ゲスト
(ka0000)
顔の無い記憶
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/17 09:00
- 完成日
- 2018/08/22 00:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●昔話
昔と言っても数十年前。エルフの青年が子供だったくらいの頃。
親とはぐれた少年エルフは森の中に迷い込んだ。山の麓の深い森だ。泣き叫びながら両親を探して森の中をさまよっている。
「……何してるんだガキ」
低い声に呼び止められて、泣きながら振り返る。ドワーフの男性が、槍を持って立っていた。髭のせいで表情がよく見えない。
「ひっ!」
ドワーフはエルフと種族的に不仲である。すごく怒られて、げんこつでも食らうんじゃないだろうか。そう思って怯えた少年は、頭を覆ってしゃがみ込んで震えた。
「別に取って食ったりしねぇよ。迷ったのか? どっちにしろ一度休んだ方が良い。俺の小屋に連れて行ってやる」
そう言って、ぶっきらぼうに少年の手を掴んで彼は自分の家に連れて行った。森の中の小さな家だ。そこでお茶を貰って、少年はやっと落ち着いた。
「親とはぐれたか」
「うん。ここを通って向こうの町に行こうとしたんだ」
「近道だな。ガキを連れてすることじゃねぇよ」
「怒らないで」
「怒ってねぇ。呆れてるだけだよ」
彼はそう言って、無骨な手で少年の頭を撫でた。
それから、彼は家の前で焚き火を始めた。もくもくと上がる煙を見て、もしかしてと両親が駆けつけた。両親は、息子を保護したのがドワーフだと見ると一瞬だけ怯んだが、息子がたいそう懐いているのを見てひとまずは丁寧に礼を述べた。
「二度と来るな」
彼は言った。
「文句じゃねぇ。危ないから、二度とこんな形で来るんじゃない。少なくとも、そのガキの背丈が俺を追い越すまでは連れてくるんじゃない」
困惑する親子を背に、彼は家の中に入ってしまった。そしてもう出て来なかった。
殴るのではないかと思ったその手は、一度も彼に危害を加えなかった。
●そして現在
森の中を軽い足音が駆け抜けていく。
「この辺だったんだけどな」
尖った耳に、顎の高さまでの金髪を掛けた青年は、弓を片手に周辺を見回している。子供の頃なら迷って泣いてしまうような森だが、大人になった今となっては森に入る支度も難しいことではない。
エルフは百歳を越えると清浄な森から出られなくなる。だからその前にあちこち旅をしておこう。そう思って旅を始めたところ、子供の頃迷った森の傍を通りかかった。
あのとき助けてくれたドワーフの彼もまだいるかもしれない!
そう思うと心が躍った。他のドワーフのことは知らないが、彼は優しい。自分のことを覚えていてくれたら少しくらいは話ができるだろう。
「何してんだテメェ」
そう呼び止められて、くるりと振り返る。そしてぱっと顔を輝かせた。無骨なドワーフの男性が、斧を持って立っているのだ。髭のせいで表情がよく見えない。
「久しぶり」
彼はドワーフの前にぴょんと飛び出して、空いた方の手を握った。
「俺のこと、覚えてる? 随分昔に迷って、あんたの家に連れて行ってもらったんだけど」
「人違いじゃねぇのか……?」
「覚えてないの?」
髭と言い、体格と言い、間違いなくあのドワーフだ、と彼は思った。とはいえ、数十年前のことだから覚えていないのかもしれない。少し悲しい気持ちになったが、仕方ない。
「ねえ、またあの時みたいに、あんたと一緒にお茶したいんだ。いや、家に上げてくれ、とは言わないよ。良かったら森を出た町の喫茶店でも……」
「俺はテメェなんか知らねぇぞ」
「絶対思い出すから!」
エルフの青年が満面の笑顔で言い放つと、ドワーフは困惑した様子で、
「ま、まあ立ち話もあれだ……家にはろくなものがねぇから町に出るのは構わないが……しかしまあテメェ、エルフじゃねぇのかよ」
「ドワーフとのこと? 相手によりけりだよ。あんたは優しいから好き」
ドワーフは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。しかし、そこではっと顔を上げた。
「テメェ、ご立派な弓持ってやがるが戦いは?」
「えっ、決闘? あんたと戦うの?」
「脳天気な野郎だな! あれを見ろ」
そう言って彼が差したのは、木々の間からこちらにゆっくりと迫ってくる四つ足の何か。獣ではない。ヒトか、それに類する生き物の形に見えた。つまりは、四つん這いになって這ってきている。怪我をした人間ではない。なぜなら、それはまっ黒だったから。木の陰になって黒いわけではない。それそのものが、墨でも塗りたくったようにまっ黒なのだ。そして、その影は一つではない。
「何あれ」
