龍の人が乗る飛竜、地を駆ける

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2018/08/21 15:00
完成日
2018/08/28 17:17

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●飛竜とラカ
 ラカ・ベルフはワイバーンの世話をしていた。自分の借りているものではない、誰かが借りるかもしれない飛竜だ。
 掃除をしているとラカの髪の毛が引っ張られる。
「これは食べ物ではありません、駄目ですわ」
 キラキラした目で見てくるワイバーンをラカは撫でる。
「運動をしたほうがいいんですのね……」
 手綱を持って部屋から出す。すると、ワイバーンはラカに乗るようにと指示を出す。
「いえ、別に私は乗せなくてもよいのですよ」
 しかし、何度か乗ってというように、ラカを突き、運動場に出て行かない。
「それでは、乗せてもらいますわね」
 ラカが乗る。
「飛んでかまいませんわよ」
 ラカはピリリと背筋を伸ばした。その結果、ワイバーンは何かを察し、走り出す。
「え? あれ? なんで走るんですか!」
 飛竜、走る。とりあえず、走る。飛んでみることもなく、普通に走る。別にワイバーン、走ることもできるからおかしくはないが、なぜか飛んでくれない。
 ただ、他の運動中のワイバーンは空を飛んでみたりしている。
「あなたがそれでいいならいいですが……」
 ポッテポッテとそれは走る。ラカが指示は出していないため、自由に走り回る。ある程度走り回った後、それは満足したらしく部屋に戻っていく。
 ラカは首を傾げた。
「それにしても……なぜ、皆、私を乗せて走るのでしょう?」
 以前も世話をしたワイバーンも、乗せてくれた上、走り回っていた。嫌われていないのはわかる、何度か世話をしてお礼とばかりに乗せてくれるのだから。
 しかし、飛ぶことは一切ない。すべて、走る。
「……なぜでしょうか?」
 嫌われていないのはいいが、何故走るのかさっぱりわからなかった。

●仲良し
 行動範囲も広くなるし、ワイバーンを借りてみることにした。
 借りたワイバーンには「ソウ」と名前を付ける。話しかけたり、撫でたり、せっせと世話をして、友好を深めていく。たぶん、深まったとラカは思った。
 歪虚がいないか不審者がいないか見回りに、ソウに乗って行ってみようとラカは思った。ちょうどいい肩慣らしになるだろうし、ソウも空を飛ぶことができてよいに違いないと思った。
 良いことづくめなのだ。
「では、ソウ、あの丘の上まで行きましょう。飛べますよね?」
 ラカはぎゅっと手綱を握る。顔が実はひきつっているなど、本人は知らない。ワイバーンは語れないため、誰も教えてくれない。
 そのために、ワイバーンは背中から伝わる気配でラカの状況を理解して走る。
「なんでですのおおおおお!?」
 ラカは謎の現象におののいた。
 目的地までは行ってくれたが、ワイバーンは飛ぶはずだ。飛べば起伏に富んだ道を物ともせず、真っ直ぐ進めるはずだ。
「……え、ええと?」
 幸い歪虚もいなかった。特に変なこともなかった、帰りもワイバーンが走っていたこと以外。
「な、何故ですの?」
 翌日も乗ってみた。
「あの、場所に行ってみましょう」
 ラカの表情と全身から緊張がみなぎる。
 ソウはトットと走り出した。
「……なんで、ですの……」
 ラカから力が抜ける。運んでくれるままのんびり乗る。
 世話をしていたら頬ずりもしてくれるため、相当なついてくれてはいるのはわかる。なぜ、飛んでくれないのか? なぜ、走るのか?
 わからないのでハンターに聞いてみることにしたのだった。
 依頼を受け取った職員はふと、思ったが口に出さなかったことがある。
「この人、自覚していないけれど高所恐怖症気味だとか? 空を飛ぶことに対し、恐怖を抱いているのは事実のような……」
 こればかりは実際のところはわからないので、ハンターに丸投げすることにしたのだった。

