事になるからだ。
「撃たなきゃならないってのは気が滅入る。だが、誰かがやらなきゃならないならやろう」
モニターに映っている強化人間達の機体を確認しつつ、瀬崎は言った。
彼の言う通りだ。強化人間の暴走を誰かが止めなければ、被害は大きくなるだけなのだから。
悲しい事だが、それが戦場というものかもしれない。カズマは今一度、操縦桿を強く握った。
「そうだな……その誰かは俺達なのだろうから。それにしても、あいつら何を『目的』にしている? 何を得て、どこへ行こうとする?」
「それが聞き出せれば苦労はしなそうだな」
考えても、今、答えは出そうにない。アニスは兵装パネルを叩く。
強化人間が乗るCAMとの戦闘が開始されようとしていた。
●
「こちらの数が少ない以上、いかに敵に連携を取らせないかが重要だ」
そう言ったのはカズマだった。戦力の数は、純粋に質を凌駕するからだ。
MARTIAが装備している長大な銃身を持つマテリアルキャノンの銃口を強化人間の機体に向ける。
まだ、相当の距離があるが、隊列を組む一団に向かって引き金を引いた。
「先制させてもらうか」
仮拠点を破壊しないように当たれば御の字のつもりもあったが、強烈な一撃が強化人間の機体を直撃した。
一発撃っただけで、カズマは重たいキャノンをパージする。貴重な装備であるので、後ほどの回収は必要だが、今は作戦の遂行が最優先だ。
「統制が取れてる?」
「機体性能を考えての事かもかもな」
アイビスの疑問にアニスが答えた。
先ほどのカズマ機の遠距離攻撃を受けて、強化人間達は一直線に向かってくるのだ。
「つまり、近づいてくる間にダメージを蓄積させる必要があるという事か」
機体を進ませながら瀬崎は言った。
それが出来ないとハンター達に勝ち目は無いという事だ。
「足並みは…揃える。後方からの、射撃は任せた」
軽快に疾走するのはクランの機体だった。
ハンター達よりも強化人間達の機体は数が多い。それでも、倍ほどの数しかない。
乱戦に持ち込むよりかは、接敵していった順に撃破した方が、彼らにとっては数の有利を活かせるだろう。
「機動力と合わせて逃げ撃ち出来るかな」
モニターに映っている強化人間の機体を確りと確認するエニア。
エニアの機体は高機動のオファニムだ。状況によっては逃げ撃ちが可能かもしれない。
前進を続けるエニア機をモニターで確認しつつ、アニス機が動きを止めた。
「……遅ぇ」
確りと機体の足が姿勢を固定させると、頭部前部に高精度ガンカメラがメインモニターにスライドする。
機体が狙撃モードに入ると共に、操縦席内でも狙撃銃型のデバイスの機構が作動。
彼我の距離、気流の流れ、温度湿度、コロニー内の重力偏差――次々と射撃に必要な情報が表示され、アニスは冷静に銃口の向きを調整した。
「……シメる前に一つ忠告してやる。俺は今、殊更機嫌が悪ぃ。喧嘩売るなら相応の覚悟しろや」
機体の魔導エンジンに直結されたキャノンからの射撃は、先程、カズマ機の攻撃が不幸にも直撃した機体と練度の一番低そうな機体を貫いた。
それで、傷ついていた機体の方が派手な爆発と共に消滅する。
アニス機が次の照準を行うよりも前に、エニアの機体も射撃態勢に入った。
「これなら、確実に当てられるはず」
高速演算機能が作動する。
敵機の予測された動きが一瞬、モニターのロックオン画面に表示され、エニアは引き金を引いた。
「なるべく死なない程度に仕留めるから、生きててね?」
直撃を受けてドンッとのけぞる強化人間の機体。
姿勢が戻るよりも早く、アニス機の次弾が放たれた事により、他の機体を巻き込んで吹き転がった。
その為、隊列が乱れたが、接近を最優先したようだ。
それに対して、更に足並みを乱すように、冷気を纏った射撃が瀬崎機から撃たれる。
「簡単には接近させない」
動きを鈍らせる事ができる効果を持つ射撃だ。
移動力そのものが減る訳ではないが、回避行動を取りづらくなるので、続く射撃では絶好の的になるだろう。
接敵するまでの間は短い時間だったかもしれない。
だが、アニスを筆頭にエニアと瀬崎のそれぞれの機体から放たれた射撃は次々に強化人間の機体を直撃。
その為、クランとアイビスが近接戦を挑む際には戦力比は1:2ではなくなっていた。
「抜けさせない!」
射撃攻撃の的となった敵機にマテリアルネットを放ち回避行動を妨害しつつ、アイビスは側面からの近接攻撃に対し、機体をアクロバティックに動かした。
パイルバンカーをスパイク代わりに大地に打ち込むとそれを支えに側転。同時にメインスラスターを全開。
立体的な動きを見せつつ、腕部に装着された魔導機械が作動。巨大な鉤爪を持つ掌部を衝撃波と共に突き出した。
「ハッ!」
気合の掛け声と共に放った一撃。
同じコンフェッサーでも機体性能の差はあるようだ。それに、アイビスにはスキルトレースによる疾影士としての力も発揮できるのが大きい。
それはクラン機も同様だった。世代的にはクラン機は旧式にはなるが、総合的には強化人間の機体を上回っていた。
最も、それは全ての敵機に対して……という訳にはいかなかった。