「歪虚だ。お前、弓は?」
「持ってるけど」
「戦えるか?」
「戦うの!? 無茶だよ! こう言うときはハンターを呼べってパパもママも言ってたよ! あんたの家この辺だよね?」
「何で知ってやがる……それにしてもエルフってやっぱり軟弱なのか?」
「歪虚を前にしてエルフもドワーフもないでしょ! 大体、危ないから大きくなるまでもうこの森に来るなって言ったのはあんただろ! ほら行くよ!」
エルフの青年に引きずられて、ドワーフの男は困惑したように自宅に戻された。その小屋は、青年の記憶通りの場所にある。やっぱりこのドワーフだ、と彼は確信を新たにした。
「テメェどうする気だ」
家の中に押し込まれながら彼は訪ねる。
「あの時あんたがしてくれたみたいに、狼煙を上げるよ。薪、もらうね。今度は俺が助けるから」
そしてエルフの彼は家の前で焚き火を始めた。ありったけの薪を入れて燃やすと、もくもくと煙が上がる。
それを見た近くの町が、あまりの煙の量に異常を察知してハンターオフィスに通報した。
●一方、ドワーフの集落
森の傍には町の他にドワーフの集落もあった。この集落のドワーフたちは、森の中に薪を取りに行くこともよくある。その森から煙が上がった。何かあったに違いない、と、彼らは各々武器を持って森へ向かおうとしている。
「何があった」
その様子を見て、一人の中年ドワーフが声を掛ける。
「森から煙が出てる! ほら、あの小屋の辺りだよ」
「ああ、あそこか」
ここのドワーフたちは、森の中に一軒の家を建てていた。最初は休憩小屋のつもりだったのだが、案外住み心地が良く、交替で誰かしらが住んでいるのである。
この中年ドワーフもまた、数十年前に小屋に住んでいたことがあった。彼は家から槍を持ち出す。
「俺も行こう。あの小屋には世話になった。何かあったなら助けに行かないとな」
●ハンターオフィスにて
「多分、狼煙のつもりなんだろうけど、このままじゃ火事になる。町とほぼ同時に通報したドワーフの集落によると、小屋には水もあるらしいけどね、消火ができるかというと微妙だろう」
中年職員は頭を振りながら言った。
「水属性の魔法じゃ消せないんだよなぁ、火。不便だね。延焼した場合、消すとしたら水に加えて物理的に木をなぎ倒したりなんなりしないといけなくなる。そうなるとなんと言うかたいへんに面倒だから急いでくれ。それと、狼煙を上げるくらいの緊急事態と想定できる。歪虚の可能性もあるから充分気をつけてくれたまえ」
昔と言っても数十年前。エルフの青年が子供だったくらいの頃。
親とはぐれた少年エルフは森の中に迷い込んだ。山の麓の深い森だ。泣き叫びながら両親を探して森の中をさまよっている。
「……何してるんだガキ」
低い声に呼び止められて、泣きながら振り返る。ドワーフの男性が、槍を持って立っていた。髭のせいで表情がよく見えない。
「ひっ!」
ドワーフはエルフと種族的に不仲である。すごく怒られて、げんこつでも食らうんじゃないだろうか。そう思って怯えた少年は、頭を覆ってしゃがみ込んで震えた。
「別に取って食ったりしねぇよ。迷ったのか? どっちにしろ一度休んだ方が良い。俺の小屋に連れて行ってやる」
そう言って、ぶっきらぼうに少年の手を掴んで彼は自分の家に連れて行った。森の中の小さな家だ。そこでお茶を貰って、少年はやっと落ち着いた。
「親とはぐれたか」
「うん。ここを通って向こうの町に行こうとしたんだ」
「近道だな。ガキを連れてすることじゃねぇよ」
「怒らないで」
「怒ってねぇ。呆れてるだけだよ」
彼はそう言って、無骨な手で少年の頭を撫でた。
それから、彼は家の前で焚き火を始めた。もくもくと上がる煙を見て、もしかしてと両親が駆けつけた。両親は、息子を保護したのがドワーフだと見ると一瞬だけ怯んだが、息子がたいそう懐いているのを見てひとまずは丁寧に礼を述べた。
「二度と来るな」
彼は言った。
「文句じゃねぇ。危ないから、二度とこんな形で来るんじゃない。少なくとも、そのガキの背丈が俺を追い越すまでは連れてくるんじゃない」
困惑する親子を背に、彼は家の中に入ってしまった。そしてもう出て来なかった。
殴るのではないかと思ったその手は、一度も彼に危害を加えなかった。
●そして現在
森の中を軽い足音が駆け抜けていく。
「この辺だったんだけどな」
尖った耳に、顎の高さまでの金髪を掛けた青年は、弓を片手に周辺を見回している。子供の頃なら迷って泣いてしまうような森だが、大人になった今となっては森に入る支度も難しいことではない。
エルフは百歳を越えると清浄な森から出られなくなる。だからその前にあちこち旅をしておこう。そう思って旅を始めたところ、子供の頃迷った森の傍を通りかかった。
あのとき助けてくれたドワーフの彼もまだいるかもしれない!
