ゲスト
(ka0000)
アイスのかわりにフリルなビキニ?
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/18 07:30
- 完成日
- 2018/08/27 23:48
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
毎日、うんざりするような暑さが続いていた。夏の暑さは、誰に対しても容赦なく襲い掛かる。老いも若きも、金持ちにも貧乏人にも。そういう意味では、実に平等であると言える。
「あ~つ~い~」
宝石商モンド氏の一人娘・ダイヤは、大きなお屋敷のソファにべっとりと横になって溶けかけていた。
「クロス~、アイスちょうだ~い」
「ダメです」
モンド家の使用人にしてダイヤの付き人・クロスの返事はにべもない。頬を膨らますダイヤに向かって、クロスはため息をついた。
「先ほどお召し上がりになったばかりではないですか」
「そうだけど。暑いんだもん!」
「それはもちろんわかりますが、冷たいものばかり食べていてはお腹を壊しますよ」
クロスが珍しくダイヤを気遣うようなことを言うので、おや、と笑顔になりかけたダイヤだったが。
「まあ、壊れるのは私の胃腸ではないので別にいいんですけどね。でもその看病をするのは私ですし、できれば壊さないでいてくださった方がありがたいですね、結局」
と涼しい顔で続けられたセリフにより、ダイヤの笑顔は秒で引っ込んだ。
「一言も二言も多いのよっ、あんたは!!」
ダイヤが憤慨してソファから起き上がった、そのとき。メイドがにこにことやってきた。手には、何か紙らしきものを持っている。
「お嬢様、お手紙ですよ」
「手紙? 私に?」
「手紙? お友だちの少ないお嬢様に?」
ダイヤが笑顔になったそばから、クロスがまた余計なことを言う。
「少なくないわよ、失礼ね!! で、どなたから?」
問われて、メイドはもったいぶるように、うふふ、とひとつ含み笑いをしてから、告げた。
「ジャン・マルコリーニさまからです」
「えっ」
ダイヤの目が丸くなった。
ジャン・マルコリーニ、とは。
ダイヤに一目惚れし、ラブレターを送ってきたことのある青年である。その後「恋人ではなく友だちに」ということに落ち着いているのだが。なお、モンド家に負けないくらいの金持ちである。
「まさかまた、ラブレターなんじゃないですか!?」
「ま、まさか! だって私たち、お友だちになったのよ」
ダイヤはぶんぶんと首を横に振るが、声には動揺が滲んでいた。メイドが面白そうにダイヤとクロスを見比べる。クロスは気にもしていないような、涼しい顔のままだ。
「えーっと? 親愛なるダイヤ・モンド嬢、ごきげんいかがですか……。ふんふん……、えっ! プール!?」
手紙には、マルコリーニ家の庭のプールを今年新しくしたこと、ちょっとしたレジャー施設並みの広さと設備を整えたので、ぜひ遊びに来てほしいことが書かれていた。
「父が張り切って新しくしたのはいいのですが張り切りすぎて大きくしすぎ、家族だけでは持て余してしまっているのです……だって。どこの家庭も父親の張り切り方ってちょっとおかしくなるものなのかしら?」
ダイヤは自分の父親を思い浮かべて呟く。そんなわけないだろ、というツッコミは誰からも入らない。
「ぜひ、お友だちをたくさん連れていらしてください、って書いてあるわ!! 行く行く!! クロスも一緒に行く?」
「行きません」
「あっそ。どうせそう言うと思ってたわ。いいもん、お友だちたくさん集めるんだから!!」
ダイヤはそっけないクロスの返事にもへこむことなくうきうきしている。強くなったものである。
「この前お母さまとお買い物したときに、新しい水着を買ったのよ!! 早速着られるわ!!」
「新しい水着?」
クロスの涼しげな顔がしかめられた。
「そう! 今年はちょっと大人っぽいスタイルに挑戦しようと思って!!」
満面の笑顔でダイヤが取り出したのは、真っ白なフリルのたくさんついた、ビキニタイプの水着であった。
「……私も、お供致します」
憤然と自分の前言を撤回するクロスの顔には、彼にしては珍しく「その格好で野放しにできるか」という不満が手に取るように見られた。ふたりのすぐそばでは、メイドが必死に笑いをこらえているのであった……。
「あ~つ~い~」
宝石商モンド氏の一人娘・ダイヤは、大きなお屋敷のソファにべっとりと横になって溶けかけていた。
「クロス~、アイスちょうだ~い」
「ダメです」
モンド家の使用人にしてダイヤの付き人・クロスの返事はにべもない。頬を膨らますダイヤに向かって、クロスはため息をついた。
「先ほどお召し上がりになったばかりではないですか」
「そうだけど。暑いんだもん!」
「それはもちろんわかりますが、冷たいものばかり食べていてはお腹を壊しますよ」
クロスが珍しくダイヤを気遣うようなことを言うので、おや、と笑顔になりかけたダイヤだったが。
「まあ、壊れるのは私の胃腸ではないので別にいいんですけどね。でもその看病をするのは私ですし、できれば壊さないでいてくださった方がありがたいですね、結局」
と涼しい顔で続けられたセリフにより、ダイヤの笑顔は秒で引っ込んだ。
「一言も二言も多いのよっ、あんたは!!」
ダイヤが憤慨してソファから起き上がった、そのとき。メイドがにこにことやってきた。手には、何か紙らしきものを持っている。
「お嬢様、お手紙ですよ」
「手紙? 私に?」
「手紙? お友だちの少ないお嬢様に?」
ダイヤが笑顔になったそばから、クロスがまた余計なことを言う。
「少なくないわよ、失礼ね!! で、どなたから?」
問われて、メイドはもったいぶるように、うふふ、とひとつ含み笑いをしてから、告げた。
「ジャン・マルコリーニさまからです」
「えっ」
ダイヤの目が丸くなった。
ジャン・マルコリーニ、とは。
ダイヤに一目惚れし、ラブレターを送ってきたことのある青年である。その後「恋人ではなく友だちに」ということに落ち着いているのだが。なお、モンド家に負けないくらいの金持ちである。
「まさかまた、ラブレターなんじゃないですか!?」
「ま、まさか! だって私たち、お友だちになったのよ」
ダイヤはぶんぶんと首を横に振るが、声には動揺が滲んでいた。メイドが面白そうにダイヤとクロスを見比べる。クロスは気にもしていないような、涼しい顔のままだ。
「えーっと? 親愛なるダイヤ・モンド嬢、ごきげんいかがですか……。ふんふん……、えっ! プール!?」
手紙には、マルコリーニ家の庭のプールを今年新しくしたこと、ちょっとしたレジャー施設並みの広さと設備を整えたので、ぜひ遊びに来てほしいことが書かれていた。
「父が張り切って新しくしたのはいいのですが張り切りすぎて大きくしすぎ、家族だけでは持て余してしまっているのです……だって。どこの家庭も父親の張り切り方ってちょっとおかしくなるものなのかしら?」
ダイヤは自分の父親を思い浮かべて呟く。そんなわけないだろ、というツッコミは誰からも入らない。
「ぜひ、お友だちをたくさん連れていらしてください、って書いてあるわ!! 行く行く!! クロスも一緒に行く?」
「行きません」
「あっそ。どうせそう言うと思ってたわ。いいもん、お友だちたくさん集めるんだから!!」
ダイヤはそっけないクロスの返事にもへこむことなくうきうきしている。強くなったものである。
「この前お母さまとお買い物したときに、新しい水着を買ったのよ!! 早速着られるわ!!」
「新しい水着?」
クロスの涼しげな顔がしかめられた。
「そう! 今年はちょっと大人っぽいスタイルに挑戦しようと思って!!」
満面の笑顔でダイヤが取り出したのは、真っ白なフリルのたくさんついた、ビキニタイプの水着であった。
「……私も、お供致します」
憤然と自分の前言を撤回するクロスの顔には、彼にしては珍しく「その格好で野放しにできるか」という不満が手に取るように見られた。ふたりのすぐそばでは、メイドが必死に笑いをこらえているのであった……。
リプレイ本文
ギラギラと照りつける夏の太陽。いつもなら恨めしいだけのその光が、今日ばかりは頼もしく思えた。すなわち。
「水浴び日和ね!!」
