ゲスト
(ka0000)
ルーサー、王都への旅立ち(急流!筏下り
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/24 09:00
- 完成日
- 2018/09/01 03:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国北東部、フェルダー地方── 王国の円卓会議に出席権を持つ大貴族ダフィールド侯爵家の四男坊ルーサーは、その日、旅立ちの朝を迎えていた。王都イルダーナにある王立学園に入学する為、長年住み慣れた故郷を離れるのだ。
背嚢に背負う荷物は必要最小限──長旅をする者の心得だ。身に纏った旅装は巡礼者の装束。王国をグルリと巡る巡礼者たちの為の──即ち、『徒歩での旅』に最も適した恰好だった。
「本当に馬車は使わなくても構わんのか?」
「はい、父上。馬車には良い思い出がありませんし……それに、幸い、歩き旅には慣れておりますし」
館の玄関前のロータリー──見送りに出た大勢の使用人たちの前で、苦笑を交えながらルーサーがそう答えると、前侯爵家当主ベルムドはそうか、と呟き、肩を落とした。
「では、ルーサー。楽しんでこい。王都での生活は……刺激的だぞ?」
「あはは…… 肝に銘じます」
父親と使用人たちに手を振って見送られ、ルーサーは故郷を、オーサンバラを後にした。旅を共にするのは使用人ではなく、護衛として雇われたハンターたちだ。
ルーサーたっての希望でそうなった。……少年はとある事情からハンターたちと共に旅をしたことがあった。狭い世界しか知らなかった自分に、彼らは多くのことを教えてくれた。
オーサンバラを出たルーサーはニューオーサンの街を経由して、兄たちの仕事場に赴いて出立の挨拶をしてから、大河エリダスの船着き場へと続く川沿いの街道を上った。この場合の『上る』というのは『王都に上る』という上り下りの上りであって、川と道路自体は下流・低地に向かって下っているのでややこしい。
「オーサン川。大河エリダスに流れ込む支流の一つで、別称を『宝石の川』と言います。水深も浅く流れも急で水運には向かない川ですが、その別称が示す通り、ニューオーサンの街で研磨された宝石や宝飾品などをエリダスまで運ぶのに使われています」
街道の傍らを流れる広い川原を示しながらルーサーがハンターたちに地元の名勝の解説を始める。
「並の船乗りにはまともに下れぬ急流ですが、とある地元の川族だけが先祖代々口伝で伝えられてきた秘密の航路を知っていたそうです。それをご先祖様が雇ったのですね。昔は山賊の跋扈する陸上を輸送するよりずっと安全でたくさんの荷物を手早く運べるとニューオーサンの宝石流通のほぼ全てを占めていて……っと、噂をすれば、ですね。見てください、あれが『宝石筏』です!」
実際に目にするのは自分も初めてだ、とその瞳を輝かせてルーサーが指を差す。
その指し示す先──白波が岩に砕ける急流の只中を、百足の様に幾つも連結された筏が下って来る様が見えた。手にした棒一本で器用に筏を操る船頭たち──複数の船頭たちの手によって数珠繋ぎの筏がクネクネと岩場を抜けて行く様は、見ようによっては川を下る龍の様にも見えなくもない。
「すごいすごい……まさに伝統芸……失礼、職人芸でしたね……!」
自分たちを追い抜いて流れていく筏の群れを見送って…… ルーサーは感嘆の吐息を漏らした。
「……今は街道が整備され、山賊の類も軒並み討伐されて、昔と比べれば陸路も随分と安全になりました。知ってますか? ソード兄様が所属する広域騎馬警官隊も元々は川賊の討伐を目的に組織され、それが後にオーサン川の水運警備、街道警察を経て今の広域治安維持組織へと発展したものなんです。……いずれは宝石の流通も陸路がメインになっていくのでしょう。宝石筏の姿は消えて、船頭たちの技術の継承も途絶えて…… それはとても悲しいことです」
でも、それはちょっともったいないなぁ、あんなに凄い技術なのに── ルーサーはぶつぶつと思索を続ける。
(──あれに乗ったらきっと楽しい。レジャー化できれば観光資源になるのではなかろうか。うん、文化遺産として技術の継承も出来るし、卒業したらカール兄様に頼んで事業化を任せてもらおうかな? その際、問題は安全面が懸念されることだけど──)
……王立学園への入学が決まった後。ルーサーは家庭教師を雇い直して、小さい頃は苦手で聞き流していた学問を再びやり直していた。ダフィールド侯爵領やグラズヘイム王国の歴史──ただ単語や数字を覚えるのではない、政治史としての生きた歴史を学び。その理解を支える為の広範な知識を、文学を、法律を、宗教を、社会を、国家論を、文化論を、人々の生活を、人間と言うものを改めて身に着けた。並行して身体の鍛錬も続け、以前はぽっちゃりとしていた体型も随分と引き締まっている。全てはハンターたちの教えに端を発したものだ。
「一人前の大人になる。ハンターの皆のような立派な大人に」
それが当座のルーサーの目標だった。たとえ今後の人生がどう転ぶにせよ……
川沿いの道を南下していたルーサーが、その光景に気付いて脚を止めたのはそれから一時間程後のことだった。
先程、傍らの川面を通り過ぎて行った宝石筏なのだろう。とっくにエリダスに向かって下っているはずの一繋ぎの筏が、なぜか川岸に船を寄せて止まっていた。
「何があったんです?」
現場へ駆け寄ったルーサーが身分を明かして訊ねると、船頭たちは困ったように川下を指差した。
そちらに目を向けると、山陰に日の入った夕方前の薄暗い急流の光景の中に── 川面の上にフワフワ漂う多数の『炎』が揺らめき、煌いていた。
「なんです、あれは…… 『空飛ぶランタン』?」
「分からんのです。まるで鬼火じゃ。幸い、早めに気付いて舟を岸に寄せれたものの、ああやって川面に浮いたままあの場から離れんのです。正体も知れん内に迂闊に近づくわけにもいかず…… まったく、荷物を届けなけりゃならんというに……」
ルーサーはハンターたちを振り返った。皆さんであの『空飛ぶランタン』──『鬼火』たちを掃討することは出来ないか?