そう思うと心が躍った。他のドワーフのことは知らないが、彼は優しい。自分のことを覚えていてくれたら少しくらいは話ができるだろう。
「何してんだテメェ」
そう呼び止められて、くるりと振り返る。そしてぱっと顔を輝かせた。無骨なドワーフの男性が、斧を持って立っているのだ。髭のせいで表情がよく見えない。
「久しぶり」
彼はドワーフの前にぴょんと飛び出して、空いた方の手を握った。
「俺のこと、覚えてる? 随分昔に迷って、あんたの家に連れて行ってもらったんだけど」
「人違いじゃねぇのか……?」
「覚えてないの?」
髭と言い、体格と言い、間違いなくあのドワーフだ、と彼は思った。とはいえ、数十年前のことだから覚えていないのかもしれない。少し悲しい気持ちになったが、仕方ない。
「ねえ、またあの時みたいに、あんたと一緒にお茶したいんだ。いや、家に上げてくれ、とは言わないよ。良かったら森を出た町の喫茶店でも……」
「俺はテメェなんか知らねぇぞ」
「絶対思い出すから!」
エルフの青年が満面の笑顔で言い放つと、ドワーフは困惑した様子で、
「ま、まあ立ち話もあれだ……家にはろくなものがねぇから町に出るのは構わないが……しかしまあテメェ、エルフじゃねぇのかよ」
「ドワーフとのこと? 相手によりけりだよ。あんたは優しいから好き」
ドワーフは苦虫を噛みつぶしたような顔になる。しかし、そこではっと顔を上げた。
「テメェ、ご立派な弓持ってやがるが戦いは?」
「えっ、決闘? あんたと戦うの?」
「脳天気な野郎だな! あれを見ろ」
そう言って彼が差したのは、木々の間からこちらにゆっくりと迫ってくる四つ足の何か。獣ではない。ヒトか、それに類する生き物の形に見えた。つまりは、四つん這いになって這ってきている。怪我をした人間ではない。なぜなら、それはまっ黒だったから。木の陰になって黒いわけではない。それそのものが、墨でも塗りたくったようにまっ黒なのだ。そして、その影は一つではない。
「何あれ」
「歪虚だ。お前、弓は?」
「持ってるけど」
「戦えるか?」
「戦うの!? 無茶だよ! こう言うときはハンターを呼べってパパもママも言ってたよ! あんたの家この辺だよね?」
「何で知ってやがる……それにしてもエルフってやっぱり軟弱なのか?」
「歪虚を前にしてエルフもドワーフもないでしょ! 大体、危ないから大きくなるまでもうこの森に来るなって言ったのはあんただろ! ほら行くよ!」
エルフの青年に引きずられて、ドワーフの男は困惑したように自宅に戻された。その小屋は、青年の記憶通りの場所にある。やっぱりこのドワーフだ、と彼は確信を新たにした。
「テメェどうする気だ」
家の中に押し込まれながら彼は訪ねる。
「あの時あんたがしてくれたみたいに、狼煙を上げるよ。薪、もらうね。今度は俺が助けるから」
そしてエルフの彼は家の前で焚き火を始めた。ありったけの薪を入れて燃やすと、もくもくと煙が上がる。
それを見た近くの町が、あまりの煙の量に異常を察知してハンターオフィスに通報した。
●一方、ドワーフの集落
森の傍には町の他にドワーフの集落もあった。この集落のドワーフたちは、森の中に薪を取りに行くこともよくある。その森から煙が上がった。何かあったに違いない、と、彼らは各々武器を持って森へ向かおうとしている。
「何があった」
その様子を見て、一人の中年ドワーフが声を掛ける。
「森から煙が出てる! ほら、あの小屋の辺りだよ」
「ああ、あそこか」
ここのドワーフたちは、森の中に一軒の家を建てていた。最初は休憩小屋のつもりだったのだが、案外住み心地が良く、交替で誰かしらが住んでいるのである。
この中年ドワーフもまた、数十年前に小屋に住んでいたことがあった。彼は家から槍を持ち出す。
「俺も行こう。あの小屋には世話になった。何かあったなら助けに行かないとな」
●ハンターオフィスにて
「多分、狼煙のつもりなんだろうけど、このままじゃ火事になる。町とほぼ同時に通報したドワーフの集落によると、小屋には水もあるらしいけどね、消火ができるかというと微妙だろう」
中年職員は頭を振りながら言った。
「水属性の魔法じゃ消せないんだよなぁ、火。不便だね。延焼した場合、消すとしたら水に加えて物理的に木をなぎ倒したりなんなりしないといけなくなる。そうなるとなんと言うかたいへんに面倒だから急いでくれ。それと、狼煙を上げるくらいの緊急事態と想定できる。歪虚の可能性もあるから充分気をつけてくれたまえ」
リプレイ本文
●初期消火
ハンターたちが現場に到着すると、もくもくとした煙が辺りにあふれかえっていた。
「これは凄いですね」
嘆息するように言うのはソナ(ka1352)だ。彼女とアルマ・A・エインズワース(ka4901)は、煙が上がっていると聞いて貯水石を持参している。
「ハンターの者です。誰かいますか?」
レオン(ka5108)が布で口を多いながらも大声で呼びかける。
「いるよ! 来てくれたんだね!」
焚き火の向こう側から明るい声がする。一行がそちらに向かうと、話に聞いていたとおりの小屋が見えた。その屋根の上には、金髪のエルフが弓を持ってこちらに手を振っている。
「変な、黒いぺったりした人影みたいなのが全部で五体。小屋の中の人も歪虚じゃないかって言ってる! だから狼煙みたいにしたんだ」
「それで狼煙か。ごめん、ちょっと警戒してるからそっちを見ずに喋るけど許してくれ」