リプレイ本文

●おでかけ
 セイ(ka6982)は町の集合場所でラカ・ベルフ(kz0240)とそのワイバーンのソウを見て、破顔する。ソウはラカの髪の毛を突いている。
「ラカ、面白い依頼出してんじゃん? おまえもとうとう飛竜乗りかぁ」
 ラカの方をバンバンたたく。
「面白くはありませんわ!」
「いやいや。俺には幻獣の仲間はいないからなぁ、おめでとさん。それとソウって言ったけか? こんな奴だけど末永くよろしくな?」
 ラカの頭をぐりぐりと撫で、ソウにあいさつする。ラカは抵抗するが、対格差により抗議の声をあげるにとどまった。ソウが抗議の声をあげている。これを見るとラカがソウに好かれている、愛されているのはわかる。
 木綿花(ka6927)はワイバーンのアヴァとともにやってきた。ぜひ、ラカにも空を飛ぶ楽しさを知ってほしいと願っている。
「おはようございます、ラカ様。本日は気候は良いみたいですね」
「おはようございます。そうですね」
「絶好の飛行日和です。それと、初めましてソウ様。今日はよろしくお願いしますね。あと、アヴァと仲良くしてくださいね」
 ソウにあいさつをすると、ソウはラカと木綿花たちを見比べて首を縦に振った。
 レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は依頼の内容から原因をいくつか考える。
(さすがにラカさんが重すぎて飛べないってオチはないよな? 失礼だし、直には聞けないけど……)
 実際ラカを見ると、見た目のままの重さだと想像はできる。荷物も多いとかソウがひ弱そうだとかはない。そもそも、他のワイバーンも飛ばないということがる。
「実際、どういう状況か見てから対策は考えないとな」
 依頼を受けたハンターが幻獣を連れてきているのは、ラカとソウの状況を確認するためであった。彼はグリフォンの白霧の騎士、通称ネーベルを連れてきている。
 夢路 まよい(ka1328)はユグディラのトラオムを連れてきている。空飛ぶ方は魔法でどうにかする方向だ。
「私にもグリフォンのパートナーいるけれど、幻獣に乗って空を飛ぶのは気持ちいんだけどなー? 魔法でも飛んだりできるけど、やっぱりスカッとする気持ちよさがあるよ?」
 まよいの言葉にラカは首をかしげる。
「気持ちがいいかは別として、遠くまで行くのにはいいと思いますわ」
「それから入るのもきっかけの一つだよね」
 トラオムがうなずいていた。
 ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は驢馬とユグディラを連れてやってきた。驢馬には荷が括り付けられ、ユグディラのアムはバックパックを背負っている。
「ラカちゃんもライダーデビューとはねぇ」
 ラカの行動のあれこれを見たことがあるため妙な感慨がある。
「せっかくなら、休憩にはBBQも楽しもうじゃん。どうせ、今から行くと昼飯時じゃん」
 驢馬は食材を背負い、アムが食器や金串など小さめの道具をバックパックに詰めて持っている。その他はヴォーイの荷物になっていた。
「おいしいのはいいの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は美味だろうものに喜びの賛同を示し、すぐにまじめな表情となる。。ディーナは今回の依頼を受けたメンバーに向かって鋭い指摘をした。
「騎獣が乗せている人の言うことを聞かないって、戦場だったら大問題なの、みんなで死にかねないの。気づいたことや感じたことがあったら、どんな小さなことでもいいから教えてほしいの」
 ディーナの連れのリーリーがうなずいているように見えるのはたまたまかもしれないが、やる気を見せているのかもしれない。
 幻獣は日常生活で使うものではなく、戦場に出る可能性は高い。もし、ラカのような状況ならば戦場ならば危険極まりないと改めて実感するのだった、

●一つずつ
 飛行訓練に使う場所までやってきた。
 広く見通しもよく、木に引っかかったりすることもなそうな草原だ。
「おおー、なかなか広い、良いスポットじゃん」
 ヴォーイは現地で爽やかな風が吹く。
「さて、早速準備開始じゃん」
 荷物から花柄レジャーシートを取り出し敷くと荷物をまず置くと、日よけ用の天幕を張り拠点作りに取り掛かる。荷物を下された驢馬はおとなしくそよ風に吹かれている。ヴォーイは天幕の近くの地面に杭を打ち込んで、ロープで驢馬をつないでおく。
「ごくろうさん、ゆっくり休んでくれな」
 言葉が通じたか通じないかわからないが、驢馬はそよ風を楽しんでいるようだった。
「アムはこっちの手伝いな。おいしいランチがお駄賃じゃん」
 アムはうなずくが、一瞬、ヴォーイは嫌な画像を見た。
「黒こげ肉は作らないじゃん! そうなると、お駄賃も何もなくなるぜ」
 アムはこくこくとうなずくと、笑うようなしぐさをした。
「さて、ラカちゃんはどうなるか?」
 視線の先には何やら説明を聞くラカの姿があった。