ハンターたちは思案した。……オーサン川は急流だ。戦闘はおろか、生身で川に入ることもできない。船を浮かべてその上で戦おうにも、流れが早くてその場には留まれない。
「掃討は無理、か……」
ルーサーもまた考え込んだ。……掃討は無理との判断。だが、待てよ? 今、必要なのは掃討か? あの正体不明のアレを滅ぼすのは、本格的に準備を整えて来る後続に任せてしまえばよいのではないか? 自分たちがまず考えるべきことは……この目の前で困っている人たちを助け、無事に荷を届けさせること──
ルーサーの目が輝いた。合法的(?)に宝石筏に乗る方法を見つけてしまったのだ。
「船頭さん」
ルーサーが興奮を隠し切れずに伝えた。
「お急ぎと言うことならアレを突破しましょう。僕たちを乗せて筏を出すことはできますか?」
背嚢に背負う荷物は必要最小限──長旅をする者の心得だ。身に纏った旅装は巡礼者の装束。王国をグルリと巡る巡礼者たちの為の──即ち、『徒歩での旅』に最も適した恰好だった。
「本当に馬車は使わなくても構わんのか?」
「はい、父上。馬車には良い思い出がありませんし……それに、幸い、歩き旅には慣れておりますし」
館の玄関前のロータリー──見送りに出た大勢の使用人たちの前で、苦笑を交えながらルーサーがそう答えると、前侯爵家当主ベルムドはそうか、と呟き、肩を落とした。
「では、ルーサー。楽しんでこい。王都での生活は……刺激的だぞ?」
「あはは…… 肝に銘じます」
父親と使用人たちに手を振って見送られ、ルーサーは故郷を、オーサンバラを後にした。旅を共にするのは使用人ではなく、護衛として雇われたハンターたちだ。
ルーサーたっての希望でそうなった。……少年はとある事情からハンターたちと共に旅をしたことがあった。狭い世界しか知らなかった自分に、彼らは多くのことを教えてくれた。
オーサンバラを出たルーサーはニューオーサンの街を経由して、兄たちの仕事場に赴いて出立の挨拶をしてから、大河エリダスの船着き場へと続く川沿いの街道を上った。この場合の『上る』というのは『王都に上る』という上り下りの上りであって、川と道路自体は下流・低地に向かって下っているのでややこしい。
「オーサン川。大河エリダスに流れ込む支流の一つで、別称を『宝石の川』と言います。水深も浅く流れも急で水運には向かない川ですが、その別称が示す通り、ニューオーサンの街で研磨された宝石や宝飾品などをエリダスまで運ぶのに使われています」
街道の傍らを流れる広い川原を示しながらルーサーがハンターたちに地元の名勝の解説を始める。
「並の船乗りにはまともに下れぬ急流ですが、とある地元の川族だけが先祖代々口伝で伝えられてきた秘密の航路を知っていたそうです。それをご先祖様が雇ったのですね。昔は山賊の跋扈する陸上を輸送するよりずっと安全でたくさんの荷物を手早く運べるとニューオーサンの宝石流通のほぼ全てを占めていて……っと、噂をすれば、ですね。見てください、あれが『宝石筏』です!」
実際に目にするのは自分も初めてだ、とその瞳を輝かせてルーサーが指を差す。
その指し示す先──白波が岩に砕ける急流の只中を、百足の様に幾つも連結された筏が下って来る様が見えた。手にした棒一本で器用に筏を操る船頭たち──複数の船頭たちの手によって数珠繋ぎの筏がクネクネと岩場を抜けて行く様は、見ようによっては川を下る龍の様にも見えなくもない。
「すごいすごい……まさに伝統芸……失礼、職人芸でしたね……!」
自分たちを追い抜いて流れていく筏の群れを見送って…… ルーサーは感嘆の吐息を漏らした。
「……今は街道が整備され、山賊の類も軒並み討伐されて、昔と比べれば陸路も随分と安全になりました。知ってますか? ソード兄様が所属する広域騎馬警官隊も元々は川賊の討伐を目的に組織され、それが後にオーサン川の水運警備、街道警察を経て今の広域治安維持組織へと発展したものなんです。……いずれは宝石の流通も陸路がメインになっていくのでしょう。宝石筏の姿は消えて、船頭たちの技術の継承も途絶えて…… それはとても悲しいことです」
でも、それはちょっともったいないなぁ、あんなに凄い技術なのに── ルーサーはぶつぶつと思索を続ける。
(──あれに乗ったらきっと楽しい。レジャー化できれば観光資源になるのではなかろうか。うん、文化遺産として技術の継承も出来るし、卒業したらカール兄様に頼んで事業化を任せてもらおうかな? その際、問題は安全面が懸念されることだけど──)
……王立学園への入学が決まった後。ルーサーは家庭教師を雇い直して、小さい頃は苦手で聞き流していた学問を再びやり直していた。ダフィールド侯爵領やグラズヘイム王国の歴史──ただ単語や数字を覚えるのではない、政治史としての生きた歴史を学び。その理解を支える為の広範な知識を、文学を、法律を、宗教を、社会を、国家論を、文化論を、人々の生活を、人間と言うものを改めて身に着けた。並行して身体の鍛錬も続け、以前はぽっちゃりとしていた体型も随分と引き締まっている。全てはハンターたちの教えに端を発したものだ。
「一人前の大人になる。ハンターの皆のような立派な大人に」
それが当座のルーサーの目標だった。たとえ今後の人生がどう転ぶにせよ……
川沿いの道を南下していたルーサーが、その光景に気付いて脚を止めたのはそれから一時間程後のことだった。
先程、傍らの川面を通り過ぎて行った宝石筏なのだろう。とっくにエリダスに向かって下っているはずの一繋ぎの筏が、なぜか川岸に船を寄せて止まっていた。
「何があったんです?」
現場へ駆け寄ったルーサーが身分を明かして訊ねると、船頭たちは困ったように川下を指差した。
そちらに目を向けると、山陰に日の入った夕方前の薄暗い急流の光景の中に── 川面の上にフワフワ漂う多数の『炎』が揺らめき、煌いていた。
「なんです、あれは…… 『空飛ぶランタン』?」
「分からんのです。まるで鬼火じゃ。幸い、早めに気付いて舟を岸に寄せれたものの、ああやって川面に浮いたままあの場から離れんのです。正体も知れん内に迂闊に近づくわけにもいかず…… まったく、荷物を届けなけりゃならんというに……」
ルーサーはハンターたちを振り返った。皆さんであの『空飛ぶランタン』──『鬼火』たちを掃討することは出来ないか?