負のマテリアルが込められた猛烈な銃撃一射をシールドと装甲で凌ぎつつ、急接近してきたコンフェッサーのマテリアルフィストを避けるクラン機。
「……シーバ軍曹。コンドウ曹長も、か」
一歩後ろの位置から曹長の機体が銃撃を放ち、シーバ機が接近戦を挑んでくるのだ。
クランの呼び掛けに反応は無い。会話を持つつもりは無いという事なのか、それとも、会話が出来ない程、暴走しているという事なのか。
「…悪く思うな、とは言わないが。退かないのなら…墜とさせてもらう」
マシンガンを放ちつつ、間合いを測る。
囲まれれば一方的にタコ殴りになる可能性もあるからだ。
●
ハンター達の前衛機体を集中攻撃。然る後に、後方の機体へ総攻撃。
それこそ強化人間達が描いていた戦術だったのだが、思わぬ奇襲攻撃でそれが乱れる事になった。
「これなら、仮拠点の方へ攻撃も出来ないはず」
潜みながら回り込んでいたカズマ機が、ブラストハイロゥで視界を奪いながら強化人間達の斜め後方に現れたからだ。
突然の事に驚く強化人間達。しかも、視界が遮られている裏側に何か別の存在が潜んでいるのではないかと勘違いした。
「完全な乱戦になるな……」
先程から強烈な射撃を繰り返すハンターの後衛に向かって行く敵機と、当初の作戦通り、前衛を狙う敵機と新手のカズマを狙う敵機と、まとまりが見えなくなった。
シーバ軍曹とコンドウ曹長の機体以外は、それほど練度も高くないようだ。
アイビスの機体を囲む敵機がもっとも多かったが、強化人間にとって不幸だったのは、彼女が乱戦や囲まれる事を当初から想定していた事だ。
「甘い!」
幾つもの拳が同時に繰り出されるそれを、アイビスは素早い機体操作で避けつつ、フライトシステムを起動させる。
「これが、マテリアルフィストよ!」
飛び上がったアイビスは囲みの一番外側の敵機に向かってパイルバンカーが一体となった盾を構えつつ急降下する。
成すすべもなく、マテリアルが込められた鋭く、重たい一撃が敵機を貫いた。
後方のエニアと瀬崎にも敵機が迫る。
だが、二人とも慌ててはいなかった。敵の数が多いのは最初から分かっていた事なのだから。
「アニスさんは前衛に。ここは大丈夫です」
「分かった」
スラスター全開で駆け抜けるアニス機。
強力な敵機と戦うクランの援護に向かう為だ。すれ違いように、瀬崎に迫る敵機。
「銃での接近戦をレクチャーしてやるよ!」
咄嗟に銃口を向けると、敵機は滑るような機動を描いて射線から離れようとする。
これは瀬崎が仕組んだ牽制だ。敵機の移動先に対し、瀬崎は自機を突貫させた。
「くらえ!」
ほぼ接敵しての零距離射撃。
それが可能なのは、猟撃士としての力をスキルトレースしているからだ。
敵機の腕が根元から吹き飛ぶ。しかし、怯むことなく敵機は蹴りを繰り出してくる。
「あくまで……戦い切るつもりか!」
生存なぞ考えていない、必死の攻撃。
これが暴走した結果というのなら、非情そのものだ。
「くそっ!」
組み付かれる前に銃口を向けた。
だが、敵機はお構いなしに突っ込んでくる。瀬崎は撃つしかなかった。
それは、彼だけではなく、エニアも同様だった。
なるべく、生存させたいという思いはあっても、相手を無力化する程の力量差でも無かったからだ。
「殺さないように意識してみようと思ったけど、その気が向こうには無いみたい」
スキルトレースによる魔法が“メインクラスLv15までの”という条件を満たしていなかったのもある。
それでもエニアはピーキーな性能のオファニムを上手に操作し、敵機の攻撃を回避していく。
「今!」
舞いを描いているように素早い機動で敵機を翻弄すると、好射撃位置につくエニア機。
放たれたのは紫色に輝くマテリアルのレーザー射撃だった。
「合わせて撃つ!」
タイミングを合わしつつ、瀬崎機は30mmアサルトライフルでマルチロックオンした敵機を狙う。
コックピットは外した。だが、強化人間はそれを無視し強引の姿勢のまま、突っ込み――エニア機から放たれたマテリアルライフルの直撃を受け、爆散していった。
コンドウ曹長の機体が狙っていたクラン機から急速接近してくるアニス機に照準を変える。
咄嗟にアニスはアイビス機を囲んでいた強化人間の機体をひっつかむと盾にした。
「そこに居たテメェが悪い。恨むなら自分を恨みな」
盾にした敵機をスラスターの勢いをつけてコンドウ曹長に回転投げる。
曹長は冷徹に銃撃を続けた。あくまでもアニス機を墜とそうとしているようだ。
緩慢な踏み込みから一気に加速して銃撃を避けつつ、アニスはプラズマ弾を射出する。
「冥土の土産だ。受け取れ」
コンドウ曹長の脇を抜けたそれは、一瞬、外したかのように思えたが、そうではなかった。
敵機の後方で爆発を起こしたのだ。その衝撃でバランスを崩したところをアニスは見逃さない。
スラスター全開で接近すると、猟撃士としての力を行使。至近距離からプラズマライフルを叩き込み、曹長機を撃墜した。
クラン機の反射速度が一段階上がる。
「シーバ軍曹…聞こえているなら…返事をしろ!」
「……壊す。全部、壊す!」
まるで呪詛のようなシーバ軍曹の言葉が、通信機から聞こえてきた。