 この草原までは各々の移動手段の違いがあるため、地上を移動をしてきた。その時のラカとソウの様子は問題を感じる所はなかった。
「まず、ラカさん、本当に飛べないのか状況を見てみよう。試しに、ソウとあの一本木まで飛んでいってみてくれ」
 レオーネが言うと、ラカがソウに乗る。
「ここで飛べたら、お食事して解散ですわね」
「そうなるならそれでよいと思います。他の幻獣たちと交流できる良い機会ですし」
 木綿花はラカの軽口に表情は落ち着いて返したが、内心は緊張の糸が張っていた。
(ラカ様の焦りと緊張がひしひしと感じられます)
 ラカの声は固かったし、表情が引きつっていた。
 そのためか、ソウがおろおろし始めた。
「ラカ様、ソウ様を信じてあげてください」
「信じていますわ!」
「そうですわね。では、レオーネ様が言うように、まず、見てましょう」
 木綿花はラカを信じることを重要だと考えた。
 ラカのピリリとした緊張が他の幻獣にもそれは伝わるのか、落ち着きなくなる。
 セイが頭を掻いた後、愛馬のデクストリアの鼻を撫でる。
「……これは、結構、まずくないか?」
 誰もうなずかない。いや、あまりの状況に言葉がなくなった。
 そして、案の定、ソウは走って行って戻ってきた。ソウから下りると、ラカはしおれた。
「忌憚なく言うの。ラカさん、緊張しすぎなの!」
「トラオムに通訳してみて、とかいう前に、私も感じるくらいすごい緊張感」
 ディーナとまよいがずばりという。
「龍に乗って空を飛ばれたことは一度もありませんか? おひとりでなくとも」
 木綿花が尋ねるとラカが「ありませんわ」と告げる。
「あんなに固まっていると龍に緊張が伝わって、不安になってしまいます。龍も動きづらくて飛びにくくなります」
 ラカは緊張している自覚がなかった。木綿花はラカに自覚がないと気づいて、説明を止める。
「その緊張が何から来ているかを知らないといけないな……」
 木綿花の説明を引き取るようにレオーネは呟いた。ラカが高所恐怖症であるだろう推測から、どの傾向が強いのか場合分けしていた。対応するにあたり、そのどれに当たるかを調べる必要があった。
 ディーナがソウを撫でる。
「ソウちゃん、ラカさんのことを気遣ってくれてありがとうなの。でも、ラカさんが気づいてどかしたいのかを自分で決めないと、ラカさんはこのまま一生ソウちゃんと飛べなくなっちゃうと思うの。ラカさんには飛ぶことを自分がどう感じるか、飛ぶ感覚がどんあものか、今日わかってもらおうと思うの」
 ソウはディーナを見つめる。
「ソウちゃんは飛竜だし、ラカさんと仲良しだから一緒に問いたいのが本当の気持ちだと思うの。ハラハラすると思うけど、ちょっとの間見ていてもらえるかな。 それと、安全対策はしっかりとみんなとっていると思うけど、もし、ラカさんが急に飛び降りようとしたら助けてもらえるかな?」
 ディーナの説得により、ソウからの信頼を得た。
「むしろ、こっちの説得か」
 セイが苦笑して見ていた。ラカの状況を調べるのに嫉妬されても困る。
「で、ラカさんには今日はいろんな騎獣で空を飛んで、感覚に慣れてもらいたいの」
 ディーナはまず自分のリーリーを指す。
「その前に、一つ確認したいことがあるから、先にしてもいいか? 身の安定がされた状態で飛べるのかという点を確認しておきたい」
「なるほどなの」
 レオーネの意見にディーナが了解を示す。
「というわけで、キャリアーで飛んでみることにする」
 人を運ぶための手段であるため、ある程度固定はしっかりされる。飛び手が穏やかに飛び立ち下りることで、より安定的になる。
 レオーネが白霧の騎士のキャリアーに乗るよう示す。ラカにとっての初めてのことで緊張がみなぎっている。
「あ、トラオムに【森の午睡の前奏曲】かけながら乗ってもらえる?」
 まよいの問いかけにレオーネがひとまず「何もない状況でどうかの確認がしたい」と返答した。
「そうだね。一人で乗るっていうときに考えたほうがいいね」
「そうだな」
 まよいはひとまず見学することにした。このまま普通に飛べるようになるのが一番いいのだが、どうだかわからない。
「いくぜ」
 レオーネの指示で白霧の騎士が空に向かう。
 残されたものが見ていると、グリフォンは空を舞っていた。時々、突然高度が落ちるときがある。しばらく見ていると戻ってきた。
「ラカ、怯えているな……ネーベルが引きずられている……」
 人を運ぶために安定はしているはずであるが、ラカはびくびくしていた。笑顔のようだがひきつっている。
(本格的に高所が駄目なのか?)
 レオーネは不安になってラカを見ると、妙に元気に見えるが、空回りだろう。
「ラカさん、今のでわかったと思うの。飛ぶということは上がって落ちてくることなの。ボールを投げるのと同じなの。今度は、ラカさんにはそれを経験してもらおうと思うの」
「はい?」
 疑問の声を華麗にスルーして、ディーナはラカにリーリーに乗るように言う。ラカを前にして自分は後ろに乗り、ロープで自分たちをぎゅうと縛る。
「リーリーは走るの」
「ですよね?」
「でも跳ぶの」
「……」
 リーリーは走り出す。ラカは走るだけなため、緊張が解けてきている。
「リーリー、ジャンプなの!」
「クエー」
 リーリーは答えて羽をパタパタさせて跳んだ。
 乗っているとグンと上がるとき身を引かれるような力が加わり、ストンと下りる際はふわりと心臓を宙に置いたような感覚が伝わる。
 ディーナはラカが恐慌状態になることを想定はしていた。しかし、おとなしかった。縛ったロープが妙に引っ張られる。
「……えっ!? そこまで!? ラカさんを受け止めてほしいの」
 リーリーを止めて、ロープをほどき身長のあるセイが受け止める。
「気絶したっ!?」
 この瞬間、飛行訓練が停止した。

