ゲスト
(ka0000)
昏睡の翅音
マスター:ゆくなが
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/22 07:30
- 完成日
- 2018/08/28 11:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
一面の花畑である。
白、赤、黄色など夏を連想させる色味を持つ花達がその艶姿を競うように咲き誇っていた。芳しい花の香りもまた、この風景に彩りを与えていた。
本来なら、ここはもちろん名所であり、観光に人々が訪れるのである。
しかし、今日は晴天であるにも関わらず、花畑はどんより曇っているような目の霞むような感じがあった。
そして、この花畑は静かすぎた。
これだけの花があれば、様々な虫も飛び交うことであろう。けれど、その翅音は一切しない。
集う人々の話し声も、足音も、全くしない。
そんな自然ならざる静寂の中で、唯一動くものがあった。
巨大なアゲハ蝶が、花畑に飛んでいるのだ。
成人男性ほどの体躯を持つ、黄色い鮮やかな羽を持つそれは、ゆっくりと羽を動かし、ただ1匹、悠々と空を舞っているのであった。
そして、アゲハ蝶が舞う下には。
何人もの人間が倒れ伏しているのだった。
数は8人である。彼らはゆっくりと胸を上下させていることから、まだ死んでいないことがわかる。
そして、優雅に飛んでいたアゲハ蝶は、花弁に舞い降りるように、寝ている人間の体にその6本の足を乗せ、丸まったストロー状の口吻を伸ばし、ゆっくりと人間の首元に差し入れたのだ……。
●
「ある花畑に、アゲハ蝶の雑魔が出現しました」
ハンターオフィスで女性職員が説明する。
観光名所である花畑に突如現れ、人々を昏睡させたらしい。マテリアルの摂取は、蝶の持つ、細い口から吸血のように行われているようで、即座に命に関わる方法ではないものの、放っておけば死に至ることは明白だった。
「即座に、この雑魔のアゲハ蝶を退治してください……と言いたいのですが、アゲハ蝶の周囲には先に言った通り、昏睡した人々が倒れています。彼らを救出しつつ、雑魔を倒すことが今回の依頼です。昏睡している人々の介護は戦闘が終わった後に救命専門のハンターを派遣しますので、心配いりません」
人々を傷つけないよう工夫して戦闘する……なにより昏睡している人間だ。昏睡状態が解除されない限り能動的な行動はとれないだろう。
まだ暑いある日に、こうしてハンターたちは雑魔退治に出かけることになったのだった。
白、赤、黄色など夏を連想させる色味を持つ花達がその艶姿を競うように咲き誇っていた。芳しい花の香りもまた、この風景に彩りを与えていた。
本来なら、ここはもちろん名所であり、観光に人々が訪れるのである。
しかし、今日は晴天であるにも関わらず、花畑はどんより曇っているような目の霞むような感じがあった。
そして、この花畑は静かすぎた。
これだけの花があれば、様々な虫も飛び交うことであろう。けれど、その翅音は一切しない。
集う人々の話し声も、足音も、全くしない。
そんな自然ならざる静寂の中で、唯一動くものがあった。
巨大なアゲハ蝶が、花畑に飛んでいるのだ。
成人男性ほどの体躯を持つ、黄色い鮮やかな羽を持つそれは、ゆっくりと羽を動かし、ただ1匹、悠々と空を舞っているのであった。
そして、アゲハ蝶が舞う下には。
何人もの人間が倒れ伏しているのだった。
数は8人である。彼らはゆっくりと胸を上下させていることから、まだ死んでいないことがわかる。
そして、優雅に飛んでいたアゲハ蝶は、花弁に舞い降りるように、寝ている人間の体にその6本の足を乗せ、丸まったストロー状の口吻を伸ばし、ゆっくりと人間の首元に差し入れたのだ……。
●
「ある花畑に、アゲハ蝶の雑魔が出現しました」
ハンターオフィスで女性職員が説明する。
観光名所である花畑に突如現れ、人々を昏睡させたらしい。マテリアルの摂取は、蝶の持つ、細い口から吸血のように行われているようで、即座に命に関わる方法ではないものの、放っておけば死に至ることは明白だった。