負のマテリアルの輝きを発するオーラに包まれた拳を振り上げる。その気迫は、前回以上のものだ。
「……」
クランは胸のロケットを一瞬、握り締め――すぐにパネルを叩いた。
スキルトレースで機体が発したのはマテリアルによる威圧。それがシーバ軍曹の機体を包み込んだ。
斬機刀を高く振り上げ、クラン機は間合いを詰める。
「これで…終わりだ、シーバ軍曹」
シーバ軍曹は逃げようとするが、機体は思うように動かない。
そこへ、クラン機の斬機刀が振り落とされた。
軍曹の機体は両断されると、ヨロヨロと折り重なるように倒れ、爆発したのだった。
●
襲ってきた強化人間の機体は殲滅した。
機体だけが行動不能になっているものもあるかもしれないが、今は仮拠点の生存者を探す方が先決だ。
「空から見た限りだと……残っている建物はないみたい」
エニアがフライトシステムを使って上空から探索していた。
爆発の規模的には絶望的という感じはしなかった。仮拠点というだけあって、建物が脆かったかもしれない。
「誰か一人でも生存者が居れば……全容が分かりそうだけど」
引き続き、空から探すエニア。その真下ではアイビス機が慎重に瓦礫を除去していた。
「籃奈さん!」
そう呼び掛ける。
暴走している強化人間の機体の中に、籃奈機は見当たらなかった。
という事は、この仮拠点のどこかに居る可能性はある。
「瓦礫が多くて、骨が折れるわね」
「レーダーも上手く作動しないようだ」
モニターに映る画面を凝視しながら瀬崎が言った。
パネルをタッチし、拡大と縮小を繰り返す。
「酷い爆発だな……しかも、的確に建物の要を狙ったか」
「…どうもキナ臭いな。爆発の起きた場所が分かる様なら、その周辺を重点的に調べてみるか」
クランの提案にカズマが頷いた。
「拠点という事を考えれば倉庫等、頑丈さを主軸とした場所があると思う」
一応、仮拠点の配置図は出発前にハンター達に渡されていた。あとはハンターの勘だろう。
「籃奈機はCAM倉庫の辺りを掘り出せばありそうだな」
「シェルターとまではいかないが、ただの部屋よりは安全だろう」
問題は爆発を事前に察知できたかどうかだ。籃奈はどう動いただろうか。
「指令室付近には居なかったとなると、やっぱり、CAM倉庫付近か」
レーダーとモニターを相互に確認してアニスがそう推測した。
真っ先に指令室付近の瓦礫を除去したが、籃奈は居なかったのだ。
反応があったのは、それから間もなくの事だった。
アイビス機が足元の瓦礫を外すと、地下室へ至る階段から、フラフラしながら籃奈が姿を現したのだ。
「大丈夫か?」
近くにいたアニスが機体から降りると、星加 籃奈(kz0247)に駆け寄る。
「助かったわ……」
「よく無事だったな」
「忘れ物を取りに行ったら、突然、なんだもの……これは酷いわね」
頭を抑えている様子を見ると、爆発の衝撃で打ち付けて気絶していたのだろう。
瓦礫の山となった仮拠点を見渡して籃奈は苦笑を浮かべた。
その時、クランと瀬崎の両機体が、倉庫跡に埋まっていた籃奈の機体を掘り起こした。
「機体は傷ついているが…無事のようだ」
「流石、新型機だな」
後は他に生存者が居るかどうかだが。
カズマは機体に乗ったまま、籃奈に呼び掛けた。
「生存者の目途はあるか?」
「そうね……リー軍曹が食糧庫の方に居るかもしれない」
「それじゃ、わたしが探してみるわ」
空から降り立ったエニアが食糧庫一帯の瓦礫を片付け始めた。
その作業の様子を眺めながら、籃奈はアニスから受け取った回復薬を打つ。そして、周囲を二度、三度と見渡した。
遠くに強化人間達の機体の残骸が見える。
「……反乱があったのね」
「正確に言うと…暴走だが」
籃奈の言葉に、コックピットを開いたクランが答えた。
強化人間が暴走するという話を籃奈が知らない訳がない。
「皆、止めてくれて、ありがとう」
少し悲し気な表情を浮かべて籃奈はハンター達に言った。
ちなみに、左足を骨折した状態で見つかったリー軍曹が、泣きべそかきながらエニアに抱き着こうとして、エニアに吹き飛ばされるのは、もう少し経ってからの事である。
●
辛うじて母船へ連絡が付き、無人機が飛来した。
救助が来たかと思ったが、何か筒のような物を落として引き揚げてしまった。
「なんだ?」
怪訝そうに飛び去って行く無人機を見つめる瀬崎。
落下物をすぐさま拾ったのは籃奈だった。
「緊急時の連絡手段にお願いしていたものよ」
筒の中に入っていたチップを、彼女はすぐに自身の端末に繋ぐ。
チップには母船の船長と軍の誰かとの会話が録音されていた。
『コロニーに入った強化人間は全て暴走しており、コロニーごと消滅させる』
『強化人間は例外なく排除する。既に討伐艦隊が出港している』
要約するとそんな内容だった。
だが、内容よりも籃奈にはもっと衝撃的な事があった。
それは船長と会話する相手が“上司”だったからだ。
愛する夫を死地に送り込み、軍需産業との不正を持った者。
「……反乱を含め、最初から全部、筋書き通りだったと」
籃奈は拳を力の限り握った。
廃棄コロニー内の狂気VOIDと交戦させる為に、軍にとって都合の悪い者達を集めた。