●休憩
 ヴォーイとアムはほぼバーベキューの準備は途中だ。飛行訓練の状況も見えるが声は聞こえない。
「にゃ」
「ん? もう飛べたのか?」
 ヴォーイに問われ、アムの表情が無になる。
「駄目という感覚か」
「にゃ」
 ヴォーイは準備を中断し、ポットにハーブを入れて湯を注ぎ煮る。
「お疲れ」
 ヴォーイが声をかけると、それぞれ返事があるが、一部非常に疲労が見られる。幻獣たちもどこか疲労している。
「ラカちゃんがふらついているじゃん?」
「実は、ラカ様、ふわーが駄目みたいです」
 木綿花は見たまま語った。
 ラカはしおれて座り込んでいる。そばでソウがおろおろしている。
「そういえば、ソウはラカと飛ぶ時どう思っているかってわかるかな」
 まよいはトラオムをずいっとソウに近づける。
「人の言葉は聞いてわかるみたいだけど、ワイバーンの言葉とか幻獣同士わかったりししないのかな?」
 トラオムは首を横に振る。ソウも横に振る。
「……むしろ、私の方が通訳できるのかな」
 トラオムとソウは首をかしげる。人間の言っていることを理解しているようだ。
「ディーナとのやり取りから、ソウはラカのこと好きなんだよね。空飛ぶのを我慢するのって、ラカがああなると思ったから?」
 ソウは首をかしげる。トラオムがラカの先ほどの真似をした。ソウは首を左右に揺らす。トラオムが妙な踊りをする。
「……通じていないよね」
 見ている分には可愛らしくていいが、話が進まなかった。
「俺は地に足が地に足がついているほうが好きだからなぁ。ワイバーンに乗れなくともよいだろうけれど、ラカは乗りたいんだよな? 馬も騎獣も、乗られれば乗った奴がどういう状態かはすぐにわかる」
 セイはラカにアドバイスと見たままを告げる。どういう状態かについては見ているほうも察したが黙っておく。
「ディーナも言っていたが、何かあれば一緒に生きて死ぬんだ。変な奴なんか乗せたくねぇだろうし、どんなに好きな奴でも死んだり怪我をしたりするかもしれないと思ったらやっぱり乗せたくはないだろう」
 幸い乗せてはくれる。
「お前、無意識に緊張して足を締めているとかあるんじゃないか? 怖がって落ちるかもしれないって、心配されているんだよ。愛されてるなぁラカ」
 セイは笑顔で、肩を叩こうとしたが、ラカが素早く逃げた。
「そうですわ。ソウ様はラカ様が乗っていなければ空を飛ぶのですよね?」
 木綿花の確認に、ラカが絶望的な顔になる。
「先ほどの実験もありますが、怖がっているのが伝わっているのです。だから、ソウ様はラカ様気は通じています。飛ばないのですわ。ラカ様が怖がりすぎて落ちたら大変です」
「そうなの。ソウちゃんはラカさんが大好きだから、ラカさんのこと心配しているの」
 ディーナの言葉にラカは膝を抱えてうずくまる。
「なあラカちゃん。ソウに乗って飛ぶのはコンビネーションじゃん!」
 ヴォーイはハーブティーをカップに注ぐ。ふわりと爽やかな香りが漂う。
「ここの準備は途中だけど、アムと俺がコンビで準備をしているんだぜ? 空を飛ぶのもそれと同じじゃん。俺のスキル【キント雲】……スキルで飛ぶのと違ってさ。リラックスして、再挑戦じゃん」
「でも……」
 カップを受け取りながらラカはウルウルした目で見上げる。
「ソウもラカも仲がいいんだろ? どこに原因があるかわかってんだから、訓練してみればいいじゃん?」
 勝気なラカが落ち込んでいるため、リーリーで気絶は堪えたようだった。
「安定してもだめ、高いというか揺れるのも苦手、木綿花にワイバーンで飛ぶというのはやってもらうとして……少しずつ慣れてみるしかないないぜ? ラカのソウへの信頼がどの程度かというのもあるけれど」
「そ、それは!」
 レオーナにラカは反論したかったが、自分の状況に自信が持てなくなっている。一方でソウが抗議した。ネーベルが割って入る。
「……ソウがそこまで信頼はしているというのは、ラカからの信頼もあるんだろう……」
 レオーネは苦笑した。
「じゃ、昼食まで再度いってこーい」
「にゃ」
 ヴォーイとアムに見送られ、一行は再度練習に向かった。