「即座に、この雑魔のアゲハ蝶を退治してください……と言いたいのですが、アゲハ蝶の周囲には先に言った通り、昏睡した人々が倒れています。彼らを救出しつつ、雑魔を倒すことが今回の依頼です。昏睡している人々の介護は戦闘が終わった後に救命専門のハンターを派遣しますので、心配いりません」
人々を傷つけないよう工夫して戦闘する……なにより昏睡している人間だ。昏睡状態が解除されない限り能動的な行動はとれないだろう。
まだ暑いある日に、こうしてハンターたちは雑魔退治に出かけることになったのだった。
リプレイ本文
●
「うわー! 綺麗なとこですねぇ!」
クレイ・ルカキス(ka7256)が咲き乱れる花の絨毯を見て言う。しかし、負のマテリアルの気配に気がつき、自分の頬をパンパンと叩いて気を引き締めた。
「って悠長なこと言ってる場合じゃないな。人の命がかかっているんだ」
「見えてきた。あれが例のアゲハ蝶の雑魔ね」
視認したイリアス(ka0789)が敵を指差した。
敵はまだこちらに気が付いていないらしい。
「花畑にはお似合いの歪虚だけど、少しものどかじゃないわね……」
時間が経つほどに、アゲハ蝶の元で昏睡している人間は吸血され衰弱していくだろう。
「早急な敵の排除が必要と判断、する」
ズィルバーン・アンネ・早咲(ka3361)が前衛となる者に攻性強化を施した。
「私は機動力と防御力に、欠ける。任務を適材適所で進めるには、私は遠距離からの狙撃に集中したほうがいいと、判断。前衛は、任せる」
「はい、承りました。これ以上被害を出すわけにはいきませんから」
観那(ka4583)がにこやかに笑ってこたえる。
「それでは参りましょうか、皆様」
観那は身の丈の倍以上ある超々重斧を大きく振り抜いた。
覚醒が迸り、ハンターたちは駆け出した。
●
ハンターたちの作戦は、まず、倒れている人々からアゲハ蝶を引き離し、人々の安全を確保してから、本格的な戦闘に移る、というものだ。
「いた……! 倒れている場所は結構ばらけてるわ!」
イリアスが即座に、保護対象である昏睡した8人の位置を見て取り、仲間に伝える。
巨大なアゲハ蝶は今にもある人の首筋にその細長い口を差し入れようとしている。
「させない!」
イリアスの射撃がアゲハ蝶を掠めて飛んでいった。
「こっちを、見ろ」
さらに、アンネの機導砲が収束して、敵の体を貫いた。
ついにアゲハ蝶は、外敵の侵入を認めて、獲物から目を逸らした。
そして躍り出たのは大きな斧を目立つように構えた観那だ。
「その方々には指一本触れさせません!! いざ勝負!!!」
大きな掛け声とともに、観那はソウルトーチを発動する。マテリアルのオーラがアゲハ蝶の眼を引きつけた。
「かかりました!」
アゲハ蝶の周囲には人々が散らばっている。観那は徐々に後退し、安全に戦闘できる場所を探す。
「おーい、こっちだ!」
その観那に向かって歩夢(ka5975)が呼びかける。
歩夢は敵の様子を伺いつつ、足場が良く、戦闘に自分たちとアゲハ蝶以外巻き込まない場所を探していたのだ。
「さて、おとなしくこっちに来てもらうぜ?」
歩夢は観那の後ろにつき、禹歩と結界術を発動して、味方を支援する。
アゲハ蝶は、ソウルトーチにより観那から視線を外すことができない。
だが、獲物から離れることももどかしいのかしばらくその場でじっとしていたが、それはイリアスやアンネの攻撃が許さなかった。
アンネは久々の実戦だった。構えた魔導猟銃がずしりと重い。
──でも、ブランクは言い訳に、ならない。
アンネは思う。
──私はそれでも確実に任務をこなす、だけ。
アンネの周囲には無数のホログラム状のエフェクトが展開されていた。データらしき物の羅列が高速で流れてゆく。
その中心で、アンネは射撃体勢をとる。
己の体より大きい、魔導猟銃で。
編み上げたマテリアルの力を光の帯に変換し、放つ。
機導砲がアゲハ蝶の体を貫いた。
アゲハ蝶の体ががくりと揺れる。
「はやく、離れて」
照準を微調整し、アンネが再度狙い撃つ。
「これ以上、好き勝手にはさせないんだから!」
イリアスの矢がはっしと飛んでいき、アゲハ蝶の胸に深々と刺さった。
アゲハ蝶は苛立たしげに翅をばたつかせ、姿勢を制御する。
「あなたの相手は、私たち、ですよ」
さらに観那が言葉で挑発した。