そして、強化人間が暴走し、反乱を起こしたという事で、全てを無にするつもりだったという事だ。
「仮とはいえ拠点がこうなる程の規模の爆発……事前に準備されていたのか、これは……」
クランが言う通りだろう。
強化人間の中に、あらかじめ、“上司”との内通者が居たという事だ。
「内通者は誰だったのかな」
「相手は暴走してる強化人間だけなんだろうか」
アイビスと瀬崎の言葉にリー軍曹が何か勘違いしたようで大袈裟に首を振る。
「お、俺じゃないからな!」
リー軍曹にジト目で近付くエニア。
「……いつから、おしゃべりになりましたか?」
「俺は敵前逃亡した位、臆病だから、内通者なんてできっこねぇから」
「色々終わったらデート付き合ってあげるから、最後まで生きてなさいよ」
骨折しているリー軍曹の足をポンと小突くエニア。
思った以上に痛かったようで相当な悲鳴を彼は上げた。
「ぜ、ぜってぃ、生きて帰ってやる……」
そんな言葉を呟きながら。
一方のエニアは困ったような表情を浮かべて、仲間達を見渡した。
「どこまでが思惑で、どこからがイレギュラーなのか、ややこしいわね……」
「強化人間が暴走したのは完全に想定外と見ていいのかしら」
答えたアイビスの台詞にカズマは頷いた。
「だが、向こうがやる事には変わりはないはずだ。強化人間が暴走するコロニーをそのままにしておくとは思えない」
「一先ず、母艦に戻れないのか? 俺達が居る間に」
もっとも妥当であろう提案をした瀬崎に籃奈は大きくため息をついた。
「残念ながら……間に合わないわ。どの道、母船に行っても、皆が居なくなった後に拘束されるのは目に見えているしね」
「…そうなったら…一連の出来事の処理は“上司”が行うって事か…」
ここに留まっていても、母船に戻っても、同じことだ。
証人であるハンター達は自動的にクリムゾンウェストに帰還してしまう。
事情を説明にオフィスから転移するにしても、すぐという訳にはいかないだろう。その間に“上司”に銃殺刑されるだけだ。
一行を沈黙が包み込んだ。
再び、大きくため息をついて籃奈は地球の方角を見つめる。
「……ここまでのようね」
ボソっと呟いた彼女の台詞に、それまで黙って話を聞いていたアニスがツカツカと籃奈に詰め寄り、胸倉を掴む。
「お前にゃ、帰らなきゃならねぇ理由があんだろうが!」
「……そうね。でも、さっきから聞こえるのよ。私にも“声”が……」
「こんな結末でいいのか!」
良い訳がないのは誰もが理解していた。
籃奈はアニスの手を取った。そして、一呼吸置いてからハンター達を見渡す。
「もし……私が暴走したら、その時は……ハンター達の手で私を討って」
「まだ、暴走すると決まった訳じゃないだろう」
覚悟にも似た籃奈の台詞にカズマが返す。
地球圏の強化人間全員が暴走している様子はない。ならば、暴走しない可能性もあるはずだ。
「孝純は牡丹に頼んでいるから……後の事、よろしくね」
「諦めた…訳ではない…か」
籃奈の瞳に宿る力にクランは呟いた。
あれは戦士の目だ。覚悟を決めたからといって、戦う事を放棄した訳ではないようだ。
「やられっぱなしというのは性に合わないから」
“上司”には最期まで抗うつもりのようだ。それに、確認しなければならない事もある。
籃奈はコロニーの奥を見つめるのであった。
おしまい
望遠レンズに映った仮拠点の状況は酷い状況だった。
「わー……ものの見事に……」
オファニム(ka0370unit002)の操縦席で十色 エニア(ka0370)が絶句した。
形をとどまっているものは何もなさそうであった。
魔導型ドミニオンがエニア機の横にスッと並ぶ。それはクラン・クィールス(ka6605)が駆るハイドランジア(ka6605unit002)だった。
「さて…来てみればこの有様か…」
強化人間達は先の依頼の後、仮拠点を構築していたという。
それが見事なまでに木端微塵だ。だが、生存者が居るかどうか、それをハンター達は確認しなければならない。
「通信が通じてるのか」
レラージュ・ベナンディ(オファニム)(ka0141unit003)のコックピット内で、様々な計器を確認しつつ、アニス・テスタロッサ(ka0141)がそんな事を告げた。
何らかの通信機器を搭載、あるいは、搭乗者が持ち込んでいないと通信は出来ない。
だが、今の状況は普段とは違った。全員の通信は繋がっているようだった。
「星加機が…稼働しているのか…」
モニターを確認するクランだが、どこにも星加機は見当たらない。
彼女の機体にはハンター達と強化人間達の全機の通信が繋がる試作品を搭載していた。
「機体は稼働しているけど、乗っている……という訳ではないみたい?」
「あるいは、通信状態を確保する為に、スタンバイ状態だった可能性もあるな」
エニアの問いに、アニスが答えた。
暴走しているという強化人間とも、もしかして、通信が届いている可能性がある。
もっとも、説得に応じるかは……リアルブルー各地での暴走強化人間との戦いを見る限り、困難だろうが。
コンフェッサー(ka2477unit003)に乗るアイビス・グラス(ka2477)もそう感じているようだった。