ハンターたちは思案した。……オーサン川は急流だ。戦闘はおろか、生身で川に入ることもできない。船を浮かべてその上で戦おうにも、流れが早くてその場には留まれない。
「掃討は無理、か……」
ルーサーもまた考え込んだ。……掃討は無理との判断。だが、待てよ? 今、必要なのは掃討か? あの正体不明のアレを滅ぼすのは、本格的に準備を整えて来る後続に任せてしまえばよいのではないか? 自分たちがまず考えるべきことは……この目の前で困っている人たちを助け、無事に荷を届けさせること──
ルーサーの目が輝いた。合法的(?)に宝石筏に乗る方法を見つけてしまったのだ。
「船頭さん」
ルーサーが興奮を隠し切れずに伝えた。
「お急ぎと言うことならアレを突破しましょう。僕たちを乗せて筏を出すことはできますか?」
リプレイ本文
そんなこんなで感動の再会を果たして~(字数……
かくして、ルーサーとハンターたちは、多数のランタン型魔法生物が発生した川面を、宝石筏を守って突破することとなった。
連結された7つの筏、それぞれに積まれた宝石木箱── 4人の船頭たちは普段通り均等に筏の上に立ち。ハンターたちもまた全ての筏に乗り込んで守り手を配置する。
「ふーん、川面は随分と涼しいんだ…… 良いね、街道の旅ではきっと味わえなかったよ」
「夏の風情があるねぇ。……もっとも、ここからアトラクション側に針が振り切れるんだけど」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)とレイン・レーネリル(ka2887)の言う通り、川岸から離れてすぐの辺りは流れはまだ緩やかだったが、川の中央付近へ向かうにつれて徐々に流れが速くなっていく。
やがて…… ──もしこれが夜であったらどれだけ幻想的な光景であっただろうか。行く手の川面の上、宙に浮かんでふわふわ漂う『ランタン』たちが姿を表した。
「さて、どうやって突破したものかな…… 基本は宝石の木箱を一人一箱守る形になるのかな? 命綱は付ける?」
「……とりあえず命綱は付けておきましょう。できれば、船頭さんたちにも付けてもらえれば安心なのですが……」
イレーヌ(ka1372)の言葉にアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が船頭たちを振り向いて訊ねると、彼らは顔を見合わせ、頭を振った。……彼らは急流の中、次々と来る難所を右へ左へ、水棹で岩や水底を衝いて筏を操らなければならない。命綱は邪魔になる。
「わ、私はもちろん命綱付けるよ! 私泳ぐのあまり好きじゃないし!」
「と言うか、レインおねーさん、そもそも泳げなもごぉ!?」
何かを暴露しようとしたルーエルの口に、レインがフランスパンを突っ込む。
「あ、そーだ! 私の命綱はルー君と結ぼうかな! 一蓮托生、死なば諸共……! って、ルー君、本気で嫌そうな顔したね? おねーさん、見逃さなかった」
「嫌だよ。共に死ぬなんて。共に生きる方がずっといい」
「ふぁっ!?」
本気で不機嫌になったルーエルに思わず瞳を潤ませるレイン。思わず飛びつこうとした彼女は、しかし、ヴァイス(ka0364)の声に自重した。
「皆、気を付けろ。そろそろ奴らの『縄張り』に入るぞ」
アデリシアと共に先頭の筏に立ったヴァイスが後ろを振り返らず皆に声を掛けた。彼は船頭たちと同様に命綱を付けていなかった。船頭を守る為、自身の身の安全より行動の自由を優先したのだ。
「ルーサーは落ちないよう、真ん中でしっかり踏ん張っていてくださいね……」
ルーサーと共に二枚目の筏に乗ったサクラ・エルフリード(ka2598)が得物を構えながら指示を出す。少年は自身の命綱をしっかり結ぶと、動じる気配も見せずに力強く頷きを返した。
「ほぅ。成長しているようで何よりでやがります」
その光景を見やってニヤリと笑いながら、シレークス(ka0752)が盾を筏に衝き、仁王立ちでランタンたちの方を見やる。
「……あの形状から察するに、攻撃手段は炎絡みでしょうか」
「宝石は火に炙られると価値が無くなると聞くよ。そう言う意味では相性最悪じゃない?」
警戒しつつ見やりながら、アデリシアとルーエルが呟く。ディーナ・フェルミ(ka5843)はじっと目を凝らしてその『灯り』の様子を窺った。……負のマテリアルは感じられなかった。どうやら歪虚ではないらしい。
更にディーナは宝石の小箱に歩み寄り、その傍にしゃがみ込んで小首を傾げた。中の宝石にジッと目を凝らしてマテリアルを感じ取ろうとするも……特に何の意志も感じない。
(精霊でもなく、歪虚でもないのなら…… このまま通り抜けられないかな……?)