ついに、アゲハ蝶は獲物を味わうより、敵の排除を優先する気になったらしい。翅を動かし、風に乗って、その巨躯で、観那へと突進していく。
「待っていましたよ」
観那がアゲハ蝶の突進に合わせるように、鈍い風切り音を立てて斧を振り下ろした。
まるで大砲のような一撃は、アゲハ蝶の胴に無視できない打撃を与えた。
「まるで未練、後悔、執着――美しい花畑に似合わない、幽鬼のようですね」
陽光を受けて、橘花 夕弦(ka6665)の刃が美しく残酷に輝いた。
「蝶が舞うのは、次なる花と花。命を結ぶ為、でしょうに」
清流の如き澄んだ動作で、夕弦は刀を振り上げる。
光が走ったかと思った。
次の瞬間には、アゲハ蝶の左翅に浅い傷がついていた。
「寄らば、斬る。この花畑とその翅は美しいから――否定したくなるのですよ」
揺らめきすらしない水面の心で、夕弦は言葉を紡ぐ。
夕弦はなんだか妙に胸がざわつく感じを覚えながらも、それを表情に出しはしなかった。
「よし、これで安全に戦えますね」
クレイが味方から少し離れた位置で言う。範囲攻撃を警戒してのものだ。
「それじゃ、行きますよ──!」
武器のロングソードの切っ先をアゲハ蝶に向けたかと思うと、クレイは踊るように、風に乗るように機敏に敵との距離を詰めて、その勢いすら乗せた渾身撃をアゲハ蝶へ叩き込んだ。
その重みに、アゲハ蝶の体が少し、沈む。
それでも懸命に翅を動かして、アゲハ蝶はバランスを取る。
そして、徐々に羽ばたきのリズムを早め、観那に向かって風をぶつけた。
それは旋風となり、観那の着物や青い髪を激しく乱す。
「くっ……!」
あまりの旋風に、観那は目を細めた。
その隙を見逃す敵ではない。アゲハ蝶はさらに翅を大きく後ろに反らし、前方へさらなる突風を巻き起こす。
だがダメージは、歩夢の展開してあった、修祓陣によって勢いを減衰させられた。
「備えあれば憂いなしってね。それじゃ、こっちから行くぞ!」
歩夢は、続いて五色光符陣を展開する。
5枚の符が投げつけられ、アゲハ蝶を囲うように配置された。
それらの符からは眩いばかりの光が照射され、敵を焼き焦がす。
その鮮烈な光は、視界まで焼きつくかに思えたが、アゲハ蝶はその眼を曇らせることはなかった。
「意外としぶといねえ」
笑いつつ、歩夢は次の符術に備える。覚醒により額には印が輝いていた。
「まずは動きを鈍らすわ!」
弓から銃に武器を持ち替えた持ったイリアスが冷気を纏った弾丸を発射する。
それは着弾箇所から、アゲハ蝶の体に霜を降らせ、行動を阻害した。
「凍て付く蝶か……詩的と取るか、人工的と解釈するか……、いや、これはすでにただの死にぞこないか……」
夕弦の刀が閃く。
「隙ありってやつですね!」
再び風に乗るように軽やかに飛び込んできたクレイが振り下ろしたロングソードで夕弦に続いて左翅を狙い、それに穴を開けた。
「これで少しは動きづらいでしょ?」
クレイは言いながら再び距離を取る。
アゲハ蝶は、敵への憎悪のためか、その眼はめらめら燃えているようだった。だが、まだ観那のソウルトーチの効果は振り払えていない。
アゲハ蝶は観那に向けて再び風を起こした。
「もう一度ですか……!」
今度こそ、しっかり敵を見据えようとする観那。しかし、その旋風の前では姿勢を保つ事すら難しい。
「っ……!」
次のアゲハ蝶の行動にいち早く反応したのはイリアスだった。
アゲハ蝶は、その細長く丸まった口吻を伸ばし、観那のマテリアルを吸い取ろうとする。
「させないわよ!」
イリアスの妨害射撃が口吻に向かって放たれる。
しかし、アゲハ蝶もそれに気がついていたのか、角度を調整して、弾丸を避けたのだった。
「意外とコントロール良いのね……!」
口吻が観那へと差し込まれるかと思った刹那、また事件が起きた。
アゲハ蝶の攻撃のベクトルが急に変わったのだった。
夕弦が、観那が再度攻撃されるとみて発動した、ガウスジェイルによる攻撃の引き寄せだった。
ガウスジェイルはその性質上、引き寄せた攻撃を避けることはできない。よってアゲハ蝶の口吻は鎧の隙間から、夕弦の体へと差し込まれた。
それはほんの一瞬の出来事。しかしアゲハ蝶が傷を癒すには十分な時間であった。
ハンターたちの攻撃で傷ついた翅や体は完全にではないが再生した。アゲハ蝶はまた勢いよく翅を動かし始める。