レオンは周囲を警戒しながら頷く。確かに、木の下でぺったりと地面に這いつくばる影がいくつか見えた。
「なるほどね……了解したよ。知らせてくれた判断は良かった。でも、それならもう必要ないから消してもいいかな?」
「良いよ! あんたたちが来てくれたからね」
「わふ!」
アルマが貯水石を三つ取りだした。彼は、雑魔がいると聞くや、自分にアンチボディをかける。いざとなったら前衛を引き受けるためだ。ソナも毛布と貯水石を取り出す。アルマがまず一つ分の水を掛けると、火勢は収まった。その上から、ソナが濡らした毛布を掛ける。
「大分燃え尽きているようですね」
和住 珀音 (ka6874)は町から借りたスコップで土をかぶせながら言った。直置きしていることもあり、下の方の薪は水を吸っている。そもそも、薪も全て乾いていなかったようで、不完全燃焼気味だったようだ。ほどなく鎮火するだろう。
「な、なんじゃこいつは!」
その時、森の西側から声がした。レオンは自分にガウスジェイルを施して走った。
ぞろぞろと、簡単な武装をしたドワーフが十名ほど駆けつけてきている。が、その足下にいるのっぺりとした黒い影を見て恐れをなした様だった。
「雑魔です! 離れて!」
レオンが叫ぶ。ドワーフたちはどよめいた。
「わふ! ドワーフさんたくさんですー? そこに歪虚がいるです?」
ならば、殲滅するしかない。ドワーフが大好きな彼にとって、彼らが怪我をするのはあまり良いことではない。狂蒼極でマテリアルを集中させる。彼は消えかかった焚き火から離れると、前に出た。彼は他人より少しだけ視覚が鋭敏だ。敵の位置がよく見える。
左胸に、青い炎が燃え上がった。紺碧の流星が、まっすぐに飛んでいく。一瞬で、影のような雑魔は葬り去られる。蒸発。そんな言葉がぴったりだった。
「ヒッ」
小屋から声が聞こえる。そちらを見ると、青くなったドワーフが口を覆って雑魔が消えた方を見ていた。目が合う。彼の肩が竦んだが、アルマは無邪気な笑みを浮かべて手を振った。
「なんだこれは!?」
「雑魔が出たので狼煙を上げていたようです」
珀音が言う。
「私たちは雑魔をどうにかしますので、消火をお願いできませんか?」
「え? 雑魔と火事? なんだ? どう言うこと?」
「ごめんね! 俺が恩人探してたら巻き込んじゃった!」
屋根の上から青年が手を合わせて詫びる。
「火は、危ないですよ? 焦っていたとしてもしっかりと周りを確認しなくてはなりませんね」
珀音が呟くが、ドワーフの喧噪に飲まれてその言葉が青年に届いたかどうかはわからない。
「全く話が読めんが、とにかく水だ! 水取りに行くぞ!」
先導していたドワーフの声で、彼らは踵を返して集落に駆け戻っていく。入れ替わるように、黒い影が這うように出てきた。レオンがアルマス・ノヴァを構えて声を張り上げた。
「来たぞ皆。気をつけて。君、そこで見張ってて、何かあったら教えてくれ」
●雑魔討伐
どうやら日陰を好む雑魔のようだが、日光を浴びた瞬間に消える、というものでもないらしい。騒ぎに釣られたのか、続々と日向に出てくる。
「全部で四体、ですか」
ソナが数を数えた。
「ここからも四体しか見えないよ!」
屋根の上から青年が叫ぶ。レオンが手を上げて了解を示した。
「アルマ様の火力では一発でしたが、実際の耐久はどの程度なのでしょうね」
珀音が呟きながら、風雷神を放つ。ひらりと舞い上がった符は雷に変化して、雑魔を打つ。一体目がそれを受けて、弾かれように吹き飛んだ。二体目にぶつかる形でその行動を邪魔し、二体目はあえなく雷に打たれる。それに驚いたわけでもないだろうが、三体目もまた雷を避けられない。ぴくぴくと震えながら、それでも消滅には至らなかった。
「紙耐久と言うわけではなさそうだ」
レオンが構えた。彼はソウルトーチを燃やして、敵の注意を引きつける。よたよたと体勢を直した雑魔は、レオンの方ににじり寄った。
「いけませんね」
残りの一体には、ソナがプルガトリオを撃ち込んだ。無数の刃が中空に現れ、刺し貫く。刃はすぐに消えたが、まるで呪いでも受けたかのように、雑魔はその場から動けない。こちらもまたぴくぴくと震え、もがく。
動ける雑魔の内、二体がレオンに向かって行った。足を掴もうとする。が、あとわずかで届かない。もう一体はレオンの足を掴むことに成功したが、防具を貫通してダメージを与えるようなことはなかった。
「このっ」
彼は軽く足を振ってそれを払う。
一方、ソウルトーチから目を逸らすことに成功した一体は、ソナに向かってまっすぐ向かった。ソナは盾を構えて攻撃に備える。雑魔は勢いよく飛びかかった。だが、そのための盾である。頭をぶつけてひっくり返った。
「水! 水持ってきたぞ!」
ドワーフたちが桶に水を汲んで持ってきた。雑魔の一体がそれに反応する。ソウルトーチから目を逸らそうと試みているが、どうやら失敗に終わったらしい。
「ドワーフさんたちに、手出しだめ、ですよぉ?」
アルマが無邪気な声を上げた。三角形が浮かび上がる。覚醒で赤くなった目が細められた。
デルタレイが撃ち放たれた。狙った三体の内、二体はそれで霧散する。一体だけが、殺気を感じでもしたのか紙一重で回避した。
レオンが駆け出した。ドワーフが襲われる前に倒さなくてはいけない。自分のマテリアルを武器に注ぎ込む。アルマス・ノヴァを持った肘を引いた。大きく踏み込み、突き出す。
刺突一閃!