「今の状況を考えると、強化人間達に仮拠点を抑えられると厄介になりそうね」
生存者がいるかどうか分からないが、ハンター達に課せられた役目を考えると、強化人間達に仮拠点を取られるのは避けたいところだ。
「暴走……まぁ、暴走だろうが」
「くそっ! ここでもか!」
そう言ったのはMARTIA(R7エクスシア)(ka0178unit003)に乗る龍崎・カズマ(ka0178)と黒騎士(魔導型デュミナス)(ka5046unit001)に乗る瀬崎・統夜(ka5046)だった。
リアルブルー各地で強化人間の暴走は続いている。
中には子供といっても違和感がないような人も強化人間になっているケースもあるのだ。
「俺達もあいつらも、他存在の力を使ってるって意味じゃ大差ない。ある意味じゃ、俺達にもありえた未来かもしんねえな」
「契約した先が、大精霊か、あるいは歪虚か、だろうからね」
カズマの台詞にアイビスが頷いて答える。
ハンター達はついこの前まで味方だった者と戦うような事態になっているのだ。
「…暴走が事実なら、ただでは止まらないだろうな。昨日の友は今日の敵…か…難儀なものだ。本当に」
クランは覚悟を決める。シーバ軍曹とも、コンドウ曹長とも戦う事になるからだ。
「撃たなきゃならないってのは気が滅入る。だが、誰かがやらなきゃならないならやろう」
モニターに映っている強化人間達の機体を確認しつつ、瀬崎は言った。
彼の言う通りだ。強化人間の暴走を誰かが止めなければ、被害は大きくなるだけなのだから。
悲しい事だが、それが戦場というものかもしれない。カズマは今一度、操縦桿を強く握った。
「そうだな……その誰かは俺達なのだろうから。それにしても、あいつら何を『目的』にしている? 何を得て、どこへ行こうとする?」
「それが聞き出せれば苦労はしなそうだな」
考えても、今、答えは出そうにない。アニスは兵装パネルを叩く。
強化人間が乗るCAMとの戦闘が開始されようとしていた。
●
「こちらの数が少ない以上、いかに敵に連携を取らせないかが重要だ」
そう言ったのはカズマだった。戦力の数は、純粋に質を凌駕するからだ。
MARTIAが装備している長大な銃身を持つマテリアルキャノンの銃口を強化人間の機体に向ける。
まだ、相当の距離があるが、隊列を組む一団に向かって引き金を引いた。
「先制させてもらうか」
仮拠点を破壊しないように当たれば御の字のつもりもあったが、強烈な一撃が強化人間の機体を直撃した。
一発撃っただけで、カズマは重たいキャノンをパージする。貴重な装備であるので、後ほどの回収は必要だが、今は作戦の遂行が最優先だ。
「統制が取れてる?」
「機体性能を考えての事かもかもな」
アイビスの疑問にアニスが答えた。
先ほどのカズマ機の遠距離攻撃を受けて、強化人間達は一直線に向かってくるのだ。
「つまり、近づいてくる間にダメージを蓄積させる必要があるという事か」
機体を進ませながら瀬崎は言った。
それが出来ないとハンター達に勝ち目は無いという事だ。
「足並みは…揃える。後方からの、射撃は任せた」
軽快に疾走するのはクランの機体だった。
ハンター達よりも強化人間達の機体は数が多い。それでも、倍ほどの数しかない。
乱戦に持ち込むよりかは、接敵していった順に撃破した方が、彼らにとっては数の有利を活かせるだろう。
「機動力と合わせて逃げ撃ち出来るかな」
モニターに映っている強化人間の機体を確りと確認するエニア。
エニアの機体は高機動のオファニムだ。状況によっては逃げ撃ちが可能かもしれない。
前進を続けるエニア機をモニターで確認しつつ、アニス機が動きを止めた。
「……遅ぇ」
確りと機体の足が姿勢を固定させると、頭部前部に高精度ガンカメラがメインモニターにスライドする。
機体が狙撃モードに入ると共に、操縦席内でも狙撃銃型のデバイスの機構が作動。
彼我の距離、気流の流れ、温度湿度、コロニー内の重力偏差――次々と射撃に必要な情報が表示され、アニスは冷静に銃口の向きを調整した。
「……シメる前に一つ忠告してやる。俺は今、殊更機嫌が悪ぃ。喧嘩売るなら相応の覚悟しろや」
機体の魔導エンジンに直結されたキャノンからの射撃は、先程、カズマ機の攻撃が不幸にも直撃した機体と練度の一番低そうな機体を貫いた。
それで、傷ついていた機体の方が派手な爆発と共に消滅する。
アニス機が次の照準を行うよりも前に、エニアの機体も射撃態勢に入った。
「これなら、確実に当てられるはず」
高速演算機能が作動する。
敵機の予測された動きが一瞬、モニターのロックオン画面に表示され、エニアは引き金を引いた。
「なるべく死なない程度に仕留めるから、生きててね?」
直撃を受けてドンッとのけぞる強化人間の機体。
姿勢が戻るよりも早く、アニス機の次弾が放たれた事により、他の機体を巻き込んで吹き転がった。
その為、隊列が乱れたが、接近を最優先したようだ。
それに対して、更に足並みを乱すように、冷気を纏った射撃が瀬崎機から撃たれる。
「簡単には接近させない」
動きを鈍らせる事ができる効果を持つ射撃だ。