「吸血による回復……血を、命を、奪い取る様はまるで悪霊の蝶だな……」
夕弦はそれでも顔色ひとつ変えず、刀を構え直す。
「回復すると言うのなら……それを上回る速度で殺しきるまで」
上段に掲げられた刀は、丁度中天を過ぎた太陽を真っ二つにしていた。
●
アゲハ蝶の眼がぎらついていた。
ソウルトーチの効果を解除、そして、体を震わせ、レイターコールドショットによる冷気も振り払った。
目の前のハンターたちを殲滅しようと、翅がしなる。
けれど、ハンターの方が早かった。
アゲハ蝶を閉じ込めるように、5枚の符が舞う。歩夢の五色光陣符だ。
符に囲まれた中では光が暴れ出し、敵を焦がし尽くそうと、輝きがうねり出す。
だが、アゲハ蝶はその巨躯を優雅に動かし、まるで花から花へ飛び移るように、光の奔流を躱し切ったのだった。
「体の割に、機敏な動きしてるな……!」
歩夢が言う。
アゲハ蝶はハンターたちをせせら笑うかのように、鮮やかな翅を震わせる。
「でも、冷気を振り切るっていうんなら、何度でも撃てばいいことよね……!」
銃声が響いた。
それと同時に、アゲハ蝶の右の翅の付け根を、イリアスのレイターコールドショットが貫いた。
傷口に霜が降りる。
アゲハ蝶は再び行動阻害を付与され、動きがぎこちなくなる。
眼を忌々しそうに、イリアスへ向ける。
イリアスはアゲハ蝶がもし再び昏睡した人々の元へ行こうとした場合も、すぐに駆けつけられるように、敵と前衛の側面にいた。
アゲハ蝶はイリアスに視線を向けたついでに獲物たちをちらと見たが、すぐにある衝動に突き動かされて、観那を見ることとなった。
「私も、何度でもあなたの注意を奪いますから」
ソウルトーチの発動により、めらめらとマテリアルの炎が揺らめいて、何より目立つ存在となった観那が言う。
そしてアゲハ蝶の側面から夕弦が迫る。
電光石火の早業で振り下ろされたたちが斬り裂くのはやはり左翅。
狙いを精密につけたために、一撃の威力は弱まっているが、それでも敵を傷つけるには十分な威力だ。
そして、放たれるのはクレイの渾身撃。
この攻撃により、アゲハ蝶はクレイを無視できなくなり、他への攻撃がおろそかになってしまう。
だから、これは当然の帰結だった。
アゲハ蝶は、ソウルトーチに瞳を奪われ続けるままに、観那に体当たりをする。
しかし、それは最前のクレイの渾身撃で付与された警戒により狙いが定まらない。
さらに、イリアスの妨害射撃によって、ついにアゲハ蝶の体当たりは狙いをそれ、そのまま地面へと激突してしまった。
再び浮き上がろうと、アゲハ蝶が翅を動かしているところへ、影が落ちた。
それは全長300cmの黒色の斧を振りかぶる観那が作った影である。
隕石が落ちるかのような勢いで、斧が振り下ろされた。
鈍い振動が地面を揺らす。
衝撃で土煙が舞い上がる。地面が抉れる。
「超々重斧の名は伊達ではありません。この質量存分に味わって、っ……!?」
が、観那はそこから、アゲハ蝶のストロー状の口吻が自分に向かって伸びてくるのを見逃さなかった。
とっさに鎧受けを発動し、守りを固める。
イリアスも妨害射撃を放つが、それをかいくぐって、口吻は観那の胴に突き刺さり、命を吸い上げた。
アゲハ蝶は6本の足を動かし、翅を動かし、再度の浮遊を試みている。
「タフですね……でも、それは私も同じこと!」
もう一度、観那が斧を振り下ろし、左翅を叩き潰した。そして、ブラッドレインを発動し、そこから溢れるマテリアルを吸収して、自分の回復に当てる。
「どんなに打たれようが、倒れるまでは負けないのですから!」
アゲハ蝶はそれでも空を飛んだ。
それは飛行というには弱々しく、浮遊というにはどろりとした意志に満ちている感じがした。度重なる攻撃を受けた左翅はほとんど機能しておらず、アゲハ蝶は傾いて飛んでいる。
「墜ちなさい。風と夢を操るには、何とも……醜い」
夕弦はそう呟き、敵に斬撃を放つ。
クレイの渾身撃もそれに続いた。
攻撃を受けるたび、アゲハ蝶はゆらゆら揺れた。
夕弦とクレイの攻撃で、斬り取られた体は、ひらひらと舞い落ち、塵に変わっていった。
それでも、アゲハ蝶は飛ぼうと翅を動かす。けれど、空はあまりに遠過ぎた。
「もう、終わらせましょうか」