渾身の一撃は雑魔を貫いた。向こうにいたドワーフは身構えていたが、剣に貫かれたまま消える雑魔を見てほっと安堵の息を吐く。
「ほとんど消えてるからあとはトドメだ」
「よしよし、これだけあれば足りるだろ」
消えかけの焚き火にたどり着いたドワーフたちは、上から次々と水を掛けていく。
ドワーフたちを横に見ながら、珀音は再び風雷陣を投げた。プルガトリオで動けなかった個体だ。避けるすべもなく雷に打たれて、塵のように霧散する。
「これで全部でしょうか?」
彼女はそう言って、屋根の上のエルフを振り返る。彼は両腕で丸を作ってそれを肯定した。
●顔の無い記憶
「オッケーオッケー。これで消えた」
「びっくりしたなぁ、ほんと」
ドワーフたちは口々に良いながら額の汗を拭っている。エルフの青年は屋根から降りて、小屋を開ける。
「もう大丈夫だよ!」
「お、おう……」
斧を持ったドワーフが引きずり出された。それを見て、駆けつけたドワーフの内、槍を持ったドワーフがそっぽを向く。それを、アルマは見逃さなかった。
「それにしても、一体何が?」
ソナがエルフの青年に尋ねると、彼は事情を説明した。幼い頃この森で迷ったこと、その時ドワーフに助けて貰ったこと、ドワーフが上げた狼煙で両親が来てくれたこと、通りかかり、もしかしたらまた会えるかもしれないと森に入ったこと、そして、この斧のドワーフがそうであると確信していること。
「でも、この人俺のこと覚えてないって言うんだよ。思い出して貰おうと思ってたら雑魔に遭遇しちゃった」
「それで、思い出の再現をしようと狼煙を上げたわけか」
レオンがふんふんと頷いた。
「狼煙を上げたことの判断はよいと思いますが、薪の量を考えなくてはなりませんよ?」
珀音がおっとりと指摘する。
「それに、火を起こすなら消せるようにしてからです。おうちが燃えたらどうするですかっ」
アルマはおかんむりだ。
「実際に、自分で消せなかったです!」
「ごめんなさい!」
青年は、思ったより大事になっていた自覚はあったらしく、素直に謝罪する。
「そうだね、あなたの言うとおりだ。これからは気をつけます」
「それに、一人で森へ入ることも賛同しかねます……もし、彼に……ドワーフへ会えなかったらどうするのですか?ご両親が悲しみます」
「はい……」
「……ですが、狼煙をあげて下さりありがとうございます。お陰で早く発見することが出来ました」
そう言って珀音が微笑むと、エルフの青年はほっとしたように笑った。アルマは、もう用は済んだとばかりにドワーフの集団に突撃する。
「わふーっ!」
「おわあ!」
「エルフか!」
「な、何か犬っぽいな……?」
「しかし、あのデルタレイはやばかったな」
「わふ!僕、これでもちょっとだけ強いんですよー?」
「その格好で機導師なのか。もっとごつい装備のイメージあったけどなぁ」
「珍しいです? ついでに黒髪のエルフも珍しいですー?」
一人のドワーフが、マントに触ろうと手を伸ばしたが、すぐに引っ込める。
「わふ、さわっていいですー。なでてくださーいっ」
「ええ……?」
困惑顔のドワーフたち。見えないしっぽを幻視した彼らは、そっと手を伸ばしては引っ込め、手を伸ばしては引っ込めを繰り返している。
そんな彼らを横目に、レオンは斧のドワーフに尋ねた。
「あなたはどれくらい前からここの小屋に住んでるんだ?」
「今年からだよ。だからこのガキが俺より背が低かった頃に会ってるはずがねぇ」
「ええ……そんなぁ……それより前に一度住んでたとか間借りしてたとか、あるでしょ?」
「ねぇんだってば。他に小屋もねぇしよ」
「どちらも本当の事言ってるって、僕思います」
半ば強引にドワーフの中に埋もれたアルマが言った。珀音がそれに頷く。
「けれど、一方で記憶違いもあると言うことですね?」
「なんだ……」
青年は肩を落とす。
「せっかく会えたと思ったのに……」
「そこの槍のドワーフさん、さっきからにやにやしてるです。何か心当たりあるです?」
アルマはそう言って、少し離れたところにいる槍のドワーフを見た。
「にやにやしてる?」
青年はきょとんとして、アルマを見た。
「もしかして見分けついてないです?」
「ぐふっ」
「わぅー? お顔が全然違うですよ?」
「古い記憶なのと、ひげで顔を覆われていたらその印象が強くて判断が鈍るかもしれません。アルマさんのように、ドワーフと交流が特別多い、と言うわけでもなさそうですし」
ソナが言って、槍のドワーフを見る。
「いかがですか? お心当たりは」
彼はにやりと笑った。それは誰もがわかる表情だった。
「面倒だから黙ってようと思ってたんだが、察しの良いガキもいたもんだ」
まるで推理小説の犯人のような物言いである。
●ご招待
「そうだ。俺が、そこの金髪のガキが言ったドワーフだ。俺の背丈を越してから来いと言ったのは事実だが、本当に来るとはな。感心したぜ」
「あなたが……あの時の……?」
「そうだ。俺があのときのドワーフだ。その脳天気さは変わらないな?」
「お前ぇ!」
斧のドワーフが喚いた。
「もっと早く申し出ろよな!」
「すまん。面倒だったし面白かった」
「この野郎」
「会えて嬉しい」
「そうか」