●ワイバーンの背に
 ラカは木綿花とともにアヴァの背に乗る。背後のラカの状況に、木綿花も不安になってきてしまう。
「トラオム、【森の午睡の前奏曲】をお願いね。ラカは武器出してくれていると助かる」
「え?」
「いざとなったら【マジックフライト】を掛けるから」
 スカートの中からモーニングスターを取り出す。
「あ、結構ごっつい……」
 まよいは気にしないことにした。
「ラカ様、行きますよ」
 木綿花は仲間のサポートもあるし、飛ぶことに集中しようと気持ちを落ち着け切り替える。
「絶対落ちません。何もなければ急降下はしません。そのため【リーリージャンプ】の体験はないです」
 木綿花は言って聞かせる。なるべく低いところを飛ぶつもりである。
「ですから、私とアヴァを信じてください」
「わ、わかりましたわ」
「ソウ様のためです」
 木綿花にしがみつくラカ。
 アヴァがトトと走ると翼を広げ、ふわりと舞った。
 それに合わせてまよいが【マジックフライト】で距離を詰めておく。
 レオーネはネーベルでアヴァと少し離れて並走するように飛ぶ。
 アヴァは無事空を飛ぶ。空と言っても地面すれすれであるが、飛ぶことは飛んだ。
「ワイバーンでも乗れそうなの、やったの」
「次はお前と飛べるようにするだけだな」
 ソウの側でディーナとセイがなだめていた。
 木綿花のワイバーン・アヴァは時々「え、飛んでいいんだっけ」と不安がる面を見せたが、無事着地までできた。
「ラカ様、ワイバーンの背だとこのような感じです」
 木綿花に問われているラカを見て、レオーネは安堵した様子を見せる。
「うん、まあ、何とかなるんじゃないかな。結局、ラカの飛ぶとどうなるかがわからない不安が大きかったことだろうね。ただ、やっぱり、ちょっとひきつる、顔」
 高いところが苦手なような気がすると告げておく。足がつくことがないと不安になるのかもしれない。
「次はソウだね。大丈夫だよ、さっきと同じ手順はしておくから」
 まよいが告げる。
「両手できちんと持っていたほうがいいと思うの」
「いっそのこと、トラウムを乗せてもらって歌ってもらうかしら」
「歌に集中したら落ちるの」
「そうよね」
「そうなの」
 ディーナの指摘にまよいはうなずく。歌うだけならば落ちることは少なそうだが、ラカと一緒に不測の事態に陥るのは困る。
「ラカ様、手綱をぎゅっと握っていれば、後はソウ様が運んでくれますわ」
 ラカはソウに乗り手綱を握る。背筋をピンと伸ばす。穏やかな曲が流れる横で深呼吸をしている。
「もしもはありませんわ。それに、もしものもしもがあれば私たちがいます」
 木綿花は落ちることはないことを強調した。誰が落ちるのかどう落ちるのかはわからないが。
 木綿花とレオーネがそれぞれ幻獣に乗り待機する。ラカが動いたあと動くだけだ。
「い、行きますわ」
「ラカ、笑顔!」
 まよいに指摘され、ラカがおろおろした。
 それでも、緊張がゆるんだのか、ソウはトトトトと走り翼を広げた。
「飛ぶのー」
「くええ」
 ディーナが声をかけるとリーリーもつられて声を上げる。
「勢いだ、ラカ」
 セイも声をかける。
 木綿花とレオーネは幻獣でラカと併走しているが、ソウはなかなか飛ばない。
「大丈夫ですよ、ソウ」
 ラカはささやいた。
(落ちたとしてもソウのせいではありません。それに、せっかくうちに来てくれたのにこれでは可哀相です)
 ラカは力を抜いた。どうにかなるし、もしもの時は周りの人がソウを助けてくれると考えた。自分が落ちるより、ソウに何かあったら悪いと常々思っていた。
 ソウは応えるように、翼を広げ羽ばたいた。
「ラカ様! ソウ様!」
 木綿花は用心して近づき声をかけた。
「どうなるかと思ったけど」
 レオーネは安堵した表情でラカを見た。その表情は明るかった。