移動力そのものが減る訳ではないが、回避行動を取りづらくなるので、続く射撃では絶好の的になるだろう。
接敵するまでの間は短い時間だったかもしれない。
だが、アニスを筆頭にエニアと瀬崎のそれぞれの機体から放たれた射撃は次々に強化人間の機体を直撃。
その為、クランとアイビスが近接戦を挑む際には戦力比は1:2ではなくなっていた。
「抜けさせない!」
射撃攻撃の的となった敵機にマテリアルネットを放ち回避行動を妨害しつつ、アイビスは側面からの近接攻撃に対し、機体をアクロバティックに動かした。
パイルバンカーをスパイク代わりに大地に打ち込むとそれを支えに側転。同時にメインスラスターを全開。
立体的な動きを見せつつ、腕部に装着された魔導機械が作動。巨大な鉤爪を持つ掌部を衝撃波と共に突き出した。
「ハッ!」
気合の掛け声と共に放った一撃。
同じコンフェッサーでも機体性能の差はあるようだ。それに、アイビスにはスキルトレースによる疾影士としての力も発揮できるのが大きい。
それはクラン機も同様だった。世代的にはクラン機は旧式にはなるが、総合的には強化人間の機体を上回っていた。
最も、それは全ての敵機に対して……という訳にはいかなかった。
負のマテリアルが込められた猛烈な銃撃一射をシールドと装甲で凌ぎつつ、急接近してきたコンフェッサーのマテリアルフィストを避けるクラン機。
「……シーバ軍曹。コンドウ曹長も、か」
一歩後ろの位置から曹長の機体が銃撃を放ち、シーバ機が接近戦を挑んでくるのだ。
クランの呼び掛けに反応は無い。会話を持つつもりは無いという事なのか、それとも、会話が出来ない程、暴走しているという事なのか。
「…悪く思うな、とは言わないが。退かないのなら…墜とさせてもらう」
マシンガンを放ちつつ、間合いを測る。
囲まれれば一方的にタコ殴りになる可能性もあるからだ。
●
ハンター達の前衛機体を集中攻撃。然る後に、後方の機体へ総攻撃。
それこそ強化人間達が描いていた戦術だったのだが、思わぬ奇襲攻撃でそれが乱れる事になった。
「これなら、仮拠点の方へ攻撃も出来ないはず」
潜みながら回り込んでいたカズマ機が、ブラストハイロゥで視界を奪いながら強化人間達の斜め後方に現れたからだ。
突然の事に驚く強化人間達。しかも、視界が遮られている裏側に何か別の存在が潜んでいるのではないかと勘違いした。
「完全な乱戦になるな……」
先程から強烈な射撃を繰り返すハンターの後衛に向かって行く敵機と、当初の作戦通り、前衛を狙う敵機と新手のカズマを狙う敵機と、まとまりが見えなくなった。
シーバ軍曹とコンドウ曹長の機体以外は、それほど練度も高くないようだ。
アイビスの機体を囲む敵機がもっとも多かったが、強化人間にとって不幸だったのは、彼女が乱戦や囲まれる事を当初から想定していた事だ。
「甘い!」
幾つもの拳が同時に繰り出されるそれを、アイビスは素早い機体操作で避けつつ、フライトシステムを起動させる。
「これが、マテリアルフィストよ!」
飛び上がったアイビスは囲みの一番外側の敵機に向かってパイルバンカーが一体となった盾を構えつつ急降下する。
成すすべもなく、マテリアルが込められた鋭く、重たい一撃が敵機を貫いた。
後方のエニアと瀬崎にも敵機が迫る。
だが、二人とも慌ててはいなかった。敵の数が多いのは最初から分かっていた事なのだから。
「アニスさんは前衛に。ここは大丈夫です」
「分かった」
スラスター全開で駆け抜けるアニス機。
強力な敵機と戦うクランの援護に向かう為だ。すれ違いように、瀬崎に迫る敵機。
「銃での接近戦をレクチャーしてやるよ!」
咄嗟に銃口を向けると、敵機は滑るような機動を描いて射線から離れようとする。
これは瀬崎が仕組んだ牽制だ。敵機の移動先に対し、瀬崎は自機を突貫させた。
「くらえ!」
ほぼ接敵しての零距離射撃。
それが可能なのは、猟撃士としての力をスキルトレースしているからだ。
敵機の腕が根元から吹き飛ぶ。しかし、怯むことなく敵機は蹴りを繰り出してくる。
「あくまで……戦い切るつもりか!」
生存なぞ考えていない、必死の攻撃。
これが暴走した結果というのなら、非情そのものだ。
「くそっ!」
組み付かれる前に銃口を向けた。
だが、敵機はお構いなしに突っ込んでくる。瀬崎は撃つしかなかった。
それは、彼だけではなく、エニアも同様だった。
なるべく、生存させたいという思いはあっても、相手を無力化する程の力量差でも無かったからだ。
「殺さないように意識してみようと思ったけど、その気が向こうには無いみたい」
スキルトレースによる魔法が“メインクラスLv15までの”という条件を満たしていなかったのもある。
それでもエニアはピーキーな性能のオファニムを上手に操作し、敵機の攻撃を回避していく。
「今!」
舞いを描いているように素早い機動で敵機を翻弄すると、好射撃位置につくエニア機。
放たれたのは紫色に輝くマテリアルのレーザー射撃だった。
「合わせて撃つ!」
タイミングを合わしつつ、瀬崎機は30mmアサルトライフルでマルチロックオンした敵機を狙う。