「まあ、あんたは嬉しくないかもしれないけど」
「そんな失礼なことは言わない。思っていてもな」
「ふふ」
ソナが笑う。
「せっかくだ。立ち話もなんだから、俺たちの集落に来るか?」
先頭のドワーフが言った。
「わふ! 是非にです!」
食いついたのはアルマだ。
「良いの?」
青年エルフは問いかける。
「助けて貰っちゃなぁ。俺たちもオフィスにゃ通報してるし、半分ドワーフからの依頼だったのに来たエルフのことを貶す理由はねぇよ」
「私個人も、ドワーフだからどうと言うこともありません。お招きにあずかります」
ソナが頷いた。
「集落からオフィスに連絡を入れさせて貰おう」
レオンも言った。
「決まりです! 皆で行くです!」
アルマは意気揚々とドワーフにくっついて先を急ぐ。
「アルマ様、先導する方より先に行かれては迷ってしまいますよ」
くすくすと笑いながら珀音がドワーフたちに続いた。
「良かったですね」
ソナが青年を見上げた。
「うん! 皆のおかげだよ。ありがとう」
「今後は狼煙じゃない方が良いかもな。アルマと珀音にも言われていたけど」
レオンが焼け跡を振り返りながら言う。槍のドワーフが首を横に振った。
「俺がやったのは、動物の糞も入れて煙の色を濃くした狼煙だ。だからこんなにたくさん薪は要らない。機導師のエルフも言っていたが、自分で解決できることを起こせ」
「わかったよ。もう懲りた」
そして彼は空を見上げる。
「色んな意味で、こんなことになるとは思わなかった。ハンターの皆も、ドワーフの皆も、ありがとう」
やがてドワーフの集落が見えた。アルマの歓声が聞こえる。鳥が鳴くのが聞こえた。森に平和は戻った様である。
ハンターたちが現場に到着すると、もくもくとした煙が辺りにあふれかえっていた。
「これは凄いですね」
嘆息するように言うのはソナ(ka1352)だ。彼女とアルマ・A・エインズワース(ka4901)は、煙が上がっていると聞いて貯水石を持参している。
「ハンターの者です。誰かいますか?」
レオン(ka5108)が布で口を多いながらも大声で呼びかける。
「いるよ! 来てくれたんだね!」
焚き火の向こう側から明るい声がする。一行がそちらに向かうと、話に聞いていたとおりの小屋が見えた。その屋根の上には、金髪のエルフが弓を持ってこちらに手を振っている。
「変な、黒いぺったりした人影みたいなのが全部で五体。小屋の中の人も歪虚じゃないかって言ってる! だから狼煙みたいにしたんだ」
「それで狼煙か。ごめん、ちょっと警戒してるからそっちを見ずに喋るけど許してくれ」
レオンは周囲を警戒しながら頷く。確かに、木の下でぺったりと地面に這いつくばる影がいくつか見えた。
「なるほどね……了解したよ。知らせてくれた判断は良かった。でも、それならもう必要ないから消してもいいかな?」
「良いよ! あんたたちが来てくれたからね」
「わふ!」
アルマが貯水石を三つ取りだした。彼は、雑魔がいると聞くや、自分にアンチボディをかける。いざとなったら前衛を引き受けるためだ。ソナも毛布と貯水石を取り出す。アルマがまず一つ分の水を掛けると、火勢は収まった。その上から、ソナが濡らした毛布を掛ける。
「大分燃え尽きているようですね」
和住 珀音 (ka6874)は町から借りたスコップで土をかぶせながら言った。直置きしていることもあり、下の方の薪は水を吸っている。そもそも、薪も全て乾いていなかったようで、不完全燃焼気味だったようだ。ほどなく鎮火するだろう。
「な、なんじゃこいつは!」
その時、森の西側から声がした。レオンは自分にガウスジェイルを施して走った。
ぞろぞろと、簡単な武装をしたドワーフが十名ほど駆けつけてきている。が、その足下にいるのっぺりとした黒い影を見て恐れをなした様だった。
「雑魔です! 離れて!」
レオンが叫ぶ。ドワーフたちはどよめいた。
「わふ! ドワーフさんたくさんですー? そこに歪虚がいるです?」
ならば、殲滅するしかない。ドワーフが大好きな彼にとって、彼らが怪我をするのはあまり良いことではない。狂蒼極でマテリアルを集中させる。彼は消えかかった焚き火から離れると、前に出た。彼は他人より少しだけ視覚が鋭敏だ。敵の位置がよく見える。
左胸に、青い炎が燃え上がった。紺碧の流星が、まっすぐに飛んでいく。一瞬で、影のような雑魔は葬り去られる。蒸発。そんな言葉がぴったりだった。
「ヒッ」
小屋から声が聞こえる。そちらを見ると、青くなったドワーフが口を覆って雑魔が消えた方を見ていた。目が合う。彼の肩が竦んだが、アルマは無邪気な笑みを浮かべて手を振った。
「なんだこれは!?」
「雑魔が出たので狼煙を上げていたようです」
珀音が言う。
「私たちは雑魔をどうにかしますので、消火をお願いできませんか?」
「え? 雑魔と火事? なんだ? どう言うこと?」
「ごめんね! 俺が恩人探してたら巻き込んじゃった!」
屋根の上から青年が手を合わせて詫びる。
「火は、危ないですよ? 焦っていたとしてもしっかりと周りを確認しなくてはなりませんね」
珀音が呟くが、ドワーフの喧噪に飲まれてその言葉が青年に届いたかどうかはわからない。
「全く話が読めんが、とにかく水だ! 水取りに行くぞ!」