イリアスが、魔導拳銃の引き金を引き、弾丸を撃ち込んだ。
それはアゲハ蝶の胴に命中した。その衝撃でアゲハ蝶は後ろに仰け反る。
「目標を照準に、捕捉」
アンネが力なく宙をさまようアゲハ蝶を照準に収めた。
「……発射」
マテリアルが収斂されて、光となった。
それは光の砲弾となって、アゲハ蝶の体を貫いた。
こうして、アゲハ蝶は光に抱かれるようにして、塵に変わっていった。
「……目標の沈黙を確認」
戦闘の剣戟音が、銃声がなくなった今、そよ風が爽やかに駆け抜けるばかりだった。
●
「大丈夫ですか?」
クレイは戦闘が終わってすぐ、昏睡している人々に声をかけた。
まだ、昏睡状態が解けていないので、返事はない。しかし、呼吸は規則的で、アゲハ蝶にマテリアルを吸われた以外は目立った傷もなかった。
これも、ハンターが的確に戦場を移動したおかげだ。
歩夢は試しに浄龍樹陣を人々に向けて発動したが、効果はなかった。今回の昏睡は雑魔のスキルによるバッドステータスであり、浄龍樹陣はあくまでマテリアル汚染に由来するバッドステータスを解除するためのスキルだからだ。
観那は周囲を探索して、アゲハ蝶の卵や幼虫がいないか確認したが、そういったものは見当たらなかった。
「次は仕事でなくピクニック等で訪れたいものですね」
ほどなくして、戦闘が終わったことを確認した救命専門のハンターたちが駆けつけた。
彼らの活躍により昏睡は解除され、人々はようやく目を覚ます。
「あの」
クレイは救命に来たハンターに声をかけた。
「僕もお手伝いしてもいいですか?」
彼はもちろん、とこたえたので、クレイは早速、目を覚ました人のところへ駆けつける。
「もう大丈夫ですよ」
クレイは再度、言葉をかける。
そして、ミネラルウォーターを取り出して水分補給を促した。
「雑魔はやっつけましたからね」
眠りを誘う翅音はもうどこにもない。
空は青く、高く。中天を過ぎた太陽は黄色い陽光を地上に投げかける。
それを受けて、花々は思い思いの色で咲き誇っている。
花畑にはもう、平和を乱す歪虚はいなかった。
この場所ではきっと、のどかな日常が続いてゆくのだろう。
「うわー! 綺麗なとこですねぇ!」
クレイ・ルカキス(ka7256)が咲き乱れる花の絨毯を見て言う。しかし、負のマテリアルの気配に気がつき、自分の頬をパンパンと叩いて気を引き締めた。
「って悠長なこと言ってる場合じゃないな。人の命がかかっているんだ」
「見えてきた。あれが例のアゲハ蝶の雑魔ね」
視認したイリアス(ka0789)が敵を指差した。
敵はまだこちらに気が付いていないらしい。
「花畑にはお似合いの歪虚だけど、少しものどかじゃないわね……」
時間が経つほどに、アゲハ蝶の元で昏睡している人間は吸血され衰弱していくだろう。
「早急な敵の排除が必要と判断、する」
ズィルバーン・アンネ・早咲(ka3361)が前衛となる者に攻性強化を施した。
「私は機動力と防御力に、欠ける。任務を適材適所で進めるには、私は遠距離からの狙撃に集中したほうがいいと、判断。前衛は、任せる」
「はい、承りました。これ以上被害を出すわけにはいきませんから」
観那(ka4583)がにこやかに笑ってこたえる。
「それでは参りましょうか、皆様」
観那は身の丈の倍以上ある超々重斧を大きく振り抜いた。
覚醒が迸り、ハンターたちは駆け出した。
●
ハンターたちの作戦は、まず、倒れている人々からアゲハ蝶を引き離し、人々の安全を確保してから、本格的な戦闘に移る、というものだ。
「いた……! 倒れている場所は結構ばらけてるわ!」
イリアスが即座に、保護対象である昏睡した8人の位置を見て取り、仲間に伝える。
巨大なアゲハ蝶は今にもある人の首筋にその細長い口を差し入れようとしている。
「させない!」
イリアスの射撃がアゲハ蝶を掠めて飛んでいった。
「こっちを、見ろ」
さらに、アンネの機導砲が収束して、敵の体を貫いた。
ついにアゲハ蝶は、外敵の侵入を認めて、獲物から目を逸らした。
そして躍り出たのは大きな斧を目立つように構えた観那だ。
「その方々には指一本触れさせません!! いざ勝負!!!」
大きな掛け声とともに、観那はソウルトーチを発動する。マテリアルのオーラがアゲハ蝶の眼を引きつけた。
「かかりました!」