コックピットは外した。だが、強化人間はそれを無視し強引の姿勢のまま、突っ込み――エニア機から放たれたマテリアルライフルの直撃を受け、爆散していった。
コンドウ曹長の機体が狙っていたクラン機から急速接近してくるアニス機に照準を変える。
咄嗟にアニスはアイビス機を囲んでいた強化人間の機体をひっつかむと盾にした。
「そこに居たテメェが悪い。恨むなら自分を恨みな」
盾にした敵機をスラスターの勢いをつけてコンドウ曹長に回転投げる。
曹長は冷徹に銃撃を続けた。あくまでもアニス機を墜とそうとしているようだ。
緩慢な踏み込みから一気に加速して銃撃を避けつつ、アニスはプラズマ弾を射出する。
「冥土の土産だ。受け取れ」
コンドウ曹長の脇を抜けたそれは、一瞬、外したかのように思えたが、そうではなかった。
敵機の後方で爆発を起こしたのだ。その衝撃でバランスを崩したところをアニスは見逃さない。
スラスター全開で接近すると、猟撃士としての力を行使。至近距離からプラズマライフルを叩き込み、曹長機を撃墜した。
クラン機の反射速度が一段階上がる。
「シーバ軍曹…聞こえているなら…返事をしろ!」
「……壊す。全部、壊す!」
まるで呪詛のようなシーバ軍曹の言葉が、通信機から聞こえてきた。
負のマテリアルの輝きを発するオーラに包まれた拳を振り上げる。その気迫は、前回以上のものだ。
「……」
クランは胸のロケットを一瞬、握り締め――すぐにパネルを叩いた。
スキルトレースで機体が発したのはマテリアルによる威圧。それがシーバ軍曹の機体を包み込んだ。
斬機刀を高く振り上げ、クラン機は間合いを詰める。
「これで…終わりだ、シーバ軍曹」
シーバ軍曹は逃げようとするが、機体は思うように動かない。
そこへ、クラン機の斬機刀が振り落とされた。
軍曹の機体は両断されると、ヨロヨロと折り重なるように倒れ、爆発したのだった。
●
襲ってきた強化人間の機体は殲滅した。
機体だけが行動不能になっているものもあるかもしれないが、今は仮拠点の生存者を探す方が先決だ。
「空から見た限りだと……残っている建物はないみたい」
エニアがフライトシステムを使って上空から探索していた。
爆発の規模的には絶望的という感じはしなかった。仮拠点というだけあって、建物が脆かったかもしれない。
「誰か一人でも生存者が居れば……全容が分かりそうだけど」
引き続き、空から探すエニア。その真下ではアイビス機が慎重に瓦礫を除去していた。
「籃奈さん!」
そう呼び掛ける。
暴走している強化人間の機体の中に、籃奈機は見当たらなかった。
という事は、この仮拠点のどこかに居る可能性はある。
「瓦礫が多くて、骨が折れるわね」
「レーダーも上手く作動しないようだ」
モニターに映る画面を凝視しながら瀬崎が言った。
パネルをタッチし、拡大と縮小を繰り返す。
「酷い爆発だな……しかも、的確に建物の要を狙ったか」
「…どうもキナ臭いな。爆発の起きた場所が分かる様なら、その周辺を重点的に調べてみるか」
クランの提案にカズマが頷いた。
「拠点という事を考えれば倉庫等、頑丈さを主軸とした場所があると思う」
一応、仮拠点の配置図は出発前にハンター達に渡されていた。あとはハンターの勘だろう。
「籃奈機はCAM倉庫の辺りを掘り出せばありそうだな」
「シェルターとまではいかないが、ただの部屋よりは安全だろう」
問題は爆発を事前に察知できたかどうかだ。籃奈はどう動いただろうか。
「指令室付近には居なかったとなると、やっぱり、CAM倉庫付近か」
レーダーとモニターを相互に確認してアニスがそう推測した。
真っ先に指令室付近の瓦礫を除去したが、籃奈は居なかったのだ。
反応があったのは、それから間もなくの事だった。
アイビス機が足元の瓦礫を外すと、地下室へ至る階段から、フラフラしながら籃奈が姿を現したのだ。
「大丈夫か?」
近くにいたアニスが機体から降りると、星加 籃奈(kz0247)に駆け寄る。
「助かったわ……」
「よく無事だったな」
「忘れ物を取りに行ったら、突然、なんだもの……これは酷いわね」
頭を抑えている様子を見ると、爆発の衝撃で打ち付けて気絶していたのだろう。
瓦礫の山となった仮拠点を見渡して籃奈は苦笑を浮かべた。
その時、クランと瀬崎の両機体が、倉庫跡に埋まっていた籃奈の機体を掘り起こした。
「機体は傷ついているが…無事のようだ」
「流石、新型機だな」
後は他に生存者が居るかどうかだが。
カズマは機体に乗ったまま、籃奈に呼び掛けた。
「生存者の目途はあるか?」
「そうね……リー軍曹が食糧庫の方に居るかもしれない」
「それじゃ、わたしが探してみるわ」
空から降り立ったエニアが食糧庫一帯の瓦礫を片付け始めた。
その作業の様子を眺めながら、籃奈はアニスから受け取った回復薬を打つ。そして、周囲を二度、三度と見渡した。
遠くに強化人間達の機体の残骸が見える。
「……反乱があったのね」
「正確に言うと…暴走だが」
籃奈の言葉に、コックピットを開いたクランが答えた。
強化人間が暴走するという話を籃奈が知らない訳がない。
「皆、止めてくれて、ありがとう」