ディーナの願いは叶わなかった。接近するこちらに気付いたのか、ビー、ビー、というブザー音を立てながら、ランタンたちがその内部の炎を赤く激しく明滅させ始めたのだ。それはリアルブルー出身者ならずとも嫌な予感を想起させるに十分だった。
「あれは……ここは立ち入り禁止だとでも警告しているのかな?」
「来ます!」
こちらの行く手を阻む様に、かつ取り囲むように空中を移動して来るランタンたち。アデリシアは先頭の船頭に戦神の加護を付与すると、先頭の筏をすっぽり覆うように『ディヴァインウィル』──不可侵の結界を張り、突破に備えた。
「下手に攻撃してこちらに被害が出るのも困りますが……通してくれないというなら、排除するしかないですね……」
サクラはガンソードを構えると、前方針路上の敵へと向けて発砲を開始した。ヴァイスもまた筏の先頭に立って『先駆け』となり、足場が悪さも物ともせずに正確に七支槍を振るって肉薄して来たランタンたちを次々と叩き落す。
砕け散るランタン── だが、そのまま四散すると思えた炎はまるで枷から解き放たれたが如く膨れ上がり、一回り大きな火球へと化してこちらへ体当たりを仕掛けて来た。迫るそれに向かって『シャドウブリット』放って迎撃するアデリシア。影の弾丸の直撃を受けた炎の塊が一瞬、震えて爆散し…… しかし、迫るランタンの数は余りに多い。
だが……
「今でやがります!」
シレークスの号令と共に、彼女を初めとする『ディヴァンウィル』持ちののハンターたちが同時に、筏の連なりをほぼ覆い尽くさんばかりの勢いで不可侵の結界を張り巡らせた。こちらに肉薄せんと迫っていたランタンたちが、突如、見えざる壁にぶつかったが如く次々と空中でその足を止める。
「……やったの! 防げたの!」
後尾で結界を張りつつ歓喜の声を上げるディーナ。その間も筏は敵の只中を流れて進み、ディーナがバイバイと小さく手を振る。
「……このまま魔法の守りだけで突破できるなら、それに越したことはないのですが……」
サクラの懸念はすぐに現実のものとなった。接近もかなわず、流れゆく筏の両脇を縋るように追い掛けて来たランタンたちが、5秒後、先頭の筏から順に随時、左右から襲い掛かってきたのだ。
「え、なんで!?」
叫ぶルーサー。これまで不可侵の結界には何度も助けられた。それが今回に限ってあっけなく再侵攻を許すなんて……!
イレーヌは、状況を察するや否や出来得る限りの高速詠唱で以って『ジャッジメント』を立て続けに投射した。放たれた光の杭によって、そのまま空中に繋ぎ留められたランタンたちが、こちらを追い掛けることも出来ずに後方へと落伍していく。
「空中に固定してしまえば、筏は常に動いているから自動的に離れて行く…… それは予測の範疇だったけど」
……だが、それは結界もまた同様だったのだ。『ディヴァインウィル』は『空間』を対象に取るもの──即ち、不可侵の結界もまた後方へと置き去りにされてしまうのだ。
「いやはや、楽をさせてはくれないな」
すぐに全ての杭を放ち終えてしまい、溜め息を零しながら、イレーヌ。彼女は迫るランタンたちに対し、五本指付きの巨大な魔導ガントレットを構えて肉弾戦に備えた。
「前方に岩場! 難所を抜けるぞ。全員、急な転回に注意しろ!」
先頭の筏の上。前方地形に気付いたヴァイスが皆に警告を発した。
川底地形の複雑化により荒さを増す川の水流。筏が激しく揺れ動き、飛び散った水飛沫がハンターたちの身体を激しく叩く。槍を水平に構えたヴァイスが筏に踏ん張り、波乗りの如く荒波を越える。
そんな中でも、船頭たちは先祖伝来の技能を用いて、くねくねと蠢く蛇の様に筏を操り、岩場の間を抜けていく。特に重要なのは先頭の船頭だ。針路を決める彼が失敗すれば、筏は岩に激突し、瞬く間にバラバラになってしまうだろう。
「ランタンはただの防具か枷だ。中の種火が本体だ。なるべくカンテラ部分を割らないように注意していこう」
巨大籠手の手刀の手刀でランタンの炎をを貫き、握り潰して消して、『抜け殻』を振り捨てつつ告げるイレーヌ。ハンターたちもまた急所を狙って得物を突くが、足下の揺れは益々激しくなるばかりで、立っているのも難しい。とは言え、敵を迎え撃たないわけにもいかず、結果、火炎の塊となった敵が次々と突っ込んで来る羽目になる。
「わわわ……っ!」
筏と筏を繋ぐロープを炎で炙られ、慌てて水を掛けて消すディーナ。その背後より迫った別の炎を、間に立ちはだかったレインが『攻勢防壁』でばちこ~んと弾き飛ばす。
「ルーサー。訓練の通りに、その場で動かず、冷静に」
ガンソードによる銃撃からの剣戟へと移行しつつ、サクラはルーサーを庇って──足を滑らせたところを逆に助けられたりしながら──戦った。シレークスもまた身体を張って木箱と船頭を守り抜き。ルーエルもまた船頭たちへ回復の光を飛ばし続けてその命を繋ぎ留める。