ダイヤは新品の水着でプールサイドに駆けだした。白いフリルが揺れる。
「お嬢様、走ってはいけません」
クロスが慌てて後を追う。この光景は目に毒だ、と内心で舌打ちしつつ。クロスの後ろから、招かれたハンターたちもぞろぞろとやってくる。楽しい夏の一日が、始まった。
一応、お嬢さまの礼儀として、ダイヤはジャンのところへ挨拶に行った。傍に立つクロスが妙に強張った顔をしているのが少し気になったが、ジャンはまるでそれには気が付かないようににこやかにダイヤを迎えてくれた。
「やあ、ようこそ。よくきてくださいました」
「今日はお招きありがとう! 本当に広いプールね!」
すっかり友達らしく挨拶できるようになった、とダイヤは嬉しく思った。そのダイヤの後ろから、大伴 鈴太郎 ( ka6016 )がおずおずと顔を出す。露出は少ないながらも、真っ赤で情熱的な水着を着ていることが恥ずかしいというのもあったが、それよりも。
「こ、この前はゴメンな! あの……オレも遊ンでいい?」
以前、とあるパーティにおいてジャンに失礼なことをしてしまったことを後悔している鈴太郎なのである。ジャンはにっこりと鈴太郎に笑いかけた。
「もう気にしていませんよ。どうぞ、たっぷり遊んで行ってください」
その朗らかな言葉を聞いて、鈴太郎はパッと笑顔になった。ありがとな、と礼を言ってから、サッとダイヤの手を取る。
「ダイヤ早く早く! 一番乗り取られちまうよ!」
「ええ!? ちょっと鈴さんたら!!」
そのままダイヤの手を引いて、ウォータースライダーへまっしぐらだ。鈴太郎のはしゃぎっぷりに釣られて、ダイヤもけたけたと笑い声をあげてはしゃいだ。水着を恥ずかしく思う気持ちは忘れてしまったようだ。
そんなダイヤを気遣わしげに見守っていたのは、エメラルド・シルフィユ ( ka4678 )だ。
「ジャンとは友達付き合いになったと聞いていたが……諦めてはいないのか? それとも本当に純粋に友人としての誘いか……? だとすると邪魔をするのは野暮というもの……」
少し遠くから様子を窺う。ジャンがダイヤに一目惚れし、求愛していたことを知っているだけに、心配だったのだ。
「……というか今回はクロスも堂々と参加か? わ、割と可愛いところもあるというか……。それならむしろ邪魔は彼に任せた方がいいかな」
ダイヤのすぐ近くでまるで睨みを利かせているふうなクロスをみつけ、エメラルドは少し安心した。
「エメラルドは、ダイヤ嬢がなにかと心配らしいな」
レイア・アローネ ( ka4082 )が呟くと、広いプールを感心して眺めていたネーナ・ドラッケン ( ka4376 )が頷いた。
「そうらしいわね。でも、もう心配なさそうだし、折角来たんだから自分たちも楽しまなくちゃ。レイア、声をかけていらっしゃいよ」
「そうだな」
レイアは言われた通り、エメラルドに声をかけ、水に入ろうと誘っている。ネーナはそんなふたりを、目を細めて眺めた。
「人の心配するよりも、自分の心配はしなくていいのかしらね?」
ネーナはふたりの水着のきわどさにほくそ笑む。エメラルドは白いビキニ。レイアは赤いビキニ。どちらもたいへんに布面積が少なく、たわわな胸はこぼれんばかり、引き締まったヒップも輝くようだ。レイアに至っては、本当に必要最低限のところしか隠れていないような有様だ。ふたりとも、プールサイドを行き来する人々の視線を、ことごとくさらっている。
「ふふふ」
それを眺めるネーナだって、したたるような色気を放っているのだけれど、そのネーナの胸に、悪戯心が湧いた。いつまでも水に入らず立ったままのふたりの背中にそうっと近付いて。
「文字通り背中をおしてあげるわ!」
どんっ、と勢いよく、ふたりのしなやかな背中を押した。当然、ふたりは。
「わああ!?」
ばっしゃーん、と派手な水しぶきを上げてプールに叩き込まれた。
「わっ、ちょっ」
衝撃でズレかけた水着を、エメラルドが必死に直す。その布面積でズレようものならもう周囲が大歓喜……いや、なんというかもう大変なことになる。
「ふふっ天気がよくてよかったわね」
ネーナが妖艶に微笑むのを、レイアが濡れたまなざしで睨み返しつつ笑った。仕返しを察したネーナが逃げようとしたところを。
「悪戯されたらやり返してやらなければなるまい……、覚悟するのだな……!」
ざばりと水しぶきを上げながらレイアが追いかけた。激しい動きに注意しなければならない恰好をしていることは、もう頭にないらしく、すっかり童心にかえっている。
「きゃー!」
「あっ、こらレイア、ネーナはそっちだ、わああ!」
いろいろとこぼれてしまいそうな危うさをきらきらと輝かせながら追いかけあい、戯れる水着の彼女たちは、まるで、水辺の女神のようであった。
「……ありがとう、ございます……」
それを見ていた誰かの声が、ひっそりと響いた……。
水鉄砲エリアでは、白熱した戦いが繰り広げられていた。
「猟撃士のうちに……勝てる思っとるん?」
白藤 ( ka3768 )は黒いパレオの間から、一匹の蝶を艶めかしく見せつけるようにして水鉄砲を構えた。ビキニの腰が黒い蝶のデザインにくり抜かれている、というセンス抜群の水着は、彼女に実によく似合う。
水鉄砲勝負は、女性VS男性で行われていた。ルールは簡単。全員、腰にリングを通した紙をつけておき、紙が水で千切れてリングが落下した人が負けだ。
「教練……と聞いていましたが白藤さんに一杯食わされましたね」
トランクスタイプの水着にヨットパーカーを羽織った鹿東 悠 ( ka0725 )がそう言って苦笑する。浅生 陸 ( ka7041 )も同じく苦笑して頷いた。彼の方は黒地に小さな月柄の入った、シンプルなサーフパンツに青地のラッシュガードという姿だ。前髪は月の飾りがついたピンでとめている。男性チームはなんと、このふたりだけであった。
「遠慮しないよ、たとえ相手が美女揃いだったとしても」
「ええ、遊びと言えども勝負とあらば手加減は不要ですね。……元より人数差を考えると勝ち目はありませんが」
「人数差は知恵で埋める! 悠が!」
陸は楽しそうにそう叫ぶと、悠がおい、と突っ込む間もなく駆け出した。これは、作戦通りの行動だ。人数差をひっくり返す可能性があるとするなら、それは連携しかない。陸はタンク型のウォーターガンと傘付のミニウォーターガンを持ち、声を上げながら目立つようにエリア内を動き回った。
「囮やね」
それがわからぬ白藤ではなかったが、とにかく女性陣は数で圧倒的有利だ。乗ってやっても構わないだろう、と考え、ミア ( ka7035 )に合図を出した。
「ミアGO、地獄を見したろや!」
「はいニャス! 鮮やかな夏を大切なみんなと過ごせればそれで満足……なワケ、ニャい! せんそうニャああぁッ!」
レースパレオのビキニに、橙色の薔薇のアンクレットという可愛らしい出で立ちで物騒なことを言い放つ。いつも涼しい顔をしている悠に一泡吹かせたいのである。
「カイワレ大根の陸ちゃんを沈める前に、近未来からやってきたサイボーグ悠ちゃんを倒さないとニャスなぁ」
囮として動き回っている陸をガン無視して、ミアは自らも敵の目を引く行動に出た。もっちゃりかっぱに胡瓜をあげ、そこら辺を歩くように指示したのである。
蜜鈴=カメーリア・ルージュ ( ka4009 )がそれを見てくすくすと笑う。
「ミアと陸は子猫と子犬が戯れて居る様じゃのう」
中華風のビキニにパレオ、白いベアフットサンダルという大人っぽくも輝かしい美しさで君臨する蜜鈴が、飛距離の長い水鉄砲使用して後方より射撃の体勢を整えていた。
「地の利は対等、数は有利……なれど悠は強敵じゃてのう」
しかし、さすがは悠、狙撃される隙を見せない。蜜鈴はまたくすくすと笑った。
「遊撃手としての陸も難儀じゃがのう。ま、ふたりの位置把握をしつつ女の娘達の援護支援をな」
イルム=ローレ・エーレ ( ka5113 )も、ミアが動きやすいようにと目立つように声を上げ、濡れるのもお構いなしに乱射した。いつも男性のような格好をしているイルムだが、今日は女性であることを隠さないホルターネックの黒ビキニ。普段とのギャップも相まって、実に刺激的だった。
「私も行きますっ!」