アゲハ蝶の周囲には人々が散らばっている。観那は徐々に後退し、安全に戦闘できる場所を探す。
「おーい、こっちだ!」
その観那に向かって歩夢(ka5975)が呼びかける。
歩夢は敵の様子を伺いつつ、足場が良く、戦闘に自分たちとアゲハ蝶以外巻き込まない場所を探していたのだ。
「さて、おとなしくこっちに来てもらうぜ?」
歩夢は観那の後ろにつき、禹歩と結界術を発動して、味方を支援する。
アゲハ蝶は、ソウルトーチにより観那から視線を外すことができない。
だが、獲物から離れることももどかしいのかしばらくその場でじっとしていたが、それはイリアスやアンネの攻撃が許さなかった。
アンネは久々の実戦だった。構えた魔導猟銃がずしりと重い。
──でも、ブランクは言い訳に、ならない。
アンネは思う。
──私はそれでも確実に任務をこなす、だけ。
アンネの周囲には無数のホログラム状のエフェクトが展開されていた。データらしき物の羅列が高速で流れてゆく。
その中心で、アンネは射撃体勢をとる。
己の体より大きい、魔導猟銃で。
編み上げたマテリアルの力を光の帯に変換し、放つ。
機導砲がアゲハ蝶の体を貫いた。
アゲハ蝶の体ががくりと揺れる。
「はやく、離れて」
照準を微調整し、アンネが再度狙い撃つ。
「これ以上、好き勝手にはさせないんだから!」
イリアスの矢がはっしと飛んでいき、アゲハ蝶の胸に深々と刺さった。
アゲハ蝶は苛立たしげに翅をばたつかせ、姿勢を制御する。
「あなたの相手は、私たち、ですよ」
さらに観那が言葉で挑発した。
ついに、アゲハ蝶は獲物を味わうより、敵の排除を優先する気になったらしい。翅を動かし、風に乗って、その巨躯で、観那へと突進していく。
「待っていましたよ」
観那がアゲハ蝶の突進に合わせるように、鈍い風切り音を立てて斧を振り下ろした。
まるで大砲のような一撃は、アゲハ蝶の胴に無視できない打撃を与えた。
「まるで未練、後悔、執着――美しい花畑に似合わない、幽鬼のようですね」
陽光を受けて、橘花 夕弦(ka6665)の刃が美しく残酷に輝いた。
「蝶が舞うのは、次なる花と花。命を結ぶ為、でしょうに」
清流の如き澄んだ動作で、夕弦は刀を振り上げる。
光が走ったかと思った。
次の瞬間には、アゲハ蝶の左翅に浅い傷がついていた。
「寄らば、斬る。この花畑とその翅は美しいから――否定したくなるのですよ」
揺らめきすらしない水面の心で、夕弦は言葉を紡ぐ。
夕弦はなんだか妙に胸がざわつく感じを覚えながらも、それを表情に出しはしなかった。
「よし、これで安全に戦えますね」
クレイが味方から少し離れた位置で言う。範囲攻撃を警戒してのものだ。
「それじゃ、行きますよ──!」
武器のロングソードの切っ先をアゲハ蝶に向けたかと思うと、クレイは踊るように、風に乗るように機敏に敵との距離を詰めて、その勢いすら乗せた渾身撃をアゲハ蝶へ叩き込んだ。
その重みに、アゲハ蝶の体が少し、沈む。
それでも懸命に翅を動かして、アゲハ蝶はバランスを取る。
そして、徐々に羽ばたきのリズムを早め、観那に向かって風をぶつけた。
それは旋風となり、観那の着物や青い髪を激しく乱す。
「くっ……!」
あまりの旋風に、観那は目を細めた。
その隙を見逃す敵ではない。アゲハ蝶はさらに翅を大きく後ろに反らし、前方へさらなる突風を巻き起こす。
だがダメージは、歩夢の展開してあった、修祓陣によって勢いを減衰させられた。
「備えあれば憂いなしってね。それじゃ、こっちから行くぞ!」
歩夢は、続いて五色光符陣を展開する。
5枚の符が投げつけられ、アゲハ蝶を囲うように配置された。
それらの符からは眩いばかりの光が照射され、敵を焼き焦がす。
その鮮烈な光は、視界まで焼きつくかに思えたが、アゲハ蝶はその眼を曇らせることはなかった。
「意外としぶといねえ」
笑いつつ、歩夢は次の符術に備える。覚醒により額には印が輝いていた。
「まずは動きを鈍らすわ!」
弓から銃に武器を持ち替えた持ったイリアスが冷気を纏った弾丸を発射する。
それは着弾箇所から、アゲハ蝶の体に霜を降らせ、行動を阻害した。
「凍て付く蝶か……詩的と取るか、人工的と解釈するか……、いや、これはすでにただの死にぞこないか……」