だが、そんな奮闘を続けるハンターたちの行く手──筏の先頭側へと回り込んだランタンたちが、こちらと速度を合わせるように展開し……まるで凹面鏡の様な『壁』を前面に作り出した。ランタンの内部でキラリと光を放つ反射鏡──それが一面、炎を反射し、光の壁となってこちらを照らし出す。
周囲で急激に高まった暑さが熱さへ変わる中──ハッと息を呑んで危機的状況を察したアデリシアは船頭を背後に庇いつつ、『ホーリーヴェール』の加護を与えると続けざまに回復魔法を注ぎ込んだ。「グアッ……!」と呻く船頭。その悲鳴は焦熱によるものではなかった。圧倒的な光の壁にその視界を灼かれてのものだった。
操船が乱れ、より一層大きく跳ねる筏── 瞬間、それまで我が身の危険を顧みずに奮戦を続けて来たヴァイスが思わず筏に槍を突き立て、行動の自由を失った。船頭の盲目状態に気付いたアデリシアは、しかし、防御と回復で船頭の身を守ることに手一杯だ。
レインが真剣な表情でルーエルを振り返った。その意図に気付いたルーエルは一瞬、躊躇ったものの。その意を組んで『筏に結んだ命綱』を星剣で以って断ち切った。
「ありがと。ルー君!」
レインは『ルーエルとの間の命綱』のみを残して先頭目指して筏を跳び渡った。その脳裏には故郷での出来事が走馬灯のようにめくるめく。
(あ、足場の悪さには慣れてるんだからねっ! いつも獣道を愛車でかっ飛ばしてんだしっ! ……タイヤが宙に浮いててブレーキ利かなかったけど。結果、勢いよく池の中にダイブしたけど!)
半分涙目になりながら筏を飛び渡っていったレインが、先頭の船頭に対して機導術で盲目の状態異常を吸い上げる。瞬間、視界を回復した船頭が、衝突の寸前、前方の岩に棒を衝き立てた。波飛沫を蹴立てて急激に進路を変えつつ、岩の傍らをすり抜ける先頭筏。ハンターたちが守った二人目、三人目ら後続の船頭たちも同様の操船で針路を繋ぎ……百足の如き筏の連なりがこの日一番の難所を抜ける。
「よしっ!」
体勢を立て直したヴァイスがランタンを槍の穂先で貫きながら、船頭たちを回復しつつ、その労をねぎらい、激励する。
「大丈夫か? もうひと踏ん張りよろしく頼むぜ……!」
勢いあまって川へと落っこちたレインを命綱を引っ張って回収するルーエルたちの光景に、だが、まるで怖がる素振りも見せず、ぴょんこぴょんこと先頭の筏へとやって来たディーナが究極の対状態異常魔法『ゴッドブレス』の加護を先頭の船頭に向かって付与をした。状態異常を直すだけでなく、その後の抵抗力を高め、異常の強度も弱める──非常な集中力を擁する高位の魔法だったが、足場も悪い中、ディーナは一発でそれを成功させた。
「さて、となれば残る問題は……」
シレークスが前方、凹面鏡と化したランタンたちを見やった。流れる筏と速度を合わせて距離を取りつつ、焦点を当てて来るその敵に、だが、ハンターたちの持つ飛び道具の数は余りに少ない。足場も悪い。
「だったら……!」
シレークスは筏の守りを仲間たちに託して魔箒に跨ると、ふわりと空へと浮上した。そして、凹面隊形を組む敵の真上へと移動すると、両手で持ち上げた魔導炮烙玉に火を入れ、どっせ~い! と真下へ投げ下ろした。
……ひゅ~と落ちて行った炮烙玉がガシャリとランタンを直撃しつつ、敵の只中で爆発し。飛び散った破片がランタンを破壊し、火の球を膨れ上がらせる。
「どーですか、おらあ! 巷の修道女舐めんじゃねぇです!」(違
バラけたランタンたちに○指を立てながら、シレークスは『ソウルトーチ』を焚いて敵の『目』を惹き付けると、その半数近くを引き連れて対岸へ──筏から離れる方向へと向かった。箒の魔力が尽きれば鎧の飛行翼を展開してそちらへ切り替え。それも切れると対岸へと下り立ち、地上を走って敵を惹き付ける。
途中、何かの遺跡らしき入口からボロボロになって出て来た考古学者2人と鉢合わせになったが、問答をしている余裕はなかった。3人はなぜか一緒になって、ランタンから逃げ続けることとなった……
●
「……どうやら無事に突破できたみたい、かな? いったいアレはなんだったんだろう……」
夕方── 最後まで追い縋って来たランタンたちの姿もなくなり、流れも穏やかになった川の上で。ルーエルはホッと息を吐いて座り込んだ。
安全を確認し、被害状況の確認と回復の為に筏を見回るヴァイス。途中、ルーサーと顔を合わせ、逞しさを増した少年とニヤリと笑って拳を合わせる。
「宝石なら地でアメンスィ、火ならサンデルマンの眷属かなって思ったけど……結局何だったのかなぁって思うの。宝石筏の急流下りはとっても面白かったけど」
「んー、しかし勿体ない。空飛ぶランタンとか、制御出来れば商売になりそうだよね。ほらホタルの替わりになるし。ホタルも綺麗だけど、近づかれるとねぇ。虫だし。それにしてもあのランタン良いねぇ。一個持って帰りたいくらい」