灯 ( ka7179 )が動きやすさを重視した小さなウォーターガンで、イルムや白藤の攻撃に参戦した。水色に白い花が描かれたビキニに、揃いのパレオという可憐な姿でひらひらと涼やかに舞う。
「楽しめれば、少しぐらい濡れたってかまいません」
という灯の動きは、可憐さを裏切る大胆さで陸を追い詰めた。援護しようとしていた白藤が、その様子にニヤリとする。
「わわわ!」
陸はイルムの乱射と灯の攻撃を、傘を使用して避けつつ、自らも攻撃する。蜜鈴はそうした打ち合いの流れ弾を、パレオをさばいて見事に防いでいた。
「いい感じに、盛り上がってきたね」
目の前で展開される水撃戦に、悠が頃合いだ、とバスーカを構えた。二、三人はまとめて濡らせるだろうという位置へ、大きく打ちこむ。
「うわっ!」
「おっと!」
「ニャス!!」
見事に水をかぶり、白藤、イルム、ミアがずぶ濡れになった。が、しかし。
「やられましたね……」
同じタイミングで、悠のリングが落ちた。蜜鈴の狙撃によるものだ。油断はしていなかったとはいえ、ガード役がいなかったために防ぎようはない。
「さーて、あとは陸だけやなぁ」
ずぶ濡れにはなったが、リングは落ちなかった白藤がニヤリとする。その白藤に庇われた灯と、同じくリングは落ちなかったミアに、とても簡単な指令を出す。
「やっちまいな!!」
「はいっ!」
「はいニャス!!」
ひとり狙われた陸に、なすすべはなかった……。
「皆、水分補給もしっかりとの。はしゃぎ過ぎて倒れぬ様にのう」
勝者の笑みで悠然と立つ蜜鈴が、はしゃぐ娘たちにゆったりと声をかけた。
激戦が繰り広げられているのとは逆に、穏やかに、正統派にプールを楽しんでいるのが、サクラ・エルフリード ( ka2598 )とシレークス ( ka0752 )であった。
「海が蛸やらナマコで泳げなかった分、此方で泳ぎましょう……」
大胆なビキニを身に着けたサクラは、この夏の任務で悩まされた雑魔のことを思い浮かべつつ苦笑し、それとは打って変わったまさしく「楽しむためだけの場所」を眺めた。
「えー。わたくしにこんなフリフリの水着、似合いやがりますかねぇ? もっとこう、毛皮ビキニとかの方がしっくり来やがるんですが……」
サクラに連れられてきたシレークスは、フリフリと可愛らしい水着を見下ろして首をひねる。誰がどう見たって似合っているし、それ以上に水着を引き立てるプロポーションだ。サクラはまるでその違いを見せつけられているような気持ちで悔しくありつつも、シレークスと共にウォータースライダーに乗り込んだ。
「一人用のはないみたいですから仕方ないですが……」
滑り出したウォータースライダーは随所でバウンドし、それによって目の前でシレークスの胸が揺れる。それを気にしていたサクラだったが、スライダーのスピード感は単純に楽しく、水に落ちるときには無邪気な笑い声が出た。
「あらー、着水時のショックで水着が……」
お約束な水着のズレを、可愛らしくもセクシーな仕草でササッとなおすサクラ。と、同じように水着をなおすシレークスが隣にいた。
「うっ、並ぶと体型の違いが……」
「んん~この格好は、やっぱり何だか落ち着かねーですねぇ。ヒラヒラとして」
シレークスはサクラが何を気にしているのかさっぱり気が付いていない様子だ。いかにも無頓着に水着をなおす姿に、サクラは打ちのめされてしまった。
「はあ……。ちょっと休憩しましょう」
気を取り直そうとパラソルエリアに向かい、カクテルを注文しようとした。が、それには素早く気が付くシレークス。
「ダメダメダメ!!! 何を飲もうとしてやがりますか!?」
「むぅ、少し位いいと思うのですけども……。ちょっとだけなら……」
むくれつつも、仕方なく、トロピカルなジュースで我慢するサクラなのであった。
総勢七名の白熱した水鉄砲合戦が終わり、がらんと空いた水鉄砲エリアに、今度は、真剣な面持ちで向かい合う者が、ふたり。雨月 藍弥 ( ka3926 )と雨月彩萌 ( ka3925 )の兄妹である。
「異常の権化、わたしの人生を狂わせる元凶。今日ここで滅びなさい」
彩萌が凛と言い放つ。大変格好いいが、あくまでも水鉄砲での勝負である。とはいえ勝負は勝負。普段の鬱憤を晴らすため、手加減一切なしの一対一真剣バトルだ。彩萌は学生時代から着慣れた競泳水着の上にTシャツ、という恰好で水鉄砲を構えた。Tシャツは水鉄砲の命中を判定するためのもので、藍弥も同じものを着用している。つまり勝負はシンプルに、このTシャツを濡らすことができた方が勝ち。彩萌が勝てば藍弥の撮影機材を没収。藍弥が勝てば、濡れたTシャツ姿の彩萌を撮影。
「負けられないッ!」
ぐ、と拳を握る藍弥の、目の色がいつもと違った。かくして切って落とされた戦いの火蓋。彩萌は大容量大出力のライフル型水鉄砲と近接用の拳銃型水鉄砲の二丁を装備し、まずはすばやく物陰に隠れた。ライフルで狙撃をしようとするも、同じく物陰に隠れたのか、藍弥の姿が見えない。仕方なく拳銃に持ち替え、対象を探す。
「そこ!」
白く動く人影をみつけ、すぐに撃った。が、しかし、その姿は射程距離よりも遠くにあり、水が届かない。もう少し前へ、と一歩踏み出したそのとき。
ばしゃん!
彩萌は射程距離外のはずの位置から、藍弥に撃たれた。
「なっ!?」
「愛おしい彩萌ではあるが、今回は勝負のため心を鬼にし戦いに挑まねばならぬ。文字通り何の手でも使ってやろうと思いましてね。前の日に徹夜で水鉄砲を改造したのです!」
「そ、そんなっ……」
改造により飛距離の増していた水鉄砲にやられたというわけだった。気持ち悪いほどの兄の情熱に、妹はがっくりと膝をついた。
と、いうわけで。
濡れてぺったりと体に貼りつくTシャツが、競泳水着をまざまざと透かす。その彩萌の姿を、満面の笑みで藍弥が撮影していた。
「くっ、こんな屈辱を味わう事になるなんて……いつか必ず滅ぼします」
呻く彩萌。しかし。
「無邪気にかわいい笑顔で両手ピースしていただけたら幸せかと思います!」
という兄からの要求に、きちんと答えてダブルピースを披露する真面目さなのであった。
流れるプールでは、実に正統派に遊ぶ麗しきふたりがいた。ボード型の浮き輪に白いビキニの肢体を投げ出し、ぷかぷかと漂うのは蘇紅藍 ( ka5740 )だ。水着はパレオがセットだったはずなのだが、邪魔だと言って取ってしまった。
そのすぐ近くで同じくぷかぷかと漂うアクタ ( ka5860 )。暑さがとにかく苦手なアクタは、浮き輪につかまって水に体をひたし、すっかり涼みモードだ。
「あー。きもちいー……」
お団子ヘアにした顔だけを水面に出して、アクタは表情を緩める。まったりした空気が流れていたが、ときおり噴水の水が大きく上がると。
「……ぷは。死ぬかと思ったー」
何の抵抗もせぬままに沈んで、戻ってくるのであった。その様子を見て紅藍はくすりと笑ってから、水を吹きだす噴水を睨み上げる。
「あれさえなければ、ここでもお酒が呑めるのにぃ」
むすりとそう言って、別に八つ当たりというわけでもないが、悪戯心でアクタに水をかけてみる。
「みゃっ。つめたーい」
「ふふふー。もぉっと涼しくなったでしょぉ?」
しかしのんびりと余裕そうに微笑む紅藍にも、噴水の水は振りかかる。ポニーテールをすっかり水に濡れそぼらせてしまった紅藍は、浮き輪から身を起した。
「しょうがないわねぇ。アクちゃん、あっちで何かもらいましょぉ。おつまみあるかしらぁ」
アクタも共に水から上がる。パラソルエリアに向かいつつ、麦わら帽子とパーカーを身に着けた。
「こー。インスタ映えしよ。なんかねー、オシャレな感じ?」
パラソルエリアでビーチ用のベンチに寝そべりつつ、サービスされるフルーツやドリンクと共に紅藍と撮影をするアクタ。紅藍はそれに参加しながらも持参した酒を飲んで、ゆったりと微笑んだ。
「やっぱり清酒が一番ねぇ~」
ふたりの周囲だけ、リゾート気分満点の空気が、流れていた。
由緒正しきスクール水着、しかもさらに由緒正しく胸元にひらがなで名前。星空の幻 ( ka6980 )はある意味ド正統なその姿で、水鉄砲を構えていた。
「もっち……冷たくて気持ちいね……」
胸元の「ぐらむ」の文字も輝かしく、グラムは通りかかった背中をつんつん、とつつく。相手が「ん?」と振り向いたところで。バズーカ水鉄砲を発射……!!