●これから
 双眼鏡でラカの状況を見ていたヴォーイは喜びの声をあげた。アムが一緒になって何か言う。
「よし、これで、心おきなくランチタイムじゃん」
「にゃ」
「ちょっと呼びに行ってくるから食材を見張り待っていてくれ」
「にゃ」
 アムはうなずく。
 ヴォーイはスキルの【キント雲】を用いてラカ達の方に向かう。
「ラカちゃん、おめでと! 昼飯にするぜ」
「まだ飛びたいです」
「逃げないから、ソウも飛ぶことも」
 先ほどの落ち込み具合が不思議なほどの変わりようだった。
 ヴォーイは先に戻ると火をおこし、最後の準備をして待つ。
 着地したラカをディーナとセイが出迎える。
「おめでとうなのー」
「まだこれから慣れていかないとな。でもま、飯にしようぜ? せっかくにピクニック日和だしな!」
 ラカはうなずく。表情は晴れ晴れとしている。
「良かったよー。もしものもしもはなかったね。もっと飛びたいって思った?」
 まよいは少し離れたところを【マジックフライト】で飛んでいた。地面を下りてからトラオムの頭をなでる。
「はい」
 ラカの目がキラキラしている。
「下りるときちょっと怖かったです」
「それがわかればいいんじゃないの? 後はソウが頑張ってゆっくり下りる練習だね」
 まよいがソウに向かう。ソウは何か言いたげにそっぽを向いた。
 翼による風が起こり、レオーネとネーベル、木綿花とアヴァが下りてくる。
「意外とあっさり乗りこなせたな。この調子でソウと信じて練習するんだな」
 レオーネがラカの高所恐怖症は空という不安定な場所への不安が織りなすものだったと結論付けた。
「そうですね。そういえば、ソウ様はどういうご縁でお迎えされたのですか? モニちゃんといい、ラカ様は動物がお好きなのですね」
 木綿花の言葉にラカはキョトンとなる。
「そこにいたからですわ」
「え?」
「そうですね……この辺りが青龍さまに似ているからかもしれません」
 ラカに言われてみたところで、青龍を知っていても似ているかわからない。
「動物好きなのかはわかりませんが最近モフモフというものには興味がありますわ」
 ラカが首を傾げいている。
「自覚がないのでしょうか?」
「たぶん、枠が違うんだな」
 木綿花にレオーネが説明した。
「無事、解決なの。そして、お昼なのー」
 ディーナはリーリーに乗ると駆け抜ける。ラカたちも追うように走り出した。

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MVP一覧

  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレka1441

  • ヴォーイ・スマシェストヴィエka1613

重体一覧

参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    トラオム
    トラオム(ka1328unit001
    ユニット|幻獣
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ネーベルリッター
    白霧の騎士(ka1441unit003
    ユニット|幻獣

  • ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613
    人間(紅)|27才|男性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    ユグディラ
    アム(ka1613unit003
    ユニット|幻獣
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    リーリー
    リーリー(ka5843unit001
    ユニット|幻獣
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    アヴァ
    アヴァ(ka6927unit001
    ユニット|幻獣
  • 死を砕く双魂
    セイ(ka6982
    ドラグーン|27才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン そ~らを自由に、飛びたいな~♪
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613
人間(クリムゾンウェスト)|27才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/08/20 20:48:28
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/08/20 13:43:38