そう言うディーナとレインを含め、ハンターたちは皆、水飛沫ですっかりビショビショになっていた。あれだけ暑かったというのに、今はかえって寒いくらいだ。
「すっかり濡れて身体が冷えてしまったな。宿に着いたら皆で風呂に入らないか?」
そう提案しながら鎧を外すイレーヌは、下に水着を着こんでいた。いや、ただの水着姿なんだが鎧の下だと妙に艶めかしく……ただ一人、アデリシアだけが「実用的ですね」と親指を上げて見せた。
目的地、オーサン川とエリダス川の合流地点──
別行動を取っていたシレークスがボロボロになって帰還した。道なき道、木々の只中を突破したためか、聖衣のあちこちが破れ、穴が空いている。
「あ~、もう、草臥れたです……」
今回の一件、古都アークエルスの遺跡考古学者たちが付近の遺跡で罠に掛かって防衛装置を起動させてしまったために起こったとか──シレークスから事情を聞いたサクラは、開いた口が塞がらなかった。
「……後でお仕置きにいかないといけませんね」
サクラはポツリと呟いた。
かくして、ルーサーとハンターたちは、多数のランタン型魔法生物が発生した川面を、宝石筏を守って突破することとなった。
連結された7つの筏、それぞれに積まれた宝石木箱── 4人の船頭たちは普段通り均等に筏の上に立ち。ハンターたちもまた全ての筏に乗り込んで守り手を配置する。
「ふーん、川面は随分と涼しいんだ…… 良いね、街道の旅ではきっと味わえなかったよ」
「夏の風情があるねぇ。……もっとも、ここからアトラクション側に針が振り切れるんだけど」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)とレイン・レーネリル(ka2887)の言う通り、川岸から離れてすぐの辺りは流れはまだ緩やかだったが、川の中央付近へ向かうにつれて徐々に流れが速くなっていく。
やがて…… ──もしこれが夜であったらどれだけ幻想的な光景であっただろうか。行く手の川面の上、宙に浮かんでふわふわ漂う『ランタン』たちが姿を表した。
「さて、どうやって突破したものかな…… 基本は宝石の木箱を一人一箱守る形になるのかな? 命綱は付ける?」
「……とりあえず命綱は付けておきましょう。できれば、船頭さんたちにも付けてもらえれば安心なのですが……」
イレーヌ(ka1372)の言葉にアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が船頭たちを振り向いて訊ねると、彼らは顔を見合わせ、頭を振った。……彼らは急流の中、次々と来る難所を右へ左へ、水棹で岩や水底を衝いて筏を操らなければならない。命綱は邪魔になる。
「わ、私はもちろん命綱付けるよ! 私泳ぐのあまり好きじゃないし!」
「と言うか、レインおねーさん、そもそも泳げなもごぉ!?」
何かを暴露しようとしたルーエルの口に、レインがフランスパンを突っ込む。
「あ、そーだ! 私の命綱はルー君と結ぼうかな! 一蓮托生、死なば諸共……! って、ルー君、本気で嫌そうな顔したね? おねーさん、見逃さなかった」
「嫌だよ。共に死ぬなんて。共に生きる方がずっといい」
「ふぁっ!?」
本気で不機嫌になったルーエルに思わず瞳を潤ませるレイン。思わず飛びつこうとした彼女は、しかし、ヴァイス(ka0364)の声に自重した。
「皆、気を付けろ。そろそろ奴らの『縄張り』に入るぞ」
アデリシアと共に先頭の筏に立ったヴァイスが後ろを振り返らず皆に声を掛けた。彼は船頭たちと同様に命綱を付けていなかった。船頭を守る為、自身の身の安全より行動の自由を優先したのだ。
「ルーサーは落ちないよう、真ん中でしっかり踏ん張っていてくださいね……」
ルーサーと共に二枚目の筏に乗ったサクラ・エルフリード(ka2598)が得物を構えながら指示を出す。少年は自身の命綱をしっかり結ぶと、動じる気配も見せずに力強く頷きを返した。
「ほぅ。成長しているようで何よりでやがります」
その光景を見やってニヤリと笑いながら、シレークス(ka0752)が盾を筏に衝き、仁王立ちでランタンたちの方を見やる。
「……あの形状から察するに、攻撃手段は炎絡みでしょうか」
「宝石は火に炙られると価値が無くなると聞くよ。そう言う意味では相性最悪じゃない?」
警戒しつつ見やりながら、アデリシアとルーエルが呟く。ディーナ・フェルミ(ka5843)はじっと目を凝らしてその『灯り』の様子を窺った。……負のマテリアルは感じられなかった。どうやら歪虚ではないらしい。
更にディーナは宝石の小箱に歩み寄り、その傍にしゃがみ込んで小首を傾げた。中の宝石にジッと目を凝らしてマテリアルを感じ取ろうとするも……特に何の意志も感じない。
(精霊でもなく、歪虚でもないのなら…… このまま通り抜けられないかな……?)