先導していたドワーフの声で、彼らは踵を返して集落に駆け戻っていく。入れ替わるように、黒い影が這うように出てきた。レオンがアルマス・ノヴァを構えて声を張り上げた。
「来たぞ皆。気をつけて。君、そこで見張ってて、何かあったら教えてくれ」
●雑魔討伐
どうやら日陰を好む雑魔のようだが、日光を浴びた瞬間に消える、というものでもないらしい。騒ぎに釣られたのか、続々と日向に出てくる。
「全部で四体、ですか」
ソナが数を数えた。
「ここからも四体しか見えないよ!」
屋根の上から青年が叫ぶ。レオンが手を上げて了解を示した。
「アルマ様の火力では一発でしたが、実際の耐久はどの程度なのでしょうね」
珀音が呟きながら、風雷神を放つ。ひらりと舞い上がった符は雷に変化して、雑魔を打つ。一体目がそれを受けて、弾かれように吹き飛んだ。二体目にぶつかる形でその行動を邪魔し、二体目はあえなく雷に打たれる。それに驚いたわけでもないだろうが、三体目もまた雷を避けられない。ぴくぴくと震えながら、それでも消滅には至らなかった。
「紙耐久と言うわけではなさそうだ」
レオンが構えた。彼はソウルトーチを燃やして、敵の注意を引きつける。よたよたと体勢を直した雑魔は、レオンの方ににじり寄った。
「いけませんね」
残りの一体には、ソナがプルガトリオを撃ち込んだ。無数の刃が中空に現れ、刺し貫く。刃はすぐに消えたが、まるで呪いでも受けたかのように、雑魔はその場から動けない。こちらもまたぴくぴくと震え、もがく。
動ける雑魔の内、二体がレオンに向かって行った。足を掴もうとする。が、あとわずかで届かない。もう一体はレオンの足を掴むことに成功したが、防具を貫通してダメージを与えるようなことはなかった。
「このっ」
彼は軽く足を振ってそれを払う。
一方、ソウルトーチから目を逸らすことに成功した一体は、ソナに向かってまっすぐ向かった。ソナは盾を構えて攻撃に備える。雑魔は勢いよく飛びかかった。だが、そのための盾である。頭をぶつけてひっくり返った。
「水! 水持ってきたぞ!」
ドワーフたちが桶に水を汲んで持ってきた。雑魔の一体がそれに反応する。ソウルトーチから目を逸らそうと試みているが、どうやら失敗に終わったらしい。
「ドワーフさんたちに、手出しだめ、ですよぉ?」
アルマが無邪気な声を上げた。三角形が浮かび上がる。覚醒で赤くなった目が細められた。
デルタレイが撃ち放たれた。狙った三体の内、二体はそれで霧散する。一体だけが、殺気を感じでもしたのか紙一重で回避した。
レオンが駆け出した。ドワーフが襲われる前に倒さなくてはいけない。自分のマテリアルを武器に注ぎ込む。アルマス・ノヴァを持った肘を引いた。大きく踏み込み、突き出す。
刺突一閃!
渾身の一撃は雑魔を貫いた。向こうにいたドワーフは身構えていたが、剣に貫かれたまま消える雑魔を見てほっと安堵の息を吐く。
「ほとんど消えてるからあとはトドメだ」
「よしよし、これだけあれば足りるだろ」
消えかけの焚き火にたどり着いたドワーフたちは、上から次々と水を掛けていく。
ドワーフたちを横に見ながら、珀音は再び風雷陣を投げた。プルガトリオで動けなかった個体だ。避けるすべもなく雷に打たれて、塵のように霧散する。
「これで全部でしょうか?」
彼女はそう言って、屋根の上のエルフを振り返る。彼は両腕で丸を作ってそれを肯定した。
●顔の無い記憶
「オッケーオッケー。これで消えた」
「びっくりしたなぁ、ほんと」
ドワーフたちは口々に良いながら額の汗を拭っている。エルフの青年は屋根から降りて、小屋を開ける。
「もう大丈夫だよ!」
「お、おう……」
斧を持ったドワーフが引きずり出された。それを見て、駆けつけたドワーフの内、槍を持ったドワーフがそっぽを向く。それを、アルマは見逃さなかった。
「それにしても、一体何が?」
ソナがエルフの青年に尋ねると、彼は事情を説明した。幼い頃この森で迷ったこと、その時ドワーフに助けて貰ったこと、ドワーフが上げた狼煙で両親が来てくれたこと、通りかかり、もしかしたらまた会えるかもしれないと森に入ったこと、そして、この斧のドワーフがそうであると確信していること。
「でも、この人俺のこと覚えてないって言うんだよ。思い出して貰おうと思ってたら雑魔に遭遇しちゃった」
「それで、思い出の再現をしようと狼煙を上げたわけか」
レオンがふんふんと頷いた。
「狼煙を上げたことの判断はよいと思いますが、薪の量を考えなくてはなりませんよ?」
珀音がおっとりと指摘する。
「それに、火を起こすなら消せるようにしてからです。おうちが燃えたらどうするですかっ」
アルマはおかんむりだ。
「実際に、自分で消せなかったです!」
「ごめんなさい!」
青年は、思ったより大事になっていた自覚はあったらしく、素直に謝罪する。
「そうだね、あなたの言うとおりだ。これからは気をつけます」
「それに、一人で森へ入ることも賛同しかねます……もし、彼に……ドワーフへ会えなかったらどうするのですか?ご両親が悲しみます」
「はい……」
「……ですが、狼煙をあげて下さりありがとうございます。お陰で早く発見することが出来ました」