「わあっぷ!!!」
思いがけない攻撃を受けたのは、通りかかった鈴太郎だ。ダイヤと遊んでいたのだが、ダイヤが少し休憩すると言うのでしぶしぶひとりで水鉄砲エリアへやってきたのだった。
「くっそー、やられた……、応戦するぜ!! ……って、え?」
闘志を見せた鈴太郎はしかし、掲げられた「ドッキリ大成功」という看板に毒気を抜かれた。
「てっててーん……と、こんな事をすると面白い絵がとれるとリアルブルーで聞いたのですが……」
「へえ……。絵、ってなンだ?」
「わっかんなーい」
てへ、と舌を出したグラムに、鈴太郎は首を傾げてからにやりとして水鉄砲を構えた。
「まあ、いいや! ここからやり返すぜ!!」
「きゃー!」
悲鳴をあげつつもグラムは、笑顔でもっちゃりかっぱの絵付水風船で応戦の体勢を整えるのであった。
プールサイドで人を待っていたマッシュ・アクラシス ( ka0771 )は、突然後ろから誰かに抱きつかれて驚いた。抱きついてきたのは……、知人である白藤だ。
「マッシュー? あんたも隅におけんなぁ、デェト? そうやないんやったら、うちとデェトしてや?」
「ご冗談を……知り合いの一人や二人、お互いおりますでしょう」
突然であったことには驚いたものの、白藤のこのスキンシップには慣れているマッシュは、さらりとかわす。白藤の頬がぷう、と膨らんだ。と、白藤の連れであるらしい陸が、連れ戻すためにすっ飛んでくる。首根っこをつかまれる前に、と白藤はすらりとマッシュから離れた。
「ほな、また今度デェトしてや?」
ウインクを残して白藤が去ると。
「マッシュさん!」
入れ替わりでシエル・ユークレース ( ka6648 )がやってきた。マッシュが待っていたのは、このシエルである。飲み物を取りに行ってくれていたのであった。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
炭酸の泡がはじける、夏らしいドリンクを笑顔で差し出しつつも、シエルは内心、少し不安であった。先ほどの白藤との様子を垣間見てしまったのである。ナンパだったのかな、と思う。マッシュは乗らなかったようだけれど、それでも、マッシュを気にしているシエルとしては心穏やかでない。そんなシエルの想いを知ってか知らずか、マッシュはドリンクを口にしながら改めてプールをぐるりと見回していた。
「成程、夏季においては良い商売になりそうな施設ですな」
そんなふうに呟く鉄面皮を、シエルはなんとか振り向かせたくて、フラウンスたっぷりのビキニで包んだ体でぎゅっとマッシュの腕にしがみついた。
「……? どうしました?」
具合でも悪いのかと気遣うマッシュの優しさは嬉しいけれど、悔しくもあって、シエルは悔しさを隠して笑顔で首を横に振った。これは主張なのだ。マッシュは自分と一緒に来ているのだ、という周囲へのアピール。
「ね、ね、ウォータースライダーだって!楽しそうっ。行こ行こ♪」
抱きついた腕を、今度はぐいぐいと引く。無理強いをするつもりはないんだけど、と思って隣を窺えば、マッシュはされるがままに腕を引かれて歩き出した。
「お付き合いいたしましょう」
鉄面皮は相変わらずだったけれど、シエルはたちまち、空の太陽にも負けない満面の笑顔になった。
コーラルピンクの水着は子供っぽいデザインに見えるようでいて、実は胸元や背中が大きく開いていたりとなかなかセクシーだった。店員にオススメを聞き、選んでもらったこの水着を着て、夢路 まよい ( ka1328 )は流れるプールをぷかぷか、浮き輪で流されるままに楽しんでいた。
歓声が聞こえてきたので顔を上げると、波の出るプールのエリアでビーチバレーを楽しんでいるダイヤやクロス、鈴太郎たちが目に入った。ダイヤは少し休憩していたものの、早々に復活したらしい。
「ダイヤはいいな~、身近な人が一緒に遊びに来てくれて。私にも一緒に来てくれる人がいれば……な~んてね」
そう呟いてはみたものの、そんなことは気にせず、思いっきりプールを楽しもうと考える。流されるのに飽きたらどうしようか。パラソルエリアでゆったり休憩しようかな、トロピカルジュースでも飲んで……、と思いを巡らせていたら、ビーチボールを追って駆けてきたダイヤと目が合った。
「あ、ねえ! よかったら、こっちで一緒に遊ばない? ……今ちょっと私劣勢で、負けちゃいそうだから助けてほしいの」
明るく声をかけつつ、後半はこそこそと、ダイヤはまよいに耳打ちした。まよいはくすくす笑うと、浮き輪を放り出して流れるプールから出た。
「喜んで加勢しちゃう!」
思いっきり楽しむのは、まだまだこれからだ。
色は黒。足回りは競泳水着もかくやというほど大胆なカットになっていて、体のラインを美しく見せる角度でフリルが流すようにつけられている。高瀬 未悠 ( ka3199 )はそんな実に身に着ける人を選ぶデザインの水着を完璧に自分のものにしていた。大人っぽい色気をまとって立つ彼女は、誰の目も釘付けにする。
「未悠さん素敵です!」
エステル・クレティエ ( ka3783 )がはしゃぐように笑顔で褒める。
「エステルの方が可愛いわよ。その水着、良く似合ってるわ」
エステルの水着は深い緑色で、水に濡れるとつやつや光る素材でつくられた小さなリボンが大きく開いた背中を守るようにいくつもついているものだった。エステルが跳ねるたびにリボンが揺れて、実に愛らしい。まるでわざと揺らしているのかと思うが、エステルにかぎってそれはないだろう。
「エステルは無防備なんだから……。そんなところも可愛らしいけど心配よ」
未悠はそっとため息をつく。ナンパしようなんていう輩が現れたら絶対に許さない、と心に決めた。
鈴太郎やダイヤと合流をすると、ちょうどビーチバレーを始めるところだという。パラソルエリアのベンチでのんびり傍観を決め込んでいた鞍馬 真 ( ka5819 )も、鈴太郎によって引っ張り出されていた。
「ふたりも一緒にやろうぜ!」
「ええ、もちろん」
「レシーブとトスはお任せです!」
エステルがそう言ってレシーブしたボールを、未悠は美しいフォームでアタックした。ダイヤが、その姿に見惚れる。と、ボールは綺麗にダイヤの頭の上へ落ちた。
「あいたっ!」
「なーにボーっとしてンだよダイヤ!」
「ごめんなさい! 全然狙った方向に飛ばないわ……鈴、アドバイスをお願い!」
「いや、未悠のアタックはほぼ完璧だったぜ!」
そんなふうに笑い合いながら何ゲームか続けていると、エステルは少し疲れたらしかった。
「ちょっと休憩を兼ねて流れるプールに行ってきますね」
そう言って離れていくエステルに、未悠は気がつかなかった。鈴太郎とダイヤが仲良くしている様子を嬉しい気持ちで眺めていたのである。友だちの幸せとは、いいものだ。と。途中からジャンが加わったりまよいが加わったりとわいわいしている間に、未悠はハッと気が付いた。エステルが近くにいないことに。慌てて見回すと、流れるプールを流されていく姿が見えた。自分の意志でぷかぷかしているのならいいが、どうも予想外に流れが速く、未悠の目にはエステルが流されて行っているように見えた。
「エステル、ダメよ! 一人になったらナンパされちゃうから……!!」
その未悠の声はエステルにも聞こえていたけれど、未悠の心配とは裏腹に、エステルは気楽なものだった。
「大丈夫ですよ~。未悠さんの方こそ声をかけられそうなのに。ふふっ」
流されているように見えて、水中の体もちゃんとコントロールしている。だが。
「大丈夫ですか。流されている、という声が聞こえたのですが」
不意に、大きな手に支えられた。びっくりして顔を上げると、そこにいたのは空蝉 ( ka6951 )だった。
「大丈夫です、ありがとうございます」
エステルがにっこり笑って礼を言うと、空蝉は無事を確認して頷き、手を離した。空蝉はアロハシャツ姿。涼しげな表情にカラフルなアロハシャツはミスマッチなようでいて妙に似合っていて、エステルは面白くなった。
実は空蝉はさっきまで、屋台でトウモロコシを焼くなどして働いていたのである。休憩時間をもらうことができ、こうしてプールへ出向いて来たのだった。
「あっ、空蝉さん! ウォータースライダー一緒に行きませんか!?」
ダイヤが空蝉の姿を見つけて声をかける。ビーチバレーはお開きになったらしい。
「知道了。お供させて頂きます」
「あっ、オレもオレも! もう一回行くぜ!」