ディーナの願いは叶わなかった。接近するこちらに気付いたのか、ビー、ビー、というブザー音を立てながら、ランタンたちがその内部の炎を赤く激しく明滅させ始めたのだ。それはリアルブルー出身者ならずとも嫌な予感を想起させるに十分だった。
「あれは……ここは立ち入り禁止だとでも警告しているのかな?」
「来ます!」
こちらの行く手を阻む様に、かつ取り囲むように空中を移動して来るランタンたち。アデリシアは先頭の船頭に戦神の加護を付与すると、先頭の筏をすっぽり覆うように『ディヴァインウィル』──不可侵の結界を張り、突破に備えた。
「下手に攻撃してこちらに被害が出るのも困りますが……通してくれないというなら、排除するしかないですね……」
サクラはガンソードを構えると、前方針路上の敵へと向けて発砲を開始した。ヴァイスもまた筏の先頭に立って『先駆け』となり、足場が悪さも物ともせずに正確に七支槍を振るって肉薄して来たランタンたちを次々と叩き落す。
砕け散るランタン── だが、そのまま四散すると思えた炎はまるで枷から解き放たれたが如く膨れ上がり、一回り大きな火球へと化してこちらへ体当たりを仕掛けて来た。迫るそれに向かって『シャドウブリット』放って迎撃するアデリシア。影の弾丸の直撃を受けた炎の塊が一瞬、震えて爆散し…… しかし、迫るランタンの数は余りに多い。
だが……
「今でやがります!」
シレークスの号令と共に、彼女を初めとする『ディヴァンウィル』持ちののハンターたちが同時に、筏の連なりをほぼ覆い尽くさんばかりの勢いで不可侵の結界を張り巡らせた。こちらに肉薄せんと迫っていたランタンたちが、突如、見えざる壁にぶつかったが如く次々と空中でその足を止める。
「……やったの! 防げたの!」
後尾で結界を張りつつ歓喜の声を上げるディーナ。その間も筏は敵の只中を流れて進み、ディーナがバイバイと小さく手を振る。
「……このまま魔法の守りだけで突破できるなら、それに越したことはないのですが……」
サクラの懸念はすぐに現実のものとなった。接近もかなわず、流れゆく筏の両脇を縋るように追い掛けて来たランタンたちが、5秒後、先頭の筏から順に随時、左右から襲い掛かってきたのだ。
「え、なんで!?」
叫ぶルーサー。これまで不可侵の結界には何度も助けられた。それが今回に限ってあっけなく再侵攻を許すなんて……!
イレーヌは、状況を察するや否や出来得る限りの高速詠唱で以って『ジャッジメント』を立て続けに投射した。放たれた光の杭によって、そのまま空中に繋ぎ留められたランタンたちが、こちらを追い掛けることも出来ずに後方へと落伍していく。
「空中に固定してしまえば、筏は常に動いているから自動的に離れて行く…… それは予測の範疇だったけど」
……だが、それは結界もまた同様だったのだ。『ディヴァインウィル』は『空間』を対象に取るもの──即ち、不可侵の結界もまた後方へと置き去りにされてしまうのだ。
「いやはや、楽をさせてはくれないな」
すぐに全ての杭を放ち終えてしまい、溜め息を零しながら、イレーヌ。彼女は迫るランタンたちに対し、五本指付きの巨大な魔導ガントレットを構えて肉弾戦に備えた。
「前方に岩場! 難所を抜けるぞ。全員、急な転回に注意しろ!」
先頭の筏の上。前方地形に気付いたヴァイスが皆に警告を発した。
川底地形の複雑化により荒さを増す川の水流。筏が激しく揺れ動き、飛び散った水飛沫がハンターたちの身体を激しく叩く。槍を水平に構えたヴァイスが筏に踏ん張り、波乗りの如く荒波を越える。
そんな中でも、船頭たちは先祖伝来の技能を用いて、くねくねと蠢く蛇の様に筏を操り、岩場の間を抜けていく。特に重要なのは先頭の船頭だ。針路を決める彼が失敗すれば、筏は岩に激突し、瞬く間にバラバラになってしまうだろう。
「ランタンはただの防具か枷だ。中の種火が本体だ。なるべくカンテラ部分を割らないように注意していこう」
巨大籠手の手刀の手刀でランタンの炎をを貫き、握り潰して消して、『抜け殻』を振り捨てつつ告げるイレーヌ。ハンターたちもまた急所を狙って得物を突くが、足下の揺れは益々激しくなるばかりで、立っているのも難しい。とは言え、敵を迎え撃たないわけにもいかず、結果、火炎の塊となった敵が次々と突っ込んで来る羽目になる。
「わわわ……っ!」
筏と筏を繋ぐロープを炎で炙られ、慌てて水を掛けて消すディーナ。その背後より迫った別の炎を、間に立ちはだかったレインが『攻勢防壁』でばちこ~んと弾き飛ばす。
「ルーサー。訓練の通りに、その場で動かず、冷静に」
ガンソードによる銃撃からの剣戟へと移行しつつ、サクラはルーサーを庇って──足を滑らせたところを逆に助けられたりしながら──戦った。シレークスもまた身体を張って木箱と船頭を守り抜き。ルーエルもまた船頭たちへ回復の光を飛ばし続けてその命を繋ぎ留める。
だが、そんな奮闘を続けるハンターたちの行く手──筏の先頭側へと回り込んだランタンたちが、こちらと速度を合わせるように展開し……まるで凹面鏡の様な『壁』を前面に作り出した。ランタンの内部でキラリと光を放つ反射鏡──それが一面、炎を反射し、光の壁となってこちらを照らし出す。
周囲で急激に高まった暑さが熱さへ変わる中──ハッと息を呑んで危機的状況を察したアデリシアは船頭を背後に庇いつつ、『ホーリーヴェール』の加護を与えると続けざまに回復魔法を注ぎ込んだ。「グアッ……!」と呻く船頭。その悲鳴は焦熱によるものではなかった。圧倒的な光の壁にその視界を灼かれてのものだった。
操船が乱れ、より一層大きく跳ねる筏── 瞬間、それまで我が身の危険を顧みずに奮戦を続けて来たヴァイスが思わず筏に槍を突き立て、行動の自由を失った。船頭の盲目状態に気付いたアデリシアは、しかし、防御と回復で船頭の身を守ることに手一杯だ。
レインが真剣な表情でルーエルを振り返った。その意図に気付いたルーエルは一瞬、躊躇ったものの。その意を組んで『筏に結んだ命綱』を星剣で以って断ち切った。
「ありがと。ルー君!」
レインは『ルーエルとの間の命綱』のみを残して先頭目指して筏を跳び渡った。その脳裏には故郷での出来事が走馬灯のようにめくるめく。
(あ、足場の悪さには慣れてるんだからねっ! いつも獣道を愛車でかっ飛ばしてんだしっ! ……タイヤが宙に浮いててブレーキ利かなかったけど。結果、勢いよく池の中にダイブしたけど!)