夕弦の刀が閃く。
「隙ありってやつですね!」
再び風に乗るように軽やかに飛び込んできたクレイが振り下ろしたロングソードで夕弦に続いて左翅を狙い、それに穴を開けた。
「これで少しは動きづらいでしょ?」
クレイは言いながら再び距離を取る。
アゲハ蝶は、敵への憎悪のためか、その眼はめらめら燃えているようだった。だが、まだ観那のソウルトーチの効果は振り払えていない。
アゲハ蝶は観那に向けて再び風を起こした。
「もう一度ですか……!」
今度こそ、しっかり敵を見据えようとする観那。しかし、その旋風の前では姿勢を保つ事すら難しい。
「っ……!」
次のアゲハ蝶の行動にいち早く反応したのはイリアスだった。
アゲハ蝶は、その細長く丸まった口吻を伸ばし、観那のマテリアルを吸い取ろうとする。
「させないわよ!」
イリアスの妨害射撃が口吻に向かって放たれる。
しかし、アゲハ蝶もそれに気がついていたのか、角度を調整して、弾丸を避けたのだった。
「意外とコントロール良いのね……!」
口吻が観那へと差し込まれるかと思った刹那、また事件が起きた。
アゲハ蝶の攻撃のベクトルが急に変わったのだった。
夕弦が、観那が再度攻撃されるとみて発動した、ガウスジェイルによる攻撃の引き寄せだった。
ガウスジェイルはその性質上、引き寄せた攻撃を避けることはできない。よってアゲハ蝶の口吻は鎧の隙間から、夕弦の体へと差し込まれた。
それはほんの一瞬の出来事。しかしアゲハ蝶が傷を癒すには十分な時間であった。
ハンターたちの攻撃で傷ついた翅や体は完全にではないが再生した。アゲハ蝶はまた勢いよく翅を動かし始める。
「吸血による回復……血を、命を、奪い取る様はまるで悪霊の蝶だな……」
夕弦はそれでも顔色ひとつ変えず、刀を構え直す。
「回復すると言うのなら……それを上回る速度で殺しきるまで」
上段に掲げられた刀は、丁度中天を過ぎた太陽を真っ二つにしていた。
●
アゲハ蝶の眼がぎらついていた。
ソウルトーチの効果を解除、そして、体を震わせ、レイターコールドショットによる冷気も振り払った。
目の前のハンターたちを殲滅しようと、翅がしなる。
けれど、ハンターの方が早かった。
アゲハ蝶を閉じ込めるように、5枚の符が舞う。歩夢の五色光陣符だ。
符に囲まれた中では光が暴れ出し、敵を焦がし尽くそうと、輝きがうねり出す。
だが、アゲハ蝶はその巨躯を優雅に動かし、まるで花から花へ飛び移るように、光の奔流を躱し切ったのだった。
「体の割に、機敏な動きしてるな……!」
歩夢が言う。
アゲハ蝶はハンターたちをせせら笑うかのように、鮮やかな翅を震わせる。
「でも、冷気を振り切るっていうんなら、何度でも撃てばいいことよね……!」
銃声が響いた。
それと同時に、アゲハ蝶の右の翅の付け根を、イリアスのレイターコールドショットが貫いた。
傷口に霜が降りる。
アゲハ蝶は再び行動阻害を付与され、動きがぎこちなくなる。
眼を忌々しそうに、イリアスへ向ける。
イリアスはアゲハ蝶がもし再び昏睡した人々の元へ行こうとした場合も、すぐに駆けつけられるように、敵と前衛の側面にいた。
アゲハ蝶はイリアスに視線を向けたついでに獲物たちをちらと見たが、すぐにある衝動に突き動かされて、観那を見ることとなった。
「私も、何度でもあなたの注意を奪いますから」
ソウルトーチの発動により、めらめらとマテリアルの炎が揺らめいて、何より目立つ存在となった観那が言う。
そしてアゲハ蝶の側面から夕弦が迫る。
電光石火の早業で振り下ろされたたちが斬り裂くのはやはり左翅。
狙いを精密につけたために、一撃の威力は弱まっているが、それでも敵を傷つけるには十分な威力だ。
そして、放たれるのはクレイの渾身撃。
この攻撃により、アゲハ蝶はクレイを無視できなくなり、他への攻撃がおろそかになってしまう。
だから、これは当然の帰結だった。
アゲハ蝶は、ソウルトーチに瞳を奪われ続けるままに、観那に体当たりをする。
しかし、それは最前のクレイの渾身撃で付与された警戒により狙いが定まらない。
さらに、イリアスの妨害射撃によって、ついにアゲハ蝶の体当たりは狙いをそれ、そのまま地面へと激突してしまった。
再び浮き上がろうと、アゲハ蝶が翅を動かしているところへ、影が落ちた。