空蝉が頷くと鈴太郎も駆けてくる。ちょうど通りかかったイルムも声をかけてきた。
「やあやあ、ボクもご一緒していいかな? ダイヤ君、鈴君、水着、とてもよく似合っているよ! キュートだし、とてもセクシーだ。水面の妖精と見紛うほどさっ」
四人がわいわいと行ってしまうと、ふー、と息をついてパラソルエリアで休息する青年が、ふたり。真とクロスであった。ふたりは同じようなお互いの反応に、顔を見合わせて少し笑う。顔を合わせる機会の多いふたりは、もうなんとなく友人のような気持ちでいるのだ。だからこそ、真はクロスがこういう場に姿を現していることが少し不思議に思えた。が、しかし。去って行くダイヤの水着姿を見て納得した気持ちになる。
「……ダイヤ嬢があんな格好だから、気が気じゃない感じかな?」
「……ええ、まあ」
ため息交じりに、クロスは頷いた。珍しく素直な肯定に、真は少なからず驚く。
「お嬢さまはまだ、世の中の怖さをご存じでありませんから」
そう続けられた言葉に、真はなるほど、と呟いた。クロスは単に可愛らしい嫉妬でやきもきしているわけではないのだ。
「苦労するね」
胸中だけにしておこうと思った感想は、自然と真の口からこぼれていたのだった。
ダイヤに連れられてウォータースライダーへとやってきた空蝉は、常に穏やかな微笑をたたえていた。特に大きな感情の揺れを表すことはないのだと、ダイヤもかかわりがまだ少ないながらになんとなく理解している。
「はい、ここに座ってね。私はこっちに座るから」
鈴太郎に引っ張りまわされ、もう何度もウォータースライダーで遊びつくしたダイヤは、まるでスタッフか何かのように空蝉をリードした。空蝉はにこにこと頷いて、言われたとおりに浮輪に腰を下ろす。と。
「あれっ!? えええええええ!?」
思ったよりも急スピードで、浮輪が滑り出した。
「うえ!? めっちゃ速くねえ!?」
次で順番待ちをしていた鈴太郎とイルムが目を見開く。
「きっと空蝉君の重量のせいじゃないかな?」
イルムの予想通りであった。浮輪は、空蝉を下にした格好のまま、すごいスピードで水に入っていく。当然、水しぶきも派手にあがった。
「ひゃああああ!!!」
今日一番のダイヤの大きな声に、クロスと真が慌てて駆けつけてくる。監視員がいるとはわかっていたが、真は性分からか、常に端々に目を光らせていたのだ。
「ダイヤ嬢、大丈夫かい?」
「う、うん、私は大丈夫なんだけど……、空蝉さんが……」
ダイヤはびしょ濡れになった顔を両手でぬぐい、ぶくぶくと沈んでしまった空蝉を指さして声を震わせた。クロスと真が頷きあって、プールへ飛び込もうとする。と。
さぶり。
水面が大きく揺らいで、空蝉が立ち上がった。
「足が、つくのですね」
知らなかった、というようにそう言いながら、ダイヤたちの心配などちっともわかっていない様子で微笑む空蝉の姿に、ダイヤは思わず吹き出した。そこから連鎖して、真も鈴太郎もイルムも笑う。プール中に、明るい笑い声が響いた。
その声は、水鉄砲合戦に疲れて休息をしていた灯の耳にも届いた。ミアや蜜鈴たちと甘いトロピカルジュースを楽しみながら、聞こえてくる笑い声に目を細める。きっと皆、それぞれに楽しい一日を過ごしたのだろうと思うと、自分の楽しさもあいまってとてもとても、嬉しくなった。
「今日の思い出も、夏の鮮烈な光と共にずっと心に焼き付けばいいな」
灯が呟いたその言葉は、この場に集まる全員の願いであるに違いなかった。
「水浴び日和ね!!」
ダイヤは新品の水着でプールサイドに駆けだした。白いフリルが揺れる。
「お嬢様、走ってはいけません」
クロスが慌てて後を追う。この光景は目に毒だ、と内心で舌打ちしつつ。クロスの後ろから、招かれたハンターたちもぞろぞろとやってくる。楽しい夏の一日が、始まった。
一応、お嬢さまの礼儀として、ダイヤはジャンのところへ挨拶に行った。傍に立つクロスが妙に強張った顔をしているのが少し気になったが、ジャンはまるでそれには気が付かないようににこやかにダイヤを迎えてくれた。
「やあ、ようこそ。よくきてくださいました」
「今日はお招きありがとう! 本当に広いプールね!」
すっかり友達らしく挨拶できるようになった、とダイヤは嬉しく思った。そのダイヤの後ろから、大伴 鈴太郎 ( ka6016 )がおずおずと顔を出す。露出は少ないながらも、真っ赤で情熱的な水着を着ていることが恥ずかしいというのもあったが、それよりも。
「こ、この前はゴメンな! あの……オレも遊ンでいい?」
以前、とあるパーティにおいてジャンに失礼なことをしてしまったことを後悔している鈴太郎なのである。ジャンはにっこりと鈴太郎に笑いかけた。
「もう気にしていませんよ。どうぞ、たっぷり遊んで行ってください」
その朗らかな言葉を聞いて、鈴太郎はパッと笑顔になった。ありがとな、と礼を言ってから、サッとダイヤの手を取る。
「ダイヤ早く早く! 一番乗り取られちまうよ!」
「ええ!? ちょっと鈴さんたら!!」
そのままダイヤの手を引いて、ウォータースライダーへまっしぐらだ。鈴太郎のはしゃぎっぷりに釣られて、ダイヤもけたけたと笑い声をあげてはしゃいだ。水着を恥ずかしく思う気持ちは忘れてしまったようだ。
そんなダイヤを気遣わしげに見守っていたのは、エメラルド・シルフィユ ( ka4678 )だ。
「ジャンとは友達付き合いになったと聞いていたが……諦めてはいないのか? それとも本当に純粋に友人としての誘いか……? だとすると邪魔をするのは野暮というもの……」
少し遠くから様子を窺う。ジャンがダイヤに一目惚れし、求愛していたことを知っているだけに、心配だったのだ。
「……というか今回はクロスも堂々と参加か? わ、割と可愛いところもあるというか……。それならむしろ邪魔は彼に任せた方がいいかな」
ダイヤのすぐ近くでまるで睨みを利かせているふうなクロスをみつけ、エメラルドは少し安心した。
「エメラルドは、ダイヤ嬢がなにかと心配らしいな」
レイア・アローネ ( ka4082 )が呟くと、広いプールを感心して眺めていたネーナ・ドラッケン ( ka4376 )が頷いた。
「そうらしいわね。でも、もう心配なさそうだし、折角来たんだから自分たちも楽しまなくちゃ。レイア、声をかけていらっしゃいよ」
「そうだな」
レイアは言われた通り、エメラルドに声をかけ、水に入ろうと誘っている。ネーナはそんなふたりを、目を細めて眺めた。
「人の心配するよりも、自分の心配はしなくていいのかしらね?」
ネーナはふたりの水着のきわどさにほくそ笑む。エメラルドは白いビキニ。レイアは赤いビキニ。どちらもたいへんに布面積が少なく、たわわな胸はこぼれんばかり、引き締まったヒップも輝くようだ。レイアに至っては、本当に必要最低限のところしか隠れていないような有様だ。ふたりとも、プールサイドを行き来する人々の視線を、ことごとくさらっている。
「ふふふ」
それを眺めるネーナだって、したたるような色気を放っているのだけれど、そのネーナの胸に、悪戯心が湧いた。いつまでも水に入らず立ったままのふたりの背中にそうっと近付いて。
「文字通り背中をおしてあげるわ!」
どんっ、と勢いよく、ふたりのしなやかな背中を押した。当然、ふたりは。
「わああ!?」
ばっしゃーん、と派手な水しぶきを上げてプールに叩き込まれた。
「わっ、ちょっ」
衝撃でズレかけた水着を、エメラルドが必死に直す。その布面積でズレようものならもう周囲が大歓喜……いや、なんというかもう大変なことになる。
「ふふっ天気がよくてよかったわね」
ネーナが妖艶に微笑むのを、レイアが濡れたまなざしで睨み返しつつ笑った。仕返しを察したネーナが逃げようとしたところを。
「悪戯されたらやり返してやらなければなるまい……、覚悟するのだな……!」
ざばりと水しぶきを上げながらレイアが追いかけた。激しい動きに注意しなければならない恰好をしていることは、もう頭にないらしく、すっかり童心にかえっている。
「きゃー!」
「あっ、こらレイア、ネーナはそっちだ、わああ!」
いろいろとこぼれてしまいそうな危うさをきらきらと輝かせながら追いかけあい、戯れる水着の彼女たちは、まるで、水辺の女神のようであった。
「……ありがとう、ございます……」
それを見ていた誰かの声が、ひっそりと響いた……。
水鉄砲エリアでは、白熱した戦いが繰り広げられていた。
「猟撃士のうちに……勝てる思っとるん?」