半分涙目になりながら筏を飛び渡っていったレインが、先頭の船頭に対して機導術で盲目の状態異常を吸い上げる。瞬間、視界を回復した船頭が、衝突の寸前、前方の岩に棒を衝き立てた。波飛沫を蹴立てて急激に進路を変えつつ、岩の傍らをすり抜ける先頭筏。ハンターたちが守った二人目、三人目ら後続の船頭たちも同様の操船で針路を繋ぎ……百足の如き筏の連なりがこの日一番の難所を抜ける。
「よしっ!」
体勢を立て直したヴァイスがランタンを槍の穂先で貫きながら、船頭たちを回復しつつ、その労をねぎらい、激励する。
「大丈夫か? もうひと踏ん張りよろしく頼むぜ……!」
勢いあまって川へと落っこちたレインを命綱を引っ張って回収するルーエルたちの光景に、だが、まるで怖がる素振りも見せず、ぴょんこぴょんこと先頭の筏へとやって来たディーナが究極の対状態異常魔法『ゴッドブレス』の加護を先頭の船頭に向かって付与をした。状態異常を直すだけでなく、その後の抵抗力を高め、異常の強度も弱める──非常な集中力を擁する高位の魔法だったが、足場も悪い中、ディーナは一発でそれを成功させた。
「さて、となれば残る問題は……」
シレークスが前方、凹面鏡と化したランタンたちを見やった。流れる筏と速度を合わせて距離を取りつつ、焦点を当てて来るその敵に、だが、ハンターたちの持つ飛び道具の数は余りに少ない。足場も悪い。
「だったら……!」
シレークスは筏の守りを仲間たちに託して魔箒に跨ると、ふわりと空へと浮上した。そして、凹面隊形を組む敵の真上へと移動すると、両手で持ち上げた魔導炮烙玉に火を入れ、どっせ~い! と真下へ投げ下ろした。
……ひゅ~と落ちて行った炮烙玉がガシャリとランタンを直撃しつつ、敵の只中で爆発し。飛び散った破片がランタンを破壊し、火の球を膨れ上がらせる。
「どーですか、おらあ! 巷の修道女舐めんじゃねぇです!」(違
バラけたランタンたちに○指を立てながら、シレークスは『ソウルトーチ』を焚いて敵の『目』を惹き付けると、その半数近くを引き連れて対岸へ──筏から離れる方向へと向かった。箒の魔力が尽きれば鎧の飛行翼を展開してそちらへ切り替え。それも切れると対岸へと下り立ち、地上を走って敵を惹き付ける。
途中、何かの遺跡らしき入口からボロボロになって出て来た考古学者2人と鉢合わせになったが、問答をしている余裕はなかった。3人はなぜか一緒になって、ランタンから逃げ続けることとなった……
●
「……どうやら無事に突破できたみたい、かな? いったいアレはなんだったんだろう……」
夕方── 最後まで追い縋って来たランタンたちの姿もなくなり、流れも穏やかになった川の上で。ルーエルはホッと息を吐いて座り込んだ。
安全を確認し、被害状況の確認と回復の為に筏を見回るヴァイス。途中、ルーサーと顔を合わせ、逞しさを増した少年とニヤリと笑って拳を合わせる。
「宝石なら地でアメンスィ、火ならサンデルマンの眷属かなって思ったけど……結局何だったのかなぁって思うの。宝石筏の急流下りはとっても面白かったけど」
「んー、しかし勿体ない。空飛ぶランタンとか、制御出来れば商売になりそうだよね。ほらホタルの替わりになるし。ホタルも綺麗だけど、近づかれるとねぇ。虫だし。それにしてもあのランタン良いねぇ。一個持って帰りたいくらい」
そう言うディーナとレインを含め、ハンターたちは皆、水飛沫ですっかりビショビショになっていた。あれだけ暑かったというのに、今はかえって寒いくらいだ。
「すっかり濡れて身体が冷えてしまったな。宿に着いたら皆で風呂に入らないか?」
そう提案しながら鎧を外すイレーヌは、下に水着を着こんでいた。いや、ただの水着姿なんだが鎧の下だと妙に艶めかしく……ただ一人、アデリシアだけが「実用的ですね」と親指を上げて見せた。
目的地、オーサン川とエリダス川の合流地点──
別行動を取っていたシレークスがボロボロになって帰還した。道なき道、木々の只中を突破したためか、聖衣のあちこちが破れ、穴が空いている。
「あ~、もう、草臥れたです……」
今回の一件、古都アークエルスの遺跡考古学者たちが付近の遺跡で罠に掛かって防衛装置を起動させてしまったために起こったとか──シレークスから事情を聞いたサクラは、開いた口が塞がらなかった。
「……後でお仕置きにいかないといけませんね」
サクラはポツリと呟いた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/08/22 18:11:37 |
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急流下り サクラ・エルフリード(ka2598) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/08/23 01:51:52 |