少し悲し気な表情を浮かべて籃奈はハンター達に言った。
ちなみに、左足を骨折した状態で見つかったリー軍曹が、泣きべそかきながらエニアに抱き着こうとして、エニアに吹き飛ばされるのは、もう少し経ってからの事である。
●
辛うじて母船へ連絡が付き、無人機が飛来した。
救助が来たかと思ったが、何か筒のような物を落として引き揚げてしまった。
「なんだ?」
怪訝そうに飛び去って行く無人機を見つめる瀬崎。
落下物をすぐさま拾ったのは籃奈だった。
「緊急時の連絡手段にお願いしていたものよ」
筒の中に入っていたチップを、彼女はすぐに自身の端末に繋ぐ。
チップには母船の船長と軍の誰かとの会話が録音されていた。
『コロニーに入った強化人間は全て暴走しており、コロニーごと消滅させる』
『強化人間は例外なく排除する。既に討伐艦隊が出港している』
要約するとそんな内容だった。
だが、内容よりも籃奈にはもっと衝撃的な事があった。
それは船長と会話する相手が“上司”だったからだ。
愛する夫を死地に送り込み、軍需産業との不正を持った者。
「……反乱を含め、最初から全部、筋書き通りだったと」
籃奈は拳を力の限り握った。
廃棄コロニー内の狂気VOIDと交戦させる為に、軍にとって都合の悪い者達を集めた。
そして、強化人間が暴走し、反乱を起こしたという事で、全てを無にするつもりだったという事だ。
「仮とはいえ拠点がこうなる程の規模の爆発……事前に準備されていたのか、これは……」
クランが言う通りだろう。
強化人間の中に、あらかじめ、“上司”との内通者が居たという事だ。
「内通者は誰だったのかな」
「相手は暴走してる強化人間だけなんだろうか」
アイビスと瀬崎の言葉にリー軍曹が何か勘違いしたようで大袈裟に首を振る。
「お、俺じゃないからな!」
リー軍曹にジト目で近付くエニア。
「……いつから、おしゃべりになりましたか?」
「俺は敵前逃亡した位、臆病だから、内通者なんてできっこねぇから」
「色々終わったらデート付き合ってあげるから、最後まで生きてなさいよ」
骨折しているリー軍曹の足をポンと小突くエニア。
思った以上に痛かったようで相当な悲鳴を彼は上げた。
「ぜ、ぜってぃ、生きて帰ってやる……」
そんな言葉を呟きながら。
一方のエニアは困ったような表情を浮かべて、仲間達を見渡した。
「どこまでが思惑で、どこからがイレギュラーなのか、ややこしいわね……」
「強化人間が暴走したのは完全に想定外と見ていいのかしら」
答えたアイビスの台詞にカズマは頷いた。
「だが、向こうがやる事には変わりはないはずだ。強化人間が暴走するコロニーをそのままにしておくとは思えない」
「一先ず、母艦に戻れないのか? 俺達が居る間に」
もっとも妥当であろう提案をした瀬崎に籃奈は大きくため息をついた。
「残念ながら……間に合わないわ。どの道、母船に行っても、皆が居なくなった後に拘束されるのは目に見えているしね」
「…そうなったら…一連の出来事の処理は“上司”が行うって事か…」
ここに留まっていても、母船に戻っても、同じことだ。
証人であるハンター達は自動的にクリムゾンウェストに帰還してしまう。
事情を説明にオフィスから転移するにしても、すぐという訳にはいかないだろう。その間に“上司”に銃殺刑されるだけだ。
一行を沈黙が包み込んだ。
再び、大きくため息をついて籃奈は地球の方角を見つめる。
「……ここまでのようね」
ボソっと呟いた彼女の台詞に、それまで黙って話を聞いていたアニスがツカツカと籃奈に詰め寄り、胸倉を掴む。
「お前にゃ、帰らなきゃならねぇ理由があんだろうが!」
「……そうね。でも、さっきから聞こえるのよ。私にも“声”が……」
「こんな結末でいいのか!」
良い訳がないのは誰もが理解していた。
籃奈はアニスの手を取った。そして、一呼吸置いてからハンター達を見渡す。
「もし……私が暴走したら、その時は……ハンター達の手で私を討って」
「まだ、暴走すると決まった訳じゃないだろう」
覚悟にも似た籃奈の台詞にカズマが返す。
地球圏の強化人間全員が暴走している様子はない。ならば、暴走しない可能性もあるはずだ。
「孝純は牡丹に頼んでいるから……後の事、よろしくね」
「諦めた…訳ではない…か」
籃奈の瞳に宿る力にクランは呟いた。
あれは戦士の目だ。覚悟を決めたからといって、戦う事を放棄した訳ではないようだ。
「やられっぱなしというのは性に合わないから」
“上司”には最期まで抗うつもりのようだ。それに、確認しなければならない事もある。
籃奈はコロニーの奥を見つめるのであった。
おしまい
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相談卓 アニス・テスタロッサ(ka0141) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2018/08/17 10:53:21 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/12 22:35:26 |