白藤 ( ka3768 )は黒いパレオの間から、一匹の蝶を艶めかしく見せつけるようにして水鉄砲を構えた。ビキニの腰が黒い蝶のデザインにくり抜かれている、というセンス抜群の水着は、彼女に実によく似合う。
水鉄砲勝負は、女性VS男性で行われていた。ルールは簡単。全員、腰にリングを通した紙をつけておき、紙が水で千切れてリングが落下した人が負けだ。
「教練……と聞いていましたが白藤さんに一杯食わされましたね」
トランクスタイプの水着にヨットパーカーを羽織った鹿東 悠 ( ka0725 )がそう言って苦笑する。浅生 陸 ( ka7041 )も同じく苦笑して頷いた。彼の方は黒地に小さな月柄の入った、シンプルなサーフパンツに青地のラッシュガードという姿だ。前髪は月の飾りがついたピンでとめている。男性チームはなんと、このふたりだけであった。
「遠慮しないよ、たとえ相手が美女揃いだったとしても」
「ええ、遊びと言えども勝負とあらば手加減は不要ですね。……元より人数差を考えると勝ち目はありませんが」
「人数差は知恵で埋める! 悠が!」
陸は楽しそうにそう叫ぶと、悠がおい、と突っ込む間もなく駆け出した。これは、作戦通りの行動だ。人数差をひっくり返す可能性があるとするなら、それは連携しかない。陸はタンク型のウォーターガンと傘付のミニウォーターガンを持ち、声を上げながら目立つようにエリア内を動き回った。
「囮やね」
それがわからぬ白藤ではなかったが、とにかく女性陣は数で圧倒的有利だ。乗ってやっても構わないだろう、と考え、ミア ( ka7035 )に合図を出した。
「ミアGO、地獄を見したろや!」
「はいニャス! 鮮やかな夏を大切なみんなと過ごせればそれで満足……なワケ、ニャい! せんそうニャああぁッ!」
レースパレオのビキニに、橙色の薔薇のアンクレットという可愛らしい出で立ちで物騒なことを言い放つ。いつも涼しい顔をしている悠に一泡吹かせたいのである。
「カイワレ大根の陸ちゃんを沈める前に、近未来からやってきたサイボーグ悠ちゃんを倒さないとニャスなぁ」
囮として動き回っている陸をガン無視して、ミアは自らも敵の目を引く行動に出た。もっちゃりかっぱに胡瓜をあげ、そこら辺を歩くように指示したのである。
蜜鈴=カメーリア・ルージュ ( ka4009 )がそれを見てくすくすと笑う。
「ミアと陸は子猫と子犬が戯れて居る様じゃのう」
中華風のビキニにパレオ、白いベアフットサンダルという大人っぽくも輝かしい美しさで君臨する蜜鈴が、飛距離の長い水鉄砲使用して後方より射撃の体勢を整えていた。
「地の利は対等、数は有利……なれど悠は強敵じゃてのう」
しかし、さすがは悠、狙撃される隙を見せない。蜜鈴はまたくすくすと笑った。
「遊撃手としての陸も難儀じゃがのう。ま、ふたりの位置把握をしつつ女の娘達の援護支援をな」
イルム=ローレ・エーレ ( ka5113 )も、ミアが動きやすいようにと目立つように声を上げ、濡れるのもお構いなしに乱射した。いつも男性のような格好をしているイルムだが、今日は女性であることを隠さないホルターネックの黒ビキニ。普段とのギャップも相まって、実に刺激的だった。
「私も行きますっ!」
灯 ( ka7179 )が動きやすさを重視した小さなウォーターガンで、イルムや白藤の攻撃に参戦した。水色に白い花が描かれたビキニに、揃いのパレオという可憐な姿でひらひらと涼やかに舞う。
「楽しめれば、少しぐらい濡れたってかまいません」
という灯の動きは、可憐さを裏切る大胆さで陸を追い詰めた。援護しようとしていた白藤が、その様子にニヤリとする。
「わわわ!」
陸はイルムの乱射と灯の攻撃を、傘を使用して避けつつ、自らも攻撃する。蜜鈴はそうした打ち合いの流れ弾を、パレオをさばいて見事に防いでいた。
「いい感じに、盛り上がってきたね」
目の前で展開される水撃戦に、悠が頃合いだ、とバスーカを構えた。二、三人はまとめて濡らせるだろうという位置へ、大きく打ちこむ。
「うわっ!」
「おっと!」
「ニャス!!」
見事に水をかぶり、白藤、イルム、ミアがずぶ濡れになった。が、しかし。
「やられましたね……」
同じタイミングで、悠のリングが落ちた。蜜鈴の狙撃によるものだ。油断はしていなかったとはいえ、ガード役がいなかったために防ぎようはない。
「さーて、あとは陸だけやなぁ」
ずぶ濡れにはなったが、リングは落ちなかった白藤がニヤリとする。その白藤に庇われた灯と、同じくリングは落ちなかったミアに、とても簡単な指令を出す。
「やっちまいな!!」
「はいっ!」
「はいニャス!!」
ひとり狙われた陸に、なすすべはなかった……。
「皆、水分補給もしっかりとの。はしゃぎ過ぎて倒れぬ様にのう」
勝者の笑みで悠然と立つ蜜鈴が、はしゃぐ娘たちにゆったりと声をかけた。
激戦が繰り広げられているのとは逆に、穏やかに、正統派にプールを楽しんでいるのが、サクラ・エルフリード ( ka2598 )とシレークス ( ka0752 )であった。
「海が蛸やらナマコで泳げなかった分、此方で泳ぎましょう……」
大胆なビキニを身に着けたサクラは、この夏の任務で悩まされた雑魔のことを思い浮かべつつ苦笑し、それとは打って変わったまさしく「楽しむためだけの場所」を眺めた。
「えー。わたくしにこんなフリフリの水着、似合いやがりますかねぇ? もっとこう、毛皮ビキニとかの方がしっくり来やがるんですが……」
サクラに連れられてきたシレークスは、フリフリと可愛らしい水着を見下ろして首をひねる。誰がどう見たって似合っているし、それ以上に水着を引き立てるプロポーションだ。サクラはまるでその違いを見せつけられているような気持ちで悔しくありつつも、シレークスと共にウォータースライダーに乗り込んだ。
「一人用のはないみたいですから仕方ないですが……」
滑り出したウォータースライダーは随所でバウンドし、それによって目の前でシレークスの胸が揺れる。それを気にしていたサクラだったが、スライダーのスピード感は単純に楽しく、水に落ちるときには無邪気な笑い声が出た。
「あらー、着水時のショックで水着が……」
お約束な水着のズレを、可愛らしくもセクシーな仕草でササッとなおすサクラ。と、同じように水着をなおすシレークスが隣にいた。
「うっ、並ぶと体型の違いが……」
「んん~この格好は、やっぱり何だか落ち着かねーですねぇ。ヒラヒラとして」
シレークスはサクラが何を気にしているのかさっぱり気が付いていない様子だ。いかにも無頓着に水着をなおす姿に、サクラは打ちのめされてしまった。
「はあ……。ちょっと休憩しましょう」
気を取り直そうとパラソルエリアに向かい、カクテルを注文しようとした。が、それには素早く気が付くシレークス。
「ダメダメダメ!!! 何を飲もうとしてやがりますか!?」
「むぅ、少し位いいと思うのですけども……。ちょっとだけなら……」
むくれつつも、仕方なく、トロピカルなジュースで我慢するサクラなのであった。
総勢七名の白熱した水鉄砲合戦が終わり、がらんと空いた水鉄砲エリアに、今度は、真剣な面持ちで向かい合う者が、ふたり。雨月 藍弥 ( ka3926 )と雨月彩萌 ( ka3925 )の兄妹である。
「異常の権化、わたしの人生を狂わせる元凶。今日ここで滅びなさい」
彩萌が凛と言い放つ。大変格好いいが、あくまでも水鉄砲での勝負である。とはいえ勝負は勝負。普段の鬱憤を晴らすため、手加減一切なしの一対一真剣バトルだ。彩萌は学生時代から着慣れた競泳水着の上にTシャツ、という恰好で水鉄砲を構えた。Tシャツは水鉄砲の命中を判定するためのもので、藍弥も同じものを着用している。つまり勝負はシンプルに、このTシャツを濡らすことができた方が勝ち。彩萌が勝てば藍弥の撮影機材を没収。藍弥が勝てば、濡れたTシャツ姿の彩萌を撮影。
「負けられないッ!」
ぐ、と拳を握る藍弥の、目の色がいつもと違った。かくして切って落とされた戦いの火蓋。彩萌は大容量大出力のライフル型水鉄砲と近接用の拳銃型水鉄砲の二丁を装備し、まずはすばやく物陰に隠れた。ライフルで狙撃をしようとするも、同じく物陰に隠れたのか、藍弥の姿が見えない。仕方なく拳銃に持ち替え、対象を探す。
「そこ!」
白く動く人影をみつけ、すぐに撃った。が、しかし、その姿は射程距離よりも遠くにあり、水が届かない。もう少し前へ、と一歩踏み出したそのとき。
ばしゃん!