それは全長300cmの黒色の斧を振りかぶる観那が作った影である。
隕石が落ちるかのような勢いで、斧が振り下ろされた。
鈍い振動が地面を揺らす。
衝撃で土煙が舞い上がる。地面が抉れる。
「超々重斧の名は伊達ではありません。この質量存分に味わって、っ……!?」
が、観那はそこから、アゲハ蝶のストロー状の口吻が自分に向かって伸びてくるのを見逃さなかった。
とっさに鎧受けを発動し、守りを固める。
イリアスも妨害射撃を放つが、それをかいくぐって、口吻は観那の胴に突き刺さり、命を吸い上げた。
アゲハ蝶は6本の足を動かし、翅を動かし、再度の浮遊を試みている。
「タフですね……でも、それは私も同じこと!」
もう一度、観那が斧を振り下ろし、左翅を叩き潰した。そして、ブラッドレインを発動し、そこから溢れるマテリアルを吸収して、自分の回復に当てる。
「どんなに打たれようが、倒れるまでは負けないのですから!」
アゲハ蝶はそれでも空を飛んだ。
それは飛行というには弱々しく、浮遊というにはどろりとした意志に満ちている感じがした。度重なる攻撃を受けた左翅はほとんど機能しておらず、アゲハ蝶は傾いて飛んでいる。
「墜ちなさい。風と夢を操るには、何とも……醜い」
夕弦はそう呟き、敵に斬撃を放つ。
クレイの渾身撃もそれに続いた。
攻撃を受けるたび、アゲハ蝶はゆらゆら揺れた。
夕弦とクレイの攻撃で、斬り取られた体は、ひらひらと舞い落ち、塵に変わっていった。
それでも、アゲハ蝶は飛ぼうと翅を動かす。けれど、空はあまりに遠過ぎた。
「もう、終わらせましょうか」
イリアスが、魔導拳銃の引き金を引き、弾丸を撃ち込んだ。
それはアゲハ蝶の胴に命中した。その衝撃でアゲハ蝶は後ろに仰け反る。
「目標を照準に、捕捉」
アンネが力なく宙をさまようアゲハ蝶を照準に収めた。
「……発射」
マテリアルが収斂されて、光となった。
それは光の砲弾となって、アゲハ蝶の体を貫いた。
こうして、アゲハ蝶は光に抱かれるようにして、塵に変わっていった。
「……目標の沈黙を確認」
戦闘の剣戟音が、銃声がなくなった今、そよ風が爽やかに駆け抜けるばかりだった。
●
「大丈夫ですか?」
クレイは戦闘が終わってすぐ、昏睡している人々に声をかけた。
まだ、昏睡状態が解けていないので、返事はない。しかし、呼吸は規則的で、アゲハ蝶にマテリアルを吸われた以外は目立った傷もなかった。
これも、ハンターが的確に戦場を移動したおかげだ。
歩夢は試しに浄龍樹陣を人々に向けて発動したが、効果はなかった。今回の昏睡は雑魔のスキルによるバッドステータスであり、浄龍樹陣はあくまでマテリアル汚染に由来するバッドステータスを解除するためのスキルだからだ。
観那は周囲を探索して、アゲハ蝶の卵や幼虫がいないか確認したが、そういったものは見当たらなかった。
「次は仕事でなくピクニック等で訪れたいものですね」
ほどなくして、戦闘が終わったことを確認した救命専門のハンターたちが駆けつけた。
彼らの活躍により昏睡は解除され、人々はようやく目を覚ます。
「あの」
クレイは救命に来たハンターに声をかけた。
「僕もお手伝いしてもいいですか?」
彼はもちろん、とこたえたので、クレイは早速、目を覚ました人のところへ駆けつける。
「もう大丈夫ですよ」
クレイは再度、言葉をかける。
そして、ミネラルウォーターを取り出して水分補給を促した。
「雑魔はやっつけましたからね」
眠りを誘う翅音はもうどこにもない。
空は青く、高く。中天を過ぎた太陽は黄色い陽光を地上に投げかける。
それを受けて、花々は思い思いの色で咲き誇っている。
花畑にはもう、平和を乱す歪虚はいなかった。
この場所ではきっと、のどかな日常が続いてゆくのだろう。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/19 08:48:04 |
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相談宅 橘花 夕弦(ka6665) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/08/22 00:33:02 |