そう言って珀音が微笑むと、エルフの青年はほっとしたように笑った。アルマは、もう用は済んだとばかりにドワーフの集団に突撃する。
「わふーっ!」
「おわあ!」
「エルフか!」
「な、何か犬っぽいな……?」
「しかし、あのデルタレイはやばかったな」
「わふ!僕、これでもちょっとだけ強いんですよー?」
「その格好で機導師なのか。もっとごつい装備のイメージあったけどなぁ」
「珍しいです? ついでに黒髪のエルフも珍しいですー?」
一人のドワーフが、マントに触ろうと手を伸ばしたが、すぐに引っ込める。
「わふ、さわっていいですー。なでてくださーいっ」
「ええ……?」
困惑顔のドワーフたち。見えないしっぽを幻視した彼らは、そっと手を伸ばしては引っ込め、手を伸ばしては引っ込めを繰り返している。
そんな彼らを横目に、レオンは斧のドワーフに尋ねた。
「あなたはどれくらい前からここの小屋に住んでるんだ?」
「今年からだよ。だからこのガキが俺より背が低かった頃に会ってるはずがねぇ」
「ええ……そんなぁ……それより前に一度住んでたとか間借りしてたとか、あるでしょ?」
「ねぇんだってば。他に小屋もねぇしよ」
「どちらも本当の事言ってるって、僕思います」
半ば強引にドワーフの中に埋もれたアルマが言った。珀音がそれに頷く。
「けれど、一方で記憶違いもあると言うことですね?」
「なんだ……」
青年は肩を落とす。
「せっかく会えたと思ったのに……」
「そこの槍のドワーフさん、さっきからにやにやしてるです。何か心当たりあるです?」
アルマはそう言って、少し離れたところにいる槍のドワーフを見た。
「にやにやしてる?」
青年はきょとんとして、アルマを見た。
「もしかして見分けついてないです?」
「ぐふっ」
「わぅー? お顔が全然違うですよ?」
「古い記憶なのと、ひげで顔を覆われていたらその印象が強くて判断が鈍るかもしれません。アルマさんのように、ドワーフと交流が特別多い、と言うわけでもなさそうですし」
ソナが言って、槍のドワーフを見る。
「いかがですか? お心当たりは」
彼はにやりと笑った。それは誰もがわかる表情だった。
「面倒だから黙ってようと思ってたんだが、察しの良いガキもいたもんだ」
まるで推理小説の犯人のような物言いである。
●ご招待
「そうだ。俺が、そこの金髪のガキが言ったドワーフだ。俺の背丈を越してから来いと言ったのは事実だが、本当に来るとはな。感心したぜ」
「あなたが……あの時の……?」
「そうだ。俺があのときのドワーフだ。その脳天気さは変わらないな?」
「お前ぇ!」
斧のドワーフが喚いた。
「もっと早く申し出ろよな!」
「すまん。面倒だったし面白かった」
「この野郎」
「会えて嬉しい」
「そうか」
「まあ、あんたは嬉しくないかもしれないけど」
「そんな失礼なことは言わない。思っていてもな」
「ふふ」
ソナが笑う。
「せっかくだ。立ち話もなんだから、俺たちの集落に来るか?」
先頭のドワーフが言った。
「わふ! 是非にです!」
食いついたのはアルマだ。
「良いの?」
青年エルフは問いかける。
「助けて貰っちゃなぁ。俺たちもオフィスにゃ通報してるし、半分ドワーフからの依頼だったのに来たエルフのことを貶す理由はねぇよ」
「私個人も、ドワーフだからどうと言うこともありません。お招きにあずかります」
ソナが頷いた。
「集落からオフィスに連絡を入れさせて貰おう」
レオンも言った。
「決まりです! 皆で行くです!」
アルマは意気揚々とドワーフにくっついて先を急ぐ。
「アルマ様、先導する方より先に行かれては迷ってしまいますよ」
くすくすと笑いながら珀音がドワーフたちに続いた。
「良かったですね」
ソナが青年を見上げた。
「うん! 皆のおかげだよ。ありがとう」
「今後は狼煙じゃない方が良いかもな。アルマと珀音にも言われていたけど」
レオンが焼け跡を振り返りながら言う。槍のドワーフが首を横に振った。
「俺がやったのは、動物の糞も入れて煙の色を濃くした狼煙だ。だからこんなにたくさん薪は要らない。機導師のエルフも言っていたが、自分で解決できることを起こせ」
「わかったよ。もう懲りた」
そして彼は空を見上げる。
「色んな意味で、こんなことになるとは思わなかった。ハンターの皆も、ドワーフの皆も、ありがとう」
やがてドワーフの集落が見えた。アルマの歓声が聞こえる。鳥が鳴くのが聞こえた。森に平和は戻った様である。
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- フリーデリーケの旦那様
アルマ・A・エインズワース(ka4901)
重体一覧
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【相談卓】 アルマ・A・エインズワース(ka4901) エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2018/08/16 14:30:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/13 21:54:05 |