彩萌は射程距離外のはずの位置から、藍弥に撃たれた。
「なっ!?」
「愛おしい彩萌ではあるが、今回は勝負のため心を鬼にし戦いに挑まねばならぬ。文字通り何の手でも使ってやろうと思いましてね。前の日に徹夜で水鉄砲を改造したのです!」
「そ、そんなっ……」
改造により飛距離の増していた水鉄砲にやられたというわけだった。気持ち悪いほどの兄の情熱に、妹はがっくりと膝をついた。
と、いうわけで。
濡れてぺったりと体に貼りつくTシャツが、競泳水着をまざまざと透かす。その彩萌の姿を、満面の笑みで藍弥が撮影していた。
「くっ、こんな屈辱を味わう事になるなんて……いつか必ず滅ぼします」
呻く彩萌。しかし。
「無邪気にかわいい笑顔で両手ピースしていただけたら幸せかと思います!」
という兄からの要求に、きちんと答えてダブルピースを披露する真面目さなのであった。
流れるプールでは、実に正統派に遊ぶ麗しきふたりがいた。ボード型の浮き輪に白いビキニの肢体を投げ出し、ぷかぷかと漂うのは蘇紅藍 ( ka5740 )だ。水着はパレオがセットだったはずなのだが、邪魔だと言って取ってしまった。
そのすぐ近くで同じくぷかぷかと漂うアクタ ( ka5860 )。暑さがとにかく苦手なアクタは、浮き輪につかまって水に体をひたし、すっかり涼みモードだ。
「あー。きもちいー……」
お団子ヘアにした顔だけを水面に出して、アクタは表情を緩める。まったりした空気が流れていたが、ときおり噴水の水が大きく上がると。
「……ぷは。死ぬかと思ったー」
何の抵抗もせぬままに沈んで、戻ってくるのであった。その様子を見て紅藍はくすりと笑ってから、水を吹きだす噴水を睨み上げる。
「あれさえなければ、ここでもお酒が呑めるのにぃ」
むすりとそう言って、別に八つ当たりというわけでもないが、悪戯心でアクタに水をかけてみる。
「みゃっ。つめたーい」
「ふふふー。もぉっと涼しくなったでしょぉ?」
しかしのんびりと余裕そうに微笑む紅藍にも、噴水の水は振りかかる。ポニーテールをすっかり水に濡れそぼらせてしまった紅藍は、浮き輪から身を起した。
「しょうがないわねぇ。アクちゃん、あっちで何かもらいましょぉ。おつまみあるかしらぁ」
アクタも共に水から上がる。パラソルエリアに向かいつつ、麦わら帽子とパーカーを身に着けた。
「こー。インスタ映えしよ。なんかねー、オシャレな感じ?」
パラソルエリアでビーチ用のベンチに寝そべりつつ、サービスされるフルーツやドリンクと共に紅藍と撮影をするアクタ。紅藍はそれに参加しながらも持参した酒を飲んで、ゆったりと微笑んだ。
「やっぱり清酒が一番ねぇ~」
ふたりの周囲だけ、リゾート気分満点の空気が、流れていた。
由緒正しきスクール水着、しかもさらに由緒正しく胸元にひらがなで名前。星空の幻 ( ka6980 )はある意味ド正統なその姿で、水鉄砲を構えていた。
「もっち……冷たくて気持ちいね……」
胸元の「ぐらむ」の文字も輝かしく、グラムは通りかかった背中をつんつん、とつつく。相手が「ん?」と振り向いたところで。バズーカ水鉄砲を発射……!!
「わあっぷ!!!」
思いがけない攻撃を受けたのは、通りかかった鈴太郎だ。ダイヤと遊んでいたのだが、ダイヤが少し休憩すると言うのでしぶしぶひとりで水鉄砲エリアへやってきたのだった。
「くっそー、やられた……、応戦するぜ!! ……って、え?」
闘志を見せた鈴太郎はしかし、掲げられた「ドッキリ大成功」という看板に毒気を抜かれた。
「てっててーん……と、こんな事をすると面白い絵がとれるとリアルブルーで聞いたのですが……」
「へえ……。絵、ってなンだ?」
「わっかんなーい」
てへ、と舌を出したグラムに、鈴太郎は首を傾げてからにやりとして水鉄砲を構えた。
「まあ、いいや! ここからやり返すぜ!!」
「きゃー!」
悲鳴をあげつつもグラムは、笑顔でもっちゃりかっぱの絵付水風船で応戦の体勢を整えるのであった。
プールサイドで人を待っていたマッシュ・アクラシス ( ka0771 )は、突然後ろから誰かに抱きつかれて驚いた。抱きついてきたのは……、知人である白藤だ。
「マッシュー? あんたも隅におけんなぁ、デェト? そうやないんやったら、うちとデェトしてや?」
「ご冗談を……知り合いの一人や二人、お互いおりますでしょう」
突然であったことには驚いたものの、白藤のこのスキンシップには慣れているマッシュは、さらりとかわす。白藤の頬がぷう、と膨らんだ。と、白藤の連れであるらしい陸が、連れ戻すためにすっ飛んでくる。首根っこをつかまれる前に、と白藤はすらりとマッシュから離れた。
「ほな、また今度デェトしてや?」
ウインクを残して白藤が去ると。
「マッシュさん!」
入れ替わりでシエル・ユークレース ( ka6648 )がやってきた。マッシュが待っていたのは、このシエルである。飲み物を取りに行ってくれていたのであった。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
炭酸の泡がはじける、夏らしいドリンクを笑顔で差し出しつつも、シエルは内心、少し不安であった。先ほどの白藤との様子を垣間見てしまったのである。ナンパだったのかな、と思う。マッシュは乗らなかったようだけれど、それでも、マッシュを気にしているシエルとしては心穏やかでない。そんなシエルの想いを知ってか知らずか、マッシュはドリンクを口にしながら改めてプールをぐるりと見回していた。
「成程、夏季においては良い商売になりそうな施設ですな」
そんなふうに呟く鉄面皮を、シエルはなんとか振り向かせたくて、フラウンスたっぷりのビキニで包んだ体でぎゅっとマッシュの腕にしがみついた。
「……? どうしました?」
具合でも悪いのかと気遣うマッシュの優しさは嬉しいけれど、悔しくもあって、シエルは悔しさを隠して笑顔で首を横に振った。これは主張なのだ。マッシュは自分と一緒に来ているのだ、という周囲へのアピール。
「ね、ね、ウォータースライダーだって!楽しそうっ。行こ行こ♪」
抱きついた腕を、今度はぐいぐいと引く。無理強いをするつもりはないんだけど、と思って隣を窺えば、マッシュはされるがままに腕を引かれて歩き出した。
「お付き合いいたしましょう」
鉄面皮は相変わらずだったけれど、シエルはたちまち、空の太陽にも負けない満面の笑顔になった。
コーラルピンクの水着は子供っぽいデザインに見えるようでいて、実は胸元や背中が大きく開いていたりとなかなかセクシーだった。店員にオススメを聞き、選んでもらったこの水着を着て、夢路 まよい ( ka1328 )は流れるプールをぷかぷか、浮き輪で流されるままに楽しんでいた。
歓声が聞こえてきたので顔を上げると、波の出るプールのエリアでビーチバレーを楽しんでいるダイヤやクロス、鈴太郎たちが目に入った。ダイヤは少し休憩していたものの、早々に復活したらしい。
「ダイヤはいいな~、身近な人が一緒に遊びに来てくれて。私にも一緒に来てくれる人がいれば……な~んてね」
そう呟いてはみたものの、そんなことは気にせず、思いっきりプールを楽しもうと考える。流されるのに飽きたらどうしようか。パラソルエリアでゆったり休憩しようかな、トロピカルジュースでも飲んで……、と思いを巡らせていたら、ビーチボールを追って駆けてきたダイヤと目が合った。
「あ、ねえ! よかったら、こっちで一緒に遊ばない? ……今ちょっと私劣勢で、負けちゃいそうだから助けてほしいの」
明るく声をかけつつ、後半はこそこそと、ダイヤはまよいに耳打ちした。まよいはくすくす笑うと、浮き輪を放り出して流れるプールから出た。
「喜んで加勢しちゃう!」
思いっきり楽しむのは、まだまだこれからだ。
色は黒。足回りは競泳水着もかくやというほど大胆なカットになっていて、体のラインを美しく見せる角度でフリルが流すようにつけられている。高瀬 未悠 ( ka3199 )はそんな実に身に着ける人を選ぶデザインの水着を完璧に自分のものにしていた。大人っぽい色気をまとって立つ彼女は、誰の目も釘付けにする。
「未悠さん素敵です!」
エステル・クレティエ ( ka3783 )がはしゃぐように笑顔で褒める。
「エステルの方が可愛いわよ。その水着、良く似合ってるわ」
エステルの水着は深い緑色で、水に濡れるとつやつや光る素材でつくられた小さなリボンが大きく開いた背中を守るようにいくつもついているものだった。エステルが跳ねるたびにリボンが揺れて、実に愛らしい。まるでわざと揺らしているのかと思うが、エステルにかぎってそれはないだろう。
「エステルは無防備なんだから……。そんなところも可愛らしいけど心配よ」
未悠はそっとため息をつく。ナンパしようなんていう輩が現れたら絶対に許さない、と心に決めた。
鈴太郎やダイヤと合流をすると、ちょうどビーチバレーを始めるところだという。パラソルエリアのベンチでのんびり傍観を決め込んでいた鞍馬 真 ( ka5819 )も、鈴太郎によって引っ張り出されていた。
「ふたりも一緒にやろうぜ!」
「ええ、もちろん」
「レシーブとトスはお任せです!」
エステルがそう言ってレシーブしたボールを、未悠は美しいフォームでアタックした。ダイヤが、その姿に見惚れる。と、ボールは綺麗にダイヤの頭の上へ落ちた。
「あいたっ!」
「なーにボーっとしてンだよダイヤ!」
「ごめんなさい! 全然狙った方向に飛ばないわ……鈴、アドバイスをお願い!」
「いや、未悠のアタックはほぼ完璧だったぜ!」
そんなふうに笑い合いながら何ゲームか続けていると、エステルは少し疲れたらしかった。
「ちょっと休憩を兼ねて流れるプールに行ってきますね」
そう言って離れていくエステルに、未悠は気がつかなかった。鈴太郎とダイヤが仲良くしている様子を嬉しい気持ちで眺めていたのである。友だちの幸せとは、いいものだ。と。途中からジャンが加わったりまよいが加わったりとわいわいしている間に、未悠はハッと気が付いた。エステルが近くにいないことに。慌てて見回すと、流れるプールを流されていく姿が見えた。自分の意志でぷかぷかしているのならいいが、どうも予想外に流れが速く、未悠の目にはエステルが流されて行っているように見えた。
「エステル、ダメよ! 一人になったらナンパされちゃうから……!!」
その未悠の声はエステルにも聞こえていたけれど、未悠の心配とは裏腹に、エステルは気楽なものだった。
「大丈夫ですよ~。未悠さんの方こそ声をかけられそうなのに。ふふっ」
流されているように見えて、水中の体もちゃんとコントロールしている。だが。
「大丈夫ですか。流されている、という声が聞こえたのですが」
不意に、大きな手に支えられた。びっくりして顔を上げると、そこにいたのは空蝉 ( ka6951 )だった。
「大丈夫です、ありがとうございます」
エステルがにっこり笑って礼を言うと、空蝉は無事を確認して頷き、手を離した。空蝉はアロハシャツ姿。涼しげな表情にカラフルなアロハシャツはミスマッチなようでいて妙に似合っていて、エステルは面白くなった。
実は空蝉はさっきまで、屋台でトウモロコシを焼くなどして働いていたのである。休憩時間をもらうことができ、こうしてプールへ出向いて来たのだった。
「あっ、空蝉さん! ウォータースライダー一緒に行きませんか!?」
ダイヤが空蝉の姿を見つけて声をかける。ビーチバレーはお開きになったらしい。
「知道了。お供させて頂きます」
「あっ、オレもオレも! もう一回行くぜ!」
空蝉が頷くと鈴太郎も駆けてくる。ちょうど通りかかったイルムも声をかけてきた。
「やあやあ、ボクもご一緒していいかな? ダイヤ君、鈴君、水着、とてもよく似合っているよ! キュートだし、とてもセクシーだ。水面の妖精と見紛うほどさっ」
四人がわいわいと行ってしまうと、ふー、と息をついてパラソルエリアで休息する青年が、ふたり。真とクロスであった。ふたりは同じようなお互いの反応に、顔を見合わせて少し笑う。顔を合わせる機会の多いふたりは、もうなんとなく友人のような気持ちでいるのだ。だからこそ、真はクロスがこういう場に姿を現していることが少し不思議に思えた。が、しかし。去って行くダイヤの水着姿を見て納得した気持ちになる。
「……ダイヤ嬢があんな格好だから、気が気じゃない感じかな?」
「……ええ、まあ」
ため息交じりに、クロスは頷いた。珍しく素直な肯定に、真は少なからず驚く。
「お嬢さまはまだ、世の中の怖さをご存じでありませんから」
そう続けられた言葉に、真はなるほど、と呟いた。クロスは単に可愛らしい嫉妬でやきもきしているわけではないのだ。
「苦労するね」
胸中だけにしておこうと思った感想は、自然と真の口からこぼれていたのだった。
ダイヤに連れられてウォータースライダーへとやってきた空蝉は、常に穏やかな微笑をたたえていた。特に大きな感情の揺れを表すことはないのだと、ダイヤもかかわりがまだ少ないながらになんとなく理解している。
「はい、ここに座ってね。私はこっちに座るから」
鈴太郎に引っ張りまわされ、もう何度もウォータースライダーで遊びつくしたダイヤは、まるでスタッフか何かのように空蝉をリードした。空蝉はにこにこと頷いて、言われたとおりに浮輪に腰を下ろす。と。
「あれっ!? えええええええ!?」
思ったよりも急スピードで、浮輪が滑り出した。
「うえ!? めっちゃ速くねえ!?」
次で順番待ちをしていた鈴太郎とイルムが目を見開く。
「きっと空蝉君の重量のせいじゃないかな?」
イルムの予想通りであった。浮輪は、空蝉を下にした格好のまま、すごいスピードで水に入っていく。当然、水しぶきも派手にあがった。
「ひゃああああ!!!」
今日一番のダイヤの大きな声に、クロスと真が慌てて駆けつけてくる。監視員がいるとはわかっていたが、真は性分からか、常に端々に目を光らせていたのだ。
「ダイヤ嬢、大丈夫かい?」
「う、うん、私は大丈夫なんだけど……、空蝉さんが……」
ダイヤはびしょ濡れになった顔を両手でぬぐい、ぶくぶくと沈んでしまった空蝉を指さして声を震わせた。クロスと真が頷きあって、プールへ飛び込もうとする。と。
さぶり。
水面が大きく揺らいで、空蝉が立ち上がった。
「足が、つくのですね」
知らなかった、というようにそう言いながら、ダイヤたちの心配などちっともわかっていない様子で微笑む空蝉の姿に、ダイヤは思わず吹き出した。そこから連鎖して、真も鈴太郎もイルムも笑う。プール中に、明るい笑い声が響いた。
その声は、水鉄砲合戦に疲れて休息をしていた灯の耳にも届いた。ミアや蜜鈴たちと甘いトロピカルジュースを楽しみながら、聞こえてくる笑い声に目を細める。きっと皆、それぞれに楽しい一日を過ごしたのだろうと思うと、自分の楽しさもあいまってとてもとても、嬉しくなった。
「今日の思い出も、夏の鮮烈な光と共にずっと心に焼き付けばいいな」
灯が呟いたその言葉は、この場に集まる全員の願いであるに違いなかった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 12人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/17 23:39:29 |